可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置
【課題】 アークプラズマの安定性を損なうことなく安定な運転を可能とし、さらには装置の起動時において簡便に起動することのできる廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を移動可能として有害な廃棄物の発生場所での無害化処理を可能とする。
【解決手段】 溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチ2を廃棄物の投入口4の近傍に配置する一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチ3を溶融処理後の廃棄物の出湯口5の近傍に配置し、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3と対向する炉底電極6を設けた廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を、車両、船舶、貨車、飛行機などの移動媒体21に積載可能なものとする。
【解決手段】 溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチ2を廃棄物の投入口4の近傍に配置する一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチ3を溶融処理後の廃棄物の出湯口5の近傍に配置し、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3と対向する炉底電極6を設けた廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を、車両、船舶、貨車、飛行機などの移動媒体21に積載可能なものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、アスベスト廃棄物やダイオキシンを含有した焼却灰などの有害な廃棄物を廃棄物の発生場所で加熱溶融し、有機成分をガス化し、金属成分と非金属成分を溶融して分離回収し、非金属成分をガラス化・岩石化させることにより無害で再資源化可能とするための装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処理のためのプラズマ溶融処理装置におけるアークプラズマは、廃棄物投入時などにおいてプラズマの電圧が上昇したりプラズマの経路が不安定になり、最悪の場合には、アークプラズマが消弧したり、水冷金属電極式のプラズマトーチであれば電流がプラズマトーチ内の電極から外側の筒などの電極以外の金属部分を経由して溶湯に流れるいわゆるダブルアークによって外側の筒などの金属部分が破損したりし、安定な運転の妨げとなる場合がある。そこで、プラズマトーチの外周に耐熱性と電気絶縁性を有するカバーを設ける工夫が考案されているが(例えば、特許文献1参照)、そのカバーは溶融時の高温に耐える必要があり、耐久性に課題がある。
【0003】
また、プラズマ溶融炉の出湯口では、溶湯の温度が炉内よりも50〜100℃程度低くなる傾向があり、溶湯の粘性が上昇し閉塞する現象が問題となっている(例えば非特許文献1参照)。このため、スラグや金属を出湯する管路部分を高周波誘導加熱により加熱する発明(特許文献2参照)や、スラグの出湯口で排ガスの顕熱を利用する発明(特許文献3参照)がなされている。
【0004】
従来の移行形プラズマトーチを用いたプラズマ溶融炉では、1本のプラズマトーチと炉底電極間、複数本のプラズマトーチ間にアークプラズマを発生させる方法(例えば特許文献4,5,6参照)、複数本のプラズマトーチと炉底電極間にアークプラズマを発生させる方法(例えば特許文献7参照)が用いられている。1本のプラズマトーチを用いた場合には、プラズマから周辺に向かうガス流やスラグの湧き出しが生じるため、投入した廃棄物が低温の周辺部へ押しやられる。また、複数のプラズマトーチ間のアークプラズマを発生させる場合、それらの出力を電流で独立に調整することはできない。さらに、複数本のプラズマトーチと炉底電極間にアークプラズマを発生させる場合には、プラズマトーチの中間部を高温とすることを目的としているため、全ての電極に流れる電流が等しくなるように設定されている。
【0005】
スラグは、溶融時には導電性があるものの、凝固すれば導電性が失われて通電不可となり、アークプラズマを発生させることができなくなる。そこで、起動を簡便に行えるようにするため、例えば、溶融処理後に電極を溶融スラグの下部にある金属層に接触させて運転を停止する方法(特許文献8参照)、凝固したスラグの上部に粒状のカーボンを投入しこれを介在してプラズマアークを発生させる方法(特許文献9参照)、炉底電極上に金属をセットし起動させる方法(特許文献10,11参照)が提案されている。
【0006】
ここまで説明したように、プラズマ溶融処理装置に関して種々の工夫がなされ開示されているが、これのみならず、さらにはプラズマ溶融処理装置を移動可能とする技術も種々のものが開示されている。例示すると、
(a)ケーシングされた穴の中へ所定の位置までプラズマアークトーチを挿入し、穴の周囲の土壌を溶解して固化する方法(特許文献12参照)、
(b)土壌を溶融し、発生する有害なガスを処理する装置を追加するが、この際に汚染土壌や焼却灰なども処理することにより有害な廃棄物の溶融処理を可能とするもの(特許文献13参照)
などが開示されている。
【0007】
また、(c)移動可能とした赤外レーザーを空中、土中、水中等に存在する汚染物質に照射し、これを選択的に励起することにより熱分解するという技術も開示されている(例えば、特許文献14参照)。
【0008】
さらには、(d)抵抗加熱による汚染土壌などの溶融技術においては、土中に鋼製の容器を設置し、その中にセラミック製の容器を据え付け、容器の中に電極を挿入し、ジュール加熱により廃棄物を溶融するという技術もある(例えば、非特許文献2参照)。鋼製の容器にはフードが取り付けられていて、発生する排ガスを回収できるようになっている。回収された排ガスは除害された後で大気へと放出される。
【0009】
【特許文献1】特開平10−27687号公報
【特許文献2】特開2002−228137号公報
【特許文献3】特開平6−300234号公報
【特許文献4】特開平9−49616号公報
【特許文献5】特開平8−5247号公報
【特許文献6】特開平8−57441号公報
【特許文献7】特開2001−324125号公報
【特許文献8】特開2002−213726号公報
【特許文献9】特開平10−253266号公報
【特許文献10】特開2001−324124号公報
【特許文献11】特開2002−31486号公報
【特許文献12】特開平5−513373号公報
【特許文献13】特開2001−173932号公報
【特許文献14】特開2001−231881号公報
【非特許文献1】吉野他、「焼却灰主成分の変動が溶融特性とスラグ品質に及ぼす影響」、廃棄物学会論文誌、2002年、Vol.13、No.6、pp.361-369
【非特許文献2】安福、寺田、木川田、「ジオメルト工法によるダイオキシン類汚染土壌の無害化」、日本機会学会誌、2004年、vol.107、No.1023 、pp. 8-12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、アスベスト廃棄物やダイオキシンに汚染された有害な廃棄物を無害化・資源化する装置をはじめとする廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置では、廃棄物の投入時にアークプラズマが不安定になり安定した状態で処理装置を運転し続けることが困難な場合があり、しかも最悪の場合にはプラズマトーチが損傷してしまうという問題もあった。アークプラズマが不安定になる理由としては、
(1)アークプラズマの中に冷たい物質が直接入ることによりプラズマの温度が下がり導電性が低下する(プラズマの電気抵抗が高くなる)。これによりアークプラズマの電圧が高くなる。アークプラズマの電圧が電源の電圧を越える場合にはアークプラズマが消えてしまう場合がある。
(2)可燃物などの場合には急激に熱分解が進むため水素、炭素が発生する。これらがアークプラズマの中に巻き込まれると、アークプラズマの物性値(導電率など)が急激に変化してアークプラズマの電圧が変動する。
(3)導電性のないコンクリート塊などが投入されることによってアークプラズマの形が変わることがある。また、アークプラズマの長さが変わることによってアークプラズマの電圧が高くなり不安定になる。
といった理由が挙げられる。また、プラズマトーチが損傷する理由としては、アークプラズマが、トーチ内の電極、ノズル、被加熱物という経路で形成された場合、アークプラズマとノズルと接触する部分に大きな熱負荷がかかるため、アークプラズマに接触したノズルの一部が、接触している時間が長くなれば溶けてしまう(また、場合によっては冷却水が漏れ出す)ということが挙げられる。
【0011】
また、上述したように、非金属性の廃棄物だと溶融時には導電性があるものの凝固してしまえば導電性が失われるという特性があるため、溶融終了後に再起動する場合、特にバッチ式の処理(例えば、毎日昼間だけ運転するような処理)のように起動・停止を頻繁に行なう場合においてより簡便に起動することが望まれている。
【0012】
さらに、溶融処理後に電極を溶融スラグの下部にある金属層に接触させて運転を停止する方法(特許文献8参照)は、高温の溶湯に主電極を挿入するというものであり、金属部が損傷してしまうため金属電極式プラズマトーチには適用できない。黒鉛電極式プラズマトーチの場合では、凝固した溶湯が収縮してしまうため炉内において間隙が形成され、導通が焼失(消失)するおそれがある。加えて、溶融しているスラグや金属が凝固するまで黒鉛の消耗が進むおそれもある。
【0013】
また、凝固したスラグの上部に粒状のカーボンを投入しこれを介在してプラズマアークを発生させる方法(特許文献9参照)は、着火前に黒鉛粒を炉内に敷く必要があり、余分な消耗品が必要になる。また、黒鉛は、プラズマトーチの材料に用いられるものなのでそれを処理するために余分な時間が必要になってしまう。
【0014】
また、炉底電極上に金属をセットし起動させる方法(特許文献10,11参照)は、起動のたびにスラグを除去する作業が必要となるため頻繁に起動・停止を行なう処理装置には不向きであり、連続運転を前提にした大型の炉であって新品の状態あるいは炉内の耐火物を張り替えるような大規模な工事の後の着火に適用されると考えられる。そうすると、この方法を適用できる処理装置の幅が限られてしまうことになる。
【0015】
以上がプラズマ溶融処理装置自体に関する問題であるが、さらに、プラズマ溶融処理装置を移動可能にするという従来技術に関しても以下に示すような問題がある。
【0016】
すなわち、まず(a)(b)として掲げた技術は、非移行形のアークプラズマにより土壌を直接溶融する方式であって炉を持たない点に特徴があるため汚染土壌を直接溶融する場合には有効であるが、このように炉を持たないものであることから土壌の掘削が必要になるという問題がある。一般的に、廃棄物はある処理装置から排出されたり日常の生活や事業活動に伴って発生したりするため、廃棄物の処理のために土壌を掘削することは経済的でない。
【0017】
(c)の技術の場合には、有害な化学物質のみを選択的に熱分解することが特徴となっているが、有害な化学物質とその他の安全な物質が分離できない場合には適用できないという問題がある。
【0018】
また(d)の技術の場合には、廃棄物の処理場所で土中に溶融炉を組み立てる方式であるために、現地での組み立てや撤去に日数がかかるなど機動性に欠けるという問題がある。さらに、溶融処理は全てバッチ処理のため、溶融操作の起動・停止を頻繁に行い、溶融固化物を取り出す作業が発生するため、作業効率やエネルギー効率が悪くなることが懸念される。また、アスベストやダイオキシン類に汚染された有害廃棄物は、輸送中の事故による廃棄物の拡散が懸念されることから、住民運動などにより移動できない場合がある。これらの廃棄物を処理方法として高温で溶融することが必要であるが、廃棄物の発生場所で簡易に組み立てられ、また、別の場所へ迅速に移動できる処理装置というものは開発されていない。
【0019】
そこで、本発明は、アークプラズマの安定性を損なうことなく安定な運転を可能とし、さらには装置の起動時において簡便に起動することのできる廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置であって、移動可能であることにより有害な廃棄物の発生場所での無害化処理を可能とする可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチを廃棄物の投入口の近傍に配置する一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチを溶融処理後の廃棄物の出湯口近傍に配置し、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチと対向する炉底電極を設けた廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置であって、車両、船舶、貨車、飛行機などの移動媒体に積載可能としたことを特徴とするものである。
【0021】
廃棄物の投入時にはアークプラズマが不安定になりやすいことから、本発明に係る廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置では、廃棄物の投入口近傍に廃棄物や溶湯と接触しても溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチを配置し、プラズマトーチと廃棄物の接触に注意を払わなくて済むようにしている。また、このように黒鉛電極式プラズマトーチを採用した場合にはこの黒鉛電極式プラズマトーチと溶湯までの間隔(ギャップ長)を短くして運転することが可能となり、短ギャップ長の運転により、アークプラズマの長さの変動を抑え、アークプラズマの不安定性を回避することが可能となる。
【0022】
その一方で、出湯口近傍にはアークプラズマの指向性が高い金属電極式プラズマトーチを配置することにより出湯口近傍の溶湯を的確に加熱できるようにしている。溶融が完了した出湯口近傍は比較的凹凸の少ない液面となっており、廃棄物投入口におけるような廃棄物等との接触という問題がない。そこで、この出湯口ではアークプラズマの指向性と加熱効率に優れた金属電極式プラズマトーチにより出湯口近傍の溶湯を的確にかつ効率的に加熱し、溶湯の温度を高めて凝固を防止し、出湯口が閉塞しないようにしている。これにより、この廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によればアークプラズマの不安定性を回避した上で尚かつ出湯を容易とし、安定した運転を行うことが可能となっている。また、本発明によれば、金属部の損傷、黒鉛の消耗の進展、余分な消耗品の準備といった問題がなく、かつ、起動のたびにスラグを除去する作業が必要ないため頻繁に起動・停止を行なう処理装置にも好適である。
【0023】
加えて、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は装置自体が車両、船舶等の移動媒体に積載可能な可搬式のものである。したがって、処理装置をいずれかの場所に設置することはもとより、装置自体を移動媒体に積載して移動させることも可能となっている。したがって、発生した廃棄物をこの処理装置の設置場所まで運搬して溶融処理するばかりでなく、逆に装置自体を廃棄物発生場所まで運搬して当該場所にて溶融・無害化処理を行うということも可能となる。
【0024】
このような可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置においては、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチをそれぞれ独立して加熱制御することが好ましい。こうした場合、廃棄物の投入、溶湯の出湯、溶融の進行等の諸状況に応じて精緻に加熱エネルギーを制御することが可能となり、エネルギー効率の高い運転が行えるようになる。また、これに加えて冷却水供給、ガス供給についてもそれぞれ独立に制御することによりエネルギー効率の更なる向上が可能となる。本願の請求項2に係る可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置では、黒鉛電極式プラズマトーチへ電力供給する第1の電源と、金属電極式プラズマトーチへ電力供給する第2の電源とを備え、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチをそれぞれ独立して加熱制御するようにしている。
【0025】
また可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は、請求項3記載の発明のように、黒鉛電極式プラズマトーチおよび炉底電極を接続する短絡路と、この短絡路を開閉する開閉器とを備え、プラズマ溶融処理装置の起動時には黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極に接続してこの黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させるとともに、起動完了後には黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極から切り離すものであることが好ましい。起動時には黒鉛プラズマトーチを炉底電極と同電位にすることにより他のプラズマトーチ(金属電極式プラズマトーチ)と黒鉛電極式プラズマトーチ間にアークプラズマを発生させることが可能となる。溶湯の形成後は、黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極から切り離すことにより電力の供給を独立に制御できるプラズマトーチとしての運転が可能となる。
【0026】
また、このような可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置においては、請求項4記載の発明のように、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方が他方のプラズマトーチに対し接近離反可能であることが好ましい。こうした場合、プラズマ溶融処理装置の起動時において黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間隔を調節することによってアークプラズマがより発生しやすい状況とすることができる。
【0027】
また、請求項5記載の発明のように、廃棄物の溶湯の液面レベルより上位であって少なくともスラグが付着しない高さに設置された炉底電極と同電位の導電性耐火物を備え、プラズマ溶融処理装置の起動時においては複数本のプラズマトーチのいずれか一本と導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させることも好ましい。溶融処理の終了後、プラズマ溶融炉内の温度が低下すると凝固したスラグが炉底電極を覆ってしまい電気を流すことができなくなるが、このように炉底電極と電気的につながっている導電性のある耐火物を設置しておけば、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の起動時には、複数本のプラズマトーチのいずれか1本とこの導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させることにより簡便に起動することが可能となる。
【0028】
以上の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は、請求項6記載のように、少なくともプラズマ溶融炉を含んだ炉体部分が傾動可能な構造となっていることが好ましい。このような構造のプラズマ溶融処理装置は、プラズマ溶融炉を傾かせて溶湯を強制的に出湯することができる。
【0029】
さらに、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は、請求項7記載のようにコンテナのサイズよりも小さくされていることが好ましい。こうした場合、コンテナの積載が可能な貨車や船などに余裕をもって搭載することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明より明らかなように、請求項1記載の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は、黒鉛電極式プラズマトーチの高い安定性と金属電極式プラズマトーチの高い加熱能力という両者の特長を活かす組合せ及び配置としたことにより、アークプラズマの不安定性を回避するとともに出湯口近傍の溶湯を的確に加熱して出湯口が閉塞してしまうのを防止することが可能となっている。このため、アークプラズマの安定性を損なうことなく安定した運転を行うことが可能となっている。
【0031】
しかも、装置自体が可搬式となっていることから、有害な廃棄物の発生場所での効率的な無害化処理を実施することができる。つまり、従来であれば様々な有害物質を処理拠点まで移動させることが不可避であったが、本発明によれば装置自体がモバイル性を有することにより、廃棄物の移動(廃棄物輸送)に伴うリスクを完全に回避することができる。さらには、様々な箇所へ移動して廃棄物処理を実施すればその分だけプラズマ溶融処理装置として稼働することになるから必然的に稼働率の大幅な向上が見込まれ、ひいては経済性に優れるということになる。加えて、処理装置自体が現地に赴くわけだから、有害物質が様々な地域に散在しているとしても彼方此方に最終処分施設を設ける必要がないという点でも有利である。
【0032】
さらに、本発明にかかる可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置はエネルギー源としては最もインフラが整備されている電力を使用するために、様々な箇所、広範な地域において適用できるという点でも有利である。しかも、このように電力というクリーンエネルギーを使用することは二次的な環境汚染を最小限にとどめることにもなる。
【0033】
また、各プラズマトーチに対応した電源を備え、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチをそれぞれ独立して加熱制御するようにした請求項2記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によれば、廃棄物の投入、溶湯の出湯、溶融の進行等の諸状況に応じて精緻に加熱エネルギーを制御することが可能となることから、エネルギー効率の高い運転を行うことができる。これに加えて、冷却水供給、ガス供給についてもそれぞれ独立に制御することによりエネルギー効率の更なる向上が可能となる。
【0034】
また、請求項3記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、装置起動時には黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極に接続してこの黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させるとともに起動完了後には黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極から切り離すというように、凝固したスラグには導電性がないことを前提とした起動方法を確立しており、簡易に起動することが可能である。
【0035】
また、請求項4記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、装置の起動時において黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間隔を調節することによってアークプラズマがより発生しやすい状況をつくることができる。
【0036】
さらに請求項5記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、装置の起動時にプラズマトーチと導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させるようにしているので、簡便に起動することができる。
【0037】
また、請求項6記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、プラズマ溶融炉を傾動させて溶湯を強制的に排出することができるから廃棄物の迅速な処理が可能となり、廃棄物発生場所まで移動して処理する場合に有利である。
【0038】
さらに請求項7記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、コンテナの積載が可能な貨車や船などに余裕をもって搭載可能であることから、自動車はもちろんのこと貨車や船での移動がさらに容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0040】
図1〜図6に本発明の一実施形態を示す。本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1は1台(1機)あたりにつきプラズマトーチが2本設けられているものであり、具体的には、アークプラズマが不安定になりやすい廃棄物の投入口4側には黒鉛電極式プラズマトーチ2が配置され、凹凸のない平面的な溶湯14が形成される出湯口5側には金属電極式プラズマトーチ3が配置されている(図1参照)。黒鉛電極式プラズマトーチ2は、金属電極式プラズマトーチ3に比べれば溶湯14への伝熱効率は劣るものの、電極が消耗式であるため廃棄物や溶湯14と接触しても溶融処理を継続できるという利点がある。一方の金属電極式プラズマトーチ3は、ノズルなどの金属部分の破損を防止するためには廃棄物や溶湯14と接触するような運転は避けなければならないものの、ガス流とノズルによる熱ピンチ効果によって高い指向性を持つアークプラズマを発生でき、高い加熱効率の達成を可能とするものである。
【0041】
なお、本発明の実施形態の説明中における「廃棄物」は溶融する前のもので、金属、不燃物、可難燃物(可燃物および難燃物)のいずれか1つ以上から構成される。これを高温で処理すると可難燃物はすす又はガスになり、金属と不燃物が溶けた状態となる。金属と不燃物のいずれか1つ以上が溶ければ「溶湯」となる。不燃物が溶けて固まったものは「スラグ」となり、このスラグが溶ければ「溶融スラグ」となる。また、溶融時には比重の違いにより下部に溶融金属、上部に溶融スラグとなる2層構造になる。
【0042】
以下では、本発明にかかる可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置のうちまず処理装置1本体について説明し(図1〜図6参照)、続いて可搬式とするための構成について説明することにする(図7〜図12参照)。
【0043】
本実施形態における黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3は、図1に示すようにいずれも細長の棒状であり、プラズマ溶融炉13の炉壁を貫くように(より具体的には天井壁を上下に貫くように)設置されている。また、いずれのプラズマトーチ2,3も上下方向(軸方向)と旋回方向に自由に駆動できる機構を有し、プラズマ溶融炉13へ挿入された部分(プラズマ溶融炉13内に突出している部分)が旋回可能かつ上下動可能となっている。旋回させる駆動機構の一例を示せば、例えばX方向とY方向とに独立に駆動できる2つのステージ19,20から成りプラズマトーチ2,3の上部に取り付けられる機構が挙げられる(図5参照)。このような機構の場合、X方向とY方向とに独立して駆動可能なので円運動(旋回運動)ができ、更には、いずれか一方を動かさなければ前後動(または左右方向への動き)だけの動きも可能となる。さらに、黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3の少なくとも一方は前後方向(この場合の前後方向とは廃棄物投入口4と出湯口5とを結ぶ方向のことで、例えば図1でいえば左右の方向)に移動するための機構を有しており、他方のプラズマトーチに接近しあるいはこのプラズマトーチから遠ざかることが可能となっている。この場合の前後動は、上述した旋回機構がある場合には旋回範囲を前後動の範囲より広くすることにより対応可能である。
【0044】
また、本実施形態では黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3への冷却水とガスの供給およびその制御を以下のように行っている(図6参照)。すなわち、ガスについては、供給装置15から減圧弁16、ヘッダー17、流量計18を通じて黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3とに続く供給系統を利用して供給を行っている。ヘッダー17はガスを分岐するためのもので例えば両端を塞いだパイプのようなものを用いることができる。ここでいう供給装置15の具体例はボンベであるが、ガスの代わりに空気が使用される場合にはコンプレッサー、窒素が使用される場合には窒素製造装置などがボンベの代わりに用いられる。黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3とで使用するガスが異なる場合には、「供給装置15→減圧弁16→流量計18→プラズマトーチ」という供給系統が2つ準備されることになる。また、冷却水も、特に図示しないが上述したガスの供給・制御と同じように冷却水供給装置からヘッダーを通して分岐され、流量計を通して各プラズマトーチに供給される。このような供給系統により供給されるガスあるいは冷却水は、プラズマ溶融炉13内において溶湯が形成されていると否とにかかわらずその供給量等を独立して制御することが可能である。なお、黒鉛電極式プラズマトーチ2はプラズマガスが無くても運転ができるのでこの黒鉛電極式プラズマトーチ2に対するガスの供給系統は省略することが可能である。
【0045】
プラズマ溶融炉13の炉底には電極(本明細書ではこの電極を「炉底電極」と称している)6が設けられている(図1参照)。この炉底電極6は、黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3のうち少なくともいずれか一方と対向するように設置されている。例えば本実施形態における炉底電極6は金属電極式プラズマトーチ3寄りに配置されてこの金属電極式プラズマトーチ3と対向している(図1参照)。
【0046】
黒鉛電極式プラズマトーチ2、金属電極式プラズマトーチ3、炉底電極6にはアークプラズマを発生させるための電源が接続されている(図1参照)。本実施形態の場合は、黒鉛電極式プラズマトーチ2と炉底電極6とを結ぶ回路の途中に第1の電源7と開閉器12を設け、さらに、金属電極式プラズマトーチ3と炉底電極6とを結ぶ回路の途中に第2の電源8を設けている(図1参照)。なお、電源7,8はここで示しているように別個とされる他、例えば電源装置の中身で共通で使える部分があるような場合には単一の電源装置によって構成し、それぞれを制御することも可能である。また、第1の電源7および開閉器12と並列の短絡路9を設け、この短絡路9の途中に開閉器11を設けている(図1参照)。このような回路を備えた本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1によれば、プラズマトーチに供給する電力を以下のように独立に制御することができる。
【0047】
すなわち、加熱・溶融時においては回路の開閉器12を閉じて開閉器11を開けばよい。こうした場合、黒鉛電極式プラズマトーチ2に対しては第1の電源7が電力供給し、金属電極式プラズマトーチ3に対しては第2の電源8が電力供給するというように電力系統が複数となり、第1の電源7と第2の電源8によってそれぞれのアークプラズマ2,3を独立に制御することが可能である。したがって、廃棄物投入口4からの廃棄物投入量、溶湯14の出湯量、溶融の進行等といった溶融処理状況に応じて各プラズマトーチ2,3におけるアークプラズマを調整し加熱制御を行うことができる。
【0048】
また、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の起動時においては、開閉器12を開き、開閉器11を閉じることによって、第2の電源8→金属電極式プラズマトーチ3→黒鉛電極式プラズマトーチ2→開閉器11→炉底電極6→第2の電源8というように周回する1本の直列の電流経路を形成することができ(図2参照)、これにより、黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3との間でアークプラズマを発生させることが可能となる(なお、図2〜図4では電流経路を矢印で表している)。この際、上述した前後動可能な機構により一方あるいは両方のプラズマトーチを前後動させて両プラズマトーチ2,3間の距離をアークプラズマの着火に必要な距離まで狭めることにより、両プラズマトーチ間にアークプラズマを発生させ、プラズマ溶融炉13内で凝固したスラグ(溶湯)を溶融することができる。このようにして溶融したスラグ(溶湯)は再び導電性を発揮する。したがって、第2の電源8→金属電極式プラズマトーチ3→溶融スラグ(溶湯)→炉底電極6→第2の電源8という電流経路が確立し、この状態で開閉器11を開き黒鉛電極式プラズマトーチ2を炉底電極6から切り離したとしても金属電極式プラズマトーチ3は安定した状態でアークプラズマを発生し続けることができる(図3参照)。この状態で開閉器12を閉じれば上述したように黒鉛電極式プラズマトーチ2にも第1の電源7から電力を供給してアークプラズマを発生させることができる(図4参照)。
【0049】
以上のような構成の本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1によれば、廃棄物投入口4の近傍におけるアークプラズマの不安定性を回避すると同時に、出湯口5の近傍ではスラグ(溶湯)を的確に加熱昇温して出湯時における閉塞を防止することができ、これによりプラズマ溶融炉13を安定した状態で運転することが可能となる。また、これらプラズマトーチ2,3へ供給する電力、更には冷却水やガスを独立に制御することにより、廃棄物の投入、溶湯14の出湯、溶融の進行等の状況に応じた精緻な制御ができ、エネルギー効率の高い運転を行うことができる。
【0050】
しかも、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の起動時においては、前後に配置された両プラズマトーチ2,3間でアークプラズマをいったん発生させて凝固スラグを溶融し、導電性を取り戻させた後で各プラズマトーチ2,3を独立して加熱制御するというように、凝固スラグの導電性がないことを前提とした起動方法を確立している。このため、起動時において簡易に起動することが可能となっている。特に、装置1自体をより小型化した場合には、電気加熱方式であることと相まって他の装置よりも起動・停止がより容易なものとなる。
【0051】
さらに、プラズマ溶融を行う本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1には以下のようなメリットがある。すなわち、比較的容易に超高温を発生させることができることから、速い処理速度の達成、装置のコンパクト化、廃棄物の種類に対する広い受入裕度(種々雑多なものを溶融できる)といったメリットがある。また、電気加熱の特長として排ガスが少ないことから、排ガス処理設備をコンパクトにできる、粉体を扱いやすい(排ガスにのって排出されにくい)、飛灰処理に適する、といったメリットがある。さらに、電気加熱の別の特長としてエネルギー管理と制御が容易であることから、運転条件の最適化が容易であるというメリットもある。加えて、電気加熱のさらに別の特長として、加熱する場で進行する化学反応から受ける加熱エネルギーへの影響が比較的少ないことから、廃棄物の組成が変動しても安定的な加熱を維持しやすいというメリットがある。
【0052】
続いて、ここまで説明した廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を可搬式とするための構成について以下に説明する。本実施形態にかかる廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1は、加熱源として超高温のプラズマを選定し、高温・高エネルギー密度の加熱源を得ていることから、処理速度の向上を可能とし、尚かつプラズマ溶融炉13のコンパクト化をも可能としている。また、電気加熱なので排ガス量が少ないことから、排ガス処理設備のコンパクト化も可能としている。さらに、排ガス処理に湿式法を採用しているため、排水処理こそ必要ではあるがこのことを含めても乾式法に比べてコンパクト化を図ることが可能となっている。加えて、プラズマ溶融炉13を小型としたときには全体の熱容量が小さくなるから、廃棄物の出湯口5側に高い指向性を持つ金属電極式プラズマトーチ3を配置していることと相まって、出湯直前の溶湯14の温度を高温にすることにより出湯口5の詰まりなどのトラブルを回避し、よりスムーズな出湯を行うことが可能となる。本実施形態では、以上のような廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を車両、船舶、貨車、飛行機などの移動媒体21に積載可能な構成としているので、以下、この構成についてより詳しく説明する(図7等参照)。
【0053】
まず、本発明にかかる可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1と前処理装置22とを示す(図7、図8参照)。ここでは、移動媒体21の一例であるトラックに上述した廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を積載した様子を示している。また、この廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の後部には併せて前処理装置22が積載されている。この前処理装置22は、コンベア23、破袋機24、搬送コンベア25、乾燥機26、搬送コンベア27、そしてダンパー28を備えた構成となっている(図7等参照)。
【0054】
前処理装置22の後部には、廃棄物を破砕機24に供給するためのコンベア23が設けられている(図7、図8参照)。このコンベア23は折りたたみ式とするなどして廃棄物供給時以外は移動媒体21の積載部(荷台)に収められるようになっていることが好ましい。なお、廃棄物は有害であるために例えばフレコンパック(高分子系の袋)に詰められるなどした袋状の状態で搬送されることが一般的である。
【0055】
破袋機24は、これに続く乾燥・溶融の処理を行いやすくするための処理を行う装置で、コンベア23によって供給された廃棄物が例えばフレコンパックに詰められた状態であればこのフレコンパックを破って袋から取り出すという処理を行う。この場合、袋に詰められている廃棄物の大きさは、当該廃棄物の種類やこれを扱う処理装置1の処理規模等に応じて変わってくるが、一例として、本実施形態における破袋機24は、煉瓦程度の大きさ(例えば230×115×65mm以下の大きさ)の廃棄物を受入条件とし、併せてフレコンパックに詰められた状態で廃棄物が引き渡されることも受入条件としている。
【0056】
搬送コンベア25は、破袋機24によって取り出された廃棄物、および破袋機24によって引きちぎられたフレコンパックを次段階の処理が行われる乾燥機26へと搬送するためのコンベアである。
【0057】
乾燥機26は廃棄物中に含まれる水分を蒸発させる処理を行う装置であり、この乾燥機26による処理は排ガス処理系への負担を少なくするために必要なものとなっている。すなわち、廃棄物が含有する水分がプラズマ溶融炉13に入り込むと体積増加してしまい、処理すべき排ガス量が著しく大きくなることに起因して排ガス処理設備が大型になってしまうという点、および排ガス処理系で結露が生じると酸性ガスと水とが反応して酸ができ、これに起因して排ガス処理系が傷むという点、が懸念されるのだが、プラズマ溶融炉13へ廃棄物を投入する前に脱水処理を施せば排ガス処理系へ流入する水分量を低減することができ、ひいては排ガス処理設備のコンパクト化が可能となる。なお、この乾燥機26によって乾燥処理を行う場合には、廃棄物中の水分量が1/10以下となるまで蒸発処理を行うことが好ましい。例えば廃棄物に含まれる水分が30wt%であれば、その1/10以下となる3wt%程度にまで蒸発させるということになる。
【0058】
搬送コンベア27は、この乾燥機26によって乾燥処理が施された廃棄物をプラズマ溶融炉13へと搬送するためのコンベアである。この搬送コンベア27によって搬送された廃棄物は、廃棄物投入口4へと繋がっている廃棄物投入筒4aへと投入される(図7参照)。
【0059】
ダンパー28は、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1からの高温ガスが前処理装置22へ逆流するのを防止する装置として設けられている。つまり、廃棄物を廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1に受け渡すときには大気圧に等しくなる箇所が生じるが、このダンパー28で仕切りを設けて気密性を保持しておけば負圧を維持することが容易となる。プラズマ溶融炉13の気密性を保ちやすくするという観点からは、本実施形態のようにダブル(二重)ダンパーとすることが好ましい(図7参照)。また、本実施形態のダンパー28はフラップ付きの電動式となっている。
【0060】
また、図7、図8に示している可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の基本的な構成は上述したとおりであるが(図1〜図6参照)、移動媒体21を使った各移動先にて効率的にかつ短時間で溶融処理を行うといった観点から、さらに本実施形態では、少なくともプラズマ溶融炉13を含んだ部分(炉体部分)を出湯口5の方へと傾動させることのできる構成としている(図7等参照)。通常、プラズマ溶融炉13内の溶湯14は出湯口5をオーバーフローすることによって出湯することになるが(図1等参照)、これに加え、炉体部分を傾かせて溶湯14を強制的に出湯できるようにしている。要するに、本実施形態の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1においてはオーバーフローまたは傾動のいずれでも出湯できるようになっている。このように廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1自体あるいはそのうちプラズマ溶融炉13を含んだ炉体部分を傾動可能とするための具体的構成は特に限定されることはないが、例えば本実施形態においては支持台29を設け、この支持台29上の支持部材35によって炉体部分を支点30を中心として傾動可能に支持するとともに、左右一対の傾動用油圧シリンダ31を使って炉体部分を出湯口5の方へ傾動させることとしている(図9、図11、図12参照)。この場合における最大傾動角は各構成に応じて種々の値を取りうるが、本実施形態においてはおよそ60度の傾動角を確保し、プラズマ溶融炉13内の溶湯14の大部分を出湯口5から排出することを可能としている(図7、図9参照)。
【0061】
さらには、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1のプラズマ溶融炉13の蓋(以下「炉蓋」といい、符号32で示す)を開閉可能とすることも好ましい。こうした場合、プラズマトーチ2,3やプラズマ溶融炉13のメンテナンスが容易になる。本実施形態では、支持部材36によって炉蓋32を支点33を中心に前後方向へ傾動可能に支持し、処理装置1の本体とこの炉蓋32との間に左右一対の炉蓋開閉用油圧シリンダ34を設置した構造として、この炉蓋開閉用油圧シリンダ34がストロークするのに従って炉蓋32が開閉するようにしている(図10〜図12参照)。
【0062】
なお、本実施形態では特に図示していないが、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1には必要に応じて凝固装置が設けられる。また、本実施形態では可燃物の焼却炉も図示していないが、これについては特に新規な技術を含んでいる必要はなく、例えば市販品など従前のもので対応することができる。さらに、これについても図示はしていないが、本実施形態の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1には排ガス処理設備が併設されている。プラズマ溶融炉13から排出される排ガスにはダストや酸性ガス(HCl、NOx、SOx)などが含まれており、排ガス処理設備はこれらを排出環境基準を満たすまで除害してから排出するはたらきをする。
【0063】
ところで、ここまで説明した可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1は移動媒体21に積載可能なものであり、車両、船舶、貨車、飛行機など各種媒体の具体的大きさや積載能力に応じてその大きさや重量を適宜変更することができる。ただし、汎用性および可搬性の向上という観点からすれば、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の全体としてのサイズはコンテナのサイズよりも小さくなっていることが好ましい。こうした場合にはコンテナの積載が可能な貨車や船などに余裕をもって搭載することが可能となるし、積載が可能な移動媒体21の種類や数が多くなることによって汎用性および可搬性が向上する。コンテナの具体例としては、例えば、船舶などで用いられているサイズであってトレーラーでも移動可能な40フィートコンテナ(長さ12m、巾2.35m、高さ2.35m)などがある。なお、ここまでは可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1のサイズについて説明したが以上のことは前処理装置22についても同様である。つまり、前処理装置22も各種移動媒体21の具体的大きさや積載能力に応じて適宜変更可能であるし、コンテナのサイズより小さくなっていることが好ましい。なお、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1や前処理装置22は、どのようなサイズであっても所要の廃棄物処理能力は確保していることはいうまでもない。
【0064】
また、上述の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1および前処理装置22は、必要に応じて折りたたみ可能な構造となっていることも好ましい。こうした場合には、移動媒体21への積載時に折りたたんでコンパクトにすることが可能となる。例えば本実施形態においては前処理装置22の供給用コンベア23を折りたたみ可能としており、移動時にはコンパクトに折りたたむ一方で廃棄物処理時には地上まで延ばして廃棄物を破袋機24まで搬送できるような構造としている(図7参照)。
【0065】
移動媒体21は本実施形態で説明した可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を積載して移動させるための媒体であり、上述したように車両、船舶、貨車、飛行機などが該当する。本実施形態では一例として25tトラックを図示して説明している(図7、図8参照)。図示しているようにこのトラックは両側にアウトリガー(作業時の安定性を保つため機械等の外側に張り出し地面に突っ張る接地脚)37を備えている。
【0066】
ここまで説明した本実施形態の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1によれば、従来の廃棄物処理装置とは異なり、様々な有害物質の発生箇所に廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1自体が出向き、当該箇所において無害化・再資源化(スラグ化)といった処理を実施することが可能となる。つまり、従来であれば様々な有害物質を処理拠点まで移動させることが不可避であったが、本発明によれば装置自体がモバイル性を有することにより、廃棄物移動(廃棄物輸送)に伴うリスクを完全に回避することが可能となる。さらには、様々な箇所へ移動して廃棄物処理を実施すればその分だけプラズマ溶融処理装置として稼働することになるから必然的に稼働率の大幅な向上が見込まれ、ひいては経済性に優れるということになる。加えて、処理装置自体が現地に赴くわけだから、有害物質が様々な地域に散在しているとしても彼方此方に最終処分施設を設ける必要がないという点でも有利である。
【0067】
また、エネルギー源としては最もインフラが整備されている電力を使用するために、様々な箇所、広範な地域において適用できるという点でも有利である。しかも、このように電力というクリーンエネルギーを使用することは二次的な環境汚染を最小限にとどめることにもなる。
【0068】
また、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を実施に稼働させる際の運転操作の方法は種々あるが、一例として、熟練したオペレータを装置に帯同させて運転操作を専属で行うこととすれば、再資源化品質の安定性、処理操作の安全性の向上を図ることが可能となる。また、このような観点からすれば、廃棄物処理システムとしてのパッケージ化(単位化、ユニット化)を行うことにより機動性の向上を図り、もって安定性、安全性をも向上させるということも考えられる。ここでいうパッケージ化の具体例を挙げると、例えば、金属の型枠の上にプラズマ溶融炉13、前処理装置22、排ガス処理設備を別々に組み立てておき、処理する場所でトレーラー等の移動媒体21から降ろして作業をするというような形態が考えられ、しかもこのように別々に組み立てておけばより小型の移動媒体21での搬送も可能となり、移動が容易になる。また、重量のあるプラズマ溶融炉13の部分と前処理装置22の部分を切り離せるようにしておけば、現地で積み下ろしの作業に必要なクレーンの吊り下げ重量を小さくできる。例えば、クレーンの吊り下げ重量は10tの次は50tであり、現地での積み下ろしの作業性を向上させるという観点からすればより小回りの利く10tクレーンを使用する方が好ましい場合がある。なお、図示しない排ガス処理設備への配管はフレキシブルダクトを用いて行うようにすれば接続作業も容易となる。また、排ガス処理設備も組み立て式とし、切り離した状態で搬送することとしてもよい。
【0069】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では簡易な起動を実現するための一手法として黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3との間にアークプラズマを発生させる場合について説明したがこれとは別の手法を採用することもできる。以下、別の起動手法を採用した本発明の他の実施形態を示す(図13参照)。図13に示す廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1は導電性耐火物10を備える以外は上述した廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置と同じ構成となっている。導電性耐火物10は、図示するようにその一部が炉底電極6と接続されることによってこの炉底電極6と同電位となっているもので、更に本実施形態の場合には、溶湯14の液面レベルより上位であって少なくともスラグが付着しない高さとなるようにプラズマ溶融炉13の内壁に沿って廃棄物投入口4側に延びるように設置されている。また、この導電性耐火物10と黒鉛電極式プラズマトーチ2の先端との距離は、炉底電極6と金属電極式プラズマトーチ3の先端との距離と同程度となっている。この導電性耐火物10に好適な材料・材質としては、例えば黒鉛、カーボンを含有した耐火物(MgO-C、ドロマイト-C、Al2O3-SiC-C、Al2O3-MgO-C)が挙げられる。廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の起動時においては、この導電性耐火物10と黒鉛電極式プラズマトーチ2との間でアークプラズマを発生させることができ、これによって廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を簡便に起動することが可能となっている。なお、ここでは導電性耐火物10と黒鉛電極式プラズマトーチ2との間でアークプラズマを発生させるようにした例を説明したが、これとは逆に導電性耐火物10と金属電極式プラズマトーチ3との間でアークプラズマを発生させても起動を簡便に行うことができる。
【0070】
また、特に図示はしないが、上述した実施形態のように2本のプラズマトーチ2,3を前後2箇所に配置する他、更に別のプラズマトーチを配置して合計3本以上としても構わない。このように3本以上のプラズマトーチを用いる場合、廃棄物投入口4の近傍と出湯口5の近傍に配置されたプラズマトーチ以外のプラズマトーチには、黒鉛電極式または水冷金属電極式のいずれかを用いる。
【0071】
また、プラズマ溶融炉13を含んだ部分(炉体部分)を傾動可能とした構造の一例として、本実施形態ではこの炉体部分を出湯口5の方へと傾動させる(つまりトラック前方へと傾動させる)ようにした形態を説明したがこれも一例にすぎない。例えば上述した凝固装置(図示省略)の配置によっては、上述したのと90度傾いた方向、つまりトラックの左右いずれの方向へ炉体部分を傾動させることも可能である。いうまでもないが、このようにする場合には溶湯の出湯口5は傾動する方向の側あるいはその近傍に設けられることなる。
【0072】
また、上述した実施形態においては特に言及しなかったが、厳密な分別が制度上なされている特別管理廃棄物を処理対象とすることも好ましいといえる。こうした場合には、可燃物と不燃物とを分別処理することとすれば可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1のさらなるコンパクト化を実現することが可能となるし、またこのように分別処理するにあたって可燃廃棄物、不燃廃棄物の双方とも溶融無害化処理をすることが可能である。
【0073】
さらに、本実施形態ではあくまで1台の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を1台の移動媒体(トラック)21で移動させることを前提に説明をしたが、ある一定の対象地域に複数台の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を投入することももちろん可能である。例えばこのようにした場合であれば同時間帯における処理能力がその分だけ向上することから適用対象地域を拡大することも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の一実施形態を示す概念図である。
【図2】廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の起動時における電流経路を示す図である。
【図3】黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極から切り離した後の電流経路を示す図である。
【図4】図3に示した廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置において、更に第1の電源から黒鉛電極式プラズマトーチに電力供給した状態を示す図である。
【図5】プラズマトーチを旋回させる駆動機構の一例を示す概略図である。
【図6】黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチへのガス供給系統の一例を示す概略図である。
【図7】移動媒体の一例であるトラックおよびこのトラック上に積載された可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を示す側面図である。
【図8】図7に示した可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置およびトラックの平面図である。
【図9】炉体部分を傾動可能とした可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の側面図である。
【図10】可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置のうち開閉可能とされた炉蓋部分を拡大して示す図である。
【図11】溶湯の出湯口側からみた可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を示す図である。
【図12】図9に示した可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の平面図である。
【図13】本発明の他の実施形態を示す概念図で、プラズマ溶融炉内に導電性耐火物を備えた廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を表したものである。
【符号の説明】
【0075】
1 廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置
2 黒鉛電極式プラズマトーチ
3 金属電極式プラズマトーチ
4 廃棄物投入口
5 出湯口
6 炉底電極
7 第1の電源
8 第2の電源
9 短絡路
10 導電性耐火物
11 (短絡路9の)開閉器
13 プラズマ溶融炉
14 溶湯
21 移動媒体
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、アスベスト廃棄物やダイオキシンを含有した焼却灰などの有害な廃棄物を廃棄物の発生場所で加熱溶融し、有機成分をガス化し、金属成分と非金属成分を溶融して分離回収し、非金属成分をガラス化・岩石化させることにより無害で再資源化可能とするための装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処理のためのプラズマ溶融処理装置におけるアークプラズマは、廃棄物投入時などにおいてプラズマの電圧が上昇したりプラズマの経路が不安定になり、最悪の場合には、アークプラズマが消弧したり、水冷金属電極式のプラズマトーチであれば電流がプラズマトーチ内の電極から外側の筒などの電極以外の金属部分を経由して溶湯に流れるいわゆるダブルアークによって外側の筒などの金属部分が破損したりし、安定な運転の妨げとなる場合がある。そこで、プラズマトーチの外周に耐熱性と電気絶縁性を有するカバーを設ける工夫が考案されているが(例えば、特許文献1参照)、そのカバーは溶融時の高温に耐える必要があり、耐久性に課題がある。
【0003】
また、プラズマ溶融炉の出湯口では、溶湯の温度が炉内よりも50〜100℃程度低くなる傾向があり、溶湯の粘性が上昇し閉塞する現象が問題となっている(例えば非特許文献1参照)。このため、スラグや金属を出湯する管路部分を高周波誘導加熱により加熱する発明(特許文献2参照)や、スラグの出湯口で排ガスの顕熱を利用する発明(特許文献3参照)がなされている。
【0004】
従来の移行形プラズマトーチを用いたプラズマ溶融炉では、1本のプラズマトーチと炉底電極間、複数本のプラズマトーチ間にアークプラズマを発生させる方法(例えば特許文献4,5,6参照)、複数本のプラズマトーチと炉底電極間にアークプラズマを発生させる方法(例えば特許文献7参照)が用いられている。1本のプラズマトーチを用いた場合には、プラズマから周辺に向かうガス流やスラグの湧き出しが生じるため、投入した廃棄物が低温の周辺部へ押しやられる。また、複数のプラズマトーチ間のアークプラズマを発生させる場合、それらの出力を電流で独立に調整することはできない。さらに、複数本のプラズマトーチと炉底電極間にアークプラズマを発生させる場合には、プラズマトーチの中間部を高温とすることを目的としているため、全ての電極に流れる電流が等しくなるように設定されている。
【0005】
スラグは、溶融時には導電性があるものの、凝固すれば導電性が失われて通電不可となり、アークプラズマを発生させることができなくなる。そこで、起動を簡便に行えるようにするため、例えば、溶融処理後に電極を溶融スラグの下部にある金属層に接触させて運転を停止する方法(特許文献8参照)、凝固したスラグの上部に粒状のカーボンを投入しこれを介在してプラズマアークを発生させる方法(特許文献9参照)、炉底電極上に金属をセットし起動させる方法(特許文献10,11参照)が提案されている。
【0006】
ここまで説明したように、プラズマ溶融処理装置に関して種々の工夫がなされ開示されているが、これのみならず、さらにはプラズマ溶融処理装置を移動可能とする技術も種々のものが開示されている。例示すると、
(a)ケーシングされた穴の中へ所定の位置までプラズマアークトーチを挿入し、穴の周囲の土壌を溶解して固化する方法(特許文献12参照)、
(b)土壌を溶融し、発生する有害なガスを処理する装置を追加するが、この際に汚染土壌や焼却灰なども処理することにより有害な廃棄物の溶融処理を可能とするもの(特許文献13参照)
などが開示されている。
【0007】
また、(c)移動可能とした赤外レーザーを空中、土中、水中等に存在する汚染物質に照射し、これを選択的に励起することにより熱分解するという技術も開示されている(例えば、特許文献14参照)。
【0008】
さらには、(d)抵抗加熱による汚染土壌などの溶融技術においては、土中に鋼製の容器を設置し、その中にセラミック製の容器を据え付け、容器の中に電極を挿入し、ジュール加熱により廃棄物を溶融するという技術もある(例えば、非特許文献2参照)。鋼製の容器にはフードが取り付けられていて、発生する排ガスを回収できるようになっている。回収された排ガスは除害された後で大気へと放出される。
【0009】
【特許文献1】特開平10−27687号公報
【特許文献2】特開2002−228137号公報
【特許文献3】特開平6−300234号公報
【特許文献4】特開平9−49616号公報
【特許文献5】特開平8−5247号公報
【特許文献6】特開平8−57441号公報
【特許文献7】特開2001−324125号公報
【特許文献8】特開2002−213726号公報
【特許文献9】特開平10−253266号公報
【特許文献10】特開2001−324124号公報
【特許文献11】特開2002−31486号公報
【特許文献12】特開平5−513373号公報
【特許文献13】特開2001−173932号公報
【特許文献14】特開2001−231881号公報
【非特許文献1】吉野他、「焼却灰主成分の変動が溶融特性とスラグ品質に及ぼす影響」、廃棄物学会論文誌、2002年、Vol.13、No.6、pp.361-369
【非特許文献2】安福、寺田、木川田、「ジオメルト工法によるダイオキシン類汚染土壌の無害化」、日本機会学会誌、2004年、vol.107、No.1023 、pp. 8-12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、アスベスト廃棄物やダイオキシンに汚染された有害な廃棄物を無害化・資源化する装置をはじめとする廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置では、廃棄物の投入時にアークプラズマが不安定になり安定した状態で処理装置を運転し続けることが困難な場合があり、しかも最悪の場合にはプラズマトーチが損傷してしまうという問題もあった。アークプラズマが不安定になる理由としては、
(1)アークプラズマの中に冷たい物質が直接入ることによりプラズマの温度が下がり導電性が低下する(プラズマの電気抵抗が高くなる)。これによりアークプラズマの電圧が高くなる。アークプラズマの電圧が電源の電圧を越える場合にはアークプラズマが消えてしまう場合がある。
(2)可燃物などの場合には急激に熱分解が進むため水素、炭素が発生する。これらがアークプラズマの中に巻き込まれると、アークプラズマの物性値(導電率など)が急激に変化してアークプラズマの電圧が変動する。
(3)導電性のないコンクリート塊などが投入されることによってアークプラズマの形が変わることがある。また、アークプラズマの長さが変わることによってアークプラズマの電圧が高くなり不安定になる。
といった理由が挙げられる。また、プラズマトーチが損傷する理由としては、アークプラズマが、トーチ内の電極、ノズル、被加熱物という経路で形成された場合、アークプラズマとノズルと接触する部分に大きな熱負荷がかかるため、アークプラズマに接触したノズルの一部が、接触している時間が長くなれば溶けてしまう(また、場合によっては冷却水が漏れ出す)ということが挙げられる。
【0011】
また、上述したように、非金属性の廃棄物だと溶融時には導電性があるものの凝固してしまえば導電性が失われるという特性があるため、溶融終了後に再起動する場合、特にバッチ式の処理(例えば、毎日昼間だけ運転するような処理)のように起動・停止を頻繁に行なう場合においてより簡便に起動することが望まれている。
【0012】
さらに、溶融処理後に電極を溶融スラグの下部にある金属層に接触させて運転を停止する方法(特許文献8参照)は、高温の溶湯に主電極を挿入するというものであり、金属部が損傷してしまうため金属電極式プラズマトーチには適用できない。黒鉛電極式プラズマトーチの場合では、凝固した溶湯が収縮してしまうため炉内において間隙が形成され、導通が焼失(消失)するおそれがある。加えて、溶融しているスラグや金属が凝固するまで黒鉛の消耗が進むおそれもある。
【0013】
また、凝固したスラグの上部に粒状のカーボンを投入しこれを介在してプラズマアークを発生させる方法(特許文献9参照)は、着火前に黒鉛粒を炉内に敷く必要があり、余分な消耗品が必要になる。また、黒鉛は、プラズマトーチの材料に用いられるものなのでそれを処理するために余分な時間が必要になってしまう。
【0014】
また、炉底電極上に金属をセットし起動させる方法(特許文献10,11参照)は、起動のたびにスラグを除去する作業が必要となるため頻繁に起動・停止を行なう処理装置には不向きであり、連続運転を前提にした大型の炉であって新品の状態あるいは炉内の耐火物を張り替えるような大規模な工事の後の着火に適用されると考えられる。そうすると、この方法を適用できる処理装置の幅が限られてしまうことになる。
【0015】
以上がプラズマ溶融処理装置自体に関する問題であるが、さらに、プラズマ溶融処理装置を移動可能にするという従来技術に関しても以下に示すような問題がある。
【0016】
すなわち、まず(a)(b)として掲げた技術は、非移行形のアークプラズマにより土壌を直接溶融する方式であって炉を持たない点に特徴があるため汚染土壌を直接溶融する場合には有効であるが、このように炉を持たないものであることから土壌の掘削が必要になるという問題がある。一般的に、廃棄物はある処理装置から排出されたり日常の生活や事業活動に伴って発生したりするため、廃棄物の処理のために土壌を掘削することは経済的でない。
【0017】
(c)の技術の場合には、有害な化学物質のみを選択的に熱分解することが特徴となっているが、有害な化学物質とその他の安全な物質が分離できない場合には適用できないという問題がある。
【0018】
また(d)の技術の場合には、廃棄物の処理場所で土中に溶融炉を組み立てる方式であるために、現地での組み立てや撤去に日数がかかるなど機動性に欠けるという問題がある。さらに、溶融処理は全てバッチ処理のため、溶融操作の起動・停止を頻繁に行い、溶融固化物を取り出す作業が発生するため、作業効率やエネルギー効率が悪くなることが懸念される。また、アスベストやダイオキシン類に汚染された有害廃棄物は、輸送中の事故による廃棄物の拡散が懸念されることから、住民運動などにより移動できない場合がある。これらの廃棄物を処理方法として高温で溶融することが必要であるが、廃棄物の発生場所で簡易に組み立てられ、また、別の場所へ迅速に移動できる処理装置というものは開発されていない。
【0019】
そこで、本発明は、アークプラズマの安定性を損なうことなく安定な運転を可能とし、さらには装置の起動時において簡便に起動することのできる廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置であって、移動可能であることにより有害な廃棄物の発生場所での無害化処理を可能とする可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチを廃棄物の投入口の近傍に配置する一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチを溶融処理後の廃棄物の出湯口近傍に配置し、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチと対向する炉底電極を設けた廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置であって、車両、船舶、貨車、飛行機などの移動媒体に積載可能としたことを特徴とするものである。
【0021】
廃棄物の投入時にはアークプラズマが不安定になりやすいことから、本発明に係る廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置では、廃棄物の投入口近傍に廃棄物や溶湯と接触しても溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチを配置し、プラズマトーチと廃棄物の接触に注意を払わなくて済むようにしている。また、このように黒鉛電極式プラズマトーチを採用した場合にはこの黒鉛電極式プラズマトーチと溶湯までの間隔(ギャップ長)を短くして運転することが可能となり、短ギャップ長の運転により、アークプラズマの長さの変動を抑え、アークプラズマの不安定性を回避することが可能となる。
【0022】
その一方で、出湯口近傍にはアークプラズマの指向性が高い金属電極式プラズマトーチを配置することにより出湯口近傍の溶湯を的確に加熱できるようにしている。溶融が完了した出湯口近傍は比較的凹凸の少ない液面となっており、廃棄物投入口におけるような廃棄物等との接触という問題がない。そこで、この出湯口ではアークプラズマの指向性と加熱効率に優れた金属電極式プラズマトーチにより出湯口近傍の溶湯を的確にかつ効率的に加熱し、溶湯の温度を高めて凝固を防止し、出湯口が閉塞しないようにしている。これにより、この廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によればアークプラズマの不安定性を回避した上で尚かつ出湯を容易とし、安定した運転を行うことが可能となっている。また、本発明によれば、金属部の損傷、黒鉛の消耗の進展、余分な消耗品の準備といった問題がなく、かつ、起動のたびにスラグを除去する作業が必要ないため頻繁に起動・停止を行なう処理装置にも好適である。
【0023】
加えて、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は装置自体が車両、船舶等の移動媒体に積載可能な可搬式のものである。したがって、処理装置をいずれかの場所に設置することはもとより、装置自体を移動媒体に積載して移動させることも可能となっている。したがって、発生した廃棄物をこの処理装置の設置場所まで運搬して溶融処理するばかりでなく、逆に装置自体を廃棄物発生場所まで運搬して当該場所にて溶融・無害化処理を行うということも可能となる。
【0024】
このような可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置においては、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチをそれぞれ独立して加熱制御することが好ましい。こうした場合、廃棄物の投入、溶湯の出湯、溶融の進行等の諸状況に応じて精緻に加熱エネルギーを制御することが可能となり、エネルギー効率の高い運転が行えるようになる。また、これに加えて冷却水供給、ガス供給についてもそれぞれ独立に制御することによりエネルギー効率の更なる向上が可能となる。本願の請求項2に係る可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置では、黒鉛電極式プラズマトーチへ電力供給する第1の電源と、金属電極式プラズマトーチへ電力供給する第2の電源とを備え、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチをそれぞれ独立して加熱制御するようにしている。
【0025】
また可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は、請求項3記載の発明のように、黒鉛電極式プラズマトーチおよび炉底電極を接続する短絡路と、この短絡路を開閉する開閉器とを備え、プラズマ溶融処理装置の起動時には黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極に接続してこの黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させるとともに、起動完了後には黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極から切り離すものであることが好ましい。起動時には黒鉛プラズマトーチを炉底電極と同電位にすることにより他のプラズマトーチ(金属電極式プラズマトーチ)と黒鉛電極式プラズマトーチ間にアークプラズマを発生させることが可能となる。溶湯の形成後は、黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極から切り離すことにより電力の供給を独立に制御できるプラズマトーチとしての運転が可能となる。
【0026】
また、このような可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置においては、請求項4記載の発明のように、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方が他方のプラズマトーチに対し接近離反可能であることが好ましい。こうした場合、プラズマ溶融処理装置の起動時において黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間隔を調節することによってアークプラズマがより発生しやすい状況とすることができる。
【0027】
また、請求項5記載の発明のように、廃棄物の溶湯の液面レベルより上位であって少なくともスラグが付着しない高さに設置された炉底電極と同電位の導電性耐火物を備え、プラズマ溶融処理装置の起動時においては複数本のプラズマトーチのいずれか一本と導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させることも好ましい。溶融処理の終了後、プラズマ溶融炉内の温度が低下すると凝固したスラグが炉底電極を覆ってしまい電気を流すことができなくなるが、このように炉底電極と電気的につながっている導電性のある耐火物を設置しておけば、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の起動時には、複数本のプラズマトーチのいずれか1本とこの導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させることにより簡便に起動することが可能となる。
【0028】
以上の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は、請求項6記載のように、少なくともプラズマ溶融炉を含んだ炉体部分が傾動可能な構造となっていることが好ましい。このような構造のプラズマ溶融処理装置は、プラズマ溶融炉を傾かせて溶湯を強制的に出湯することができる。
【0029】
さらに、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は、請求項7記載のようにコンテナのサイズよりも小さくされていることが好ましい。こうした場合、コンテナの積載が可能な貨車や船などに余裕をもって搭載することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明より明らかなように、請求項1記載の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置は、黒鉛電極式プラズマトーチの高い安定性と金属電極式プラズマトーチの高い加熱能力という両者の特長を活かす組合せ及び配置としたことにより、アークプラズマの不安定性を回避するとともに出湯口近傍の溶湯を的確に加熱して出湯口が閉塞してしまうのを防止することが可能となっている。このため、アークプラズマの安定性を損なうことなく安定した運転を行うことが可能となっている。
【0031】
しかも、装置自体が可搬式となっていることから、有害な廃棄物の発生場所での効率的な無害化処理を実施することができる。つまり、従来であれば様々な有害物質を処理拠点まで移動させることが不可避であったが、本発明によれば装置自体がモバイル性を有することにより、廃棄物の移動(廃棄物輸送)に伴うリスクを完全に回避することができる。さらには、様々な箇所へ移動して廃棄物処理を実施すればその分だけプラズマ溶融処理装置として稼働することになるから必然的に稼働率の大幅な向上が見込まれ、ひいては経済性に優れるということになる。加えて、処理装置自体が現地に赴くわけだから、有害物質が様々な地域に散在しているとしても彼方此方に最終処分施設を設ける必要がないという点でも有利である。
【0032】
さらに、本発明にかかる可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置はエネルギー源としては最もインフラが整備されている電力を使用するために、様々な箇所、広範な地域において適用できるという点でも有利である。しかも、このように電力というクリーンエネルギーを使用することは二次的な環境汚染を最小限にとどめることにもなる。
【0033】
また、各プラズマトーチに対応した電源を備え、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチをそれぞれ独立して加熱制御するようにした請求項2記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によれば、廃棄物の投入、溶湯の出湯、溶融の進行等の諸状況に応じて精緻に加熱エネルギーを制御することが可能となることから、エネルギー効率の高い運転を行うことができる。これに加えて、冷却水供給、ガス供給についてもそれぞれ独立に制御することによりエネルギー効率の更なる向上が可能となる。
【0034】
また、請求項3記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、装置起動時には黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極に接続してこの黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させるとともに起動完了後には黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極から切り離すというように、凝固したスラグには導電性がないことを前提とした起動方法を確立しており、簡易に起動することが可能である。
【0035】
また、請求項4記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、装置の起動時において黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間隔を調節することによってアークプラズマがより発生しやすい状況をつくることができる。
【0036】
さらに請求項5記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、装置の起動時にプラズマトーチと導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させるようにしているので、簡便に起動することができる。
【0037】
また、請求項6記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、プラズマ溶融炉を傾動させて溶湯を強制的に排出することができるから廃棄物の迅速な処理が可能となり、廃棄物発生場所まで移動して処理する場合に有利である。
【0038】
さらに請求項7記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置によると、コンテナの積載が可能な貨車や船などに余裕をもって搭載可能であることから、自動車はもちろんのこと貨車や船での移動がさらに容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0040】
図1〜図6に本発明の一実施形態を示す。本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1は1台(1機)あたりにつきプラズマトーチが2本設けられているものであり、具体的には、アークプラズマが不安定になりやすい廃棄物の投入口4側には黒鉛電極式プラズマトーチ2が配置され、凹凸のない平面的な溶湯14が形成される出湯口5側には金属電極式プラズマトーチ3が配置されている(図1参照)。黒鉛電極式プラズマトーチ2は、金属電極式プラズマトーチ3に比べれば溶湯14への伝熱効率は劣るものの、電極が消耗式であるため廃棄物や溶湯14と接触しても溶融処理を継続できるという利点がある。一方の金属電極式プラズマトーチ3は、ノズルなどの金属部分の破損を防止するためには廃棄物や溶湯14と接触するような運転は避けなければならないものの、ガス流とノズルによる熱ピンチ効果によって高い指向性を持つアークプラズマを発生でき、高い加熱効率の達成を可能とするものである。
【0041】
なお、本発明の実施形態の説明中における「廃棄物」は溶融する前のもので、金属、不燃物、可難燃物(可燃物および難燃物)のいずれか1つ以上から構成される。これを高温で処理すると可難燃物はすす又はガスになり、金属と不燃物が溶けた状態となる。金属と不燃物のいずれか1つ以上が溶ければ「溶湯」となる。不燃物が溶けて固まったものは「スラグ」となり、このスラグが溶ければ「溶融スラグ」となる。また、溶融時には比重の違いにより下部に溶融金属、上部に溶融スラグとなる2層構造になる。
【0042】
以下では、本発明にかかる可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置のうちまず処理装置1本体について説明し(図1〜図6参照)、続いて可搬式とするための構成について説明することにする(図7〜図12参照)。
【0043】
本実施形態における黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3は、図1に示すようにいずれも細長の棒状であり、プラズマ溶融炉13の炉壁を貫くように(より具体的には天井壁を上下に貫くように)設置されている。また、いずれのプラズマトーチ2,3も上下方向(軸方向)と旋回方向に自由に駆動できる機構を有し、プラズマ溶融炉13へ挿入された部分(プラズマ溶融炉13内に突出している部分)が旋回可能かつ上下動可能となっている。旋回させる駆動機構の一例を示せば、例えばX方向とY方向とに独立に駆動できる2つのステージ19,20から成りプラズマトーチ2,3の上部に取り付けられる機構が挙げられる(図5参照)。このような機構の場合、X方向とY方向とに独立して駆動可能なので円運動(旋回運動)ができ、更には、いずれか一方を動かさなければ前後動(または左右方向への動き)だけの動きも可能となる。さらに、黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3の少なくとも一方は前後方向(この場合の前後方向とは廃棄物投入口4と出湯口5とを結ぶ方向のことで、例えば図1でいえば左右の方向)に移動するための機構を有しており、他方のプラズマトーチに接近しあるいはこのプラズマトーチから遠ざかることが可能となっている。この場合の前後動は、上述した旋回機構がある場合には旋回範囲を前後動の範囲より広くすることにより対応可能である。
【0044】
また、本実施形態では黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3への冷却水とガスの供給およびその制御を以下のように行っている(図6参照)。すなわち、ガスについては、供給装置15から減圧弁16、ヘッダー17、流量計18を通じて黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3とに続く供給系統を利用して供給を行っている。ヘッダー17はガスを分岐するためのもので例えば両端を塞いだパイプのようなものを用いることができる。ここでいう供給装置15の具体例はボンベであるが、ガスの代わりに空気が使用される場合にはコンプレッサー、窒素が使用される場合には窒素製造装置などがボンベの代わりに用いられる。黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3とで使用するガスが異なる場合には、「供給装置15→減圧弁16→流量計18→プラズマトーチ」という供給系統が2つ準備されることになる。また、冷却水も、特に図示しないが上述したガスの供給・制御と同じように冷却水供給装置からヘッダーを通して分岐され、流量計を通して各プラズマトーチに供給される。このような供給系統により供給されるガスあるいは冷却水は、プラズマ溶融炉13内において溶湯が形成されていると否とにかかわらずその供給量等を独立して制御することが可能である。なお、黒鉛電極式プラズマトーチ2はプラズマガスが無くても運転ができるのでこの黒鉛電極式プラズマトーチ2に対するガスの供給系統は省略することが可能である。
【0045】
プラズマ溶融炉13の炉底には電極(本明細書ではこの電極を「炉底電極」と称している)6が設けられている(図1参照)。この炉底電極6は、黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3のうち少なくともいずれか一方と対向するように設置されている。例えば本実施形態における炉底電極6は金属電極式プラズマトーチ3寄りに配置されてこの金属電極式プラズマトーチ3と対向している(図1参照)。
【0046】
黒鉛電極式プラズマトーチ2、金属電極式プラズマトーチ3、炉底電極6にはアークプラズマを発生させるための電源が接続されている(図1参照)。本実施形態の場合は、黒鉛電極式プラズマトーチ2と炉底電極6とを結ぶ回路の途中に第1の電源7と開閉器12を設け、さらに、金属電極式プラズマトーチ3と炉底電極6とを結ぶ回路の途中に第2の電源8を設けている(図1参照)。なお、電源7,8はここで示しているように別個とされる他、例えば電源装置の中身で共通で使える部分があるような場合には単一の電源装置によって構成し、それぞれを制御することも可能である。また、第1の電源7および開閉器12と並列の短絡路9を設け、この短絡路9の途中に開閉器11を設けている(図1参照)。このような回路を備えた本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1によれば、プラズマトーチに供給する電力を以下のように独立に制御することができる。
【0047】
すなわち、加熱・溶融時においては回路の開閉器12を閉じて開閉器11を開けばよい。こうした場合、黒鉛電極式プラズマトーチ2に対しては第1の電源7が電力供給し、金属電極式プラズマトーチ3に対しては第2の電源8が電力供給するというように電力系統が複数となり、第1の電源7と第2の電源8によってそれぞれのアークプラズマ2,3を独立に制御することが可能である。したがって、廃棄物投入口4からの廃棄物投入量、溶湯14の出湯量、溶融の進行等といった溶融処理状況に応じて各プラズマトーチ2,3におけるアークプラズマを調整し加熱制御を行うことができる。
【0048】
また、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の起動時においては、開閉器12を開き、開閉器11を閉じることによって、第2の電源8→金属電極式プラズマトーチ3→黒鉛電極式プラズマトーチ2→開閉器11→炉底電極6→第2の電源8というように周回する1本の直列の電流経路を形成することができ(図2参照)、これにより、黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3との間でアークプラズマを発生させることが可能となる(なお、図2〜図4では電流経路を矢印で表している)。この際、上述した前後動可能な機構により一方あるいは両方のプラズマトーチを前後動させて両プラズマトーチ2,3間の距離をアークプラズマの着火に必要な距離まで狭めることにより、両プラズマトーチ間にアークプラズマを発生させ、プラズマ溶融炉13内で凝固したスラグ(溶湯)を溶融することができる。このようにして溶融したスラグ(溶湯)は再び導電性を発揮する。したがって、第2の電源8→金属電極式プラズマトーチ3→溶融スラグ(溶湯)→炉底電極6→第2の電源8という電流経路が確立し、この状態で開閉器11を開き黒鉛電極式プラズマトーチ2を炉底電極6から切り離したとしても金属電極式プラズマトーチ3は安定した状態でアークプラズマを発生し続けることができる(図3参照)。この状態で開閉器12を閉じれば上述したように黒鉛電極式プラズマトーチ2にも第1の電源7から電力を供給してアークプラズマを発生させることができる(図4参照)。
【0049】
以上のような構成の本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1によれば、廃棄物投入口4の近傍におけるアークプラズマの不安定性を回避すると同時に、出湯口5の近傍ではスラグ(溶湯)を的確に加熱昇温して出湯時における閉塞を防止することができ、これによりプラズマ溶融炉13を安定した状態で運転することが可能となる。また、これらプラズマトーチ2,3へ供給する電力、更には冷却水やガスを独立に制御することにより、廃棄物の投入、溶湯14の出湯、溶融の進行等の状況に応じた精緻な制御ができ、エネルギー効率の高い運転を行うことができる。
【0050】
しかも、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の起動時においては、前後に配置された両プラズマトーチ2,3間でアークプラズマをいったん発生させて凝固スラグを溶融し、導電性を取り戻させた後で各プラズマトーチ2,3を独立して加熱制御するというように、凝固スラグの導電性がないことを前提とした起動方法を確立している。このため、起動時において簡易に起動することが可能となっている。特に、装置1自体をより小型化した場合には、電気加熱方式であることと相まって他の装置よりも起動・停止がより容易なものとなる。
【0051】
さらに、プラズマ溶融を行う本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1には以下のようなメリットがある。すなわち、比較的容易に超高温を発生させることができることから、速い処理速度の達成、装置のコンパクト化、廃棄物の種類に対する広い受入裕度(種々雑多なものを溶融できる)といったメリットがある。また、電気加熱の特長として排ガスが少ないことから、排ガス処理設備をコンパクトにできる、粉体を扱いやすい(排ガスにのって排出されにくい)、飛灰処理に適する、といったメリットがある。さらに、電気加熱の別の特長としてエネルギー管理と制御が容易であることから、運転条件の最適化が容易であるというメリットもある。加えて、電気加熱のさらに別の特長として、加熱する場で進行する化学反応から受ける加熱エネルギーへの影響が比較的少ないことから、廃棄物の組成が変動しても安定的な加熱を維持しやすいというメリットがある。
【0052】
続いて、ここまで説明した廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を可搬式とするための構成について以下に説明する。本実施形態にかかる廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1は、加熱源として超高温のプラズマを選定し、高温・高エネルギー密度の加熱源を得ていることから、処理速度の向上を可能とし、尚かつプラズマ溶融炉13のコンパクト化をも可能としている。また、電気加熱なので排ガス量が少ないことから、排ガス処理設備のコンパクト化も可能としている。さらに、排ガス処理に湿式法を採用しているため、排水処理こそ必要ではあるがこのことを含めても乾式法に比べてコンパクト化を図ることが可能となっている。加えて、プラズマ溶融炉13を小型としたときには全体の熱容量が小さくなるから、廃棄物の出湯口5側に高い指向性を持つ金属電極式プラズマトーチ3を配置していることと相まって、出湯直前の溶湯14の温度を高温にすることにより出湯口5の詰まりなどのトラブルを回避し、よりスムーズな出湯を行うことが可能となる。本実施形態では、以上のような廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を車両、船舶、貨車、飛行機などの移動媒体21に積載可能な構成としているので、以下、この構成についてより詳しく説明する(図7等参照)。
【0053】
まず、本発明にかかる可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1と前処理装置22とを示す(図7、図8参照)。ここでは、移動媒体21の一例であるトラックに上述した廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を積載した様子を示している。また、この廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の後部には併せて前処理装置22が積載されている。この前処理装置22は、コンベア23、破袋機24、搬送コンベア25、乾燥機26、搬送コンベア27、そしてダンパー28を備えた構成となっている(図7等参照)。
【0054】
前処理装置22の後部には、廃棄物を破砕機24に供給するためのコンベア23が設けられている(図7、図8参照)。このコンベア23は折りたたみ式とするなどして廃棄物供給時以外は移動媒体21の積載部(荷台)に収められるようになっていることが好ましい。なお、廃棄物は有害であるために例えばフレコンパック(高分子系の袋)に詰められるなどした袋状の状態で搬送されることが一般的である。
【0055】
破袋機24は、これに続く乾燥・溶融の処理を行いやすくするための処理を行う装置で、コンベア23によって供給された廃棄物が例えばフレコンパックに詰められた状態であればこのフレコンパックを破って袋から取り出すという処理を行う。この場合、袋に詰められている廃棄物の大きさは、当該廃棄物の種類やこれを扱う処理装置1の処理規模等に応じて変わってくるが、一例として、本実施形態における破袋機24は、煉瓦程度の大きさ(例えば230×115×65mm以下の大きさ)の廃棄物を受入条件とし、併せてフレコンパックに詰められた状態で廃棄物が引き渡されることも受入条件としている。
【0056】
搬送コンベア25は、破袋機24によって取り出された廃棄物、および破袋機24によって引きちぎられたフレコンパックを次段階の処理が行われる乾燥機26へと搬送するためのコンベアである。
【0057】
乾燥機26は廃棄物中に含まれる水分を蒸発させる処理を行う装置であり、この乾燥機26による処理は排ガス処理系への負担を少なくするために必要なものとなっている。すなわち、廃棄物が含有する水分がプラズマ溶融炉13に入り込むと体積増加してしまい、処理すべき排ガス量が著しく大きくなることに起因して排ガス処理設備が大型になってしまうという点、および排ガス処理系で結露が生じると酸性ガスと水とが反応して酸ができ、これに起因して排ガス処理系が傷むという点、が懸念されるのだが、プラズマ溶融炉13へ廃棄物を投入する前に脱水処理を施せば排ガス処理系へ流入する水分量を低減することができ、ひいては排ガス処理設備のコンパクト化が可能となる。なお、この乾燥機26によって乾燥処理を行う場合には、廃棄物中の水分量が1/10以下となるまで蒸発処理を行うことが好ましい。例えば廃棄物に含まれる水分が30wt%であれば、その1/10以下となる3wt%程度にまで蒸発させるということになる。
【0058】
搬送コンベア27は、この乾燥機26によって乾燥処理が施された廃棄物をプラズマ溶融炉13へと搬送するためのコンベアである。この搬送コンベア27によって搬送された廃棄物は、廃棄物投入口4へと繋がっている廃棄物投入筒4aへと投入される(図7参照)。
【0059】
ダンパー28は、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1からの高温ガスが前処理装置22へ逆流するのを防止する装置として設けられている。つまり、廃棄物を廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1に受け渡すときには大気圧に等しくなる箇所が生じるが、このダンパー28で仕切りを設けて気密性を保持しておけば負圧を維持することが容易となる。プラズマ溶融炉13の気密性を保ちやすくするという観点からは、本実施形態のようにダブル(二重)ダンパーとすることが好ましい(図7参照)。また、本実施形態のダンパー28はフラップ付きの電動式となっている。
【0060】
また、図7、図8に示している可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の基本的な構成は上述したとおりであるが(図1〜図6参照)、移動媒体21を使った各移動先にて効率的にかつ短時間で溶融処理を行うといった観点から、さらに本実施形態では、少なくともプラズマ溶融炉13を含んだ部分(炉体部分)を出湯口5の方へと傾動させることのできる構成としている(図7等参照)。通常、プラズマ溶融炉13内の溶湯14は出湯口5をオーバーフローすることによって出湯することになるが(図1等参照)、これに加え、炉体部分を傾かせて溶湯14を強制的に出湯できるようにしている。要するに、本実施形態の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1においてはオーバーフローまたは傾動のいずれでも出湯できるようになっている。このように廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1自体あるいはそのうちプラズマ溶融炉13を含んだ炉体部分を傾動可能とするための具体的構成は特に限定されることはないが、例えば本実施形態においては支持台29を設け、この支持台29上の支持部材35によって炉体部分を支点30を中心として傾動可能に支持するとともに、左右一対の傾動用油圧シリンダ31を使って炉体部分を出湯口5の方へ傾動させることとしている(図9、図11、図12参照)。この場合における最大傾動角は各構成に応じて種々の値を取りうるが、本実施形態においてはおよそ60度の傾動角を確保し、プラズマ溶融炉13内の溶湯14の大部分を出湯口5から排出することを可能としている(図7、図9参照)。
【0061】
さらには、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1のプラズマ溶融炉13の蓋(以下「炉蓋」といい、符号32で示す)を開閉可能とすることも好ましい。こうした場合、プラズマトーチ2,3やプラズマ溶融炉13のメンテナンスが容易になる。本実施形態では、支持部材36によって炉蓋32を支点33を中心に前後方向へ傾動可能に支持し、処理装置1の本体とこの炉蓋32との間に左右一対の炉蓋開閉用油圧シリンダ34を設置した構造として、この炉蓋開閉用油圧シリンダ34がストロークするのに従って炉蓋32が開閉するようにしている(図10〜図12参照)。
【0062】
なお、本実施形態では特に図示していないが、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1には必要に応じて凝固装置が設けられる。また、本実施形態では可燃物の焼却炉も図示していないが、これについては特に新規な技術を含んでいる必要はなく、例えば市販品など従前のもので対応することができる。さらに、これについても図示はしていないが、本実施形態の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1には排ガス処理設備が併設されている。プラズマ溶融炉13から排出される排ガスにはダストや酸性ガス(HCl、NOx、SOx)などが含まれており、排ガス処理設備はこれらを排出環境基準を満たすまで除害してから排出するはたらきをする。
【0063】
ところで、ここまで説明した可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1は移動媒体21に積載可能なものであり、車両、船舶、貨車、飛行機など各種媒体の具体的大きさや積載能力に応じてその大きさや重量を適宜変更することができる。ただし、汎用性および可搬性の向上という観点からすれば、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の全体としてのサイズはコンテナのサイズよりも小さくなっていることが好ましい。こうした場合にはコンテナの積載が可能な貨車や船などに余裕をもって搭載することが可能となるし、積載が可能な移動媒体21の種類や数が多くなることによって汎用性および可搬性が向上する。コンテナの具体例としては、例えば、船舶などで用いられているサイズであってトレーラーでも移動可能な40フィートコンテナ(長さ12m、巾2.35m、高さ2.35m)などがある。なお、ここまでは可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1のサイズについて説明したが以上のことは前処理装置22についても同様である。つまり、前処理装置22も各種移動媒体21の具体的大きさや積載能力に応じて適宜変更可能であるし、コンテナのサイズより小さくなっていることが好ましい。なお、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1や前処理装置22は、どのようなサイズであっても所要の廃棄物処理能力は確保していることはいうまでもない。
【0064】
また、上述の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1および前処理装置22は、必要に応じて折りたたみ可能な構造となっていることも好ましい。こうした場合には、移動媒体21への積載時に折りたたんでコンパクトにすることが可能となる。例えば本実施形態においては前処理装置22の供給用コンベア23を折りたたみ可能としており、移動時にはコンパクトに折りたたむ一方で廃棄物処理時には地上まで延ばして廃棄物を破袋機24まで搬送できるような構造としている(図7参照)。
【0065】
移動媒体21は本実施形態で説明した可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を積載して移動させるための媒体であり、上述したように車両、船舶、貨車、飛行機などが該当する。本実施形態では一例として25tトラックを図示して説明している(図7、図8参照)。図示しているようにこのトラックは両側にアウトリガー(作業時の安定性を保つため機械等の外側に張り出し地面に突っ張る接地脚)37を備えている。
【0066】
ここまで説明した本実施形態の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1によれば、従来の廃棄物処理装置とは異なり、様々な有害物質の発生箇所に廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1自体が出向き、当該箇所において無害化・再資源化(スラグ化)といった処理を実施することが可能となる。つまり、従来であれば様々な有害物質を処理拠点まで移動させることが不可避であったが、本発明によれば装置自体がモバイル性を有することにより、廃棄物移動(廃棄物輸送)に伴うリスクを完全に回避することが可能となる。さらには、様々な箇所へ移動して廃棄物処理を実施すればその分だけプラズマ溶融処理装置として稼働することになるから必然的に稼働率の大幅な向上が見込まれ、ひいては経済性に優れるということになる。加えて、処理装置自体が現地に赴くわけだから、有害物質が様々な地域に散在しているとしても彼方此方に最終処分施設を設ける必要がないという点でも有利である。
【0067】
また、エネルギー源としては最もインフラが整備されている電力を使用するために、様々な箇所、広範な地域において適用できるという点でも有利である。しかも、このように電力というクリーンエネルギーを使用することは二次的な環境汚染を最小限にとどめることにもなる。
【0068】
また、可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を実施に稼働させる際の運転操作の方法は種々あるが、一例として、熟練したオペレータを装置に帯同させて運転操作を専属で行うこととすれば、再資源化品質の安定性、処理操作の安全性の向上を図ることが可能となる。また、このような観点からすれば、廃棄物処理システムとしてのパッケージ化(単位化、ユニット化)を行うことにより機動性の向上を図り、もって安定性、安全性をも向上させるということも考えられる。ここでいうパッケージ化の具体例を挙げると、例えば、金属の型枠の上にプラズマ溶融炉13、前処理装置22、排ガス処理設備を別々に組み立てておき、処理する場所でトレーラー等の移動媒体21から降ろして作業をするというような形態が考えられ、しかもこのように別々に組み立てておけばより小型の移動媒体21での搬送も可能となり、移動が容易になる。また、重量のあるプラズマ溶融炉13の部分と前処理装置22の部分を切り離せるようにしておけば、現地で積み下ろしの作業に必要なクレーンの吊り下げ重量を小さくできる。例えば、クレーンの吊り下げ重量は10tの次は50tであり、現地での積み下ろしの作業性を向上させるという観点からすればより小回りの利く10tクレーンを使用する方が好ましい場合がある。なお、図示しない排ガス処理設備への配管はフレキシブルダクトを用いて行うようにすれば接続作業も容易となる。また、排ガス処理設備も組み立て式とし、切り離した状態で搬送することとしてもよい。
【0069】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では簡易な起動を実現するための一手法として黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3との間にアークプラズマを発生させる場合について説明したがこれとは別の手法を採用することもできる。以下、別の起動手法を採用した本発明の他の実施形態を示す(図13参照)。図13に示す廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1は導電性耐火物10を備える以外は上述した廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置と同じ構成となっている。導電性耐火物10は、図示するようにその一部が炉底電極6と接続されることによってこの炉底電極6と同電位となっているもので、更に本実施形態の場合には、溶湯14の液面レベルより上位であって少なくともスラグが付着しない高さとなるようにプラズマ溶融炉13の内壁に沿って廃棄物投入口4側に延びるように設置されている。また、この導電性耐火物10と黒鉛電極式プラズマトーチ2の先端との距離は、炉底電極6と金属電極式プラズマトーチ3の先端との距離と同程度となっている。この導電性耐火物10に好適な材料・材質としては、例えば黒鉛、カーボンを含有した耐火物(MgO-C、ドロマイト-C、Al2O3-SiC-C、Al2O3-MgO-C)が挙げられる。廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の起動時においては、この導電性耐火物10と黒鉛電極式プラズマトーチ2との間でアークプラズマを発生させることができ、これによって廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を簡便に起動することが可能となっている。なお、ここでは導電性耐火物10と黒鉛電極式プラズマトーチ2との間でアークプラズマを発生させるようにした例を説明したが、これとは逆に導電性耐火物10と金属電極式プラズマトーチ3との間でアークプラズマを発生させても起動を簡便に行うことができる。
【0070】
また、特に図示はしないが、上述した実施形態のように2本のプラズマトーチ2,3を前後2箇所に配置する他、更に別のプラズマトーチを配置して合計3本以上としても構わない。このように3本以上のプラズマトーチを用いる場合、廃棄物投入口4の近傍と出湯口5の近傍に配置されたプラズマトーチ以外のプラズマトーチには、黒鉛電極式または水冷金属電極式のいずれかを用いる。
【0071】
また、プラズマ溶融炉13を含んだ部分(炉体部分)を傾動可能とした構造の一例として、本実施形態ではこの炉体部分を出湯口5の方へと傾動させる(つまりトラック前方へと傾動させる)ようにした形態を説明したがこれも一例にすぎない。例えば上述した凝固装置(図示省略)の配置によっては、上述したのと90度傾いた方向、つまりトラックの左右いずれの方向へ炉体部分を傾動させることも可能である。いうまでもないが、このようにする場合には溶湯の出湯口5は傾動する方向の側あるいはその近傍に設けられることなる。
【0072】
また、上述した実施形態においては特に言及しなかったが、厳密な分別が制度上なされている特別管理廃棄物を処理対象とすることも好ましいといえる。こうした場合には、可燃物と不燃物とを分別処理することとすれば可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1のさらなるコンパクト化を実現することが可能となるし、またこのように分別処理するにあたって可燃廃棄物、不燃廃棄物の双方とも溶融無害化処理をすることが可能である。
【0073】
さらに、本実施形態ではあくまで1台の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を1台の移動媒体(トラック)21で移動させることを前提に説明をしたが、ある一定の対象地域に複数台の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を投入することももちろん可能である。例えばこのようにした場合であれば同時間帯における処理能力がその分だけ向上することから適用対象地域を拡大することも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の一実施形態を示す概念図である。
【図2】廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の起動時における電流経路を示す図である。
【図3】黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極から切り離した後の電流経路を示す図である。
【図4】図3に示した廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置において、更に第1の電源から黒鉛電極式プラズマトーチに電力供給した状態を示す図である。
【図5】プラズマトーチを旋回させる駆動機構の一例を示す概略図である。
【図6】黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチへのガス供給系統の一例を示す概略図である。
【図7】移動媒体の一例であるトラックおよびこのトラック上に積載された可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を示す側面図である。
【図8】図7に示した可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置およびトラックの平面図である。
【図9】炉体部分を傾動可能とした可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の側面図である。
【図10】可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置のうち開閉可能とされた炉蓋部分を拡大して示す図である。
【図11】溶湯の出湯口側からみた可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を示す図である。
【図12】図9に示した可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の平面図である。
【図13】本発明の他の実施形態を示す概念図で、プラズマ溶融炉内に導電性耐火物を備えた廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を表したものである。
【符号の説明】
【0075】
1 廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置
2 黒鉛電極式プラズマトーチ
3 金属電極式プラズマトーチ
4 廃棄物投入口
5 出湯口
6 炉底電極
7 第1の電源
8 第2の電源
9 短絡路
10 導電性耐火物
11 (短絡路9の)開閉器
13 プラズマ溶融炉
14 溶湯
21 移動媒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチを前記廃棄物の投入口の近傍に配置する一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチを溶融処理後の廃棄物の出湯口近傍に配置し、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチと対向する炉底電極を設けた廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置であって、車両、船舶、貨車、飛行機などの移動媒体に積載可能としたことを特徴とする可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項2】
前記黒鉛電極式プラズマトーチへ電力供給する第1の電源と、前記金属電極式プラズマトーチへ電力供給する第2の電源とを備え、前記黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチをそれぞれ独立して加熱制御することを特徴とする請求項1記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項3】
前記黒鉛電極式プラズマトーチおよび前記炉底電極を接続する短絡路と、この短絡路を開閉する開閉器とを備え、プラズマ溶融処理装置の起動時には前記黒鉛電極式プラズマトーチを前記炉底電極に接続してこの黒鉛電極式プラズマトーチと前記金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させるとともに、起動完了後には前記黒鉛電極式プラズマトーチを前記炉底電極から切り離すことを特徴とする請求項2記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項4】
前記黒鉛電極式プラズマトーチおよび前記金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方が他方のプラズマトーチに対し接近離反可能であることを特徴とする請求項3記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項5】
前記廃棄物の溶湯の液面レベルより上位であって少なくともスラグが付着しない高さに設置された前記炉底電極と同電位の導電性耐火物を備え、プラズマ溶融処理装置の起動時においては複数本の前記プラズマトーチのいずれか一本と前記導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させることを特徴とする請求項2記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項6】
少なくともプラズマ溶融炉を含んだ炉体部分が傾動可能な構造とされていることを特徴とする請求項1から5のいずれかひとつに記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項7】
コンテナのサイズよりも小さくしたことを特徴とする請求項1から6のいずれかひとつに記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項1】
溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチを前記廃棄物の投入口の近傍に配置する一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチを溶融処理後の廃棄物の出湯口近傍に配置し、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチと対向する炉底電極を設けた廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置であって、車両、船舶、貨車、飛行機などの移動媒体に積載可能としたことを特徴とする可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項2】
前記黒鉛電極式プラズマトーチへ電力供給する第1の電源と、前記金属電極式プラズマトーチへ電力供給する第2の電源とを備え、前記黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチをそれぞれ独立して加熱制御することを特徴とする請求項1記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項3】
前記黒鉛電極式プラズマトーチおよび前記炉底電極を接続する短絡路と、この短絡路を開閉する開閉器とを備え、プラズマ溶融処理装置の起動時には前記黒鉛電極式プラズマトーチを前記炉底電極に接続してこの黒鉛電極式プラズマトーチと前記金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させるとともに、起動完了後には前記黒鉛電極式プラズマトーチを前記炉底電極から切り離すことを特徴とする請求項2記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項4】
前記黒鉛電極式プラズマトーチおよび前記金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方が他方のプラズマトーチに対し接近離反可能であることを特徴とする請求項3記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項5】
前記廃棄物の溶湯の液面レベルより上位であって少なくともスラグが付着しない高さに設置された前記炉底電極と同電位の導電性耐火物を備え、プラズマ溶融処理装置の起動時においては複数本の前記プラズマトーチのいずれか一本と前記導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させることを特徴とする請求項2記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項6】
少なくともプラズマ溶融炉を含んだ炉体部分が傾動可能な構造とされていることを特徴とする請求項1から5のいずれかひとつに記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【請求項7】
コンテナのサイズよりも小さくしたことを特徴とする請求項1から6のいずれかひとつに記載の可搬式廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−52916(P2006−52916A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236511(P2004−236511)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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