説明

半導体装置

【課題】本発明は半導体素子と両電極端子との間に介在させた接合部材に作用する最大温度及び温度変化幅を抑制し、温度変化に対する熱疲労寿命を向上させた半導体装置を提供する。
【解決手段】本発明の半導体装置は、半導体チップとリード電極体との間に接合部材を設けて半導体チップをリード電極体に接合し、半導体チップと支持電極体との間に熱応力緩和体を配設し、この熱応力緩和体と半導体チップ及び支持電極体との間に接合部材を夫々設けて第一の熱応力緩和体を支持電極体に接合し、第二の熱応力緩和体は熱膨張係数が半導体チップとリード電極体の各熱膨張係数の間の値の特性を有する材料によって形成し、第一の熱応力緩和体は熱膨張係数が半導体チップと支持電極体の各熱膨張係数の間の値の特性を有し、且つ熱伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有する材料によって形成して構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる半導体装置に係り、特に交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられ温度変化に対する熱疲労寿命の要求が高い自動車用の半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の交流−直流変換器に用いられる半導体装置では、交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する直流変換時に、交流−直流変換器を構成する半導体チップに発生した熱を主に放熱板を介して放熱して半導体チップの温度上昇を抑えている。
【0003】
近年、自動車用の交流発電機の使用動作温度の要求は、従来の使用動作温度の要求値である約180℃よりも20℃も高い温度となっており、このような高温の使用動作温度下で交流−直流変換器に用いられる半導体装置を使用すると半導体装置の熱疲労寿命が比較的少ない熱疲労寿命サイクル数で限界に達してしまう恐れがある。
【0004】
そこで自動車用の交流−直流変換器に用いられる半導体装置に関しては、特開2005−340267号公報には接合組立後の冷却過程や温度サイクル試験における半導体素子の割れを防止し、半導体素子への通電と遮断の繰返しに伴う熱疲労寿命に優れた半導体装置として、半導体素子と両電極端子との間に応力緩和材として熱膨張率が10PPM(10×10−6(1/℃))以下のCu/Fe−Ni合金/Cuの複合材からなる薄板状低熱膨張部材を接合部材を介して夫々挿入し、この薄板状低熱膨張部材の外形寸法をリード電極端子側では半導体素子の電極面の外形寸法より小さく、ベース電極端子側では半導体素子の電極面の外形寸法より大きく形成した構成の半導体装置の技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−340267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特開2005−340267号公報に記載された構成の自動車用の交流−直流変換器に用いられる半導体装置では、接合部材の熱膨張係数は半導体チップの熱膨張係数とリード電極体及び支持電極体の熱膨張係数との差異が大きく、交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する直流変換時に自己発熱する半導体チップと接合している接合部材に生じる最大温度及び温度変化幅が大きくなるので接合部材の熱疲労寿命が比較的少ない熱疲労寿命サイクル数で限界に達して比較的短期間で半導体装置の熱疲労寿命が尽きてしまうという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる半導体チップを備えた半導体装置において、半導体チップで発生した熱を支持電極体に効果的に伝熱させて放熱し、半導体素子と電極端子との間に介在させた接合部材に作用する最大温度及び温度変化幅を抑制すると共に、温度変化に対する熱疲労寿命を向上させた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体装置は、半導体チップと、リード電極体及び支持電極体とを有する半導体装置において、半導体チップとリード電極体との間に第二の熱応力緩和体を配設し、この第二の熱応力緩和体と半導体チップ及びリード電極体との間に接合部材を夫々設けて第二の熱応力緩和体をリード電極体に接合し、半導体チップと支持電極体との間に第一の熱応力緩和体を配設し、この第一の熱応力緩和体と半導体チップ及び支持電極体との間に接合部材を夫々設けて第一の熱応力緩和体を支持電極体に接合し、第二の熱応力緩和体は熱膨張係数が半導体チップとリード電極体の各熱膨張係数の間の値の特性を有する材料によって形成し、第一の熱応力緩和体は熱膨張係数が半導体チップと支持電極体の各熱膨張係数の間の値の特性を有し、且つ熱伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有する材料によって形成したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の半導体装置は、半導体チップと、リード電極体及び支持電極体とを有する半導体装置において、半導体チップとリード電極体との間に接合部材を設けて半導体チップをリード電極体に接合し、半導体チップと支持電極体との間に第一の熱応力緩和体を配設し、この第一の熱応力緩和体と半導体チップ及び支持電極体との間に接合部材を夫々設けて第一の熱応力緩和体を支持電極体に接合し、第一の熱応力緩和体は熱膨張係数が半導体チップと支持電極体の各熱膨張係数の間の値の特性を有し、且つ熱伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有する材料によって形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる半導体チップを備えた半導体装置において、半導体チップで発生した熱を支持電極体に効果的に伝熱させて放熱し、半導体素子と電極端子との間に介在させた接合部材に作用する最大温度及び温度変化幅を抑制すると共に、温度変化に対する熱疲労寿命を向上させた半導体装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に本発明の実施例である交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる半導体装置について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の一実施例である交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる自動車用の半導体装置の構造を示す図面である。
【0013】
図1において、本実施例の半導体装置は、交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる自動車用の半導体装置であって、この半導体装置の構成は、交流電力を直流電力に変換する半導体チップ1を備えており、この半導体チップ1の上部とリード電極体5との間には、接合部材2によって半導体チップ1と接合され、熱膨張係数が半導体チップ1とリード電極体5の間の3〜9×10−6(1/℃)の熱膨張係数の特性を有するモリブデン材からなる第二の熱応力緩和体3が配設されている。
【0014】
この第二の熱応力緩和体3には熱膨張係数が3〜9×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデン材を選定して、半導体チップ1の熱膨張係数3×10−6/℃と、リード電極体5の熱膨張係数17.7×10−6/℃との間の値の熱膨張係数の特性となるように設定したことにより、3相交流を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1の発熱に伴って半導体チップ1とリード電極体5との双方に生じる熱膨張の差を第二の熱応力緩和体3によって緩和している。
【0015】
更に、半導体チップ1の下部と支持電極体9との間には、接合部材6によって半導体チップ1と接合され、熱膨張係数が半導体チップ1と支持電極体9の間の特性の5〜11×10−6(1/℃)の特性を有し、且つ伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有する材料からなる第一の熱応力緩和体7が配設されている。
【0016】
この第一の熱応力緩和体7には熱膨張係数を5〜11×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデンと銅比率35%の複合材料を選定して、半導体チップ1の熱膨張係数3×10−6/℃と、支持電極体9の熱膨張係数17.7×10−6/℃との間の値の熱膨張係数の特性となるように設定したことにより、3相交流を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1の発熱に伴って半導体チップ1とリード電極体5との双方に生じる熱膨張の差を第一の熱応力緩和体7によって緩和している。
【0017】
更に、この第一の熱応力緩和体7にはモリブデンと銅比率35%の複合材料を用いることによって、前記した熱膨張係数の特性に加えて熱伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を備えさせているので、3相交流を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1で生じた熱をこの熱応力緩和体7を通じて熱容量の大きな支持電極体9に効果的に伝熱させて放熱を促進している。
【0018】
本実施例の半導体装置においては、半導体チップ1の上部に接合部材2を介して配設した第二の熱応力緩和体3の上部とリード電極体5との間には、更に接合部材4を介して第二の熱応力緩和体3と接合されたリード電極体5が配置されており、また、半導体チップ1の下部に接合部材6を介して配設した第一の熱応力緩和体7の下部と支持電極体9との間には、更に接合部材8を介して第一の熱応力緩和体7と接合された支持電極体9が配置されている。
【0019】
尚、リード電極体5及び支持電極体9は3相交流を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1に電力を通電させるものである。
【0020】
また、本実施例の半導体装置の支持電極体9には、その中央部に内側が窪んだ形状の凹部9aが形成されており、この支持電極体9の凹部9aの底部に接合部材8を介して第一の熱応力緩和体7を接合することによって、支持電極体9の凹部9aの内部に、丁度、第二の熱応力緩和体3、半導体チップ1、及び第一の熱応力緩和体7が接合部材4、2、6、8を夫々介して順次積層されて収容されるように構成している。
【0021】
そして、第二の熱応力緩和体3、半導体チップ1、及び第一の熱応力緩和体7を収容した支持電極体9の凹部9aの内部にはシリコーンゴム10が充填されて、凹部9に収容した第二の熱応力緩和体3、半導体チップ1、及び第一の熱応力緩和体7をシリコーンゴム10によって封入することにより半導体チップ1の表面を保護している。
【0022】
接合部材2、4、6、8は、融点温度300℃程度の半田(Pb-Sn系半田や、Sn−Cu系半田)を用いており、150℃以上の温度条件下で使用される自動車用の半導体装置の熱疲労特性を向上させている。
【0023】
また、この接合部材2、4、6、8の材料として、上記した組成の半田に代えて他の組成の半田(例えば、Sn-Ag系、Sn-Zn系、Au-Sn系の半田)、或いは導電性樹脂などを用いても良い。
この場合の他の組成の半田、或いは導電性樹脂の融点温度は約230℃以上のものが望ましい。
【0024】
ところで、本実施例の半導体装置に用いられる接合部材2、4、6、8として使用される半田に関して、温度変化により発生する半田ひずみΔεpと熱疲労寿命Nfは、下記の関係式がある。
【0025】
Nf=K/Δεp・・・(1)
K、nは、半田材料、環境・温度で決まる定数、Δεpは、半田の塑性ひずみ振幅。
【0026】
上記(1)式に、熱疲労寿命試験時の、温度振幅で発生する熱膨張係数差によるひずみ、亀裂進展速度に対する周波数や最高温度の影響を考慮して表すと、下記(2)式となる。
【0027】
Nf=C・fλ(L・Δα・ΔT/2h)−nexp(Ea/kTmax)・・・(2)
C、λ、nは定数、fは温度繰返し周波数、Lは半田長さ、Δαは部材の熱膨張差、ΔTは半田に加わる温度変化幅、hは半田厚、Eaは活性化エネルギ、kはボルツマン定数、Tmaxは最大温度。
【0028】
この(2)式から、半田の熱疲労寿命は、部材の熱膨張差Δα、半田に加わる温度変化幅ΔT、最大温度Tmaxを小さくすれば、向上することが判る。
【0029】
半導体装置に用いられる接合部材2及び接合部材6の半田は、交流−直流変換器を構成する半導体チップ1の熱膨張係数3×10−6/℃と、リード電極体5及び支持電極体9の熱膨張係数17.7×10−6/℃との差である部材の熱膨張差Δαが14.7×10−6/℃と大きく、しかも交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する時に自己発熱する半導体チップ1と接合しているために、最大温度Tmax、及び温度変化幅ΔTが共に大きくなり、接合部材2及び接合部材6の熱疲労寿命サイクルが約8,500サイクル程度の比較的低い熱疲労寿命のサイクル数で限界に達するので、このままでは交流−直流変換器を構成する半導体チップを備えた自動車用の半導体装置として長期間の使用に耐えられなくなる。
【0030】
そこで、本実施例においては、交流−直流変換器を構成する半導体チップ1の下部と支持電極体9との間に配設され、接合部材6及び8を夫々介在させることによって半導体チップ1及び支持電極体9と接合される第一の熱応力緩和体7として、熱膨張係数が半導体チップ1と支持電極体9の間の5〜11×10−6(1/℃)の特性を有し、且つ熱伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有するモリブデンと銅比率35%の複合材料の第一の熱応力緩和体7を半導体装置に設けることにより、半導体チップ1で発熱して接合部材6及び8に作用する温度変化幅ΔT、最大温度Tmaxを夫々低くしている。
【0031】
更に、交流−直流変換器を構成する半導体チップ1の発熱で生じた熱量は、モリブデンと銅比率35%の複合材料を用いて熱伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性にした第一の熱応力緩和体7を半導体チップ1と支持電極体9との間に配設させたことによって、熱伝導率を向上させた第一の熱応力緩和体7を通じて半導体チップ1で発生した熱を熱容量の大きな支持電極体9に効果的に伝熱して放熱させているので、半導体装置の熱疲労寿命Nfを大幅に向上させることが可能となる。
【0032】
また、半導体チップ1の上部とリード電極体5との間に配設され、接合部材2及び接合部材4を介して半導体チップ1とリード電極体5とに接合される第二の熱応力緩和体3として、熱膨張係数が半導体チップ1とリード電極体5の間の3〜9×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデン材を用いることにより、半導体チップ1で発熱して第二の熱応力緩和体3の下部及び上部に夫々介在する接合部材2及び接合部材4に作用する半導体チップ1とリード電極体5による熱膨張係数差Δαを小さくしたので、これによっても半導体装置の熱疲労寿命Nfを向上することが可能となる。
【0033】
また、第一の熱応力緩和体7の材料として、熱伝導率が210W/(m・℃)で、熱膨張係数が半導体チップ1と支持電極体9の間の例えば7.7×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデンと銅比率35%の複合材料を用いれば、銅/Fe−Ni合金/銅の複合材を用いた第一の熱応力緩和体7に比較して、半導体チップ1で発熱して接合部材6及び接合部材8に作用する温度変化幅ΔT、及び最大温度Tmaxを共に14℃程度低くすることが出来る。
【0034】
図5は第二の熱応力緩和体3及び又は第一の熱応力緩和体7に夫々各種の材料を用いた交流−直流変換器を構成する半導体チップ1を備えた半導体装置に対して熱疲労寿命試験を実施した場合を模擬した半導体装置の平均寿命サイクルを示す応力解析データを示す図面である。
【0035】
図5において、A0は交流−直流変換器を構成する半導体チップ1と支持電極体9との間に銅/Fe−Ni合金/銅の複合材を用いた熱応力緩和体のみを設置した従来製品と同じ構成の半導体装置に対して熱疲労寿命試験を実施した場合の解析結果であり、半導体装置の平均寿命サイクルが約8,500サイクルに留まっているデータを示す。
【0036】
これに対して図5のA1は交流−直流変換器を構成する半導体チップ1と支持電極体9との間に、熱膨張係数が半導体チップ1と支持電極体9の間の特性の5〜11×10−6(1/℃)の特性を有し、且つ伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有するモリブデンと銅比率35%の複合材を用いた第一の熱応力緩和体7のみを設置した図3に示す実施例の構成の半導体装置に対して熱疲労寿命試験を実施した場合の解析結果で平均寿命サイクルが約11,000サイクルのデータを示す。
【0037】
A1の実施例の半導体装置における平均寿命サイクルはA0の半導体装置のものと比較して約1.3倍も平均寿命サイクルが向上している。
【0038】
また、図5のA2は交流−直流変換器を構成する半導体チップ1と半導体チップ1と支持電極体9との間に、熱膨張係数が半導体チップ1とリード電極体5の間の3〜9×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデン材料を用いた第二の熱応力緩和体3を設置し、更に半導体チップ1と支持電極体9との間に、熱膨張係数が半導体チップ1と支持電極体9の間の特性の5〜11×10−6(1/℃)の特性を有し、且つ伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有する銅/Fe−Ni合金/銅の複合材の第一の熱応力緩和体7を設置した図4に示す実施例の半導体装置に対して熱疲労寿命試験を実施した場合の解析結果で平均寿命サイクルが約13,000サイクルのデータを示す。
【0039】
A2の実施例の半導体装置における平均寿命サイクルはA0の半導体装置のものと比較して約1.5倍も平均寿命サイクルが向上している。
【0040】
また、図5のA3は交流−直流変換器を構成する半導体チップ1と半導体チップ1とリード電極体5との間に、熱膨張係数が半導体チップ1とリード電極体5の間の3〜9×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデン材料を用いた第二の熱応力緩和体3を設置し、更に、半導体チップ1と支持電極体9との間に、熱膨張係数が半導体チップ1と支持電極体9の間の特性の5〜11×10−6(1/℃)の特性を有し、且つ伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有するモリブデンと銅比率35%の複合材の第一の熱応力緩和体7を設置した図1に示す実施例の半導体装置に対して熱疲労寿命試験を実施した場合の解析結果で平均寿命サイクルが約20,000サイクルのデータを示す。
【0041】
A3の実施例の半導体装置における平均寿命サイクルはA0の半導体装置のものと比較して約2.3倍も平均寿命サイクルが向上している。
【0042】
図5に示す本発明の各実施例の半導体装置に対する熱疲労試験を模擬した応力解析の結果から、第二の熱応力緩和体3に、熱膨張係数が3〜9×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデン材を用いることにより、半導体装置の熱疲労寿命が向上することがわかった。
【0043】
また、第一の熱応力緩和体7に、熱膨張係数が5〜11×10−6(1/℃)の特性を有し、且つ伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有するモリブデン、モリブデンと銅の複合材料(銅比:10%〜80%)、又は銅/Fe−Ni合金/銅の複合材を用いることで、半導体装置の熱疲労寿命が向上することがわかった。
【0044】
図5に示した交流−直流変換器を構成する半導体チップ1を備えた半導体装置に対する熱疲労寿命試験の結果から、本発明の各本実施例の半導体装置における熱疲労寿命サイクルは、従来製品の約8,500サイクルの場合に比べて、A1、A2、A3に示した各実験例における半導体装置の熱疲労寿命サイクルは、約11,000サイクル、約13,000サイクル、約20,000サイクルと夫々大幅に延長しており、従来比で約1.3倍から約2.3倍の寿命向上が図れていることが示されている。
【0045】
以上の説明から明らかなように、上記した本実施例によれば、交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる半導体チップを備えた半導体装置において、半導体チップで発生した熱を支持電極体に効果的に伝熱させて放熱し、半導体素子と電極端子との間に介在させた接合部材に作用する最大温度及び温度変化幅を抑制すると共に、温度変化に対する熱疲労寿命を向上させた半導体装置を実現することができる。
【実施例2】
【0046】
図2は、本発明の他の実施例である交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1を備えた自動車用の半導体装置の構造を示す図面である。
【0047】
図2に示す本実施例の半導体装置は、具体的には電源、例えば自動車の交流発電機(オルタネータ)側と接続した自動車用の半導体装置であるが、半導体装置の構造は図1に示した先の実施例の半導体装置の構造と基本的には同一であるので、共通する構成についての説明は省略し、相違する部分についてのみ説明する。
【0048】
図2において、本実施例の半導体装置では、交流−直流変換器に用いられる半導体チップ1に電力を通電させるリード線11をリード電極体5と接続し、放熱板12を支持電極体9に接続した構成の半導体装置であり、その他の半導体装置の構造は熱応力緩和体として第二の熱応力緩和体3及び第一の熱応力緩和体7の双方を備えた構造の図1に示した実施例の半導体装置と同一の構成のものである。
【0049】
上記した構成の本実施例の半導体装置によれば、3相交流を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1の発熱に伴って半導体チップ1とリード電極体5との双方に生じる熱膨張の差を熱膨張係数が半導体チップ1とリード電極体5の間の3〜9×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデン材料を用いた第二の熱応力緩和体3を設置することによって、半導体チップ1で発熱して接合部材2及び4に作用する温度変化幅ΔT、最大温度Tmaxを夫々低くなるように緩和している。
【0050】
更に、半導体チップ1と支持電極体9との間に、熱膨張係数が半導体チップ1と支持電極体9の間の5〜11×10−6(1/℃)の熱膨張係数の特性を有する第一の熱応力緩和体7を設置することによって、半導体チップ1で発熱して接合部材6及び8に作用する温度変化幅ΔT、最大温度Tmaxを夫々低くなるように緩和している。
【0051】
しかも、交流−直流変換器を構成する半導体チップ1で生じた熱は、50〜300W/(m・℃)の伝導率の特性を有する熱応力緩和体7を通じて熱容量の大きな支持電極体9に効果的に伝熱させて放熱を促進している。
【0052】
よって前記した熱膨張係数及び伝導率の特性を有する熱応力緩和体7を半導体装置に設置させたことによって半導体装置の熱疲労寿命Nfを大幅に向上させることが可能となる。
【0053】
本実施例によっても、交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる半導体チップを備えた半導体装置において、半導体チップで発生した熱を支持電極体に効果的に伝熱させて放熱し、半導体素子と電極端子との間に介在させた接合部材に作用する最大温度及び温度変化幅を抑制すると共に、温度変化に対する熱疲労寿命を向上させた半導体装置を実現することができる。
【実施例3】
【0054】
図3は、本発明の別の実施例である交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1を備えた自動車用の半導体装置の構造を示す図面である。
【0055】
図3に示す本実施例の半導体装置の構造は、図1に示した先の実施例の半導体装置の構造と基本的には同一であるので、共通する構成についての説明は省略し相違する部分についてのみ説明する。
【0056】
図3において、本実施例の半導体装置は熱応力緩和体として第一の熱応力緩和体7のみを備えて、第二の熱応力緩和体3を備えていない構成の半導体装置であり、その他の構造は図1に示した半導体装置と同一の構成のものである。
【0057】
即ち、半導体チップ1は接合部材2によってリード電極体5に接続されていて、半導体チップ1とリード電極体5との間には熱応力緩和体は設置されていず、半導体チップ1と支持電極体9との間にのみ、接合部材6及び8を介して熱膨張係数が半導体チップ1と支持電極体9の間の5〜11×10−6(1/℃)の特性を有し、且つ伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有するモリブデンと銅比率35%の複合材を用いた第一の熱応力緩和体7を設置している。
【0058】
上記した構成の本実施例の半導体装置によれば、3相交流を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1の発熱に伴って半導体チップ1と支持電極体9との双方に生じる熱膨張の差を半導体チップ1と支持電極体9の間の5〜11×10−6(1/℃)の熱膨張係数の特性を有する第一の熱応力緩和体7を設置することによって、半導体チップ1で発熱して接合部材6及び8に作用する温度変化幅ΔT、最大温度Tmaxを夫々低くなるように緩和している。
【0059】
更に、交流−直流変換器を構成する半導体チップ1で生じた熱を50〜300W/(m・℃)の伝導率の特性を有する熱応力緩和体7を通じて熱容量の大きな支持電極体9に効果的に伝熱させて放熱を促進している。
【0060】
よって前記した熱膨張係数及び伝導率の特性を有する熱応力緩和体7を半導体装置に設置させたことによって半導体装置の熱疲労寿命Nfを大幅に向上させることが可能となる。
【0061】
本実施例によっても、交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる半導体チップを備えた半導体装置において、半導体チップで発生した熱を支持電極体に効果的に伝熱させて放熱し、半導体素子と電極端子との間に介在させた接合部材に作用する最大温度及び温度変化幅を抑制すると共に、温度変化に対する熱疲労寿命を向上させた半導体装置を実現することができる。
【実施例4】
【0062】
図4は、本発明の更に別の実施例である交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1を備えた自動車用の半導体装置の構造を示す図面である。
【0063】
図3に示す本実施例の半導体装置の構造は、図1に示した先の実施例の半導体装置の構造と基本的には同一であるので、共通する構成についての説明は省略し相違する部分についてのみ説明する。
【0064】
図4において、本実施例の半導体装置は、熱応力緩和体として第二の熱応力緩和体3及び銅/Fe−Ni合金/銅のクラッド材で形成された第一の熱応力緩和体7bを備えた構成の半導体装置であり、その他の構造は図1に示した半導体装置と同一のものである。
【0065】
即ち、本実施例の半導体装置は交流−直流変換器を構成する半導体チップ1の発熱に伴って半導体チップ1とリード電極体5との双方に生じる熱膨張の差を熱膨張係数が半導体チップ1とリード電極体5の間の3〜9×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデン材料を用いた第二の熱応力緩和体3を設置することによって、半導体チップ1で発熱して接合部材2及び4に作用する温度変化幅ΔT、最大温度Tmaxを夫々低くなるように緩和している。
【0066】
更に、半導体チップ1と支持電極体9との間に、熱膨張係数が半導体チップ1と支持電極体9の間の5〜11×10−6(1/℃)の熱膨張係数の特性を有し、且つ伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有する銅/Fe−Ni合金/銅の複合材を用いた第一の熱応力緩和体7を設置している。
【0067】
この第一の熱応力緩和体7は、使用されている銅/Fe−Ni合金/銅の複合材の各金属の厚さ比を変えることにより、熱膨張係数を5〜11×10−6(1/℃)の間の所望の特性値、並びに伝導率を50〜300W/(m・℃)の間の所望の特性値に設定することが可能である。
【0068】
半導体チップ1と支持電極体9との間に5〜11×10−6(1/℃)の熱膨張係数の特性を有する第一の熱応力緩和体7を設置することによって、半導体チップ1で発熱して接合部材6及び8に作用する温度変化幅ΔT、最大温度Tmaxを夫々低くなるように緩和している。
【0069】
更に、この第一の熱応力緩和体7は前記した熱膨張係数の特性に加えて熱伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を備えさせているので、3相交流を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップ1で生じた熱をこの熱応力緩和体7を通じて熱容量の大きな支持電極体9に効果的に伝熱させて放熱を促進している。
【0070】
よって前記した熱膨張係数及び伝導率の特性を有する熱応力緩和体7を半導体装置に設置させたことによって半導体装置の熱疲労寿命Nfを大幅に向上させることが可能となる。
【0071】
本実施例によっても、交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器に用いられる半導体チップを備えた半導体装置において、半導体チップで発生した熱を支持電極体に効果的に伝熱させて放熱し、半導体素子と電極端子との間に介在させた接合部材に作用する最大温度及び温度変化幅を抑制すると共に、温度変化に対する熱疲労寿命を向上させた半導体装置を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は交流−直流変換器に用いられる半導体装置、特に交流発電機から出力された交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器を構成する半導体チップを備えた温度変化に対する熱疲労寿命の要求が高い自動車用の半導体装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施例である自動車用の半導体装置を示す断面図。
【図2】本発明の他の実施例である交流発電機側と接続した自動車用の半導体装置を示す断面図。
【図3】本発明の別の実施例である交流発電機側と接続した自動車用の半導体装置を示す断面図。
【図4】本発明の更に別の実施例である交流発電機側と接続した自動車用の半導体装置を示す断面図。
【図5】本発明の各実施例の半導体装置に熱疲労寿命試験を実施した場合を模擬した平均寿命サイクルを示す応力解析図。
【符号の説明】
【0074】
1:半導体チップ、2、4、6、8:接合部材、3:第二の熱応力緩和体、5:リード電極体、7、7b:第一の熱応力緩和体、9:支持電極体、10:表面絶縁シリコーンゴム、11:リード線、12:放熱板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップと、リード電極体及び支持電極体とを有する半導体装置において、半導体チップとリード電極体との間に第二の熱応力緩和体を配設し、この第二の熱応力緩和体と半導体チップ及びリード電極体との間に接合部材を夫々設けて第二の熱応力緩和体をリード電極体に接合し、半導体チップと支持電極体との間に第一の熱応力緩和体を配設し、この第一の熱応力緩和体と半導体チップ及び支持電極体との間に接合部材を夫々設けて第一の熱応力緩和体を支持電極体に接合し、第二の熱応力緩和体は熱膨張係数が半導体チップとリード電極体の各熱膨張係数の間の値の特性を有する材料によって形成し、第一の熱応力緩和体は熱膨張係数が半導体チップと支持電極体の各熱膨張係数の間の値の特性を有し、且つ熱伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有する材料によって形成していることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
半導体チップと、リード電極体及び支持電極体とを有する半導体装置において、半導体チップとリード電極体との間に接合部材を設けて半導体チップをリード電極体に接合し、半導体チップと支持電極体との間に第一の熱応力緩和体を配設し、この第一の熱応力緩和体と半導体チップ及び支持電極体との間に接合部材を夫々設けて第一の熱応力緩和体を支持電極体に接合し、第一の熱応力緩和体は熱膨張係数が半導体チップと支持電極体の各熱膨張係数の間の値の特性を有し、且つ熱伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有する材料によって形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の半導体装置において、第一の熱応力緩和体は、熱膨張係数が5〜11×10−6(1/℃)の特性を有し、且つ伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有するモリブデン材料、又はモリブデンと銅の複合材料によって形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の半導体装置において、第一の熱応力緩和体は、熱膨張係数が5〜11×10−6(1/℃)の特性を有し、且つ伝導率が50〜300W/(m・℃)の特性を有する銅/鉄とニッケルの合金/銅からなる複合材料によって形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置において、第二の熱応力緩和体は、熱膨張係数が3〜9×10−6(1/℃)の特性を有するモリブデン材料によって形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項1、請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の半導体装置において、支持電極体には凹部が形成されており、支持電極体に形成したこの凹部の内部に半導体チップと、この半導体チップの上部及び下部に夫々配設した第二の熱応力緩和体及び第一の熱応力緩和体とを収容すると共に、この凹部に樹脂が充填されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項2に記載の半導体装置において、支持電極体には凹部が形成されており、支持電極体に形成したこの凹部の内部に半導体チップと、この半導体チップの下部に配設した第一の熱応力緩和体とを収容すると共に、この凹部に樹脂が充填されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の半導体装置において、リード電極体はリード線に接合されており、支持電極体は放熱板に接合されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の半導体装置において、半導体装置は交流電力を直流電力に変換する直流変換用に用いられるものであることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−42084(P2008−42084A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217207(P2006−217207)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233273)日立原町電子工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】