説明

吸着プロセスによるキセノンの回収

【課題】回収プロセス中のキセノン濃度を高める改良した減圧スイング吸着(VSA)プロセスを与える。
【解決手段】次の工程を含む、Xe含有供給ガスからキセノンを回収するための方法:吸着材を有する吸着容器を与える工程;上記Xe含有供給ガスを上記吸着容器に供給する工程;上記吸着容器を、大気圧から大気圧未満の圧力に減圧することで排気する工程であって、上記排気工程は、次の2つを含む工程:(1)ガスの第一部分を排気すること、及び(2)上記大気圧未満の圧力がP1に達したときに、第一のキセノン富化ガスを回収すること;上記大気圧未満の圧力がP2に達したときに上記吸着容器をパージして、第二のキセノン富化ガスを回収する工程;及び上記第一のキセノン富化ガスと上記第二のキセノン富化ガスとを混合して、初期キセノン濃度より少なくとも20倍超高い最終キセノン濃度を有する生成ガスを与える工程、ここで、P1はP2以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
キセノン(Xe)は、希ガス元素であり、その閉殻電子構造に起因して極めて安定である。実際に、この反応性の欠如は、この元素の族(He、Ne、Ar、Kr、Xe)が希ガス又は不活性ガスと呼ばれる理由となっている。Xeの化合物(例えば、XeF)が初めて確認されたのは、50年も前ではない。この元素の化学特性は限定されているが、その物理特性(例えば、イオン化ポテンシャル、原子質量、電子構造)は、キセノンを必要とする多くの用途をもたらしている。
【背景技術】
【0002】
キセノンへの需要は、製造業及び医療業での新規用途に基づいて成長している。
【0003】
キセノンは、副生物であり、工業生産の減速は、その用途の増加に伴って、キセノン不足をもたらす場合がある。
【0004】
キセノンは、XeFを用いるエッチングプロセスからの副生物でもある。この分子は、材料表面、例えばシリコン表面で分解して、原子のフッ素を解放する。そして、キセノンは、その表面を離れて気相へと戻る。
【0005】
半導体製造の間に、酸化シリコンをエッチングするのに用いるフッ化炭素(例えば、C)プラズマにキセノンを添加することは、エッチプロファイルの異方性を改良する。また、キセノンの添加は、エッチング選択性を改良する。すなわち酸化シリコンへのエッチング速度は、酸化シリコン膜をパターニングするのに用いるフォトレジストへのエッチング速度よりずっと高くする。
【0006】
キセノンは、特許文献1に記載されているような医療業界での麻酔ガスでも、また特許文献2に記載されているような医学画像でも使用が増加している。他の用途としては、イオン推進エンジン(宇宙空間)、フラットパネルディスプレイ(プラズマ)及び高輝度放電(HID)ライトが挙げられる。
【0007】
しかし、キセノンの利用の増加を妨げうるものは、キセノンの比較的高いコストである。キセノンは、大気の微量成分(87ppb)であり、空気からの分離により得られる。すなわち、1Lのキセノンを得るのに11,000,000Lの空気を必要とする。その結果、キセノンは高価な材料となる。さらに、キセノンの価格は、その供給が、基本的産業、例えば製鉄産業を支える空気分離ユニット(ASU)によってコントロールされるので、非常に変動が大きい。
【0008】
参照により本明細書に完全に組み込まれる特許文献3では、吸着系プロセスを用いてガス混合体から、例えば産業排ガスからキセノンを回収する方法が開発されている。しかし、このプロセスは、キセノンが希薄な(0.5%〜5.0%のキセノン)窒素リッチのキセノン含有供給ガスからキセノンを回収するのみであり、最終濃度は、その初期濃度の約15倍である。
【0009】
上述の開発にもかかわらず、追加の手段及び改良された手段を与えて、ガス状混合体からキセノンを回収するのがさらに望ましい。また、キセノン系プロセスから、未利用のキセノンを、高濃度のキセノンとして回収する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,236,041号
【特許文献2】米国特許第6,408,849号
【特許文献3】米国特許第7,285,154号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、改良した減圧スイング吸着(VSA:vacuum swing adsorption)プロセスを用いて、回収プロセス中のキセノン濃度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
Xe含有供給ガスからキセノンを回収するための方法は、次の工程を含む:
Xe/N選択比(selectivity ratio)が65未満である吸着材を有する吸着容器を与える工程;
上記Xe含有供給ガスを上記吸着容器に供給する工程であって、上記Xe含有供給ガスは、50%超の初期窒素濃度及び少なくとも0.05%の初期キセノン濃度を有する工程;
上記吸着容器を、大気圧から大気圧未満の圧力に減圧することで排気する工程であって、上記排気工程は、次の2つを含む工程:(1)ガスの第一部分を排気すること、及び(2)上記大気圧未満の圧力がP1に達したときに、第一のキセノン富化ガスを回収すること;
上記大気圧未満の圧力がP2に達したときに上記吸着容器をパージして、第二のキセノン富化ガスを回収する工程であって、上記パージ工程を、上記大気圧未満の圧力P2で維持する工程;及び
上記第一のキセノン富化ガスと上記第二のキセノン富化ガスとを混合して、上記初期キセノン濃度より少なくとも20倍高い最終キセノン濃度を有する生成ガスを与える工程、
ここで、P1はP2以上である。
【0013】
上記ガスの第一部分の排気は、上記ガスの第一部分を放出することにより、又は上記ガスの第一部分を上記供給工程にリサイクルすることにより、行うことができる。
【0014】
さらに、Xe含有供給ガスからキセノンを回収するための他の1つの方法は、次の工程を含む:
Xe/N選択比が65未満である吸着材を有する吸着容器を与える工程;
上記Xe含有供給ガスを上記吸着容器に供給する工程であって、上記Xe含有供給ガスは、50%超の初期窒素濃度及び少なくとも0.05%の初期キセノン濃度を有する工程;
上記吸着容器を、大気圧から大気圧未満の圧力に減圧することで排気する工程であって、上記排気は次の2つを含む工程:(1)ガスの第一部分を上記供給工程にリサイクルすること、及び(2)上記大気圧未満の圧力がP1に達したときに、第一のキセノン富化ガスを回収すること;
上記大気圧未満の圧力がP2に達したときに上記吸着容器をパージして、第二のキセノン富化ガスを回収する工程であって、上記パージを、大気圧未満圧力P2で維持する工程;及び
上記第一のキセノン富化ガスと上記第二のキセノン富化ガスとを混合して、上記初期キセノン濃度より少なくとも20倍超高い最終キセノン濃度を有する生成ガスを与える工程、
ここで、P1はP2以上である。
【0015】
本発明は、次を具備するXe含有供給ガスからキセノンを回収するためのキセノン回収装置をさらに与える:
Xe/N選択比が65未満である吸着材を有する吸着容器;
Xe/N選択比が65未満である吸着材を有する吸着容器;
上記吸着容器を排気するのに適合しているポンプ;
上記キセノン富化ガスを圧縮するのに適合しているコンプレッサー;
上記キセノン富化ガスを収容するための生成品容器;及び
上記吸着容器に上記ガスの第一部分を収集するための収集システム。
【0016】
上記収集システムは、上記ガスの第一部分を放出するためのベントシステム、及び上記吸着容器に上記ガスの第一部分を供給するための供給システムからなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1a】図1a(従来技術)は、キセノンを回収するための標準的な減圧スイング吸着(VSA)プロセスの装置の概略図である。
【図1b】図1b(従来技術)は、従来技術のVSAプロセスサイクルの排気中の、吸着容器A内の予想ガス圧力の図解である。
【図2】図2は、図1a及び図1bに示す回収プロセスのパージ工程中の合計ガス流量及びキセノン濃度を示すグラフである。
【図3】図3は、図1a及び図1bに示す回収プロセスのパージ工程の濃度プロファイルを示すグラフである。
【図4】図4は、図1a及び図1bに示す回収プロセスのパージ工程にわたるキセノン流量を示すグラフである。
【図5a】図5aは、キセノンを回収するための改良した減圧スイング吸着(VSA)プロセスの一実施態様の概略図である。
【図5b】図5bは、改良したVSAプロセスサイクルの排気中の、吸着容器A内の予想ガス圧力の図解である。
【図6】図6は、図5a及び図5bに示す、本発明の改良した減圧スイング吸着プロセスの一実施態様のフローチャートである。
【図7】図7は、キセノンを回収するための改良した減圧スイング吸着プロセスの他の一つの実施態様の概略図である。
【図8】図8は、図7に示す本発明の改良した減圧スイング吸着プロセスの他の一つの実施態様のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、吸着系プロセスを用いて、ガス混合体から、例えば産業排ガスからキセノンを回収するための手段を与える。
【0019】
本発明の好ましいプロセスは、窒素リッチのキセノン含有供給ガスからキセノンを回収するためのものである。供給ガス源は、特に限定されない。ある種の実施態様では、供給ガスは、半導体関連製造プロセスからの排ガス、例えばエッチング、極紫外(EUV:Extended Ultra−Violet)リソグラフィー、又はプラズマ強化CVDからの排ガスである。他の実施態様では、供給ガスは、購入した原料から導くことができる。また、他の実施態様では、供給ガスは、麻酔患者から吐き出された呼吸ガスである。
【0020】
供給ガスは、Xeを含有し、且つHF、F、HO、C、O、CO、COF、XeF、CF及びSiFからなる群より選択される少なくとも1種類を含有し、HO、CO及びフッ素化分子の少なくとも1つを排ガスから吸着するためのサージ容器を通過し、そしてNで希釈されて、吸着装置に供給するための供給ガスを与える。
【0021】
その供給ガスは、好ましくは、キセノンが希薄である(0.1%〜5.0%のキセノン、0.5%〜1.5%のキセノン、又は1.0〜2.5%のキセノン)。供給ガス源から得たときに、供給ガスが不十分な量の窒素しか含まないならば、窒素を供給ガスに加えることができる。
【0022】
吸着容器に供給する供給ガスは、0℃〜100℃の好ましい温度範囲、0℃〜50℃のより好ましい温度範囲、10℃〜30℃のさらにより好ましい温度範囲を有する。吸着容器に供給する供給ガスは、好ましくは1〜2気圧の圧力範囲を有する。
【0023】
Xe回収率は、好ましくは少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%である。本明細書で用いられる場合、表現「Xe回収率」は、このプロセスから回収されるXeの量を、吸着容器に供給されるXeの量で割った商であると定義される。Xe回収率を、質量分析(mass spectrometry)又はガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0024】
本発明におけるXe濃度倍率は、20超となる。Xe濃度倍率は、回収した流れのXe濃度を、供給の流れのXe濃度で割った商である。例えば、生成品中の最終キセノン濃度が、供給ガス中の初期キセノン濃度より29倍高い場合、Xe濃度倍率は29である。Xe濃度倍率を、質量分析又はガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0025】
図1aは、キセノンを回収するための標準の減圧スイング吸着(VSA)プロセスを示している。このプロセスは、4つの工程:供給、排気、パージ及び再加圧を有する。図1bは、標準VSAプロセスの間に吸着容器Aに維持されるガス圧力を例示している。
【0026】
吸着容器Aは、吸着材を含む。吸着材は、少なくとも50mmol/g/atmの容量(ヘンリーの法則の定数)及び65未満のXe/N選択比を有する。適切な吸着材としては、アルミナ、ゼオライト、シリカゲル又は活性炭が挙げられる。
【0027】
供給工程の間では、バルブV1及びV2は開いている。窒素リッチのXe含有供給ガスは、ライン1を通って、吸着容器Aに流れる。Nガスが吸着容器Aを通過し、そしてライン2から放出される一方で、供給ガス中のキセノンは、吸着容器Aに含まれている吸着材によって優先的に吸着される。容器中のガス圧力は、所望の供給圧力で保持される。
【0028】
キセノンの破過が起こるまで、すなわちライン2から出る放出したNにXeが存在するまで、窒素リッチのキセノン含有供給ガスを吸着容器Aに供給する。
【0029】
破過の時に、吸着容器Aに流れる窒素リッチのキセノン含有供給ガスを、バルブV1及びV2を閉止することによって止める。そして、排気工程を開始する。
【0030】
排気工程の間では、バルブV4及びV5を開き、そして吸着容器Aを、真空ポンプVP1を用いて最終排気圧力(通常、1気圧未満)まで排気する。排気の間に、キセノン富化ガスは、ライン4、真空ポンプVP1を流通し、そしてコンプレッサーC1を用いてライン5から収集容器C又は生成品容器Cに圧縮して入れる。
【0031】
パージ工程では、バルブ3を開き、吸着容器Aを、ライン3からパージガスでパージして、キセノンを脱着させる。キセノン富化ガスを、ライン4を通じて吸着容器Aから抜き出す。パージ工程は、キセノン富化ガスを与え、これは排気工程からのキセノン富化ガスと混合される。パージ工程は、大気圧未満のパージ圧力で行われ、且つ所定の時間続く。パージガスは通常窒素である。
【0032】
そして、排気工程及びパージ工程からのガスからなる、真空ポンプVP1からのキセノン富化ガスを、コンプレッサーC1を用いてライン5から収集容器C又は生成品容器Cに圧縮して入れる。
【0033】
パージ工程の後に、バルブV4を閉止し、バルブV3を開放し、そして容器Aを、ライン3からのNを用いて供給圧力に再加圧する。吸着容器Aを再加圧したら、ライン1によって吸着供給工程を開始し、上述したプロセスを繰り返す。
【0034】
このVSAは、少なくとも2つの同一の吸着容器A及びBからなり、これらは、1つの容器が供給工程を経ている間に、他方が排気工程、パージ工程又は再加圧工程を経るように運転される。
【実施例】
【0035】
例1(比較)
通常の減圧スイング吸着(VSA)プロセスによるキセノン回収
図1aの真空ポンプVP1の出口で測定したキセノン濃度及び全ガス流量を、図2に示した。
【0036】
ガス流量を、質量流量計(MFM:Mass Flow Meter)を用いて測定し、Xe濃度を、四重極型質量分析計(QMS:quadrupole mass spectrometer)を用いて測定した。QMSは、動的なキセノンガス組成及び窒素ガス組成を推算することができるが、この装置は、特に高精度というわけではない。キセノン及び窒素の測定したモル分率の値には、約10〜20%の誤差範囲がある。
【0037】
0分で、図1aのバルブV1及びV2を閉止し、そして真空ポンプVP1を稼動し且つバルブV4を開放することで、排気工程を始める。吸着容器に含まれているNとして180slm超の瞬間的なガス流量があり、空隙を排気した。吸着容器A内の圧力を大気圧から10torr未満に減圧するのに約2〜3分かかった。
【0038】
図2に示すように、ガス流出物の組成は、初期の1〜2分の間はほぼ完全にNである。すなわち、N濃度は95%超であり、ごくわずかなキセノンを検出した。真空ポンプVP1である程度のキセノンを検出したのは、容器Aを排気し、ガス流量が5slm未満に低下した後のみであった。
【0039】
2分後に、吸着容器Aの吸着材からキセノンが脱着するにしたがい、有意のキセノンをQMSで検出した。
【0040】
容器Aの圧力が、3torr未満になったら(約2分後)、バルブV4を開放し、且つ150sccmのNをライン3から導入することで、Nパージ工程を開始した。
【0041】
パージ工程での2〜6分の時間にわたって、キセノンの量は、その濃度が100%に近づくまで増加した。脱着したキセノンは、N濃度が10%未満に低下するまで、Nパージガスを希釈した。すなわち、大部分のポンプ流出物はキセノンであった。
【0042】
全パージ工程の濃度プロファイルを図3に示した。
【0043】
パージ工程での130分の時間にわたって、キセノン濃度は、90%超から10%未満に低下した。
【0044】
パージ工程の間に、キセノンの脱着速度は、キセノンが吸着材から除去されるに従い低下した。キセノン流量が低下し、N流量は本質的に一定に維持したので、後にN濃度は90%超に増加した。Xe及びN濃度の合計が、パージ工程を通じて、(QMSアナライザーの精度の限度内で)100%であることに留意する必要がある。
【0045】
パージ工程を通じて、(ライン3及び4)からのN流量は、150sccmであった。Xe希釈剤の流量を、図3の測定されたN濃度から計算することができた。
【0046】
パージ工程の間のキセノン流量を図4に示した。キセノン流量は、1400sccmから50sccm未満へと低下した。
【0047】
大部分のキセノンが吸着材から除去されたら、パージ工程を終了し、再加圧工程を開始した。
【0048】
例2
改良した減圧スイング吸着(VSA)プロセスによるキセノン回収
容器の空隙からのNの初期の排気後にキセノンを収集することで、非常に高純度でキセノンをVSAプロセスから回収できたことが図2のデータの解析から分かった。
【0049】
図5aに、改良した減圧スイング吸着(VSA)回収プロセスを示す。このプロセスも、供給、排気、パージ及び再加圧の4つの工程を有する。
【0050】
図5bは、改良したVSA回収プロセスの間に、吸着容器Aで維持されるガス圧力を例示している。
【0051】
図7に、改良した減圧スイング吸着(VSA)回収プロセスの詳細な工程を示すフローチャートを示す。
【0052】
供給工程は、通常のVSA回収プロセスから変わっていない。
【0053】
しかし、排気工程の間に、吸着容器Aを真空ポンプVP1で、ライン4及び6を通じて、キセノンが有意に脱着し始める第一の大気圧未満圧力P1まで排気する。排気工程のこの部分は、排気工程の第一の部分として言及される。この工程の間では、この容器の空隙内のNを、収集容器C又は生成品容器Cに集めるのではなく、放出した。
【0054】
排気工程の第二の部分の間に、床圧力は、第一の大気圧未満圧力P1未満に低下し続け、キセノンが脱着し始め、バルブV6を閉止し、バルブV5を開放してXe含有ガスを収集する。コンプレッサーC1は、Xe含有ガス混合体を圧縮して、ライン5から収集容器C又は生成品容器Cに入れる。
【0055】
P1の範囲は、1〜100torrであり、好ましい範囲は5〜50torrであり、最も好ましい範囲は5〜25torrである。
【0056】
吸着容器Aが第二の大気圧未満圧力P2に到達したら、バルブV3を開放し、吸着容器A、ライン4及び5を通じてNを流して、収集容器C又は生成品容器Cに入れることで、パージ工程を開始する。吸着容器Aを、所定の時間の間、Nでパージする。ガス圧力を、大気圧未満圧力P2で、この工程の間、維持する。キセノンを、吸着容器Aから脱着させ、そして収集容器C又は生成品容器Cに収集する。
【0057】
P2の範囲は、0.001〜10torrであり、好ましく範囲は、0.01〜5torrであり、最も好ましい範囲は、0.5〜3torrである。
【0058】
パージ工程が完了したら、バルブV4及びV5を閉止し、ライン3から吸着容器AにNを流すことによって再加圧工程を開始する。
【0059】
容器Aを再加圧したら、バルブV3を閉止し、且つバルブV1及びV2を開放することで供給工程を再開する。
【0060】
容器Cに収集したガス混合体の組成を、QMSで測定した:Xe(29%)及びN(68%)。このキセノン濃度は、例1でのように容器の空隙に含まれたNを放出せずに収集した場合と比較して、2.5倍高い。
【0061】
比較的高いキセノン濃度の利点は、キセノン回収の間に収集される全ガス容積が比例して小さくなることである。さらに、ピークガス流量が低いので、比較的小さな圧縮機C1を用いることができる。
【0062】
本発明者らは、キセノンが有意に脱着するのが、排気工程の第二部分のみであることを発見した。排気工程の第一の部分の間に(例えば、100torr〜1気圧)、Xeの脱離はほとんどなかった。この時に収集したガスは、本質的にNからなり、収集容器C又は生成品容器Cに回収したXeを単純に希釈する。吸着容器Aを第一の大気圧未満圧力(例えば、約1〜100torr)まで排気した後に回収されるガス混合体のみを収集することによって、回収されるXeは、吸着容器及び空隙に含まれるNで希釈されず、同時にキセノンは殆ど喪失しない。排気工程の第一部分の間に流出ガスを単純に放出することによって、回収されるXeの濃度を向上させることができる。
【0063】
改良したVSAは、少なくとも2つの同一の吸着容器A及びBからなり、これらは、1つの容器が供給工程を経ている間に、他方が排気工程、パージ工程又は再加圧工程を経るように運転される。
【0064】
例3
リサイクルする改良した減圧スイング吸着(VSA)プロセスによるキセノン回収
VSA回収プロセスのさらなる改良を、図7に示す。このプロセスも、供給、排気、パージ及び再加圧の4つの工程を有する。
【0065】
図8に、この改良した減圧スイング吸着(VSA)回収プロセスの詳細な工程を示すフローチャートを示す。
【0066】
図5bに例示した圧力履歴はこの場合にも適用可能である。
【0067】
供給工程は、新しいXe含有供給ガスを次の工程で生産したリサイクルガスと混合することによって行われる。その混合した供給ガスを、Xeの破過が起こるまでVSA回収プロセスに供給する。破過した時に、吸着容器Aに流れる混合した供給ガスを、バルブV1及びV2を閉止することによって止める。そして、排気工程を開始する。
【0068】
排気工程の間に、吸着容器Aを真空ポンプVP1によって、ライン4及び6を通じて、第一の大気圧未満圧力P1まで排気する。これは、排気工程の第一の部分として言及される。この第一の大気圧未満圧力P1は、キセノンが有意に脱着し始める圧力、又はより低い圧力であり、かなりの量のXeが脱着する圧力とすることができる。この工程の間に真空ポンプから排気されるガスは、バルブ6を通過して、供給流れにリサイクルされる。
【0069】
P1の範囲は、1〜100torrであり、好ましい範囲は5〜50torrであり、最も好ましい範囲は5〜25torrである。
【0070】
排気工程の第二の部分の間に、実質的な量のキセノンが脱着し始め、バルブV6を閉止し、バルブV5を開放してXe含有ガスを収集する。コンプレッサーC1は、Xe含有ガス混合体を圧縮して、ライン5から収集容器C又は生成品容器Cに入れる。
【0071】
吸着容器Aが第二の大気圧未満圧力P2に到達したら、バルブV3を開放し、吸着容器A、ライン4及び5を通じてNを流して、収集容器C又は生成品容器Cに入れることで、パージ工程を開始する。
【0072】
P2の範囲は、0.001〜10torrであり、好ましく範囲は、0.01〜5torrであり、最も好ましい範囲は、0.5〜3torrである。
【0073】
第一の大気圧未満圧力P1は、パージ工程を開始する第二の大気圧未満圧力P2以上である必要がある。
【0074】
吸着容器Aを、Nでパージし、キセノンを吸着容器Aから脱着させ、そして収集容器C又は生成品容器Cに収集する。
【0075】
パージ工程が完了したら、バルブV4及びV5を閉止し、ライン3から吸着容器AにNを流すことによって再加圧工程を開始する。
【0076】
容器Aを再加圧したら、バルブV3を閉止し、且つバルブV1及びV2を開放することで供給工程を再開する。
【0077】
改良したVSAは、少なくとも2つの同一の吸着容器A及びBからなり、これらは、1つの容器が供給工程を経ている間に、他方が排気工程、パージ工程又は再加圧工程を経るように運転される。
【0078】
容器を用いて、排気工程からリサイクルしたガスを効果的に捕捉し、そして新しい供給ガスと混合することができる。この容器は、一定の容積の可変圧力システム、又は一定圧力の可変容積システムとすることができる。
【0079】
シミュレーション例
次からの例では、様々なVSAプロセスサイクルの性能を評価する吸着プロセスのモデリングソフトを用いてシミュレーションを行った。このソフトは、所定のサイクルに関する様々な工程(供給、排気、パージ、再加圧)の間の固定床吸着材に関して、動的な質量、運動量及びエネルギーの平衡方程式を解く。同じサイクルの多くの繰返しをシミュレーションすることによって、周期的な定常状態の条件を得る。この周期的定常状態では、床の動的な圧力、組成、流量及び温度プロファイルが、後のサイクルと同一となる。この点で、プロセス能力を、吸着材からの流出ガス流れ及び入口の解析から、評価することができる。
【0080】
これらの例では、Xe回収率(回収されたガス中のXeを原料供給ガス中のXeで割った商)及び回収したガス中の平均のXe純度を決定した。全ての場合で、2床式VSAを考慮した。各床は、直径が10インチ、長さが46インチであり、活性炭(Calgon AP245)で充填した。原料供給ガスは、68°F、1.2atmで1600ppmのXeを含むNからなる。5ppmのみのXeが供給工程の間に容器を破過するように、容器への供給流れを調節した。容器内の圧力を、供給の間に1atmに維持し、パージ工程の間は2Torr(0.0025atm)に維持した。
【0081】
例4 2床式VSA(比較)
この場合では、プロセスサイクルは、供給;41秒間の25Torrの床圧力への排気の第一部分(EVAC1);追加の54秒間の2Torrの床圧力への排気の第二部分(EVAC2);2slpmのN及び2Torrの床圧力での1800秒間のパージ;そして最終的にNでの1atmへの再加圧からなる。EVAC1、EVAC2及びパージ工程からのガスを、生成品とし、他の全ての流れを廃棄して捨てた。
【0082】
結果は表1にある。この従来のVSAシステムは、供給ガス中のXeの99.7%を回収できるが、2.4%の非常に低い純度であった。濃度倍率は、2.4/0.16=15であった。
【0083】
【表1】

【0084】
例5.放出するEVAC1を用いる2床式VSA
EVAC1の工程での流出ガスを、EVAC2及びパージ流出物と混合するのではなく、ベントに送ったことを除いて、このプロセスサイクルは、例4のものと同一であった。これは、改良したプロセスをもたらし、87.5%のXe回収で、10.0%のXeを含む回収した流れを生み出すことができた。濃度倍率は、10.0/0.16=63であった。
【0085】
一定の排気工程の時間(EVAC1工程時間+EVAC2工程時間)に関して、Xe回収率の低下となったが、回収した生成品中の比較的高いXe純度が、EVAC1工程の時間を延ばすことで可能となった。同様に、低いXe純度となったが、Xe回収を、EVAC1工程の時間を短縮することで向上させることができた。
【0086】
例6.EVAC1のリサイクルを用いる2床式VSA
この場合では、プロセスサイクルは、供給;41秒間の25Torrの床圧力への排気の第一部分(EVAC1);追加の54秒間の2Torrの床圧力への排気の第二部分(EVAC2);2slpmのN及び2Torrの床圧力での1800秒間のパージ;そして最終的にNでの1atmへの再加圧からなる。EVAC1からのガスを、新しい供給ガスと混合し、その混合した流れを、供給工程の間にVSAに供給した。
EVAC2及びパージ工程からの流出物を、生成品とした。
【0087】
結果は、表1に与えた。このアプローチは、99.7%のXe回収率及び10.5%の回収Xe純度まで改良したVSA性能を大幅に向上させた。このアプローチは、高いXe回収率及び高いXe純度の両方を与える。
【0088】
供給工程時間を、わずかに短くして、軽質な生成品ガス中に5ppmのXeレベルを維持した。
【0089】
例7.延長したEVAC1リサイクルを用いる2床式のVSA
この場合では、プロセスサイクルは、供給;82秒間の3Torrの床圧力への排気の第一部分(EVAC1);追加の13秒間の2Torrの床圧力への排気の第二部分(EVAC2);2slpmのN及び2Torrの床圧力での1800秒間のパージ;そして最終的にNでの1atmへの再加圧からなる。排気の全時間(EVAC1工程時間+EVAC2の工程時間)を同じに維持したが、事実上、EVAC1の工程時間を例6に対して倍にした。EVAC1工程からのガスを、新しい供給ガスと混合し、その混合した流れを、供給工程の間にVSAに供給した。EVAC2及びパージ工程からの流出物を、生成品とした。
【0090】
結果を表1に与えた。このアプローチは、改良したVSA性能を大幅に向上させ、99.7%のXe回収及び12.8%の回収Xe純度とした。EVAC1工程時間を長くすることは、Xe回収に殆ど影響を与えずに、回収したXeの純度を向上させた。
【0091】
供給工程時間をわずかに短くして、軽質な生成品ガス中に5ppmのXeレベルを維持した。
【0092】
上述の実施例及び実施態様の記載は、請求項によって定義されるような本発明を限定するものとしてではなく、例証するものとして解釈される必要がある。容易に理解されるように、上記の特徴の多数の変形及び組合せを、請求項によって示されるような本発明から離れることなく利用することができる。そのような変形は、特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含む、Xe含有供給ガスからキセノンを回収するための方法:
Xe/N選択比が65未満である吸着材を有する吸着容器を与える工程;
前記Xe含有供給ガスを前記吸着容器に供給する工程であって、前記Xe含有供給ガスは、50%超の初期窒素濃度及び少なくとも0.05%の初期キセノン濃度を有する工程;
前記吸着容器を、大気圧から大気圧未満の圧力に減圧することで排気する工程であって、前記排気工程は、次の2つを含む工程:(1)ガスの第一部分を排気すること、及び(2)前記大気圧未満の圧力がP1に達したときに、第一のキセノン富化ガスを回収すること;
前記大気圧未満の圧力がP2に達したときに前記吸着容器をパージして、第二のキセノン富化ガスを回収する工程であって、前記パージ工程を、前記大気圧未満圧力P2で維持する工程;及び
前記第一のキセノン富化ガスと前記第二のキセノン富化ガスとを混合して、前記初期キセノン濃度より少なくとも20倍高い最終キセノン濃度を有する生成ガスを与える工程、
ここで、P1は、P2以上である。
【請求項2】
前記パージ工程の後に前記吸着容器を再加圧する工程をさらに含み、且つ請求項1に記載の方法の工程を少なくとも1回繰り返す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Xe含有供給ガスは、半導体関連製造プロセスの排ガスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記排ガスは、Xeを含み、且つHF、F、HO、C、O、CO、COF、XeF、CF及びSiFからなる群より選択される少なくとも1種類の物質を含み;HO、CO及びフッ素化分子の少なくとも1つを前記排ガスから吸着するためのサージ容器を通過し;そしてNで希釈されて、前記吸着装置に供給するための前記供給ガスを与える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記キセノンの初期濃度が、0.1%〜5.0%である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
P1が1〜100torr、且つP2が0.001〜10torrである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
P1が5〜50torr、且つP2が0.01〜5torrである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
P1が5〜50torr、且つP2が0.01〜5torrである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記吸着材が、アルミナ、ゼオライト、シリカゲル及び活性炭からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記吸着材が、0.5〜3.0mmの直径を有する粒子から本質的になる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
キセノン回収率が、少なくとも80%である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの吸着容器を有する減圧スイング吸着装置で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ガスの第一部分のガスを排気することが、前記ガスの第一部分を放出することである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ガスの第一部分のガスを排気することが、前記ガスの第一部分を前記供給工程にリサイクルすることである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
次の工程を含む、Xe含有供給ガスからキセノンを回収するための方法:
Xe/N選択比が65未満である吸着材を有する吸着容器を与える工程;
前記Xe含有供給ガスを前記吸着容器に供給する工程であって、前記Xe含有供給ガスは、50%超の初期窒素濃度及び少なくとも0.05%の初期キセノン濃度を有する工程;
前記吸着容器を、大気圧から大気圧未満の圧力に減圧することで排気する工程であって、前記排気は次の2つを含む工程:(1)ガスの第一部分を前記供給工程にリサイクルすること、及び(2)前記大気圧未満の圧力がP1に達したときに、第一のキセノン富化ガスを回収すること;
前記大気圧未満の圧力がP2に達したときに前記吸着容器をパージして、第二のキセノン富化ガスを回収する工程であって、前記パージを、大気圧未満圧力P2で維持する工程;及び
前記第一のキセノン富化ガスと前記第二のキセノン富化ガスとを混合して、前記初期キセノン濃度より少なくとも20倍高い最終キセノン濃度を有する生成ガスを与える工程、
ここで、P1は、P2以上である。
【請求項16】
前記パージ工程の後に前記吸着容器を再加圧する工程をさらに含み、且つ請求項15に記載の方法の工程を少なくとも1回繰り返す、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記Xe含有供給ガスは、半導体関連製造プロセスの排ガスを含み;且つ前記排ガスは、Xeを含み、且つHF、F、HO、C、O、CO、COF、XeF、CF及びSiFからなる群より選択される少なくとも1種類の物質を含み、HO、CO及びフッ素化分子の少なくとも1つを前記排ガスから吸着するためのサージ容器を通過し、そしてNで希釈されて、前記吸着装置に供給するための前記供給ガスを与える、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記キセノンの初期濃度が、0.1%〜5.0%であり;前記吸着材が、アルミナ、ゼオライト、シリカゲル及び活性炭からなる群より選択される少なくとも1種を含み;P1が1〜100torr、且つP2が0.001〜10torrであり;且つ少なくとも1つの吸着容器を有する減圧スイング吸着装置で行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
次を具備する、請求項1に記載の方法を行うために適合しているキセノン回収装置:
Xe/N選択比が65未満である吸着材を有する吸着容器;
前記吸着容器を排気するのに適合しているポンプ;
前記キセノン富化ガスを圧縮するのに適合しているコンプレッサー;
圧縮された前記キセノン富化ガスを収容するための生成品容器;及び
前記吸着容器に前記ガスの第一部分を収集するための収集システム。
【請求項20】
前記収集システムは、前記ガスの第一部分を放出するためのベントシステム、及び前記吸着容器に前記ガスの第一部分を供給するための供給システムからなる群より選択される、請求項19に記載のキセノン回収装置。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−87044(P2012−87044A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−217328(P2011−217328)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】