説明

回転伝動機構

【課題】簡明な構造で,二つの回転部材間の回転伝動効率性,回転変動応答性,及び衝撃緩衝性にすぐれた回転伝動機構を提供する。
【解決手段】内側回転部材1と外側回転部材2を有する本発明の回転伝動機構では,歯合する羽根11,羽根21間,内側回転部材1の外周面,外側回転部材2の内周面,及び両側板4の内壁で囲われた回転方向側の空部に接して,エラストマー3を配置している。本発明では,このように配置されたエラストマー3の弾性変形のみを利用し,二つの回転部材間の速度変化にともなう衝撃を緩衝するとともに,吸収,蓄積エネルギーを回転運動エネルギーに効率よく転化する。その結果,駆動側のエネルギーを従動側に伝える回転伝動効率,駆動側の変化に伴う回転変動応答性,衝撃緩衝性がともに向上する。加えて,エラストマー3のみで,両回転部材を相互に支承,構造が簡明で保守も容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転伝動機構、特に同心軸上に配置された比較的低速の二つの回転部材間で動力を伝達する回転伝動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、弾性体を利用した自転車用の緩衝装置を開示している。特許文献1では、第1フレームに固定された内周面向きの複数の第1突出部を有する第1部材と、第1フレームに回転自在に取り付けられた第2フレームに固定され、外周面向きの複数の第2突出部を有する第2部材とを備えた緩衝機構において、この第1突出部と第2突出部の間に、第1部材の内周面か第2部材の外周面のいずれか一方に隙間をあけて、ウレタンゴム、ニトリルゴム、ポリエチレンエラストマーのごとき弾性体を配置し、第1フレームと第2フレームにかかる負荷を緩衝している。この緩衝作用は、第1突出部と第2突出部の相対的回動の際、弾性体が圧縮変形し、両突出部間の衝撃が緩和されるとともに、圧縮方向と交差する方向への弾性体の膨張で、両部材の回転量が多くなり、衝撃をさらに吸収するとしているが、いずれも駆動源と直接連結していない。
【0003】
特許文献2は、自動二輪車のホイールに形成した凹部に弾性体を入れ、この弾性体にドリブンフランジを連結し、エンジンからの動力をドリブンフランジ及び弾性体を介してホイールに伝達する自動二輪車の動力伝達機構である。このドリブンフランジは、鉄のごとき高剛性金属材料からなるエンジン側フランジと、アルミニウム合金のごとき軽量材料からなるホイール側フランジに分割され、両フランジは締結部材で一体的に結合されている。特徴は、ホイールに仕切壁を設けて扇状凹部を形成し、ドリブンフランジを組みつけた状態で、この仕切壁とホイール側フランジのブロックの両側にダンパーラバーとバンプラバーを配置し、ダンパーラバーを介してドリブンフランジの回転をホイールに伝達するとともに、ホイールの逆回転をバンプラバーで緩衝し、正逆回転時の金属どうしの接触を回避にある。
【0004】
特許文献3は、自転車用駆動ギアにおいて、ギア本体と支持体の間に動力伝達部を設け、動力伝達部にギア本体と支持体が所定角度回転できる隙間を設け、動力伝達部とは異なる部位に、この隙間を保持してゴム弾性体を配置し、弾性体の弾性変形により隙間を吸収し、動力伝達部からの動力を伝達するとともに、踏み込み初動時の衝撃を吸収する機構を開示している。
【0005】
特許文献4は、ゴム体を介して変速機の駆動源取付けフランジとプロペラシャフトを連結する機構を開示している。しかし、この発明では、ゴム体は、フランジ側ではスラストボルトにより、プロペラシャフト側ではラジアルボルトによりそれぞれ固定されている。したがって、ゴム体は、両固定手段間にあってフランジとプロペラシャフトの回転伝動をつかさどるのみであって、駆動側回転部材であるフランジと従側部回転部材であるプロペラシャフト相互の支持にはまったく関与していない。
【0006】
特許文献5の発明は、駆動車輪とドリブンプーリ間あって、車輪からの逆トルクを緩衝する弾発カップリングで、これによりベルト式無段変速機におけるベルトの長寿命化をはかっている。この弾発カップリングでは、ドライブリダクションギアに連結された外歯車カップリング要素とドリブンリダクションギアに連結された内歯車カップリング要素間において、ドライブリダクションギアからドリブンリダクションギアへの一方向性動力伝達、即ち逆トルクの緩衝に特化したものである。この弾発部材としては、スプリングあるいは合成ゴム材が開示されている。
【0007】
特許文献6は、同心円的に配置された駆動部と被駆動部の回転方向における駆動部の1個の当接部から被駆動部の1個の当接部間部に1個の緩衝材を遊嵌したものである。駆動部の動力は、駆動部の当接部が一定角度回動して緩衝材の一方の端面に当接し、他方の端面に当接可能な被駆動部の当接部に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−278350号公報
【特許文献2】特開2001−241507号公報
【特許文献3】特開昭64−63489号公報
【特許文献4】特開2000−266076号公報
【特許文献5】特開2000−291773号公報
【特許文献6】特開平11−346456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の発明は、基本的には回転自在に連結された二つの固定フレームに各々設けられた部材間の単なる衝撃緩衝機構であって、駆動源に接続された伝動機構ではない。このためゴム様弾性体は、第1部材の内周面か第2部材の外周面のいずれか一方に隙間をあけて配置されており、弾性体自体の圧縮弾性と、弾性体の圧縮と交差する空隙方向への弾性体の膨張とを利用して、フレームの相対的回動時の衝撃を緩衝しているにすぎない。第1部材の内周面か第2部材の外周面のいずれか一方に隙間をあけて弾性体を配置した構造で、仮に一方から他方へ動力を伝達しようとすると、始動時にこの空隙部分への弾性体の膨張に要する時間だけタイムラグが生じ、伝動応答性が悪い。
【0010】
特許文献2記載の発明は、自動二輪車においてエンジン又は車輪の急速回転変動を弾性体で緩衝しながら伝達するものではあるが、ダンパーラバーとバンプラバーの二つに分割された弾性体の配置により、主としてホイール仕切壁とホイール側ブロックを構成する金属同士の直接接触の回避を図ったものである。このため、全体の構造が複雑すぎ、多目的の回転伝動機構ユニットとして実用的ではない。
【0011】
特許文献3記載の発明は、ギア本体と支持体間に設けられた動力伝達部に、ギア本体と支持体の相対回転を可能にする隙間を設け、動力伝達部とは異なる部位にこの隙間を残して弾性体を配置して、この弾性体の弾性変形による隙間の吸収により動力を伝達するもので、特許文献1では空隙部が回転方向と交差する方向にあるのに対し、特許文献3では隙間が回転方向にある点で異なる。しかし、特許文献1同様に隙間を吸収するのに要する時間だけ回転を伝達するのにタイムラグが生じる点では変わりはない。したがって、とりわけ初動時の即応性に欠ける。
【0012】
特許文献4に記載の発明では、ゴム体はトルク伝達に関与するだけで、プロペラシャフトとフランジ相互の支持には関与していない。加えて、構造は複雑で、しかも初動時、加速時の変位による回転方向と交差する方向への膨張による加速作用はない。
【0013】
特許文献5の弾発カップリングでは、内外回転部材の両歯車間に介装された弾性体として、スプリングあるいは合成ゴム材が配置されているが、このスプリングあるいは合成ゴムは、逆トルクの衝撃緩衝に対しては、同効作用手段であるが、内外回転部材の相互支持の観点からは、スプリングは回転方向と交差する方向への膨張がなく、所期の目的を達成できない。加えて弾性体は、内外回転軸の中点からみて偏在しており、双方向の駆動動力の伝達には不適である。
【0014】
特許文献6のように、駆動部と被駆動部間に遊嵌された切り欠きドーナツ型の1個の緩衝材の一方の端面に当接可能な駆動部の当接部を配置し、他方の端面に当接可能な被駆動部の当接部を配置した構造ではバランスが悪く、初動動力の伝達効率に劣るばかりでなく、すでに駆動部と被駆動部の当接部が緩衝材に当接している回転中の変速に対する緩衝応答性に欠け、特別なモータ制御が必要となる。
【0015】
いずれにしろ、従来の弾性体を介した伝動機構は、主として弾性体の衝撃吸収機能に着目した衝撃の緩衝効果を狙ったものが大部分であって、回転伝動機構本来の回転伝動における応答性が犠牲になっていた。
【0016】
本発明は、前記のごとき課題を解消したもので、二つの回転部材間の回転伝動性、回転伝動応答性、及び衝撃緩衝性にすぐれた回転伝動機構を提供することを目的としている。
【0017】
また本発明は、構造がシンプルで部品数が少なく、操作及び保守が容易な回転伝動機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成した本発明の回転伝動機構は、以下の特徴及び好適な態様を備えている。
項1:複数の外向羽根を有する内側回転部材と、外向羽根に歯合する複数の内向羽根を有する同心の外側回転部材とを備え、内側回転部材と外側回転部材のいずれか一方が駆動側で他方が従動側である回転伝動機構であって、外側回転部材の両側に内側回転部材から独立した側板を備え、外向羽根は外側回転部材の内周面と接触せず、内向羽根は内側回転部材の外周面と接触せず、両回転部材の内外周面と両各羽根間と両側板間で構成される回転方向側の各空部に、エラストマーが空部を構成する四囲の内壁に実質的に接して分散配置されており、該エラストマーを介してのみ内側回転部材の外周上に外側回転部材を支持するとともに、駆動側回転部材の回転を従動側回転部材に伝達することを特徴とする回転伝動機構。
項2:外側回転部材の両側に内側回転部材と同心の開口部を有する側板を有する項1に記載の回転伝動機構。
項3:内側回転部材の軸方向の両端面に両側側板の開口部より小径の隆厚部を有する項1又は2に記載の回転伝動機構。
項4:内側回転部材の外向羽根、外側回転部材の内向羽根、及びエラストマーが、その仮想延長線において内側回転部材の中点を通るように、放射状に配置されている項1乃至項3のいずれか1項に記載の回転伝動機構。
項5:エラストマーが、回転方向において手前により軟かい補助エラストマーを配置する項1乃至項4のいずれか1項に記載の回転伝動機構。
項6:内側回転部材が駆動体で外側回転部材が従動体であり、エラストマーが内側回転部材の外周表面から外側回転部材の内周表面に向かって重く構成された項1乃至項5のいずれか1項のいずれかに記載の回転伝動機構。
項7:項1乃至項6のいずれか1項に記載の回転伝動機構を利用した変速装置。
【0019】
本発明においてエラストマーとは、ゴム様の弾性を有する材料を意味し、発条等の機械的弾性体を含意しない。
【発明の効果】
【0020】
本発明の回転伝動機構では、内側回転部材の外周表面と外向羽根、外側回転部材の内周表面と内向羽根で構成される空部の各内壁に接して、エラストマーを配置することにより、下記の効果及び利点がある。
(1)内外側回転部材は、エラストマーのみにより支承及び伝動されているので、ベアリング等の特別な支承、伝動軽減部材を必要としない。したがって、構造的にきわめて簡単であり、操作及び保守が容易であるばかりでなく、ベアリング等の摩擦損失もなく、回転伝動効率が高い。好適には、内側回転部材の外向羽根、外側回転部材の内向羽根、エラストマーを、その仮想延長線において内側回転部材の中点を通るように、放射状に配置することにより、安定且つ円滑な回転が得られる。
(2)駆動側の回転方向におけるエラストマーの弾性変位により蓄積された初動あるいは加速エネルギーが、回転方向と交差する方向の膨張によるエラストマーの反発エネルギーとなり、その合力が従動側の出力エネルギーに転化する結果、入力エネルギーが加速されて一時的に強い出力が生じる。その結果、エラストマーの変異によるタイムラグにもかかわらず、目的とする定常回転エネルギーに達する速度の遅れはなく、エネルギーの伝動効率及び伝動応答性がよい。
(3)入力エネルギーの変動がない場合には、内外回転部材はエラストマーを介して一体化されているので、駆動側の回転はそのまま従動側に伝達される。加えて、駆動側を内側回転部材、従動側を外側回転部材にした場合、回転慣性から生じる遠心力により、回転力を高める。
(4)初動時もしくは加速時の衝撃は、密装填されたエラストマーの弾性変位のみで吸収され、円滑に緩衝される。
(5)内側回転部材の複数の外向羽根、外側回転部材の複数の内向羽根と、各複数の外向羽根と各複数の内向羽根の間にエラストマーが分散配置されていることにより、特許文献6のように配置された単一エラストマーと比較して、同一エネルギーを入力した場合、複数の外向羽根11と複数の内向羽根の各々の間にエラストマーを配置した場合の方が、圧縮に伴うタイムラグが右複数羽根の数で除したタイムラグに短縮される。同一タイムラグである場合は、圧縮されたエラストマーは、右複数羽根の数で乗じた反発力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の回転伝動機構の典型的な実施例を示すもので、(イ)は断面図、(ロ)は側面図である。
【図2】図1の回転伝動機構のA−A拡大断面図で、(イ)はエラストマー配置の基本構成、(ロ)及び(ハ)は異なった構成を各々模式的に示す。
【図3】本発明の回転伝動機構の内側回転部材の両側に隆厚部を設けた例を示すもので、(イ)は断面図、(ロ)は側面図である。
【図4】図3の回転伝動機構の内側回転部材を駆動側に、外側回転部材を従動側に設定した例を示すもので、(イ)はその断面図、(ロ)は平面図である。
【図5】本発明の回転伝動機構におけるエラストマーの加速作用を示す速度グラフである。
【図6】本発明の回転伝動機構におけるエラストマーのエネルギー効率を示すエネルギーグラフである。
【図7】本発明の回転伝動機構における内側回転部材の衝撃緩衝作用を示す模式図で、(イ)は側板に加わる衝撃ベクトル、(ロ)は内側回転部材の隆厚部に加わる衝撃ベクトルである。
【図8】本発明の回転伝動機構を空調機のコンプレッサーファンに用いた例を示す模式図である。
【図9】本発明の回転伝動機構をモーターシャフトに用いた例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に図面に従って、本発明の実施の形態を詳述する。図1及び図2は、本発明の代表的な一例を示す。図1及び2において、内側回転部材1と外側回転部材2は、各々歯合する外向羽根11及び内向羽根21を各複数枚備え、相対回転自在に嵌合されている。各羽根の枚数は用途に応じて適宜選択できるが、通常3〜6枚程度が実用的である。図2に示すように、内側回転部材1の外向羽根11は一体又は固設でもよく、外側回転部材2の内周面には接触せず、外側回転部材2の内向羽根21も一体又は固設でもよく、内側回転部材1の外周面には接触せず、交互に歯合している。図2(イ)に示すように、この内側回転部材1の外周面と複数の外向羽根11の片面、及び外側回転部材2の前記内側回転部材1の外周面に対抗する内周面と、前記内側回転部材1の複数の外向羽根11の片面に対抗する内向羽根21の片面、並びに外側回転部材2の両側に設けられた側板4で囲われた回転方向側となる空部(以下「空部」という)に各々エラストマー3が分散配置されている。このエラストマー3は、空部を構成する内壁面のいずれにも隙間なく接触して配置し、側板4により弾性変位を規制している。本発明において、このエラストマー3は、初動、変速時の衝撃に吸収と、回転とともに回転方向に交差する膨張により、内外回転部材を一体的に支持する二つの機能を有する。また本発明では、このようなエラストマー3を内側回転部材1の複数の外向羽根11、外側回転部材2の複数の内向羽根21と、各複数の外向羽根11と各複数の内向羽根21の間に分散配置することにより、特許文献6のように配置された単一エラストマー3と比較して、同一エネルギーを入力した場合、複数の外向羽根11と複数の内向羽根21の各々の間にエラストマー3を配置した場合の方が、圧縮に伴うタイムラグが複数羽根の数で除したタイムラグに短縮される。並びに、同一タイムラグである場合は、圧縮されたエラストマー3は、複数羽根の数で乗じた反発力を得ることができる。さらに本発明では、内側回転部材1の外向羽根11、外側回転部材2の内向羽根21、及びエラストマー3は、その仮想延長線が内側回転部材1の中点を通るように、好適には放射状に配置されている。これにより、いずれの方向の回転においても偏在がなく、特許文献5の弾性体とは異なり、振動ぶれ、ガタなどがなく、伝動機構としてきわめて安定、円滑な回転が得られる。加えて、側板4の重量を変えることにより、使用目的に応じて、所望の回転慣性あるいは遠心力を得ることもできる。いずれにしろ、この隙間のない接触配置により、エラストマー3が内側回転部材1の外向羽根11と外側回転部材2の内向羽根21間の相対回転伝達媒体として作用し、後述するように回転伝動効率、回転伝動応答性、及び衝撃緩衝性を示す。同時に、このエラストマー3は、内側回転部材1の外周面上に外側回転部材2を安定的に支持する。逆にいえば、本発明では、外側回転部材2をエラストマー3のみにより内側回転部材1の外周上に支持しており、在来の回転伝動機構のごとき軸受ベアリングのごとき特別の支承構造を持たないのが特徴のひとつである。このため、構造は極めてシンプルで、部品点数は少なく、軽量で、ベアリングのような機械的な摩擦回転損失も少ない。aは、内側回転部材1に回転軸を挿着するための透孔であるが、本発明では、用途に応じて、内側回転部材1及び外側回転部材2のいずれか一方を駆動側に、他方を従動側に任意に設定できる。bは、外板4の開口部である。
【0023】
本発明において、回転方向側と異なる空部とは、例えば、図2(イ)の回転伝動機構では、内側回転部材1が駆動源に連結されている場合、回転は時計周り方向となり、エラストマー3は、時計回り方向において外向羽根11と内向羽根21の間に介在しているが、反時計回り方向の外向羽根11と内向羽根21間には介在せず、反時計回り方向においては外向羽根11と内向羽根21は一体的に接している。逆に外側回転部材2が駆動源に連結されている場合には、反時計周り方向に回転し、エラストマー3は、反時計回り方向の内向羽根21と外向羽根11の間に介在し、時計回り方向の内向羽根21と外向羽根11の間には介在せず、時計回り方向においては、内向羽根21と外向羽根11が一体的に接している。さらに、駆動源が内側回転部材1に接続されている場合は、図2(ロ)に示すように、外向羽根11とエラストマー3の間に、エラストマー3より柔らかい補助エラストマー3aを配置することができる。逆に駆動源が外側回転部材2に接続されている場合には、図2(ハ)に示すように、内向羽根21とエラストマー3の間にエラストマー3より柔らかい補助エラストマー3bを配置することができる。図2(ロ)(ハ)の補助エラストマーは、初動時あるいは変速時の衝撃緩衝を主たる目的とした材料である。図2(ロ)(ハ)では、回転方向に一種類の補助エラストマー3a、3bを配置しているが、エラストマー全体を相対的に柔らかい補助的なものから支持性を兼ねたより硬いものの順に、複数層のエラストマーで構成してもよい。いずれにしろ、本発明では、駆動羽根となる方から順に相対的に柔らかいエラストマーから硬いエラストマーへと配置することにより、初動時又は変速時の衝撃を補助エラストマー(3a)(3b)で吸収するとともに、その吸収限界を超えた時点から、本来のエラストマー3により、回転向動力を相手側外向羽根11,内向羽根21に伝えるとともに、回転方向と交差する方向への膨張により、内、外側回転部材1、2を一体的に支持し、回転を一層加速する。
【0024】
本発明に使用するエラストマー3は、天然ゴム、合成ゴム、その他常温でゴム様弾性を有する材料から適宜に選択可能であるが、その種類、機能から合成ゴムが望ましい。合成ゴムとしては、二重結合の有無により、ジエン系ゴムとしては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等を挙げることができる。非ブタジエンゴムとしては、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、クロロスルフォンゴム、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。本発明では、回転伝動効率、回転伝動応答性、衝撃緩衝性、及び支持安定性の観点から、エラストマー3の選定は、用途に応じて選択可能であるが、一般的にはブタジエンゴムの使用が実用的である。
【0025】
図3は、内側回転部材1の中央両側端に隆厚部cを設けた例を示す。この隆厚部cは、外側回転部材2の側板4の開口部bよりも小径で、側板4の開口端面と同じ程度の幅だけ隆厚となっており、外側回転部材2に異常な衝撃が加わった場合、側板4と接触してこれを支え、後述する図7に示すように衝撃力を緩和するとともに、側板4が駆動軸5に直接接触するのを防止している。その結果、回転伝動機構全体が致命的な損壊を受ける恐れは少ない。
【0026】
図4は、内側回転部材1を駆動側に、外側回転部材2を従動側に設定した伝動装置、例えば自転車のべダルと車輪の回転伝動の例を示すが、むろんその逆の使用も可能である。図4の(イ)に示すように、駆動側の内側回転部材1は、その透孔aに挿着された駆動軸5を有する。この駆動軸5は、例えば回転するモータのごとき駆動源(図示せず)に連結されている。一方、図4の(ロ)に示すように、従動側の外側回転部材2は、その外周上にスプロケット6を備えている。このスプロケット6は、作動する他の回転体(図示せず)に、例えばチェーンを介して連結されている。この応用例において、回転遠心力の慣性を有効に利用するには、エラストマー3を内側回転部材1の外周面から外側回転部材2の外周面へと、連続あるいは段階的に重く構成するのが望ましい。また、必要に応じて、内側回転部材1の外向羽根11の端面と外側回転部材2の内周面との間に錘(図示せず)を配置して、回転慣性による遠心力をさらに積極的に利用することもできる。
【0027】
図5は、本発明の回転伝動機構におけるエラストマー3の加速作用を示す。本発明では、図5に示すように、エラストマー3がない例に比べて、エラストマー3を用いた例は、初動時の遅れが、エラストマー3の弾性圧縮によるエネルギーとしてエラストマー3内に蓄積され、回転方向と交差する方向への膨張による反発エネルギーと化し、加速的に出力されるものと推定される。
【0028】
図6は、本発明の回転伝動機構におけるエラストマー3のエネルギー効率を示す。図5の加速作用は、図6のエネルギーの推移からも裏付けられる。すなわち、図6においても、エラストマー3を用いない例に比べ、エラストマー3を用いた例は、初動時の立ち上がりの遅れ分、高いエネルギーピークを示している。本発明では、この反発エネルギーを回転体の初動時に必要な大きな負荷に当てることができので、そのエネルギー効率は著しく改善される。さらに、補助エラストマーを図2(ロ)(ハ)に示すように配置しておくと、初動時の衝撃吸収は著しく改善される。
【0029】
図7は、内側回転部材1の隆厚部cの作用を示す。本発明では、外側回転部材2に加わる異常な衝撃及び加重は、図7の(イ)に示すように、両回転部材の中心に向かう下向きのモーメントと、回転体の移動に伴う水平モーメントの対角線上の合力モーメントとなる。図3に示すように内側回転部材1に隆厚部cを設けておくと、図7の(ロ)に示すように、両側板の内周端面と隆厚部cの外周の接触干渉作用により、この合力モーメントは隆厚部cの直径の大きさに比例して軽減され、結果的に受ける衝撃力は緩和される。
【0030】
図8は、図4とは別の使用例を示す。図8においては、本発明の回転伝動機構を空調機のコンプレッサーファンに用いている。回転伝動機構は、駆動モータの駆動軸5と一体となり、空調機のコンプレッサーファンにベルトを介して回転動力を与えている。また、図9では、同様に駆動モータの駆動軸5と一体となった本発明の回転伝動機構の外周に、図4(ロ)のスプロケット6に代えて歯車を設け、従動側の回転体の歯車と歯合させることにより、回転動力を伝達している。本発明の回転伝動機構は、これらの例示以外にも、多様な用途に利用可能であるが、比較的低速回転体への伝動に好適に使用できる。
【0031】
以上のごとき本発明の回転伝動機構は、図4の例に従うと、例えば以下のごとく作動する。まず、駆動入力前では、外側回転部材2はエラストマー3のみにより内側回転部材1の外周上に安定的に支持されている。駆動源からの回転は、駆動軸5により内側回転部材1に与えられる。内側回転部材1は、この回転を受けて外向羽根11によりエラストマー3を介して外側回転部材2の内向羽根21に伝達する。このとき本発明では、エラストマー3が空部を構成する内壁に密に接して配置されているので、使用するエラストマー3の弾性変異の範囲内でのみ圧縮されて、初動時、加速時における変位を図5及び図6に示すように効率的に伝達できるばかりでなく、定常回転速度に達する応答性においてもすぐれた性能を示す。また、その際受ける衝撃は、エラストマー3の弾性変位により吸収して、緩衝する。このとき、図2(ロ)(ハ)に示すように、駆動羽根とエラストマー3の間に、エラストマー3より柔らかい補助エラストマー3a、あるいは3bを配置しておくと、その衝撃吸収効果はより高まる。加えて、外側回転部材2に加わる異常負荷は、内側回転部材1の隆厚部cにより受け止められ、駆動軸5と接触することを回避している。このことにより、回転伝動機構が致命的な損壊を受けることも防止している。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の回転伝動機構は、比較的体側回転の自転車用伝動機、その他増減速を伴う各種変速機などに広く適用できる。例えば、自転車、車椅子、子供用三輪車、リヤカー、一輪車、風力発電機や扇風機のプロペラ部分、耕運機等に利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1…内側回転部材
11…外向羽根
2…外側回転部材
21…内向羽根
3…エラストマー
3a、3b…補助エラストマー
4…側板
5…駆動軸
6…スプロケット
a…透孔
b…開口部
c…隆厚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の外向羽根を有する内側回転部材と、外向羽根に歯合する複数の内向羽根を有する同心の外側回転部材とを備え、内側回転部材と外側回転部材のいずれか一方が駆動側で他方が従動側である回転伝動機構であって、外側回転部材の両側に内側回転部材から独立した側板を備え、外向羽根は外側回転部材の内周面と接触せず、内向羽根は内側回転部材の外周面と接触せず、両回転部材の内外周面と両各羽根間と両側板間で構成される回転方向側の各空部に、エラストマーが空部を構成する四囲の内壁に実質的に接して分散配置されており、該エラストマーを介してのみ内側回転部材の外周上に外側回転部材を支持するとともに、駆動側回転部材の回転を従動側回転部材に伝達することを特徴とする回転伝動機構。
【請求項2】
外側回転部材の両側に内側回転部材と同心の開口部を有する側板を有する請求項1に記載の回転伝動機構。
【請求項3】
内側回転部材の軸方向の両端面に両側側板の開口部より小径の隆厚部を有する請求項1又は2に記載の回転伝動機構。
【請求項4】
内側回転部材の外向羽根、外側回転部材の内向羽根、及びエラストマーが、その仮想延長線において内側回転部材の中点を通るように、放射状に配置されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回転伝動機構。
【請求項5】
エラストマーが、回転方向において手前により軟かい補助ラストマーを配置する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の回転伝動機構。
【請求項6】
内側回転部材が駆動体で外側回転部材が従動体であり、エラストマーが内側回転部材の外周表面から外側回転部材の内周表面に向かって重く構成された請求項1乃至5のいずれか1項に記載の回転伝動機構。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の回転伝動機構を利用した変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−12688(P2011−12688A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154474(P2009−154474)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(302014848)
【Fターム(参考)】