説明

可視光応答性の半導体素子および光電極、並びにそれを用いた光エネルギー変換システム

【課題】p型特性であるカソード光電流またはn型特性であるアノード光電流の応答を高効率で示しかつ安定な新規半導体の一群を用いた高性能な光応答性の半導体素子を提供する。
【解決手段】銅を含み、さらにビスマス、ニッケル、ケイ素、チタン、イットリウム、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素Mを含む複合酸化物半導体の多孔質薄膜が導電性基板上に形成されている半導体素子であって、カソード光電流および/またはアノード光電流を示す可視光応答性の半導体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅系半導体光電極とそれを用いた光エネルギー変換システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
n型の二酸化チタン(TiO2)光電極を用いた光電気化学的水分解の報告以来、光エネルギー用いて水を分解して水素を製造する酸化物半導体光電極システムが注目されている。太陽光を効率よく利用するため、特に可視光応答性半導体材料の開発が急がれている。
ケイ素(Si)やリン化ガリウム(GaP)などの非酸化物系半導体を用いた研究も盛んであるが、これらは不安定で且つ製造コストが高い。これに対し、金属の酸化物および酸素を部分的に含む複合酸化物半導体は安定な材料が多く、また比較的容易に製造できるため製造コストが安い利点がある。太陽光を利用するためには大面積化が必要であり、このような酸化物半導体の利点は重要である。
また、大面積化・実用化するためには、電極構造も非常に重要である。従来型の光電極は半導体粉末原料を焼き固めたペレット型であるが、大面積化が難しいという欠点があった。さらに、ペレットがミリメートルサイズと厚いために電子や正孔の移動距離が大きく、電極表面で反応が起こる前に電荷再結合が起こり、電気分解反応の効率が悪かった。
【0003】
ところで、近年、導電性ガラス上に多孔質の酸化物半導体薄膜を湿式法で作成する研究例がいくつか報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献1〜4を参照)。導電性ガラスを用いることで、光を導電性ガラス越しに照射でき、電荷の移動距離を短くできるので、効率が向上できると期待される。また、薄膜多孔質状態なので、電解液が薄膜内部まで浸透でき、同様に対電荷の移動距離を短くできるので、効率が向上できると期待される。
この構造を利用して実際に効率の高い多孔質酸化物半導体薄膜を湿式法で作製するためには、元素の選択が重要になる。元素によっては金属前駆体溶液を熱分解させる湿式法が適さず、複合酸化物が合成できなかったり、砕けてしまって膜にならなかったり、結果的に効率が非常に低い場合も多い。また、複合酸化物半導体の構成元素の種類により、吸収波長や半導体のバンド構造が決まる。太陽エネルギー変換のためにはできるだけ長波長の吸収を利用でき、且つ量子収率の高い半導体材料が望まれているが、複合半導体の種類は非常に多く、充分に探索がされていない。
半導体特性の重要な要素としてp−n特性がある。一般的に酸化物や複合酸化物半導体は大部分n型であり、p型特性を示す半導体の光電極の例は非常に少ない。例えば、酸化銅(Cu2O)は不安定で、光分解する。また、鉄(Fe)系のp型複合酸化物半導体についての報告がいくつかあるが(例えば、非特許文献5参照)、光電変換効率が低く、安定性が不明確であった。安定なp型半導体材料があれば、pn接合で効率を向上させることや、水素発生などを行うカソード電極としてp型半導体電極、酸素発生などを行うアノード電極としてn型半導体電極を組み合わせてバイアスがほとんどいらない水分解システムの構築など多くの応用が期待できる。同じ酸化物系ならばp型およびn型を組み合わせて利用した光触媒にも焼成などで簡単に利用できる。しかし、p型複合酸化物半導体の種類は非常に限られており、ポテンシャルのマッチングなどの問題もあるので、この分野の研究の障害となっていた。また、多孔質薄膜電極に関する特許文献がいくつか公開されているが(例えば、特許文献1を参照)、いずれもn型半導体に関するものであり、また、銅を含む半導体もCu−In−Zn系のみである。
このように、高性能なp型の酸化物半導体開発は現状知られている材料では充分とは言えず、新しい材料開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−44758号公報
【非特許文献1】C.Santato,M.Ulmann,J.Augustynski,“J.Phys.Chem.B”,2001,Vol.105,p.936.
【非特許文献2】C.Santato,M.Odziemkowski,M.Ulmann,J.Augustynski,“J.Am.Chem.Soc.”,2001,Vol.123,p.10639.
【非特許文献3】T.Lindgren,H.Wang,N.Beermann,L.Vayssieres,A.Hagfeldt,S.Lindquest,“Sol.Energy Mater.Sol.Cells”,2002,Vol.71,p.231.
【非特許文献4】G.Zhao,H.Kozuka,H.Lin,M.Takahashi,T.Yoko,“Thin Solid Films”,1999,Vol.340,p.125.
【非特許文献5】“J.Solid State Chem.”,1996,Vol.126,p.227-234.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、p型特性であるカソード光電流またはn型特性であるアノード光電流の応答を高効率で示しかつ安定な新規半導体の一群を用いた高性能な光応答性の半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、材料探索を行い鋭意検討を重ねた結果、銅及び特定の元素Mを含む複合酸化物半導体薄膜の光電流応答性が非常に優れることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされるに至ったものである。
すなわち、本発明は、
(1)銅を含み、さらにビスマス、ニッケル、ケイ素、チタン、イットリウム、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素Mを含む複合酸化物半導体の多孔質薄膜が導電性基板上に形成されている半導体素子であって、カソード光電流および/またはアノード光電流を示すことを特徴とする可視光応答性の半導体素子、
(2)カソード光電流およびアノード光電流の両方を示す半導体素子であって、電位によりアノードとカソードとが切り替えられることを特徴とする(1)項に記載の半導体素子、
(3)前記複合酸化物半導体における銅/元素Mの比が0.1以上10以下であることを特徴とする(1)又は(2)項に記載の半導体素子、
(4)前記複合酸化物半導体がCuBi24、CuNi23、CuNiO2、CuSiO3、Cu3TiO4、CuYO2.5、CuBa23、CuCaO2、CuLaO2.5、又はCuMgO2であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の半導体素子、
(5)前記複合酸化物半導体の前駆体の金属塩を溶媒に溶解した溶液を用いて湿式法で作製したことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の半導体素子、
【0007】
(6)銅を含み、さらにビスマス、ニッケル、ケイ素、チタン、イットリウム、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素Mを含む複合酸化物半導体を含む光触媒、
(7)p型半導体とn型半導体とを組み合わせたことを特徴とする(6)項に記載の光触媒、
(8)銅を含み、さらにビスマス、ニッケル、ケイ素、チタン、イットリウム、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素Mを含む複合酸化物半導体を含む光電極、
(9)p型半導体とn型半導体とを組み合わせたことを特徴とする(8)項に記載の光電極、
(10)(8)又は(9)項に記載の光電極に光を照射し、カソード光電流を利用して半導体上で水を還元して水素を発生させる光エネルギー変換システム、および
(11)(8)又は(9)項に記載の光電極に光を照射し、有害物質や有機物を酸化、還元又は分解する光エネルギー利用システム
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の半導体素子は、p型特性であるカソード光電流またはn型特性であるアノード光電流についての光電流応答性が優れる。また、本発明の半導体素子は光電変換素子として好ましく用いることができ、光電極に適用することができ、電位によりアノードとカソードとを切り替えることができ、n型やp型を制御するスイッチング素子としても利用することができる。
また、本発明の光電極に光を照射し、発生したカソード光電流を利用して、本発明の光電極上で水を還元し水素を発生させ、光エネルギーを水素に変換することができる。さらに、同様に本発明の光電極を用いて、光エネルギーを利用して有害物質や有機物を酸化、還元、分解することもできる。
本発明の半導体素子は湿式太陽電池だけでなく、p型およびn型を組み合わせて利用した固体太陽電池や光触媒への応用もできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の半導体素子は、銅(Cu)及び特定の元素Mを含む複合酸化物半導体の多孔質薄膜が導電性基板上に形成されている可視光応答性の半導体素子である。「可視光応答性」とは、可視光線を単に吸収し得るだけでなく、可視光照射によって生成した電荷を反応に利用できる性質を意味する。本発明において可視光とは、好ましくは380〜800nm、より好ましくは400〜800nmのものをいう。
【0010】
前記の特定の元素Mは、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、イットリウム(Y)、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)、ランタノイドからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。
【0011】
前記複合酸化物半導体における組成比率は任意である。ただし、特定の元素Mに対してCuが多すぎる場合は不安定であるためCu/Mの原子数比は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.1以上10以下、さらに好ましくは0.2以上3以下である。また、前記複合酸化物半導体は、構造の定まった複合酸化物であることが重要であり、単なる単純酸化物の混合物ではない。
【0012】
前記複合酸化物半導体の具体例としては、CuBi24、CuNi23、CuNiO2、CuSiO3、Cu3TiO4、CuYO2.5、CuBa23、CuCaO2、CuLaO2.5、CuMgO2等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0013】
前記導電性基板としてはチタンやステンレスなどの金属や導電性ガラスが利用でき、中でも導電性ガラスが最も好ましい。また、酸化インジウムスズ(ITO)やF−SnO2、Sb−SnO2等を利用することもできる。
【0014】
本発明の半導体素子において、導電性基板上に半導体の多孔質薄膜が形成されていることは重要である。半導体膜が多孔質構造のものであることにより、半導体膜に形成されている細孔を通じて電解液が薄膜内部まで浸透し、半導体が電解液と大面積で接触できる。この結果、半導体内部で生成した電子の電解液までの移動距離が短いため、電荷が再結合することが少なく、大きな光電流応答を示すことができる。従来のペレット型電極では、ペレットがミリメートルサイズと厚いために電子や正孔の移動距離が大きく、電極表面で反応が起こる前に電荷再結合が起こり、電気分解反応の効率が悪い。
【0015】
半導体の多孔質膜に形成されている細孔の大きさは、電解液の膜内部での移動や酸素・水素等の生成物の拡散を効率よく行う観点からは比較的大きい方が好ましいが、大きすぎると膜強度が弱くなったり電荷の移動がしにくくなったりするので、5〜500nmのいろいろな大きさの細孔が組み合わさった状態が好ましく、5〜300nmの範囲のものの組み合わせがより好ましい。細孔径の制御は、膜を焼成して作製する時に混ぜる有機物の分子量や混合物量で調整できる(例えば、特開2005−44758号公報参照)。半導体の粒子径は、1次粒子径で5〜600nmの範囲が好ましく、10〜100nmの範囲がより好ましい。また、比表面積は1〜300m2/gの範囲が好ましく、2〜100m2/gの範囲がより好ましい。
【0016】
薄膜の膜厚は、光が十分吸収できる膜厚があれば充分であり、それ以上厚くするとクラックを生じたり、溶液輸送や生成物輸送が妨げられたりするという問題が起こり、性能低下につながる。したがって、半導体膜厚は0.1〜20μmが好ましく、0.2〜5μmがより好ましい。
【0017】
半導体薄膜調製法としては、蒸着法やスパッタ法など物理的成膜法よりも湿式法が好ましい。半導体膜の湿式調製法としては、ゾルゲル法や錯体重合法など金属前駆体を溶媒に分散して、塗布後に熱分解(焼成)する方法や、予め半導体の微粒子を固相法などで調製しておき、ペースト状にして塗布後に熱分解(焼成)する方法などがある。融点が低ければ固相法でも良い。塗布方法は、スクリーン印刷やドクターブレード法、スピンコート法、スプレー法、ディップコート法などが利用できる。
【0018】
焼成温度は基本的には上記で混合した有機物が分解する温度でなくてはいけない。しかし基板の耐熱性もあるため、例えば酸化スズ系導電性ガラス基板を用いる場合には耐熱温度(約800℃)以下が好ましい。また、ビスマス(Bi)は融点が低く昇華し易いので、600℃以下がより好ましく、350〜550℃が特に好ましい。有機物の分解を促進するために酸素中で焼成することも有効である。
【0019】
部分的に窒素やイオウ、炭素などを含む半導体化合物を作製する場合は、酸化物膜を後からアンモニアや硫化水素などで処理してもよく、または、前駆体酸化物と含窒素化合物もしくは含イオウ化合物とを混合して焼成しても良い。このような部分的に窒素やイオウ、炭素などを含む半導体化合物を作製する場合、窒素やイオウの添加量は好ましくは0.5mol%以上、より好ましくは5mol%以上であり、上限は20mol%以下が好ましく、10mol%以下がより好ましい。
【0020】
本発明の半導体素子は、光電変換素子として好ましく用いることができ、光電極に適用することができる。また、本発明の半導体素子は、カソード光電流および/またはアノード光電流の応答を示す場合がある。この場合、電位によりn型とp型とを切り替えられることが好ましい。このような切り替えにより、本発明の半導体素子はn型やp型を制御するスイッチング素子としても利用することができる。
【0021】
次に、本発明の光エネルギー変換システムについて説明する。
本発明の光エネルギー変換システムでは、本発明の光電極を用いて水の電気分解を行うことで、光エネルギーを水素に変換することができる。具体的には、本発明の光電極に光を照射し、発生したカソード光電流を利用して、本発明の光電極上で水を還元し水素を発生させる。このとき、本発明の光電極に対して負側にバイアスをかけてカソード光電流が流れる条件で使用する。半導体の電位によってはバイアスが必要ない場合もある。
【0022】
同様に本発明の光電極を用いて、光エネルギーを利用して有害物質や有機物を酸化、還元、分解することができる。
本発明の光電極のp型特性を生かし、半導体上で還元反応、対極で酸化反応を進行させるには、半導体電極に対して負側にバイアスをかけてカソード光電流が流れる条件で使用する。このとき、対極にはRuO2/Tiなど酸素発生に好ましい素材を使ったり、n型半導体を用いて同時に光照射したりしてもよい。また場合により、n型特性を生かし、半導体上で酸化反応、対極で還元反応を進行させるには、半導体電極に対して正側にバイアスをかけてアノード光電流が流れる条件で使用する。
電解液は電極が安定な組成のものを選ぶことが好ましい。水分解の場合、強酸性や強アルカリ性を高濃度で使うことを避けることが好ましく、中性付近がより好ましい。例としては、Na2SO4やリン酸ナトリウム、低濃度のNaOHやH2SO4等であり、好ましくはNa2SO4である。また、酢酸ナトリウムなどを添加してもよい。
【0023】
次に、本発明の光触媒について説明する。
上述した可視光応答性の複合酸化物半導体は光触媒用半導体としても利用できる。本発明の光触媒は、上述した特定の複合酸化物半導体を含んでなる。多孔質半導体電極として可視光照射下で光電流が観測できれば、粒子内部での電荷分離能力をその半導体は有していると考えられる。利用できる光吸収範囲は、光電流が観測できる光領域と同等であり、一般的には吸収スペクトル範囲と同じか、またはそれより短波長である。
光触媒における上述した特定の複合酸化物半導体の粒径は、好ましくは10nm〜5000nmであり、より好ましくは20nm〜500nmである。
半導体の伝導帯および価電子帯の電位によって光触媒の用途は限定される。n型半導体の場合、アノード光電流の観測開始電位が伝導帯電位に近い。バンドギャップから価電子帯電位を推定もできる。伝導帯電位がH+/H2電位より負であれば水素発生に用いられ、酸素還元電位より負であれば空気中での有害物分解に利用でき、電解液中のレドックス電位より負であればレドックス(鉄系や硝酸系、ヨウ素系など)を用いた有害物分解に利用できる。価電子帯電位が正に大きくなるほど、酸化力は強くなり、多くの有害物質を分解できる。O2/H2O電位より正であれば、酸素発生に用いることができる。p型半導体の場合、カソード光電流の観測開始電位が価電子帯電位に近い。バンドギャップから伝導帯電位を推定もできる。水素発生能力の高いp型半導体と、酸素発生能力の高いn型半導体を組み合わせれば、バイアスがほとんど無くても水の分解が可能になるので、水分解用光触媒として利用できる。
上述した特定の複合酸化物半導体を光触媒として使用するときは、電解液中だけでなく、純水中や気相反応でも反応を進行させることができる。
光触媒は粉末の懸濁状態で使用しても良いし、安定な基板に固定して用いても良い。
光触媒上に反応を高める目的でさらに助触媒を担持しても良い。助触媒としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)などの貴金属や、Ni、NiOx、RuO2、カーボンなどがある。
【0024】
本発明の光電極又は光触媒は、上述した特定の複合酸化物半導体のうち、p型特性を示す半導体とn型特性を示す半導体とを組み合わせて用いることができる。また、上述したp型特性又はn型特性を示す特定の複合酸化物半導体と、任意の半導体とを組み合わせて用いることもできる。これらの光電極又は光触媒は、発光ダイオード、固体太陽電池、光触媒などに応用することができる。
p型半導体とn型半導体とを組み合わせて用いる場合、p型半導体とn型半導体を直接接触(pn接合)させてもよいし、その間に金属などの伝導性物質や半導体、絶縁体を介在させても良い。伝導性物質としては、例えばドープにより伝導性を高めた酸化スズや酸化亜鉛、酸化インジウムなどがある。また、介在させることができる半導体としては、ドープしていない酸化スズや酸化亜鉛、酸化インジウムなどがある。NaIやFeSOなどのレドックス媒体を含んだ塩も用いられる。絶縁体を介在させる場合はトンネル電流用いるため絶縁層は100nm以下にすることが好ましい。
【0025】
n型半導体としては、一般的なTiO2、WO3、ZnO、CdS、Ta25、Fe23、V25等の他に、これらの元素を含んだSrTiO3、BiVO4などの複合酸化物やTaONなどのオキシナイトライドやTaなどのナイトライド、オキシサルファイド、TiO2−M(ここでMは、N、S、C、Ni、Cr、Sb、Bi等のドーパントを表す。)等のドーピング化合物が用いられる。
【0026】
接触の方法は単に混合するだけでも良いが、良好な接触をするためには、ホモジナイザーで分散したり、乳鉢やボールミルなど機械的混練を充分に行ったりすることが好ましい。半導体粒子の粒子径が小さければ、または表面に欠陥準位が多く存在する場合は、障壁が小さいので、別な伝導性物質の介在は必ずしも必要ない。また、加圧や真空処理、加熱しても良い。有機バインダーを加えて焼き飛ばして良い。加熱温度は半導体バルクが変性しないことが目安であるが、一般的には800℃以下、好ましくは600℃以下である。この場合も上述のように、光触媒上に反応を高める目的でさらにp型及び/又はn型半導体上に助触媒を担持しても良い。助触媒としては、例えばPt、Rh、Pd、Au、Ag、Ir等の貴金属や、Ni、NiOx、RuO2、カーボン等が挙げられる。
【0027】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
実施例1
CuBi24電極を以下のようにして調製した。
シンメトリックス社製Cu塗布液とBi塗布液をCu:Biの化学量論比1:2でよく混合した。得られた溶液を導電性ガラス(F−SnO2、10Ω/sq)にスピンコート法で塗布し、550℃で30分空気焼成した。これを4回繰り返した。膜厚は約0.5〜1μmであった。X線回折計(XRD;MX Laboマックサイエンス社製)によりCuBi24が主生成物であることを同定した。生成した膜は多孔質であり、形成された粒子の大きさはSEM観察の粒子径で30〜40nm程度だった。
この電極をポテンシオスタットに接続した。対極はPtワイヤー、参照極はAg/AgClを用いた。電解液はNa2SO4水溶液を用いた。500WのXeランプに420nm以下のUV光をカットして可視光照射を行った。照射面積は直径6mm円とした。−0.1V電位(vs.Ag/AgCl。以下同じ)において−38μA/cm2のカソード光電流が観測された。結果を表1に示す。
また、自然電極電位(Vset)は光照射で正にシフトし、p型特性の強い光電変換素子として動作することが分かった。
また、この半導体電極に対して正側にバイアスをかけたところアノード光電流が流れることがわかった。
【0029】
実施例2
CuBi24電極を以下のように実施例1とは別法にて調製した。
硝酸ビスマス5水和物(Bi(NO3)3・5H2O)約0.7mol/L酢酸溶液と、硝酸銅・3水和物(Cu(NO3)2・3H2O)約0.08mol/Lアセチルアセトン溶液をそれぞれ約100℃に熱して均一な溶液を得た。この2種類の溶液をCu:Biの化学量論比よりも約1割Bi少なくして(すなわちモル比Cu:Bi=1:1.8として)よく混合し、CuBi24前駆体を得た。得られた溶液を導電性ガラス(F−SnO2、10Ω/sq)にスピンコート法で塗布し、550℃で30分空気焼成した。これを6回繰り返した。膜厚は約0.5〜1μmであった。X線回折計(XRD;MX Laboマックサイエンス社製)によりCuBi24がほぼ単相で生成していることを同定した。生成した膜は多孔質であり、形成された粒子の大きさはSEM観察の粒子径で30〜40nm程度だった。
この電極をポテンシオスタットに接続した。対極はPtワイヤー、参照極はAg/AgClを用いた。電解液はNa2SO4水溶液を用いた。500WのXeランプに420nm以下のUV光をカットして可視光照射を行った。照射面積は直径6mm円とした。−0.1V電位(vs.Ag/AgCl。以下同じ)において−92μA/cm2のカソード光電流が観測された。結果を表1に示す。
また、自然電極電位(Vset)は光照射で正にシフトし、p型特性の強い光電変換素子として動作することが分かった。
また、安定性について確認実験を行った。500WのXeランプの光を直接照射した。10時間光照射を行ったところ、ほぼ一定のカソード電流が観測され続けた。半導体に対する電子のターンオーバー数は10以上であった。また照射後に吸収スペクトルやXRDパターンに大きな変色は見られなかった。
また、この半導体電極に対して正側にバイアスをかけたところアノード光電流が流れることがわかった。
【0030】
実施例3
CuNi23、CuNiO2、CuSiO3、Cu3TiO4、CuYO2.5、CuCoO2、CuBa23、CuCaO2、CuLaO2.5、CuMgO2についてそれぞれ実施例1と同様にして半導体薄膜を導電性ガラス上に成膜し光電極を作製した。
作製した光電極について、実施例1と同様にして表1記載の電位において光電流を測定した。結果を表1に示す。表1の結果から明らかなように、いずれも大きなカソード光電流が観測され、p型特性の強い光電変換素子として動作することが分かった。
また、これらの半導体電極に対して正側にバイアスをかけたところアノード光電流が流れることがわかった。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例4
CuBi24の自然電極電位が同条件で測定したWO3の開始電圧より正であることに着目し作用極にWO3、対極にCuBi24を用い2極法で光電流を測定した。その結果、可視光照射時に印加バイアス=0Vでも、2時間以上比較的安定した光電流(60μA/cm2)が観測された。2時間でのターンオーバー数は2以上であり、水の光電気化学的分解反応が可視光かつ無バイアス条件で進行していることがわかった。
【0033】
比較例1
実施例2において硝酸ビスマス5水和物(Bi(NO3)3・5H2O)約0.7mol/L酢酸溶液を用いなかったこと以外は実施例2と同様にして半導体薄膜を導電性ガラス上に成膜し、CuO光電極を作製した。
作製した光電極について、実施例2と同様にして光電流を測定したところ、この電極は光反応中に変化し、2時間後には光電流がゼロになった。また、半導体に対する電子のターンオーバー数は1以下であった。したがって、比較例1のCuO光電極は非常に不安定であることがわかった。
【0034】
比較例2
CuMn24、CuB26、CuAl24、CuCr24についてそれぞれ実施例1と同様にして半導体薄膜を導電性ガラス上に成膜し光電極を作製した。
作製した光電極について、実施例1と同様にして表2記載の電位において光電流を測定した。結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、いずれも実施例1〜3と比べて光電流が非常に低いことが分かった。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例5
実施例1で調製したCuBi24を用いて光触媒活性を測定した。実施例1と同様の実験条件において、電解液の窒素パージ後に電解液に酸素を導入した場合と導入しない場合について、それぞれ光照射の前後における光電流を測定した。
その結果、CuBi24電極のカソード暗電流は電解液に酸素を導入してもしなくてもゼロ付近で変化しなかったが、カソード光電流は酸素を導入すると大きく増加した。このことから、CuBi24半導体が、暗時では電子を受け取れないか酸素を還元できないが、その一方、光照射時では伝導帯に励起された電子が酸素を還元できるという特徴を有することがわかった。
【0037】
参考例1
代表的な可視光応答性n型半導体であるWO3光電極についても実施例5と同様にして光触媒活性を測定した。WO3膜はタングステン酸微粒子を積層・500℃焼成して調製した。
その結果、WO3光電極のアノード光電流はアルデヒドやアルコール、有機酸などの有機物を電解液に導入すると大きく増加した。このことから、光照射でWO3半導体の価電子帯に生成した正孔が有機物を効率的に分解できることがわかった。その一方、電解液の窒素パージ後、WO3電極のカソード光電流は電解液に酸素を導入しても変化しなかった。このことから、WO3の伝導帯電子はWO3表面では酸素を還元しにくいか、還元できてもその速度が遅いことがわかった。
【0038】
実施例6
実施例5で用いたp型CuBi24半導体の強い酸素還元能力と、参考例1で用いたn型WO3半導体の強い有機物酸化能力とを組み合わせることを目的として、CuBi24電極とWO3電極を導線で接合した。電解液にアセトアルデヒドと酸素を導入し、両方の電極に光照射(300W Xeランプ、サーマックス製、1.2×1.5cm)を行った。
その結果、バイアス無しでも導線に270μAの電流がCuBi24電極からWO3電極へ流れた。これは、アセトアルデヒドと酸素がない時の電流(28μA)に比べて1桁高いものであった。このことから、外部からバイアスをかけることなく、WO3電極で有機物が酸化されて電子がCuBi24電極へ流れるとともに、CuBi24電極上で酸素が還元されたことがわかった。
以上の結果から、バイアス無しの電気化学セルでも有害物質分解システムが構築できることがわかった。
【0039】
実施例7
p型半導体粉末とn型半導体粉末とを組み合わせた粉末光触媒における有機物分解能を測定した。
まず、CuO粉末とBi23粉末を混合して700℃で24時間焼成することでCuBi24を固相合成し、乳鉢で粉砕してCuBi24粉末を調製した。一方、WO3粉末は高純度化学製(99.99%)を用いた。次いで、CuBi24粉末とWO3粉末とを質量比1対2で、メノウ乳鉢を用いて充分に混練し、pn接合型粉末触媒を調製した。このとき、pn接合の観点から両粉末が充分に接触していることが重要であり、混練が不十分な触媒の場合は良好な性能が得られない。
反応容器に前記触媒150mgを投入して密閉した後、シリンジを用いてアセトアルデヒドガス(9000ppm)を導入した。光照射には回転式サンプルホルダーを用いて、バイアル瓶の底面から均一にキセノンランプを照射した。その後、二酸化炭素およびアセトアルデヒドの定量を行った。定量は、メタナイザーを装備したガスクロマトグラフィー(水素炎イオン化検出器;FID)で行った。
一方、比較用に、CuBi24粉末を混合しないWO3粉末だけを用いて、上記と同様にして、光照射を行い、二酸化炭素およびアセトアルデヒドの定量を行った。
反応の経時変化を図1に示す。図1は、光触媒の触媒活性を示すグラフである。縦軸はアセトアルデヒドの酸化によって発生した二酸化炭素量を表し、横軸は光照射時間を表す。●は、CuBi24粉末とWO3粉末とを組み合わせたpn接合型粉末触媒についてのプロットであり、▲は、WO3粉末についてのプロットである。
図1の結果から明らかなように、pn接合型粉末触媒では、180分後には18000ppmのCO2が発生し、完全酸化が進行できることがわかった。また、触媒をそのまま用いてアセトアルデヒドを再導入する試験を5回繰り返したが、触媒活性は全く低下せず、非常に安定であった。
一方、CuBi24粉末を混合しないWO3粉末だけの場合は、180分後には9000ppm程度のCO2が発生したが、それ以上のCO2発生は観測できず、完全酸化ができなかった。
これらの結果から、CuBi24半導体が優れた触媒活性を示し、しかもCuBi24粉末とWO3粉末とを混練して接触させたpn接合型粉末触媒でも、実施例6のCuBi24電極とWO3電極を導線で接合した場合と同様に有害物質を分解できることがわかった。
【0040】
実施例8
実施例7において、CuBi24粉末とWO3粉末とを質量比1対2で混練した後に、200℃で1時間加熱したこと以外は同様にして測定を行った。
その結果、加熱しなかった場合に比べて、初期炭酸ガス発生速度で約1.5倍の活性向上が観測された。このことから、加熱によってCuBi24粉末とWO3粉末との接触が良くなり、加熱しなかった場合よりも優れた触媒活性を示すことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、光触媒の触媒活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含み、さらにビスマス、ニッケル、ケイ素、チタン、イットリウム、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素Mを含む複合酸化物半導体の多孔質薄膜が導電性基板上に形成されている半導体素子であって、カソード光電流および/またはアノード光電流を示すことを特徴とする可視光応答性の半導体素子。
【請求項2】
カソード光電流およびアノード光電流の両方を示す半導体素子であって、電位によりアノードとカソードとが切り替えられることを特徴とする請求項1記載の半導体素子。
【請求項3】
前記複合酸化物半導体における銅/元素Mの比が0.1以上10以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記複合酸化物半導体がCuBi24、CuNi23、CuNiO2、CuSiO3、Cu3TiO4、CuYO2.5、CuBa23、CuCaO2、CuLaO2.5、又はCuMgO2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項5】
前記複合酸化物半導体の前駆体の金属塩を溶媒に溶解した溶液を用いて湿式法で作製したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項6】
銅を含み、さらにビスマス、ニッケル、ケイ素、チタン、イットリウム、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素Mを含む複合酸化物半導体を含む光触媒。
【請求項7】
p型半導体とn型半導体とを組み合わせたことを特徴とする請求項6記載の光触媒。
【請求項8】
銅を含み、さらにビスマス、ニッケル、ケイ素、チタン、イットリウム、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素Mを含む複合酸化物半導体を含む光電極。
【請求項9】
p型半導体とn型半導体とを組み合わせたことを特徴とする請求項8記載の光電極。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の光電極に光を照射し、カソード光電流を利用して半導体上で水を還元して水素を発生させる光エネルギー変換システム。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の光電極に光を照射し、有害物質や有機物を酸化、還元又は分解する光エネルギー利用システム。

【図1】
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【公開番号】特開2007−273463(P2007−273463A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61037(P2007−61037)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】