説明

原盤露光方法、光学露光装置、情報記録媒体の製造方法、情報記録媒体用スタンパ及び情報記録媒体

【課題】 高密度情報記録媒体用の原盤を得るための原盤露光方法を提供すること。
【解決手段】 原板表面に塗布されたフォトレジスト層に所定の露光信号に従った第1のレーザビーム(ビーム1)を照射してプリピット部102を露光し、更に、プリピット部102のトラック方向の先端露光部104と後端露光部105とを、第1のレーザビーム(ビーム1)と共に第1のレーザビーム(ビーム1)に同期させた第2のレーザビーム(ビーム2−1)及び第3のレーザビーム(ビーム2−2)の合計3本のレーザビームを用いて露光する原盤露光方法によれば、端部が矩形状に形成されたプリピットを有する情報記録媒体用の原盤が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原盤露光方法等に関し、より詳しくは、情報記録媒体用原盤が得られる原盤露光方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスク等の情報記録媒体における重要な技術的課題である記録密度の向上は、情報トラックに沿った線記録密度の改善と、トラックピッチの狭小化による面記録密度の改善と、の両面から検討が行われている。
一方、情報記録媒体の基板の元になる原盤は、レーザ光源より出射され、光変調器によりパルス状に強度変調されたレーザビームが、通常、光分解型のポジ型レジストからなるフォトレジスト層に対物レンズを経て集光される光学露光装置を用いてカッティングされ、プリピットが形成される。
【0003】
ところが、線記録密度を改善するために露光信号のパルス幅を狭小化すると、露光信号のパルス幅がフォトレジスト層上に集光されるレーザスポットの直径よりも小さくなった段階で、ピットの形状が大型化する。即ち、トラック方向においては、隣接するプリピットの間のスペース部分において、各プリピットの周辺部分に生じた低露光部が互いに重なり合い、いわゆる「かぶり」を生じ、スペース長が小型化する。その結果、ピットエッジ位置がトラック方向へシフトし、再生信号のジッターが大きくなる現象が見られる。同様に、半径方向においても、隣接するトラックからの「かぶり」の影響をうけ、ピットの形状が大型化する。
【0004】
従来、このような「かぶり」の影響を緩和する方法としては、例えば、レーザスポットの直径を考慮して、露光信号にいわゆる「削り」を入れたり、露光する際に隣接するトラックからのかぶり光を計算して露光量を調整する方法が考えられている。しかし、例えば、DVD−ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)等に採用されているCLV(Constant Linear Velocity)フォーマットの場合、CLV回路の誤差から一周後に露光する隣のトラックの情報を正確に予測する事は困難であるため、隣接トラック間で信号のクロストークを生じやすくなる問題がある。
【0005】
このような不都合を解消するため、本願出願人は先に、先行する隣接トラックに記録する情報信号と、記録しようとするトラックに記録する情報信号と、後行する隣接トラックに記録する情報信号とを、第1乃至第3のメモリに取り込んで論理回路により各メモリに記憶された情報信号の論理積をとることにより、原盤又は光情報記録媒体の半径方向に関する各トラックに記録される情報信号のオーバーラップ状態を検出し、レーザビームのかぶりの状態に関わり無く、同一の情報信号に対応するマーク(プリピット)を記録した光ディスク用原盤を製造する方法について報告した(特許文献1参照)。
【0006】
また、レーザ光源より出射されたレーザビームを分割して得た2本のレーザビームを、ピット列を露光するレーザビームの内周側及び外周側に照射し、カッティングしようとするプリピットの周囲における他のプリピットの配列状態に応じてランド部に対するレーザビームのかぶりを均一化することによって、ピットサイズ及びピット形状の変動を抑制する方法について報告した(特許文献2参照)。
【0007】
例えば、図7は、特許文献2に記載されているような従来の露光方式を説明する図である。図7(a)は、フォトレジスト層の露光状態であり、図7(b)は、ビットデータであり、図7(c)は、プリピット部702を形成するレーザビーム(ビーム1)の露光波形であり、図7(d)は、プリピット部702の内周側及び外周側を照射する2個のレーザビーム2(ビーム2−1,2−2)の露光波形である。
【0008】
図7(c)及び図7(d)に示すように、図7(b)に示す露光信号に従い、ピット列に強度変調されたビーム1を照射し、ビーム1と逆位相の信号に従い強度変調された2個レーザビーム2(ビーム2−1,2−2)を、ビーム1が照射されない場合にピット列の内周側及び外周側に照射する。ここでは、ビーム2(ビーム2−1,2−2)において、露光波形における削りL1をL1=1Tとし、また、ビーム2(ビーム2−1,2−2)の強度をビーム1の10%としている。このように低強度のビーム2(ビーム2−1,2−2)を用いてトラック間を露光することにより、図7(a)に示すように、カッティングしようとするプリピット部702の周囲における他のプリピットの配列状態に応じ、網掛け部分(低露光部703)で示すように、ランド部に対するレーザビームのかぶりを均一化することができる。そして、トラックピッチを狭小化してもピットサイズ及びピット形状の変動が抑制され、ジッターは10%程度に低減される。
【0009】
【特許文献1】特開2001−148139号公報
【特許文献2】特開2003−346390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載された光学露光装置を用いる場合は、フォーマッタに蓄えられた情報信号を、各情報信号毎に、前後の隣接トラックに記録される情報信号を参照して補正する方法を採用しているので、複雑な構成の信号補正回路が必要になるという問題がある。
【0011】
また、特許文献2に示された方式によれば、ピット形成部の周辺部分に生じた低露光部が互いに重なり合う「かぶり」の影響を減少させることができるが、情報記録媒体の高密度化に対応する狭小化したトラックに細いプリピットを形成するには、以下に説明するように、さらに改良が必要である。
【0012】
図8は、従来の方式でカッティングされたピットデータのピット長の長さ分散を説明する図である。図8は、横軸がピット長(Pit Length)であり、縦軸がピット幅(Width)である。即ち、図8に示すように、3Tマーク〜8Tマークのピット幅(Width)が略均一であり、ピット形状の変動が抑制されているものの、特に最短ピット(2T)におけるピット幅が、他のマークと比較して減少し、ピット形状の変動が大きいことが分かる。このため、最短マーク(2T)のジッターが増大するので、これを低減する必要がある。
【0013】
本発明は、このような従来技術をさらに改良するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、情報記録媒体用原盤を得るための原盤露光方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、情報記録媒体用原盤を得るための光学露光装置を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、情報記録媒体の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、情報記録媒体用スタンパを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで本発明者等は鋭意検討の結果、カッティングにより長円状に形成されるプリピットは、その先端及び後端に湾曲部分を有することにより、再生信号の立ち上がりが遅れ、その結果、ジッターが増大することを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。
即ち、本発明によれば、原板表面に塗布されたフォトレジスト層に所定の露光信号に従ったレーザビームを照射してプリピット部分を露光し、プリピット部分のトラック方向の端部を、レーザビームと共にレーザビームに同期させた他のレーザビームを用いて露光することを特徴とする原盤露光方法が提供される。
【0015】
本発明が適用される原盤露光方法においては、所定の露光信号に従ったレーザビームを照射してプリピット部分を露光するとともに、プリピット部分のトラック方向の先端部又は後端部を、レーザビームと共にレーザビームに同期させた他のレーザビームを用いて露光することを特徴とすれば、プリピット部分のトラック方向の端部が矩形状に露光され、全体として矩形状のプリピットが形成された情報記録媒体用の原盤を製造することができる。
【0016】
この場合、プリピット部分を露光するレーザビームが第1のレーザビームであり、レーザビームと共にプリピット部分のトラック方向の先端部又は後端部を露光する他のレーザビームが、第1のレーザビームの両側に配置された第2及び第3のレーザビームであり、合計3本のレーザビームを用いてプリピット部分の端部を照射することが好ましい。
また、他のレーザビームの強度が、レーザビームの強度の50%以下とすることにより、プリピットの端部の形状を、効率よく矩形状にすることができる。
【0017】
さらに、本発明が適用される原盤露光方法において、フォトレジスト層のプリピット部分が形成されない部分に、レーザビームと逆位相の他のレーザビームを更に照射することが好ましい。このように他のレーザビームをプリピットが形成されない部分に照射することにより、カッティングしようとするプリピット部分の周囲における他のプリピットの配列状態に応じて生じるレーザビームのかぶりが均一化され、ピットサイズ及びピット形状の変動が抑制される。
この場合、他のレーザビームの強度は、プリピット部分に照射されるレーザビームの強度の10%以下であることが好ましく、現像処理によってフォトレジスト層が消失することがない。尚、所定の基板表面に塗布されたフォトレジスト層は、ポジ型フォトレジストから構成されることが好ましい。
【0018】
次に、本発明によれば、原板表面に塗布されたフォトレジスト層に所定の露光パターンを形成する光学露光装置であって、露光パターンにおけるプリピット部分のトラック方向の端部に、所定の露光信号に同期させた複数のレーザビームを同時に照射するレーザ照射手段と、原板とレーザビームとの相対的位置を変動させる変動手段と、を有することを特徴とする光学露光装置が提供される。
【0019】
本発明が適用される光学露光装置におけるレーザ照射手段は、レーザ光源より出射されたレーザビームを第1のレーザビームと第2のレーザビームとに分割するビーム分割手段と、第2のレーザビームをπの光路差を有する2本のレーザビームにさらに分割する位相シフトマスクと、を備えることが好ましい。このようなビーム分割手段を備えることにより、1台のレーザ発光装置により、複数のレーザビームを生成することができ、装置の小型化を図ることができる。
【0020】
一方、本発明は、プリピットを有する情報記録媒体用原盤を形成する原盤形成工程と、形成された情報記録媒体用原盤のプリピットの形状を転写した金属スタンパを形成するスタンパ形成工程と、を有し、原盤形成工程が、原板表面に塗布されたフォトレジスト層に所定の露光信号に従った第1のレーザビームを用いてプリピット部分を露光するとともに、第1のレーザビームに同期させた第2及び第3のレーザビームを用いてプリピット部分の先端と後端とを露光することを特徴とする情報記録媒体の製造方法として把握することができる。
【0021】
また、本発明によれば、情報記録媒体用原盤のフォトレジスト層に形成されたプリピットの形状を転写した情報記録媒体用スタンパであって、最短マークのプリピットの幅(W)と、最短マークのプリピットのトラック方向の端部の曲率半径(R)とが、下記式(1)で表される関係を有することを特徴とする情報記録媒体用スタンパが提供される。
R<(W/2) (1)
本発明が適用される情報記録媒体用スタンパを用いて、例えば、射出成形等の方法によりプリピットの形状の変動が抑制された情報記録媒体用基板を成形することができる。
【0022】
さらに、本発明によれば、スパイラル状又は同心円状に形成されたトラックに所定の大きさのプリピットが形成された基板を有し、プリピットは、最短マークのプリピットの幅(W)とトラック方向の端部の曲率半径(R)とが、下記式(1)で表される関係を有することを特徴とする情報記録媒体が提供される。
R<(W/2) (1)
本発明が適用される情報記録媒体は、上記の式(1)の関係を有し、端部が矩形状に形成されたプリピットを有する基板を備えることにより、最短マークのプリピットに基づく再生信号のジッターが10%以下に低減される。
【発明の効果】
【0023】
かくして本発明によれば、情報記録媒体用原盤の製造方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態)について、図面に基づき詳述する。
図1は、本実施の形態が適用される光学露光装置を説明する図である。図1(a)は、光学露光装置の光学系であり、図1(b)は、光学系とフォトレジスト層を塗布した原板との相対位置を変動させる変動手段である。図1(a)に示された光学露光装置100は、フォトレジスト層(図示せず)を有する原板1を回転駆動するターンテーブル2と、所定の位置に固定された固定光学系3と、ターンテーブル2と固定光学系3との間に配置された移動光学系4とから構成されている。
【0025】
固定光学系3上には、レーザ光源11と、レーザ光源11から出射されたレーザビーム12の光路を変更する第1のミラー13と、レーザビーム12中に含まれるノイズを除去するノイズイータ14と、レーザビーム12を2分割する第1のビーム分割手段としてのハーフミラー15と、ハーフミラー15によって分割された第1のレーザビーム16を原板1にカッティングしようとするピット列の露光信号にしたがって強度変調する第1の光変調器としての第1の音響光学効果光変調器17(AOM1)と、第1の音響光学効果光変調器17(AOM1)への第1のレーザビーム16の入射角度を制御する第1のレンズ18と、第1の音響光学効果光変調器17(AOM1)を通過した第1のレーザビーム16の光路を調整する第2のレンズ19と、ハーフミラー15によって分割された第2のレーザビーム20を、露光信号にしたがって強度変調する第2の光変調器としての第2の音響光学効果光変調器21(AOM2)と、第2の音響光学効果光変調器21(AOM2)への第2のレーザビーム20の入射角度を制御する第3のレンズ22と、第2の音響光学効果光変調器21(AOM2)を通過した第2のレーザビーム20の光路を調整する第4のレンズ23と、第4のレンズ23を通過した第2のレーザビーム20の偏光軸を90度傾ける1/2波長板24(λ/2板)と、第1のレーザビーム16の光路を移動光学系4側に変更する第2のミラー25と、第2のレーザビーム20の光路を移動光学系4側に変更する第3のミラー26とからなる固定光学系が搭載される。また、第1の光変調器としての第1の音響光学効果光変調器17(AOM1)及び第2の光変調器としての第2の音響光学効果光変調器21(AOM2)を、ピット列の露光信号に従い制御する制御部27を有している。
【0026】
移動光学系4上には、第2の音響光学効果光変調器21(AOM2)によって強度変調された第2のレーザビーム20を更に2本の分割ビーム33に分割する第2のビーム分割手段としての位相シフトマスク32と、位相シフトマスク32にて得られた分割ビーム33の光路を変更する集光位置調整器としての第4のミラー34と、第1の音響光学効果光変調器17(AOM1)によって強度変調された第1のレーザビーム16と第2の音響光学効果光変調器21(AOM2)によって強度変調された分割ビーム33とを合成する偏光ビームスプリッタ35と、合成されたレーザビーム36を原板1のフォトレジスト層に集光する対物レンズ37と、対物レンズ37のデフォーカスを検出するフォーカス検出器38と、原板1からの反射光を選択的にフォーカス検出器38に導くダイクロックミラー39とからなる移動光学系が搭載される。
【0027】
図1(b)は、光学露光装置100と原板1との相対位置を変動させる変動手段を説明する図である。前述したように、ターンテーブル2上の原板1からの反射光は、ダイクロックミラー39を介してフォーカス検出器38に導かれ、対物レンズ37のデフォーカスが検出される。位相シフトマスク32を搭載した移動光学系4は、所定のキャリッジ(図示せず)により、対物レンズ37を原板1の半径方向に移送するように所定の範囲で往復駆動され、原板1と対物レンズ37との相対位置の変動が行われる。
【0028】
原板1は、例えば、ガラス板等により形成された平滑なディスク状基板の表面に、均一厚さのフォトレジスト層が形成されている。ターンテーブル2は、原板1を着脱可能に装着し、装着された原板1を所要の回転駆動方式で回転駆動する。原板1の回転駆動方式には、CAV方式、ZCAV方式又はCLV方式があり、製造される光ディスクの回転駆動方式に応じて選択される。原板1の表面には、ポジ型のフォトレジスト層が塗布されている。
【0029】
図2は、位相シフトマスク32を説明する図である。図2に示すように、位相シフトマスク32は、石英ガラス製の光透過性光学素子であって、円盤状の基盤表面の中央部には、入射するレーザビームを、πの光路差を有する2本の分割ビーム33に分割する段差(214nm)が形成されている。
【0030】
図3は、位相シフトマスク32を透過したレーザビームの強度分布を説明する図である。図3(a)は、位相シフトマスク32前のレーザビームの強度分布であり、図3(b)は、位相シフトマスク32を透過した後、対物レンズ37により集光されたレーザビームの強度分布である。図3(a)及び図3(b)中の横軸は、レーザビームの中心からの半径位置(nm)を示し、縦軸は、相対強度を示す。図3(a)に示すように、位相シフトマスク32を透過する前のレーザビームの強度分布は、X方向の断面とこれに垂直なY方向の断面とにおいて、両者共にレーザビームの中心に相対強度の最大値を有している。次に、図3(b)に示すように、位相シフトマスク32を透過したレーザビームは、X方向の断面において、ビーム間隔が220nm〜240nmを有する2本の分割ビームに分割され、πの光路差を有することにより、Y方向の断面の相対強度が0になる。このように、第2のビーム分割手段として位相シフトマスク32を備えることにより、2本のレーザビームの間隔を狭くすることができ、高密度化した情報記録媒体の狭小化したトラックに形成するプリピットのピット長及びスペース長をより厳密に制御することができる。
【0031】
次に、図1に示す光学露光装置100の作用について説明する。
図1に示すように、レーザ光源11から発振された波長257nmのレーザビーム12は、ノイズイータ14を透過してノイズが取り除かれ、ハーフミラー15により第1のレーザビーム16と第2のレーザビーム20とに光路が2つに分割される。第1のレーザビーム16には第1の音響光学効果光変調器17(AOM1)により露光信号を付与される。また、第2のレーザビーム20には第2の音響光学効果光変調器21(AOM2)により信号が付与される。第2のレーザビーム20に付与される信号は、露光信号がOFFの場合(即ち、プリピットが形成されない)にはONになるように逆の信号が付与される。また、後述するように、プリピットを形成する場合は、プリピットの先端及び後端において、所定時間、露光信号と同期させたONの信号が付与され、プリピットの中間部分においては、OFFになるように逆の信号が付与される。
【0032】
また、第1のレンズ18に、第1の音響光学効果光変調器17(AOM1)における粗密進行波の進行方向に関して前向きに第1のレーザビーム16が入射し、第3のレンズ22は、第2の音響光学効果光変調器21(AOM2)における粗密進行波の進行方向に関して後向きに第2のレーザビーム20が入射する。これにより、第1の音響光学効果光変調器17(AOM1)によって回折される第1のレーザビーム16の周波数と第2の音響光学効果光変調器21(AOM2)によって回折される第2のレーザビーム20の周波数とがドップラーシフトでそれぞれ逆方向にシフトし、周波数差が大きくなるように構成されている。プリピットが形成されない場合は、2本のレーザビーム(第1のレーザビーム16、第2のレーザビーム20)の信号が重ならないように遅延回路及び削り回路により調整する。また、露光信号と逆の信号を有する第2のレーザビーム20の強度は、現像後のレジストが底切りにならない程度に強度を減衰させる。さらに、露光信号と同期させる第2のレーザビーム20の強度は、露光信号と逆の信号を有する場合と比較して強度を増大させる。
【0033】
次に、露光信号と逆の信号が付与された第2のレーザビーム20を1/2波長板24(λ/2板)により偏光を90°傾斜させ、次いで、石英ガラス製の位相シフトマスク32により、2本の分割ビーム33に更に分割する。続いて、第1のレーザビーム16と、2本の分割ビーム33に分割された第2のレーザビーム20とを、偏光ビームスプリッタ35により合流し、合成されたレーザビーム36は、対物レンズ37(Na=0.9)を通して原板1上に集光される。露光信号を有する第1のレーザビーム16は、原板1にカッティングされるピット列に照射され、第2のレーザビーム20は、第1のレーザビーム16の照射位置(第1のレーザスポット)の両側部分に照射される(第2のレーザスポット及び第3のレーザスポット)。
【0034】
このとき、プリピットの非形成部における露光量を均一化するため、対物レンズ37を介して原板1上に形成される第2のレーザスポットと第3のレーザスポットとの照射間隔は、位相シフトマスク32を用いることにより、原板1にカッティングされるピット列のピッチよりも狭くなるように調整される。具体的には、例えば、ピット列のピッチが320nmの場合、第2のレーザスポットと第3のレーザスポットとの照射間隔は、220〜240nmである。また、第2のレーザスポット及び第3のレーザスポットの原板1上における照射位置は、ピット列を形成する第1のレーザスポットからそれぞれ等距離の位置に配置される。
【0035】
次に、図1に示す光学露光装置100を用いて、原板1に塗布されたフォトレジスト層に矩形上のプリピットを形成する露光方法を説明する。
図4は、光学露光装置100により照射されたレーザビームの露光波形とフォトレジスト層の露光状態を説明する図である。図4(a)は、原板1に塗布されたフォトレジスト層の露光状態であり、図4(b)は、ビットデータであり、図4(c)は、プリピット部102を形成するレーザビーム(ビーム1)の露光波形であり、図4(d)は、プリピット部102の内周側及び外周側を照射する2本のレーザビーム(ビーム2(ビーム2−1,2−2))の露光波形である。
【0036】
図4(c)に示すビーム1は、原板1に塗布されたポジ型のフォトレジスト層に照射し、プリピット部102をカッティングするためのレーザビームを生成する露光信号であり、図4(d)に示すビーム2(ビーム2−1,2−2)は、ビーム1と同期して、プリピット部102の先端露光部104及び後端露光部105を照射するレーザビームを生成する信号である。また、プリピット部102を形成しない場合は、ビーム2(ビーム2−1,2−2)はビーム1と逆位相のレーザビームを生成する信号である。
【0037】
図4(c)及び図4(d)に示すように、各プリピット部102の先端露光部104及び後端露光部105において、ビーム1のレーザビームと同期してビーム2(ビーム2−1,2−2)のレーザビームが低強度で照射される。その結果、図4(a)に示すように、先端露光部104及び後端露光部105のフォトレジスト層が露光され(濃い網掛けで示す部分)、矩形状のプリピットが形成される。このとき、プリピット部102の原板1の半径方向の幅(W)とプリピット部102の先端露光部104及び後端露光部105の曲率半径(R)とは、下記式(1)で表される関係を有している。
R<(W/2) (1)
【0038】
即ち、各プリピットの先端及び後端において、露光信号を有するビーム1のレーザビームと、これに同期させたビーム2の2本のレーザビームとの合計3本のレーザビームを、所定時間、同時に照射することにより、従来の方式と比較して、プリピットの形状を矩形状にすることができる。さらに、本実施の形態が適用される方法によれば、最短マーク(2T)のプリピットを矩形状に形成することが可能となり、特に2Tマークに基づく再生信号のジッターを低減することができる。
尚、この場合、図4(d)に示すように、プリピットの先端及び後端において照射されるビーム2の幅L2は(L2=1T)となるように調整され、(3/5)Tピットと重なるように露光する。また、この場合、プリピットの先端及び後端に露光するレーザ強度は露光信号用のレーザビームであるビーム1の(1/3)程度に調整されている。
【0039】
次に、図4(c)及び図4(d)に示すように、プリピットを形成しない場合は(ビーム1の露光信号がOFF)、ビーム1の露光信号と逆位相の信号を有するビーム2がONになり、ビーム1の露光信号が出ていない間、隣接トラックとの間を露光する(薄い網掛けで示す部分(低露光部103))。この場合、ビーム2のレーザビームの強度は、露光信号用のビーム1のレーザビーム強度の8%程度である。
即ち、プリピットを形成しない場合、2個のレーザビーム(ビーム2)を、ピット列の露光信号にしたがい強度変調されたレーザビーム(ビーム1)の内周側及び外周側に照射することにより、カッティングしようとするプリピットの周囲における他のプリピットの配列状態に応じてランド部に対するレーザビームのかぶりを均一化する。このため、ピットサイズ及びピット形状の変動が抑制され、再生信号のジッターがさらに低減する。
【0040】
図5は、本実施の形態が適用される方法によりカッティングされたピットデータのピット長の長さ分散を説明する図である。図5は、横軸がピット長(Pit Length)であり、縦軸がピット幅(Width)である。即ち、図5に示すように、2Tマーク〜8Tマークのピット幅(Width)が略均一であり、ピット形状の変動が大幅に抑制されていることが分かる。特に最短ピット(2T)におけるピット幅の減少が抑制され、ピット形状の変動が低減されている。
即ち、後述する方法により、原板1に基づき作製した光ディスクは、矩形状のプリピットの再生信号波形の立ち上がりが急峻であり、ジッターが7%程度に低減している。
【0041】
図6は、光ディスク用原盤の表面形状を説明する図である。図6には、露光されたレジストをフォトマスクとしてRIE(反応性イオンエッチング)により形成した光ディスク用原盤のAFM像が示されている。長手方向が光ディスク用原盤のトラック方向を表す。図6に示すように、光学露光装置100を用いることにより、光ディスク用原盤の表面には、矩形状のプリピットが形成されることが分かる。
【0042】
次に、光学露光装置100を用いてレーザ光が照射された原板1から光ディスク用原盤を調製する方法について説明する。
初めに、フォトレジスト薄膜を塗布した原板1の作製方法について説明する。
原板1の基板としては、例えば、シリコンウェハー、石英ガラス、ソーダガラス、表面に導電層を形成した石英ガラス、表面に導電層を形成したソーダガラス等が挙げられ、特に限定されない。
【0043】
フォトレジストとしては、レーザ光の照射により極性が変化し、現像によりパターンが形成できるものであれば、特に限定はされない。通常、クレゾールノボラック樹脂とナフトキノンジアジドと混合系、ポリヒドロキシスチレン誘導体と光酸発生剤との混合系等のポジ型フォトレジスト等が挙げられる。中でも、露光開始時点と露光終了時点とにおける現像後に形成されるプリピットの大きさが、より均一であることから、クレゾールノボラック樹脂とナフトキノンジアジドとの混合系が特に望ましい。
【0044】
上述したフォトレジストを基板上にスピンコートし、加熱処理を行って余剰の溶剤を除去し、基板表面にフォトレジスト薄膜が塗布された原板1を得る。続いて、所定の条件で露光ビームを照射し、極性変化の生じた露光ビーム照射領域をアルカリ現像液で溶解し、レジストパターンが形成された原板1を得る。現像液としては、極性変化の生じたフォトレジスト薄膜を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、水酸化カリウム(KOH)水溶液、燐酸緩衝液、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液が、現像後のフォトレジストの側壁角が急峻であり、好適である。
【0045】
続いて、原板1を反応性イオンエッチング処理後、基板表面に残ったフォトレジストを除去し、光ディスク用原盤が完成する。フォトレジストの除去方法は、光ディスク用原盤に転写した形状を劣化させないものであれば特に限定されない。具体的には、酸素プラズマアッシング、有機溶剤による溶解、アルカリ水溶液による溶解等をが挙げられ、中でも、レジスト残渣が少ないアルカリ水溶液による溶解が特に好適である。
【0046】
さらに、このように調製した光ディスク用原盤を用いて以下のように情報記録媒体を調製する。フォトレジストパターンを転写した光ディスク用原盤表面に導電膜を形成し、ニッケル電気めっきを行い、フォトレジストパターンを形成した光ディスク用原盤より剥離することによって情報記録媒体用スタンパが得られる。
【0047】
また、フォトレジストパターンをエッチングマスクとして、反応性イオンエッチングによりフォトレジストパターンを原板1に転写し、この表面に導電膜を形成し、ニッケル電気めっきを行い、フォトレジストパターンを形成した光ディスク用原盤より剥離することによって光ディスク用スタンパが得ることもできる。このような方法によれば、再生信号のノイズがより低い情報記録媒体を調製することができる。
反応性イオンエッチングに用いる気体は、フォトレジストのエッチング速度に対する基板のエッチング速度、即ちエッチング選択比が1.0以上であれば特に限定されないが、例えば、CHF、C等の炭化フッ素ガスは、エッチング選択比が大きく好適である。中でも、Cはエッチング速度の面内均一性が良好となり特に好適である。
【0048】
更に、情報記録媒体用スタンパを用いて、2P法、射出成型法等により、フォトレジストパターンを表面に形成した基板を得、これに金属反射膜を形成し、保護コート膜を形成することにより情報記録媒体を作成する。このように作成される情報記録媒体は、プリピットの形状が矩形状であり、且つ、隣接するトラックのかぶり光の影響によるピット形状の変形が軽減され、再生信号に基づくジッターが大幅に低減される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施の形態が適用される光学露光装置を説明する図である。図1(a)は、光学露光装置の光学系であり、図1(b)は、光学系とフォトレジスト層を塗布した原板との相対位置を変動させる変動手段である。
【図2】位相シフトマスクを説明する図である。
【図3】位相シフトマスクを透過したレーザビームの強度分布を説明する図である。図3(a)は、位相シフトマスクを透過する前のレーザビームの強度分布であり、図3(b)は、位相シフトマスクを透過したレーザビームの強度分布である。
【図4】光学露光装置により照射されたレーザビームの露光波形とフォトレジスト層の露光状態を説明する図である。図4(a)は、原板に塗布されたフォトレジスト層の露光状態であり、図4(b)は、ビットデータであり、図4(c)は、プリピットを形成するレーザビーム(ビーム1)の露光波形であり、図4(d)は、プリピットの内周側及び外周側を照射する2本のレーザビーム(ビーム2)の露光波形である。
【図5】本実施の形態が適用される方法によりカッティングされたピットデータのピット長の長さ分散を説明する図である。
【図6】光ディスク用原盤の表面形状を説明する図である。
【図7】従来の露光方式を説明する図である。図7(a)は、フォトレジスト層の露光状態であり、図7(b)は、ビットデータであり、図7(c)は、プリピットを形成するレーザビームの露光波形であり、図7(d)は、プリピットの内周側及び外周側を照射する2個のレーザビームの露光波形である。
【図8】従来の方式でカッティングされたピットデータのピット長の長さ分散を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
1…原板、2…ターンテーブル、3…固定光学系、4移動光学系、11…レーザ光源、12…レーザビーム、13…第1のミラー、14…ノイズイータ、15…ハーフミラー、16…第1のレーザビーム、17…第1の音響光学効果光変調器、18…第1のレンズ、19…第2のレンズ、20…第2のレーザビーム、21…第2の音響光学効果光変調器、22…第3のレンズ、23…第4のレンズ、24…1/2波長板、25…第2のミラー、26…第3のミラー、27…制御部、32…位相シフトマスク、33…分割ビーム、34…第4のミラー、35…偏光ビームスプリッタ、36…合成されたレーザビーム、37…対物レンズ、38…フォーカス検出器、39…ダイクロックミラー、100…光学露光装置、102,702…プリピット部、103,703…低露光部、104…先端露光部、105…後端露光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原板表面に塗布されたフォトレジスト層に所定の露光信号に従ったレーザビームを照射してプリピット部分を露光し、
前記プリピット部分のトラック方向の端部を、前記レーザビームと共に当該レーザビームに同期させた他のレーザビームを用いて露光することを特徴とする原盤露光方法。
【請求項2】
前記端部が、先端部又は後端部であることを特徴とする請求項1記載の原盤露光方法。
【請求項3】
前記レーザビームが第1のレーザビームであり、前記他のレーザビームが前記第1のレーザビームの両側に配置された第2及び第3のレーザビームであることを特徴とする請求項1記載の原盤露光方法。
【請求項4】
前記他のレーザビームの強度が、前記レーザビームの強度の50%以下であることを特徴とする請求項1記載の原盤露光方法。
【請求項5】
前記フォトレジスト層の前記プリピット部分が形成されない部分に、前記レーザビームと逆位相の前記他のレーザビームを更に照射することを特徴とする請求項1記載の原盤露光方法。
【請求項6】
前記他のレーザビームの強度が、前記レーザビームの強度の10%以下であることを特徴とする請求項4記載の原盤露光方法。
【請求項7】
前記フォトレジスト層は、ポジ型フォトレジストから構成されることを特徴とする請求項1記載の原盤露光方法。
【請求項8】
原板表面に塗布されたフォトレジスト層に所定の露光パターンを形成する光学露光装置であって、
前記露光パターンにおけるプリピット部分のトラック方向の端部に、所定の露光信号に同期させた複数のレーザビームを同時に照射するレーザ照射手段と、
前記原板とレーザビームとの相対的位置を変動させる変動手段と、
を有することを特徴とする光学露光装置。
【請求項9】
前記レーザ照射手段は、レーザ光源より出射されたレーザビームを第1のレーザビームと第2のレーザビームとに分割するビーム分割手段と、前記第2のレーザビームをπの光路差を有する2本のレーザビームにさらに分割する位相シフトマスクと、を備えることを特徴とする請求項8記載の光学露光装置。
【請求項10】
プリピットを有する情報記録媒体用原盤を形成する原盤形成工程と、
形成された前記情報記録媒体用原盤の前記プリピットの形状を転写した金属スタンパを形成するスタンパ形成工程と、を有し、
前記原盤形成工程が、原板表面に塗布されたフォトレジスト層に所定の露光信号に従った第1のレーザビームを用いてプリピット部分を露光するとともに、前記第1のレーザビームに同期させた第2及び第3のレーザビームを用いて前記プリピット部分の先端と後端とを露光することを特徴とする情報記録媒体の製造方法。
【請求項11】
情報記録媒体用原盤のフォトレジスト層に形成されたプリピットの形状を転写した情報記録媒体用スタンパであって、
最短マークのプリピットの幅(W)と、前記最短マークのプリピットのトラック方向の端部の曲率半径(R)とが、下記式(1)で表される関係を有することを特徴とする情報記録媒体用スタンパ。
R<(W/2) (1)
【請求項12】
スパイラル状又は同心円状に形成されたトラックに所定の大きさのプリピットが形成された基板を有し、
前記プリピットは、最短マークのプリピットの幅(W)とトラック方向の端部の曲率半径(R)とが、下記式(1)で表される関係を有することを特徴とする情報記録媒体。
R<(W/2) (1)
【請求項13】
前記最短マークのプリピットに基づく再生信号のジッターが10%以下であることを特徴とする請求項12記載の情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−12334(P2006−12334A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190136(P2004−190136)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】