説明

半導体装置の製造方法

【課題】ダイボンド時のダイ圧着荷重が小さくても、または圧着時間が従来よりも短くてもボイドのない半導体装置を簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の半導体装置の製造方法は、硬化した接着剤層を介してチップが積層された基板からなる半導体装置を製造する方法であって、未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板を加熱して、前記未硬化の接着剤層を硬化させて硬化した接着剤層とする加熱硬化工程;および前記加熱硬化工程によって、前記未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板が、80℃以上であって接着剤層の反応率が10%となる温度以下である加圧開始温度まで加熱されてから、前記基板を、常圧に対し0.05MPa大きい圧力以上の静圧により加圧する静圧加圧工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置を製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、硬化した接着剤層を介してチップが積層された基板からなる半導体装置を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置は、液状またはフィルム状の熱硬化性の接着剤によってチップと基板とがダイボンドされ(ダイボンド工程)、続いて加熱硬化工程、ワイヤーボンディング工程およびモールディング工程を経て製造されている(図4、V〜VII)。チップ2と基板4とを未硬化の接着剤層3を介して積層する際に、接着剤中にボイド5が形成したり、接着剤のチップ側または基板側の界面にボイド6が存在したりする場合がある(図4)。これらのボイドはダイボンド工程後にも消滅せずに残存する(図4)。特に、液状の接着剤を用いた場合は接着剤中にボイドが見られることが多く、また、フィルム状の接着剤を用いた場合は、接着力不足や被着面の凹凸への追従性不足のため、上記界面にボイドが存在することが多い。
【0003】
このようなボイドは、半導体装置の信頼性評価においてパッケージクラックの起点となるため、消滅させることが求められている。
これに対して、液状の接着剤であれば塗布時の低い粘度により、フィルム状の接着剤であればダイボンド時の弾性率の低減化により、あるいは、ダイボンド条件の最適化により、配線基板の凹凸に追従させて、ボイドを形成させないようにする試みがされている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、液状またはフィルム状の接着剤を用いた場合、上記の方法によりボイドを減らせるが、低粘度あるいは低弾性率化すると、ダイボンド時にチップ端面へ接着剤がはみ出す不具合が発生する。特に近年の薄型化されたチップにおいては、そのはみ出した接着剤がチップ回路面に這い上がり、ワイヤーパッドを汚染して、ワイヤー接合強度を低下させるという問題がある。
【0005】
また、特にフィルム状の接着剤を用いた場合、上記界面に存在するボイドの発生については、基板デザインにも依存する。このため、基板デザインが変更になるたびに配合変更による粘度コントロールや弾性率の低下、あるいはダイボンド条件の見直し、最適化を行わなければならず、その扱いも困難である。特に近年の高密度な配線基板においては、凹凸の段差が大きく、その段差を埋めるべくダイボンドを行うのはかなり困難である。
【0006】
これに対して、接着剤の硬化前に、未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板に静圧を印加する静圧加圧工程を設けて、ボイドを減らすことが試みられている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/004216号パンフレット
【特許文献2】特開2008-098608号
【特許文献3】特開2008-251883号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、半導体素子の配線ピッチの細線化に伴う電気的特性要求から、チップ回路面上に保護膜として機械的強度が弱いポーラス状の低誘電膜が形成されている場合がある。上記低誘電膜が形成されたチップには、ダイボンド時のダイ圧着荷重を十分掛けることができない。また、半導体装置の生産性の要求から圧着時間を短くすることが望まれている。
【0009】
しかしながら、特許文献2、3に記載された半導体装置の製造方法では、ダイボンド時のダイ圧着荷重を小さくした場合、または圧着時間を短くした場合は、得られた半導体装置においてボイドが残存していることがある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、通常通りのダイボンド条件はもちろんのこと、圧着荷重が弱かったり、圧着時間が短いなど、ボイドの発生しやすいダイボンド条件であっても、ボイドのない半導体装置を簡便に製造する方法を提供することにある。また、基板デザインに依存せず、ボイドのない半導体装置を簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特定条件での静圧加圧工程により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係る半導体装置の製造方法は、硬化した接着剤層を介してチップが積層された基板からなる半導体装置を製造する方法であって、未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板を加熱して、上記未硬化の接着剤層を硬化させて硬化した接着剤層とする加熱硬化工程;および上記加熱硬化工程によって、上記未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板が、80℃以上であって接着剤層の反応率が10%となる温度以下である加圧開始温度まで加熱されてから、上記基板を、常圧に対し0.05MPa以上の静圧により加圧する静圧加圧工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る半導体装置の製造方法によれば、チップと基板とを未硬化の接着剤層により積層する際に、通常通りの条件はもちろんのこと、ダイボンド時のダイ圧着荷重が小さくても、または圧着時間が従来よりも短くても、ボイドのない半導体装置を簡便に製造できる。また、基板デザインに依存せず、ボイドのない半導体装置を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の半導体装置の製造方法を説明するための図である。
【図2】図2は、本発明に用いられるチップと未硬化の接着剤層とが積層された基板の例を示す。
【図3】図3は、本発明に用いられるチップと未硬化の接着剤層とが積層された基板の例を示す。
【図4】図4は、従来の半導体装置の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、硬化した接着剤層を介してチップが積層された基板からなる半導体装置を製造する方法である。ここで、チップ2が未硬化の接着剤層3を介して積層された基板1を加熱して、上記未硬化の接着剤層3を硬化させて半導体装置を製造する(図1)。
【0015】
チップ2としては、半導体ウェハを回路ごとに個別に切断して得られたチップを用いる。半導体ウェハに、保護膜として機械的強度が弱いポーラス状の低誘電膜が形成されていてもよい。このようなポーラス状の低誘電膜としては、SOG、酸フッ化ケイ素、ポリイミド、ポリパラキシレン、ポリアリルエーテル膜などの多孔質体などが挙げられる。この場合は、半導体ウェハを回路ごとに個別に切断して得られたチップは、回路面上に保護膜として強度が弱いポーラス状の低誘電膜を有する。
【0016】
また、基板4としては、例えば配線基板が挙げられ、具体的には金属からなるリードフレーム、有機材料または無機材料からなる基板、または金属および有機材料または無機材料からなる積層基板などが挙げられる。また、本発明において、マルチスタック型半導体装置を製造する場合は、相対的に下側に位置するチップも配線基板とみなす。
【0017】
未硬化の接着剤層3は、フィルム状または液状の接着剤から形成される。好ましくはフィルム状の接着剤から形成される。本発明に用いられる接着剤は熱硬化性の接着剤であり、熱硬化性樹脂を含んでいればよい。熱硬化性樹脂は、例えばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などであり、適当な硬化剤および必要に応じて添加される硬化促進剤と組み合わせて用いられる。このような熱硬化性樹脂は種々知られており、本発明においては特に制限されることなく公知の様々な熱硬化性樹脂が用いられる。また、熱硬化性の接着剤としては、常温で粘着性を有する粘接着剤であってもよい。粘接着剤とは、初期状態において常温で粘着性を示し、加熱のようなトリガーにより硬化し強固な接着性を示す接着剤をいう。常温で粘着性を有する粘接着剤としては、例えば常温で粘着性を有するバインダー樹脂と、上記のような熱硬化性樹脂との混合物が挙げられる。常温で粘着性を有するバインダー樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルエーテル、ウレタン樹脂、ポリアミド等が挙げられる。
【0018】
本発明において、未硬化の接着剤層3としてフィルム状の接着剤を使用する場合は、例えばフィルム状の接着剤層が設けられたダイシング・ダイボンディングシートが用いられる。ダイシング・ダイボンディングシートは、基材フィルム上に前述した組成のフィルム状の接着剤層が剥離可能に積層した構成を有する。ダイシング・ダイボンディングシートの基材フィルムとフィルム状の接着剤層との剥離性を制御するため、フィルム状の接着剤層を形成する接着剤の組成中にウレタン系アクリレートオリゴマーなどのエネルギー線硬化性樹脂をさらに配合することが好ましい。エネルギー線硬化性樹脂を配合すると、エネルギー線照射前は基材とよく密着し、エネルギー線照射後は基材から剥離しやすくなるという効果を付与できる。
【0019】
ダイシング・ダイボンディングシートに形成されるフィルム状の接着剤層の厚みは、接着する基板の凹凸の高さ形状等によって異なるが、通常3〜100μm、好ましくは10〜60μmである。
【0020】
また、本発明において未硬化の接着剤層3として液状の接着剤を使用する場合は、例えば前述したフィルム状の接着剤層の組成からバインダー樹脂を除いた熱硬化性樹脂とその硬化剤とからなる液状(ペースト状)接着剤が用いられる。
【0021】
以下、本発明に係る半導体装置の製造方法の実施形態について詳細に説明する。具体的には、静圧加圧工程が、加熱硬化工程によって、未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板が、80℃以上であって接着剤層の反応率が10%となる温度以下である加圧開始温度まで加熱されてから、上記基板を特定の静圧により加圧する態様(実施形態1−1〜1−5)について説明する。
【0022】
[実施形態1−1]
実施形態1−1の製造方法では、未硬化の接着剤層3としてダイシング・ダイボンディングシート(フィルム状の接着剤)を用いる。
【0023】
実施形態1−1の製造方法では、例えば、ダイシング工程(1)、ダイボンド工程(2)、加熱硬化工程(3)、静圧加圧工程(4)および組立工程(5)を経て半導体装置が製造される。
【0024】
ダイシング工程(1)では、シリコン等からなるウェハにダイシング・ダイボンディングシートを貼着して、ウェハと未硬化の接着剤層とをともにダイシングする。この工程により、片面に未硬化の接着剤層を有するチップが得られる。ダイシング・ダイボンディングシートがエネルギー線硬化性を有する場合は、ダイシング工程前あるいはダイシング工程後にエネルギー線を照射し、未硬化の接着剤層と基材フィルムとの密着性を低下させておく。ダイシング・ダイボンディングシートを貼着する条件によっては、チップと未硬化の接着剤層との界面にボイドが形成される場合がある。
【0025】
ダイボンド工程(2)では、ダイシング・ダイボンディングシートの基材フィルムと未硬化の接着剤層3との界面で剥離(ピックアップ)を行い、分離された未硬化の接着剤層を有するチップを基板のチップ搭載部に積層(ダイボンド)する。この工程により、未硬化の接着剤層3を介してチップ2と基板4とが積層された基板1が得られる。ダイボンドの条件(圧力、温度、時間等)によっては、未硬化の接着剤層3と基板4との界面にボイド6が形成される場合がある(図1)。
【0026】
ダイボンド工程(2)において、チップの圧着時のチップ圧着荷重は通常1チップあたり1500gf以下、好ましくは50〜500gfである。チップ圧着温度は通常、23〜160℃、好ましくは40〜120℃である。チップ圧着時間は通常0.1〜3.0s、好ましくは0.1〜1.0sである。
【0027】
特に、ポーラス状の低誘電膜が形成されたチップを用いるときは、低誘電膜を破損させないためには、チップの圧着時のチップ圧着荷重を通常50〜1500gf、好ましくは50〜100gfとし、チップ圧着温度を通常40〜100℃とすることが望ましい。
【0028】
また、半導体装置の生産性を向上させるためには、または低誘電膜を破損させないためには、チップの圧着時のチップ圧着時間を通常0.1〜0.3sとすることが望ましい。
加熱硬化工程(3)では、未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板を所定温度まで一定の昇温条件で加熱して、さらに該温度を一定時間保持して、該未硬化の接着剤層を硬化させて硬化した接着剤層とする。すなわち、ダイボンドされた基板1の未硬化の接着剤層3を加熱して未硬化状態から充分な硬化状態にする(図1、I)。未硬化の接着剤層3を硬化させて硬化した接着剤層8とすると、半導体装置のダイボンド用接着剤として必要な接着性能が与えられる。
【0029】
加熱硬化工程(3)の昇温条件において、昇温速度は通常1〜50℃/min、好ましくは3〜10℃/minである。昇温後の保持条件での保持温度及び保持時間は、接着剤層が充分に硬化できれば特に制限されず、接着剤組成に依存する。昇温後の保持温度は、通常後述する加圧開始温度以上の温度であり、加圧開始温度以上であってかつ100〜200℃であることが好ましく、加圧開始温度以上であってかつ120〜160℃であることがより好ましい。保持時間は好ましくは15〜300分、より好ましくは30〜180分である。
【0030】
加熱硬化を行うための装置は、特に制限されないが、静圧加圧工程(4)を行うため、オートクレーブ(コンプレッサー付き耐圧容器)等の加熱加圧装置が好適に用いられる。
静圧加圧工程(4)では、上記加熱硬化工程によって、上記未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板が、80℃以上であって接着剤層の反応率が10%となる温度以下である加圧開始温度まで加熱されてから、上記基板を、常圧に対し0.05MPa大きい圧力以上の静圧により加圧する(図1、II)。また、静圧加圧工程(4)では、上記加熱硬化工程によって上記未硬化の接着剤層が硬化した接着剤層となるまで、上記基板を、上記静圧により加圧する。
【0031】
未硬化の接着剤層を80℃まで加熱すると、該接着剤層の弾性率は充分低下する。また、接着剤層の反応率が10%となる温度は、以下のように決定される。未硬化の接着剤層(加熱硬化前の接着剤層)を、示差走査熱量測定装置(DSC)により室温(約23℃)から300℃まで、一定速度で昇温させた時の熱量を測定し、この測定結果を基に各温度での反応率を以下の方法で求めた。昇温速度は、加熱硬化工程で採用される昇温条件で行う。なお、接着剤にエネルギー線硬化性樹脂が配合されているときは、エネルギー線照射後の接着剤層について熱量測定を行う。
反応率=(B/A)×100
A:室温から300℃までの発熱ピーク全体の積算量
B:室温から各温度までの発熱量の積算量
【0032】
加熱硬化工程における各温度での接着剤層の反応率を求め、接着剤層の反応率が10%となる温度が決定される。
なお、80℃では接着剤層は未硬化状態である。また、本明細書において、上述した未硬化状態とは、接着剤の硬化反応が進行していない状態にあることをいい、具体的には接着剤層の反応率が10%未満であることをいう。上述した充分な硬化状態、すなわち硬化が完了した状態とは、反応が進行し、具体的には接着剤層の反応率が90%以上であることをいう。
【0033】
印加される静圧は、常圧に対して0.05MPa以上大きく、好ましくは0.1〜1.0MPa大きい。静圧が上記範囲にあると、ボイドを効果的に消滅させることができる。
【0034】
上記特定の静圧で加圧することにより、未硬化の接着剤層3とチップ2との間に発生したボイド(図示せず)、または未硬化の接着剤層3と基板4との間に発生したボイド6は効果的に消滅する。すなわち、接着剤層の弾性率が充分低下しており、硬化反応が進行していない未硬化状態の接着剤層に急速に静圧加圧を行うと、ボイドを効果的に拡散し、消滅させることできると考えられる。一方、室温から静圧加圧を行うと、接着剤の弾性率が高すぎるため、ボイドの消滅は充分でなくなることがある。また、反応率が10%となる温度以上で静圧加圧を行うと、ボイドが存在したままの状態で接着剤の硬化反応が進行するため、ボイドが残存することがある。上記特定の静圧で加圧することにより、具体的には、ボイドをチップ面積に対し2%以下、好ましくは0%にすること、いいかえるとチップ面積に対し98%以上、好ましくは100%を接着剤で埋めることができる。また、このような静圧加圧工程によれば、基板4が微細で高低差が大きな回路デザインであったとしても、未硬化の接着剤層3と基板4との界面に生じたボイド6も消滅させられる。
【0035】
さらに、ポーラス状の低誘電膜が形成されたチップを用いた場合に、ダイボンド時のダイ圧着荷重が小さくても、圧着時間が従来よりも短くても、またはチップ圧着温度が低くても、上述した特定の加圧開始温度まで加熱されてから特定の静圧を印加すると、上記ボイドを効果的に消滅できる。
【0036】
また、実施形態1−1では、低弾性率のフィルム状の接着剤を用いた場合であっても、接着剤層の這い上がりも抑えられる利点がある。
このように、実施形態1−1では、加熱硬化工程(3)および静圧加圧工程(4)が終了したときには、硬化した接着剤層8のチップ側または基板側の界面にはボイドは存在せず、チップ2と基板4とは強固に接着されている。
【0037】
組立工程(5)では、接着剤層の熱硬化が行われた基板を半導体装置に組立加工する。例えば、図1に示す工程のようにワイヤー9を結線するワイヤーボンディング工程、封止樹脂11を用いたモールディング工程などが挙げられる(図1、III、IV)。このようにして半導体装置10が製造される。実施形態1−1によって得られた半導体装置10は、接着剤層の界面にボイドが存在しないため、信頼性評価においてパッケージクラックが生じない。以上のように、本実施形態1−1によれば、ボイドが効果的に消滅でき、信頼性の高い半導体装置が得られる。
【0038】
[実施形態1−2]
実施形態1−1の製造方法では、静圧加圧工程(4)で、上記加熱硬化工程によって上記未硬化の接着剤層が硬化した接着剤層となるまで、上記基板を、上記静圧により加圧する。これに対して、実施形態1−2の製造方法では、静圧加圧工程(4)で、上記加熱硬化工程によって上記未硬化の接着剤層が硬化した接着剤層となる前に、上記静圧による加圧が終了する。すなわち、実施形態1−2では、静圧加圧工程(4)は加熱硬化工程(3)の終了よりも前に終了する。この場合も、加熱硬化工程(3)および静圧加圧工程(4)が終了すると、硬化した接着剤層8のチップ側または基板側の界面にはボイドは存在せず、チップ2と基板4とは強固に接着されている。
【0039】
[実施形態1−3]
実施形態1−3の製造方法では、実施形態1−1〜1−2の製造方法に対し、さらに、上記未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板が上記加圧開始温度になる前まで、上記基板を、常圧を超え常圧に対し0.05MPa未満(0.05MPa大きい圧力未満)の静圧により加圧することを含む。すなわち、実施形態1−3では、基板の加熱過程において、静圧加圧工程(4)を開始する前までに、上記基板に対して、静圧加圧工程(4)で印加する圧力よりも小さい圧力を印加する。この場合においても、効果的にボイドを消滅させることができる。
【0040】
[実施形態1−4]
実施形態1−4の製造方法では、未硬化の接着剤層3として、実施形態1−1〜1−2の製造方法で使用したダイシング・ダイボンディングシートの代わりに液状(ペースト状)の接着剤を使用する。具体的には、上述したダイシング工程(1)において、ダイシング・ダイボンディングシートの代わりにダイボンド機能のない通常のダイシングシートが使用され、ウェハがチップ化される。ダイボンド工程(2)でチップをピックアップした後、液状接着剤を塗布した基板にダイボンドを行う。加熱硬化工程(3)、静圧加圧工程(4)および組立工程(5)は、上述の態様と同様である。この場合も、加熱硬化工程(3)および静圧加圧工程(4)が終了すると、硬化した接着剤層8のチップ側または基板側の界面にはボイドは存在せず、チップ2と基板4とは強固に接着されている。さらに、液状の接着剤を用いた場合は、ダイボンド工程で接着剤層3中にボイド5が存在していても、静圧加圧工程によってボイド5が消滅できる(図4参照)。また、低粘度の液状の接着剤を用いた場合であっても、接着剤の這い上がりも抑えられる利点がある。
【0041】
[実施形態1−5]
本発明の製造方法によって得られる半導体装置の構成は上述の態様に限定されず、種々の構成であってもよい。例えば、本発明の半導体装置の製造方法は、マルチスタック型の半導体装置の製造に適用してもよい。すなわち、相対的に上部を構成するチップ22と、ワイヤーが結線されていてもよい相対的に下部を構成するチップ25(基板)とを未硬化の接着剤層23を介して積層するチップ同士のダイボンド工程に用いてもよい(図2)。このような半導体装置は、図2のように上部と下部のサイズが同じセイムサイズスタック型半導体装置であってもよく、サイズの異なる階段状のマルチスタック型半導体装置であってもよい。さらに、接着剤層23が、結線されたワイヤーを埋め込む形で積層されたセイムサイズスタック型半導体装置であってもよい。この場合は、本発明によれば、ワイヤーの周辺に発生するボイドも消滅できるためより好ましい。
【0042】
このようなマルチスタック型半導体装置の製造方法では、上述の態様において下部のチップ25を基板1の代わりとする。
また、本発明の半導体装置の製造方法は、フリップチップ型の半導体装置に用いてもよい(図3)。この場合は、フリップチップボンドに用いられるアンダーフィル材が上述の態様での未硬化の接着剤層に相当する。アンダーフィル材としては、液状(ペースト状)のアンダーフィル材を用いてもよく、シート状アンダーフィル材を用いてもよい。熱硬化性のシート状アンダーフィル材としては、例えば本願出願人らによる特願2005−129502に記載されたものが使用できる。
【0043】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
(1)ダイシング工程
ウエハバックサイドグラインド装置(DISCO社製、DGP8760)により表面をドライポリッシュ処理し、表面粗度を0.12μmにしたシリコンウエハ(200mm径、厚さ75μm)に、ダイシング・ダイボンディングシート(リンテック社製、Adwill LE4738)をテープマウンター(リンテック社製、Adwill RAD2500 m/8)を用いて貼付し、同時にリングフレームに固定した。その後、UV照射装置(リンテック社製、Adwill RAD2000 m/8)を用いて基材面から紫外線を照射した。次に、ダイシング装置(ディスコ社製、DFD651)を使用し8mm×8mmのサイズのチップにダイシングした。ダイシングの際の切り込み量は、ダイシング・ダイボンディングシートの基材フィルムに対して20μm切り込むようにした。
【0045】
(2)ダイボンド工程
チップをダイボンドする配線基板として、銅箔張り積層板(三菱ガス化学社製、BTレシ゛ンCCL-HL832HS)の銅箔に回路パターンが形成され、パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ社製、PSR-4000 AUS303)を有している2層両面基板(日立超LSI製、LNTEG0001、サイズ:157mm×70mm×0.22t、最大凹凸15μm)を用いた。工程(1)で得られたシリコンチップを粘接着剤層(未硬化の接着剤層)ごとピックアップし、該配線基板上に粘接着剤層を介して載置した後、80℃、100gf、0.1秒間の条件で圧着(ダイボンド)した。
【0046】
(3)加熱硬化工程および(4)静圧加圧工程
続いて、工程(2)で得られたチップがダイボンドされた配線基板を加熱加圧装置(リンテック社製、RAD-9100)に投入し、常温から140℃まで昇温速度5℃/minで加熱し、その後60分加熱した。(加熱硬化工程(3))。ここで配線基板が、80℃(反応率0%)まで加熱された時点から、上記配線基板に常圧よりも0.5MPa大きい静圧を印加した(静圧加圧工程(4))。なお、静圧加圧工程では、上記加熱硬化工程によって上記未硬化の接着剤層が硬化した接着剤層となるまで、上記基板を、上記静圧により加圧した。
加熱硬化工程(3)および静圧加圧工程(4)により、接着剤層に出現するボイドの除去をするとともに接着剤層を硬化させた。
【0047】
(5)組立工程
上記工程(1)〜(4)で得られたシリコンチップがダイボンドされた配線基板を、封止装置(アピックヤマダ株式会社製、MPC-06M Trial Press)により、モールド樹脂(京セラケミカル株式会社製、KE-G1250)で封止厚400μmになるように封止した。次いで、175℃、5時間で封止樹脂を硬化させた。さらに、封止した配線基板をダイシングテープ(リンテック社製、Adwill D-510T)に貼付し、ダイシング装置(ディスコ社製、DFD651)により15.25mm×15.25mmサイズにダイシングしてダミーチップによるワイヤーなしの模擬的な半導体装置を得た。得られたダミーチップによるワイヤーなしの模擬的な半導体装置を用いて、半導体パッケージの信頼性評価(試験2)を行った。
【0048】
[実施例2]〜[実施例4]
実施例1において、静圧加圧工程(4)における加圧開始温度を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして模擬的な半導体装置を得た。
【0049】
[実施例5]〜[実施例6]
実施例1において、加熱硬化工程(3)における昇温速度および静圧加圧工程(4)における加圧開始温度を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして模擬的な半導体装置を得た。
【0050】
[比較例1]、[比較例3]
実施例1において、静圧加圧工程(4)における加圧開始温度を表1の通りに60℃または140℃(反応率16%)に変更した以外は、実施例1と同様にして模擬的な半導体装置を得た。
【0051】
[比較例2]
実施例5において、静圧加圧工程(4)における加圧開始温度を表1の通りに60℃に変更した以外は、実施例5と同様にして模擬的な半導体装置を得た。
【0052】
[測定方法および試験方法]
DSC測定
ダイシング・ダイボンディングシート(リンテック社製、Adwill LE4738)の反応率が10%となる温度及び各温度における反応率は以下の方法により決定した。
【0053】
ダイシング・ダイボンディングシートの接着剤層を180μmになるようラミネートをすることにより積層した。その後、UV照射装置(リンテック社製Adwill RAD2000 m/8)を用いて表裏両面より紫外線を照射した。これを約10mgを測定サンプルとし、示差走査熱量測定装置(DSC);Pyris1(入力補償型DSC;パーキンエルマー社製)で昇温速度5℃/minまたは9℃/minにて室温(約23℃)から300℃まで昇温した時の発熱量を測定した。各温度での反応率は以下の方法で求めた。
反応率=(B/A)×100
A:室温から300℃までの発熱ピーク全体の熱量の積算量
B:室温から各温度までの発熱量の積算量
【0054】
この結果を表1に示す。昇温速度5℃/minの場合、接着剤層の反応率が10%となる温度は135℃、昇温速度9℃/minの場合、接着剤層の反応率が10%となる温度は146℃であった。
【0055】
試験 1; ボイドの有無の確認
ガラスチップによる模擬的な半導体装置を用いてボイドの有無の確認を行った。実施例、比較例の半導体装置の製造工程(1)〜(4)において、シリコンウエハの代わりに透明の円板ガラス(エヌ・エスジー・プレシジョン社製、200μm径、厚さ100μm)を用いて同様の操作を行った。上記工程(1)〜(4)で得られたガラスチップがダイボンドされた配線基板は、接着剤層がガラスチップ側から透視可能であり、デジタルマイクロスコープにより観察し、チップ面積に対する粘着剤の占有率(カバレッジ)を数値化した。この結果を表1に示す。
【0056】
試験 2; 半導体パッケージの信頼性評価
ダミーチップによるワイヤーなしの模擬的な半導体装置を用いて半導体パッケージの信頼性評価を行った。実施例、比較例の半導体装置の製造方法において、(5)封止工程を終えた半導体装置(半導体パッケージ)を85℃、85%RH条件下に168時間(Level.1;JEDEC規定の吸湿条件)放置して吸湿させた後、最高温度260〜263℃加熱のIRリフロー(リフロー炉:相模理工製WL-15-20DNX型)を3回行った。この後、チップと配線基板との接合部の浮き・剥がれの有無、パッケージクラック発生の有無を、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック株式会社製Hye-Focus)による断面観察で評価した。接合部に0.5mm以上の剥離を観察した場合を「剥離が発生した」と判断した。半導体パッケージ25個について上記試験を行い、「剥離が発生しなかった」個数を数えた。この結果を表1に示す。
【0057】
実施例1〜6はガバレッジが98%以上であり、比較例1〜3に比べて高く、ボイドの消滅が効果的に促されている。また、耐IRリフロー性も優れていた。
【0058】
【表1】

【符号の説明】
【0059】
1: チップと未硬化の接着剤層とが積層された基板
2: チップ
3: 未硬化の接着剤層
4: 基板
5: 接着剤層中に存在するボイド
6: 基板と接着剤層との界面に存在するボイド
8: 硬化した接着剤層
9: ワイヤー
10: 半導体装置
11: 封止樹脂
I: 加熱硬化工程
II: 静圧加圧工程
III: ワイヤーボンディング工程
IV: モールディング工程
21: 封止前のマルチスタック型半導体装置
22: 相対的に上部(第2層)を構成するチップ
23: 未硬化の接着剤層
25: 相対的に下部(第1層)を構成するチップ(基板)
26: 接着剤層
27: チップ搭載用配線基板
31: チップと未硬化の接着剤層(アンダーフィル材)とが積層(フリップチップボンド)された配線基板
32: チップ
33: 未硬化の接着剤層
34: 配線基板
35: バンプ
41: 充分に硬化した接着剤層を有する配線基板
42: 硬化した接着剤層
43: ワイヤー
44: 半導体装置
45: 封止樹脂
V: 加熱硬化工程
VI: ワイヤーボンディング工程
VII: モールディング工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化した接着剤層を介してチップが積層された基板からなる半導体装置を製造する方法であって、
未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板を加熱して、前記未硬化の接着剤層を硬化させて硬化した接着剤層とする加熱硬化工程;および
前記加熱硬化工程によって、前記未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板が、80℃以上であって接着剤層の反応率が10%となる温度以下である加圧開始温度まで加熱されてから、前記基板を、常圧に対し0.05MPa大きい圧力以上の静圧により加圧する静圧加圧工程
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記静圧加圧工程が、前記加熱硬化工程によって前記未硬化の接着剤層が硬化した接着剤層となるまで、前記基板を、前記静圧により加圧することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
さらに、前記未硬化の接着剤層を介してチップが積層された基板が前記加圧開始温度になる前まで、前記基板を、常圧を超え常圧に対し0.05MPa未満の静圧により加圧することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−114301(P2011−114301A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271826(P2009−271826)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】