説明

固体潤滑軸受

【課題】この固体潤滑軸受は,鉄合金製の軸受部品の表面に酸化皮膜を形成し,その上に固体潤滑膜を形成することによって,軸受部品からの固体潤滑膜の剥離を防止し,軸受の長寿命を確保することができる。
【解決手段】
この固体潤滑軸受は,鉄合金製の軸受部品であるローラ1を構成するローラ基材2の表面をオゾン処理やプラズマ処理によって酸化させ,ローラ基材2の表面に酸化皮膜3を形成し,酸化皮膜3上に固体潤滑膜4を被覆している。この固体潤滑軸受は,酸化皮膜3がローラ2の構成元素である鉄に対してバリアとなって鉄が固体潤滑膜4中に拡散しないので,使用中の摩擦によるローラ1からの固体潤滑膜4の剥離現象が発生せず,軸受の長寿命化が達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,真空中,放射線雰囲気,高低温雰囲気等の過酷な作業環境,或いは潤滑剤の臭気等を避けなければならない食品機械等を稼働する厳しい環境において,使用される固体潤滑軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の環境下で用いられている軸受用潤滑剤としては,グリース,潤滑油等の潤滑剤がある。しかしながら,真空中,高低温雰囲気,放射線雰囲気等の過酷な環境のもとでは,これらの潤滑剤は使用しても潤滑機能を果たすことができない。上記潤滑剤は,例えば,真空中や高温雰囲気の作業環境下では,グリースや潤滑油が蒸発して枯渇現象が生じ,潤滑性能を果たすことができない。また,潤滑剤は,放射線雰囲気の作業環境下では,潤滑剤に変質が生じて潤滑性能を果たすことができない。また,低温雰囲気では,潤滑剤の粘性が増加し,潤滑性能が低下する。
【0003】
従って,上記のような過酷な作業環境では,銀,鉛,錫,インジウム,金,銅等の軟質金属,二硫化モリブデン,二硫化タングステン等の層状構造無機化合物,PbO,DLC(Diamond-like Carbon, 硬質アモルファス炭素),SiO2 等の非層状構造無機化合物からなる固体潤滑膜が軸受に適用されている。
【0004】
これらの固体潤滑膜は,SUS440Cや軸受鋼からなる鉄合金製軸受部品,例えば,ボール,ローラ,内輪,外輪,スリーブの内の少なくとも一部品の表面に,スパッタリング,イオンプレーティング,真空蒸着法で形成することができる。固体潤滑軸受は,特性としては,潤滑寿命が長く摩擦係数が低いこと等が要求される。
【0005】
しかしながら,固体潤滑軸受に適用される固体潤滑材料としては,十分なものが無いため,種々の材料,該材料の固着法等が検討されているのが現状である。例えば,固体潤滑材料としては,二硫化モリブデンと二硫化タングステン,又は銀と金から成る二種の材料をそれぞれ特定の結晶軸方向に配向した数原子乃至数十原子層の厚さで交互に規則正しく周期的に積層した変調構造を有するものである。上記固体潤滑材料を平板上の基材に形成した結果,長寿命化が達成できるというものである(例えば,特許文献1参照)。
【0006】
また,固体潤滑転がり軸受として,外輪の両端内径部及び内輪の両端外径部が,母材であるマルテンサイト系ステンレス鋼よりもイオン化傾向の大きな金属部分で構成され,これら金属部分は,例えば,亜鉛,鉛等の金属から成るリング体を母材に一体に固着し,金属部分の内径側,金属部分の外径側は,軸受内部空間にそれぞれ露出している。該軸受は,腐食性雰囲気下に置かれると,犠牲アノードとなる金属部分が雰囲気中の反応性物質と積極的に反応し,転走面に腐食が生じるのを妨げることができる(例えば,特許文献2参照)。
【特許文献1】特公平6−62975号公報
【特許文献2】特開平6−50343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,変調構造を有する固体潤滑剤の場合,固体潤滑剤を被覆する基材が半導体シリコンのように極端に平滑な場合だけに適用できる技術である。実際の軸受部品では,表面粗さが0.1μm前後であり,しかも,ボールで代表されるように,曲率を有しているので,このような基材の上に数原子オーダ,つまり0.001μmの膜厚を規則正しく繰り返すことで,変調構造を取ることはできない。変調構造を有する固体潤滑剤を無理して作製したとしても,変調構造の乱れが大きく寿命も延びないために実用化は困難であった。従って,固体潤滑膜は,各々の材質からなる単層膜が使用されているのが現状である。そこで,軸受部品に適用できる固体潤滑剤を,長寿命化するには如何に作製すればよいかの方法が要望されていた。
【0008】
本発明者は,固体潤滑膜の長寿命化を図る研究を進める過程で,寿命の低下には二つの原因があることを見出した。その一つは,鉄製軸受部品の構成元素である鉄原子が固体潤滑膜中に粒界拡散で混入してくることである。例えば,スパッタリング法で銀を鉄製軸受部品に被覆する時には,プラズマの輻射熱で膜の温度が100℃前後まで上昇する。その結果,鉄製軸受部品の構成元素である鉄原子が銀膜の粒界を通る高速拡散によって膜中に混入し,摩擦係数を増大させて寿命が低下する。膜形成時に温度上昇が起こらないように冷却した鉄製軸受部品上に潤滑膜を形成すると,鉄の膜中への混入は防げる。しかしながら,軸受使用時の摩擦熱による高温化または高温使用時の温度によってやはり鉄が膜中に拡散してくるために同様に寿命の低下が生じる。他の一つは鉄製軸受部品と膜との界面の密着性が不十分なために摩擦により膜が剥離しやすくなっていることである。固体潤滑剤である銀等の軟質金属,二硫化モリブデン,二硫化タングステン等の層状構造無機化合物,PbO,SiO2 ,DLC等の非層状構造無機化合物硫化物は鉄との結合力が弱いためと考える。
【0009】
そこで,本発明者は,以上の現象を考慮して,鉄製軸受部品を構成する元素である鉄が膜中に拡散してこないようなバリア層を鉄合金製軸受部品の表面に形成し,且つ上記バリア層と固体潤滑膜の結合力が強ければ,寿命の低下が生じないことになると考えた。
【0010】
この発明の目的は,上記の問題を解決することであり,鉄合金製軸受部品に固体潤滑膜を被覆した軸受について,複雑な変調構造を適用しなくても,実用化可能な長寿命を達成することであり,固体潤滑膜中に鉄合金部品の構成元素である鉄が拡散してくること,摩擦係数が高くなり,寿命が低下し,また,摩擦により膜が基材との境界で剥離するために寿命が低下することの現象に鑑みて,鉄合金製軸受部品の表面をオゾン処理して形成した酸化皮膜によって鉄の拡散を防ぐと共に,膜の剥離を防止することを特徴とする固体潤滑軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は,鉄合金製の軸受部品を有する固体潤滑軸受において,少なくとも一つの前記軸受部品の表面が酸化処理されて前記軸受部品の前記表面に酸化皮膜が形成され,前記酸化皮膜の表面に固体潤滑膜が被覆されていることを特徴とする固体潤滑軸受に関する。
【0012】
また,前記酸化皮膜は,オゾン酸化処理,プラズマ酸化処理,及び熱酸化処理のいずれかの処理によって前記軸受部品の前記表面に形成されている。
【0013】
また,前記固体潤滑膜は,銀,鉛,錫,インジウム,金,銅等の軟質金属,二硫化モリブデン,二硫化タングステン等の層状構造無機化合物,及びPbO,SiO2 ,DLC等の非層状構造無機化合物から選択される少なくとも1種で構成されている。
【0014】
この固体潤滑軸受において,前記酸化皮膜の厚さは,0.01〜2μmであることが好ましい。
【0015】
また,前記軸受部品の材質は,SUS440C又はSUJ2であることが好ましい。
【0016】
また,前記軸受部品は,ボール,ローラ,内輪,外輪,摺動面を持つスリーブ,及び摺動面を持つ板部材から選択される少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0017】
この発明による固体潤滑軸受は,上記のように,鉄合金製の軸受部品の表面に緻密な酸化鉄等の酸化皮膜を形成し,該酸化皮膜の上に固体潤滑膜を形成しているので,鉄が固体潤滑膜中に拡散して混入することが無く,また,軸受使用時に,摩擦熱が発生したり,高温雰囲気での作業環境下で高温にさらされても,鉄原子の固体潤滑膜への混入を防止でき,さらに軸受部品の摺動時に,鉄合金製の軸受部品から固体潤滑膜が剥離するような現象が生じることはなく,その結果,表面に固体潤滑膜を備えた固体潤滑軸受の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明による固体潤滑軸受は,主として,鉄合金製の軸受部品の少なくとも1つの軸受部品を酸化処理することによって軸受部品の基材表面に酸化鉄等の酸化皮膜を形成し,該酸化皮膜の上に固体潤滑膜が形成されていることを特徴とする。酸化処理の1つの手法であるオゾン処理で形成された酸化皮膜は非常に緻密な組織であるので,該酸化皮膜が軸受部品基材中の鉄の拡散防止のバリア層になる。鉄が固体潤滑膜中に混入するには,その前に酸化皮膜の中を通る必要がある。しかしながら,鉄は,酸化皮膜中を極めて拡散し難いため,酸化皮膜中に混入できない。また,オゾン処理で鉄製合金に形成された酸化皮膜は,固体潤滑剤との結合力が強いので,摺動や摩擦時に,固体潤滑膜の剥離が生じない。例えば,銀と酸素,硫化物と酸素は,銀と鉄又は硫化物と鉄よりなじみ性が良いことが,剥離防止の原因と推定される。酸化膜形成法としては,オゾン酸化処理以外に,プラズマ酸化処理,熱酸化処理等である。鉄合金製の軸受部品の表面に,緻密な酸化皮膜が形成される方法であれば,オゾン処理以外の方法でも良いことは勿論である。
【0019】
また,この発明による固体潤滑軸受は,固体潤滑膜が銀,鉛,錫,インジウム,金,銅等の軟質金属,二硫化モリブデン,二硫化タングステン等の層状構造無機化合物,及びPbO,SiO2 ,DLC等の非層状構造無機化合物から選択される少なくとも1つ即ちいずれか1つ又は2つ以上で構成されることを特徴とする。これに対して,オゾン処理による酸化皮膜が形成されていない固体潤滑軸受は,銀等の軟質金属については膜形成時に鉄が混入してくるし,二硫化モリブデンと二硫化タングステン膜の層状構造無機化合物,PbO,SiO2 ,DLC等の非層状構造無機化合物については,高温使用時(100℃前後)に鉄の混入が見られるし,また,固体潤滑軸受の室温使用時でも摩擦熱によって固体潤滑膜の温度が高くなる潤滑条件でも鉄が混入即ち侵入してくるし,更に,摩擦による固体潤滑膜の軸受部品からの剥離現象が発生する。
【0020】
この発明による固体潤滑軸受は,酸化処理により,鉄合金製の各種軸受部品の表面に形成された酸化鉄等の酸化皮膜の厚さが0.01〜2μmであることを特徴とする。酸化皮膜の厚さは,0.01μm未満であると,鉄の拡散を防止するバリア層としての効果がないし,固体潤滑膜の軸受部品への密着性も良くなく,また,2μmを越えると酸化皮膜が軸受部品から剥離し易くなる。
【0021】
以下,図面を参照して,この発明による固体潤滑軸受が適用される各種の軸受の例を説明する。まず,図1〜図3を参照して,この発明による固体潤滑軸受を適用した一例であるクロスローラ軸受14について説明する。クロスローラ軸受14は,内輪5,外輪6,及びそれらの間に順次に交差して配設されたローラ1から構成されている。内輪5の外周面には軌道面8と逃げ溝10が形成され,外輪6の内周面には軌道面9が形成されている。ローラ1は,転動面12とその両端面13から形成され,転動面12が軌道面8,9で転動するように,内輪5と外輪6との間に交互に交差して配設されている。ローラ1間にはスペーサ7が介在されている。外輪6は,分割体6A,6Bを当接状態に固定され,分割体6A,6Bの当接領域の内周面に逃げ溝11が形成されている。ローラ1は,軸受鋼SUJ2,又はSUS440C製のローラ基材2の表面には,酸化皮膜3が形成されており,酸化皮膜3上に固体潤滑膜4が形成されている。この例では,酸化皮膜3と固体潤滑膜4は,ローラ基材2に施されているが,内輪5の基材及び/又は分割体6A,6Bから成る外輪6の基材に施してもよいことは勿論である。
【0022】
図4には,この発明による固体潤滑軸受における別の例の転がり軸受15に組み込まれるボールが示されている。また,図5には,この発明による固体潤滑軸受としての転がり軸受15が示されている。転がり軸受15は,内輪18,外輪17,及びそれらの間に配設されたボールから構成されている。ボールは,軸受鋼SUJ2,又はSUS440C製で作製されたボール基材16,ボール基材16の表面に形成された酸化皮膜20,及び酸化皮膜20上に形成された固体潤滑膜19から構成されている。この例の固体潤滑軸受では,酸化皮膜20と固体潤滑膜19は,ボール基材16に施されているが,内輪18の基材及び/又は外輪17の基材に施してもよいことは勿論である。
【0023】
図6及び図7には,この発明による固体潤滑軸受における更に別の例のすべり軸受21が示されている。すべり軸受21は,スリーブタイプの外輪軸受22と,外輪軸受22に支持された固定軸又は回転軸であるシャフト23から構成されている。外輪軸受22は,軸受鋼SUJ2,又はSUS440C製で作製されており,その内周面に酸化皮膜25が施され,酸化皮膜25上に固体潤滑膜24が形成されている。この例では,酸化皮膜25と固体潤滑膜24は,外輪軸受22に施されているが,シャフト23に施してもよいことは勿論である。
【0024】
以下,上記のような各種の軸受に共通する事項について説明する。従って,以下の説明では,部品に付する図中の符号は省略する。固体潤滑膜は,二硫化モリブデン(MoS2 ),又は二硫化タングステン(WS2 )からなる六方晶系の層状構造材料と銀(Ag)を使用したが,その他,金(Au),鉛(Pb),インジウム(In),銅(Cu)等の軟質金属でもよい。また,実施例の形態では,軸受部品は,鉄合金製であれば,同様の効果が得られるので,ローラ軸受やボール軸受の転がり軸受,すべり軸受等の軸受を構成するローラ,ボール,内輪,外輪,摺動面を持つスリーブ,摺動面を持つ板材でもよいことは勿論である。
【0025】
−実施例−
オゾン発生器で得られた酸素と0.2%オゾンの混合ガス中で種々の時間にわたって曝したSUS440C製のローラと,SUJ2製のローラに,また,SUS440C製の円板に固体潤滑膜を,0.6μmの厚さに被覆した。酸化皮膜の形成時における軸受部品のローラの温度は,室温としたが,処理時間を短縮する意味で,温度を上げて処理しても良い。ローラ表面への固体潤滑膜の形成には通常行われている方法を採用しており,固体潤滑膜の銀はイオンプレーテング法であり,また,硫化物はスパッタ法である。固体潤滑膜を被覆したローラを軸受に組み込んで,真空中での寿命を測定した。測定条件は,真空度0.02Pa,転がり速度8m/分,荷重1.5N,面圧114N・m/mm2 ,及び温度25℃である。酸化皮膜の厚さは,ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical
Analysis, X線光電子分光)による深さ方向分析とローラの断面をEPMA(Electron
Probe Micro-analyzer, X線マイクロアナライザ)で測定する方法を併用して求めた。酸化皮膜が0.01μm以下では,その厚さを正確に測定することができなかッタが,酸化皮膜の存在は確認できた。固体潤滑膜中の鉄元素の測定は,XPS(X-ray PhotoelectronSpectroscopy, X線光電子分光)で行った。実施例1,実施例2及び実施例3についての結果を,表1に示す。
【0026】
【表1】

表1から分かるように,比較例1,2及び3に示すように,酸化皮膜の厚さが0.01μm未満だと,鉄元素が固体潤滑膜中に混入するために寿命向上が十分でなかった。この発明の固体潤滑軸受のように,酸化皮膜と固体潤滑膜とを施した実施例1〜3の場合には,固体潤滑膜等の摩耗紛は,比較例1〜3に比べて非常に少なかった。ローラの基材から固体潤滑膜が剥離していないものと思料される。一方,SUS440C製円板に固体潤滑膜を0 .6 μmの厚さ被覆した試料について,ピンオンディスク試験を行ない,固体潤滑膜の円板からの剥離状態を,EPMA分析で調べた。本実施例の試料は,全て摩擦による試験では,固体潤滑膜の軸受部品からの剥離が生じなかった。即ち,上記摩擦による試験では,試料の単純な摩擦摩耗であることが分った。比較例1〜3の試料は,固体潤滑膜が全て試料から剥離が生じていた。
【0027】
次に,実施例1〜3と同じ構成の試料を用いた実施例4〜6について,実施例4〜6を120℃に保持した条件で固体潤滑膜の寿命を測定した。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

表2から分かるように,高温雰囲気での試験では,室温時の実施例1〜3に比べ,二硫化モリブデンと二硫化タングステンの効果が増大していることが分かった。実施例4〜6に示すように,軸受部品の表面の酸化皮膜の厚さは,0.01μm〜2μmの厚さであれば,固体潤滑膜が剥離せず,十分長い寿命が得られることが分かった。比較例1〜3と同様に比較例4〜6に示すように,軸受部品への酸化皮膜の厚さが0.01μm未満だと,鉄元素が固体潤滑膜中に混入するために,軸受の寿命向上が十分でなかった。
【0029】
次に,実施例1で使用したオゾナイザから出てきたオゾンガスを水中に通してオゾン水を作製した。実施例7として,上記オゾン水の中にローラを浸漬して酸化処理を行った後,形成された酸化皮膜上に固体潤滑膜を被覆形成した。軸受部品の表面に形成される酸化皮膜の厚さは,オゾン水中への浸漬時間で調整した。軸受部品の表面への酸化皮膜の成長速度は,空気中で行うよりも数倍速かった。その結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

表3から分かるように,軸受部品に固体潤滑膜を形成する場合に,まず軸受基材に酸化皮膜を形成し,該酸化皮膜上に固体潤滑膜を形成することによって,軸受部品からの固体潤滑膜の剥離が発生しないことが分かった。また,比較例1〜6と同様に比較例7に示すように,軸受部品への酸化皮膜の厚さが0.01μm未満だと,鉄元素が固体潤滑膜中に混入するために,軸受の寿命向上が十分でなかった。
【0031】
実施例1〜実施例7では,酸化皮膜の厚さが2μmまでの例について説明したが,これ以上の厚さがあっても酸化皮膜の剥離が生じない場合は同じ効果があることが明らかである。また,軟質金属として銀の例について説明したが,鉛,インジウム,金を用いても同じ効果があることは明らかである。また,オゾン処理の例について説明したが,プラズマ処理によっても同じ効果があることは明らかである。また,軸受部品の材質は,SUS440CとSUJ2の例で説明したが,SUJ2以外の高炭素軸受鋼でも同じ効果があることは明らかである。また,図1〜図3に示す一例のクロスローラ軸受について説明し,更に,図4と図5に示す一例のボール軸受,及び図6と図7に示す一例のすべり軸受について図示したが,その他の図示していない固体潤滑軸受,例えば,各種のローラ軸受,各種のボール軸受,各種のすべり軸受等の鉄合金製の軸受でも同じ効果が得られることも明らかである。更に,実施例1〜7では,ローラについて試験したが,ボール,スリーブ,内輪,外輪等の鉄合金製の軸受を構成する軸受部品についても,本発明の構成を適用すれば,更に,良い効果が得られることも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明による固体潤滑軸受は,例えば,真空中,放射線雰囲気,高低温雰囲気等の過酷な作業環境において使用されて好ましく,ローラ軸受,ボール軸受等の転がり軸受,すべり軸受等の鉄合金製の各種軸受に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明による固体潤滑軸受における一例のクロスローラ軸受に組み込まれるローラであって酸化皮膜と固体潤滑膜を誇張して示す斜視図である。
【図2】図1のローラの一部を示す拡大断面図である。
【図3】この発明による固体潤滑軸受の一例としてのクロスローラ軸受を示す断面図である。
【図4】この発明による固体潤滑軸受における別の例の転がり軸受に組み込まれるボールであって酸化皮膜と固体潤滑膜を誇張して示す断面図である。
【図5】図4のボールが組み込まれた転がり軸受を示す断面図である。
【図6】この発明による固体潤滑軸受としての更に別の例としてのすべり軸受であって酸化皮膜と固体潤滑膜を誇張して示す断面図である。
【図7】図6のすべり軸受の一部断面の正面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 ローラ
2 ローラ基材
3,20,25 酸化皮膜
4,19,24 固体潤滑膜
5,17 内輪
6,18 外輪
14 クロスローラ軸受
15 転がり軸受
16 ボール基材
21 すべり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄合金製の軸受部品を有する固体潤滑軸受において,
少なくとも一つの前記軸受部品の表面が酸化処理されて前記軸受部品の前記表面に酸化皮膜が形成され,前記酸化皮膜の表面に固体潤滑膜が被覆されていることを特徴とする固体潤滑軸受。
【請求項2】
前記酸化皮膜は,オゾン酸化処理,プラズマ酸化処理,及び熱酸化処理のいずれかの処理によって前記軸受部品の前記表面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固体潤滑軸受。
【請求項3】
前記固体潤滑膜は,銀,鉛,錫,インジウム,金,銅等の軟質金属,二硫化モリブデン,二硫化タングステン等の層状構造無機化合物,及びPbO,SiO2 ,DLC等の非層状構造無機化合物から選択される少なくとも1種で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体潤滑軸受。
【請求項4】
前記酸化皮膜の厚さは,0.01〜2μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体潤滑軸受。
【請求項5】
前記軸受部品の材質は,SUS440C又はSUJ2であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体潤滑軸受。
【請求項6】
前記軸受部品は,ボール,ローラ,内輪,外輪,摺動面を持つスリーブ,及び摺動面を持つ板部材から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体潤滑軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−332993(P2007−332993A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162375(P2006−162375)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】