説明

半導体DNAセンシングデバイス及びDNAセンシング方法

【解決手段】半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜に塩基数3〜35の短鎖プローブDNAを上記反応性官能基を介して、直接又は架橋分子を介して結合させてなる、プローブDNA/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備える半導体DNAセンシングデバイス。
【効果】本発明の半導体DNAセンシングデバイスは、オンチップでの高感度マイクロマルチDNAセンシングデバイスとして非常に効果的な半導体デバイスであり、これを用いた集積化デバイスは、一塩基多型等のミスマッチ配列のDNA解析を高精度に可能とするセンシング特性を有するものであり、高度な医療の提供・テーラーメード医療に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果型トランジスタを用いた半導体DNAセンシングデバイス及びDNAセンシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンシングデバイスは医療・環境・創薬分野において広く利用されている。特に、昨今のゲノム分野の発展に伴い、遺伝子治療・テーラーメード医療等を目的としたDNAセンシングデバイスの開発が望まれている。
【0003】
従来、DNAセンシングにおいては、レーザースキャナーなどを用いた蛍光・発光によるセンシングが主流であり、最近では電気化学反応を用いた電流・電位検出も試みられるようになってきている。また、半導体検出においては、従来のシリコン窒化膜/シリコン酸化膜/シリコン構造を有するイオン感応性電界効果型トランジスタ(ISFET)をベースとしているものが挙げられる。
【0004】
しかしながら、これらの方法において、DNAの検出・測定は、電極部の実行表面積の増加や反応物質の固定化量の増加、増感ラベル剤・インターカレーター分子の導入といった量的な効果によるものがほとんどであり、デバイス自体の改良例は非常に乏しい。また、レーザースキャナーを用いた検出や電気化学検出は、集積化・微細化によって応答感度(強度、応答速度など)が減少する傾向があり、問題点を抱えている。
【0005】
一方で、ISFETをベースとした半導体センシングにおいては、測定のための参照電極は別途ガラス電極などが用いられているため、オンチップ化、微小化には困難な側面がある。また、参照電極として擬似参照電極を用いる場合があり得るが、こちらも精度・感度の面で問題がある。更に、デバイスの感応膜である、シリコン窒化膜はその膜厚が100〜200nm程度と厚いため、感度の低下が懸念されている。
【0006】
このように、従来技術では、オンチップ化、微小化、集積化といった要求を満たす上で難点があり、DNAセンシングにおいて、特に、一塩基多型などの検出において最大限の効果を引き出すには抜本的な改良が必要となってくると考えられる。
【0007】
なお、本発明に関連する先行文献としては次のものが挙げられる。
【0008】
【特許文献1】特開2004−4007号公報
【特許文献2】特開2005−91014号公報
【特許文献3】特開2005−218310号公報
【非特許文献1】Daisuke Niwa,Takayuki Homma,Tetsuya Osaka,Jpn. J. Appl. Phys.,Vol.43,No.1A/B,2004,pp.L105−L107
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、有機単分子膜を一体化させた有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を有する半導体デバイスによる簡便かつ高精度なDNAのセンシングを可能にする半導体DNAセンシングデバイス、特に、塩基数3〜35の短鎖プローブDNAを利用した、該プローブDNAの完全相補配列を有するDNA又は一塩基多型等の上記完全相補配列に対して1〜3個の塩基が異なるミスマッチ配列を有するDNAの検出が可能な半導体DNAセンシングデバイス及びDNAセンシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、プローブDNA/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として有する半導体デバイスにより、塩基数3〜35の短鎖DNAのハイブリダイゼーション検出、ミスマッチ(例えば、一塩基多型)検出が、簡便かつ高精度に可能であり、また、上記半導体デバイスに、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部として設けることにより、有効にオンチップでのDNAセンシングが可能となることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の半導体DNAセンシングデバイス及びDNAセンシング方法を提供する。
[1] 半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜に塩基数3〜35の短鎖プローブDNAを上記反応性官能基を介して、直接又は架橋分子を介して結合させてなる、プローブDNA/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えることを特徴とする半導体DNAセンシングデバイス。
[2] 上記プローブDNAに対し、該プローブDNAの完全相補配列を有するDNA又は該完全相補配列に対して1〜3個の塩基が異なるミスマッチ配列を有するDNAであるターゲットDNAをハイブリダイゼーション反応させて、該反応によるプローブDNAの負電荷の変化により生じる絶縁層の表面電位変化を検出するように構成したことを特徴とする[1]記載の半導体DNAセンシングデバイス。
[3] 上記第1の有機単分子膜が、アミノ系官能基、カルボキシル系官能基又はメルカプト系官能基を有する炭素数3〜20の直鎖状炭化水素基を有するアルコキシシランの単分子膜であることを特徴とする[1]又は[2]記載の半導体DNAセンシングデバイス。
[4] 上記半導体上に、更に、参照ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第2の絶縁層が形成され、該第2の絶縁層の上に、上記プローブDNA及びターゲットDNAのいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜を形成してなる、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部として備えることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか1項記載の半導体DNAセンシングデバイス。
[5] 上記第2の有機単分子膜が、炭素数8〜22の直鎖状アルキル基又はフッ化アルキル基を有するアルコキシシランの単分子膜であることを特徴とする[4]記載の半導体DNAセンシングデバイス。
[6] 半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜に塩基数3〜35の短鎖プローブDNAを上記反応性官能基を介して、直接又は架橋分子を介して結合させ、上記プローブDNAに対し、該プローブDNAの完全相補配列を有するDNA又は該完全相補配列に対して1〜3個の塩基が異なるミスマッチ配列を有するDNAであるターゲットDNAをハイブリダイゼーション反応させて、該反応によるプローブDNAの負電荷の変化により生じる絶縁層の表面電位変化を検出することを特徴とするDNAセンシング方法。
【0012】
本発明においては、電界効果型トランジスタのゲート部に形成された有機単分子膜/絶縁層/半導体構造のシリコン酸化物又は無機酸化物を含む絶縁層を、通常の半導体デバイスレベルに薄膜化し、更に、厚さが3nm以下の超薄膜である有機単分子膜によって表面特性を劇的に変化させる。この有機単分子膜上においては、プローブとなるDNA分子を直接又は架橋分子を介して理想的に配列させることが可能である。また、電界効果デバイスの利用により、ラベル分子を用いる必要がないので、簡便性の観点でも優位性がある。更に、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造が参照デバイスとしても適用可能であるので、完全オンチップの形態でのDNAセンシングデバイスを提供することも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の半導体DNAセンシングデバイスは、オンチップでの高感度マイクロマルチDNAセンシングデバイスとして非常に効果的な半導体デバイスであり、これを用いた集積化デバイスは、一塩基多型等のミスマッチ配列のDNA解析を高精度に可能とするセンシング特性を有するものである。更には、参照デバイスとの併用により、オンチップでの簡便かつ高感度なDNAセンシングを可能とするものであり、高度な医療の提供・テーラーメード医療に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の半導体DNAセンシングデバイスは、半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の有機単分子膜を形成し、第1の有機単分子膜に塩基数3〜35の短鎖プローブDNAを上記反応性官能基を介して、直接又は架橋分子を介して結合させてなる、プローブDNA/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えるものである。
【0015】
本発明の半導体DNAセンシングデバイスは、プローブDNA/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造(架橋分子を介している場合は、架橋分子が結合したプローブDNA/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造)を検出部として備えるが、このうち、絶縁層/半導体構造部分は、半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む絶縁層が形成された電界効果型トランジスタを利用することができ、その構成は、従来公知のものを利用することができる。この電界効果型トランジスタとしては、例えば、図1(A)に示されるようなものが例示される。なお、図1中、1はシリコン基板、2はシリコン酸化物又は無機酸化物(ガラス、アルミナなど)を含む絶縁層、4はゲート電極、5はソース電極、6はドレイン電極、7はチャンネル領域を示す。
【0016】
そして、図1(B)に示されるように、絶縁層2上に有機単分子膜3が形成される。ここで、本発明においては、基本原理として、絶縁層表面上のDNAハイブリダイゼーション反応に伴う表面電位変化を電気信号として検出する構成とする。なお、上記絶縁層は10〜100nm、特に10〜50nmの厚さに形成することができる。
【0017】
有機単分子膜は、絶縁層上に直接形成される。この有機単分子膜は、有機分子を絶縁層上に気相化学反応もしくは液相反応によって形成し、その最適化、例えば、有機分子の自己集積化機能によって有機単分子が細密パッキングされた膜が形成される。
【0018】
この場合、有機単分子膜としては、例えば、反応性官能基、特にアミノ系の官能基(−NH2、−NH−、C55N−、C44N−等)、カルボキシル系の官能基(−COOH等)又はメルカプト系の官能基(−SH等)を少なくとも1個含有する炭素数3〜20の直鎖状炭化水素基(アルキル基等)を有するアルコキシシランを用いることが好適である。これらのアルコキシシランは、特に、絶縁層としてシリコン酸化物が形成されたものを用いた場合、シリコン酸化物と結合させることができるため好適である。
【0019】
また、アミノ系の官能基、カルボキシル系の官能基、メルカプト系の官能基等の反応性官能基に置換可能な基、例えば−Br、−CN等のアミノ誘導基を有するアルコキシシランを用いて単分子膜を形成後、これらアミノ誘導基をアミノ基に置換する方法で導入することもできる。
【0020】
なお、絶縁層としてシリコン酸化物が形成されたものを用いる場合、アルコキシシランとしては、密着性等の点でトリアルコキシシランが好ましく、またアルコキシ基としては炭素数1〜3のアルコキシ基(−OR:Rは一価炭化水素基を表す)、特にメトキシ基(−OCH3)、エトキシ基(−OC25)が好ましい。より具体的には、H2N(CH23Si(OC253等の反応性官能基を有するトリアルコキシシランが挙げられる。
【0021】
そして、本発明の半導体DNAセンシングデバイスにおいては、有機単分子膜に塩基数3〜35の短鎖プローブDNA(オリゴヌクレオチド)が直接又は架橋分子を介して結合されており、例えば、図1(C)に示されるように、有機単分子膜に塩基数3〜35の短鎖プローブDNA11が架橋分子12を介して結合される。
【0022】
プローブDNAの官能基と、有機単分子膜を構成する有機分子の反応性官能基とが反応して結合し得る組合せの場合には、両者を直接反応させて結合し、固定化することができる。一方、プローブDNAの官能基と、有機単分子膜を構成する有機分子の反応性官能基とを反応させて結合させることができない組合せの場合には、架橋分子を介してプローブDNAを有機単分子膜を構成する有機分子と結合させることができる。この場合、例えば、反応性官能基としてアミノ基を有する有機分子の単分子膜を用いる場合、例えば、グルタルアルデヒド等の両末端にアルデヒド基を有する有機分子を用い、一方のアルデヒド基を有機単分子膜と、他方のアルデヒド基をプローブDNAのアミノ基と反応させて結合し、固定化することができる。なお、プローブDNAとしては、塩基鎖のみからなるDNAの他に、アミノ基やメルカプト基などを修飾したDNAを用いることも可能である。
【0023】
なお、架橋分子は、架橋分子を含む溶液中に電界効果型トランジスタを浸漬し、絶縁層上に形成された有機単分子膜に架橋分子を接触させることで導入可能である。一方、プローブDNAは、プローブDNAが含まれる溶液に電界効果型トランジスタを必要に応じて架橋分子を導入した後に浸漬し、絶縁層上に形成された有機単分子膜に接触させる又は架橋分子に接触させることで導入可能である。
【0024】
図2は本発明の半導体DNAセンシングデバイスを用いたハイブリダイゼーション反応に基づくDNA検出の概念を示すものである。このDNAセンシングでは、有機単分子膜上に架橋分子を介して固定化されたプローブDNAに対し、プローブDNAと同等の長さを有する完全相補配列を有するDNA又は該完全相補配列に対して1〜3個の塩基が異なるミスマッチ配列を有するDNAをターゲットDNAとして反応させ、この反応によるプローブDNAの負電荷の変化により生じる絶縁層の表面電位変化を電気信号として検出する。なお、図2中、13はターゲットDNAである。また、他の構成は、図1と同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0025】
ここで、DNAはリン酸基由来の負電荷が存在するため、完全相補DNAを反応させた場合、二重らせん化が円滑に生じ、ゲート電極上の表面電位は反応によって負に移行する。この場合、たとえばp型の電界効果型トランジスタを用いた場合、正方向に閾値電圧がシフトする。電流一定下においては電位シフトを、電圧一定下においては電流のシフトをシグナルとして検出することができる。なお、n型の電界効果トランジスタを用いた場合、閾値電圧のシフトは正方向になり、p型の電界効果トランジスタを用いた場合と逆になる。
【0026】
一方、ミスマッチ分子をターゲットDNAとして用いた場合、二重らせん化反応の進行、程度、二重らせん構造に違いが生じることから、完全相補DNAとの反応とは異なる閾値電圧でシフトし、この程度の差により、DNA内の塩基ミスマッチを検出することができる。
【0027】
本発明においては、上記電界効果型トランジスタの半導体上に、更に、参照ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第2の絶縁層を形成することができる。この第2の絶縁層の上には、上記プローブDNA及びターゲットDNAのいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜を形成し、この有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部とすることができる。なお、反応ゲート絶縁部と参照ゲート絶縁部とを、電位変化測定において互いに影響を与えない程度に離間させれば、反応ゲート絶縁部の第1の絶縁層と参照ゲート絶縁部の第2の絶縁層とを同一層内に設けることもできる。
【0028】
図3は有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部9及び参照部8に適用したオンチップデバイスのユニット構成例を示す。なお、図3中、1はシリコン基板、2は絶縁層、10はテンプレート部である。このデバイスのユニット構成は図示した構成に限定されず、検出部と参照部とは必ずしも1対1の関係で配置する必要はなく、必要に応じて検出部及び参照部の数及び組合せを適宜変更して配置することができる。また、検出部及び参照部は各々数〜数10μmのサイズで形成可能である。
【0029】
参照部の第2の絶縁層上には、プローブDNA及びターゲットDNAのいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜が形成されるが、この有機単分子膜としては、炭素数8〜22の直鎖状アルキル基又はフッ化アルキル基を有するアルコキシシランの単分子膜が好ましい。
【0030】
この場合の有機単分子膜としては、絶縁層上に均一な膜を形成させるため、自己集積化膜であることが望ましい。より具体的には、アルキルシラン:CH3(CH217Si(OCH33、フッ素化アルキルシラン:CF3(CF27(CH22Si(OCH33等が挙げられる。また、有機単分子膜としてアルコキシシランを用いる場合、絶縁層がシリコン酸化物で形成されたものが好適である。
【0031】
なお、第1及び第2の有機単分子膜は、パターニングにより所望の位置に形成することができる。特に、オンチップでの集積化デバイスを形成するためには、有機単分子膜のパターニングが有効である。例えば、検出部の絶縁層表面には、DNA固定化のために反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の有機単分子膜を、一方で、参照部、更には非ゲート部(テンプレート部)においては、DNAの非特異的な吸着を避けるために、プローブDNA及びターゲットDNAのいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜をパターニングにより位置選択的に形成する。
【0032】
パターニング手法としては、まず基板上の絶縁層全面にテンプレートとなるプローブDNA及びターゲットDNAに対する活性をもたない有機分子の有機単分子膜を形成後、粒子線(紫外線、電子線、X線など)レジストを塗布し、粒子線によって検出部上方のレジスト部分を取り除くようにパターニングを行う。その後、レジストパターン開口部に露出した有機単分子膜を酸素プラズマエッチングなどの手法を用いて除去し、二次的に、検出部に反応性官能基を有する有機分子の有機単分子膜を形成すればよい。
【0033】
なお、プローブDNAの固定化については、緩衝溶液に溶解したプローブDNAを用いることが好ましい。この際、緩衝溶液は中性から酸性であることがより望ましい。架橋分子を介してプローブDNAを固定化する場合、架橋分子を有機単分子膜に反応させた後に、非特異的に吸着しているプローブDNAを、緩衝液を用いて洗浄することが好ましい。
【0034】
プローブDNAの固定後、ターゲットDNAをハイブリダイゼーション反応させる際には、緩衝溶液、好ましくはプローブDNAの固定化の際に用いたものと同等の緩衝溶液に溶解したターゲットDNAを用いることができる。また、測定においてもターゲットDNAの固定化に用いたものと同等の緩衝溶液を用いることが好ましい。なお、複数のプローブDNAを固定化する場合や、ターゲットDNAを複数の検出部を設けたデバイスに別々に反応させる場合はスポッティングなどの手法を用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実験例及び実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0036】
なお、実施例において用いたデバイスは、プローブDNA/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部として備える半導体DNAセンシングデバイスである。なお、絶縁層としてはシリコン酸化物を用い、検出部の第1の有機単分子膜にはH2N(CH23Si(OC253により形成したアミノ系単分子膜を、参照部の第2の有機単分子膜には、CF3(CF27(CH22Si(OCH33により形成したフッ化アルキル単分子膜を用い、更に、検出部及び参照部(ゲート電極)以外の部分(テンプレート部)にもCF3(CF27(CH22Si(OCH33により形成したフッ化アルキル単分子膜が形成されたものを用いた。
【0037】
[実験例1]
プローブDNAの固定が可能なアミノ系単分子膜3bと、DNAに対して非反応性のフッ化アルキル単分子膜3aとがパターン形成された図4に示されるような基板を用いてDNAの位置選択的な固定化の確認を行った。なお、図4中、1はシリコン基板、2は絶縁層である。
【0038】
プローブDNAにはチオールが修飾された20塩基対のもの(5'-SH-TTTTTTTTTTTTTTTTTTTT-3'(配列番号1))を用いた。また、アミノ系単分子膜と修飾表面とプローブDNAとの間の架橋分子としてsulfo−LC−SPDPを用いた。
【0039】
プローブDNA固定化後の蛍光顕微鏡観察を行った結果、図5に示されるように、アミノ系単分子膜がパターンされた部分にのみ、プローブDNAが固定化されることが明らかとなった。特に、フッ化アルキル単分子膜が存在する部分の蛍光強度は、基板のバックグラウンドの値と一致しており、DNAはフッ化アルキル単分子膜には非特異的な吸着も起こらないことが示された。
【0040】
[実施例1]
実験例1における予備検討を踏まえ、上述のデバイスを用いて完全相補配列を有するDNAのハイブリダイゼーションの検出を行った。
【0041】
アミノ系単分子膜が修飾されている検出部のゲート電極にプローブDNAの固定化を行った。まず、アミノ分子とプローブDNAとを架橋するためのアルデヒド基を両末端に有するグルタルアルデヒドを反応させた。その後、アミノ修飾された20塩基対からなるプローブDNA(3'-NH2-TTTTTTTTTTTTTTTTTTTT-5'(配列番号2))を含むリン酸緩衝液中で反応させることで、プローブDNAを固定化した。基板洗浄後、ここで一旦、リン酸緩衝液中にてプローブDNA固定化デバイスの電流−電圧曲線を測定した。
【0042】
続いて、相補的な20塩基対からなるターゲットDNA(A20:5'-AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA-3'(配列番号3))を含むリン酸緩衝液中にてハイブリダイゼーションを行った。基板洗浄後、リン酸緩衝液中にてハイブリダイズ後の電流−電圧曲線を得、反応前後の電圧応答の差を測定した。
【0043】
図6に反応前後の電流−電圧曲線を示す。ハイブリダイゼーションによって、応答曲線は正方向にシフトしていることが確認された。本実施例で用いた電界効果トランジスタはp型であることから、この結果はゲート表面電位が負に移行したことを示しており妥当性がある。この際のシフト量は約50mV程度と非常に大きな差が得られた。
【0044】
一方で、ターゲットDNAとして、非相補的なターゲットDNA(T20:5'-TTTTTTTTTTTTTTTTTTTT-3'(配列番号4))を用いた場合についても測定したが、ハイブリダイゼーション前後での電圧シフトはほとんど認められなかった(1mV程度)。
【0045】
以上の結果より、本発明のデバイスを用いた短鎖DNAのセンシングが可能であることが示された。
【0046】
また、非反応性のフッ化アルキル単分子膜を形成した参照部においては、プローブDNAの固定前、プローブDNAの固定後、ターゲットDNAのハイブリダイゼーション後のいずれにおいても電圧のシフトは確認されなかった。この結果より、非反応性のフッ化アルキル単分子膜を形成した有機単分子膜/絶縁層/半導体構造はDNAセンシングにおける参照電極として機能することが示された。
【0047】
[実施例2]
上述のデバイスを用いた混合塩基を含む完全相補配列を有するDNAのハイブリダイゼーションの検出を行った。ターゲットDNAには3’末端にアミノ基が修飾された3'-NH2-ACGAACATAGCCCGCCTTAC-5'(配列番号5)を、プローブDNAには完全相補の5'-TGCTGTTATCGGGCGGAATG-3'(配列番号6)を用い、実施例1と同様の方法で電圧応答の測定を実施したところ、混合塩基DNAの場合も約50mV程度の正方向への電圧シフトが観測された。この結果は、混合塩基からなる実際のDNAにおいても、本発明のデバイスによるセンシングが可能であることを示している。
【0048】
[実施例3]
ミスマッチ配列を含むターゲットDNAを用いて、ミスマッチ検出を行った。プローブDNAは実施例2と同じであるが、ターゲットDNAとして1,3又は5個の塩基のミスマッチを含むもの(一塩基多型)を用い、1塩基ミスマッチDNAとして5'-TGCTTGTATCGTGCGGAATG-3'(配列番号7)、3塩基ミスマッチDNAとして5'-TGCTAGTATCGTGCGGAGTG-3'(配列番号8)、5塩基ミスマッチDNAとして5'-AGCTAGTATCGTGCCGAGTG-3'(配列番号9)を用いた。
【0049】
実施例1と同様の方法で電圧応答の測定を実施したところ、一般的に20塩基DNAの場合、5塩基ミスマッチDNAでは、殆どハイブリダイゼーションしないと言われているが、5塩基ミスマッチDNAの電子シフトは数mV程度であり、この応答結果は妥当性があるといえる。一方、1塩基ミスマッチDNAでは約20mV、3塩基ミスマッチDNAでは約8mVの電位シフトが確認された。
【0050】
また、1塩基ミスマッチDNAの結果と、完全相補DNAの結果(実施例2)とを比較すると、30mV程度の電圧シフト差が生じており、これは他の検出手法には類を見ない感度である。特に、蛍光検出や電気化学的な検出の場合は、インターカレーター分子や特異反応性酵素の導入、3本鎖反応による信号増幅によって検出がなされるが、本発明のデバイスを用いれば、ノンラベルでの検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の半導体DNAセンシングデバイスを示す断面図であり、(A)は電界効果型トランジスタ、(B)は電界効果型トランジスタのゲート電極の絶縁層上に有機単分子膜を形成した状態、(C)は有機単分子膜に架橋分子を介してプローブDNAが固定化された状態を示す。
【図2】本発明の半導体DNAセンシングデバイスを用いたハイブリダイゼーション反応に基づくDNA検出の概念図である。
【図3】オンチップデバイスのユニット構成例を示し、(A)は部分平面図、(B)はその拡大断面図である。
【図4】実験例1で用いたプローブDNAの固定が可能なアミノ系単分子膜と、DNAに対して非反応性のフッ化アルキル単分子膜がパターン形成された基板を示す図であり、(A)は平面図、(B)は部分断面図である。
【図5】実験例1におけるプローブDNA固定化後の蛍光顕微鏡写真であり(B)は(A)の部分拡大写真である。
【図6】実施例1におけるハイブリダイゼーション反応前後の電流−電圧曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1 シリコン基板
2 絶縁層
3 有機単分子膜
4 ゲート電極
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 チャンネル領域
8 参照部
9 検出部
10 テンプレート部
11 プローブDNA
12 架橋分子
13 ターゲットDNA
【配列表フリーテキスト】
【0053】
配列番号1:Designed oligonucleotide. 5'- end is terminated by SH group.
配列番号2:Designed oligonucleotide. 3'- end is terminated by NH2 group.
配列番号3:Designed oligonucleotide.
配列番号4:Designed oligonucleotide.
配列番号5:Designed oligonucleotide. 3'- end is terminated by NH2 group.
配列番号6:Designed oligonucleotide.
配列番号7:Designed oligonucleotide.
配列番号8:Designed oligonucleotide.
配列番号9:Designed oligonucleotide.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜に塩基数3〜35の短鎖プローブDNAを上記反応性官能基を介して、直接又は架橋分子を介して結合させてなる、プローブDNA/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えることを特徴とする半導体DNAセンシングデバイス。
【請求項2】
上記プローブDNAに対し、該プローブDNAの完全相補配列を有するDNA又は該完全相補配列に対して1〜3個の塩基が異なるミスマッチ配列を有するDNAであるターゲットDNAをハイブリダイゼーション反応させて、該反応によるプローブDNAの負電荷の変化により生じる絶縁層の表面電位変化を検出するように構成したことを特徴とする請求項1記載の半導体DNAセンシングデバイス。
【請求項3】
上記第1の有機単分子膜が、アミノ系官能基、カルボキシル系官能基又はメルカプト系官能基を有する炭素数3〜20の直鎖状炭化水素基を有するアルコキシシランの単分子膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体DNAセンシングデバイス。
【請求項4】
上記半導体上に、更に、参照ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第2の絶縁層が形成され、該第2の絶縁層の上に、上記プローブDNA及びターゲットDNAのいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜を形成してなる、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部として備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体DNAセンシングデバイス。
【請求項5】
上記第2の有機単分子膜が、炭素数8〜22の直鎖状アルキル基又はフッ化アルキル基を有するアルコキシシランの単分子膜であることを特徴とする請求項4記載の半導体DNAセンシングデバイス。
【請求項6】
半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜に塩基数3〜35の短鎖プローブDNAを上記反応性官能基を介して、直接又は架橋分子を介して結合させ、上記プローブDNAに対し、該プローブDNAの完全相補配列を有するDNA又は該完全相補配列に対して1〜3個の塩基が異なるミスマッチ配列を有するDNAであるターゲットDNAをハイブリダイゼーション反応させて、該反応によるプローブDNAの負電荷の変化により生じる絶縁層の表面電位変化を検出することを特徴とするDNAセンシング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−232683(P2007−232683A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57706(P2006−57706)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月7日 社団法人応用物理学会発行の「2005年(平成17年)秋季 第66回応用物理学会学術講演会講演予稿集第3分冊」に発表
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】