説明

印刷用凸版及びその製造方法並びにそれを用いた有機EL素子の製造方法

【課題】有機EL素子に必要とされる高精細な印刷パターンを形成し、表面樹脂からの溶出を防ぎ、塵、衝撃などによる外部起因による凸版パターンの破壊や変形を改善し、印刷特性に優れた凸版を安価に製造する方法を見出すこと。
【解決手段】凸版印刷法に用いられる凸版であって、基材上に接着剤層を形成する工程と、前記接着剤層上に押出成型用ダイから樹脂を押出し、互いに平行に延在する複数のストライプパターンから構成される複数の凸部を形成する工程と、前記複数の凸部の表面を処理する工程と、からなる事を特徴とする印刷用凸版の製造方法としたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の硬度の比較的高い被印刷物かつエレクトロニクス分野における詳細なパターンを凸版印刷法により形成するための凸版製造方法、特に有機エレクトロルミネッセンス素子形成のための凸版製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とする)は、二つの対向する電極の間に有機発光材料からなる有機発光層を形成し、有機発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率良く発光させるには発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをカラー表示可能なディスプレイとするには有機EL素子を高精細にパターニングする必要がある。
【0003】
低分子材料を使用する場合、通常、マスクを用いた真空蒸着を行うことにより、有機パターン層としての発光層を得る。この方法は、発光層を均一な厚さに形成できる点で優れている。しかしながら、低分子材料を蒸着すべき基板が大きい場合、大きな寸法のマスクを使用することとなる。パターン精度に優れ且つ寸法の大きなマスクを製造することは難しい。そのため、この場合、基板上の所定の位置に発光層を形成できないことがある。
【0004】
有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。
【0005】
そこで、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶媒に溶かして塗工液にし、これをウェットコーティング法や印刷法にて薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けするためには、これらのウェットコーティング法では難しい。よって、塗り分けパターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が有効である。
【0006】
さらに各種印刷法の中でも、有機EL素子やディスプレイでは、基板としてガラス基板を用いることが多いため、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きであり、弾性を有するゴム版を用いたオフセット印刷法や、ゴムやその他の樹脂を主成分とした感光性樹脂版を用いる凸版印刷法が最適である。これらの印刷法試みとして、オフセット印刷による方法(特許文献1)、凸版印刷による方法(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
凸部が前記樹脂材料からなる印刷用凸版を製造するにあっては、樹脂材料として感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法(フォトリソ法)が用いられる。フォトリソ法により印刷用凸版を形成するにあっては、基材上に各種印刷法やスピンコートなどの塗布により感光性樹脂層を形成した樹脂材(版材)を、遮光部と透光部からなるマスクを用いて露光し、次いで現像することにより、凸部が形成され、印刷用凸版となる。感光性樹脂層を形成する感光性樹脂にネガ型の感光性樹脂(光硬化性樹脂)を用いた場合、露光工程によってマスクの透光部を通過した光が照射された部分が硬化し、現像工程によって、光が照射されない部分が除去される。
【0009】
エレクトロニクス分野のような微細なパターニングに凸版印刷法を用いた場合、塵や衝撃などにより印刷用凸版に欠陥が生じると、洗浄により塵を除去した後の印刷工程でも印刷用凸版の欠陥が印刷パターンとして転写されてしまい、精細な印刷パターンの形成ができなくなる。このような印刷用凸版の欠陥が生じる原因としては、塵などの外的要因の他に、版最表面の凸部を形成する樹脂層の耐傷性によるものがある。
【0010】
凸部を形成する樹脂層の耐傷性が低いと、印刷回数を重ねるにつれ凸部の破壊や変形、版上に混入した塵の形状が凸部表面へ転写されるなどの凸パターン欠陥が生じ、その結果、被印刷物の印刷精度の悪化や発光ムラなどが発生すると考えられている。なお、印刷物の精度の悪化とは印刷用凸版の凸部形状が作成時と異なる形状になり所望の印刷パターンと異なる印刷パターンになることであり、発光ムラとは有機EL素子における発光が隣り合う素子間で異なる発光を示し、均一な発光で無い状態のことである。
【0011】
従来より印刷用凸版を作成する方法として感光性樹脂の露光・現像によるパターン形成法であるフォトリソグラフィー法が用いられているが、フォトリソグラフィー法に用いられる樹脂で形成された表面層の凸部は耐傷性が低く、衝撃や塵による局所的な高い印圧に耐えられずに凸部の破壊や変形を引き起こしていた。
【0012】
また、フォトリソグラフィー法で形成した印刷用凸版では、凸部を形成している感光性樹脂やそれに添加されている光重合開始材などの感光性成分が有機発光インキの溶剤中に溶出し、感光性成分が溶出した有機発光インキで形成される有機発光層では発光特性が大きく劣化してしまう。
【0013】
さらに、フォトリソグラフィー法で印刷用凸版を形成する場合には、感光性樹脂の露光工程とそれに続く現像工程により凸部が形成されるため、それらの工程では、マスク材料を用いたマスク形成工程、露光装置を用いた露光工程、現像液を用いた現像工程が必要であるが、将来の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いたディスプレイの大型化に伴ってこれらの装置の大型化や材料の消費量の増加、工程の煩雑化による印刷用凸版の製造コストの増大が見込まれている。
【0014】
本発明は以上のような問題を鑑みて考案されたもので、有機EL素子に必要とされる高精細な印刷パターンを形成し、表面樹脂からの溶出を防ぎ、塵、衝撃などによる外部起因による凸版パターンの破壊や変形を改善し、印刷特性に優れた凸版を安価に製造する方法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以上のような課題を解決するためになされ、請求項1に係る発明として、凸版印刷法に用いられる凸版であって、基材上に接着剤層を形成する工程と、前記接着剤層上に押出成型用ダイから樹脂を押出し、互いに平行に延在する複数のストライプパターンから構成される複数の凸部を形成する工程と、前記複数の凸部の表面を処理する工程と、からなる事を特徴とする印刷用凸版の製造方法である。
【0016】
また、請求項2に係る発明として、前記樹脂は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の印刷用凸版の製造方法である。
【0017】
また、請求項3に係る発明として、前記複数の凸部の表面を処理する工程は、サンドブラスト処理、研磨処理、エッチング処理、サンドブラスト処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、UVオゾン処理のうち少なくとも一つからなることを特徴とする請求項2に記載の印刷用凸版の製造方法である。
【0018】
また、請求項4に係る発明として、請求項1乃至3の何れか1項記載の印刷用凸版の製造方法に従って製造されたことを特徴とする凸版印刷用凸版である。
【0019】
また、請求項5に係る発明として、請求項4に記載の印刷用凸版を用い、前記印刷用凸版に発光層形成用塗工液を供給する工程と、前記発光層形成用塗工液を被転写体に転写する工程と、を有することを特徴とする有機EL素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る製造方法によって製造された印刷用凸版は、光硬化性の感光性樹脂で形成した樹脂凸版とは異なり、光照射による樹脂の硬化を必要としないため、版から染み出る光硬化剤や光重合開始材といった感光性成分の有機EL材料への混入を防ぐことができ、感光性成分により素子特性が劣化する有機EL素子の製造にも、好適に使用することができる。
【0021】
また、本発明に係る印刷用凸版の製造方法は、露光・現像工程やそれらに必要な装置等が不要であり、安価に印刷用凸版を製造することができる。
【0022】
また、本発明に係る製造方法によって製造された印刷用凸版は、塵、衝撃などによる外部起因による凸版への欠陥の転写や、それに起因する印刷欠陥を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る印刷用凸版の製造工程を示した模式図である。
【図2】a及びbは本発明に係る印刷用凸版の断面模式図である。
【図3】本発明に係る印刷用凸版を用いた有機ELデバイス製造装置の一例を示した模式図である。
【図4】図3の有機ELデバイス製造装置により製造された有機ELデバイスの1つの発光単位の断面模式図である。
【図5】押出成型用ダイの正面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に説明する実施の形態のみに限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明に係る凸版印刷用凸版10の製造工程を示した模式図であり、図2は、本発明に係る凸版印刷用凸版10の断面模式図である。本発明に係る凸版10は、互いに平行に延在する複数の線状パターンから構成されるストライプパターンを印刷するための凸版であり、例えば、有機ELディスプレイデバイスの基板上にストライプパターンの有機EL材料層を形成するためなどに用いられるものである。図1に示したように、加熱溶融もしくは溶剤に溶解した樹脂が、樹脂押出機(不図示)に取付けられた押出成型用ダイ12からシート状の凸版基材14上に押出成型され、それによって、ストライプパターンの凸部16が基材14上に形成される。
【0026】
押出成型用ダイ12は、図5に示したように、印刷すべきストライプパターンを構成している複数の線状パターンの各々に対応した複数の開口18を有するものである。本発明に係る凸版印刷用凸版の製造方法を実施するには、先ず、印刷しようとするストライプパターンに対応した押出成型用ダイを製作する。尚、製造しようとする凸版が、有機ELディスプレイデバイスの基板上に有機EL材料層を形成するためのものである場合には、通常、非常に多くの開口18が列設された押出成型用ダイが用いられるが、添付図面は本発明の原理を説明することを旨として作成した模式図であるため、開口18の個数を3個として図示してある。
【0027】
シート状の基材14としては、プラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を用いることができるが、高精細印刷の観点からは、鉄を主成分とする金属板を用いることが望ましい。また、ストライプパターンの凸部16を構成する樹脂層を、基材14上に直接形成するようにしてもよいが(図2a参照)、先ず、基材14に、樹脂層と基材14との接着性を高めるための接着剤層15を形成し、その上に樹脂層を形成するようにしてもよい(図2b参照)。
【0028】
本発明に係る凸版製造方法においては、先ず、シート状の凸版基材14及び押出成型用ダイ12を用意し、そして、それらの少なくとも一方を駆動して、押出成型用ダイ12を基材14の表面に沿わせてこの基材14に対して相対移動させつつ、押出成型用ダイ12の複数の開口18から基板14上へ樹脂を押出すことにより、基材14上にストライプパターンの樹脂層を押出成型し、もって凸版10を形成するようにしている。
【0029】
押出成型用ダイ12を基材14に対して相対移動させるために、それらの少なくとも一方を駆動する方法は、様々なものとすることができ、例えば、基材14を固定テーブル上に載置しておき、樹脂押出機及びそれに取付けた押出成型用ダイ12を適当なマニピュレータにより移動させる方法とすることもできる。また逆に、押出成型用ダイ12の方を固定しておき、基材14を載置した可動テーブルを適当な移動機構及びアクチュエータにより移動させるようにしてもよく、更にその他の様々な方法を採用することも可能である。尚、押出成型用ダイ12を基材14に対して相対的に移動させる方向は、ストライプパターンを構成する線状パターンの延在方向である。
【0030】
本発明を実施するために使用する樹脂としては、例えば、その主成分となるポリマーとして、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどのゴムの他に、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂やそれらの共重合体、それに、セルロースなどの天然高分子などから選択したポリマーを含有する樹脂など、押出成型に用いることができる熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が用いられる。また、押出成型によりパターン形成するため、フォトリソグラフィー法のように透光性材料を用いる必要がなく、不透明な材料であっても用いることができる。なお、熱硬化性樹脂を用いる場合には押出成型後に加熱による樹脂硬化工程を設け、溶剤に溶解した樹脂を用いた場合には押出成型後に乾燥工程を設けるなど、用いる樹脂によって適宜押出成型後の後工程を設けることが望ましい。
【0031】
製造する印刷用凸版が有機EL材料を溶剤中に分散または溶解させて調製した塗工液を印刷するためのものである場合には、使用する樹脂は光硬化剤や光重合開始材といった感光性成分を含まないものとすることが望まれる。また、この用途に用いる凸版を製造する場合には、硬化後の樹脂が、有機溶剤に対する耐溶剤性を有するものとするのがよい。この観点から選ばれる熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂は、その樹脂の主成分となるポリマーとして多硫化ゴム、フッ素系エラストマーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンやそれらの共重合体といったフッ素系樹脂や、ポリアミド、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースコハク酸エステル、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、カチオン型ピペラジン含有ポリアミド、といった水溶性溶剤に可溶なものを用いることが望ましい。
【0032】
さらに、この用途に用いる凸版を製造する場合には、硬化後の樹脂が異物による擦れや局所的な印圧の上昇に耐性のある、耐傷性の高い樹脂を用いることが好ましい。この観点からから選ばれる熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂は、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ベークライト、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの硬度が高く、耐傷性のある樹脂が用いられ、さらにこれらは耐溶剤性にも優れているため特に望ましい。
【0033】
尚、様々な樹脂のうちには、紫外線等の光により劣化するものもあるが、本発明に関して「感光性材料を含まない樹脂」というとき、それは、樹脂そのものが光により劣化する性質を持たないという意味ではなく、光により化学反応させることを目的として樹脂に添加されるような成分を含まない樹脂であるという意味である。
【0034】
また、凸版10の凸部16の断面形状は、矩形、順テーパ型、逆テーパ型などをはじめとする様々な形状とすることができるが、逆テーパ型が特に好ましい。凸部16の断面形状を所望の形状にするには、使用する押出成型用ダイ12の開口18の形状を、その凸部16の所望の断面形状に対応した形状に形成すればよい。
【0035】
本発明に係る凸版印刷用凸版は、前述のように、ストライプパターンを印刷するための凸版であるが、印刷工程においては、被印刷基板のうちの一部領域にストライプパターンを印刷することになる。また、押出成型の場合、押出の最初の凸部は形状が安定しないため印刷には使用できないため凸部形状が安定するまで樹脂を押出する必要があり、押出成型の終端も形状が安定しない。このような場合、基材14上にストライプパターンの転写に使用される領域に加えてその外側にまで凸部16を形成した後、不要部分となる凸部16を、金属刃による切削や、レーザーによるアブレーションなどにより除去するようにするとよい。
【0036】
有機発光インキを用いて凸版印刷法により被印刷基板上に有機発光層を形成するにあっては、有機発光インキと凸版印刷用凸版との接触部、すなわち印刷用凸版の凸部と有機発光インキとの濡れ性が重要となる。有機発光インキと印刷用凸版の凸部との濡れ性が悪かったりばらつきがある場合、印刷用凸版の凸部に所定量の有機発光インキを供給することができなかったり、凸部への有機発光インキの供給量にばらつきが生じ、基板上に形成された発光層は、その膜厚が所望の膜厚と比較して薄かったり、ムラが生じたり、発光層に抜けが生じることがある。
【0037】
従来のフォトリソグラフィー法で印刷用凸版を形成した場合、ネガ型・ポジ型いずれのレジストを用いる場合でも、印刷用凸版の凸部の表面状態は露光前のレジスト層の表面状態に由来する。一般にスピンコートなどの塗布法や印刷法で形成されるレジスト層表面は概ね平坦であり、レジストをパターン露光して形成される凸部表面も平坦で個々の凸部同士で表面状態に大きな差が無いため、フォトリソグラフィー法で形成される印刷用凸版表面の濡れ性の局所的なばらつきは少ない。しかし、上述のようにフォトリソグラフィー法で形成される印刷用凸版は低い耐傷性や感光性成分による問題がある。
【0038】
一方、押出成型により印刷用凸版を形成した場合、押出成型で形成される印刷用凸版は耐傷性や感光性成分による問題は生じないが、押出しの際の応力や、押出成型用ダイの開口部の形状及び個々の開口部の形状の微差、並びに押出成型に用いられる材料の特性などにより、凸版の凸部表面は波面や溝、微小な凹凸が生じる。そのため、個々の凸部同士の表面形状や表面エネルギーなどの表面状態の相違が生じ、押出成型で形成される印刷用凸版表面の濡れ性は局所的なばらつきが大きい。
【0039】
そこで、本発明に係る印刷用凸版は、押出成型で形成される印刷用凸版表面を表面処理することで凸版表面の濡れ性をインキの転写に適したものに改善し、被印刷物のパターン性が向上する。表面処理としては、珪砂・ガラス粒子などの砥粒を吹き付けるサンドブラスト処理、アルミナ等の研磨剤による研磨、エッチング処理などの凸部表面形状を整えるもの、並びにプラズマ処理、コロナ放電処理、UVオゾン処理などの表面エネルギーを変化させるもの、その他公知の技術を用いることができる。また、これらを組み合わせて用いても良いが、その場合は前述の凸部表面形状を整える処理をした後、後述の表面エネルギーを変化させる処理を行なうことが望ましい。
【0040】
研磨剤による研磨やエッチング処理により凸部表面の凹凸や溝などを削り、凸部表面の形状の相違を無くすことで、表面形状の相違に起因する濡れ性の局所的なバラつきを均一にすることができる。また、プラズマ処理、コロナ放電処理、UVオゾン処理などにより凸版全体の表面エネルギーを変化させることで局所的な濡れ性のバラつきを均一にすることができる。
【0041】
次に、本発明に係る印刷用凸版を用いた電子デバイスの製造方法の一例として、有機ELデバイスの製造方法について説明する。なお、本発明に係る電子デバイスないし有機ELデバイスの製造方法は、以下に例示する具体的な製造方法のみに限定されるものではない。
【0042】
図3に、本発明に係る印刷用凸版を用いた有機ELデバイス製造装置の一例を示した。図示した有機ELデバイス製造装置20は、印刷シリンダー22を備えた凸版印刷機により構成されている。印刷シリンダー22の外周に、本発明に係る印刷用凸版10が巻装されている。塗工液補充装置24は、一般的な滴下型インキ補充装置であり、この塗工液補充装置24の中に、有機EL材料を含む発光層形成用塗工液26が貯留されている。
【0043】
発光層形成用塗工液26は、有機EL材料を溶剤中に分散または溶解させて調製したものである。有機EL材料としては、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィリン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の、有機溶剤に可溶な有機EL材料が用いられ、また、それら有機EL材料をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系などの高分子有機EL材料も用いられる。また、溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、水などの単独またはこれらの混合溶媒などが用いられる。特に、芳香族系溶剤およびハロゲン系溶剤は、有機EL材料を溶解させる溶剤として優れたものである。また、この発光層形成用塗工液26には、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、それに乾燥剤などを添加することもある。
【0044】
発光層形成用塗工液26は、塗工液補充装置24から、インキング装置であるアニロックスロール28へ補充され、アニロックスロール28に補充された余剰な発光層形成用塗工液26は、ドクターロールから成るドクター装置30により除去される。塗工液補充装置24としては、滴下型インキ補充装置の他に、ファウンテンロールやスリットコータ、ダイコータ、キャップコータなどのコータやそれらを組み合わせたものなどを用いることもできる。ドクター装置30としては、ドクターロールの他に、ドクターブレードといった公知の物を用いることもできる。
【0045】
ドクター装置30により余剰な発光層形成用塗工液が除去された後、アニックスロール28から凸版10へのインキングが行われる。これによって塗工液26が、凸版10の凸部1’(図1参照)へ供給され、そしてその塗工液26が、被転写体である有機ELデバイス基板32へ印刷される。有機ELデバイス基板32は多くの場合、ガラス基板であるが、ガラスの他に水蒸気などに対するバリア性を持ったフィルムなどの透光性基板も用いられ、本発明に係る凸版10を用いることで、そのような基板にも良好に印刷することができる。基板32へ印刷された有機EL材料を含む発光層形成用塗工液26は、乾燥することにより有機発光層を形成する。
【0046】
図4に、図3の有機ELデバイス製造装置20により製造された有機ELデバイス36の1つの発光単位38の断面模式図を示した。
【0047】
この有機ELデバイス36の発光単位38は、透光性基板40と透明導電層42と正孔注入層44と有機発光層46と陰極層48とを具備するものである。
【0048】
この有機ELデバイス36において、透光性基板40としては、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。プラスチック製のフィルムを用いれば、巻き取りにより有機発光素子の製造が可能となり、安価に素子を提供できる。そのプラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を用いることができる。また、透明導電層42を成膜しない側にセラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層してもよい。
【0049】
透明導電層42をなす材料としては、インジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)が挙げられる。また、アルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものや、ポリアニリン等の有機化合物などが挙げられる。
【0050】
正孔注入層44をなす材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の導電性高分子材料を用いても良い。
【0051】
有機発光層46は、電圧の印加により発光する層であり、図2の有機ELデバイス製造装置20によって、本発明に係る凸版10を用いて形成された層であり、上述した塗工液26が乾燥してできた層である。
【0052】
陰極層48をなす材料としては、有機発光層46の発光特性に応じたものを使用すればよく、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体や酸化物、これらと金、銀などの安定な金属との合金などが用いられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。
【0053】
透光性基板40上に透明導電層42及び正孔注入層44を形成するには、公知の方法を用いればよく、それらを形成した後に、その上に、図2を参照して説明したようにして本発明に係る凸版10を用いて有機発光層46を形成し、更にその上に、陰極層48を形成する。陰極層48の形成には真空蒸着法の他にインクジェット法といった公知の手段を用いることができる。
【0054】
以下に本発明の具体的な実施例と比較例について説明するが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
<実施例1>
(発光層形成用塗工液の調製)
高分子蛍光体をキシレンに塗工液濃度が1.0重量%となるように溶解させ、発光層形成用塗工液を調製した。高分子蛍光体としては、ポリ(パラフェニレンビニレン)誘導体からなる発光材料を使用した。
【0056】
<被転写基板(デバイス基板)の作製>
150mm角、厚さ0.4mmのガラス基板上に、表面抵抗率15ΩのITOを成膜した基材(ジオマテック(株)製)を用意し、その基材上にスピンコーターを用いて正孔輸送層としてポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を100nm膜厚で成膜した。さらにこの成膜されたPEDOT/PSS薄膜を減圧下100℃で1時間乾燥することで、被転写基板(デバイス基板)を作製した。
【0057】
(印刷用凸版の作製)
厚さ500μmのSUS304ステンレスシートを凸版の基材14として用意し、基材14上に25μmの厚さの接着材層を塗布した。
次に、図5に示す開口18の寸法が幅100μm、高さ100μmである押出成型用ダイ12を用意した。
次に、耐傷性樹脂としてポリプロピレンを主成分として含む樹脂を溶融し、その樹脂を押出成型用ダイから押出して、接着剤層が塗布されている凸版基材上に凸部16となる樹脂層を押出成型した。
凸部16を形成後、不要部分は金属刃により切削処理し、切削屑を除去するためにエタノール洗浄した。その後、表面処理工程として172nmのUVランプを使用してUVオゾン処理を行なった。
【0058】
(印刷並びに被印刷物及び印刷用凸版の確認)
以上により形成した印刷用凸版を、自社製印刷機の印刷シリンダーに両面テープを用いて固定した。この印刷用凸版と上記の発光層形成用塗工液を用いて、被転写基板に対し印刷を行った。100枚連続印刷した後、版及び被印刷物を観察し、版上の異物及び異物に起因する印刷欠陥箇所を確認した。
その後、印刷用凸版を洗浄して異物を除去した後再び印刷を行い、異物に起因する印刷用凸版の欠陥の有無を確認し、形成した発光層が印刷された被転写基板は有機EL素子の作製に用いた。
【0059】
(有機EL素子作製)
次に、上記工程での発光層の印刷後、130℃で1時間乾燥を行った。乾燥の後、印刷により形成した発光層上にカルシウムを10nm成膜し、さらにその上に銀を300nm真空蒸着して有機EL素子を作製し、発光状態を観察した。
【0060】
<比較例1>
実施例1の印刷用凸版の作製工程において、耐傷性樹脂として用いたポリプロピレンを感光性樹脂としてフォトリソグラフィー法を用いて印刷用凸版を作成したこと以外は実施例1と同様にして有機ELデバイスを作製して被印刷物及び印刷用凸版の確認を行なった。
【0061】
<比較例2>
実施例1の印刷用凸版の作製工程において、UVオゾン処理を行なわなかったこと以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製して被印刷物及び印刷用凸版の確認を行なった。
【0062】
上述した実施例1、比較例1、比較例2の各工程における、100枚連続印刷後における版上の異物及び異物による印刷欠陥、版洗浄後の印刷における版欠陥及びそれに起因する印刷欠陥、そして有機EL素子形成後の発光ムラについての観察・評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
100枚連続印刷した後、版及び被印刷物を観察すると、実施例、比較例のいずれにおいても版上の異物の付着及び異物による印刷欠陥箇所がみられた。
【0065】
次に、版を洗浄した後印刷を行なったところ、耐傷性樹脂としてポリプロピレンを用いた実施例1及び比較例2では版の欠陥及びそれに起因する印刷欠陥は見られなかった。しかし、従来のフォトリソグラフィー法で印刷版を形成した比較例1は異物による版の欠陥及びそれに起因する印刷欠陥が見られた。
【0066】
次に、印刷後の素子について有機EL素子を形成し、その発光ムラを観察したところ、実施例1においては、版に耐傷性樹脂を用いたため異物が付着しても版欠陥が生じず、それによる発光ムラは見られなかった。また、版表面に濡れ性を均一にする表面処理を行なったため版の濡れ性が均一でムラのない印刷ができ、有機EL素子形成後の発光ムラも観察されなかった。
比較例1においては版欠陥に起因する印刷欠陥箇所に発光ムラが見られた。
比較例2においては版に耐傷性樹脂を用いたため異物が付着しても版欠陥が生じず、それによる発光ムラは見られなかったものの、版の濡れ性が不均一なため版全体の印刷にムラが生じ、有機EL素子形成後に発光ムラが見られた。
【符号の説明】
【0067】
10……印刷用凸版、
12……押出成型用ダイ
14……凸版基材
16……凸部
18……押出成型用ダイの開口
20……有機ELデバイス製造装置
22……印刷シリンダー
24……塗工液補充装置
26……発光層形成用塗工液
28……アニロックスロール
30……ドクター装置
32……有機ELデバイス基板
36……有機ELデバイス
38……有機ELデバイスの発光単位
40……透光性基板
42……透明電導層
44……正孔注入層
46……有機発光層
48……陰極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸版印刷法に用いられる凸版であって、
基材上に接着剤層を形成する工程と、
前記接着剤層上に押出成型用ダイから樹脂を押出し、互いに平行に延在する複数のストライプパターンから構成される複数の凸部を形成する工程と、
前記複数の凸部の表面を処理する工程と、
からなる事を特徴とする印刷用凸版の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の印刷用凸版の製造方法。
【請求項3】
前記複数の凸部の表面を処理する工程は、サンドブラスト処理、研磨処理、エッチング処理、サンドブラスト処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、UVオゾン処理のうち少なくとも一つからなることを特徴とする請求項2に記載の印刷用凸版の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項記載の印刷用凸版の製造方法に従って製造されたことを特徴とする凸版印刷用凸版。
【請求項5】
請求項4に記載の印刷用凸版を用い、
前記印刷用凸版に発光層形成用塗工液を供給する工程と、
前記発光層形成用塗工液を被転写体に転写する工程と、
を有することを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−131401(P2011−131401A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290453(P2009−290453)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】