説明

単結晶グラフェンシートおよびその製造方法

【課題】グラフェンシートを低コスト・大面積で、かつ再現性があるように製造できる方法を提供する。
【解決手段】単結晶のグラファイト化金属触媒210をシート状に形成する工程と、前記単結晶のグラファイト化金属触媒210の表面に炭素系物質含有を塗布するか、あるいは、前記単結晶のグラファイト化金属触媒と炭素含有ガスとを接触させることにより、前記グラファイト化金属触媒に炭素系物質220を接触させる工程と、前記炭素系物質220と接触させた前記グラファイト化金属触媒210を不活性雰囲気または還元性雰囲気下で熱処理する工程と、を含む単結晶グラフェンシート240の製造方法により、複数の炭素原子が互いに共有結合してなる多環式芳香族分子からなり、層数が1〜300層で、ラマンスペクトルの測定時にDバンドのピーク強度/Gバンドのピーク強度の比(D/G)が0.2以下である単結晶グラフェンシート240が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶グラフェンシートおよびその製造方法に関し、さらに具体的には、積層成長法を利用して得られる単結晶グラフェンシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にグラファイトは、炭素原子が六角形状に連結された板状の2次元グラフェンシートが積層されている構造である。最近、グラファイトから一層または数層のグラフェンシートをはがして、そのシートの特性を調べた結果、既存の物質とは異なる非常に有効な特性を有することが明らかとなった。最も注目すべき特徴は、グラフェンシート内で電子が移動する場合、あたかも障害がないように電子が流れるということであり、これは、電子が真空中の光が移動する速度、すなわち、光速で流れるということを意味する。さらに他の特徴は、グラフェンシートは、電子と正孔との両方に対して非正常的な半整数量子ホール効果を有するということである。
【0003】
グラフェンシートの移動度は、約20,000〜50,000cm/Vsの高い値を有することが知られている。
【0004】
いくつかの応用において、カーボンナノチューブ(CNT)は、導体として使用されうる。しかしながら、カーボンナノチューブは、合成後に精製を経る場合の収率が低いため、高価である。その一方で、グラファイトは非常に安いという長所がある。また、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)は、そのキラリティーおよび直径によって金属性か半導体性かという特性が変わる。さらに、同じ半導体性の特性を有するシングルウォールカーボンナノチューブであっても、バンドギャップエネルギーが、そのキラリティーおよび直径によって異なるという特徴を有する。よって、SWCNTから所望の半導体性または金属性得るために、互いにSWCNTを分離することが好ましい。しかし、このSWCNTの分離は、非常に難しい。
【0005】
一方、グラフェンシートは、グラフェンシートの結晶の方向性によって電気的特性が変化するため、選択した方向へ結晶の方向性を向けるようにグラフェンシートを配列させることによって、所望の電気的特性を発現させることができるため、素子においてグラフェンシートが利用できるという長所がある。これらのグラフェンシートの特徴は、将来、炭素系電気素子または炭素系電磁気素子などに非常に効果的に利用できると予想される。
【0006】
前記グラフェンシートは、微小機械法またはSiC結晶の熱分解法を利用して製造されうる。前記微小機械法は、グラファイト試料に粘着テープを貼り付けた後、それを引き剥がすことによって、粘着テープの表面にグラファイトから剥がれてきたグラフェンシートを得る方法である。この場合、剥がれてきたグラフェンシートは、その層の数が一定ではなく、また、形状も引き裂かれた形状で一定でないという問題がある。さらに、大面積のグラフェンシートを得ることは非常に困難であるという問題がある。一方、SiC結晶の熱分解法は、SiC単結晶を加熱すれば、表面のSiCが分解されてSiは除去され、残っているカーボン(C)によってグラフェンシートが形成される。しかし、このような熱分解法の場合、出発物質として使用するSiC単結晶が非常に高価であり、かつ大面積のグラフェンシートを得ることが非常に難しいという問題がある(非特許文献1参照)。
【0007】
したがって、電気的に非常に有効な性質を持っているグラフェンシートを低コストで大面積、かつ再現性のあるように製造できる方法が切実に要求されている。
【非特許文献1】Controlling the electronic structure of bilayer graphene;Science vol 313, 18 august 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記微小機械法によれば、剥がれてきたグラフェンシートは、その層の数が一定ではなく、また、形状も引き裂かれた形状で一定でないという問題がある。さらに、大面積のグラフェンシートを得ることは非常に困難であるという問題がある。一方、熱分解法の場合、出発物質として使用するSiC単結晶が非常に高価であり、かつ大面積のグラフェンシートを得ることが非常に難しいという問題がある。
【0009】
したがって、所望の電気的性質を有するグラフェンシートを低コストで大面積で、かつ再現性のあるように製造できる方法が要求されている。
【0010】
そこで、本発明は、グラフェンシートを低コスト・大面積で、かつ再現性があるように製造できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、複数の炭素原子が互いに共有結合してなった多環式芳香族分子からなる単結晶グラフェンシートであり、前記単結晶グラフェンシートの層数が1〜300層であり、ラマンスペクトルのDバンドのピーク強度/Gバンドのピーク強度の比(D/G)が0.2以下である単結晶グラフェンシートを提供する。
【0012】
また、本発明は、単結晶のグラファイト化金属触媒をシート状に形成する工程と、前記グラファイト化金属触媒に炭素系物質を接触させる工程と、前記炭素系物質と接触させた前記グラファイト化金属触媒を不活性雰囲気または還元性雰囲気下で熱処理する工程と、を含むことを特徴とする、単結晶グラフェンシートの製造方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、前記単結晶グラフェンシートを備える透明電極を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、欠陥がほとんど存在しないグラフェンシートを安価にかつ大面積に得る方法を提供し、加えて、グラフェンシートの厚さを効果的に制御できる方法を提供する。本発明によれば、所望の厚さのグラフェンシートを安価にかつ大面積に得ることができて、多様な分野に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。
【0016】
本発明は、単結晶のグラファイト化金属触媒を用いてエピタキシャル成長法により得られる単結晶のグラフェンシートを提供する。この単結晶のグラフェンシートは欠陥が実質的になく、均一な形状を有するため、各種電気素子、電磁気素子、表示素子、太陽電池などに有用に使用できる。
【0017】
本発明による単結晶のグラフェンシートは、基板上に部分的にシート状に形成された単結晶のグラファイト化金属触媒に炭素系物質を接触させた後、前記単結晶のグラファイト化金属触媒および前記炭素含有化合物を所定の条件で熱処理することにより得られる。
【0018】
このようなグラフェンの成長工程を、さらに具体的に説明する。炭素系物質をシート状の前記グラファイト化金属触媒と接触させた後、これを熱処理すれば、前記炭素系物質が金属触媒の表面で熱分解され、炭素含有ガスとなる。炭素含有ガスから生成される炭素原子が、触媒層の内部に浸透して固溶する。その浸透量が、金属触媒固有の特性である固溶限界を超える場合、グラフェンへの核生成が起きてグラフェンシートに成長する。
【0019】
このようなグラフェンシートへの成長のために、本発明で使われる前記グラファイト化金属触媒は、多結晶構造ではない単結晶構造を有するものを使用する。単結晶のグラファイト化金属触媒は、多結晶のグラファイト化金属触媒が有する問題点を解決することができる。すなわち、多結晶のグラファイト化金属触媒の場合、図1に示すように、基板100の上に金属触媒の複数のグレイン110を有するようになり、基板100とグレイン110との間には境界面が存在する。複数のグレイン110とともに形成されるグラファイト化金属触媒上のグラフェンは、多結晶構造を有するグラフェン120となる。その結果、グラフェンの成長の間、固溶している炭素が前記基板100と前記グレイン110との境界面に析出し、得られるグラフェンシートの欠陥として作用する。また、前記のそれぞれのグレインは、結晶軸の方向が互いに異なるため、固溶している炭素が析出する速度も変わり、結果的に得られるグラフェンシートの均一性を低下させる。しかしながら、図2に示すように、前記グラファイト化金属触媒として単結晶構造のもの(図2の210)を使用すれば、グレインが存在しなくなり、その結果、欠陥がほとんどなくなり、グラフェンの形成速度が触媒層の全表面で同じであって、均質な単結晶構造を有するグラフェンシート(図2の240)の形成が可能になる。
【0020】
前記のような多結晶構造によるグラフェンシートに存在する欠陥の有無は、ラマンスペクトル、特に、Dバンドのピークの有無によって確認することができる。ラマンスペクトルにおけるDバンドのピークは、前記グラフェンに存在する欠陥の有無を意味し、前記Dバンドのピークの強度が高い場合、欠陥が多く存在すると解釈でき、前記Dバンドのピークの強度が低いか、または全くない場合、欠陥がほとんどないと解釈できる。
【0021】
本発明により、単結晶構造のグラファイト化金属触媒を用いてエピタキシャル成長法により得られたグラフェンシートは、Dバンドのピーク強度/Gバンドのピーク強度の比(D/G)が0.2以下であり、好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.001以下であり、最も好ましくは、欠陥が存在しない“0(ゼロ)”の値である。
【0022】
前記単結晶のグラファイト化金属触媒は、前記炭素系物質に存在する炭素成分が互いに結合して六角形の板状構造を形成するように助ける役割を果たす。グラファイト化金属触媒としては、グラファイトを合成するか、炭化反応を誘導するか、またはカーボンナノチューブの製造に使われる触媒を使用することができる。さらに具体的には、単結晶構造を有するニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、白金(Pt)、金(Au)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ロジウム(Rh)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)、ウラン(U)、バナジウム(V)、およびジルコニウム(Zr)からなる群より選択される少なくとも1種の金属またはこれらの合金を使用することができる。前記単結晶のグラファイト化金属触媒は、前記のような種類の金属または合金を単結晶化させて製造することもできるが、市販の単結晶金属を購入して使用することも可能である。一般的に、市販の単結晶の金属はロッド状になっている場合が多く、このようなロッド状の金属は、シート状に薄く切断して使用する。最終的に得られるグラフェンシートの広さは、前記グラファイト化金属触媒の面積によって変わる。したがって、大面積のグラフェンシートを得ようとする場合には、前記単結晶のグラファイト化金属触媒の面積を大きくするだけでよい。したがって、本発明によれば、大面積のグラフェンシートも容易に製造可能となる。
【0023】
シート形状に形成された単結晶のグラファイト化金属触媒は、単独でもまたはシリコンなど基板上に結合させて使用してもよい。単独で使用する場合は、シート状のグラファイト化金属触媒の両面にグラフェンを形成できるので、さらに効率的でありうる。
【0024】
シート状の単結晶のグラファイト化金属触媒と炭素系物質とを接触させることによって、炭素原子が前記単結晶のグラファイト化金属触媒上で形成される。このような接触方法としては多様な方法を使用でき、例えば、(1)前記単結晶のグラファイト化金属触媒の表面に前記炭素系物質を塗布する方法;(2)前記単結晶のグラファイト化金属触媒を気体状の炭素系物質と接触させる方法;(3)前記単結晶のグラファイト化金属触媒を液状の炭素系物質または炭素系物質を含有する溶液に浸漬する方法;などの方法を例として挙げることができる。以下では、これらの工程のそれぞれについて、さらに詳細に説明する。
【0025】
(1)単結晶のグラファイト化金属触媒の表面に炭素系物質を塗布する方法
炭素系物質を単結晶のグラファイト化金属触媒の表面上に塗布する工程で用いられる炭素系物質としては、特に制限されず、前記単結晶のグラファイト化金属触媒と固溶可能な化合物またはポリマーを使用することができ、炭素を含むいかなる構造およびいかなる組成を有する化合物またはポリマーであっても使用することができる。ただし、緻密なグラフェン層の形成のためには、塗布されたポリマーの密度が緻密なものが好ましい。一般的な化合物またはポリマーの場合、これをスピンコート、ディップコートなどを利用して前記単結晶のグラファイト化金属触媒上に塗布すれば、前記化合物またはポリマーは非規則的に配列し、分子的に見た時、非規則的なネットワーク構造をなし、緻密な構造を形成できない虞がある。一方、自己組織化化合物を利用して単結晶のグラファイト化金属触媒上に自己組織化膜を形成する場合、図3に示すように、両親媒性化合物またはポリマー320が単結晶のグラファイト化金属触媒310の表面に垂直方向に規則的に配列するため、図4に示すように、高密度のグラフェンシートを形成できる。
【0026】
かような自己組織化膜を形成する化合物は、特に制限されず、例えば、両親媒性化合物、液晶ポリマー、および導電性ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を使用することができる。
【0027】
前記両親媒性化合物は、構造体内に親水性官能基および疎水性官能基をいずれも有するため、水溶液中で一定の配向に配列され、例えば、ラングミュア−ブロジェット法による配列、ディップコート法による配列、スピンコート法による配列などが可能である。
【0028】
前記両親媒性化合物は、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の親水性官能基と、ハロゲン原子、炭素数1〜30の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜30のハロゲン化アルキル基、炭素数2〜30の直鎖状または分岐状のアルケニル基、炭素数2〜30の直鎖状または分岐状のハロゲン化アルケニル基、炭素数2〜30の直鎖状または分岐状のアルキニル基、炭素数2〜30の直鎖状または分岐状のハロゲン化アルキニル基、炭素数1〜30の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、炭素数1〜30の直鎖状または分岐状のハロゲン化アルコキシ基、炭素数1〜30の直鎖状または分岐状のヘテロアルキル基、炭素数1〜30の直鎖状または分岐状のハロゲン化ヘテロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数6〜30のハロゲン化アリール基、炭素数7〜30のアリールアルキル基、および炭素数7〜30のハロゲン化アリールアルキル基からなる群より選択される少なくとも1種の疎水性官能基とを含む。これらの両親媒性化合物のさらに具体的な例としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ステアリドン酸、リノレン酸、カプリルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどを例として挙げることができる。
【0029】
前記自己組織化膜を形成する化合物またはポリマーは、液晶中で一定配向に配列しうる。このような化合物としては、液晶ポリマーが挙げられる。前記液晶ポリマーの例としては、例えば、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース誘導体、複素環系-ポリパラフェニレン-9-ベンゾビスオキサゾール(PBO)、ポリパラフェニレン−9−ベンゾビスチアゾール(PBT)が挙げられる。
【0030】
前記導電性ポリマーは、溶媒に溶解された後膜を形成し、溶媒を揮発させれば、ポリマー分子が配列して特定の結晶構造をなす特性を有する。したがって、ディップコート法による配列、スピンコート法による配列などが可能である。前記導電性ポリマーの例としては、ポリアセチレン系ポリマー、ポリピロール系ポリマー、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフルオレン系ポリマー、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリナフタレン系ポリマー、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、およびポリ(p−フェニレンビニレン)系ポリマーなどを挙げることができる。
【0031】
一方、気相から蒸着によって自動的に一定方向に配列される化合物、例えば、蒸着工程により形成される導電性化合物も本発明で使用できる。その具体的な例としては、例えば、アントラセンおよびその誘導体、ヘテロ原子を含有するアントラセン誘導体(例えば、ベンゾジチオフェン、ジチエノチオフェン)、テトラセンおよびその誘導体(例えば、ハロゲン化テトラセン、極性置換基を持つテトラセン誘導体、テトラセン−チオフェンハイブリッド物質、ルブレン、アルキル−及びアルコキシ−置換されたテトラセン)、ヘテロ原子を含有するテトラセン誘導体、ペンタセンおよびその誘導体(例えば、アルキル基およびハロゲン原子で置換されたペンタセン、アリール基で置換されたペンタセン、アルキニル基で置換されたペンタセン、アルキニル基置換されたアルキルペンタセン、アルキニル基で置換されたペンタセンエーテル)、ヘテロペンタセンおよびその誘導体などが挙げられる。
【0032】
上述の化合物またはポリマーは、ポリマー構造内に炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合などの重合性官能基を少なくとも1つ有していてもよい。これらは、前記の化合物またはポリマーの膜を形成した後、紫外線照射などの重合工程により化合物またはポリマー間の重合を誘発することができる。このような工程で得られたポリマーは分子量が大きいため、以後のポリマーの熱処理時に炭素の揮発を抑制することが可能となる。
【0033】
このようなポリマーの重合工程は、前記の化合物またはポリマーを前記単結晶のグラファイト化金属触媒上に塗布する以前または以後に行うことができる。すなわち、単結晶のグラファイト化金属触媒上に塗布する前に前記の化合物またはポリマー間の重合を誘発させた場合には、別途の重合工程で得られたポリマー重合膜を、前記単結晶のグラファイト化金属触媒上に転写してポリマー層を形成できる。このような重合工程および転写工程を、数回繰り返して、目的とするグラフェンシートの厚さを制御することが可能となる。
【0034】
前記の化合物またはポリマーは、多様な塗布法で前記単結晶のグラファイト化金属触媒上に配列できる。例えば、ラングミュア−ブロジェット法、ディップコート法、スピンコート法、真空蒸着法などの方法で前記触媒表面に配列させることができる。配列される化合物またはポリマーの分子量、化合物またはポリマーの膜の厚さまたは自己組織化膜の層数は、目的とするグラフェンシートの層数によって調節される。すなわち、分子量の大きい化合物またはポリマーを使用するほど、炭素含有量が多く、生成するグラフェンシートの層数が多くなり、化合物またはポリマー膜の厚さを厚くするほど、生成するグラフェンシートの層数が多くなるので、厚さも増大する。したがって、化合物またはポリマーの分子量および炭素含有量を通じてグラフェン層の厚さを調節することも可能である。
【0035】
また、自己組織化膜を形成する化合物またはポリマーのうち両親媒性化合物は、分子内に親水性部分と疎水性部分とを含んでいる。よって、図5に示したように、両親媒性化合物の親水性部分521は、親水性かつ単結晶のグラファイト化金属触媒510に結合して、優先的に単結晶のグラファイト化金属触媒510上に均一に配列され、前記両親媒性化合物の疎水性部分522は基板の反対側に露出して、グラファイト化金属触媒510と結合していない他の両親媒性化合物の疎水性部分と結びつく。前記両親媒性化合物520の含有量が十分な場合、このような結びつきにより、前記両親媒性化合物は前記グラファイト化金属触媒510上に順次に積層される。これらが順次に結びついて複数の層を構成した後、熱処理によりグラフェン層が形成される。したがって、適切な両親媒性化合物を選択し、その含有量を調節して形成される両親媒性化合物の膜の厚さを制御するによって、グラフェンシートの層数を調節することが可能になるので、用途に合わせて適切な厚さのグラフェンシートを製造できるという長所を持つ。
【0036】
前記のような化合物またはポリマーを単結晶のグラファイト化金属触媒上にコーティングした後、前記化合物またはポリマーをグラファイト化させるために熱処理を行う。このような熱処理は、グラフェンシートの成長を制御するために段階的に行うことができる。例えば、第1の熱処理により前記炭素系物質が前記グラファイト化金属触媒により分解され、分解された炭素が前記単結晶のグラファイト化金属触媒の内部に浸透して固溶される。次いで、前記グラファイト化金属触媒内に固溶された炭素は、前記グラファイト化金属触媒の固溶限界以下の温度で第2の熱処理がされて、前記グラファイト化金属触媒の表面にグラフェンシートとして析出される。このような第1の熱処理および第2の熱処理はそれぞれ個別に行われるか、同時に行われるか、または組み合わせて行われる。
【0037】
一方、前記第1の熱処理により前記グラファイト化金属触媒の内部に炭素原子を十分に固溶させて得られた炭素含有金属触媒の表面を研磨するなどの、前記グラファイト化金属触媒表面上に生成された非晶質カーボンなどの不純物を除去する追加的な工程を実施することもできる。
【0038】
これらの第1および第2の熱処理は、前記ポリマー構成成分の酸化を防止するためにヘリウム、ネオンなどの不活性雰ガス囲気下または水素、CO、CO、Nなどの還元性雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理温度は、好ましくは300〜2,000℃である。前記熱処理温度が300℃未満ならば、十分なグラファイト化を行い難い場合があり、2,000℃を超える場合には炭素の揮発の虞がある。また、熱処理時間は、好ましくは0.001〜1000時間、より好ましくは0.01〜100時間、さらに好ましくは0.1〜10時間行うことができる。行うことができる。熱処理時間が前記範囲を外れる場合には、グラファイト化十分でないか、または過度の時間によって経済性が低下する場合がある。
【0039】
前記熱処理のための熱源としては、誘導加熱、輻射熱、レーザー、赤外線、マイクロ波、プラズマ、紫外線、表面プラズモンによる加熱などを、特に制限なく使用することができる。特に、誘導加熱またはマイクロ波を使用して、前記の化合物またはポリマーがコーティングされたグラファイト化金属触媒のみを選択的に加熱することによって、グラファイト化金属触媒のみを活性化させることが可能である。これにより、特定領域だけグラファイト化させることができ、短い長さの化合物またはポリマーをグラファイト化させることができ、1層のグラフェン層を製造できるようになる。前記の熱処理により、化合物またはポリマーの炭素成分は互いに共有結合し、例えば、六角形の板状構造を形成して、グラフェンシートが前記グラファイト化金属触媒上に形成されうる。
【0040】
(2)単結晶のグラファイト化金属触媒を気体状の炭素系物質と接触させる工程
前記のように、炭素系物質を単結晶のグラファイト化金属触媒上に塗布する方法以外に、気体状の炭素系物質(炭素供給源)を単結晶のグラファイト化金属触媒と接触させる方法も可能である。この際、使用可能な炭素系物質(炭素供給源)としては、炭素を供給でき、かつ300℃以上の温度で気相に存在できる物質ならば、特に制限なく使用することができる。前記気体状の炭素系物質(炭素供給源)としては、炭素を含有する化合物であればよく、好ましくは炭素数7以下の化合物、より好ましくは炭素数4以下の化合物、さらに好ましくは炭素数2以下の化合物である。このような気体状の炭素系物質の例としては、一酸化炭素、エタン、エチレン、エタノール、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブタジエン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼンおよびトルエンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0041】
このような炭素系物質(炭素供給源)は、単結晶構造のグラファイト化金属触媒が存在するチャンバ内に一定の圧力で投入されることが好ましい。前記チャンバ内では、前記炭素系物質(炭素供給源)のみが存在してもよく、またはヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスと共に存在していてもよい。前記チャンバ内の前記炭素系物質(炭素供給源)の圧力は、好ましくは1.33×10−4〜1.33×10−2Pa(10−6〜10−4Torr)であり、より好ましくは1.33×10−1〜101.3kPa(10−3〜760Torr)である。
【0042】
また、前記の気体状の炭素系物質(炭素供給源)と共に水素ガスを使用することができる。水素ガスは、金属触媒の表面をきれいに保持して気相反応を制御するために用いられ、容器全体体積の好ましくは0.1〜99.9体積%、より好ましくは10〜99体積%、さらに好ましくは15〜90体積%の量で用いられる。
【0043】
グラファイト化金属触媒が存在するチャンバ内に、前記気体状の炭素系物質(炭素供給源)を投入した後、これを所定温度で熱処理すれば、グラフェンが前記グラファイト化金属触媒の表面上に形成される。前記熱処理温度は、グラフェンの生成において重要な要素として作用し、好ましくは300〜2000℃、より好ましくは700〜1200℃である。前記熱処理温度が300℃未満ならば、グラフェンの形成速度が十分でない場合があり、一方、2000℃を超える場合には、グラフェンが過度に厚く成長するか、またはグラフェンがシート状に成長せず、粒子状または繊維状に成長する虞がある。
【0044】
前記の熱処理は、所定温度で一定の時間維持することによって、グラフェンの生成の程度を調節することができる。すなわち、熱処理工程を長い時間維持する場合、生成するグラフェンが多くなるので、結果的なグラフェンシートの厚さを厚くすることができる。一方、熱処理工程の時間を短くすれば、結果的に得られるグラフェンシートの厚さが薄くなるという効果を奏する。したがって、目的とするグラフェンシートの厚さを得るためには、前記炭素系物質(炭素供給源)の種類および供給圧力、グラファイト化金属触媒の種類、チャンバのサイズの他に、前記熱処理工程の維持時間が重要な要素として作用しうる。このような熱処理工程の維持時間は、一般的に0.001〜1000時間、より好ましくは0.01〜100時間、さらに好ましくは0.1〜10時間維持することが好ましい。前記熱処理工程の維持時間が0.001時間未満の場合、グラフェンの形成速度が十分でない場合があり、一方、1000時間を超える場合、生成されるグラフェンがあまりにも多くなって、グラファイト化が進む虞がある。
【0045】
前記の熱処理のための熱源としては、誘導加熱、輻射熱、レーザー、赤外線、マイクロ波、プラズマ、紫外線、表面プラズモンによる加熱など、特に制限なく使用することができる。このような熱源は前記チャンバに取り付けられて、チャンバの内部を所定の温度まで昇温させる役割を果たす。
【0046】
前記のような熱処理以降、熱処理による生成物は、所定の冷却工程を経る。この冷却工程は、生成したグラフェンを均一に成長させて一定に配列させるための工程であり、急激な冷却は、生成されるグラフェンシートの亀裂などを引き起こす虞があるので、なるべく一定速度で徐々に冷却させることが好ましい。例えば、1分当たり0.1〜10℃の速度で冷却させることが好ましく、1分当たり0.5〜5℃の速度がより好ましく、1分当たり1〜4℃の速度がさらに好ましい。自然冷却などの方法を利用することも可能である。前記自然冷却は、熱処理に使われた熱源を単に外すことであり、このような熱源の除去だけでも十分な冷却速度を得ることができる。
【0047】
(3)単結晶のグラファイト化金属触媒を液状の炭素系物質に浸漬する方法
液状の炭素系物質に、前記単結晶のグラファイト化金属触媒を浸漬させて加熱することによって、前記金属触媒の表面に炭素系物質を接触させるか、または炭素系物質が分解されて金属触媒の内部に炭素を浸漬させることができる。
【0048】
この時に使われる液状の炭素系物質としては、アルコール、ポリオール、またはアルコールとポリオールとの混合物を使用することができる。前記アルコールの例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどが挙げられる。前記ポリオールは、2つ以上のヒドロキシ基を有する物質を意味し、具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラエチルグリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0049】
これらの液状の炭素系物質に、前記単結晶のグラファイト化金属触媒を所定時間浸漬すれば、前記炭素系物質を前記グラファイト化金属触媒の表面に結合させるか、または炭素系物質をグラファイト化金属触媒の内部に浸漬させることができる。このような炭素系物質が表面に結合されたグラファイト化金属触媒または炭素がグラファイト化金属触媒の内部に浸漬された試料は、前述したような熱処理工程によりグラフェンシートが形成される。
【0050】
前記単結晶のグラファイト化金属触媒を液状の炭素系物質に浸漬する際の温度は、好ましくは100〜400℃、より好ましくは150〜300℃であり、さらに好ましくは、180〜250℃である。また、浸漬時間は、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは20分〜20時間、さらに好ましくは30分〜15時間である。温度が過度に低いかまたは時間が過度に短ければ、浸漬が十分になされない場合があり、温度が過度に高いかまたは時間が過度に長ければ、エネルギー消費が多くなる場合がある。
【0051】
浸漬後に行われる熱処理の工程は、炭素系物質として化合物またはポリマーが塗布された場合の熱処理の工程と同様の方法で行われうる。
【0052】
前記のような多様な接触工程および熱処理工程により得られる単結晶グラフェンシートの層数は、1〜300層であり、好ましくは1〜60層、さらに好ましくは1〜15層である。前記層数が300層を超える場合、グラフェンではないグラファイトとして定義されるので、本発明の範囲を外れるようになる。この際、前記単結晶グラフェンシートの厚さは、好ましくは0.35〜30nm、より好ましくは0.3〜5nm、さらに好ましくは0.3〜1.5nmである。なお、本発明において、前記単結晶グラフェンシートの厚さは、透過型電子顕微鏡の観察により測定されうる。
【0053】
前記単結晶のグラファイト化金属触媒は、前述したように単独で使われるか、基板上に積層されて用いられる。この際、使用可能な基板の例としては、Si基板、ガラス基板、GaN基板、シリカ基板などの無機物基板や、Ni、Cu、Wなどの金属基板、またはこれらの組み合わせなどが挙げられる。シリカ基板を用いる場合、前記シリカ基板と前記グラファイト化金属触媒との間の不要な反応を抑制するために、前記シリカ基板の表面にブロック層をあらかじめ塗布することが好ましい。このブロック層は、基板とグラファイト化金属触媒層との間に存在して、前記グラファイト化金属触媒がシリカ基板と反応することによってグラフェンの生成効率が低下することを抑制する。このブロック層としては、例えば、SiO、TiN、Al、TiO、Siなどの材料を使用することができ、スパッタリングなどの方法で前記シリカ基板上に形成できる。このブロック層の厚さは、0.1nm〜1000μmが好ましい。前記ブロック層の厚さが0.1nm未満の場合、目的とするブロック層の効果を得ることが難しい場合があり、1000μmを超える場合には、経済性が低下する場合がある。
【0054】
上記のように得られたグラフェンシートは、ラマンスペクトルにより確認することができる。すなわち、純粋なグラフェンは、1594cm−1前後にGバンドのピークを有するため、このピークの存在によりグラフェンの生成の有無を確認することができる。特に、単結晶のグラファイト化金属触媒を用いて生成されるグラフェンシートの欠陥を最小化させることができ、欠陥のないグラフェンシートの生成も可能になる。このグラフェンシートの欠陥の有無は、ラマンスペクトルのDバンドのピークの有無により確認することができる。前記Dバンドのピークが存在する場合、前記グラフェンシートの欠陥が存在すると判断することができ、そのピーク強度が強い場合、これは前記欠陥が多く存在すると判断することができる。
【0055】
本発明によるグラフェンシートの場合、欠陥がほとんどないので、上記のようなDバンドのピークが全く存在しないか、あってもかなり弱い強度で存在する。単結晶のグラファイト化金属触媒を用いてエピタキシャル成長法により得られる本発明のグラフェンシートは、前記Dバンドのピーク強度/Gバンドのピーク強度の比(D/G)が0.2以下であり、好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.001以下、最も好ましくは欠陥が存在しない“0(ゼロ)”の値である。
【0056】
本発明の単結晶グラフェンシートは、基板およびグラファイト化金属触媒層上に存在し、前記グラファイト化金属触媒と共に使用することができる。しかしながらが、必要に応じて、前記熱処理する工程の後に、酸処理により前記グラファイト化金属触媒を溶解または除去して前記単結晶グラフェンシートを分離する工程を行い、前記単結晶グラフェンシートを分離して使用することもでき、必要に応じて単結晶グラフェンシートを基板から分離して使用することもできる。
【0057】
前記酸処理は、例えば、塩酸水溶液などの酸性溶液に、単結晶グラフェンシートを備える基板を、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜30℃の温度で、好ましくは0.1〜600分、より好ましくは1〜60分の間浸漬することにより行われる。時間が過度に短いかまたは温度が過度に低ければ、金属が十分に溶解されない場合があり、時間が過度に長いかまたは温度が過度に高ければ、酸によってグラフェンが損傷される虞がある。
【0058】
このように分離されたグラフェンシートは、目的とする用途によって多様に加工されうるという長所を持つ。すなわち、本発明の単結晶グラフェンシートは、特定の形状に切り出されるか、特定方向に巻き込んでチューブ形状に成形することができる。
【0059】
上記のようにして得られる本発明の単結晶グラフェンシートは、円形状の場合、その直径は好ましくは1mm〜10,000,000mm、より好ましくは10mm〜100,000mm、さらに好ましくは10mm〜1,000mmであり、その好ましい厚さは、上述の単結晶グラフェンシートの好ましい厚さと同じである。
【0060】
本発明の単結晶グラフェンシートは、多様な用途に活用できる。まず、導電性に優れ、膜の均一性が高く、透明電極として有用に使われうる。太陽電池などの基板として用いられる電極は、光が透過する透明性が要求されている。本発明の単結晶グラフェンシートから形成される透明電極は、優れた導電性を示し、容易に曲がる可とう性を有する。すなわち、基板として可とう性のプラスチックを使用し、本発明の単結晶グラフェンシートを透明電極として用いる場合、フレキシブル太陽電池などを製造することができる。また、各種表示素子などの導電性薄膜として活用する場合、本発明の単結晶グラフェンシートの使用量が少量であっても、所望の導電性を得ることができ、光の透過量を改良することが可能になる。
【0061】
さらに、本発明の単結晶グラフェンシートをチューブ形状に製造する場合、光ファイバとしても活用でき、水素受容体または水素を選択的に透過させる膜としても活用できる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
グラファイト化金属触媒として直径1.2cm、厚さ0.2mmのNi単結晶((111)面を有する、Matec社製)を反応チャンバ内に置き、水素を60sccmで流入させ、700℃で1時間熱処理して、Ni単結晶面に生成した酸化物を除去した。次いで、アセチレンガスおよび水素ガスをそれぞれ5sccmおよび45sccmで前記チャンバ内に一定に流入させ(チャンバ内のアセチレンの圧力:10.132kPa、水素の圧力:91.192kPa)、ハロゲンランプ熱源を使用して750℃で2分間熱処理して、前記グラファイト化金属触媒上にグラフェンを生成させた。
【0064】
次いで、前記ハロゲンランプ熱源を取り除いて、前記チャンバの内部を自然冷却し(冷却速度:600℃/分)、グラフェンを一定の厚さに成長させることによって、直径1.2cm、層数が7層であるグラフェンシートを形成させた。
【0065】
次いで、前記グラフェンシートが形成された基板を、0.1Mの塩酸水溶液に24時間浸漬することによって、ニッケル金属の薄膜を除去しグラフェンシートを分離した。
【0066】
得られたグラフェンシートのラマンスペクトルを図6に示す。1594cm−1に位置するGバンドのピークの存在から、グラフェンが生成されたことがわかった。また、1360cm−1に位置するDバンドのピークが存在しており、Dバンドのピーク強度/Gバンドのピーク強度の比(D/G)が0.193であることがわかった。
【0067】
(実施例2)
グラファイト化金属触媒として直径1.2cm、厚さ0.2mmのNi単結晶((111)面を有する、Matec社製)を反応チャンバ内に置き、水素を60sccmで流入させ、700℃で1時間熱処理して、Ni単結晶面に生成した酸化物を除去した。次いで、アセチレンガスおよび水素ガスをそれぞれ5sccmおよび45sccmで(チャンバ内のアセチレンの圧力:10.132kPa、チャンバ内の水素の圧力:91.192Pa)前記チャンバ内に一定に流入させ、ハロゲンランプ熱源を使用して900℃で2分間熱処理して、前記グラファイト化金属触媒上にグラフェンを生成させた。
【0068】
次いで、前記ハロゲンランプ熱源を取り除いて、前記チャンバの内部を自然冷却し(冷却速度:600℃/分)、グラフェンを一定の厚さに成長させることによって、直径1.2cm、層数が7層であるグラフェンシートを形成させた。
【0069】
次いで、グラフェンシートが形成された基板を0.1Mの塩酸水溶液に24時間浸漬することによって、ニッケル金属の薄膜を除去しグラフェンシートを分離した。
【0070】
得られたグラフェンシートのラマンスペクトルを図6に示す。1594cm−1に位置するGバンドのピークの存在から、グラフェンが生成されたことがわかった。また、1360cm−1に位置するDバンドのピークが全く存在しないことがわかった。
【0071】
(比較例1)
グラファイト化金属触媒として横、縦それぞれ1.2cm、厚さ0.2mmのNi多結晶(Matec社製を購入)を反応チャンバ内に位置させ、水素を60sccmで流入させ、700℃で1時間熱処理して、Ni多結晶面に生成した酸化物を除去した。次いで、アセチレンガスおよび水素ガスをそれぞれ5sccmおよび45sccmで(チャンバ内のアセチレンの圧力:10.132kPa、チャンバ内の水素の圧力:91.192kPa)前記チャンバ内に一定に流入させ、ハロゲンランプ熱源を使用して750℃で2分間熱処理して、前記グラファイト化金属触媒上にグラフェンを生成させた。
【0072】
次いで、前記ハロゲンランプ熱源を取り除いて、前記チャンバの内部を自然冷却し(冷却速度:600℃/分)、グラフェンを一定の厚さに成長させることによって、横、縦それぞれ1.2cm、層数が7層であるグラフェンシートを形成させた。
【0073】
次いで、グラフェンシートが形成された基板を0.1M濃度の塩酸に24時間浸漬させることにより、ニッケル金属の薄膜を除去し、グラフェンシートを分離した。
【0074】
得られたグラフェンシートのラマンスペクトルを図7に示す。1594cm−1に位置するGバンドのピークの存在から、グラフェンが生成されたことがわかった。特に、1360cm−1に位置するDバンドのピークの存在から、得られたグラフェンシートが欠陥を有することが分かり、この際、Dバンドのピーク強度/Gバンドのピーク強度の比(D/G)は0.261であった。
【0075】
(比較例2)
グラファイト化金属触媒として横、縦それぞれ1.2cm、厚さ0.2mmのNi多結晶(Matec社製)を反応チャンバ内に置き、水素を60sccmで流入させ、700℃で1時間熱処理して、Ni多結晶面に生成された酸化物を除去した。次いで、アセチレンガスおよび水素ガスをそれぞれ5sccmおよび45sccmで(チャンバ内のアセチレンの圧力:10.132kPa、チャンバ内の水素の圧力:91.192kPa)前記チャンバ内に一定に流入させ、ハロゲンランプ熱源を使用して900℃で2分間熱処理して、前記グラファイト化金属触媒上にグラフェンを生成させた。
【0076】
次いで、前記ハロゲンランプ熱源を除去して、前記チャンバの内部を自然冷却し(冷却速度:600℃/分)、グラフェンを一定の厚さに成長させることによって、横、縦それぞれ1.2cm、層数が7層であるグラフェンシートを形成させた。
【0077】
次いで、グラフェンシートが形成された基板を、0.1M濃度の塩酸に24時間溶かして、ニッケル金属の薄膜を除去することによって、グラフェンシートを分離した。
【0078】
得られたグラフェンシートのラマンスペクトルを図7に示す。1594cm−1に位置するGバンドのピークの存在からグラフェンが生成されたことがわかった。特に、1360cm−1に位置するDバンドのピークの存在から、得られたグラフェンシートが欠陥を有することが分かり、この際、Dバンドのピーク強度/Gバンドのピーク強度の比(D/G)は0.348であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、透明電極、表示素子関連の技術分野に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】従来技術によるグラフェンシートの成長工程を示す概略図である。
【図2】本発明によるグラフェンシートの成長工程を示す概略図である。
【図3】グラファイト化金属触媒上に塗布された自己組織化膜を示す模式図である。
【図4】グラファイト化金属触媒上に形成されたグラフェンシートの構造を示す模式図である。
【図5】グラファイト化金属触媒上に、親水性部分および疎水性部分を有する化合物が積層する様子を示す模式図である。
【図6】実施例1および2で得られたグラフェンシートのラマンスペクトルを示すグラフである。
【図7】比較例1および2で得られたグラフェンシートのラマンスペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
100、200、300、400 基板、
110 多結晶のグラファイト化金属触媒のグレイン、
210、310、510 単結晶のグラファイト化金属触媒、
120 多結晶構造を有するグラフェン、
220 炭素系物質、
230 炭素が固溶したグラファイト化金属触媒、
240 単結晶構造を有するグラフェン、
320 両親媒性化合物またはポリマー、
321、521 両親媒性化合物またはポリマーの親水性部分、
322、522 両親媒性化合物またはポリマーの疎水性部分、
530 水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素原子が互いに共有結合してなる多環式芳香族分子からなる単結晶グラフェンシートであり、
前記単結晶グラフェンシートの層数が1〜300層であり、
ラマンスペクトルのDバンドのピーク強度/Gバンドのピーク強度の比(D/G)が0.2以下であることを特徴とする、単結晶グラフェンシート。
【請求項2】
前記Dバンドのピーク強度/Gバンドのピーク強度の比が0であることを特徴とする、請求項1に記載の単結晶グラフェンシート。
【請求項3】
前記単結晶グラフェンシートの層数が1〜60層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の単結晶グラフェンシート。
【請求項4】
前記単結晶グラフェンシートの横方向および縦方向の長さは、1〜1,000mmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の単結晶グラフェンシート。
【請求項5】
単結晶のグラファイト化金属触媒をシート状に形成する工程と、
前記グラファイト化金属触媒に炭素系物質を接触させる工程と、
前記炭素系物質と接触させた前記グラファイト化金属触媒を不活性雰囲気または還元性雰囲気下で熱処理する工程と、
を含むことを特徴とする、単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項6】
前記炭素系物質は、前記グラファイト化金属触媒に固溶可能なものであることを特徴とする、請求項5に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項7】
前記グラファイト化金属触媒は、ニッケル、コバルト、鉄、白金、金、アルミニウム、クロム、銅、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ロジウム、ケイ素、タンタル、チタン、タングステン、ウラン、バナジウム、およびジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属またはこれらの合金であることを特徴とする、請求項5または6に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項8】
前記グラファイト化金属触媒に炭素系物質を接触させる工程は、単結晶のグラファイト化金属触媒の表面に炭素系物質含有を塗布する工程であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項9】
前記炭素系物質は、自己組織化化合物であることを特徴とする、請求項8に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項10】
前記炭素系物質は、両親媒性化合物、液晶ポリマー、および導電性ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項8または9に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項11】
前記炭素系物質は、重合性官能基を有することを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項12】
前記グラファイト化金属触媒に炭素系物質を接触させる工程は、単結晶のグラファイト化金属触媒と炭素含有ガスとを接触させる工程であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項13】
前記炭素含有ガスは、一酸化炭素、エタン、エチレン、エタノール、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブタジエン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、およびトルエンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項12に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項14】
前記グラファイト化金属触媒に炭素系物質を接触させる工程は、液状の炭素系物質または炭素系物質含有溶液に前記単結晶のグラファイト化金属触媒を浸漬する工程であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項15】
前記熱処理する工程は、炭素系物質を前記単結晶のグラファイト化金属触媒に固溶させる第1の熱処理工程と、固溶させた前記炭素系物質をグラフェンに析出する第2の熱処理工程を含むことを特徴とする、請求項5〜14のいずれか1項に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項16】
前記グラファイト化金属触媒に炭素系物質を接触させる工程が、単結晶のグラファイト化金属触媒の表面に炭素系物質を塗布する工程である場合、前記熱処理する工程は、300〜2,000℃の温度で0.001〜1000時間行うことを特徴とする、請求項8に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項17】
前記グラファイト化金属触媒に炭素系物質を接触させる工程が、単結晶のグラファイト化金属触媒と炭素含有ガスとを接触させる工程である場合、前記熱処理する工程は、300〜2000℃の温度で0.001〜1000時間行うことを特徴とする、請求項12に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項18】
前記熱処理する工程の後に、酸処理により前記単結晶のグラファイト化金属触媒を除去することによって単結晶グラフェンシートを分離する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項5〜17のいずれか1項に記載の単結晶グラフェンシートの製造方法。
【請求項19】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の単結晶グラフェンシートを備える透明電極。
【請求項20】
前記透明電極は、可とう性であることを特徴とする請求項19に記載の透明電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−143799(P2009−143799A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318418(P2008−318418)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】