説明

回転速度検出装置付き車輪用軸受装置

【課題】生産性を高めて低コスト化を図ると共に、組立作業性の向上を図った回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】内輪7に外嵌されたパルサリング11と、外方部材4の端部に装着され、パルサリング11に対向する位置に挿入孔27を有するカバー10と、挿入孔27に挿入され、回転速度センサ19が包埋された挿入部21aおよびカバー10に固定される取付フランジ20bを有するセンサホルダ20とを備え、挿入孔27が、所定の傾斜角αからなるテーパ部27aと、テーパ部27aの軸方向略中央部からストレートに延びる円筒部27bとで構成され、テーパ部27aの小径部の内径φFが挿入部21aの外径φCよりも僅かに大径になるように設定されると共に、挿入部21aの外周に環状溝22が形成され、この環状溝22に挿入孔27の円筒部27bに弾性接触するOリング28が装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置、特に、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置が内蔵され、生産性を高めて低コスト化を図ると共に、組立作業性の向上を図った回転速度検出装置付き車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承すると共に、アンチロックブレーキシステム(ABS)を制御し、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置が内蔵された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置が一般的に知られている。従来、このような車輪用軸受装置は、転動体を介して転接する内方部材および外方部材の間にシール装置が設けられ、円周方向に磁極を交互に並べてなる磁気エンコーダを前記シール装置に一体化させると共に、磁気エンコーダと、この磁気エンコーダに対面配置され、車輪の回転に伴う磁気エンコーダの磁極変化を検出する回転速度センサとで回転速度検出装置が構成されている。
【0003】
前記回転速度センサは、懸架装置を構成するナックルに車輪用軸受装置が装着された後、当該ナックルに装着されているものが一般的である。しかし、この回転速度センサと磁気エンコーダとのエアギャップの調整作業の煩雑さを解消すると共に、よりコンパクト化を狙って、最近では回転速度センサをも軸受に内蔵した回転速度検出装置付き車輪用軸受装置が提案されている。
【0004】
このような回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の一例として図5に示すような構造が知られている。この回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、図示しないナックルに支持固定され、固定部材となる外方部材51と、この外方部材51に複列のボール53、53を介して内挿された内方部材52とを有している。内方部材52は、ハブ輪55と、このハブ輪55に外嵌された内輪56とからなる。
【0005】
外方部材51は、外周に車体取付フランジ51bを一体に有し、内周には複列の外側転走面51a、51aが形成されている。一方、内方部材52は、前記した外方部材51の外側転走面51a、51aに対向する複列の内側転走面55a、56aが形成されている。これら複列の内側転走面55a、56aのうち一方の内側転走面55aはハブ輪55の外周に一体形成され、他方の内側転走面56aは内輪56の外周に形成されている。この内輪56は、ハブ輪55の内側転走面55aから軸方向に延びる軸状の小径段部55bに圧入されている。そして、複列のボール53、53がこれら両転走面間にそれぞれ収容され、保持器57、57によって転動自在に保持されている。
【0006】
ハブ輪55は、外周に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ54を一体に有し、小径段部55bの端部を径方向外方に塑性変形して加締部58が形成され、この加締部58によって内輪56が軸方向に固定されている。そして、外方部材51の端部にはシール59およびカバー63が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から軸受内部に雨水やダスト等が侵入するのを防止している。
【0007】
内輪56の外周には磁気エンコーダ60が圧入されている。この磁気エンコーダ60は、磁性金属板により断面が略T字状の円環状に形成された支持環61と、この支持環61の側面に添着されたエンコーダ本体62とで構成されている。このエンコーダ本体62は、フェライトの粉末を混入させたゴム等の永久磁石からなり、円周方向にS極とN極とが交互に等間隔に着磁されている。
【0008】
カバー63は外方部材51のインボード側の開口端部に外嵌固定され、外方部材51の開口部を閉塞している。このカバー63は、合成樹脂を射出成形してなる有底円筒状のカバー本体64と、このカバー本体64の開口部に結合された嵌合筒65とからなる。この嵌合筒65は、耐食性を有するステンレス鋼板をプレス成形して断面L字形の円環状に形成されている。そして、カバー本体64の射出成形時にモールドすることにより、このカバー本体64に一体化されている。
【0009】
カバー本体64の径方向外方部には軸方向に突出する突部66が形成され、この突部66に、磁気エンコーダ60に対応する位置に挿入孔67が形成されている。この挿入孔67内にセンサユニット68が挿入される。このセンサユニット68は、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)等、磁束の流れ方向に応じて特性を変化させる磁気検出素子からなるセンサおよびこの磁気検出素子の出力波形を整える波形整形回路が組み込まれたIC等からなり、車輪の回転速度を検出してその回転数を制御する自動車のABSを構成している。
【0010】
センサは合成樹脂からなるホルダ69中に包埋されている。このホルダ69には、図6に示すように、挿入部69aと取付フランジ69bが形成されると共に、挿入部69aの中間部外周には環状溝70が形成され、この環状溝70にOリング71が装着されている。また、センサユニット68の一部にはコネクタ72が直接固定され、挿入部69aと反対側に突部73が形成されている。そして、この突部73にコネクタ72が、その接続方向がセンサユニット68の軸方向位置と一致する状態で包埋支持されている。また、カバー63の突部66の端面にはナット74が埋め込まれ、このナット74にボルト75を介してセンサユニット68が結合固定されている。
【0011】
前述のように構成する従来の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置によれば、センサユニット68をカバー63に装着した状態で搬送や車体への組立を行う場合でも、このセンサユニット68から長いハーネスが外部に導出することがなくなり、搬送作業および組立作業の能率化を図ることができる。
【特許文献1】特開2001−349899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような従来の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、カバー本体64およびセンサユニット68は合成樹脂を射出成形して形成されているため、形状・寸法精度を高めるには限界があり、挿入孔67とセンサユニット68との間にガタが発生する。また、このガタを詰めるために挿入孔67の寸法を小径に設定すると、センサユニット68の挿入性が低下するだけでなく、Oリング71がこじれた状態で装着されることになり、Oリング71のシメシロが不均一になって密封性が著しく低下する恐れがある。
【0013】
また、こうしたカバー本体64やセンサユニット68においては、通常、成形時の形状・寸法のバラツキや型ずれによって、挿通孔67とセンサユニット68の挿入部69aとのガタを厳しく規制することなく密封性を確保すると共に、組立作業性の向上を図ることが課題となっていた。
【0014】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、生産性を高めて低コスト化を図ると共に、組立作業性の向上を図った回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、前記外方部材のインナー側の開口端部に内嵌固定され、合成樹脂を射出成形してなり、前記パルサリングに対向する位置に挿入孔を有する有底円筒状のカバー本体、およびこのカバー本体の開口部に一体モールドされた芯金からなるカバーと、前記挿入孔に挿入され、回転速度センサが包埋された円筒状の挿入部、および前記カバー本体に固定される取付フランジを有するセンサホルダとを備え、このセンサホルダが前記カバー本体に固定ボルトを介して着脱自在に固定された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、前記カバー本体の挿入孔が、軸受内方側に向って漸次小径となるテーパ状に形成され、前記センサホルダの挿入部の外径よりも僅かに大径に形成されている。
【0016】
このように、ハブ輪と複列の転がり軸受とがユニット化され、この複列の転がり軸受を構成する内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、外方部材のインナー側の開口端部に内嵌固定され、合成樹脂を射出成形してなり、パルサリングに対向する位置に挿入孔を有する有底円筒状のカバー本体、およびこのカバー本体の開口部に一体モールドされた芯金からなるカバーと、挿入孔に挿入され、回転速度センサが包埋された円筒状の挿入部、およびカバー本体に固定される取付フランジを有するセンサホルダとを備え、このセンサホルダがカバー本体に固定ボルトを介して着脱自在に固定された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、カバー本体の挿入孔が、軸受内方側に向って漸次小径となるテーパ状に形成され、センサホルダの挿入部の外径よりも僅かに大径に形成されているので、小径部の内径とセンサホルダの挿入部の外径との径方向すきまが、円筒状に形成された従来の径方向すきまと同程度であっても、挿入孔の大径部の内径を従来の内径よりも大径にすることができるため、センサホルダの挿入性が良くなり、組立作業性の向上を図ることができる。また、挿入孔がテーパ状に形成されているため、射出成形時の抜き勾配が確保でき、生産性を高めて低コスト化を図ることができる。
【0017】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記挿入孔が、所定の傾斜角からなるテーパ部と、このテーパ部の軸方向略中央部からインナー側にストレートに延びる円筒部とで構成され、前記テーパ部の小径部の内径が前記センサホルダの挿入部の外径よりも僅かに大径になるように設定されると共に、前記挿入部の外周に環状溝が形成され、この環状溝に前記挿入孔の円筒部に弾性接触するOリングが装着されていれば、テーパ部の大径部の内径を従来よりも大径にすることができるため、センサホルダの挿入性が良くなり、組立作業性の向上を図ることができると共に、Oリングの装着によって密封性を向上させることができる。
【0018】
また、請求項3に記載の発明のように、前記挿入孔の小径部の内径と前記センサホルダの挿入部の外径との径方向すきまが最大φ0.4mmとなるように設定されていれば、この小径部でセンサホルダの挿入部を支持することができ、Oリングに潰れや偏りが生じても密封性を確保することができる。
【0019】
また、請求項4に記載の発明のように、前記カバー本体のPTラインが取付部のアウター側の端面に設定されていれば、挿入孔のテーパ部と円筒部を一つの型で成形することができ、テーパ部と円筒部との芯ズレを規制することができる。これにより、Oリングの偏心を抑えて密封性を確保することができる。
【0020】
また、請求項5に記載の発明のように、前記挿入孔の幅寸法が、前記センサホルダの挿入部における端面から前記環状溝までの寸法よりも小さくなるように設定されていれば、Oリングが挿入孔の内周面に接触する前にセンサホルダの挿入部が挿入孔の小径部に支持され、センサホルダが安定してセンタリングされる。したがって、挿入時に偏りが生じず、Oリングのシメシロが不均一になって密封性が低下するのを防止することができる。
【0021】
また、請求項6に記載の発明のように、前記カバー本体の取付部に前記固定ボルトが螺着するナットがインサート成形によって埋め込まれ、このナットの外周に環状溝が形成されていれば、カバー本体に対してナットが軸方向に移動するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、前記外方部材のインナー側の開口端部に内嵌固定され、合成樹脂を射出成形してなり、前記パルサリングに対向する位置に挿入孔を有する有底円筒状のカバー本体、およびこのカバー本体の開口部に一体モールドされた芯金からなるカバーと、前記挿入孔に挿入され、回転速度センサが包埋された円筒状の挿入部、および前記カバー本体に固定される取付フランジを有するセンサホルダとを備え、このセンサホルダが前記カバー本体に固定ボルトを介して着脱自在に固定された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、前記カバー本体の挿入孔が、軸受内方側に向って漸次小径となるテーパ状に形成され、前記センサホルダの挿入部の外径よりも僅かに大径に形成されているので、小径部の内径とセンサホルダの挿入部の外径との径方向すきまが、円筒状に形成された従来の径方向すきまと同程度であっても、挿入孔の大径部の内径を従来の内径よりも大径にすることができるため、センサホルダの挿入性が良くなり、組立作業性の向上を図ることができる。また、挿入孔がテーパ状に形成されているため、射出成形時の抜き勾配が確保でき、生産性を高めて低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
外周に懸架装置を構成するナックルに固定するための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる軸状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された内輪とからなる内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、前記外方部材のインナー側の開口端部に内嵌固定され、合成樹脂を射出成形してなり、前記パルサリングに対向する位置に挿入孔を有する有底円筒状のカバー本体、およびこのカバー本体の開口部に一体モールドされた芯金からなるカバーと、前記挿入孔に挿入され、回転速度センサが包埋された円筒状の挿入部、および前記カバー本体に固定される取付フランジを有するセンサホルダとを備え、このセンサホルダが前記カバー本体に固定ボルトを介して着脱自在に固定された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、前記カバー本体の挿入孔が、軸受内方側に向って漸次小径となる所定の傾斜角からなるテーパ部と、このテーパ部の軸方向略中央部からインナー側にストレートに延びる円筒部とで構成され、前記テーパ部の小径部の内径が前記センサホルダの挿入部の外径よりも僅かに大径になるように設定されると共に、前記挿入部の外周に環状溝が形成され、この環状溝に前記挿入孔の円筒部に弾性接触するOリングが装着されている。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図2(a)は、図1のカバー単体を示す要部拡大図、(b)は、センサホルダを装着した状態を示す要部拡大図、図3(a)は、図2(a)に示すカバーの変形例を示す要部拡大図、(b)は、センサホルダを装着した状態を示す要部拡大図、図4(a)は、図3のカバーにセンサホルダを挿入する状態を示す要部拡大図、(b)は、センサホルダ単体を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0025】
この回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は従動輪側の第3世代と呼称され、ハブ輪1と複列の転がり軸受2とをユニット化して構成されている。複列の転がり軸受2は、内方部材3と外方部材4、および両部材3、4間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)5、5とを備えている。内方部材3は、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入固定された内輪7とを指す。
【0026】
ハブ輪1は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、この車輪取付フランジ6の円周等配位置には車輪を締結するハブボルト6aが植設されている。また、外周に一方(アウター側)の内側転走面1aと、この内側転走面1aから軸方向に延びる軸状の小径段部1bが形成され、この小径段部1bに内輪7が所定のシメシロを介して圧入されている。そして、小径段部1bの端部を径方向外方に塑性変形させて加締部1cが形成され、この加締部1cによってハブ輪1に対して内輪7が軸方向に所定の軸受予圧が付与された状態で固定されている。なお、内輪7の外周には他方(インナー側)の内側転走面7aが形成されている。
【0027】
一方、外方部材4は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に固定される車体取付フランジ4bを一体に有し、内周に内方部材3の複列の内側転走面1a、7aに対向する複列の外側転走面4a、4aが一体に形成されている。複列の転がり軸受2は、これら両転走面4a、1aおよび4a、7a間に収容された複列の転動体5、5と、これら複列の転動体5、5を転動自在に保持する保持器8とを備えている。
【0028】
外方部材4の両端部にはシール9およびカバー10が装着され、外方部材4と内方部材3間に形成される環状空間の開口部を密封している。そして、これらシール9およびカバー10により、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0029】
ハブ輪1はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面1aをはじめ、シール9のシールランド部となる車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部1bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、加締部1cは、鍛造後の素材表面硬さ25HRC以下の未焼入れ部としている。
【0030】
また、外方部材4は、ハブ輪1と同様、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面4a、4aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、内輪7および転動体5はSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。なお、ここでは、複列の転がり軸受2として、転動体5をボールとした複列アンギュラ玉軸受で構成されたものを例示したが、これに限らず転動体5に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受であっても良い。また、第3世代の構造を例示したが、一対の内輪をハブ輪に圧入した、所謂第2世代の構造であっても良い。
【0031】
内輪7の外周にはパルサリング11が圧入されている。このパルサリング11は、円環状に形成された支持環12と、この支持環12の側面に加硫接着等で一体に接合された磁気エンコーダ13とで構成されている。この磁気エンコーダ13は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入され、周方向に交互に磁極N、Sが着磁されて車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。
【0032】
支持環12は、強磁性体の鋼鈑、例えば、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)や防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工によって断面略L字状に形成され、内輪7に圧入される円筒部12aと、この円筒部12aから径方向内方に延びる立板部12bとを有している。この立板部12bのインナー側の側面に磁気エンコーダ13が接合されている。
【0033】
カバー10は外方部材4のインナー側の開口端部に内嵌固定され、外方部材4の開口部を閉塞している。このカバー10は、合成樹脂を射出成形してなる有底円筒状のカバー本体14と、このカバー本体14の開口部に一体モールドされた芯金15とからなる。この芯金15は、耐食性を有するステンレス鋼板をプレス成形して断面L字形の円環状に形成されている。特に、この芯金15は、磁性体の鋼板、例えばフェライト系ステンレス鋼版(JIS SUS430等)や冷間圧延鋼板(JIS SPCC等)でも良いが、後述する回転速度センサ19の感知性能に悪影響を及ぼさないように、非磁性体の鋼鈑、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)で形成されるのが好ましい。
【0034】
カバー本体14の径方向外方部には軸方向に突出する取付部16が一体に形成され、この取付部16に、前記磁気エンコーダ13に対応する位置に挿入孔17が形成されている。この挿入孔17内にセンサユニット18が挿入される。このセンサユニット18は、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)等、磁束の流れ方向に応じて特性を変化させる磁気検出素子からなる回転速度センサ19およびこの磁気検出素子の出力波形を整える波形整形回路が組み込まれたIC等からなり、車輪の回転速度を検出してその回転数を制御する自動車のABSを構成している。
【0035】
ここで、本実施形態では、カバー本体14の挿入孔17は、図2(a)に示すように、軸受内方側(アウター側)に向って漸次小径となるテーパ状に形成されている。また、この挿入孔17に装着されるセンサホルダ20は、(b)に示すように、円筒状の挿入部20aと取付フランジ20bが一体に形成されている。合成樹脂からなるこのセンサホルダ20内に回転速度センサ19が包埋されている。
【0036】
また、カバー本体14の取付部16には、内周に雌ねじ23aが形成されたナット23がインサート成形によって埋め込まれている。このナット23の外周には環状溝23bが形成され、ナット23が軸方向に移動するのを防止している。固定ボルト24は、外周にナット23の雌ねじ23aに係合する雄ねじ24aが形成されている。
【0037】
カバー本体14の挿入孔17は所定の傾斜角αに形成され、小径部の内径φAは、センサホルダ20の挿入部20aの外径φCよりも僅かに大径になるように設定されている。ここでは、挿入孔17の傾斜角αは、2〜20°の範囲に設定されている。この小径部の内径φAとセンサホルダ20の挿入部20aの外径φCとの径方向すきま(φA−φC)は従来と同程度であっても、大径部の内径φBを従来よりも大径にすることができるため、センサホルダ20の挿入性が良くなり、組立作業性の向上を図ることができる。また、挿入孔17がテーパ状に形成されているため、射出成形時の抜き勾配が確保でき、生産性を高めて低コスト化を図ることができる。
【0038】
図3にカバー10の変形例を示す。このカバー25は、合成樹脂を射出成形してなる有底円筒状のカバー本体26と、このカバー本体26の開口部に一体モールドされた芯金15とからなる。図3(a)に示すように、カバー本体26の径方向外方部には軸方向に突出する取付部16が一体に形成され、この取付部16に挿入孔27が形成されている。挿入孔27は、所定の傾斜角αからなるテーパ部27aと、このテーパ部27aの軸方向略中央部からインナー側にストレートに延びる円筒部27bとで構成されている。小径部の内径φEは、センサホルダ21の挿入部21aの外径φCよりも僅かに大径になるように設定されている。
【0039】
センサホルダ21は、(b)に示すように、円筒状の挿入部21aと取付フランジ20bが一体に形成されている。そして、挿入部21aの外周に環状溝22が形成され、この環状溝22にOリング28が装着されている。Oリング28は挿入孔27の円筒部27bに弾性接触している。このように、挿入孔27の小径部の内径φEとセンサホルダ21の挿入部21aの外径φCとの径方向すきま(φE−φC)は最大φ0.4mmとなるように設定されている。これにより、この小径部でセンサホルダ21の挿入部21aを支持することができ、Oリング28に潰れや偏りが生じても密封性を確保することができる。また、大径部の内径φDを従来よりも大径にすることができるため、センサホルダ21の挿入性が良くなり、組立作業性の向上を図ることができると共に、Oリング28の装着によって密封性を向上させることができる。
【0040】
ここで、本実施形態では、カバー本体26のPTライン(射出成形型の割り口)が取付部16のアウター側の端面16aに設定されている。これにより、挿入孔27のテーパ部27aと円筒部27bを一つの型で成形することができ、テーパ部27aと円筒部27bとの芯ズレを規制することができ、Oリング28の偏心を抑えて密封性を確保することができる。
【0041】
さらに本実施形態では、図4に示すように、挿入孔27の幅寸法Fが、センサホルダ21の挿入部21aにおける端面から環状溝22までの寸法Gよりも小さくなるように設定されている。これにより、(a)に示すように、Oリング28が挿入孔27の内周面に接触する前にセンサホルダ21の挿入部21aが挿入孔27の小径部に支持されてセンサホルダ21が安定してセンタリングされる。したがって、挿入時に偏りが生じず、Oリング28のシメシロが不均一になって密封性が低下するのを防止することができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、駆動輪用、従動輪用、あるいは転動体がボール、円錐ころ等、あらゆる構造の内輪回転タイプの車輪用軸受装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】(a)は、図1のカバー単体を示す要部拡大図である。 (b)は、センサホルダを装着した状態を示す要部拡大図である。
【図3】(a)は、図2(a)に示すカバーの変形例を示す要部拡大図である。 (b)は、センサホルダを装着した状態を示す要部拡大図である。
【図4】(a)は、センサホルダを挿入する状態を示す要部拡大図である。 (b)は、センサホルダ単体を示す要部拡大図である。
【図5】従来の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図6】図5の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0045】
1・・・・・・・・・・・・・・・・・ハブ輪
1a、7a・・・・・・・・・・・・・内側転走面
1b・・・・・・・・・・・・・・・・小径段部
1c・・・・・・・・・・・・・・・・加締部
2・・・・・・・・・・・・・・・・・複列の転がり軸受
3・・・・・・・・・・・・・・・・・内方部材
4・・・・・・・・・・・・・・・・・外方部材
4a・・・・・・・・・・・・・・・・外側転走面
4b・・・・・・・・・・・・・・・・車体取付フランジ
5・・・・・・・・・・・・・・・・・転動体
6・・・・・・・・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
6a・・・・・・・・・・・・・・・・ハブボルト
6b・・・・・・・・・・・・・・・・基部
7・・・・・・・・・・・・・・・・・内輪
8・・・・・・・・・・・・・・・・・保持器
9・・・・・・・・・・・・・・・・・シール
10、25・・・・・・・・・・・・・カバー
11・・・・・・・・・・・・・・・・パルサリング
12・・・・・・・・・・・・・・・・支持環
12a・・・・・・・・・・・・・・・円筒部
12b・・・・・・・・・・・・・・・立板部
13・・・・・・・・・・・・・・・・磁気エンコーダ
14、26・・・・・・・・・・・・・カバー本体
15・・・・・・・・・・・・・・・・芯金
16・・・・・・・・・・・・・・・・取付部
16a・・・・・・・・・・・・・・・アウター側の端面
17、27・・・・・・・・・・・・・挿入孔
18・・・・・・・・・・・・・・・・センサユニット
19・・・・・・・・・・・・・・・・回転速度センサ
20、21・・・・・・・・・・・・・センサホルダ
20a、21a・・・・・・・・・・・挿入部
20b・・・・・・・・・・・・・・・取付フランジ
22、23b・・・・・・・・・・・・環状溝
23・・・・・・・・・・・・・・・・ナット
23a・・・・・・・・・・・・・・・雌ねじ
24・・・・・・・・・・・・・・・・固定ボルト
24a・・・・・・・・・・・・・・・雄ねじ
27a・・・・・・・・・・・・・・・テーパ部
27b・・・・・・・・・・・・・・・円筒部
28・・・・・・・・・・・・・・・・Oリング
51・・・・・・・・・・・・・・・・外方部材
51a・・・・・・・・・・・・・・・外側転走面
51b・・・・・・・・・・・・・・・車体取付フランジ
52・・・・・・・・・・・・・・・・内方部材
53・・・・・・・・・・・・・・・・ボール
54・・・・・・・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
55・・・・・・・・・・・・・・・・ハブ輪
55a、56a・・・・・・・・・・・内側転走面
55b・・・・・・・・・・・・・・・小径段部
56・・・・・・・・・・・・・・・・内輪
57・・・・・・・・・・・・・・・・保持器
58・・・・・・・・・・・・・・・・加締部
59・・・・・・・・・・・・・・・・シール
60・・・・・・・・・・・・・・・・磁気エンコーダ
61・・・・・・・・・・・・・・・・支持環
62・・・・・・・・・・・・・・・・エンコーダ本体
63・・・・・・・・・・・・・・・・カバー
64・・・・・・・・・・・・・・・・カバー本体
65・・・・・・・・・・・・・・・・嵌合筒
66、73・・・・・・・・・・・・・突部
67・・・・・・・・・・・・・・・・挿入孔
68・・・・・・・・・・・・・・・・センサユニット
69・・・・・・・・・・・・・・・・センサホルダ
69a・・・・・・・・・・・・・・・挿入部
69b・・・・・・・・・・・・・・・取付フランジ
70・・・・・・・・・・・・・・・・環状溝
71・・・・・・・・・・・・・・・・Oリング
72・・・・・・・・・・・・・・・・コネクタ
74・・・・・・・・・・・・・・・・ナット
75・・・・・・・・・・・・・・・・ボルト
A、E・・・・・・・・・・・・・・・挿入孔の小径部の内径
B、D・・・・・・・・・・・・・・・挿入孔の大径部の内径
C・・・・・・・・・・・・・・・・・挿入部の外径
F・・・・・・・・・・・・・・・・・挿入孔の幅寸法
G・・・・・・・・・・・・・・・・・挿入部の端面から環状溝までの寸法
α・・・・・・・・・・・・・・・・・挿入孔の傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、
前記外方部材のインナー側の開口端部に内嵌固定され、合成樹脂を射出成形してなり、前記パルサリングに対向する位置に挿入孔を有する有底円筒状のカバー本体、およびこのカバー本体の開口部に一体モールドされた芯金からなるカバーと、
前記挿入孔に挿入され、回転速度センサが包埋された円筒状の挿入部、および前記カバー本体に固定される取付フランジを有するセンサホルダとを備え、
このセンサホルダが前記カバー本体に固定ボルトを介して着脱自在に固定された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、
前記カバー本体の挿入孔が、軸受内方側に向って漸次小径となるテーパ状に形成され、前記センサホルダの挿入部の外径よりも僅かに大径に形成されていることを特徴とする回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記挿入孔が、所定の傾斜角からなるテーパ部と、このテーパ部の軸方向略中央部からインナー側にストレートに延びる円筒部とで構成され、前記テーパ部の小径部の内径が前記センサホルダの挿入部の外径よりも僅かに大径になるように設定されると共に、前記挿入部の外周に環状溝が形成され、この環状溝に前記挿入孔の円筒部に弾性接触するOリングが装着されている請求項1に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記挿入孔の小径部の内径と前記センサホルダの挿入部の外径との径方向すきまが最大φ0.4mmとなるように設定されている請求項1または2に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記カバー本体のPTラインが取付部のアウター側の端面に設定されている請求項2または3に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記挿入孔の幅寸法が、前記センサホルダの挿入部における端面から前記環状溝までの寸法よりも小さくなるように設定されている請求項1乃至4いずれかに記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記カバー本体の取付部に前記固定ボルトが螺着するナットがインサート成形によって埋め込まれ、このナットの外周に環状溝が形成されている請求項1乃至5いずれかに記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−149121(P2009−149121A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326406(P2007−326406)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】