説明

回転角度検出装置

【課題】回転角度を検出するに際してその検出精度を確保することができ、しかも、例えばその角度検出の際に用いる正弦波信号及び余弦波信号を回転角度検出装置以外の他の機器で用いた場合であっても、その共用先の機器がこれら正弦波信号及び余弦波信号を用いて処理を行う際に、その処理精度についても確保することができる回転角度検出装置を提供する。
【解決手段】第1従動ギア3の回転を検出する第1磁気抵抗素子5は、角度変位に対して出力が正弦波をとる第1正弦波信号Vs1と、角度変位に対して出力が余弦波をとる第1余弦波信号Vc1とをCPU9に出力する。CPU9はフーリエ変換及び逆フーリエ変換を用いてこれら信号Vs1,Vc1を補正し、補正後の信号Vs1,Vc1から逆正接Arctanθaを算出してこれを第1従動ギア3のギア角θaとして認識する。CPU9はギア角θaを用いて、主動ギア2のギア角θx、即ちステアリングホイールの操舵角度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転物体が回転した際のその角度を検出する回転角度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転動作する可動物体の回転角度を検出する回転角度検出装置が広く使用されている。この種の回転角度検出装置においては、磁気式または光学式の角度センサから、図7(a)に示すような角度変位に対して出力が正弦波形81をとる正弦波信号sinθと、同じく角度変位に対して出力が余弦波形82をとる余弦波信号cosθを取得し、これら正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθから逆正接Arctanθ(=tan−1(sinθ/cosθ))を算出する。この逆正接Arctanθは、図7(b)に示すように実角度に対する算出角度の波形83が直線性を有する特性を有することから、これを用いて角度演算を行えば、その演算処理が簡単な処理で済むことになる。よって、回転角度検出装置は、正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθから逆正接Arctanθを求め、それを可動物体の回転角度θとして算出する。
【0003】
ところで、正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθが理想値の場合、図7(c)に示すように真円のリサージュ波形84になることからも分かるように、その際の逆正接Arctanθから回転角度を算出するに際しては正しい角度を導出することが可能である。しかし、現状としては、角度センサの組付位置の誤差や回路特性のバラツキなどにより、正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθが誤差を含んで出力されることがある。この場合、図8(a)に示すように、可動物体の変位量に対する逆正接Arctanθの検出波形が直線性の損なわれた波形85となり、理想波形85aとの差が算出角度の誤差として影響が出てしまう。また、これをリサージュ波形で見た場合、図8(b)に示すように真円でないリサージュ波形86をとる。よって、正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθに誤差が含まれる場合、正確な回転角度を算出できない問題が生じる。
【0004】
そこで、逆正接Arctanθから求めた算出角度を補正する技術が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1の技術は、回転角度検出装置の出荷時または運転開始時において、角度センサから正弦波信号及び余弦波信号を取得して逆正接を求め、その逆正接のリサージュ波形を形成する半径及び角度を算出し、この半径及び角度からリサージュ波形の半径の変動を示す半径変動値を求める。そして、この半径変動値をフーリエ変換及び逆フーリエ変換して微分値を求め、この微分値を用いて回転角度の補正を行う。この種の回転角度検出装置は、車両に搭載される場合、例えばステアリングホイールの操舵角度を検出するステアリングアングルセンサ(SAS)として使用される。
【特許文献1】特開2005−24398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の車両においては、旋回時において路面に対する車輪の摩擦力の限界を超え難くするシステムとして、車両安定性制御システム(VSC:Vehicle Stability Control)を搭載する車種がある。車両安定性制御システムは、車両がオーバースピードで車道のコーナーに侵入したり、或いは急激なステアリング操作などによって車体姿勢が乱れた際に車両が横滑りしたりする挙動を、ブレーキとエンジン出力との調節によって制御するシステムである。
【0006】
車両安定性制御システムは、図9に示すような操舵回転数に応じてパルス数が変化する矩形波(パルスエンコーダ出力)87,88を角度センサから取得し、その矩形波87(矩形波88でも可)のパルス数をカウントすることにより、ステアリングホイールの操舵角度を算出する。この矩形波87,88は、正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθの時間変位に対する出力変化に相当する時間変位波形89,90に所定のスレッシュレベルをかけ、そのスレッシュレベルを超える部分をHレベル、超えない部分をLレベルとした信号に相当する。車両安定性制御システムは、矩形波87,88のパルスを監視することにより、ステアリングホイールの操舵角度及び操舵方向を検出し、車両安定性制御を実施する。
【0007】
ここで、ステアリングアングルセンサは操舵角度を算出していることから、車両安定性制御システムが操舵角度(操舵方向)を算出するに際しては、部品点数や部品コストの増加を招きたくないなどの理由から、車両安定性制御システムに新たな角度センサを設けるようなことはせず、ステアリングアングルセンサと車両安定性制御システムとを配線で繋ぎ、ステアリングアングルセンサの角度センサで取得した正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθを、車両安定性制御システムで用いることも考えられる。
【0008】
ところで、ステアリングアングルセンサで求められる操舵角度は、特許文献1の技術を用いて角度補正を行った場合、正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθから求まる逆正接Arctanθをフーリエ変換及び逆フーリエ変換して補正がなされる。しかし、車両安定性制御システムで操舵角度を算出するに際しては、正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθ自体を用いて行うことから、これら正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθは補正がなされていない。よって、ステアリングアングルセンサが出力する正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθで車両安定性制御システムが操舵角度を算出する場合、仮に特許文献1の技術を用いたとしても、これら正弦波信号sinθ及び余弦波信号cosθに歪み成分(誤差)が含まれる条件下においては、車両安定性制御システムで正確な操舵角度が算出できない問題が生じることになる。
【0009】
本発明の目的は、回転角度を検出するに際してその検出精度を確保することができ、しかも、例えばその角度検出の際に用いる正弦波信号及び余弦波信号を回転角度検出装置以外の他の機器で用いた場合であっても、その共用先の機器がこれら正弦波信号及び余弦波信号を用いて処理を行う際に、その処理精度についても確保することができる回転角度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記問題点を解決するために、本発明では、回転物体の角度検出に際してその検出信号を、前記回転物体の角度変位に対して正弦波の出力をとる正弦波信号と、前記角度変位に対して余弦波の出力をとる余弦波信号とで出力する角度検出手段と、前記正弦波信号及び前記余弦波信号の逆正接を算出し、当該逆正接により前記回転物体の回転角度を算出する角度算出手段とを備えた回転角度検出装置において、前記回転物体の角度変位に対する前記正弦波信号及び前記余弦波信号の変化を見た場合、その角度変位波形が歪みのない理想波形に近づくように、前記逆正接を求める前の前記正弦波信号及び前記余弦波信号を補正する補正手段を備えたことを要旨とする。
【0011】
この構成によれば、角度検出手段が検出した正弦波信号及び余弦波信号が補正手段によって理想値に補正され、その結果として、正弦波信号及び余弦波信号の角度変位波形が歪みのない理想波形をとった状態となる。そして、角度算出手段は、補正後の正弦波信号及び余弦波信号を用いてその逆正接を求め、逆正接を回転物体の回転角度として算出する。従って、回転物体の回転角度は、理想値に補正された正弦波信号及び余弦波信号から求まる逆正接から算出されるので、角度誤差が小さく抑えられ、角度検出の精度確保に効果が高い。
【0012】
また、本発明においては、逆正接を求める前段階で正弦波信号及び余弦波信号を先に補正し、その補正後の正弦波信号及び余弦波信号を用いて逆正接を求める手順をとっている。よって、例えば角度検出系の部品点数抑制を目的に、回転角度検出装置以外の他の機器との間で角度検出手段の正弦波信号及び余弦波信号を共用する構成をとった場合、その機器に対し、歪みの含まれていない理想の正弦波信号及び余弦波信号を提供することが可能となり、その機器において正確な処理を実施させることが可能となる。
【0013】
本発明では、前記補正手段は、前記角度変位波形をフーリエ変換することによって抽出される前記角度変位波形の歪み成分を逆フーリエ変換することにより求めた補正値が記憶された補正値テーブルと、前記正弦波信号及び余弦波信号を取得した際、前記補正値テーブルを参照してその時の信号値に対応した前記補正値を読み出し、当該補正値を用いて前記正弦波信号及び前記余弦波信号の歪み成分を除去することにより、前記正弦波信号及び前記余弦波信号の前記理想値を演算する演算手段とを備えたことを要旨とする。
【0014】
この構成によれば、正弦波信号及び余弦波信号の補正時に用いる補正値の導出に際しては、補正値テーブルを参照することによって読み出す手順をとる。従って、補正値の導出が補正値テーブルを参照するという簡素な処理で済むことになるので、正弦波信号及び余弦波信号を補正するにあたって、その処理時間の短時間化に寄与する。
【0015】
本発明では、補正した前記正弦波信号及び前記余弦波信号を他の外部機器に出力し、当該外部機器において前記正弦波信号及び前記余弦波信号を必要とする処理を実行させる出力手段を備えたことを要旨とする。
【0016】
この構成によれば、回転角度検出装置の信号入出力口となる出力手段に他の機器を接続すれば、回転角度検出装置で求めた理想波形に近い正弦波信号及び余弦波信号を、その接続機器に出力することが可能となる。よって、その接続機器において正弦波信号及び余弦波信号を用いた処理を行う場合、その処理が理想波形に近い正弦波信号及び余弦波信号で行われることになるので、その処理を正確に行うことが可能となる。
【0017】
本発明では、前記補正値を書き換えるべき条件が揃った際に、前記補正値テーブルに書き込まれた前記補正値を更新する更新手段を備えたことを要旨とする。
この構成によれば、ある程度のサイクルで補正値テーブルの補正値が更新手段によって更新されるので、その都度最適な補正値を用いて正弦波信号及び余弦波信号を補正することが可能となり、回転角度検出の精度向上に効果がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、回転角度を検出するに際してその検出精度を確保することができ、しかも、例えばその角度検出の際に用いる正弦波信号及び余弦波信号を回転角度検出装置以外の他の機器で用いた場合であっても、その共用先の機器がこれら正弦波信号及び余弦波信号を用いて処理を行う際に、その処理精度についても確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した回転角度検出装置の一実施形態を図1〜図6に従って説明する。
図1に示すように、車両には、ステアリングホイールの操舵角度を検出するステアリングアングルセンサ(SAS)1が搭載されている。ステアリングアングルセンサ1には、ステアリングホイール(回転物体)と操舵輪とを連結するステアリングシャフトに固着された主動ギア2が設けられている。この主動ギア2は、ステアリングシャフトと同一軸心上に設けられ、ステアリングホイールが操舵された際、ステアリングシャフトに同期して回動する。主動ギア2には、この主動ギア2と連れ回り可能な2つの従動ギア3,4が噛み合い係合されている。なお、ステアリングアングルセンサ1が回転角度検出装置に相当する。
【0020】
各ギア2〜4は、歯数が各々異なるように形成されている。ここで、例えば主動ギア2の歯数がL、第1従動ギア3の歯数がM(<L)であるとすると、主動ギア2が1回転した際には、第1従動ギア3はM/L回転する。また、例えば第2従動ギア4の歯数がN(<L)であるとすると、主動ギア2が1回転した際には、第2従動ギア4はN/L回転する。即ち、主動ギア2が回転した際、従動ギア3,4は、各々異なる回転位置をとった状態となる。
【0021】
各従動ギア3,4には、各々の従動ギア3,4の回転角度を検出可能な磁気抵抗素子(MRE)5,6が設けられている。第1従動ギア3用である第1磁気抵抗素子5は、第1従動ギア3に取り付けられた磁石7の磁界を検知し、第1従動ギア3が回転するに際して変化する磁石7の磁界向きに応じた出力をとる。第1磁気抵抗素子5は、ステアリングホイールの舵角変位、つまり第1従動ギア3の回転角度変位に対して出力が正弦波形(sin波形)をとる第1正弦波信号Vs1と、同じくその回転角度変位に対して出力が余弦波形(cos波形)をとる第1余弦波信号Vc1との2信号を電圧値で出力する。
【0022】
第2従動ギア4用である第2磁気抵抗素子6は、第2従動ギア4に取り付けられた磁石8の磁界を検知し、第2従動ギア4が回転するに際して変化する磁石8の磁界向きに応じた出力をとる。第2磁気抵抗素子6は、ステアリングホイールの舵角変位、つまり第2従動ギア4の回転角度変位に対して出力が正弦波形(sin波形)をとる第2正弦波信号Vs2と、同じくその回転角度変位に対して出力が余弦波形(cos波形)をとる第2余弦波信号Vc2との2信号を出力する。なお、磁気抵抗素子5,6及び磁石7,8が角度検出手段を構成する。
【0023】
ステアリングアングルセンサ1には、ステアリングホイールの操舵角度を算出するCPU(Central Processing Unit)9が設けられている。このCPU9には、上述した第1磁気抵抗素子5及び第2磁気抵抗素子6と、ステアリングアングルセンサ1の動作時に実行される各種プログラムを記憶したROM10と、操舵角度算出時に用いる各種データを記憶したEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)11とが接続されている。なお、CPU9が角度算出手段、補正手段(演算手段)及び更新手段を構成する。
【0024】
CPU9には、各種信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2の角度変位に対する出力変化の波形である角度変位波形12〜15を、理想値に近い波形に補正する波形補正機能が設けられている。ところで、第1磁気抵抗素子5及び第2磁気抵抗素子6のこの種の信号波形は、例えば図2において第1正弦波信号Vs1の角度変位に対する出力変化の波形12を示し、図3において第1余弦波信号Vc1の角度変位に対する出力変化の波形13を示すと、磁気抵抗素子5,6の組付バラツキや各々の回路特性などが原因で、図2及び図3に示すように、これら波形12,13の波形が脈動して歪み(誤差)を含んだ状態(図2及び図3の破線で示す波形)で出力されることがある。
【0025】
CPU9が行う波形補正機能は、この歪みを相殺して角度変位波形12〜15を理想波形に近づける機能であって、これは以下の考え方に基づく補正である。これを以下に詳述すると、各信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2の角度変位に対する信号変化(即ち、各角度変位波形12〜15)を関数F(x)とした場合、この関数F(x)をフーリエ変換すると、これは次式(1)で表すことが可能である。
【0026】
【数1】

ここで、式(1)における各フーリエ係数は、a0が定数項、a1,b1が基本波成分、n≧2のan,bnが高調波成分であって、これらは三角関数の直交性を用いることにより、各々の係数値を求めることが可能である。
【0027】
続いて、式(1)を展開した場合を考えるが、ここでは例えば図3に示す角度変位波形13を展開した例を挙げることとする。ここで、角度変位波形13の関数をf(x)とし、角度変位波形13が図3に示すような歪み波形をとり、これにより各フーリエ係数a0,an,bnが図4に示す係数値をとったとする。なお、この場合においては、nが5となるまでのフーリエ係数を用いているが、これよりも正確に角度変位波形13を補正するのであれば、nが5以上のフーリエ係数を求め、これを使用する形態をとってもよい。以上の条件下において、式(1)は次式(2)に展開可能である。
【0028】
【数2】

ここで、式(2)からも分かるように、関数f(x)において式(2)の右辺から「0.01×sinx+0.01×cos3x+0.01×sin3x+0.01×cos5x+0.01×sin5x」の項を減算すれば、右辺に残る項はcosxのみとなることから、この減算を行えば関数f(x)の理想関数を求めることが可能である。即ち、歪みのない角度変位波形13の理想関数をf0(x)とし、「0.01×sinx+0.01×cos3x+0.01×sin3x+0.01×cos5x+0.01×sin5x」の項を補正関数z(x)すると、次式(3)が成立する。
【0029】
【数3】

これを図3に示すように信号波形から見た場合、角度変位波形13の関数f(x)の波形から、「0.01×sinx」の波形、「0.01×cos3x」の波形、「0.01×sin3x」の波形、「0.01×cos5x」の波形及び「0.01×sin5x」の波形の計5波形を差し引いた波形が、理想関数f0(x)の信号波形に相当することが分かる。
【0030】
よって、式(2)及び式(3)を見ても分かるように、角度変位波形13の理想波形に相当するcosxは、関数f(x)から補正関数z(x)を減算した値になる。ここで、補正関数z(x)は関数f(x)をフーリエ変換することにより求まる値であるから、補正関数z(x)を逆フーリエ変換してそれを変換後補正関数z0(x)とし、歪みを含んだ波形である関数f(x)から逆フーリエ変換後の変換後補正関数z0(x)を減算すれば、歪みのない理想波形であるcosxが求まることになる。なお、このことは、第1正弦波信号Vs1、第2正弦波信号Vs2及び第2余弦波信号Vc2においても同様に言えることであり、その内容はフーリエ係数などが異なるだけで本質については同様であることから、これら信号Vs1,Vs2,Vc2における理想値の算出手順の詳細については省略する。
【0031】
そこで、本例の波形補正機能においては、図1に示すようにステアリングアングルセンサ1のEEPROM11にルックアップテーブル16を設け、このルックアップテーブル16に変換後補正関数z0(x)の実値として補正値Kを保存しておき、操舵角度算出時において、この補正値Kを用いて各種信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2を補正する。なお、ルックアップテーブル16が補正手段(補正値テーブル)を構成する。
【0032】
図5に第1余弦波信号Vc1のルックアップテーブル16を示すと、この補正値Kは、第1従動ギア3の角度検出ピッチで書き込まれ、本例においては1deg間隔で、かつ「0.01×sinx」、「0.01×cos3x」、「0.01×sin3x」、「0.01×cos5x」及び「0.01×sin5x」の項ごとに数値が分けられて書き込まれている。なお、補正値Kは、これら項ごとに分けられて書き込まれることに限らず、これらを加算した値そのものが書き込まれていてもよい。また、図5には第1余弦波信号Vc1のルックアップテーブル16を図示したが、他の信号Vs1,Vs2,Vc2についても同様のルックアップテーブル16がEEPROM11に格納されている。
【0033】
ルックアップテーブル16は、例えばステアリングアングルセンサ1の製造時又は出荷時において、補正値Kが作業者により書き込まれる手順をとる。即ち、例えばステアリングアングルセンサ1の製造時又は出荷時において、主動ギア2を仮回動させて第1従動ギア3及び第2従動ギア4を1回転させることにより、その時に得られる各波形12〜15をフーリエ変換することで、補正値Kの元となる基準補正値Ka(即ち、補正関数z(x))を求め、この基準補正値Kaを逆フーリエ変換することによって求まる補正値Kが角度検出ピッチでEEPROM11に書き込まれる。
【0034】
また、これ以外の補正値Kの書き込み例としては、ステアリングアングルセンサ1の使用時において、第1従動ギア3及び第2従動ギア4が1回転したことを条件に、それまでにサンプリングしておいた各波形12〜15をフーリエ変換及び逆フーリエ変換することにより、このときに求まる補正値Kを最新補正値としてルックアップテーブル16に上書きしてもよい。さらに、これは両ギア3,4が一回転する度に毎回上書きされることに限らず、両ギア3,4が一回転した時に前の上書きから一定時間経過していれば、それを条件にフーリエ変換及び逆フーリエ変換を行って補正値Kを上書きするものでもよい。また、この補正値Kの書き込みは、第1従動ギア3と第2従動ギア4とでそれぞれ別々のタイミングで行うようにしてもよい。
【0035】
CPU9は、操舵角度算出時において、第1磁気抵抗素子5から第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1を取得し、ルックアップテーブル16を用いてこれら各信号Vs1,Vc1を補正する。例えば第1余弦波信号Vc1の場合、CPU9は、ルックアップテーブル16を参照することにより、その時の第1余弦波信号Vc1(関数f(x))の信号値に対応する補正値Kを読み出し、その時の第1余弦波信号Vc1から補正値Kを減算することにより、第1余弦波信号Vc1の理想値として第1補正余弦波信号Vc1Rを算出する。この第1補正余弦波信号Vc1Rの角度変位波形は、図3に示すように理想的なcos波形17をとる信号波形となる。また、CPU9は、第1正弦波信号Vs1についても、第1余弦波信号Vc1と同様の手順で、第1正弦波信号Vs1の理想値である第1補正正弦波信号Vs1Rを算出する。この第1補正正弦波信号Vs1Rの角度変位波形は、図2に示すように理想的なsin波形18をとる信号波形となる。
【0036】
第1補正正弦波信号Vs1R及び第1補正余弦波信号Vc1Rを算出したCPU9は、第1補正正弦波信号Vs1R及び第1補正余弦波信号Vc1Rを用いて逆正接Arctanθa(=tan−1(sinθa/cosθa))を算出する。この逆正接Arctanθaは第1従動ギア角θaに対応していることから、CPU9はこの逆正接Arctanθaを第1従動ギア角θaとして算出する。
【0037】
CPU9は、第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1の場合と同様の手順で、第2正弦波信号Vs2を補正することにより第2補正正弦波信号Vs2Rを求め、同じく第2余弦波信号Vc2を補正することにより第2補正余弦波信号Vc2Rを求める。第2補正正弦波信号Vs2R及び第2補正余弦波信号Vc2Rを算出したCPU9は、第2補正正弦波信号Vs2R及び第2補正余弦波信号Vc2Rの逆正接Arctanθb(=tan−1(sinθb/cosθb))を算出する。この逆正接Arctanθbは第2従動ギア角θbに対応していることから、CPU9はこの逆正接Arctanθbを第2従動ギア角θbとして算出する。
【0038】
CPU9は、第1従動ギア角θa及び第2従動ギア角θbを算出すると、これらギア角θa,θbの組み合わせを見ることにより、主動ギア2の主動ギア角θx、つまりステアリングホイールの操舵角度を算出する。CPU9は、この操舵角度を絶対角で算出し、例えば0度〜1440度の検出範囲で角度検出を行うことにより、ステアリングホイールの回転を4回転の範囲で検出する。CPU9は、算出した操舵角度の角度データを、車内LANを介して車内の各種ECU(メータECU、エンジンECU等)に出力する。
【0039】
図1に示すように、ステアリングアングルセンサ1には、旋回時において路面に対する車輪の摩擦力の限界を超え難くする車両安定性制御システム(VSC)19が接続されている。車両安定性制御システム19は、車両がオーバースピードで車道のコーナーに侵入したり、或いは急激なステアリング操作などによって車体姿勢が乱れた際に車両が横滑りしたりする挙動を、ブレーキとエンジン出力との調節によって制御するシステムであって、ステアリングアングルセンサ1内のインターフェース20を介してCPU9に接続されている。
【0040】
また、ステアリングアングルセンサ1のCPU9は、磁気抵抗素子5,6の第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1を、図6に示すように時間変位に対する出力変化を表す時間変位波形21,22として取得している。CPU9は、これら第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1を入力した際、操舵角度の算出に同期して、各信号Vs1,Vc1の時間変位波形21,22を、予め設定されたスレッシュレベルVhを超える時にはHレベル、それを下回る時にはLレベルとなる正弦側矩形波23及び余弦側矩形波24に各々変換する。このスレッシュレベルVhは、CPU9のプログラム内容を書き換えることにより、適宜設定変更可能である。CPU9は、これら正弦側矩形波23及び余弦側矩形波24を車両安定性制御システム19に出力する。
【0041】
そして、車両安定性制御システム19は、これら矩形波23,24を入力すると、正弦側矩形波23(余弦側矩形波24でも可)のパルス数をカウントすることにより、ステアリングホイールの操舵角度を検出するとともに、正弦側矩形波23及び余弦側矩形波24のうちどちらのエッジを先に検出するかを見ることにより、ステアリングホイールの操舵方向を検出する。CPU9は、このように求めた操舵角度及び操舵方向を見ることにより、ステアリングホイールの操作状況を認識し、そのステアリング操作状況に応じた車両安定性制御を実施する。なお、車両安定性制御システム19が外部機器に相当し、インターフェース20が出力手段に相当する。
【0042】
さて、本例においては、フーリエ変換及び逆フーリエ変換を用いて第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1(第2正弦波信号Vs2及び第2余弦波信号Vc2)を補正し、その補正後の第1補正正弦波信号Vs1R及び第1補正余弦波信号Vc1R(第2補正正弦波信号Vs2R及び第2補正余弦波信号Vc2R)から逆正接を求めることにより、ステアリングホイールの操舵角度検出を行う。よって、磁気抵抗素子5,6の組付誤差などにより、磁気抵抗素子5,6の出力する各種信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2に歪み成分(誤差)が含まれていたとしても、この補正によって歪み成分が打ち消されることになり、ステアリングホイールの操舵角度検出の精度確保に効果がある。
【0043】
また、本例の場合は、第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1(第2正弦波信号Vs2及び第2余弦波信号Vc2)自体を補正する。従って、角度検出系の部品点数低減を目的として、ステアリングアングルセンサ1の磁気抵抗素子5,6で取得した第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1(第2正弦波信号Vs2及び第2余弦波信号Vc2)を、ステアリングアングルセンサ1のみならず車両安定性制御システム19で用いるようにしたとしても、車両安定性制御システム19で制御誤差を生じ難くすることが可能となる。このため、検出系部品の低減と、車両安定性制御の制御精度確保との両立を図ることが可能となる。
【0044】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)フーリエ変換及び逆フーリエ変換を用いることにより、第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1(第2正弦波信号Vs2及び第2余弦波信号Vc2)を補正するので、これら信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2に歪み成分が含まれていても、これら歪み成分が補正によって打ち消される。よって、誤差が相殺された第1補正正弦波信号Vs1R及び第1補正余弦波信号Vc1R(第2補正正弦波信号Vs2R及び第2補正余弦波信号Vc2R)から逆正接を求めてステアリングホイールの操舵角度を算出するので、操舵角度の検出精度を確保することができる。また、操舵角度検出に際して正弦波及び余弦波から逆正接を求めるにしても、逆正接を求める前の第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1(第2正弦波信号s2及び第2余弦波信号Vc2)を補正している。このため、角度検出系の部品低減を目的として、ステアリングアングルセンサ1が取得する第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1を車両安定性制御システム19に出力し、第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1をステアリングアングルセンサ1及び車両安定性制御システム19で共用するようにしても、誤差の含まれていない第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1が車両安定性制御システム19に提供されるので、車両安定性制御システム19の制御精度についても確保することができる。
【0045】
(2)磁気抵抗素子5,6が出力する各種信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2の補正に際しては、ステアリングアングルセンサ1内のEEPROM11に格納されたルックアップテーブル16を参照することにより補正値Kを読み出し、検出した元の信号値から補正値Kを減算することによって行われる。従って、各種信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2の補正は、ルックアップテーブル16を参照するという簡素な処理で済むことになるので、各種信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2を補正するにあたっては、補正処理時間の短時間化などの効果が得られる。
【0046】
(3)例えばステアリングホイールが1回転したりした場合などの補正値更新条件が成立した際には、ルックアップテーブル16の補正値Kが更新される。従って、その都度最適な補正値Kを用いて第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1(第2正弦波信号Vs2及び第2余弦波信号Vc2)を補正することができ、ステアリングホイールの操舵角度の検出精度向上に一層寄与する。
【0047】
(4)2つの磁気抵抗素子5,6を用い、これら磁気抵抗素子5,6の出力から求まる2つの逆正接の組み合わせから、ステアリングホイールの操舵角度を検出する。従って、例えば磁気抵抗素子を1つのみ用いる場合に比べ、高分解能で操舵角度の角度検出を行うことができる。
【0048】
なお、本実施形態はこれまでの構成に限定されず、以下の態様に変更してもよい。
・ 角度検出手段として設けた磁気抵抗素子は、複数(実施例においては2つ)存在することに限定されず、例えば1つのみ設けるようにしてもよい。この場合、例えば主動ギア2に連れ回りする従動ギアを1つだけ設け、この従動ギアの回転を検出する磁気抵抗素子を1つ設ける構成となる。
【0049】
・ 角度検出手段として磁気検出系を用いた場合、これは磁石の磁界方向を検出する磁気抵抗素子5,6に限定されず、例えば磁石の磁界強さを検出するホール素子でもよい。また、この種の角度検出手段は、必ずしも磁気検出系に限定されず、例えば光センサを用いてもよい。
【0050】
・ 磁気抵抗素子5,6が出力する各種信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2の補正手法は、必ずしもフーリエ及び逆フーリエ変換を用いた手法に限らず、各種信号Vs1,Vc1,Vs2,Vc2に含まれる歪み成分を消去可能な手法であれば、これは特に限定されない。
【0051】
・ ステアリングアングルセンサ1が矩形波23,24を出力するその出力対象は、必ずしも車両安定性制御システム19に限らず、磁気抵抗素子5により検出される第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1(磁気抵抗素子6の第2正弦波信号Vs2及び第2余弦波信号Vc2でも可)を用いて作動する機器であれば、それは特に限定されない。
【0052】
・ 第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1を矩形波23,24に変換する処理は、必ずしもCPU9が行うことに限定されない。例えば、ステアリングアングルセンサ1から車両安定性制御システム19へは第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1が出力され、車両安定性制御システム19が第1正弦波信号Vs1及び第1余弦波信号Vc1を矩形波23,24に変換する処理を行ってもよい。
【0053】
・ 回転角度検出装置は、ステアリングホイールの操舵角度を検出するステアリングアングルセンサ1に限らず、回転物体の回転角度を検出するものであれば、その採用対象は特に限定されない。
【0054】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
【0055】
(1)請求項1〜4のいずれか一項において、前記角度検出手段は、主動ギアに連れ回りする従動ギアごとに設けられ、互いに歯数の異なる前記従動ギアの回転を各々検出することにより、当該回転に応じた前記正弦波信号及び前記余弦波信号を前記従動ギア単位で出力し、前記角度算出手段は、前記角度検出手段が各々出力する互いに波形の異なる前記正弦波信号及び前記余弦波信号を用い、前記従動ギア単位で前記逆正接を求め、複数求まる前記逆正接の組み合わせから前記回転物体の前記回転角度を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】一実施形態におけるステアリングアングルセンサの概略構成を示す構成図。
【図2】磁気抵抗素子が出力する正弦波信号の角度変位に対する変化を表す波形図。
【図3】磁気抵抗素子が出力する余弦波信号の角度変位に対する変化を表す波形図。
【図4】フーリエ係数の一例を示す表。
【図5】信号補正時に用いるルックアップテーブルの一例を示すテーブル図。
【図6】(a)は正弦波信号を変換して導出した矩形波の波形図、(b)は余弦波信号を変換して導出した矩形波の波形図。
【図7】(a)は従来における角度センサが出力する正弦波信号及び余弦波信号の角度変位に対する変化を表した波形図、(b)は正弦波信号及び余弦波信号から求まる逆正接の角度変位に対する変化を表した波形図、(c)は正弦波信号及び余弦波信号から求まるリサージュ波形の波形図。
【図8】(a)は正弦波信号及び余弦波信号に歪み成分が含まれている場合の逆正接の角度変位に対する変化を表した波形図、(b)は正弦波信号及び余弦波信号に歪み成分が含まれている場合のリサージュ波形の波形図。
【図9】(a)は正弦波信号を変換して導出した矩形波の波形図、(b)は余弦波信号を変換して導出した矩形波の波形図。
【符号の説明】
【0057】
1…回転角度検出装置としてのステアリングアングルセンサ、5,6…角度検出手段を構成する磁気抵抗素子、7,8…角度検出手段を構成する磁石、9…角度算出手段、補正手段(演算手段)及び更新手段を構成するCPU、16…補正手段(補正値テーブル)を構成するルックアップテーブル、12〜15…角度変位波形、19…外部機器としての車両安定性制御システム、20…出力手段としてのインターフェース、Vs1,Vs2…正弦波信号、Vc1,Vc2…余弦波信号、Arctanθa,Arctanθb…逆正接、K…補正値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転物体の角度検出に際してその検出信号を、前記回転物体の角度変位に対して正弦波の出力をとる正弦波信号と、前記角度変位に対して余弦波の出力をとる余弦波信号とで出力する角度検出手段と、
前記正弦波信号及び前記余弦波信号の逆正接を算出し、当該逆正接により前記回転物体の回転角度を算出する角度算出手段とを備えた回転角度検出装置において、
前記回転物体の角度変位に対する前記正弦波信号及び前記余弦波信号の変化を見た場合、その角度変位波形が歪みのない理想波形に近づくように、前記逆正接を求める前の前記正弦波信号及び前記余弦波信号を補正する補正手段を備えたことを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項2】
前記補正手段は、
前記角度変位波形をフーリエ変換することによって抽出される前記角度変位波形の歪み成分を逆フーリエ変換することにより求めた補正値が記憶された補正値テーブルと、
前記正弦波信号及び余弦波信号を取得した際、前記補正値テーブルを参照してその時の信号値に対応した前記補正値を読み出し、当該補正値を用いて前記正弦波信号及び前記余弦波信号の歪み成分を除去することにより、前記正弦波信号及び前記余弦波信号の前記理想値を演算する演算手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の回転角度検出装置。
【請求項3】
補正した前記正弦波信号及び前記余弦波信号を他の外部機器に出力し、当該外部機器において前記正弦波信号及び前記余弦波信号を必要とする処理を実行させる出力手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角度検出装置。
【請求項4】
前記補正値を書き換えるべき条件が揃った際に、前記補正値テーブルに書き込まれた前記補正値を更新する更新手段を備えたことを特徴とする請求項2又は3に記載の回転角度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−304000(P2007−304000A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133980(P2006−133980)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】