説明

半導体装置

【課題】高い障壁を有し、かつ高品質のバッファ層及びチャネル層を有する半導体装置を提供する。
【解決手段】基板10と、基板10上に設けられ、AlNからなる下地層12と、下地層12上に設けられ、AlGa1−xNからなるバッファ層14と、バッファ層14上に設けられ、厚さが100nm以上300nm以下のGaNからなるチャネル層16と、チャネル層16上に設けられ、AlGaNからなる電子供給層20と、電子供給層20上に設けられたソース電極26、ドレイン電極28及びゲート電極30と、を具備し、バッファ層14のAlの組成xは、下地層12側の領域において0.3≦x≦0.5であり、チャネル層16側の領域において0.9≦x≦1.0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いたHEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)は、高周波用出力増幅用素子として用いられる。HEMTでは、チャネル層と電子供給層との界面に生じる二次元電子ガス(2DEG)をキャリアとして利用する。2DEGの電子を閉じ込めるため、高い障壁を有するバッファ層を形成することがある。特許文献1には、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層のアルミニウム(Al)の組成を0.3以上0.6以下とする発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−166349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、AlGaN等をバッファ層として用いた場合、高い障壁と、バッファ層及びチャネル層の結晶性とがトレードオフの関係になることがある。本発明は、上記課題に鑑み、高い障壁を有し、かつ高品質のバッファ層及びチャネル層を有する半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなる下地層と、前記下地層上に設けられ、窒化アルミニウムガリウム(AlGa1−xN)からなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられ、厚さが100nm以上300nm以下の窒化ガリウムからなるチャネル層と、前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、前記バッファ層のアルミニウムの組成xは、前記下地層側の領域において0.3≦x≦0.5であり、前記チャネル層側の領域において0.9≦x≦1.0である半導体装置である。本発明によれば、高い障壁を有し、かつ高品質のバッファ層及びチャネル層を有する半導体装置を提供することができる。
【0006】
上記構成において、前記バッファ層のアルミニウムの組成xは、前記下地層側の領域から前記チャネル層側の領域に向けて連続的、又は段階的に大きくなる構成とすることができる。
【0007】
上記構成において、前記電子供給層は窒化アルミニウムガリウム、又は窒化インジウムアルミニウムからなる構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記基板は、シリコン又は炭化シリコンからなる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い障壁を有し、かつ高品質のバッファ層及びチャネル層を有する半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)は、実施例1に係るHEMTを例示する断面図である。図1(b)は、実施例1におけるアルミニウムの組成を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。
【図3】図3は、実施例1の変形例におけるアルミニウムの組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
本発明の実施例について説明する。図1(a)は、実施例1に係るHEMTを例示する断面図である。
【0012】
図1(a)に示すように、実施例1に係るHEMT100(半導体装置)において、基板10上に下地層12が設けられている。下地層12上にバッファ層14が設けられている。バッファ層14上にチャネル層16が設けられている。チャネル層16上にスペーサ層18が設けられている。スペーサ層18上に電子供給層20が設けられている。電子供給層20上にキャップ層22が設けられている。キャップ層22にはリセス21が形成され、リセス21から露出した電子供給層20上にソース電極26及びドレイン電極28が設けられている。キャップ層22上に保護層24が設けられている。保護層24の開口部から露出したキャップ層22上にゲート電極30が設けられている。下地層12は基板10の上面に接触し、バッファ層14は下地層12の上面に接触している。チャネル層16はバッファ層14の上面に接触し、スペーサ層18はチャネル層16の上面に接触している。電子供給層20はスペーサ層18の上面に接触し、キャップ層22は電子供給層20の上面に接触している。ソース電極26及びドレイン電極28は電子供給層20の上面に接触し、ゲート電極30はキャップ層22の上面に接触している。またソース電極26及びドレイン電極28は、電子供給層20の上面に接触している以外に、ゲート電極30と同様にキャップ層22の上面に接触していてもよい。
【0013】
基板10は例えば厚さ50〜200μmの炭化シリコン(SiC)からなる。下地層12は例えば厚さ10nmの窒化アルミニウム(AlN)からなる。下地層12はエピタキシャル成長されたものではなく、例えばアモルファス状の結晶構造を有する。バッファ層14は例えば厚さ700nmの窒化アルミニウムガリウム(AlGa1−xN、0≦x≦1)からなる。Alの組成xについては後述する。チャネル層16は例えば厚さ100nm〜300nmの窒化ガリウム(GaN)からなる。スペーサ層18は例えば厚さ3nmのAlGaNからなる。電子供給層20は例えば厚さ20nmのAlGaNからなる。キャップ層22は例えば厚さ5nmのGaNからなる。バッファ層14、チャネル層16、スペーサ層18、電子供給層20及びキャップ層22はエピタキシャル成長されたものであり、単結晶からなる。保護層24は例えば窒化シリコン等の絶縁体からなる。ソース電極26及びドレイン電極28は、電子供給層20に近い方からチタン層及びアルミニウム層(Ti/Al)を積層したオーミック電極である。ゲート電極30は、キャップ層22に近い方から例えばニッケル層及び金層(Ni/Au)を積層した電極である。次にバッファ層14のAlの組成について説明する。
【0014】
図1(b)は、実施例1におけるアルミニウムの組成を示すグラフである。横軸は電子供給層20の上面からの深さを表し、左端は電子供給層20の上面、右端はバッファ層14と下地層12との界面を表す。縦軸はAl組成xを表す。HEMT100の各部位に対応する領域は図1(a)と同じ符号で示す。図1(b)に示すように、バッファ層14のAl組成xは下地層12とチャネル層16との間において連続的に変化し、下地層12側の領域からチャネル層16側の領域に向けて大きくなる。Al組成xは、バッファ層14のチャネル層16側の領域において1であり、基板10側の領域において0.3以上0.5以下である。なおスペーサ層18及び電子供給層20のAl組成は例えば0.25である。
【0015】
図2は、実施例1に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。横軸は深さを表し、縦軸はエネルギーを表す。点線で示したEfはフェルミエネルギーを表す。実線で示したEcはコンダクションバンドのエネルギーを表す。格子斜線の領域は2DEGを表す。HEMT100の各部位に対応する領域は、破線で区切り、図1(a)と同じ符号で示す。
【0016】
図2に示すように、バッファ層14におけるエネルギーEcは下地層12側からチャネル層16側に向けて高くなる。チャネル層16付近におけるAl組成は1であるため、バッファ層14とチャネル層16との間には高い障壁が形成される。高い障壁を形成するためには、Al組成xは0.9以上(0.9≦x≦1.0)が好ましく、更に好ましくは0.95以上である。このため、2DEGの電子が障壁を越えることは困難であり、バッファ層14のトラップへの電子の捕獲が抑制される。2DEG付近のエネルギーEcの上昇、及び2DEGの電子濃度の低下が抑制される。この結果、ドレイン電流の減少も抑制される。
【0017】
バッファ層14がバリアとして有効に機能するためには、バッファ層14の下面付近においてもAl組成が高いことが好ましい。このため下面付近のAl組成は0.3以上が好ましい。しかし、Al組成が高い場合、バッファ層14の平坦性が悪化し、バッファ層14及びチャネル層16の結晶性が悪化する。下地層12上に高品質なバッファ層14及びチャネル層16を得るためには、バッファ層14の下面付近のAl組成は0.5以下が好ましい。これによりHEMT100の特性が改善する。このように下地層12側の領域におけるAl組成xは0.3以上0.5以下(0.3≦x≦0.5)が好ましく、また0.35以上0.48以下、0.4以上0.45以下としてもよいし、0.3より大きく0.5未満としてもよい。
【0018】
チャネル層16が厚い場合、AlGaNとGaNとの格子不整合に起因した欠陥がチャネル層16に発生する。またチャネル層16が薄い場合、ソース電極26及びドレイン電極28形成時にオーミック電極の金属がバッファ層14まで到達する。この結果、バッファ層14にも電流が流れ、HEMTの特性が劣化する。チャネル層16の欠陥を抑制し、かつ金属の侵入を抑制するためには、チャネル層16の厚さは100nm以上、300nm以下が好ましい。またチャネル層16の厚さを120nm以上280nm以下、150nm以上250nm以下等としてもよいし、100nmより大きく300nm未満としてもよい。次に実施例1の変形例について説明する。
【0019】
図3は、実施例1の変形例におけるアルミニウムの組成を示すグラフである。図3に示すように、バッファ層14はAl組成xが異なる5つの領域に分かれており、Al組成xが段階的に変化する。バッファ層14とチャネル層16との間に高い障壁が形成されることは実施例1と同様である。バッファ層14は4つ以下の領域、又は6つ以上の領域に分かれていてもよい。
【0020】
電極は単層、又は三層以上の構造でもよいし、上記の材料以外の金属により形成してもよい。基板10はSiC以外に例えばシリコン(Si)、サファイア等の絶縁体、又はn−GaN等の半導体からなるとしてもよい。基板10が絶縁基板である場合、バッファ層14を形成するAlGaNと絶縁体との格子不整合が生じるため、基板10上に下地層12を設けることが好ましい。例えば、基板10がGaNからなる半導体基板である場合、下地層12は設けなくてもよい。スペーサ層18、電子供給層20及びキャップ層22は、実施例1に示したもの以外の窒化物半導体からなるとしてもよい。窒化物半導体とは、窒素(N)を含む半導体であり、例えば窒化インジウムアルミニウム(InAlN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウム(InN)、及び窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等がある。電子供給層20は、窒化物半導体のうち、InAlN、AlInGaN等からなるとしてもよい。スペーサ層18及びキャップ層22は設けなくてもよい。チャネル層16とスペーサ層18との間、スペーサ層18と電子供給層20との間、電子供給層20とキャップ層22との間には別の層が設けられていてもよい。なお図2においては、スペーサ層18のAl組成が電子供給層20のAl組成より高い例を示している。図1(b)及び図2に示すように、スペーサ層18及び電子供給層20のAl組成は任意に選択でき、両方の層におけるAl組成は同じでもよいし異なってもよい。
【0021】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0022】
10 基板
12 下地層
14 バッファ層
16 チャネル層
18 スペーサ層
20 電子供給層
22 キャップ層
24 保護層
26 ソース電極
28 ドレイン電極
30 ゲート電極
100 HEMT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなる下地層と、
前記下地層上に設けられ、窒化アルミニウムガリウム(AlGa1−xN)からなるバッファ層と、
前記バッファ層上に設けられ、厚さが100nm以上300nm以下の窒化ガリウムからなるチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、
前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、
前記バッファ層のアルミニウムの組成xは、前記下地層側の領域において0.3≦x≦0.5であり、前記チャネル層側の領域において0.9≦x≦1.0であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記バッファ層のアルミニウムの組成xは、前記下地層側の領域から前記チャネル層側の領域に向けて連続的、又は段階的に大きくなることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記電子供給層は窒化アルミニウムガリウム、又は窒化インジウムアルミニウムからなることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記基板は、シリコン又は炭化シリコンからなることを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−77638(P2013−77638A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215445(P2011−215445)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】