説明

半導体波長可変フィルタ及び半導体波長可変レーザ

【課題】従来よりも広い波長可変帯域を有し、かつ、正確な発振波長制御が簡便な半導体波長可変レーザを提供すること。
【解決手段】半導体波長可変レーザ400のフィルタ領域420は、第1のMZI421と第2のMZI422を並列配置し、2×2光カプラ423の2つの出力ポートに各々接続している。各MZIは、2つの2×2光カプラの間に、同一構造の2本のアーム導波路を有する対称MZIである。各アーム導波路は、一方の2×2光カプラの出力ポートに接続された第1のミラーと、第1のミラーと所定の長さ(第1のMZI421では第1の長さL1、第2のMZI422では第2の長さL2)の光導波路により接続され、他方の2×2光カプラの入力ポートに接続された第2のミラーとを有するファブリペローエタロンを備える。当該他方の2×2光カプラの出力ポートには、反射率90%以上の高反射ミラー424、425が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体波長可変フィルタ及び半導体波長可変レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットにおけるトラフィックの増大により、ノード間を結ぶ伝送には波長多重を用いて伝送容量を増加させている。このような波長多重伝送において、波長可変レーザは欠かすことのできない重要な光部品である。
【0003】
図1に、従来提案されている2重リング共振器を用いたモノリシック集積型波長可変レーザを示す(非特許文献1参照)。リング共振器は、一定周波数間隔(FSR)で透過強度が大きくなる特長を持つ透過型光フィルタであり、このレーザでは、異なるFSRを有する2つのリング共振器を用いることにより、2つのFSRの最小公倍数の周波数領域で波長可変動作を得ることを可能にしている(バーニア効果)。
【0004】
通信波長帯、例えばC帯(1530〜1570nm)をカバーするような大きな波長可変帯域を得るためにはFSRを大きく、すなわち、リング共振器の共振器長を小さくする必要があり、コア層および下部クラッド層まで垂直に半導体をエッチングした、急峻な曲げ半径が実現可能なハイメサ光導波路を用いている。図2にハイメサ光導波路の断面図を示す。また、リング共振器の光カプラ部分には、光結合効率が50%のマルチモード干渉(MMI)光カプラを用いている。レーザの発振波長を変化させるためには、2つのリング共振器にそれぞれ独立に電流注入し、光導波路の屈折率を変化させて共振ピーク波長を調整する。電流注入はナノ秒程度で高速に屈折率変調が可能である。さらに、位相調整用の光導波路(位相調整領域)をレーザ共振器内に設けることにより縦モード間隔を微調し、正確に所望の発振波長に調整可能としている。この位相調整も電流注入によって行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEE Photonics Technology Letters, vol. 19, 2007, pp. 1322-1324
【非特許文献2】IEEE 21st International Semiconductor Laser Conference (ISLC 2008), 2008, pp. 153-154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図1の構造では、さらなる波長可変帯域の拡大が困難である。波長分割多重伝送方式を用いた現在の光通信システムにおいて、通信容量の大容量化とともに前述のC帯のみではなく、L帯(1570〜1610nm)やS帯(1460〜1530nm)などの波長帯域も使用されている。したがって、1台の波長可変レーザで複数の波長帯をカバーできるより広い波長可変帯域を有することが求められているが、図1の構成では、リング共振器のフィネスで決定される波長選択性能とのトレードオフから、副モード抑圧比が高々30dB、波長可変帯域が50nmまでと限界がある。
【0007】
リング共振器への通過回数を削減し、かつ端面反射を用いない構成として、図3に示すように、2つのリング共振器と非対称マッハツェンダー干渉計(以下「MZI」という。)を直列接続し、Sagnac干渉計によるループミラー内に配置した1チップ集積型半導体波長可変レーザが提案されている(非特許文献2参照)。この構成において、利得領域からの光は1×2光カプラにより等分岐され、それぞれ右回りと左回りにループ内を周回し再び1×2光カプラに入射する。右回り光と左回り光は同位相で1×2光カプラに再入射するため、ほぼ100%の光結合効率で利得領域にフィードバックされる。このとき、2つのリング共振器のFSRを異ならせ、バーニア効果により波長可変帯域を拡大する手法は図1の構成と同様であるが、各リング共振器への通過回数はループ構成により1回となる。通過回数の削減によりリング共振器に起因する損失は低減できるものの波長選択性能は劣化する。したがって、そのフィルタ性能の劣化を補うため、非対称MZIを第3のフィルタとしてループに挿入し、波長可変帯域拡大と波長選択性能の両立を試みている。だが、第3のフィルタを波長制御のために追加することには問題がある。それは、波長可変レーザの波長制御機構が複雑化し、例えば波長可変特性を取得するのに長時間の測定を必要とすることである。
【0008】
リング共振器あるいはMZIフィルタにおいて、FSRと透過ピーク波長の設計値と実測値は必ずしも一致することはなく、実際の値には製造誤差で決まるばらつきが存在する。したがって、波長可変レーザの製造後には、レーザの発振波長と波長制御フィルタに注入する電流(熱で制御する場合は印加電力、電圧で制御する場合は印加電圧)との関係を実際に調べなければ、レーザの発振波長を正確に制御することができない。例えば、リング共振器の共振ピークを隣の共振ピークまで移動させるのに10mAの注入電流が必要であったとする。図1の構成によりバーニア効果で波長可変帯域を拡大させた場合、2つのリング共振器にそれぞれ最大10mAの電流を注入することで波長可変帯域内のすべての波長を選択できることになる。0.1mAのステップで上述の発振波長と電流の関係を取得する場合、100×100=10000点の数値データが必要になる。測定時間が1点あたり1秒かかる測定系(例えば、電流源と波長計で構成)を用いた場合、1台の波長可変レーザの特性取得にかかる時間は約2.8時間になる。非対称MZIによる波長制御フィルタが追加された図3の構成で同様な電流ステップ数の測定を行うと、約280時間(100×100×100=1000000点)が必要になることになる。上記の例は必要とする発振波長の精度やフィルタ形状、測定速度等に依存するが、急峻なフィルタ特性を持つリング共振器を含む場合、十分な測定ステップ数が必要になる。したがって、新たに波長制御フィルタを追加した図3の構成は波長制御機構が複雑化し、著しい量産性の低下を招いていた。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、従来よりも広い波長可変帯域を有し、かつ、正確な発振波長制御が簡便な半導体波長可変レーザを提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、当該半導体波長可変レーザを可能にする半導体波長可変フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、2つの2×2光カプラの間に2本のアーム導波路が接続され、各アーム導波路は、前記2つの2×2光カプラのうちの一方の2×2光カプラの出力ポートに接続された第1のミラーと、前記第1のミラーと所定の長さの光導波路により接続され、前記2つの2×2光カプラのうちの他方の2×2光カプラの入力ポートに接続された第2のミラーとを有するファブリペローエタロンを備え、前記他方の2×2光カプラの出力ポートに高反射ミラーが設けられていることを特徴とする半導体波長可変フィルタである。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記2本のアーム導波路は、前記第1のミラーと前記第2のミラーを接続する前記光導波路の前記所定の長さが異なり、前記一方の2×2光カプラと前記第1のミラーとを接続する光導波路、および、前記第2のミラーと前記他方の2×2光カプラを接続する光導波路の長さが等しいことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第3の態様は、第1及び第2の半導体波長可変フィルタが2×2光カブラに並列に接続され、各半導体波長可変フィルタは、第1の態様の半導体波長可変フィルタであって、前記2本のアーム導波路がそれぞれ備えるファブリペローエタロンの構造が同一であり、前記第1の半導体波長可変フィルタにおいて、前記第1のミラーと前記第2のミラーとを接続する前記光導波路の前記所定の長さは第1の長さであり、前記第2の半導体波長可変フィルタにおいて、前記第1のミラーと前記第2のミラーとを接続する前記光導波路の前記所定の長さは前記第1の長さと異なる第2の長さであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第4の態様は、第1及び第2の半導体波長可変フィルタが2×2光カブラに直列に接続され、各半導体波長可変フィルタは、第1の態様の半導体波長可変フィルタであって、前記2本のアーム導波路の構造が同一であり、前記第1の半導体波長可変フィルタの前記他方の2×2光カプラの前記出力ポートは、高反射ミラーの代わりに前記第2の半導体波長可変フィルタの前記一方の2×2光カプラの入力ポートに接続されており、前記第1の半導体波長可変フィルタにおいて、前記第1のミラーと前記第2のミラーとを接続する前記光導波路の前記所定の長さは第1の長さであり、前記第2の半導体波長可変フィルタにおいて、前記第1のミラーと前記第2のミラーとを接続する前記光導波路の前記所定の長さは前記第1の長さと異なる第2の長さであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第5の態様は、利得領域と、前記利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域と、前記利得領域と前記フィルタ領域との間の位相調整領域とを備える半導体波長可変レーザであって、前記フィルタ領域は、第1から第4のいずれかの態様の半導体波長可変フィルタで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る半導体波長可変フィルタ及び当該フィルタを備える半導体波長可変レーザによれば、2つの2×2光カプラの間に2本のアーム導波路が接続され、各アーム導波路は、当該2つの2×2光カプラのうちの一方の2×2光カプラの出力ポートに接続された第1のミラーと、当該第1のミラーと所定の長さの光導波路により接続され、当該2つの2×2光カプラのうちの他方の2×2光カプラの入力ポートに接続された第2のミラーとを有するファブリペローエタロンを備え、当該他方の2×2光カプラの出力ポートに高反射ミラーが設けられていることにより、従来よりも広い波長可変帯域を有し、かつ、正確な発振波長制御が簡便な半導体波長可変レーザを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来提案されている2重リング共振器を用いたモノリシック集積型波長可変レーザを示す図である。
【図2】ハイメサ光導波路の断面図を示す図である。
【図3】リング共振器への通過回数を削減し、かつ端面反射を用いない構成とした半導体波長可変レーザの従来例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る半導体波長可変レーザを示す図である。
【図5】(a)にファブリペローエタロンの透過スペクトル、(b)にその位相の特性図を示す図である。
【図6】実施形態1に係る半導体波長可変レーザ400の各MZIの詳細図を示す図である。
【図7】実施形態1に係る半導体波長可変レーザ400の各MZIの反射スペクトル及びフィルタ領域420全体からの反射スペクトルを示す図である。
【図8】エタロンを構成するギャップミラーの電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図9】計算で求めたギャップミラーの反射率と透過率のギャップ間隔dとの関係を示す図である。
【図10】2×2光カプラの出力ポートに作製した高反射ミラーのSEM像を示す図である。
【図11】実施形態2に係る半導体波長可変レーザが備える半導体波長可変フィルタを示す図である。
【図12】並列接続の実施形態1と直列接続の実施形態2について、反射率差ΔRとMの関係を計算で求めた結果を示す図である。
【図13】本発明の実施形態3に係る半導体波長可変レーザを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(実施形態1)
図4に、本発明の実施形態1に係る半導体波長可変レーザを示す。図示のように、半導体波長可変レーザ400は、利得領域410と、利得領域410からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域420と、利得領域410とフィルタ領域420との間の位相調整領域430とを備える。
【0018】
フィルタ領域420は、第1のMZI421と第2のMZI422を並列配置し、2入力2出力型(2×2)光カプラ423の2つの出力ポートに各々接続している。各MZIは、2つの2×2光カプラの間に、同一構造の2本のアーム導波路を有する対称MZIである。
【0019】
各アーム導波路は、一方の2×2光カプラの出力ポートに接続された第1のミラーと、第1のミラーと所定の長さ(第1のMZI421では第1の長さL1、第2のMZI422では第2の長さL2)の光導波路により接続され、他方の2×2光カプラの入力ポートに接続された第2のミラーとを有するファブリペローエタロンを備える。例えば、各ミラーの反射率を35%とすることができる。当該他方の2×2光カプラの出力ポートには、反射率90%以上の高反射ミラー424、425が設けられている。
【0020】
ファブリペローエタロンは、透過型フィルタ、ないし反射型フィルタとして知られている。図5(a)にファブリペローエタロンの透過スペクトル、図5(b)にその位相の特性図を示す。ここで、ファブリペローエタロンの透過ピーク間隔FSRは、
【0021】
【数1】

【0022】
と表せる。cは光速、neffは光導波路の実効屈折率、Lはファブリペローエタロンの長さである。エタロンの透過スペクトルは、リング共振器のように複数の透過ピークを有する。さらに、隣接する透過ピーク波長間では、位相差が常にπであることが図5(b)より分かる。
【0023】
実施形態1において、対称MZIの2つのアーム導波路に同一構造のファブリペローエタロンを配置するのは、透過光と反射光を空間的に分離するためである。図6に、本実施形態に係る半導体波長可変レーザ400の各MZIの詳細図を示す。MZIに入力された光は、2つの2×2光カプラのうち、利得領域420側の一方の2×2光カプラにより等しく分岐され、各々ファブリペローエタロンに入射する。エタロンからの反射光は、再び利得領域420側の2×2光カプラに入射する。2つのファブリペローエタロンは構造が等しく、かつ、2×2光カプラとファブリペローエタロンとの間の距離は等しいため(対称MZIのため)、アーム導波路を伝搬する光には位相差は付与されない。すなわち、ファブリペローエタロンからの反射光は、すべて出力ポート1に出力される。一方、ファブリペローエタロンの透過光は、同様に位相差が付与されないので、出力ポート2にすべて出力される。本実施形態ではファブリペローエタロンの透過光のみを用い、反射光は、利得領域420側の2×2光カプラに接続された放射導波路から廃棄される。透過光は、MZIの出力ポート2に形成された高反射ミラーにより反射され、MZIに再入射される。
【0024】
本実施形態では、第1のMZI421及び第2のMZI422は、互いに異なるFSRを有するファブリペローエタロンを備える。それらを並列に2×2光カプラ423に接続することによりバーニア効果による波長可変帯域を拡大させるとともに、2組のファブリペローエタロンの透過ピーク間の位相差を利用することで、さらなる波長可変帯域の増大を可能にしている。さらに、位相調整領域430の導波路上に電流注入用電極を形成することで、レーザ共振器のキャビティモードを連続的に調整することが可能となり、正確な発振波長制御が可能となる。ファブリペローエタロンは、ガラス基板等に誘電体多層膜を形成したバルク形態が一般的であるが、本実施形態では、InP基板上にフォトリソグラフィ等の半導体プロセス技術を用いて各構成要素を平面的に配置することにより実現している。この手法により、バルク形態のファブリペローエタロンと利得媒質とを空間光学的に配置した場合に比べ、素子の小型化が図れる。
【0025】
図7に、本実施形態に係る半導体波長可変レーザ400の各MZIの反射スペクトル及びフィルタ領域420全体からの反射スペクトルを示す。図7より、第1のMZI421及び第2のMZI422の反射ピークが一致する波長で最大のフィルタ反射率が得られる一方、両MZIの反射ピークが次に一致する短波長側、ないし長波長側の波長で最少の反射率となることが分かる。これは、反射ピークの一致した波長において、同相(位相差0)、ないし逆相(位相差π)の状態で各MZIからの反射光が2×2光カプラ423に結合するためで、本実施形態では、次式の関係を満たすように2組のファブリペローエタロンのFSRを設定することにより、それを可能としている。
【0026】
【数2】

【0027】
ここで、FSR1<FSR2である。
【0028】
ここで、実施形態1に係る半導体波長可変レーザ400の作製方法について述べる。素子のレーザ活性層は、n−InP基板上にn−InP層、InGaAsP/InP多重量子井戸構造(MQW)の活性層(フォトルミネッセンスピーク波長1.53μm)と活性層の上下をSCH(Separate−confinement heterostructure)層で閉じこめる構造とした。次にSiO2膜をスパッタリングにより成膜し、利得領域となる部分を除きエッチングにより除去、さらにパタン化されたSiO2膜をマスクとして活性層を除去する。次に、選択成長により1.4Q組成、0.3μm膜厚のInGaAsP光導波路層をバットジョイント成長し、その後SiO2層を除去して基板全体にp−InP層、p+−InGaAs層を成長した。実施形態1では、利得領域、位相調整領域、そしてファブリペローエタロン部分をコア層の直上までエッチングされたリッジ導波路を用い、それ以外の光カプラ部分を含むフィルタ領域は、ハイメサ光導波路構造で作製した。実施形態1では、作製が容易、かつ低損失に作製可能な3dBマルチモード干渉(MMI)光カプラを2×2光カプラとして用いる。リッジ導波路およびハイメサ導波路は、フォトリソグラフィとドライエッチングにより作製した。導波路を形成後、局所領域への埋め込みが可能で平坦化に優れた有機材料であるベンゾシクロブテン(Benzocyclobutene:BCB)をスピンコートにより塗布し、O2/C26混合ガスを用いたRIEにより基板表面が露出するまでエッチバックを実施し、基板表面を平坦化した。その後、電流注入用電極を利得領域、位相調整領域、そしてエタロンのリッジ導波路のp+−InGaAs層上に形成し、さらに基板裏面電極を形成し完成となる。
【0029】
本実施形態でファブリペローエタロンを構成するミラーは、MZIのアーム導波路に光の伝搬方向に対して垂直に空間的な隙間(ギャップ)を形成することで反射鏡とする、いわゆるギャップミラーで実現することができる。図8に、作製したギャップミラーの電子顕微鏡(SEM)像を示す。このギャップミラーは、エタロンのリッジ光導波路と光カプラ側のハイメサ光導波路との間に配置されている。このギャップミラーの作製は、光カプラで用いるハイメサ光導波路の作製工程、すなわちフォトリソグラフィによるパタン形成やドライエッチングによるInP加工と同時に行っており、追加工程なしに実現できることが特長である。
【0030】
図9に、計算で求めたギャップミラーの反射率と透過率のギャップ間隔dとの関係を示す。ここでは、ギャップがBCB(屈折率1.54)で充填され、また回折による放射損失を3次元BPM法(Beam propagation method)による計算から1dB/μmとしている。図9より、ギャップミラーの反射率は、dに対して干渉による増減を示すのが分かる。本実施形態では、作製に用いるフォトリソグラフィのパタン分解能からdを0.75μmとして作製し、反射率を35%した。一般に、ファブリペローエタロンフィルタの透過特性は、ミラーの反射率を増大させると透過スペクトルが急峻化し、波長選択性能が向上する。したがって、ギャップに充填されたBCBを局所的に除去し、空気、あるいはBCBより低い屈折率を持つ材料に変更することにより、半導体との屈折率差を増大させ(ミラー反射率を増大させ)、本実施形態の波長選択性能を向上させることも可能である。本実施形態のファブリペローエタロンで用いるミラーの反射率は、10%以上60%以下程度であることが好ましい。
【0031】
本実施形態では、ファブリペローエタロンに用いるミラーとして、導波路に空間的な隙間(ギャップ)を形成し、干渉反射を用いたギャップミラーを用いることができる。しかし、MZIを透過した光を反射させ、利得領域にフィードバックさせるにはより高い反射率、理想的には100%の反射率をもつ高反射ミラーをMZIの出力側に集積する必要がある。実施例として、光導波路の端面にAuを蒸着することで高反射率を有するミラーを実現した。図10に、作製した高反射ミラーのSEM像を示す。AuやAgを用いた金属反射鏡は、電流を流し、金属中の自由電子のプラズマ振動に起因した高い反射率が得られ、かつ形成が容易(真空蒸着法による)な特徴がある。図10の実施例では、ハイメサ光導波路の作製時に光伝搬方向に対して垂直な端面をドライエッチングで形成(マスクパタン上であらかじめ図12のようなエッチング領域を作成)し、その端面にAuを斜め蒸着(膜厚300nm)することで反射率93%以上が得られた。高反射ミラーの反射率としては、90%以上が好ましい。また、へき開端面に誘電体多層膜をスパッタ等で形成しても同等の反射率をもつ高反射ミラーが作製できる。
【0032】
本実施形態では、第1のMZI421及び第2のMZI422を並列に2×2光カプラ423に接続しているが、接続する光導波路の長さを2つのMZI間で異なるものにしてもよい。前記第2のMZIと2×2光カプラとの間に
【0033】
【数3】

【0034】
の長さLPhaseの光導波路を付与することで不等長としても透過光の位相差を用いた波長可変域の拡大効果が期待できる。ここで、L1、L2はそれぞれ第1のMZI421及び第2のMZI422におけるファブリペローエタロンの長さである。
【0035】
(実施形態2)
図11に、実施形態2に係る半導体波長可変レーザが備える半導体波長可変フィルタを示す。従来技術である非特許文献1の構成では、異なるFSRを有するリング共振器を2つ直列接続し、バーニア効果により波長可変帯域を拡大している。実施形態1に係る半導体波長可変レーザ400においても、図11のようにMZIを直列接続することが可能である。
【0036】
第1のMZI421及び第2のMZI422のFSRをそれぞれFSR1及びFSR2とすると、フィルタ領域420の波長可変帯域Δλ’は、非特許文献1に示されているようにバーニア効果により、
【0037】
【数4】

【0038】
と表せる。比較のため、図7にΔλ’とΔλを記載する。式(2)と比較すると、実施形態1では、複数ピークを有するフィルタ素子を直列接続した場合に比べて2倍の波長可変帯域を可能としている。実施形態1では、FSR1を400GHz、FSR2を444GHz、Mを10、Nを9とすると、波長可変帯域Δλは8000GHz(64nm)となるが、図11に示すバーニア効果のみを用いた場合の波長可変帯域Δλ’は4000GHz(32nm)となり、実施形態1の構成により実施形態2の2倍の波長可変性能を得ることが可能である。しかしながら、実施形態2の半導体波長可変フィルタによっても、従来のリング共振器を用いた波長可変フィルタと比較して広い波長可変帯域が得られる。通常、バーニア効果で大きな波長可変帯域を得るには、式(7)より、M(またはN)を大きくする、またはFSRを大きくする必要がある。FSRを大きくするには、式(1)よりファブリペローエタロンの長さLを小さく、あるいはリング共振器の場合は共振器の長さ(曲率一定のリング共振器の場合、その長さは2πRとなる。Rは曲げ半径)を小さくすればよい。しかし、リング共振器を構成する曲がり導波路の曲げ半径には下限があり、本実施形態で使用する半導体ハイメサ光導波路の場合、曲げ半径を10μm程度より小さくすると急激に光損失が増加する。したがって、リング共振器のFSRは、それを構成する光カプラの長さも考慮すると700GHz程度に上限がある。一方、ファブリペローエタロンの場合、単純な直線導波路で構成されるため、曲げ半径による制約はない。したがって、リング共振器のFSRを超える10THzのFSRも実現できる。ファブリペローエタロンと位相調整領域の導波路とにそれぞれ屈折率制御用の電極を形成することで半導体波長可変レーザの正確な発振波長制御が簡便に実現できることを留意されたい。
【0039】
バーニア効果で大きな波長可変帯域を得るためには、M(またはN)を大きくするか、FSRを大きくする必要があることは先に述べた。Mを増大させるためには、2つのFSRの差を減少させる必要がある。その場合、2組のファブリペローエタロンの透過スペクトルの重なりが大きくなる。すなわちフィルタ領域からの反射スペクトルにおいて、メインピークと隣接ピークの反射率差ΔRが減少する。ΔRはフィルタ領域の波長選択性能、つまり波長可変レーザの副モード抑圧比(SMSR)を決定する重要なパラメータであり、波長可変域とトレードオフの関係にある。
【0040】
図12に、並列接続の実施形態1と、直列接続の実施形態2を比較するため、反射率差ΔRとMの関係を計算で求めた結果を示す。計算では光導波路の損失を5dB/cm、カプラの損失を0.5dB、FSR1を400GHzとして求めた。図12より明らかなように、同じMに対して、実施形態1は、実施形態2に比べてΔRが向上する。これは、2×2光カプラ423に位相と振幅の差に応じて放射導波路側にも光が出力され、透過ピーク波長以外の光は利得領域410への結合効率の低下が生じるためである。これにより、メインピークと隣接ピークの反射率差ΔRが直列接続の実施形態2と比較して向上し、副モード抑圧比が改善する。すなわち、実施形態1では、波長可変帯域が倍になるとともに、高SMSRの波長可変レーザが実現できる。実施形態1では、ΔRを1.2dBとしてSMSRが40dB以上を得ることができ、従来技術である非特許文献1と比較しても、広い波長可変帯域かつ高SMSRの波長可変レーザが作製できる。
【0041】
(実施形態3)
図13に、本発明の実施形態3に係る半導体波長可変レーザを示す。実施形態3に係る半導体波長可変レーザ1300は、利得領域410、フィルタ領域1320、及び位相調整領域430を備え、フィルタ領域1320は、2つの2×2光カプラの間に接続された2本のアーム導波路内にそれぞれ異なるFSRを有するファブリペローエタロンを配置したMZI1321を備える。2本のアーム導波路は、ファブリペローエタロンを構成するミラー間を接続する光導波路の長さが異なるので、MZI1321は非対称MZIである。しかし、2×2光カプラとミラーとを接続する光導波路の長さは2本のアーム導波路で等しい。
【0042】
このような構成により、実施形態1と同様に、ファブリペローエタロンの透過光の位相を利用することで波長可変帯域を単純なバーニア効果を用いた実施形態2と比較して2倍に増大させることが可能となる。さらに、用いるファブリペローエタロンの数が半分になり、素子面積の縮小が可能である。さらには波長可変に必要な電力も半分になる。また、レーザ共振器内の光カプラの数は、実施形態1で5個、実施形態3で2個となり、光カプラによる光損失を低減できる。
【0043】
本実施形態では、2つのファブリペローエタロンを並列に2つの2×2光カプラに接続しているが、接続する光導波路の長さは二つのアーム導波路間で等しい。しかし、例えば長さL2のファブリペローエタロンと一方の2×2光カプラとの間に
【0044】
【数5】

【0045】
の長さLPhaseの光導波路を付与することで不等長としても透過光の位相差を用いた波長可変域の拡大効果が期待できる。ここで、L1、L2はそれぞれファブリペローエタロンの長さ、Kは正の整数である。
【0046】
本実施形態に係る半導体波長可変レーザ1300は、実施形態1及び2と同様に、ファブリペローエタロン部分にリッジ導波路構造を用いて作製することができるが、他にハイメサ導波路や、コア層の両横が半導体で埋め込まれた埋め込み型導波路やリブ型導波路なども考えられる。
【0047】
最後に、本実施形態では、InP系の化合物半導体を用いることができるが、GaAs系や石英系、あるいはSiとSiO2やポリイミドなどで構成されるシリコン細線導波路でも利得媒質を集積すれば同様に実現できる事を付記しておく。また、本実施形態では、電流注入による屈折率変化を用いることができるが、電圧や熱や圧力による屈折率変化を用いても、波長可変動作を得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
400 半導体波長可変レーザ
410 利得領域
420 フィルタ領域(「半導体波長可変フィルタ」に相当)
421 第1のMZI
422 第2のMZI
423 2×2光カプラ
424、425 高反射ミラー
430 位相調整領域
1300 半導体波長可変レーザ
1320 フィルタ領域(「半導体波長可変フィルタ」に相当)
1321 MZI
1322 高反射ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの2×2光カプラの間に2本のアーム導波路が接続され、
各アーム導波路は、
前記2つの2×2光カプラのうちの一方の2×2光カプラの出力ポートに接続された第1のミラーと、
前記第1のミラーと所定の長さの光導波路により接続され、前記2つの2×2光カプラのうちの他方の2×2光カプラの入力ポートに接続された第2のミラーと
を有するファブリペローエタロンを備え、
前記他方の2×2光カプラの出力ポートに高反射ミラーが設けられていることを特徴とする半導体波長可変フィルタ。
【請求項2】
前記2本のアーム導波路は、前記第1のミラーと前記第2のミラーを接続する前記光導波路の前記所定の長さが異なり、
前記一方の2×2光カプラと前記第1のミラーとを接続する光導波路、および、前記第2のミラーと前記他方の2×2光カプラを接続する光導波路の長さが等しいことを特徴とする請求項1記載の半導体波長可変フィルタ。
【請求項3】
第1及び第2の半導体波長可変フィルタが2×2光カブラに並列に接続され、
各半導体波長可変フィルタは、請求項1記載の半導体波長可変フィルタであって、前記2本のアーム導波路がそれぞれ備えるファブリペローエタロンの構造が同一であり、
前記第1の半導体波長可変フィルタにおいて、前記第1のミラーと前記第2のミラーとを接続する前記光導波路の前記所定の長さは第1の長さであり、
前記第2の半導体波長可変フィルタにおいて、前記第1のミラーと前記第2のミラーとを接続する前記光導波路の前記所定の長さは前記第1の長さと異なる第2の長さであることを特徴とする半導体波長可変フィルタ。
【請求項4】
第1及び第2の半導体波長可変フィルタが2×2光カブラに直列に接続され、
各半導体波長可変フィルタは、請求項1記載の半導体波長可変フィルタであって、前記2本のアーム導波路の構造が同一であり、
前記第1の半導体波長可変フィルタの前記他方の2×2光カプラの前記出力ポートは、高反射ミラーの代わりに前記第2の半導体波長可変フィルタの前記一方の2×2光カプラの入力ポートに接続されており、
前記第1の半導体波長可変フィルタにおいて、前記第1のミラーと前記第2のミラーとを接続する前記光導波路の前記所定の長さは第1の長さであり、
前記第2の半導体波長可変フィルタにおいて、前記第1のミラーと前記第2のミラーとを接続する前記光導波路の前記所定の長さは前記第1の長さと異なる第2の長さであることを特徴とする半導体波長可変フィルタ。
【請求項5】
利得領域と、
前記利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域と、
前記利得領域と前記フィルタ領域との間の位相調整領域と
を備える半導体波長可変レーザであって、
前記フィルタ領域は、請求項1から4のいずれかに記載の半導体波長可変フィルタで構成されていることを特徴とする半導体波長可変レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−15728(P2013−15728A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149399(P2011−149399)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】