説明

回転軸装置

【課題】径の小さいところでリップ部を摺接させることで、摩擦による発熱を小さくするとともに、トルクロスを小さくする。
【解決手段】転がり軸受20は、リング状の外輪21と、内輪22,32と、外輪21および内輪22,32間で転動する転動体24,34とからなり、外輪21をハウジング11に嵌合固定し、内輪22,32を回転軸40に嵌合し、回転軸40の一端にコンパニオンフランジ50を固定するとともにコンパニオンフランジ50で内輪22の軸方向一端を挟み込み、外輪21の内周にオイルシール60を取付け、オイルシール60の内周側のリップ部64をコンパニオンフランジ50に摺接させた回転軸装置10において、内輪22より内径側へ突出し、かつコンパニオンフランジ50で軸方向一端が挟み込まれる突出部22bを設け、コンパニオンフランジ50のリップ部64の摺接する外径を、内輪22の回転軸40に嵌合される内径よりも小さくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を転がり軸受を介して回転可能に軸承した回転軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、自動車のディファレンシャル装置100は、ディファレンシャルケース101に転がり軸受110を介して回転軸120を回転可能に軸承し、回転軸120の一端に形成されたピニオンギヤ121を図略のリングギヤに噛合させている。転がり軸受110は、外輪111と、内輪112、113と、玉114、115と、保持器116、117とからなり、外輪111の内周にオイルシール130が圧入嵌合され、オイルシール130の内周側のリップ部131、132が内輪112の外周に摺接している。回転軸120に回転連結されたコンパニオンフランジ140の外周にスリンガー150を圧入嵌合し、スリンガー150の内側側面にオイルシール130の側方リップ部133を摺接させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4525208号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内輪112の最大径でリップ部131、132を摺接させているため、周速が大きく、摩擦による発熱が大きく、オイルスラッジが発生して密封性が低下しやすい。また、摩擦によるトルクロスが大きい。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的は、径の小さいところでリップ部を摺接させることで、摩擦による発熱を小さくするとともに、トルクロスを小さくする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、転がり軸受は、リング状の外輪と、この外輪の内周側に配置される内輪と、前記外輪および前記内輪間で転動する転動体とからなり、前記外輪をハウジングに嵌合固定し、前記内輪を前記回転軸に嵌合し、前記回転軸の一端にコンパニオンフランジを固定するとともに前記コンパニオンフランジで前記内輪の軸方向一端を挟み込み、前記外輪の内周にオイルシールを取付け、オイルシールの内周側のリップ部を前記コンパニオンフランジに摺接させた回転軸装置において、
前記内輪より内径側へ突出し、かつ前記コンパニオンフランジで軸方向一端が挟み込まれる突出部を設け、前記コンパニオンフランジのリップ部の摺接する外径を、前記突出部の内径よりも大きく、前記内輪の前記回転軸に嵌合される内径よりも小さくしたものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記突出部は、前記内輪に一体形成されたものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記突出部が、前記内輪とは別体のものであり、前記突出部の軸方向他端は、前記内輪で挟み込まれるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、突出部を内輪よりも内径側へ突出させることにより、オイルシールのリップ部が摺接するコンパニオンフランジの外径を、内輪の回転軸に嵌合される内径よりも小さくすることができ、リップ部の周速が小さくなることにより、摩擦による発熱を小さくするとともに、トルクロスを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態における回転軸装置の縦断面図
【図2】本発明の一実施形態における図1の要部拡大断面図
【図3】本発明の他の実施形態における回転軸装置の断面図
【図4】従来の回転軸装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を、図1および図2にもとづいて説明する。図1は、回転軸装置の縦断面図、図2は、図1の要部拡大断面図である。
【0012】
図1および図2において、自動車のディファレンシャル装置は、ディファレンシャルケース11と、このディファレンシャルケース11に軸線P回りに回転可能に軸承されたリングギヤ80と、回転軸装置10とを有する。
【0013】
回転軸装置10は、ディファレンシャルケース11の一部と、このディファレンシャルケース11の一部に取り付けられた転がり軸受20と、この転がり軸受20を介してディファレンシャルケース11に回転可能に軸承されたピニオン軸40と、ピニオン軸40の一端に取付けられたコンパニオンフランジ50とを有している。前記リングギヤ50の回転軸線とピニオン軸40の回転軸線は、互いに立体的に交差している。
【0014】
ディファレンシャルケース11にはピニオン軸40の軸線方向に貫通した貫通穴12が形成され、この貫通穴12に転がり軸受20が嵌合されている。転がり軸受20は、貫通穴12に嵌合される外輪21と、外輪21の内周側に配置される内輪22、32と、外輪21および内輪22、32間を転動する玉24、34と、玉24、34を回転可能に保持する保持器23、33とからなっている。転がり軸受20は、一つの外輪21に対し、二つの内輪22、32を軸方向に配置した一対のアンギュラ玉軸受である。
【0015】
外輪21の内周に2つの外輪側軌道面21a、31aが形成され、これら外輪側軌道面21a、31aに対応する位置で内輪22、32の外周に内輪側軌道面22a、32aが形成されている。外輪21は、内輪22に対し内輪23と反対側へ軸方向に突出した突起部を有し、さらにこの突起部に対し外径方向へ突出したフランジ部を有する。外輪21の軸方向に突出した突起部の内周に、後述するオイルシール60が嵌合固定される第4の嵌合面21bが形成されている。内輪22は、内輪23と反対側の端面より内径方向へ突出した突出部22bを有し、この突出部22bの内周にはピニオン軸40の後述する第2の嵌合面43に嵌合される第2の被嵌合面が形成されている。内輪22、32の内周には、ピニオン軸40の後述する第1の嵌合面42に嵌合される第1の被嵌合面が形成されている。第2の被嵌合面は、第1の被嵌合面より小径である。
【0016】
ピニオン軸40のリングギヤ80側の他端には、リングギヤ80と噛合うピニオンギヤ41が形成され、ピニオン軸40の一端には、ネジ部45が形成されている。ピニオン軸40には、ピニオンギヤ41およびネジ部45間でピニオンギヤ41側から順に第1の嵌合面42、第2の嵌合面43、スプライン44が形成されている。第2の嵌合面43は、第1の嵌合面42よりも小径であり、スプライン44は、第2の嵌合面43よりも小径である。ピニオンギヤ41および第1の嵌合面42間には第1の段部が形成され、第1の嵌合面42および第2の嵌合面43間には第2の段部が形成され、第2の嵌合面43およびスプライン44間には第3の段部が形成されている。
【0017】
第1の段部に内輪32のピニオンギヤ41側の端面が当接し、第2の段部に突出部22bのピニオンギヤ41側の端面が当接するか、隙間を持って対向し、第3の段部にコンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41側の後述する端面53が隙間を持って対向する。スプライン44には、コンパニオンフランジ50が嵌合され、コンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41側の後述する端面53は、突出部22bのピニオンギヤ41と反対側の端面に当接する。ネジ部45には、ワッシャ56が嵌め込まれ、さらにナット58が螺合されている。ナット58を締めることにより、内輪22、32は、第1の段部およびコンパニオンフランジ50の後述する端面53間で挟み込まれる。
【0018】
コンパニオンフランジ50は、円筒状で、この円筒状の一端に外径方向へ突出したフランジ部を有する。円筒状の外周には、摺動面51が形成され、この摺動面51に後述するオイルシール60の第1のリップ部64および第2のリップ部65が摺接する。摺動面51のフランジ部側にはスリンガー70が嵌合固定されている。コンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41側には、突出部22bに当接する端面53を有する。コンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41と反対側の一端には、図略の伝達軸がボルト等で連結され、エンジンからの回転動力が伝達されるようになっている。
【0019】
オイルシール60は、外輪21の第4の嵌合面21bに嵌合固定され、オイルシール60の内周側の第1のリップ部64および第2のリップ部65は、コンパニオンフランジ50の摺動面51に摺接している。オイルシール60は、金属製の芯金61と、芯金61に加硫接着されたゴム製のシール本体62とからなっている。シール本体62の内周側に第1のリップ部64および第2のリップ部65が形成され、シール本体62のスリンガー70側の側面に第3のリップ部63が形成されている。第3のリップ部63は、スリンガー70のピニオンギヤ41側の側面に摺接している。
【0020】
ディファレンシャルケース11には、貫通穴12の上部に開口する第1の給油通路13が形成され、また貫通穴12の下部に開口する第2の排油通路14が形成されている。外輪21の上部には、第2の給油通路21cが半径方向に貫通して形成され、外輪21の下部には、第1の排油通路21dが半径方向に貫通し形成されている。第2の給油通路21cの外径側は第1の給油通路13に開口し、第1の排油通路21dの外径側は第2の排油通路14に開口している。ディファレンシャルケース11の内部空間81は、リングギヤ80が回転する作動空間でもあり、潤滑油を貯留する貯留空間でもある。リングギヤ80によって掻き揚げられた潤滑油は、流れFに示すように、第1の給油通路13および第2の給油通路21cを経て外輪21および内輪22、32間に導かれ、また流れGに示すように、直接外輪21および内輪22、32間に導かれる。外輪21および内輪22、32間内で下方へ落下した潤滑油は、流れR1に示すように、第1の排油通路21dおよび第2の排油通路14を経て内部空間81へ排出され、また流れR2に示すように、外輪21および内輪22、32間から直接内部空間81へ排出される。
【0021】
次に上述した構成にもとづいて、回転軸装置10の組付け動作を説明する。
【0022】
ピニオン軸40の第1の嵌合面42に転がり軸受20の内輪22、32を嵌合させ、ピニオン軸40の第1の段部に内輪32のピニオンギヤ41側の端面を当接させるとともにピニオン軸40の第2の段部に突出部22bのピニオンギヤ41側の端面が当接するか、隙間を持って対向する。外輪21の第4の嵌合面21bにオイルシール60を嵌合固定し、コンパニオンフランジ50の摺動面51にスリンガー70を嵌合固定する。コンパニオンフランジ50をネジ部45に嵌め込み、さらにスプライン44に嵌め込み、第1のリップ部64および第2のリップ部65をコンパニオンフランジ50の摺動面51に摺動させる。突出部22bのピニオンギヤ41と反対側の端面にコンパクトフランジ50のピニオンギヤ41側の端面53が当接すると同時に、オイルシール60の第3のリップ部63がスリンガー70の側面に当接する。
【0023】
続いてネジ部45にワッシャ56が嵌め込まれ、ネジ部45にナット58が螺合される。ナット58を締め付けると、内輪22、32が、ピニオン軸40の第1の段部およびコンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41側の端面53間で挟み込まれ、コンパニオンフランジ50の回転が、突出部22b、内輪22、内輪32を介してピニオン軸40へ伝達可能となる。さらにディファレンシャルケース11の貫通穴12に転がり軸受20の外輪21を嵌合し、第2の給油通路21cが第1の給油通路13に対応するよう外輪21を回し、外輪21のフランジ部が図略のボルト等を介してディファレンシャルケース11に固定される。こうしてディファレンシャルケース11にピニオン軸40が転がり軸受20を介して回転可能に軸承される。
【0024】
次に、ディファレンシャル装置の動作を説明する。エンジンからの回転動力がコンパニオンフランジ50に伝達されると、突出部22b、内輪22、32に伝達されるとともに、スプライン44を介してピニオン軸40に伝達され、さらにピニオンギヤ41を介してリングギヤ80が回転する。リングギヤ80が回転すると、潤滑油が掻き揚げられ、流れFに示すように、第1の給油通路13および第2の給油通路21cを経て外輪21および内輪22、32間に導かれ、また流れGに示すように、直接外輪21および内輪22、32間に導かれる。外輪21および内輪22、32間内で下方へ落下した潤滑油は、流れR1に示すように、第1の排油通路21dおよび第2の排油通路14を経て内部空間81へ排出され、また流れR2に示すように、外輪21および内輪22、32間から直接内部空間81へ排出される。コンパニオンフランジ50の回転により、オイルシール60の第1のリップ部64および第2のリップ部64が、コンパニオンフランジ50の摺動面51に対して摺動し、オイルシール60の第3のリップ部63が、スリンガー70の側面に対して摺動する。
【0025】
突出部22bを内輪22、32の第1の被嵌合面より内径側へ突出させることにより、コンパニオンフランジ50の摺動面51を、内輪22、32の第1の被嵌合面よりも内径側に設けることができる。この結果、摺動面51の外径を従来に比べて小さくすることができ、第1のリップ部64、第2のリップ部65の摺動面51に対する周速を従来に比べて小さくすることができ、摩擦による発熱が小さくなり、オイルスラッジが発生しにくくなり密封性が低下しにくい。また摺動面51の外径を従来に比べて小さくすることにより、第1のリップ部64および第2のリップ部65の摩擦によるトルクロスが小さくなり、自動車の燃費向上に繋がる。
【0026】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0027】
上述した実施形態は、内輪22と突出部22bを一体に形成した。他の実施形態として、図3に示すように、内輪22と突出部22eを別体に形成しても良い。この場合、内輪22に突出部22eが嵌め込まれる凹みが形成され、この凹みは第4の段部22cと第4の被嵌合面22dを有する。第4の段部22cに突出部22eが当接する位置まで第4の被嵌合面22dに突出部22eを圧入嵌合することにより、突出部22eを内輪22に固定しても良い。あるいは、第4の段部22cに突出部22eが当接する位置まで第4の被嵌合面22dに突出部22eを嵌め込み、図略のボルト等により突出部22eを内輪22に固定しても良い。さらにあるいは、突出部22eを内輪22の第4の段部22cおよびコンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41側の端面53間で挟み込み、第4の段部22cおよび突出部22e間の摩擦力で持って、コンパニオンフランジ50の回転を内輪22に伝えても良い。
【0028】
上述した実施形態は、転がり軸受20として一対のアンギュラ玉軸受を適用した。他の実施形態として、転がり軸受20として一対の円すいころ軸受を適用しても良い。
【符号の説明】
【0029】
11:ディファレンシャルケース(ハウジング)、20:転がり軸受、21:外輪、22:内輪、22b:突出部、24:玉(転動体)、32:内輪、34:玉(転動体)、40:ピニオン軸(回転軸)、50:コンパニオンフランジ、60:オイルシール、64:第1のリップ部(リップ部)、65:第2のリップ部(リップ部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受は、リング状の外輪と、この外輪の内周側に配置される内輪と、前記外輪および前記内輪間で転動する転動体とからなり、前記外輪をハウジングに嵌合固定し、前記内輪を前記回転軸に嵌合し、前記回転軸の一端にコンパニオンフランジを固定するとともに前記コンパニオンフランジで前記内輪の軸方向一端を挟み込み、前記外輪の内周にオイルシールを取付け、オイルシールの内周側のリップ部を前記コンパニオンフランジに摺接させた回転軸装置において、
前記内輪より内径側へ突出し、かつ前記コンパニオンフランジで軸方向一端が挟み込まれる突出部を設け、前記コンパニオンフランジのリップ部の摺接する外径を、前記突出部の内径よりも大きく、前記内輪の前記回転軸に嵌合される内径よりも小さくしたことを特徴とする回転軸装置。
【請求項2】
前記突出部は、前記内輪に一体形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の回転軸装置。
【請求項3】
前記突出部は、前記内輪とは別体のものであり、前記突出部の軸方向他端は、前記内輪で挟み込まれることを特徴とする請求項1に記載の回転軸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−19461(P2013−19461A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152805(P2011−152805)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】