説明

合成樹脂製スラスト滑り軸受

【課題】車体側取付部材に傾き等の変動荷重が負荷された場合でも、係合部位の変形、損傷、折損等の不具合を生じたり、滑り軸受片に過度の荷重が負荷され、塑性変形を生じることなく円滑なステアリング操作を可能としたスラスト滑り軸受を提供すること。
【解決手段】合成樹脂製スラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の上部ケース100と、合成樹脂製の下部ケース200と、上、下部ケース100及び200間に配される合成樹脂製のスラスト軸受片300とを具備しており、スラスト軸受片300の外周面303までの径方向の長さを(r)とし、上部円環状板部102の内周面における肉厚を(t)としたとき、上部ケース100は、その上面108に、R=r±tの範囲の円形外周縁をもった円環状平面109を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とくに四輪自動車におけるストラット型サスペンション(マクファーソン式)のスラスト滑り軸受として組込まれて好適な合成樹脂製スラスト滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】実公平4−52488号公報
【特許文献2】実公平2−1532号公報
【特許文献3】実公平2−6263号公報
【特許文献4】実公平8−2500号公報
【特許文献5】実公平4−47445号公報
【0003】
一般にストラット型サスペンションは主として四輪自動車の前輪に用いられ、主軸と一体となった外筒の中に油圧式ショックアブソーバを内蔵したストラットアッセンブリにコイルバネを組合わせたものである。上記サスペンションには、ストラットの軸線に対してコイルバネの軸線を積極的にオフセットさせ、ストラットに内蔵されたショックアブソーバのピストンロッドの摺動を円滑に行わせる構造のものと、ストラットの軸線に対してコイルバネの軸線を一致させて配置させる構造のものとがある。いずれの構造においても、ステアリング操作によりストラットアッセンブリがコイルバネとともに回転するさい、当回転を円滑に許容するべく車体の取付部材とコイルバネの上部バネ座シートとの間に軸受が配されている。
【0004】
このスラスト軸受には、ボール若しくはニードルを使用したころがり軸受又は合成樹脂製の滑り軸受が使用されている。しかしながら、ころがり軸受は、微小揺動及び振動荷重等によりボール若しくはニードルに疲労破壊を生ずる虞があり、円滑なステアリング操作を維持し難いという問題がある。スラスト滑り軸受は、ころがり軸受に比べて摩擦トルクが高く、ステアリング操作を重くするという問題がある。さらに、いずれの軸受においても、摺動面への塵埃等異物の侵入を防止するべく装着されたゴム弾性体からなるダストシールの摩擦力が高いことに起因するステアリング操作を重くするという問題、とくに合成樹脂製滑り軸受においてはステアリング操作を一層重くするという問題がある。
【0005】
上記問題点を解決するべく本出願人は、合成樹脂製の上部ケースと合成樹脂製の下部ケースと上、下部ケース間に合成樹脂製軸受片を配すると共に、上、下部ケースを弾性装着によって組合わせ、上、下部ケース間に弾性装着部と内周面側及び外周面側にラビリンス作用による密封部を形成して当密封部により軸受摺動面への塵埃等異物の侵入を防止したスラスト軸受を提案した(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5所載)。
【0006】
これを図で説明するとつぎのとおりである。図12及び図13において、車体側にマウントインシュレータを介して固定された車体側取付部材Xと、車体側取付部材Xの下面X1と対面し、一端で車体側取付部材Xに固定されたピストンロッドPの外周面P1を囲繞して配された上部ばね座シートQの平坦な上面Q1との間に配置される合成樹脂製スラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の上部ケース100と、合成樹脂製の下部ケース200と、上、下部ケース10、20間に配された合成樹脂製の軸受片30とを具備している。上部ケース10は、中央部に円孔11を有する円環状板部12と、円孔11の周縁から径方向外方に所定の間隔を隔てて円環状板部12の下面13に一体に形成された円筒垂下部14と、円筒垂下部14と協働して環状溝15を形成するように、円筒垂下部14と径方向外方に所定の間隔を隔てて円環状板部12の外周縁に一体に形成された円筒係合垂下部16と、円筒係合垂下部16の端部内周面に形成された係合フック部17とを備えており、下部ケース20は、中央部に前記上部ケース10の円孔11と連通する挿通孔21を有する円環状板部22と、挿通孔21と同径の内径を有して円環状板部22の上面に一体に形成された環状突起23と、環状突起23と径方向外方に所定の間隔を隔てて円環状板部22の上面に一体に形成され、環状突起23と円環状板部22の上面と協働して環状凹所24を形成する環状突起25と、環状突起25と協働して環状溝26を形成するように、環状突起25と径方向外方に所定の間隔を隔てて円環状板部22の外周縁に一体に形成された円筒係合突出部27と、円筒係合突出部27の外周面に形成された被係合部28と、下部ケース20の下面に挿通孔21と同径の内径を有して一体に形成された円筒部29とを備えており、上部ケース10は、係合フック部17を下部ケース20の被係合部28に弾性装着させて、下部ケース20に組合されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
合成樹脂製スラスト軸受においては、摺動面間に摺動面を囲繞して装着されたゴム弾性体からなるダストシールに起因するステアリング操作力の増大という問題点を解決することができ、また摺動面への塵埃等異物の侵入を極力防止して安定した、かつ円滑なステアリング操作力を得ることができるものである。
【0008】
車体側取付部材Xと上部ばね座シートQの上面部Q1との間に配置された合成樹脂製スラスト滑り軸受1は、車体側取付部材Xに傾き等の変動荷重が作用した場合、上部ケース10の円筒係合垂下部14と下部ケース20の環状突起25及び円筒係合突出部27との径方向の重畳部並びに上部ケース10の円筒係合垂下部16の係合フック部17と下部ケース20の円筒係合突出部27との被係合部28との弾性装着部が干渉し、結果として係合部位の変形、損傷、折損等の不具合を生じたり、上部、下部ケース10、20間に配された合成樹脂製スラスト滑り軸受1の軸受片30に過度の荷重が負荷され、軸受片30にクリープ(コールドフロー)現象を惹起し、当軸受片30のクリープ変形によって本来の軸受片30を介しての摺動から上、下部ケース10、20同士の摺動に移行し、摩擦係数の上昇や耐摩耗性の悪化など摺動特性を低下させるなどの不具合が見出された。
【0009】
本発明者は、上記問題点を解決するべく鋭意検討した結果、合成樹脂製スラスト滑り軸受が配される車体側取付部材と上部ばね座シートとの間において、車体側取付部材の下面に接触する合成樹脂製スラスト滑り軸受の上部ケースの上面との接触位置を特定することにより、車体側取付部材Xに傾き等の変動荷重が作用した場合でも、上部ケース10の円筒係合垂下部14と下部ケース20の環状突起25及び円筒係合突出部27との重畳部並びに上部ケース10の円筒係合垂下部16の係合フック部17と下部ケース20の円筒係合突出部27の被係合部28との弾性装着部とが干渉することなく上記問題点を解決でき、また軸受片30にクリープ変形が生じた場合であっても、上、下部ケース10、20同士の摺動に移行することなく常時スラスト軸受片を介しての摺動を行わせることができ、低摩擦性及び耐摩耗性などの摺動特性を長期にわたって維持することができることを見出した。
【0010】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その目的とするところは、合成樹脂製の上、下部ケースと上、下部ケース間に配される合成樹脂製のスラスト滑り軸受片からなる合成樹脂製スラスト滑り軸受であって、車体側取付部材に傾き等の変動荷重が負荷された場合でも、上部ケースと下部ケースとが干渉し、結果として係合部位の変形、損傷、折損等の不具合を生じたり、上部、下部ケース間に配された滑り軸受片に過度の荷重が負荷され、塑性変形を生じることなく円滑なステアリング操作を可能としたスラスト滑り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の合成樹脂製スラスト滑り軸受は、中央部に円孔を有する上部円環状板部、該円孔を規定する上部円環状板部の内周面から径方向外方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部の下面に一体に形成された第一の円筒垂下部、第一の円筒垂下部と協働して上部外側環状溝を形成するように、第一の円筒垂下部と径方向外方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部の外周縁の下面に一体に形成された円筒係合垂下部及び円筒係合垂下部の内周面に形成された環状の係合部を備えた合成樹脂製の上部ケースと、中央部に上部円環状板部の円孔と同心の挿通孔を有する下部円環状板部、下部円環状板部の内周側の上面に一体に形成された第一の環状突起、第一の環状突起と径方向外方に所定の間隔を隔てて下部円環状板部の上面に一体に形成されていると共に内周面で第一の環状突起の外周面と下部円環状板部の上面と協働して下部環状凹所を形成する第二の環状突起、内周面で第二の環状突起の外周面と協働して下部外側環状溝を形成するように、第二の環状突起と径方向外方に所定の間隔を隔てて下部円環状板部の外周縁の上面に一体に形成された円筒係合突出部及び円筒係合突出部の外周面に形成された環状の被係合部を備えた合成樹脂製の下部ケースと、下部環状凹所に配されると共に中央部に円孔を有する合成樹脂製の円環板状のスラスト軸受片とからなり、スラスト軸受片は、その円孔を規定するその内周面と第一の環状突起の外周面との間に内側環状隙間を、その外周面と第二の環状突起の内周面との間に外側環状隙間を夫々もって下部環状凹所に配されていると共に、その上面を下部環状凹所の開口面と上部円環状板部の下面との間に上部円環状板部の下面に摺接させて位置させ、その下面を下部環状凹所の底面を規定する下部円環状板部の上面に摺接させて、下部環状凹所に配されており、上部ケースは、第一の円筒垂下部を下部外側環状溝に配置して第二の環状突起及び円筒係合突出部と径方向に重畳させ、係合部を被係合部に弾性装着させて下部ケースに組合わされてなり、上部ケースの軸心から下部環状凹所に配されたスラスト軸受片の外周面までの径方向の長さを(r)とし、上部円環状板部の内周面における肉厚を(t)としたとき、上部ケースは、その上面に、当上部ケースの軸心を中心とした半径(R)がR=r±tの範囲の円形外周縁をもった円環状平面を有しており、円環状平面においてのみ車体側取付部材の下面と接触して車体側取付部材の下面と当該下面に相対面した上部バネ座シートの上面との間に配されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、上部ケースが上面に上記関係式を満足する円環状平面を有して、円環状平面においてのみ車体側取付部材の下面と接触し、その他部位では車体側取付部材の下面と空間を保持して配されて、合成樹脂製スラスト滑り軸受は車体側取付部材の下面と上部バネ座シートの上面との間に配置されているので、車体側取付部材に傾き等の変動荷重が作用した場合でも、上部ケースの第一の円筒垂下部と下部ケースの第二の環状突起及び円筒係合突出部との径方向の重畳部並びに上部ケースの円筒係合垂下部の係合部と下部ケースの円筒係合突出部の被係合部との弾性装着部とが干渉することがないので、これら重畳部及び弾性装着部に変形、損傷、折損等の不具合を生じることない。
【0013】
上式において、R=r−tの長さより小さい長さの円形外周縁を有する円環状平面では、合成樹脂製スラスト滑り軸受におけるスラスト軸受片に過度の荷重が負荷されることになり、スラスト軸受片にクリープ等を惹起させて低摩擦性や耐摩耗性を低下させることになり、またR=r+tの長さより大きい長さの円形外周縁を有する円環状平面では、車体側取付部材に傾き等の変動荷重が作用した場合、上部ケースの第一の円筒垂下部と下部ケースの第二の環状突起及び円筒係合突出部との径方向の重畳部並びに上部ケースの円筒係合垂下部の係合部と下部ケースの円筒係合突出部の被係合部との弾性装着部とが干渉する虞があり、これら重畳部及び弾性装着部に変形、損傷、折損等の不具合を生じる虞がある。したがって、上部ケースの上面に形成される円環状平面は、上部ケースの軸心を中心とした半径(R)が、R=r±tの範囲の長さの円形外周縁を有し、好ましくは半径(R)が、R=rの長さの円形外周縁を有する。
【0014】
また、上記態様の合成樹脂製スラスト滑り軸受によれば、上部ケースは、第一の円筒垂下部を下部外側環状溝に配置して第二の環状突起及び円筒係合突出部と径方向に重畳させ、係合部を被係合部に弾性装着させて下部ケースに組合わされているので、第一の円筒垂下部と第二の環状突起及び円筒係合突出部との径方向の重畳部及び係合部と被係合部との弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース間への塵埃等異物の侵入を防止するという作用効果がさらに付加される。
【0015】
本発明の合成樹脂製スラスト滑り軸受において、円環状平面は、上部円環状板部の上面からなっていてもよいが、上部ケースが上部円環状板部の上面から軸方向に一体的に突出した円環状突出部を更に備えている場合には、円環状平面は、円環状突出部の上面からなっていてもよく、また、上部ケースは、その上面に、円環状平面の外周縁又は外周縁の径方向外方の部位からその外周面にかけて下り勾配の截頭円錐面を有していてもよい。
【0016】
上記態様からなる合成樹脂製スラスト滑り軸受によれば、車体側取付部材に傾き等の変動荷重が作用した場合の上部ケースの第一の円筒垂下部と下部ケースの第二の環状突起及び円筒係合突出部との径方向の重畳部並びに上部ケースの円筒係合垂下部の係合部と下部ケースの円筒係合突出部の被係合部との弾性装着部との干渉をより確実に回避することができる。
【0017】
本発明の合成樹脂製スラスト滑り軸受において、上部ケースは、上部円環状板部の中央部の円孔に環状肩部を介して径方向外方に隣接していると共に第一の円筒垂下部の内周面と径方向内方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部の下面に一体に形成されて、外周面で第一の円筒垂下部の内周面と上部円環状板部の下面と協働して上部環状凹所を形成する第二の円筒垂下部を更に備えている一方、下部ケースは、下部円環状板部の中央部に形成された挿通孔と同径の内径をもっていると共に外周面で第一の環状突起の内周面と協働して下部内側環状溝を形成するように、第一の環状突起と径方向内方に所定の間隔を隔てて下部円環状板部の上面に一体に形成された第三の環状突起を更に備えており、斯かる上部ケースと下部ケースとにおいて、上部ケースは、第二の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突起及び第三の環状突起と径方向に重畳させて下部ケースに組合わされていてもよい。
【0018】
上記態様からなる合成樹脂製スラスト滑り軸受によれば、上部ケースは、第二の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突起及び第三の環状突起と径方向に重畳させて下部ケースに組合わされているので、第二の円筒垂下部と第一の環状突起及び第三の環状突起との径方向の重畳部にラビリンス作用による密封部が更に形成される結果、上、下部ケース間、とくに内周面側からの塵埃等異物の侵入を一層防止できるという作用効果が付加される。
【0019】
本発明の合成樹脂製スラスト滑り軸受において、上部ケースは、上部円環状板部の中央部の円孔と同径の内径をもって上部円環状板部の下面に一体に形成された第二の円筒垂下部と、内周面で第二の円筒垂下部の外周面と協働して上部内側環状溝を形成するように、第二の円筒垂下部の外周面と径方向外方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部の下面に一体に形成された第三の円筒垂下部とを更に備えており、下部ケースは、下部円環状板部の中央部の挿通孔から環状肩部を介して径方向外方に離れて下部円環状板部の上面に一体に形成されていると共に第一の環状突起の内周面と径方向内方に所定の間隔を隔てて配されており、外周面で第一の環状突起の内周面と協働して下部内側環状溝を形成する第三の環状突起を更に備えており、上部ケースは、第二の円筒垂下部を第三の環状突起と径方向に夫々重畳させ、上部内側環状溝に第三の環状突起を配させ、第三の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突起及び第三の環状突起と径方向に夫々重畳させて、下部ケースに組合わされていてもよい。
【0020】
上記態様からなる合成樹脂製スラスト滑り軸受によれば、上部ケースは、第二の円筒垂下部を第三の環状突起と径方向に夫々重畳させ、上部内側環状溝に第三の環状突起を配させ、第三の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突起及び第三の環状突起と径方向に夫々重畳させて、下部ケースに組合わされているので、第二及び第三の円筒垂下部と第一の環状突起及び第三の環状突起との径方向の重畳部でラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース間、とくに内周面側からの塵埃等異物の侵入を一層防止できるという作用効果が付加される。
【0021】
上記各態様の合成樹脂製スラスト滑り軸受では、第一の環状突起の外周面の直径を(c)とし、第二の環状突起の内周面の直径を(d)とし、スラスト軸受片の内周面の直径を(a)とし、スラスト滑り軸受片の外周面の直径を(b)とし、下部環状凹所の底面から当該下部環状凹所の開口面までの距離に対応する下部環状凹所の深さを(f)とし、スラスト軸受片の肉厚を(e)としたとき、内側環状隙間及び外側環状隙間の体積の和(A)とスラスト軸受片の下部環状凹所の開口面より上方に突出する部位の体積(B)とが下記の式で示されるB>Aの関係にあってもよい。
e(b−a)>f(d−c
【0022】
上記関係式を満足することで、上、下部ケース間に配される合成樹脂製スラスト滑り軸受のスラスト軸受片にクリープ変形が生じた場合であっても、上、下部ケース同士の摺動に移行することなく常時スラスト軸受片を介しての摺動を行わせることができ、低摩擦性及び耐摩耗性などの摺動特性を長期にわたって維持することができるという作用効果が付加される。
【0023】
上記各態様の合成樹脂製スラスト滑り軸受では、スラスト軸受片は、その上面及び下面に円孔を囲む環状溝と、一端が環状溝に開口し、他端が外周面で開口して円周方向において配された複数個の放射状溝とを具備していてもよく、また、下部ケースは、下部円環状板部の下面に挿通孔と同径の内径を有して一体に形成された円筒部を備えていてもよい。
【0024】
下部円環状板部の下面に挿通孔と同径の内径を有して一体に形成された円筒部を備えた合成樹脂製スラスト滑り軸受によれば、合成樹脂製スラスト滑り軸受の取付部材への取付にあたり、取付部材に形成された取付孔に円筒部において挿入することにより行うことができるので、その取付作業が極めて簡単となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上部ケースの軸心から下部環状凹所に配されたスラスト軸受片の外周面までの径方向の長さを(r)とし、上部円環状板部の内周面における肉厚を(t)としたとき、上部ケースの軸心を中心とした半径(R)がR=r±tの範囲の円形外周縁をもった円環状平面を上面に有して、円環状平面においてのみ車体側取付部材の下面と接触して配された上部ケースを具備する合成樹脂製スラスト滑り軸受は車体側取付部材の下面と上部バネ座シートの上面との間に配置されているので、車体側取付部材に傾き等の変動荷重が作用した場合でも、上部ケースの円筒垂下部と下部ケースの第二の環状突起及び円筒係合突出部との径方向の重畳部並びに円筒係合垂下部の係合部と円筒係合突出部の被係合部との弾性装着部とが干渉することがないので、これら重畳部及び弾性装着部に変形、損傷、折損等の不具合を生じることがない合成樹脂製スラスト滑り軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に本発明を、図に示す好ましい実施の形態の例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0027】
図1から図3において、本例の第一の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の上部ケース100と、合成樹脂製の下部ケース200と、上、下部ケース100及び200間に配される合成樹脂製のスラスト軸受片300とを具備している。
【0028】
上部ケース100は、中央部に円孔101を有する上部円環状板部102と、円孔101を規定する上部円環状板部102の内周面から径方向外方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部102の下面103に一体に形成された円筒垂下部104と、円筒垂下部104と協働して上部外側環状溝105を形成するように、円筒垂下部104と径方向外方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部102の外周縁の下面103に一体に形成された円筒係合垂下部106と、円筒係合垂下部106の内周面に形成された係合部107とを備えている。
【0029】
下部ケース200は、中央部に円孔101と同心の挿通孔201を有する下部円環状板部202と、挿通孔201と同径の内径を有して下部円環状板部202の上面203に一体に形成された環状突起204と、環状突起204と径方向外方に所定の間隔を隔てて下部円環状板部202の上面203に一体に形成されていると共に内周面で環状突起204の外周面と下部円環状板部202の上面203と協働して下部環状凹所205を形成する環状突起206と、内周面で環状突起206の外周面と協働して下部外側環状溝207を形成するように、環状突起206と径方向外方に所定の間隔を隔てて下部円環状板部202の外周縁の上面203に一体に形成された円筒係合突出部208と、円筒係合突出部208の外周面に形成された環状の被係合部209とを備えている。
【0030】
スラスト軸受片300は、環状突起204の外周面の外径よりも大きい内径をもった内周面301で規定された円孔302を中央部に有すると共に環状突起206の内径よりも小さい外径をもった外周面303を有する円板304からなり、円孔302を規定する内周面301と環状突起204の外周面210との間に内側環状隙間A1を、外周面303と環状突起206の内周面211との間に外側環状隙間A2を夫々もって下部環状凹所205に配されていると共に上面305を下部ケース200の下部環状凹所205の開口面と上部円環状板部102の下面103との間に上部円環状板部102の下面103に摺接させ位置させ、下面306を下部環状凹所205の底面212を規定する下部円環状板部202の上面203に摺接させて位置させて、下部環状凹所205に配されている。
【0031】
スラスト軸受片300は、図2に示すように、その下面305及び306に円孔302を囲む環状溝307と、一端が環状溝307に開口し、他端が外周面303で開口して円周方向に等間隔に配された複数個の放射状溝308とを有している。これら環状溝307及び放射状溝308には、グリース等の潤滑油剤が充填される。
【0032】
上部ケース100は、円筒垂下部104の端部を下部外側環状溝207に配置して環状突起206及び円筒係合突出部208の端部と径方向に重畳させ、係合部107を被係合部209に弾性装着させて下部ケース200に組合わされている。
【0033】
合成樹脂製スラスト滑り軸受1では、上部ケース100の軸心(o)から下部環状凹所205に配されたスラスト軸受片300の外周面303までの径方向の長さを(r)とし、上部円環状板部102の内周面における肉厚を(t)としたとき、上部ケース100は、その上面である上部円環状板部102の上面108に、上部ケース100の軸心(o)を中心とした半径(R)がR=r±tの範囲の外周縁をもった円環状平面109と、円環状平面109の外周縁又は当該外周縁の径方向外方の部位から連続してその外周面110にかけて下り勾配の截頭円錐面部111とを有している。
【0034】
本例では、上部ケース100は、図1に示すように、その上面である上部円環状板部102の上面108に、上部ケース100の軸心(o)を中心とした半径(R)がR=rの外周縁をもった円環状平面109を有している。なお、図4には、上部円環状板部102の上面108に、上部ケース100の軸心(o)を中心とした半径(R)がR=r−tの外周縁をもった円環状平面109を有している例を示し、図5には、上部円環状板部102の上面108に、上部ケース100の軸心(o)を中心とした半径(R)が、R=r+tの外周縁をもった円環状平面109を有している例を示す。
【0035】
以上の合成樹脂製スラスト滑り軸受1は、図6に示すように、上部円環状板部102の上面108の円環状平面109においてのみ車体側取付部材Xの下面X1と接触する一方、その他部位では車体側取付部材Xの下面X1とは空間Sを保持して、車体側取付部材Xの下面X1と当該下面X1に相対面した上部バネ座シートQの上面Q1との間に配置されるので、車体側取付部材Xに傾き等の変動荷重が作用した場合でも、円筒垂下部104と環状突起206及び円筒係合突出部208との径方向の重畳部並びに円筒係合垂下部106の係合部107と円筒係合突出部208の被係合部209との弾性装着部とが干渉することがないので、これら重畳部及び弾性装着部に変形、損傷、折損等の不具合を生じることない。
【0036】
以上の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においては、上部ケース100は、円筒垂下部104の端部を下部外側環状溝207に配置して環状突起206及び円筒係合突出部208の端部と径方向に重畳させ、係合部107を被係合部209に弾性装着させて、下部ケース200に組合わされているので、円筒垂下部104と環状突起206及び円筒係合突出部208との径方向の重畳部及び係合部107と被係合部209との弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース100、200間への塵埃等異物の侵入を防止することができるという作用効果が付加される。
【0037】
合成樹脂製スラスト滑り軸受1では、図7に示すように、環状突起204の外周面210の直径をcとし、環状突起206の内周面211の直径をdとし、円孔302を規定するスラスト軸受片300の内周面301の直径をaとし、スラスト軸受片300の外周面303の直径をbとし、下部環状凹所205の底面から下部環状凹所205の開口面までの距離に対応する下部環状凹所205の深さをfとし、スラスト軸受片300の肉厚をeとしたとき、内側環状隙間A1及びA2の体積の和Aとスラスト軸受片300の下部環状凹所205の開口面より上方に突出する部位の体積BとがB>A、すなわちe(b−a)>f(d−c)(下記の計算式参照)の関係にあることが好ましく、これによれば、下部環状凹所205内においてスラスト軸受片300にクリープ変形による肉厚変化(減少)が生じた場合であっても、肉厚変化(減少)は下部環状凹所205内で拘束されてそれ以上の肉厚変化(減少)が防止され、スラスト軸受片300の上面305は、下部ケース200の下部環状凹所205の開口面より常時突出しているため、上、下部ケース100及び200同士の摺動に移行することなく、上、下部ケース100及び200は、常時スラスト軸受片300を介しての摺動を行わせることができ、低摩擦性及び耐摩耗性などの摺動特性を長期にわたって維持することができるという作用効果が付加される。
【0038】
[数1]
(計算式)
内側環状隙間A1の体積=(a−c)×π・f/4
外側環状隙間A2の体積=(d−b)×π・f/4
環状隙間A(A1+A2)=(a−c+d−b)×π・f/4
スラスト軸受片の下部環状凹所の開口面より上方に突出する部位の体積B
B=(b−a)×π・(e−f)/4
B>Aから、e(b−a)>f(d−c)となる。
【0039】
上部ケース100及び下部ケース200は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適であり、またスラスト軸受片300を形成する合成樹脂としては、上部ケース100及び下部ケース200を形成する熱可塑性合成樹脂との摺動特性が良好なポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適である。
【0040】
図9は、第二の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1を示しており、この合成樹脂製スラスト滑り軸受1は、第一の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1の構成に加えて、下部円環状板部202の下面213に、挿通孔201と同径の内径を有する円筒部214を一体に形成したものである。
【0041】
下部ケース200の下面213に円筒部214を具備した合成樹脂製スラスト滑り軸受1においては、図6に示すストラット型サスペンションアッセンブリにおけるコイルばねの上部バネ座シートQと、ピストンロッドPが固着される車体側取付部材Xとの間に取付けるにあたり、その取付作業が容易となる。
【0042】
図9は、第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1を示しており、第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1では、上部ケース100は、上部円環状板部102の上面108から軸方向に一体的に突出した円環状突出部109aを更に備えており、上ケース100の上面は、円環状突出部109aの上面であり、円環状平面109は、円環状突出部109aの上面からなっていると共に下部環状凹所205に配されたスラスト軸受片300の外周面303までの長さを(r)としたとき、上部ケース100の軸心(o)を中心とした半径(R)がR=rの外周縁をもっており、円環状突出部109aは、その外周面から下り勾配の截頭円錐面部111に連続しており、本第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1の他の構成は図1に示す第一の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1の構成と同様であって、斯かる第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1でも、上部円環状板部102の内周面における肉厚を(t)としたとき、上部ケース100の上面である円環状平面109は、R=r−tの半径(R)の外周縁をもっていても、R=r+tの半径(R)の外周縁をもっていてもよく、言い換えると、R=r±tの範囲の半径(R)の外周縁をもっていてもよい。
【0043】
第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においても、内側環状隙間A1及びA2の体積の和Aとスラスト軸受片300の下部環状凹所205の開口面より上方に突出する部位の体積BとがB>A、すなわちe(b−a)>f(d−c)の関係にあることが好ましい。
【0044】
第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1によれば、車体側取付部材Xに傾き等の変動荷重が作用した場合の円筒垂下部104と環状突起206及び円筒係合突出部208との径方向の重畳部並びに円筒係合垂下部106の係合部107と円筒係合突出部208の被係合部209との弾性装着部との干渉をより確実に回避することができる。
【0045】
第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においては、第一の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1と同様、円筒垂下部104と環状突起206及び円筒係合突出部208との径方向の重畳部及び係合部107と被係合部209との弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース100、200間に塵埃等異物の侵入を防止できるという作用効果が付加される。
【0046】
第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においても、スラスト軸受片300は、第一及び第二の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1のスラスト軸受片300と同様であって、図2に示すように、上、下面305、306に円孔302を囲む環状溝307と、一端が環状溝307に開口し、他端が円板304の外周面303で開口して円周方向に等間隔に配された複数個の放射状溝308を有しているのが好ましく、これら環状溝307及び放射状溝308には、グリース等の潤滑油剤が充填される。
【0047】
第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においても、第一及び第二の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1の上部ケース100及び下部ケース200並びにスラスト軸受片300と同様に、上部ケース100及び下部ケース200は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適であり、またスラスト軸受片300を形成する合成樹脂としては、上部ケース100及び下部ケース200を形成する熱可塑性合成樹脂との摺動特性が良好なポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適である。
【0048】
図10は、第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1を示す。斯かる合成樹脂製スラスト滑り軸受1では、第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1において、上部ケース100は、上部円環状板部102の中央部の円孔101に環状肩部112を介して径方向外方に隣接していると共に円筒垂下部104の内周面と径方向内方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部102の下面103に一体に形成されて、外周面で円筒垂下部104の内周面と上部円環状板部102の下面103と協働して上部環状凹所113を形成する円筒垂下部114を更に備えており、下部ケース200は、下部円環状板部202の中央部に形成された挿通孔201と同径の内径をもっていると共に外周面で環状突起204の内周面と協働して下部内側環状溝215を形成するように、環状突起204と径方向内方に所定の間隔を隔てて下部円環状板部202の上面203に一体に形成された環状突起216を備えており、上部ケース100は、円筒垂下部114の端部を下部内側環状溝215に配して環状突起204及び216の端部と径方向に重畳させて下部ケース200に組合わされている。
【0049】
第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1でも、第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1と同様に、円環状突出部109aの上面からなっている円環状平面109は、下部環状凹所205に配されたスラスト軸受片300の外周面303までの長さを(r)としたとき、上部ケース100の軸心(o)を中心とした半径(R)がR=rである外周縁をもっており、円環状突出部109aは、その外周面から下り勾配の截頭円錐面部111に連続している。本第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1でも、上部円環状板部102の内周面における肉厚を(t)としたとき、上ケース100の上面である円環状平面109は、半径(R)がR=r±tの範囲の外周縁をもっていてもよい。
【0050】
第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1によれば、車体側取付部材Xに傾き等の変動荷重が作用した場合の円筒垂下部104と環状突起206及び円筒係合突出部208との径方向の重畳部並びに係合部107と被係合部209との弾性装着部との干渉をより確実に回避することができる。
【0051】
第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においても、内側環状隙間A1及びA2の体積の和Aとスラスト軸受片300の下部環状凹所205の開口面より上方に突出する部位の体積BとがB>A、すなわちe(b−a)>f(d−c)の関係にあることが好ましい。
【0052】
第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においては、上部ケース100は、円筒垂下部114の端部を下部内側環状溝215に配置して環状突起216及び環状突起204の端部と径方向に重畳させ、円筒垂下部104の端部を下部外側環状溝207に配置して環状突起206及び円筒係合突出部208の端部と径方向に重畳させ、係合部107を被係合部209に弾性装着させて、下部ケース200に組合わされているので、円筒垂下部114と環状突起216及び環状突起204との径方向の重畳部、円筒垂下部104と環状突起206及び円筒係合突出部208との径方向の重畳部及び係合部107と被係合部209との弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース100、200間、とくに内周面側からの塵埃等異物の侵入は一層防止されるという作用効果が付加される。
【0053】
第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においても、スラスト軸受片300は、第一の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1のスラスト軸受片300と同様であって、図2に示すように、上、下面305、306に円孔302を囲む環状溝307と、一端が環状溝307に開口し、他端が円板304の外周面303で開口して円周方向に等間隔に配された複数個の放射状溝308を有しているのが好ましく、これら環状溝307及び放射状溝308には、グリース等の潤滑油剤が充填される。
【0054】
第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においても、上部ケース100及び下部ケース200は、第一の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1の上部ケース100及び下部ケース200並びにスラスト軸受片300と同様に、上部ケース100及び下部ケース200は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適であり、またスラスト軸受片300を形成する合成樹脂としては、上部ケース100及び下部ケース200を形成する熱可塑性合成樹脂との摺動特性が良好なポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適である。
【0055】
図11は、本例の第五の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1を示す。斯かる合成樹脂製スラスト滑り軸受1では、第三の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1において、上部ケース100は、上部円環状板部102の中央部の円孔101と同径の内径をもって上部円環状板部102の下面103に一体に形成された円筒垂下部117と、内周面で円筒垂下部117の外周面と協働して上部内側環状溝118を形成するように、円筒垂下部117の外周面と径方向外方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部102の下面103に一体に形成された円筒垂下部119とを更に備えており、下部ケース200は、下部円環状板部202の中央部の挿通孔201から環状肩部217を介して径方向外方に離れて下部円環状板部202の上面203に一体に形成されていると共に環状突起204の内周面と径方向内方に所定の間隔を隔てて配されており、外周面で環状突起204の内周面と協働して下部内側環状溝218を形成する環状突起219を更に備えており、上部ケース100は、円筒垂下部117の端部を環状突起219の端部と径方向に夫々重畳させ、上部内側環状溝118に環状突起219の端部を配させ、円筒垂下部119の端部を下部内側環状溝218に配して環状突起204及び環状突起219の端部と径方向に夫々重畳させて、下部ケース200に組合わされている。
【0056】
本第五の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1でも、第三及び第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1と同様に、円環状突出部109aの上面からなっている円環状平面109は、下部環状凹所205に配されたスラスト軸受片300の外周面303までの長さを(r)としたとき、上部ケース100の軸心(o)を中心とした半径(R)がR=rの外周縁をもっており、円環状突出部109aは、その外周面から下り勾配の截頭円錐面部111に連続している。本第五の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1でも、上部円環状板部102の内周面における肉厚を(t)としたとき、上ケース100の上面である円環状平面109は、半径(R)がR=r±tの範囲の外周縁をもっていてもよい。
【0057】
第五の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1によれば、車体側取付部材Xに傾き等の変動荷重が作用した場合の円筒垂下部104と環状突起206及び円筒係合突出部208との径方向の重畳部並びに係合部107と被係合部209との弾性装着部との干渉をより確実に回避することができる。
【0058】
第五の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においても、内側環状隙間A1及びA2の体積の和Aとスラスト軸受片300の下部環状凹所205の開口より突出する部位の体積BとがB>A、すなわちe(b−a)>f(d−c)の関係にあることが好ましい。
【0059】
第五の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においては、上部ケース100は、円筒垂下部117の端部を環状突起219の端部と径方向に重畳させ、円筒垂下部119の端部を下部内側環状溝218に配置して環状突起219及び環状突起204の端部と径方向に夫々重畳させ、円筒垂下部104の端部を下部外側環状溝207に配置して環状突起206及び円筒係合突出部208の端部と夫々径方向に重畳させ、係合部107を被係合部209に弾性装着させて、下部ケース200に組合わされているので、円筒垂下部117と環状突起219との重畳部、円筒垂下部119と環状突起219及び環状突起204との重畳部、円筒垂下部104と環状突起206及び円筒係合突出部208との重畳部及び係合部107と被係合部209との弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース100、200間、とくに内周面側からの塵埃等異物の侵入を一層防止できるという作用効果が付加される。
【0060】
第五の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においても、スラスト軸受片300は、第一の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1のスラスト軸受片300と同様であって、図2に示すように、上、下面305、306に円孔302を囲む環状溝307と、一端が環状溝307に開口し、他端が円板304の外周面303で開口して円周方向に等間隔に配された複数個の放射状溝308を有しているのが好ましく、これら環状溝307及び放射状溝308には、グリース等の潤滑油剤が充填される。
【0061】
第五の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1においても、第一から第四の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1の上部ケース100及び下部ケース200並びにスラスト軸受片300と同様に、上部ケース100及び下部ケース200は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適であり、またスラスト軸受片300を形成する合成樹脂としては、上部ケース100及び下部ケース200を形成する熱可塑性合成樹脂との摺動特性が良好なポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適である。
【0062】
第三、第四及び第五の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1の夫々では、上述の構成に加えて、第二の実施の形態の合成樹脂製スラスト滑り軸受1と同様に、下部ケース200の下部円環状板部202の下面213に、挿通孔201と同径の内径を有する円筒部214が一体に形成されていてもよい。
【0063】
以上のように、本発明の合成樹脂製スラスト滑り軸受では、車体側取付部材に傾き等の変動荷重が作用した場合でも円筒垂下部104と環状突起206及び円筒係合突出部208との径方向の重畳部並びに係合部107と被係合部209との弾性装着部との干渉を確実に回避することができる。
【0064】
内側環状隙間A1及び外側環状隙間A2の体積の和Aとスラスト軸受片の下部環状凹所の開口面より上方に突出する部位の体積BとがB>A、すなわちe(b−a)>f(d−c)の関係に設定した合成樹脂スラスト滑り軸受においては、スラスト軸受片に下部環状凹所内においてクリープ変形による肉厚変化(減少)が生じた場合であっても、肉厚変化(減少)は下部環状凹所内で拘束されてそれ以上の肉厚変化(減少)が防止され、スラスト軸受片の上面は、下部ケースの下部環状凹所の開口面より常時突出することになるため、上、下部ケース同士の摺動に移行することなく、上、下部ケースは、常時スラスト軸受片を介しての摺動を行わせることができ、低摩擦性及び耐摩耗性などの摺動特性を長期にわたって維持することができるという作用効果が付加される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の好ましい第一の実施の形態の例の断面図である。
【図2】スラスト軸受片の平面図である。
【図3】上部ケースの平面図である。
【図4】本発明の好ましい第一の実施の形態の変形例の断面図である。
【図5】本発明の好ましい第一の実施の形態の他の変形例の断面図である。
【図6】図1に示す例をストラット型サスペンションに組込んだ例の説明図である。
【図7】図1の例における下部ケースとスラスト軸受片との関係を説明する説明図である。
【図8】本発明の好ましい第二の実施の形態の例の断面図である。
【図9】本発明の好ましい第三の実施の形態の例の断面図である。
【図10】本発明の好ましい第四の実施の形態の例の断面図である。
【図11】本発明の好ましい第五の実施の形態の例の断面図である。
【図12】従来の合成樹脂製スラスト滑り軸受の断面図である。
【図13】図12に示す例をストラット型サスペンションに組込んだ例の説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 合成樹脂製スラスト滑り軸受
100 上部ケース
200 下部ケース
300 スラスト軸受片
101 円孔
102 上部円環状板部
103 下面
104 円筒垂下部
105 上部外側環状溝
106 円筒係合垂下部
107 係合部
201 挿通孔
202 下部円環状板部
203 上面
204 環状突起
205 下部環状凹所
206 環状突起
207 下部外側環状溝
208 円筒係合突出部
209 被係合部
301 内周面
302 円孔
303 外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に円孔を有する上部円環状板部、該円孔を規定する上部円環状板部の内周面から径方向外方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部の下面に一体に形成された第一の円筒垂下部、第一の円筒垂下部と協働して上部外側環状溝を形成するように、第一の円筒垂下部と径方向外方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部の外周縁の下面に一体に形成された円筒係合垂下部及び円筒係合垂下部の内周面に形成された環状の係合部を備えた合成樹脂製の上部ケースと、中央部に上部円環状板部の円孔と同心の挿通孔を有する下部円環状板部、下部円環状板部の内周側の上面に一体に形成された第一の環状突起、第一の環状突起と径方向外方に所定の間隔を隔てて下部円環状板部の上面に一体に形成されていると共に内周面で第一の環状突起の外周面と下部円環状板部の上面と協働して下部環状凹所を形成する第二の環状突起、内周面で第二の環状突起の外周面と協働して下部外側環状溝を形成するように、第二の環状突起と径方向外方に所定の間隔を隔てて下部円環状板部の外周縁の上面に一体に形成された円筒係合突出部及び円筒係合突出部の外周面に形成された環状の被係合部を備えた合成樹脂製の下部ケースと、下部環状凹所に配されると共に中央部に円孔を有する合成樹脂製の円環板状のスラスト軸受片とからなり、スラスト軸受片は、その円孔を規定するその内周面と第一の環状突起の外周面との間に内側環状隙間を、その外周面と第二の環状突起の内周面との間に外側環状隙間を夫々もって下部環状凹所に配されていると共に、その上面を下部環状凹所の開口面と上部円環状板部の下面との間に上部円環状板部の下面に摺接させて位置させ、その下面を下部環状凹所の底面を規定する下部円環状板部の上面に摺接させて、下部環状凹所に配されており、上部ケースは、第一の円筒垂下部を下部外側環状溝に配置して第二の環状突起及び円筒係合突出部と径方向に重畳させ、係合部を被係合部に弾性装着させて下部ケースに組合わされてなる合成樹脂製スラスト滑り軸受であって、上部ケースの軸心から下部環状凹所に配されたスラスト軸受片の外周面までの径方向の長さを(r)とし、上部円環状板部の内周面における肉厚を(t)としたとき、上部ケースは、その上面に、当上部ケースの軸心を中心とした半径(R)がR=r±tの範囲の円形外周縁をもった円環状平面を有しており、円環状平面においてのみ車体側取付部材の下面と接触して車体側取付部材の下面と当該下面に相対面した上部バネ座シートの上面との間に配されていることを特徴とする合成樹脂製スラスト滑り軸受。
【請求項2】
上ケースの上面は、上部円環状板部の上面である請求項1に記載の合成樹脂製スラスト滑り軸受。
【請求項3】
上部ケースは、上部円環状板部の上面から軸方向に一体的に突出した円環状突出部を更に備えており、上ケースの上面は、円環状突出部の上面であり、円環状平面は、円環状突出部の上面からなる請求項1に記載の合成樹脂製スラスト滑り軸受。
【請求項4】
上部ケースは、その上面に、円環状平面の外周縁又は外周縁の径方向外方の部位からその外周面にかけて下り勾配の截頭円錐面を有している請求項1から3のいずれか一項に記載の合成樹脂製スラスト滑り軸受。
【請求項5】
上部ケースは、上部円環状板部の中央部の円孔に環状肩部を介して径方向外方に隣接していると共に第一の円筒垂下部の内周面と径方向内方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部の下面に一体に形成されて、外周面で第一の円筒垂下部の内周面と上部円環状板部の下面と協働して上部環状凹所を形成する第二の円筒垂下部を更に備えており、下部ケースは、下部円環状板部の中央部に形成された挿通孔と同径の内径をもっていると共に外周面で第一の環状突起の内周面と協働して下部内側環状溝を形成するように、第一の環状突起と径方向内方に所定の間隔を隔てて下部円環状板部の上面に一体に形成された第三の環状突起を更に備えており、上部ケースは、第二の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突起及び第三の環状突起と径方向に重畳させて下部ケースに組合わされてなる請求項1から4のいずれか一項に記載の合成樹脂製スラスト滑り軸受。
【請求項6】
上部ケースは、上部円環状板部の中央部の円孔と同径の内径をもって上部円環状板部の下面に一体に形成された第二の円筒垂下部と、内周面で第二の円筒垂下部の外周面と協働して上部内側環状溝を形成するように、第二の円筒垂下部の外周面と径方向外方に所定の間隔を隔てて上部円環状板部の下面に一体に形成された第三の円筒垂下部とを更に備えており、下部ケースは、下部円環状板部の中央部の挿通孔から環状肩部を介して径方向外方に離れて下部円環状板部の上面に一体に形成されていると共に第一の環状突起の内周面と径方向内方に所定の間隔を隔てて配されており、外周面で第一の環状突起の内周面と協働して下部内側環状溝を形成する第三の環状突起を更に備えており、上部ケースは、第二の円筒垂下部を第三の環状突起と径方向に夫々重畳させ、上部内側環状溝に第三の環状突起を配させ、第三の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突起及び第三の環状突起と径方向に夫々重畳させて、下部ケースに組合わされてなる請求項1から4のいずれか一項に記載の合成樹脂製スラスト滑り軸受。
【請求項7】
第一の環状突起の外周面の直径を(c)とし、第二の環状突起の内周面の直径を(d)とし、スラスト軸受片の内周面の直径を(a)とし、スラスト滑り軸受片の外周面の直径を(b)とし、下部環状凹所の底面から当該下部環状凹所の開口面までの距離に対応する下部環状凹所の深さを(f)とし、スラスト軸受片の肉厚を(e)としたとき、内側環状隙間及び外側環状隙間の体積の和(A)とスラスト軸受片の下部環状凹所の開口面より上方に突出する部位の体積(B)とが下記の式で示されるB>Aの関係にある請求項1から6のいずれか一項に記載の合成樹脂製スラスト滑り軸受。
e(b−a)>f(d−c
【請求項8】
スラスト軸受片は、その上面及び下面に円孔を囲む環状溝と、一端が環状溝に開口し、他端が外周面で開口して円周方向において配された複数個の放射状溝とを具備する請求項1から7のいずれか一項に記載の合成樹脂製スラスト滑り軸受。
【請求項9】
下部ケースは、下部円環状板部の下面に挿通孔と同径の内径を有して一体に形成された円筒部を備えている請求項1から8のいずれか一項に記載の合成樹脂製スラスト滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−31949(P2010−31949A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194078(P2008−194078)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】