説明

回転伝達部材およびその製造方法

【課題】金属インサート部材の樹脂製ギヤの結合部(インサート部)に、抜けおよび剥がれ防止のための特別な形状加工を不要にした回転伝達部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】外周に第1のギヤ部11、111を有する軸状の金属インサート部材12と、外周に第2のギヤ部13、113を有し金属インサート部材の一端外周に樹脂モールドされる樹脂製ギヤ14とを備え、金属インサート部材の略全長に亘って第1のギヤ部を形成し、第1のギヤ部の一端外周を樹脂製ギヤが樹脂モールドされるインサート部17とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属インサート部材の略全長に亘って形成したギヤ部の一端外周に樹脂製ギヤをインサート成形によって樹脂モールドした回転伝達部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品においては、回転伝達装置の一部に回転伝達用の樹脂ギヤ部が用いられることがよくあり、樹脂ギヤ部によって回転伝達系における回転振動を減衰し、静粛性を向上するようにしている。ところで、樹脂ギヤ部は一般に、円筒状の金属部材の外周に、樹脂モールド等によって一体的に結合されるようになっているが、樹脂ギヤ部に円周方向および軸方向の荷重が作用しても、金属部材に対して樹脂ギヤ部が抜けたり、剥がれたりしないようにする必要がある。
【0003】
このために、従来においては、例えば特許文献1に記載されているように、樹脂ギヤ部の射出成形時に樹脂材料の一部を、金具(金属部材)に形成した肉盗み部や穴部に充填することにより、樹脂ギヤ部に円周方向および軸方向の荷重が作用しても、樹脂ギヤ部が金具より抜けたり、剥がれたりすることがないようにしている。
【特許文献1】特開2003−21223号公報(段落0021、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載のものにおいては、樹脂ギヤ部の射出成形時に樹脂材料の一部を、金具(金属部材)に形成した肉盗み部や穴部に充填する方式であるため、金具に肉盗み部や穴部を有しない回転伝達部材には採用できない問題があった。
【0005】
このために、例えば、図7に示すように、樹脂ギヤ部1が樹脂モールドされる金属部材2のインサート部3に、ローレットやセレーション等の形状加工部4を加工して、樹脂ギヤ部1と金属部材2との抜けや剥がれを防止することが考えられる。
【0006】
しかしながら、図7に示すように、金属部材2が回転伝達用のギヤ部5を構成するような場合においては、金属部材2の外周に、回転伝達用のギヤ部5と、剥がれ防止用の形状加工部(ローレットあるいはセレーション)4とを別々に加工することが必要となり、これら別加工のために、加工工程が増加し、部品コストの上昇を招く。
【0007】
本発明は上記した従来の不具合を解消するためになされたもので、金属インサート部材の樹脂製ギヤの結合部(インサート部)に、抜けおよび剥がれ防止のための特別な形状加工を不要にした回転伝達部材およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、外周に第1のギヤ部を有する軸状の金属インサート部材と、外周に第2のギヤ部を有し前記金属インサート部材の一端外周に樹脂モールドされる樹脂製ギヤとを備え、前記第1のギヤ部を前記金属インサート部材の略全長に亘って形成し、該第1のギヤ部の一端を前記樹脂製ギヤが樹脂モールドされるインサート部としたことである。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記第1のギヤ部はヘリカルギヤからなっていることである。
【0010】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項2において、前記インサート部をなす前記第1のギヤ部の一端外周に、軸方向抜け止め用の環状溝を形成したことである。
【0011】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1において、前記第1のギヤ部および第2のギヤ部はスパーギヤからなり、該第1のギヤ部の前記インサート部に、軸方向抜け止め用の環状溝を形成したことである。
【0012】
請求項5に係る発明の特徴は、外周に第1のギヤ部を有する軸状の金属インサート部材と、外周に第2のギヤ部を有し前記金属インサート部材の一端外周に樹脂モールドされる樹脂製ギヤとによって構成される回転伝達部材を製造する方法にして、前記金属インサート部材の略全長に亘って第1のギヤ部を加工するとともに、前記樹脂製ギヤが樹脂モールドされる前記第1のギヤ部の一端のインサート部の外周に環状溝を加工し、その後、前記インサート部を成形金型内に挿入した状態で樹脂を射出して樹脂製ギヤをインサート成形するようにしたことである。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、金属インサート部材の略全長に亘って形成した第1のギヤ部の一端を、第2のギヤ部を有する樹脂製ギヤが樹脂モールドされるインサート部としたので、金属インサート部材に対する樹脂製ギヤの抜けや剥がれ防止のための特別な加工を不要にでき、加工コストの低減が可能な回転伝達部材を容易に得ることができる。
【0014】
上記のように構成した請求項2に係る発明によれば、第1のギヤ部はヘリカルギヤからなっているので、ギヤ伝達部としてのヘリカルギヤを利用して樹脂製ギヤが樹脂モールドされるインサート部を構成でき、きわめて簡単な構成で、金属インサート部材に対する樹脂製ギヤの抜けおよび剥がれを確実に防止することができる。
【0015】
上記のように構成した請求項3に係る発明によれば、第1のギヤ部のインサート部に、軸方向抜け止め用の環状溝を形成したので、樹脂製ギヤに対する金属インサート部材の抜け荷重を向上することができる。
【0016】
上記のように構成した請求項4に係る発明によれば、第1のギヤ部および第2のギヤ部はスパーギヤからなり、第1のギヤ部のインサート部に、軸方向抜け止め用の環状溝を形成したので、スパーギヤを用いた回転伝達部材においても、スパーギヤを利用して、金属インサート部材に対する樹脂製ギヤの抜けおよび剥がれを確実に防止することができる。
【0017】
上記のように構成した請求項5に係る発明によれば、金属インサート部材の略全長に亘って第1のギヤ部を加工するとともに、第2のギヤ部を有する樹脂製ギヤが樹脂モールドされる第1のギヤ部の一端のインサート部の外周に環状溝を加工し、その後、インサート部を成形金型内に挿入した状態で樹脂を射出して樹脂製ギヤをインサート成形するようにしたので、樹脂製ギヤに対する金属インサート部材の抜けや剥がれを防止するための特別な加工を不要にでき、加工工程の削減が可能な回転伝達部材の製造方法を容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1および図2は、本発明の第1の実施の形態の回転伝達部材10を示すもので、図1は回転伝達部材10の外観図、図2は回転伝達部材10の断面図である。
【0019】
図1および図2において、当該回転伝達部材10は、ヘリカルギヤ(斜歯歯車)からなる第1のギヤ部11を有する軸状の金属製インサート部材12と、ヘリカルギヤ(斜歯歯車)からなる第2のギヤ部13を有する樹脂製ギヤ14とによって構成され、樹脂製ギヤ14は金属製インサート部材12の一端外周にインサート成形により樹脂モールドされて一体成形されるようになっている。
【0020】
金属製インサート部材12は、軸中心部に貫通穴15を備え、外周には軸方向の全長に亘って第1のギヤ部11がヘリカル状に形成されている。金属製インサート部材12の第1のギヤ部11の軸方向の一端は、樹脂製ギヤ14を樹脂モールドによってインサート成形するインサート部17をなし、軸方向の他端は、ギヤ伝達部18をなしている。
【0021】
樹脂製ギヤ14は、金属製インサート部材12の軸方向長さよりも十分に小さな軸方向長さをもち、かつ金属製インサート部材12の外径よりも十分に大きな外径をもつ円板状を呈している。樹脂製ギヤ14は、例えば、熱可塑性のポリアセタール樹脂に数重量%のガラス繊維を混合したもので、耐熱性および耐摩耗性にすぐれたものである。樹脂製ギヤ14の外周には、軸方向の全長に亘って第2のギヤ部13が第1のギヤ部11と逆方向にねじれたヘリカル状に形成されている。樹脂製ギヤ14の軸方向の一端には、金属製インサート部材12の一端を覆うように台座19が形成され、この台座19に図略のスラストワッシャのフランジ部が当接される。なお、スラストワッシャは金属製インサート部材12の貫通穴15に嵌合する円筒支持部を有し、円筒支持部に貫通穴15を貫通する図略の支持軸が嵌合され、この支持軸によって金属製インサート部材12が回転可能に支持されるようになっている。
【0022】
このような回転伝達部材10を製造する場合には、予め金属製インサート部材12の外周にその全長に亘ってヘリカルギヤ(第1のギヤ部)11を加工し、しかる後、図3に示すように、金属製インサート部材12の貫通穴15に軸21を挿通し、その状態で、ヘリカルギヤ11からなるインサート部17をインサート品として、成形金型22内に挿入し、成形金型22内に樹脂を射出することにより、金属製インサート部材12の一端外周に、樹脂製ギヤ14がインサート成形によって一体的に樹脂モールドされる。なお、成形金型22は、ヘリカルギヤ11からなるインサート部17に係合するヘリカル状の係合部22aを有し、インサート部17は成形金型22内に金属製インサート部材12のねじ込みによって挿入される。
【0023】
上記した実施の形態によれば、金属製インサート部材12の外周に形成したヘリカルギヤ11からなるインサート部17に、樹脂製ギヤ14がインサート成形されるため、ヘリカルギヤ11によって金属製インサート部材12と樹脂製ギヤ14との相対回転が規制されるとともに、軸方向に抜け止めされて一体結合される。すなわち、第1のギヤ部11の回転によって金属製インサート部材12に一方向のスラスト力しか作用しない場合には、ヘリカルギヤ11のみによって、抜けおよび剥がれを確実に防止することができ、また、金属製インサート部材12に両方向のスラスト力が作用する場合でも、インサート部17の軸方向寸法が十分に確保されていれば、ヘリカルギヤ11のみによって、抜けおよび剥がれを防止するに必要な強度をもたせることができる。
【0024】
このように、ギヤ伝達部18をなすヘリカルギヤ(第1のギヤ部)11の一部を、樹脂製ギヤ14がインサート成形されるインサート部17として利用したことにより、樹脂製ギヤ14の抜けおよび剥がれ防止のための特別な形状加工(例えば、ローレット加工あるいはセレーション加工)を不要にでき、インサート部17およびギヤ伝達部18を1回の歯切りによって加工でき、加工工程の削減により加工コストを低減できるようになる。
【0025】
なお、上記した回転伝達部材10は、例えば、モータによって回転駆動される駆動歯車に、金属製インサート部材12の第1のギヤ部11が噛合され、樹脂製ギヤ14の第2のギヤ部13に、被動歯車が噛合されることにより、モータによる駆動歯車の回転を減速して被動歯車に伝達するとともに、樹脂製ギヤ14によってギヤ伝達時の回転振動を減衰し、静粛性を向上できる減速用回転伝達用歯車部材として機能する。
【0026】
図4は、本発明の第2の実施の形態を示すもので、金属製インサート部材12に対する樹脂製ギヤ14の抜け止め強度を高めたものである。すなわち、第2の実施の形態においては、金属製インサート部材12に軸方向の全長に第1のギヤ部11をヘリカル状に加工した後に、インサート部17の軸方向のほぼ中央部に第1の環状溝23を形成したものである。また、金属製インサート部材12のインサート部17とギヤ伝達部18の間には、第2の環状溝24が形成され、樹脂製ギヤ14の樹脂モールド時に、第2の環状溝24に上記した成形金型22(図3参照)が係合される。これによって、分割型の成形金型22により第2の環状溝24の部分を挟持してインサート部17に樹脂製ギヤ14を樹脂モールドすることができる。なお、第1の実施の形態と同一の構成部分については、同一部品に同一の参照番号を付し、その説明は省略する。
【0027】
第2の実施の形態によれば、樹脂製ギヤ14の樹脂モールド時に樹脂が第1の環状溝23に入り込むことにより、たとえインサート部17の軸方向寸法を大きく確保できない場合でも、金属製インサート部材12に対する樹脂製ギヤ14の抜け止め強度を大幅に向上できるようになる。また、第2の環状溝24の形成により、成形金型22内を簡単かつ確実に密閉することができるようになる。
【0028】
図5および図6は、本発明の第3の実施の形態を示すもので、金属製インサート部材12および樹脂製ギヤ14に設けられる第1および第2のギヤ部111、113を、それぞれスパーギヤ(平歯車)にて構成したものである。第1のギヤ部111のインサート部17の軸方向のほぼ中央部には、第2の実施の形態と同様な環状溝123が設けられ、この環状溝123により、金属製インサート部材12に対して樹脂製ギヤ14を確実に抜け止めすることができる。
【0029】
なお、第1および第2のギヤ部111、113がスパーギヤの場合には、回転によって金属製インサート部材12および樹脂製ギヤ14にスラスト方向の荷重がほとんど作用しないので、第1のギヤ部111に環状溝を特別に設けることなく、スパーギヤからなる第1のギヤ部111のインサート部17に樹脂製ギヤ14を樹脂モールドするだけでも、金属製インサート部材12に対して樹脂製ギヤ14を一体的に結合することができる。
【0030】
かかる第3の実施の形態によれば、金属製インサート部材12の外周に形成したスパーギヤ111からなるインサート部17に、樹脂製ギヤ14が樹脂モールドされているため、第1の実施の形態で述べたと同様に、抜け、剥がれ防止のための特別な形状加工(例えば、ローレット加工あるいはセレーション加工)を不要にすることができる。
【0031】
上記した実施の形態においては、第1のギヤ部11、111および第2のギヤ部13、113を、ヘリカルギヤあるいはスパーギヤで構成した例について述べたが、第1および第2のギヤ部の何れか一方をヘリカルギヤに、他方をスパーギヤで構成してもよい。
【0032】
また、上記した実施の形態においては、金属インサート部材12の全長に第1のギヤ部11を加工した後に、樹脂製ギヤ14が樹脂モールドされる第1のギヤ部11の一端(インサート部17)外周に環状溝23を加工するようにしたが、環状溝23は、第1のギヤ部11の加工に先立ってインサート部17の外周に加工することもできる。
【0033】
なお、上記した実施の形態においては、金属インサート部材12の全長に亘って第1のギヤ部11、111を形成した例で述べたが、第1のギヤ部11、111は文字通り金属インサート部材12の全長に亘って形成する必要はなく、例えば、インサート部17あるいはギヤ伝達部18の一端に、第1のギヤ部11、111が形成されない僅かな円筒部を形成したものであっても、請求項における略全長に亘ってなる趣旨は、それらの設計的変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す回転伝達部材の外観図である。
【図2】図1の2−2線に沿って切断した回転伝達部材の断面図である。
【図3】回転伝達部材の製造方法を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す回転伝達部材の断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態を示す回転伝達部材の外観図である。
【図6】図5の6−6線に沿って切断した回転伝達部材の断面図である。
【図7】従来の回転伝達部材の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
10・・・回転伝達部材、11、111・・・第1のギヤ部、12、112・・・金属製インサート部材、13、113・・・第2のギヤ部、14・・・樹脂製ギヤ、15・・・貫通穴、17・・・インサート部、18・・・ギヤ伝達部、22・・・成形金型、23、24・・・環状溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に第1のギヤ部(11、111)を有する軸状の金属インサート部材(12)と、外周に第2のギヤ部(13、113)を有し前記金属インサート部材の一端外周に樹脂モールドされる樹脂製ギヤ(14)とを備え、
前記第1のギヤ部を前記金属インサート部材の略全長に亘って形成し、該第1のギヤ部の一端を前記樹脂製ギヤが樹脂モールドされるインサート部(17)としたことを特徴とする回転伝達部材。
【請求項2】
請求項1において、前記第1のギヤ部(11)はヘリカルギヤからなっていることを特徴とする回転伝達部材。
【請求項3】
請求項2において、前記インサート部(17)をなす前記第1のギヤ部(11)の一端外周に、軸方向抜け止め用の環状溝(23)を形成したことを特徴とする回転伝達部材。
【請求項4】
請求項1において、前記第1のギヤ部(111)および第2のギヤ部(113)はスパーギヤからなり、該第1のギヤ部の前記インサート部(17)に、軸方向抜け止め用の環状溝(123)を形成したことを特徴とする回転伝達部材。
【請求項5】
外周に第1のギヤ部(11、111)を有する軸状の金属インサート部材(12)と、外周に第2のギヤ部(13、113)を有し前記金属インサート部材の一端外周に樹脂モールドされる樹脂製ギヤ(14)とによって構成される回転伝達部材を製造する方法にして、
前記金属インサート部材(12)の略全長に亘って第1のギヤ部を加工するとともに、前記樹脂製ギヤ(14)が樹脂モールドされる前記第1のギヤ部の一端のインサート部(17)の外周に環状溝(23)を加工し、その後、前記インサート部を成形金型(22)内に挿入した状態で樹脂を射出して樹脂製ギヤ(14)をインサート成形するようにしたことを特徴とする回転伝達部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−25643(P2008−25643A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196353(P2006−196353)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】