半導体素子及びその製造方法
【課題】 十分に強いSiC基板表面の終端構造、その作成方法、及びそれを用いた半導体素子を提供することを目的とする。
【解決手段】 半導体素子は、SiC基板と、SiC基板上に形成されたゲート絶縁膜とを少なくとも具備し、SiC基板とゲート絶縁膜の界面において、SiC基板の最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素の一部が窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換されたことを特徴とする。
【解決手段】 半導体素子は、SiC基板と、SiC基板上に形成されたゲート絶縁膜とを少なくとも具備し、SiC基板とゲート絶縁膜の界面において、SiC基板の最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素の一部が窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換されたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体SiCを用いたMOSFETのSiC基板/SiO2絶縁膜界面を作成するに際し、半導体SiC基板表面に水素終端を施し、表面酸化を行うこと、或いは、絶縁膜を堆積製膜することで、SiO2絶縁膜を形成している。この時、SiC基板表面の水素終端は簡単に外れ、酸素が基板の内側に入り込み酸化が進行する。
【0003】
SiC基板表面の酸化は、表面近傍のSi−Cボンド間に酸素が入り込み、ボンド間2配位の酸素が形成されることで起こると考えられる。この時、最表面の元素の裏側には幾つものボンド(バックボンドと呼ぶことにする)が存在するので、表面近傍、或いは、奥行き方向に、ランダムに酸素が入り込むことになり、界面が酸化とともに荒れてしまう。酸素が存在する以上、この事実を変えることは出来ず、SiO2絶縁膜の形成段階から界面が荒れ始めることになる。更に、SiC基板では、炭素原子がCOなどの形で放出され、SiO2絶縁膜中に炭素原子が拡散してしまうことになる。このように、従来のように水素終端したSiC基板上に、直接的に酸化膜を形成すると、(1)表面の荒れ、(2)界面ダングリングボンドの増加、(3)基板構成炭素の絶縁膜への拡散という、3つの問題が発生してしまう。これらの3つの問題は、SiO2膜形成の場合だけではなく、酸化物絶縁膜(例えば、Al2O3、HfO2、HfAlOなど)や酸窒化物絶縁膜(例えばAlON、HfSiONなど)を形成する場合であっても同様に発生してしまう問題である。この問題は、水素終端が外れて活性になったSiC表面に、酸素が到達することによって、発生する問題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Dai Okamoto et al. IEEE Electron Device Letters.,vol.31,no.7,pp.710−712,July 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、このような問題点に鑑みて成されたものであり、十分に強いSiC基板表面の終端構造、その作成方法、及びそれを用いた半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の半導体素子は、半導体SiC基板と、前記半導体SiC基板上に形成されたゲート絶縁膜とを少なくとも具備し、前記SiC基板と前記ゲート絶縁膜の界面において、前記SiC基板の最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素の一部が窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換されたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】SiC基板のSi面を窒素終端したSi面のバンド構造である。
【図2】SiC基板のC面を窒素終端したC面のバンド構造である。
【図3】SiC基板のSi面の構造式である。
【図4】横型nMOSFETの概念図である。
【図5】実施例1にかかる半導体装置の概念図である。
【図6】実施例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図7】実施例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図8】実施例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図9】実施例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図10】実施例1にかかる界面と面密度との関係図である。
【図11】変形例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図12】変形例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図13】変形例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図14】変形例1にかかる半導体装置の製造の概念図である。
【図15】実施例2にかかる半導体装置の製造の概念図である。
【図16】変形例7にかかる半導体装置の製造の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
SiC基板の(0001)面、即ちSi面では、最表面のSiは3つのCとバックボンドでつながっており、表面には一つのダングリングボンドを持っている。従来は、このダングリングボンドを、表面HF処理により水素終端する。
【0009】
われわれは、従来用いている水素終端よりも安定な表面終端構造を見出すべく、様々な終端物質と終端構造の組み合わせを、第一原理計算を用いて考察した。ここで、第一原理計算は、局所密度近似による密度汎関数法に基づいている。Siはノルム保存擬ポテンシャル、C、N、P、Asなど、Si以外の物質は、バンダ−ビルトらによって開発された、ウルトラソフト擬ポテンシャルを用いている。裏面は水素終端構造として、Si面の表面構造を作り、安定構造を計算により求めた。同様にして、(000−1)面、即ちC面の計算、及び、(11−20)面、即ちA面の計算も行った。Si面の終端構造の説明を行い、その後、C面、A面の終端構造について記述する。C面、A面については、Si面との違いを中心に説明を行う。
【0010】
Si面での計算の結果、ダングリングボンドを終端処理するのではなく、最表面SiをN(窒素)、P(燐)又はAs(砒素)によって置換することによって、非常に安定化することを初めて見出した。最表面Siを上記元素によって置換すると、置換する元素の3本のボンドはそれぞれ最表面Siが結合していたCと結合するため、安定かつ反応性の低い面が形成される。
実施形態の終端構造が出来ると、表面は安定化する理由は、ダングリングボンドにあった電子が、価電子帯にまで落ちてくるためである。
【0011】
以下、Siを置換する窒素、燐又は砒素を置換元素と記載し、特に記載が無い限り、2種類以上の元素の組み合わせも置換元素に含む。また、実施形態の終端構造は、最表面Si原子を置換することで得られる終端構造であるので、最表面格子点置換型終端(略して置換型終端)と呼ぶことにする。
【0012】
従来、Si面において、窒素は、3つの最表面Siの中心位置(H3サイトと呼ばれている)に物理吸着すると言われていた。この時、最表面Siのダングリングボンドはそのボンド方向が、大きく歪んでしまうため、実のところ、それ程安定では無い。そして、同等のH3サイトの間を1.0eV程度の障壁を持って、簡単にホッピングしてしまうことが分かっている。つまり、この物理吸着した表面構造は、終端構造としては、不安定であり、酸素があれば、表面酸化が始まってしまう。特に問題なのは、表面のカバレッジが低いことである。カバレッジが低いことから、カバーしきれない弱い部分が出来てしまい、実施形態の置換型終端に比較して、著しく耐酸化性が弱い。H3サイトへの窒素の吸着のエネルギーは水素終端と殆ど変わりなく、数eVである。つまり、水素終端並みという並の利得であり、水素終端よりもカバレッジが低いので、ト−タルでは、水素終端よりも耐酸化性は弱い。
【0013】
実施形態の置換型終端は、置換元素が基板に3本のボンドで結合しているため、従来の水素終端(水素終端は1本のボンドで結合している)に比べて、著しく安定である。従って、置換元素がホッピングして表面を動き回れるようなことはない。また、H3位置に比べて、3倍の面密度でNが結合しており、Si面がより強く終端出来る。水素終端に比べ、結合が数倍で、カバレッジが同等となる。この構造を作るには、最表面Siと置換元素とを反応させて、置き換える必要があるが、置換することで、エネルギー的に安定化するので、一旦出来てしまえば非常に安定である。
【0014】
図1に、窒素終端したSi面のバンド構造を示す。同様に図2は窒素終端したC面のバンド構造である。計算によると、結合エネルギーにして、7eV以上であり、一旦出来た置換型終端は非常に安定であることが分かる。水素終端のSi−Hの結合エネルギーは数eVであり、実施形態の置換型終端よりも結合エネルギーが非常に低い。また、他の置換元素によって終端したバンド構造や、置換元素によって終端したA面のバンド構造も、図示しないが、同様に結合エネルギーが高く、置換型終端は非常に安定している。
【0015】
実施形態の置換型終端は、表面を密に覆い、ダングリングボンドを減らすことから、表面での反応性が非常に低くなくなる。そのため、終端後に、表面近傍が高温になる処理(例えばSiCのMOSFETのゲート酸化膜を焼き固めるための1050℃の高温プロセス、或いは、ソース領域などのドーパントを活性化するための1600℃のアニールプロセスなど)にて、酸素がSiC基板近傍に来ても、基板と酸素の反応は非常に起こりにくい。水素終端処理を施した基板であれば、800℃程度のアニ−ルであってもすべての水素終端が外れてしまうため、水素終端後の半導体製造プロセスによって基板が酸化してしまう。このように、この実施形態の置換型終端は非常に安定であり、酸素による表面(界面)荒れを回避することが出来る。また、SiC基板中に酸素が入り込むことがないので、基板中の炭素原子がゲート絶縁膜中に拡散する心配もなくなり、基板SiCとゲート絶縁膜SiO2との相互拡散が発生しない。
【0016】
実施形態の置換型終端では、ギャップ中にあった、ダングリングボンドを消滅させることが出来ることが、計算により初めて分かった。つまり、例えば固定電荷となってMOSFETのチャネルを通る電子(或いはホ−ル)の移動度を低下させてしまう散乱源を消滅させることが出来ることになる。
【0017】
SiCのSi面は、図3の構造式ように、最表面にSi(黒丸)が並び、直ぐ下の面にC(白丸)が並んでいる。この最表面のSiが置換元素で置き換わった状態が実施形態の置換型終端である。この時の窒素の面密度は、1原子÷ユニットセルの面積=1÷(格子定数a×格子定数a×√3÷2)=1.22×1015/cm2となる。
【0018】
実施形態の置換型終端は安定で効果的なので、Si面のうち1割程度(面密度0.122×1015/cm2)を置換型終端とすると、酸化を抑えたり、相互拡散を抑えたりするという意味では、十分に有効である。従って、最表面のSiのうち1割以上を置換元素で置き換えた構造が好ましい。4割(面密度0.488×1015/cm2)以上を置換元素で置き換えれば、100%置き換えた場合(この場合が最も好ましい)に近い効果が得られることが分かっているので、更に好ましい。また、高い温度かつ高い置換元素(N、P、Asから選ばれた元素)分圧で終端処理した場合には、最表面Si層とその下層のC層の間にもN、P、Asから選ばれた置換元素をトラップすることができるようになる。その場合、Si−C−Si−Cという組み合わせに2つの元素(N、P、Asから選ばれた元素)をトラップすることが出来る。このトラップによって、トラップされた置換元素の面密度を1.22×1015/cm2とすることができる。つまり、元素の置換とトラップによって、面密度が2.44×1015/cm2にまで元素が導入される可能性がある。この置換元素トラップ構造も、置換元素は3配位となり安定であり、置換型終端を強化する構造と捕らえることも出来る。以上から、置換元素の面密度としては、0.122×1015/cm2以上、2.44×1015/cm2以下が好ましく、0.488×1015/cm2以上、1.22×1015/cm2以下が更に好ましい
【0019】
本実施形態の置換元素は、SiO2/SiC基板の界面丁度に存在することになる。SiO2側の置換元素、SiC基板側の置換元素とも、桁違いに少ないことが求められる。何故なら、SiO2側に置換元素があると、そこにトラップが出来るからである。またSiC側に上記のように多量に置換元素があると、n型化してしまうので、ノーマリーオンのMOS界面が出来てしまうからである。SiO2側、SiC基板側とも、チャネルに影響を及ぼさないようにするには、面密度にして、1.0×1012/cm2以下が望まれる。
【0020】
界面における膜厚方向の置換元素の面密度は、界面位置でピークを有することになり、ピークの膜厚方向分布の半値幅は1nm以下であり、より好ましくは、0.25nm以下である。ピークが界面丁度にあるなら、半値幅は0.05nm以上になる。よって、半値幅は0.05nm以上、1.0nm以下であり、より好ましくは、0.05nm以上、0.25nm以下である。
【0021】
また、実施形態の置換型終端を作る付加的なメリットとして、基板表面の「ステップ」や「荒れ」などはエッチングされて、処理前より平坦性の高いテラス構造が出来るようにすることも出来る。つまり、界面をより平坦な構造へと変化させることが可能となる。従来の水素終端では、水素終端が外れ、表面荒れが進行していたため、表面処理に意味は実質的に無かった。しかし、実施形態の方法では、絶縁膜形成過程で表面荒れが発生しないので、初期段階の表面平坦化が、最終的な基板/ゲート絶縁膜界面の平坦性にそのまま反映することになる。平坦性は、チャネルを通る電荷の散乱を防ぐ意味で、非常に有効である。
【0022】
従来の水素終端から出発して、熱酸化によりSiO2を作成した場合の移動度は、製膜直後で、100cm2/Vs程度である。しかし、電極作成プロセス、水素中アニールなどを経て得られる移動度は、10cm2/Vs程度まで落ちてしまう。また、電極プロセスなどを行った後に、NO、POCl3などによりアニールすることにより、移動度が向上して、40cm2/Vs、89cm2/Vsまで特性を向上させることが出来る。
【0023】
それに対して、図4に示すように横型のnMOSFET構造(図中のs、dはそれぞれソース、ドレインを意味する)を作り、移動度測定を行った。実施形態の方法に従って、SiC基板を置換元素により終端した後に、CVDにてSiO2を堆積製膜して、Niを製膜して、NiSiのサリサイドプロセスを通した後の時点で、窒素、燐、砒素終端のいずれの場合も、移動度を200cm2/Vs以上に高めることが出来ている。ここで、温度を20℃、プラズマ励起N原子(或いは、プラズマ励起P原子、プラズマ励起As原子でも同様)分圧を1.0Torr(1Torr=101325Pa/760=133.3223684Pa)、表面処理時間は60秒としている。全圧は、Neを導入し、10Torrとした。Si面を使った場合は、燐終端の場合が最も良く、移動度は250cm2/Vsに達している。これは、界面の荒れが起きていないこと、ゲート絶縁膜中に炭素由来の固定電荷が発生していないことが原因と考えられる。
【0024】
更に、SiC基板表面を平坦化させる工夫を取り入れると、移動度は、300cm2/Vs以上に高めることが出来る。平坦化には、温度と処理時間と、全圧が効いている。温度を100℃、プラズマ励起N原子(或いは、プラズマ励起P原子、プラズマ励起As原子でも同様)分圧を1.0Torr、表面処理時間を300秒に延長した。全圧は、Neを多く導入し、20Torrとした。
【0025】
また、実施形態の置換型終端は絶縁膜と安定した界面を形成することができる。そのため、SiC基板から絶縁膜中へのCの拡散を抑えることができるため、絶縁膜中のC濃度を0.5at%以下にすることができる。
【0026】
実施形態の置換型終端を実現するには、置換元素に大きなエネルギーを与え、SiC表面に置換元素が急激に到達しないようにして、かつ、置換元素がSiC基板内部に入り込まないようにすることが同時に必要である。今回、安定な終端構造を、ミクロに理解することが出来たため、実施形態の置換型終端構造を実現するためのプロセス工夫を見出すことができた。
【0027】
置換元素に大きなエネルギーを与えるには、N、P、Asなどを励起した形で導入することが有効である。例えば、N、N2、HN3、NF3、NCl3、P、P2、PH3、PF3、PCl3、As、As2、AsH3、AsF3、AsCl3などの酸素を含まない化合物の中から選ばれる1種以上の化合物を励起したガスを含む雰囲気下で終端処理を行う。この時、特に、酸素や水など、酸素原子の含有量を極力少なくする必要があるため、励起ガスには置換元素を含み酸素を含まない化合物を励起したガスを用いる。これらの励起ガスを用いると実施形態の3配位の置換型終端構造を得ることができる。酸素を添加すると、酸化が先行して始まってしまうため、酸化された表面は実施形態の終端構造にすること出来ない。精度の悪い原料ガスなどを用いると、処理雰囲気中に酸素原子が含まれることがあるが、終端を処理する雰囲気に多くても0.001ppm以下の酸素濃度に、高精度に精製した原料ガスを用いることが肝要である。終端処理で多く用いられているNOやN2Oによる窒素の導入やPOCl3によるPの導入などは、酸素を含んだ化合物を用いるため、実施形態の終端処理に用いることはできない。なお、励起の手段は特に問わない。典型的には、電界をかけてプラズマ状態にすれば良い。また、高温のW電極に高速で当てることで、高エネルギーの状態に励起する方法も有効である。
【0028】
ここで、NH3、NF3、NCl3などのように、H、F、Clなど最表面Siの一つのダングリングボンドを終端する物質を励起したガスに混入しても構わない。これらの化合物による終端構造よりも実施形態の置換型終端の方が安定であるので、H終端などが出来ても、実施形態の置換型終端へと進行していくためである。
【0029】
また、SiC表面に置換元素が急激に到達しないようにして、かつ、置換元素がSiC基板内部に入り込まないようにすることに関連して、重要となるのが、上記励起窒素などの移動できる平均距離(平均自由工程)を短くすることである。出来る限り低温にすること、そして、Ar、He、Ne、Kr,Xeなどの不活性ガスによって希釈することである。基本的には、出来る限り低温、低圧雰囲気での表面処理がベストである。これらが高いと、表面内部に窒素が入り込み、表面近傍の窒化が始まってしまう。また、Heなどで希釈することで、励起Nなどの活性は生かしつつ、あまり動き回れないようにする。更に、Heなどは、表面の空きスペースとも言うべき、H3サイトを覆ってくれるので、窒素原子などがH3サイトから奥に向かって入り込むことを阻止してくれる効果もある。
【0030】
具体的には、温度を0℃以上200℃以下、励起置換ガス分圧を0.1Torr以上2.0Torr以下、全圧を2.0Torr以上20Torr以下、表面処理時間は10秒以上600秒以下とすれば実現できる。励起置換ガス分圧は低く、かつ、十分な量のHeなどの希釈ガスが存在する方が良いので、励起置換ガス分圧/(希釈ガス分圧+励起置換ガス分圧)=0.005以上0.1以下であることが好ましい。
【0031】
具体的には、温度を20℃、プラズマ励起N原子分圧を1.0Torr、全圧は、Neを導入し、10Torr、表面処理時間は60秒。この時、励起N分圧/(希釈ガス分圧+励起N分圧)=0.1である。
【0032】
さらに、上記の条件の中で、高温、高い励起置換ガス分圧、かつ長い処理時間にて終端処理を行うと、実施形態の終端処理だけでなく処理面の平坦化も行うことができる。
【0033】
表面平坦化には、温度を100℃以上200℃以下、励起置換ガス分圧は同様に0.1Torr以上2.0Torr以下、全圧を10Torr以上20Torr以下、表面処理時間は200秒以上600秒以下とすれば実現できる。全圧は高く、かつ、十分な量のHeなどの希釈ガスが存在する方が良いので、励起置換ガス分圧/(希釈ガス分圧+励起置換ガス分圧)=0.005以上0.1以下であることが好ましい。
また、上記条件によって終端処理を行うと、SiC基板の最表面の下層にあるSi−C−Si−Cの格子間にトラップされた置換元素の面密度を高めることができる。
【0034】
平坦化には、温度と処理時間と、全圧が効いている。具体的には、温度を100℃、プラズマ励起N原子分圧を1.0Torr、表面処理時間は300秒。全圧は、Neを多く導入し、20Torrとした。この時、励起N分圧/(希釈ガス分圧+励起N分圧)=0.05である。
【0035】
なお、実施形態の置換型終端にかかる処理を手動設定して行ってもよいし、自動化するシステムを半導体製造装置に組み込んでもよい。
【0036】
ここで、Si面に関して、窒素、燐、砒素による終端の安定度の順番を計算から調べると、P、N、Asの順番であった。Si面は、P終端がベストであり、N、As終端が続く。
【0037】
以上は、SiC基板、Si面について考察したが、C面についても同様の考察が出来る。大きな違いは、C面の最表面元素であるCを置換元素に置換して置換型終端にすることによって、Si面よりも安定な置換型終端を形成することができることである。C面の置換型終端も、基板に三本のボンドで結合しているため、著しく安定である。結合エネルギーにして、12eV以上であり、一旦出来た置換型終端は非常に安定であることが分かる。あとは、同様であった。C面に関して、窒素、燐、砒素による終端の安定度の順番を計算から調べると、N、P、Asの順番であった。C面は、N終端がベストであり、P、As終端が続く。
【0038】
A面についても同様の考察が出来る。大きな違いは、最表面にSiとCの両方が存在していることである。この構造は、基板に三本のボンドで結合していることは同じであるため、A面の置換型終端もやはり著しく安定である。結合エネルギーにして、10eV以上であり、一旦出来た置換型終端は非常に安定であることが分かる。あとは、同様であった。A面に関して、窒素、燐、砒素による終端の安定度の順番を計算から調べると、N、P、Asの順番であったが、N終端とP終端はほぼ同等であった。更に詳細に調べてみると、SiをPで置換し、CをNで置換した場合が最も安定であった。つまり、N量とP量を同等に供給することで、最安定な終端構造が出来ることがわかる。この状態が一番安定であるので、例えば励起Nと励起Pを同等量だけ導入して表面処理を行えば、N量とP量とが1:1で表面終端した構造が出来ると考えてよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により実施形態の半導体素子を具体的に説明する。
実施例において、以下の特徴を備えたMOSFETとIGBTを例に説明する。
実施形態の半導体素子は、n型又はp型の半導体基板と、前記半導体基板上に形成されたn型の第1半導体層とで構成されたSiC基板と、前記SiC基板表面に形成されたp型の第1半導体領域と
前記第1半導体領域の前記SiC基板表面に露出するように形成されたn型の第2半導体領域と、前記第1半導体領域の前記SiC基板表面に露出するように形成されたp型の第3半導体領域と、前記第1半導体領域の前記SiC基板表面に露出するように形成されたn型の第4半導体領域と前記第1半導体層及び前記第1半導体領域の前記SiC基板表面側に、前記第2半導体領域をまたがるように形成されたゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜上に形成された第1電極と、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域とオーミック接合をなす第2電極と、前記SiC基板の前記半導体基板側の面(裏面)に形成された第3電極と、を備え、前記SiC基板と前記ゲート絶縁膜の界面において、前記SiC基板の最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素が窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換されたことを特徴とする。
【0040】
上記半導体素子がMOSFETの場合は、第1電極は、ゲート電極であり、第2電極は、ソース電極であり、第3電極は、ドレイン電極である。
上記半導体素子がIGBTの場合は、第1電極は、ゲート電極であり、第2電極は、エミッタ電極であり、第3電極は、コレクタ電極である。
【0041】
また、実施形態の半導体素子の製造方法は以下の特徴を備える。
半導体素子の製造方法は、SiC基板を、窒素、燐と砒素の中から選ばれる1種以上元素を含む化合物を励起したガスを含む雰囲気で処理し、前記処理したSiC基板の面にゲート絶縁膜を形成し、前記雰囲気の酸素濃度が0.001ppm以下で、前記雰囲気の全圧が2.0Torr以上20Torr以下で、前記雰囲気のうち前記励起ガスの分圧が全圧の1/200以上1/10以下であり、前記処理の温度が0℃以上200℃以下であることを特徴とする。
【0042】
(実施例1)
図5は、本発明の第1の実施形態の高耐圧半導体素子を示す断面概念図である。図5を参照して、本発明による半導体素子1は、縦型DiMOSFET(DoubleImplanted Metal−Oxide−Semiconductor Field−effect Transistor)であって、n型基板21、n型の第1半導体層22、p型の第1半導体領域23、n型の第2半導体領域24、p型の第3半導体領域25、p型のチャネル領域26、酸化膜27、ソース電極11、ゲート電極10および基板21の裏面側に形成されたドレイン電極12を備える。
【0043】
具体的には、導電型がnの炭化ケイ素(SiC)からなるn型基板21の表面上には、n−エピタキシャル層であるn型の第1半導体層22が形成されている。n型の第1半導体層22は、導電型がn型の炭化ケイ素からなり、例えばその厚みは10μmである。また、SiCエピタキシャル成長層としてのn型の第1半導体層22におけるn型の導電性不純物である窒素の濃度としては、5×1015/cm3という値を用いることができる。
【0044】
このn型の第1半導体層22の表面層には、導電型がp型の第1半導体領域23が互いに間隔を隔てて形成されている。第1半導体領域23の内部においては、第1半導体領域23の表面層にn+型であるn型の第2半導体領域24が形成されている。また、この第2半導体領域24に隣接する位置には、p+型であるp型の第3半導体領域25が形成されている。第2半導体領域24から第1半導体層22に向かう部分26が、ゲート電極10への電圧印加によって電流の流れオンオフが起こるチャネルとなる。
【0045】
一方の第2半導体領域24上から、第1半導体領域23、2つの第1半導体領域23の間において露出する第1半導体層22、他方の第1半導体領域23、および、他方の第2半導体領域24上にまで、絶縁膜としてのゲート絶縁膜27が形成されている。第3半導体領域25上にはゲート絶縁膜27は形成されていない。
【0046】
このゲート絶縁膜27を作成する前の第1半導体領域23の表面を実施形態にかかる置換型終端処理を行うことで、半導体素子の特性の向上を図っている。
【0047】
ゲート絶縁膜27上にはゲート電極10が形成されている。また、第2半導体領域24および第3半導体領域25上にはソース電極11が形成されている。そして、n型基板21の裏面には、ドレイン電極12が形成されている。
【0048】
図6〜9に詳細な作成プロセスの概念図を示す。
まず、(0001)面(Si面)の六方晶系SiC基板(4H−SiC基板)を基板21として準備する。基板の導電型不純物の濃度は、例えば、6×1017/cm3といった値のものを準備する。
【0049】
次に、n型基板21上にn型の第1半導体層22を形成する。このn型の第1半導体層22としては、導電型がn型の炭化ケイ素からなる層をエピタキシャル成長法によって形成する。このエピタキシャル層形成工程においては、原料ガスとしてたとえばSiH4ガスおよびC3H8ガスを用いることができる。このようにして、図6の概念図に示すような構造を得る。
【0050】
このn型の第1半導体層22の厚みとしては、たとえば10μmといった値を用いることができる。また、このn型の第1半導体層22におけるn型の導電性不純物の濃度としては、たとえば5×1015/cm3といった値を用いることができる。また、n型の第1半導体層22の厚みは0.5μm以上20μm以下としてもよい。
【0051】
次に、イオン注入工程を実施する。具体的には、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成した酸化膜をマスクとして用いて、導電型がp型の不純物を第1半導体層22に注入することにより、第1半導体領域23を形成する。また、用いた酸化膜を除去した後、再度新たなパタ−ンを有する酸化膜を、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成する。そして、図7の概念図に示すように当該酸化膜をマスクとして、n型の導電性不純物を所定の領域に注入することにより、第2半導体領域24を形成する。また、同様の手法を用いて、導電型がp型の導電性不純物を注入することにより、第3半導体領域25を形成する。
【0052】
なお、上記第1半導体領域23における導電性不純物の濃度は、例えば、1×1016/cm3とすることが出来る。Alイオンの注入の条件としては、例えば、1×1015/cm2、80keVとすることができる。ここでは、300℃に基板を加熱した。上記第1半導体領域23における導電性不純物の濃度は、1×1013/cm3以上5×1017/cm3以下とすることができるが、より好ましくは1×1015/cm3以上5×1016/cm3以下とすることができる。チャネル領域26を含んでいるので、閾値を安定化させ、移動度を大きくすることが求められる。それ故、あまり高濃度のドープはしない。
【0053】
また、上記第2半導体領域24における導電性不純物の濃度は、例えば、5×1016/cm3とすることが出来る。Nイオンの注入の条件としては、例えば、1×1015/cm2、40keVとすることができる。ここでは、300℃に基板を加熱した。上記第2半導体領域24における導電性不純物の濃度は、1×1014/cm3以上1×1018/cm3以下とすることができるが、より好ましくは5×1015/cm3以上5×1017/cm3以下とすることができる。
【0054】
同様に、上記第3半導体領域25における導電性不純物の濃度は、例えば、5×1016/cm3とすることが出来る。Alイオンの注入の条件としては、例えば、1×1015/cm2、40keVとすることができる。ここでは、300℃に基板を加熱した。上記第3半導体領域25における導電性不純物の濃度は、1×1014/cm3以上1×1018/cm3以下とすることができるが、より好ましくは5×1015/cm3以上5×1017/cm3以下とすることができる。
【0055】
注入工程の後、活性化アニール処理を行なう。この活性化アニール処理としては、たとえばアルゴンガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度1600℃、加熱時間30分といった条件を用いることができる。このようにして、図7に示す構造を得る。この時、SiC内部に導入されたドーパントの活性化が実現できるが、殆ど拡散はしない。
【0056】
次に、SiC基板20の表面処理を行う。ここで言う表面とはSiC基板20のうち、後にゲート絶縁膜27を成膜する面であるp領域23が形成された面を意味する。具体的には、温度を20℃、プラズマ励起N原子分圧を1.0Torr、全圧は、Neを導入し、10Torr、表面処理時間は60秒での表面処理を行った。この時、励起N分圧/(希釈ガス分圧+励起N分圧)=0.1である。
【0057】
この表面処理を終えた後、ゲート絶縁膜形成工程を実施する。具体的には、第1半導体層22、第1半導体領域23、第2半導体領域24、第3半導体領域25の全体に覆うようにゲート絶縁膜27を形成する。このゲート絶縁膜27を形成するために、たとえば電子ビ−ムによる蒸着により行った。その他、CVD法、スパッタ−法など、様々な方法により行うことが出来る。また、酸化膜は高誘電体膜(Al2O3、HfO2、HfON、HfSiONなど)でも良い。また、SiO2膜と上記高誘電体膜との積層膜も有効である。続いて、1050℃、N2/Ar中、加熱時間1分という条件にて、酸化膜を緻密化する。こうして、図8の概念図に示す構造を得る。
【0058】
次に、電極形成工程を実施する。具体的には、上記ゲート絶縁膜27上にフォトリソグラフィ法を用いてパターンを有するレジスト膜を形成する。当該レジスト膜をマスクとして用いて、第2半導体領域24およびp+領域25上に位置するゲート絶縁膜27の部分をエッチングにより除去する。この後、レジスト膜上および当該ゲート絶縁膜27に形成された開口部内部において第2半導体領域24および第3半導体領域25とオーミック接合するように金属などの導電体膜を形成する。その後、レジスト膜を除去することにより、当該レジスト膜上に位置していた導電体膜を除去(リフトオフ)する。
【0059】
ここで、導電体としては、たとえばNiSiを用いることができる。この結果、図9に示すように、ソース電極11を得ることができる。
【0060】
その後、ゲート絶縁膜としてのゲート絶縁膜27上にゲート電極10を形成する。例えば、n型ポリシリコンなどで良い。また、ソース電極もn型ポリシリコンとして、ソース電極、ゲート電極とも、Niをつけることで、NiSiのサリサイドプロセスにすることも可能である。また、低抵抗化のために、ポリシリコンのフルシリサイド化も有効である。
【0061】
また、n型基板21の裏面上にドレイン電極12(図5参照)を形成する。このようにして、図5の概念図に示す半導体素子を得ることができる。ここで、裏面電極に関して、従来の電極構成、例えば、Ni電極などを使うと、800℃を越える、高温過程(800℃〜1600℃)が必要になる。しかし、実施形態の半導体素子では、SiC/絶縁膜界面が強固であるため、1600℃の裏面電極形成プロセスを通しても全く問題が生じない。
【0062】
本実施例では、SiC/ゲート絶縁膜の界面を作成するに際し、SiC表面を前もって窒素終端している。その結果、(1)十分に低い界面準位(1×109/cm2オーダー)、(2)界面ラフネスの低減(TEM像では、チャネル領域全体に亘り、1モノレイヤーオーダーで平坦になっている)(3)Cの絶縁膜への放出回避(絶縁膜中の炭素濃度は、0.0001at%以下であった)。
【0063】
更にSiO2/SiC界面の窒素分布をSIMSにて調べると、丁度界面に於いて半値幅はおよそ0.2nmのピークを有しており、その濃度は1.0×1015/cm2であった。また、SiO2側の窒素濃度、SiC基板側の窒素濃度は、1012/cm2以下にまで急激に減少していることが分かった。
【0064】
その結果、移動度が大きく向上しており、225cm2/Vsであった。また、絶縁特性が大きく向上しており、ゲートリークが殆ど起こらないことが確認できた。更に、TDDB(300℃という高温で、数時間、MV/cmオーダーの高電界を印加しても、絶縁膜の破壊は全く起こらなかった)、BTI(動作時の閾値シフトは殆どない)などの信頼性も大きく向上していた。
【0065】
(変形例1)
次に図11の概念図に示すようにp+型であるp型の第3半導体層28をエピタキシャル成長させる。厚さはたとえば0.6μmで基板側の0.4μmの濃度はたとえば4×1017/cm3で、表面側の0.2μmの濃度はたとえば1×1016/cm3である。p型不純物はたとえばアルミニウムを用いる。
【0066】
次に図12の概念図に示すようにイオン注入マスク13を形成する。たとえばポリシリコン膜を成長させ、所定のレジストマスクプロセスを経た後、ポリシリコン膜のパターニングを行う。その際ポリシリコンのエッチング条件を異方性の強い条件たとえばリアクティブイオンエッチングで形成する。エッチングが異方的であるためマスクは矩形にパターニングされる。このイオン注入マスクを用いて窒素をイオン注入し、p+エピ層をn型に転換させてn型の第4半導体領域29として下地のn−エピ層につなげる。また、第3半導体層28のうち、マスクによってn型に転換されなかった領域をp型の第1半導体領域23とする。
【0067】
次に図13に示すようにマスクとイオン注入プロセスにより第2半導体領域24と第3半導体領域25には、それぞれNとAlをイオン注入により導入する。
この表面に窒素終端処理を行い、MOS構造を作成する。
SiO2/SiC界面の窒素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0068】
最後にゲート酸化とゲート電極形成後、所定の電極配線工程を経て図14の半導体素子が完成する。本実施例の変形例ではMOSチャネル領域26をイオン注入する必要がないためイオン注入起因の順方向特性劣化が防げることが利点である。
【0069】
(変形例2)
励起Nの代わりに、PH3(化合物)をプラズマ励起した励起Pを用いてSiC基板の表面処理を行ったこと以外は実施例1と同様である。
本実施例の半導体素子も安定性の高い置換型終端構造を実現する事ができる。移動度は窒素置換した場合よりも特性が良く、250cm2/Vsに達した。Pで終端を置換することで、窒素による終端処理よりも界面荒れが少なく、ゲート絶縁膜中に炭素由来の固定電荷がより発生し難いことが原因として挙げられる。
更にSiO2/SiC界面のP分布をSIMSにて調べると、丁度界面に於いて半値幅はおよそ0.2nmのピークを有しており、その濃度は0.9×1015/cm2であった。また、SiO2側のP濃度、SiC基板側のP濃度は、1012/cm2以下にまで急激に減少していることが分かった。
【0070】
(変形例3)
励起Nの代わりに、AsH3(化合物)をプラズマ励起した励起Asを用いてSiC基板の表面処理を行ったこと以外は実施例1と同様である。
本実施例の半導体素子も安定性の高い置換型終端構造を実現する事ができる。移動度は窒素置換した場合と同程度の200cm2/Vsに達した。
更にSiO2/SiC界面のAs分布をSIMSにて調べると、丁度界面に於いて半値幅はおよそ0.2nmのピークを有しており、その濃度は1.0×1015/cm2であった。また、SiO2側のAs濃度、SiC基板側のAs濃度は、1012/cm2以下にまで急激に減少していることが分かった。
【0071】
(変形例4)
終端処理において、処理温度を100℃、プラズマ励起N(或いは、プラズマ励起P、プラズマ励起As)の分圧を1.0Torr、表面処理時間を300秒、Neを多めに導入し全圧を20Torrにしたこと以外は、実施例1、変形例2,3と同様である。終端処理の温度と全圧を上げることによって、SiC基板処理面のエッチングも併せて行うことができ、処理面が平坦化する。処理面が平坦化することで、界面の荒れがさらに減少し、移動度は300cm2/Vs以上に高めることができる。プラズマ励起Nの場合は、320cm2/Vs、プラズマ励起Pの場合は、350cm2/Vs、プラズマ励起Nの場合は、300cm2/Vsが得られる。SiO2/SiC界面の窒素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0072】
(変形例5)
終端処理するSiCの面方位が(000−1)面(C面)であること以外は実施例1、変形例2〜4と同様である。C面の終端処理を行うと、最表面のCを置換元素で終端処理することができる。C面を窒素で終端処理すると、Si面を窒素で終端処理したものに比べ安定した終端構造を得ることができ、終端の結合エネルギーは12eVとなる。
C面では、元々移動度がSi面に比べて高く出来るが、それを反映して、プラズマ励起Nの場合は、300cm2/Vs、プラズマ励起Pの場合は、275cm2/Vs、プラズマ励起Nの場合は、220cm2/Vsが得られる。更に平坦化できるプロセスを用いれば、プラズマ励起Nの場合は、400cm2/Vs、プラズマ励起Pの場合は、375cm2/Vs、プラズマ励起Nの場合は、320cm2/Vsに達する。SiO2/SiC界面の置換元素分布をSIMSにて調べたが、実施例1、変形例2〜4と同等であった。
【0073】
(変形例6)
終端処理するSiCの面方位が(11−20)面(A面)であり、励起Nの代わりに、NH3(化合物)とPH3(化合物)を1:1で分圧がそれぞれ1.0Torrになるように用いたこと以外は実施例1と同様である。A面の終端処理を行うと、最表面のSiとCを置換元素で終端処理することができる。この場合の、終端の結合エネルギーは10eVとなる。この時、270cm2/Vsの移動度が得られる。更に平坦化できるプロセスを用いれば、370cm2/Vsに達する。SiO2/SiC界面の置換元素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0074】
(実施例2)
実施例1と同様のプロセスだが、基板をp型とすることで、絶縁バイポーラートランジスタIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とすることが出来る。実施例1のDiMOSFETとプロセスは同一でよい。
【0075】
ここで、実施例1のDiMOSFETでは、ソース電極11であった部分がエミッタ電極33となり、ドレイン電極12であった部分がコレクタ電極34となる。
【0076】
図15は、実施例2にかかる高耐圧半導体素子の断面図を示している。実施例1とは異なり、p+型であるp型基板31上にn型の第1半導体層32をエピタキシャル成長によって形成する。p型基板31にはp型不純物としてAlが含まれておりその濃度は例えば6×1017/cm3である。厚さは例えば300μmである。基板の厚みはCMPなどによって厚みを調整してもよい。第1半導体層32にはn型不純物として窒素が含まれておりその濃度は例えば5×1015/cm3である。厚さは例えば10μmである。
【0077】
このようにして、実施例2では、高性能のIGBTを得ることができた。バイポーラー動作になるため、伝導度変調が起こり、オン抵抗が小さくなる。その結果、実施例1のDiMOSFETに比べて、通電能力を大幅に高めることが出来る。
SiO2/SiC界面の置換元素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0078】
(変形例7)
図16に変形例7の半導体素子の概念図を示す。SiC基板上に第1半導体層をエピタキシャル成長させる前に、SiC基板上にn+型であるn型第2半導体層35をエピタキシャル成長させ、第2半導体層35上に第1半導体層32をエピタキシャル成長させたこと以外は実施例2と同様である。例えば、第2半導体層35を1μmとする。
第2半導体層35にはn型不純物として窒素が含まれておりその濃度は例えば5×1016/cm3である。第2半導体層35を導入することで、IGBTのオン・オフの切り替えを素早く行うことが出来るようになる。またオフ時のリークも減らせるので、IGBT高速動作時の消費電力低下に大きな役割を演じる。
SiO2/SiC界面の置換元素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0079】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態そのままに限定解釈されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成することができる。例えば、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0080】
1…実施例1にかかる半導体素子の概念図
2…変形例1にかかる半導体素子の概念図
3…実施例2にかかる半導体素子の概念図
4…変形例7にかかる半導体素子の概念図
10…ゲート電極
11…ソース電極
12…ドレイン電極
13…ポリシリコン
20…SiC基板
21…n型基板
22…n型の第1半導体層
23…p型の第1半導体領域(s:ソース、d:ドレイン)
24…n型の第2半導体領域
25…p型の第3半導体領域
26…チャネル間領域
27…ゲート絶縁膜
28…n型の第4半導体領域
30…SiC基板
31…p型基板
32…n型の第1半導体層
33…エミッタ電極
34…コレクタ電極
35…n型の第2半導体層
【技術分野】
【0001】
半導体素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体SiCを用いたMOSFETのSiC基板/SiO2絶縁膜界面を作成するに際し、半導体SiC基板表面に水素終端を施し、表面酸化を行うこと、或いは、絶縁膜を堆積製膜することで、SiO2絶縁膜を形成している。この時、SiC基板表面の水素終端は簡単に外れ、酸素が基板の内側に入り込み酸化が進行する。
【0003】
SiC基板表面の酸化は、表面近傍のSi−Cボンド間に酸素が入り込み、ボンド間2配位の酸素が形成されることで起こると考えられる。この時、最表面の元素の裏側には幾つものボンド(バックボンドと呼ぶことにする)が存在するので、表面近傍、或いは、奥行き方向に、ランダムに酸素が入り込むことになり、界面が酸化とともに荒れてしまう。酸素が存在する以上、この事実を変えることは出来ず、SiO2絶縁膜の形成段階から界面が荒れ始めることになる。更に、SiC基板では、炭素原子がCOなどの形で放出され、SiO2絶縁膜中に炭素原子が拡散してしまうことになる。このように、従来のように水素終端したSiC基板上に、直接的に酸化膜を形成すると、(1)表面の荒れ、(2)界面ダングリングボンドの増加、(3)基板構成炭素の絶縁膜への拡散という、3つの問題が発生してしまう。これらの3つの問題は、SiO2膜形成の場合だけではなく、酸化物絶縁膜(例えば、Al2O3、HfO2、HfAlOなど)や酸窒化物絶縁膜(例えばAlON、HfSiONなど)を形成する場合であっても同様に発生してしまう問題である。この問題は、水素終端が外れて活性になったSiC表面に、酸素が到達することによって、発生する問題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Dai Okamoto et al. IEEE Electron Device Letters.,vol.31,no.7,pp.710−712,July 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、このような問題点に鑑みて成されたものであり、十分に強いSiC基板表面の終端構造、その作成方法、及びそれを用いた半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の半導体素子は、半導体SiC基板と、前記半導体SiC基板上に形成されたゲート絶縁膜とを少なくとも具備し、前記SiC基板と前記ゲート絶縁膜の界面において、前記SiC基板の最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素の一部が窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換されたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】SiC基板のSi面を窒素終端したSi面のバンド構造である。
【図2】SiC基板のC面を窒素終端したC面のバンド構造である。
【図3】SiC基板のSi面の構造式である。
【図4】横型nMOSFETの概念図である。
【図5】実施例1にかかる半導体装置の概念図である。
【図6】実施例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図7】実施例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図8】実施例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図9】実施例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図10】実施例1にかかる界面と面密度との関係図である。
【図11】変形例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図12】変形例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図13】変形例1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す概念図である。
【図14】変形例1にかかる半導体装置の製造の概念図である。
【図15】実施例2にかかる半導体装置の製造の概念図である。
【図16】変形例7にかかる半導体装置の製造の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
SiC基板の(0001)面、即ちSi面では、最表面のSiは3つのCとバックボンドでつながっており、表面には一つのダングリングボンドを持っている。従来は、このダングリングボンドを、表面HF処理により水素終端する。
【0009】
われわれは、従来用いている水素終端よりも安定な表面終端構造を見出すべく、様々な終端物質と終端構造の組み合わせを、第一原理計算を用いて考察した。ここで、第一原理計算は、局所密度近似による密度汎関数法に基づいている。Siはノルム保存擬ポテンシャル、C、N、P、Asなど、Si以外の物質は、バンダ−ビルトらによって開発された、ウルトラソフト擬ポテンシャルを用いている。裏面は水素終端構造として、Si面の表面構造を作り、安定構造を計算により求めた。同様にして、(000−1)面、即ちC面の計算、及び、(11−20)面、即ちA面の計算も行った。Si面の終端構造の説明を行い、その後、C面、A面の終端構造について記述する。C面、A面については、Si面との違いを中心に説明を行う。
【0010】
Si面での計算の結果、ダングリングボンドを終端処理するのではなく、最表面SiをN(窒素)、P(燐)又はAs(砒素)によって置換することによって、非常に安定化することを初めて見出した。最表面Siを上記元素によって置換すると、置換する元素の3本のボンドはそれぞれ最表面Siが結合していたCと結合するため、安定かつ反応性の低い面が形成される。
実施形態の終端構造が出来ると、表面は安定化する理由は、ダングリングボンドにあった電子が、価電子帯にまで落ちてくるためである。
【0011】
以下、Siを置換する窒素、燐又は砒素を置換元素と記載し、特に記載が無い限り、2種類以上の元素の組み合わせも置換元素に含む。また、実施形態の終端構造は、最表面Si原子を置換することで得られる終端構造であるので、最表面格子点置換型終端(略して置換型終端)と呼ぶことにする。
【0012】
従来、Si面において、窒素は、3つの最表面Siの中心位置(H3サイトと呼ばれている)に物理吸着すると言われていた。この時、最表面Siのダングリングボンドはそのボンド方向が、大きく歪んでしまうため、実のところ、それ程安定では無い。そして、同等のH3サイトの間を1.0eV程度の障壁を持って、簡単にホッピングしてしまうことが分かっている。つまり、この物理吸着した表面構造は、終端構造としては、不安定であり、酸素があれば、表面酸化が始まってしまう。特に問題なのは、表面のカバレッジが低いことである。カバレッジが低いことから、カバーしきれない弱い部分が出来てしまい、実施形態の置換型終端に比較して、著しく耐酸化性が弱い。H3サイトへの窒素の吸着のエネルギーは水素終端と殆ど変わりなく、数eVである。つまり、水素終端並みという並の利得であり、水素終端よりもカバレッジが低いので、ト−タルでは、水素終端よりも耐酸化性は弱い。
【0013】
実施形態の置換型終端は、置換元素が基板に3本のボンドで結合しているため、従来の水素終端(水素終端は1本のボンドで結合している)に比べて、著しく安定である。従って、置換元素がホッピングして表面を動き回れるようなことはない。また、H3位置に比べて、3倍の面密度でNが結合しており、Si面がより強く終端出来る。水素終端に比べ、結合が数倍で、カバレッジが同等となる。この構造を作るには、最表面Siと置換元素とを反応させて、置き換える必要があるが、置換することで、エネルギー的に安定化するので、一旦出来てしまえば非常に安定である。
【0014】
図1に、窒素終端したSi面のバンド構造を示す。同様に図2は窒素終端したC面のバンド構造である。計算によると、結合エネルギーにして、7eV以上であり、一旦出来た置換型終端は非常に安定であることが分かる。水素終端のSi−Hの結合エネルギーは数eVであり、実施形態の置換型終端よりも結合エネルギーが非常に低い。また、他の置換元素によって終端したバンド構造や、置換元素によって終端したA面のバンド構造も、図示しないが、同様に結合エネルギーが高く、置換型終端は非常に安定している。
【0015】
実施形態の置換型終端は、表面を密に覆い、ダングリングボンドを減らすことから、表面での反応性が非常に低くなくなる。そのため、終端後に、表面近傍が高温になる処理(例えばSiCのMOSFETのゲート酸化膜を焼き固めるための1050℃の高温プロセス、或いは、ソース領域などのドーパントを活性化するための1600℃のアニールプロセスなど)にて、酸素がSiC基板近傍に来ても、基板と酸素の反応は非常に起こりにくい。水素終端処理を施した基板であれば、800℃程度のアニ−ルであってもすべての水素終端が外れてしまうため、水素終端後の半導体製造プロセスによって基板が酸化してしまう。このように、この実施形態の置換型終端は非常に安定であり、酸素による表面(界面)荒れを回避することが出来る。また、SiC基板中に酸素が入り込むことがないので、基板中の炭素原子がゲート絶縁膜中に拡散する心配もなくなり、基板SiCとゲート絶縁膜SiO2との相互拡散が発生しない。
【0016】
実施形態の置換型終端では、ギャップ中にあった、ダングリングボンドを消滅させることが出来ることが、計算により初めて分かった。つまり、例えば固定電荷となってMOSFETのチャネルを通る電子(或いはホ−ル)の移動度を低下させてしまう散乱源を消滅させることが出来ることになる。
【0017】
SiCのSi面は、図3の構造式ように、最表面にSi(黒丸)が並び、直ぐ下の面にC(白丸)が並んでいる。この最表面のSiが置換元素で置き換わった状態が実施形態の置換型終端である。この時の窒素の面密度は、1原子÷ユニットセルの面積=1÷(格子定数a×格子定数a×√3÷2)=1.22×1015/cm2となる。
【0018】
実施形態の置換型終端は安定で効果的なので、Si面のうち1割程度(面密度0.122×1015/cm2)を置換型終端とすると、酸化を抑えたり、相互拡散を抑えたりするという意味では、十分に有効である。従って、最表面のSiのうち1割以上を置換元素で置き換えた構造が好ましい。4割(面密度0.488×1015/cm2)以上を置換元素で置き換えれば、100%置き換えた場合(この場合が最も好ましい)に近い効果が得られることが分かっているので、更に好ましい。また、高い温度かつ高い置換元素(N、P、Asから選ばれた元素)分圧で終端処理した場合には、最表面Si層とその下層のC層の間にもN、P、Asから選ばれた置換元素をトラップすることができるようになる。その場合、Si−C−Si−Cという組み合わせに2つの元素(N、P、Asから選ばれた元素)をトラップすることが出来る。このトラップによって、トラップされた置換元素の面密度を1.22×1015/cm2とすることができる。つまり、元素の置換とトラップによって、面密度が2.44×1015/cm2にまで元素が導入される可能性がある。この置換元素トラップ構造も、置換元素は3配位となり安定であり、置換型終端を強化する構造と捕らえることも出来る。以上から、置換元素の面密度としては、0.122×1015/cm2以上、2.44×1015/cm2以下が好ましく、0.488×1015/cm2以上、1.22×1015/cm2以下が更に好ましい
【0019】
本実施形態の置換元素は、SiO2/SiC基板の界面丁度に存在することになる。SiO2側の置換元素、SiC基板側の置換元素とも、桁違いに少ないことが求められる。何故なら、SiO2側に置換元素があると、そこにトラップが出来るからである。またSiC側に上記のように多量に置換元素があると、n型化してしまうので、ノーマリーオンのMOS界面が出来てしまうからである。SiO2側、SiC基板側とも、チャネルに影響を及ぼさないようにするには、面密度にして、1.0×1012/cm2以下が望まれる。
【0020】
界面における膜厚方向の置換元素の面密度は、界面位置でピークを有することになり、ピークの膜厚方向分布の半値幅は1nm以下であり、より好ましくは、0.25nm以下である。ピークが界面丁度にあるなら、半値幅は0.05nm以上になる。よって、半値幅は0.05nm以上、1.0nm以下であり、より好ましくは、0.05nm以上、0.25nm以下である。
【0021】
また、実施形態の置換型終端を作る付加的なメリットとして、基板表面の「ステップ」や「荒れ」などはエッチングされて、処理前より平坦性の高いテラス構造が出来るようにすることも出来る。つまり、界面をより平坦な構造へと変化させることが可能となる。従来の水素終端では、水素終端が外れ、表面荒れが進行していたため、表面処理に意味は実質的に無かった。しかし、実施形態の方法では、絶縁膜形成過程で表面荒れが発生しないので、初期段階の表面平坦化が、最終的な基板/ゲート絶縁膜界面の平坦性にそのまま反映することになる。平坦性は、チャネルを通る電荷の散乱を防ぐ意味で、非常に有効である。
【0022】
従来の水素終端から出発して、熱酸化によりSiO2を作成した場合の移動度は、製膜直後で、100cm2/Vs程度である。しかし、電極作成プロセス、水素中アニールなどを経て得られる移動度は、10cm2/Vs程度まで落ちてしまう。また、電極プロセスなどを行った後に、NO、POCl3などによりアニールすることにより、移動度が向上して、40cm2/Vs、89cm2/Vsまで特性を向上させることが出来る。
【0023】
それに対して、図4に示すように横型のnMOSFET構造(図中のs、dはそれぞれソース、ドレインを意味する)を作り、移動度測定を行った。実施形態の方法に従って、SiC基板を置換元素により終端した後に、CVDにてSiO2を堆積製膜して、Niを製膜して、NiSiのサリサイドプロセスを通した後の時点で、窒素、燐、砒素終端のいずれの場合も、移動度を200cm2/Vs以上に高めることが出来ている。ここで、温度を20℃、プラズマ励起N原子(或いは、プラズマ励起P原子、プラズマ励起As原子でも同様)分圧を1.0Torr(1Torr=101325Pa/760=133.3223684Pa)、表面処理時間は60秒としている。全圧は、Neを導入し、10Torrとした。Si面を使った場合は、燐終端の場合が最も良く、移動度は250cm2/Vsに達している。これは、界面の荒れが起きていないこと、ゲート絶縁膜中に炭素由来の固定電荷が発生していないことが原因と考えられる。
【0024】
更に、SiC基板表面を平坦化させる工夫を取り入れると、移動度は、300cm2/Vs以上に高めることが出来る。平坦化には、温度と処理時間と、全圧が効いている。温度を100℃、プラズマ励起N原子(或いは、プラズマ励起P原子、プラズマ励起As原子でも同様)分圧を1.0Torr、表面処理時間を300秒に延長した。全圧は、Neを多く導入し、20Torrとした。
【0025】
また、実施形態の置換型終端は絶縁膜と安定した界面を形成することができる。そのため、SiC基板から絶縁膜中へのCの拡散を抑えることができるため、絶縁膜中のC濃度を0.5at%以下にすることができる。
【0026】
実施形態の置換型終端を実現するには、置換元素に大きなエネルギーを与え、SiC表面に置換元素が急激に到達しないようにして、かつ、置換元素がSiC基板内部に入り込まないようにすることが同時に必要である。今回、安定な終端構造を、ミクロに理解することが出来たため、実施形態の置換型終端構造を実現するためのプロセス工夫を見出すことができた。
【0027】
置換元素に大きなエネルギーを与えるには、N、P、Asなどを励起した形で導入することが有効である。例えば、N、N2、HN3、NF3、NCl3、P、P2、PH3、PF3、PCl3、As、As2、AsH3、AsF3、AsCl3などの酸素を含まない化合物の中から選ばれる1種以上の化合物を励起したガスを含む雰囲気下で終端処理を行う。この時、特に、酸素や水など、酸素原子の含有量を極力少なくする必要があるため、励起ガスには置換元素を含み酸素を含まない化合物を励起したガスを用いる。これらの励起ガスを用いると実施形態の3配位の置換型終端構造を得ることができる。酸素を添加すると、酸化が先行して始まってしまうため、酸化された表面は実施形態の終端構造にすること出来ない。精度の悪い原料ガスなどを用いると、処理雰囲気中に酸素原子が含まれることがあるが、終端を処理する雰囲気に多くても0.001ppm以下の酸素濃度に、高精度に精製した原料ガスを用いることが肝要である。終端処理で多く用いられているNOやN2Oによる窒素の導入やPOCl3によるPの導入などは、酸素を含んだ化合物を用いるため、実施形態の終端処理に用いることはできない。なお、励起の手段は特に問わない。典型的には、電界をかけてプラズマ状態にすれば良い。また、高温のW電極に高速で当てることで、高エネルギーの状態に励起する方法も有効である。
【0028】
ここで、NH3、NF3、NCl3などのように、H、F、Clなど最表面Siの一つのダングリングボンドを終端する物質を励起したガスに混入しても構わない。これらの化合物による終端構造よりも実施形態の置換型終端の方が安定であるので、H終端などが出来ても、実施形態の置換型終端へと進行していくためである。
【0029】
また、SiC表面に置換元素が急激に到達しないようにして、かつ、置換元素がSiC基板内部に入り込まないようにすることに関連して、重要となるのが、上記励起窒素などの移動できる平均距離(平均自由工程)を短くすることである。出来る限り低温にすること、そして、Ar、He、Ne、Kr,Xeなどの不活性ガスによって希釈することである。基本的には、出来る限り低温、低圧雰囲気での表面処理がベストである。これらが高いと、表面内部に窒素が入り込み、表面近傍の窒化が始まってしまう。また、Heなどで希釈することで、励起Nなどの活性は生かしつつ、あまり動き回れないようにする。更に、Heなどは、表面の空きスペースとも言うべき、H3サイトを覆ってくれるので、窒素原子などがH3サイトから奥に向かって入り込むことを阻止してくれる効果もある。
【0030】
具体的には、温度を0℃以上200℃以下、励起置換ガス分圧を0.1Torr以上2.0Torr以下、全圧を2.0Torr以上20Torr以下、表面処理時間は10秒以上600秒以下とすれば実現できる。励起置換ガス分圧は低く、かつ、十分な量のHeなどの希釈ガスが存在する方が良いので、励起置換ガス分圧/(希釈ガス分圧+励起置換ガス分圧)=0.005以上0.1以下であることが好ましい。
【0031】
具体的には、温度を20℃、プラズマ励起N原子分圧を1.0Torr、全圧は、Neを導入し、10Torr、表面処理時間は60秒。この時、励起N分圧/(希釈ガス分圧+励起N分圧)=0.1である。
【0032】
さらに、上記の条件の中で、高温、高い励起置換ガス分圧、かつ長い処理時間にて終端処理を行うと、実施形態の終端処理だけでなく処理面の平坦化も行うことができる。
【0033】
表面平坦化には、温度を100℃以上200℃以下、励起置換ガス分圧は同様に0.1Torr以上2.0Torr以下、全圧を10Torr以上20Torr以下、表面処理時間は200秒以上600秒以下とすれば実現できる。全圧は高く、かつ、十分な量のHeなどの希釈ガスが存在する方が良いので、励起置換ガス分圧/(希釈ガス分圧+励起置換ガス分圧)=0.005以上0.1以下であることが好ましい。
また、上記条件によって終端処理を行うと、SiC基板の最表面の下層にあるSi−C−Si−Cの格子間にトラップされた置換元素の面密度を高めることができる。
【0034】
平坦化には、温度と処理時間と、全圧が効いている。具体的には、温度を100℃、プラズマ励起N原子分圧を1.0Torr、表面処理時間は300秒。全圧は、Neを多く導入し、20Torrとした。この時、励起N分圧/(希釈ガス分圧+励起N分圧)=0.05である。
【0035】
なお、実施形態の置換型終端にかかる処理を手動設定して行ってもよいし、自動化するシステムを半導体製造装置に組み込んでもよい。
【0036】
ここで、Si面に関して、窒素、燐、砒素による終端の安定度の順番を計算から調べると、P、N、Asの順番であった。Si面は、P終端がベストであり、N、As終端が続く。
【0037】
以上は、SiC基板、Si面について考察したが、C面についても同様の考察が出来る。大きな違いは、C面の最表面元素であるCを置換元素に置換して置換型終端にすることによって、Si面よりも安定な置換型終端を形成することができることである。C面の置換型終端も、基板に三本のボンドで結合しているため、著しく安定である。結合エネルギーにして、12eV以上であり、一旦出来た置換型終端は非常に安定であることが分かる。あとは、同様であった。C面に関して、窒素、燐、砒素による終端の安定度の順番を計算から調べると、N、P、Asの順番であった。C面は、N終端がベストであり、P、As終端が続く。
【0038】
A面についても同様の考察が出来る。大きな違いは、最表面にSiとCの両方が存在していることである。この構造は、基板に三本のボンドで結合していることは同じであるため、A面の置換型終端もやはり著しく安定である。結合エネルギーにして、10eV以上であり、一旦出来た置換型終端は非常に安定であることが分かる。あとは、同様であった。A面に関して、窒素、燐、砒素による終端の安定度の順番を計算から調べると、N、P、Asの順番であったが、N終端とP終端はほぼ同等であった。更に詳細に調べてみると、SiをPで置換し、CをNで置換した場合が最も安定であった。つまり、N量とP量を同等に供給することで、最安定な終端構造が出来ることがわかる。この状態が一番安定であるので、例えば励起Nと励起Pを同等量だけ導入して表面処理を行えば、N量とP量とが1:1で表面終端した構造が出来ると考えてよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により実施形態の半導体素子を具体的に説明する。
実施例において、以下の特徴を備えたMOSFETとIGBTを例に説明する。
実施形態の半導体素子は、n型又はp型の半導体基板と、前記半導体基板上に形成されたn型の第1半導体層とで構成されたSiC基板と、前記SiC基板表面に形成されたp型の第1半導体領域と
前記第1半導体領域の前記SiC基板表面に露出するように形成されたn型の第2半導体領域と、前記第1半導体領域の前記SiC基板表面に露出するように形成されたp型の第3半導体領域と、前記第1半導体領域の前記SiC基板表面に露出するように形成されたn型の第4半導体領域と前記第1半導体層及び前記第1半導体領域の前記SiC基板表面側に、前記第2半導体領域をまたがるように形成されたゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜上に形成された第1電極と、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域とオーミック接合をなす第2電極と、前記SiC基板の前記半導体基板側の面(裏面)に形成された第3電極と、を備え、前記SiC基板と前記ゲート絶縁膜の界面において、前記SiC基板の最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素が窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換されたことを特徴とする。
【0040】
上記半導体素子がMOSFETの場合は、第1電極は、ゲート電極であり、第2電極は、ソース電極であり、第3電極は、ドレイン電極である。
上記半導体素子がIGBTの場合は、第1電極は、ゲート電極であり、第2電極は、エミッタ電極であり、第3電極は、コレクタ電極である。
【0041】
また、実施形態の半導体素子の製造方法は以下の特徴を備える。
半導体素子の製造方法は、SiC基板を、窒素、燐と砒素の中から選ばれる1種以上元素を含む化合物を励起したガスを含む雰囲気で処理し、前記処理したSiC基板の面にゲート絶縁膜を形成し、前記雰囲気の酸素濃度が0.001ppm以下で、前記雰囲気の全圧が2.0Torr以上20Torr以下で、前記雰囲気のうち前記励起ガスの分圧が全圧の1/200以上1/10以下であり、前記処理の温度が0℃以上200℃以下であることを特徴とする。
【0042】
(実施例1)
図5は、本発明の第1の実施形態の高耐圧半導体素子を示す断面概念図である。図5を参照して、本発明による半導体素子1は、縦型DiMOSFET(DoubleImplanted Metal−Oxide−Semiconductor Field−effect Transistor)であって、n型基板21、n型の第1半導体層22、p型の第1半導体領域23、n型の第2半導体領域24、p型の第3半導体領域25、p型のチャネル領域26、酸化膜27、ソース電極11、ゲート電極10および基板21の裏面側に形成されたドレイン電極12を備える。
【0043】
具体的には、導電型がnの炭化ケイ素(SiC)からなるn型基板21の表面上には、n−エピタキシャル層であるn型の第1半導体層22が形成されている。n型の第1半導体層22は、導電型がn型の炭化ケイ素からなり、例えばその厚みは10μmである。また、SiCエピタキシャル成長層としてのn型の第1半導体層22におけるn型の導電性不純物である窒素の濃度としては、5×1015/cm3という値を用いることができる。
【0044】
このn型の第1半導体層22の表面層には、導電型がp型の第1半導体領域23が互いに間隔を隔てて形成されている。第1半導体領域23の内部においては、第1半導体領域23の表面層にn+型であるn型の第2半導体領域24が形成されている。また、この第2半導体領域24に隣接する位置には、p+型であるp型の第3半導体領域25が形成されている。第2半導体領域24から第1半導体層22に向かう部分26が、ゲート電極10への電圧印加によって電流の流れオンオフが起こるチャネルとなる。
【0045】
一方の第2半導体領域24上から、第1半導体領域23、2つの第1半導体領域23の間において露出する第1半導体層22、他方の第1半導体領域23、および、他方の第2半導体領域24上にまで、絶縁膜としてのゲート絶縁膜27が形成されている。第3半導体領域25上にはゲート絶縁膜27は形成されていない。
【0046】
このゲート絶縁膜27を作成する前の第1半導体領域23の表面を実施形態にかかる置換型終端処理を行うことで、半導体素子の特性の向上を図っている。
【0047】
ゲート絶縁膜27上にはゲート電極10が形成されている。また、第2半導体領域24および第3半導体領域25上にはソース電極11が形成されている。そして、n型基板21の裏面には、ドレイン電極12が形成されている。
【0048】
図6〜9に詳細な作成プロセスの概念図を示す。
まず、(0001)面(Si面)の六方晶系SiC基板(4H−SiC基板)を基板21として準備する。基板の導電型不純物の濃度は、例えば、6×1017/cm3といった値のものを準備する。
【0049】
次に、n型基板21上にn型の第1半導体層22を形成する。このn型の第1半導体層22としては、導電型がn型の炭化ケイ素からなる層をエピタキシャル成長法によって形成する。このエピタキシャル層形成工程においては、原料ガスとしてたとえばSiH4ガスおよびC3H8ガスを用いることができる。このようにして、図6の概念図に示すような構造を得る。
【0050】
このn型の第1半導体層22の厚みとしては、たとえば10μmといった値を用いることができる。また、このn型の第1半導体層22におけるn型の導電性不純物の濃度としては、たとえば5×1015/cm3といった値を用いることができる。また、n型の第1半導体層22の厚みは0.5μm以上20μm以下としてもよい。
【0051】
次に、イオン注入工程を実施する。具体的には、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成した酸化膜をマスクとして用いて、導電型がp型の不純物を第1半導体層22に注入することにより、第1半導体領域23を形成する。また、用いた酸化膜を除去した後、再度新たなパタ−ンを有する酸化膜を、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成する。そして、図7の概念図に示すように当該酸化膜をマスクとして、n型の導電性不純物を所定の領域に注入することにより、第2半導体領域24を形成する。また、同様の手法を用いて、導電型がp型の導電性不純物を注入することにより、第3半導体領域25を形成する。
【0052】
なお、上記第1半導体領域23における導電性不純物の濃度は、例えば、1×1016/cm3とすることが出来る。Alイオンの注入の条件としては、例えば、1×1015/cm2、80keVとすることができる。ここでは、300℃に基板を加熱した。上記第1半導体領域23における導電性不純物の濃度は、1×1013/cm3以上5×1017/cm3以下とすることができるが、より好ましくは1×1015/cm3以上5×1016/cm3以下とすることができる。チャネル領域26を含んでいるので、閾値を安定化させ、移動度を大きくすることが求められる。それ故、あまり高濃度のドープはしない。
【0053】
また、上記第2半導体領域24における導電性不純物の濃度は、例えば、5×1016/cm3とすることが出来る。Nイオンの注入の条件としては、例えば、1×1015/cm2、40keVとすることができる。ここでは、300℃に基板を加熱した。上記第2半導体領域24における導電性不純物の濃度は、1×1014/cm3以上1×1018/cm3以下とすることができるが、より好ましくは5×1015/cm3以上5×1017/cm3以下とすることができる。
【0054】
同様に、上記第3半導体領域25における導電性不純物の濃度は、例えば、5×1016/cm3とすることが出来る。Alイオンの注入の条件としては、例えば、1×1015/cm2、40keVとすることができる。ここでは、300℃に基板を加熱した。上記第3半導体領域25における導電性不純物の濃度は、1×1014/cm3以上1×1018/cm3以下とすることができるが、より好ましくは5×1015/cm3以上5×1017/cm3以下とすることができる。
【0055】
注入工程の後、活性化アニール処理を行なう。この活性化アニール処理としては、たとえばアルゴンガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度1600℃、加熱時間30分といった条件を用いることができる。このようにして、図7に示す構造を得る。この時、SiC内部に導入されたドーパントの活性化が実現できるが、殆ど拡散はしない。
【0056】
次に、SiC基板20の表面処理を行う。ここで言う表面とはSiC基板20のうち、後にゲート絶縁膜27を成膜する面であるp領域23が形成された面を意味する。具体的には、温度を20℃、プラズマ励起N原子分圧を1.0Torr、全圧は、Neを導入し、10Torr、表面処理時間は60秒での表面処理を行った。この時、励起N分圧/(希釈ガス分圧+励起N分圧)=0.1である。
【0057】
この表面処理を終えた後、ゲート絶縁膜形成工程を実施する。具体的には、第1半導体層22、第1半導体領域23、第2半導体領域24、第3半導体領域25の全体に覆うようにゲート絶縁膜27を形成する。このゲート絶縁膜27を形成するために、たとえば電子ビ−ムによる蒸着により行った。その他、CVD法、スパッタ−法など、様々な方法により行うことが出来る。また、酸化膜は高誘電体膜(Al2O3、HfO2、HfON、HfSiONなど)でも良い。また、SiO2膜と上記高誘電体膜との積層膜も有効である。続いて、1050℃、N2/Ar中、加熱時間1分という条件にて、酸化膜を緻密化する。こうして、図8の概念図に示す構造を得る。
【0058】
次に、電極形成工程を実施する。具体的には、上記ゲート絶縁膜27上にフォトリソグラフィ法を用いてパターンを有するレジスト膜を形成する。当該レジスト膜をマスクとして用いて、第2半導体領域24およびp+領域25上に位置するゲート絶縁膜27の部分をエッチングにより除去する。この後、レジスト膜上および当該ゲート絶縁膜27に形成された開口部内部において第2半導体領域24および第3半導体領域25とオーミック接合するように金属などの導電体膜を形成する。その後、レジスト膜を除去することにより、当該レジスト膜上に位置していた導電体膜を除去(リフトオフ)する。
【0059】
ここで、導電体としては、たとえばNiSiを用いることができる。この結果、図9に示すように、ソース電極11を得ることができる。
【0060】
その後、ゲート絶縁膜としてのゲート絶縁膜27上にゲート電極10を形成する。例えば、n型ポリシリコンなどで良い。また、ソース電極もn型ポリシリコンとして、ソース電極、ゲート電極とも、Niをつけることで、NiSiのサリサイドプロセスにすることも可能である。また、低抵抗化のために、ポリシリコンのフルシリサイド化も有効である。
【0061】
また、n型基板21の裏面上にドレイン電極12(図5参照)を形成する。このようにして、図5の概念図に示す半導体素子を得ることができる。ここで、裏面電極に関して、従来の電極構成、例えば、Ni電極などを使うと、800℃を越える、高温過程(800℃〜1600℃)が必要になる。しかし、実施形態の半導体素子では、SiC/絶縁膜界面が強固であるため、1600℃の裏面電極形成プロセスを通しても全く問題が生じない。
【0062】
本実施例では、SiC/ゲート絶縁膜の界面を作成するに際し、SiC表面を前もって窒素終端している。その結果、(1)十分に低い界面準位(1×109/cm2オーダー)、(2)界面ラフネスの低減(TEM像では、チャネル領域全体に亘り、1モノレイヤーオーダーで平坦になっている)(3)Cの絶縁膜への放出回避(絶縁膜中の炭素濃度は、0.0001at%以下であった)。
【0063】
更にSiO2/SiC界面の窒素分布をSIMSにて調べると、丁度界面に於いて半値幅はおよそ0.2nmのピークを有しており、その濃度は1.0×1015/cm2であった。また、SiO2側の窒素濃度、SiC基板側の窒素濃度は、1012/cm2以下にまで急激に減少していることが分かった。
【0064】
その結果、移動度が大きく向上しており、225cm2/Vsであった。また、絶縁特性が大きく向上しており、ゲートリークが殆ど起こらないことが確認できた。更に、TDDB(300℃という高温で、数時間、MV/cmオーダーの高電界を印加しても、絶縁膜の破壊は全く起こらなかった)、BTI(動作時の閾値シフトは殆どない)などの信頼性も大きく向上していた。
【0065】
(変形例1)
次に図11の概念図に示すようにp+型であるp型の第3半導体層28をエピタキシャル成長させる。厚さはたとえば0.6μmで基板側の0.4μmの濃度はたとえば4×1017/cm3で、表面側の0.2μmの濃度はたとえば1×1016/cm3である。p型不純物はたとえばアルミニウムを用いる。
【0066】
次に図12の概念図に示すようにイオン注入マスク13を形成する。たとえばポリシリコン膜を成長させ、所定のレジストマスクプロセスを経た後、ポリシリコン膜のパターニングを行う。その際ポリシリコンのエッチング条件を異方性の強い条件たとえばリアクティブイオンエッチングで形成する。エッチングが異方的であるためマスクは矩形にパターニングされる。このイオン注入マスクを用いて窒素をイオン注入し、p+エピ層をn型に転換させてn型の第4半導体領域29として下地のn−エピ層につなげる。また、第3半導体層28のうち、マスクによってn型に転換されなかった領域をp型の第1半導体領域23とする。
【0067】
次に図13に示すようにマスクとイオン注入プロセスにより第2半導体領域24と第3半導体領域25には、それぞれNとAlをイオン注入により導入する。
この表面に窒素終端処理を行い、MOS構造を作成する。
SiO2/SiC界面の窒素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0068】
最後にゲート酸化とゲート電極形成後、所定の電極配線工程を経て図14の半導体素子が完成する。本実施例の変形例ではMOSチャネル領域26をイオン注入する必要がないためイオン注入起因の順方向特性劣化が防げることが利点である。
【0069】
(変形例2)
励起Nの代わりに、PH3(化合物)をプラズマ励起した励起Pを用いてSiC基板の表面処理を行ったこと以外は実施例1と同様である。
本実施例の半導体素子も安定性の高い置換型終端構造を実現する事ができる。移動度は窒素置換した場合よりも特性が良く、250cm2/Vsに達した。Pで終端を置換することで、窒素による終端処理よりも界面荒れが少なく、ゲート絶縁膜中に炭素由来の固定電荷がより発生し難いことが原因として挙げられる。
更にSiO2/SiC界面のP分布をSIMSにて調べると、丁度界面に於いて半値幅はおよそ0.2nmのピークを有しており、その濃度は0.9×1015/cm2であった。また、SiO2側のP濃度、SiC基板側のP濃度は、1012/cm2以下にまで急激に減少していることが分かった。
【0070】
(変形例3)
励起Nの代わりに、AsH3(化合物)をプラズマ励起した励起Asを用いてSiC基板の表面処理を行ったこと以外は実施例1と同様である。
本実施例の半導体素子も安定性の高い置換型終端構造を実現する事ができる。移動度は窒素置換した場合と同程度の200cm2/Vsに達した。
更にSiO2/SiC界面のAs分布をSIMSにて調べると、丁度界面に於いて半値幅はおよそ0.2nmのピークを有しており、その濃度は1.0×1015/cm2であった。また、SiO2側のAs濃度、SiC基板側のAs濃度は、1012/cm2以下にまで急激に減少していることが分かった。
【0071】
(変形例4)
終端処理において、処理温度を100℃、プラズマ励起N(或いは、プラズマ励起P、プラズマ励起As)の分圧を1.0Torr、表面処理時間を300秒、Neを多めに導入し全圧を20Torrにしたこと以外は、実施例1、変形例2,3と同様である。終端処理の温度と全圧を上げることによって、SiC基板処理面のエッチングも併せて行うことができ、処理面が平坦化する。処理面が平坦化することで、界面の荒れがさらに減少し、移動度は300cm2/Vs以上に高めることができる。プラズマ励起Nの場合は、320cm2/Vs、プラズマ励起Pの場合は、350cm2/Vs、プラズマ励起Nの場合は、300cm2/Vsが得られる。SiO2/SiC界面の窒素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0072】
(変形例5)
終端処理するSiCの面方位が(000−1)面(C面)であること以外は実施例1、変形例2〜4と同様である。C面の終端処理を行うと、最表面のCを置換元素で終端処理することができる。C面を窒素で終端処理すると、Si面を窒素で終端処理したものに比べ安定した終端構造を得ることができ、終端の結合エネルギーは12eVとなる。
C面では、元々移動度がSi面に比べて高く出来るが、それを反映して、プラズマ励起Nの場合は、300cm2/Vs、プラズマ励起Pの場合は、275cm2/Vs、プラズマ励起Nの場合は、220cm2/Vsが得られる。更に平坦化できるプロセスを用いれば、プラズマ励起Nの場合は、400cm2/Vs、プラズマ励起Pの場合は、375cm2/Vs、プラズマ励起Nの場合は、320cm2/Vsに達する。SiO2/SiC界面の置換元素分布をSIMSにて調べたが、実施例1、変形例2〜4と同等であった。
【0073】
(変形例6)
終端処理するSiCの面方位が(11−20)面(A面)であり、励起Nの代わりに、NH3(化合物)とPH3(化合物)を1:1で分圧がそれぞれ1.0Torrになるように用いたこと以外は実施例1と同様である。A面の終端処理を行うと、最表面のSiとCを置換元素で終端処理することができる。この場合の、終端の結合エネルギーは10eVとなる。この時、270cm2/Vsの移動度が得られる。更に平坦化できるプロセスを用いれば、370cm2/Vsに達する。SiO2/SiC界面の置換元素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0074】
(実施例2)
実施例1と同様のプロセスだが、基板をp型とすることで、絶縁バイポーラートランジスタIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とすることが出来る。実施例1のDiMOSFETとプロセスは同一でよい。
【0075】
ここで、実施例1のDiMOSFETでは、ソース電極11であった部分がエミッタ電極33となり、ドレイン電極12であった部分がコレクタ電極34となる。
【0076】
図15は、実施例2にかかる高耐圧半導体素子の断面図を示している。実施例1とは異なり、p+型であるp型基板31上にn型の第1半導体層32をエピタキシャル成長によって形成する。p型基板31にはp型不純物としてAlが含まれておりその濃度は例えば6×1017/cm3である。厚さは例えば300μmである。基板の厚みはCMPなどによって厚みを調整してもよい。第1半導体層32にはn型不純物として窒素が含まれておりその濃度は例えば5×1015/cm3である。厚さは例えば10μmである。
【0077】
このようにして、実施例2では、高性能のIGBTを得ることができた。バイポーラー動作になるため、伝導度変調が起こり、オン抵抗が小さくなる。その結果、実施例1のDiMOSFETに比べて、通電能力を大幅に高めることが出来る。
SiO2/SiC界面の置換元素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0078】
(変形例7)
図16に変形例7の半導体素子の概念図を示す。SiC基板上に第1半導体層をエピタキシャル成長させる前に、SiC基板上にn+型であるn型第2半導体層35をエピタキシャル成長させ、第2半導体層35上に第1半導体層32をエピタキシャル成長させたこと以外は実施例2と同様である。例えば、第2半導体層35を1μmとする。
第2半導体層35にはn型不純物として窒素が含まれておりその濃度は例えば5×1016/cm3である。第2半導体層35を導入することで、IGBTのオン・オフの切り替えを素早く行うことが出来るようになる。またオフ時のリークも減らせるので、IGBT高速動作時の消費電力低下に大きな役割を演じる。
SiO2/SiC界面の置換元素分布をSIMSにて調べたが、実施例1と同等であった。
【0079】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態そのままに限定解釈されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成することができる。例えば、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0080】
1…実施例1にかかる半導体素子の概念図
2…変形例1にかかる半導体素子の概念図
3…実施例2にかかる半導体素子の概念図
4…変形例7にかかる半導体素子の概念図
10…ゲート電極
11…ソース電極
12…ドレイン電極
13…ポリシリコン
20…SiC基板
21…n型基板
22…n型の第1半導体層
23…p型の第1半導体領域(s:ソース、d:ドレイン)
24…n型の第2半導体領域
25…p型の第3半導体領域
26…チャネル間領域
27…ゲート絶縁膜
28…n型の第4半導体領域
30…SiC基板
31…p型基板
32…n型の第1半導体層
33…エミッタ電極
34…コレクタ電極
35…n型の第2半導体層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板と、
前記SiC基板上に形成されたゲート絶縁膜とを少なくとも具備し、
前記SiC基板と前記ゲート絶縁膜の界面において、前記SiC基板の最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素の一部が窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換されたことを特徴とする半導体素子。
【請求項2】
前記界面における前記窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素の面密度のピ−ク値が1.22×1014/cm2以上2.44×1015/cm2以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記界面における前記窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素の面密度がピ−クを有し、前記ピークの膜厚方向分布の半値幅が0.05nm以上、1.0nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素うち、前記窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換された元素割合が1割以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項5】
前記界面の前記SiC基板方位が(0001)面、(000−1)面又は(11−20)面であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項6】
SiC基板を、窒素、燐と砒素の中から選ばれる1種以上元素を含む化合物を励起したガスを含む雰囲気で処理し、
前記処理したSiC基板の面にゲート絶縁膜を形成し、
前記雰囲気の酸素濃度が0.001ppm以下で、
前記雰囲気の全圧が2.0Torr以上20Torr以下で、
前記雰囲気のうち前記励起ガスの分圧が全圧の1/200以上1/10以下であり、
前記処理の温度が0℃以上200℃以下であることを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項1】
SiC基板と、
前記SiC基板上に形成されたゲート絶縁膜とを少なくとも具備し、
前記SiC基板と前記ゲート絶縁膜の界面において、前記SiC基板の最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素の一部が窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換されたことを特徴とする半導体素子。
【請求項2】
前記界面における前記窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素の面密度のピ−ク値が1.22×1014/cm2以上2.44×1015/cm2以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記界面における前記窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素の面密度がピ−クを有し、前記ピークの膜厚方向分布の半値幅が0.05nm以上、1.0nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記最表面のSiとCのいずれか又は両方の元素うち、前記窒素、燐と砒素の中から選ばれる少なくとも1種の元素で置換された元素割合が1割以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項5】
前記界面の前記SiC基板方位が(0001)面、(000−1)面又は(11−20)面であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項6】
SiC基板を、窒素、燐と砒素の中から選ばれる1種以上元素を含む化合物を励起したガスを含む雰囲気で処理し、
前記処理したSiC基板の面にゲート絶縁膜を形成し、
前記雰囲気の酸素濃度が0.001ppm以下で、
前記雰囲気の全圧が2.0Torr以上20Torr以下で、
前記雰囲気のうち前記励起ガスの分圧が全圧の1/200以上1/10以下であり、
前記処理の温度が0℃以上200℃以下であることを特徴とする半導体素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−164788(P2012−164788A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23599(P2011−23599)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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