説明

半導体装置

【課題】整流装置等のパワー半導体装置において、大電力化・鉛フリー化への対応性と高い熱疲労寿命性能とを兼ね備えた半導体装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る半導体装置は、半導体チップと前記半導体チップを挟んで対向するベース電極ならびにリード電極とそれらを電気的に接合する接合層とが積層され、前記半導体チップと前記接合層と前記ベース電極の一部と前記リード電極の一部とが封止樹脂によって封止された半導体装置であって、前記封止樹脂が、前記ベース電極の線膨張係数から−2ppm/℃以上+2.5 ppm/℃以下の範囲内にある線膨張係数を有する封止樹脂であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に係わり、特に回転発電機等による交流電力を直流電力に変換するAC-DC変換器に好適に用いられるパワー半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体装置は、モータ・発電機等の電気機器の制御や電力を変換するために用いられる大電力の半導体装置である。近年、電気機器に対する省エネ・環境負荷低減の要求などから、パワー半導体装置の需要が急伸している。また、当該電気機器の高効率化や大容量化のため、パワー半導体装置の使用環境は高電圧・大電流化(大電力化)がさらに進展し、要求される使用温度条件なども益々厳しくなってきている。このような背景の下、長期間使用されるパワー半導体装置にとっては信頼性の低下を引き起こさないことが重要であり、特に、電子部材同士の接合層(例えば、はんだ接合層)での信頼性確保(例えば、該接合層が破損しないこと)が重要な課題となっている。
【0003】
パワー半導体装置の一種であり車両用回転発電機等に用いられるAC-DC変換器(整流装置)は、一般的に、半導体チップと該半導体チップを挟んで対向する一対の電極とがはんだ接合で積層され、該積層がシリコン樹脂等で封止された構造となっている。上述したように、パワー半導体装置は高電圧・大電流(大電力)で動作させられることが多いため、動作中は半導体チップなどに大量のジュール熱が発生し200℃以上の高温になることがある一方、停止中は周囲環境温度まで冷却される。すなわち、パワー半導体装置は各種半導体装置の中で動作・停止間の温度差が特に大きいという事情がある。
【0004】
具体的には、半導体チップの主材質であるシリコン(Si、線膨張係数:約3ppm/℃)と電極の主材質である銅(Cu、線膨張係数:約18 ppm/℃)との熱膨張差に起因して半導体装置の内部に繰返しの熱応力が生じると考えられている。この繰返しの熱応力は、機械的強度が比較的低いはんだ接合層に剪断応力を生じさせ疲労亀裂を発生させる要因となりやすい。はんだ接合層での疲労亀裂の発生・進展(すなわち疲労破壊)は、半導体チップにおける導電障害や放熱障害を引き起こし、パワー半導体装置の機能停止を誘発する恐れがある。
【0005】
また、繰返しの温度変化によって封止樹脂に亀裂や電極との剥離が生じることもある。特に、封止樹脂と電極との界面で剥離が生じると、該剥離部から水分が浸入して半導体チップの機能障害が生じる問題がある。さらに、封止樹脂の剥離に伴う引張応力によって、はんだ接合層の疲労破壊が助長される可能性がある。
【0006】
したがって、パワー半導体装置において熱サイクルに対する信頼性(熱疲労寿命)を向上させるためには、はんだ接合層に掛かる剪断応力や封止樹脂の剥離・破損をいかに低減するかが肝要であると言える。
【0007】
加えて、近年環境保護の観点から、電子・電気機器における特定有害物質の使用制限についての欧州連合(EU)による指令(RoHS指令)が施行されており、パワー半導体装置においても従来の高温はんだに替えて鉛を使用しないはんだ材料の利用が盛んに検討されている。しかしながら、従来の高温はんだ(鉛含有率:約96%、融点:300℃程度)に対して、鉛フリーはんだである錫-銅系(Sn-Cu系)はんだや錫-銀-銅系(Sn-Ag-Cu系)はんだは、その融点が220〜230℃程度と低くパワー半導体装置の動作温度と近いことから、使用環境的に極めて厳しい状況下となる。
【0008】
はんだ接合層に掛かる剪断応力を低減する構造として、例えば特許文献1や特許文献2に示されるような構造が提案されている。特許文献1では、整流作用を有する半導体素子とベース電極との間、該半導体素子とリード電極との間に、熱膨張係率が10 ppm以下の低膨張部材が配置され、それらを電気的に接合する接合層のはんだ材料として、固相線温度が300℃以上かつ液相線温度が400℃以下でSnとSbを主要構成元素とする鉛フリーはんだを用いた半導体装置が開示されている。
【0009】
特許文献2では、半導体チップとベース電極との間、該半導体チップとリード電極との間に、熱膨張係数が各電極と半導体チップとの間の特性を有する熱応力緩和体をそれぞれ配設し、半導体チップとベース電極との間に配設される熱応力緩和体の熱伝導率を規定した半導体装置が開示されている。
【0010】
また、封止樹脂の剥離防止に有効そうな構造として、例えば特許文献3に示されるような構造の整流ダイオードがある。特許文献3では、台座の上に該台座と一体な中段座が配置され、該中段座の上に半導体チップが固定され、該半導体チップがヘッドワイヤに接続され、該半導体チップを保護するパック部(封止樹脂)を有する整流ダイオードであって、前記台座は、溝によって前記中段座から隔離され前記中段座を取り囲む堤壁を有しており、かつ、前記堤壁と前記中段座との間に形成された前記溝は、該溝を起点として計測した前記堤壁の高さの約2倍の半径方向拡がり幅を有している整流ダイオードが開示されている。また、前記中段座は側面に肩を有し、該肩が前記半導体チップを保護する前記パック部内に侵入している構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−340267号公報
【特許文献2】特開2008−42084号公報
【特許文献3】特表2000−502838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
自動車における近年の急速な電装化によって、車両用回転発電機等の電力容量は増大傾向にあり、それに伴いパワー半導体装置における発熱量が増大し、半導体装置内部の熱負荷と熱応力も増加傾向にある。これに対し、特許文献1に記載の半導体装置は、半導体チップと両電極との間に低膨張部材を設けて線膨張係数差に起因する剪断応力を緩和できるとされている。しかしながら、該低膨張部材は、熱伝導率が比較的小さいことから半導体チップからの放熱障壁となりやすく、更なる発熱量の増大に対処することが困難である。
【0013】
特許文献2に記載の半導体装置は、半導体チップからの放熱性を考慮することで温度変化に対する熱疲労寿命が向上するとされている。しかしながら、熱サイクル回数が進むにつれて封止樹脂の亀裂や電極との剥離が生じることがあり、更なる改善が望まれていた。
【0014】
また、特許文献3に記載の整流ダイオードは、中段座の側面に肩を有することでパック部(封止樹脂)と台座との形状による緊密な係合接続部を形成し、機械的な安定性が得られるとされている。また、注型樹脂コンパウンドから形成されたパック部は、製造時の乾燥段階において緊縮しダイオードのヘッド部分を半導体チップと一緒に台座に圧着することで、全体的に1つの安定した構造が得られるとされている。しかしながら、特許文献3に記載の構造においても封止樹脂の破損や電極との剥離が生じることがあり、熱サイクルに対する十分な信頼性を確保するには至らない問題があった。
【0015】
すなわち、従来の半導体装置(整流装置等のパワー半導体装置)と同等以上の大電力化に対応し、かつ熱疲労寿命を向上させながら鉛フリー化へも対応していくためには、これまで以上の対策が必要である。従って、本発明の目的は、大電力化・鉛フリー化への対応性と高い熱疲労寿命性能とを兼ね備えた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するため、半導体チップと前記半導体チップを挟んで対向するベース電極ならびにリード電極とそれらを電気的に接合する接合層とが積層され、前記半導体チップと前記接合層と前記ベース電極の一部と前記リード電極の一部とが封止樹脂によって封止された半導体装置であって、
前記封止樹脂が、前記ベース電極の線膨張係数から−2ppm/℃以上+2.5 ppm/℃以下の範囲内にある線膨張係数を有する封止樹脂であることを特徴とする半導体装置を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記の本発明に係る半導体装置において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記ベース電極は前記半導体チップを搭載する台座を中心領域に有し、前記台座の周囲には溝が形成され、前記溝を挟んで周縁壁部を有し、
前記溝を構成する前記台座側の壁は前記溝に向かってオーバーハングするように連続的に傾斜した傾斜部が形成されている。
(2)前記傾斜部は前記台座の高さの30%以上90%以下に亘って形成されている。
(3)前記傾斜部は、前記台座を縦断面で見た場合に湾曲している。
(4)前記傾斜部は、前記台座を縦断面で見た場合に直線状である。
(5)前記台座における前記半導体チップの搭載面は、前記周縁壁部の上面よりも高く突出している。
(6)前記封止樹脂は、エポキシ系樹脂を主成分とし、該封止樹脂と前記電極との密着性を向上させるためのシランカップリング剤を主材とする接合向上剤を含有している。
(7)前記ベース電極は銅または高銅合金からなる。
(8)前記接合層は、錫と銅を主要構成元素とし銅濃度が3質量%以上8質量%以下であり鉛を含まない合金からなる。
(9)前記接合層は、上記(8)の合金に更に銀を含む合金からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、整流装置等のパワー半導体装置において大電力化・鉛フリー化への対応性と高い熱疲労寿命性能とを兼ね備えた半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る半導体装置の1例を示す縦断面模式図である。
【図2】封止樹脂の抜け強さ調査を行ったパワー半導体装置のベース電極形状の例(図1の場合を除く)を示す縦断面模式図である。
【図3】封止樹脂の抜け強さと台座高さに占める傾斜部の割合との関係を表したグラフである。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る半導体装置の1例を示す縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、適宜組み合わせてもよい。なお、図面中で同義の部分には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0021】
〔本発明の第1の実施形態〕
(半導体装置の構造)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置の1例を示す縦断面模式図である。本実施形態に係るパワー半導体装置100は、例えば、半導体チップ10と、半導体チップ10を挟んで対向する一対の電極(ベース電極11ならびにリード電極12)と、それらを電気的に接合する接合層(第1の接合層13および第2の接合層14)とが積層され、半導体チップ10と前記接合層(第1の接合層13および第2の接合層14)とベース電極11の一部とリード電極12の一部とが封止樹脂15で封止される構造を有している。該半導体装置100は、しばしばベース電極11に放熱部材16を当接させて使用される。
【0022】
なお、図1において、ベース電極11はその中心領域に半導体チップ10を搭載する台座111を有し、台座111の周囲には溝112が形成され、溝112を挟んで周縁壁部113を有しており、溝112を構成する前記台座側の壁は溝112に向かってオーバーハングするように連続的に傾斜した傾斜部111’が形成されている場合を示した。また、リード電極12はリード部12aと接触面積を拡大するための電極部12bとからなる電極の場合を示したが、電極部12bが無くても構わない。
【0023】
従来のパワー半導体装置では、半導体チップと電極との熱膨張差に起因した熱応力に着目し、該熱応力を緩和するための工夫が施されてきた(例えば、特許文献1・2参照)。また、封止樹脂の剥離防止に関しては、封止樹脂とベース電極との係合接合構造が提案されていた(例えば、特許文献3参照)。これらに対し、本発明に係る半導体装置は、封止樹脂15がベース電極11の線膨張係数から−2ppm/℃以上+2.5 ppm/℃以下の範囲内にある線膨張係数を有する封止樹脂である点において、従来の半導体装置と異なる。熱サイクルにおける信頼性の向上(すなわち熱疲労寿命性能の向上)に対して、封止樹脂の線膨張係数を制御することが好ましいという技術的思想は従来開示されていなかった。本発明は、半導体装置における熱疲労寿命に関する発明者らの精力的な調査・研究により完成したものである。
【0024】
封止樹脂15の線膨張係数が、ベース電極11の線膨張係数から−2ppm/℃より小さくなると、熱サイクルにおいて封止樹脂と電極との剥離が生じ易くなり半導体装置全体の熱疲労寿命が低下する要因となる。また、封止樹脂15の線膨張係数が、ベース電極11の線膨張係数から+2.5 ppm/℃より大きくなると、熱サイクルによる封止樹脂の亀裂が生じ易くなり、該亀裂からの水分の浸入により封止樹脂の剥離に至り、結果として半導体装置全体の熱疲労寿命が低下する要因となる。よって、封止樹脂15の線膨張係数は、ベース電極11の線膨張係数から−2ppm/℃以上+2.5 ppm/℃以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、封止樹脂15の線膨張係数がベース電極11の線膨張係数から−1.5 ppm/℃以上+2.3 ppm/℃の範囲内にあることである。更に好ましくは、封止樹脂15の線膨張係数がベース電極11の線膨張係数から−1ppm/℃以上+2ppm/℃以下の範囲内にあることである。
【0025】
封止樹脂15の材料としては、パワー半導体装置100の使用温度範囲における封止樹脂15の平均線膨張係数がベース電極11のそれに対して−2ppm/℃以上+2.5 ppm/℃以下の範囲内にあれば、特段の制限は無い。例えば、エポキシ系樹脂を主成分とし、封止樹脂15と各電極(ベース電極11ならびにリード電極12)との密着性を向上させるためのシランカップリング剤を主材とする接合向上剤を更に含有していることは望ましい。また、図示は省略したが、半導体チップ10に水分が浸入しないように、封止樹脂15で封止する前に、半導体チップ10の側面を(第1の接合層13および第2の接合層14の側面も含めて)絶縁封止材により密封することは好ましい。該絶縁密封材の材料としては、耐熱性および密封性に優れたポリイミド系樹脂などを用いることができる。
【0026】
ベース電極11およびリード電極12に用いられる材料は、パワー半導体装置において通常用いられる材料を利用することができる。例えば、半導体チップ10からの放熱性を考慮して、熱伝導率の高い銅や高銅合金(銅が96質量%以上で他の合金系に属さないもの)を用いることは好ましい。また、第1の接合層13および第2の接合層14に用いられる材料も、パワー半導体装置において通常用いられる接合材料(はんだ等)を利用することができるが、鉛フリーはんだを用いることは特に好ましい。例えば、錫(Sn)と銅(Cu)を主要構成元素としCu濃度が3質量%以上8質量%以下であり鉛(Pb)を含まない合金からなるはんだや、該合金に更に銀(Ag)を含む合金からなるはんだを好ましく用いることができる。
【0027】
本発明に係るパワー半導体装置100は、半導体チップ10とベース電極11との間に熱伝達の障害物となりうる低膨張部材や熱応力緩和体を介在させないことから半導体チップ10の発熱に対する放熱性能が高く、パワー半導体装置の運転温度を下げる作用がある。この運転温度の低下は、パワー半導体装置の更なる大電力化やはんだ接合層の鉛フリー化に対応可能となる効果につながる。
【0028】
(封止樹脂の線膨張係数の影響)
封止樹脂の線膨張係数の影響を調査するために、線膨張係数が異なる封止樹脂を用いて図1の構造のパワー半導体装置を複数作製した。ここで、ベース電極11の材料としてはジルコニウム銅(JIS H 0500 15000)を用い、リード電極12の材料としては銅(JIS H 0500 C1011)を用い、第1の接合層13および第2の接合層14の材料としてはSn-5Cuはんだを用いた。なお、上記ベース電極11の平均線膨張係数は、17.7 ppm/℃である。
【0029】
熱疲労寿命試験は、自動車の実車走行を模擬した試験装置を用いて次のように行った。両電極(ベース電極とリード電極)間の通電電流を一定として図1に示すベース電極11の底面温度が50℃から205℃になるまで通電加熱し、その後、205℃から50℃まで風冷させた。これを1サイクルとして通電加熱・風冷を繰り返すことにより、パワー半導体装置の温度を上昇・降下させる試験を行った(1サイクルの時間は2〜3分間とした)。熱疲労寿命試験とは、この熱サイクルによってパワー半導体装置が機能停止(導電障害)に至るまでの耐性(熱サイクル数)を評価する試験である。封止樹脂の諸元と熱疲労寿命試験の結果を表1に示す。なお、比較のため、特許文献1に記載の結果を併記した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果から明らかなように、封止樹脂15の線膨張係数がベース電極11の線膨張係数から−2ppm/℃以上+2.5 ppm/℃以下の範囲内にあることによって、熱疲労寿命の向上に著しい効果があることが判る。なお、表1の備考欄における「顕著な剥離あり」・「顕著な剥離なし」・「顕著な亀裂あり」は、熱疲労寿命試験後において目視による観察結果を表している。また、本発明に係るパワー半導体装置において、第1の接合層13および第2の接合層14の材料としてPbフリーはんだを利用し、熱疲労寿命の向上が可能であることを実証した技術的意義は大きい。
【0032】
(ベース電極の形状の影響)
ベース電極の形状による封止樹脂の抜け強さへの影響を調査するために、前記試料No.3の封止樹脂を用いて図1における台座111の形状(特に台座高さHに対する傾斜部111’の高さhの割合)が異なるベース電極を複数作製した。それらのベース電極に対して、接合層を介さずにリード電極12を直接搭載させて樹脂で封止した評価用パワー半導体装置を作製した。他の条件(電極の材料など)は、上述と同じにした。作製した評価用パワー半導体装置に対し、封止樹脂を引き剥がす方向の引張試験を常温で行い(リード電極12を引っ張り)封止樹脂の抜け強さを調査した。
【0033】
図2は、封止樹脂の抜け強さ調査を行った評価用パワー半導体装置のベース電極形状の例(図1の場合を除く)を示す縦断面模式図である。図2においては、理解の簡単化のためベース電極のみを図示し、他の部分の図示を省略した。図2(a)のベース電極11Bは傾斜部111B’ の高さhが台座111Bの高さHの60%で形成されている場合(パワー半導体装置101)を表し、図2(b) のベース電極11Cは傾斜部111C’ の高さhが台座111Cの高さHの30%で形成されている場合(パワー半導体装置102)を表し、図2(c) のベース電極11Dは傾斜部が台座111Dに形成されていない場合(パワー半導体装置103)を表し、図2(d) のベース電極11Eは台座自体が形成されていない場合(パワー半導体装置104)を表している。なお、図1は傾斜部111’ の高さhが台座111の高さHの90%で形成されている場合を表している。
【0034】
傾斜部の張り出し量(オーバーハングの量)Wは、パワー半導体装置100〜102で同じとした。なお、傾斜部の張り出し量Wは、鉤止め効果の観点から、台座の根元の直径Dに対して2〜10%の範囲にあることが望ましい。
【0035】
図3は、封止樹脂の抜け強さと台座高さに占める傾斜部の割合との関係を表したグラフである。本測定における封止樹脂の抜け強さの値は、純粋に封止樹脂と台座との係合形状(鉤止め構造)がもたらす封止樹脂の抜け強さの効果を表していると考えられる。なお、封止樹脂の抜け強さの技術的意義は、パワー半導体装置に対して引張応力が掛かった事態に対する効果であり、前述の熱疲労寿命試験に対して直接的に影響を及ぼすものではないことから、いずれのパワー半導体装置とも十分に高い熱疲労寿命を有している。しかしながら、封止樹脂の抜け強さが高いことは、パワー半導体装置の実機環境における熱疲労寿命(例えば、熱サイクルに加えて引張応力が掛かるような複合的な状況に対する信頼性)に寄与するものであると言える。
【0036】
図3に示すように、傾斜部高さhの台座高さHに対する割合が増加するのに伴って封止樹脂の抜け強さが増大することが判った。傾斜部の高さhの割合が30%の場合で傾斜部が無い場合の約3倍の抜け強さを示し、傾斜部の割合が60%以上の場合では3.5〜4倍の抜け強さを示した。なお、台座自体が形成されていない場合(パワー半導体装置104)の抜け強さは、台座に傾斜部が無い場合のそれと略同じあった(略同じであったことから、図示は省略した)。
【0037】
この結果から、台座の側壁(溝を構成する台座側の壁)には、溝に向かってオーバーハングするように連続的に傾斜した傾斜部が形成されていることが、熱サイクルと引張応力の複合的な状況に対する信頼性(パワー半導体装置の実機環境における熱疲労寿命)の観点から好ましいことが確認された。より好ましくは、該傾斜部は台座高さHの30%以上90%以下に亘って形成されていることであり、更に好ましくは、台座高さHの60%以上90%以下に亘って形成されていることである。
【0038】
また、台座111における半導体チップの搭載面111”は、周縁壁部113の上面113”よりも高く突出していることが好ましい。そのようにすることにより、ベース電極11への機械的応力(例えば、ベース電極11を放熱部材16へ圧入する際に発生する機械的応力)が第1の接合層13や半導体チップ10へ伝播しづらくなり、機械的応力による半導体装置の故障を低減できる効果がある。
【0039】
(半導体装置の製造方法)
本発明に係る半導体装置の製造方法は、結果として所望の構造が形成できれば、その製造方法に限定は無く従前の方法を用いることができる。例えば、ベース電極の製造方法として、傾斜部のない台座を有するベース電極を切削加工やプレス加工で製造した後に、台座における半導体チップの搭載面に対して冷間鍛造加工などによる押圧を加えることで、周囲に膨らんだ傾斜部を形成することができる。
【0040】
〔本発明の第2の実施形態〕
図4は、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置の1例を示す縦断面模式図である。本実施形態に係るパワー半導体装置200は前記第1の実施形態に係る半導体装置100と略同様の構成を有し、封止樹脂15がベース電極21の線膨張係数から−2ppm/℃以上+2.5 ppm/℃以下の範囲内にある線膨張係数を有する封止樹脂であることを特徴とする。また、図4に示すように、ベース電極21はその中心領域に半導体チップ10を搭載する台座211を有し、台座211の周囲には溝212が形成され、溝212を挟んで周縁壁部213を有しており、溝212を構成する前記台座側の壁は溝212に向かってオーバーハングするように連続的に傾斜した傾斜部211’が形成されている。すなわち、ベース電極21の台座211における傾斜部211’が台座を縦断面で見た場合に直線状である点において前記第1の実施形態に係る半導体装置100と異なる。
【0041】
前述した第1の実施形態と同様に、台座211における半導体チップの搭載面211”は、周縁壁部213の上面213”よりも高く突出していることが好ましい。そのようにすることにより、ベース電極21への機械的応力(例えば、ベース電極21を放熱部材16へ圧入する際に発生する機械的応力)が第1の接合層13や半導体チップ10へ伝播しづらくなり、機械的応力による半導体装置の故障を低減できる効果がある。
【0042】
本実施形態に係る半導体装置200は、第1の実施形態と同じ作用効果(高い熱疲労寿命性能や、封止樹脂と台座との係合形状(鉤止め構造)による封止樹脂の高い抜け強さ)を有することを確認した。さらに、第1の実施形態と同様に、半導体チップ10とベース電極21との間に熱伝達の障害物となりうる低膨張部材や熱応力緩和体を介在させないことから半導体チップ10の発熱に対する放熱性能が高く、パワー半導体装置の更なる大電力化やはんだ接合層の鉛フリー化に対応可能である。また、本実施形態に係る半導体装置の製造方法も、特段の限定は無く従前の方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
100,101,102,103,104,200…パワー半導体装置、10…半導体チップ、
11,11B,11C,11D,11E,21…ベース電極、
111,111B,111C,111D,211…台座、
111’,111B’,111C’,211’…傾斜部、111” , 211”…半導体チップの搭載面、
112,212…溝、113,213…周縁壁部、113” , 213”…周縁壁部の上面、
12…リード電極、12a…リード部、12b…電極部、
13…第1の接合層、14…第2の接合層、15…封止樹脂、16…放熱部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップと前記半導体チップを挟んで対向するベース電極ならびにリード電極とそれらを電気的に接合する接合層とが積層され、前記半導体チップと前記接合層と前記ベース電極の一部と前記リード電極の一部とが封止樹脂によって封止された半導体装置であって、
前記封止樹脂が、前記ベース電極の線膨張係数から−2ppm/℃以上+2.5 ppm/℃以下の範囲内にある線膨張係数を有する封止樹脂であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記ベース電極は前記半導体チップを搭載する台座を中心領域に有し、前記台座の周囲には溝が形成され、前記溝を挟んで周縁壁部を有し、
前記溝を構成する前記台座側の壁は前記溝に向かってオーバーハングするように連続的に傾斜した傾斜部が形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記傾斜部は前記台座の高さの30%以上90%以下に亘って形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の半導体装置において、
前記傾斜部は、前記台座を縦断面で見た場合に湾曲していることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の半導体装置において、
前記傾斜部は、前記台座を縦断面で見た場合に直線状であることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の半導体装置において、
前記台座の前記半導体チップの搭載面は、前記周縁壁部の上面よりも高く突出していることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の半導体装置において、
前記封止樹脂は、エポキシ系樹脂を主成分とし、該封止樹脂と前記電極との密着性を向上させるためのシランカップリング剤を主材とする接合向上剤を含有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の半導体装置において、
前記ベース電極は銅または高銅合金からなることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の半導体装置において、
前記接合層は、錫と銅を主要構成元素とし銅濃度が3質量%以上8質量%以下であり鉛を含まない合金からなることを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体装置において、
前記接合層は、更に銀を含む合金からなることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−199369(P2010−199369A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43675(P2009−43675)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233273)日立原町電子工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】