説明

回路材料、回路およびこれらの作製方法

回路材料(110)は、導電層(114)と、この導電層上に配置されている誘電体基板(112)とを含む。この誘電体基板は、全誘電体基板組成物に基づき、繊維ウェブ(120)を約10〜約60vol%、硬化樹脂系(118)を約40〜約90vol%含む。この樹脂系は、樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた重量に基づき、シンジオタクチックポリブタジエンエラストマを最大100vol%、微粒子充填剤(116)を0〜40vol%含む。このような回路材料は、タックが改善されており、優れた機械的および電気的特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路材料、回路および多層回路の形成に有用なポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書中で使用する回路材料は、回路および多層回路の作製で使用される物品であり、回路積層板(circuit laminates)、接着層(bond plies)、樹脂コーティングされた導電層およびカバー膜を含む。回路積層板とは、誘電体材料から形成される誘電体基板に1つまたは2つの導電層が固定された回路材料を指す。積層板の導電層を、たとえば、エッチングによってパターニングすることにより、回路がもたらされる。多層回路は複数の導電層を含み、これら導電層のうち少なくとも1層が導電配線パターンを含む。通常、多層回路は、熱および/または圧力を用いて適切に位置合わせした接着層および場合によっては樹脂コーティングされた導電層を用いて1つ以上の回路を互いに積層することによって形成される。接着層は、回路間および/または回路と導電層との間に、あるいは2つの導電層間に接着性をもたらすために使用される。接着層により回路に接着させた導電層の代わりに、多層回路は、回路の外層に直接接着させた、樹脂コーティングされた導電層を含むことができる。このような多層構造では、積層後に、公知のホール形成およびめっき技法を使用して、導電層間に有用な電気経路を生成することができる。
【0003】
回路材料を形成するために使用される誘電体材料は、熱硬化性または熱可塑性ポリマを含むことができる。誘電体基板、すなわち、回路積層板中の誘電体材料は通常、2種類、すなわちフレキシブルおよびリジッドに分類される。フレキシブル誘電体基板は一般に、いわゆるリジッド誘電体基板よりも薄く、またより曲げやすい傾向にあり、繊維ウェブあるいは短いまたは長い繊維または充填剤等他の形の強化材を通常含む。したがって、回路基板で使用される誘電体基板は、ポリママトリックスならびに無機微粒子および/または繊維充填剤を含む最も一般的な複合材料である。
【0004】
ポリブタジエン樹脂、ポリイソプレン樹脂およびこれらの組合せは、特に有用な誘電体基板用熱硬化性組成物であり、同一出願人によるLandiらの米国特許第5,233,568号、St.Lawrenceらの米国特許第5,571,609号、St.Lawrenceの米国特許第6,048,807号およびLandiらの米国特許第6,586,533号に記載されている。これらの米国特許はすべて、それら全体を本願に引用して援用する。米国特許第5,233,568号は、まずある形状に成形し、次いで約250℃を超える温度で硬化させる成形可能な熱硬化性組成物を開示している。米国特許第5,571,609号は、不飽和ブタジエンまたはイソプレン含有ポリマを25〜50体積パーセント(vol%)の量で、織布ガラス繊維(woven glass fabric)を10〜40vol%の量で、また微粒子充填剤を5〜60vol%の量で含む、ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂を含む熱硬化性樹脂系を開示している。米国特許第6,586,533号は、回路基板基材用の樹脂としての有用な特性が実現されるように熱硬化させることができる幅広いブタジエンまたはイソプレンのポリマまたはコポリマを開示している。この熱硬化は、銅の接着強度を失うことなく高温(たとえば、約250℃を超える)で行われる。米国特許第6,586,533号には、充填剤からの液体樹脂の分離および流出が起こらないように、充填剤を多量に使用する場合には高分子量ブタジエンまたはイソプレンポリマ類が有用であることが教示されている。高分子量シンジオタクチックポリブタジエンの使用も米国特許第6,586,533号に開示されているが、シンジオタクチックポリブタジエンを用いた例は、シンジオタクチックポリブタジエンを多量のシリカ充填剤、すなわち、樹脂と充填剤とを合わせた重量に基づき約80wt%のシリカ充填剤と組み合わせて使用する例のみである(表2)。
【0005】
様々な理由により回路基板組成物に微粒子充填剤を添加することが知られている。Kohmの米国特許第5,264,065号には、ガラス繊維強化熱硬化性樹脂におけるZ軸方向の熱膨張率を制御するために不活性充填剤が使用されるプリント配線板用のベース材料が記載されている。この特許には、ガラス繊維強化材を45〜65重量パーセント(wt%)、またポリマ100重量部当たり不活性充填剤を30〜100重量部使用することが開示されている。Grantらの米国特許第4,997,702号は、やはり無機充填剤または繊維を全複合材料の約20〜70wt%の量で含むエポキシ樹脂系を有する回路積層板を開示している。これらの繊維はガラス繊維とポリマ繊維を共に含み、充填剤は粘土または鉱物(たとえば、シリカ)の微粒子充填剤を含む。Prattらの米国特許第4,241,132号は、ポリブタジエンやポリマ充填剤、たとえば繊維状ポリプロピレン等のポリママトリックスを含む絶縁基板を開示している。すべての場合において、等方性複合材料を得るために樹脂マトリックスの誘電率または散逸率(dissipation factor)を繊維強化材と適合させている。Landiの米国特許第6,586,533号は、取り扱うのに十分な程度にタックのないプリプレグを作製するために、樹脂、充填剤および織布ガラス繊維強化材の全体積に基づき、少なくとも40体積%の微粒子充填剤(シリカ)が必要となることを開示している。
【0006】
上記複合材料はその意図された目的に適しているが、これらの複合材料には、そのタック(tack)を低くするために多量の充填剤が必要となる。これら多量の充填剤は、いくつかの重要な用途において望ましくない結果をもたらす。これらの結果の1つは、セラミック充填剤固有の摩耗性に関連し、回路基板の作製に日常的に使用されるドリルビットの望ましくない摩耗を引き起こす。ドリルビットは、回路基板組成物中のシリカ等のセラミック充填剤のために寿命が著しく低下することが知られている。ドリル寿命のこの大きな損失は、セラミックが充填された樹脂系の使用における深刻な経済的不利益である。この充填剤の望ましくないことが多い別の結果は、樹脂に比べて充填剤の誘電率がより高いことに関連している。ガラス繊維上のコーティングの厚さが等しいと、ポリマ/充填剤コーティング層に含まれる充填剤の量に比例して誘電率が増加する。したがって、米国特許第5,571,609号および米国特許第6,048,807号に記載されている材料の利点を有するが、微粒子充填剤は含まないプリント回路基板材料の必要性が当技術分野で認められる。
【0007】
充填剤がない場合には、タックを低減するために他の対策が使用されてきた。欧州特許第202488号は、タックおよび1,2−ポリブタジエン樹脂の可燃性を低減するために高分子量の臭素含有プレポリマが使用される、ポリブタジエンをベースとする積層板を開示している。同様に、日本国特許第04−258658号では、タックを制御するために、高分子量のハロゲン含有ビスマレイミドを粘着性ポリブタジエン樹脂に添加する。充填剤の使用については何も言及されておらず、得られた積層板は比較的高い散逸率を有する。N.Sawatriらによる「A New Flame Retardant 1,2−Polybutadiene Laminate」という名称の論文、IEEE Transactions on Electrical Insulation、Vol.EI−18、No.2、1983年4月は、非常に高分子量のポリブタジエンを高い百分率で使用すること、および微量成分として低分子量の改質ポリブタジエンを使用することを開示しているが、いかなるタイプの充填剤の使用についても言及していない。R.E.Drakeによる「1,2 Polybutadiene−High Performance Resins for the Electrical Industry」という名称の別の論文、ANTEC’84、pp.730−733(1984)は、一般に積層板用の従来のポリブタジエン樹脂を開示しており、具体的には、ポリブタジエンと反応する反応性モノマ類の使用を開示している。英国特許出願第2172892号は一般に、不飽和二重結合を有するスチレン含有および熱可塑性コポリマとポリブタジエンとから構成される積層板を開示している。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,233,568号明細書
【特許文献2】米国特許第5,571,609号明細書
【特許文献3】米国特許第6,048,807号明細書
【特許文献4】米国特許第6,586,533号明細書
【特許文献5】米国特許第5,264,065号明細書
【特許文献6】米国特許第4,997,702号明細書
【特許文献7】米国特許第4,241,132号明細書
【特許文献8】欧州特許第202488号明細書
【特許文献9】特願平4−258658号公報
【特許文献10】英国特許出願公開第2172892号明細書
【非特許文献1】N.Sawatriら、「A New Flame Retardant 1,2−Polybutadiene Laminate」、IEEE Transactions on Electrical Insulation、Vol.EI−18、No.2、1983年4月
【非特許文献2】R.E.Drake、「1,2 Polybutadiene−High Performance Resins for the Electrical Industry」、ANTEC’84、pp.730−733(1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記材料のいくつかは、その意図された目的に適しているが、それでもなお、取扱適性が改善された、硬化前のタックが特に改善された誘電体材料の必要性が当技術分野では継続して残っている。この目標を達成することは困難となっている。というのは、加工時のタックが低い配合物が、硬化後にあまり望ましくない特性を有することもあるからである。したがって、他の特性の大幅な劣化なしに取扱適性、特にタックが改善された回路材料用誘電体組成物の必要性が当技術分野では残っている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
先行技術の上述の、また他の欠点および欠陥を、導電層と、この導電層上に配置されている誘電体基板とを含む回路材料によって回避するまたは軽減する。この誘電体基板は、誘電体基板の組成物の全体積に基づき、繊維ウェブ約10〜約60vol%と、樹脂系の体積の最大100vol%の量でシンジオタクチックポリブタジエンエラストマを含む樹脂系および、微粒子充填剤と樹脂系とを合わせた体積に基づき0〜40vol%の微粒子充填剤から形成した硬化組成物約40〜約90vol%とを含む。任意選択で、この樹脂系はさらに、それぞれ樹脂系の全体積または全重量に基づき、ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂を最大約90wt%、低分子量エチレンプロピレン(EPM)またはエチレンプロピレンジエンターポリマ(EPDM)エラストマを最大約20wt%、ポリブタジエン樹脂との架橋に関与することができる熱可塑性ポリマを最大約60wt%、またフリーラジカル硬化剤を有効量含むことができる。
【0011】
別の実施形態では、樹脂系が、それぞれ樹脂系の全重量に基づき、シンジオタクチックポリブタジエンエラストマを約5〜約90wt%、液体ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂を約10〜約95wt%含む。
【0012】
さらに別の実施形態では、誘電体基板が微粒子充填剤を、樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた体積に基づき0〜4vol%含む。
【0013】
さらに別の実施形態では、繊維ウェブと、微粒子充填剤と、それぞれ樹脂系の全重量に基づき、シンジオタクチックポリブタジエンエラストマを約5〜約90wt%、また液体ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂を約10〜約95wt%含む樹脂系とから誘電体基板を形成し、この微粒子充填剤は、樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた体積に基づき、0〜約4vol%の量で存在する。
【0014】
上記基板は、他の特性の大幅な劣化なしに、たとえば誘電率および散逸率の上昇ならびに/または機械的特性の低下なしに、改善された取扱適性を加工時に有する。一実施形態では、この組成物は微粒子充填剤を含有しない。
【0015】
上記回路材料の作製方法も提供される。この方法は、導電層上に上記組成物を配置することを含む。
【0016】
本発明の上記特徴および利点、ならびに他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、図面および添付の特許請求の範囲から当業者には容易に認識され理解されよう。
【0017】
ここで例示的な図面を参照すると、図中で同様の要素は同様に番号付けされている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
液体1,2−ポリブタジエン樹脂または1,2−ポリイソプレン樹脂のすべてまたは一部をシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンエラストマに置換することによって、樹脂系を用いて優れた特性を有する回路基板材料を製造することができることが、本発明の発明者により予想外に見出された。このような組成物は、タックが著しく低減されていると共に、硬化状態で優れた電気的特性および機械的特性を有する。樹脂系のタックが低減されることにより、低タックに必要な充填剤の量の実質的な削減が可能となり、それに付随して誘電率が低下し、ドリル加工性(drillability)が改善される。一実施形態では、0〜5vol%未満の充填剤しか含まない基板を、好結果と共に得ることができる。
【0019】
回路基板材料で使用する樹脂系は通常、熱硬化性シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンエラストマと、任意選択で、熱硬化性ポリブタジエンまたはポリイソプレン樹脂、好ましくは液体の熱硬化性ポリブタジエンまたはポリイソプレン樹脂と、任意選択で、硬化中にシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンならびにポリブタジエンまたはポリイソプレン樹脂との架橋に関与することができる熱可塑性ポリマ、たとえば、不飽和のブタジエンまたはイソプレン含有ポリマと、任意選択で、エチレンプロピレン(EPM)またはエチレンプロピレンジエンターポリマ(EPDM)を含む。他のポリマまたはモノマ成分が存在していてもよい。
【0020】
この樹脂系は、まずシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンエラストマを含む。このエラストマは室温で結晶性を有するべきであるが、キシレン等実用的な加工溶媒になんとか可溶であるといったことはあまりない。このエラストマは、低分子量のものであっても高分子量のものであってもよく、たとえば、約5000〜約200,000の重量平均分子量のものでよく、実際の選択は市販されているかどうかによる。結晶性のレベルは、加工時、特に繊維ウェブの飽和時に溶媒への素早い溶解性が提供されるように好ましくは選択される。一実施形態では、このシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは約15〜約30%の結晶性を有する。シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、70%を超える、具体的には80%を超える、より具体的には90%を超える1,2付加を有することもできる。適切な高分子量シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、JSR810の商品名でJapan Synthetic Erastmerから入手可能である。
【0021】
シンジオタクチックポリブタジエンは、樹脂系の全重量に基づき約5〜約100wt%、具体的には約10〜約90wt%、より具体的には約10〜約60wt%、さらにより具体的には約30〜約45wt%の量で樹脂系中に存在する。
【0022】
シンジオタクチックでない熱硬化性ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂が、樹脂系中に存在していてもよい。本明細書中で使用する用語「熱硬化性ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂」には、ブタジエン、イソプレンまたはこれらの混合物から得られるユニットを含むホモポリマ類およびコポリマ類が含まれる。他の共重合可能なモノマ類から得られるユニット、たとえば、ランダムに共重合したまたはグラフトの形のユニットが樹脂中に存在していてもよい。例示的な共重合可能なモノマ類には、ビニル芳香族モノマ類、たとえば、スチレン、3−メチルスチレン、3,5−ジエチルスチレン、4−n−プロピルスチレン、アルファ−メチルスチレン、アルファ−メチルビニルトルエン、パラ−ヒドロキシスチレン、パラ−メトキシスチレン、アルファ−クロロスチレン、アルファ−ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラ−クロロスチレン等置換および非置換モノビニル芳香族モノマ類や、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン等置換および非置換ジビニル芳香族モノマ類が含まれるが、これらに限定されない。前述の共重合可能なモノマ類のうち少なくとも1種を含む組合せを使用することもできる。例示的な熱硬化性ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂には、ブタジエンホモポリマ類、イソプレンホモポリマ類、ブタジエン−スチレン等のブタジエン−ビニル芳香族コポリマ類、イソプレン−スチレンコポリマ類等のイソプレン−ビニル芳香族コポリマ類等が含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
熱硬化性ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂は、重合の後改質することもでき、たとえば、これらの樹脂は水酸基末端を有する樹脂、メタクリレート末端を有する樹脂、カルボキシレート末端を有する樹脂でよい。エポキシ、無水マレイン酸またはウレタンで改質したブタジエンまたはイソプレン樹脂等、反応後の樹脂を使用することができる。これらの樹脂を、たとえば、ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族化合物によって架橋させることもでき、たとえばポリブタジエン−スチレンをジビニルベンゼンと架橋させる。適切な樹脂は、その製造者、たとえば、Nippon SodaおよびSartomer Inc.によって広く「ポリブタジエン類」と分類される。樹脂の混合物、たとえば、ポリブタジエンホモポリマとポリ(ブタジエン−イソプレン)コポリマとの混合物等を使用することもできる。
【0024】
熱硬化性ポリブタジエンまたはポリイソプレン樹脂は、室温で液体でも固体でもよいが、加工中、組成物の粘度を扱いやすいレベルに維持するためには、液体樹脂が好ましい。適切な液体樹脂は、約5000を超える数平均分子量を有することができるが、通常約5000未満の(最も好ましくは約1,000〜約3,000)の数平均分子量を有する。少なくとも90wt%の1,2付加を有するポリブタジエンまたはポリイソプレンが好ましい。というのは、架橋に利用可能なペンダントビニル基の数が多いため、硬化時に最も大きい架橋密度を示すからである。
【0025】
ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂は、樹脂系の全重量に対して最大約95wt%、具体的には最大約60wt%、より具体的には約10〜約55wt%、さらにより具体的には約15〜約45wt%の量で樹脂系中に存在する。
【0026】
熱硬化性ポリブタジエンまたはポリイソプレン樹脂と共に硬化することができる他のポリマ類を、特定の特性または加工の改変のために加えることができる。たとえば、電気基板材料の絶縁強度(dielectric strength)および機械的特性の長期にわたる安定性を向上させるために、分子量がより低いエチレンプロピレンエラストマを樹脂系で使用することができる。本明細書中で使用するエチレンプロピレンエラストマは、コポリマ、ターポリマ、あるいは主にエチレンおよびプロピレンを含む他のポリマである。エチレンプロピレンエラストマ類は、EPMコポリマ類(すなわち、エチレンおよびプロピレンモノマのコポリマ類)あるいはEPDMターポリマ類(すなわち、エチレン、プロピレンおよびジエンモノマのターポリマ類)としてさらに分類することができる。エチレンプロピレンジエンターポリマゴムは、特に、飽和主鎖を有するが、架橋を容易にするための主鎖の不飽和が利用可能である。ジエンがジシクロペンタジエンである液体エチレンプロピレンジエンターポリマゴムが好ましい。
【0027】
エチレンプロピレンゴムの有用な分子量は、10,000未満の粘度平均分子量である。適切なエチレンプロピレンゴムには、Trilene CP80の商品名でUniroyalから入手可能な粘度平均分子量(MV)が約7,200であるエチレンプロピレンゴム、Trilene 65の商品名でUniroyalから入手可能な分子量が約7,000である液体エチレンプロピレンジシクロペンタジエンターポリマゴム、およびTrilene 67の商品名でUniroyalから入手可能な分子量が約7500である液体エチレンプロピレンエチリデンノルボルネンターポリマが含まれる。
【0028】
エチレンプロピレンゴムは、基板材料の特性、特に絶縁強度および機械的特性の長期にわたる安定性を維持するのに有効な量で好ましくは存在する。通常、このような量は、樹脂系の全重量に対して最大約20wt%、より具体的には約4〜約20wt%、さらにより具体的には約6〜約12wt%である。
【0029】
別のタイプの共硬化可能なポリマは、不飽和のポリブタジエンまたはポリイソプレン含有エラストマである。この成分は、主に1,3−付加ブタジエンまたはイソプレンと、エチレン性不飽和モノマ、たとえば、スチレンやアルファ−メチルスチレン等のビニル芳香族化合物、メチルメタクリレート等のアクリレートまたはメタクリレート、あるいはアクリロニトリルとのランダムコポリマまたはブロックコポリマでよい。このエラストマは、好ましくは、ポリブタジエンまたはポリイソプレンブロックを有する線状またはグラフト型ブロックコポリマと、好ましくはスチレンやアルファ−メチルスチレン等のモノビニル芳香族モノマから得られる熱可塑性ブロックとを含む固体の熱可塑性エラストマである。このタイプの適切なブロックコポリマ類には、スチレン−ブタジエン−スチレントリブリックコポリマ類、たとえば、テキサス州ヒューストンのDexco PolymersからVector 8508Mの商品名で入手可能なトリブリックコポリマ、テキサス州ヒューストンのEnichem Elastomers AmericaからSol−T−6302の商品名で入手可能なトリブリックコポリマ、テキサス州ダラスのFina Oil and Chemical CompanyからFinaprene 401の商品名で入手可能なトリブリックコポリマ、スチレン−ブタジエンジブロックコポリマ類、ならびにスチレンおよびブタジエンを含有するトリブロックとジブロックとの混合コポリマ類、たとえば、Shell Chemical CorporationからKraton D1118Xの商品名で入手可能な混合コポリマが含まれる。Kraton D1118Xは、スチレンを30vol%含有するジブロック/トリブロック混合スチレンブタジエン含有コポリマである。
【0030】
任意選択のポリブタジエンまたはポリイソプレン含有エラストマは、ポリブタジエンまたはポリイソプレンブロックが水素化されていることを除いては上記コポリマと類似の第2のブロックコポリマをさらに含むことができ、それによりポリエチレンブロック(ポリブタジエンの場合)またはエチレン−プロピレンコポリマブロック(ポリイソプレンの場合)が形成される。上記コポリマと併せて使用する場合、より靱性の優れた材料を製造することができる。このタイプの例示的な第2のブロックコポリマは、Kraton GX1855(Kraton Polymers.から市販されている)であり、スチレン−ハイ(high)1,2−ブタジエン−スチレンブロックコポリマとスチレン−(エチレン−プロピレン)−スチレンブロックコポリマとの混合物として製造者には称される。
【0031】
通常、この不飽和のポリブタジエンまたはポリイソプレン含有エラストマ成分は、樹脂系の全重量に対して約10〜約60wt%、より具体的には約20〜約50wt%、さらにより具体的には約25〜約40wt%の量で樹脂系中に存在する。
【0032】
特定の特性または加工の改変のために添加することができるさらに他の共硬化可能なポリマ類には、ポリエチレンやエチレンオキシドコポリマ等エチレンのホモポリマ類またはコポリマ類、天然ゴム、ポリジシクロペンタジエン等のノルボルネンポリマ類、水素化スチレン−イソプレン−スチレンコポリマ類およびブタジエン−アクリロニトリルコポリマ類、不飽和ポリエステル類等が含まれるが、これらに限定されない。これらのコポリマ類のレベルは通常、全樹脂系の50vol%未満である。
【0033】
特定の特性または加工の改変のために、たとえば、硬化後の樹脂系の架橋密度を増大させるために、フリーラジカル硬化性モノマを添加することもできる。適切な架橋剤となることができる例示的なモノマ類には、たとえば、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、多官能性アクリレートモノマ類(たとえば、Arco Specialty Chemicals Co.から入手可能なSartomer樹脂)等ジ、トリまたはそれ以上のエチレン性不飽和モノマ類、あるいはこれらの組合せが含まれ、これらはすべて市販されている。この架橋剤は、使用する場合、樹脂の全重量に基づき最大約20vol%の量で樹脂系に存在する。
【0034】
これら樹脂系は、当技術分野で公知の他の添加剤、たとえば、酸化防止剤、難燃剤等を含むことができる。適切な難燃剤には、たとえば、約20phr(樹脂系100重量部当たりの重量部)〜約60phrの量のエチレンビステトラブロモフタルイミド等の臭素含有難燃剤が含まれる。
【0035】
硬化温度がより低いと多くの難燃剤の分解の防止を助けるため、たとえば難燃剤が存在する場合には、硬化開始剤を使用することもできる。250℃を超える(硬化剤がなくてもブタジエンまたはイソプレン樹脂を硬化させるには十分な)高い硬化温度を使用する場合であっても、それでもなお硬化開始剤が存在していてもよい。適切な硬化開始剤は、有機過酸化物、たとえば過酸化ジクミル、t−ブチルパーオキシパーベンゾエート、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンおよびt−ブチルパーオキシヘキシン−3等のフリーラジカル硬化開始剤である。2,3−ジメチル−2,3−ジフェニル−ブタン等の非過酸化物フリーラジカル硬化開始剤を使用することもできる。硬化剤は、約1〜約10phr、より具体的には約1.5〜約6phrの量で提供することができる。
【0036】
誘電体基板の作製に特に有用で、特に、少量の微粒子充填剤を使用する場合であってもタックのないプリプレグを生成することになる前述の樹脂系の多くの異なる組合せがある。
【0037】
たとえば、液体熱硬化性ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレンの使用が場合によっては好ましいことがわかっている。というのは、液体樹脂は組成物の加工性を大幅に増大させるからである。このような樹脂系は、樹脂系の全重量に基づき、シンジオタクチックポリブタジエンエラストマを約5〜約90wt%、具体的には約10〜約60wt%、さらにより具体的には約30〜約45wt%、液体ポリブタジエンまたはポリイソプレン樹脂を約10〜約95wt%、具体的には約15〜約55wt%、さらにより具体的には約20〜約45wt%、任意選択で、低分子量エチレンプロピレン(EPM)またはエチレンプロピレンジエンターポリマ(EPDM)エラストマを最大約20wt%、任意選択で、ポリブタジエン樹脂との架橋に関与することができる熱可塑性ポリマを最大約50wt%、任意選択で、フリーラジカル硬化剤を有効量含む。別の実施形態では、樹脂系が本質的に前述の樹脂成分からなる。さらに別の実施形態では、樹脂系が前述の樹脂成分からなる。
【0038】
さらに別の実施形態では、樹脂系が本質的に、樹脂系の全重量に基づき、シンジオタクチックポリブタジエンエラストマを約5〜約100wt%、具体的には約10〜約60wt%、さらにより具体的には約30〜約45wt%と、任意選択で、ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂を最大約60wt%、具体的には約10〜約55wt%、さらにより具体的には約15〜約45wt%と、任意選択で、低分子量エチレンプロピレン(EPM)またはエチレンプロピレンジエンターポリマ(EPDM)エラストマを最大約20wt%と、任意選択で、ポリブタジエン樹脂との架橋に関与することができる熱可塑性ポリマを最大約50wt%と、任意選択で、有効量のフリーラジカル硬化剤とからなる。さらに別の実施形態では、樹脂系が上記樹脂成分からなる。
【0039】
上記樹脂系のいずれか1つにより、これまで可能と考えられていた充填剤の量よりも少ない量の充填剤を使用することが可能となる。たとえば、米国特許第6,586,533号は、取り扱うのに十分な程度にタックのないプリプレグを作製するためには40体積%のシリカ(積層板の全体積に基づく)が必要となることを教示している。それに対して、本発明の発明者は、樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた体積に基づき40vol%未満の微粒子充填剤を使用した場合に、タックのないプリプレグを得ることができることを見出した。この結果は予想外であり、作製上の利点を、特に積層板および回路のドリル加工時にもたらす。
【0040】
存在する場合、微粒子充填剤材料(最大40vol%の量)は、導電金属層の熱膨張率により近くまで適合する熱膨張率を誘電体基板に提供するように選択される。適切な充填剤の例には、二酸化チタン(ルチルおよびアナターゼ)、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、溶融非晶質シリカを含むシリカ(粒子および中空球)、コランダム、珪灰石、アラミド繊維(たとえば、Kevlar)、ガラス繊維、BaTi20、ガラス球、石英、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ベリリア、アルミナ、マグネシア、および前述の微粒子充填剤のうち少なくとも1種を含む混合物が含まれる。特に好ましい充填剤は、ルチル型二酸化チタンおよび非晶質シリカである。というのは、これらの充填剤はそれぞれ高誘電率および低誘電率を有し、それにより、組成物中のこれら2つの充填剤のそれぞれの量を調整することによって、硬化した最終製品において実現可能な低散逸率と組み合わせた広範囲にわたる誘電率が可能となるからである。充填剤と樹脂との間の接着力を向上させるために、カップリング剤、たとえば、シラン類、チタン酸塩類等を使用することができる。
【0041】
充填剤の体積パーセント(樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた体積に基づく)は、最大40vol%でよいが、最大30vol%であることが好ましく、最大20vol%であることが特に好ましい。
【0042】
さらに予想外なことに、シンジオタクチックポリブタジエンを使用すると、大量の微粒子充填剤がなくても低タック組成物を生成することができることが本発明の発明者により見出された。したがって、特に好ましい一実施形態では、たとえば、樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた体積に基づき0〜約4vol%、より具体的には0〜約2vol%の、ほんの少しの微粒子充填剤しか使用しない、あるいは微粒子充填剤を全く使用しない。この実施形態では、高表面積充填剤、たとえば、約20m/gを超える表面積を有するシリカ充填剤が特に有用である。
【0043】
この樹脂系(および任意の微粒子充填剤)を使用して、繊維ウェブ強化材をコーティングするまたは充填することができる。本明細書中で使用する繊維ウェブ(fibrous web)は、回路基板材料およびその材料から形成される回路の作製に使用する加工条件に耐えることができる任意の繊維織布または繊維不織布群を含む。この繊維ウェブは、適切な繊維、たとえば、ガラス(E、SおよびDガラス)または高温ポリマ繊維(たとえば、Eastman Kodak製のKODELポリエステル)あるいはPhillips Petroleum製のポリフェニレンスルフィド繊維の熱的に安定なウェブを含む。このような熱的に安定な繊維強化材により、所望の構造的剛性を有する複合材料、および/または積層板の面内の硬化に伴う収縮を制御する手段が提供される。繊維ウェブの使用により、機械的強度が比較的高い誘電体基板をもたらすことができる。
【0044】
適切な繊維ウェブの例を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
繊維ウェブは、誘電体基板(すなわち、樹脂系、繊維ウェブおよび任意の微粒子充填剤を合わせた体積)の10〜約60vol%の量で存在することができるが、約10〜40vol%であることが好ましく、全誘電体基板の約10〜約25vol%であることが特に好ましい。
【0047】
上述した誘電体基板を含む回路材料を作製するための適切な方法は、一般に米国特許第6,048,807号(硬化剤の有無にかかわらず高温で硬化させる系について)に、また米国特許第5,571,609号(硬化剤を用いて低温で硬化させる系について)に記載されている。
【0048】
したがって、ポリマ成分と、使用する場合には硬化剤、1つまたは複数の添加剤、微粒子充填剤等他の成分とを、溶解または分散して均一なスラリーになるまで溶媒中に均質に混合する。微粒子充填剤をより効率的に使用するために、別のステップにおいてカップリング剤(好ましくはシラン)により前処理することができる。次いで、この混合物を、当技術分野で公知の方法、たとえば、押出し成形(extrusion)または鋳込み成形(casting)によって被膜またはシートに成形することができる。あるいは、この混合物を、たとえば共押出し成形(co−extrusion)、積層または粉末被覆の後、加圧下である温度まで加熱することによって繊維ウェブと合わせて、ガラスクロスの繊維間空間に樹脂系が流れ込むことを可能にする。一実施形態では、繊維ウェブを溶液またはスラリーで所望の厚さまで飽和させ、次いで溶媒を取り除いてプリプレグを形成する。1つ以上の層のプリプレグと、少なくとも1層の導電金属でスタックアップ(stack up)を構成する。
【0049】
有用な導電金属には、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、亜鉛、鉄、遷移金属、および前述の金属のうち少なくとも1種を含む合金が含まれるが、銅が好ましい。導電金属層の厚さに特に制限はなく、導電層の形状、寸法または表面テクスチャについても制限はない。しかしながら好ましくは、導電層は約3マイクロメートル〜約200マイクロメートルの厚さを有し、約9マイクロメートル〜約180マイクロメートルが特に好ましい。2つ以上の導電金属層が存在する場合、2つの層の厚さは同じであっても異なっていてもよい。
【0050】
銅導電層が好ましい。この銅導電層は、表面積を増大させるために処理する、導電層の酸化を防止する(すなわち防汚)ために安定剤で処理する、または断熱層を形成するために処理することができる。亜鉛または亜鉛合金断熱層で処理した銅導電層は、粗さが大きくても小さくても特に有用で、任意選択でさらに防汚層を含むことができる。このような銅導電層は、たとえば、Oak−Mitsuiから「TOB」の商品名で、Circuit Foil Luxembourgから「TWS」の商品名で、またGould Electronicsから「JTCS」の商品名で入手可能である。他の適切な銅導電層は、Circuit Foil Luxembourgから「HFI」の商品名で、Co−Tech Copper Foil Companyから「TAX」の商品名で、Chang Chun Petrochemical Companyから「PINK」の商品名で、入手可能である。
【0051】
次いでこのスタックアップを、積層または積層の組合せならびにオーブンベーキングにより緻密化し硬化させた。たとえば、このスタックをプレス内に設置する。このプレスを排気して真空を形成しても排気しなくてもよい。温度は通常、約2〜約10℃/分の速度で上昇させる。たとえば約2〜約3メガパスカル(MPa)の圧力を、積層サイクル中いつでもかけることができる。このスタックを、所望の温度および圧力で、層が接着するのに十分な時間、約5〜約45分間保持する。次いで、得られた物品を、所望の圧力を維持しながら冷却する。この物品を、温度が約100℃以下になったときプレスから取り去り、使用するまで貯蔵することができる。この積層サイクルは、硬化が熱硬化のみによってもたらされるのか、フリーラジカル硬化剤によってもたらされるのか、あるいはこれらの2つの硬化機構の組合せによってもたらされるのかに依存する。フリーラジカル硬化では、通常約330〜約475F(165〜245℃)でスタックを硬化させる。熱硬化を使用する場合、約575〜約617F(300〜325℃)の温度を使用することができる。
【0052】
本発明の樹脂系を含む例示的な回路材料を図1に示す。図1では、誘電体基板112上に導電層114を配置して回路材料110を形成する。本明細書中で、また開示を通して使用する「配置する(disposed)」とは、層が部分的にまたは層全体が互いを覆っていることを意味する。誘電体基板112は、上述のような樹脂系118と、微粒子充填剤116と、織布繊維ウェブ(woven fibrous web)120とを含む。あるいは、織布繊維ウェブ120を不織布繊維群(non−woven fibrous assemblage)(図示せず)で置き換えることもできる。誘電体基板112と導電層114との間に接着剤を配置することもできる(図示せず)。
【0053】
第2の例示的な実施形態を図2に示す。図2では、ダブルクラッド回路材料200が、2つの導電層214、222間に配置されている誘電体基板212を含む。誘電体基板212は、本発明の樹脂系216および織布繊維ウェブ218を含む。あるいは、織布ウェブ218を不織布群(図示せず)で置き換えることもできる。ダブルクラッド回路を形成するために、導電層214、222の一方または両方は回路(図示せず)の形であってもよい。基板と1つまたは複数の導電層との間の接着力を増大させるために、基板212の片側または両側に接着剤(図示せず)を使用することもできる。追加の層を加えて多層回路とすることもできる。
【0054】
上記の誘導体基板は優れた加工性、特に低いタックを有する。有利な特徴では、この組成物は優れた電気特性を有する。一実施形態において、基板は、以下のように測定した約0.003未満、具体的には約0.0019〜約0.0025の散逸率を有する。別の実施形態では、基板は、以下のように測定した約2.8〜約3.0の誘電率を有する。銅の接着強度も良好で、以下のように測定した約3〜約7pli、具体的には約4〜約6pliの範囲内にある。
【0055】
上述の材料および方法を、以下の実施例によってさらに例示する。これらの実施例は例示的なものであり、限定的なものではない。
【実施例】
【0056】
タックは、材料のそれ自体への接着力である。プリプレグ材料のタックを以下のように測定した。
1.1インチ(2.54cm)×12インチ(30.48cm)ストリップのプリプレグを切り取った。
2.3インチ(7.62cm)×12インチ(30.48cm)のプリプレグを切り取った。
3.3インチ(7.62cm)ストリップ上の中央に1インチ(2.54cm)プリプレグストリップを配置し、これら2つを2枚の剥離紙の間に挟んだ。
4.10ポンド(4.536kg)のローラを、剥離紙およびプリプレグパッケージの上で30秒間転がした。
5.剥離紙を取り除き、TMI(Model 80−90−01−009)を使用して、3インチのプリプレグストリップから1インチのプリプレグストリップを12インチ/分(30.48cm/分)の速度で90度にはがすために必要な力を測定した。
タックは最低2回測定し、結果を平均した。
【0057】
エッチングした積層板の誘電率および散逸率を、IPC−TM−650 2.5.5.5に従って測定し、この積層板をIPC−TM−650 2.48に従って銅に接着させた。
【0058】
実施例を作製するために使用した樹脂成分を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
<実施例1〜6>
表3に示すポリマ系を、米国特許第6,048,807号に記載されているようにシラン(微粒子充填剤を使用した場合)、酸化防止剤、難燃剤と共に用いて実施例1〜6を配合した。これらの成分をキシレンに溶解させ、スラリーにし、実験室ディップコーティング作業において1080ガラス上にコーティングして、厚さ約0.005インチ(0.012cm)のプリプレグを作製した。このプリプレグを、室温で一晩キシレンの蒸発乾固を可能にすることによって乾燥させた。上述のように測定したタックも表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
乾燥させた実施例1のプリプレグは粘着性が低く、扱いやすかった。タックを測定したところ、0.012pliであった。
【0063】
比較例である実施例2を、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを取り除き同量の1,2−ポリブタジエン液体樹脂に置き換えたことを除いては、実施例1と同様に配合した。タックが過剰であることがわかった。大幅な材料移動なしではプリプレグをそれ自体から分離することができず、このことは、回路材料積層板を容易に作製するためには受け入れることのできない条件である。測定したタックは2.5pli、すなわち、実施例1のタックの200倍であった。
【0064】
比較例である実施例3では、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを別の固形ゴム、ジブロックスチレン−ブタジエン−コポリマ(Kraton D1118)で置き換えた。材料移動なしでプリプレグを分離することはできたが、製品を容易に作製するにはタックは依然として高すぎるものであった。測定したタックは0.28pli、すなわち、実施例1よりも23倍で高かった。製造者によって認定されているように、Kraton D1118の分子量は169,000、JSR810の分子量は120,000である。このことは、ポリブタジエン液体樹脂を別の適合性高分子量エラストマによって単に置き換えるだけでは、シンジオタクチック−1,2ポリブタジエンの使用により生じるタックを著しく低減させることはないことを示している。
【0065】
実施例4は、ジブロックスチレン−ブタジエン−コポリマを等量のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンで完全に置き換えることを除いては、実施例1と同じである。タックはわずかで、プリプレグは容易に分離することができた。測定したタックは0.0015で、実施例1よりも8倍小さかった。このことはさらに、かなりの量の液体ポリブタジエン、液体EPDMおよびほんのわずかな量のヒュームドシリカ充填剤がある場合であっても、タック低減におけるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの有効性を立証する。
【0066】
実施例5は実施例4と類似しており、ポリマ種の比率は同様であるが、微粒子充填剤は含まない。測定したタックは0.089pliで、実施例4よりも8倍高かったが、プリプレグは材料移動なしで分離することができた。このことは、非常に表面積が大きい充填剤であるTS720がタックの低減を助けることを示している。しかしながら、タックを低減するためのTS720の使用には制限がある。というのは、このTS720は非常に高い粘度を有し、銅の接着力および電気的散逸率に悪影響を及ぼし、かつ高価であるからである。
【0067】
実施例6は、現在市販されている積層体と同様に配合した。実施例6は大量の低表面積充填剤を含有する。この材料のタックは無視できるほどで、作製作業中において扱いやすかった。しかしながら、充填剤の添加量が多いことは、より高い誘電率およびドリルの高摩耗という上記欠点を有する。
【0068】
<実施例7〜9>
実施例7は、1674ガラス上に厚さ0.010インチ(0.0254cm)のプリプレグを形成するために使用したことを除いては、実施例1と同様に配合した。このプリプレグを、1オンス(28.3g)のTWS銅箔と共に積層した。誘電率、散逸率および銅の接着力の測定値を表4に示す。
【0069】
実施例8は、ポリマ成分の比率が実施例1と同じになるよう配合した。現在商業的に使用されているレベル未満である目標レベルに誘電率を調整するために、粉末状非晶質シリカを添加した。このレベルの充填剤は、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンが存在しなければ過剰なタックをもたらすと予測される。加えて、より迅速に硬化させるために、フリーラジカル硬化剤(Perkadox 30,2.7wt%)を含ませた。この材料は、生産規模の装置により、1674ガラス上に0.010インチ(0.0254cm)の厚さでTWS銅を用いて作製した。特性を表4に示す。
【0070】
実施例9(比較例)は、非常に高レベルの粉末状非晶質シリカを使用する比較実施例6と同じ配合を示すが、生産規模の装置により1674ガラス上に0.010インチ(0.0254cm)の厚さで作製した。典型的な特性値を図4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
実施例7および8は、比較実施例9と比較した場合、プリプレグのタック低減へのシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの顕著な効果によって可能となる充填剤の少ない配合を用いて、低誘電率および低散逸率という重要な特性を得ることができることを示している。より低い誘電率は、ほんの少しのシリカ充填剤から直接得られる。実施例9によって代表されるこれまでの最先端材料の状態と比較して、より低い散逸率が本発明の材料、実施例7および8で見られた。このことは、これらの材料の意図された用途において付加利益となる。
【0073】
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が特に明示していない限り複数形を含む。同じ特性または成分を記載するすべての範囲の端点が、記載されている端点を含めて独立に組合せ可能である。「最大」所与の量という記載はゼロを含まない、すなわち、言及されている成分が少なくともある量存在する。すべての参考文献を本願に引用して援用する。さらに、本明細書中の「第1の」、「第2の」等の用語は、順序、量、重要性のいずれを示すものではなく、ある要素を他から区別するために使用される。
【0074】
好ましい諸実施形態を示し説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変形および置換をこれら諸実施形態に対して行うことができる。したがって、限定としてではなく例証として本発明を説明してきたことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】誘電体複合材料および導電層を含む例示的な回路材料の概略図である。
【図2】誘電体複合材料を含むダブルクラッド回路の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層と、前記導電層上に配置されている誘電体基板とを含む回路材料であって、
前記誘電体基板が、前記誘電体基板組成物の全体積に基づき、
繊維ウェブ約10〜約60vol%と、
樹脂系の全体積の最大100vol%の量でシンジオタクチックポリブタジエンエラストマを含む樹脂系と、前記樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた体積に基づき、0〜40vol%の微粒子充填剤とから形成した硬化組成物約40〜約90vol%と、
を含むことを特徴とする回路材料。
【請求項2】
請求項1に記載の回路材料であって、
前記樹脂系が、それぞれ前記樹脂系の全重量に基づき、前記シンジオタクチックポリブタジエンエラストマ約5〜約90wt%と、液体ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂約10〜約95wt%とを含むことを特徴とする回路材料。
【請求項3】
請求項1に記載の回路材料であって、
前記微粒子充填剤を、前記樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた体積に基づき、0〜約4vol%含むことを特徴とする回路材料。
【請求項4】
請求項1に記載の回路材料であって、
前記樹脂系が低分子量エチレンプロピレンエラストマをさらに含み、前記低分子量エチレンプロピレンエラストマが前記樹脂系の全重量の最大約20wt%の量で存在することを特徴とする回路材料。
【請求項5】
請求項1に記載の回路材料であって、
前記樹脂系が、前記ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂との架橋に関与することができる熱可塑性ポリマをさらに含み、前記ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂との架橋に関与することができる前記熱可塑性ポリマが、全樹脂系の最大約60wt%の量で存在することを特徴とする回路材料。
【請求項6】
請求項5に記載の回路材料であって、
前記熱硬化性ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂との架橋に関与することができる前記熱可塑性ポリマが、ポリブタジエンブロックおよび/またはポリイソプレンブロックを、モノビニル芳香族化合物から得られるブロックと共に含むことを特徴とする回路材料。
【請求項7】
請求項6に記載の回路材料であって、
前記ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン樹脂との架橋に関与することができる前記熱可塑性ポリマが、ジブロックポリブタジエン−スチレンコポリマであることを特徴とする回路材料。
【請求項8】
請求項1に記載の回路材料であって、
前記樹脂系がフリーラジカル硬化剤を有効量さらに含むことを特徴とする回路材料。
【請求項9】
請求項1に記載の回路材料であって、
前記導電層が銅であることを特徴とする回路材料。
【請求項10】
請求項1に記載の回路材料を含むことを特徴とする回路。
【請求項11】
回路材料を作製する方法であって、
導電層上に誘電体基板プリプレグを配置する工程であって、前記誘電体基板プリプレグが、前記誘電体基板プリプレグの全体積に基づき、
繊維ウェブ約10〜約60vol%と、
樹脂系の体積の最大100vol%の量でシンジオタクチックポリブタジエンエラストマを含む樹脂系と、微粒子充填剤と前記樹脂系とを合わせた体積に基づき0〜40vol%の微粒子充填剤とを含む組成物約40〜約90vol%と、
を含む工程と、
前記樹脂系を硬化する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
導電層と、前記導電層上に配置されている誘電体基板とを含む回路材料であって、
前記誘電体基板が、前記誘電体基板の組成物の全体積に基づき、
繊維ウェブ約10〜約60vol%と、
樹脂系の全体積に基づき約5〜約100wt%のシンジオタクチックポリブタジエンエラストマから本質的になる樹脂系と、前記樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた体積に基づき最大約40vol%の微粒子充填剤とから形成した硬化組成物約40〜約90vol%と、
を含むことを特徴とする回路材料。
【請求項13】
導電層と、前記導電層上に配置されている誘電体基板とを含む回路材料であって、
前記誘電体基板が、全誘電体基板組成物に基づき、
繊維ウェブ約10〜約60vol%と、
樹脂系と、樹脂系と微粒子充填剤とを合わせた体積に基づき最大約40vol%の微粒子充填剤とから形成した硬化組成物約40〜約90vol%と、
を含み、
前記樹脂系が、それぞれ前記樹脂系の全重量または全体積に基づき、
シンジオタクチックポリブタジエンエラストマ約5〜100wt%と、
熱硬化性ポリブタジエンおよび/またはポリイソプレン0〜95wt%と、
前記シンジオタクチックポリブタジエンエラストマと架橋することができるポリマ0〜50wt%と、
EPMまたはEPDMエラストマ0〜20wt%と、
有効量のフリーラジカル開始剤と、
を含むことを特徴とする回路材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−541340(P2008−541340A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509203(P2008−509203)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/016415
【国際公開番号】WO2006/116730
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(500105311)ワールド・プロパティーズ・インコーポレイテッド (23)
【Fターム(参考)】