説明

固形石鹸組成物

【課題】固形石鹸組成物中に配合されたカチオン性殺菌剤の殺菌効果及び安定性を確保することのできる、優れた固形石鹸組成物を提供すること。
【解決手段】(A)高級脂肪酸塩と、(B)カチオン性殺菌剤と、(C)両性高分子とを、それぞれ特定の含有量で含有することを特徴とする固形石鹸組成物である。前記(C)両性高分子としては、モノマー単位で、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ジメチルジアリルアンモニウム、(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、オレフィン、スチレン、塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、及び、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸から選択される2種以上を含む共重合体からなる両性高分子であって、前記モノマー単位での前記(メタ)アクリル酸のモル比が0.05〜0.2である両性高分子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固形石鹸組成物に関し、より詳細には、固形石鹸組成物中に配合されたカチオン性殺菌剤の殺菌効果及び安定性を確保することのできる、優れた固形石鹸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
固形石鹸に消毒殺菌効果を与えるためには、固形石鹸に、例えば、カチオン性殺菌剤(塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム等)を配合することなどが考えられる。しかしながら、これらの殺菌剤は石鹸中の脂肪酸塩とコンプレックスを形成してしまうため、殺菌効果が十分発揮されないという問題や、これらの殺菌剤は経時的に石鹸中で不均一に分散するため、殺菌剤の安定性が保たれないという問題があった。
このような問題を解決するため、従来においては、例えば、高級脂肪酸塩と、カチオン性殺菌剤と、両性界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤、アルカノールアミド系界面活性剤、及びアミドアミノ酸系界面活性剤から選ばれる1種以上と、カチオン性ポリマーとを含有する洗浄剤組成物(特許文献1);高級脂肪酸塩と、カチオン性殺菌剤と、両性界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤、アルカノールアミド系界面活性剤、及びアミドアミノ酸系界面活性剤から選ばれる1種以上と、高級脂肪酸とを含有する洗浄剤組成物(特許文献2);高級脂肪酸塩と、カチオン性殺菌剤と、特定の抗菌剤とを含有する洗浄剤組成物(特許文献3);等が報告されているが、これらの技術では、固形石鹸におけるカチオン性殺菌剤の殺菌効果や安定性を、十分に確保できるものではなかった。
【0003】
したがって、固形石鹸組成物中に配合されたカチオン性殺菌剤の殺菌効果及び安定性を確保することのできる、優れた固形石鹸組成物は、未だ求められているのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開平10−183193号公報
【特許文献2】特開平10−176194号公報
【特許文献3】特開平10−147799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、固形石鹸組成物中に配合されたカチオン性殺菌剤の殺菌効果及び安定性を確保することのできる、優れた固形石鹸組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(A)高級脂肪酸塩と、(B)カチオン性殺菌剤と、(C)両性高分子とを、それぞれ特定の含有量で含有させることにより、固体石鹸組成物中に配合されたカチオン性殺菌剤の殺菌効果及び安定性を確保することができることを見出し、本発明の完成に至った。なお、本発明において、前記(C)両性高分子としては、モノマー単位で、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ジメチルジアリルアンモニウム、(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、オレフィン、スチレン、塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、及び、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸から選択される2種以上を含む共重合体からなる両性高分子であって、前記モノマー単位での前記(メタ)アクリル酸のモル比が0.05〜0.2である両性高分子を用いる。
【0007】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> (A)下記一般式(1)で表される高級脂肪酸塩と、
COOM (1)
(式中、Rは炭素鎖7〜21のアルキル基又はアルケニル基を示し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アミン、又は塩基性アミノ酸を示す。)
(B)下記一般式(2)及び下記一般式(3)の少なくともいずれかで表されるカチオン性殺菌剤と、
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を示し、Z及びZはそれぞれハロゲン原子、アミノ酸、又は脂肪酸を示す。)
(C)モノマー単位で、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ジメチルジアリルアンモニウム、(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、オレフィン、スチレン、塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、及び、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸から選択される2種以上を含む共重合体からなる両性高分子であって、前記モノマー単位での前記(メタ)アクリル酸のモル比が0.05〜0.2である両性高分子と、
を含有してなり、かつ、前記(A)高級脂肪酸塩の含有量が60〜95質量%であり、前記(B)カチオン性殺菌剤の含有量が0.1〜1質量%であり、前記(C)両性高分子の含有量が0.1〜2質量%であることを特徴とする固形石鹸組成物である。
<2> (B)カチオン性殺菌剤が、塩化ベンザルコニウム及び塩化セチルピリジニウムの少なくともいずれかである前記<1>に記載の固形石鹸組成物である。
<3> (C)両性高分子が、モノマー単位でのアクリル酸のモル比が0.05〜0.2である、
(i)アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体、
(ii)アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム/アクリルアミド共重合体、及び、
(iii)アクリル酸/塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム/アクリルアミド共重合体の少なくともいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の固形石鹸組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、固形石鹸組成物中に配合されたカチオン性殺菌剤の殺菌効果及び安定性を確保することのできる、優れた固形石鹸組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(固体石鹸組成物)
本発明の固体石鹸組成物は、(A)高級脂肪酸塩と、(B)カチオン性殺菌剤と、(C)両性高分子とを含有してなり、更に必要に応じて、適宜その他の成分を含有してなる。
【0010】
<(A)高級脂肪酸塩>
前記高級脂肪酸塩は、主に、前記固形石鹸組成物の洗浄基材として配合される。
前記高級脂肪酸塩は、下記一般式(1)で表される高級脂肪酸塩であり、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
COOM (1)
前記一般式(1)中、Rは、炭素鎖7〜21のアルキル基又はアルケニル基を示す。
前記一般式(1)中、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アミン、又は塩基性アミノ酸を示す。前記アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。前記アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。前記アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、2−アミノ−2−メチルプロパンジオール等が挙げられる。前記塩基性アミノ酸としては、例えば、リジン、アルギニン等が挙げられる。これらの中でも、泡性能や香り立ちの点で、ナトリウム、カリウム、トリエタノールアミンが好ましい。
【0011】
前記高級脂肪酸塩は高級脂肪酸の塩であるが、前記高級脂肪酸塩を得るための原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高級脂肪酸、油脂、高級脂肪酸メチルエステルなどを用いることができる。前記高級脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パルミトオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸等の直鎖脂肪酸、イソステアリン酸、2−エチルヘキシル酸、オクチルドデカン酸等の分岐鎖脂肪酸、これらの混合物などが挙げられる。また、前記高級脂肪酸には、パーム核油脂肪酸、パーム油脂肪酸、椰子油脂肪酸、牛脂脂肪酸等の天然由来の脂肪酸混合物なども含まれる。前記油脂としては、例えば、パーム核油、パーム油、椰子油、大豆油、オリーブ油等の植物性油脂、牛脂等の動物性油脂などが挙げられる。
なお、前記固形石鹸組成物としては、必ずしも前記高級脂肪酸塩そのものを前記固形石鹸組成物中に配合させる態様のものである必要はなく、例えば、前記したような原料、及び、塩基をそれぞれ単独で前記固形石鹸組成物中に配合することにより、前記固形石鹸組成物中で前記高級脂肪酸塩を形成させる態様のものであってもよい。
【0012】
前記高級脂肪酸塩としては、前記一般式(1)中のRが11以上の飽和高級脂肪酸塩と、前記一般式(1)中のRが17以上の不飽和高級脂肪酸塩との比率(質量比)が、Rが11以上の飽和高級脂肪酸塩/Rが17以上の不飽和高級脂肪酸塩=2.0〜9.0であることが好ましく、3.0〜4.0であることがより好ましい。前記比率が、2.0未満であると、泡立ちのよさや、保形性の点で劣ることがあり、9.0を超えると、皮膚刺激のなさの点で劣ることがある。一方、前記比率がより好ましい範囲内であると、泡立ちのよさ、泡のクリーミィーさ、保形性、及び、皮膚刺激のなさにより優れる点で、有利である。
前記高級脂肪酸塩の脂肪酸組成としては、不飽和脂肪酸の割合が、脂肪酸総量に対して、35質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。前記不飽和脂肪酸の割合が、35質量%を超えると、溶け崩れのなさの点で劣ることがある。一方、前記不飽和脂肪酸の割合が、より好ましい範囲内であると、溶け崩れのなさにより優れる点で、有利である。なお、前記不飽和脂肪酸の割合の下限としては、脂肪酸総量に対して、5質量%以上であることが好ましい。前記不飽和脂肪酸の割合が、5質量%未満であると、固形石鹸を長期に使用した際のひび割れのなさの点で、劣ることがある。
【0013】
前記高級脂肪酸塩の含有量としては、前記固形石鹸組成物中、60〜95質量%であり、70〜90質量%が好ましい。前記含有量が、60質量%未満であると、十分な硬度が得られないこと等があり、95質量%を超えると、製造性に劣ること等がある。一方、前記含有量が、好ましい範囲内であると、十分な硬度が得られ、かつ、製造性にもより優れる点で、有利である。
【0014】
<(B)カチオン性殺菌剤>
前記カチオン性殺菌剤は、主に、前記固形石鹸組成物に殺菌効果を付与する目的で配合される。
前記カチオン性殺菌剤は、下記一般式(2)及び下記一般式(3)の少なくともいずれかで表されるカチオン性殺菌剤であり、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化3】

前記一般式(2)及び前記一般式(3)中、R及びRはそれぞれ炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を示す。
前記一般式(2)及び前記一般式(3)中、Z及びZはそれぞれハロゲン原子、アミノ酸、又は脂肪酸を示す。
【0015】
前記カチオン性殺菌剤の具体例としては、前記一般式(2)で表されるベンザルコニウム塩、前記一般式(3)で表されるセチルピリジニウム塩等が挙げられ、これらの中でも、効果と安全性の点で、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウムが好ましい。
【0016】
前記カチオン性殺菌剤の含有量としては、前記固形石鹸組成物中、0.1〜1質量%であり、0.15〜0.5質量%が好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、殺菌効果が弱いこと等があり、1質量%を超えると、皮膚に対して刺激を与えてしまうこと等がある。一方、前記含有量が、好ましい範囲内であると、十分な殺菌効果が得られ、かつ、皮膚刺激のなさにもより優れる点で、有利である。
【0017】
<(C)両性高分子>
前記両性高分子は、主に、前記固形石鹸組成物中で、前記カチオン性殺菌剤の殺菌効果を発揮させるともに、前記カチオン性殺菌剤の不均一な分散を抑制し、その安定性を保持する目的で配合される。
前記両性高分子は、モノマー単位で、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ジメチルジアリルアンモニウム、(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、オレフィン、スチレン、塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、及び、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸から選択される2種以上を含む共重合体からなる両性高分子であって、前記モノマー単位での前記(メタ)アクリル酸のモル比が0.05〜0.2である両性高分子であり、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記両性高分子における、モノマー単位での(メタ)アクリル酸のモル比は、前記両性高分子をドライアップ後、重水に溶解して1H−NMR測定を行い、その積分値より得られる値である。
【0018】
前記両性高分子としては、前記したような共重合体からなる両性高分子であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、MERQUAT295(アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体(5/95、モノマー単位でのアクリル酸のモル比0.05);Nalco社製)、MERQUAT280(アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体(20/80、モノマー単位でのアクリル酸のモル比0.2);Nalco社製)、MERQUAT PLUS3331(アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム/アクリルアミド共重合体(17/30/35、モノマー単位でのアクリル酸のモル比0.17);Nalco社製)、MERQUAT2003(アクリル酸/塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム/アクリルアミド共重合体(10/40/50、モノマー単位でのアクリル酸のモル比0.1);Nalco社製)が好ましく、MERQUAT295(アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体(5/95、モノマー単位でのアクリル酸のモル比0.05);Nalco社製)がより好ましい。
【0019】
前記両性高分子の含有量としては、前記固形石鹸組成物中、0.1〜2質量%であり、0.1〜1質量%が好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、カチオン性殺菌剤の不均一な分散を抑制する効果が認めらないこと等があり、2質量%を超えると、石鹸の溶け崩れのなさの点で劣ること等がある。一方、前記含有量が、好ましい範囲内であると、カチオン性殺菌剤の不均一な分散を抑制する効果に優れ、かつ、石鹸の溶け崩れのなさにもより優れる点で、有利である。
【0020】
<その他の成分>
前記固形石鹸組成物は、前記(A)〜(C)成分以外にも、本発明の効果を妨げない範囲内で、その他の成分を含有することができる。前記その他の成分としては、特に制限はなく、通常固形石鹸組成物に使用されるものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高級アルコール、シリコーン油等の油分、ラノリン誘導体、蛋白誘導体、ビタミン等の薬剤、カチオン性殺菌剤以外の殺菌剤、グリチルリチン酸、アライトイン等の抗炎症剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、紫外線吸収剤、動植物抽出物又はその誘導体、色素、香料(香料組成物)、顔料、無機粉体などが挙げられる。前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、本発明の効果を妨げない範囲内で、適宜選択することができる。
前記香料組成物における香料原料としては、特に制限はなく、例えば、特開2002−128658号公報の[0027]〜[0045]に記載の香料原料のリストを引用することにより、本明細書の開示の一部とされる。また、前記香料組成物としては、特開2002−309291号公報の表8〜14に記載の香料組成物A〜Dも好適に使用することができる。
【0021】
<製造>
前記固形石鹸組成物の製造方法としては、特に制限はなく、常法に従い製造することができ、具体的には、例えば、以下のようにして製造することができる。ニーダー内で各種高級脂肪酸を混合し、90℃に加温して溶解させた後、48%水酸化ナトリウムを加えながら撹拌し、高級脂肪酸を完全に中和して、(A)高級脂肪酸塩とする。前記高級脂肪酸塩に、必要に応じて更に高級脂肪酸、キレート剤、精製水を添加し、均一に混合して、水分約30%の石鹸糊を得る。その後、前記石鹸糊を、熱交換器を通して120〜140℃まで温度を上昇させ、真空度を13330〜18662Pa(100〜140mmHg)にコントロールした真空乾燥塔内噴霧により水分約10%まで乾燥し、2軸式単段プロッダーを通してペレット状に加工し、これを石鹸素地とする。この石鹸素地に(B)カチオン性殺菌剤、(C)両性高分子、着色剤、香料等を添加した後、必要に応じて温度を調節した2軸式2段プロッダーにて混練したものを型打ちし、固形石鹸組成物を得ることができる。
【0022】
<用途>
前記固形石鹸組成物の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、全身洗浄用、手指洗浄用、顔洗浄用等、様々な用途の固形石鹸に幅広く適用することができる。中でも、前記固形石鹸組成物は、固形石鹸組成物中に配合されたカチオン性殺菌剤の殺菌効果及び安定性に優れることから、手指等の殺菌消毒を目的とした薬用固形石鹸に、特に好適である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、特に明記のない場合、「%」はいずれも「質量%」を表し、比率はいずれも質量比を表す。また、成分量は全て純分換算した量である。
【0024】
(実施例1〜14、比較例1〜6)
下記表1〜3に示す組成に従い、実施例1〜14、及び、比較例1〜6の固形石鹸組成物を下記の製造方法により製造した。なお、下記表4〜5には、各実施例及び比較例で用いた(A’)高級脂肪酸の脂肪酸組成を示し、下記表6には、各実施例及び比較例で用いた(C)両性高分子及びその他の高分子の詳細を示した。
得られた各固形石鹸組成物について、以下のようにして、カチオン性殺菌剤の残存率(安定性)、及び、殺菌効果を評価した。結果を表1〜3に併せて示す。
【0025】
−固形石鹸組成物の製造方法−
ニーダー内で各種(A’)高級脂肪酸を混合し、90℃に加温して溶解させた後、48%水酸化ナトリウムを加えながら撹拌し、高級脂肪酸を完全に中和して、(A)高級脂肪酸塩とした。前記高級脂肪酸塩に、必要に応じて更に高級脂肪酸、キレート剤、精製水を添加し、均一に混合して、水分約30%の石鹸糊を得た。その後、前記石鹸糊を、熱交換器を通して120〜140℃まで加温し、真空度を13330〜18662Pa(100〜140mmHg)にコントロールした真空乾燥塔内噴霧により水分約10%まで乾燥し、2軸式単段プロッダーを通してペレット状に加工し、これを石鹸素地とした。この石鹸素地に、(B)カチオン性殺菌剤を精製水に溶解した殺菌剤溶液、着色剤、香料等を添加し、均一に混合した。更に、この混合物に(C)両性高分子を添加し、均一に混合した後、必要に応じて温度を調節した2軸式2段プロッダーにて混練した。この混錬したものを型打ちし、固形石鹸組成物を得た。
【0026】
[カチオン性殺菌剤の残存率(安定性)の評価]
製造直後、並びに、50℃の状態で1ヶ月間保存した各固形石鹸組成物について、中心部より石鹸サンプル1gを採取し、80%アセトン液で可溶化した。この溶液の一部について、液体クロマトグラフィGL−7400(ジーエルサイエンス社)を用い、カラムとして資生堂Capcellpak SCX φ4.6×150mm、移動相として水/アセトニトリル(470/530)を用い、検出波長210μmにて(B)カチオン性殺菌剤を定量した。下記式に示すように、製造直後の固形石鹸組成物における(B)カチオン性殺菌剤の定量値(A0)に対する、50℃1ヶ月間保存後の固形石鹸組成物における(B)カチオン性殺菌剤の定量値(A1)の割合を残存率とし、残存率が90%以上の場合を「安定性が保たれる」と評価した。
カチオン性殺菌剤の残存率(%)=A1/A0×100 ・・・(式)
【0027】
[殺菌効果の評価]
被験菌Escherichia coliを、標準寒天培地(日本製薬(株)製)を用い、30℃、24時間にて前培養した。前培養した菌液を滅菌生理食塩水に懸濁し、1×10個/mLの試験菌を調整し、この菌液0.5mLを標準寒天培地(日本製薬(株)製)20mLに混合、シャーレに注ぎ、殺菌力試験用寒天培地を作成した。この殺菌力試験用寒天培地の中央部に直径8mmの滅菌カップを設置し、各固形石鹸組成物の20%溶液を200μLずつ注ぎこんだ。これを30℃、64時間培養し、寒天上にできる阻止円の直径(mm)を測定することで殺菌効果を評価した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

なお、表5における脂肪酸は、下記の通りである。C8:カプリル酸、C10:カプリン酸、C12:ラウリン酸、C14:ミリスチン酸、C16:パルミチン酸、C18:ステアリン酸、C18F1:オレイン酸、C18F2:リノール酸
【0033】
【表6】

【0034】
表1〜3の結果から、(A)高級脂肪酸塩、(B)カチオン性殺菌剤、及び、(C)特定の両性高分子を、それぞれ特定の含有量の範囲内で含む実施例1〜14の固体石鹸組成物は、前記各要件の少なくともいずれかを満たさない比較例1〜6の固体石鹸組成物に比べ、カチオン性殺菌剤の残存率(安定性)、及び、殺菌効果に優れた固体石鹸組成物であることがわかった。
【0035】
(実施例15:殺菌消毒用固形石鹸組成物)
以下に示す配合組成の殺菌消毒用固形石鹸組成物を、上記と同様に製造した。
質量(%)
高級脂肪酸塩1 80.0
両性高分子1** 0.5
塩化ベンザルコニウム 0.15
パーム核油脂肪酸 3.5
エデト酸2ナトリウム 0.02
ヒドロキシエタンジホスホン酸 0.1
グリセリン 1.0
イソプロピルメチルフェノール 0.1
二酸化チタン 0.2
色素 0.005
香料B 0.3
香料C 0.3
香料D 0.3
精製水 残部
合計 100.00
高級脂肪酸塩1は、表4に記載された高級脂肪酸1(パーム核油脂肪酸75質量%及びパーム油脂肪酸25質量%)のナトリウム塩である(製法は前記同様)。
**両性高分子1は、表6に記載されたアクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体(5/95、モノマー単位でのアクリル酸のモル比0.05)(MERQUAT 295、NALCO社)である。
塩化ベンザルコニウムは、前記一般式(2)において、アルキル組成(R)はC12/C14=2/1(質量比)であり、Zはクロルを示すカチオン性殺菌剤である。
【0036】
実施例15の固形石鹸組成物について、前記同様に各評価を行った。結果を表7に示す。実施例15の固形石鹸組成物は、カチオン性殺菌剤の残存率(安定性)、及び、殺菌効果に優れた固形石鹸組成物であることがわかった。
【0037】
【表7】

【0038】
前記実施例及び比較例で用いた各成分の詳細を下記表8に示す。なお、(C)両性高分子及びその他の高分子成分の詳細については、前記表6に記載した通りである。
【0039】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の固形石鹸組成物は、例えば、全身洗浄用、手指洗浄用、顔洗浄用等、様々な用途の固形石鹸に幅広く適用することができる。中でも、前記固形石鹸組成物は、手指等の殺菌消毒を目的とした薬用固形石鹸に、特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される高級脂肪酸塩と、
COOM (1)
(式中、Rは炭素鎖7〜21のアルキル基又はアルケニル基を示し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アミン、又は塩基性アミノ酸を示す。)
(B)下記一般式(2)及び下記一般式(3)の少なくともいずれかで表されるカチオン性殺菌剤と、
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を示し、Z及びZはそれぞれハロゲン原子、アミノ酸、又は脂肪酸を示す。)
(C)モノマー単位で、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ジメチルジアリルアンモニウム、(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、オレフィン、スチレン、塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、及び、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸から選択される2種以上を含む共重合体からなる両性高分子であって、前記モノマー単位での前記(メタ)アクリル酸のモル比が0.05〜0.2である両性高分子と、
を含有してなり、かつ、前記(A)高級脂肪酸塩の含有量が60〜95質量%であり、前記(B)カチオン性殺菌剤の含有量が0.1〜1質量%であり、前記(C)両性高分子の含有量が0.1〜2質量%であることを特徴とする固形石鹸組成物。
【請求項2】
(B)カチオン性殺菌剤が、塩化ベンザルコニウム及び塩化セチルピリジニウムの少なくともいずれかである請求項1に記載の固形石鹸組成物。
【請求項3】
(C)両性高分子が、モノマー単位でのアクリル酸のモル比が0.05〜0.2である、
(i)アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体、
(ii)アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム/アクリルアミド共重合体、及び、
(iii)アクリル酸/塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム/アクリルアミド共重合体の少なくともいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の固形石鹸組成物。

【公開番号】特開2009−138051(P2009−138051A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313489(P2007−313489)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】