説明

半導体熱処理治具の洗浄方法

【課題】汚染物質を良好に除去することができ、しかも半導体熱処理治具の表面荒れ等も防止した、半導体熱処理治具の洗浄方法を提供する。
【解決手段】シリコン基板を熱処理する際にこれを保持するために用いられる、シリコンからなる半導体熱処理治具の洗浄方法である。洗浄液として、弗酸の配合比が質量比で1%以上8%以下、硝酸の配合比が質量比で35%以上70%以下、水もしくは水と酢酸との混合物の配合比が質量比で30%以上60%以下に調製された、弗酸と硝酸と水もしくは水と酢酸との混合物との混合液を用い、この洗浄液によってシリコンからなる半導体熱処理治具をエッチングすることで、半導体熱処理治具を洗浄する洗浄工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体熱処理治具の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばLSIデバイス製造プロセスにおいては、半導体シリコン基板(シリコンウェーハ)には酸化や拡散、成膜などの各処理工程毎で、高温の熱処理が繰り返し施される。このような熱処理の際には、通常はこのシリコン基板を所望の状態に保持するため、サセプタやウエハボートなどの熱処理治具が用いられる。
【0003】
このような熱処理治具としては、これ自身が汚染の原因とならないよう、例えば高純度な炭化珪素質材料が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
ところが、熱処理温度が1100℃以上の高温になると、例えばシリコンとの熱膨張係数の違いからシリコンウェーハにスリップ転位を生じるため、熱処理治具としても、高純度なシリコンからなるものが用いられる。
【特許文献1】特開平8−78376号公報
【特許文献2】特開平5−243169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなシリコンからなる熱処理治具にあっては、例えば金属工具により研削などの加工させるために、金属汚染されてしまうことがある。そして、このように金属汚染された熱処理治具をシリコン基板の熱処理に用いた場合、特に高温で熱処理した際には汚染物質(汚染金属)が拡散しやすくなるため、汚染物質が熱処理しているシリコン基板側に移行し、これを汚染してしまうことがある。
【0005】
すると、この汚染されたシリコン基板上に作製された半導体装置は、その電気特性が著しく劣化してしまうことがある。そこで、シリコン基板の熱処理に用いる熱処理治具については、使用に先立って洗浄処理を行い、汚染物質を十分に除去しておく必要がある。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、汚染物質を良好に除去することができ、しかも半導体熱処理治具の表面荒れ等も防止した、半導体熱処理治具の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体熱処理治具の洗浄方法は、シリコン基板を熱処理する際にこれを保持するために用いられる、シリコンからなる半導体熱処理治具の洗浄方法であって、
洗浄液として、弗酸の配合比が質量比で1%以上8%以下、硝酸の配合比が質量比で35%以上70%以下、水の配合比が質量比で30%以上60%以下に調製された弗酸と硝酸と水との混合液を用い、この洗浄液によって前記のシリコンからなる半導体熱処理治具をエッチングすることで、該半導体熱処理治具を洗浄する洗浄工程を有することを特徴としている。
【0008】
この半導体熱処理治具の洗浄方法によれば、弗酸と硝酸と水との混合液を洗浄液として用いているので、硝酸によってシリコンからなる半導体熱処理治具の表面を酸化し、弗酸によって形成したシリコン酸化層を溶解・除去することを繰り返すことにより、半導体熱処理治具の表層部をエッチングすることができる。また、弗酸、硝酸、水を前記した適宜な配合比に規定したので、後述する実験結果に示すように、半導体熱処理治具の表面に荒れなどの異常を生じることなく、良好にエッチングすることができる。
【0009】
本発明の他の半導体熱処理治具の洗浄方法は、シリコン基板を熱処理する際にこれを保持するために用いられる、シリコンからなる半導体熱処理治具の洗浄方法であって、
洗浄液として、弗酸の配合比が質量比で1%以上8%以下、硝酸の配合比が質量比で35%以上70%以下、酢酸と水との混合物の配合比が質量比で30%以上60%以下に調製された弗酸と硝酸と酢酸と水との混合液を用い、この洗浄液によって前記のシリコンからなる半導体熱処理治具をエッチングすることで、該半導体熱処理治具を洗浄する洗浄工程を有することを特徴としている。
【0010】
この半導体熱処理治具の洗浄方法によれば、弗酸と硝酸と酢酸と水との混合液を洗浄液として用いているので、硝酸によってシリコンからなる半導体熱処理治具の表面を酸化し、弗酸によって形成したシリコン酸化層を溶解・除去することを繰り返すことにより、半導体熱処理治具の表層部をエッチングすることができる。また、弗酸、硝酸、酢酸と水との混合物を前記した適宜な配合比に規定したので、後述する実験結果に示すように、半導体熱処理治具の表面に荒れなどの異常を生じることなく、良好にエッチングすることができる。また、酢酸を加えることにより弗酸、硝酸と混ざりやすくなり、ムラなくエッチングすることができる。
【0011】
また、前記半導体熱処理治具の洗浄方法においては、前記洗浄工程の後、該半導体熱処理治具を、弗酸水溶液に浸漬する弗酸処理工程と、その後、該半導体熱処理治具を水でリンスするリンス工程とを有するのが好ましい。その場合に、前記弗酸水溶液の弗酸の濃度が、質量比で0.5%以上20%以下であるのが好ましい。
このようにすれば、洗浄工程で半導体熱処理治具の表面に酸化膜が形成されても、弗酸処理工程においてこの半導体熱処理治具を弗酸水溶液に浸漬することにより、酸化膜を除去することができるうえエッチング処理後の硝酸による酸化を抑えることができ、汚染の焼きつきやエッチングムラを無くすことができる。また、その後リンス工程において水でリンスすることにより、半導体熱処理治具の表面に残った弗酸成分等を除去することができる。
【0012】
また、前記半導体熱処理治具の洗浄方法においては、前記洗浄工程の前に、前記洗浄液を用いてダミーのシリコンを洗浄する、ダミー洗浄工程を有するのが好ましい。
このようにすれば、洗浄液中にダミーのシリコンを溶出させることで該洗浄液の初期のエッチング能を抑えることができる。したがって、半導体熱処理治具を該洗浄液に接触させた際、初期において急激なエッチングが起こり、これによってエッチングムラが生じるのを防止し、エッチング量を適正にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の半導体熱処理治具の洗浄方法にあっては、硝酸と弗酸との作用によって半導体熱処理治具の表層部をエッチングすることができ、これにより、例えば半導体熱処理治具の表層部に残存する汚染金属などの汚染物質を良好に除去することができる。また、弗酸、硝酸、水を適宜な配合比に規定し、あるいは、弗酸、硝酸、酢酸と水との混合物を適宜な配合比に規定したので、半導体熱処理治具の表面に荒れなどの異常を生じさせることなく、良好にエッチングすることができる。したがって、半導体熱処理治具の強度や精度を損なうことなく、これを良好に洗浄することができるため、半導体熱処理治具の破損やスリップ転位の起点となる凹凸ができることを防止して繰り返しによる長期使用を可能にし、コストの低減化を図ることができ、ウェーハの歩留まりを上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の半導体熱処理治具の洗浄方法を詳しく説明する。
本発明の洗浄方法の対象となる半導体熱処理治具(以下、熱処理治具と記す)としては、例えばLSIデバイス製造プロセスに供される半導体シリコン基板(シリコンウェーハ。以下、シリコン基板と記す。)を熱処理する際に、これを保持するのに用いられるシリコン製のもので、形態としては、サセプタやウエハボート、プロセスチューブ、容器など、シリコン基板に直接接触してこれを保持するものであれば、特に限定されることなく種々のものが適用可能である。
【0015】
シリコン治具によるシリコン基板の熱処理については、特に高温熱処理の際に用いられ、具体的には、1100℃以上の高温で熱処理される際に好適に用いられる。しかし、シリコン治具は研削などの加工により金属汚染されていることがしばしばある。このような金属汚染されたシリコン治具を前出のような高温で用いると、例えば半導体シリコン基板中に金属が熱拡散し、その上に作製された半導体装置の特性を劣化させてしまう。
【0016】
そこで、シリコン基板の熱処理に用いられる熱処理治具については、使用に先立って洗浄処理を行う。
すなわち、本発明はこのような洗浄処理に適用されるもので、シリコン製の熱処理治具中の汚染物質を除去するための方法である。本発明においては、第1の実施形態として、弗酸と硝酸と水との混合液からなる洗浄液(以下、第1の洗浄液と記す)を用いて熱処理治具の洗浄を行う。また、第2の実施形態として、弗酸と硝酸と酢酸と水との混合液からなる洗浄液(以下、第2の洗浄液と記す)を用いて熱処理治具の洗浄を行う。
【0017】
第1の洗浄液は、前記したように弗酸と硝酸と水との混合液からなるもので、特に弗酸の配合比が質量比で1%以上8%以下、硝酸の配合比が質量比で35%以上70%以下、水の配合比が質量比で30%以上60%以下に調製されたものである。また、第2の洗浄液は、前記したように弗酸と硝酸と酢酸と水との混合液からなるもので、特に弗酸の配合比が質量比で1%以上8%以下、硝酸の配合比が質量比で35%以上70%以下、酢酸と水との混合物の配合比が質量比で30%以上60%以下に調製されたものである。
【0018】
このような第1の洗浄液、第2の洗浄液にあっては、硝酸によってシリコンからなる熱処理治具の表面を酸化し、弗酸によって形成したシリコン酸化層を溶解することにより、このシリコン酸化膜を熱処理治具から除去することができる。したがって、このような酸化と溶解・除去とを繰り返すことにより、半導体熱処理治具の表層部をエッチングすることができる。すなわち、表層部に拡散された汚染金属等の汚染物質を、エッチングによって良好に除去することができる。
【0019】
ただし、このような酸化と溶解・除去とは、それぞれの反応速度が速くなり、エッチング速度が速くなると、熱処理治具の表面が荒れてしまったりエッチング速度が制御できないためにエッチングムラを引き起こす。すなわち、表面荒れが起こると、高温での熱処理の際に凹凸によりそこを起点としてスリップ転位が導入されやすくなる。また、エッチングムラは治具の寸法精度を狂わせ、ウェーハの機械搬送などに支障をきたす。
【0020】
そこで、本発明では、硝酸による酸化能、弗酸による溶解・除去能を制御し、これによって両者の作用に基づくエッチング能を制御することにより、エッチング速度を適正に制御するようにしている。すなわち、第1の洗浄液ではこれら硝酸、弗酸に水を加えて混合し、かつ、それぞれの配合比を所定比に調製することで、この第1の洗浄液によるエッチング速度を適正に制御している。また、第2の洗浄液ではこれら硝酸、弗酸に酢酸と水との混合液を加えて混合し、かつ、それぞれの配合比を所定比に調製することで、この第1の洗浄液によるエッチング速度を適正に制御している。
【0021】
エッチング速度を適正にするには、第1の洗浄液、あるいは第2の洗浄液において弗酸の配合比(混合比)を、質量比で全体の1%以上8%以下に調製する。1%未満にすると、エッチング速度が遅くなり過ぎてエッチングが進みにくくなり、洗浄工程に要する時間が長くなって生産性が損なわれるからである。また、8%を超えると、エッチング速度が速くなり過ぎて前述したように熱処理治具に表面荒れが起き易くなってしまうからである。したがって、弗酸の配合比(混合比)を1%以上8%以下に調製する必要があり、特に4%程度にするのが好ましい。
【0022】
また、硝酸の配合比(混合比)については、質量比で全体の35%以上70%以下に調製する。35%未満であると、酸化反応が抑えられる分エッチング速度も進みにくくなり、洗浄工程に要する時間が長くなって生産性が損なわれるからである。また、70%を超えると、酸化反応が速くなる分エッチング速度も速くなり、前述したように熱処理治具に表面荒れが起き易くなってしまうからである。したがって、硝酸の配合比(混合比)を1%以上8%以下に調製する必要があり、特に45%程度にするのが好ましい。
【0023】
なお、これら弗酸や硝酸は、洗浄液の調製に際しては、弗酸水溶液、硝酸水溶液として、用いられ、混合される。すなわち、一般に市販される試薬などの形態で用いられ、混合されて洗浄液に調製される。
そして、これら弗酸水溶液中、および硝酸水溶液中の水は、第1の洗浄液を構成する水、あるいは第2の洗浄液を構成する水となる。
【0024】
第1の洗浄液においては、弗酸、硝酸の他に水が配合される。水は、前記したように弗酸や硝酸を溶解することでこれらを水溶液とし、これによって洗浄液の作製(調製)を容易にするとともに、弗酸、硝酸を薄めることで、これらの溶解・除去能や酸化能を抑え、エッチング速度を適正範囲に抑えるためのものである。このような水の、第1の洗浄液における配合比(混合比)については、質量比で全体の30%以上60%以下に調製される。30%未満であると、エッチング速度が速くなってしまい、熱処理治具に表面荒れが起きやすくなってしまうからである。また、60%を超えると、弗酸、硝酸によるエッチング能が低下することで、洗浄処理後の熱処理治具に部分的に集中した状態で汚染物質が残留してしまうおそれがあるからである。したがって、水の配合比(混合比)を30%以上60%以下に調製する必要があり、特に50%程度にするのが好ましい。
【0025】
一方、第2の洗浄液においては、弗酸、硝酸の他に、酢酸と水との混合物が配合される。すなわち、この第2の洗浄液では、弗酸水溶液と硝酸水溶液に対して酢酸水溶液が加えられ、さらに必要に応じて水が加えられることにより、弗酸、硝酸、酢酸、水の4成分系の洗浄液が形成される。酢酸と水は、第1の洗浄液における水と同様に、弗酸、硝酸を薄めることで、これらの溶解・除去能や酸化能を抑え、エッチング速度を適正範囲に抑えるためのものである。このような酢酸と水との混合物の、第2の洗浄液における配合比(混合比)については、質量比で全体の30%以上60%以下に調製される。30%未満であると、エッチング速度が速くなってしまい、熱処理治具に表面荒れが起きやすくなってしまうからである。また、60%を超えると、弗酸、硝酸によるエッチング能が低下することで、洗浄処理後の熱処理治具に部分的に集中した状態で汚染物質が残留してしまうおそれがあるからである。したがって、酢酸と水との混合物の配合比(混合比)を30%以上60%以下に調製する必要があり、特に50%程度にするのが好ましい。
【0026】
なお、第1の洗浄液については、前記の弗酸、硝酸、水の3成分以外にも、エッチング能に影響を与えない範囲で水と同等の機能を有するものや、意図しない不純物などが入っていてもよい。同様に、第2の洗浄液についても、前記の弗酸、硝酸、酢酸、水の4成分以外に、エッチング能に影響を与えない範囲で酢酸や水と同等の機能を有するものや、意図しない不純物などが入っていてもよい。また、水については、当然ながら純水を用いるのが好ましい。
【0027】
本発明の洗浄方法では、このような第1あるいは第2の洗浄液を用い、シリコンからなる熱処理治具をエッチングすることで、これを洗浄する(洗浄工程)。具体的には、洗浄液を入れた処理槽中に熱処理治具を浸漬し、所定時間経過後、引き上げる。すると、前述したように硝酸の酸化能、弗酸による溶解・除去能により、熱処理治具の表層部が良好にエッチングされる。また、弗酸、硝酸、水、あるいは弗酸、硝酸、酢酸、水を適宜な配合比に規定し調製しているで、熱処理治具の表面に荒れなどの異常を生じることなく、良好にエッチングされる。
【0028】
なお、処理槽中の前記洗浄液については、撹拌機などを用いて十分に混合しておくのが好ましく、処理中においても、撹拌・混合を行うのが好ましい。
また、洗浄液の温度については、常温(例えば20℃)から70℃程度の範囲に調製しておくのが好ましい。常温より低温にすれば、エッチング速度を抑えることはできるものの、冷却が必要となり、コストアップを招いてしまうからである。また、70℃を超えると、酸化や溶解・除去の反応が活性化され、エッチングムラを生じるおそれがあるからである。
【0029】
また、洗浄時間(浸漬時間)については、熱処理治具の汚染の度合いや、洗浄液の弗酸や硝酸の濃度(混合比)によっても異なるものの、5分〜20分程度、好ましくは10分程度とされる。このような時間で行えば、比較的時間管理が容易であり、かつ、生産性も良好になるからである。なお、洗浄液の各薬液(弗酸、硝酸)の濃度(配合比)からシリコンに対するエッチング速度を実験やシミュレーション等によって予め求めておき、熱処理治具の汚染の度合から、この熱処理治具をどの程度の深さまでエッチングするかを決定し、このエッチング深さに基づいて洗浄時間を決定するのが好ましい。
【0030】
ただし、本発明では、このような洗浄工程に先立ち、この洗浄工程に用いる洗浄液を用いて、ダミー洗浄処理を行うのが好ましい。このダミー洗浄処理を行うダミー洗浄工程は、具体的には、熱処理治具のダミーとなるシリコン、例えばシリコン基板やこれを適宜な形状・大きさに切断したシリコンブロックを、前記洗浄液中に所定時間浸漬し、その後引き上げることで行う。なお、このダミーのシリコンについては、汚染のおそれがない純度の高いものを用いる。
【0031】
このようなダミー洗浄処理を行うと、洗浄処理に用いていない純粋な洗浄液中にシリコンを溶出させることで、該洗浄液の初期のエッチング能を抑えることができる。したがって、前記の洗浄工程において熱処理治具を該洗浄液に接触させた際、初期において急激なエッチングが起こり、これによってエッチングムラが生じるのを防止し、エッチング量を適正にすることができる。
【0032】
このダミー洗浄処理における、ダミーのシリコンの浸漬時間としては、洗浄液の量やダミーの大きさによっても異なるものの、5分〜30分程度、好ましくは15分程度とされる。このような時間で行えば、比較的時間管理が容易であり、かつ、生産性も良好になるからである。
【0033】
また、本発明では、前記の洗浄工程の後、処理後の熱処理治具を、弗酸処理工程において弗酸水溶液に浸漬するのが好ましい。このように弗酸水溶液に浸漬することにより、前記の洗浄工程で熱処理治具の表面に酸化膜が形成され、それが残っていても、弗酸水溶液で酸化膜を除去し、純粋なシリコン面を露出させることができるうえ、汚染の焼きつきやエッチングムラを無くすことができる。
【0034】
ここで、この弗酸処理工程に用いる弗酸水溶液としては、弗酸の濃度が、質量比で0.5%以上20%以下のものを用いるのが好ましい。0.5%未満では、酸化膜の溶解・除去能が低く、処理に比較的長い時間を要することで、生産性が低下する。また、20%を超えると、溶解・除去能が高くなり過ぎ、エッチングムラを生じるおそれがあるからである。
【0035】
そして、このような弗酸処理工程を終了したら、続いて、処理後の熱処理治具をリンス工程において水でリンスするのが好ましい。このリンス工程においては、水として、当然ながら半導体プロセスで一般的に用いられる純水を用いる。処理の形態としては、例えば純水を入れた処理槽中に浸漬し、さらに処理槽中の純水をオーバーフローさせることで行う。また、純水をシャワー状に噴出させ、これで熱処理治具をリンス処理するようにしてもよい。処理時間については、熱処理治具に弗酸や弗酸処理工程で生じた塩などが残留しないよう、これらを確実に除去できるように十分な長さ(例えば1時間程度)で行う。
【0036】
このように水(純水)でリンスすることにより、熱処理治具の表面に残った弗酸成分等を除去することができる。
なお、本発明の洗浄方法においては、洗浄工程後、熱処理治具にほとんど酸化膜が残らない場合には、前記の弗酸処理工程を省略することができる。ただし、その場合にも、洗浄工程によって熱処理治具表面に洗浄液が残留するため、この洗浄工程後にリンス工程を行うのが好ましい。
また、洗浄工程で使用する洗浄液については、前記のダミー洗浄処理を行う以外は、汚染物質が入り込むのを防止するため、別の処理に供することなく、調製後の純粋な状態で用いるのが望ましい。
【0037】
このように本発明の熱処理治具の洗浄方法にあっては、硝酸と弗酸との作用によって半導体熱処理治具の表層部をエッチングすることができ、これにより、例えば熱処理治具の表層部に拡散した汚染金属などの汚染物質を良好に除去することができる。したがって、このような洗浄を行った熱処理治具によれば、これを用いてシリコン基板を熱処理した際、汚染物質を拡散してシリコン基板を汚染してしまうおそれがなく、よって、汚染物質に起因する特性低下を防止することができる。
【0038】
また、弗酸、硝酸、水を適宜な配合比に規定し、あるいは、弗酸、硝酸、酢酸と水との混合物を適宜な配合比に規定したので、熱処理治具の表面に荒れなどの異常を生じさせることなく、良好にエッチングすることができる。したがって、熱処理治具の強度を損なうことなく、これを良好に洗浄することができるため、熱処理治具の破損やスリップ転位の起点となる凹凸ができることを防止して繰り返しによる長期使用を可能にし、コストの低減化を図ることができ、ウェーハの歩留まりを上げることができる。
【0039】
[実験例]
次に、熱処理に供した後のシリコン製の熱処理治具を、本発明に係る洗浄液を用いて以下のように洗浄処理した。
【0040】
(実施例1)
純水30L(リットル)と、質量比で50%の弗酸7Lと、質量比で70%の硝酸70Lと、を処理槽内にて混合した。各薬液の濃度から、この混合液の各成分比(配合比)は、質量比で弗酸が3%、硝酸が46%、水が51%となり、本発明における前記第1の洗浄液となった。
このようにして調製した洗浄液を前記処理槽内にてよく撹拌し混合した後、この洗浄液中にダミーのシリコンを浸漬した。そして、その状態で15分間放置した後、このダミーのシリコンを洗浄液中から取り出した(ダミー洗浄工程)。
【0041】
続いて、前記の熱処理治具を前記洗浄液中に浸漬し、10分間放置して洗浄処理(エッチング処理)を行った(洗浄工程)。ここでは、エッチング深さを30μmに想定し、処理時間(エッチング時間)を決定した。なお、この洗浄処理中、洗浄液については攪拌機によって撹拌・混合を行った。また、洗浄液の温度については、常温(約20℃)で行った。
【0042】
洗浄処理後、洗浄液からすばやく熱処理治具を引き上げ、別に用意した弗酸水溶液(質量比で弗酸の濃度が2.5%)中に10分間浸漬した(弗酸処理工程)。その後、弗酸水溶液中から熱処理治具を引き上げ、別に用意した処理槽中の純水中に浸漬し、1時間放置した。この処理槽では、純水をオーバーフローさせつつ、熱処理治具を純水でリンスした(リンス工程)。その後、純水中から熱処理治具を引き上げ、クリーン度の高い場所で自然乾燥させた。
このようにして洗浄・乾燥を行った熱処理治具について、その汚染の状態と外観とを調べた。
【0043】
(実施例2)
酢酸30L(リットル)と、質量比で50%の弗酸4Lと、質量比で70%の硝酸40Lと、を処理槽内にて混合した。各薬液の濃度から、この混合液の各成分比(配合比)は、質量比で弗酸が3%、硝酸が38%、酢酸と水との混合物が60%となり、本発明における前記第2の洗浄液となった。
このようにして洗浄液を調製したら、以下、前記の実施例1と同様にしてダミー洗浄工程、洗浄工程、弗酸処理工程、リンス工程を順次行い、さらに乾燥した。
このようにして洗浄・乾燥を行った熱処理治具について、その汚染の状態と外観とを実施例1と同様にして調べた。
【0044】
(比較例1)
質量比で50%の弗酸16Lと、質量比で70%の硝酸64Lと、を処理槽内にて混合した。各薬液の濃度から、この混合液の各成分比(配合比)は、質量比で弗酸が10%、硝酸が56%、水が34%となり、弗酸の配合比(濃度)が、本発明における前記第1の洗浄液の基準を満たしていないものとなった。
このようにして洗浄液を調製したら、以下、前記の実施例1と同様にしてダミー洗浄工程、洗浄工程、弗酸処理工程、リンス工程を順次行い、さらに乾燥した。
このようにして洗浄・乾燥を行った熱処理治具について、その汚染の状態と外観とを実施例1と同様にして調べた。
【0045】
(比較例2)
純水60Lと、質量比で50%の弗酸2Lと、質量比で70%の硝酸20Lと、を処理槽内にて混合した。各薬液の濃度から、この混合液の各成分比(配合比)は、質量比で弗酸が1%、硝酸が17%、水が82%となり、水と硝酸の配合比(濃度)が、本発明における前記第1の洗浄液の基準を満たしていないものとなった。
このようにして洗浄液を調製したら、以下、前記の実施例1と同様にしてダミー洗浄工程、洗浄工程、弗酸処理工程、リンス工程を順次行い、さらに乾燥した。
このようにして洗浄・乾燥を行った熱処理治具について、その汚染の状態と外観とを実施例1と同様にして調べた。
【0046】
(比較例3)
純水40Lと、質量比で50%の弗酸4Lと、質量比で40%の硝酸20Lと、を処理槽内にて混合した。各薬液の濃度から、この混合液の各成分比(配合比)は、質量比で弗酸が2%、硝酸が34%、水が64%となり、水と硝酸の配合比(濃度)が、本発明における前記第1の洗浄液の基準を満たしていないものとなった。
このようにして洗浄液を調製したら、以下、前記の実施例1と同様にしてダミー洗浄工程、洗浄工程、弗酸処理工程、リンス工程を順次行い、さらに乾燥した。
このようにして洗浄・乾燥を行った熱処理治具について、その汚染の状態と外観とを実施例1と同様にして調べた。
【0047】
(比較例4)
前記の熱処理後の熱処理治具を、洗浄処理することなく、そのまま汚染の状態と外観とを実施例1と同様にして調べた。
【0048】
洗浄・乾燥後の熱処理治具の、汚染の状態と外観を調べた結果を以下に示す。
実施例1; 汚染量 <1 、 外観 問題なし
実施例2; 汚染量 <1 、 外観 問題なし
比較例1; 汚染量 <1 、 外観 エッチングムラ有り
比較例2; 汚染量 100 、 外観 問題なし
比較例3; 汚染量 30 、 外観 色ムラ有り
比較例4; 汚染量 100 、 外観 問題なし
【0049】
以上の結果より、本発明の実施例1、実施例2は、熱処理後汚染量が100の熱処理治具(比較例4)を、汚染量を1未満(<1)にまで洗浄(エッチング)することができ、さらに、外観についても、表面荒れ等の問題がなく、良好に洗浄できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を熱処理する際にこれを保持するために用いられる、シリコンからなる半導体熱処理治具の洗浄方法であって、
洗浄液として、弗酸の配合比が質量比で1%以上8%以下、硝酸の配合比が質量比で35%以上70%以下、水の配合比が質量比で30%以上60%以下に調製された弗酸と硝酸と水との混合液を用い、この洗浄液によって前記のシリコンからなる半導体熱処理治具をエッチングすることで、該半導体熱処理治具を洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする半導体熱処理治具の洗浄方法。
【請求項2】
シリコン基板を熱処理する際にこれを保持するために用いられる、シリコンからなる半導体熱処理治具の洗浄方法であって、
洗浄液として、弗酸の配合比が質量比で1%以上8%以下、硝酸の配合比が質量比で35%以上70%以下、酢酸と水との混合物の配合比が質量比で30%以上60%以下に調製された弗酸と硝酸と酢酸と水との混合液を用い、この洗浄液によって前記のシリコンからなる半導体熱処理治具をエッチングすることで、該半導体熱処理治具を洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする半導体熱処理治具の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄工程の後に、該半導体熱処理治具を、弗酸水溶液に浸漬する弗酸処理工程と、その後、該半導体熱処理治具を水でリンスするリンス工程とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体熱処理治具の洗浄方法。
【請求項4】
前記弗酸水溶液の弗酸の濃度が、質量比で0.5%以上20%以下であることを特徴とする請求項3記載の半導体熱処理治具の洗浄方法。
【請求項5】
前記洗浄工程の前に、前記洗浄液を用いてダミーのシリコンを洗浄する、ダミー洗浄工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体熱処理治具の洗浄方法。

【公開番号】特開2010−73729(P2010−73729A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236410(P2008−236410)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】