説明

周波数補償回路

【課題】感温部品を用いることなく、温度変動やデバイス自体に個体差がある場合でも、高精度で安定した掃引周波数又は変調信号を得ることが可能となるようにする。
【解決手段】制御電圧発生器から出力された掃引波(又は変調波)の制御電圧を入力し、所定幅の周波数を発生するためのVCO14、このVCO14の出力を入力し、任意に設定した校正周波数に位相ロックした電子同調電圧をVCO14へ帰還させるPLL−IC回路20及びループフィルタ21、上記VCO14の前段で、制御電圧発生器側とPLL回路側とを切り替える切替えスイッチ18、この切替えスイッチ18でPLL回路側に切り替えたとき、上記ループフィルタ21から電子同調電圧Vfを取り出し、制御電圧発生器側に切り替えたとき、取り出した電子同調電圧を上記制御電圧発生器からの出力制御電圧Vaに加算する回路(CPU23,DAC26,加算器28)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は周波数補償回路、特にマイクロ波帯、ミリ波帯を用いて距離計測等を行う各種のレーダ装置や高速変調波を用いた各種の通信機器に採用され、温度変動等がある場合でも、周波数掃引、変調を高速にて実行する周波数補償回路の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、FM−CW方式、パルス変調方式等を採用した各種のレーダ装置や各種の通信機器が用いられており、これらのレーダや通信機器では、ベースバンド帯(IF周波数帯を含む)にて変調が行われ、また所定の周波数(キャリア)に周波数変換が行われ、これらの変調、周波数変換は高速で実行されることが要請される。そして、このようなレーダや通信機器において、所定範囲の周波数を発生させる周波数掃引発振回路が用いられ、この種の周波数掃引発振回路として、下記特許文献1に示す技術が提案されている。
【0003】
図4には、下記特許文献1の掃引発振装置の構成が示されており、この装置は、VCO(電圧制御発振器)1、分周器(÷N)2、基準周波数を発振する水晶発振器3、PD(位相比較器)4、ループフィルタ5及び切替えスイッチ6を用いてPLLを形成すると共に、VCO制御(入力)電圧を記憶するメモリ7、CPU8、上記VCO制御電圧をメモリ7へ記録させるADC(アナログデジタルコンバータ)9、DAC(デジタルアナログコンバータ)10を備え、上記切替えスイッチ6がa端子に接続されているとき、10個の周波数ポイントの電圧で位相ロックをかけると共に、b端子に接続されているとき、上記10個のポイント電圧間に入る40の内挿ポイント電圧を上記DAC10からVCO1へ供給する構成となっている。このような構成によれば、掃引周波数の発生時には、位相ロックが行われず、VCO1が単独で動作するので、高速な掃引が行われる。
【0004】
一方、上記周波数掃引発振回路や変調回路では、温度変動に対する補償を行う必要があり、この温度補償の方法として、一般に、発振器回路定数の一部に、サーミスタ、バリスタ等の感温部品を利用して、直接、アナログ的に発振周波数の温度補償を行うものが知られている。
【特許文献1】特開2005−150856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の感温部品を用いて直接、温度補償を行うものは、周波数補償の精度にバラツキがあり、また量産性がなく、低コスト化も図れないという問題がある。しかも、マイクロ波帯を使用する上記電圧制御発振器では、温度に対する周波数変動が大きく、電波法を順守しつつ、最大限の性能を出すためには、高精度の温度補償が必要であり、感温部品を用いるものでは、十分な精度の補償が困難である。
【0006】
また、周波数掃引発振回路や変調回路では、他の回路と同様に、その個体差(デバイス自体のバラツキ)に対する周波数の補償をする必要もある。近年の24GHz帯(特定小電力バンド)の使用では、バンド幅200MHzにおいて電波法で認められている占有周波数帯域幅が76MHz以下とされているが、上述の温度変動や個体差によって、76MHzの帯域幅を最大限に利用することができないという不都合がある。また、同一バンド内で、複数のチャンネルを選定したい場合等でも、温度変動による影響やデバイスの個体差があれば、各チャンネルにおいて十分な帯域幅が得られないことになる。
【0007】
更に、レーダ装置や通信機器では、上述したように、高速で周波数掃引又は変調を実行することが求められており、温度変動やデバイス(部品)自体の個体差に対する周波数補償をする場合でも、高速性を確保することが要請される。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、感温部品を用いることなく、温度変動やデバイス自体に個体差がある場合でも、高精度で安定した掃引周波数又は変調信号を得ることが可能になると共に、高速な周波数掃引又は変調ができ、また占有周波数帯域幅を最大限に利用することが可能となる周波数補償回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る周波数補償回路は、制御電圧発生器(変調器又は掃引電圧発生器)から出力された掃引波又は変調波の制御電圧を入力し、所定幅の周波数を発生するための電圧制御発振器と、この電圧制御発振器の出力を入力し、任意に設定した校正周波数に位相ロック(同期)した電子同調電圧を該電圧制御発振器へ帰還させるループを形成する位相ロックループ回路と、上記電圧制御発振器に対する上記制御電圧発生器からの入力(制御電圧発生器側)と上記位相ロックループ回路からの帰還入力(PLL回路側)とを切り替える切替え器と、この切替え器によって上記位相ロックループ回路からの帰還入力に切り替えたとき、該位相ロックループ回路から上記電子同調電圧を取り出し、上記切替え器によって上記制御電圧発生器からの入力に切り替えたとき、上記取り出した電子同調電圧を上記制御電圧発生器から出力された制御電圧に加算する補償制御回路と、を備えたことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、上記切替え器によって上記位相ロックループ回路からの帰還入力に切り替えたとき、この切替えに同期して上記電圧制御発振器からの出力を停止することを特徴とする。
【0010】
上記請求項1の構成によれば、電圧制御発振器の前段に設けられた切替え器が必要に応じてPLL回路側に切り替えられ、電圧制御発振器へ与えられる電圧で、校正目的の周波数に位相ロックした電子同調電圧が取り出される。そして、切替え器が制御電圧発生器側へ切り替えられた後、上記の取り出された電子同調電圧が制御電圧発生器から出力された掃引波又は変調波の電圧に加算され、この電圧が電圧制御発振器へ供給される。従って、位相ロックされる校正周波数を、例えば掃引周波数又は変調周波数の最も低い周波数に設定することにより、電圧制御発振器から校正された掃引周波数又は変調周波数を出力することができる。
【0011】
上記請求項2の構成によれば、PLL回路側へ切り替えられているときには、電圧制御発振器から信号が出力されず、不要波の発生・出力が防止される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、PLL回路から取り出された校正周波数の電子同調電圧によって、適宜、掃引周波数又は変調周波数の校正を行うので、感温部品を用いることなく、温度変動やデバイス自体に個体差がある場合でも、高精度で安定した掃引周波数又は変調周波数が得られ、周波数の補償が可能となる。しかも、このPLL回路を用いた校正は、1掃引毎に行うことができるので、急激な環境変化に対応したリアルタイムの処理が可能である。
【0013】
また、PLL回路等の制約を受けず、電圧制御発振器の単独の動作となるので、高速な周波数掃引、変調が可能となり、また周波数の補償が確実に行われるので、占有周波数帯域幅を最大限に利用することもできる。更に、位相同期させる周波数は、1波であるから、複雑なプログラムやROM等のメモリが不要であり、複雑な構成回路を用いることなく、直接、掃引又は変調が可能となるので、低コスト化が図られるという利点がある。
【0014】
請求項2の発明によれば、不要波の発生・出力が防止され、また占有周波数帯域以外の周波数の出力をなくすことができるので、占有周波数帯域幅の最大限の利用に更に貢献できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1には、本発明の実施例に係る周波数補償回路の構成が示されており、この周波数補償回路は、24GHz帯ミリ波レーダ装置の周波数掃引に適用したもので、制御電圧発生器として掃引電圧発生器(又はFM変調器等)が設けられている。この実施例では、この制御電圧発生器の出力制御電圧[掃引波(又は変調波)の電圧]を入力するように配置され、所定幅の周波数を掃引発生(又は変調)するためのVCO(電圧制御発振器)14、このVCO14の出力(例えば3.00625〜3.03125GHzの周波数)を分配する分配器15、出力をオン/オフできるRF増幅器16、このRF増幅器16の出力を例えば8倍に逓倍し、24.05〜24.25GHzの周波数を出力する逓倍器17が設けられており、上記VCO14の前段に、切替えスイッチ18が配置される。そして、上記分配器15を介してVCO14の出力を入力し、位相比較の機能等を有するPLL(位相ロックループ)−IC回路20、このPLL−IC回路20の出力を入力するループフィルタ21が設けられ、このループフィルタ21の出力が上記切替えスイッチ18のb端子に接続されており、上記PLL−IC回路20、ループフィルタ21及びVCO14にて位相ロックループが形成される。
【0016】
また、掃引周波数(又は変調信号)の出力制御をするCPU23[アナログデジタル変換部(AD)を含む]、例えば20MHzの基本周波数を出力する基準発振器24が設けられており、この基準発振器24は上記PLL−IC回路20にも接続される。上記CPU23には、ループフィルタ21からVCO14へ与えられる電子同調電圧を例えば1/3に分圧する分圧器25、この分圧器25から得られた電子同調電圧のデジタルデータをアナログ変換するDAC(デジタルアナログコンバータ)26が接続されており、上記分圧器25の出力は、デジタルデータに変換されてCPU23へ入力され、このCPU23は、分圧器25の出力である電子同調電圧のデータをDAC26へ出力し、周波数校正制御を行う。
【0017】
即ち、CPU23は、校正周波数として、例えば掃引(又は変調)周波数の最下点周波数(FL)を上記PLL−IC回路20へセットし、位相ロックループ動作時にループフィルタ21から出力された電子同調電圧の分圧電圧Vfを取り出し、この電圧Vfを、制御電圧発生器の出力である制御電圧Vaに加算するための制御を行う。また、CPU23は、上記切替えスイッチ18の切替え制御をすると共に、RF増幅器16の出力のオン/オフの切替え制御を実行する。
【0018】
更に、制御電圧発生器から出力された制御電圧を入力し、この制御電圧Vaと上記DAC26から出力された電圧Vfとを加算する加算器28、この加算器28の出力を入力するローパスフィルタ29、このローパスフィルタ29の出力電圧を例えば4倍にするアンプ(掛け算器)30が設けられる。
【0019】
実施例は以上の構成からなり、図2に実施例の動作ステップが示され、図3に動作波形が示されている。図2に示されるように、レーダ装置の電源が投入されると、CPU23は、切替えスイッチ18をb端子のPLL側に接続する(ステップ101)。これによって、VCO14、PLL−IC回路20及びループフィルタ21の位相ロックループが形成され、1波の校正周波数で位相ロック(PLLロック)が行われる(ステップ102)。即ち、実施例では、CPU23からPLL−IC回路20に対し、校正周波数として掃引周波数の最下点周波数(FL)が、位相ロックの周波数(位相比較の基準周波数)としてセットされており、この掃引周波数の最下点周波数がVCO14の出力として得られる。そして、この位相ロックループ動作時に、CPU23は、ループフィルタ21から出力された電圧(例えば、0〜+10V)を分圧器25で1/3に分圧した電圧Vfを読み取る(ステップ103)。
【0020】
次に、CPU23は、切替えスイッチ18をa端子の制御電圧発生器側へ切り替え(ステップ104)、上記の電圧Vf(例えば、0〜+2.5V)のデジタル信号をDAC26へ出力することになり、このDAC26の出力を受けた加算器28にて、上記電圧Vfが制御電圧Vaに加算されることにより、周波数掃引動作が行われる(ステップ105)。
【0021】
図3には、上記切替え器18の切替えに対応した周波数掃引動作と位相ロックループによる校正動作が示されており、図3(B),(C)に示されるように、切替えスイッチ18がa側に接続されているとき(PLLアンロック時)、周波数掃引動作が行われ、切替えスイッチ18がb側に接続されているとき(PLLロック時)、校正動作が行われることになる。図3(C)に示されるように、上記PLLロック時には、位相ロック(同期)されたときの電圧Vfが得られるので、この電圧Vfを制御電圧発生器から出力された掃引波(又は変調波)の制御電圧Vaに加算(足し算)することで、PLLアンロック時に示される掃引周波数が出力される。
【0022】
このような周波数校正によれば、温度の変動、デバイス自体に個体差がある場合でも、高精度で安定した周波数掃引を行うことができ、しかもこの校正は、1掃引毎に行うことができるので、環境条件の急激に変化にも良好に対応することが可能となる。しかも、図3(C)のPLLロック時における電子同調電圧(Vf)は、Tμs、例えば数百μs(300μs以下)の高速な周波数掃引(又は変調)が可能となる。
【0023】
また、実施例では、上記の切替えスイッチ18の切替えに同期して、RF増幅器16のオン/オフが切り替えられ、PLLアンロック時(a側接続時)に、オンに設定されることで、RF信号が出力され、PLLロック時(b側接続時)に、オフに設定されることで、RF信号の出力が停止される。従って、不要波の発生・出力が防止されると共に、占有周波数帯域幅(例えば76MHz)の最大限の利用に貢献できるという利点がある。即ち、図3(C)に示されるように、PLLロック時には、位相同期前に周波数の振れ部200が生じ、この振れ部200を出力する場合は、認められている占有周波数帯域幅内の周波数掃引幅を小さくしなければならない。しかし、実施例では、このPLLロック時のRF信号の出力を停止するので、占有周波数帯域幅(76MHz)を掃引周波数幅として最大限に活用することができる。
【0024】
上記実施例では、制御電圧発生器を掃引電圧発生器として説明したが、掃引電圧発生器の代わりに、FM変調、位相変調、FSK変調(周波数偏移変調)等の変調波を出力する変調器を用いることで、各種の変調信号の発生に適用することができる。また、位相ロックされる校正周波数は、CPU23からの周波数セットにより任意に設定することができ、如何なる周波数に対しても周波数補償が可能になるし、複数の周波数に対して校正を行うこともできる。例えば、複数のチャンネル(周波数帯)が設定されている場合に、各チャンネルにおける校正周波数をCPUで設定し、各チャンネルの周波数補償を行うこともできる。
【0025】
更に、本発明では、図3で説明したように、周波数補償のための校正と周波数掃引又は変調波を用いた信号の発生とが時間的に分離されるので、製品の種類やシステムによって、周波数補償を行う時間を任意に設定することが可能になる。例えば、周波数補償のための校正を、電源投入時のみ、或いは一定時間毎に行ったりする等、自由に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例に係る周波数補償回路をレーダ装置の周波数掃引に適用した場合の構成を示す回路ブロック図である。
【図2】実施例の周波数補償の動作を示すフローチャートである。
【図3】実施例の周波数補償の動作を波形図である。
【図4】従来の周波数掃引発振回路の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0027】
1,14…VCO(電圧制御発振器)
5,21…ループフィルタ、 6,18…切替えスイッチ、
8,23…CPU、
9,26…DAC(デジタルアナログコンバータ)、
15…分配器、 16…RF増幅器、
20…PLL−IC回路、 25…分圧器、
28…加算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御電圧発生器から出力された掃引波又は変調波の制御電圧を入力し、所定幅の周波数を発生するための電圧制御発振器と、
この電圧制御発振器の出力を入力し、任意に設定した校正周波数に位相ロックした電子同調電圧を該電圧制御発振器へ帰還させるループを形成する位相ロックループ回路と、
上記電圧制御発振器に対する上記制御電圧発生器からの入力と上記位相ロックループ回路からの帰還入力とを切り替える切替え器と、
この切替え器によって上記位相ロックループ回路からの帰還入力に切り替えたとき、該位相ロックループ回路から上記電子同調電圧を取り出し、上記切替え器によって上記制御電圧発生器からの入力に切り替えたとき、上記取り出した電子同調電圧を上記制御電圧発生器から出力された制御電圧に加算する補償制御回路と、を備えたことを特徴とする周波数補償回路。
【請求項2】
上記切替え器によって上記位相ロックループ回路からの帰還入力に切り替えたとき、この切替えに同期して上記電圧制御発振器からの出力を停止することを特徴とする請求項1記載の周波数補償回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−188854(P2009−188854A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28409(P2008−28409)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】