説明

反射防止膜、光学素子および光学系

【課題】より高い屈折率を有する光学部材を接合する場合であっても、十分に広い帯域においてより低い反射率を示す反射防止膜を提供する。
【解決手段】反射防止膜C1は、光学基板100と接着層200との間に設けられた合計6層からなる多層膜であり、第1の層1から第6の層6までの各層が接着層200の側から順に積層されたものである。反射防止膜C1における全体としての屈折率は、光学基板100の屈折率よりも低く、かつ、接着層200の屈折率よりも高くなっている。第1の層1および第3の層3は、例えばd線に対して1.35以上1.50以下の屈折率を示す低屈折率層である。第2の層2,第4の層4および第6の層6は、例えばd線に対して1.55以上1.85以下の屈折率を示す中間屈折率層である。第5の層5は、例えばd線に対して1.70以上2.50以下の範囲において中間屈折率層よりも高い屈折率を示す高屈折率層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレンズやフィルターなどの光学部材同士の接合面に形成され、所定の帯域の光に対して反射防止効果を発揮する反射防止膜、ならびにそれを備えた光学素子および光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、写真用カメラや放送用カメラなどの撮像装置においては、その光路上にレンズやプリズム、あるいはフィルターなどの光学部材が多数配置されている。これらの光学部材は透明な樹脂からなる接着層を介して互いに接合される場合があるが、その場合、接着層と光学部材との接合界面において入射光の一部が反射光となり、映像に現れるフレアやゴーストの原因となる可能性が生ずる。また、接合界面での反射率が入射光の波長に依存した分布を有するうえ、各光学部材の構成材料に応じてその反射率が異なった波長依存性を示すことから、色度バランスが劣化し、撮像装置全体でのホワイトバランスを調整する必要がある。
【0003】
こうしたことから、従来より、光学部材と接着層との間に反射防止膜を設けるようにしている。
【0004】
この反射防止膜は互いに異なる屈折率を有する誘電体膜を組み合わせた多層膜であり、例えば下記の特許文献1,2に開示されたものが知られている。
【特許文献1】特開2001−74903号公報
【特許文献2】特開2006−284656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、d線(波長λ=587.56nm)に対する屈折率Ndが2.0前後の高い屈折率を有するガラスを採用した光学系が用いられることが多くなりつつあり、上記特許文献1,2に開示された反射防止膜では、一般的に可視域とされる帯域の上下限付近(すなわち400nm付近および700nm付近)において十分に反射率を低減することが困難となってきている。ここで、従来より高い屈折率を有する樹脂材料によって接着層を構成することで反射率の低減を実現する方法も考えられるが、現実には屈折率Ndが1.6を超えるような適当な樹脂が存在しない。したがって、屈折率が2.0付近のガラスを貼り合わせるような場合であっても、優れた光透過性を発揮することのできる反射防止膜が求められている。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、より高い屈折率を有する光学部材を接合する場合であっても、十分に広い帯域においてより低い反射率を示す反射防止膜を提供することにある。本発明の第2の目的は、そのような反射防止膜を備えた光学素子および光学系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の反射防止膜は、光学部材と接着層との間に設けられ、接着層の側から順に積層された第1から第6の層を少なくとも含む多層膜からなるものである。ここで、多層膜の全体としての等価屈折率は、光学部材の屈折率よりも低く、かつ、接着層の屈折率よりも高くなっている。また、第2,第4および第6の層の屈折率は、第1および第3の層の屈折率よりも高く、かつ、第5の層の屈折率よりも低くなっている。また、本発明の光学素子は、d線に対して1.75以上2.10以下の屈折率を有する光学部材と他の光学部材とが接着層を介して接合されたものあって、光学部材と接着層との間に本発明の反射防止膜を設けるようにしたものである。さらに、本発明の光学系は、本発明の光学素子を備えるようにしたものである。
【0008】
本発明の反射防止膜、光学素子および光学系では、接着層の側から順に少なくとも第1から第6の層を含む多層膜が光学部材と接着層との中間の屈折率を有し、第2,第4および第6の層の屈折率が、第1および第3の層の屈折率よりも高く、かつ、第5の層の屈折率よりも低くなっているので、基板の屈折率Ndが2.0を超える場合であっても、より広い帯域において反射率分布が十分に低減される。
【0009】
本発明の反射防止膜、光学素子および光学系では、さらに、以下の条件式(1)〜(6)を全て満足していることが望ましい。但し、λ0は中心波長であり、N1〜N6は第1から第6の層における中心波長λ0に対する屈折率であり、d1〜d6は第1から第6の層における物理的膜厚である。
0.06×λ0≦N1・d1≦0.11×λ0 …… (1)
0.07×λ0≦N2・d2≦0.13×λ0 …… (2)
0.06×λ0≦N3・d3≦0.18×λ0 …… (3)
0.31×λ0≦N4・d4≦0.43×λ0 …… (4)
0.04×λ0≦N5・d5≦0.09×λ0 …… (5)
0.06×λ0≦N6・d6≦0.18×λ0 …… (6)
【0010】
本発明の反射防止膜、光学素子および光学系では、さらに、第6の層の光学部材側に、第7の層と第8の層とを順に積層するようにしてもよい。ここで、第7の層の屈折率は第1から第4および第6の層よりも高いことが望ましく、第8の層の屈折率は、第1および第3の層の屈折率よりも高く、かつ、第5および第7の層の屈折率よりも低いことが望ましい。その場合、以下の条件式(7)および(8)を共に満足するようにするとよい。但し、N7およびN8はそれぞれ第7層および第8層における中心波長λ0に対する屈折率であり、d7およびd8はそれぞれ第7層および第8層における物理的膜厚である。
0.05×λ0≦N7・d7≦0.14×λ0 …… (7)
0.04×λ0≦N8・d8≦0.07×λ0 …… (8)
【0011】
本発明の反射防止膜、光学素子および光学系では、第1および第3の層がd線に対して1.35以上1.50以下の屈折率を示す低屈折率材料からなり、第2,第4,第6および第8の層がd線に対して1.55以上1.85以下の屈折率を示す中間屈折率材料からなり、第5および第7の層がd線に対して1.70以上2.50以下の範囲において中間屈折率材料よりも高い屈折率を示す高屈折率材料からなることが望ましい。
【0012】
本発明の反射防止膜、光学素子および光学系では、低屈折率材料として、MgF2 、SiO2 およびAlF3 のうちの少なくとも1種を含むものを用い、中間屈折率材料として、PrAlO3 、La2X Al2Y 3(X+Y) 、Al2 3 、GeO2 およびY23 のうちの少なくとも1種を含むものを用い、高屈折率材料として、LaTiO3 、ZrO2 、TiO2 、Ta25 、Nb25 、HfO2 およびCeO2 のうちの少なくとも1種を含むものを用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の反射防止膜によれば、光学部材と接着層との中間の屈折率を有すると共に第1から第6の層を含む多層膜からなり、この多層膜における第2,第4および第6の層の屈折率を、第1および第3の層の屈折率よりも高く、かつ、第5の層の屈折率よりも低くなるように設定したので、光学部材の屈折率が例えば2.0前後の場合であっても、十分に広い帯域においてより低い反射率を発現することができる。したがって、このような反射防止膜を用いた光学素子(例えば接合レンズなど)を含む写真用カメラや放送用カメラなどに搭載される光学系によれば、フレアやゴーストの発生を抑制すると共に、より優れた色度バランス性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明におけるいくつかの実施の形態について、図面を参照して各々詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明における第1の実施の形態としての反射防止膜C1の構成を示す概略断面図である。図1の反射防止膜C1は、後述の第1の数値実施例(図4〜図10)に対応している。
【0016】
反射防止膜C1は、光学基板100と接着層200との間に設けられ、接着層200の側から順に積層された第1〜第6の層1〜6を有する多層膜である。反射防止膜C1における全体としての等価屈折率は、光学基板100の屈折率よりも低く、かつ、接着層200の屈折率よりも高くなるように設定されている。なお、図1では、反射防止膜C1が設けられた光学基板100の表面100Sを平面としたが、これに限らず、曲面としてもよい。すなわち、光学基板100として球面や非球面を有するレンズを用い、その球面や非球面の上に反射防止膜C1を設けるようにしてもよい。
【0017】
光学基板100は、ガラスや結晶材料などの透明材料によって構成されている。具体的には、d線(波長λ=587.56nm)に対して例えば1.75以上2.10以下の屈折率を示すSF−14,SF6(以上、いずれも独国ショット社)、LASF−N17,S−NPH2,S−TIH53,S−LAH79(以上、いずれもオハラ社)などによって構成することが望ましい。
【0018】
接着層200は、例えばエポキシ樹脂系の接着剤により構成されており、例えばd線に対して1.45以上1.60以下の屈折率を示すものである。
【0019】
第1の層1および第3の層3は、例えばd線に対して1.35以上1.50以下の屈折率を示す低屈折率材料からなる低屈折率層である。また、第2の層2,第4の層4および第6の層6は、例えばd線に対して1.55以上1.85以下の屈折率を示す中間屈折率材料からなる中間屈折率層である。さらに、第5の層5は、例えばd線に対して1.70以上2.50以下の範囲において中間屈折率材料よりも高い屈折率を示す高屈折率材料からなる高屈折率層である。
【0020】
低屈折率材料としては、例えばフッ化マグネシウム(MgF2 )、二酸化硅素(SiO2 )およびフッ化アルミニウム(AlF3)、ならびにそれらの混合物および化合物を用いることができる。また、中間屈折率材料としては、例えばプラセオジウムアルミネート(PrAlO3 )、ランタンアルミネート(La2X Al2Y 3(X+Y) )、酸化アルミニウム(Al2 3 )、酸化ゲルマニウム(GeO2)および酸化イットリウム(Y23)、ならびにそれらの混合物および化合物を用いることができる。さらに、高屈折率材料としては、例えばチタン酸ランタン(LaTiO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta25)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化ハフニウム(HfO2)および酸化セリウム(CeO2)、ならびにそれらの混合物および化合物を用いることができる。
【0021】
第1の層1〜第6の層6については、以下の条件式(1)〜(6)を全て満足するように構成されていることが望ましい。ただし、λ0は中心波長(単位:nm)であり、N1〜N6は第1の層1〜第6の層6における中心波長λ0に対する屈折率であり、d1〜d6は第1の層1から第6の層6における物理的膜厚(単位:nm)である。
【0022】
0.06×λ0≦N1・d1≦0.11×λ0 …… (1)
0.07×λ0≦N2・d2≦0.13×λ0 …… (2)
0.06×λ0≦N3・d3≦0.18×λ0 …… (3)
0.31×λ0≦N4・d4≦0.43×λ0 …… (4)
0.04×λ0≦N5・d5≦0.09×λ0 …… (5)
0.06×λ0≦N6・d6≦0.18×λ0 …… (6)
【0023】
このように、本実施の形態の反射防止膜C1によれば、接着層200の側から順に第1の層1〜第6の層6からなる多層膜が、全体として光学基板100と接着層200との中間の屈折率を有し、第2の層2,第4の層4および第6の層6の屈折率が、いずれも、第1の層1および第3の層3の屈折率よりも高く、かつ、第5の層5の屈折率よりも低くなるように設定されているので、光学基板100の屈折率Ndが2.0前後であっても、より広い帯域において反射率が十分に低減される。さらに、各条件式(1)〜(6)を満たすことにより光学膜厚N・dの最適化を図るようにしたので、上記の効果をよりいっそう高めることができる。具体的には、例えばd線に対する屈折率が2.00の光学基板100と、d線に対して例えば1.50以上1.60以下の屈折率を示す接着層200との間に反射防止膜C1を設けた場合には、少なくとも400nmから700nmの帯域において垂直入射で0.02%以下の反射率に抑えることができる。したがって、この反射防止膜C1を写真用カメラや放送用カメラなどにおける光学系に適用した場合には、入射光の反射を低減することにより、フレアやゴーストの発生を抑制すると共に、より優れた色度バランス性を得ることができる。
【0024】
さらに、反射防止膜の反射率分布は、一般的に入射角が大きくなるほど短波長側にシフトする傾向にある。したがって、本実施の形態の反射防止膜C1によれば、従来よりも広い帯域において反射率を低減できるので、より大きな入射角を有する入射光にも対応可能となる。
【0025】
また、一般に、多層膜をレンズ面などの曲面に形成する場合、その曲面の曲率が比較的大きな領域ではそれ以外の領域(曲率の比較的小さな領域)よりも多層膜の厚みが薄くなりやすい傾向にある。しかしながら、本実施の形態の反射防止膜C1であれば従来より広い帯域において十分に低い反射率を発現するので、上記のようにその厚みに多少のばらつきが生じた場合であっても良好な光学特性を維持することができる。
【0026】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明における第2の実施の形態としての反射防止膜C2の構成を示す概略断面図である。図2の反射防止膜C2は、後述の第2の数値実施例(図10〜図16)に対応している。
【0027】
反射防止膜C2は、合計8層からなる多層膜であることを除き、上記第1の実施の形態における反射防止膜C1と同様の構成を有している。すなわち、反射防止膜C2は、反射防止膜C1における第6の層6の光学基板100の側に第7の層7および第8の層8を追加して積層したものである。したがって、以下では、主に第7の層7および第8の層8に関する説明を記載することとし、その他の説明については適宜省略する。
【0028】
第8の層8は、第2の層2,第4の層4および第6の層6と同じく、例えばd線に対して1.55以上1.85以下の屈折率を示す中間屈折率材料からなる中間屈折率層である。これに対し、第7の層7は、第5の層5と同様に、例えばd線に対して1.70以上2.50以下の範囲において上記の中間屈折率層よりも高い屈折率を示す高屈折率層である。
【0029】
第7の層7および第8の層8については、以下の条件式(7)および条件式(8)を共に満足するように構成されていることが望ましい。
【0030】
0.05×λ0≦N7・d7≦0.14×λ0 …… (7)
0.04×λ0≦N8・d8≦0.07×λ0 …… (8)
【0031】
このように、本実施の形態の反射防止膜C2によれば、接着層200の側から順に第1の層1〜第8の層8からなる多層膜が、全体として光学基板100と接着層200との中間の屈折率を有し、第2の層2,第4の層4,第6の層6および第8の層8の各屈折率が、いずれも、第1の層1および第3の層3の各屈折率よりも高く、かつ、第5の層5および第7の層7の各屈折率よりも低くなるように設定されているので、光学基板100の屈折率Ndが2.0前後であっても、第1の実施の形態における反射防止膜C1よりもさらに広い帯域において反射率が十分に低減される。さらに、各条件式(1)〜(8)を満たすことにより光学膜厚N・dの最適化を図るようにしたので、上記の効果をよりいっそう高めることができる。具体的には、例えばd線に対する屈折率Ndが2.00の光学基板100と、d線に対して例えば1.50以上1.60以下の屈折率を示す接着層200との間に反射防止膜C2を設けた場合には、少なくとも400nmから950nmの帯域において垂直入射で0.02%以下の反射率に抑えることができる。
【0032】
[第3の実施の形態]
図3は、本発明における第3の実施の形態としてのズームレンズの構成例を示している。このズームレンズには、上記第1の実施の形態における反射防止膜C1、または第2の実施の形態における反射防止膜C2が設けられたものである。
【0033】
図3において、符号Riは、最も物体側の構成要素の面を1番目として、像側(結像側)に向かうに従い順次増加するようにして符号を付したi番目の面の曲率半径を示す。符号Diは、i番目の面とi+1番目の面との光軸Z1上の面間隔を示す。なお、符号Diについては、変倍に伴って変化する部分の面間隔のみ符号を付す。また、図3は、広角端でのレンズ配置を示している。
【0034】
このズームレンズは、ディジタルスチルカメラなどの撮像機器に搭載されるものであり、光軸Z1に沿って物体側から順に第1から第5のレンズ群G1〜G5が配置されている。ここでは、第1および第4のレンズ群G1,G4は負の屈折力を有し、第3および第5のレンズ群G3,G5は正の屈折力を有している。なお第2のレンズ群G2は、光路折り曲げのためのプリズムL21からなり、屈折力を有していない。また、第3のレンズ群G3には開口絞りStが設けられている。
【0035】
このズームレンズの結像面(撮像面)Simgには、例えば図示しない撮像素子が配置される。第5のレンズ群G5と撮像面Simgとの間には、レンズを装着するカメラ側の構成に応じて、種々の光学部品GCが配置されている。光学部品GCとしては、例えば撮像面保護用のカバーガラスや各種光学フィルタなどの平板状の部材が配置される。
【0036】
このズームレンズでは、第1のレンズ群G1、第2のレンズ群G2および第5のレンズ群G5がズーム時に常時固定であり、第3のレンズ群G3および第4のレンズ群G4がズーム時に光軸Z1上で別々に移動するようになっている。第3のレンズ群G3と第4のレンズ群G4は、広角端から望遠端へと変倍させるに従い、図3に矢印で示したように、光軸Z1上で物体側に移動する。
【0037】
第4のレンズ群G4は、2枚のレンズL41,L42からなる接合レンズL40と、1枚の負レンズL43とを有している。レンズL41,L42は、いずれも、例えば屈折率Ndが1.75以上2.10以下の屈折率を有する硝材などによって構成されている。図3では図示を省略するが、レンズL41とレンズL42との接合界面には図1に示した反射防止膜C1(または図2に示した反射防止膜C2)と接着層200とが設けられている。具体的には、レンズL41の像側の面およびレンズL42の物体側の面のそれぞれに反射防止膜C1(または反射防止膜C2)が設けられており、それらが接着層200によって接合されている。
【0038】
このように、接合レンズL40の接合界面に反射防止膜C1(または反射防止膜C2)を設けるようにしたので、レンズL41,レンズL42の屈折率Ndが2.0前後であっても、従来よりも広い帯域においてより低い反射率を得ることができる。したがって、この接合レンズL40を含む本実施の形態のズームレンズでは、入射光の反射を低減することにより、フレアやゴーストの発生を抑制すると共に、より優れた色度バランス性を得ることができる。
【0039】
さらに、このズームレンズでは、反射防止膜C1(または反射防止膜C2)を設けることで、赤外域のゴーストを押さえつつ、近赤外域から可視域に亘る帯域での透過率を向上させることもできる。
【0040】
なお、レンズL41の像側の面またはレンズL42の物体側の面のいずれかのみに反射防止膜C1(または反射防止膜C2)を設けるようにしてもよいが、双方に設けた場合のほうが上記の効果を得やすいので好ましい。
【実施例】
【0041】
次に、本実施の形態に係る反射防止膜の具体的な数値実施例について説明する。なお、ここでの反射率は、全て垂直入射を行った場合の値である。
【0042】
<第1の数値実施例>
第1の数値実施例(実施例1−1〜1−6)を図4〜図9に示す。ここで図4(A),図5(A),図6(A),図7(A),図8(A)および図9(A)が、図1に示した反射防止膜C1に対応する実施例1−1〜1−6の基本データをそれぞれ示している。さらに、図4(B),図5(B),図6(B),図7(B),図8(B)および図9(B)が実施例1−1〜1−6の反射率分布をそれぞれ示している。
【0043】
図4(A),図5(A),図6(A),図7(A),図8(A)および図9(A)には、各層の構成材料、d線に対する屈折率N、物理的膜厚d(単位:nm)および光学膜厚(単位:nm)をそれぞれ示す。構成材料の欄における「sub−h4」は、LaTiO3 を主成分とするサブスタンスH4(独国メルク社)を表している。また光学膜厚N・dの欄に示した中心波長λ0については全て520nmとした。各図から明らかなように、各層の屈折率Nおよび光学膜厚N・dの値は条件式(1)〜(8)を全て満足している。一方、図4(B),図5(B),図6(B),図7(B),図8(B)および図9(B)では、縦軸を反射率(%)とし、横軸を測定時の波長λ(nm)とし、各実施例における反射率(%)の波長依存性を示している。図10は、図4(B),図5(B),図6(B),図7(B),図8(B)および図9(B)のグラフをまとめて示したものである。各図から明らかなように、いずれにおいても、おおよそ400nmから650nmの帯域において反射率が0.02%未満となった。特に、実施例1−6を除けば、すなわち光学基板100の屈折率Nが1.80以上であればおおよそ400nmから700nmの帯域において反射率が0.01%未満に収まることがわかった。
【0044】
<第2の数値実施例>
第2の数値実施例(実施例2−1〜2−6)を図11〜図16に示す。
【0045】
ここで図11(A),図12(A),図13(A),図14(A),図15(A),および図16(A)が、図2に示した反射防止膜C2に対応する実施例2−1〜2−6の基本データをそれぞれ示している。光学膜厚N・dの欄に示した中心波長λ0については全て520nmとした。各図から明らかなように、各層の屈折率Nおよび光学膜厚N・dの値は条件式(1)〜(8)を全て満足している。
【0046】
一方、図11(B),図12(B),図13(B),図14(B),図15(B)および図16(B)が、実施例2−1〜2−6の反射率分布をそれぞれ示している。図17は、図11(B),図12(B),図13(B),図14(B),図15(B)および図16(B)のグラフをまとめて示したものである。各図から明らかなように、いずれにおいても、おおよそ400nmから900nmの帯域において反射率が0.02%未満となった。特に、実施例2−6を除けば、すなわち光学基板100の屈折率Nが1.80以上であればおおよそ400nmから850nmの帯域において反射率が0.01%未満に収まることがわかった。
【0047】
<比較例>
ここで、上記第1および第2の数値実施例に対する比較例として、図18に示した反射防止膜C101の構成を有する比較例1−1〜1−5を図19〜図23に示す。図18において、反射防止膜C101は全体として光学基板100と接着層200との中間の屈折率を有する。第1の層11および第2の層12は、いずれも、例えばd線に対して1.55以上1.85以下の屈折率を示す中間屈折率材料からなる中間屈折率層であるが、第2の層12のほうが第1の層11よりも高い屈折率を有している。具体的な比較例1−1〜1−5の基本データは、図19(A),図20(A),図21(A),図22(A)および図23(A)に示した通りである。第1の層11にはAl2 3 を用い、第2の層12には「sub−m2」で表示したランタンアルミネート(La2 3 ・3.3Al2 3 )を主成分とするサブスタンスM2(独国メルク社)を用いた。なお、光学膜厚N・dの欄に示した中心波長λ0については全て520nmとした。
【0048】
一方、図19(B),図20(B),図21(B),図22(B)および図23(B)は、比較例1−1〜1−5の反射率分布をそれぞれ示している。図24は、図19(B),図20(B),図21(B),図22(B)および図23(B)のグラフをまとめて示したものである。
【0049】
各図から明らかなように、光学基板100の屈折率が約1.85である比較例1−4を除き、いずれにおいても、おおよそ400nmから650nmの帯域において反射率が0.02%を大きく上回っている。比較例1−4においても、波長400nmでの屈折率が0.03%を上回り、かつ、波長700nmでの屈折率が0.01%を上回る結果となった。
【0050】
以上の各基本データおよび各反射率分布図から明らかなように、各実施例では、2層構成の比較例と比べて大幅に反射率分布が改善されている。すなわち、本発明の反射防止膜によれば、従来よりも広い帯域において反射率を十分に低減し、かつ、その反射率の分布を十分に平坦化することが可能なことが確認された。
【0051】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、各層および各基板の屈折率および光学膜厚の値は、上記各数値実施例で示した値に限定されず、他の値をとり得るものである。また、各層および各基板を構成する材料種についても上記各数値実施例で示したものに限定されず、他の材料種を利用することが可能である。
【0052】
さらに、各層を、等価膜理論に基づき、複数の膜によって構成してもよい。すなわち、2種類の屈折率膜を対称に積層することにより、光学的に単層として振る舞うように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明における第1の実施の形態としての反射防止膜の断面図である。
【図2】本発明における第2の実施の形態としての反射防止膜の断面図である。
【図3】本発明における第3の実施の形態としてのズームレンズの断面図である。
【図4】図1に示した反射防止膜に対応する実施例1−1の基本データおよび反射率分布図である。
【図5】図1に示した反射防止膜に対応する実施例1−2の基本データおよび反射率分布図である。
【図6】図1に示した反射防止膜に対応する実施例1−3の基本データおよび反射率分布図である。
【図7】図1に示した反射防止膜に対応する実施例1−4の基本データおよび反射率分布図である。
【図8】図1に示した反射防止膜に対応する実施例1−5の基本データおよび反射率分布図である。
【図9】図1に示した反射防止膜に対応する実施例1−6の基本データおよび反射率分布図である。
【図10】図5〜図9に示した実施例1−1〜1−6の全ての反射率分布をまとめた特性図である。
【図11】図2に示した反射防止膜に対応する実施例2−1の基本データおよび反射率分布図である。
【図12】図2に示した反射防止膜に対応する実施例2−2の基本データおよび反射率分布図である。
【図13】図2に示した反射防止膜に対応する実施例2−3の基本データおよび反射率分布図である。
【図14】図2に示した反射防止膜に対応する実施例2−4の基本データおよび反射率分布図である。
【図15】図2に示した反射防止膜に対応する実施例2−5の基本データおよび反射率分布図である。
【図16】図2に示した反射防止膜に対応する実施例2−6の基本データおよび反射率分布図である。
【図17】図11〜図16に示した実施例2−1〜2−6の全ての反射率分布をまとめた特性図である。
【図18】比較例としての反射防止膜の断面図である。
【図19】図18に示した反射防止膜に対応する比較例1−1の基本データおよび反射率分布図である。
【図20】図18に示した反射防止膜に対応する比較例1−2の基本データおよび反射率分布図である。
【図21】図18に示した反射防止膜に対応する比較例1−3の基本データおよび反射率分布図である。
【図22】図18に示した反射防止膜に対応する比較例1−4の基本データおよび反射率分布図である。
【図23】図18に示した反射防止膜に対応する比較例1−5の基本データおよび反射率分布図である。
【図24】図19〜図23に示した比較例1−1〜1−5の全ての反射率分布をまとめた特性図である。
【符号の説明】
【0054】
1〜8…第1の層〜第8の層、C1,C2…反射防止膜、G1〜G5…第1〜第5のレンズ群、St…絞り、100…光学基板、100S…表面、200…接着層。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部材と接着層との間に設けられ、前記接着層の側から順に積層された第1から第6の層を少なくとも含む多層膜からなり、
前記多層膜の全体としての等価屈折率は、前記光学部材の屈折率よりも低く、かつ、前記接着層の屈折率よりも高く、
前記第2,第4および第6の層の屈折率は、前記第1および第3の層の屈折率よりも高く、かつ、前記第5の層の屈折率よりも低い
ことを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
さらに、以下の条件式(1)〜(6)を全て満足することを特徴とする請求項1または請求項1に記載の反射防止膜。
0.06×λ0≦N1・d1≦0.11×λ0 …… (1)
0.07×λ0≦N2・d2≦0.13×λ0 …… (2)
0.06×λ0≦N3・d3≦0.18×λ0 …… (3)
0.31×λ0≦N4・d4≦0.43×λ0 …… (4)
0.04×λ0≦N5・d5≦0.09×λ0 …… (5)
0.06×λ0≦N6・d6≦0.18×λ0 …… (6)
ただし、
λ0:中心波長
N1〜N6:第1から第6の層における中心波長λ0に対する屈折率
d1〜d6:第1から第6の層における物理的膜厚
【請求項3】
前記第1および第3の層は、d線に対して1.35以上1.50以下の屈折率を示す低屈折率材料からなり、
前記第2,第4および第6の層は、d線に対して1.55以上1.85以下の屈折率を示す中間屈折率材料からなり、
前記第5の層は、d線に対して1.70以上2.50以下の範囲において前記中間屈折率材料よりも高い屈折率を示す高屈折率材料からなる
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の反射防止膜。
【請求項4】
さらに、前記第6の層の光学部材側に、第7の層と第8の層とが順に積層されており、
前記第7の層の屈折率は前記第1から第4および第6の層よりも高く、
前記第8の層の屈折率は前記第1および第3の層の屈折率よりも高く、かつ、前記第5および第7の層の屈折率よりも低い
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項5】
さらに、以下の条件式(7)および(8)を共に満足することを特徴とする請求項4記載の反射防止膜。
0.05×λ0≦N7・d7≦0.14×λ0 …… (7)
0.04×λ0≦N8・d8≦0.07×λ0 …… (8)
ただし、
λ0:中心波長
N7,N8:第7層および第8層における中心波長λ0に対する屈折率
d7,d8:第7層および第8層における物理的膜厚
【請求項6】
前記第1および第3の層は、d線に対して1.35以上1.50以下の屈折率を示す低屈折率材料からなり、
前記第2,第4,第6および第8の層は、d線に対して1.55以上1.85以下の屈折率を示す中間屈折率材料からなり、
前記第5および第7の層は、d線に対して1.70以上2.50以下の範囲において前記中間屈折率材料よりも高い屈折率を示す高屈折率材料からなる
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の反射防止膜。
【請求項7】
前記低屈折率材料は、フッ化マグネシウム(MgF2)、二酸化珪素(SiO2)およびフッ化アルミニウム(AlF3)のうちの少なくとも1種を含むものであり、
前記中間屈折率材料は、プラセオジウムアルミネート(PrAlO3 )、ランタンアルミネート(La2X Al2Y 3(X+Y) )、酸化アルミニウム(Al2 3 )、酸化ゲルマニウム(GeO2)および酸化イットリウム(Y23)のうちの少なくとも1種を含むものであり、
前記高屈折率材料は、チタン酸ランタン(LaTiO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta25)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化ハフニウム(HfO2)および酸化セリウム(CeO2)のうちの少なくとも1種を含むものである
ことを特徴とする請求項3または請求項6に記載の反射防止膜。
【請求項8】
前記光学部材はd線に対して1.75以上2.10以下の屈折率を示し、
前記接着層はd線に対して1.45以上1.60以下の屈折率を示す
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の反射防止膜。
【請求項9】
d線に対して1.75以上2.10以下の屈折率を有する光学部材と、他の光学部材とが接着層を介して接合された光学素子であって、
前記光学部材と前記接着層との間に、請求項1から請求項7に記載の反射防止膜が設けられている
ことを特徴とする光学素子。
【請求項10】
前記他の光学部材はd線に対して1.75以上2.10以下の屈折率を有し、
前記他の光学部材と前記接着層との間にも請求項1から請求項7に記載の反射防止膜が設けられている
ことを特徴とする請求項9に記載の光学素子。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の光学素子を備えたことを特徴とする光学系。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−233622(P2008−233622A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74530(P2007−74530)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】