説明

半導体装置

【課題】外観上で製品寿命を予測することにより、製品寿命による交換を適正に実施することができる半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置10は、半導体チップ1と、半導体チップ1が取り付けられた回路基板2と、回路基板2の半導体チップ1が取り付けられた面と対向する面に取り付けられたベース板3とを備えている。ベース板3は、回路基板2が取り付けられる側の一方面3aおよび一方面3aに対向する他方面3bを有する第1の部材31と、第1の部材31と異なる熱膨張係数を有する第2の部材32とを含んでいる。第2の部材32は、第1の部材31の表面に表れないように第1の部材31に周囲を覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関し、特に、ベース板が取り付けられた半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の一例としてパワーモジュールがある。パワーモジュールは、半導体チップ、絶縁基板、ベース板、ワイヤ、端子およびそれらを接続するはんだなどにより形成されている。半導体チップとしてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)およびダイオードなどが搭載されている。
【0003】
たとえば、特開2004−146737号公報(特許文献1)には、絶縁基板の下面にはんだによって放熱体が接合されたパワーモジュールが開示されている。なお、このパワーモジュールでは、絶縁基板および放熱体の双方の熱膨張係数差に拘わることなく反りを抑制するとともに熱伝導率の低下を抑制するために放熱体本体に低熱膨張材が積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−146737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報に開示されたパワーモジュールでは、製品動作および停止によって生じる熱履歴により絶縁基板下のはんだが脆化する。ここで熱履歴とは製品動作時の自己発熱と放熱の履歴である。絶縁基板下のはんだの脆化が製品寿命の原因となる。絶縁基板下のはんだの脆化の進行状況を観測するためにはパワーモジュールを設備から取り外して、超音波検査によりはんだの脆化の進行状況を観測する必要がある。
【0006】
しかしながら、パワーモジュールを取り外して超音波検査を実施するためには、超音波検査が可能な場所へパワーモジュールを送付して超音波検査を実施する必要がある。このため、超音波検査を実施する際には設備の停止時間が長くなる。したがって、はんだの脆化の進行状況の観測は大幅な時間ロスを招くことになる。そのため、市場動作中のパワーモジュールについて、はんだの脆化の進行状況に起因する製品寿命を観測することは現実的には実施されていない。
【0007】
そこで、従来、損失計算による温度上昇と冷却による温度低下を考慮し、計算により製品寿命が推定されている。そして、製品寿命が近いと推定されるパワーモジュールは、はんだの脆化の進行状況の観測することなく、新品へ交換される。そのため、実際には寿命時間が近づいていないパワーモジュールが新品へ交換されることにより無駄が生じている。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、外観上で製品寿命を予測することにより、製品寿命による交換を適正に実施することができる半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体装置は、半導体チップと、半導体チップが取り付けられた回路基板と、回路基板の半導体チップが取り付けられた面と対向する面に取り付けられたベース板とを備えている。ベース板は、回路基板が取り付けられる側の一方面および一方面に対向する他方面を有する第1の部材と、第1の部材と異なる熱膨張係数を有する第2の部材とを含んでいる。第2の部材は、第1の部材の表面に表れないように第1の部材に周囲を覆われている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体装置によれば、ベース板の第1の部材と異なる熱膨張係数を有する第2の部材は、第1の部材の表面に表れないように第1の部材に周囲を覆われているため、熱膨張係数差による応力によって第1の部材に弾性疲労が生じる。この弾性疲労により微細なクラックが第1の部材の表面に生じる。このため第1の部材の表面の外観が変化する。この外観の変化を観測することによりはんだの脆化の進行状況に起因する半導体装置の製品寿命を予測することができる。これにより、製品寿命による半導体装置の交換を適正に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1における半導体装置の概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における半導体装置の製造方法の第1の工程を示す概略断面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う概略断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における半導体装置の製造方法の第2の工程を示す概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における半導体装置のベース板の概略断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における半導体装置のベース板の概略平面図である。
【図7】本発明の実施の形態2における半導体装置の概略断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3における半導体装置の概略断面図である。
【図9】本発明の実施の形態3における変形例の半導体装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
最初に本発明の実施の形態1の半導体装置の構成について説明する。本実施の形態では半導体装置についてパワーモジュールを一例として説明する。
【0013】
図1を参照して、半導体装置10は、半導体チップ1と、回路基板2と、ベース板3とを主に備えている。なお、図1では半導体装置10は簡略化されて図示されており、半導体チップ1に電気的に接続されるワイヤ、ワイヤに電気的に接続される端子などは図示されていない。また、ベース板3には図示されていない放熱フィンなどが取り付けられていてもよい。さらに、半導体装置10は図示されていない封止樹脂で封止されていてもよい。
【0014】
半導体チップ1はたとえばIGBTおよびダイオードなどである。回路基板2は絶縁性を有する基板で構成されており、表面および裏面に回路2aが形成されている。半導体チップ1は、回路基板2の表面に設けられた回路2aにはんだ4によって接合されることで、回路基板2に取り付けられている。
【0015】
ベース板3は放熱性を有している。ベース板3の厚みはたとえば3mm以上6mm以下に形成されている。回路基板2の半導体チップ1が取り付けられた面と対向する面にベース板3が取り付けられている。ベース板3は、回路基板2の裏面に設けられた回路2aにはんだ4によって接合されることで、回路基板2に取り付けられている。
【0016】
ベース板3は、第1の部材31と、第2の部材32とを有している。第1の部材31は、回路基板2が取り付けられる側の一方面3aおよび一方面3aに対向する他方面3bを有している。第1の部材31はベース板3の外形を形成している。第1の部材31は、たとえば銅、アルミニウムなどで形成されている。
【0017】
第2の部材32は、第1の部材31と異なる熱膨張係数を有している。第2の部材32は、第1の部材31と異なる金属で形成されていてもよい。また、第2の部材32は、たとえばセラミックなどで形成されていてもよい。この場合、第2の部材32は、たとえばアルミナ(Al23)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(SiN)などで形成されていてもよい。
【0018】
第2の部材32は、第1の部材31の表面に表れないように第1の部材31に周囲を覆われている。つまり、第2の部材32は第1の部材31中に埋没されている。第2の部材32は、第1の部材31の一方面3aおよび他方面3bに沿う方向において第1の部材31の全面には設けられておらず、局所的に設けられている。
【0019】
また、第2の部材32は、第1の部材31中の他方面3b付近に配置されている。第2の部材32は、一方面3aと他方面3bとの中間地点より他方面3b側に位置している。つまり、第2の部材32は、他方面3b側から一方面3aと他方面3bとが対向する方向における第1の部材31の厚みの2分の1以下の位置に配置されている。
【0020】
次に、本実施の形態の半導体装置のベース板の外観が変化する様子について説明する。
第2の部材32は、第1の部材31と異なる熱膨張係数を有しており、第1の部材31の表面に表れないように第1の部材31に周囲を覆われている。半導体装置10は動作および停止を繰り返すことで発熱および放熱を繰り返す。この際、熱膨張係数差による応力によって第1の部材31に弾性疲労が生じる。この弾性疲労により微細なクラックが第1の部材31の表面に生じる。微細なクラックは、一方面3aと他方面3bとが対向する方向から見て第2の部材32と重なる第1の部材31の表面に生じる。この微細なクラックにより第1の部材31の表面が白変する。これにより、第1の部材31の表面に白変箇所5が生じる。
【0021】
本実施の形態では、第2の部材32は、一方面3aと他方面3bとの中間地点より他方面3b側に位置している。微細なクラックは、第2の部材32から距離が近い第1の部材31の表面に早い段階で発生する。そのため、微細なクラックは、第1の部材31の他方面3bに生じる。このため第1の部材31の他方面3bの外観が変化する。つまり、第1の部材31の他方面3bに白変箇所5が生じる。
【0022】
白変箇所5の有無によりはんだ4の脆化の進行状況に起因する半導体装置10の製品寿命が予測される。また、白変の程度によってもはんだ4の脆化の進行状況に起因する半導体装置10の製品寿命が予測される。実際に温度サイクル試験を実施して作成した限度見本と白変の状態とを比較することで、製品寿命の進行状況が判断される。
【0023】
なお、仮に第2の部材32が一方面3aと他方面3bとの中間地点より一方面3a側に位置している場合には、他方面3bで外観の変化が識別可能となる以前に第1の部材31の内部に白変が生じることで熱抵抗への影響が推定される。そのため、第2の部材32は、一方面3aと他方面3bとの中間地点より他方面3b側に位置していることが好ましい。
【0024】
次に、本実施の形態の半導体装置の製造方法について説明する。
まず、本実施の形態のベース板3の製造方法を説明する。ベース板3はたとえば鋳造で形成され得る。図2および図3を参照して、たとえばセラミックからなる第2の部材32に固定用孔11が形成されている。この固定用孔11に固定用ピン12が挿入されている。固定用ピン12は、鋳型13の内部空間の上端と下端とに挟まれることで鋳型13に固定されている。固定用ピン12に支持された第2の部材32は鋳型13の内壁に接しないように鋳型13の下方に配置されている。
【0025】
続いて、図4を参照して、鋳型13内に、たとえば溶融したアルミニウムが流し込まれる。このアルミニウムにより第1の部材31が形成される。このアルミニウムが冷却された後、鋳型13がたとえば上下に分割されることで、鋳型13から第1の部材31、第2の部材32および固定用ピン12が取り外される。これにより、図5および図6に示されるようにベース板3が形成される。
【0026】
再び図1を参照して、上記のように製造されたベース板3と、半導体チップ1、回路基板2などが準備される。ベース板3の所定に位置に回路基板2がはんだ付けされる。続いて、回路基板2の回路2aの所定の位置に半導体チップ1がはんだ付けされる。続いて、図示されていないワイヤおよび端子と半導体チップ1とが電気的に接続される。
【0027】
次に、本実施の形態の半導体装置の作用効果について説明する。
本実施の形態の半導体装置10によれば、ベース板3の第1の部材31と異なる熱膨張係数を有する第2の部材32は、第1の部材31の表面に表れないように第1の部材31に周囲を覆われているため、熱膨張係数差による応力によって第1の部材31に弾性疲労が生じる。この弾性疲労により微細なクラックが第1の部材31の表面に生じる。このため第1の部材31の表面の外観が変化する。この外観の変化を観測することによりはんだ4の脆化の進行状況に起因する半導体装置10の製品寿命を予測することができる。これにより、製品寿命による半導体装置10の交換を適正に実施することができる。
【0028】
また、本実施の形態の半導体装置10によれば、第2の部材32は、一方面3aと他方面3bとの中間地点より他方面3b側に位置しているため、微細なクラックを第1の部材31の他方面3bに生じさせることができる。第1の部材31の他方面3bには回路基板2がはんだ付けされていないため、他方面3bの外観の変化を容易に観測することができる。
【0029】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2では、本発明の実施の形態1と比較して、ベース板の構成が主に異なっている。
【0030】
図7を参照して、本実施の形態の半導体装置10では、ベース板3の第2の部材32は、第1の部分32aと第2の部分32bとを有している。第2の部分32bは、第1の部分32aとは一方面3aと他方面3bとが対向する方向において異なる高さに位置している。第1の部分32aと第2の部分32bとは互いに分離している。第1の部分32aと第2の部分32bとは階段状に設けられている。
【0031】
白変箇所5は、第2の部材32からの距離が近い第1の部材31の表面から発生する。本実施の形態では、第1の部分32aは、第2の部分32bより第1の部材31の他方面3bの近くに位置している。そのため、まず一方面3aと他方面3bとが対向する方向から見て第1の部分32aと重なる第1の部材31の表面に白変箇所5が生じる。続いて、一方面3aと他方面3bとが対向する方向から見て第2の部分32bと重なる第1の部材31の表面に白変箇所5が生じる。
【0032】
なお、本実施の形態のこれ以外の構成および製造方法は上述した実施の形態1と同様であるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0033】
本実施の形態の半導体装置10によれば、第1の部分32aと第2の部分32bとは、一方面3aと他方面3bとが対向する方向において異なる高さに位置しているため、白変箇所5を段階的に生じさせることができる。このため、はんだ4の脆化の進行状況を段階的に観測することができる。これにより、はんだ4の脆化の進行状況に起因する半導体装置10の製品寿命を段階的に予測することができる。
【0034】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3では、本発明の実施の形態1と比較して、ベース板の構成が主に異なっている。
【0035】
図8を参照して、本実施の形態の半導体装置10では、ベース板3の第2の部材32は、一方面3aと他方面3bとが対向する方向に対して斜めに延びるように位置している。
第2の部材32は一直線状に延びるように設けられている。
【0036】
まず、一方面3aと他方面3bとが対向する方向から見て、第2の部材32の他方面3bに最も近い部分と重なる第1の部材31の表面に白変箇所5が生じる。続いて、第2の部材32の他方面3bに近い部分から遠い部分に順に白変箇所5が生じる。図8では、左側から右側に向かって連続的に白変箇所5が生じる。
【0037】
また、図9を参照して、本実施の形態の半導体装置10の変形例に示すように、第2の部材32は階段状に延びるように設けられていてもよい。この変形例では、まず、一方面3aと他方面3bとが対向する方向から見て、第2の部材32の他方面3bに最も近い部分と重なる第1の部材31の表面に白変箇所5が生じる。続いて、第2の部材32の他方面3bに次に近い部分に白変箇所5が生じる。さらに、第2の部材32の他方面3bに最も遠い部分に白変箇所5が生じる。図9では、左側から右側に向かって連続的に白変箇所5が生じる。
【0038】
なお、本実施の形態のこれ以外の構成および製造方法は上述した実施の形態1と同様であるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0039】
本実施の形態の半導体装置10によれば、第2の部材32は、一方面3aと他方面3bとが対向する方向に対して斜めに延びるように位置しているため、白変箇所5を連続的に生じさせることができる。このため、はんだ4の脆化の進行状況を連続的に観測することができる。これにより、はんだ4の脆化の進行状況に起因する半導体装置10の製品寿命を連続的に予測することができる。
【0040】
上記の各実施の形態は適宜組み合わせることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0041】
1 半導体チップ、2 回路基板、2a 回路、3 ベース板、3a 一方面、3b 他方面、4 はんだ、5 白変箇所、10 半導体装置、11 固定用孔、12 固定用ピン、13 鋳型、31 第1の部材、32 第2の部材、32a 第1の部分、32b 第2の部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップと、
前記半導体チップが取り付けられた回路基板と、
前記回路基板の前記半導体チップが取り付けられた面と対向する面に取り付けられたベース板とを備え、
前記ベース板は、
前記回路基板が取り付けられる側の一方面および前記一方面に対向する他方面を有する第1の部材と、
前記第1の部材と異なる熱膨張係数を有する第2の部材とを含み、
前記第2の部材は、前記第1の部材の表面に表れないように前記第1の部材に周囲を覆われている、半導体装置。
【請求項2】
前記第2の部材は、前記一方面と前記他方面との中間地点より前記他方面側に位置している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2の部材は、
第1の部分と、
前記第1の部分とは前記一方面と前記他方面とが対向する方向において前記異なる高さに位置する第2の部分とを含む、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第2の部材は、前記一方面と前記他方面とが対向する方向に対して斜めに延びるように位置している、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2の部材はセラミックからなる、請求項1〜4のいずれかに記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−190897(P2012−190897A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51397(P2011−51397)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】