説明

回転電機

【課題】回転電機が特定方向に傾斜しても、コイルエンド部の冷却性能を維持向上できる回転電機を提供することである。
【解決手段】回転電機は、回転軸心を中心に回転自在なロータと、ロータの周面に対向する複数のスロットを有するステータと、複数のスロットにそれぞれ巻装されたコイルと、コイルがステータの軸方向端部位置から軸方向に張り出した領域としてのコイルエンド部1とを備える。さらに、冷却液を供給する供給路4(冷却液供給部)と、供給路4から供給される冷却液の流路となる樋3とを有する。樋3は、流路の途中に一以上設けられて冷却液を分流するとともに分流した冷却液を堰き止める仕切部12(仕切手段)と、仕切部12で仕切られた仕切部位20ごとに設けられてコイルエンド部1に向けて冷却液を放出する放出口11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機(特にコイルエンド部)を冷却するための冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、回転電機のコイルエンド部を冷却する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。この技術によれば、冷却液が所望の位置に供給されないために冷却効率が低くなるのを防止するため、冷却液の流路(冷却液が流れる経路を意味する。以下同じである。)となる樋の冷却液供給口にガイドを接続する構成とした(特許文献1の図3を参照)。この構成によれば、冷却液供給口から供給される冷却液をガイドに沿って所望の位置に流出させて供給することができる。
【0003】
一方、回転電機が何らかの要因で所定方向(特許文献1の図1における左右方向を意味する。以下では単に「軸傾斜方向」と呼ぶ。)に傾斜する場合がある。この傾斜に対処するため、特許文献1の図7に示すように、樋に形成する冷却液供給口を二列に千鳥配置する構成とした。この構成によれば、特許文献1の図8に示すように、樋が傾斜しても傾斜方向(左傾斜または右傾斜)に応じた列の冷却液供給口から冷却液を供給してコイルエンド部を冷却することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4167886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、回転電機は軸傾斜方向に限らず他方向に傾斜する場合もある。当該他方向は、例えば特許文献1の図1における前後方向(同文献の図2における左右方向を意味する。以下では単に「軸回転方向」と呼ぶ。)が該当する。同文献の図2に示すように、通路の供給口から弓状(アーチ状)に形成された樋の頂上(中央)に冷却液が供給される。よって、樋の傾斜方向に応じて一方側のコイルエンド部を冷却することができても、他方側のコイルエンド部を冷却することができない。
【0006】
また特許文献1の図1に示すように、コイルエンド部の外側面に対して直上の位置に冷却液供給口が形成されている。冷却液供給口に接続したガイドによって冷却液を供給するものの、同文献の図2に矢印で示すように冷却液はコイルエンド部の外側面に沿って流れ落ちる。ところが、例えば側面(同文献の図2に示すクロスハッチの部位)や内側面(外側面と反対側の面)のように、外側面以外の部位には冷却液が流れ落ちにくい。よって、コイルエンド部の側面や内側面を積極的に冷却することができない。
【0007】
このように特許文献1の技術によれば、回転電機が特定方向(軸回転方向)に傾斜した場合には、コイルエンド部の一部を冷却することができず、コイルエンド部の全体からみれば冷却性能が低下するという問題があった。その一方、十分な量の冷却液を樋に供給すれば、特許文献1の図8に示される互いに隣接する二つの流出口列の双方から確実に冷却液を流出させることができ、コイルエンド部を冷却することが可能である。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、回転電機が特定方向に傾斜しても、コイルエンド部の冷却性能を維持向上できる回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、回転軸心を中心に回転自在なロータと、前記ロータの周面に対向する複数のスロットを有するステータと、前記複数のスロットにそれぞれ巻装されたコイルと、前記コイルがステータの軸方向端部位置から軸方向に張り出した領域としてのコイルエンド部と、を備える回転電機において、冷却液を供給する冷却液供給部と、前記冷却液供給部から供給される冷却液の流路となる樋とを有し、前記樋は、前記流路の途中に一以上設けられて冷却液を分流するとともに分流した冷却液を堰き止める仕切手段と、前記仕切手段で仕切られた仕切部位ごとに設けられて前記コイルエンド部に向けて冷却液を放出する放出口とを備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、仕切手段は二つの機能を有する。すなわち、冷却液を分流する分流機能と、分流した冷却液を堰き止める堰止機能である。仕切手段の分流機能によって、冷却液供給部から供給される冷却液が複数の流路に分流される。分流された冷却液は仕切手段の堰止機能によって堰き止められるが、仕切部位ごとに設けられた放出口から放出される。コイルエンド部について冷却したい所望の部位に冷却液が流れるように、仕切部位ごとの放出口を適切に設定することで、コイルエンド部のほぼ全体を冷却することができる。仮に回転電機が特定方向に傾斜した場合でも、冷却液供給部から供給される冷却液は仕切手段で分流され、仕切部位ごとの放出口から放出されるので、コイルエンド部のほぼ全体を冷却することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記仕切手段は、所定の高さを有する板材で形成することを特徴とする。所定の高さは任意に設定可能であるが、例えば樋の壁面とほぼ同じ高さで設定してもよく、当該壁面より低い高さで設定してもよい。この構成によれば、簡単な構成で仕切手段の分流機能と堰止機能とを実現できる。また、壁面より低い高さで設定した場合には、多量の冷却液が供給されたときに当該壁面を超えて他の仕切部位に流れるので、各仕切部位に冷却液を有効に配分することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記仕切手段は、前記樋を複数段の階段状に形成するとともに、冷却液が貯留可能な程度に段部を傾斜させることを特徴とする。見方を変えれば、側面から見る形状がノコギリ刃状となるように形成する。段部の傾斜角は任意に設定可能であるが、冷却液が仕切部位に所望の貯留容量(放出口から冷却液を放出しない場合の容量を意味する。以下同じ。)以上に貯留できる程度の角度を設定する。この構成によれば、簡単な構成で仕切手段の分流機能と堰止機能とを実現できる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記放出口は、前記樋の側面部に一つ以上設けられていることを特徴とする。この構成によれば、樋の側面部にある放出口から冷却液が放出されるので、主にコイルエンド部の側面や内側面に流れ落ちるとともに、外側面にも流れ落ちる。したがって、コイルエンド部の全体を冷却することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記樋の下部であって、かつ、前記放出口よりも下方に設けられるひさし部(庇部)を有することを特徴とする。この構成によれば、放出口から放出されず樋を流れる冷却液がひさし部を伝って、コイルエンド部の下方部位に流れ落ちる。冷却液がコイルエンド部の下方部位に直接当たるので、当該下方部位を上方部位と同様に冷却することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、前記樋には、前記冷却液供給部から前記樋の頂点付近部に冷却液を誘導する誘導路を有することを特徴とする。この構成によれば、回転電機が特定方向に傾斜しても、冷却液供給部から供給される冷却液を確実に樋に流すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる回転電機の構成例を示す断面図である。
【図2】図1に示すA−A線矢視の断面図である。
【図3】冷却液の流路となる樋の第1構成例を示す図である。
【図4】図3に示す樋による冷却液の流下例を説明する図である。
【図5】樋の側面部に設ける放出口による冷却態様を示す部分断面図である。
【図6】図5に示す樋による冷却液の流下例を説明する図である。
【図7】樋の第2構成例を示す図である。
【図8】樋の第3構成例を示す図である。
【図9】樋の側面部と底面部とにそれぞれ設ける放出口による冷却態様を示す部分断面図である。
【図10】樋の第4構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0018】
〔実施の形態1〕
実施の形態1は図1〜図6を参照しながら説明する。図1には本発明にかかる回転電機の構成例を断面図で示す。図2には図1に示すA−A線矢視の断面図を拡大して示す。図3には冷却液の流路となる樋の第1構成例を示す。図4には図3に示す樋による冷却液の流下例を示す。図5には樋の側面部に放出口を備える例を部分断面図で示す。図6には図5に示す樋による冷却液の流下例を示す。なお、上下左右等の方向を示すときは該当する図面の記載に従う。また、冷却液の流下は自重によって生じる。
【0019】
まず、図1に示す回転電機Mは、電動機や発電機等として用いられる。この回転電機Mは、ケーシング2(フレームやハウジング等)の内部に、ステータ6(固定子),ロータ8(回転子),回転軸9(主軸),コイルC1,樋3,供給路4などを有する。ケーシング2の外部には、ポンプ10や、図示しない冷却装置(例えばオイルクーラー等)などを有する。
【0020】
ロータ8は、回転軸心(図1の構成例では回転軸9)を中心に回転自在に構成する。回転軸9はベアリング等を介して回転自在に構成する。図1の構成例ではロータ8と回転軸9とを一体化しているが、回転軸9にロータ8を固定手段(ネジやボルト等の固定用部材を用いた固定や、溶接や接着等による固定など)で固定してもよく、他の構成でもよい。いずれの構成にせよ、ロータ8と回転軸9とが一体的に回転すればよい。
【0021】
ロータ8の周面に対向して、電磁石(あるいは永久磁石)等が用いられるステータ6が配置される。このステータ6には、櫛状に形成されるティース5を有する。このティース5相互間に形成される空間、すなわち複数のスロット(図示せず)には各々ステータコイル(電機子巻線)となるコイルC1を巻きつける。巻装する際にコイルC1を折り返す必要があり、この折り返しのためにコイルC1がステータ6の軸方向(図1では左右方向)端部位置から軸方向に張り出した領域がコイルエンド部1となる。なお、巻装後のコイルC1を単体で見るとドーナツ状になり、両端部にコイルエンド部1が位置する。
【0022】
図1におけるケーシング2の内側上部(回転電機Mの頂上部)には、ポンプ10から供給される冷却液を樋3に供給するための供給路4が設けられている。供給路4は円筒状に形成されており、一以上の供給口4aが設けられている。供給口4aは樋3の上方に位置して形成され、樋3を流れる冷却液をコイルエンド部1に向けて落下させる。図1に示す直線状の矢印F「→」は冷却液の流下経路を示す。この矢印F「→」は図2以降の各図でも同様である。この樋3の構成によれば、冷却液はポンプ10から供給路4を通り、供給口4aを経て樋3に流れ落ち、さらにはコイルエンド部1に落下する。なお、「冷却液供給部」には供給路4およびポンプ10を含む。
【0023】
樋3は、コイルエンド部1ごとに対応して二つ設けられ、供給路4とコイルエンド部1との間に配置される。二つの樋3は、鏡像(対称的)に形成される点を除いて、同一の構造である。樋3の具体的な構成例について、図2および図3を参照しながら説明する。なお、図3(a)には平面図を示す。図3(b)には図3(a)に示すB−B矢視の断面図を示す。図3(c)には図3(a)に示すC矢視の側面図を示す。図3(d)および図3(e)には図3(a)に示すD−D矢視の断面図を示す。
【0024】
まず図2に示すように、コイルエンド部1の外周形状に沿って、樋3は横から見て弓状に形成される。また、樋3には、供給路4から樋3の頂点付近部に冷却液を誘導する誘導路14を有する。
【0025】
次に図3(a)および図3(b)に示すように、樋3は本体(すなわち側面部3aおよび底面部3b)のほかに、仕切部12,ひさし部13などを有する。これらの要素のうち、仕切部12は「仕切手段」に相当し、冷却液を分流するとともに分流した冷却液を堰き止める。仕切部12は、分流部12aおよび堰止部12bを有する。分流部12aが冷却液を分流する分流機能を担い、堰止部12bが分流部12aによって分流された冷却液を堰き止める堰止機能を担う。分流部12aおよび堰止部12bは、所定の高さ(例えば側面部3aとほぼ同じ高さ)を有する板材で一体化して形成する。
【0026】
上述した分流部12a,堰止部12bおよび樋3本体で囲まれた部位(区画)は、仕切部位20に相当する。仕切部位20には、コイルエンド部1に向けて冷却液を放出する放出口11を有する。図3(c)には側面部3aに放出口11を形成した例を示し、形成位置に応じて左放出口11aと右放出口11bとに分けられる。図2や図4に示すように、左放出口11aから放出される冷却液はコイルエンド部1の左半分側を落ちて伝いながら冷却する。このため、コイルエンド部1の左側部位S1,S2が冷却される。同様にして、右放出口11bから放出される冷却液はコイルエンド部1の右半分側に落ちて伝いながら冷却する。このため、コイルエンド部1の右側部位S3,S4が冷却される。
【0027】
上述した左放出口11aと右放出口11bとでは、回転電機Mの傾斜を考慮して放出口11の形態を異ならせるのが望ましい。放出口11を異ならせる形態は任意に設定可能であるが、例えば円形や楕円形等の形状、形成する個数、仕切部位20ごとの放出口11を合計した開口面積等を異ならせる。軸回転方向に傾斜せず傾斜角が0度の通常姿勢と、軸回転方向に傾斜角θだけ傾斜する傾斜姿勢とで、左放出口11aと右放出口11bとに流下する冷却液の液量に差ができるだけ少ないように異ならせるのが望ましい。
【0028】
樋3の長手方向にかかる断面を図3(b)に示したが、短手方向にかかる断面を図3(d)に示す。当該図3(d)に示す樋3は、ひさし部13にかかる部分の断面形状(すなわち凹形状)を表すが、ひさし部13以外の樋3本体でも同等の形状で形成される。ここで、樋3の短手方向にかかる断面形状は任意に設定してよい。例えば図示する凹形状に限らず、半円形状,V字形状,W字形状の形状などが該当する。ひさし部13については、冷却液がコイルエンド部1の下方部位(特に下半分側)に落ちて伝わればよいので、図3(d)の断面形状に限る必然性はない。そのため、例えば図3(e)に示す断面形状はL字状に形成するか、あるいは破線で示す側面部3dのように実線で示す側面部3aよりも低い高さで形成する。後者の場合は一定量を超える冷却液がひさし部13を流れる場合、側面部3dを乗り越えてコイルエンド部1に向けて落下する。そのため、コイルエンド部1の下方部位を冷却するのに必要な容量を確保し、過剰分の冷却液でコイルエンド部1の上方部位(特に上半分側)を冷却することができる。
【0029】
ひさし部13は、樋3の下部であって、かつ、放出口11よりも下方に設けられる。主に樋3の上側に設けられる放出口11から放出されずに流れ伝ってきたる冷却液は、ひさし部13を伝ってコイルエンド部1の下方部位に流れ落ちる。具体的な内容については、後述する(図6を参照)。
【0030】
上述のように構成された回転電機Mは、軸回転方向に傾斜せず傾斜角が0度の通常姿勢だけでなく、軸回転方向に傾斜角θだけ傾斜する傾斜姿勢になる場合がある。各姿勢において、冷却液による冷却態様について図4を参照しながら説明する。図4(a)には通常姿勢における冷却態様を示し、図4(b)には図面左回りに傾斜角θだけ傾斜する傾斜姿勢における冷却態様を示す。
【0031】
図4(a)に示す通常姿勢では、供給路4や樋3等も傾斜しない。そのため、樋3では左右均等に冷却液が流れ、コイルエンド部1の左側部位S5とコイルエンド部1の右側部位S6とにほぼ均等に流下する。また、ひさし部13からも矢印Faで示すように落下してコイルエンド部1の下方部位を流下する。したがって、コイルエンド部1の全体を冷却液で冷却することができる。
【0032】
図4(b)に示す傾斜姿勢では、供給路4や樋3等も傾斜角θだけ傾斜する。この場合、供給路4から供給される冷却液は図3(a)に示すように分流部12aで分流される。分流部12aで分流された一方側の冷却液は堰き止められず、仕切部12を備えない場合と同様に、図3(c)に示すように左放出口11aから放出される。しかし、分流された他方側の冷却液が堰止部12bで堰き止められ、堰き止められた冷却液は図3(c)に示すように右放出口11bから放出される。すなわち、冷却液を強制的に左放出口11aと右放出口11bとに分けて、コイルエンド部1に向けて放出する。これによって図4(b)に示すように、コイルエンド部1の左側部位S5とコイルエンド部1の右側部位S6とに流下する。左放出口11aの開口面積と、右放出口11bの開口面積とを適切に調整すれば、左側部位S5と右側部位S6とに流下する冷却液の流量差が少なく抑えられる。したがって、回転電機Mが傾斜した場合でもコイルエンド部1の全体を冷却液で冷却する冷却性能を向上させることができる。
【0033】
図3(c)に示すように、放出口11は樋3の側面部3aに備える構成とした。この構成により、コイルエンド部1を冷却液によって冷却する態様について、別の角度から見た図5を参照しながら説明する。図1の一部を拡大して示す図5において、樋3の放出口11から放出される冷却液は、その多くが側面1bから内側面1cを経て落下する。放出される冷却液の一部は、その粘性によって側面部3aから底面部3bの裏側に伝わり、外側面1aから側面1bを経て内側面1cに至って落下する。したがって、樋3に設ける各放出口11の開口面積の大きさをそれぞれ適切に調整することで、冷却液をコイルエンド部1のほぼ全面にゆき渡らせて冷却することができる。
【0034】
冷却液は放出口11で放出されない分は、図3等に示すように、ひさし部13を流下する。ひさし部13を流下した冷却液によってコイルエンド部1を冷却する態様について、図6を参照しながら説明する。図6において、放出口11から放出された冷却液は矢印F「→」で示すようにコイルエンド部1を流下する。ところが、回転電機Mの稼働時にはコイルエンド部1の温度が上昇するために、コイルエンド部1を流下する冷却液は熱を吸収して上昇する。そのため、コイルエンド部1の下側部位S7では冷却液による冷却効果が低下し、下側部位S7よりも下方はさらに冷却効果が低下する。これに対して、ひさし部13を流下してきた冷却液は、液温が低く維持されたままでコイルエンド部1の下方部(特に下半分側)に落ちて伝わる。したがって、コイルエンド部1の上方部位だけでなく下方部位も合わせた全体を冷却することができる。
【0035】
上述した実施の形態1によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1に対応し、回転電機Mは、冷却液を供給する供給路4と、供給路4から供給される冷却液の流路となる樋3とを有する構成とした(図1を参照)。樋3は、流路の途中に設けられて冷却液を分流するとともに分流した冷却液を堰き止める仕切部12と、仕切部12で仕切られた仕切部位20ごとに設けられてコイルエンド部1に向けて冷却液を放出する放出口11とを備える構成とした(図3を参照)。この構成によれば、分流部12aによって分流された一部の冷却液は、仕切部12の堰止部12bによって堰き止められて放出口11から放出される。コイルエンド部1について冷却したい所望の部位に冷却液が流れるように、仕切部位20ごとの放出口11を適切に設定することで、コイルエンド部1のほぼ全体を冷却することができる。仮に回転電機Mが軸回転方向に傾斜した場合でも、供給路4から供給される冷却液は仕切部12で分流され、仕切部位20ごとの放出口11から放出されるので、図4(b)に示すようにコイルエンド部1のほぼ全体を冷却することができる。したがって、冷却性能を向上させることができる。
【0036】
請求項2に対応し、仕切部12(すなわち分流部12aおよび堰止部12b)は、所定の高さを有する板材で形成する構成とした(図3を参照)。この構成によれば、簡単な構成で仕切部12の分流部12aと堰止部12bとを実現できる。また、側面部より低い高さで設定した場合には、多量の冷却液が供給されたときに当該側面部を超えて他の仕切部位20に流れるので、各仕切部位20に冷却液を有効に配分することができる。
【0037】
請求項4に対応し、放出口11は、樋3の側面部3aに一つ以上設けられている構成とした(図2〜図4を参照)。この構成によれば、樋3の側面部3aにある放出口11から冷却液が放出されるので、主にコイルエンド部1の側面1bや内側面1cに流れ落ちるとともに、冷却液の粘性に応じて外側面1aにも流れ落ちる。したがって、コイルエンド部1の全体を冷却することができる。
【0038】
請求項5に対応し、樋3の下部であって、かつ、放出口11よりも下方に設けられるひさし部13を有する構成とした(図3および図6を参照)。この構成によれば、放出口11から放出されず樋3を流れる冷却液がひさし部13を伝って、コイルエンド部1の下方部位に流れ落ちる。冷却液がコイルエンド部1の下方部位に直接当たるので、当該下方部位を上方部位と同様に冷却することができる。したがって、特にコイルエンド部1の下方部位について冷却性能を向上させることができる。
【0039】
請求項6に対応し、樋3には、供給路4から樋3の頂点付近部に冷却液を誘導する誘導路14を有する構成とした(図3を参照)。この構成によれば、回転電機Mが軸回転方向(特定方向)に傾斜したとしても、供給路4から供給される冷却液を確実に樋3に流すことができる。
【0040】
〔実施の形態2〕
実施の形態2は、実施の形態1と同様に回転電機Mに適用した例について説明する。当該実施の形態2は図7を参照しながら説明する。図7には、冷却液の流路となる樋の第2構成例を示す。具体的には、図7(a)には平面図を示す。図7(b)には図7(a)に示すB−B矢視の断面図を示す。図7(c)には図7(a)に示すC矢視の側面図を示す。なお、図示および説明を簡単にするため、実施の形態2では実施の形態1と異なる点について説明する。実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付す。
【0041】
実施の形態2が実施の形態1と異なるのは、誘導路14を無くした点と、樋の構成(構造)を変更した点である。後者の点において、図7に示す樋15の構成例は、図3に示す樋3の構成例に代わるものである。図7(a)に示すように樋15は、図面中央を中心としてほぼ左右対称となるように形成する。図示しないが、供給路4から供給される冷却液は、樋15の図面中央部に導く。
【0042】
図7(a)および図7(b)において、樋15は本体(すなわち側面部15aおよび底面部15b)のほかに、仕切部12,ひさし部13などを有する。仕切部12とひさし部13は、いずれも左右に対称的に一つずつ備える。仕切部12が二つあるので、仕切部位20も二つ有する。側面部15aに放出口11を形成した例を図7(c)に示す。図7(a)および図7(b)との対照から明らかなように、左側の仕切部位20には左放出口11aが設けられ、右側の仕切部位20には右放出口11bが設けられる。この構成によれば、図2や図4に示すように、左放出口11aから放出される冷却液はコイルエンド部1の左半分側を落ちて伝いながら冷却する。同様にして、右放出口11bから放出される冷却液はコイルエンド部1の右半分側に落ちて伝いながら冷却する。
【0043】
上述した実施の形態2によれば、樋15の中央部に導かれた冷却液は、仕切部12によって二以上に分流されるので(図7(b)を参照)、コイルエンド部1の別々の箇所に冷却液を流下させることができる(図7(c)を参照)。この場合、図4(a)に示す回転電機Mの通常姿勢だけでなく、図4(b)に示す傾斜姿勢であっても、コイルエンド部1の全体に冷却液を供給することができる。したがって、上述した実施の形態1と同様に作用するので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0044】
〔実施の形態3〕
実施の形態3は、実施の形態1と同様に回転電機Mに適用した例について説明する。当該実施の形態3は図8を参照しながら説明する。図8には、冷却液の流路となる樋の第3構成例を示す。具体的には、図8(a)には平面図を示す。図8(b)には図8(a)に示すB−B矢視の断面図を示す。側面図は図3(c)と同一であるので、図示を省略する。なお、図示および説明を簡単にするため、実施の形態3では実施の形態1と異なる点について説明する。実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付す。
【0045】
実施の形態3が実施の形態1と異なるのは、樋の構成(構造)を変更した点である。図8に示す樋16の構成例は、図3に示す樋3の構成例に代わるものである。図8(a)に
示すように樋16は、実施の形態1で設けた側面部3a(本形態では側面部16aに相当)に加えて、底面部16bにも放出口11を設ける。具体的には、分流部12aによって分流される冷却液の流下経路に沿って、仕切部位20と、仕切部位20以外の部位とにそれぞれ一以上を設ける。仕切部位20に設ける放出口11と、仕切部位20以外の部位に設ける放出口11とでは形態(例えば円形や楕円形等の形状、形成する個数、合計した開口面積等)を異ならせるのが望ましい。
【0046】
上述した樋16の構成によってコイルエンド部1を冷却する態様について、図9を参照しながら説明する。当該図9は図5に代わる断面図であり、樋16の側面部16aに設けられた放出口11から放出される冷却液は、側面1bから内側面1cを経て落下する。また樋16の底面部16bに設けられた放出口11から放出される冷却液は、外側面1a側面1bを経て内側面1cに至り落下する。したがって、樋16に設ける各放出口11の開口面積の大きさをそれぞれ適切に調整することで、冷却液をコイルエンド部1のほぼ全面にゆき渡らせて冷却することができる。
【0047】
上述した実施の形態3によれば、樋16の誘導路14から導かれた冷却液は仕切部12により二以上に分流されるので(図8(a)を参照)、底面部16bに設ける放出口11によってコイルエンド部1の別々の箇所に冷却液を流下させることができる(図8(b)を参照)。この場合、図4(a)に示す回転電機Mの通常姿勢であっても、図4(b)に示す傾斜姿勢であっても、コイルエンド部1の全体に冷却液を供給することができる。したがって、上述した実施の形態1と同様に作用するので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0048】
〔実施の形態4〕
実施の形態4は、実施の形態1と同様に回転電機Mに適用した例について説明する。当該実施の形態4は図10を参照しながら説明する。図10には、冷却液の流路となる樋の第4構成例を示す。具体的には、図10(a)には平面図を示す。図10(b)には図10(a)に示すB−B矢視の断面図を示す。図10(c)には図10(a)に示すC−C矢視の断面図を示す。図10(d)には図10(a)に示すC矢視の側面図を示す。なお、図示および説明を簡単にするため、実施の形態4では実施の形態1と異なる点について説明する。実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付す。
【0049】
実施の形態4が実施の形態1と異なるのは、樋の構成(構造)を変更した点である。図10に示す樋17の構成例は、図3に示す樋3の構成例に代わるものである。図10(a)に示すように樋17は、図面下側半分の領域内に仕切部12を形成する。この仕切部12は、図10(b)に示すように、複数段の階段状に形成するとともに、冷却液が貯留可能な程度に段部12cを傾斜させる。また、側面(断面)から見る形状がノコギリ刃状となるように形成する。段部12cの傾斜角(0度を含む)は任意に設定可能であるが、例えば冷却液が仕切部位に所望の貯留容量以上に貯留できる程度の角度を設定するのが望ましい。仕切部12の角部(頂点部)と底面部17bの上面との高低関係は任意に設定可能である。図10(b)の構成例では仕切部12の角部が底面部17bの上面よりも高い位置となるように設定したが、逆に仕切部12の角部が底面部17bの上面よりも低い位置となるように設定してもよい。仕切部12によって分流されて堰き止められた冷却液は、図10(d)に示すように、側面部17aに設けられた放出口11からコイルエンド部1に向けて放出される。この放出口11は、図10(d)では形成位置に応じて中放出口11cと右放出口11bとが対象となる。
【0050】
一方、図10(a)に示すように樋17は、図面上側半分の領域内には何も設けず、底面部17bのみである。図10(c)に示すように、当該図面上側半分の領域には、仕切部12で分流された冷却液が流下する。底面部17bの上面位置は適切に設定され、実線で示す位置や、二点鎖線で示す位置などが該当する。したがって、階段状に形成された仕切部12のみで、分流機能と堰止機能とを兼ね備える。
【0051】
上述した実施の形態4によれば、請求項3に対応し、仕切部12は、樋17を複数段の階段状に形成するとともに、冷却液が貯留可能な程度に段部12cを傾斜させる構成とした(図10を参照)。すなわち仕切部12によって、樋17の誘導路14から導かれた冷却液は仕切部12により二以上に分流して堰き止める(図10(b)を参照)、コイルエンド部1の別々の箇所に冷却液を流下させることができる(図10(c)を参照)。この場合、図4(a)に示す回転電機Mの通常姿勢だけでなく、図4(b)に示す傾斜姿勢であっても、コイルエンド部1の全体に冷却液を供給することができる。この構成によれば、簡単な構成で仕切部12の分流機能と堰止機能とを同時に実現できる。また、上述した実施の形態1と同様に作用するので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0052】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について実施の形態1〜4に従って説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。実施の形態1〜4のうちで二以上の形態の任意に組み合わせて実現してもよい。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる形態で実施することもでき、例えば次に示す各形態を実現してもよい。
【0053】
実施の形態1および実施の形態3では樋に一の仕切部12を備える構成とし(図3,図8を参照)、実施の形態2および実施の形態4では樋に二の仕切部12を備える構成とした(図7,図10を参照)。これらの形態に代えて、実施の形態1および実施の形態3で二以上の仕切部12を備える構成としてもよく、実施の形態2および実施の形態4で一または三以上の仕切部12を備える構成としてもよい。すなわち、仕切部12を一以上備えていれば、上述した実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【0054】
実施の形態1および実施の形態3で樋に備える仕切部12は、分流部12aと堰止部12bとを板材で一体に形成する構成とした(図3,図8を参照)。この形態に代えて、分流部12aと堰止部12bとを別体に構成してもよく、板材以外の部材で構成してもよい。板材以外の部材は、例えば網状部材や、柵状部材(棒状部材をほぼ平行に並べて構成した部材)などが該当する。いずれの構成にせよ、分流部12aによる冷却液の分流機能と、堰止部12bによる冷却液の堰止機能とがそれぞれ実現される条件を満たせばよい。これらの構成であっても、実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【0055】
仕切部12は、実施の形態1〜3では分流部12aと堰止部12bとを板材で一体に形成する構成とし(図3,図7,図8を参照)、実施の形態4では複数段の階段状に形成して段部12cを傾斜させる構成とした(図10を参照)。この形態に限らず、分流機能と堰止機能とを一体または別体で備える他の形態で構成してもよい。他の形態は、例えば樋の底面部にかかる上面側に凹凸を形成する構成や、網状部材を用いて実現する等が該当する。他の形態であっても、実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【0056】
実施の形態1〜4では、供給路4は円筒形に形成する構成とした(図1,図2等を参照)。この形態に代えて、他の形状(例えば楕円筒形や、三角形以上の多角形に対応する多角筒形等)で形成する構成としてもよい。他の形状で構成した場合であっても、実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【0057】
実施の形態1〜4では、ポンプ10から汲み上げる冷却液を直接的に供給路4に導く構成とした(図1を参照)。この形態に代えて、ポンプ10と供給路4との間にタンクを介在させる構成としてもよい。すなわち、ポンプ10から汲み上げる冷却液をタンクに一時的に貯留し、タンクの貯留量で発生する圧力によって冷却液を供給路4に導く。タンクに貯留される間は冷却液が自然冷却されるので、冷却液を強制的に冷却する冷却装置(例えばオイルクーラー等)が不要になる。回転電機Mにタンクを備える構成であっても、冷却液を確実に供給できるので、実施の形態1〜4と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
M 回転電機
C1 コイル
1 コイルエンド部
1a 外側面
1b 側面
1c 内側面
2 ケーシング(フレーム,ハウジング)
3,15,16,17 樋
3a,15a,16a,17a 側面部
3b,15b,16b,17b 底面部
4 供給路(冷却液供給部)
4a 供給口
5 ティース
6 ステータ
7 磁石
8 ロータ
9 回転軸
10 ポンプ(冷却液供給部)
11(11a,11b,11c) 放出口
12 仕切部(分流機能および堰止機能)
12a 分流部(分流機能)
12b 堰止部(堰止機能)
12c 段部
13 ひさし部
14 誘導路
20 仕切部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸心を中心に回転自在なロータと、前記ロータの周面に対向する複数のスロットを有するステータと、前記複数のスロットにそれぞれ巻装されたコイルと、前記コイルがステータの軸方向端部位置から軸方向に張り出した領域としてのコイルエンド部と、を備える回転電機において、
冷却液を供給する冷却液供給部と、
前記冷却液供給部から供給される冷却液の流路となる樋と、を有し、
前記樋は、前記流路の途中に一以上設けられて冷却液を分流するとともに分流した冷却液を堰き止める仕切手段と、前記仕切手段で仕切られた仕切部位ごとに設けられて前記コイルエンド部に向けて冷却液を放出する放出口と、
を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記仕切手段は、所定の高さを有する板材で形成することを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記仕切手段は、前記樋を複数段の階段状に形成するとともに、冷却液が貯留可能な程度に段部を傾斜させることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記放出口は、前記樋の側面部に一つ以上設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記樋の下部であって、かつ、前記放出口よりも下方に設けられるひさし部を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項6】
前記樋には、前記冷却液供給部から前記樋の頂点付近部に冷却液を誘導する誘導路を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の回転電機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−135698(P2011−135698A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293030(P2009−293030)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】