説明

半導体ウエハの分割方法

【課題】高い品質の半導体素子(チップ)を歩留り良く生産すること。
【解決手段】先ず、アブレーション作用を有するレーザにより、ダイシング領域に沿って積層膜2の部分のみに溝GVを形成する。次いで、溝GVが形成されている側の面に保護シート3を貼り付け、該保護シートが貼り付けられた当該ウエハの裏面を研削した後、ウエハW1の裏面側から半導体基板1Aに対して透過性を有する波長のレーザ光を上記ダイシング領域に沿って照射し、該基板の内部に改質層MLを形成する。さらに、ウエハW1の裏面にシート部材4を貼り付け、保護シート3を除去後、シート部材4を拡張することによって当該ウエハを個々のチップ10Cに分割する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のデバイスが作り込まれた半導体ウエハを各デバイス単位に分割する半導体ウエハの分割方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のデバイス(分割後は「チップ」)が作り込まれた半導体ウエハを個々のチップにダイシング(個片化)する手法として、従来より種々の方法が用いられている。その方法の1つに、ブレード(砥石)を用いた研削によりウエハをダイシング領域に沿って機械的にダイシングする方法(ブレードダイシング)がある。また、アブレーション作用を有するレーザを用いて、ダイシング領域に沿ってウエハ表面よりエッチングし、ウエハ裏面までフルカットする方法(レーザダイシング)もある。
【0003】
また、レーザダイシングとブレードダイシングを組み合わせた方法も提案されている。この方法は、ウエハ表面の積層膜(デバイスを形成する回路が形成されている部分)をアブレーションにより部分的に除去した後、残りの部分をブレードで研削してカットする方法である。
【0004】
また、ステルスダイシングと呼ばれる方法もある。これは、ウエハの裏面研削を施した後、ウエハ裏面から透過性を有する波長のレーザ光を、シリコン基板内部に集光点を合わせて照射することで基板内にのみ改質層を形成し、機械的応力(拡張、折り曲げ等)を与えて個々のチップに分割する方法である。
【0005】
ステルスダイシングに関連する技術としては、例えば、下記の特許文献1、特許文献3に記載されたものがある。また、レーザダイシングに関連する技術として、下記の特許文献2に記載されたものがある。また、レーザダイシングとブレードダイシングを併用した技術の一例は、下記の特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−179302号公報
【特許文献2】特開2007−173475号公報
【特許文献3】特表2007−55270号公報
【特許文献4】特開2010−73964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように半導体ウエハを個々のチップにダイシングする手法として種々の方法が用いられているが、上記のいずれの方法においても、近年の超高密度集積回路(ウエハ基板上に形成された積層膜の一部を構成する層間絶縁膜に低誘電率膜(Low−k膜)を用いたデバイス)に適用した場合に、以下の課題が生じ得る。
【0008】
先ず、ブレード(砥石)を用いた機械的なダイシング方法では、Low−k膜の脆さから、ウエハ表層の膜が剥がれたり(デラミネーション)、銅(Cu)配線を使用するためブレードが目詰まりを起こし、チッピングが発生する等の品質的な課題が生じる。
【0009】
アブレーションレーザを用いてウエハをフルカットする方法では、アブレーション作用によるエッチングによりチップ側面が破壊されるため、そのダメージによりチップの強度が著しく損なわれる。特に、薄チップ化(例えば、100μm以下)に際してはチップクラックを発生させる要因となる。
【0010】
また、レーザダイシングとブレードダイシングを併用した方法では、スクライブ(ウエハ表面の積層膜をアブレーションにより部分的に除去すること)を行う上で十分なストリート幅を必要とするため、そのストリート幅が広くなった分だけウエハ当たりのチップの取れ数が少なくなり、半導体素子(チップ)の生産性が低下する。
【0011】
また、ステルスダイシングによる分割方法では、ウエハのシリコン基板内にのみ改質層を形成して機械的応力によりウエハを分割するため、ウエハ表面の積層膜の部分(回路が形成されている部分)は必ずしも直線状に分断されない(分割部分が蛇行する)。このため、剥がれ(デラミネーション)やクラック等の問題が生じる。
【0012】
以上から、高い品質の半導体素子(チップ)を歩留り良く生産することができる半導体ウエハの分割方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一観点によれば、半導体基板の表面に積層された積層膜によって複数のデバイスが形成されたウエハを、各デバイスを区画するダイシング領域に沿って分割する方法であって、アブレーション作用を有するレーザにより、前記ダイシング領域に沿って前記積層膜の部分のみに溝を形成する工程と、前記ウエハの裏面側から前記半導体基板に対して透過性を有する波長のレーザ光を前記ダイシング領域に沿って照射し、該基板の内部に改質層を形成する工程と、前記改質層が形成されたウエハに外力を与えて該ウエハを個々のデバイスに分割する工程とを含むことを特徴とする半導体ウエハの分割方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
上記の一観点に係る半導体ウエハの分割方法によれば、アブレーションレーザによりウエハ表面の積層膜の部分のみに溝(分離用の切欠)を形成しているので、レーザによるエッチングの影響(ダメージ)が半導体基板の部分に及ばない。また、個々のデバイスに分割する際にこの切欠部分(溝)は分割の起点として利用されるので、現状の技術において見られたような不都合(直線状に分断されない、デラミネーション等)は生じない。
【0015】
これにより、分割後のチップ(デバイス)の強度は維持され、チップクラック等の不都合を生じることなく、ダイシング領域に沿って確実に、かつ容易にウエハ分割を行うことができる。これにより、高い品質の半導体素子(チップ)を得ることができる。
【0016】
また、アブレーションレーザによる溝の形成は積層膜の部分のみに行っているので、ダイシング領域を相対的に狭くすることができる。これにより、そのダイシング領域が狭くなった分だけウエハ当たりのチップの取れ数を増やすことができる。つまり、チップを歩留り良く生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態に係る半導体ウエハの分割方法の処理フローを示す図である。
【図2】分割の対象とする半導体ウエハの一例を示したもので、(a)はウエハの平面図、(b)はそのウエハの一部の拡大平面図、(c)は(b)においてB−B線に沿って見たときの断面図である。
【図3】図1の処理フローにおける工程S1(アブレーションレーザによるグルービング)の説明図である。
【図4】図3の処理を補足説明するための図である。
【図5】図1の処理フローにおける工程S2(保護テープ貼付)及びS3(ウエハ裏面研削)の説明図である。
【図6】図1の処理フローにおける工程S4(ステルスレーザによる改質層形成)の説明図である。
【図7】図6の処理を補足説明するための図である。
【図8】図1の処理フローにおける工程S5(ダイシング用テープ貼付)、S6(保護テープ除去)及びS7(テープ拡張によるウエハ分割)の説明図である。
【図9】一実施形態に係る半導体ウエハの分割方法によって個片化されたチップの実装例を示したもので、(a)は当該チップを配線基板にワイヤボンディング接続した場合の構成(半導体装置)を示す断面図、(b)は当該チップを配線基板にフリップチップ接続した場合の構成(半導体装置)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は一実施形態に係る半導体ウエハの分割方法の処理フローを示したものである。図1に示すように、本実施形態で行うウエハ分割処理は、工程S1から工程S7の処理を含む。各工程S1〜S7で行う処理については、それぞれの一例を示す図2〜図8を参照しながら説明する。
【0020】
先ず、分割の対象とする半導体ウエハを用意する。図2はその一例を示したもので、図中、(a)はウエハの平面図、(b)はそのウエハの一部の拡大平面図、(c)は(b)においてB−B線に沿って見たときの断面図である。
【0021】
半導体ウエハWは、主面(表面)及びこれと反対側の裏面を有しており、図2(a)に示すように、その表面に複数のデバイス10(ウエハ分割後は「チップ」)がマトリクス状に形成されている。このような半導体ウエハWは、ウエハプロセスと呼ばれる方法によって作製され得る。このウエハプロセスは、ウエハWの表面にデバイス10(素子や配線等の集積回路)を形成し、プローブ等により電気的試験を行える状態にするまでの工程を含む。具体的には、成膜工程、不純物導入(拡散もしくはイオン注入)工程、フォトリソグラフィ工程、エッチング工程、メタライズ工程、洗浄工程、及び各工程間の検査工程等を含む。
【0022】
ウエハWは、例えば、直径が300mm程度の平面略円形状の半導体基板からなり、その表面には、矩形状もしくは方形状の複数のデバイスがマトリクス状に(例えば、5mm×5mmのサイズのデバイス10が2500個)配置されている。このウエハWの周囲の一部には、その位置(方位)を固定するためのノッチNが設けられている。ウエハW内の各デバイス10には、図2(b)に概略的に示すように、その周辺に沿って外部接続用のパッド10Pが配置されている。このパッド10Pは、当該デバイス10内に形成されたメモリ回路や論理回路等を構成する素子と配線を通じて電気的に接続されている。
【0023】
また、各デバイス10は、図2(a)に示すように、格子状に形成されたダイシング領域(「ストリート」ともいう。)DRによって区画されている。ウエハWは、このストリートDRに沿って分割されることで、個々のチップに個片化されるようになっている。
【0024】
このストリート(ダイシング領域)DRには、図2(b)に拡大して示すように、テスト(TEG:Test Element Group)用のパッドTPやアライメントマークAMが配置されている。テスト用のパッドTPは、TEG用の素子(図示せず)の電極をデバイス10の外部に引き出す端子であり、配線を通じてTEG用の素子と電気的に接続されている。TEG用の素子は、ウエハWを分割する前に、デバイス10内に形成された素子の電気的特性の測定や試験に用いられる素子である。一方、アライメントマークAMは、例えば、露光装置等の処理装置とウエハW内のデバイス10との位置合わせの際に用いられるパターンである。
【0025】
このようなウエハWを構成する半導体基板1は、例えばシリコン(Si)単結晶からなり、その表面にはデバイス10を構成する積層膜2が形成されている。この段階のウエハWの厚さ(シリコン基板1の厚さと積層膜2の厚さとの総和)は、例えば、775μm程度である。
【0026】
積層膜2には、図2(c)に示すように、層間絶縁膜と回路を形成する配線層が積層された構造体21、外部接続用のパッド10P、テスト用のパッドTP、アライメントマークAM(図2(b)参照)及び保護膜22が含まれている。層間絶縁膜21の少なくとも一部には、デバイス10の電気的特性を向上させるために低誘電率膜(Low−k膜)が用いられている。このLow−k膜は、例えば炭素含有酸化ケイ素(SiOC)、ハイドロジェンシルセスキオキサン(HSQ)、メチルハイドロジェンシルセスキオキサン(MSQ)等の無機物系の材料やポリイミド系等のポリマー膜である有機物系の膜からなる。保護膜22は、例えばシリコン酸化膜(SiO2 )又はSiOF、BSG(SiOB)等からなり、各パッド10P及びTPとアライメントマークAMを露出させてウエハWの表面を覆っている。積層膜2の厚さは、本実施形態では10μm程度に選定している。
【0027】
また、ストリート(ダイシング領域)DRの幅は、本実施形態では50μm程度に選定しているが、さらに狭くすることも可能である。シリコン基板1の表面に形成される積層膜2の厚さと、この積層膜2の部分に形成するレーザ加工溝(図3に示す溝GV)の深さ及びその幅にもよるが、ストリートDRの幅は最小20μm程度まで狭くすることができる。
【0028】
このようにして用意された半導体ウエハW(図2)に対し、先ず最初の工程S1(図1参照)では、図3及び図4に示すように、アブレーションレーザによる加工を施す。すなわち、アブレーション作用を有するレーザにより、半導体ウエハWのストリート(ダイシング領域)DRに沿って積層膜2の部分のみに溝GVを形成する(グルービング)。
【0029】
ここで留意すべき点は、半導体ウエハWの積層膜2の部分のみにグルービングを行い、シリコン基板1の部分にレーザによる影響(アブレーション作用によるエッチング)が及ばないようにすることである。シリコン基板1の部分にレーザ光が照射されると、その部分(シリコン)が損傷を受けて強度(抗折強度)が損なわれるからである。このため、以下のようにグルービングの際の加工条件を適宜選定する必要がある。
【0030】
また、グルービングの幅については、後の工程でステルスレーザによりシリコン基板内に形成される改質層ML(図6)の位置とのずれを考慮し、ある程度のマージンをもたせて選定するのが望ましい。つまり、一定のグルービング幅を確保しておくことで、ステルスレーザとの分割位置ずれに対する余裕をもたせ、最終的に正常なウエハ分割を行えるようにするためである。本実施形態では、溝GVの幅を10μm程度に選定している。
【0031】
本工程で行うグルービング(溝GVの形成)は、図3及び図4に示すようにレーザ光照射装置41を用いて実施することができる。このレーザ光照射装置41は、一例として以下に挙げる加工条件の下で、チャックテーブル40上に保持されたウエハW(積層膜2が形成されている側の面を上にした状態)にレーザ光線を照射する。
【0032】
(加工条件の一例)
レーザ光の光源:YAGレーザ又はYVO4レーザ
波長 :355nm(紫外レーザ光線)
出力 :0.5W
繰返し周波数 :150kHz
集光スポット径:10μm
加工深さ :5μm
加工送り速度 :300mm/s
このレーザ光照射装置41には、内蔵されたYAGレーザ発振器又はYVO4レーザ発振器から発振されたパルスレーザ光線を集光するための集光器42が装着されている。また、レーザ光照射装置41には、チャックテーブル40上に保持されたウエハWを撮像する撮像ユニットが内蔵されている。
【0033】
この撮像ユニットは、図示しないCCD等の撮像素子、赤外線照射手段、必要な光学系等で構成されており、図示しない制御手段と協働して、レーザ加工すべきウエハWの積層膜2上の加工領域(ストリートDR)を検出するアライメントを実行する。すなわち、ウエハW上に形成されているストリートDRと、このストリートDRに沿ってレーザ光線を照射するレーザ光照射装置41の集光器42との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を行い、レーザ光線照射位置のアライメントを行う。このアライメントは、チャックテーブル40上に保持されたウエハWが加工送り機構(図示せず)によって撮像ユニットの直下に位置付けられたときに、実行される。
【0034】
アライメントを実行する際にはストリートDRを検出する必要があるが、この検出は、図3(a)に示すように積層膜2に形成された金属膜25を撮像ユニットによって撮像することにより行われる。金属膜25は、シリコン基板1上に積層膜2を形成する際に各デバイス10とストリートDRとの境界部分に作り込まれる。
【0035】
このようにしてストリートDRを検出し、レーザ光線照射位置のアライメントが行われた後、図4に示すようにチャックテーブル40をレーザ光照射装置41の集光器42が位置するレーザ光照射領域に移動させ、その検出されたストリートDRを集光器42の直下に位置付ける。このとき、図4(a)に示すようにウエハWは、そのストリートDRの一端(図示の例では左端)が集光器42の直下に位置するよう位置付けられる。
【0036】
次に、レーザ光照射装置41の集光器42からウエハWの積層膜2に対して吸収性を有する波長のパルスレーザ光線(本実施形態では、紫外レーザ光線)を、ストリートDRの表面付近に集光点P1を合わせて照射しつつ、図4(a)において矢印で示す方向にウエハW(チャックテーブル40)を所定の加工送り速度(例えば、300mm/s)で移動させる。そして、図4(b)に示すようにストリートDRの他端(図示の例では右端)が集光器42の直下の位置に達したときに、パルスレーザ光線の照射を停止するとともにウエハW(チャックテーブル40)の移動を停止する。
【0037】
以上の処理により、図3(a)に示すように、ウエハWのダイシング領域DRに沿って積層膜2の部分のみに所定の加工深さ(例えば、5μm程度)及び加工幅(例えば、10μm程度)の溝GVが連続的に形成される。
【0038】
このようにしてグルービング(溝GVの形成)が行われたウエハW(図3)に対し、次の工程S2(図1参照)では、図5(a)に示すように、ウエハWの表面(溝GVが形成されている側の面)にBG(バックグラインド)用保護テープ3を貼り付ける。
【0039】
このBG用保護テープ3は、ウエハWの裏面研削の際にその表面(積層膜2が形成されている側の面)が損傷するのを保護するためのものである。保護テープ3の材料及び形態としては、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、PO(ポリオレフィン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂からなるベースフィルム(シート状基材)の一方の面にアクリル系樹脂等からなる粘着剤が塗布されたものを使用することができる。また、保護テープ3は最終的に除去されるため、その除去処理を簡単化するため、紫外線(UV)の照射によって粘着力が低下するタイプ(UV剥離型)のテープが好適に使用される。
【0040】
次の工程S3(図1参照)では、図5(b)に示すように、その表面に保護テープ3が貼り付けられたウエハW(図5(a))に対し、その裏面を研削して所定の厚さ(本実施形態では、積層膜2の厚さとシリコン基板1Aの厚さを併せて50μm程度)に薄くするとともに、鏡面加工する。この裏面研削(鏡面加工)は、研磨紙や研磨材を含むバフやブラシ等を用いた機械研磨によって行うことができる。例えば、#2000程度の研削砥石を3000rpm程度で回転させてウエハW(シリコン基板1)の裏面に押し当て研削することで、所要の鏡面加工を施すことができる。
【0041】
このようにして裏面研削されたウエハW1(図5(b))に対し、次の工程S4(図1参照)では、図6及び図7に示すように、ステルスレーザによる加工を施す。すなわち、ウエハW1の裏面側からシリコン基板1Aに対して透過性を有する波長のレーザ光をウエハW1のストリート(ダイシング領域)DRに沿って照射し、シリコン基板1Aの内部に改質層MLを形成する。
【0042】
ここで重要な点は、上述したアブレーションレーザの照射によって積層膜2の部分に形成された溝GVの位置(加工幅)から外れない程度の位置に改質層MLを形成できるようにすることである。本実施形態では、上述したように改質層MLの位置とのずれを考慮して、溝GVの形成に際しその加工幅についてある程度のマージンをもたせているので、溝GVの形成位置に対応する箇所に確実に改質層MLを形成することができる。
【0043】
本工程で行う改質層MLの形成は、図6及び図7に示すようにレーザ光照射装置43を用いて実施することができる。このレーザ光照射装置43は、一例として以下に挙げる加工条件の下で、チャックテーブル40上に保持されたウエハW1(シリコン基板1Aの面を上にした状態)にレーザ光線を照射する。
【0044】
(加工条件の一例)
レーザ光の光源:YAGレーザ又はYVO4レーザ
波長 :1064nm(赤外レーザ光線)
出力 :0.5W
繰返し周波数 :80kHz
集光スポット径:1μm
集光焦点位置 :ウエハ裏面から20μm(シリコン基板の中心)
加工送り速度 :300mm/s
このレーザ光照射装置43には、上述したレーザ光照射装置41(図3)と同様に、集光器44が装着され、撮像ユニットが内蔵されている。このレーザ光照射装置43における撮像ユニットの構成及びその機能については、上述したレーザ光照射装置41における撮像ユニットの場合と同様であるのでその説明は省略する。
【0045】
レーザ光照射装置43における撮像ユニットによってストリートDRを検出し、レーザ光線照射位置のアライメントが行われた後、図7に示すようにチャックテーブル40をレーザ光照射装置43の集光器44が位置するレーザ光照射領域に移動させ、その検出されたストリートDRを集光器44の直下に位置付ける。このとき、図7(a)に示すようにウエハW1は、そのストリートDRの一端(図示の例では左端)が集光器44の直下に位置するよう位置付けられる。
【0046】
次に、レーザ光照射装置43の集光器44からウエハW1のシリコン基板1Aに対して透過性を有する波長のパルスレーザ光線(本実施形態では、赤外レーザ光線)を、ウエハ裏面から20μm程度内部に集光点P2を合わせて照射しつつ、図7(a)において矢印で示す方向にウエハW1(チャックテーブル40)を所定の加工送り速度(例えば、300mm/s)で移動させる。そして、図7(b)に示すようにストリートDRの他端(図示の例では右端)が集光器44の直下の位置に達したときに、パルスレーザ光線の照射を停止するとともにウエハW1(チャックテーブル40)の移動を停止する。
【0047】
以上の処理により、図6に示すように、シリコン基板1Aの内部にストリートDRに沿って溝GVの形成位置に対応する箇所に改質層MLが連続的に形成される。
【0048】
本実施形態では、上述したようにウエハW1の裏面が鏡面加工されているので、所要の改質層MLを確実に形成することができる。すなわち、シリコン基板1Aの表面が鏡面加工されていないと、赤外レーザ光線を照射する面の表面粗さが粗くなるため、その表面で照射光が乱反射して所定の集光点P2にレーザ光線が到達せず、所要の改質層MLが形成されない可能性がある。本実施形態では、かかる不都合を解消することができる。
【0049】
このようにしてシリコン基板1Aの内部に改質層MLが形成されたウエハW1(図6)に対し、次の工程S5(図1参照)では、図8(a)に示すように、ダイシング用テープ4(例えば、紫外線(UV)硬化型テープ)をウエハW1の裏面(基板1A側)に貼り付ける。具体的には、ウエハW1よりも一回りサイズの大きい環状のフレーム(図示せず)にダイシング用テープ4を装着しておき、このフレームに装着されたテープ4上に、ウエハW1をその表面(積層膜2が形成されている側の面)を上側にして貼り付ける(ウエハマウント)。
【0050】
このダイシング用テープ4は、後述するようにチップの個片化の際に拡張されるため、その属性として伸縮性を有する材料から形成されているのが望ましい。基本的には、BG用保護テープ3と同様のものを使用することができる。
【0051】
次の工程S6(図1参照)では、図8(b)に示すように、ウエハW1(図8(a))の表面(積層膜2が形成されている側の面)に貼り付けられていたBG用保護テープ3を除去する。この保護テープ3が紫外線(UV)の照射によって粘着力が低下するUVテープである場合には、UV照射によって剥離することができる。
【0052】
最後の工程S7(図1参照)では、図8(c)に示すように、ダイシング用テープ4上にマウントされたウエハW1(図8(b))を、エキスパンド方式によって分割する。すなわち、ダイシング用テープ4を、図中矢印で示す方向(ウエハW1の中心から外周に向かう方向)に外力を与えて拡張することによって、ウエハW1を個々のチップ10Cに分割(個片化)する。
【0053】
この状態では、各チップ10Cは、その裏面(積層膜2が形成されている側と反対側の面)がテープ4上に貼り付けられたまま、互いに分離されている。各チップ10Cは、別の工程(パッケージング工程)において、コレットによりテープ4上からピックアップされ、それぞれ配線基板に実装された後、封止樹脂で封止される。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係る半導体ウエハの分割方法(図1〜図8)によれば、アブレーション作用を有するレーザにより、ウエハ表面の積層膜2の部分のみに分離用の切欠(溝GV)を形成しているので、レーザによるエッチングの影響(ダメージ)がシリコン基板1の部分に及ばない。また、個々のチップ10Cに分割する際にこの切欠部分(溝GV)を分割の起点として利用しているので、現状の技術において見られたような不都合(直線状に分断されない、デラミネーション等)は生じない。
【0055】
これにより、分割後のチップ10Cの抗折強度は維持され、チップクラック等の不都合を生じることなく、ウエハのストリート(ダイシング領域)DRに沿って確実に、かつ容易にウエハ分割を行うことが可能となる。これにより、高い品質の半導体素子(チップ)を得ることができる。
【0056】
また、アブレーションレーザによる溝GVの形成は積層膜2の部分のみに行っているので、ストリートDRの幅を相対的に狭くすることができる。本実施形態では、上述したようにストリートDRの幅を最小20μm程度に狭めることが可能であるため、そのストリートDRの幅が狭くなった分だけウエハ当たりのチップの取れ数を増やすことができる。つまり、チップを歩留り良く生産することができ、半導体ウエハの生産性の向上に大いに寄与する。
【0057】
また、本実施形態のウエハ分割処理によって得られたチップ10Cの構造により、以下のメリットがある。
【0058】
すなわち、一般的な半導体素子(チップ)は、封止樹脂で封止された際に、実装時の熱応力(チップと配線基板及び封止樹脂との熱膨張係数の違いに起因して発生する基板応力や樹脂応力等)により、チップの封止樹脂に接している回路形成面側(特に、積層膜のエッジ部分)より剥離が生じる可能性が高い。これに対し、本実施形態のウエハ分割処理によって得られた半導体素子(チップ)10Cは、そのエッジ部分12がアブレーションレーザにより溶融した面(図3(a)に示す溝GVの一部分に相当)であり、そのエッジ部分12の表面は微視的に見ると凹凸状となっている。
【0059】
このため、図9に例示するようにチップ10Cを封止樹脂34,38で封止してパッケージングを行った際に、そのエッジ部分(凹凸面)12が封止樹脂34,38に対してアンカーとしての役割を果たす(アンカー効果)。その結果、封止樹脂34,38との密着性が向上し、積層膜2の剥離を有効に防止することが可能となる。
【0060】
つまり、得られた半導体素子(チップ)10Cをパッケージ化したときに、チップ10Cのエッジ部分12におけるアンカー効果により封止樹脂34,38との密着性が向上するため、パッケージとしての信頼性を高めることができる。
【0061】
なお、図9において、(a)はチップ10Cを配線基板31にワイヤボンディング接続した場合の構成(半導体装置30)を示している。この半導体装置30において、チップ10Cは、その裏面(積層膜2が形成されている側と反対側の面)を下にして接着剤32を介して配線基板31に接着されている。また、チップ10Cの積層膜2上に形成されたパッド(図2(c)に示す外部接続用のパッド10P)が、ワイヤ33を介して配線基板31上の対応するパッドに電気的に接続されている。そして、このチップ10C及びワイヤ33をモールド樹脂34で被覆している。
【0062】
一方、(b)はチップ10Cを配線基板36にフリップチップ接続した場合の構成(半導体装置30a)を示している。この半導体装置30aにおいて、チップ10Cは、その積層膜2上に形成されたパッドと配線基板36上の対応するパッドとの間にはんだバンプ等の導電性材料37を介して実装されている。そして、このチップ10Cの裏面(積層膜2が形成されている側と反対側の面)を露出させてモールド樹脂38で被覆している。チップ10Cの裏面を露出させることで、放熱効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0063】
1…半導体(シリコン)基板、
2…積層膜、
3…BG用保護テープ(保護シート)、
4…ダイシング用テープ(シート部材)、
10(10C)…デバイス(チップ)、
30,30a…半導体装置、
41,43…レーザ光照射装置、
DR…ダイシング領域(ストリート)、
GV…溝(アブレーションレーザによる加工溝)、
ML…改質層(ステルスレーザによる加工層)、
P1,P2…集光点、
W,W1…半導体ウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の表面に積層された積層膜によって複数のデバイスが形成されたウエハを、各デバイスを区画するダイシング領域に沿って分割する方法であって、
アブレーション作用を有するレーザにより、前記ダイシング領域に沿って前記積層膜の部分のみに溝を形成する工程と、
前記ウエハの裏面側から前記半導体基板に対して透過性を有する波長のレーザ光を前記ダイシング領域に沿って照射し、該基板の内部に改質層を形成する工程と、
前記改質層が形成されたウエハに外力を与えて該ウエハを個々のデバイスに分割する工程とを含むことを特徴とする半導体ウエハの分割方法。
【請求項2】
前記積層膜は、少なくともその一部に低誘電率膜が用いられた層間絶縁膜と回路を形成する配線層とが積層されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウエハの分割方法。
【請求項3】
前記積層膜の部分のみに前記溝を形成した後、前記基板の内部に前記改質層を形成する前に、前記ウエハの前記溝が形成されている側の面に保護シートを貼り付ける工程と、該保護シートが貼り付けられた当該ウエハの裏面を研削して薄くする工程とを含むことを特徴とする請求項2に記載の半導体ウエハの分割方法。
【請求項4】
前記ウエハの裏面を研削して薄くする工程において、前記ウエハの裏面に鏡面加工を施すことを特徴とする請求項3に記載の半導体ウエハの分割方法。
【請求項5】
前記改質層を形成した後に、前記改質層が形成されたウエハの裏面にシート部材を貼り付ける工程を含み、
前記保護シートを除去後、前記シート部材を拡張することによって当該ウエハの分割を行うことを特徴とする請求項4に記載の半導体ウエハの分割方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−114322(P2012−114322A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263346(P2010−263346)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】