説明

吸音体の製造方法、この製造方法に用いられる金型,この製造方法によって得られる吸音体及び吸音構造体

【課題】 生産性及び品質安定性に優れ、かつ、一定の周波数帯の騒音のみを吸音することのできる吸音体の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】 表裏面に形成されたスキン層と、このスキン層に挟まれ多数の空隙を備えた空隙層とを有し、一方のスキン層を貫通し他方のスキン層まで到達しない深さの孔を形成した吸音体の製造方法であって、固定型11と移動型12とキャビティ13内に出没自在に設けられた少なくとも一つのピン14とを備えた金型を準備し、前記キャビティ13に樹脂材料を充填して前記吸音体を成形する過程で前記ピン14を前記キャビティ13内に突出させ、前記吸音体の成形と同時に前記空隙層に連通する前記孔を形成する工程と、前記ピン14を突出させたときに前記空隙層に加圧流体を注入する工程とを有する方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い剛性を備えた表裏のスキン層と、このスキン層の間に形成された空隙とを有する吸音体の製造方法、この製造方法に用いられる金型,この製造方法によって得られる吸音体及び吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、騒音や雑音等を遮断するために、遮音材及び吸音材が利用されている。これらのうち、吸音材としては、音波をよく吸収する柔らかい不織布や発泡成形品を用いるのが一般的である。このような吸音材は、剛性がなく、通常、遮音性能を期待することはできない。一方、遮音材としては、密度が高く、高剛性とされ、音波により振動しにくい部材を用いるのが一般的である。このような遮音材は、音波を反射して遮断するので、吸収することはなく、通常、吸音性能を期待することはできない。
【0003】
上記のような従来の吸音材や遮音材は、吸音性能及び遮音性能の両方を確保することができず、吸音性能及び遮音性能の両方を備えた部材を確保するには、吸音材及び遮音材を張り合わせる等の煩雑な工程が必要となり、製造が煩雑となるという問題がある。また、吸音材及び遮音材の張り合わせにより、吸音性能及び遮音性能の両方を確保しようとすると、耐熱性、剛性、軽量性及び形状等、製品特性のいずれかが犠牲になることがあり、互いに張り合わせられる吸音材及び遮音材を構成する材料を最適化する必要があり、その材料の選定が煩雑となるという問題点もある。
【0004】
そこで、樹脂発泡粒子の多数個が一体化した多孔質成形体を用いた吸音体や、連通した空隙を有する樹脂粒子成形体が特許文献1や特許文献2で提案されている。しかし、これら文献に記載の吸音体や樹脂粒子成形体は、スキン層を持たない多孔質成形体であるため、強度に乏しく、構造体用途に適さない上、遮音性も期待できないという欠点がある。また、粒子径の制御により単一の周波数帯は吸音できても、複数の周波数帯を選択的に吸音することはできないという欠点もある。
【0005】
また、スキン層と空隙層とを有し、片方のスキン層に孔を開けることにより、吸音性、遮音性を得る技術が本願出願人により特許文献3〜5で提案されているが、成形後に後加工で穿孔作業を行っているため生産性が悪く、穿孔加工時に孔内の穿孔カスを除去しないと安定した吸音性が得られないという欠点がある。
さらに、特許文献6では、繊維含有熱可塑性樹脂をスプリングバック現象で膨張させた後、内部にガスを注入することによってヒケの防止や冷却時間の短縮を図る技術が提案されているが、スキン層への孔の形成や成形品内部の空隙率を高めることができず、高い吸音性を得ることはできないという問題がある。
【特許文献1】特開平7−168577号公報
【特許文献2】特開平10−329220号公報
【特許文献3】特開2000−52371号公報
【特許文献4】特開2003−337588号公報
【特許文献5】国際公開WO03/91987号公報
【特許文献6】特開平10−305462号公報
【0006】
また、吸音体の用途によっては、ある一定の周波数帯の音のみを選択的に吸音することが求められる場合がある。例えば、車のエンジン音には、不快な騒音と快い音とが混在しているが、従来の吸音体を利用してエンジン音を吸音しようとすると、吸音できる周波数帯を選択できないことから、不快な騒音も快い音も同様に吸音してしまうという問題がある。そのため、不快な騒音を効果的に吸音し、快い音はそのまま維持する吸音体や吸音構造体が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の課題を一挙に解決し、生産性及び品質安定性に優れ、かつ、一定の周波数帯の騒音のみを高い吸音率で吸音することのできる吸音体の製造方法、この製造方法に用いられる金型,この製造方法によって得られる吸音体及び吸音構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、表裏面に形成されたスキン層と、このスキン層に挟まれ多数の空隙を備えた空隙層とを有し、一方のスキン層を貫通し他方のスキン層まで到達しない深さの孔を形成した吸音体の製造方法であって、固定型と移動型とキャビティ内に出没自在に設けられた少なくとも一つのピンとを備えた金型を準備し、前記キャビティに樹脂材料を充填して前記吸音体を成形する過程で前記ピンを前記キャビティ内に突出させ、前記吸音体の成形と同時に前記空隙層に連通する前記孔を形成する工程と、前記ピンを突出させたときに前記空隙層に加圧流体を注入する工程とを有する方法としてある。
この方法によれば、吸音体の成形と同時に孔を形成することができるので、効率よく吸音体を製造することが可能である。また、カスの除去も不要で安定した吸音性を得ることができるという利点がある。
また、加圧流体により硬化前に空隙層を押し広げることができ、空隙率を高めることができる。そのため、高い吸音率の吸音体を後加工無しに製造することが可能になる。このようにして押し広げられる空隙率の割合は、請求項2に記載するように、40%〜80%の範囲内とするのが好ましい。
【0009】
加圧流体の注入や排出は、前記ピンに加圧流体流路を形成し、この加圧流体流路を通して行うとよい。この場合、前記ピンから加圧流体を注入し、他の排出手段を使って前記加圧流体を空隙層から排出するようにしてもよいし、前記ピンの加圧流体流路から排出するようにしてもよい。又は、他の手段を使って前記空隙層に加圧流体を注入し、前記空隙層の加圧流体を前記ピンの加圧流体流路から排出するようにしてもよい。すなわち、請求項3に記載するように、前記ピンの少なくとも一つが、内部に加圧流体流路を有し、前記ピンから前記空隙層に加圧流体を注入し、及び/又は前記空隙層から前記加圧流体を排出するようにしてもよい。
さらに、請求項4に記載するように、前記ピンが複数設けられている場合において、前記ピンの少なくとも一つが、前記加圧流体を前記空隙層に注入するための注入用の加圧流体流路を内部に有し、他の前記ピンの少なくとも一つが、前記加圧流体を前記空隙層から排出するための排出用の加圧流体流路を内部に有し、一の前記ピンの注入用の加圧流体流路から前記空隙層に注入された前記加圧流体を、他の前記ピンの排出用の加圧流体流路から排出するようにしてもよい。
加圧流体注入のタイミングは、ピンを突出させると同時又はピンを突出させた後であって、ピンを後退させるまでの間に行う。加圧流体の排出は、請求項5に記載するように、前記ピンを突出させて前記加圧流体を前記空隙層に注入した後、一定時間の経過後であって前記ピンの後退前に、前記加圧流体の排出を開始させるとよい。
また、空隙層に注入する加圧流体の圧力は、請求項6に記載するように、大気圧より大きく、かつ、20MPa(絶対圧力)以下の範囲内であるとよい。
【0010】
本発明においては、樹脂材料として膨張性の材料を用い、前記樹脂材料を前記キャビティ内に充填した後に、前記移動型を後退させて溶融状態の前記樹脂材料を膨張させるようにするとよい。このようにすることで、多数の空隙により優れた吸音性を有する空隙層と、密度が高く、高い剛性を備え優れた遮音性を有するスキン層とを一体に形成することができる。
【0011】
また、前記ピンの突出量は、請求項7に記載するように、前記吸音体の最終肉厚に対して30〜90%とするとよい。ピン突出のタイミングは、スキン層が形成される前であってもよいが、請求項8に記載するように、スキン層が形成されたときに前記ピンを前記キャビティ内に突出させるようにしてもよい。このように、前記スキン層の一部とともに前記ピンを前記空隙層に押し込むことで、空隙層を押しつぶし、孔周辺により大きな空間を形成することができる。そのため、加圧流体を空隙層に注入することで、さらに空隙率を高めることができる。
さらに、請求項9に記載するように、溶融膨張性を有する繊維含有熱可塑性の樹脂材料を用いる場合において、前記樹脂材料が、長さ2〜100mmの補強用繊維を包含する繊維含有熱可塑性樹脂ペレットを少なくとも一部に含み、かつ、前記補強用繊維が樹脂材料全体の2〜60重量%の範囲内であるようにしてもよい。
このような補強用繊維を用いることで、移動型を後退させることによりいわゆるスプリングバック現象が生じ、キャビティ内の溶融状態の樹脂材料が膨張し、樹脂材料の内部に多数の空隙を発生させることができる。補強用繊維としては、ロックウールやポロン繊維などのセラミック繊維、ガラス繊維や炭素繊維などの無機繊維、アルミニウム繊維や鋼繊維などの金属繊維、超高分子量ポリエチレン繊維やアラミド織維あるいはポリアリレート繊維などの有機繊維など、いずれもが採用できる。特に、ガラス繊維を採用することが好ましい。
【0012】
ここで、補強用繊維の長さが2mmより短いと、補強用繊維の強度が十分に得られなくなり、高強度および吸音性の向上が図れなくなる。一方、前記長さが100mmより長いと、繊維含有熱可塑性樹脂ペレットの製造が困難となるとともに、射出充填用ペレットとして取り扱うことが困難となり、生産性の向上が図れなくなる。
また、前記補強用繊維の含有量が前記樹脂材料全体の2重量%より少なくなると、十分な強度が得られず、制振性などの特性が損なわれたり、膨張しにくくなる。一方、60重量%より大きくなると、補強用繊維の量が多くなりすぎて、流動性が悪化し、成形がしにくくなる。
【0013】
上記した製造方法は、請求項10及び11に記載した金型によって実施することができる。
請求項10に記載の金型は、請求項1〜9のいずれかに記載の吸音体の製造方法に用いられる金型であって、固定型及び移動型と、前記固定型と前記移動型との境界部分に形成されたキャビティと、前記固定型又は移動型に設けられ、前記キャビティ内に出没自在に設けられた少なくとも一つのピンと、このピンを前記キャビティに出没自在にする駆動手段とを備え、前記ピンの少なくとも一つには、前記キャビティに充填された樹脂材料の内部に加圧流体を供給するための加圧流体供給部と連通する加圧流体流路が形成されている構成としてある。
【0014】
この場合、請求項11に記載するように、複数の前記ピンを前記固定型又は移動型に設ける場合において、前記ピンの少なくとも一つが、前記加圧流体を前記空隙層に注入するための注入用の加圧流体流路を内部に有し、他の前記ピンの少なくとも一つが、前記加圧流体を前記空隙層から排出するための排出用の加圧流体流路を内部に有するように構成してもよい。
この構成によれば、キャビティに充填された樹脂材料にピンを突出させて空隙層に連通する孔を形成するとともに、前記ピンから加圧流体を前記空隙層に注入して空隙層を押し広げ、空隙率を高めることができる。
【0015】
本発明の吸音体は、請求項12に記載するように、表裏面に形成されたスキン層と、このスキン層に挟まれ多数の空隙を備えた空隙層とを有し、一方のスキン層を貫通し他方のスキン層まで到達しない深さの孔を形成した吸音体であって、キャビティ内に出没自在に設けられた少なくとも一つのピンを、前記キャビティに樹脂材料を充填して前記吸音体を成形する過程で前記キャビティ内に突出させ、前記吸音体の成形と同時に前記空隙層に連通する前記孔を形成するとともに、前記ピンの突出時から後退時までの間に、前記空隙層に加圧流体を注入して形成してある。吸音体の空隙層における空隙の割合は、請求項13に記載するように、40%〜80%の範囲内とするのが好ましい。
この吸音体によれば、吸音体の成形と同時に孔を形成することができるので、生産性に優れ、かつ、吸音体の品質を安定させることができる。
また、加圧流体により硬化前に空隙層を押し広げることで、空隙率が大きく、高い吸音率の吸音体を後加工無しに得ることができる。
上記構成の吸音体は、単独で、又は適宜に組み合わせて、請求項14に記載するように、エアクリーナー、エアーダクト、吸排気用レゾネーターの吸音構造体に利用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法及び金型によれば、生産性及び品質安定性に優れ、かつ、一定の周波数帯の騒音のみを吸音することのできる吸音体及び吸音構造体を得ることができる。また、成形と同時に内部空隙層と連通した孔を形成できるため、穿孔のための後加工が不要で生産性に優れる。さらに、孔の形状や数、配置位置を適宜に選択又は組み合わせることで、必要とされる特定かつ複数の周波数域を選択的に吸音することが可能である。また、緻密なスキン層により遮音性も兼ね備える吸音体を得ることができる。
さらに、加圧流体により硬化前に空隙層を押し広げることで、空隙率が大きく、高い吸音率の吸音体及び吸音構造体を後加工無しに得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の吸音体の製造方法に用いられる金型の構成及び作用を説明する概略図である。なお、この金型の基本構成は、上記した特許文献3,4,5等で公知である。
金型1の基本構成は、固定型11と、移動型12と、この移動型12に形成されたキャビティ13と、移動型12を固定型11に向けて進退移動させる駆動機構とからなっている。
【0018】
そして、この実施形態の金型1は、移動型12に設けられ、キャビティ13に出没自在な複数のピン14を有している。ピン14の先端部分の横断面形状は、円形、楕円形、多角形、円錐形状など、任意のものを選択することができる。このピン14の駆動機構は、油圧シリンダやモータ等を駆動源とするものを用いることができ、成形工程中の任意のタイミングでピンを駆動できるものであればよい。例えば、成形品の強制突き出しに利用されている公知のエジェクタピンの駆動機構と同じものを用いてもよい。なお、前記駆動源は、金型1や金型1に溶融状態の樹脂材料を供給する成形機のいずれに設けてもよい。
【0019】
図2は、この実施形態におけるピン14の縦断面図である。
ピン14は、筒状の外筒部141と、この外筒部141の貫通孔内に挿入された中子部142とを有している。そして、外筒部141と中子部142との間に、加圧流体供給部145に連通する加圧流体流路143が形成されている。
また、加圧流体流路143と加圧流体供給部145との間には、切換弁144が設けられていて、この切換弁144を切り換えることで、加圧流体供給部145からピン14の加圧流体流路143に加圧流体を供給したり、加圧流体流路143から加圧流体を排出できるようになっている。
【0020】
加圧流体供給部145から供給される加圧流体としては、窒素,ヘリウム,二酸化炭素又はエア等の気体、水又はアルコール等の液体若しくはこれら気体と液体の混合物を用いることができる。
加圧流体供給部145から供給される加圧流体の圧力は、大気圧より大きく絶対圧力で20MPa以下の範囲内、好ましくは、絶対圧力で1MPa〜10MPaの範囲内に設定するとよい。加圧流体の圧力が20MPaを超えると、空隙層の破壊が進んで必要以上に空隙層が消失してしまい、吸音効果を低下させるおそれがある。
【0021】
吸音体を形成するための樹脂材料としては、熱可塑性材料を用いることができる。熱可塑性材料としては、例えば、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、あるいは、ポリスチレン系樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ芳香族エーテル又はチオエーテル系樹脂、ポリ芳香族エステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂及びアクリレート系樹脂などを用いることができる。
【0022】
また、耐衝撃性を付与するために、エチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレン−ブテン共重合エラストマー(EBR)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)等の熱可塑性エラストマーを併用してもよい。
そして、これら熱可塑性材料は、単独で用いることもできるが、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
このような熱可塑性樹脂のうち、ポリプロピレン、プロピレンと他のオレフイ
ンとのブロック共重合体、ランダム共重合体、あるいは、これらの混合物などの
ポリプロピレン系樹脂が好ましく、特に、不飽和カルポン酸、または、その誘導
体で変性された酸変性ポリオレフイン系樹脂を含有するポリプロピレン系樹脂
が好適である。
【0023】
これら熱可塑性材料には、キャビティ13に射出した後の膨張性を高めるために、窒素ガス等のガスを溶解又は混合させるとよい。また、ガス発生剤等の発泡剤を添加してもよい。特に、超臨界流体を溶解又は混合させるとよい。超臨界流体は、減圧することで超臨界状態から通常の気体状態となり、この間に体積が膨張して空隙を形成するので、通常の化学発泡材を用いることなく空隙層を形成することができる。
【0024】
これらの熱可塑性材料に補強用繊維を含有させてもよい。補強用繊維としては、ロックウールやポロン繊維などのセラミック繊維、ガラス繊維や炭素繊維などの無機繊維、アルミニウム繊維や鋼繊維などの金属繊維、超高分子量ポリエチレン繊維やアラミド織維あるいはポリアリレート繊維などの有機繊維など、いずれもが採用できる。特に、ガラス繊維を採用することが好ましい。これら補強用繊維の長さは、2〜100mmの範囲内であるとよく、かつ、樹脂材料全体に占める割合を、2〜60重量%とするとよい。
【0025】
補強用繊維の長さが2mmより短いと、補強用繊維の強度が十分に得られなくなり、高強度および吸音性の向上が図れなくなる。一方、前記長さが100mmより長いと、繊維含有熱可塑性樹脂ペレットの製造が困難となるとともに、射出充填用ペレットとして取り扱うことが困難となり、生産性の向上が図れなくなる。
また、前記補強用繊維の含有量が前記樹脂材料全体の2重量%より少なくなると、十分な強度が得られず、制振性などの特性が損なわれたり、膨張しにくくなる。一方、60重量%より大きくなると、補強用繊維の量が多くなりすぎて、流動性が悪化し、成形がしにくくなる。
なお、他の無機充填剤として、タルクや炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、雲母などを用いることができ、これらを単体あるいは二種類以上併用して利用してもよい。
【0026】
樹脂材料の溶融混練、射出法としては、成形機の加熱筒内に、成形原料である樹脂材料を投入し、加熱溶融させた後、繊維等を分散させ、その後射出成形機の先端に送り込み、プランジャー等で射出する方法、加熱筒内に、樹脂材料を投入し、加熱溶融させた後、プランジャー等で射出成形機のスクリュー部に送り込み、繊維等を分散させた後、射出する方法、深溝で圧縮比の小さいスクリューを用い、且つシリンダー温度等を著しく高く保ち、繊維破断を防止しつつ射出成形機の先端部分に樹脂を送り込み、プランジャー等で射出成形する方法などがある。
ここで、射出成形方法としては、一般の射出成形方法、射出圧縮成形方法、射出膨張成形方法、射出プレス成形方法を含むものである。
【0027】
この実施形態では、樹脂材料を溶融混練し、最終成形品の容積よりも小さくなるように閉じた金型中に溶融樹脂を射出し、射出完了前若しくは完了後に金型を目的とする最終成形品の容積まで開いて膨張させる成形法により成形品(吸音体)を製造する。この場合の最初の金型の閉じ具合、最終の金型の開き具合は、樹脂材料のガラス繊維の含有量、繊維長さあるいは目的とする成形品の空隙率(成形体の比重)などをもとに適宜設定することができる。また、金型を開くタイミングは金型の温度、成形品表面のスキン層の厚み、成形品の厚みなどを考慮して適宜決定すればよい。
【0028】
この実施形態において、ピン14の突出しのタイミングは、樹脂材料Pの射出開始前から、樹脂材料Pを膨張させるために移動型12を後退させた後までの間の任意の時期に設定することができる。また、ピン14の後退のタイミングは、成形体(吸音体)の冷却が完了するまでの間の任意の時期に設定することができる。
さらに、加圧流体注入のタイミングは、ピン14の突出しと同時又は突出し後からピン14の後退前までの間の任意の時期に設定することができる。また、加圧流体排出のタイミングは、加圧流体の注入開始後からピン14が後退するまでの任意の時期に設定することができる。
なお、加圧流体として水やアルコール等の液体を用いる場合は、これらを気化させて排出するのが好ましい。
【0029】
[製造方法の第一の実施形態]
本発明の製造方法の第一の実施形態を、図1(a)〜(d)及び図3を参照しながら説明する。ここで、図3は、加圧流体の注入及び排出の様子並びに成形された吸音体を説明する断面図である。
この実施形態では、図1(a)に示すように型締めを行って樹脂材料Pをキャビティ13に射出した後に、図1(b)に示すように移動型12を後退させて樹脂材料Pを膨張させる。
【0030】
次いで、図1(c)に示すように、キャビティ13内の樹脂材料Pが硬化する前にピン14を前進させ、キャビティ13内に突出させる。
この場合、ピン14の突出量は、一方のスキン層を貫通し、他方のスキン層までは達しない深さであればよい。好ましくは最終的な成形体(吸音体)の肉厚の30〜90%となるように、突出量を予め調整しておく。
なお、吸音体2の表裏両面に形成されるスキン層の肉厚は、最良の吸音性及び遮音性を得るために、0.5mm〜2.0mm程度とするとよい。
この実施形態では、ピン14が最前進位置まで突出すると同時に、図2に示す切換弁144を切り換えて、加圧流体供給部145から加圧流体をピン14に供給するようにしている。これにより、図3(a)に示すように、ピン14の加圧流体流路143から、樹脂材料Pを膨張させて形成した空隙層Pbに、加圧流体が注入される。
そして、図2に示す切換弁144を切り換えて、加圧流体の注入を行ったピン14の加圧流体流路143から空隙層Pb内の加圧流体を排出する(図3(b)参照)。なお、この加圧流体の排出は、樹脂材料Pがまだ溶融状態又は半溶融状態を保っている間に行ってもよいし、硬化した後に行ってもよい。
【0031】
以上の動作終了後に、図1(d)に示すように、所定のタイミングでピン14を後退させる。
この実施形態におけるピン後退のタイミングは、ピン14の外周面に接する樹脂材料Pが硬化して、樹脂材料Pの孔内周面にスキン層が形成される前である。ピン14の先端部分を樹脂材料Pの溶融温度近傍まで加熱する加熱手段を設けて、ピン14の外周面に接する樹脂材料Pが硬化しないようにしてもよい。
上記の方法により成形された吸音体には、図3(c)に示すように、一方のスキン層22を貫通して空隙層24まで連通する孔21が形成され、孔21の内周面の全面にわたって空隙層24が露出している。
【0032】
[製造方法の第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態では、図4に示すように、加圧流体注入用の加圧流体流路143を有するピン14と、加圧流体排出用の加圧流体流路143′を有するピン14′とを準備し、一方のピン14の加圧流体流路143から空隙層Pbに注入した加圧流体を、他方のピン14′の加圧流体流路143′から排出するようにしている。
このとき、注入側のピン14と排出側のピン14′との間で、加圧流体の圧力差が、0.1MPa〜20MPaの範囲、好ましくは、5MPa〜10MPaの範囲になるようにする。
なお、この実施形態におけるピン14,14′の突出し及び後退のタイミング、加圧流体の注入と排出のタイミングは、先に説明した第一の実施形態と同じである。
この実施形態によれば、離間して配置された複数(この実施形態では二つ)のピン14,14′の間を加圧流体が流通するので、広範囲にわたって空隙層を押し広げることができ、空隙率を高めることができるという利点がある。
なお、上記した第一及び第二の実施形態におけるピン14,14′の突出のタイミングは、図3に示すように、一方のスキン層22が形成される前であってもよいが、図5に示すように、一方のスキン層22が形成されるタイミングであってもよい。このようにすることで、ピン14,14′がスキン層22の一部を孔21の底部に押し込み、この押し込み作用で空隙層24を押しつぶし、孔21の周辺により大きな空間を形成することができる。そのため、加圧流体を空隙層24に注入することで、さらに空隙率を高めることができるという利点がある。
【0033】
[吸音構造体の実施形態]
上記した第一及び第二の実施形態の吸音体は、例えば、タイミングベルトカバー、エアクリーナカバー、エアーダクト、エンジンカバー、吸排気用レゾネーター、インテークマニホールド、エンジンルームと室内の遮蔽板、トランクルーム、自動車天井材、ドアパネル等の吸音構造体として使用することができる。
吸音構造体の一実施形態を以下に説明する。
【0034】
図6および図7において、吸音構造体である吸気装置200は、例えば自動車のエンジンなどの図示しない内燃機関の吸気側に配設される。
そして、吸気装置200は、略筒状の上流嵌合部252を有している。
また、吸気装置200には、上流嵌合部252に一体に連続して空気清浄部としての略筒状のエアクリーナ253が設けられている。このエアクリーナ253は、例えば、内部に通気性を有する図示しないフィルタを収容し、流通する空気は透過させ空気中に混入する塵挨などを捕捉して空気から分離除去するものである。また、吸気装置200には、エアクリーナ253に一体に連続して略筒状のダクト部254が設けられている。さらに、吸気装置200には、ダクト部254に一体に連続して共鳴部としての略筒状のレゾネータ255が設けられている。このレゾネータ255は、共鳴や干渉などにより騒音を吸音する。
【0035】
そして、レゾネータ255には、内面に内側に向けて開口する円形の孔256が複数設けられている。この孔256は、上記した第一及び第二の実施形態で説明したいずれかの手順で形成することができる。
孔256の断面積は、0.785〜314mmである。孔256は、そのピッチが1mm以上であって、好ましくは10mm以上200mm以下となるピッチで複数設けられている。なお、この孔256は、レゾネ一夕255の外周面と内周面とが連続して貫通するものではない。また、孔256の内径は、1〜20mmの範囲内である。
【0036】
ここで、孔256の内径が1mmより小さいと、孔256による騒音の干渉が不十分となり、十分な吸音性が得られなくなるおそれがある.また、孔256の内径が20mmより大きいと、強度が低下して製造工程中や組み付け時あるいは使用時に損傷するおそれがある。
さらに、吸気装置200には、レゾネータ255に一体に連続して略筒状の下流嵌合部257が設けられている。この下流嵌合部257は、内燃機関側に連結される。
【0037】
そして、吸気装置200は、上流嵌合部252側から吸気した空気をエアクリーナ253で空気中の塵埃を分離除去する。この塵埃が分離除去された空気は、ダクト部254を介してレゾネータ255に流入し、吸音されて下流嵌合部257から内燃機関に空気を供給する。
また、吸気装置200は、下モジュール片260とこの下モジュール片260と略対称形状の上モジュール片261とが一体に接合して略筒形状に形成されている。
【0038】
この下モジュール片260は、上方に向けて拡開する状態に開放する略箱状の下空気清浄部253Aを有している。また、下空気清浄部253Aの長手方向の一端縁には、この下空気清浄部253Aに一体に連続し上方に向けて開放する樋状の下上流嵌合部252Aが設けられている.さらに、下空気清浄部253Aの長手方向の他端縁には、下上流嵌合部252Aと略同形状の上方に向けて開放する樋状の下ダクト部254Aが一体に連続して設けられている。
【0039】
また、下モジュール片260には、下ダクト部254Aに一体に連続して下共鳴部255Aが設けられている。この下共鳴部255Aは、下空気清浄部253Aと同様に、上方に向けて拡開する状態に開放する略箱状に形成されている。そして、この下共鳴部255Aには、外面側となる下面に下方に向けて開口する孔256が複数設けられている。
【0040】
さらに、下モジュール片260の下共鳴部255Aの他端線には、下下流嵌合部257Aが一体に連続して設けられている。この下下流嵌合部257Aは、下上流嵌合部252Aと略同形状に、上方に向けて開放する樋状に形成されている。
そして、下モジュール片260には、上端縁に外周方向に向けて突出するフランジ状の下接合片部260Aが、下上流嵌合部252A、下空気清浄部253A、下ダクト部254A、下共鳴部255Aおよび下下流嵌合部257Aの上端両側線に亘って一連に設けられている。
【0041】
一方、上モジュール片261は、下モジュール片260と略同形状に形成され、下上流嵌合部252Aに対応する上上流嵌合部252B、下空気清浄部253Aに対応する上空気清浄部203B、下ダクト部254Aに対応する上ダクト部254B、下共鳴部255Aに対応する上共鳴部255B、および、下下流嵌合部257Aに対応する上下流嵌合部257Bが順次連続して一体に形成されている。さらに、上モジュール片261には、下モジュール片260の下接合片部260Aに対応して略同形状のフランジ状の上接合片部261Aが設けられている。
【0042】
そして、これら下モジュール片260および上モジュール片261は、所定の原料にてそれぞれ射出成形されて形成されている。この所定の原料は、上記で説明した樹脂材料と同様である。
また、下モジュール片260および上モジュール片261は、断面に空隙、すなわち微細な気孔が多数発泡した状態の多孔常に形成されている。すなわち、下モジュール片260および上モジュール片261は、2つのスキン層と、これらスキン層に挟まれかつ多数の空隙を有する空隙層とを備えた断面構造を有するものである。
【0043】
そして、吸気装置200は、下モジュール片260および上モジュール片261を互いに開放する面を対向、すなわち下モジュール片260の上面を上モジュール片261の下面にて覆うように、下モジュール片260の下接合片部260Aおよび上モジュール片261の上接合片部61Aが例えば振動溶着にて接合されて形成される。
【0044】
この吸気装置200は、下モジュール片260および上モジュール片261の接合により、下モジュール片260の下上流嵌合部252Aと上モジュール片261の上上流嵌合部252Bとにて上流嵌合部252を構成する。また、エアクリーナ253は、下モジュール片260の下空気清浄部253Aと上モジュール片261の上空気清浄部203Bとにて構成される。さらに、ダクト部254は、下モジュール片260の下ダクト部254Aと上モジュール片261の上ダクト部254Bとにて構成される。また、レゾネータ255は、下モジュール片260の下共鳴部255Aと上モジュール片261の上共鳴部205Bとにて構成される。さらに、下流嵌合部257は、下モジュール片260の下下流嵌合部257Aと上モジュール片261の上下流嵌合部257Bとにて構成される。そして、吸気装置200は、上流嵌合部252、エアクリーナ253、ダクト部254、レゾネ一夕255および下流嵌合部257が順次連通して一体に連続した略筒状に形成される。
【0045】
次に、上記の吸気装置200を製造する工程を図面に基づいて説明する。まず、使用する原料は、上記で説明した樹脂材料と同様である。
そして、調製した原料を溶融し、図8に示すように、金型270に射出する。ここで、金型270は、移動型と固定型からなる型枠271、272を有している.これら型枠271、272の対向面には、原料が射出される成形凹部273、274が形成されている。そして、一対の型枠271、72が接合された金型270は、各成形凹部273、274にて分割体である下モジュール片260および上モジュール片261の形状に対応したキャピティである成形空間275を形成する。また、一方の型枠271には、成形空間275にガスを注入するガス注入孔276が設けられている。
【0046】
この金型270に原料を射出する射出成形法の際、各材料を図示しない射出装置に供給して可塑化および混練して、原料が略均一に分散する状態に溶融させる。そして、原料を金型270の成形空間275内に射出する。この射出された原料は、型枠271、272の成形凹部273、274の内面である成形面に接触する最表面部分は、内部よりも速く冷却されて硬化し、図示しないスキン層を形成する。
【0047】
さらに、上記した実施形態で説明したように、ピン14を突出したときに空隙層にエアや二酸化炭素、窒素ガス等の加圧流体を注入する。この加圧流体の注入により空隙層が押し広げられて、空隙率が大きく、高い吸音率の吸音構造体を得ることができる。また、第一及び第二の実施形態で説明したように、金型270に設けた図示しないピンにより複数の孔256が形成される。この後、樹脂材料を所定時間冷却して硬化する。この樹脂材料の硬化により、下モジュール片260および上モジュール片261が射出成形される。
【0048】
なお、音波の進行方向と前記スキン層の表面とのなす角度の小さい方が60〜90度とされていることが好ましい。ここで、音波の進行方向と前記スキン層の
表面とのなす角度が60度未満であると、前記孔に音波が進行せず、十分な吸音
性能が発現しない場合がある。
【0049】
そして、それぞれ形成された下モジュール片260および上モジュール片261を、下モジュール片260および上モジュール片261の対向する面同士を向き合わせて、それぞれの下モジュール片260の下接合片部260Aおよび上モジュール片261の上接合片部261Aを振動溶着法により溶著させ、下モジュール片260および上モジュール片261を一体に接合する。
【0050】
上述のような本実施形態によれば、次のような効果がある。
(1) スキン層と空隙層とを備えることにより、スキン層は遮音性を有し、空隙層は内部に多数の空隙を有するので、吸音性能を有する。従って、複数の材料を張り合わせることなく、一体成形により、吸音性能および遮音性能の両方が確保可能である。
(2) 成形体の任意の箇所には、スキン層から空隙層に連通する孔256が複数形成され、その孔256の形態が上記第一及び第二の実施形態で説明したように形成されているので、選択的に任意の周波数の昔を吸収することができ、不快な音のみを選択的に吸収することができる。
(3)孔256が筒形状の吸気装置200の内部に形成されることになるので、内部において吸音することが要求される吸気装置200を容易に製造することができる。
(4)分割体(下モジュール片260および上モジュール片261)を成形すると同時に孔256を形成することができるので、容易かつ低コストで孔256を形成することができる。
(5)分割体(下モジュール片260および上モジュール片261)を振動溶着法によって接合しているから接合面等のずれを起こさずに接合することができる。従って、吸音性能を確実に発現することができる。
(6)加圧流体により樹脂材料の硬化前に空隙層を押し広げることで、空隙率が大きく、高い吸音率を得ることができる。
【0051】
[実施例]
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。この実施例では、第一の実施形態の製造方法(実施例1,2)及び第二の実施形態(実施例3)により吸音体を成形し、測定を行った。
成形の条件は以下のとおりである。
(1)樹脂材料: 長さ8mm、GF量20%のガラス繊維含有ポリプロピレン(出光モストロンL)に、発泡剤を3重量%添加したものを用いた。
(2)金型:図1に示した金型と同じものを用いた。また、ピンは、図2に示すものと同じものを用いた。
(3)成形体の形状:平面形状を一辺180mmの正方形とし、初期肉厚3mm、最終肉厚を9mm(3倍膨張)とした。このうち、スキン層の肉厚は片側0.6mmとした。
(4)孔形状及び配置位置:図9に示すように、吸音体2の二つの対角線をほぼ四等分する位置に、直径4mmで深さ8mmの円形の孔21を4個形成し、吸音効果の評価を行った。
(5)成形条件:以下の条件で成形を行って吸音体を得た。
成形温度 230℃
金型温度 30℃
充填時間 1秒
移動型後退開始タイミング 充填完了後3秒
移動型後退速度 2mm/秒
冷却時間 60秒
ピン突出しタイミング 移動型後退完了と同時
ピン突出し保持時間 30秒
加圧流体供給タイミング ピン突出しから1秒後
加圧流体排出時間 8秒
(6)加圧流体の注入と排出
実施例1:孔21a,21dに対応するピン14から0.5MPaの圧力で窒素ガスを注入し、15秒後に同一のピン14,14から排出した。
実施例2:孔21a,21dに対応するピン14から10MPaの圧力で窒素ガスを注入し、15秒後に同一のピン14,14から排出した。
実施例3:孔21a,21dに対応するピン14から1MPaの圧力で窒素ガスを注入し、注入開始から5秒後に、孔21b,21cに対応する別のピン14′からの排出を開始した。なお、注入側と排出側の加圧流体の圧力差は0.3MPaとした。
比較例:加圧流体の注入なし。その他は、実施例1〜実施例3と同じとした。
(7)結果
各実施例で得られた吸音体の吸音率を、比較例の吸音体と比較した。吸音率の測定は、JIS A1405の管内法による垂直入射吸音率判定に準拠して行った。
各実施例及び比較例における吸音率の測定の結果を以下の表及び図10のグラフに示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記の表からわかるように、実施例1,2,3ともに比較例より大きな吸音効果が認められた。、また、実施例1と実施例2のように、同じ条件下でも、加圧流体の圧力が低いものより高いものの方が吸音効果が高かった。
さらに、図10のグラフからわかるように、実施例1,3及び比較例のいずれも320Hz前後で最も高い吸音効果を示しているが、実施例3の方が実施例1よりも高い吸音効果を示した。
本発明においては、上記した第1及び第2の実施形態の製造方法で得られた孔の数や配置位置を種々変更することで、吸音のターゲットとする周波数帯の帯域を変化させることが可能である。
【0054】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態により何ら限定されるものではない。
例えば、上記の説明では、ピン14は移動型に設けるものとして説明したが、固定型側に設けるものとしてもよい。
また、第一及び第二の実施形態においてピン14はキャビティ13に樹脂材料Pを射出した直後に突出させるものとして説明したが、樹脂材料Pをキャビティ13に射出する前又は射出と同時に突出させるものとしてもよい。
【0055】
さらに、樹脂材料の射出後にピン14を突出させる場合において、ピン14の突出は、移動型12を後退させて樹脂材料Pを膨張させる前であってもよいし、膨張させた後であってよい。また、移動型12の後退のタイミングと同期させながら、膨張と同時にピン14を突出させるようにしてもよい。
また、上記の説明では、孔21を形成するピン14に加圧流体流路143を形成し、このピン14から空隙層に加圧流体を注入し又は排出するものとして説明したが、空隙層に加圧流体を注入又は空隙層から加圧流体を排出することができるのであれば、孔空け用のピン14に限らず他の手段を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の製造方法によって得られた吸音体は、上記したエアクリーナー、エアーダクト、吸排気用レゾネーターの他、例えば、シリンダーヘッド、タイミングベルトカバー、エンジンカバー、インテークマニホールド、エンジンルームと室内の遮蔽板、トランクルーム、ボンネット、自動車天井材、ドアパネル等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の吸音体の製造方法に用いられる金型の構成及び作用を説明する概略図である。
【図2】この実施形態におけるピンの縦断面図である。
【図3】図3は、加圧流体の注入及び排出の様子並びに成形された吸音体を説明する断面図である。
【図4】本発明の製造方法の第二の実施形態を説明する断面図である。
【図5】スキン層が形成されるタイミングでピンを突出させた場合における孔の状態を説明する断面図である。
【図6】本発明の吸音体を用いた吸音構造体の実施形態にかかり、吸気装置の一部を切り欠いた斜視図である。
【図7】図6の吸気装置の断面図である。
【図8】吸気装置のモジュール片を金型で成形する様子を示す断面図である。
【図9】本発明の実施例にかかり、吸音体及び穿孔する孔の一例を示す平面図である。
【図10】本発明の実施例にかかり、吸音率の測定結果示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 金型
11 固定型
12 移動型
13 キャビティ
14 ピン
141 外筒部
142 中子部
143 加圧流体流路
2 吸音体
21a〜21d 孔
P 樹脂材料
Pa 孔
Pb 空隙層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏面に形成されたスキン層と、このスキン層に挟まれ多数の空隙を備えた空隙層とを有し、一方のスキン層を貫通し他方のスキン層まで到達しない深さの孔を形成した吸音体の製造方法であって、
固定型と移動型とキャビティ内に出没自在に設けられた少なくとも一つのピンとを備えた金型を準備し、
前記キャビティに樹脂材料を充填して前記吸音体を成形する過程で前記ピンを前記キャビティ内に突出させ、前記吸音体の成形と同時に前記空隙層に連通する前記孔を形成する工程と、
前記ピンを突出させたときに前記空隙層に加圧流体を注入する工程と、
を有することを特徴とする吸音体の製造方法。
【請求項2】
前記空隙層の空隙率が、40%〜80%の範囲内となるように、前記加圧流体を前記空隙層に注入することを特徴とする請求項1に記載の吸音体の製造方法。
【請求項3】
前記ピンの少なくとも一つが、内部に加圧流体流路を有し、前記ピンから前記空隙層に加圧流体を注入し、及び/又は前記空隙層から前記加圧流体を排出することを特徴とする請求項1又は2に記載の吸音体の製造方法。
【請求項4】
前記ピンが複数設けられている場合において、前記ピンの少なくとも一つが、前記加圧流体を前記空隙層に注入するための注入用の加圧流体流路を内部に有し、他の前記ピンの少なくとも一つが、前記加圧流体を前記空隙層から排出するための排出用の加圧流体流路を内部に有し、一の前記ピンの注入用の加圧流体流路から前記空隙層に注入された前記加圧流体を、他の前記ピンの排出用の加圧流体流路から排出することを特徴とする請求項1又は2に記載の吸音体の製造方法。
【請求項5】
前記ピンを突出させて前記加圧流体を前記空隙層に注入した後、一定時間の経過後であって前記ピンの後退前に、前記加圧流体の排出を開始させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の吸音体の製造方法。
【請求項6】
注入する前記加圧流体の圧力が、大気圧より大きく、かつ、20MPa(絶対圧力)以下の範囲内で加圧することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の吸音体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の吸音体の製造方法において、前記ピンの突出量が、前記吸音体の最終肉厚に対して30〜90%であることを特徴とする吸音体の製造方法。
【請求項8】
前記スキン層が形成されたときに前記ピンを前記キャビティ内に突出させ、前記スキン層の一部とともに前記ピンを前記空隙層に押し込むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の吸音体の製造方法。
【請求項9】
溶融膨張性を有する繊維含有熱可塑性の樹脂材料を用いる場合において、前記樹脂材料が、長さ2〜100mmの補強用繊維を包含する繊維含有熱可塑性樹脂ペレットを少なくとも一部に含み、かつ、前記補強用繊維が樹脂材料全体の2〜60重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の吸音体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の吸音体の製造方法に用いられる金型であって、
固定型及び移動型と、
前記固定型と前記移動型との境界部分に形成されたキャビティと、
前記固定型又は移動型に設けられ、前記キャビティ内に出没自在に設けられた少なくとも一つのピンと、
このピンを前記キャビティに出没自在にする駆動手段とを備え、
前記ピンの少なくとも一つには、前記キャビティに充填された樹脂材料の内部に加圧流体を供給するための加圧流体供給部と連通する加圧流体流路が形成されていること、
を特徴とする金型。
【請求項11】
複数の前記ピンを前記固定型又は移動型に設ける場合において、前記ピンの少なくとも一つが、前記加圧流体を前記空隙層に注入するための注入用の加圧流体流路を内部に有し、他の前記ピンの少なくとも一つが、前記加圧流体を前記空隙層から排出するための排出用の加圧流体流路を内部に有することを特徴とする請求項10に記載の金型。
【請求項12】
表裏面に形成されたスキン層と、このスキン層に挟まれ多数の空隙を備えた空隙層とを有し、一方のスキン層を貫通し他方のスキン層まで到達しない深さの孔を形成した吸音体であって、
キャビティ内に出没自在に設けられた少なくとも一つのピンを、前記キャビティに樹脂材料を充填して前記吸音体を成形する過程で前記キャビティ内に突出させ、前記吸音体の成形と同時に前記空隙層に連通する前記孔を形成するとともに、前記ピンの突出時から後退時までの間に、前記空隙層に加圧流体を注入したこと、
を特徴とする吸音体。
【請求項13】
前記空隙層の空隙率が、40%〜80%の範囲内であることを特徴とする請求項12に記載の吸音体。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の吸音体を含む吸音構造体であって、その用途が、エアクリーナー、エアーダクト、吸排気用レゾネーターのいずれかであることを特徴とする吸音構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−272838(P2006−272838A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97951(P2005−97951)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【出願人】(300084421)ジー・ピー・ダイキョー株式会社 (50)
【Fターム(参考)】