説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】半導体装置のNi又はCu電極と、金属粒子を接合の主剤とする接合材との接合部の接合信頼性を向上させた半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体素子101とCuまたはNi電極がAg,Cu又はAuで構成された接合層105を介して接続され、前記接合層105と前記CuまたはNi電極とが相互拡散接合している構造を備えた半導体装置101を特徴とする。平均粒径が1nm〜50μmの金属酸化物粒子と、有機物からなる還元剤とを含む接合材料により、還元雰囲気中において接合を行うことでNi又はCu電極に対して優れた接合強度が得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径が1〜100nmの金属粒子を接合の主剤とする接合材に係り、また、その接合材を使用して接合が行われた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子の粒径が100nm以下のサイズまで小さくなり構成原子数が少なくなると、粒子の体積に対する表面積比は急激に増大し、融点や焼結温度がバルクの状態に比較して大幅に低下することが知られている。この低温焼成機能を利用して、粒径が1〜100
nm金属粒子を接合材として用いることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、平均粒径100nm以下の金属粒子からなる核の周囲に有機物よりなる皮膜を施した接合材料を用いて、加熱により有機物を分解させて金属粒子同士を焼結させることで接合を行うことが記載されている。本接合方法では、接合後の金属粒子はバルク金属へと変化すると同時に接合界面では金属結合により接合されているため、非常に高い耐熱性と信頼性及び高放熱性を有する。また、電子部品等の接続において、はんだの鉛フリー対応が迫られているが、高温はんだに関してはその代替となる材料が出ていない。実装においては階層はんだを用いることが必要不可欠なため、この高温はんだに代わる材料の出現が望まれている。従って、本接合技術はこの高温はんだに代わる材料としても期待されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−107728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等に記載の平均粒径100nm以下の金属粒子を接合の主剤として用いた接合材料について、本発明者らが検討したところ、被接合部材としてAu,Ag,Pd等の相手電極に対しては良好な接合強度が得られるものの、半導体実装で多く適用されているCu,Niに対しては十分な接合強度が得られないことが判明した。図8に各電極材に対して行った接合強度評価結果を示す。接合温度を250℃、加圧1.0MPa 一定とし、接合材料として、アミン系有機材料を被膜した平均粒径10nmの銀粒子を用いて、大気中でAu,Ag,Pd,Ni及びCu電極への接合を行った。図8の縦軸はせん断強度を示し、Ag電極の値で規格化したものである。この結果、大気中での接合では、Au,
Ag,Pd電極に対しては良好な接合強度が得られているが、Ni,Cu電極に対しては十分な接合強度が得られないことが判った。
【0005】
特許文献1に記載の超微粒子に被膜されている有機材料は大気中加熱でのみ消失する材料であり、酸化されにくい電極に対しては有効であるが、酸化されやすいCu,Niの接合には適さない。
【0006】
半導体装置を構成する電子部品を、金属超微粒子を接合の主剤とした接合材を用いて接合する場合には、電気的導通を確保することが必要になる。また、接合材には熱ひずみの緩和,熱伝導性も要求される。さらに最も多く用いられているNi,Cu電極に対しても接合できなければならない。
【0007】
本発明は、半導体装置のNi又はCu電極と、金属粒子を接合の主剤とする接合材との接合部の接合信頼性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らが誠意検討した結果、金属粒子前駆体である平均粒径が1nm〜50μmの金属酸化物粒子と、有機物からなる還元剤とを含む接合材料により、還元雰囲気中において接合を行うことでNi又はCu電極に対して優れた接合強度が得ることができることを見出した。
【0009】
本発明は、半導体素子とCuまたはNi電極がAg,Cu又はAuで構成された接合層を介して接続された半導体装置であって、前記接合層と前記CuまたはNi電極とが相互拡散接合している構造を備えた半導体装置を特徴とする。
【0010】
また、半導体素子の電極と前記半導体素子の電気信号を外部に取り出すための配線とを接合した半導体装置の製造方法であって、前記半導体素子の電極、または、前記配線の少なくと一方がCuまたはNiで構成され、平均粒径が1nm〜50μmの金属酸化物粒子と、有機物からなる還元剤とを含む接合材料により、還元雰囲気下で加熱により前記電極と配線とを接合する工程を有する半導体装置の製造方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、半導体装置のNi又はCu電極と、金属粒子を接合の主剤とする接合材との接合部の接合信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。従来の平均粒径100nm以下の金属粒子を接合の主剤とする接合材料を用いた接合では、接合時にNi又はCu電極表面に酸化物層が形成されていることが判明した。この酸化物層が接合強度を低下させる要因であると考えられる。これに対して、本発明者らが誠意検討した結果、特定の接合材を用いて還元雰囲気中において接合を行うことにより、Ni又はCu電極に対しても優れた接合強度が得られることを見出した。すなわち、金属粒子前駆体である平均粒径が1nm〜50μmの金属酸化物粒子と、有機物からなる還元剤とを含む接合材料により、還元雰囲気中において接合を行うことでNi又はCu電極に対して優れた接合強度が得ることができる。本接合では、金属粒子前駆体に対して有機物からなる還元剤を添加することによって、金属粒子前駆体単体を加熱分解するよりも低温で金属粒子前駆体が還元され、その際に平均粒径が100nm以下の金属粒子が作製され、金属粒子同士が相互に融合することで接合が行われるという現象を利用している。金属酸化物粒子は還元剤の存在下では、200℃以下で100nm以下の金属粒子が作製され始めることから、従来困難であった200℃以下の低温でも接合を達成することが可能である。また、接合中においてその場で粒径が100nm以下の金属粒子が作成されるため、有機物で表面を保護した金属粒子の作製が不要であり、接合用材料の製造,接合プロセスの簡易化,接合材料の大幅なコストダウンを達成することが可能である。また、還元雰囲気での接合ならびに還元剤の還元作用によりNi又はCu電極の酸化物層形成が抑制され、Ni又はCu電極と金属粒子との強固な金属結合を達成することができる。
【0013】
100nm以下の金属粒子を作製する平均粒径が1nm以上50μm以下の金属粒子前駆体として、金属酸化物と規定したのは金属粒子前駆体中における金属含有量が高いことから、接合時における体積収縮が小さく、かつ分解時に酸素を発生するために、有機物の酸化分解を促進するからである。ここで、金属粒子前駆体とは還元剤と混合し、加熱により還元された後に、粒径が100nm以下の金属粒子を作製する物質のことをいう。
【0014】
ここで用いる金属粒子前駆体の粒径を平均粒径が1nm以上50μm以下としたのは、金属粒子の平均粒径50μmより大きくなると、接合中に粒径が100nm以下の金属粒子が作製されにくくなり、これにより粒子間の隙間が多くなり、緻密な接合層を得ることが困難になるためである。また、1nm以上としたのは、平均粒子が1nm以下の金属粒子前駆体を実際に作製することが困難なためである。本発明では、接合中に粒径が100nm以下の金属粒子が作製されるため、金属粒子前駆体の粒径は100nm以下とする必要はなく、金属粒子前駆体の作製,取り扱い性,長期保存性の観点からは粒径が1〜50μmの粒子を用いることが好ましい。また、より緻密な接合層を得るために粒径が1nm〜100nmの金属粒子前駆体を用いることも可能である。
【0015】
金属酸化物粒子としては、酸化銀(Ag2O,AgO),酸化銅,酸化金などが挙げられ、これらの群から少なくとも1種類の金属あるいは2種類以上の金属からなる接合材料を用いることが可能である。酸化金,酸化銀(Ag2O,AgO),酸化銅からなる金属酸化物粒子は還元時に酸素のみを発生するために、接合後における残渣も残りにくく、体積減少率も非常に小さい。
【0016】
金属粒子前駆体の含有量としては、接合材料中における全質量部において50質量部を超えて99質量部以下とすることが好ましい。これは接合材料中にける金属含有量が多い方が低温での接合後に有機物残渣が少なくなり、低温での緻密な焼成層の達成及び接合界面での金属結合の達成が可能となり、接合強度の向上さらには高放熱性,高耐熱性を有する接合層とすることが可能になるからである。
【0017】
有機物からなる還元剤としては、アルコール類,カルボン酸類,アミン類から選ばれた1種以上の混合物を用いることができる。
【0018】
また、利用可能なアルコール基を含む化合物としては、アルキルアルコールが挙げられ、例えば、エタノール,プロパノール,ブチルアルコール,ペンチルアルコール,ヘキシルアルコール,ヘプチルアルコール,オクチルアルコール,ノニルアルコール,デシルルコール,ウンデシルアルコール,ドデシルアルコール,トリデシルアルコール,テトラデシルアルコール,ペンタデシルアルコール,ヘキサデシルアルコール,ヘプタデシルアルコール,オクタデシルアルコール,ノナデシルアルコール,イコシルアルコール、がある。さらには1級アルコール型に限らず、エチレングリコール,トリエチレングリコール、などの2級アルコール型,3級アルコール型、及びアルカンジオール,環状型の構造を有するアルコール化合物を用いることが可能である。それ以外にもクエン酸,アスコルビン酸など4つのアルコール基を有する化合物を用いてもよい。
【0019】
また、利用可能なカルボン酸を含む化合物としてアルキルカルボン酸がある。具体例としては、ブタン酸,ペンタン酸,ヘキサン酸,ヘプタン酸,オクタン酸,ノナン酸,デカン酸,ウンデカン酸,ドデカン酸,トリデカン酸,テトラデカン酸,ペンタデカン酸,ペンタデカン酸,ヘキサデカン酸,ヘプタデカン酸,オクタデカン酸,ノナデカン酸,イコサン酸が挙げられる。また、上記アミノ基と同様に1級カルボン酸型に限らず、2級カルボン酸型,3級カルボン酸型、及びジカルボン酸,環状型の構造を有するカルボキシル化合物を用いることが可能である。
【0020】
また、利用可能なアミノ基を含む化合物としてアルキルアミンを挙げることができる。例えば、ブチルアミン,ペンチルアミン,ヘキシルアミン,ヘプチルアミン,オクチルアミン,ノニルアミン,デシルアミン,ウンデシルアミン,ドデシルアミン,トリデシルアミン,テトラデシルアミン,ペンタデシルアミン,ヘキサデシルアミン,ヘプタデシルアミン,オクタデシルアミン,ノナデシルアミン,イコデシルアミンがある。また、アミノ基を有する化合物としては分岐構造を有していてもよく、そのような例としては、2−エチルヘキシルアミン、1,5−ジメチルヘキシルアミンなどがある。また、1級アミン型に限らず、2級アミン型,3級アミン型を用いることも可能である。さらにこのような有機物としては環状の形状を有していてもよい。
【0021】
また、用いる還元剤は上記アルコール,カルボン酸,アミンを含む有機物に限らず、アルデヒド基やエステル基,スルファニル基,ケトン基などを含む有機物を用いても良い。
【0022】
ここで、エチレングリコール,トリエチレングリコール等の20〜30℃において液体である還元剤は、酸化銀(Ag2O )などと混ぜて放置すると一日後には銀に還元されてしまうため、混合後はすぐに用いる必要がある。一方、20〜30℃の温度範囲において固体であるミリスチルアルコール,ラウリルアミン,アスコルビン酸等は金属酸化物等と1ヵ月ほど放置しておいても大きくは反応が進まないため、保存性に優れており、混合後に長期間保管する場合にはこれらを用いることが好ましい。また、用いる還元剤は金属酸化物等を還元させた後には、精製された100nm以下の粒径を有する金属粒子の保護膜として働くために、ある程度の炭素数があることが望ましい。具体的には、2以上で20以下であることが望ましい。これは炭素数が2より少ないと、金属粒子が作製されると同時に粒径成長が起こり、100nm以下の金属粒子の作製が困難になるからである。また、20より多いと、分解温度が高くなり、金属粒子の焼結が起こりにくくなった結果、接合強度の低下を招くからである。
【0023】
還元剤の使用量は金属粒子前駆体の全重量に対して1質量部以上で50質量部以下の範囲であればよい。これは還元剤の量が1質量部より少ないと接合材料における金属粒子前駆体を全て還元して金属粒子を作製するのに十分な量ではないためである。また、50質量部を超えて用いると接合後における残渣が多くなり界面での金属接合と接合銀層中における緻密化の達成が困難であるためである。さらに、還元剤としては、400℃までの加熱時における熱重量減少率が99%以上であることが好ましい。これは、還元剤の分解温度が高いと接合後における残渣が多くなり、界面での金属接合と接合銀層中における緻密化の達成が困難であるためである。ここで、400℃までの加熱時における熱重量減少率の測定は、一般に市販されている、Seiko Instruments 製TG/DTA6200や、島津製作所製TGA−50等の熱重量測定が可能な装置を用いて10℃/min において大気中で行った場合のものとする。
【0024】
金属粒子前駆体と有機物からなる還元剤の組み合わせとしては、これらを混合することにより金属粒子を作製可能なものであれば特に限定されないが、接合用材料としての保存性の観点から、常温で金属粒子を作製しない組み合わせとすることが好ましい。
【0025】
また、接合材料中には比較的粒径の大きい平均粒径50μm〜100μmの金属粒子を混合して用いることも可能である。これは接合中において作製された100nm以下の金属粒子が、平均粒径50μm〜100μmの金属粒子同士を焼結させる役割を果たすからである。また、粒径が100nm以下の金属粒子を予め混合しておいてもよい。この金属粒子の種類としては、金,銀,銅があげられる。上記以外にも白金,パラジウム,ロジウム,オスミウム,ルテニウム,イリジウム,鉄,錫,亜鉛,コバルト,ニッケル,クロム,チタン,タンタル,タングステン,インジウム,ケイ素,アルミニウム等の中から少なくとも1種類の金属あるいは2種類以上の金属からなる合金を用いることが可能である。
【0026】
この実施形態で用いられる接合材料は金属粒子前駆体と有機物からなる還元剤のみで用いてもよいが、ペースト状として用いる場合に溶媒を加えてもよい。混合後、すぐに用いるのであれば、メタノール,エタノール,プロパノール,エチレングリコール,トリエチレングリコール,テルピネオールのアルコール類等の還元作用があるものを用いてもよいが、長期間に保管する場合であれば、水,ヘキサン,テトラヒドロフラン,トルエン,シクロヘキサン、など常温での還元作用が弱いものを用いることが好ましい。また、還元剤としてミリスチルアルコールのように常温で還元が起こりにくいものを用いた場合には長期間保管可能であるが、エチレングリコールのような還元作用の強いものを用いた場合には使用時に混合して用いることが好ましい。
【0027】
また、金属粒子前駆体の溶媒への分散性を向上させるために必要に応じて分散剤を用いて金属粒子前駆体の周りを有機物で被覆し、分散性を向上させてよい。本発明で用いられる分散剤としては、ポリビニルアルコール,ポリアクリルニトリル,ポリビニルピロリドン,ポリエチレングリコールなどの他に、市販の分散剤として、例えばディスパービック160,ディスパービック161,ディスパービック162,ディスパービック163,ディスパービック166,ディスパービック170,ディスパービック180,ディスパービック182,ディスパービック184,ディスパービック190(以上ビックケミー社製),メガファックF−479(大日本インキ製),ソルスパース20000,ソルスパース24000,ソルスパース26000,ソルスパース27000,ソルスパース
28000(以上、アビシア社製)などの高分子系分散剤を用いることができる。このような分散剤の使用量は金属粒子前駆体に接合用材料中において0.01wt% 以上でかつ45wt%を超えない範囲とする。
【0028】
これらペースト材料は、インクジェット法により微細なノズルからペーストを噴出させて基板上の電極あるいは電子部品の接続部に塗布する方法や、あるいは塗布部分を開口したメタルマスクやメッシュ状マスクを用いて必要部分にのみ塗布を行う方法,ディスペンサを用いて必要部分に塗布する方法,シリコーンやフッ素等を含む撥水性の樹脂を必要な部分のみ開口したメタルマスクやメッシュ状マスクで塗布したり、感光性のある撥水性樹脂を基板あるいは電子部品上に塗布し、露光および現像することにより前記微細粒子等からなるペーストを塗布する部分を除去し、その後接合用ペーストをその開口部に塗布する方法や、さらには撥水性樹脂を基板あるいは電子部品に塗布後、前記金属粒子からなるペースト塗布部分をレーザーにより除去し、その後接合用ペーストをその開口部に塗布する方法がある。これらの塗布方法は、接合する電極の面積,形状に応じて組み合わせ可能である。また、ミリスチルアルコールやアスコルビン酸のような常温で固体のものを還元剤として用いた際には金属粒子前駆体と混合し加圧を加えることでシート状に成形して接合材料として用いる方法がある。
【0029】
本接合材料を用いた接合では、接合時に金属粒子前駆体から粒径が100nm以下の金属粒子を作製し、接合層における有機物を排出しながら粒径が100nm以下の金属粒子の融着による金属結合を行うために熱と圧力を加えることが必須である。また、Ni又はCu電極との相互拡散接合を達成するために還元雰囲気中で接合を行うことが必須である。接合条件としては、1秒以上10分以内で50℃以上400℃以下の加熱と0.01 〜10MPaの加圧を加えることが好ましい。
【0030】
本発明の接合では、金属酸化物粒子は接合時の加熱によって粒径0.1 〜50nm程度の酸化物ではない純金属超微粒子化し、この純金属超粒子同士が相互に融合してバルクになる。バルクになった後の溶融温度は通常のバルクの状態での金属の溶融温度と同じであり、純金属超微粒子は低温の加熱で溶融し、溶融後はバルクの状態での溶融温度に加熱されるまで再溶融しないという特徴を有する。これは、純金属超微粒子を用いた場合に低い温度で接合を行うことができ、接合後は溶融温度が向上することから、その後、他の電子部品を接合している際に接合部が再溶融しないというメリットをもたらす。また、接合後の接合層の熱伝導率は50乃至430W/mKとすることが可能であり、放熱性にも優れている。さらに前駆体が金属酸化物であるため低コストというメリットもある。なお、金属酸化物粒子には還元効果を促進するため、アルコールなどの有機物を被膜させておくことが必要である。さらに、接合時の雰囲気は還元雰囲気とすることが必要である。還元雰囲気としては、例えば水素を用いることができる。
【0031】
以上の接合材料と接合方法を経て接合された界面には金属的な接合を阻害する酸化物層が形成されない。還元して生成した金属粒子は、接合によって相手部材と金属的に結合されることが接合強度を高めるため、及び、電気的導通を確保するために要求される。もちろん、相手部材も金属粒子を形成する金属と金属的に結合されることが要求される。このために相手部材は、金属粒子と金属結合する材料によって形成されていることが望ましい。Ni、あるいはCu、又はそれらを主成分とする合金よりなる相手部材は、金属粒子と相手部材とが接合時に金属的に結合する。なお、酸化銀と酸化銅混在の場合も上述と同様に接合でき、かつ耐食性向上が図れる利点を有する。
【0032】
以上で説明した接合材,接合方法を半導体装置のNiあるいはCu電極の接合に用いることにより、優れた接合信頼性を得ることが可能となる。
【0033】
以下、図面を用いて、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
図1は本発明を適用した絶縁型半導体装置を示したものであり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A′の断面図を示したものである。また、図2は図1の要部を示した斜視図である。
【0035】
本実施例において、半導体素子101の一方の面は、図示しないコレクタ電極が、酸化銀粒子を使用した接合層(ミリスチルアルコールを5wt%含有、接合後は純銀化)105によって、セラミックス絶縁基板103上の配線層102に接合されている。セラミックス絶縁基板103は支持部材110にはんだ層109を介して接合されている。セラミックス絶縁基板103と配線層102をもって配線基板と称する。配線層102はCu配線にNiめっきを施したものである。接合層105は厚さ80μmである。半導体素子101の他方の面は、エミッタ電極が接続用端子201と酸化銀粒子使用接合材(接合後は純銀層化)を用いて接合されており、接続用端子201はセラミックス絶縁基板103上の配線層104と酸化銀粒子使用接合材(接合後は純銀層化)を用いて接合されている。なお、図1における他の符号は、それぞれ、ケース111,外部端子112,ボンディングワイヤ113,封止材114を示している。
【0036】
図3は図1における半導体素子搭載部分を拡大して示した断面図である。半導体素子
101のコレクタ電極106′と配線層102が酸化銀粒子使用接合材(接合後は純銀層化)で接合されている。配線層102はCu配線にNiめっきを施したものである。酸化銀粒子使用接合材(接合後は純銀層化)は、半導体素子のエミッタ電極106と接続用端子201の接合部、及び接続用端子201と配線層104の接合部にも、同様の構成で適用されている。コレクタ電極106′表面とエミッタ電極106表面はNiが施されている。また、接続用端子201はCuまたはCu合金で構成されている。それぞれの酸化銀粒子使用接合部は個別に行ってもよいし、同時に行ってもよい。酸化銀粒子使用接合材を接合すべき部材の間に配置し、その状態で250℃の熱を約1分間加え、同時に1.0
MPaの圧力を100%水素中で加えることにより、接合を行うことができる。接合に当たり、超音波振動を加えることもできる。
【0037】
図4は本発明の接合部位に対して行った接合強度評価結果を示したもので、接合温度を250℃、加圧1.0MPa 一定とし、相手電極、及び接合時の加熱雰囲気の影響を調べた結果を示す。本評価では接合材料として、ミリスチルアルコール5wt%含んだ平均粒径2μmの酸化銀粒子を用いて、大気中、還元雰囲気中でそれぞれAg,Ni及びCu電極への接合を行った。図4の縦軸はせん断強度を示し、水素中のNi電極の値で規格化したものである。
【0038】
その結果、大気中での接合では、Ag電極に対しては良好な接合強度が得られているが、Ni,Cu電極に対しては十分な接合強度が得られないことが判った。これに対して、還元雰囲気中で接合した場合、Ni電極,Cu電極に対する接合強度は、Ag電極に対して接合した場合と同等の接合強度が得られており、Ni電極,Cu電極に対しても強固な接合が達成されている。本評価結果から、ミリスチルアルコールによる酸化銀の還元効果だけではNi,Cu電極への接合は達成できないことが判った。
【0039】
また、同様の接合条件において、還元剤(ミリスチルアルコール)を含まない酸化銀粒子を接合材として用いて大気中、還元雰囲気中でCu電極に対する接合についても評価を行った。その結果、図4に示したように、大気中と比較して還元雰囲気の接合することにより接合強度が若干増加するものの、大気中,還元雰囲気中ともに十分な接合強度が得られないことが判った。本評価結果から、還元雰囲気中での接合のみではNi,Cu電極への接合は達成できないことが判った。
【0040】
以上の結果より、酸化物金属粒子と還元剤を含む接合材料を用いて、還元雰囲気中にて接合を行うことでNi,Cu電極への接合が可能である。
【0041】
なお、Ni,Cu電極以外の電極としてAg電極のみのを示したが、大気中での接合においてAu,Pt等の貴金属類に対してもAg電極と同様に良好な接合ができることを確認している。
【0042】
図5は図4の接合部断面の状態を示した図である。従来法では界面に酸化物層が形成され、金属的な接合が阻害されている。これに対して本発明方法ではNi,Cuに対して界面に接合を阻害するものが無く、金属的な接合(相互拡散接合)が達成できていることが判った。
【0043】
次に、本実施例による半導体装置の好ましい例について説明する。
【0044】
図3に示す金属微粒子による接合層105は電流が流れる部位である。このため、粒子層の材料には酸化銀のほかに酸化銅も有効な材料である。あるいは酸化銀と酸化銅の混合材を用いても良い。これらの場合も加熱時の還元効果(アルコールなどの有機物による還元作用、および還元雰囲気の併用)で、生成したナノサイズ粒子が相手電極と接合し、その際の接合温度は200℃以下でも行うことができる。Cu又はその合金の熱膨張係数は約8〜16ppm/℃ である。セラミックス絶縁基板103には窒化珪素を用いることが好ましい。窒化珪素の熱膨張係数は約9ppm/℃ である。また、はんだ層109を酸化物を用いた接合層とすることは放熱性向上のため望ましい構成である。
【0045】
本構造のパワー半導体モジュールは、半導体素子101と熱膨張係数が約9ppm/℃ の絶縁配線基板とが、熱膨張係数8〜16ppm/℃ の接合材を介して接合されているため、高温環境で顕著になる各部材の熱膨張差に起因する熱応力を小さくすることができる。理想的には接合材の熱膨張係数を配線基板のそれに一致させることで、接合材に生じる熱応力が最小になり、長期信頼性が向上する。
【0046】
本発明の半導体装置は各種の電力変換装置に適用することができる。電力変換装置に本発明の半導体装置を適用することによって、高温環境の場所に搭載でき、かつ専用の冷却器を持たなくても長期的な信頼性を確保することが可能になる。
【0047】
図6は半導体装置の回路を説明する図である。4個のMOS FET素子101が並列に配置された2系統のブロック910を有し、各ブロック910は直列に接続され、入力主端子30in,出力主端子30out,補助端子31が所定部から引き出されて半導体装置900の要部を構成している。また、この回路の稼働時における温度検出用サーミスタ34が半導体装置900内に独立して配置されている。
【0048】
また、インバータ装置及び電動機は、電気自動車にその動力源として組み込むことができる。この自動車においては、動力源から車輪に至る駆動機構を簡素化できたため、ギヤーの噛込み比率の違いにより変速していた従来の自動車に比べ、変速時のショックが軽減され、スムーズな走行が可能で、振動や騒音の面でも従来よりも軽減することができる。なお、本実施例の半導体装置900は、図7に示すハイブリッド自動車電動機960の回転数制御用インバータ装置に組み込むことが可能である。
【0049】
更に、本実施例の半導体装置900を組み込んだインバータ装置は冷暖房機に組み込むことも可能である。この際、従来の交流電動機を用いた場合よりも高い効率を得ることができる。これにより、冷暖房機使用時の電力消費を低減することができる。また、室内の温度が運転開始から設定温度に到達するまでの時間を、従来の交流電動機を用いた場合よりも短縮できる。
【0050】
本実施例と同様の効果は、半導体装置900が他の流体を撹拌又は流動させる装置、例えば洗濯機,流体循環装置等に組み込まれた場合でも享受できる。
【0051】
なお、本発明の金属超微粒子仕様接合材は、例えばLEDバックライトのような発熱が大きい部位の接合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)は本発明の位置実施例による絶縁型半導体装置の平面図、(b)はA−A断面図である。
【図2】図1の要部を示した斜視図である。
【図3】図1における半導体素子搭載部分を拡大して示した断面図である。
【図4】本発明による接合部の接合性を示す図である。
【図5】本発明による接合部の状態を示す図である。
【図6】半導体装置の回路図である。
【図7】ハイブリッド自動車電動機の回転数制御用インバータ装置を示す概略図である。
【図8】銀微粒子による接合部の接合性を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
101 半導体素子
102,104 配線層
103 セラミックス絶縁基板
105 接合層
106 エミッタ電極
110 支持部材
201 接続用端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子とCuまたはNi電極がAg,Cu又はAuで構成された接合層を介して接続された半導体装置であって、前記接合層と前記CuまたはNi電極とが相互拡散接合している構造を特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1において、前記接合層と前記CuまたはNi電極との境界に酸化物層が存在しないことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1において、前記接合層の熱伝導率が50乃至430W/mKであることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1において、前記接合層は金属粒子が相互に金属結合した焼成層であることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1において、前記接合層は、平均粒径が1nm〜50μmの金属酸化物粒子と、有機物からなる還元剤とを含む接合材料を還元雰囲気下で加熱することで得られる焼成層であることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
セラミックス絶縁基板の両面に配線層を有する配線基板と、前記配線基板の一方の面に接続された半導体素子と、前記配線基板の他方の面に接続された支持部材とを有する半導体装置であって、
前記半導体素子と接続される前記配線層の接合面がNi又はCuで構成され、Ag,
Cu又はAuからなる金属粒子の焼成層により前記半導体素子と配線層が接合され、前記焼成層と前記配線層とが相互拡散接合していることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体装置において、前記支持部材、又は、前記支持部材と接続される前記配線層の少なくとも一方の接合面がNi又はCuで構成され、Ag,Cu又はAuからなる金属粒子の焼成層により前記支持部材と配線層が接合されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項6に記載の半導体装置を内蔵していることを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電力変換装置がエンジンルームに搭載されることを特徴とするハイブリット自動車。
【請求項10】
半導体素子の電極と前記半導体素子の電気信号を外部に取り出すための配線とを接合した半導体装置の製造方法であって、
前記半導体素子の電極、または、前記配線の少なくと一方がCuまたはNiで構成され、
平均粒径が1nm〜50μmの金属酸化物粒子と、有機物からなる還元剤とを含む接合材料により、還元雰囲気下で加熱により前記電極と配線とを接合する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記電極と配線とを接合する工程において、0.01 乃至5MPaの加圧と、50乃至400℃に加熱を加えることを特徴とする請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
請求項10において、前記金属酸化物が、金,銀、または、銅の酸化物であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項13】
請求項10において、前記還元剤がアルコール類,カルボン酸類,アミン類から選ばれた1種または2種以上の混合物であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項14】
請求項10において、前記加熱により前記金属粒子前駆体を還元させて平均粒径が100nm以下の金属粒子を生成させることを特徴とする接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−177378(P2008−177378A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9692(P2007−9692)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】