説明

周波数シンセサイザ

【課題】 AD変換器への入力レベルが変化したときに、PLL制御が正常に動作しない状況を防止して周波数ずれの発生を防止できる周波数シンセサイザを提供する。
【解決手段】 キャリアリムーブ16と、逆回転ベクトル乗算部17と、位相の時間差検出部18と、加算器19と、位相差の累積加算部20と、ループフィルタ21と、パラメータ出力部25と、振幅情報検出部26と、フィルタ27と、乗算器28とをFPGAで構成し、振幅情報検出部26で検出された振幅情報の値をアンロック検出手段が監視し、当該値が適正範囲内であれば、PLL制御におけるロック(同期)処理を行い、当該値が適正範囲外であれば、PLL制御におけるアンロックを検出し、そのアンロックの検出でアラーム検出するようにした周波数シンセサイザである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の周波数の発振出力が得られる周波数シンセサイザに係り、特に、AD(アナログ・デジタル)変換器への入力レベルが変化したときに、PLL(Phase Locked Loop)制御が正常に動作しない状況を防止して周波数ずれの発生を防止できる周波数シンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の周波数シンセサイザについて図4を参照しながら説明する。図4は、従来の周波数シンセサイザの構成ブロック図である。
従来の周波数シンセサイザは、図4に示すように、VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)1と、分周器2と、基準発振回路3と、A/D(Analogue/Digital)変換器4と、位相比較器5と、デジタルフィルタ6と、D/A(Digital/Analogue)変換器7と、アナログフィルタ8とを備えている。
【0003】
VCO1は、アナログフィルタ8からの入力を制御電圧として、所望の周波数Fout を発振する電圧制御発振器である。
分周器2は、VCO1で生成される発振周波数Fout を1/Nに分周し、A/D変換器3に出力する。
基準発振回路3は、基準信号(基準クロック)Fref を発振する。
【0004】
A/D変換器4は、基準発振回路3から提供される基準クロックに従い、分周器2からのアナログ信号をデジタル信号に変換する。
位相比較器5は、A/D変換器4でデジタル変換された周波数と基準発振回路3からの基準信号の位相を比較し、位相差信号を出力する。
デジタルフィルタ6は、位相比較器5からの位相差信号をフィルタリングする。
【0005】
D/A変換器7は、基準発振回路3から提供される基準クロックに従い、デジタルフィルタ6からのデジタル信号をアナログ信号に変換する。
アナログフィルタ8は、D/A変換器7からのアナログ信号を平滑化してノイズ成分を除去し、VCO1に制御電圧として出力するループフィルタである。
【0006】
尚、特開平5−22131号公報には、PLL周波数シンセサイザにおいて、PLLの第1の値と第2の値を監視し、Lock状態を検出するPLL回路のロック検出回路が記載されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、特開平7−201137号公報には、PLL位相同期ループにおいて、VCOのAD値のカウントを監視し、ロック状態又はノンロック状態を検出する位相同期ループのロック検出方法及びロック検出装置が記載されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−22131号公報
【特許文献1】特開平7−201137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の周波数シンセサイザでは、A/D変換器への入力レベルが大きく変化したときに、位相比較器におけるPLL制御が正常に動作しないことがあり、結果として、周波数ずれが発生するという問題点があった。
【0010】
具体的には、図3に示すように、ADC(A/D変換器)への入力レベルが信号の振幅を0からP(Peak)までを、基準で4134ステップとしたときに、周波数誤差は0Hzであり、入力レベルが90%、80%で周波数誤差がマイナスに大きくなり、また、入力レベルが110%、120%で周波数誤差がプラスに大きくなっている。
【0011】
このように、ADCへの入力レベルが基準値に対して大きく変動してしまうと、周波数誤差が大きくなる問題が発生してしまう。
【0012】
また、上記特許文献1では、PLL回路が実際にロックが外れる前からロックが外れたという情報を出力するものであるが、デジタルの位相比較器においてA/D変換器への入力レベルの変化に対して周波数ずれの発生を防止するものではない。
【0013】
また、上記特許文献2では、位相同期ループで再生されるクロックに基づいたサンプリングクロックに同期して再生信号をデジタル信号に変換し、クロックパターンに対応したサンプリング値のうちのクロックパターンのエッジ近傍の少なくとも2つのサンプル値を比較し、同じ比較結果の回数をカウントし、回数が所定のしきい値以上であるときにロック状態を検出し、ロック状態で比較結果が反転した後に、同じ比較結果の回数が所定のしきい値以上のときノンロック状態と検出するものであるが、比較対対象が遅延させた入力信号であり、この先行技術も、A/D変換器への入力レベルの変化に対する周波数ずれを防止するものとはなっていない。
【0014】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、A/D変換器への入力レベルが変化したときに、PLL制御が正常に動作しない状況を防止して周波数ずれの発生を防止できる周波数シンセサイザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、周波数シンセサイザにおいて、入力される制御電圧に応じて周波数信号を発振する電圧制御発振器と、該周波数信号を分周する分周器と、該分周された信号をアナログ/デジタル変換するAD変換器と、該アナログ/デジタル変換された信号と正弦波信号との位相を比較して位相差を検出し、当該位相差に応じた位相差信号を出力する位相比較部と、位相差信号における高周波成分のノイズを除去するループフィルタと、該ノイズが除去された位相差信号をデジタル/アナログ変換するDA変換器とを備え、位相比較部は、自動利得制御回路として、AD変換器の後段に乗算器と、該乗算器のゲインを制御するための振幅情報を検出する振幅情報検出部とを備え、振幅情報の値を監視し、当該値が特定の範囲となった場合に、アンロックを検出するアンロック検出手段と、アンロック検出によりアラーム検出を行う手段とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明は、上記周波数シンセサイザにおいて、アラーム検出として、アラーム音を出力することを特徴とする。
【0017】
本発明は、上記周波数シンセサイザにおいて、アラーム検出として、アラーム表示を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、入力される制御電圧に応じて周波数信号を発振する電圧制御発振器と、該周波数信号を分周する分周器と、該分周された信号をアナログ/デジタル変換するAD変換器と、該アナログ/デジタル変換された信号と正弦波信号との位相を比較して位相差を検出し、当該位相差に応じた位相差信号を出力する位相比較部と、位相差信号における高周波成分のノイズを除去するループフィルタと、該ノイズが除去された位相差信号をデジタル/アナログ変換するDA変換器とを備え、位相比較部は、自動利得制御回路として、AD変換器の後段に乗算器と、該乗算器のゲインを制御するための振幅情報を検出する振幅情報検出部とを備え、振幅情報の値を監視し、当該値が特定の範囲となった場合に、アンロックを検出するアンロック検出手段と、アンロック検出によりアラーム検出を行う手段とを有する周波数シンセサイザとしているので、自動利得制御を働かせて周波数精度を上げると共に、自動利得制御が正常に働かない範囲となった場合はアンロック検出を行ってアラーム検出するので、周波数ずれの発生を防止できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る周波数シンセサイザの構成ブロック図である。
【図2】従来の周波数シンセサイザの構成ブロック図である。
【図3】ADCの入力レベルと周波数誤差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[発明の概要]
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態に係る周波数シンセサイザは、AD変換器からの出力が一定となるよう自動利得制御回路(AGC回路)を設け、AD変換器への入力レベルをAGC回路への補正値で判定し、当該補正値が適正範囲内であれば、AGC回路によってAD変換器の出力段での利得(ゲイン)を制御しつつ、PLL制御におけるロック(同期)処理を行い、当該値が適正範囲外であれば、PLL制御におけるアンロックを検出するようにしたものであり、周波数ずれを防止できるものである。
【0021】
[実施の形態の構成:図1]
本発明の実施の形態に係る周波数シンセサイザについて図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る周波数シンセサイザの構成ブロック図である。
本発明の実施の形態に係る周波数シンセサイザ(本周波数シンセサイザ)は、図1に示すように、VCO11と、分周器(NN)12と、LPF(Low Pass Filter)13と、AD変換器(A/D)14と、基準クロック発生部15と、DA変換器(D/A)22と、電圧出力部23と、加算器24と、FPGA(Field Programmable Gate Array)で構成される部分として、キャリアリムーブ16と、逆回転ベクトル乗算部17と、位相の時間差検出部18と、加算器19と、位相差の累積加算部20と、ループフィルタ21と、パラメータ出力部25と、振幅情報検出部26と、フィルタ27と、乗算器28とを備えている。
ここで、振幅情報検出部26、フィルタ27、乗算器28で自動利得制御回路(AGC回路)を構成している。
【0022】
VCO11は、加算器24からの入力を制御電圧として、所望の周波数(450MHz〜1000MHz)を発振する電圧制御発振器である。
分周器(NN)12は、VCO11の出力を外部から入力される分周値(NN)に基づき、1/NNに分周してLPF13に出力する。
【0023】
LPF13は、分周器12で分周された信号について低域の周波数を通過させるフィルタである。
AD変換器14は、LPF13からの信号を、基準クロック発生部15からの40MHz(fs )のクロックでサンプリングすることによりアナログからデジタルに変換し、FPGAのキャリアリムーブ16に出力する。
【0024】
DA変換器22は、FPGAで調整制御された制御信号をデジタルからアナログに変換するものである。DA変換器22からの信号電圧は、0〜0.85Vとなる。
【0025】
電圧出力部23は、パラメータ出力部25からの電圧値に基づいて電圧を出力するものであり、出力電圧が例えば時間の経過と共に直線的に所定の電圧まで上昇するよう構成されている。
加算器24は、電圧出力部23から出力される電圧を、DA変換器22から出力される制御信号で補正して、VCO11への制御電圧として出力するものである。
【0026】
FPGAの基本的機能は、所望の出力周波数(設定周波数)での回転ベクトルと、AD変換器14からの信号の回転ベクトルとを比較して位相差を検出し、当該位相差に基づいてVCO11の発振周波数を制御する制御信号を生成するものである。
【0027】
キャリアリムーブ16は、AD変換器14からのデジタル信号により特定される正弦波信号に対して4MHzの正弦波信号を用いて直交検波を行い、AD変換器14のデジタル信号により特定される周波数信号の周波数と、検波に用いる正弦波信号の周波数との差の周波数で回転する回転ベクトルVを取り出す手段である。
【0028】
逆回転ベクトル乗算部17は、回転ベクトルVに対して、パラメータ出力部25から出力された逆回転ベクトルV′を乗算するものである。
位相の時間差検出部18は、逆回転ベクトル乗算部17において減速された回転ベクトルVに基づいて、サンプリング時間毎の位相差を検出する。この位相差は、減速された回転ベクトルVの周波数に対応する値となる。また、位相の時間差検出部18は、当該位相差がゼロになると、PLLにおけるロックを検出し、ロック検出信号を外部に出力する。
【0029】
加算器19は、位相の時間差検出部18の出力から、予め計算で求めた所望の発振周波数に近づけるための微調整周波数の値を差し引いて位相差を出力する。
位相差の累積加算部20は、加算器19からの出力を一定時間累積加算して出力するものである。位相差の累積加算部20は、フィルタによって構成され、ダンピングを最適値に設定している。
尚、キャリアリムーブ16、逆回転ベクトル乗算部17、位相の時間差検出部18、加算器19、位相差の累積加算部20及びパラメータ出力部25は、請求項に記載した位相比較部に相当している。
【0030】
ループフィルタ21は、位相差の累積加算部20からの累積加算値に基づいて、VCO11を制御するデータを生成して制御信号として出力するものである。ループフィルタ21の制御を累積加算値に基づいて行うのは、ループフィルタ21の出力を安定させるためである。
【0031】
パラメータ出力部25は、入力された周波数設定情報(所望の発振周波数の情報)に基づいて、当該周波数がVCO11の出力として得られるよう、周波数パラメータとして、分周値(NN)、逆回転ベクトル乗算部17への逆回転ベクトルV′、加算器19への微調整周波数、及び電圧出力部23への電圧値を計算し、更に計算されたタイミングで上記パラメータ等を出力する。逆回転ベクトルV′は、回転ベクトルV及び周波数設定情報に基づいて算出される。パラメータ出力部25は、各種パラメータを予めテーブル等に記憶しておいて読み出してもよい。
【0032】
振幅情報検出部26は、逆回転ベクトル乗算部17からの出力を入力し、回転ベクトルの実部Iと虚部Qを、I2 +Q2 の演算を行い、その演算結果(振幅情報)から求められるAGCの補正値をフィルタ27に出力する。振幅情報に基づいて、AGC回路における補正値が得られるものである。
【0033】
更に、振幅情報検出部26は、制御できる入力振幅範囲が決まっており、内部にアンロック検出手段を設け、更に閾値(PLL制御が正常に動作しなくなる振幅情報の値)が設定されていて、アンロック検出手段が、入力振幅の値が当該閾値を超えたか否かを判定し、超えた場合に、アンロック検出信号を検出出力し、同期させないアンロック処理を行うものである。
尚、振幅情報の値でアンロック検出を行うようにしたが、振幅情報を元に得られるAGCの補正値でアンロック検出を行うようにしてもよい。
【0034】
フィルタ27は、振幅情報検出部26で求めた振幅情報に対して適正な自動利得制御となるような特性で利得を乗算器28に出力する。
乗算器28は、AD変換器14からの出力にフィルタ27からの出力(利得)を乗算してキャリアリムーブ16に出力する。この乗算器28における利得の乗算は、振幅情報が常に一定となるよう調整されるものである。
【0035】
次に、本周波数シンセサイザにおける特徴部分を具体的に説明する。
本周波数シンセサイザでは、図示していないが、振幅情報検出部26内のアンロック検出手段が、振幅情報の値を監視し、それらの値が特定の範囲の値(予め設定した範囲の値=PLL制御が正常に動作しない範囲の値)となるか否かを判定し、特定の範囲の値となると、アンロックとして検出する。
当該アンロック検出手段は、振幅情報検出部26内に設けてもよいが、FPGA内に独立して設けてもよく、また、FPGA内の他の制御回路内に設けるようにしてもよい。
【0036】
このように、本周波数シンセサイザでは、AD変換器14への入力レベルが変動した場合、アンロック検出手段が、AD変換器14への入力レベルについてPLL制御が正常に動作しない範囲のものであるか否かを、振幅情報検出部26で得られた振幅情報の値によって判定し、PLL制御が正常に動作しない範囲のものであるときには、アンロック検出する。
【0037】
本周波数シンセサイザにおいて、例えば、振幅情報検出部26で得られた振幅情報の値からフィルタ27に入力される値の最大値又は最小値を監視し、その最大値がPLL制御を正常に動作させない第1の特定値以上となった場合、また、その最小値がPLL制御を正常に動作させない第2の特定値以下となった場合には、アンロックを検出するものである。
【0038】
つまり、AD変換器14の出力信号レベルについて、予め設定した範囲(PLL制御を正常に動作させない範囲)のレベルであるときに、本周波数シンセサイザにおいては、アンロックとして検出し、アラーム検出(アラーム音、アラーム表示を出力)してもよい。
【0039】
本周波数シンセサイザによれば、AD変換器14への入力レベルがPLL制御の正常動作の範囲を超えた場合に、アンロック検出を行い、周波数ずれの発生を防止できる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、A/D変換器への入力レベルが変化したときに、PLL制御が正常に動作しない状況を防止して周波数ずれの発生を防止できる周波数シンセサイザに好適である。
【符号の説明】
【0041】
1…VCO、 2…分周器、 3…基準発振回路、 4…A/D変換器、 5…位相比較器、 6…デジタルフィルタ、 7…D/A変換器、 8…アナログフィルタ、 11…VCO、 12…分周器、 13…LPF、 14…AD変換器、 15…基準クロック発生部、 16…キャリアリムーブ、 17…逆回転ベクトル乗算部、 18…位相の時間差検出部、 19…加算器、 20…位相差の累積加算部、 21…ループフィルタ、 22…DA変換器、 23…電圧出力部、 24…加算器、 25…パラメータ出力部、 26…振幅情報検出部、 27…フィルタ、 28…乗算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される制御電圧に応じて周波数信号を発振する電圧制御発振器と、
該周波数信号を分周する分周器と、
該分周された信号をアナログ/デジタル変換するAD変換器と、
該アナログ/デジタル変換された信号と正弦波信号との位相を比較して位相差を検出し、当該位相差に応じた位相差信号を出力する位相比較部と、
前記位相差信号における高周波成分のノイズを除去するループフィルタと、
該ノイズが除去された位相差信号をデジタル/アナログ変換するDA変換器とを備え、
前記位相比較部は、自動利得制御回路として、前記AD変換器の後段に乗算器と、該乗算器のゲインを制御するための振幅情報を検出する振幅情報検出部とを備え、前記振幅情報の値を監視し、当該値が特定の範囲となった場合に、アンロックを検出するアンロック検出手段と、前記アンロック検出によりアラーム検出を行う手段とを有することを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項2】
アラーム検出として、アラーム音を出力することを特徴とする請求項1記載の周波数シンセサイザ。
【請求項3】
アラーム検出として、アラーム表示を出力することを特徴とする請求項1記載の周波数シンセサイザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−166605(P2010−166605A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65791(P2010−65791)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【分割の表示】特願2008−310980(P2008−310980)の分割
【原出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】