説明

可変ノズルターボチャージャ

【課題】排気浄化用燃料及びスーツが排気とともにリンク室内に入り込むのを抑制し、もって、リンク室の壁面やリンク機構に付着・堆積してリンク機構の動きを妨げるのを回避する。
【解決手段】可変ノズルターボチャージャ16は、タービンホイールの周りに排気流路(スクロール通路46、ノズル通路47)を有するタービンハウジング45と、ノズル通路47に設けられた複数のノズルベーン53と、タービンハウジング45を含む複数の部材により囲まれたリンク室54内に設けられ、かつ前記複数のノズルベーン53に連結されたリンク機構55とを備える。こうした構成の可変ノズルターボチャージャ16において、スクロール通路46及びリンク室54を連通させ、かつ排気圧力の変動に伴いスクロール通路46及びリンク室54間で流動する排気を貯留するための連通路65を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンホイールに吹付けられる排気の流路に可変ノズルを備え、その可変ノズルの開度を変更して排気の流速を調整するようにした可変ノズルターボチャージャに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンに搭載される一般的なターボチャージャでは、タービンハウジング内にタービンホイールが設けられ、またコンプレッサハウジング内にコンプレッサホイールが設けられ、これらのタービンホイール及びコンプレッサホイールが、センタハウジングに支持されたロータシャフトによって一体回転可能に連結されている。このターボチャージャでは、エンジンの排気通路を流れる排気はタービンハウジング内に流入すると、タービンホイールの周りの排気流路を通った後にタービンホイールに吹付けられる。この排気の吹付けによりタービンホイールが回転すると、その回転はロータシャフトを介してコンプレッサホイールに伝達される。こうしてコンプレッサホイールが回転することにより、エンジンの吸気通路を流れる空気がコンプレッサハウジングを通過する過程で圧縮される。この圧縮により、空気の圧力(過給圧)が高められ、その結果、空気が強制的にエンジンの燃焼室に送り込まれる。
【0003】
また、上記ターボチャージャの一形態として、タービンハウジング内の排気流路に複数の可変ノズルを備え、それらの可変ノズルの開度を変更して排気の流速を調整するようにした可変ノズルターボチャージャが知られている(例えば、特許文献1参照)。上記複数の可変ノズルは、タービンホイールの周りに略等角度毎に配置されている。これらの可変ノズルは、センタハウジング及び排気流路間に配置されたノズルリングに回動可能に支持されている。タービンハウジング、センタハウジング及びノズルリングによって囲まれた空間はリンク室となっており、このリンク室内に設けられたリンク機構を介してアクチュエータが上記可変ノズルに連結されている。そのため、アクチュエータが作動すると、その動きがリンク機構を通じて全ての可変ノズルに伝達され、同可変ノズルが同期して同一方向へ回動させられる。この回動により、隣合う可変ノズル間の間隙が変化し、同間隙を通ってタービンホイールに吹付けられる排気の流速が調整される。
【特許文献1】特開2003−49675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記可変ノズルターボチャージャを、燃焼室内での燃焼に供される燃料の噴射とは別に、排気浄化用の燃料を噴射するようにしたディーゼルエンジンに適用した場合には、次に示す現象が起るおそれがある。
【0005】
上記可変ノズルターボチャージャでは、その構成部材間、例えばタービンハウジング及びノズルリング間等に少なからず隙間が存在する。そのため、上記排気流路の排気圧力が上昇してリンク室内の排気圧力よりも高くなると、排気の一部は、排気流路からタービンホイールに向う途中で上記隙間を通り、リンク室内に流入する。この際、排気中に含まれる粒子状物質(PM)等からなるスーツもまた排気とともにリンク室内に入り込む。また、排気浄化のために噴射された燃料は、排気温度が低いと十分気化しなかったり、低温のタービンハウジングの表面で凝集したりする。こうした気化の不十分な燃料や凝集した燃料もまた、上記排気に乗って上記隙間を通りリンク室に入り込む。
【0006】
一方、上記リンク室の壁面やリンク機構の温度は排気流路の温度に比べて低い。リンク室内の排気の温度は、リンク室の壁面やリンク機構の表面で低く、これらの壁面やリンク機構から離れるに従い高くなる。こうした温度勾配が大きいと、熱泳動により、排気中の排気浄化用燃料がリンク室の壁面やリンク機構に付着する。そして、この燃料によって濡れた箇所に、上記排気中のスーツが付着・堆積する。そして、上記排気浄化用燃料の付着及びスーツの付着・堆積が進行すると、この堆積物がリンク機構の動きを妨げるおそれがある。
【0007】
なお、上記特許文献1には、可変ノズルの固着が発生する時期を推定するとともに、その推定した時期よりも前に可変ノズルを強制的に開閉させる技術が記載されている。この技術によれば、スーツが堆積して固着が発生しそうな状況になった場合、可変ノズルの強制開閉によりスーツを取除くことが可能であるが、その固着の原因となる排気浄化用燃料の付着、及びスーツの付着・堆積を抑制することについては考慮されていない。
【0008】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、排気浄化用燃料及びスーツが排気とともにリンク室内に入り込むのを抑制し、もって、リンク室の壁面やリンク機構に付着・堆積してリンク機構の動きを妨げるのを回避することのできる可変ノズルターボチャージャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明では、排気を浄化するための燃料を噴射するディーゼルエンジンに用いられるものであり、タービンホイールに排気を導くための排気流路を同タービンホイールの周りに有するタービンハウジングと、前記排気流路に設けられた複数の可変ノズルと、前記タービンハウジングを含む複数の部材により囲まれたリンク室内に設けられ、かつ前記複数の可変ノズルに連結されたリンク機構とを備え、前記リンク機構を通じて前記複数の可変ノズルの開度を変更することにより、隣合う可変ノズル間の間隙を通って前記タービンホイールに吹付けられる排気の流速を調整するようにした可変ノズルターボチャージャにおいて、前記排気流路及び前記リンク室を連通させ、かつ排気圧力の変動に伴い前記排気流路及び前記リンク室間で流動する排気を貯留するための連通路をさらに備えている。
【0010】
上記の構成によれば、可変ノズルターボチャージャでは、ディーゼルエンジンの排気がタービンハウジング内の排気流路を流れる過程で、隣合う可変ノズル間の間隙を通ってタービンホイールに吹付けられる。また、排気流路に設けられた複数の可変ノズルの開度がリンク機構を通じて調整されると、この調整に応じて、隣合う可変ノズル間の間隙が変化し、同間隙を通ってタービンホイールに吹付けられる排気の流速が変化する。
【0011】
ここで、排気流路での排気圧力が上昇すると、その排気流路を流れる排気の一部が連通路内に流入する。この排気が、スーツ、及び排気温度が低いために気化が十分でない排気浄化用燃料を含む場合には、排気はこれらのスーツ及び排気浄化用燃料を伴って連通路に入り込む。これに伴い、連通路内に存在している排気の一部が連通路からリンク室に押出される。そのため、上記スーツ及び排気浄化用燃料を含み、かつ排気流路から連通路へ入り込んだ排気はその連通路内に一時的に貯留され、リンク室に到達しにくくなる。
【0012】
また、上記のように連通路に入り込む分、リンク室を形成する複数の部材間の隙間を通ってリンク室に入り込むスーツ及び排気浄化用燃料が少なくなる。
このようにして、排気流路からリンク室内へ排気とともに入り込むスーツ及び排気浄化用燃料が少なくなる。そのため、リンク室の壁面やリンク機構の温度が排気流路の温度に比べて低くても、熱泳動によって、リンク室の壁面やリンク機構に付着・堆積する排気浄化用燃料及びスーツの量が減少し、リンク機構の作動が妨げられにくくなる。
【0013】
上記とは逆に排気流路での排気圧力が下降すると、リンク室内の排気の一部が連通路に移動し、同連通路内の上記圧力上昇時に入り込んだ排気(スーツ及び排気浄化用燃料を含む)が排気流路に戻される。
【0014】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記連通路は、排気圧力の変動に伴い、同連通路内を通じて前記排気流路及び前記リンク室間で流動する排気を貯留する貯留室と、前記排気流路及び前記貯留室を繋ぐ導入路と、前記貯留室及び前記リンク室を繋ぐ導出路とを備えるとする。
【0015】
上記の構成によれば、排気流路の排気圧力が上昇すると、その排気流路を流れる排気の一部は、スーツ及び排気浄化用燃料とともに同排気流路から導入路を通って貯留室へ入り込む。これに伴い、貯留室内に存在していた排気の一部が導出路からリンク室に押出される。そのため、上記スーツ及び排気浄化用燃料を含み、かつ排気流路から貯留室へ入り込んだ排気はその貯留室内に一時的に貯留され、リンク室に到達しにくくなる。
【0016】
また、上記とは逆に、排気流路での排気圧力が下降すると、リンク室内の排気の一部が、同リンク室から導出路を通じて貯留室へ移動し、上記圧力上昇時に貯留室に入り込んだ排気(スーツ及び排気浄化用燃料を含む)が押出されて排気流路に戻される。
【0017】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発明において、前記導入路の前記排気流路側の端部は、前記タービンハウジングの内壁面から同排気流路内へ突出しているとする。
【0018】
上記の構成によれば、排気中に含まれた排気浄化用燃料が排気流路を流れる過程で、外気によって冷され低温となったタービンハウジングの内壁面に付着することがある。この際、導入路の排気流路側の端部がタービンハウジングの内壁面で開口していると、付着した上記排気浄化用燃料がこの開口部から導入路内へ入り込むおそれがある。この点、請求項3に記載の発明では、導入路の排気流路側の端部がタービンハウジングの内壁面から排気流路内へ突出している。この突出部分が障壁となって、上記内壁面に付着した排気浄化用燃料が、導入路の排気流路側開口から同導入路内へ入り込むのを規制する。そのため、排気中の排気浄化用燃料が連通路を通じてリンク室に入り込むのをより一層抑制することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、請求項2又は3に記載の発明において、前記貯留室は前記タービンハウジングの外部に設けられ、前記導入路の前記貯留室側の端部は、同貯留室の壁面から内部へ向けて突出しているとする。
【0020】
また、請求項5に記載の発明では、請求項2〜4のいずれか1つに記載の発明において、前記貯留室は前記タービンハウジングの外部に設けられ、前記導出路の前記貯留室側の端部は、同貯留室の壁面から内部へ向けて突出しているとする。
【0021】
上記の構成によれば、貯留室はタービンハウジングの外部に設けられていて、外気によって冷されて温度が低くなっている。貯留室については、その壁面で温度が最も低く、同壁面から離れるに従い温度が高くなる。こうした貯留室内における温度勾配が大きいと、熱泳動により、排気中の排気浄化用燃料が貯留室の壁面に付着し、この燃料によって濡れた箇所に同排気中のスーツが付着・堆積する。
【0022】
ここで、仮に導入路の貯留室側の端部が同貯留室の壁面に開口していると、上記のように堆積したスーツによって開口部が塞がれたり狭められたりして、導入路及び貯留室間での排気の流動が妨げられるおそれがある。
【0023】
この点、請求項4に記載の発明では、導入路の貯留室側の端部が、同貯留室の壁面から内部へ突出している。この突出により、導入路の貯留室側の端部、特に開口部の温度は上述した貯留室の壁面よりも高くなる。そのため、開口部において、熱泳動による排気浄化用燃料の付着及びスーツの付着・堆積が生じにくくなり、導入路及び貯留室間において、堆積物により排気の流動が妨げられる不具合が起りにくくなる。
【0024】
また、仮に導出路の貯留室側の端部が同貯留室の壁面に開口していると、上記のように堆積したスーツによって開口部が塞がれたり狭められたりして、貯留室及び導出路間での排気の流動が妨げられるおそれがある。
【0025】
この点、請求項5に記載の発明では、導出路の貯留室側の端部が、同貯留室の壁面から内部へ向けて突出している。この突出により、導出路の貯留室側の端部、特に開口部の温度は上述した貯留室の壁面よりも高くなる。そのため、開口部において、熱泳動による排気浄化用燃料の付着及びスーツの付着・堆積が生じにくくなり、貯留室及び導出路間において、堆積物により排気の流動が妨げられる不具合が起りにくくなる。
【0026】
請求項6に記載の発明では、請求項2〜5のいずれか1つに記載の発明において、前記貯留室には、同貯留室における前記導入路の開口部と前記導出路の開口部とを蛇行した状態で繋ぐ通路を形成するための仕切り部材が設けられているとする。
【0027】
上記の構成によれば、貯留室における導入路の開口部と導出路の開口部とを繋ぐ排気の通路が蛇行しているため、蛇行していない場合に比べて通路長が長くなる。そのため、排気圧力の上昇に伴い排気流路の排気が、スーツ及び排気浄化用燃料を伴って導入路から貯留室内に入り込んだ場合、貯留室内に存在している排気が、上記蛇行した通路に従って押される。前記通路の導出路の近傍に存在している排気が押出され、導出路を通ってリンク室へ移動する。導入路から貯留室内に入り込んだ排気が、スーツ及び排気浄化用燃料を伴って導出路に至って、同導出路を通ってリンク室に到達する現象が確実に抑制される。
【0028】
請求項7に記載の発明では、請求項2〜6のいずれか1つに記載の発明において、前記貯留室、前記導入路及び前記導出路は前記タービンハウジング内に形成されているとする。
【0029】
上記の構成によれば、貯留室、導入路及び導出路をタービンハウジングの製造時に同時に形成することが可能となる。また、貯留室、導入路及び導出路をタービンハウジングの外部において、別部材により形成する場合には、それらの部材を配置したり取付けたりするためのスペースが必要となるが、タービンハウジング内に形成することにより、こうしたスペースは小さくてすむ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について図1〜図5を参照して説明する。図1は、本実施形態が適用される車両用多気筒ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)11の構成を示している。
【0031】
エンジン11は、大きくは吸気通路12、燃焼室13、及び排気通路14を備えて構成されている。吸気通路12の最上流部には、同吸気通路12に吸入された空気を浄化するエアクリーナ15が設けられている。エンジン11においては、エアクリーナ15から吸気下流側に向けて順に、ターボチャージャのコンプレッサホイール17、インタークーラ18、及び吸気絞り弁19が配設されている。吸気通路12は、吸気絞り弁19の吸気下流側に設けられた吸気マニホールド21において分岐されており、この分岐部分を通じて、エンジン11の気筒毎の燃焼室13に接続されている。
【0032】
エンジン11には、燃焼室13内での燃焼に供される燃料を噴射する燃料噴射弁22が気筒毎に設けられている。各燃料噴射弁22には、高圧燃料を蓄圧する高圧燃料配管であるコモンレール23が接続されている。このコモンレール23には、燃料ポンプ(図示略)から吐出された高圧燃料が供給される。
【0033】
一方、排気通路14には、各燃焼室13から排出された排気を集合させるための排気マニホールド24、及びターボチャージャのタービンホイール25が設けられている。
こうしたエンジン11では、吸気通路12に吸入された空気が、エアクリーナ15で浄化された後、ターボチャージャのコンプレッサホイール17に導入される。コンプレッサホイール17では、導入された空気が圧縮され、インタークーラ18に吐出される。圧縮によって高温となった空気は、インタークーラ18にて冷却された後、吸気絞り弁19及び吸気マニホールド21を介して気筒毎の燃焼室13に分配供給される。こうした吸気通路12内の空気の流量は吸気絞り弁19の開度制御を通じて調整される。
【0034】
空気の導入された燃焼室13では燃料噴射弁22から燃料が噴射される。そして、吸気通路12を通じて導入された空気と燃料噴射弁22から噴射された燃料との混合気が、燃焼室13内で燃焼される。このときに生じた高温高圧の燃焼ガスによりピストン(図示略)が往復動され、出力軸であるクランクシャフト26が回転されて、エンジン11の駆動力(出力トルク)が得られる。
【0035】
各燃焼室13での燃焼により生じた排気は、排気マニホールド24を通じてターボチャージャのタービンホイール25に導入される。この導入された排気の流勢によってタービンホイール25が駆動されると、吸気通路12に設けられたコンプレッサホイール17が連動して駆動され、上記空気の圧縮が行われる。
【0036】
さらに、上記エンジン11には、同エンジン11から排出される排気を浄化するための排気浄化装置27が設けられている。排気浄化装置27は、排気燃料添加弁28を備えるほか、排気浄化触媒として3つの触媒コンバータ(第1触媒コンバータ31、第2触媒コンバータ32、及び第3触媒コンバータ33)を備えて構成されている。
【0037】
第1触媒コンバータ31はタービンホイール25の排気下流側に配設されている。第1触媒コンバータ31には吸蔵還元型のNOx触媒が担持されており、排気中の窒素酸化物NOxを吸蔵するとともに、還元剤となる未燃燃料成分の噴射供給によりその吸蔵した窒素酸化物NOxを還元して浄化する。第2触媒コンバータ32は第1触媒コンバータ31の排気下流側に配設されている。第2触媒コンバータ32は、排気中のガス成分の通過を許容し、かつ同排気中の微粒子物質PMの通過を阻止する多孔質材によって形成されており、吸蔵還元型のNOx触媒が担持されている。第3触媒コンバータ33は第2触媒コンバータ32の排気下流側に配設されている。第3触媒コンバータ33には、排気中の炭化水素HC及び一酸化炭素COの酸化を通じて排気の浄化を行う酸化触媒が担持されている。
【0038】
排気燃料添加弁28は、排気通路14のタービンホイール25よりも上流側に設けられている。排気燃料添加弁28は、燃料ポンプから供された燃料を還元剤として排気中に噴射(添加)する。この添加された燃料(排気浄化用燃料)により、排気を一時的に還元雰囲気とし、第1触媒コンバータ31及び第2触媒コンバータ32に吸蔵されている窒素酸化物NOxを還元浄化する。さらに、第2触媒コンバータ32では微粒子物質PMの浄化も同時に実行する。
【0039】
ところで、本実施形態では、上記ターボチャージャとして、タービンホイール25に吹付けられる排気の流速を調整するための可変ノズル機構34を有する可変ノズルターボチャージャ16が用いられている。次に、この可変ノズルターボチャージャ16の具体的な構成について説明する。
【0040】
図2及び図3に示すように、可変ノズルターボチャージャ16の略中央部分を構成するセンタハウジング35は、ロータシャフト36を回転可能に支持してなる本体部37と、その本体部37の外周部において、ロータシャフト36の軸線Lに沿う方向(軸方向)についての両側に一体に設けられたフランジ部38,39とを備える。
【0041】
ロータシャフト36の両端部には、上述したコンプレッサホイール17及びタービンホイール25が取付けられている。センタハウジング35のフランジ部38にはコンプレッサハウジング42が取付けられている。コンプレッサハウジング42における上記軸線L上には吸気取入口43が開口されている。また、コンプレッサハウジング42の内部において、上記コンプレッサホイール17の周りには、渦巻き状に延びて前記吸気通路12に連通するコンプレッサ通路44が設けられている。そのため、コンプレッサハウジング42内では、ロータシャフト36の回転に基づきコンプレッサホイール17が軸線Lを中心に回転すると、空気が吸気取入口43及びコンプレッサ通路44を順に通って吸気通路12へ強制的に送り出される。
【0042】
一方、センタハウジング35のフランジ部39にはタービンハウジング45が取付けられている。タービンハウジング45の内部には、タービンホイール25に排気を導くための排気流路が設けられている。排気流路は、スクロール通路46及びノズル通路47を備えて構成されている。スクロール通路46はタービンホイール25の周りに渦巻き状に形成されている。スクロール通路46は、前記エンジン11の排気通路14に連通しており、燃焼室13からの排気が排気通路14を通ってスクロール通路46に送り込まれる。ノズル通路47は、スクロール通路46の内周側に形成され、同スクロール通路46及びタービンホイール25間を連通させている。そのため、スクロール通路46に送り込まれた排気は、ノズル通路47を経てタービンホイール25に吹付けられる。この吹付けにより、タービンホイール25が軸線Lを中心に回転する。タービンハウジング45における軸線L上には排気排出口48が開口されており、上記タービンホイール25に吹付けられた後の排気は、この排気排出口48を通じて排気通路14の下流側へ送り出される。
【0043】
次に、タービンホイール25に吹付けられる排気の流速を調整するための可変ノズル機構34について、図3及び図4を参照して説明する。なお、図4(A)は可変ノズル機構34の断面図を示し、図4(B)は可変ノズル機構34の側面図を示している。
【0044】
可変ノズル機構34は、リング状に形成されたノズルバックプレート51を備えている。ノズルバックプレート51は、センタハウジング35の本体部37上であって、フランジ部39からタービンホイール25側(図3の左側)へ離間した箇所に装着されており、前記ノズル通路47に面している。ノズルバックプレート51は、ボルト等の締結部材(図示略)によってタービンハウジング45に取付けられている。
【0045】
ノズルバックプレート51には、複数の軸52が同ノズルバックプレート51の円心を中心として等角度毎に設けられている。各軸52は、ノズルバックプレート51に対し、その厚み方向に貫通して回動可能に支持されている。各軸52のノズル通路47側の端部には、ノズルベーン53が可変ノズルとして固定されている。
【0046】
可変ノズル機構34は、リンク室54内に組込まれ、かつ上記複数のノズルベーン53を同期して回動させるためのリンク機構55を備えている。リンク室54は、前記ノズルバックプレート51を挟んでノズル通路47とは反対側(図3の右側)に設けられている。このリンク室54は、ノズルバックプレート51、タービンハウジング45及びセンタハウジング35によって囲まれている。表現を変えると、これらの部材の表面がリンク室54の壁面を構成している。
【0047】
次に、リンク機構55の詳細について説明すると、各軸52のノズル通路47とは反対側の端部(図3の右端部)には、同軸52と直交してノズルバックプレート51の外縁部に向けて延びる開閉レバー56が固定されている。開閉レバー56の先端には、二股に分岐した一対の挟持部56Aが形成されている。
【0048】
一方、開閉レバー56及びノズルバックプレート51間であって、そのノズルバックプレート51と同軸上にはリングプレート57が回動可能に設けられている。リングプレート57には、その円心を中心として等角度毎に複数のピン58が設けられており、それらピン58が各開閉レバー56の両挟持部56Aによって挟持されている。このようにして、複数のノズルベーン53及びリングプレート57が、そのノズルベーン53毎の軸52、開閉レバー56等によって連結されている。
【0049】
そして、リングプレート57がその円心を中心に回動されると、各ピン58が各開閉レバー56の挟持部56Aをリングプレート57の回動方向へ押す。その結果、それら開閉レバー56は軸52を回動させることとなり、軸52の回動に伴い各ノズルベーン53は同軸52を中心にして各々同期した状態で開閉動作する。
【0050】
さらに、可変ノズルターボチャージャ16には、上記リンク機構55を作動させるべくリングプレート57を回動させるための駆動機構が設けられている。詳しくは、リングプレート57の外縁部(図3の下端部)にはピン59が設けられている。一方、センタハウジング35のフランジ部39には支軸61が回動可能に挿通されており、その支軸61のリンク室54側(図3の左側)の端部に駆動レバー62が固定され、反対側の端部に操作片63が固定されている。そして、駆動レバー62が上記ピン59に回動可能に連結されている。また、操作片63には電動モータ等のアクチュエータ64が連結されている(図2参照)。
【0051】
そのため、アクチュエータ64の駆動により操作片63が操作されて支軸61が回動させられると、その支軸61の回動に伴い駆動レバー62が支軸61を中心に回動する。その結果、リングプレート57が、駆動レバー62によりピン59を介して周方向に押され、軸線Lを中心に回動する。このリングプレート57の回動により、隣合うノズルベーン53間の隙間が、各ノズルベーン53の回動角度(ノズル開度)に応じた大きさとなり、同間隙を通ってタービンホイール25に吹付けられる排気の流速が調整される。例えば、ノズルベーン53が閉じ側に回動すると、タービンホイール25に吹付けられる排気の流速が大となる。反対に、ノズルベーン53が開き側に回動すると、タービンホイール25に吹付けられる排気の流速が小となる。
【0052】
さらに、タービンホイール25へ吹付けられる排気の流速を調節することにより、同タービンホイール25、ロータシャフト36及びコンプレッサホイール17の回転速度が適宜に調節され、ひいては過給圧が調整される。こうした過給圧の調整を行うことにより、エンジン11の出力向上と燃焼室13内の過剰圧防止との両立が図られる。
【0053】
ところで、上記可変ノズルターボチャージャ16では、リンク室54を形成する部材間、主としてタービンハウジング45とノズルバックプレート51との間、に少なからず隙間60(図3参照)が存在する。そのため、スクロール通路46内の排気圧力が上昇してリンク室54内の排気圧力よりも高くなると、排気がスクロール通路46からノズル通路47を経てタービンホイール25に向う途中で上記隙間60を通り、リンク室54内に入り込むおそれがある。上記排気が、スーツ、及び排気温度が低いために気化が十分でない排気浄化用燃料を含む場合には、これらもまた排気とともに上記隙間60を通り、リンク室54内に入り込むおそれがある。
【0054】
一方、リンク室54の壁面やリンク機構55はスクロール通路46等、排気流路の温度に比べて低い。リンク室54内の排気の温度は、その壁面やリンク機構55の表面で低く、これらの壁面やリンク機構55から離れるに従い高くなる。こうした温度勾配があると、上記隙間60を通ってリンク室54へ流入した排気中の排気浄化用燃料が、熱泳動により、リンク室54の壁面やリンク機構55に付着する。そして、この燃料によって濡れた箇所に、上記排気中のスーツが付着・堆積する。熱泳動は、温度勾配を有する気体(排気)中に浮遊している粒子(気化が不十分な排気浄化用燃料、スーツ)が、低温側の気体分子よりも高温側の気体分子からより大きな運動量を受けるために、温度勾配とは逆方向の力を受けて低温側へ向けて移動する現象である。そして、上記のように排気浄化用燃料の付着、及びスーツの付着・堆積が進行すると、この堆積物がリンク機構55の動きを妨げるようになる。
【0055】
そこで、第1実施形態では、図5に示すように排気流路及びリンク室54を連通させ、かつ排気圧力の変動に伴い排気流路及びリンク室54間で流動する排気を貯留するための連通路65が設けられている。連通路65は、貯留室66、導入路67及び導出路68を備えて構成されている。
【0056】
貯留室66は、排気圧力の変動に伴い、連通路65を通じて排気流路及びリンク室54間で流動する排気を一時的に貯留するためのものである。貯留室66は、タービンハウジング45から外方へ若干離れた箇所に配置されたタンク69の内部空間によって構成されている。ここでは、タンク69として、軸線L(図2参照)に沿う方向に細長い矩形断面を有するものが用いられている。貯留室66はリンク室54に比べて十分大きな容積を有している。
【0057】
導入路67は、上記貯留室66及びスクロール通路46を連結する導入管71の内部空間によって構成されている。ここでは、導入管71の貯留室66側の端部がタンク69の底部に嵌入され、その内底面で開口している。また、導入管71のスクロール通路46側の端部はタービンハウジング45の壁部に嵌入され、同タービンハウジング45において、スクロール通路46よりも外周側の内壁面において開口している。こうした導入管71の内部の導入路67は、上記隙間60に比べて十分大きな断面積を有する。
【0058】
また、導出路68は、貯留室66及びリンク室54を連結する導出管72の内部空間によって構成されている。ここでは、導出管72の貯留室66側の端部がタンク69の底部に嵌入され、そのタンク69の内底面で開口している。また、導出管72のスクロール通路46側の端部はタービンハウジング45に嵌入され、同タービンハウジング45の内壁面において、リンク室54に面している箇所で開口している。こうした導出管72の内部の導出路68は、上記導入路67と同様、隙間60に比べて十分大きな断面積を有する。
【0059】
上記のように構成された可変ノズルターボチャージャ16では、スクロール通路46の排気圧力が上昇してリンク室54の排気圧力よりも高くなった場合、そのリンク室54へ移動しようとする。この際、排気が通る可能性のある経路としては、リンク室54を形成している部材(主としてノズルバックプレート51とタービンハウジング45)の間の隙間60、及び連通路65が挙げられる。
【0060】
ここで、上述したように導入路67及び導出路68の各断面積が隙間60の断面積に比べて十分に大きい。このことから、スクロール通路46の排気圧力が上記のように上昇した場合、スクロール通路46を流れる排気は隙間60に比べて連通路65に流入しやすい。
【0061】
また、導入路67及び貯留室66に流入した排気が、スーツ、及び排気温度が低いために気化が十分でない排気浄化用燃料を含む場合には、これらのスーツ及び排気浄化用燃料もまた排気とともに導入路67及び貯留室66に入り込みやすい。スーツ及び排気浄化用燃料を含む排気が導入路67や貯留室66に入り込むと、それまで貯留室66や導出路68内に存在していた排気の一部が、導出路68を通じてリンク室54に押出される。そのため、上記スーツ及び排気浄化用燃料を含み、かつスクロール通路46から導入路67を通じて貯留室66へ入り込んだ排気は、その貯留室66内に一時的に貯留され、リンク室54へ入り込みにくくなる。
【0062】
また、上記のように貯留室66に入り込む分、上記隙間60を通ってリンク室54に入り込むスーツ及び排気浄化用燃料が少なくなる。
このようにして、スクロール通路46からリンク室54内へ排気とともに入り込むスーツ及び排気浄化用燃料が少なくなる。そのため、リンク室54の壁面やリンク機構55の温度がスクロール通路46の温度に比べて低くても、熱泳動によって、リンク室54の壁面やリンク機構55に付着・堆積する排気浄化用燃料及びスーツの量が減少する。
【0063】
一方、スクロール通路46の排気圧力が下降してリンク室54内の排気圧力よりも低くなると、リンク室54内の排気の一部が、同リンク室54から導出路68を通じて貯留室66へ移動し、先に圧力上昇時に入り込んだ、スーツ及び排気浄化用燃料を含む排気がスクロール通路46に押し戻される。
【0064】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)スクロール通路46及びリンク室54を、貯留室66、導入路67及び導出路68からなる連通路65によって連通させている。そのため、スクロール通路46の排気圧力が上昇した場合には、スーツ及び排気浄化用燃料を含む排気を、そのスクロール通路46から導入路67を通じて貯留室66へ入り込ませ、それとともに、それまで貯留室66等に貯留されていた排気の一部を導出路68からリンク室54へ押出すことができる。貯留室66に入り込んだ上記排気をその貯留室66内に一時的に貯留させ、リンク室54に到達しにくくすることができる。
【0065】
また、スーツ及び排気浄化用燃料を含む排気を上記のように貯留室66に入り込ませる分、リンク室54を形成する複数の部材(主としてタービンハウジング45及びノズルバックプレート51)の間の隙間60を通ってリンク室54に入り込むスーツ及び排気浄化用燃料を少なくすることができる。
【0066】
このようにして、スクロール通路46からリンク室54内へ排気とともに入り込むスーツ及び排気浄化用燃料を少なくすることができる。そのため、熱泳動によって、リンク室54の壁面やリンク機構55に付着・堆積する排気浄化用燃料及びスーツの量を減少させ、その堆積物によってリンク機構55の作動が妨げられる不具合を抑制することができる。
【0067】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、図6を参照して説明する。
第2実施形態は、導入路67のスクロール通路46側の端部が、タービンハウジング45の内壁面から同スクロール通路46内へ突出している。
【0068】
詳しくは、導入路67は、貯留室66及びスクロール通路46を連結する導入管71の内部空間によって構成されている。この導入管71の貯留室66側の端部はタンク69の底部に嵌入され、その内底面で開口している。この点は、上記第1実施形態と同様である。しかし、導入管71のスクロール通路46側の端部は、タービンハウジング45の壁部を貫通し、スクロール通路46内へ突出している。そのため、導入管71の同端部は、タービンハウジング45の外周側の内壁面ではなく、スクロール通路46内で開口している。第2実施形態は、この点で第1実施形態と大きく異なっている。
【0069】
なお、上記以外の構成は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と同様の部材、部分については同一の符号を付して説明を省略する。
上記可変ノズルターボチャージャ16では、排気中に含まれた排気浄化用燃料がスクロール通路46を流れる過程で、外気によって冷され低温となったタービンハウジング45の内壁面に付着することがある。この際、導入管71のスクロール通路46側の端部がタービンハウジング45の内壁面で開口していると、付着した上記排気浄化用燃料がこの開口部から導入管71内へ入り込むおそれがある。この点、第2実施形態では、導入管71の排気流路側の端部が、タービンハウジング45の内壁面からスクロール通路46内へ突出していて、導入管71の同端部がスクロール通路46内で開口している。この導入管71の突出部分71Aが障壁として機能し、上記内壁面に付着した排気浄化用燃料が、導入管71の開口から導入路67内へ入り込むのを規制する。導入管71が突出せずにタービンハウジング45の内壁面で開口している場合に比べ、内壁面に付着した排気浄化用燃料が導入路67へ入り込みにくくなる。
【0070】
従って、第2実施形態によると、上述した(1)に加え、次の効果が得られる。
(2)導入管71の端部をタービンハウジング45の内壁面から突出させることで、その端面をスクロール通路46内で開口させている。そのため、タービンハウジング45の内壁面に付着した排気浄化用燃料が同内壁面上を移動して導入路67に近づいても、上記導入管71の突出部分71Aで遮り、導入路67内へ入り込みにくくすることができる。その結果、排気浄化用燃料が、導入路67、貯留室66及び導出路68を通じてリンク室54に入り込む不具合をより一層抑制することができる。
【0071】
(第3実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態について、図7を参照して説明する。
第3実施形態では、導入路67の貯留室66側の端部が、タンク69の内底面から貯留室66内へ突出している。詳しくは、導入路67は、貯留室66及びスクロール通路46を連結する導入管71の内部空間によって構成されている。この導入管71のスクロール通路46側の端部はタービンハウジング45の壁部に嵌入され、スクロール通路46よりも外周側の内壁面において開口している。これに対し、導入管71の貯留室66側の端部はタンク69の底部を貫通し、貯留室66内へ突出している。そのため、導入管71の同端部は、タンク69の内底面ではなく、貯留室66内で開口している。
【0072】
また、第3実施形態では、導出路68の貯留室66側の端部が、タンク69の内底面から貯留室66内へ突出している。詳しくは、導出路68は、貯留室66及びリンク室54を連結する導出管72の内部空間によって構成されている。この導出管72のリンク室54側の端部はタービンハウジング45に嵌入され、リンク室54を構成する壁面において開口している。これに対し、導出管72の貯留室66側の端部はタンク69の底部を貫通し、貯留室66内へ突出している。そのため、導出管72の同端部は、タンク69の内底面ではなく、貯留室66内で開口している。
【0073】
なお、上記以外の構成は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と同様の部材、部分については同一の符号を付して説明を省略する。
上記可変ノズルターボチャージャ16では、タンク69はタービンハウジング45の外部に設けられていて、外気によって冷されて温度が低くなっている。貯留室66については、その壁面で温度が最も低く、同壁面から離れるに従い温度が高くなる。こうした貯留室66内における温度勾配が大きいと、熱泳動により、排気中の排気浄化用燃料が貯留室66の壁面に付着し、この燃料によって濡れた箇所に同排気中のスーツが付着・堆積する懸念がある。
【0074】
仮に、導入管71の貯留室66側の端部が同貯留室66の内底面で開口していると、上記のように堆積したスーツによって開口部が塞がれたり狭められたりして、導入路67と貯留室66との間での排気の流動が妨げられるおそれがある。同様に、導出管72の貯留室66側の端部が同貯留室66の内底面で開口していると、上記堆積したスーツによって開口部が塞がれたり狭められたりして、導出路68と貯留室66との間での排気の流動が妨げられるおそれがある。
【0075】
この点、第3実施形態では、導入管71及び導出管72の貯留室66側の各端部が、それぞれタンク69の内底面から内部へ突出している。これらの突出により、導入管71及び導出管72の貯留室66側の各端部、特に各開口部の温度は上述した貯留室66の内底面よりも高くなる。そのため、各開口部での熱泳動による排気浄化用燃料の付着及びスーツの付着・堆積が生じにくくなる。
【0076】
従って、第3実施形態によると、上述した(1)に加え、次の効果が得られる。
(3)導入管71の貯留室66側の端部をタンク69の内底面から突出させることで、その導入管71の端面を貯留室66内で開口させている。そのため、開口部において、熱泳動による排気浄化用燃料の付着及びスーツの付着・堆積を生じにくくし、導入路67及び貯留室66間において、堆積物により排気の流動が妨げられるのを抑制することができる。
【0077】
(4)導出管72の貯留室66側の端部をタンク69の内底面から突出させることで、その導出管72の端面を貯留室66内で開口させている。そのため、開口部において、熱泳動による排気浄化用燃料の付着及びスーツの付着・堆積を生じにくくし、導出路68及び貯留室66間において、排気の流動が妨げられるのを抑制することができる。
【0078】
(第4実施形態)
次に、本発明を具体化した第4実施形態について、図8を参照して説明する。
第4実施形態では、タンク69内に複数の仕切り部材73,74が設けられていて、これらの仕切り部材73,74により、貯留室66には、導入路67の開口部と導出路68の開口部とを蛇行した状態で繋ぐ通路75が形成されている。
【0079】
詳しくは、タンク69の内底面には導入路67及び導出路68が接続されていて、それらの各端部が開口している。タンク69内には、上記内底面からそれに対向する壁面に向けて延びる仕切り部材73が設けられるとともに、同対向壁面から上記内底面に向けて延びる仕切り部材74が設けられている。本実施形態では、前者の仕切り部材73が内底面において、両開口部間に一対設けられる一方、後者の仕切り部材74が対向壁面において上記両仕切り部材73,73間に設けられている。このように複数の仕切り部材73,74が千鳥状に配置されることで、タンク69内に上下に蛇行しながら導入路67及び導出路68を繋ぐ通路75が形成されている。
【0080】
なお、上記以外の構成は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と同様の部材、部分については同一の符号を付して説明を省略する。
上記可変ノズルターボチャージャ16では、貯留室66における導入路67の開口部と導出路68の開口部とを繋ぐ排気の通路75が蛇行しているため、蛇行していない場合に比べて通路長が長くなる。そのため、排気圧力の上昇に伴いスクロール通路46の排気が、スーツ及び排気浄化用燃料を伴って導入路67から貯留室66内に入り込んだ場合、貯留室66内に存在している排気が、上記蛇行した通路75に従って押される。前記通路75の導出路68の近傍に存在している排気が押出され、導出路68を通ってリンク室54へ移動する。
【0081】
従って、第4実施形態によると、上述した(1)に加え、次の効果が得られる。
(5)タンク69内に複数の仕切り部材73,74を設けることで、貯留室66に、導入路67の開口部と導出路68の開口部とを蛇行した状態で繋ぐ通路75を形成している。こうした蛇行した通路75は仕切り部材73,74のない場合に比べて長くなる。そのため、通路長の短い場合に起り得る不具合、すなわち、導入路67から貯留室66内に入り込んだ排気が、スーツ及び排気浄化用燃料を伴って導出路68に至って、同導出路68を通ってリンク室54に到達する現象、を確実に抑制することができる。
【0082】
(第5実施形態)
次に、本発明を具体化した第5実施形態について、図9を参照して説明する。
第5実施形態では、貯留室66、導入路67及び導出路68がいずれもタービンハウジング45内に形成されている。より詳しくは、タービンハウジング45内であって、スクロール通路46の外周側近傍には仕切り壁76によって貯留室66が区画形成されている。この仕切り壁76には孔があけられており、この孔によって、スクロール通路46及び貯留室66を繋ぐ導入路67が構成されている。また、タービンハウジング45内において、リンク室54の外周側には通路が設けられており、この通路によって、貯留室66及びリンク室54を繋ぐ導出路68が構成されている。上記貯留室66、導入路67及び導出路68はいずれもタービンハウジング45の製造時に形成されたものである。第5実施形態では、第1〜第4実施形態で用いられたタンク69、導入管71及び導出管72はいずれも設けられていない。
【0083】
なお、上記以外の構成は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と同様の部材、部分については同一の符号を付して説明を省略する。
上記のように構成された可変ノズルターボチャージャ16では、導入路67及び導出路68の各断面積が隙間60の断面積に比べて十分に大きく、このことから、スクロール通路46の排気圧力が上昇した場合、スクロール通路46を流れ、かつスーツ及び排気浄化用燃料を含む排気は、隙間60よりも導入路67に流入しようとする。
【0084】
上記スーツ及び排気浄化用燃料を含む排気が導入路67や貯留室66に入り込むと、それまで貯留室66や導出路68内に存在していた排気の一部が、導出路68を通じてリンク室54に押出される。そのため、上記スーツ及び排気浄化用燃料を含み、かつスクロール通路46から導入路67を通じて貯留室66へ入り込んだ排気は、その貯留室66内に一時的に貯留され、リンク室54へ入り込みにくくなる。
【0085】
また、上記のように貯留室66に入り込む分、上記隙間60を通ってリンク室54に入り込むスーツ及び排気浄化用燃料が少なくなる。
このようにして、スクロール通路46からリンク室54内へ排気とともに入り込むスーツ及び排気浄化用燃料が少なくなる。そのため、リンク室54の壁面やリンク機構55の温度がスクロール通路46の温度に比べて低くても、熱泳動によって、リンク室54の壁面やリンク機構55に付着・堆積する排気浄化用燃料及びスーツの量が減少し、リンク機構55の作動が妨げられにくくなる。
【0086】
なお、スクロール通路46の排気圧力が下降すると、リンク室54内の排気の一部が、同リンク室54から導出路68を通じて貯留室66へ移動し、先に圧力上昇時に入り込んだ、スーツ及び排気浄化用燃料を含む排気がスクロール通路46に押し戻される。
【0087】
従って、第5実施形態によると、上述した(1)に加え、次の効果が得られる。
(6)貯留室66、導入路67及び導出路68をタービンハウジング45内に形成している。これらの貯留室66、導入路67及び導出路68については、タービンハウジング45の製造時に同時に形成することができる。そのため、タンク69、導入管71及び導出管72によって貯留室66、導入路67及び導出路68を形成する場合に比べて、可変ノズルターボチャージャ16の部品点数が少なくなる。これに伴い、タンク69、導入管71及び導出管72の製造や組付けが不要となり、製造コストを低減するうえで有利である。
【0088】
また、タンク69、導入管71及び導出管72を用いる場合には、それらを配置したり取付けたりするためのスペースがタービンハウジング45の外部に必要となるが、第5実施形態では、こうしたスペースは小さくてすむ。貯留室66、導入路67及び導出路68の付加に伴う可変ノズルターボチャージャ16の大型化を抑制することができる。
【0089】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・第2実施形態(図6参照)において、第3実施形態と同様に導入管71の貯留室66側の端部、及び導出管72の貯留室66側の端部の少なくとも一方を、タンク69の内底面から貯留室66内へ突出させてもよい。この場合には、第2実施形態の効果に加え、第3実施形態における(3),(4)の効果が得られる。
【0090】
また、第2実施形態におけるタンク69内に、第4実施形態で説明したような仕切り部材73,74を設け、貯留室66に、導入路67の開口部と導出路68の開口部とを蛇行した状態で繋ぐ通路75を形成してもよい。この場合には、第2実施形態の効果に加え、第4実施形態における(5)の効果が得られる。
【0091】
・第3実施形態(図7参照)において、導入管71の貯留室66側の端部、及び導出管72の貯留室66側の端部の一方を突出させず、タンク69の内底面で開口させてもよい。
【0092】
また、第3実施形態におけるタンク69内に、第4実施形態で説明したような仕切り部材73,74を設け、貯留室66に、導入路67の開口部と導出路68の開口部とを蛇行した状態で繋ぐ通路75を形成してもよい。この場合には、第3実施形態の効果に加え、第4実施形態における(5)の効果が得られる。
【0093】
・第4実施形態(図8参照)における仕切り部材73,74の数、配置態様等を適宜変更してもよい。
・第5実施形態(図9参照)において、仕切り壁76に導入管71を固定し、その内部空間を導入路67としてもよい。この場合、導入管71のスクロール通路46側の端部を、第2実施形態と同様に、仕切り壁76からスクロール通路46内へ突出させてもよい。この場合には、第5実施形態の効果に加え、第2実施形態における(2)の効果が得られる。
【0094】
また、導入管71の貯留室66側の端部を、第3実施形態と同様に仕切り壁76から貯留室66内へ突出させてもよい。この場合には、第5実施形態の効果に加え、第3実施形態における(3)の効果が得られる。
【0095】
また、タービンハウジング45に導出管72を固定し、その内部空間を導出路68としてもよい。この場合、導出管72の貯留室66側の端部を、第3実施形態と同様にタービンハウジング45の内壁面から貯留室66内へ突出させてもよい。こうすると、第5実施形態の効果に加え、第3実施形態における(4)の効果が得られる。
【0096】
・第5実施形態において、第4実施形態と同様に貯留室66に、導入路67の開口部と導出路68の開口部とを蛇行した状態で繋ぐ通路75を形成してもよい。この場合には、第5実施形態の効果に加え、第4実施形態における(5)の効果が得られる。
【0097】
・本発明は、排気浄化用の燃料を排気燃料添加弁28から噴射供給(添加)するものに代え、いわゆるアフター噴射やポスト噴射と呼ばれる噴射を行うようにしたディーゼルエンジンにも適用可能である。アフター噴射(ポスト噴射)は、燃料噴射弁22において、燃焼室内での燃焼に供される燃料の噴射(パイロット噴射やメイン噴射など)がなされた後の膨張行程中や排気行程中に行われる燃料噴射である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態について、可変ノズルターボチャージャが搭載されたディーゼルエンジンの構成を示す略図。
【図2】図1における可変ノズルターボチャージャの断面図。
【図3】図2における部分拡大図。
【図4】(A)は可変ノズル機構の断面図、(B)は側面図。
【図5】可変ノズルターボチャージャにおける連通路及びその周辺部分を示す部分断面図。
【図6】本発明を具体化した第2実施形態の可変ノズルターボチャージャについて、連通路及びその周辺部分を示す部分断面図。
【図7】本発明を具体化した第3実施形態の可変ノズルターボチャージャについて、連通路及びその周辺部分を示す部分断面図。
【図8】本発明を具体化した第4実施形態の可変ノズルターボチャージャについて、連通路及びその周辺部分を示す部分断面図。
【図9】本発明を具体化した第5実施形態の可変ノズルターボチャージャについて、連通路及びその周辺部分を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0099】
11…ディーゼルエンジン、16…可変ノズルターボチャージャ、25…タービンホイール、45…タービンハウジング、46…スクロール通路(排気流路の一部を構成)、47…ノズル通路(排気流路の一部を構成)、53…ノズルベーン(可変ノズル)、54…リンク室、55…リンク機構、65…連通路、66…貯留室、67…導入路、68…導出路、73,74…仕切り部材、75…通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気を浄化するための燃料を噴射するディーゼルエンジンに用いられるものであり、
タービンホイールに排気を導くための排気流路を同タービンホイールの周りに有するタービンハウジングと、
前記排気流路に設けられた複数の可変ノズルと、
前記タービンハウジングを含む複数の部材により囲まれたリンク室内に設けられ、かつ前記複数の可変ノズルに連結されたリンク機構と
を備え、前記リンク機構を通じて前記複数の可変ノズルの開度を変更することにより、隣合う可変ノズル間の間隙を通って前記タービンホイールに吹付けられる排気の流速を調整するようにした可変ノズルターボチャージャにおいて、
前記排気流路及び前記リンク室を連通させ、かつ排気圧力の変動に伴い前記排気流路及び前記リンク室間で流動する排気を貯留するための連通路をさらに備えることを特徴とする可変ノズルターボチャージャ。
【請求項2】
前記連通路は、
排気圧力の変動に伴い、同連通路を通じて前記排気流路及び前記リンク室間で流動する排気を貯留する貯留室と、
前記排気流路及び前記貯留室を繋ぐ導入路と、
前記貯留室及び前記リンク室を繋ぐ導出路と
を備える請求項1に記載の可変ノズルターボチャージャ。
【請求項3】
前記導入路の前記排気流路側の端部は、前記タービンハウジングの内壁面から同排気流路内へ突出している請求項2に記載の可変ノズルターボチャージャ。
【請求項4】
前記貯留室は前記タービンハウジングの外部に設けられ、
前記導入路の前記貯留室側の端部は、同貯留室の壁面から内部へ向けて突出している請求項2又は3に記載の可変ノズルターボチャージャ。
【請求項5】
前記貯留室は前記タービンハウジングの外部に設けられ、
前記導出路の前記貯留室側の端部は、同貯留室の壁面から内部へ向けて突出している請求項2〜4のいずれか1つに記載の可変ノズルターボチャージャ。
【請求項6】
前記貯留室には、同貯留室における前記導入路の開口部と前記導出路の開口部とを蛇行した状態で繋ぐ通路を形成するための仕切り部材が設けられている請求項2〜5のいずれか1つに記載の可変ノズルターボチャージャ。
【請求項7】
前記貯留室、前記導入路及び前記導出路は前記タービンハウジング内に形成されている請求項2〜6のいずれか1つに記載の可変ノズルターボチャージャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−194176(P2006−194176A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7757(P2005−7757)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】