説明

半導体チップ及びその製造方法

【課題】 レーザ光を用いたダイシング工程により割断する工程を含んだ製造方法により製造される半導体チップであって、半導体チップの割断面から改質領域の微小片が剥離することを防止可能な半導体チップ及びその製造方法を実現する。
【解決手段】 割断工程により、裏面21bに貼着されたシート41と割断予定ライン近傍の基板面21aに貼着された延伸部材43とが延伸し、このように延伸したシート41および延伸部材43と各割断面21dとにより閉断面空間Sが形成される。そして、被覆工程により、この閉断面空間Sに被覆材24を注入して各割断面21dが被覆される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板をその厚さ方向に割断して製造される半導体チップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を形成したシリコンウェハ(以下、ウェハという)を各々の半導体チップに分離するダイシング工程では、レーザ光を用いたダイシング工程(レーザダイシング)の検討や研究が進められており、例えば、下記特許文献1にレーザによるウェハの加工技術が開示されている。図11は、レーザ光を用いたダイシング工程を示す説明図であって、図11(A)はレーザ光の照射による改質領域形成工程の説明図であり、図11(B)は割断工程の説明図である。
【0003】
図11(A)に示すように、レーザ光Lを照射するレーザヘッドHは、レーザ光Lを集光する集光レンズCVを備えており、レーザ光Lを所定の焦点距離で集光させることができる。改質領域形成工程では、レーザ光Lの集光点PがウェハWの基板面から深さdの箇所に形成されるように設定したレーザ光照射条件で、ウェハWを割断する割断予定ラインDL上に沿って(図中手前方向)レーザヘッドHを移動させ、レーザ光LをウェハWの基板面側から照射する。これにより、レーザ光Lの集光点Pが走査された深さdの経路には、多光子吸収による改質領域Kが形成される。
【0004】
ここで、多光子吸収とは、物質が複数個の同種もしくは異種の光子を吸収することをいう。その多光子吸収により、半導体基板Wの集光点Pおよびその近傍では、光学的損傷という現象が発生する。光学的損傷により、一旦溶融した後に凝固して、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンに変化した数μm程度の大きさの領域である改質領域Kが形成される。
【0005】
レーザ光Lがパルス波の場合、レーザ光Lの強度は、集光点Pのピークパワー密度(W/cm)で決まり、例えばピークパワー密度が1×108(W/cm)以上でパルス幅が1μs以下の条件で多光子吸収が発生する。レーザ光Lとしては、例えば、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザによるレーザ光を用いる。そのレーザ光Lの波長は、例えば1064nmの赤外光領域の波長である。
【0006】
続いて、図11(B)に示すように、半導体基板Wの面内方向(図中矢印Fで示す方向)に応力を負荷することにより、改質領域Kを起点にして、基板厚さ方向にクラックCを進展させて、半導体基板Wを割断予定ラインDLに沿って割断する。
【特許文献1】特許第3408805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、改質領域Kは強度が低下しているため、半導体基板Wの割断時や後の工程において、割断面に露出している改質領域Kの一部が剥離して微小片として飛散するおそれがある。この微小片がチップ上に形成された素子に付着すると、半導体装置の動作不良を招くことから、ウェハから割断分離された半導体チップの歩留まりや品質が低下するという問題があった。
【0008】
特に、MEMS技術を利用して作製された各種センサ素子(圧電素子や静電容量素子から成る圧力センサ、加速度センサ、超音波センサなど)やマイクロマシンが形成されている場合には、センサ素子やマイクロマシンを構成する可動部に微小片が付着すると、その微小片により可動部の動きが妨げられるため、センサ素子やマイクロマシンの歩留まり低下や品質低下を招くおそれがある。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、レーザ光を用いたダイシング工程(レーザダイシング)により割断する工程を含んだ製造方法により製造される半導体チップであって、半導体チップの割断面から改質領域の微小片が剥離することを防止可能な半導体チップ及びその製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1の半導体チップの製造方法では、基板面(21a)に素子(23)が形成され当該基板面とは反対の面(21b)に延伸性を有する第1の延伸部材(41)が貼着された半導体基板(21)に対して、当該半導体基板をその厚さ方向に割断するための割断予定ライン(DL)に沿ってレーザ光(L)を照射するレーザヘッド(31)を相対移動させながら、前記半導体基板の内部に集光点(P)を合わせてレーザ光を照射することにより、当該集光点に多光子吸収による改質領域(K)を形成する改質領域形成工程と、前記割断予定ライン近傍の前記基板面に延伸性を有する第2の延伸部材(43)を貼着させる貼着工程と、前記第1の延伸部材を延伸させることにより、前記半導体基板を前記改質領域を起点にして前記割断予定ラインに沿って厚さ方向に割断して半導体チップ(22)を得る割断工程と、前記割断工程により前記半導体チップに形成された各割断面(21d)と前記割断工程により延伸した前記第1の延伸部材および前記第2の延伸部材とにより形成される閉断面の空間(S)に被覆材(24)を注入して前記各割断面を被覆する被覆工程と、を備えることを技術的特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、割断工程により、基板面とは反対の面に貼着された第1の延伸部材と割断予定ライン近傍の基板面に貼着された第2の延伸部材とが延伸し、このように延伸した第1の延伸部材および第2の延伸部材と半導体チップの各割断面とにより閉断面の空間が形成される。この閉断面の空間に被覆材を注入することにより基板面上の素子に被覆材を付着させることなく各割断面が被覆されるため、半導体チップの割断面から剥離した改質領域が微小片として飛散することを防止することができる。
これにより、半導体チップに微小片が付着することがないため、微小片の飛散による製品の歩留まり低下や品質低下を防止することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の半導体チップの製造方法において、前記被覆工程を行った後に、前記第2の延伸部材を前記基板面から除去する除去工程を更に備えることを技術的特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明のように、被覆工程を行った後に、除去工程により第2の延伸部材が基板面から除去されるので、第2の延伸部材が基板面に貼着したまま残るようなこともない。
【0014】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の半導体チップの製造方法において、前記除去工程は、前記被覆工程を行った後に、前記第2の延伸部材に接着可能な接着剤(44)が塗布された除去部材(50、51)を前記割断工程により延伸した前記第2の延伸部材に押圧して着接させた後に当該除去部材を前記基板面から離間する方向に移動させることで、前記第2の延伸部材を前記基板面から除去することを技術的特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、被覆工程を行った後に、第2の延伸部材に接着可能な接着剤が塗布された除去部材を割断工程により延伸した第2の延伸部材に押圧して着接させた後に当該除去部材を基板面から離間する方向に移動させる除去工程を実施することにより、第2の延伸部材が基板面から除去される。これにより、基板面に貼着した第2の延伸部材を当該基板面から確実に除去することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項2に記載の半導体チップの製造方法において、前記除去工程は、前記被覆工程を行う前に前記除去部材を前記割断工程により延伸した前記第2の延伸部材に押圧して着接させるとともに当該第2の延伸部材を介して前記基板面に押圧させ、前記被覆工程を行った後に当該除去部材を前記基板面から離間する方向に移動させることで、前記第2の延伸部材を前記基板面から除去することを技術的特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、被覆工程を行う前に除去部材を割断工程により延伸した第2の延伸部材に押圧して着接させるとともに当該第2の延伸部材を介して前記基板面に押圧させ、被覆工程を行った後に当該除去部材を基板面から離間する方向に移動させる除去工程を実施することにより、第2の延伸部材が基板面から除去される。これにより、被覆工程時には割断工程により延伸した第2の延伸部材が除去部材と基板面とにより挟持されることとなるので、被覆材を閉断面の空間に注入するときに第2の延伸部材が基板面から剥がれることもない。
【0018】
請求項5に記載の発明では、基板面(21a)に素子(23)が形成され当該基板面とは反対の面(21b)に延伸性を有する第1の延伸部材(41)が貼着された半導体基板(21)に対して、当該半導体基板をその厚さ方向に割断するための割断予定ライン(DL)に沿ってレーザ光(L)を照射するレーザヘッド(31)を相対移動させながら、前記半導体基板の内部に集光点(P)を合わせてレーザ光を照射することにより、当該集光点に多光子吸収による改質領域(K)を形成する改質領域形成工程と、前記第1の延伸部材を延伸させることにより、前記半導体基板を前記改質領域を起点にして前記割断予定ラインに沿って厚さ方向に割断して半導体チップ(22)を得る割断工程と、前記割断工程により前記半導体チップに形成された各割断面(21d)と前記割断工程により延伸した前記第1の延伸部材とにより形成されるU字状溝の開放側に閉塞部材(60)を配置して閉断面の空間(S)を形成する閉断面空間形成工程と、前記閉断面の空間に被覆材(24)を注入して前記各割断面を被覆する被覆工程と、を備えることを技術的特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、割断工程にて半導体チップに形成された各割断面と割断工程にて延伸した第1の延伸部材とにより形成されるU字状溝の開放側に閉塞部材を配置する閉断面空間形成工程により、請求項1に記載の発明における第2の延伸部材を用いることなく閉断面の空間が形成される。この閉断面の空間に被覆材を注入することにより基板面上の素子に被覆材を付着させることなく各割断面が被覆されるため、半導体チップの割断面から剥離した改質領域が微小片として飛散することを防止することができる。
これにより、半導体チップに微小片が付着することがないため、微小片の飛散による製品の歩留まり低下や品質低下を防止することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の半導体チップの製造方法において、前記閉断面空間形成工程は、前記閉塞部材を、前記割断工程を行う前に前記割断予定ライン近傍の前記基板面に当接するように配置して、前記割断工程により前記第1の延伸部材の延伸方向に移動しながら拡大する前記U字状溝の開放側を覆うように移動させて前記閉断面の空間を形成することを技術的特徴とする。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、閉塞部材を、割断工程を行う前に割断予定ライン近傍の基板面に当接するように配置して、割断工程により第1の延伸部材の延伸方向に移動しながら拡大する上記U字状溝の開放側を覆うように移動させる閉断面空間形成工程を実施することにより、閉断面の空間が形成される。これにより、割断工程中には常にU字状溝の開放側が覆われることとなるので、割断工程中に半導体チップの割断面から剥離した改質領域が微小片として飛散することを防止することができる。
【0022】
請求項7に記載の発明では、請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法において、前記被覆工程は、前記閉断面の空間を負圧にした状態で前記被覆材を注入して前記各割断面を被覆することを技術的特徴とする。
【0023】
請求項7に記載の発明のように、被覆工程は、上記閉断面の空間を負圧にした状態で被覆材を注入して各割断面を被覆するので、被覆材を上記閉断面の空間に注入しやすくなり各割断面が確実に被覆され得る。
【0024】
請求項8に記載の発明では、請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法において、基板面に形成された素子は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により形成された可動部を有する素子であることを技術的特徴とする。
【0025】
請求項8に記載の発明のように、基板面に形成された素子が、MEMS技術により形成された可動部を有する素子である場合には、可動部に微小片が挟まることにより可動部の動きが妨げられるおそれがないため、素子の性能低下を防止することができるので、本発明を好適に用いることができる。
【0026】
請求項9に記載の発明では、請求項1〜8のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法によって作製された半導体チップであって、上記割断面が被覆されていることを技術的特徴とする。
【0027】
請求項9に記載の発明によれば、請求項1〜8のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法によって作製された半導体チップであって、その割断面が被覆されているため、当該割断面から微小片が剥離して飛散することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[第1実施形態]
この発明に係る半導体チップ及びその製造方法の第1実施形態について、図を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る製造方法により割断するウェハ20の構成例を示す模式図であって、図1(A)は、ウェハ20の表面の平面説明図であり、図1(B)は、図1(A)の1B−1B矢視断面拡大図である。図2は、半導体基板21にレーザ光Lの照射を行う割断装置30の説明図である。図3は、貼着工程により割断予定ラインDL近傍の基板面に延伸部材43が貼着されたウェハ20の表面の平面説明図である。図4は、貼着工程により割断予定ラインDL近傍の基板面に延伸部材43が貼着された半導体チップ22の断面説明図である。図5は、割断工程によりウェハ20を割断して形成された閉断面空間Sの断面説明図である。図6は、被覆工程により割断面21dが被覆材24により被覆された半導体チップ22の断面説明図である。図7は、除去工程により延伸部材除去用治具50を延伸部材43に着接させた半導体チップ22の断面説明図である。なお、いずれの図においても、説明のために一部を拡大して誇張して示している。
【0029】
まず、図1(A)に示すようなウェハ20を用意する。ウェハ20には、シリコンからなる薄板円盤形状の半導体基板21が備えられており、その外周の一部には、結晶方位を示すオリエンテーションフラットが形成されている。この半導体基板21の基板面21aには、拡散工程等を経て形成された素子、ここでは、例えば櫛歯状に形成された可動部を有するセンサ素子を構成するMEMS23が碁盤の目のように整列配置されている。
【0030】
ウェハ20はダイシング工程により割断予定ラインDLに沿ってそれぞれ割断されて半導体チップ22となり、半導体チップ22はマウント工程、ボンディング工程、封入工程等といった各工程を経ることによってパッケージされたICやLSIとして完成する。なお、本第1実施形態では、半導体基板21は、半導体チップ22の支持基板となるシリコン層を形成し得るものである。
【0031】
半導体基板21は、裏面21bが延伸性を有する樹脂製のシート41に接着され、シート41が張った状態でシート41の外周部が円環状のフレーム42により保持される。例えば、図1(B)に示すように、1B−1Bライン上には、6つの半導体チップ22a〜22fが形成されている。半導体基板21の厚さ方向には7本の割断予定ラインDL1〜DL7が設定されており、後述する改質領域形成工程により割断の起点となる改質領域Kが形成される。
【0032】
図2に示すように、半導体基板21の割断装置30には、レーザ光Lを照射するレーザヘッド31が設けられている。レーザヘッド31は、レーザ光Lを集光する集光レンズ32を備えており、レーザ光Lを所定の焦点距離で集光させることができる。ここでは、レーザ光Lの集光点Pが半導体基板21の基板面21aから深さdの箇所に形成されるように設定されている。
【0033】
まず、改質領域形成工程を行う。この改質領域形成工程では、ウェハ20を割断装置30に対して所定の位置に設置した後、半導体基板21内部に改質領域Kを形成するため、図1(A)に示す割断予定ラインDLの1つを、ウェハ検出用のレーザ光で走査し、図1(B)に示す外周端部21cを検出し、レーザ光Lの走査範囲を設定する。
【0034】
そして、図2に示すように、レーザヘッド31を割断予定ラインDLに沿って走査し(図2にて紙面垂直方向)、レーザ光Lを基板面21a側から照射することにより、レーザ光Lの集光点Pが走査された深さdの経路に、多光子吸収による改質領域Kが適正に形成される。レーザ光Lの集光点Pの深さdを調整することにより、半導体基板21の厚さの範囲内で任意の深さに任意の層数の改質領域Kを形成することができる。例えば、厚さが比較的厚い場合は、その厚さ方向へ集光点Pを移動させて改質領域Kを厚さ方向に連続状、または複数箇所に形成することにより、半導体基板21の割断を容易にすることができる。
【0035】
次に、貼着工程を行う。この貼着工程では、図3および図4に示すように、延伸性を有するとともに一方の面が粘着性を有する延伸部材43を、全ての割断予定ラインDL近傍の基板面21aにウェハ20上方(図3にて紙面表側)から見て格子状に貼着させる。ここで、延伸部材43は、シート41と同様の樹脂製のシートで構成されている。
【0036】
続いて、割断工程を行う。この割断工程では、図5に示すように、公知の方法によりシート41を拡張(図中矢印Fで示す方向)して半導体基板21の面内方向に応力を負荷することにより、改質領域Kを起点にして、基板厚さ方向にクラックを進展させる。これにより、半導体基板21を割断予定ラインDLに沿って割断する。割断されて形成された割断面21dには、改質領域Kが露出している。この改質領域Kは、結晶相の変化やマイクロクラックの導入により強度が低下している。
【0037】
このとき、割断工程により半導体チップ22に形成された各割断面21dと割断工程により延伸したシート41および延伸部材43とにより閉断面の空間(以下、閉断面空間Sともいう)が形成される(図5参照)。
【0038】
そして、被覆工程を行う。この被覆工程では、各割断面21dを被覆するための被覆材24が図略の吸引装置により負圧状態に維持された各閉断面空間Sに注入される。これにより、図6に示すように、各閉断面空間Sを構成する各割断面21dと延伸したシート41および延伸部材43とが被覆材24で被覆される。このとき、被覆材24は負圧の状態の各閉断面空間Sに注入されるので狭い空間であっても確実に注入されて各割断面21dが被覆され得る。なお、被覆材24は、化学反応硬化性または溶剤蒸発硬化性を有するものであれば、どのような材料を用いてもよく、上記作用・効果が確実に得られるように、カット・アンド・トライで実験的に適宜な材料を選択すればよい。化学反応硬化性または溶剤蒸発硬化性を有する材料には、熱可塑性を有する材料と同様に、各種合成ゴム材料や各種プラスチック材料などがある。ちなみに、化学反応硬化性を有する材料には、被着体の表面の水を触媒として硬化するシアノクリレート系樹脂材料、二液型エポキシ樹脂材料などがある。
【0039】
続いて、延伸部材除去工程を行う。この延伸部材除去工程では、割断工程により延伸した格子状の延伸部材43に応じて格子状に形成される延伸部材除去用治具50の下端面である押圧面51に延伸部材43に接着可能な接着剤44を塗布する。そして、図7に示すように、延伸部材除去用治具50を基板面21aに近接させて、押圧面51を延伸部材43に押圧して着接させる。このように着接させた状態で延伸部材除去用治具50を基板面21aから離間する方向に移動させることで、延伸部材43が基板面21aから除去され得る。
【0040】
このように延伸部材43が除去された各半導体チップ22からシート41を除去することにより、各割断面21dが被覆材24により被覆された半導体チップ22を得ることができる。
【0041】
[第1実施形態の効果]
上記割断工程により、裏面21bに貼着されたシート41と割断予定ラインDL近傍の基板面21aに貼着された延伸部材43とが延伸し、このように延伸したシート41および延伸部材43と各割断面21dとにより閉断面空間Sが形成される。この閉断面空間Sに被覆材24を注入することにより基板面21a上のMEMS23に被覆材24を付着させることなく各割断面21dが被覆されるため、半導体チップ22の割断面21dから剥離した改質領域Kが微小片として飛散することを防止することができる。
これにより、半導体チップ22に微小片が付着することがないため、微小片の飛散による製品の歩留まり低下や品質低下を防止することができる。
【0042】
特に、MEMS23のように基板面に形成された素子がMEMS技術により形成された可動部を有する素子である場合には、可動部に微小片が挟まることにより可動部の動きが妨げられるおそれがないため、素子の性能低下を防止することができるので、本発明を好適に用いることができる。
【0043】
また、被覆工程では、閉断面空間Sを負圧にした状態で被覆材24を注入して各割断面21dを被覆するので、被覆材24を閉断面空間Sに注入しやすくなり各割断面21dが確実に被覆され得る。
【0044】
さらに、被覆工程を行った後に、接着剤44が塗布された延伸部材除去用治具50の押圧面51を延伸部材43に押圧して着接させた後に当該延伸部材除去用治具50を基板面21aから離間する方向に移動させる除去工程を実施することにより、延伸部材43が基板面21aから除去される。これにより、基板面21aに貼着した延伸部材43を当該基板面21aから確実に除去することができる。
【0045】
[第2実施形態]
この発明に係る半導体チップ及びその製造方法の第2実施形態について、図を参照して説明する。図8は、本発明の第2実施形態において閉断面空間形成工程により形成された閉断面空間Sの断面説明図である。図9は、被覆工程により割断面21dが被覆材24により被覆された半導体チップ22の断面説明図である。
本第2実施形態に係る半導体チップ及びその製造方法は、上記第1実施形態の貼着工程および延伸部材除去工程を廃止するとともに後述する閉断面空間形成工程および離間工程を追加した点において上記第1実施形態と異なっている。
【0046】
本第2実施形態では、上記第1実施形態と同様に、改質領域形成工程を行なった後、上述した貼着工程を行なうことなく上記割断工程を行う。
【0047】
続いて、閉断面空間形成工程を行う。この閉断面空間形成工程では、図8から判るように、上記割断工程により半導体チップ22に形成された各割断面21dと延伸したシート41とにより形成されるU字状溝の開放側(図8にて紙面上側)に、格子状に形成される閉塞部材60の下端面である閉塞面61を基板面21aに当接させるように配置する。これにより、各割断面21dおよびシート41と閉塞面61とでもって閉断面空間Sが形成される。
【0048】
そして、上述した被覆工程がなされて被覆材24が負圧の状態の各閉断面空間Sに注入されることにより、各閉断面空間Sを構成する各割断面21dと延伸したシート41および閉塞面61とが被覆材24で被覆される(図9参照)。
【0049】
続いて、離間工程により閉塞部材60を基板面21aから離間する方向に移動させた後、各半導体チップ22からシート41を除去することにより、各割断面21dが被覆材24により被覆された半導体チップ22を得ることができる。
【0050】
[第2実施形態の効果]
割断工程にて半導体チップ22に形成された各割断面21dと割断工程にて延伸したシート41とにより形成されるU字状溝の開放側に閉塞部材60の閉塞面61を配置する閉断面空間形成工程を行なうことで、上記第1実施形態にて述べた延伸部材43を用いることなく閉断面空間Sを形成することができる。そして、この閉断面空間Sに被覆材24を注入することにより基板面21a上のMEMS23に被覆材24を付着させることなく各割断面21dが被覆されるため、半導体チップ22の割断面21dから剥離した改質領域Kが微小片として飛散することを防止することができる。
【0051】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよく、その場合でも、上記各実施形態と同等の作用・効果が得られる。
(1)上記第1実施形態において、延伸部材43は、シート41と同様の樹脂製のシートであることに限らず、延伸性を有するとともに基板面21aに貼着可能な部材であればよい。
【0052】
(2)上記第1実施形態の延伸部材除去工程において、延伸部材除去用治具50の押圧面51を延伸部材43に着接させた状態で延伸部材除去用治具50を基板面21aから離間させることで、延伸部材43を基板面21aから除去することに限らず、例えば、吸引装置を用いて延伸部材43を吸引して除去するようにしてもよい。また、格子状に延伸した延伸部材43をその一側端部から他側端部へ巻き取るようにして、基板面21aから除去してもよい。
【0053】
(3)図10に示すように、上記第1実施形態の除去工程において、延伸後の延伸部材43の基板面21aからの高さがMEMS23の基板面21aからの高さよりも高い場合には、以下のようにして延伸部材43を除去してもよい。
すなわち、延伸部材除去用治具70の下端面である押圧面71を平面状に形成し、この押圧面71の全面に接着剤44を塗布する。そして、この延伸部材除去用治具70を基板面21aに近接させて、押圧面71を延伸部材43に押圧して着接させる。このように着接させた状態で延伸部材除去用治具70を基板面21aから離間する方向に移動させることで、延伸部材43が基板面21aから除去され得る。これにより、延伸部材除去用治具の下端面を格子状に延伸した延伸部材43に応じて格子状に形成する必要がないので、延伸部材除去用治具を容易に製作することができる。
【0054】
(4)上記第1実施形態における延伸部材除去工程は、被覆工程により各閉断面空間Sを被覆材24で被覆した後に行なうことに限らず、被覆工程前に延伸部材除去用治具50の押圧面51を割断工程により延伸した延伸部材43に押圧して着接させるとともに当該延伸部材43を介して基板面21aに押圧させ、被覆工程後に当該延伸部材除去用治具50を基板面21aから離間する方向に移動させることで、延伸部材43を基板面21aから除去してもよい。
これにより、被覆工程時には割断工程により延伸した延伸部材43が延伸部材除去用治具50の押圧面51と基板面21aとにより挟持されることとなるので、被覆工程において被覆材24を負圧状態の閉断面空間Sに注入するときに延伸部材43が基板面21aから剥がれることもない。
【0055】
(5)上記第2実施形態における閉断面空間形成工程は、上記割断工程を行う前に格子状に形成される閉塞部材の閉塞面を各割断予定ラインDL付近の基板面21a当接するように配置して、上記割断工程によりシート41の延伸方向に移動しながら拡大する上記U字状溝の開放側を覆うように閉塞部材を移動させて閉断面空間Sを形成してもよい。
これにより、割断工程中には常に上述したU字状溝の開放側が覆われることとなるので、割断工程中に半導体チップ22の割断面21dから剥離した改質領域Kが微小片として飛散することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態に係る製造方法により割断するウェハの構成例を示す模式図であって、図1(A)は、ウェハの表面の平面説明図であり、図1(B)は、図1(A)の1B−1B矢視断面拡大図である。
【図2】半導体基板にレーザ光の照射を行う割断装置の説明図である。
【図3】貼着工程により割断予定ライン近傍の基板面に延伸部材が貼着されたウェハの表面の平面説明図である。
【図4】貼着工程により割断予定ライン近傍の基板面に延伸部材が貼着された半導体チップの断面説明図である。
【図5】割断工程によりウェハを割断して形成された閉断面空間の断面説明図である。
【図6】被覆工程により割断面が被覆材により被覆された半導体チップの断面説明図である。
【図7】除去工程により延伸部材除去用治具を延伸部材に着接させた半導体チップの断面説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態において閉断面空間形成工程により形成された閉断面空間の断面説明図である。
【図9】第2実施形態における被覆工程により割断面が被覆材により被覆された半導体チップの断面説明図である。
【図10】第1実施形態における延伸部材除去用治具の変形例を示す断面説明図である。
【図11】レーザ光を用いたダイシング工程を示す説明図であって、図11(A)はレーザ光の照射による改質領域形成工程の説明図であり、図11(B)は割断工程の説明図である。
【符号の説明】
【0057】
20…ウェハ
21…半導体基板
21a…基板面
21b…裏面
21c…外周端部
21d…割断面
22…半導体チップ
23…MEMS(素子)
24…被覆材
31…レーザヘッド
41…シート(第1の延伸部材)
42…フレーム
43…延伸部材(第2の延伸部材)
44…接着剤
50、70…延伸部材除去用治具(除去部材)
51、71…押圧面
60…閉塞部材
61…閉塞面
DL…割断予定ライン
K…改質領域
L…レーザ光
P…集光点
S…閉断面空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面に素子が形成され当該基板面とは反対の面に延伸性を有する第1の延伸部材が貼着された半導体基板に対して、当該半導体基板をその厚さ方向に割断するための割断予定ラインに沿ってレーザ光を照射するレーザヘッドを相対移動させながら、前記半導体基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、当該集光点に多光子吸収による改質領域を形成する改質領域形成工程と、
前記割断予定ライン近傍の前記基板面に延伸性を有する第2の延伸部材を貼着させる貼着工程と、
前記第1の延伸部材を延伸させることにより、前記半導体基板を前記改質領域を起点にして前記割断予定ラインに沿って厚さ方向に割断して半導体チップを得る割断工程と、
前記割断工程により前記半導体チップに形成された各割断面と前記割断工程により延伸した前記第1の延伸部材および前記第2の延伸部材とにより形成される閉断面の空間に被覆材を注入して前記各割断面を被覆する被覆工程と、
を備えることを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項2】
前記被覆工程を行った後に、前記第2の延伸部材を前記基板面から除去する除去工程を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項3】
前記除去工程は、前記被覆工程を行った後に、前記第2の延伸部材に接着可能な接着剤が塗布された除去部材を前記割断工程により延伸した前記第2の延伸部材に押圧して着接させた後に当該除去部材を前記基板面から離間する方向に移動させることで、前記第2の延伸部材を前記基板面から除去することを特徴とする請求項2に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項4】
前記除去工程は、前記被覆工程を行う前に前記除去部材を前記割断工程により延伸した前記第2の延伸部材に押圧して着接させるとともに当該第2の延伸部材を介して前記基板面に押圧させ、前記被覆工程を行った後に当該除去部材を前記基板面から離間する方向に移動させることで、前記第2の延伸部材を前記基板面から除去することを特徴とする請求項2に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項5】
基板面に素子が形成され当該基板面とは反対の面に延伸性を有する第1の延伸部材が貼着された半導体基板に対して、当該半導体基板をその厚さ方向に割断するための割断予定ラインに沿ってレーザ光を照射するレーザヘッドを相対移動させながら、前記半導体基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、当該集光点に多光子吸収による改質領域を形成する改質領域形成工程と、
前記第1の延伸部材を延伸させることにより、前記半導体基板を前記改質領域を起点にして前記割断予定ラインに沿って厚さ方向に割断して半導体チップを得る割断工程と、
前記割断工程により前記半導体チップに形成された各割断面と前記割断工程により延伸した前記第1の延伸部材とにより形成されるU字状溝の開放側に閉塞部材を配置して閉断面の空間を形成する閉断面空間形成工程と、
前記閉断面の空間に被覆材を注入して前記各割断面を被覆する被覆工程と、
を備えることを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項6】
前記閉断面空間形成工程は、前記閉塞部材を、前記割断工程を行う前に前記割断予定ライン近傍の前記基板面に当接するように配置して、前記割断工程により前記第1の延伸部材の延伸方向に移動しながら拡大する前記U字状溝の開放側を覆うように移動させて前記閉断面の空間を形成することを特徴とする請求項5に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項7】
前記被覆工程は、前記閉断面の空間を負圧にした状態で前記被覆材を注入して前記各割断面を被覆することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項8】
前記基板面に形成された素子は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により形成された可動部を有する素子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法によって作製された半導体チップであって、前記割断面が被覆されていることを特徴とする半導体チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−152452(P2009−152452A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330232(P2007−330232)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】