説明

単結晶引下げ装置

【課題】 メニスカス生成領域の水平面内での温度分布の改善と、メニスカスの好適な観察とを可能とする引下げ装置を提供する。
【解決手段】 導電性材料からなる第一の環状の部材と光透過性材料からなる第二の環状の部材との積層体からアフターヒータを構成して第二の環状の部材を第一の観察窓とし、保温用の筒状アウターリングには引下げ軸について水平面内で点対称となるように第二の観察窓を配置し、アウターリングを引下げ軸中心に回転させ、第一の観察窓と第二の観察窓とが整列した状態にあるときに撮像手段によるメニスカスの観察を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂レーザ用光学素子、非線形光学素子、医療用シンチレータ、圧電素子、超磁歪素子、等に用いられる、酸化物、フッ化物、金属合金等の単結晶を製造する装置に関する。より詳細には、坩堝下端に設けられた孔より原材料融液を引き出しつつ所望の結晶材料を得る引下げ法、特に、ファイバー状単結晶を得る所謂マイクロ引下げ(μ-pD)法と称呼される単結晶製造方法に用いられる単結晶引下げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱溶融された原材料を保持する坩堝の下端部に引き出し孔を形成し、当該孔から漏出する原材料融液に対して結晶核(以降シードと称する。)を接触させ、孔からの原材料の漏出に伴って該シードを引下げることにより、該シードを核として成長する単結晶を得る、所謂引下げ法(特許文献1〜3参照)が知られている。当該方法により得られる単結晶は、従来から知られるCZ法に代表される所謂引き上げ法等により得られる単結晶と比較して場合、得られる結晶の径はより小さくなる。しかし、結晶成長に要する時間が短く、且つCZ法と比較して安価に、更に結晶性に優れた単結晶が得られる方法であるとして、現在実際の製造装置としてのハード面での改変、及び各種単結晶の製造工程への適用の検討が為されている。
【0003】
当該引下げ法において、より結晶性が高いファイバー状の結晶が得られ且つ結晶の成長速度を高く保てる方法として、所謂マイクロ引下げ法が存在する。当該方法を用いて、エキシマレーザ用の光学材料に使用されるフッ化カルシウム等のフッ化物単結晶、或いはアルミナ、カルシア等の酸化物単結晶、更には所謂ターフェノールDに例示される超磁歪材料向け単結晶の製造条件が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−095783号公報
【特許文献2】特開平11−278994号公報
【特許文献3】特開2006−206351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単結晶引下げ装置においては、特許文献3にも述べるように、原材料融液と単結晶との所謂固液境界面(その形状からメニスカスとも称呼される。以下メニスカスと称する。)の挙動を常時観察し、その挙動に応じて引下げ方向、引下げ軸に対する捩れ、等を補正するために、シードを保持する部材を適宜動かすことが求められる。即ち、現在の単結晶引下げ装置にあっては、このメニスカスを観察可能とする構成が必須となっている。しかし、特許文献1或いは3に示すように当該メニスカスの発生領域は、当該領域を含む空間内での温度制御を行うために、後述する筒状のアフターヒータ、保温チューブ、或いは発熱チューブ等に覆われている。このため、従来はこれら筒状の構成物に対して筒の外部から内部に貫通する観察孔を設け、当該観察孔を介して観察できる領域にメニスカスを発生させる引下げ条件を選択し、実際の引下げ操作を行っている。しかし、このような観察孔の存在は、メニスカス周囲の高温雰囲気の流出、輻射熱の漏洩等の熱エネルギーのロスを生じさせることから、引下げ軸に垂直な面内における温度均一性を劣化させるのみならず、引下げ方向において制御されるべき所謂温度勾配に対してもその影響を及ぼしている。
【0006】
本発明は以上の状況に鑑みて為されたものであり、メニスカス形成領域及びその近傍の空間において、引下げ軸に対して水平な面内での温度均一性の向上及び引下げ方向における温度変化、即ち温度勾配を好適に制御し得る引下げ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る引き下げ装置は、坩堝内に原材料融液を保持し、坩堝の下部開口部から漏出される原材料融液にシードを接触させて所定の引下げ軸に沿って前記シードを引下げることによって単結晶を得る引下げ装置であって、シードを保持してシードを引下げ軸に沿って上下動可能なシード移動機構と、坩堝と引下げ軸における引下げ方向に整列して引下げ軸と同軸に配置される筒状のアフターヒータと、坩堝及びアフターヒータと同軸に配置され坩堝及びアフターヒータを内部に収容する筒状のアウターリングと、坩堝、アフターヒータ、及びアウターリングを巻回して配置され、高周波電力を導通可能な加熱コイルと原材料融液から生じるメニスカスを撮像する撮像手段と、を有し、アフターヒータは、引下げ軸と直交する平面内において、引下げ軸を中心とした点対称なる様に配置された複数の第一の観察窓を有し、アウターリングは、引下げ軸と直交する平面内において、引下げ軸を中心とした点対称なる様に配置された複数の第二の観察窓を有し、撮像手段は前記第一の観察窓及び第二の観察窓を介してメニスカスを撮像することを特徴としている。
【0008】
なお、上述した引下げ装置にあっては、第一の観察窓は、撮像手段の撮像光を透過可能な透明な高融点材料によって閉鎖されることが好ましい。また、この場合、第一の観察窓は水平面内に延在するスリット状の空間を透明な高融点材料により閉塞することにより得られ、第一の観察窓は、引下げ軸方向において所定の間隔を空けて配置される複数の水平面内に置いて設けられることがより好ましい。或いは、第一の観察窓は透明高融点材料からなる環状の形状を有する第二の環状部材からなり、アフターヒータは導電性の材料からなる環状の形状を有する第一の環状部材と前記第二の環状部材とを積み重ねてなることがより好ましい。更に、上述した引下げ装置にあっては、引下げ軸を中心にアウターリングを回転させるアウターリング回転機構を更に有することが好ましい。更にこの場合、第二の観察窓は引下げ方向に延在するスリット状の観察窓であることがより好ましい。或いは、アウターリングと加熱コイルとの間、或いはアウターリングと坩堝及びアフターヒータとの間に配置される、アウターリングの前記第二の観察窓に対応する第三の観察窓を有する筒状の第二のアウターリングを更に有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筒状のアフターヒータに対して特定方向にのみ開口する観察孔を設けるのではなく、中心軸に対して直交する水平面内において中心軸周りに均等に横方向スリットを配している。従って、アフターヒータにおいて、特定位置で温度の均一性を阻害する要因が無くなり、当該水平面内において均一な温度分布を得ることが可能となる。また、アウターリングに対しては、軸方向に延在する観察用の縦スリットを中心軸に対して対称となるように複数配置している。従って、当該縦スリットに起因した水平面内での温度低下要因は、放射状に且つ軸中心に対称に存在することとなる。以上のアフターヒータ及びアウターリングの構造に起因する水平面内の温度不均一部を軸中心に対称に配することによって、坩堝内部における温度分布に関して、引下げ軸に直交する水平面内での均一性を向上させ、引下げ軸方向での温度勾配を好適に形成することが可能となる。従って、メニスカスの発生状態のモニタリングと、均熱状態の確保と、の両立を図ることが可能となり、好適な単結晶の育成を実施することが可能となる。
【0010】
また、本発明によれば、アフターヒータにおける横スリットを例えば石英板等の透明な部材によって埋めることとしている。従って、当該横スリットを介しての高温の雰囲気の流出が生じず、当該透明部材からなる観察部に起因する温度低下を抑制することが可能となる。また、水平方向において均等に該観察部が配置されることにより、観察部を介しての所謂輻射等熱の放射による温度低下も水平面内において均等に生じることとなる。従って、アフターヒータにおける水平面内での伝熱特性が均一になり、当該観察部の存在が温度分布に対しする阻害要因とならない。従って、アウターリング及びアフターヒータを介してメニスカスの発生状態を観察することが可能となり、好適な単結晶の育成条件下でのモニタリングの実行が可能となる。
【0011】
また、本発明によれば、アウターリングが中心軸周りに回転することとしている。従って、縦スリットからなるアウターリングにおける観察溝の位置が順次移動することとなり、当該観察溝から流出する高温の雰囲気、或いは輻射熱による熱エネルギーのロスが水平面内で均等となり、中心軸に対して対称性に優れた温度分布が得られることとなる。以上述べたアフターヒータ及びアウターリング各々の効果の組み合わせにより、引下げ方向に対して直交する水平面内での温度分布のバラツキを抑えることができ、好適な単結晶の育成条件を得ることが可能となる。なお、上述した、アフターヒータ及びアウターリングに関しては共に実施することが好適ではあるが、単結晶の材料、求められる温度分布等の育成条件に応じて、各々単独に実施することとしても温度分布を改善して好適な育成条件を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るアフターヒータ及びアウターリングの軸方向断面、及び坩堝と該坩堝から引下げられた単結晶を示す概略図である。
【図2A】アウターリングの形状の一例を示す図である。
【図2B】図2Aに示すアウターリングの引下げ軸に直交する平面での断面形状とCCDカメラの配置とを模式的に示す図である。
【図3A】アウターリングの形状の更なる例を示す図である。
【図3B】図3Aに示すアウターリングの引下げ軸に直交する平面での断面形状とCCDカメラの配置とを模式的に示す図である。
【図4】アウターリングの回転機構の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る引下げ装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る引下げ装置における主たる特徴部分である、アフターヒータ及びアウターリングの軸方向断面、及び坩堝下端部、シード、シード保持具及び引下げられる単結晶を模式的に示す図である。同図において、坩堝11は下端面に開口部11aを有し、内部に原材料融液9を保持している。当該原材料融液9は、当該開口部11aより鉛直下方に漏出する。原材料融液9は漏出部分の下端部において単結晶の結晶核となり結晶方位を決定する種結晶、所謂シード7と接触し、液体である原材料融液9から固体である単結晶9aに変化する固液境界部9b(以下メニスカスと称する。)を形成する。シード7は鉛直下方においてシード保持具8によって保持され、当該シード保持具8が引下げ軸である鉛直軸に沿って引下げられることによって、シード7を引下げ、単結晶9aを該引下げ軸方向に成長させる。本発明にあっては、このメニスカス9bの周囲を囲んで配置されるアフターヒータ13及びアウターリング15において特徴を有している。
【0014】
以下、これら特徴的構成について説明する。本実施形態において、アフターヒータ13は円筒形状を有し、坩堝11の下端面に設けられた開口部近傍であって該下端面より引下げ軸(本形態では鉛直軸)に沿って上方の第一の所定距離、下方に第二の所定距離によって規定される領域を囲むように配置されている。即ち、該アフターヒータ13は、坩堝11に対して引下げ軸における引下げ方向に整列し、且つ引下げ軸と同軸に配置される。該アフターヒータ13は通常導電性の材料より構成された筒状の部材からなる。該部材は中心軸が引下げ軸と一致するように配置され、不図示の加熱コイルより与えられる所謂高周波によって誘導発熱し、メニスカス9bの形成される空間における保温、均熱領域の確保、温度勾配の適正化等の役割を果たす。本形態において、当該アフターヒータ13は、導電性材料から構成される環状の第一の環状部材13aと、石英等の透光性を有する材料から構成される環状の透明な第二の環状部材13bを、該環状の中心がアフターヒータ13の中心軸上に交互に整列するように積み重ねて構成されている。メニスカスの発生状態はこれら第二の環状部材13bを介して、アフターヒータ13の外部より観察することが可能となる。即ち、第二の環状部材13bは、本発明における第一の観察窓を構成する。また、第二の環状部材13bによってアフターヒータ内部と外部とを連通させる空間を無くしたことにより、少なくとも高温の雰囲気の流出によるアフターヒータ13の内部での温度の低下、及び当該空間の存在に起因する水平面内での温度均一性のバラツキを抑制することが可能となる。
【0015】
なお、通常メニスカス9bは引下げ軸上の同一位置において常に発生するとは限らず、また当該引下げ軸に対して直交する水平面に延在するように発生するとも限らない。該メニスカス9bは、例えば特定の材料では、引下げ軸方向において0.1〜0.5mmの領域の範囲内で発生する。従来の孔状の観察窓を用いた場合、アフターヒータの効果を十分に得且つ水平面内での均熱性を確保しようとした場合、当該観察窓は極力小さくすることが好ましく、このようなメニスカス9bの発生位置の変動への対処が困難であった。しかし、本形態によれば、図1における観察点a〜aに示すように、引下げ軸方向において複数の点の観察領域を設けることが可能となり、メニスカス9bの発生位置の変動への対処が容易となる。また、複数点で実際のメニスカスの状態を把握するのみならず、これらの点での状態からその間の状態を概想することも可能となり、メニスカスの発生状態を空間的に連続して把握することも可能となる。
【0016】
なお、第二の環状部材13bは、前述したように、石英等、高融点材料からなる透明部材を用いることが好ましい。また、熱線の放射を抑制する観点から、赤外領域において透過性が低くなる材料から構成される、或いは当該材料との複合材からなることがより好ましい。また、本実施形態では、引下げ軸方向での観察点の確保と構成の容易化から、環状の部材によって発熱用の第一の部材13aと観察用である透光性の第二の部材13bを構成することとしている。しかしながら、本発明の実施形態は、当該態様に限定されない。即ち、例えば第二の部材13bによって閉塞されてなる第一の観察窓を従来の孔状の形態とし、当該孔を第二の部材13bによって閉鎖する様式でも良い。但しこの場合、該第一の観察窓は引下げ軸方向に複数が連続的に配置されることが好ましい。なお、上述した透光性は、撮像手段たる後述するCCDカメラの撮像光を透過することを意味し、例えばその他の紫外線等の光を透過することを意味しない。また、熱の輻射の観点から、アフターヒータ13の中心軸に対して点対称となるように水平面内において複数配置されることがより好ましい。即ち、本発明の好適に実施形態にあっては、該第一の観察窓は、引下げ軸と直交する水平面内において、該引下げ軸と該水平面との交点を中心点として、点対称となるように配置されなければ成らない。
【0017】
更に、本形態では円柱状の単結晶を対象としていることから円筒状のアフターヒータ13を例示しているが、単結晶の断面形状に応じて断面枠状等、種々の形態のアフターヒータ、即ち筒状のアフターヒータとして構築されれば良い。また、アフターヒータ13は第一の環状部材13aと第一の観察窓となる第二の環状部材13bの積み重ねから構成されることとしているが、該第一の観察窓を特定の水平面内に延在するスリット状の空間を透光性の高融点材料により閉塞することとし、且つ引下げ軸方向において所定の間隔を空けて当該第一の観察窓が複数並置される構造としても良い。尚この場合、輻射による熱エネルギーのロスを面内で対象性を有するようにするために、当該スリット形状についても上述した点対称とすることが好ましい。
【0018】
次にアウターリング15について述べる。アウターリング15は得ようとする単結晶の溶解温度等に応じて種々の材料から構成可能であるが、坩堝11及びアフターヒータ13を囲むように配置され、これら部材及びその周囲空間の保温を為す役割を主に有する。本形態では、アウターリング15は円筒状の形状を有し、引下げ軸方向に延在して該円筒状の外部から内部に連通する第二の観察窓としての縦スリット15aを更に有している。図2Aにアウターリング15の縦スリット15a近傍の概観図を、また図2Bに当該アウターリング15の中心軸に垂直な平面での断面形状の模式図を、各々示す。同図に示すように縦スリット15aは複数個配置されており、各々の縦スリット15aはアウターリング15の中心軸を中心とする軸対称となるように配置されている。より詳細には、縦スリット15aとして示される該第二の観察窓は、引下げ軸と直交する水平面内において、該引下げ軸と該水平面との交点を中心点として、点対称となるように配置されなければ成らない。図3A及び図3Bは図2Aと図2Bと同様の様式にて、縦スリット15aが8個設けられた場合を示している。この用の軸対称に縦スリット15aを配置することにより、高熱雰囲気は中心軸と一致して配置される引下げ軸に対して各方向に均等に漏洩することとなる。従って、水平面内での温度分布は軸対称の傾向を示すこととなる。
【0019】
また、図2A或いは3Bにおいて、実際にメニスカス9bを観察するために用いられるCCDカメラ59も示している。当該CCDカメラ59はメニスカスの9bの状態を全方位から確認できるよう図に示す縦スリット15aに応じて配置することが好ましい。しかし、上述したように引下げ方向でのメニスカス9bの状態が詳細に観察可能であることから、本発明では一個のCCDカメラ59を配置するだけであっても良い。また、メニスカスの状態を好適に撮像可能であれば撮像手段はCCDカメラ59に限定されず種々の形態からなる撮像装置を用いることが可能である。なお、縦スリット15aの延在方向は引下げ軸と平行としているが、これは上述したアフターヒータ13の観察窓たる第二の部材13bの配置を勘案し、観察点が最も短い間隔で配置可能であることによる。しかし、本発明では、延在方向は当該方向に限定されず、アフターヒータ13における第二の部材13bが配置される際の整列する或いは延在する方向に対して交差可能な方向に延在していれば良い。当該交差方向であれば、複数点でのメニスカス9bの観察を容易に実施することが可能となる。なお、上述したアフターヒータ13と同様に、アウターリング15も円筒状の形状に限定されず、得ようとする単結晶の断面形状等に応じて水平方向断面が枠状となる等種々の筒形状とすることが可能である。この場合も、縦スリット15aは第二の部材13bの配置に対して上述した関係を満たし、且つ中心軸に対して位置関係を軸対称とするように複数個配置されれば良い。
【0020】
また、本発明では、更にアウターリング15の縦スリット15aの存在による温度分布を改善するために、アウターリング15を軸中心に回転させることとしている。アウターリング15が回転することによって、縦スリット15a及び当該縦スリット15aによる水平面内での温度低下領域が水平面内で回転移動する。このため、アウターリング15内の水平面内での温度分布において局所的な温度低下領域が存在しなくなり、温度分布の均一性が向上するという効果が得られる。
【0021】
図4は、上述したアウターリング15を回転させる構成であるアウターリング回転機構を模式的に示す概略図である。坩堝11はアフターヒータ13によって支持されており、アフターヒータ13はヒータステージ21によって不図示の加熱コイルと所定の位置関係を維持するように支持されている。アウターリング15は、リングステージ19により引下げ軸方向において坩堝11及びアフターヒータ13に対して所定の位置関係を維持するように支持される。リングステージ19は上部が円板によって閉塞された円筒形状を有し、当該円板の上面にてアウターリング15を支持する。また、当該円板の中央部には貫通穴が設けられ、同じく円筒形状のヒータステージ21は該貫通穴を介して引下げ軸方向に延在する。ヒータステージ21はベアリング25を介してリングステージ19の内面と相対移動可能に連結される。ヒータステージ21は更に回り止め部材27によって固定され、これによりアフターヒータ13及び坩堝11がアウターリング15の回転動作に対する追随動作を為さないようにしている。ヒータステージ19は下端部において軸中心に回転可能なホイール29に固定される。ホイール29は外周のギア部においてモータ31と連結されたウォームギア33と噛合している。即ち、モータ31がウォームギア33を回転させることにより、当該ウォームギア33と噛合するホイール29が軸中心の回転をすることとなる。以上の構成より、モータ31がウォームギア33及びホイール29を介しヒータステージ19を軸中心に回転させることにより、アウターリング15はアフターヒータ13の周囲を回転することとなる。即ち、本発明において、アウターリング回転機構は、上述したモータ31、ウォームギア33、ホイール29、ベアリング25、回り止め部材27とから構成される。なお、当該機構は一例であり、アウターリングをアフターヒータとは独立して引下げ軸周りに回転可能であればその他の公知の種々の構成を適用することが可能である。
【0022】
なお、本発明における好適な実施形態として、アウターリング15が単体で構成され、且つ軸中心に回転する態様を示した。しかし、例えばアウターリング15を第一及び第二のアウターリングからなるように、複数の筒状体から構成することも可能である。この場合、一方のアウターリングを石英等の透光性の材料から構成し、他方のアウターリングを上述したアウターリング15と同様の構成とすれば良い。これにより透光性の材料からなるアウターリングによって高温雰囲気の流出を抑制し、縦スリット15aを有するアウターリングによって熱エネルギーの輻射によるロスを抑制することとなる。なお、この場合、透光性の材料からなるアウターリングの存在により、アフターヒータ13における第二の部材13bを経て得られる画像の解像度の低下、画像歪の増大により好適なメニスカス9bの画像が得られなくなる恐れがある。従って、透光性のアウターリングは断面多角形とし、平面部分を介してメニスカス9bを観察可能な構造とすることが好ましい。
【0023】
また、上述したアウターリング15と同様の縦スリット15aを有する構造体を複数用いることとしても良い。この場合一方を回転可能とすることにより、縦スリット15aが軸中心とCCDカメラ59とを結ぶ線上で整列した場合のみ高温雰囲気の流出と輻射による熱エネルギーのロスとが生じることとなる。従って、この状態が成り立つ時間を短くすることによって、実質的に水平面内での温度均一性を阻害する状況を殆ど無くすることも可能となる。また、上述したようにアウターリング15を複数配置する構成とした場合、例えば上述したアフターヒータを従来の観察孔からなる構造体とした場合であっても、水平面内である程度の温度均一性を得ることも可能である。即ち、第二の観察窓と対応してCCDカメラ59によるメニスカス9bの撮像が可能となる第三の観察窓を有する筒状の第二のアウターリングを配することとしても良い。この場合、該第二のアウターリングを、前述したアウターリングと加熱コイルとの間、或いは該アウターリングと坩堝及びアフターヒータとの間に配置すれば良い。
【0024】
次に、上述した特徴的構成を有する引下げ装置の具体的構成について説明する。図5は、本発明の一実施形態に係る引下げ装置1の主要部分の概略構成を模式的に示している。該引下げ装置1は、引下げ軸を中心として、坩堝11、アフターヒータ13、アウターリング15、加熱コイル17、チューブステージ19、ステージホルダー16、シード保持具8、及び保持具チャック18を有する。また、これら構成は、減圧及び内部空間に対する特定のガスを供給することが可能な真空槽43の内部に配置される。加熱コイル17は、先に述べたように坩堝11に対して高周波を発し、当該坩堝11及びアフターヒータ13を所定の温度まで発熱させる。なお、アフターヒータ13及びアウターリング15に関する説明はここでは省略する。チューブステージ19は、これら坩堝11、アフターヒータ13、及びアウターリング15を、真空槽43内で支持する。また、ステージホルダー16は、チューブステージ19の高さを調整し、該チューブステージ19に支持される諸構成を加熱コイル17に対して所定の位置(高さ)に維持する。前述したシード7は引下げ軸上に配置されるシード保持具8によって、当該引下げ軸上に保持される。また、保持具チャック18は、シード保持具8を後述する引下げ駆動部に連結する。
【0025】
なお、図4に示したウォームギア33等の構成は、説明及び図示の容易化のためにここでの説明及び同図での図示は省略する。真空槽43の底面には、所謂ベローズ43aがシード保持具8と同軸で配置される。保持具チャック18の下端部を該ベローズ43aの内部空間を介して、ベローズ43aの下端に固定されたθテーブル47に固定される。該θテーブル47の下部にはYテーブル49及びXテーブル51が取り付けられており、保持具チャック18及びシード保持具8を介してシード7に対して引下げ軸周りの回転、当該引下げ軸に垂直なY方向の移動、及び引下げ軸及びY方向各々に垂直なX方向の移動の各動作を与える。また、これら構成は一体としてZ軸調整機構53に支持されており、Z軸である引下げ軸方向での微小移動が可能となっている。また、θテーブル47、Yテーブル49、及びXテーブル51は、一体として引下げ軸方向に延在する引下げガイド55に対して摺動可能に固定され、引下げモータ57によって当該引下げガイド55に沿って一定速度でのシード7の引下げを可能としている。これら構成はシードを引下げ軸に沿って上下動可能なシード移動機構を構成する。また真空槽43には不図示ののぞき窓が設けられており、当該のぞき窓を介して前述したメニスカス9bの状態が観察できるようになっている。例示する装置にあっては、この視野の中心軸を観察軸(前述した第一の観察窓の視野中心とメニスカスの中心とをとおる中心線)と一致させるように、当該のぞき窓の外部にCCDカメラ59が配置されている。
【0026】
以上の構成からなる引下げ装置を用いることによって、メニスカス形成領域及びその近傍の空間において、引下げ軸に対して水平な面内での温度均一性の向上及び引下げ方向における温度変化、即ち温度勾配を好適に制御することが可能となる。従って、単結晶の育成条件を常に適切に制御し、高品質な単結晶を容易に得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1:引下げ装置、 7:シード、 8:シード保持具、 9:原材料融液、 11:坩堝、 13:アフターヒータ、 15:アウターリング、 16:ステージホルダー、 18:保持具チャック、 19:チューブステージ、 21:ヒータステージ、 27:回り止め部材、 29:ホイール、 31:モータ、 33:ウォームギア、 43:真空槽、 47:θテーブル、 49:Yテーブル、 51:Xテーブル、 53:Z軸調整機構、 55:引下げガイド、 57:引下げモータ、 59:CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝内に原材料融液を保持し、前記坩堝の下部開口部から漏出される前記原材料融液にシードを接触させて所定の引下げ軸に沿って前記シードを引下げることによって単結晶を得る引下げ装置であって、
前記シードを保持して前記シードを前記引下げ軸に沿って上下動可能なシード移動機構と、
前記坩堝と前記引下げ軸における引下げ方向に整列して前記引下げ軸と同軸に配置される筒状のアフターヒータと、
前記坩堝及び前記アフターヒータと同軸に配置され前記坩堝及び前記アフターヒータを内部に収容する筒状のアウターリングと、
前記坩堝、前記アフターヒータ、及び前記アウターリングを巻回して配置され、高周波電力を導通可能な加熱コイルと
前記原材料融液から生じるメニスカスを撮像する撮像手段と、を有し、
前記アフターヒータは、前記引下げ軸と直交する平面内において、前記引下げ軸を中心とした点対称なる様に配置された複数の第一の観察窓を有し、
前記アウターリングは、前記引下げ軸と直交する平面内において、前記引下げ軸を中心とした点対称なる様に配置された複数の第二の観察窓を有し、
前記撮像手段は前記第一の観察窓及び第二の観察窓を介して前記メニスカスを撮像し、
前記第一の観察窓は、前記撮像手段の撮像光を透過可能な透明な高融点材料によって閉鎖されることを特徴とする引下げ装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40103(P2013−40103A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257238(P2012−257238)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2010−233348(P2010−233348)の分割
【原出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】