説明

可変容量型油圧モータの制御装置

【課題】吊荷の巻下げ時のハンチングの発生を抑制するとともに、ウインチ速度の悪化またはウインチ速度のレバー追従性の悪化を抑制する。
【解決手段】コントローラ90は、ウインチドラム21のドラム軸のトルクのうち、巻下げ時のハンチング発生トルク領域が予め記憶された記憶手段と、トルク計80により検出されたドラム軸のトルクがハンチング発生トルク領域にある場合のみモータ容量制御装置40を制御する動作制御手段と、を備える。動作制御手段は、巻上げ側流路36から第2ピストン室41bへの作動油の供給を制限するように圧力補償弁50のセット荷重を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷の巻上げ及び巻下げを行うウインチドラムを駆動する可変容量型油圧モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に従来の可変容量型油圧モータの制御装置401を示す。制御装置401は、吊荷の巻上げ及び巻下げを行うウインチドラム21を備えたクレーン等の建設機械に用いられる。ウインチドラム21は、減速機22を介して可変容量型の油圧モータ23により駆動される。油圧モータ23は、巻下げ側流路31及び巻上げ側流路36に接続される。そして、これらの流路を介して作動油供給源32及び37から作動油が供給され油圧モータ23が駆動する。油圧モータ23は、モータ容量制御装置440により負荷に応じて容量が制御される。モータ容量制御装置440は、油圧モータ23の傾転角を調整する油圧式ピストン41と、油圧式ピストン41への作動油の供給を制御する圧力補償弁50とを備える。
【0003】
モータ容量制御装置440は次のように動作する。ウインチドラム21で吊荷の巻上げ及び巻下げを行うと、油圧モータ23に負荷が掛かる。油圧モータ23の入口と出口との差圧(巻上げ側流路36側の圧力Paと巻下げ側流路31側の圧力Pbとの差圧Pa−Pb)が所定値に達すると、モータ容量制御装置440は差圧Pa−Pbが所定値を超えないように制御する(圧力一定制御という)。圧力一定制御では、油圧モータ23の出力トルクと、油圧モータ23にかかる負荷トルクとがバランスするように、油圧モータ23の容量が制御される。
【0004】
ここで、油圧モータ23の容量を変化させると、油圧モータ23の回転速度が変動する。油圧モータ23の回転速度が変動すると、吊荷が揺れたりして、油圧モータ23にかかる負荷トルクが変動する。この負荷トルクの変動に対し、油圧モータ23の負荷トルクと出力トルクとが再度バランスするようにモータ容量制御装置440は動作する。このように、油圧モータ23やモータ容量制御装置440の動作が安定せず、ハンチング(不安定振動)が生じる場合がある。ハンチングが発生した場合、制御装置401を備えたクレーン等の建設機械のアタッチメント(ブーム)に振動が伝わり、作業が危険になる。
【0005】
さらに、圧力補償弁50が巻上げ側流路36と巻下げ側流路31との差圧Pa−Pbに応じて動作するとき(差圧制御型のとき)は、一方のみの流路の圧力に応じて動作するとき(絶対圧制御型のとき)に比べ、回路全体が不安定になりやすく、ハンチングが発生しやすい。
【0006】
特許文献1には、油圧モータの容量が制限容量より小さい場合に、油圧モータの容量を強制的に増やすことでハンチングを防止する制御装置が記載されている。さらに詳しくは、油圧モータに必要なトルクを確保するために、油圧モータの制限容量(容量の下限値)を設定する。油圧モータの容量が制限容量より小さくなった場合には、油圧モータの容量を電気的な制御により制限容量に置き換える(強制的に容量を増やす)ことで、ハンチングを防止する。
【0007】
特許文献2には、油圧モータの前後差圧(Pa−Pb)が所定値のときに、圧力補償弁(50)を差圧制御型から絶対圧制御型に切り替えることでハンチングを防止する制御装置が記載されている。さらに詳しくは、圧力補償弁の巻下げ側パイロット流路(66)に、巻下げ側パイロット流路(66)の連通と遮断とを切り替える圧力補償方式切替弁が設けられる。そして、巻下げ操作されているときに、油圧モータの前後差圧(Pa−Pb)が圧力補償弁(50)の設定値以下の所定の圧力(圧力一定制御の設定圧力Ps(図4参照)以下の所定圧)に達すると圧力補償方式切替弁を切り替える。これにより、巻下げ側パイロット流路(66)を遮断し、かつ、圧力補償弁(50)の巻下げ側パイロット油室(56)とタンクとを連通させる。このようにして、圧力補償弁(50)を差圧制御型から絶対圧制御型に切り替え、油圧回路の安定性を確保してハンチングを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−114488号公報(段落0014〜0015等)
【特許文献2】特開2008−82488号公報(図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の技術には次の問題がある。この技術では、ウインチドラム(21)のドラム軸のトルクがハンチングの発生のおそれがないトルク領域でも、油圧モータ(23)の容量が制限容量より小さくなりさえすれば、油圧モータ(23)の容量が強制的に増やされる。このように油圧モータ(23)の容量を増やした場合、増やさない場合に比べウインチドラムの回転速度が低下する。
【0010】
特許文献2に記載の技術には次の問題がある。油圧モータ(23)の前後差圧(Pa−Pb)が、圧力一定制御を行う圧力(Ps(図5参照))以下の所定圧に達すると、圧力補償弁(50)は差圧制御型から絶対圧制御型に切り替わる。そして、圧力一定制御範囲内では(差圧(Pa−Pb)がPsのときは)、圧力補償弁(50)は常に絶対圧制御型となる。すると、回路全体の安定性は向上するが、ウインチドラムの回転速度のレバー追従性が悪くなる(オペレータのレバー操作に応じてウインチドラムの回転速度が変化(追従)するところ、この追従性が悪くなる)。
【0011】
そこで本発明は、吊荷の巻下げ時のハンチングの発生を抑制するとともに、ウインチ速度の悪化またはウインチ速度のレバー追従性の悪化を抑制できる可変容量型油圧モータの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0012】
第1の発明に係る可変容量型油圧モータの制御装置は、吊荷の巻上げ及び巻下げを行うウインチドラムを駆動する可変容量型油圧モータの制御装置である。可変容量型油圧モータの制御装置は、前記可変容量型油圧モータと作動油供給源とを接続する巻上げ側流路と、前記可変容量型油圧モータと作動油供給源とを接続する巻下げ側流路と、前記巻上げ側流路と前記巻下げ側流路とに接続されるとともに前記可変容量型油圧モータの容量を制御するモータ容量制御装置と、前記ウインチドラムのドラム軸のトルクを検出するトルク検出手段と、前記トルク検出手段および前記モータ容量制御装置に接続された制御手段と、を備える。前記モータ容量制御装置は、前記巻上げ側流路と前記巻下げ側流路との差圧が所定値を超えないように制御する装置である。前記モータ容量制御装置は、作動油が供給されることで前記可変容量型油圧モータの傾転角を大きくする第1ピストン室、および、作動油が供給されることで当該可変容量型油圧モータの傾転角を小さくする第2ピストン室を備えた油圧式ピストンを備える。前記モータ容量制御装置は圧力補償弁を備える。圧力補償弁は、前記巻上げ側流路に接続された巻上げ側パイロット油室と、前記巻下げ側流路に接続された巻下げ側パイロット油室と、を備えるとともに、当該巻上げ側流路から前記第2ピストン室への作動油の供給をセット荷重に基づいて制御する。前記制御手段は、前記ウインチドラムのドラム軸のトルクのうち、巻下げ時のハンチング発生トルク領域が予め記憶された記憶手段と、前記トルク検出手段により検出された前記ドラム軸のトルクが前記ハンチング発生トルク領域にある場合のみ前記モータ容量制御装置を制御する動作制御手段と、を備える。前記動作制御手段は、前記巻上げ側流路から前記第2ピストン室への作動油の供給を制限するように前記圧力補償弁のセット荷重を制御する、または、前記巻下げ側パイロット油室と前記巻下げ側流路とを遮断するとともに当該巻下げ側パイロット油室とタンクとを連通させるように制御する。
前記ハンチング発生トルク領域とは、前記ウインチドラムのドラム軸のトルクのうち、前記動作制御手段を備えない場合にハンチングが発生するトルク領域である。
【0013】
この可変容量型油圧モータの制御装置の動作制御手段は、巻上げ側流路から第2ピストン室への作動油の供給を制限するように圧力補償弁のセット荷重を制御する場合がある。この場合、作動油が供給されることで可変容量型油圧モータの傾転角を小さくする第2ピストン室への作動油の供給が制限され、可変容量型油圧モータの容量が大きくなる。よって、ハンチングの発生を抑制できる。ただし、この場合、可変容量型油圧モータの容量を大きくしない場合に比べ、ウインチドラムの回転速度は低下する。
また、この可変容量型油圧モータの制御装置の動作制御手段は、圧力補償弁の巻下げ側パイロット油室と巻下げ側流路とを遮断するとともに巻下げ側パイロット油室とタンクとを連通させるように制御する場合がある。この場合、圧力補償弁は巻上げ側流路のみの圧力に応じて作動する、すなわち絶対圧制御型として作動する。よって、ハンチングの発生を抑制できる。ただし、この場合、圧力補償弁が差圧制御型として作動する場合に比べ、ウインチドラムの回転速度のレバー追従性は低下する。
また、この可変容量型油圧モータの制御装置の動作制御手段は、トルク検出手段により検出されたドラム軸のトルクがハンチング発生トルク領域にある場合のみモータ容量制御装置を上記のように制御する。すなわち、ドラム軸のトルクがハンチング発生トルク領域以外にある場合は、動作制御手段は上記の制御を行わない。したがって、ドラム軸のトルクがハンチング発生トルク領域以外にある場合のウインチドラムの回転速度や同回転速度のレバー追従性の低下を抑制できる。その結果、作業能率の低下を抑制できる。
【0014】
第2の発明に係る可変容量型油圧モータの制御装置の前記モータ容量制御装置は、前記圧力補償弁の油圧源側パイロット油室に接続されたパイロット油圧源と、前記パイロット油圧源と前記油圧源側パイロット油室とを接続する流路に設けられた圧力制御手段と、を備える。前記動作制御手段による前記圧力補償弁のセット荷重の制御は、前記圧力制御手段を制御して前記油圧源側パイロット油室に作用させる圧力を制御することで行われる。
【0015】
この可変容量型油圧モータの制御装置では、第1の発明の動作制御手段による「巻上げ側流路から第2ピストン室への作動油の供給を制限するように圧力補償弁のセット荷重を制御する」という制御を上記の構成により具体的に実現できる。
また、この可変容量型油圧モータの制御装置では、パイロット油圧源を用いて圧力補償弁のセット荷重を制御する。ここで、吊荷の巻上げ及び巻下げを行うウインチドラムを備えた作業機械はパイロット油圧源を通常は備えている。したがって、圧力補償弁のセット荷重を制御するためにパイロット油圧源とは別にエネルギー源を設ける必要がある場合に比べ、制御装置の製造コストを低く抑えることができる。
【0016】
第3の発明に係る可変容量型油圧モータの制御装置の前記圧力制御手段は、電磁比例減圧弁または電磁切替弁を備える。前記動作制御手段による前記圧力補償弁のセット荷重の制御は、前記電磁比例減圧弁を制御して前記油圧源側パイロット油室に作用させる圧力を制御することで行われる、または、前記電磁切替弁を切り替えて前記油圧源側パイロット油室に作用させる圧力を制御することで行われる。
【0017】
この可変容量型油圧モータの制御装置では、第2の発明の動作制御手段による「圧力制御手段を制御して油圧源側パイロット油室に作用させる圧力を制御する」という制御を上記の構成により具体的に実現できる。
【0018】
第4の発明に係る可変容量型油圧モータの制御装置の前記モータ容量制御装置は、前記圧力補償弁の前記巻下げ側パイロット油室と前記巻下げ側流路とを接続する巻下げ側パイロット流路に設けられた切替弁を備える。前記切替弁は、前記巻下げ側パイロット油室と前記巻下げ側流路とを連通させる第1切替位置と、前記巻下げ側パイロット油室と前記巻下げ側流路とを遮断するとともに、前記巻下げ側パイロット油室とタンクとを連通させる第2切替位置と、を備える。前記動作制御手段による前記モータ容量制御装置の制御は、前記切替弁を前記第2切替位置に切り替えることで行われる。
【0019】
この可変容量型油圧モータの制御装置では、第1の発明の動作制御手段による「巻下げ側パイロット油室と巻下げ側流路とを遮断するとともに巻下げ側パイロット油室とタンクとを連通させるように制御する」という制御を上記の構成により具体的に実現できる。
【0020】
第5の発明に係る可変容量型油圧モータの制御装置の前記トルク検出手段は、ブームの長さの一つを選択する長さ選択手段と、前記ブームの起伏角度を検出する角度検出手段と、前記ブームにかかる負荷を検出する負荷検出手段と、を備える。前記ドラム軸のトルクは、前記長さ選択手段で選択された前記ブームの長さと、前記角度検出手段で検出された当該ブームの角度と、前記負荷検出手段で検出された当該ブームにかかる負荷と、を用いて演算される。
【0021】
この可変容量型油圧モータの制御装置は、上記の構成によりドラム軸のトルクを演算するので、ドラム軸のトルクを検出する検出器を設ける必要がない。さらに、吊荷の巻上げ及び巻下げを行う作業機械が通常備えている既存のモーメントリミッタ装置は、トルク検出手段が備える長さ選択手段と、角度検出手段と、負荷検出手段とを備えている。よって、トルクを検出する装置を既存のモーメントリミッタ装置とは別に設ける必要がある場合に比べ、制御装置の製造コストを低く抑えることができる。
【0022】
第6の発明に係る可変容量型油圧モータの制御装置は、前記ウインチドラムに巻かれたロープの巻層数を検出する巻層数検出手段を備える。前記巻層数検出手段により検出された前記ロープの巻層数を、第5の発明の前記ドラム軸のトルクの演算に用いる。
【0023】
この可変容量型油圧モータの制御装置では、ウインチドラムに巻かれたロープの巻層数をドラム軸のトルクの演算に用いない場合に比べ、巻層数が変化したときでも精度良くドラム軸のトルクを演算できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】制御装置を備えたクレーンを示す図である。
【図2】制御装置の全体およびその周辺部を示す図である。
【図3】図2に示すコントローラ90およびその周辺部を示す図である。
【図4】図2に示す油圧モータ23の前後差圧とモータ容量との関係を示すグラフである。
【図5】図2に示す油圧モータ23のモータ出力トルクとモータ回転速度との関係を示すグラフである。
【図6】第1実施形態の変形例1の図2相当図である。
【図7】第2実施形態の図2相当図である。
【図8】従来技術の図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
図1〜図5を参照して第1実施形態に係る制御装置1およびその周辺について説明する。制御装置およびその周辺の構成を説明した後、制御装置の動作について説明する。
【0026】
(制御装置およびその周辺の構成)
クレーン10は、図1に示すように、吊荷15の巻上げ及び巻下げを行う建設機械(作業機械)である。クレーン10は主に、旋回体11と、旋回体11に取り付けられたブーム12(作業腕、アタッチメント)と、旋回体11に取り付けられたガントリ16とを備える。
【0027】
ブーム12は、ロープ14を介して吊荷15を吊り下げるとともに、旋回体11に対して起伏する部材であり、例えばラチスブームである。ブーム12の先端部にはシーブ13が取り付けられ、ウインチドラム21で巻上げ及び巻下げされるロープ14がかけられる。
【0028】
ガントリ16は、ブーム12を起伏させる部材である。ガントリ16の先端部とブーム12の先端部とがブーム起伏ロープ17でつながれ、ブーム起伏ロープ17を図示しないウインチで巻込み及び巻出しすることでブーム12が起伏する。
【0029】
ウインチドラム21は、ロープ14を介して吊荷15の巻上げ及び巻下げを行う装置である。ウインチドラム21のドラム軸にはトルク計80(後述)が取り付けられる。図2に示すように、ウインチドラム21は、油圧モータ23により駆動される。
【0030】
油圧モータ23(可変容量型油圧モータ)は、図2に示すように、減速機22を介してウインチドラム21を駆動する可変容量型のモータである。油圧モータ23は、斜板の傾転角を変える方式の斜板型アキシャルピストンモータであり、斜板の傾転角が変わると油圧モータ23のピストンストロークが変わり、油圧モータ23の容量(モータ吸収量、1回転あたりの必要油量)が変更されるように構成されている。油圧モータ23の動作は、制御装置1で制御される。
【0031】
制御装置1は、油圧モータ23に組み合わされるとともに油圧モータ23を制御する装置である。制御装置1は、油圧モータ23に接続された巻下げ側流路31および巻上げ側流路36、油圧モータ23の容量を制御するモータ容量制御装置40、ウインチドラム21のドラム軸のトルクTdを検出するトルク計80、および、トルク計80とモータ容量制御装置40とに接続されたコントローラ90(制御手段)を備える。
【0032】
巻下げ側流路31及び巻上げ側流路36は、油圧モータ23に作動油を供給する流路である。巻下げ側流路31は、油圧モータ23と作動油供給源32(具体的には油圧ポンプ等)とを接続する。巻上げ側流路36は、油圧モータ23と作動油供給源37とを接続する。これらにより、巻上げ側流路36の圧力Paの作動油、および、巻下げ側流路31の圧力Pbの作動油が油圧モータ23に切り換え供給される。また、巻上げ側流路36にはカウンタバランス弁38が設けられる。なお、巻上げ側流路36のうち、カウンタバランス弁38と油圧モータ23との間を巻上げ側流路36a、カウンタバランス弁38と作動油供給源37との間を巻上げ側流路36bとする。
【0033】
カウンタバランス弁38は、巻下げ側流路31の圧力が所定値以上になったときに、巻上げ側流路36aから36bへ作動油を流す弁であり、具体的にはスプール弁である。
【0034】
モータ容量制御装置40は、巻上げ側流路36と巻下げ側流路31とに接続されるとともに、油圧モータ23の容量を制御する装置である。モータ容量制御装置40は、巻上げ側流路36と巻下げ側流路31との差圧Pa−Pbが所定値を超えないように制御する装置である。モータ容量制御装置40は、油圧モータ23の傾転角を変える油圧式ピストン41及びスプール弁45と、巻上げ側流路36からスプール弁45を介して油圧式ピストン41へ作動油を供給する圧力補償弁50と、圧力補償弁50に接続(「接続」には流路を介した接続を含む。以下同様)された電磁比例減圧弁71とを備える。
【0035】
油圧式ピストン41は、フィードバックレバー42を介して油圧モータ23の傾転角を変える部材である。油圧式ピストン41は、第1ピストンが配置された第1ピストン室41aと、第2ピストンが配置されるとともに第1ピストン室41aに対向して配置された第2ピストン室41bとを備える。なお、第1ピストンと第2ピストンとは一体的に結合される。
【0036】
第1ピストン室41aは、作動油が供給されることで油圧モータ23の傾転角を大きくする、すなわち油圧モータ23の容量を大きくする部分である。第1ピストン室41aは、巻上げ側流路36に接続(連通)される。
【0037】
第2ピストン室41bは、作動油が供給されることで油圧モータ23の傾転角を小さくする、すなわち油圧モータ23の容量を小さくする部分である。第2ピストン室41bは、圧力補償弁50とスプール弁45とを介して巻上げ側流路36に接続される。
【0038】
そして、第2ピストン室41bに設けられた第2ピストンの受圧部は、第1ピストン室41aに設けられた第1ピストンの受圧部よりも受圧面積が大きく設定されている。これにより、第1ピストン室41aと第2ピストン室41bとに同圧の作動油が作用する場合、第2ピストン室41bから第1ピストン室41aへ向かう向きに第1ピストン及び第2ピストンが押され、油圧モータ23の傾転角が小さくなる。
【0039】
スプール弁45は、フィードバックレバー42を介して油圧モータ23の傾転角を変える部材であり、圧力補償弁50のアクチュエータポート52と第2ピストン室41bとを接続する流路に設けられる。スプール弁45のパイロット油室には、オペレータの操作で任意に設定された入力パイロット圧Piが(例えば図示しない圧力発生源から)作用する。そして、入力パイロット圧Piを変化させることで、油圧モータ23の傾転角が変化する。なお、後述する巻下げ時には、スプール弁45は、圧力補償弁50のアクチュエータポート52と第2ピストン室41bとを連通させる状態に設定される。
【0040】
圧力補償弁50は、油圧式ピストン41と共に機能することで油圧モータ23の容量を制御する弁である。さらに詳しくは、圧力補償弁50は、巻上げ側流路36から第2ピストン室41bへの作動油の供給をセット荷重に基づいて制御する。圧力補償弁50は、油圧モータ23の入口出口の差圧Pa−Pbが所定の圧力Ps(図4参照)に達すると、差圧Pa−Pbが所定値を超えないように通常は制御する(圧力一定制御を行う)。
【0041】
この圧力補償弁50は、次のように構成および接続される。ポンプポート51は、巻上げ側流路36に接続(連通)される。アクチュエータポート52は、スプール弁45を介して第2ピストン室41bに接続される。タンクポート53はタンクTに接続される。セットスプリング55は、圧力補償弁50のセット荷重を設定する。セットスプリング55と同じ側に設けられた巻下げ側パイロット油室56は、巻下げ側パイロット流路66を介して巻下げ側流路31に接続される。巻下げ側パイロット油室56と反対側に設けられた巻上げ側パイロット油室57は、巻上げ側パイロット流路67を介して巻上げ側流路36に接続される。また、巻上げ側パイロット油室57と同じ側に設けられた油圧源側パイロット油室58は、油圧源側パイロット流路68を介してパイロット油圧源72と接続される。
【0042】
この圧力補償弁50は、通常は次のように動作する(通常以外の動作は後述する)。巻上げ側パイロット油室57に作用する圧力Paと、巻下げ側パイロット油室56に作用する圧力Pbとの差圧Pa−Pbに応じて圧力補償弁50が動作する。すなわち、圧力補償弁50は差圧制御型の弁として通常は機能する。
差圧Pa−Pbが所定値未満の場合、ポンプポート51とアクチュエータポート52とが連通し、巻上げ側流路36の作動油は第2ピストン室41bへ供給される。これにより油圧モータ23の容量は最小容量qa(図4参照)となる。
差圧Pa−Pbが所定の圧力Ps(図4参照)の場合、圧力一定制御を行う。すなわち、差圧Pa−Pbが大きくなろうとすると、巻上げ側流路36から第2ピストン室41bへの作動油の供給を制限させる、または、アクチュエータポート52をタンクTと連通させる。これにより油圧モータ23の容量が大きくなり、差圧Pa−Pbが小さくなる。一方で、差圧Pa−Pbが小さくなろうとすると、巻上げ側流路36から第2ピストン室41bへ作動油がより供給される。これにより油圧モータ23の容量が小さくなり、差圧Pa−Pbが大きくなる。
【0043】
電磁比例減圧弁71(圧力制御手段)は、コントローラ90からの入力電流の大きさに応じて、油圧源側パイロット油室58に作用する圧力を制御する(圧力補償弁50のセット荷重を制御する)弁である。電磁比例減圧弁71は、パイロット油圧源72と油圧源側パイロット油室58とを接続する油圧源側パイロット流路68に設けられる。
【0044】
トルク計80(トルク検出手段)は、ウインチドラム21のドラム軸のトルクTdを直接的または間接的に検出する装置である。なお、トルク計80は例えば、ウインチドラム21のドラム軸、減速機22の軸、またはブーム12(図1参照)の先端部等に取り付けられる。
【0045】
コントローラ90(制御手段)は、トルク計80とモータ容量制御装置40とに接続されるとともに、モータ容量制御装置40を制御する装置である。図3に示すように、コントローラ90は、トルク算出手段91、記憶手段92、および、動作制御手段93を備える。
【0046】
トルク算出手段91は、図3に示すように、トルク計80で検出されたドラム軸のトルクTdに基づき、油圧モータ23(図2参照)のモータ出力トルクTmを算出する(算出については後述)。なお、モータ出力トルクTmと、ドラム軸のトルクTdとは、1対1で対応する(相互に変換可能である)。
【0047】
記憶手段92は、ウインチドラム21(図2参照)のドラム軸のトルクTdのうち、巻下げ時のハンチング発生トルク領域を予め記憶している。ハンチング発生トルク領域は、制御装置1(図2参照)の設計段階で把握することができる。巻下げ時のハンチング発生トルク領域は、トルクTdのうち、コントローラ90(の動作制御手段93)を備えない場合にハンチングが発生するトルク領域である(さらなる詳細は後述)。
【0048】
動作制御手段93は、図3に示すように、トルク計80により検出されたドラム軸のトルクTdが記憶手段92に記憶されたハンチング発生トルク領域にある場合(言い換えれば、図5に示すモータ出力トルクTmがTc付近にある場合)のみ、モータ容量制御装置40の電磁比例減圧弁71(図2参照)を制御する。動作制御手段93は、図2に示す巻上げ側流路36から第2ピストン室41bへの作動油の供給を制限するように圧力補償弁50のセット荷重を制御する。動作制御手段93(図3参照)による圧力補償弁50のセット荷重の制御は、電磁比例減圧弁71を制御して油圧源側パイロット油室58に作用させる圧力(図2の場合、セットスプリング55が伸びようとする力の向きに対向する向きに作用させる圧力)を制御することで行う。
【0049】
(制御装置1の動作)
次に制御装置1の巻下げ時の動作を説明する。なお、巻下げ前の状態では油圧モータ23(図2参照)の容量が最小容量qa(図4参照)となっているとする。以下、油圧モータ23(図2参照)にかかる荷重が、軽荷重の場合、所定の荷重の場合、および、所定値以上の荷重の場合について順に説明する。
【0050】
(軽荷重の場合)
図2に示す油圧モータ23にかかる荷重が軽荷重の場合、油圧モータ23の容量は最小容量qa(図4参照)である。以下、カウンタバランス弁38の動作、および圧力補償弁50の動作について順に説明する。
【0051】
カウンタバランス弁38は次のように動作する。巻下げ操作開始時にはしばらくの間、カウンタバランス弁38のダンピング性能により、カウンタバランス弁38のスプールの開度が小さいままになっており、スプールの開度が十分大きくなるまでに時間がかかる。さらに、吊荷15の負荷に応じて巻上げ側流路36に発生する保持圧が低く、カウンタバランス弁38のスプール開口部の前後差圧(巻上げ側流路36aと巻上げ側流路36bとの差圧)も小さい。よって、カウンタバランス弁38を通過する作動油の流量と油圧モータ23の流量とがバランスする状態に至るまでに時間を要する。その間、巻下げ側流路31および巻上げ側流路36の両側で圧力が上昇し、これら両側で高圧状態になる。
【0052】
圧力補償弁50は、上述したように、差圧制御型の弁として機能する。よって、巻下げ側流路31および巻上げ側流路36の両側(PaおよびPb)が高圧状態になっても、これらの差圧Pa−Pbが小さい場合(具体的には圧力Ps(図4参照)未満の場合)は圧力補償弁50は動作しない。この場合、圧力補償弁50は、巻上げ側流路36から第2ピストン室41bへ作動油を供給(連通)する状態である。この状態では、油圧モータ23の容量は大容量化しない。よって、油圧モータ23は最小容量qa(図4参照)、かつ、最高速度で回転する。その結果、ウインチドラム21の回転速度(巻下げ速度)も最高速度となる。
【0053】
(所定の荷重の場合)
油圧モータ23にかかる荷重が所定の荷重の場合(具体的には差圧Pa−Pbが圧力Ps(図4参照)付近になるとともに、モータ出力トルクTmがTc(図5参照)付近となる場合)、そのままでは油圧モータ23の回転速度が急変してハンチングが生じるところ、このハンチングを抑制するように制御装置1は動作する。以下、カウンタバランス弁38の動作、圧力補償弁50の動作、記憶手段92(図3参照)、および、動作制御手段93(図3参照)の動作について順に説明する。
【0054】
カウンタバランス弁38は次のように動作する。巻下げ操作開始時には、カウンタバランス弁38はダンピング性能の影響を受ける。しかしながら、上記の軽荷重の場合に比べ、吊荷15の負荷に応じて巻上げ側流路36に発生する保持圧が大きい。よって、カウンタバランス弁38のスプール開口部の前後差圧(巻上げ側流路36aと巻上げ側流路36bとの差圧)も大きい。よって、スプール開度が小さくても、カウンタバランス弁38を通過する作動油の流量と油圧モータ23の流量とがバランスする状態に至るまでの時間は上記の軽荷重の場合に比べて短い。カウンタバランス弁38がカウンタバランス状態になると、巻下げ側流路31の圧力Pbは低圧、巻上げ側流路36の圧力(保持圧)Paは高圧になる。
【0055】
圧力補償弁50は、後述する動作制御手段93による制御を行わない場合、次のように動作する。差圧Pa−Pbが圧力Ps(図4参照)に達すると、上述した圧力一定制御を行う(図4および図5において符号A2を付した二点鎖線で示す)。このときのモータ出力トルクTmはTcであり、図5の符号A3で示す部分のように、モータ出力トルクTmがわずかに変化しただけで、油圧モータ23のモータ回転速度が大きく変化し(回転速度変化ゲインが大きく)ハンチングが発生しやすい。
【0056】
ここで、記憶手段92(図3参照)に記憶されている巻下げ時のハンチング発生トルク領域は、ドラム軸のトルクTdのうち、図5に示すモータ出力トルクTcの近傍に対応するトルクである。モータ出力トルクTcは、モータ出力トルクTmを零から大きくしていった場合に、油圧モータ23の回転速度が急変する点(符号A3参照)のモータ出力トルクである。また、モータ出力トルクTcは、図4に示す差圧Pa−Pbを零から大きくしていった場合に、差圧Pa−Pbが初めて所定の圧力Psになるときのモータ出力トルクである。記憶手段92には、具体的には例えば、ハンチング発生トルク領域(ドラム軸のトルクTdの一部の領域)に対応するモータ出力トルクTmの領域が次式のように記憶されている。
a1×Tc<Tm<a2×Tc (式1)
a1及びa2は定数であり、具体的にはa1=0.9、a2=1.1などの数値を使用する。
【0057】
油圧モータ23(図2参照)のモータ出力トルクTmは、トルク計80(図2参照)で検出されたドラム軸のトルクTdと、減速機22の減速比Rとを用いて、トルク算出手段91(図3参照)により次式より算出する。
Tm=Td/R (式2)
【0058】
モータ出力トルクTmがハンチング発生トルク領域に対応する領域にある場合、動作制御手段93(図3参照)は図2に示す電磁比例減圧弁71を制御し、圧力補償弁50の油圧源側パイロット油室58に作用させる圧力を制御し、圧力補償弁50のセット荷重を小さくする(図4の符号A1を参照)。すなわち、差圧Pa−PbがPs近傍のPs未満の状態で圧力補償弁50を動作させる。これにより、動作制御手段93が上記制御をしない場合の油圧モータ23の容量に比べ、油圧モータ23の容量が大きくなる。よって、ウインチドラム21の回転速度は低下するが(図5の符号A1参照)、ハンチングを防止できる。
【0059】
なお、モータ出力トルクTmが(式1)の条件を満たすか否かを判定することに換えて、図3に示すトルク計80により検出されたドラム軸のトルクTdが、記憶手段92に記憶されたハンチング発生トルク領域(ドラム軸のトルクTdの一部の領域)にあるか否かを判定しても良い。この場合、トルク算出手段91を用いた(式2)の演算を行う必要がない。
【0060】
(所定値以上の荷重の場合)
油圧モータ23(図2参照)にかかる荷重が所定値以上の荷重、具体的には、油圧モータ23の出力トルクがa2×Tc以上となる場合、動作制御手段93(図3参照)は動作しない。したがって、圧力補償弁50(図2参照)のセット荷重は通常の設定となり、動作制御手段93(図3参照)が動作する場合に比べウインチドラム21(図2参照)の回転速度は低下しない。
【0061】
(本実施形態の制御装置の特徴)
(特徴1−1)
この制御装置1の動作制御手段93(図3参照)は、図2に示すように、巻上げ側流路36から第2ピストン室41bへの作動油の供給を制限するように圧力補償弁50のセット荷重を制御する。この制御により、作動油が供給されることで油圧モータ23の傾転角を小さくする第2ピストン室41bへの作動油の供給が制限され、油圧モータ23の容量が大きくなる。よって、ハンチング(制御装置1及び油圧モータ23の不安定振動)の発生を抑制できる。ただし、この場合、油圧モータ23の容量を大きくしない場合に比べ、ウインチドラム21の回転速度は低下する。
また、この制御装置1の動作制御手段93(図3参照)は、トルク計80により検出されたウインチドラム21のドラム軸のトルクがハンチング発生トルク領域にある場合のみモータ容量制御装置40を上記のように制御する。すなわち、ウインチドラム21のドラム軸のトルクがハンチング発生トルク領域以外にある場合は、動作制御手段93(図3参照)は上記の制御を行わない。したがって、ウインチドラム21のドラム軸のトルクがハンチング発生トルク領域以外にある場合の、ウインチドラム21の回転速度の低下を抑制できる。その結果、クレーン10(図1参照)でのクレーン作業の能率の低下を抑制できる。
【0062】
(特徴2及び3−1)
この制御装置1では、動作制御手段93(図3参照)による「巻上げ側流路36から第2ピストン室41bへの作動油の供給を制限するように圧力補償弁50のセット荷重を制御する」という制御を、次の構成により具体的に実現できる。すなわち、モータ容量制御装置40は、圧力補償弁50の油圧源側パイロット油室58に接続されたパイロット油圧源72と、油圧源側パイロット流路68に設けられた電磁比例減圧弁71と、を備える。そして、動作制御手段93(図3参照)による圧力補償弁50のセット荷重の制御は、電磁比例減圧弁71を制御して油圧源側パイロット油室58に作用させる圧力を制御することで行われる。
また、この制御装置1では、パイロット油圧源72を用いて圧力補償弁50のセット荷重を制御する。ここで、吊荷15の巻上げ及び巻下げを行うウインチドラム21を備えたクレーン10(図1参照)等の作業機械はパイロット油圧源72を通常は備えている。したがって、圧力補償弁50のセット荷重を制御するためにパイロット油圧源72とは別にエネルギー源を設ける必要がある場合に比べ、制御装置1の製造コストを低く抑えることができる。
【0063】
(第1実施形態の変形例1)
図6に、第1実施形態の変形例1の制御装置101を示す。上記実施形態では、圧力制御手段として電磁比例減圧弁71(図2参照)を用いたが、電磁比例減圧弁71を電磁切替弁171に置換しても良い。
【0064】
電磁切替弁171(圧力制御手段)は、パイロット油圧源72と油圧源側パイロット油室58との連通と遮断とを切り替える2位置切替弁である。電磁切替弁171を切り替えて油圧源側パイロット油室58に作用させる圧力を制御することで、圧力補償弁50のセット荷重の制御が行われる。電磁切替弁171は、コントローラ90の動作制御手段93(図3参照)からの信号によって切替位置が切り替わる弁であり、切替位置171aと切替位置171bとを備える。電磁切替弁171は、電磁比例減圧弁71(図2参照)よりも一般に安価である。よって、電磁切替弁171を用いた場合は、電磁比例減圧弁71を用いる場合に比べ、制御装置101の製造コストを低く抑えることができる。
【0065】
切替位置171aは、油圧源側パイロット油室58とパイロット油圧源72とを遮断するとともに、油圧源側パイロット油室58とタンクTとを連通させる。
切替位置171bは、油圧源側パイロット油室58とパイロット油圧源72とを連通させる。
【0066】
ハンチング発生トルク領域では制御装置101は次のように動作する。動作制御手段93(図3参照)は、電磁切替弁171を切替位置171aから切替位置171bへ切り替える。この切り替えにより、油圧源側パイロット油室58に圧力が作用する。これにより、巻上げ側流路36から第2ピストン室41bへの作動油の供給を制限するように圧力補償弁50のセット荷重が制御される。
【0067】
(本変形例の制御装置の特徴(特徴3−2))
この制御装置101では、図6に示すように、圧力補償弁50のセット荷重の制御は、電磁切替弁171を切り替えて油圧源側パイロット油室58に作用させる圧力を制御することで行われる。この構成により、動作制御手段93による「圧力制御手段を制御して油圧源側パイロット油室58に作用させる圧力を制御する」という制御を具体的に実現できる。
【0068】
(第1実施形態の変形例2)
図3に二点鎖線で第1実施形態の変形例2のトルク検出手段280(巻層数検出器284をのぞく)を示す。上記実施形態では、ドラム軸のトルクTdをトルク計80を用いて検出した。トルク検出手段280では、既存のモーメントリミッタ装置を用いてトルクTdを演算(推定)する。
【0069】
図1に示すクレーン10は、クレーン10に過負荷がかかることを防止するモーメントリミッタ(図示なし)を備える。モーメントリミッタには、長さ選択手段281(図3参照)、角度計282(図3及び図1参照)、および荷重計283(図3及び図1参照)が接続される(モーメントリミッタ装置は、モーメントリミッタ(本体)に接続されるこれらの構成要素とモーメントリミッタ(本体)とを備える)。
【0070】
長さ選択手段281(図3参照)は、図1に示すクレーン10のブーム12の長さLの一つを選択する。すなわち、ブーム12の長さとして様々な長さLがモーメントリミッタに設定されているところ、そのうち一つの長さLを選択する。
【0071】
角度計282(角度検出手段)は、図3及び図1に示すように、ブーム12の起伏角度θを検出する装置である。角度計282はブーム12の例えば基端部などに取り付けられる。
【0072】
荷重計283(負荷検出手段)は、ブーム12にかかる負荷を検出する装置である。荷重計283は、具体的には例えばブーム起伏ロープ17の張力を検出する。
【0073】
コントローラ90の演算手段294(図3参照)は、ドラム軸のトルクTdを演算する。演算手段294は、図3に示すように、長さ選択手段281で選択されたブーム12(図1参照)の長さと、角度計282で検出されたブーム12の角度と、荷重計283で検出されたブーム12にかかる負荷と、を用いてドラム軸のトルクTdを演算する。なお、図3では、演算手段294はコントローラ90の外部に設けているが、演算手段294をコントローラ90の内部に設けても良く、また、演算手段294をモーメントリミッタ(本体)の内部に設けても良い。
【0074】
この演算手段は、具体的には例えば次式からドラム軸のトルクTdを算出する。
Td=F・R3・R1(L,θ)/R2(L,θ) (式3)
ここで、R3はウインチドラム21(図2参照)のロープ巻き取り半径であり、演算手段294内であらかじめ設定しておく。R1は、図1に示すブーム12の支点(基端部)からブーム起伏ロープ17までの距離である。R1は、ブーム12の長さLとブーム12の起伏角度θとの関数であり、関係式を演算手段294(図3参照)内で設定しておく。R2は、ブーム12の支点から吊荷15までの距離(水平方向の距離)である。R2は、ブーム12の長さLとブーム12の起伏角度θとの関数であり、関係式を演算手段294(図3参照)内で設定しておく。
【0075】
(本変形例の制御装置の特徴(特徴5))
この制御装置1(101)は、図3に示すトルク検出手段280及び演算手段294により、ドラム軸のトルクTdを演算するので、ドラム軸のトルクTdを検出するトルク計80(図2参照)等の検出器を設ける必要がない。さらに、吊荷15の巻上げ及び巻下げを行うクレーン10が通常備えている既存のモーメントリミッタ装置は、トルク検出手段280が備える長さ選択手段281と、角度計282と、荷重計283とを備えている。よって、ドラム軸のトルクTdを検出する装置を既存のモーメントリミッタ装置とは別に設ける必要がある場合に比べ、制御装置1(101)の製造コストを低く抑えることができる。
【0076】
(第1実施形態の変形例3)
第1実施形態の変形例2では、(式3)のウインチドラム21(図2参照)のロープ巻き取り半径R3は演算手段294(図3参照)内であらかじめ設定されたが、ウインチドラム21におけるロープの巻層数を巻層数検出器284(図1及び図3参照)で検出しても良い。
【0077】
巻層数検出器284(巻層数検出手段)は、図1に示すウインチドラム21に巻かれたロープの巻層数を検出する装置である。検出した巻層数の信号は、図3に示す演算手段294に入力される。そして、検出した巻層数に応じて(式3)のロープ巻き取り半径R3を設定する。
【0078】
(本変形例の制御装置の特徴(特徴6))
この制御装置1(101)では、巻層数検出器284(図3参照)により検出されたロープ14(図1参照)の巻層数を、ドラム軸のトルクTdの演算に用いるので、図1に示すロープ14の巻層数をドラム軸のトルクTdの演算に用いない場合に比べ、ロープ14の巻層数が変化したときでも精度良くウインチドラム21のドラム軸のトルクTdを演算できる。
【0079】
(第2実施形態)
図7に第2実施形態の制御装置301を示す。第1実施形態では圧力制御手段(図2に示す電磁比例減圧弁71、または、図6に示す電磁切替弁171)を用いて、ハンチング発生トルク領域のときにのみ圧力補償弁50(図2または図6参照)のセット荷重を制御した。図7に示す制御装置301では、巻下げ側パイロット流路66に圧力補償方式切替弁371(切替弁)が設けられ、ハンチング発生トルク領域のときにのみ圧力補償弁50を絶対圧制御型として機能させ、ハンチング発生トルク領域以外のときには圧力補償弁50を差圧制御型として機能させる。
【0080】
圧力補償方式切替弁371(切替弁)は、図7に示すように、圧力補償弁50の制御方法を差圧制御型と絶対圧制御型との間で切り替える2位置切替弁である。圧力補償方式切替弁371は、圧力補償弁50の巻下げ側パイロット油室56と巻下げ側流路31とを接続する巻下げ側パイロット流路66に設けられる。圧力補償方式切替弁371は、コントローラ90の信号によって切替位置が切り替わる弁であり、第1切替位置371aと、第2切替位置371bとを備える。
【0081】
第1切替位置371aは、差圧制御型で圧力補償弁50を機能させる切替位置であり、巻下げ側パイロット油室56と巻下げ側流路31とを連通させる切替位置である。
第2切替位置371bは、絶対圧制御型で圧力補償弁50を機能させる切替位置であり、巻下げ側パイロット油室56と巻下げ側流路31とを遮断するとともに、巻下げ側パイロット油室56とタンクTとを連通させる切替位置である。
【0082】
油圧モータ23のモータ出力トルクTmがハンチング発生トルク領域に対応する領域のときは動作制御手段93(図3参照)は、圧力補償方式切替弁371を第2切替位置371bに切り替える。これにより、圧力補償弁50が絶対圧制御型の弁として機能することになる。すなわち、巻上げ側流路36の圧力とタンクTとの差圧に応じて圧力補償弁50が動作する。
なお、油圧モータ23のモータ出力トルクTmがハンチング発生トルク領域に対応する領域以外のときは圧力補償方式切替弁371は第1切替位置となる。これにより、圧力補償弁50は差圧制御型の弁として機能する。
【0083】
(本実施形態の制御装置の特徴)
(特徴1−2)
この制御装置301の動作制御手段93(図3参照)は、図7に示すように、圧力補償弁50の巻下げ側パイロット油室56と巻下げ側流路31とを遮断するとともに巻下げ側パイロット油室56とタンクTとを連通させるように制御する。この制御により、圧力補償弁50は巻上げ側流路36のみの圧力(巻上げ側流路36とタンクTとの差圧)に応じて作動する、すなわち圧力補償弁50は絶対圧制御型として作動する。よって、ハンチング(制御装置301及び油圧モータ23の不安定振動)の発生を抑制できる。ただし、この場合、圧力補償弁50が差圧制御型として作動する場合に比べ、ウインチドラム21の回転速度のレバー追従性(オペレータのレバー操作に対する追従性)は低下する。
また、制御装置301の動作制御手段93(図3参照)は、トルク計80により検出されたウインチドラム21のドラム軸のトルクTdがハンチング発生トルク領域にある場合のみモータ容量制御装置40を上記のように制御する。すなわち、ドラム軸のトルクTdがハンチング発生トルク領域以外にある場合は、動作制御手段93は上記の制御を行わない。したがって、ドラム軸のトルクTdがハンチング発生トルク領域以外にある場合の、ウインチドラム21の回転速度のレバー追従性の低下を抑制できる。その結果、クレーン10(図1参照)の作業能率の低下を抑制できる。
【0084】
(特徴4)
この制御装置301では、動作制御手段93による「巻下げ側パイロット油室56と巻下げ側流路31とを遮断するとともに巻下げ側パイロット油室56とタンクTとを連通させるように制御する」という制御を次の構成により具体的に実現できる。すなわち、モータ容量制御装置40は、巻下げ側パイロット流路66に設けられた圧力補償方式切替弁371を備える。圧力補償方式切替弁371は、巻下げ側パイロット油室56と巻下げ側流路31とを連通させる第1切替位置371aと、巻下げ側パイロット油室56と巻下げ側流路31とを遮断するとともに、巻下げ側パイロット油室56とタンクTとを連通させる第2切替位置371bと、を備える。そして、動作制御手段93(図3参照)によるモータ容量制御装置40の制御は、圧力補償方式切替弁371を第2切替位置371bに切り替えることで行われる。
【0085】
(第2実施形態の変形例1)
油圧モータ23(図7参照)のモータ出力トルクTmを既存のモーメントリミッタ装置を用いて演算しても良い。すなわち、第2実施形態と、第1実施形態の変形例2とを組み合わせて実施しても良い。
【0086】
(第2実施形態の変形例2)
巻層数検出器284(図3参照)で、図7に示すウインチドラム21に巻かれたロープ14の巻層数を検出し、検出されたロープ14の巻層数を演算手段294(図3参照)でのドラム軸のトルクTdの演算に用いても良い。すなわち、第2実施形態と、第1実施形態の変形例3とを組み合わせて実施しても良い。
【0087】
(その他の変形例)
上述した実施形態の制御装置1(101、301)等は様々に変形できる。
例えば、図1に示すガントリ16はマストでも良い。この場合、マスト先端とブーム12先端とがガイラインでつながれる。この場合は例えば、このガイラインの張力を検出することでブーム12にかかる負荷を検出する。
また例えば、ブーム12は伸縮ブームでも良い。この場合は例えば、伸縮ブームを起伏させる起伏シリンダにかかる負荷を検出することでブーム12にかかる負荷を検出する。また、伸縮ブームの長さを検出し、検出されたブームの長さを用いて、長さ選択手段281による長さの選択を行っても良い。
【0088】
また例えば、第1実施形態では、圧力制御手段(図2に示す電磁比例減圧弁71または図6に示す電磁切替弁171)で圧力補償弁50のセット荷重を制御したが、例えば電磁力など油圧以外の荷重により圧力補償弁50のセット荷重を制御しても良い。
【0089】
また例えば、第1実施形態では、図2及び図6に示すように、油圧源側パイロット油室58に圧力をかけることで圧力補償弁50のセット荷重を制御したが、セット荷重の具体的な制御方法は様々に変形できる。例えば、巻上げ側パイロット油室57と同じ側にセットスプリング55を配置し、巻下げ側パイロット油室56と同じ側に油圧源側パイロット油室58を配置し、油圧源側パイロット油室58に予めかけておいた圧力を減らすことで圧力補償弁50のセット荷重を制御しても良い。
【0090】
また例えば、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせて実施しても良い。すなわち、図2に示す電磁比例減圧弁71または図6に示す電磁切替弁171を備えるとともに、図7に示す圧力補償方式切替弁371を備えるように、制御装置1または101と制御装置301とを組み合わせても良い。この場合の制御装置は、上記の(特徴1−1)と(特徴1−2)とを備える。
【符号の説明】
【0091】
1 制御装置
14 ロープ
15 吊荷
21 ウインチドラム
23 油圧モータ(可変容量型油圧モータ)
31 巻下げ側流路
32、37 作動油供給源
36 巻上げ側流路
40 モータ容量制御装置
41 油圧式ピストン
41a 第1ピストン室
41b 第2ピストン室
50 圧力補償弁
56 巻下げ側パイロット油室
57 巻上げ側パイロット油室
58 油圧源側パイロット油室
66 巻下げ側パイロット流路
71 電磁比例減圧弁(圧力制御手段)
72 パイロット油圧源
80 トルク計(トルク検出手段)
90 コントローラ(制御手段)
92 記憶手段
93 動作制御手段
171 電磁切替弁(圧力制御手段)
280 トルク検出手段
281 長さ選択手段
282 角度計(角度検出手段)
283 荷重計(負荷検出手段)
284 巻層数検出器(巻層数検出手段)
371 圧力補償方式切替弁(切替弁)
371a 第1切替位置
371b 第2切替位置
T タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊荷の巻上げ及び巻下げを行うウインチドラムを駆動する可変容量型油圧モータの制御装置であって、
前記可変容量型油圧モータと作動油供給源とを接続する巻上げ側流路と、
前記可変容量型油圧モータと作動油供給源とを接続する巻下げ側流路と、
前記巻上げ側流路と前記巻下げ側流路とに接続されるとともに、前記可変容量型油圧モータの容量を制御するモータ容量制御装置と、
前記ウインチドラムのドラム軸のトルクを検出するトルク検出手段と、
前記トルク検出手段および前記モータ容量制御装置に接続された制御手段と、を備え、
前記モータ容量制御装置は、前記巻上げ側流路と前記巻下げ側流路との差圧が所定値を超えないように制御する装置であって、
作動油が供給されることで前記可変容量型油圧モータの傾転角を大きくする第1ピストン室、および、作動油が供給されることで当該可変容量型油圧モータの傾転角を小さくする第2ピストン室を備えた油圧式ピストンと、
前記巻上げ側流路に接続された巻上げ側パイロット油室と、前記巻下げ側流路に接続された巻下げ側パイロット油室と、を備えるとともに、当該巻上げ側流路から前記第2ピストン室への作動油の供給をセット荷重に基づいて制御する圧力補償弁と、を備え、
前記制御手段は、
前記ウインチドラムのドラム軸のトルクのうち、巻下げ時のハンチング発生トルク領域が予め記憶された記憶手段と、
前記トルク検出手段により検出された前記ドラム軸のトルクが前記ハンチング発生トルク領域にある場合のみ前記モータ容量制御装置を制御する動作制御手段と、を備え、
前記動作制御手段は、前記巻上げ側流路から前記第2ピストン室への作動油の供給を制限するように前記圧力補償弁のセット荷重を制御する、または、前記巻下げ側パイロット油室と前記巻下げ側流路とを遮断するとともに当該巻下げ側パイロット油室とタンクとを連通させるように制御する、可変容量型油圧モータの制御装置。
【請求項2】
前記モータ容量制御装置は、
前記圧力補償弁の油圧源側パイロット油室に接続されたパイロット油圧源と、
前記パイロット油圧源と前記油圧源側パイロット油室とを接続する流路に設けられた圧力制御手段と、を備え、
前記動作制御手段による前記圧力補償弁のセット荷重の制御は、前記圧力制御手段を制御して前記油圧源側パイロット油室に作用させる圧力を制御することで行われる、請求項1に記載の可変容量型油圧モータの制御装置。
【請求項3】
前記圧力制御手段は、電磁比例減圧弁または電磁切替弁を備え、
前記動作制御手段による前記圧力補償弁のセット荷重の制御は、前記電磁比例減圧弁を制御して前記油圧源側パイロット油室に作用させる圧力を制御することで行われる、または、前記電磁切替弁を切り替えて前記油圧源側パイロット油室に作用させる圧力を制御することで行われる、請求項2に記載の可変容量型油圧モータの制御装置。
【請求項4】
前記モータ容量制御装置は、前記圧力補償弁の前記巻下げ側パイロット油室と前記巻下げ側流路とを接続する巻下げ側パイロット流路に設けられた切替弁を備え、
前記切替弁は、
前記巻下げ側パイロット油室と前記巻下げ側流路とを連通させる第1切替位置と、
前記巻下げ側パイロット油室と前記巻下げ側流路とを遮断するとともに、前記巻下げ側パイロット油室とタンクとを連通させる第2切替位置と、を備え、
前記動作制御手段による前記モータ容量制御装置の制御は、前記切替弁を前記第2切替位置に切り替えることで行われる、請求項1に記載の可変容量型油圧モータの制御装置。
【請求項5】
前記トルク検出手段は、
ブームの長さの一つを選択する長さ選択手段と、
前記ブームの起伏角度を検出する角度検出手段と、
前記ブームにかかる負荷を検出する負荷検出手段と、を備え、
前記ドラム軸のトルクは、前記長さ選択手段で選択された前記ブームの長さと、前記角度検出手段で検出された当該ブームの角度と、前記負荷検出手段で検出された当該ブームにかかる負荷と、を用いて演算される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変容量型油圧モータの制御装置。
【請求項6】
前記ウインチドラムに巻かれたロープの巻層数を検出する巻層数検出手段を備え、
前記巻層数検出手段により検出された前記ロープの巻層数を、前記ドラム軸のトルクの演算に用いる、請求項5に記載の可変容量型油圧モータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−51660(P2012−51660A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193664(P2010−193664)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】