説明

半導体レーザ素子

【課題】ドーパントの活性層への拡散を抑制して、発光出力が低下したり通電時における温度が上昇したりすることを低減可能とする半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】第1導電型基板1上に、少なくとも、第1導電型クラッド層3と活性層4とアンドープクラッド層5と第2導電型クラッド層6とが順次積層された構造とし、アンドープクラッド層の厚さを15nm〜45nmの範囲内とし、第2導電型クラッド層のドーパントをMg(マグネシウム)とし、同層におけるMg濃度を7E+16cm−3〜1E+18cm−3の範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子に係り、特に光ディスク装置等に用いられるAlGaInP系の半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子は、高密度光ディスク装置,レーザプリンタ,バーコードリーダ,及び光計測機器の光源として広く用いられており、その中で、DVD(Digital Versatile Disk)の記録/再生装置の光源としては、650nm帯のレーザ光が得られるAlGaInP系の半導体レーザ素子が使用されている。
AlGaInP系の半導体レーザ素子の従来例が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平10−321947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載されているようなAlGaInP系の半導体レーザ素子は、一般的に、p型ドーパントとしてZn(亜鉛)が用いられる。
しかしながら、Znは拡散係数が大きいため、MOCVD(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)法等による結晶成長の際または作製した半導体レーザ素子に通電した際に生じる熱によって、活性層と隣接するp型クラッド層中のZnが活性層中に移動する場合がある。
活性層中にZnが移動すると、このZnによって非発光再結合が起こり、発光出力が低下する問題が発生する。また、所定の発光出力を得るために半導体レーザ素子に通電する電流値を大きくすると、通電時における半導体レーザ素子の温度が上昇して半導体レーザ素子の寿命を悪化させる原因となる。
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ドーパントの活性層への拡散を抑制して、発光出力が低下したり通電時における温度が上昇したりすることを低減可能とする半導体レーザ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本願各発明は次の手段を有する。
1)半導体レーザ素子において、第1導電型基板(1)上に、少なくとも、第1導電型クラッド層(3)と、活性層(4)と、アンドープクラッド層(5)と、第2導電型クラッド層(6)とが順次積層されてなる積層構造を有し、前記アンドープクラッド層は、その厚さが15nm〜45nmの範囲内であり、前記第2導電型クラッド層は、Mg(マグネシウム)を含み、前記第2導電型クラッド層における前記Mgの濃度が7E+16cm−3〜1E+18cm−3の範囲内である構成としたことを特徴とする半導体レーザ素子(20)である。
2)前記第2導電型クラッド層上に少なくとも第2導電型キャップ層(10)を有し、該第2導電型キャップ層は、C(炭素)を含み、前記第2導電型キャップ層における前記Cの濃度が1E+18cm−3〜3E+19cm−3の範囲内である構成としたことを特徴とする半導体レーザ素子である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、特に、第1導電型基板上に、少なくとも、第1導電型クラッド層と活性層とアンドープクラッド層と第2導電型クラッド層とが順次積層された積層構造とし、アンドープクラッド層の厚さを15nm〜45nmの範囲内とし、第2導電型クラッド層のドーパントをMg(マグネシウム)とし、同層におけるMg濃度を7E+16cm−3〜1E+18cm−3の範囲内とすることによって、ドーパントの活性層への拡散を抑制して、発光出力が低下したり通電時における温度が上昇したりすることを低減可能とするという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例である第1実施例及び第2実施例により図1〜図6を用いて説明する。
【0008】
<第1実施例>
まず、本発明の半導体レーザ素子の第1実施例を、第1工程~第3工程として図1〜図5を用いて説明する。
図1〜図3は、本発明の半導体レーザ素子の第1実施例における第1工程〜第3工程をそれぞれ説明するための模式的断面図である。
図4は、アンドープクラッド層の層厚と半導体レーザ素子の導通抵抗との関係を示す図である。
図5は、第1のp型クラッド層のドーパント(Mg)濃度と半導体レーザ素子の導通抵抗との関係を示す図である。
【0009】
第1実施例では、詳細は後述するが、特に、活性層4と第1のp型クラッド層6との間にアンドープクラッド層5を設ける点、及び、第1のp型クラッド層6のドーパントとしてMg(マグネシウム)を用いる点を特徴としている。
【0010】
(第1工程)[図1参照]
n型基板1上に、n型バッファ層2,n型クラッド層3,活性層4,アンドープクラッド層5,第1のp型クラッド層6,p型エッチング停止層7,第2のp型クラッド層8,p型中間層9,及びp型コンタクト層10を、MOCVD(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)法により、順次積層する。
なお、n型を第1導電型、p型を第2導電型と称する場合がある。
【0011】
p型エッチング停止層7は、後述するp型リッジ15を形成するためのエッチングを行う際に、このエッチングによって下層である第1のp型クラッド層6がエッチングされることを防止するために設けられている。
また、第2のp型クラッド層8とp型コンタクト層10とのバンドギャップの差が大きいために、バンド不連続によるポテンシャルバリアが形成される。このポテンシャルバリアは、半導体レーザ素子の導通抵抗を大きくするので、動作電圧が上昇するといった問題が発生する。そこで、第2のp型クラッド層8とp型コンタクト層10との間に、第2のp型クラッド層8とp型コンタクト層10との中間のバンドギャップを有するp型中間層9を介在させることによって、このポテンシャルバリアの形成を抑制することができる。
【0012】
上述の各層における、層厚,主の構成材料,ドーパント,及びドーパント濃度を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
表1に示すように、第1実施例では、アンドープクラッド層5の層厚を30nmとし、p型第1クラッド層6のドーパント及びドーパント濃度をMg(マグネシウム)及び7E+17cm−3としたが、その理由については後述することとする。
【0015】
また、第1実施例では、上述の各層を成膜する際の原料ガスとして、構成元素Ga(ガリウム)にはTMG(トリメチルガリウム),構成元素Al(アルミニウム)にはTMA(トリメチルアルミニウム),構成元素In(インジウム)にはTMI(トリメチルインジウム),構成元素As(砒素)にはAsH(アルシン),構成元素P(リン)にはPH(ホスフィン)を用いた。
【0016】
また、第1実施例では、n型ドーパントSi(シリコン)の原料ガスとしてSiH(シラン),p型ドーパントZn(亜鉛)の原料ガスとしてDMZ(ジメチル亜鉛),及びp型ドーパントMgの原料ガスとしてCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた。
【0017】
また、第1実施例では、各層を積層する際の基板加熱温度を530℃とした。
【0018】
(第2工程)[図2参照]
フォトリソ法によって、p型コンタクト層10,p型中間層9,及び第2のp型クラッド層8を選択的に順次エッチング除去し、幅w15が1〜2μmであるp型リッジ15をストライプ状に形成する。
【0019】
(第3工程)[図3参照]
p型リッジ15及び第2工程により露出したp型エッチング停止層7の各表面上にp側電極17を形成し、n型基板1の積層方向とは反対側の面にn側電極18を形成する。
p型エッチング停止層7は、そのドーパント濃度がp型コンタクト層10に対して低いので、p側電極17とp型エッチング停止層7とはショットキー接合となり、p側電極17とp型コンタクト層10とはオーミック接合となる。
【0020】
上述した第1工程〜第3工程により、第1実施例における半導体レーザ素子20を得る。
【0021】
この半導体レーザ素子20は、p型電極17側からn型電極18側に向かって順方向電流を注入した際、この電流はp側電極17とオーミック接合しているp型コンタクト層10を通って半導体レーザ素子20内部に流れ、この電流が発振しきい値以上になったとき、p型リッジ15の下部に対応した活性層4部からレーザ光を出射させるものである。
【0022】
ここで、第1実施例において、アンドープクラッド層5の層厚を30nmとし、p型第1クラッド層6のドーパント及びドーパント濃度をMg(マグネシウム)及び7E+17cm−3とした理由について説明する。
【0023】
上述したように、結晶成長の際、または、作製した半導体レーザ素子に通電した際に生じる熱によって、活性層と隣接する第1のp型クラッド層中のZnが活性層中に移動する場合がある。
活性層中にZnが移動すると、このZnによって非発光再結合が起こり、発光出力が低下する問題が発生する。また、所定の発光出力を得るために半導体レーザ素子に通電する電流値を大きくすると、通電時における半導体レーザ素子の温度が上昇して半導体レーザ素子の寿命を悪化させる原因となる。
【0024】
そこで、第1実施例では、活性層4とp型第1クラッド層6との間にアンドープクラッド層5を設けることにより、加熱によってp型第1クラッド層6中のZnはこのp型第1クラッド層6と隣接するアンドープクラッド層5に移動するが、このアンドープクラッド層5がバッファとして機能するので、活性層4へのZnの移動量を低減することができる。
【0025】
また、アンドープクラッド層5の層厚が厚いほど、活性層4へのZnの移動量をより低減できるが、このアンドープクラッド層5の導通抵抗が大きくなるため、作成された半導体レーザ素子の導通抵抗も大きくなる。そのため、この半導体レーザ素子に通電した際の消費電力が大きくなってしまう。
そこで、発明者が鋭意実験した結果、半導体レーザ素子の導通抵抗を12Ω以下にすることが望ましく、半導体レーザ素子の導通抵抗を12Ω以下にするためには、図4に示すように、アンドープクラッド層5の層厚を45nm以下にすればよいことを見出した。
【0026】
一方、アンドープクラッド層5の層厚が薄いと、加熱によって第1のp型クラッド層6中のドーパントであるZnがこのアンドープクラッド層5を通過して活性層4に移動してしまう。
【0027】
そこで、発明者は、アンドープクラッド層5の層厚が薄い場合、例えば45nm以下の場合においても、第1のp型クラッド層6中のドーパントが活性層4に移動することを抑制するために、p型第1クラッド層6のドーパント及びドーパント濃度に着目した。
そして、発明者が鋭意実験した結果、図5に示すように、第1のp型クラッド層6のドーパントをZnよりも拡散しにくいMgとし、ドーパント(Mg)濃度を7E+16cm−3以上とすることによって半導体レーザ素子の導通抵抗を12Ω以下にでき、また、ドーパント(Mg)濃度を1E+18cm−3以下とすることによって活性層4へのドーパント(Mg)の移動を抑制できることを見出した。
従って、上述の結果から、第1のp型クラッド層6のドーパント(Mg)濃度を7E+16cm−3〜1E+18cm−3の範囲内とすることが必要である。
【0028】
また、発明者が鋭意実験した結果、第1のp型クラッド層6のドーパント(Mg)濃度を7E+16cm−3〜1E+18cm−3の範囲内とした際に、このMgの活性層4への移動を抑制するためには、アンドープクラッド層5の層厚は15nm以上が必要であることを見出した。
【0029】
従って、上述の結果から、アンドープクラッド層5の層厚を15nm〜45nmの範囲内とすることが必要である。
【0030】
そこで、第1実施例では、上述の結果に基づいて、アンドープクラッド層5の層厚を30nmとし、p型第1クラッド層6のドーパント及びドーパント濃度をMg(マグネシウム)及び7E+17cm−3とした。
【0031】
<第2実施例>
次に、本発明の半導体レーザ素子の第2実施例について説明する。
第2実施例は、上述した第1実施例に対して、特に、p型コンタクト層10のドーパントとしてC(炭素)を用いる点を特徴としており、p型コンタクト層10におけるドーパント及びドーパント濃度以外は、第1実施例と同じである。
【0032】
上述した表1に示すように、各p型層の中で最もドーパント濃度が高い層は、p型コンタクト層10である。
そのため、結晶成長の際の基板加熱温度によっては、p型コンタクト層10中のZnが活性層4中に移動する場合がある。
【0033】
そこで、発明者は、p型コンタクト層10のドーパント及びドーパント濃度に着目した。
そして、発明者が鋭意実験した結果、図6に示すように、p型コンタクト層10のドーパントをZnよりも拡散しにくいC(炭素)とし、ドーパント(C)濃度を1E+18cm−3以上とすることによって半導体レーザ素子の導通抵抗を12Ω以下にでき、また、ドーパント(C)濃度を3E+19cm−3以下とすることによって活性層4へのドーパント(C)の移動を抑制できることを見出した。
図6は、p型コンタクト層のドーパント(C)濃度と半導体レーザ素子の導通抵抗との関係を示す図である。
従って、上述の結果から、p型コンタクト層10のドーパント(C)濃度を1E+18cm−3〜3E+19cm−3の範囲内とすることが必要である。
【0034】
なお、p型コンタクト層10を成膜する際のp型ドーパントCの原料ガスとしてCBr4(カーボンテトラブロマイド)を用いた。
【0035】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【0036】
例えば、第1実施例及び第2実施例における各層は、表1に示す各値に限定されるものではなく、上述した条件を満たしていれば、任意の値にすることができる。
【0037】
また、第1実施例及び第2実施例では、基板加熱温度を530℃としたが、これに限定されるものではない。発明者が鋭意実験した結果、基板加熱温度、特にp型コンタクト層10を成膜する際の基板加熱温度を480℃〜580℃の範囲内にすることにより、第1実施例及び第2実施例と同様の効果が得られることを見出した。
【0038】
また、第1実施例及び第2実施例では、p型第1クラッド層6のドーパントとしてMgを用いたがこれに限定されるものではなく、例えば、Znよりも拡散しにくいC(炭素)を用いることができる。
【0039】
また、第1実施例及び第2実施例では、p型コンタクト層10のドーパントとしてZn及びCを用いたがこれに限定されるものではなく、例えば、Znよりも拡散しにくいMgを用いることができる。
ただし、p型コンタクト層10はn型基板1上に最後に積層される層であり、Mgは成膜装置の内面や基板ホルダーに残留しやすい物質なので、成膜後に成膜装置の内面や基板ホルダーに残留したMgが、次の成膜の際に、活性層等の他の層にドーピングされる虞がある。
従って、第1実施例及び第2実施例のように、p型コンタクト層10のドーパントとしてMg以外のZnやCを用いることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の半導体レーザ素子の第1実施例における第1工程を説明するための模式的断面図である。
【図2】本発明の半導体レーザ素子の第1実施例における第2工程を説明するための模式的断面図である。
【図3】本発明の半導体レーザ素子の第1実施例における第3工程を説明するための模式的断面図である。
【図4】アンドープクラッド層の層厚と半導体レーザ素子の導通抵抗との関係を説明するための図である。
【図5】第1のp型クラッド層のドーパント(Mg)濃度と半導体レーザ素子の導通抵抗との関係を説明するための図である。
【図6】p型コンタクト層のドーパント(C)濃度と半導体レーザ素子の導通抵抗との関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0041】
1 n型基板、 2 n型バッファ層、 3 n型クラッド層、 4 活性層、 5 アンドープクラッド層、 6 第1のp型クラッド層、 7 p型エッチング停止層、 8 第2のp型クラッド層、 9 p型中間層、 10 p型コンタクト層、 15 p型リッジ、 17 p側電極、 18 n側電極、 20 半導体レーザ素子、 w15 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ素子において、
第1導電型基板上に、少なくとも、第1導電型クラッド層と、活性層と、アンドープクラッド層と、第2導電型クラッド層とが順次積層されてなる積層構造を有し、
前記アンドープクラッド層は、その厚さが15nm〜45nmの範囲内であり、
前記第2導電型クラッド層は、Mg(マグネシウム)を含み、前記第2導電型クラッド層における前記Mgの濃度が7E+16cm−3〜1E+18cm−3の範囲内である構成としたことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第2導電型クラッド層上に少なくとも第2導電型キャップ層を有し、
該第2導電型キャップ層は、C(炭素)を含み、前記第2導電型キャップ層における前記Cの濃度が1E+18cm−3〜3E+19cm−3の範囲内である構成としたことを特徴とする半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−317926(P2007−317926A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146560(P2006−146560)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】