説明

半導体発光素子

【課題】遠視野像の水平方向における光強度分布形状を単峰化することができる半導体発光素子を提供する。
【解決手段】発光層を有する半導体発光素子100であって、発光層からの第一の光を出射する第一の光出射面131aおよび発光層からの光を反射する後端面100bを両端とする第一の光導波路121と、発光層からの第二の光を出射する第二の光出射面141aおよび後端面100bを両端とする第二の光導波路122とを備え、第一の光導波路121と第二の光導波路122とは、後端面100bで接続されており、第一の光出射面131aと第二の光出射面141aとは、第一の光の光軸と第二の光の光軸とが近づくように、互いに非平行である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関し、特に、青紫から赤色までの可視光領域における発光を伴うスーパールミネッセントダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクタなどのディスプレイ用の水銀レスの高輝度光源として、半導体レーザ(LD:Laser Diode)やスーパールミネッセントダイオード(SLD:Super Luminescent Diode)などの半導体発光素子が注目されている。
【0003】
その中で半導体レーザは、高輝度であり出射光の指向性が優れているという特長を有するが、出射光であるレーザ光が可干渉光(コヒーレント光)であるため、スクリーン面で乱反射した光が干渉して生じるスペックルノイズが問題となる。一方、このようなスペックルノイズがない光源として、出射光が非可干渉光(インコヒーレント光)であるLED(Light Emitting Diode)が挙げられる。しかしながら、プロジェクタなどの光源にLEDを用いた場合、出射光の指向性が低いため、ディスプレイを構成する光学系における結合効率が低く、その結果、ディスプレイの輝度が低くなってしまうという課題を有する。
【0004】
このような課題に対し、指向性および低コヒーレント性の両方を持つ光源として例えばSLDのような半導体発光素子がある。SLDは、LDと同様に光導波路を用いた半導体発光素子であるが、出射端面の反射率を大きく下げることでレーザ発振を抑制し、低コヒーレント光と高指向性の両立を実現する。さらに、半導体発光素子をディスプレイの光源に用いた場合、画面を高輝度化するために、光源である半導体発光素子の高出力化も必要となる。
【0005】
このような低コヒーレントで高出力を実現する半導体発光素子の構造が、例えば特許文献1に提案されている。以下、図15を用いて従来の半導体発光素子の構造について説明する。
【0006】
図15に示すように、従来の半導体発光素子900は、前端面900aと後端面900bとに接続された第一の光導波路921および第二の光導波路922を有している。第一の光導波路921および第二の光導波路922は、後端面900bにおいて互いに接続されており、後端面900bから前端面900aに向かって互いの間隔が拡がるように構成されている。
【0007】
また、後端面900bには反射膜950が形成されており、当該反射膜950によって第一の光導波路921および第二の光導波路922を導波する光が反射される。一方、前端面900aは、第一の光導波路921の光出射面および第二の光導波路922の光出射面となっており、光出射面である前端面900aからは、第一の光導波路921および第二の光導波路922において増幅されて出力が高く低コヒーレントの光が出射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−238843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の半導体発光素子900の構成では、以下のような問題がある。
【0010】
従来の半導体発光素子900では、第一の光導波路921および第二の光導波路922が前端面900aに対して互いに拡がる方向で接続されるため、それぞれの光導波路から出射される出射光の出射方向が異なり、それぞれの出射光は互いに拡がる方向に出射する。また、光導波路の実効屈折率と光導波路の出射側(外部)の屈折率との間には屈折率差があるので、上記の出射方向の拡がりは拡大する。その結果、出射光の遠視野像(FFP:Far Field Patarn)の水平方向における光強度分布に、2つの光強度ピークが生じるという問題がある。
【0011】
また、光出射端面(前端面)の反射率が面内においてばらつくと、第一の光導波路における光出射面と第二の光導波路における光出射面において反射率に差が生じ、2つの出射光の光強度ピークに差が発生する。その結果、例えば、半導体発光素子を量産した場合、個々の半導体発光素子におけるFFPの光強度分布形状が大きくばらつくという問題がある。
【0012】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、遠視野像の水平方向における光強度分布形状を単峰化することができる半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の半導体発光素子の一態様は、発光層を有する半導体発光素子であって、前記発光層からの第一の光を出射する第一の光出射面および前記発光層からの光を反射する後端面を両端とする第一の光導波路と、前記発光層からの第二の光を出射する第二の光出射面および前記後端面を両端とする第二の光導波路とを備え、前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは、前記後端面で接続されており、前記第一の光出射面と前記第二の光出射面とは、前記第一の光の光軸と前記第二の光の光軸とが近づくように、互いに非平行となるように構成されたものである。
【0014】
この構成により、第一の光出射面から出射する第一の光と、第二の光端面から出射する第二の光とのなす角が小さくなるように制御することができるので、半導体発光素子全体としての出射光の遠視野像の水平方向における光分布を単峰性とすることができる。
【0015】
さらに、本発明に係る第1の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光出射面の垂線と前記第一の光導波路とがなす鋭角をφ1とし、前記第二の光出射面の垂線と前記第二の光導波路とがなす鋭角をφ2とし、前記第一の光出射面と前記第二の光出射面とがなす角をγとし、前記第一の光導波路と前記第二の光導波路との実効屈折率をnとし、前記半導体発光素子の外部における屈折率をnとし、前記第一の光出射面から出射する前記第一の光における水平方向の遠視野像の半値全幅をω1とし、前記第二の光出射面から出射する前記第二の光における水平方向の遠視野像の半値全幅をω2とすると、
【数1】


の関係を満たすことが好ましい。
【0016】
この構成により、第一の光出射面から出射する第一の光と第二の光端面から出射する第二の光とのなす鋭角が、それぞれの端面から出射する光の回折による水平方向の拡がり角度よりも小さくなる。これにより、水平方向の遠視野像を単峰化することができる。
【0017】
さらに、本発明に係る第1の半導体発光素子の一態様において、前記後端面における前記第一の光導波路と前記第二の光導波路との接続部が、前記後端面の垂線に対して線対称であることが好ましい。
【0018】
この構成により、第一の光導波路で生成された光のうち後端面に到達したものは、当該後端面で反射されて第二の光導波路に入り、第二の光導波路で光利得を受け増幅されたのちに第二の光出射面から放射される。また、第二の光導波路で生成された光のうち後端面に到達したものは、当該後端面で反射されて第一の光導波路に入り、第一の光導波路で光利得を受け増幅されたのちに第一の光出射面から放射される。これにより、光の増幅長を共振器長の2倍にすることができる。
【0019】
さらに、本発明に係る第1の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは、それぞれ直線状に形成されていることが好ましい。
【0020】
この構成により、光導波路を進行する光が進行方向から曲げられることによって生じる放射ロスを無くすことができる。
【0021】
さらに、本発明に係る第1の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光導波路と前記第二の光導波路の少なくとも一方が曲線部を有しており、前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは交差しないことが好ましい。
【0022】
この構成により、光導波路内に分岐点がなくなるため、光導波路の分岐点で生じる光のロスを無くすことができる。
【0023】
さらに、本発明に係る第1の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光出射面および前記第二の光出射面の少なくとも一方がへき開面であることが好ましい。
【0024】
これにより、へき開によって光出射面を形成することができる。
【0025】
さらに、本発明に係る第1の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光出射面および前記第二の光出射面の少なくとも一方は、溝部によって形成されることが好ましい。
【0026】
これにより、前端面に対して傾斜する光出射面を容易に形成することができる。
【0027】
また、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様は、発光層を有する半導体発光素子であって、前記発光層からの第一の光を出射する第一の光出射面および前記発光層からの光を反射する後端面を両端とする第一の光導波路と、前記発光層からの第二の光を出射する第二の光出射面および前記後端面を両端とする第二の光導波路とを備え、前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは、前記後端面で接続されており、前記第一の光出射面と前記第二の光出射面とは平行であり、前記第一の光出射面の垂線と前記第一の光導波路とがなす鋭角をφ1とし、前記第二の光出射面の垂線と前記第二の光導波路とがなす鋭角をφ2とし、前記第一の光導波路と前記第二の光導波路との実効屈折率をnとし、前記半導体発光素子の外部における屈折率をnとし、前記第一の光出射面から出射する前記第一の光における水平方向の遠視野像の半値全幅をω1とし、前記第二の光出射面から出射する前記第二の光における水平方向の遠視野像の半値全幅をω2とすると、
【数2】


の関係を満たすものである。
【0028】
この構成により、第一の光出射面から出射する第一の光と第二の光端面から出射する第二の光のなす鋭角が、それぞれの端面から出射する光の回折による水平方向の拡がり角度よりも小さくなる。これにより、水平方向の遠視野像を単峰化することができる。
【0029】
さらに、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様において、前記後端面における前記第一の光導波路と前記第二の光導波路との接続部が、前記後端面の垂線に対して線対称であることが好ましい。
【0030】
この構成により、第一の光導波路で生成された光のうち後端面に到達したものは、当該後端面で反射されて第二の光導波路に入り、第二の光導波路で光利得を受け増幅されたのちに第二の光出射面から放射される。また、第二の光導波路で生成された光のうち後端面に到達したものは、当該後端面で反射されて第一の光導波路に入り、第一の光導波路で光利得を受け増幅されたのちに第一の光出射面から放射される。これにより、光の増幅長を共振器長の2倍にすることができる。
【0031】
さらに、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光導波路および前記第二の光導波路の少なくとも一方は、曲線部を有することが好ましい。
【0032】
この構成により、チップ幅を縮小させることができる。
【0033】
さらに、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは、前記後端面の垂線に対して線対称であることが好ましい。
【0034】
これにより、高効率でレーザ光を生成することができる。
【0035】
さらに、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光導波路および前記第二の光導波路の少なくとも一方が、折れ曲がり部を有することが好ましい。
【0036】
これにより、第一の光出射面から出射する第一の光の光軸と第二の光出射面から出射する第二の光の光軸とを容易に近づけることができる。
【0037】
さらに、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様において、前記折れ曲がり部は、光を反射する光反射面に接続されていることが好ましい。
【0038】
この構成により、光導波路で生成された光子のうち折れ曲がり部に到達したものは、光反射面で反射して再び当該導波路に戻り、光利得を受けて増幅することができる。
【0039】
さらに、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様において、前記光反射面は、前記折れ曲がり部の近傍に形成される溝部によって形成されることが好ましい。
【0040】
これにより、容易に光反射面を形成することができる。
【0041】
さらに、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様において、前記折れ曲がり部を有する方の光導波路は、当該折れ曲がり部を境界として光出射側の第一直線部と前記後端面側の第二直線部とを有し、前記光反射面の垂線と前記第二直線部とがなす鋭角は、arcsin(n/n)よりも大きいことが好ましい。
【0042】
この構成により、光反射面を全反射面とすることができるので、反射率を限りなく100%に近づけることができる。このため、光反射面に対して高反射率の半導体層などを作製するプロセスが不要となり、端面形成の製造コストを下げることができる。
【0043】
さらに、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光出射面および前記第二の光出射面の少なくとも一方がへき開面であることが好ましい。
【0044】
これにより、へき開によって光出射面を形成することができる。
【0045】
さらに、本発明に係る第2の半導体発光素子の一態様において、前記第一の光出射面および前記第二の光出射面の少なくとも一方は、溝部によって形成されることが好ましい。
【0046】
これにより、前端面に対して傾斜する光出射面を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る半導体発光素子によれば、半導体発光素子の出射光の水平方向の遠視野像を単峰化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子の上面図であり、図1(b)は、同半導体発光素子の斜視図であり、図1(c)は、図1(a)のA−A’線における同半導体発光素子の断面図である。
【図2】図2(a)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子の動作時における上面図であり、図2(b)は、遠視野像の水平方向における光強度分布が単峰性となっている状態を表した図であり、図2(c)は、遠視野像の水平方向における光強度分布が非単峰性となっている状態を表した図である。
【図3】図3(a)〜図3(f)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法であって、図3(a)は、基板上に積層構造体を形成する工程を説明するための図であり、図3(b)は、光導波路形成工程を説明するための図であり、図3(c)は、溝形成工程を説明するための図であり、図3(d)は、一次分離(一次へき開)工程を説明するための図であり、図3(e)は、高反射率層形成工程を説明するための図であり、図3(f)は、二次分離(二次へき開)工程を説明するための図である。
【図4】図4(a)は、本発明の第1の実施形態の実施例1に係る半導体発光素子の設計に必要なパラメータを説明するための図であり、図4(b)は、同半導体発光素子におけるパラメータの好適な範囲を説明するための図である。
【図5】図5(a)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子の実施例における水平方向の遠視野像の評価特性を示す図であり、図5(b)は、比較例1に係る半導体発光素子における水平方向の遠視野像の評価特性を示す図であり、図5(c)は、比較例2に係る半導体発光素子における水平方向の遠視野像の評価特性を示す図であり、図5(d)は、比較例3に係る半導体発光素子における水平方向の遠視野像の評価特性を示す図である。
【図6】図6は、本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子の上面図である。
【図7】図7は、本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子におけるパラメータの好適な範囲を説明するための図である。
【図8】図8は、本発明に係る半導体発光素子において、導波光が傾斜端面で反射されるときにおける、光導波路に対する反射率と傾斜端面の傾斜角度との依存性を理論計算したときの結果を示す図である。
【図9】図9は、本発明の第2の実施形態の変形例1に係る半導体発光素子の上面図である。
【図10】図10は、本発明の第2の実施形態の変形例2に係る半導体発光素子の上面図である。
【図11】図11は、本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子の上面図である。
【図12】図12(a)〜図12(e)は、本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法であって、図12(a)は、光導波路形成工程を説明するための図であり、図12(b)は、溝形成工程を説明するための図であり、図12(c)は、一次分離(一次へき開)工程を説明するための図であり、図12(d)は、高反射率層形成工程を説明するための図であり、図12(e)は、二次分離(二次へき開)工程を説明するための図である。
【図13】図13は、本発明の第3の実施形態の変形例に係る半導体発光素子の上面図である。
【図14】図14は、本発明の第4の実施形態に係る半導体発光素子の上面図である。
【図15】図15は、従来の半導体発光素子の構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施形態に係る半導体発光素子について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す各実施形態は一例であって、本発明はこれらの実施形態には限定されない。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な構成要素については、説明を省略または簡略化する。
【0050】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100について、図1を用いて説明する。図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100の上面図であり、図1(b)は、同半導体発光素子100の斜視図であり、図1(c)は、図1(a)のA−A’線における同半導体発光素子100の断面図である。
【0051】
図1(a)および図1(b)に示すように、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100は、発光層からの光を取り出す側のへき開端面である前端面100aと、前端面100aとは反対側のへき開端面である後端面100bとを有するSLDであって、例えばリッジストライプで構成された第一の光導波路121および第二の光導波路122の2つの光導波路を有する。なお、後端面100bは、発光層からの光を反射するように構成されており、後端面100bには、例えば誘電体多層膜からなる反射率が90%以上の高反射率層150が形成されている。
【0052】
第一の光導波路121は、発光層からの第一の光を出射する第一の光出射面131aと後端面100bとを両端とする全体が直線状の光導波路であり、また、第二の光導波路122は、発光層からの第二の光を出射する第二の光出射面141aと後端面100bとを両端とする全体が直線状の光導波路である。
【0053】
第一の光導波路121と第二の光導波路122とは一箇所で接続されており、その接続部は後端面100bにも接している。すなわち、本実施形態では、第一の光導波路121の後端面側の一端部と第二の光導波路122の後端面側の一端部とは、後端面100bにおいて接続されている。また、第一の光導波路121の前端面側の他端部と第二の光導波路122の前端面側の他端部とは接続されておらず、第一の光導波路121および第二の光導波路122は、それぞれ前端面100aとは非平行に形成された第一の光出射面131aおよび第二の光出射面141aに接続されている。なお、第一の光導波路121と第二の光導波路122とは、接続部が形成された後端面100bから前端面100aに向かってお互いの間隔が拡がるようにして形成されている。
【0054】
また、本実施形態に係る半導体発光素子100においては、前端面100aの近傍における第一の光導波路121を切り欠くようにして第一の溝部131が形成されており、これにより、第一の光出射面131aが形成されている。同様に、前端面100aの近傍における第二の光導波路122を切り欠くようにして第二の溝部141が形成されており、これにより、第二の光出射面141aを形成している。第一の溝部131および第二の溝部141は、第一の光出射面131aおよび第二の光出射面141aが前端面100aに対して傾斜するようにして形成される。さらに、本実施形態では、後端面100b近傍を切り欠くようにして第三の溝部132および第四の溝部142が形成されている。なお、第三の溝部132および第四の溝部142には、後端面100bから前端面100aに向かう方向に高反射率層150が積層されている。
【0055】
このように、本実施形態に係る半導体発光素子100では、第一の光出射面131aと第二の光出射面141aとは、第一の光出射面131aから出射する第一の光の主軸(光軸)と第二の光出射面141aから出射する第二の光の主軸(光軸)とが近づいて平行となるように前端面100aに対して傾斜させて互いに非平行に形成されている。
【0056】
なお、後述するように、前端面側の第一の溝部131と後端面側の第三の溝部132とは、素子分離前における隣り合う素子の隣接部分に対して1つの凹部を形成する際に同時に形成される。同様に、第二の溝部141と第四の溝部142とは、素子分離前における隣り合う素子の隣接部分に対して1つの凹部を形成する際に同時に形成される。
【0057】
また、第一の光導波路121および第二の光導波路122を形成して素子を分離する際に、隣りの素子の光導波路が当該素子に残り、光導波路残部123として前端面100a付近の表面に形成される。
【0058】
これら、第三の溝部132、第四の溝部142および光導波路残部123は、半導体発光素子100の機能構成ではないので、半導体発光素子100の機能構成である第一の光導波路121、第二の光導波路122、第一の溝部131および第二の溝部141に対して、これらの機能構成とは異なる場所に配置されるように設計される。
【0059】
次に、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100の積層方向の構造について、図1(c)を用いて説明する。
【0060】
図1(c)に示すように、本実施形態に係る半導体発光素子100は、例えばGaNもしくはサファイアなどの基板101の上に、例えばSiをドープしたGaNからなるバッファ層(図示せず)、例えばSiをドープしたAlGaN層からなるn型クラッド層102、例えばSiをドープしたGaN層からなるn型ガイド層103、例えばGaN量子バリア層とInGaN量子井戸層とが交互に3層積層された活性層(発光層)104、例えばMgがドープされたGaNからなるp型ガイド層105、例えばMgがドープされたAlGaN層からなるキャリアオーバフロー抑制層(OFS層)106、例えばMgがドープされたAlGaN層からなるp型クラッド層107、および、例えばMgがドープされたp型GaNコンタクト層(図示せず)が、順次積層されて形成されている。
【0061】
p型クラッド層107の上側部分には、リッジストライプ状に加工されたリッジ部からなる第一の光導波路121と第二の光導波路122とが形成されている。p型クラッド層107の上には、平坦部とリッジストライプの側面とを覆うようにして、例えばSiOの誘電体からなるブロック層110が形成されている。p型クラッド層107のリッジ部の頂面には、p側電極108が形成されている。p側電極108とブロック層110の上には、p側電極108と接続される配線電極109が形成されている。また、基板101のn型クラッド層102と反対側の面(裏面)上には、n側電極111が形成されている。
【0062】
なお、図1(a)及び図1(b)に示す、第一の溝部131、第二の溝部141、第三の溝部132及び第四の溝部142は、深さが、n型クラッド層102における基板101との境界近くにまで達するように、あるいは、基板101基板の内部にまで達するように構成することが好ましい。これにより、第一の光出射面131aおよび第二の光出射面141aを形成する際の第一の溝部131および第二の溝部141によって、光を閉じ込める効果が変化(悪化)することを抑制することができる。
【0063】
次に、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100の動作について、図1および図2を用いて説明する。図2(a)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100の動作時における上面図であり、図2(b)および図2(c)は、半導体発光素子の遠視野像の水平方向における光強度分布を表した図である。
【0064】
図1(c)に戻り、半導体発光素子100において、n側電極111とp側電極108から注入された電子と正孔は活性層104で再結合し、これにより自然放出光が発生する。生じた自然放出光の一部は、図1(b)に示される第一の光導波路121および第二の光導波路122を導波する間に誘導放出によって高い利得を受けて増幅され、第一の光出射面131aと第二の光出射面141aから外部に放射される。
【0065】
すなわち、図2(a)に示すように、第一の光導波路121を進む自然放出光のうち後端面100bに到達した光は、当該後端面100bで反射されて第二の光導波路122へと進む。一方、第二の光導波路122を進む自然放出光のうち後端面100bに到達した光は、当該後端面100bで反射されて第一の光導波路121へと進む。このように、素子内部で発生した自然放出光は、第一の光導波路121および第二の光導波路122を進む間に、誘導放出によって高い利得を受けて増幅され、第一の光出射面131aからは第一の出射光121Lが出射し、第二の光出射面141aからは第二の出射光122Lが出射する。
【0066】
ここで、図2(a)に示すように、第一の出射光121Lの主軸(光軸)X1と半導体発光素子100の中心軸X0とのなす角をΔθ1とし、第二の出射光122Lの主軸X2(光軸)と半導体発光素子100の中心軸X0(光軸)とのなす角をΔθ2とすると、第一の出射光121Lの主軸X1と第二の出射光122Lの主軸X2とのずれ角Δθは、Δθ=|Δθ1+Δθ2|、または、Δθ=|Δθ1−Δθ2|で表される。また、同図に示すように、第一の出射光121Lと第二の出射光122Lとにおける水平方向の遠視野像の半値全幅をそれぞれω1およびω2とする。
【0067】
このとき、上記ずれ角Δθを、第一の出射光121Lの半値全幅ω1および第二の出射光122Lの半値全幅ω2に対して小さくすることにより、第一の出射光121Lと第二の出射光122Lとの合成光である半導体発光素子100の出射光100Lは、図2(b)に示すように、遠視野像の水平方向における光強度分布は単峰化する。
【0068】
一方、上記ずれ角Δθが、第一の出射光121Lの半値全幅ω1と第二の出射光122Lの半値全幅ω2に対して大きいような場合には、半導体発光素子の出射光の遠視野像における水平方向の光強度分布は、図2(c)に示すように、二つの強度ピークを持つような形状(非単峰性)となる。
【0069】
本実施形態に係る半導体発光素子100では、上述のとおり、第一の光出射面131aと第二の光出射面141aとが上記のような非平行に形成されているので、図2(b)に示すように、半導体発光素子100の出射光100Lにおける水平方向の遠視野像の光強度分布は単峰化される。
【0070】
次に、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100の製造方法について、図3を用いて説明する。図3(a)〜図3(f)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法における各工程を説明するための図である。なお、図3はウェハの一部を示しており、ウェハにおいて縦方向に3列で横方向に3列の合計9個の半導体発光素子100が形成される場合について説明する。また、図3において、破線は、1つの半導体発光素子100のチップ領域を表している。
【0071】
まず、図3(a)に示すように、例えばn型六方晶GaNからなる基板101のC面上に、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法を用いて、図1(c)に示すような、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)およびIn(インジウム)の窒化物半導体からなる積層構造体を形成する。
【0072】
具体的には、図1(c)に示すように、まず、基板101上に、Siがドープされたn型Al0.03Ga0.97Nからなるn型クラッド層102を成長させる。続いて、n型クラッド層102の上に、Siがドープされたn型GaNからなるn型ガイド層103と、GaNからなるバリア層およびIn0.15Ga0.85Nの量子井戸層が交互に3層積層された活性層104を成長させる。続いて、活性層104の上に、Mgがドープされたp型GaNからなるp型ガイド層105を成長させ、p型ガイド層105の上に、Al0.20Ga0.80Nからなるキャリアオーバフロー抑制層(OFS層)106を成長させる。続いて、OFS層106の上に、Mgがドープされたp型Al0.10Ga0.90N層とGaN層との歪超格子層であるp型クラッド層107と、Mgがドープされたp型GaNからなるp型コンタクト層(図示せず)とを順次成長させる。
【0073】
なお、本実施形態に係る半導体発光素子の構造は、一例であり、半導体発光素子の構造および成長方法はこれに限られない。例えば、半導体発光素子を形成する際の結晶成長法には、分子ビーム成長(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法または化学ビーム成長(Chemical Beam Epitaxy:CBE)法等の方法を用いてもよい。また、基板101も、表面がC面であるn型六方晶GaNのほかに、例えばサファイア基板、シリコン基板等の基板を用いることもできる。さらに、基板101として、表面がm面や半極性面のGaN基板、あるいは、表面がr面のサファイア基板を用いて、積層面が、無極性面や半極性面である窒化物半導体の積層構造を用いても良い。
【0074】
次に、図3(b)に示すように、基板101上に形成した窒化物半導体の積層構造体に対して、第一の光導波路121および第二の光導波路122を形成する。このとき、素子の一次分離(一次へき開)のときに光導波路がへき開面まで到達しないことがないように、図3(b)に示すように、第一の光導波路121および第二の光導波路122は、その両端部が上下方向に隣り合う素子領域にまで延設されて形成される。これにより、仮にへき開時においてへき開面にずれが生じたとしても、第一の光導波路121および第二の光導波路122にへき開端面を形成することができる。
【0075】
具体的には、まず、例えばSiO膜などのマスク材料を堆積し、その後、パターニングによって所定形状の第一のマスク膜を形成し、ドライエッチングによりp型クラッド層107およびp型コンタクト層を加工してリッジ形状の2つの光導波路を形成する。次に、第一のマスク膜を除去し、再度SiO膜のマスク材料をウェハ上の全面に堆積する。続いて、リソグラフィ法および緩衝フッ酸溶液によるウェットエッチング法により、SiO膜をパターニングして、第一の光導波路121と第二の光導波路122の頂面に第二のマスク膜を形成し、すなわちリッジ部以外のp型クラッド層107が露出するような開口部を有する第二のマスク膜を形成して、誘電体からなるブロック層110を形成する。続いて、電子線蒸着法により、ブロック層110の各開口部に、例えば、パラジウム(Pd)/白金(Pt)からなるp側電極108を形成する。その後、温度が400℃の熱処理を加えて良好なコンタクト抵抗を得る。次に、リソグラフィ法および電子線蒸着法により、p側電極108を含めブロック層110の上に、p側電極108と電気的に接続されるように、チタン(Ti)/白金(Pt)/金(Au)からなる配線電極109を形成する。
【0076】
次に、図3(c)に示すように、第一の光出射面131aおよび第二の光出射面141aを形成するために第一の溝部131および第二の溝部141を形成する。
【0077】
具体的には、まず、マスクに用いたSiO膜を緩衝フッ酸溶液(BHF)で除去した後に、再び、例えばSiO膜であるマスクを堆積し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングによりパターニングした後、ドライエッチングにより、第一の光導波路121の一方の端部を切り欠くようにして、第一の溝部131と第三の溝部132とで構成される凹部130を形成するとともに、第二の光導波路122の一方の端部を切り欠くようにして、第二の溝部141と第四の溝部142とで構成される凹部140を形成する。このとき、凹部130および140は、隣り合う素子領域にまで延設された光導波路をも切り取るようにして形成される。すなわち、第三の溝部132と第四の溝部142とは、隣り合う素子領域にまで延設された光導波路を切り取るために形成される。
【0078】
続いて、第一の溝部131の形成によって面形成された第一の光出射面131aの表面と、第二の溝部141の形成によって面形成された第二の光出射面141aの表面とに、保護膜として例えばSiOやAlなどの積層膜(不図示)を成膜する。
【0079】
次に、図3(d)に示すように、ウェハから半導体発光素子が横1列に連なったバー状態に分割する一次分離を行う。これにより、半導体発光素子100の前端面100aおよび後端面100bが形成される。
【0080】
具体的には、まず、基板101の裏面を研削および研磨して、基板101の厚さを所定の厚みにまで薄膜化する。その後、薄膜化された基板101の裏面に、例えばTi/Pt/Auからなるn側電極111を形成する。ここで、Ti、PtおよびAuの各膜厚は、それぞれ10nm、50nmおよび100nmである。このとき、次工程である分離および組立工程における認識パターンとして、リソグラフィ法およびウェットエッチング法により、上層のAu膜にのみエッチングを行って、電極パターンを形成することが望ましい。次に、ウェハにおける素子分離位置に、ダイヤモンド針によるスクライブもしくはレーザを用いたスクライブにより素子分離補助溝を形成する。その後、形成された素子分離補助溝に沿ってブレーキングを行い、一次分離(一次へき開)を行う。これにより、前端面100aと後端面100bとが形成される。なお、このとき、上下方向の隣り合う素子領域にまで延設された光導波路の他方の端部は、光導波路の残部領域として素子内に残ることになる。
【0081】
次に、図3(e)に示すように、後端面100bに、CVD法もしくはスパッタ法等により、反射率が約95%の例えばSiO/TiOからなる多層誘電体反射膜である高反射率層150を形成する。なお、このとき、第三の溝部132および第四の溝部142にも高反射率層150が積層される。
【0082】
その後、図3(f)に示すように、共振器の長手方向に平行な方向に二次分離(二次へき開)を行い、劈開面100cを形成することで、半導体発光素子100を作製することができる。なお、この後、半導体発光素子100は、所望のCANパッケージに実装および配線される。このようにして、本実施形態に係る半導体発光素子100を製造することができる。
【0083】
次に、本実施形態に係る半導体発光素子100の好ましい実施例について、図4を用いて説明する。図4(a)は、本発明の第1の実施形態の実施例1に係る半導体発光素子100の設計に必要なパラメータを説明するための図であり、図4(b)は、同半導体発光素子100におけるパラメータの好適な範囲を説明するための図である。
【0084】
図4(a)に示すように、第一の光出射面131aの垂線と第一の光導波路121とがなす鋭角をφ1とし、第二の光出射面141aの垂線と第二の光導波路122とがなす鋭角をφ2とし、第一の光出射面131aと第二の光出射面141aとがなす角をγとし、第一の光導波路121と第二の光導波路122とのなす角をαとする。また、第一の光導波路121と第二の光導波路122との実効屈折率をnとし、半導体発光素子100の外部の屈折率をnとする。なお、上述のとおり、第一の出射光121Lおよび第二の出射光122Lにおける水平方向の遠視野像の半値全幅をそれぞれω1およびω2とする。
【0085】
このとき、これらの設計パラメータの好ましい関係式の一例は、以下の条件式で表すことができる。
【0086】
すなわち、本実施形態に係る半導体発光素子100において、水平方向の遠視野像の単峰性を満たすためには、第一の光出射面131aから出射される第一の出射光121Lにおける水平方向の遠視野像の半値全幅ω1[度]と、第二の光出射面141aから出射される第二の出射光122Lにおける水平方向の遠視野像の半値全幅ω2[度]とは、以下の(式1)で表される関係式を満たすように、上記パラメータを設定すればよい。
【0087】
【数3】

【0088】
この(式1)で示される条件(条件1)は、第一の光出射面131aから出射する第一の出射光121Lと第二の光出射面141aから出射する第二の出射光122Lとのなす角度が、第一の出射光121Lおよび第二の出射光122Lのそれぞれにおける水平方向の遠視野像の半値全幅(単位は「度」である)の平均よりも小さいことを表す。
【0089】
これにより、2つの半値全幅ω1およびω2の平均の大きさの幅よりも、二つの強度ピークそれぞれの半値全幅(ω1またはω2)が狭くなるので、第一の出射光121Lと第二の出射光122Lの遠視野像が重ね合わさったときの出射光は、単峰形状の光強度分布となる。なお、上記半値全幅の平均の大きさの幅よりも、二つの強度ピークそれぞれの半値全幅が広いような場合は、第一の出射光121Lと第二の出射光122Lの遠視野像が重ね合わさったときの出射光は、複数のピークを有する光強度分布となる。
【0090】
さらに好ましくは、以下の(式2)の関係式を満たすように、上記パラメータを設定すればよい。
【0091】
【数4】

【0092】
この(式2)で示される条件(条件2)は、第一の出射光121Lと第二の出射光122Lとのなす角度が、第一の出射光121Lおよび第二の出射光122Lのそれぞれにおける水平方向の遠視野像の半値全幅(単位は「度」である)の平均の半分よりも小さいことを表す。
【0093】
これにより、第一の出射光121Lの光強度と第二の出射光122Lの光強度との間に差がある場合であっても、第一の出射光121Lの強度ピークと第二の出射光122Lの強度ピークとを十分に近くすることができるので、単峰性の良い水平方向遠視野像が得られる。
【0094】
図4(b)は、上記の(式1)に関する条件1と(式2)に関する条件2とを視覚的に示したものである。ここで、図4(b)において、実線の曲線は条件1の境界線を示しており、破線の曲線は条件2の境界線を示している。この曲線で挟まれる範囲内のパラメータ(λ、φ1、φ2)を選択することにより、単峰性の良い光強度分布を得ることができる。なお、図4(b)においては、φ1=φ2とし、第一の光導波路121と第二の光導波路122との実効屈折率はn=2.465とし、半導体発光素子100の外部の屈折率はn=1.000とした。
【0095】
ここで、半導体発光素子を実際に作製し、その特性を評価したので、その結果について図4(b)および図5を用いて説明する。図5(a)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100の実施例における水平方向の遠視野像の評価特性を示す図であり、図5(b)〜図5(d)は、それぞれ比較例に係る半導体発光素子における水平方向の遠視野像の評価特性を示す図である。
【0096】
まず、本実施形態に係る半導体発光素子100の実施例として、共振器長が800μmで、第一の光導波路121と第二の光導波路122における接続部分のなす角度αが10度であり、第一の光導波路121と第二の光導波路122が、後端面100bの垂線に対して線対称となるように構成した。また、φ1およびφ2についてはφ1=φ2=3.3度とした。このとき、γは16.7度となる。
【0097】
また、比較例として、本実施形態に係る半導体発光素子100の実施例に対して、φ1の値を変更したものを3種類作製した。比較例1、2は、いずれもφ1(=φ2)を5.0度(γ=0度)としたものであり、また、比較例3は、φ1(=φ2)を10度(γ=30度)としたものである。
【0098】
図4(b)に示すように、本実施形態に係る半導体発光素子100の実施例は、単峰性の良い範囲内のパラメータが設定されていることが分かる。実際に、評価特性を計算すると、図5(a)に示すように、水平方向の遠視野像は単峰化されており、遠視野像の対称性が強度ピーク角度に対して良い形状となっていることが分かった。
【0099】
これに対し、比較例1〜3に係る半導体発光素子は、図4(b)に示すように、単峰性の良い範囲外のパラメータが設定されていることが分かる。実際に、評価特性を算出すると、図5(b)〜図5(d)に示すように、水平方向の遠視野像には2つの光強度ピークが発生し、水平方向の遠視野像に割れが生じていることが分かった。
【0100】
しかも、比較例1と比較例2とは、同一条件で作製したにもかかわらず、図5(b)および図5(c)に示すように、水平方向の遠視野像に2つの光強度ピークが生じているだけではなく、お互いに光強度も異なっていることが分かる。すなわち、素子特性が素子間においてばらつくことも分かった。このように、図4(b)に示される条件の範囲外のパラメータでは、サンプルごとに遠視野像が大きく変化するため、ディスプレイ用の光源としては適さない。なお、図4(b)に示される条件の範囲内のパラメータで構成された本実施形態に係る半導体発光素子100の場合は、このような素子間の大きなばらつきは発生しなかった。
【0101】
以上のように、パラメータ(φ1、φ2、γ)を好ましい設計範囲内に設定することにより、半導体発光素子の出射光を単峰化することができるとともに、安定的に半導体発光素子を作製することが可能となる。
【0102】
以上のとおり、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100によれば、第一の光導波路121の第一の光出射面131aと第二の光導波路122の第二の光出射面141aとが非平行であるので、第一の出射光121Lの主軸X1と第二の出射光122Lの主軸X2とのなす角を制御することができる。これにより、水平方向の遠視野像の形状を発光素子の出射光端面で制御することができる。
【0103】
そして、本実施形態では、第一の出射光121Lの主軸X1と第二の出射光122Lの主軸X2とが近づくように、第一の光出射面131aと第二の光出射面141aとが形成されているので、遠視野像の水平方向における光強度分布を単峰化させた半導体発光素子を実現することができる。
【0104】
また、φ1とφ2とを同じ大きさにし、φ1、φ2およびγを、図4(b)に示された条件の範囲内に設定することにより、第一の出射光121Lの主軸X1と第二の出射光122Lの主軸X2とが平行に近くづく。これにより、出射光が角度に対して重ね合わされることによって、水平方向の遠視野像が単峰化され、水平方向の遠視野像の強度分布をピーク強度角度に対して対称にすることができる。
【0105】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子200について、図6を用いて説明する。図6は、本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子200の上面図である。
【0106】
図6に示すように、本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子200は、第1の実施形態と同様に、前端面200aと後端面200bとを有するSLDであって、例えばリッジストライプで構成された第一の光導波路221および第二の光導波路222の2つの光導波路を有する。また、後端面200bには、誘電体多層膜からなる反射率が90%以上の高反射率層250が形成されている。
【0107】
第一の光導波路221は、発光層からの第一の出射光221Lを出射する前端面200aと後端面200bとを両端とする直線状の光導波路である。すなわち、本実施形態において、第一の光導波路221における第一の光出射面は、第1の実施形態とは異なり、素子分離面(へき開面)である前端面200aによって構成されている。
【0108】
一方、第二の光導波路222は、第1の実施形態と同様に、発光層からの第二の出射光222Lを出射する第二の光出射面241aと後端面200bとを両端とする直線状の光導波路である。
【0109】
第一の光導波路221と第二の光導波路222とは、第1の実施形態と同様に、後端面側の端部が後端面200bにおいて接続されているが、前端面側の端部は接続されていない。なお、第一の光導波路221と第二の光導波路222とは、接続部が形成された後端面200bから前端面200aに向かってお互いの間隔が拡がるようにして形成されている。
【0110】
また、本実施形態に係る半導体発光素子200においては、前端面200aの近傍における第二の光導波路222を切り欠くようにして第一の溝部241が形成されており、これにより、第二の光出射面241aが形成されている。また、後端面200bを切り欠くようにして第二の溝部242が形成されている。なお、第1の実施形態とは異なり、第一の光導波路221の前端面側の端部には溝部が形成されていない。
【0111】
このように、本実施形態に係る半導体発光素子200においても、第一の光出射面である前端面200aと第二の光出射面241aとは、前端面200aから出射する第一の出射光221Lの主軸X1と第二の光出射面241aから出射する第二の出射光222Lの主軸X2とが近づいて平行となるように、互いに非平行に形成されている。
【0112】
第一の溝部241と第二の溝部242とは、第1の実施形態と同様に、素子分離前における隣り合う素子の隣接部分に対して1つの凹部を形成する際に同時に形成される。また、第一の光導波路221および第二の光導波路222の形成によって、光導波路残部223および224が、それぞれ前端面200a付近と後端面200b付近に形成される。すなわち、光導波路残部223および224は、素子分離の際に、隣接する素子領域から延設された光導波路の残部として形成される。これら第二の溝部242と光導波路残部223および224とは、半導体発光素子200の機能構成ではないので、半導体発光素子200の機能構成である第一の光導波路221、第二の光導波路222および第一の溝部241に対して、これらの機能構成とは異なる場所に配置されるように設計される。
【0113】
なお、本実施形態に係る半導体発光素子200の断面構成および製造方法については、第1の実施形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0114】
また、図6に示すように、第一の光出射面(前端面200a)の垂線と第一の光導波路221とがなす鋭角をφ1とし、第二の光出射面241aの垂線と第二の光導波路222とがなす鋭角をφ2とし、第一の出射光221Lおよび第二の出射光222Lにおける水平方向の遠視野像の半値全幅をそれぞれω1およびω2とする。また、第一の光出射面(前端面200a)と第二の光出射面241aとがなす鋭角をγとする。
【0115】
このとき、これらの設計パラメータの好ましい関係式の一例は、以下の条件式で表すことができる。
【0116】
すなわち、本実施形態に係る半導体発光素子200において、水平方向の遠視野像の単峰性を満たすたには、以下の(式3)および(式4)で表される関係式を満たすように、上記パラメータを設定すればよい。
【0117】
【数5】

【0118】
【数6】

【0119】
これにより、第一の出射光221Lと第二の出射光222Lの遠視野像が重ね合わさったときの出射光は単峰形状の光強度分布となる。
【0120】
ここで、上記の(式3)および(式4)における好適なパラメータの範囲を図7に示す。図7は、本実施形態に係る半導体発光素子200におけるパラメータの好適な範囲を説明するための図である。なお、図7において、φ1=φ2、n=2.465、n=1.000とした。また、図7において、細い実線の曲線は、γの好適な範囲を示す境界線を示しており、細い破線の曲線は、φ2の好適範囲を示す境界線を示している。なお、太い実線および太い破線は、それぞれ好適範囲の中心線を示している。
【0121】
図7に示すように、この曲線で挟まれる範囲内のパラメータ(λ、φ1、φ2)を選択することにより、単峰性の良い光強度分布を有する半導体発光素子を実現することができる。
【0122】
ここで、本発明に係る半導体発光素子において、導波光が傾斜端面(第一の光出射面と第二の光出射面)で反射されるときにおける、光導波路に対する反射率と傾斜端面の傾斜角度との依存性について、図8を用いて説明する。図8は、本発明に係る半導体発光素子において、導波光が傾斜端面で反射されるときにおける、光導波路に対する反射率と傾斜端面の傾斜角度との依存性を理論計算したときの結果を示す図である。
【0123】
図8に示すように、本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子200(本発明2)では、第一の光出射面(前端面200a)の反射率は約3.3×10−5となり、第二の光出射面241aの反射率は約4.2×10−7となる。ここで、半導体発光素子全体の反射率は、第一の光出射面と第二の光出射面との反射率の積で表されるため、本実施形態に係る半導体発光素子200全体の反射率は、約1.4×10−11となる。なお、正確には、半導体発光素子全体の反射率は第一の光出射面と第二の光出射面と後端面との反射率の積で表されるが、本発明に係る半導体発光素子については、全て後端面に同じ反射率の高反射率層が形成されているので、半導体発光素子全体の反射率は第一の光出射面の反射率と第二の光出射面の反射率の積で記述することにする。
【0124】
また、同図に示すように、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100(本発明1)については、第一の光出射面の反射率と第二の光出射面の反射率がともに約2.5×10−3であるので、半導体発光素子100全体の反射率は約6.2×10−6となる。
【0125】
このように、第2の実施形態に係る半導体発光素子200は、第1の実施形態に係る半導体発光素子100に対して、素子全体の反射率を約10低減することができるので、さらにレーザ発振を有効に抑制することができ、スペックルノイズが低減されたインコヒーレントな光が得やすくなる。また、このようにレーザ発振を抑制する効果が高くなることによって、インコヒーレントな光を得ることのできる光出力の上限が高くなる。なお、この傾斜端面の反射率は、定性的には、導波路を導波した光のうち放射端面で放射されずに反射して再び光導波路に戻る光の割合を計算したものである。なお、光の入射角と反射角とは等しいことから光が入射方向に跳ね返ることは基本的には無いが、光導波路は幅を有しているため、放射端面で反射された光のうちの一部は光導波路に入ることになる。この光導波路に戻る光の割合を、傾斜端面の反射率としている。
【0126】
以上のとおり、本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子200によれば、第一の光導波路221の第一の光出射面(前端面200a)と第二の光導波路222の第二の光出射面241aとは、第一の出射光221Lの主軸X1と第二の出射光222Lの主軸X2とが近づくように、非平行に形成されているので、遠視野像の水平方向における光強度分布を単峰化させた半導体発光素子を実現することができる。
【0127】
さらに、本実施形態に係る半導体発光素子200によれば、第1の実施形態に係る半導体発光素子100よりも、スペックルノイズが低減されたインコヒーレントな光を得ることができる。
【0128】
なお、本実施形態では、第一の光導波路221における第一の光出射面を前端面200a(へき開面)としたが、第二の光導波路222における第二の光出射面を前端面200aとしても構わない。この場合、第一の光導波路221における第一の光出射面は、溝部の形成によって構成される傾斜端面となる。
【0129】
(第2の実施形態の変形例1)
次に、本発明の第2の実施形態の変形例1に係る半導体発光素子200Aについて、図9を用いて説明する。図9は、本発明の第2の実施形態の変形例1に係る半導体発光素子の上面図である。
【0130】
本変形例に係る半導体発光素子200Aは、基本的には、上述の本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子200と同様の構成である。従って、図9において、図6に示す構成要素と同じ構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0131】
図9に示すように、本変形例に係る半導体発光素子200Aでは、第二の光導波路222Aが曲線状に形成されている。具体的には、本変形例において、第一の光導波路221と第二の光導波路222Aとは、接続部が形成された後端面200bから前端面200aに向かってお互いの間隔が拡がるようにして形成されているが、第二の光導波路222Aは、直線部分と曲線部222Rとを有しており、光導波路の途中から第一の光導波路221との拡がり幅が小さくなるように構成されている。
【0132】
本変形例に係る半導体発光素子200Aは、この構成により、第2の実施形態よりもチップ幅を小さくすることができるので、コストを低減することができる。
【0133】
(第2の実施形態の変形例2)
次に、本発明の第2の実施形態の変形例2に係る半導体発光素子200Bについて、図10を用いて説明する。図10は、本発明の第2の実施形態の変形例2に係る半導体発光素子の上面図である。
【0134】
本変形例に係る半導体発光素子200Bは、基本的には、上述の本発明の第2の実施形態の変形例1に係る半導体発光素子200Aと同様の構成である。従って、図10において、図9に示す構成要素と同じ構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0135】
図10に示すように、本変形例に係る半導体発光素子200Bでは、上記変形例1と同様に、第二の光導波路222Aにおける第二の光出射面はへき開面(前端面200a)ではないが、本変形例では、さらに、第一の光導波路221Bにおける第一の光出射面231aもへき開面(前端面200a)ではない。すなわち、本変形例では、第一の光導波路221Bおよび第二の光導波路222Aは、光出射面としていずれもへき開面を用いない。なお、第一の光導波路221Bにおける第一の光出射面231aは、第一の溝部231を形成することによって面形成することができる。
【0136】
本変形例に係る半導体発光素子200Bは、この構成により、製造コストを低減することができる。
【0137】
なお、本変形例において、第一の光出射面231aは前端面200aと略平行となるように構成されているが、これに限らない。第二の光出射面241aと同様に、前端面200aに対して傾斜するように構成しても構わない。
【0138】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子300について、図11を用いて説明する。図11は、本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子300の上面図である。
【0139】
図11に示すように、本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子300は、第1の実施形態と同様に、前端面300aと後端面300bとを有するSLDであって、例えばリッジストライプで構成された第一の光導波路321および第二の光導波路322の2つの光導波路を有する。また、後端面300bには、誘電体多層膜からなる反射率が90%以上の高反射率層350が形成されている。
【0140】
第一の光導波路321は、発光層からの第一の出射光321Lを出射する前端面300aと後端面300bとを両端とする全体が直線状の光導波路である。すなわち、本実施形態において、第一の光導波路321における第一の光出射面は、第1の実施形態とは異なって、素子分離面(へき開面)である前端面300aによって構成されている。
【0141】
また、第二の光導波路322は、発光層からの第二の出射光322Lを出射する前端面300aと後端面300bとを両端とする光導波路である。すなわち、第二の光導波路322における第二の光出射面も、前端面300aによって構成されている。さらに、本実施形態に係る第二の光導波路322は、光導波路の一部に折れ曲がり部322vが形成されており、第二の光導波路322は、当該折れ曲がり部322vを境界として、直線状の第一直線部322aと直線状の第二直線部322bとで構成されている。
【0142】
第二の光導波路322において、折れ曲がり部322vには光反射面331aが形成されており、折れ曲がり部322vは光反射面331aに接続されて構成されている。光反射面331aは、第二の光導波路322を進む光を反射させるとともに、反射した光が再び第二の光導波路322内を進むように構成されている。この光反射面331aは、第一の溝部331が形成されることによって面形成される。
【0143】
そして、本実施形態では、第一の光導波路321と第二の光導波路322とは、後端面側の端部が後端面200bにおいて接続されており、接続部が形成された後端面300bから前端面300aに向かって折れ曲がり部322vまではお互いの間隔が拡がるようにして形成され、折れ曲がり部322vから前端面300aに向かっては間隔が同等なるように形成され、第一の光導波路321と第二の光導波路322とが交差しないように構成されている。
【0144】
すなわち、本実施形態では、前端面300aの垂線と第一の光導波路321とがなす鋭角をφ1とし、前端面300aの垂線と第二の光導波路322とがなす鋭角をφ2とすると、φ1=φ2となるように構成されている。なお、本実施形態において、第一の光出射面と第二の光出射面とは平行であるので、第一の光出射面と第二の光出射面とがなす角γは、γ=0となる。
【0145】
また、本実施形態に係る半導体発光素子300においては、第二の光導波路322における第一直線部322aと第二直線部322bとの接続部分の一部を切り欠くようにして第一の溝部331が形成されている。さらに、本実施形態では、第二の溝部332が形成されており、第一の溝部331と第二の溝部332とは、素子分離前における隣り合う素子の隣接部分に対して1つの凹部を形成する際に同時に形成される。また、第一の光導波路321および第二の光導波路322の形成によって、光導波路残部323および324が後端面300b付近に形成される。すなわち、光導波路残部323および324は、素子分離の際に、隣接する素子領域から延設された光導波路の残部として形成される。これら第二の溝部332と光導波路残部323および324とは、半導体発光素子300の機能構成ではないので、半導体発光素子300の機能構成である第一の光導波路321、第二の光導波路322および第一の溝部331に対して、これらの機能構成とは異なる場所に配置されるように設計される。
【0146】
なお、本実施形態に係る半導体発光素子300の断面構成については、第1の実施形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0147】
次に、本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子300の製造方法について、図12を用いて説明する。図12(a)〜図12(e)は、本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法における各工程を説明するための図である。なお、図12は、図3と同様にウェハの一部を示しており、ウェハにおいて縦方向に3列で横方向に3列の合計9個の半導体発光素子100が形成される場合について説明する。また、図12において、破線は、1つの半導体発光素子300のチップ領域を表している。
【0148】
本実施形態に係る半導体発光素子300は、基本的には、図3に示す第1の実施形態と同様にして製造方法することができる。従って、詳細な説明は省略する。
【0149】
まず、基板上に窒化物半導体からなる積層構造を形成した後、図12(a)に示すように、第一の光導波路321および第二の光導波路322を形成する。このとき、素子分離する際に光導波路が途中で切れることがないように、第一の光導波路321と第二の光導波路322は、その両端部が上下方向に隣り合う素子領域にまで延設されて形成されている。さらに、本実施形態では、第二の光導波路322が折れ曲がり部322v付近の途中で切れることがないように、第二の光導波路322は、横方向に隣り合う素子領域にまで延設されて形成されている。
【0150】
次に、図12(b)に示すように、光反射面331aを形成するために第一の溝部331および第二の溝部332を形成する。このとき、光反射面331aは、SiO膜を堆積した後に、フォトリソグラフィおよびRIEによるドライエッチングにより、第一の溝部331と第二の溝部332とで構成される凹部330を形成する領域のみのSiO膜を除去する。その後、SiO膜をマスクとして、ClガスやSiClガスによるICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングにより、上記凹部を形成する。これにより、光反射面331aが形成される。なお、このとき、凹部330は、横方向の隣り合う素子領域にまで延設された光導波路をも切り取るようにして形成される。すなわち、第二の溝部332は、隣り合う素子領域にまで延設された光導波路を切り取るために形成される。
【0151】
次に、図12(c)に示すように、ウェハから半導体発光素子が横1列に連なったバー状態に分割する一次分離(一次へき開)を行う。これにより、半導体発光素子300の前端面300aおよび後端面300bが形成される。この後、第一の光出射面と第二の光出射面である前端面300aに対して、SLDの信頼性を向上させる積層膜を形成してもよい。
【0152】
次に、図12(d)に示すように、後端面300bに、CVD法もしくはスパッタ法等により、反射率が約95%の例えばSiO/TiOからなる多層誘電体反射膜である高反射率層350を形成する。
【0153】
その後、図12(e)に示すように、共振器の長手方向に平行な方向に二次分離(二次へき開)を行い、劈開面300cを形成することで、半導体発光素子300を作製することができる。このようにして、本実施形態に係る半導体発光素子300を製造することができる。
【0154】
以上のとおり、本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子300によれば、第二の光導波路322に全反射面を有する折れ曲がり部322vが形成されるとともに、φ1=φ2となるように構成されているので、第一の光導波路321から出射する第一の出射光の主軸(光軸)と第二の光導波路322から出射する第二の出射光の主軸(光軸)とを近づけることができるので、半導体発光素子全体の出射光における水平方向の遠視野像が単峰化することができるとともに、チップ幅を縮小することができるのでコストを低減することができる。
【0155】
なお、単峰性の良い水平方向の遠視野像とするためのφ1等の好適なパラメータの範囲については、第1の実施形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0156】
また、第一の光導波路321と第二の光導波路322との実効屈折率をnとし、半導体発光素子300の外部における屈折率をnとすると、光反射面331aの垂線と第二直線部322bとがなす鋭角は、arcsin(n/n)よりも大きいことが好ましい。
【0157】
これにより、光反射面331aを全反射面とすることができるので、反射率を限りなく100%に近づけることができる。従って、光反射面に対して高反射率の半導体層などを作製するプロセスが不要となり、端面形成のための製造コストが不要となる。
【0158】
(第3の実施形態の変形例)
次に、本発明の第3の実施形態の変形例に係る半導体発光素子300Aについて、図13を用いて説明する。図13は、本発明の第3の実施形態の変形例に係る半導体発光素子の上面図である。
【0159】
本変形例に係る半導体発光素子300Aは、基本的には、上述の本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子300と同様の構成である。従って、図13において、図11に示す構成要素と同じ構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0160】
図13に示すように、本変形例に係る半導体発光素子300Aでは、第二の光導波路322Aが曲線状に形成されている。具体的には、本変形例において、第一の光導波路321と第二の光導波路322Aとは、接続部が形成された後端面300bから前端面300aに向かってお互いの間隔が拡がるようにして形成されているが、第二の光導波路322Aは、直線部分と曲線部322Rを有しており、途中から第一の光導波路321との間隔が同等となるように構成されており、前端面300a付近においてφ1=φ2となっている。
【0161】
本変形例に係る半導体発光素子300Aは、この構成により、チップ幅を小さくすることができるので、コストを低減することができる。
【0162】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係る半導体発光素子400について、図14を用いて説明する。図14は、本発明の第4の実施形態に係る半導体発光素子400の上面図である。
【0163】
図14に示すように、本発明の第4の実施形態に係る半導体発光素子400は、第1の実施形態と同様に、前端面400aと後端面400bとを有するSLDであって、例えばリッジストライプで構成された第一の光導波路421および第二の光導波路422の2つの光導波路を有する。また、後端面400bには、他の実施形態と同様に、誘電体多層膜からなる反射率が90%以上の高反射率層450が形成されている。
【0164】
第一の光導波路421は、第一の出射光421Lを出射する第一の光出射面431aと後端面400bとを両端とする光導波路であって、直線部分と曲線部421Rとを有する曲線状の光導波路である。また、第二の光導波路422も、第二の出射光422Lを出射する第二の光出射面441aと後端面400bとを両端とする光導波路であって、直線部分と曲線部422Rを有する曲線状の光導波路である。
【0165】
第一の光導波路421と第二の光導波路422とは、第1の実施形態と同様に、後端面側の端部が後端面400bにおいて接続されているが、前端面側の端部は接続されていない。さらに、第一の光導波路421と第二の光導波路422とは、接続部が形成された後端面400bから前端面400aに向かってお互いの間隔が拡がるようにして形成されている。また、第一の光導波路421と第二の光導波路422とは、後端面400bの接続部の垂線に対して線対称となるように構成されている。
【0166】
本実施形態に係る半導体発光素子400では、前端面400aの近傍において、第一の光導波路421を切り欠くように第一の溝部431が形成されるとともに、第二の光導波路422を切り欠くようにして第二の溝部441が形成されている。これにより、第一の光出射面431aと第二の光出射面441aとが形成されている。また、後端面400bを切り欠くようにして第三の溝部432と第四の溝部442が形成されている。
【0167】
なお、第一の溝部431と第三の溝部432とは、1つの凹部を形成する際に同時に形成され、また、第二の溝部441と第四の溝部442とは、素子分離前における隣り合う素子の隣接部分に対して1つの凹部を形成する際に同時に形成される。また、第一の光導波路421および第二の光導波路422の形成によって、光導波路残部423が前端面400a付近に形成される。すなわち、光導波路残部423は、素子分離の際に、隣接する素子領域から延設された光導波路の残部として形成される。これら第三の溝部432と第四の溝部442と光導波路残部423とは、半導体発光素子400の機能構成ではないので、半導体発光素子400の機能構成である第一の光導波路421、第二の光導波路422、第一の溝部431および第二の溝部441に対して、これらの機能構成とは異なる場所に配置されるように設計される。
【0168】
そして、本実施形態に係る半導体発光素子400では、第一の光出射面431aと第二の光出射面441aとは、互いに平行に形成されているとともに、前端面400aに対しては傾斜するようにして非平行に形成されている。すなわち、本実施形態では、第一の光出射面431aの垂線と第一の光導波路421とがなす鋭角をφ1とし、第二の光出射面441aの垂線と第二の光導波路422とがなす鋭角をφ2とすると、φ1=φ2となるように構成されている。なお、本実施形態において、第一の光出射面と第二の光出射面とがなす角γは、γ=0となる。
【0169】
なお、本実施形態に係る半導体発光素子400の断面構成および製造方法については、第1の実施形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0170】
以上のとおり、本発明の第4の実施形態に係る半導体発光素子400によれば、第一の光導波路421と第二の光導波路422とは、曲線部421Rおよび422Rを有するとともに、第一の光出射面431aおよび第二の光出射面441aが前端面400aと非平行に形成されている。これにより、チップ幅を小さくすることができるのでコストを低減することができるとともに、へき開による製造コストを低減することができる。
【0171】
なお、単峰性の良い水平方向の遠視野像とするためのφ1等の好適なパラメータの範囲については、第1の実施形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0172】
以上、本発明に係る半導体発光素子について、実施形態および変形例に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態および変形例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施形態に施したもの、または異なる実施形態または変形例における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、光出射方向の制御および水平方向遠視野像の光強度分布の形状制御をすることができる半導体発光素子の構造として有用であり、特に、水平方向の遠視野像の単峰化と光強度分布の対称性向上を目的とした半導体発光素子等として広く有用である。
【符号の説明】
【0174】
100、200、200A、200B、300、300A、400、900 半導体発光素子
100L 出射光
100a、200a、300a、400a、900a 前端面
100b、200b、300b、400b、900b 後端面
100c、300c 劈開面
101 基板
102 n型クラッド層
103 n型ガイド層
104 活性層(発光層)
105 p型ガイド層
106 キャリアオーバフロー抑制層(OFS層)
107 p型クラッド層
108 p側電極
109 配線電極
110 ブロック層
111 n側電極
121、221、221B、321、321A、421、921 第一の光導波路
121L、221L、321L、421L 第一の出射光
122、222、222A、322、322A、422、922 第二の光導波路
122L、222L、322L、422L 第二の出射光
123、223、224、323、324、423 光導波路残部
130、140 凹部
131、231、241、331、431 第一の溝部
131a、231a、431a 第一の光出射面
132、432 第三の溝部
141、242、332、441 第二の溝部
141a、241a、441a 第二の光出射面
142、442 第四の溝部
150、250、350、450 高反射率層
222R、322R、421R、422R 曲線部
322v 折れ曲がり部
322a 第一直線部
322b 第二直線部
331a 光反射面
950 反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層を有する半導体発光素子であって、
前記発光層からの第一の光を出射する第一の光出射面および前記発光層からの光を反射する後端面を両端とする第一の光導波路と、
前記発光層からの第二の光を出射する第二の光出射面および前記後端面を両端とする第二の光導波路とを備え、
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは、前記後端面で接続されており、
前記第一の光出射面と前記第二の光出射面とは、前記第一の光の光軸と前記第二の光の光軸とが近づくように、互いに非平行である
半導体発光素子。
【請求項2】
前記第一の光出射面の垂線と前記第一の光導波路とがなす鋭角をφ1とし、
前記第二の光出射面の垂線と前記第二の光導波路とがなす鋭角をφ2とし、
前記第一の光出射面と前記第二の光出射面とがなす角をγとし、
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路との実効屈折率をnとし、
前記半導体発光素子の外部における屈折率をnとし、
前記第一の光出射面から出射する前記第一の光における水平方向の遠視野像の半値全幅をω1とし、
前記第二の光出射面から出射する前記第二の光における水平方向の遠視野像の半値全幅をω2とすると、
【数1】

の関係を満たす
請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記後端面における前記第一の光導波路と前記第二の光導波路との接続部が、前記後端面の垂線に対して線対称である
請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは、それぞれ直線状に形成されている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路の少なくとも一方が曲線部を有しており、
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは交差しない
請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記第一の光出射面および前記第二の光出射面の少なくとも一方がへき開面である
請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記第一の光出射面および前記第二の光出射面の少なくとも一方は、溝部によって形成される
請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
発光層を有する半導体発光素子であって、
前記発光層からの第一の光を出射する第一の光出射面および前記発光層からの光を反射する後端面を両端とする第一の光導波路と、
前記発光層からの第二の光を出射する第二の光出射面および前記後端面を両端とする第二の光導波路とを備え、
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは、前記後端面で接続されており、
前記第一の光出射面と前記第二の光出射面とは平行であり、
前記第一の光出射面の垂線と前記第一の光導波路とがなす鋭角をφ1とし、
前記第二の光出射面の垂線と前記第二の光導波路とがなす鋭角をφ2とし、
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路との実効屈折率をnとし、
前記半導体発光素子の外部における屈折率をnとし、
前記第一の光出射面から出射する前記第一の光における水平方向の遠視野像の半値全幅をω1とし、
前記第二の光出射面から出射する前記第二の光における水平方向の遠視野像の半値全幅をω2とすると、
【数2】

の関係を満たす
半導体発光素子。
【請求項9】
前記後端面における前記第一の光導波路と前記第二の光導波路との接続部が、前記後端面の垂線に対して線対称である
請求項8に記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記第一の光導波路および前記第二の光導波路の少なくとも一方は、曲線部を有する
請求項8に記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とは、前記後端面の垂線に対して線対称である
請求項8〜10のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記第一の光導波路および前記第二の光導波路の少なくとも一方が、折れ曲がり部を有する
請求項8〜11のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項13】
前記折れ曲がり部は、光を反射する光反射面に接続されている
請求項12に記載の半導体発光素子。
【請求項14】
前記光反射面は、前記折れ曲がり部の近傍に形成される溝部によって形成される
請求項13に記載の半導体発光素子。
【請求項15】
前記折れ曲がり部を有する方の光導波路は、当該折れ曲がり部を境界として光出射側の第一直線部と前記後端面側の第二直線部とを有し、
前記光反射面の垂線と前記第二直線部とがなす鋭角は、arcsin(n/n)よりも大きい
請求項13または14に記載の半導体発光素子。
【請求項16】
前記第一の光出射面および前記第二の光出射面の少なくとも一方がへき開面である
請求項8〜15のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項17】
前記第一の光出射面および前記第二の光出射面の少なくとも一方は、溝部によって形成される
請求項8〜15のいずれか1項に記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−142504(P2012−142504A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−854(P2011−854)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】