説明

回転軸装置

【課題】オイルシールの気密性を損なうことなく、回転軸装置(ディファレンシャル装置)の軸方向の長さを短くする。
【解決手段】ケーシング11にアンギュラ軸受20を介して回転軸30を回転可能に軸承し、回転軸30とケーシング11間にオイルシール40を設け、アンギュラ軸受20内にこれを潤滑する潤滑油を設けた回転軸装置において、アンギュラ軸受20は、ケーシングに取付けられる外輪23と、外輪23の内周側に配置され、回転軸30に取付けられる内輪21、22と、外輪23と内輪21、22間に配置された転動体24、26と、転動体24、26を回転可能に保持する保持器25、27とからなり、保持器27のオイルシール40側の端面に半径方向内方へ突出し、前記潤滑油を遮蔽する遮蔽部27eを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸をアンギュラ軸受を介して回転可能に支持した回転軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のディファレンシャル装置は、ピニオン軸の回転を、リングギヤ、ディファレンシャルギヤケース、遊星歯車を介して車軸に伝えている。図4(特許文献1)に示すように、前記ピニオン軸100はケーシング110にアンギュラ軸受120を介して回転可能に支持され、ピニオン軸100(回転軸)、アンギュラ軸受120、ケーシング110の一部から回転軸装置が構成される。
【0003】
前記アンギュラ軸受120は、ケーシング110の取付け穴111に嵌合される外輪121と、外輪121の内周側に軸方向に2列配列された第1の内輪122、第2の内輪123と、外輪121と第1の内輪122間に配置された第1の玉124と、外輪121と第2の内輪123間に配置された第2の玉125と、第1の玉124を回転可能に保持する第1の保持器126と、第2の玉125を回転可能に保持する第2の保持器127とからなっている。
【0004】
前記外輪121の一端内周にオイルシール130が嵌合固定され、オイルシール130の内周側に設けられた2つのリップ部131、132が前記第2の内輪123に対して回転可能に摺接している。このオイルシール130によって、ケーシング110内の潤滑油が外部へ漏れるのを防止している。
【0005】
前記ケーシング110内の潤滑油は、前記アンギュラ軸受120に供給されるようになっている。すなわち、前記リングギヤによって掻き揚げられた潤滑油は、ケーシング110の潤滑油溝112と、外輪121の貫通穴121aを経由して2列の玉124、125間へ供給され、アンギュラ軸受のポンプ作用によって内輪122、123の小径側から大径側へ送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−9930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第2の内輪123の小径側から大径側へ流れる潤滑油が、前記リップ部131、132の内周に作用して、リップ部131、132をピニオン軸100から離れる方向に浮き上がらせようとするため、オイルシール130の気密性が損なわれる。これに対し、第2の玉125とオイルシール130をより離間させ、前記リップ部131、132の内周に作用する潤滑油の勢いを弱める方法があるが、この場合、ピニオン軸100、しいてはディファレンシャル装置の軸方向長さが長くなる課題がある。本発明は上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的は、オイルシールの気密性を損なうことなく、回転軸装置(ディファレンシャル装置)の軸方向の長さを短くする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、ケーシングにアンギュラ軸受を介して回転軸を回転可能に軸承し、前記回転軸と前記ケーシング間にオイルシールを設け、アンギュラ軸受内にこれを潤滑する潤滑油を設けた回転軸装置において、前記アンギュラ軸受は、前記ケーシングに取付けられる外輪と、外輪の内周側に配置され、前記回転軸に取付けられる内輪と、外輪と内輪間に配置された転動体と、転動体を回転可能に保持する保持器とからなり、保持器のオイルシール側の端面に半径方向内方へ突出し、前記潤滑油を遮蔽する遮蔽部を設けたものである。
【0009】
この構成によれば、アンギュラ軸受のポンプ作用によって、内輪の小径側から大径側へ潤滑油が流れ、この潤滑油は保持器の遮蔽部で跳ね返される。これにより、オイルシールに作用する潤滑油の勢いが弱まるので、オイルシールの気密性を保てる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記アンギュラ軸受は、転動体として玉を使用したアンギュラ玉軸受にしたものである。
【0011】
この構成によれば、玉はコロと比較してアンギュラ軸受における軸方向寸法が短いので、転動体として玉を用いれば、アンギュラ軸受の軸方向の長さを短く出来る。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記保持器は、リング状の環状部と、この環状部に対してオイルシール側へ延びる柱部を有し、前記環状部と前記柱部に前記玉を転動可能に保持するポケットを形成し、前記柱部のオイルシール側の端面にオイルシール側へ延びる連結部を連結し、この連結部のオイルシール側の端面に前記玉に接触しない位置に円盤状の前記遮蔽部を連結したものである。
【0013】
この構成によれば、柱部と遮蔽部間にリング状の環状部が無い分だけ、遮蔽部で跳ね返された潤滑油が外輪側へ移動しやすくなり、潤滑油の循環がスムーズになるメリットがある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アンギュラ軸受のポンプ作用によって、内輪の小径側から大径側へ潤滑油が流れ、保持器の遮蔽部で跳ね返される。これにより、オイルシールに作用する潤滑油の勢いが弱まるので、オイルシールの気密性を保てる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態におけるディファレンシャル装置の縦断面図
【図2】本発明の実施形態におけるディファレンシャル装置の回転軸装置の縦断面図
【図3】本発明の実施形態における回転軸装置の保持器の外観図
【図4】従来の回転軸装置の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の回転軸装置を自動車のディファレンシャル装置に用いた実施形態を、図1乃至図3にもとづいて説明する。図1は、ディファレンシャル装置の縦断面図、図2は、ディファレンシャル装置の回転軸装置の縦断面図、図3は、回転軸装置の保持器の外観図である。
【0017】
図1において、自動車のディファレンシャル装置10は、ケーシング11を有し、このケーシング11にリングギヤ12が回転可能に軸支されている。また、ケージング11にアンギュラ玉軸受20を介してピニオン軸30が回転可能に軸支されている。前記リングギヤ12の回転軸線とピニオン軸30の回転軸線は、互いに上下方向にずれ、直交している。
【0018】
ピニオン軸30の一端には、リングギヤ12と噛合うピニオンギヤ30aが形成され、ピニオン軸21の他端には、フランジ継手31が固定されている。ピニオン軸30のピニオンギヤ30aとフランジ継手31間には、小径部30bが形成され、この小径部30bにアンギュラ玉軸受20の第1の内輪21と第2の内輪22が嵌合されている。ケーシンング11には、ピニオン軸30と同軸に取付け穴11aが形成され、この取付け穴11aにアンギュラ玉軸受20の外輪23が嵌合されている。外輪23と第1の内輪21間には、複数の第1の玉24が転動可能に配置され、これら第1の玉24は円周方向に等間隔に配置されるよう第1の保持器25に転動可能に保持されている。外輪23と第2の内輪22間には、複数の第2の玉26が転動可能に配置され、これら第2の玉26は円周方向に等間隔に配置されるよう第2の保持器27に転動可能に保持されている。
【0019】
前記ピニオン軸30、フランジ継手31、アンギュラ玉軸受20、ケーシング11の一部によって、回転軸装置が構成される。
【0020】
前記第1の内輪21の内周面には、第1の内輪側転動面21aが形成され、前記第2の内輪22の内周面には、第2の内輪側転動面22aが形成されている。前記外輪23の外周面には、互いに軸方向に離間して第1の外輪側転動面23aと第2の外輪側転動面23bが形成され、第1の外輪側転動面23aと第2の外輪側転動面23bは、第1の内輪側転動面21aと第2の内輪側転動面22aよりも内側に形成されている。前記第1の玉24は、第1の内輪側転動面21aと第1の外輪側転動面23a上を転動し、前記第2の玉26は、第2の内輪側転動面22aと第2の外輪側転動面23b上を転動するようになっている。
【0021】
図2に示すように、第1の内輪21を支持するときにかかる力の方向mが半径方向外方に向かって第2の内輪22側へ傾斜し、第2の内輪22を支持するときにかかる力の方向nが半径方向外方に向かって第1の内輪21側へ傾斜している。前記2つの力の方向m、n、すなわち2つのアキシャル方向によって、ピニオン軸21はラジアル方向並びにスラスト方向に支持されるようになっている。
【0022】
前記第1の保持器25は、リング状の第2の保持器側環状部25aと、軸方向に延びる柱部25bとからなる冠型保持器である。前記第2の保持器27は、リング状の第1の保持器側環状部27aと、軸方向に延びる柱部27bとからなる冠型保持器である。柱部25b、27bは、円周方向に等間隔に設けられ、第2の保持器側環状部25aと柱部25bとで第1の玉24を転動可能に保持する第1のポケット25cが形成され、第1の保持器側環状部27aと柱部27bとで第2の玉26を転動可能に保持する第2のポケット27cが形成されている。前記第1の保持器25と前記第2の保持器27は、後述する連結部27dと遮蔽部27eの有無を除き、同一の構成である。
【0023】
図3に示すように、前記第2の保持器27は、さらに2つ置きの柱部27bの端面に一端面が連結されピニオンギヤ30aと反対側へ延びる連結部27dと、連結部27dの他端面に連結された円盤状の遮蔽部27eを有する。遮蔽部27eは、連結部27dに対して半径方向外方並びに半径方向内方へ突出している。遮蔽部27eの半径方向内方側は、第2の内輪22の外周面近傍まで延びている。
【0024】
図2に示すように、前記外輪23のフランジ継手31側の内周面には、オイルシール40が嵌合固定されている。オイルシール40は、金属環41、ゴム部42、リング状のバンド42とからなっている。ゴム部42は、3つのリップ部42a、42b、42cを有する。第1のリップ部42aと第2のリップ部42bは、第2の内輪22の外周面に回転可能に摺接し、第3のリップ部42cは、フランジ継手31の外周面に嵌合固定されたプロテクタ50の側面に回転可能に摺接する。第1のリップ部42aのみが前記バンド42によって半径方向内方へ押付けられるようになっている。
【0025】
前記ケーシング11には、取付け穴11aの上部に開口する油導入溝11bが形成され、油導入溝11bの一端はケーシング11内部の空間11cに開口している。空間11cは、リングギヤ12の回転を許容するとともに、潤滑油を貯留する役目を持っている。潤滑油は、リングギヤ12の下からリングギヤ12の直径の4分の1の深さまで入っている。またケーシング11には、取付け穴11aの下部に開口する油戻り溝11dが形成され、油戻り溝11dの一端はケーシング11内部の空間11cに開口している。
【0026】
前記外輪23には、前記油導入溝11bと対応する位置に半径方向に貫通するパス穴23cが形成されている。パス穴23cの内径側は、ピニオン軸30の軸方向において、第1の内輪21と第2の内輪22間に対応する位置に開口している。また外輪23には、前記油戻り溝11dと対応する位置に貫通するパス穴23dが形成されている。パス穴23dの内径側は、ピニオン軸30の軸方向において、連結部27dに対応する位置に開口している。
【0027】
次に上述した構成にもとづいて、動作を説明する。
【0028】
ピニオン軸30が回転すると、これに噛合するリングギヤ12も回転する。リングギヤ12の回転は、さらに図略のディファレンシャルギヤケース、遊星歯車を介して車軸に伝えられる。
【0029】
ケーシング11内部の空間11cには、潤滑油がリングギヤ12の下からリングギヤの直径の4分の1の深さまで入っている。リングギヤ12の回転によって、貯留された潤滑油が掻き揚げられ、油導入溝11bに導かれる。さらに、パス穴23cを通って、第1の内輪21と第2の内輪22間に導かれる。ピニオン軸30の回転によって、第1の内輪21と第2の内輪22がピニオン軸30と同方向に同量回転し、第1の玉24と第2の玉26が公転しながらピニオン軸30と同方向に回転する。また、第1の保持器25と第2の保持器27がピニオン軸30と同方向に回転する。この結果、アンギュラ玉軸受20自体のポンプ作用により、第1の内輪21において、小径側から大径側へ潤滑油が流れ、ケーシング11内部の空間11cへ導かれる。また、アンギュラ玉軸受20自体のポンプ作用により、第2の内輪22において、小径側から大径側へ潤滑油が流れ、第2の保持器27の遮蔽部27eで跳ね返される。跳ね返された潤滑油は、外輪23の第2の外輪側転動面23bに沿って第1の内輪21と第2の内輪22間へ戻されるか、あるいは、パス穴23d、油戻り溝11dを経てケーシング11内部の空間11cへ戻される。
【0030】
第2の内輪22の第2の内輪側転動面22aに沿って潤滑油が、第2の内輪22の小径側から大径側へ流れるときに、第2の保持器27の遮蔽部27eで潤滑油が跳ね返され、オイルシール40の第1のリップ部42aの内周面に作用する潤滑油の流速を小さくするとともに流量を減らしているので、オイルシール40から外部へ潤滑油の漏れが無くなる。遮蔽部27eで跳ね返された潤滑油が、外輪23側へ流れるときに、遮るものは、連結部27dしかないためスムーズに流れる。
【0031】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0032】
上述した実施形態は、アンギュラ軸受として、アンギュラ玉軸受20を使用した例について述べたが、円すいころ軸受を使用しても良い。この場合、アンギュラ玉軸受20の第1の玉24を第1の円すいころに置き換え、第2の玉26を第2の円すいころに置き換え、第1の円すいころと第2の円すいころの小径側が内側に、第1の円すいころと第2の円すいころの大径側が外側になるように配置する。アンギュラ玉軸受20から円すいころ軸受に変更することにより、軸方向長さが長くなる反面、ラジアル荷重、スラスト荷重を高めることが出来る。
【0033】
さらに上述した実施形態は、第2の保持器27として、リング状の第1の保持器側環状部27aと、軸方向に延びる柱部27bとからなる冠型保持器について説明したが、軸方向にずらしてリング状の第1の保持器側環状部とリング状のオイルシール側環状部を配置し、第1の保持器側環状部とオイルシール側環状部を円周方向に複数配置した柱部27bで繋いだ保持器を使用しても良い。この場合、オイルシール側環状部に連結部の一端を連結し、連結部の他端に遮蔽部を連結する。
【0034】
またさらに上述した実施形態は、外輪23と第2の内輪22をフランジ継手31側へ軸方向に延ばし、オイルシール40をアンギュラ玉軸受20の外輪23に嵌合固定したが、オイルシール40と遮蔽部27e間で外輪23と第2の内輪22を軸方向に分割しても良い。
【0035】
上述した実施形態は、回転軸としてディファレンシャル装置10のピニオン軸30を適用した例について述べたが、回転軸として工作機械の横型マシニングセンタの主軸を適用しても良い。
【0036】
さらに上述した実施形態は、回転軸としてディファレンシャル装置10のピニオン軸30を適用した例について述べたが、回転軸として自動車のトランスファー装置のピニオン軸を適用しても良い。
【符号の説明】
【0037】
11:ケーシング、20:アンギュラ玉軸受(アンギュラ軸受)、21:第1の内輪(内輪)、22:第2の内輪(内輪)、23:外輪、24:第1の玉(転動体)、25:第1の保持器(保持器)、26:第2の玉(転動体)、27:第2の保持器(保持器)、27a:第1の保持器側環状部(環状部)、27b:柱部、27e:遮蔽部、30:ピニオン軸(回転軸)、40:オイルシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングにアンギュラ軸受を介して回転軸を回転可能に軸承し、前記回転軸と前記ケーシング間にオイルシールを設け、アンギュラ軸受内にこれを潤滑する潤滑油を設けた回転軸装置において、
前記アンギュラ軸受は、前記ケーシングに取付けられる外輪と、外輪の内周側に配置され、前記回転軸に取付けられる内輪と、外輪と内輪間に配置された転動体と、転動体を回転可能に保持する保持器とからなり、保持器のオイルシール側の端面に半径方向内方へ突出し、前記潤滑油を遮蔽する遮蔽部を設けたことを特徴とする回転軸装置。
【請求項2】
前記アンギュラ軸受は、転動体として玉を使用したアンギュラ玉軸受であることを特徴とする請求項1に記載の回転軸装置。
【請求項3】
前記保持器は、リング状の環状部と、この環状部に対してオイルシール側へ延びる柱部を有し、前記環状部と前記柱部に前記玉を転動可能に保持するポケットを形成し、前記柱部のオイルシール側の端面にオイルシール側へ延びる連結部を連結し、この連結部のオイルシール側の端面に前記玉に接触しない位置に円盤状の前記遮蔽部を連結したことを特徴とする請求項2に記載の回転軸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−87823(P2012−87823A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232519(P2010−232519)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】