説明

圧力センサ、圧力検出装置および圧力検出方法

【課題】差圧による破損を避けることができる圧力センサの提供。
【解決手段】静電力により櫛歯状凹凸部11aを有する固定部11に対して、櫛歯状凹凸部12aを有する可動部12を共振角周波数ωで振動させる。このとき、空気の粘性が機械抵抗として作用することにより、共振角周波数ωにおけるアドミッタンス値|Y|が変化する。その結果、検出されるアドミッタンス値|Y|から圧力を計測することができる。さらに、櫛歯状凹凸部11a,12aとは別に、可動部12に粘性検出部を形成することで、より精度良く圧力を計測することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板から微細加工技術で製作される圧力センサ、その圧力センサを用いた圧力検出装置、および圧力検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の圧力センサとしては、半導体基板に形成されたダイアフラム上にゲージ抵抗体を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−47193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のダイアフラムを有する圧力センサでは、過大な圧力が加わった場合にダイアフラムが損傷するという欠点を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明による圧力センサは、所定周波数で振動し、圧力測定流体中の圧力に応じたイミタンスを発生する振動機構を備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の圧力センサにおいて、静電力により振動する櫛歯電極を振動機構に備えるようにしたものである。
請求項3は、請求項2に記載の圧力センサにおいて、櫛歯電極に、振動により流体抵抗を発生させる流体抵抗発生部を設けたものである。
請求項4は、請求項2または3に記載の圧力センサにおいて、振動機構を、フォトリソグラフィー法によりSOIウエハから一体で形成するようにしたものである。
請求項5による圧力検出装置は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の圧力センサと、イミタンスを圧力情報に変換する変換手段とを備えたことを特徴とする。
請求項6の発明による圧力検出方法は、振動する振動機構のイミタンスを検出し、検出されたイミタンスに基づいて振動機構が設けられた空間領域の圧力を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、振動する振動機構により発生するイミタンスにより圧力が得られるので、従来のように差圧によるダイアフラムの破損という問題がなく、高信頼性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明に係る圧力検出装置の概略構成を示す図である。図1の圧力検出装置は、センサ部1、駆動部2および検出部3を備えている。センサ部1は、固定部11および可動部12が設けられている。駆動部2には、直流電源21および交流電源22が設けられている。
【0008】
図2は、センサ部1を詳細に示す斜視図である。センサ部1は、絶縁層を挟んだ上下2つのシリコン層からなる3層構造の基板、例えばSOI(Silicon on Insulator)ウエハを用いて、半導体微細加工技術により一体で製作される。SOIウエハは上部Si層51、SiO層52および下部Si層53で構成され、2枚のSi単結晶板の一方にSiO層52を形成し、そのSiO層52を挟むように貼り合わせたものである。
【0009】
固定部11および可動部12は上部Si層51により形成されており、これらはSOIウエハのSiO層52および下部Si層53で構成される基部13上に配置されている。上部Si層51は一部が基部13に対して庇状に加工され、可動部12はその庇状部分に形成されている。
【0010】
基部13上に設けられた上部Si層51は、幅の狭い弾性支持部12bにより可動部12に連結されている。すなわち、可動部12は、弾性支持部12bのみにより支持されている。固定部11および可動部12の各対向部には、櫛歯状凹凸部11a,12aが形成されている。固定部11側に形成された櫛歯状凹凸部11aと可動部12側に形成された櫛歯状凹凸部12aとは、隙間を介して噛合している。
【0011】
図3は、センサ部1の櫛歯駆動機構を説明する模式図である。固定部11と可動部12との間には、直流電源21によりバイアス電圧Eが印加され、さらに交流電源22により交流電圧eが重畳して印加される。櫛歯状凹凸部11a,12a間に電圧を印加すると静電力が発生し、交流電圧eの印加により固定部11に対して可動部12が振動することになる。
【0012】
図4は、図3に示す櫛歯駆動機構における電気・機械結合系の等価回路を示す図である。Cは櫛歯状凹凸部11a,12a間におけるトータルの静電容量であり、Cは固定部11の基部13上の部分における浮遊容量である。一般に、電気・機械結合系においては、電気的エネルギーおよび機械的エネルギーの保存則が成立する。ここでは、外力f、電圧eが小さく、変位量、電荷量の変動も小さいとしてモデル化した。
【0013】
直流電源21によるバイアス電圧Eは機械系と電気系とを結合する働きをし、結合係数Aによって表される。iは電流、mは可動部12の質量、kはバネ定数、rは機械抵抗である。この機械抵抗rには、空気中で可動部12が振動することによる流体抵抗も含まれている。図4の等価回路で示される櫛歯駆動機構に関して、線形近似基本方程式は式(1),(2)のように表される。
=jω(C+C)e+(E/X)ν (1)
=jωmν+rν+kν/jω+E/X (2)
但し、iは交流電流値、eは入力交流電圧の振幅、νは可動部12の振動速度であり、fは櫛歯駆動機構に作用する外力である。また、Xは初期状態の櫛歯間距離である。
【0014】
式(1),(2)より、外力が零の場合、櫛歯駆動機構のアドミッタンスの絶対値|Y|と角周波数ωの関係は式(3)のように表すことができる。ここで、A=E/Xである。なお、本実施の形態の圧力検出装置は、櫛歯駆動機構のアドミッタンスを検出して圧力を計測するようにしているが、より広い概念で言えば、アドミッタンスやインピーダンスを含むイミタンスを検出して圧力を計測するものである。
【数1】

【0015】
図5は、アドミッタンス値|Y|の角周波数依存性を表すアドミッタンス曲線を示す図である。このアドミッタンス曲線は、電気・機械結合系の特性曲線になっている。一方、|Y|=ω(C+C)で表される直線は、機械系がない電気系のみの場合の特性曲線、すなわち、式(3)において次式(4)が成り立つ場合の特性曲線を表している。
−2ω(C+C)(ωm−k/ω)=0 (4)
【0016】
共振角周波数ωはアドミッタンス曲線のピーク位置より僅かに高いところに位置しており、関数f(ω)=|Y|−ω(C+C)に対して、df(ω)/dω=0を解くことにより、アドミッタンス曲線のピークの角周波数ω、凹カーブを示す部分のボトムの角周波数ωが得られる。図6は、関数f(ω)の模式図である。
【数2】

【0017】
共振角周波数ωと発振角周波数ωとの関係は次式(7)のように表される。発振角周波数ω、ピーク角周波数ωおよびボトム角周波数ωとの間には、2(1/ω=(1/ω+(1/ωという関係がある。
【数3】

【0018】
上述した式(3)において、ω=ω=√(k/m)とおくと、共振角周波数ωにおけるアドミッタンス値|Y|が得られる。|Y|は次式(8)のようになる。また、図6の曲線のω=ωにおける傾きaは、次式(9)によって求められる。
【数4】

【0019】
式(8)で表される共振角周波数ωにおけるアドミッタンス値|Y|、および式(9)で表される傾きaのいずれにも、機械抵抗rが含まれている。上述したように、この機械抵抗rは可動部12の振動に起因する流体抵抗が含まれているので、圧力変化による流体抵抗の変化をアドミッタンスの変化として検出することができる。すなわち、アドミッタンス値|Y|または傾きaを計測することにより、圧力を検出することができる。
【0020】
例えば、センサ部1を共振角周波数ωで駆動し、その時のアドミッタンス値|Y|を検出する。本実施の形態では、図1の検出部3にインピーダンスアナライザが設けられており、そのインピーダンスアナライザによりアドミッタンス値|Y|を検出する。図7は、実験により求めた圧力とアドミッタンス値との関係を示す図であり、センサ部1を大気圧における共振角周波数ωで駆動した。図から分かるように、圧力とアドミッタンス値|Y|とはほぼ比例関係あり、検出されたアドミッタンス値|Y|から圧力を求めることができる。検出部3にはアドミッタンス値|Y|と圧力値との関係を示すテーブルが記憶され、検出されたアドミッタンス値|Y|とテーブルを参照することにより、対応する圧力信号が出力される。
【0021】
図8は、機械抵抗と圧力との関係を示したものである。種々の圧力に対して傾きaをそれぞれ計測し、各傾きaからそれぞれの場合の機械抵抗rが求められる。この場合も、機械抵抗rと圧力とがほぼ比例関係にあることが分かる。なお、図7,8に示すような圧力特性は、計測する気体の種類によって異なるので、気体毎にテーブルを記憶しておき、計測する気体に合わせてテーブルを切り替えるようにすれば、種々の気体の圧力を計測することができる。
【0022】
《製造工程の説明》
図9は、センサ部1の製造工程を説明する図である。図9の(a1)および(b1)は第1工程を示す図であり、(a1)は平面図、(b1)はI−I断面図である。第1工程では、SOIウエハの上部Si層51の表面を熱酸化法により酸化し、表面保護用の酸化膜56を形成する。なお、上部Si層51の表面を単結晶Siの主面(001)とし、図示上下方向を<010>とする。
【0023】
図9の(a2)および(b2)は第2工程を示す図であり、(a2)は平面図、(b2)はII−II断面図である。第2工程では、マスクを用いたフォトリソグラフィーにより、図9(a2)に示すようなパターン形状のレジスト層57を形成する。
【0024】
図9の(a3)および(b3)は第3工程を示す図であり、(a3)は平面図、(b3)はII−II断面図である。第3工程では、レジスト層57をマスクとして酸化膜56を部分的に除去する。さらに、パターニングされた酸化膜56をマスクの代用としてICP−RIE(inductively coupled plasma - reactive ion etching)により上部Si層51を厚さ方向にエッチングする。ICP−RIEによるエッチング作用は、SiO層52で停止するので、櫛歯状凹凸部の厚さを均一かつ高精度に形成することができる。エッチングされた部分には、SiO層52の表面が露出する。
【0025】
図9の(a4)および(b4)は第4工程を示す図であり、(a4)は平面図、(b4)はII−II断面図である。第4工程では、残存するレジスト層57を除去した後に、上部Si層51が露出している側壁に表面保護のための酸化膜58を熱酸化法で形成する。その後、可動部12が中空に支持されるような構造とするために、破線Dよりも上側の部分の下部Si層53を裏面側からICP−RIEによりエッチングした後に、その部分のSiO層52を緩衝フッ化水素溶液を用いて除去する。その結果、図2に示すようなセンサ部1が形成される。
【0026】
《変形例》
気体圧力と機械抵抗rとの関係は、センサ部1で生じる流体抵抗、特に、櫛歯駆動機構部分の流体抵抗の大きさに依存する。そこで、可動部12の形状を工夫することにより、圧力の変化をより高精度に検出することができる。図10は、センサ部1の第1の変形例を示す図であり、気体の粘性による剪断力を効果的に利用するような構成とした。ここでは、櫛歯駆動機構とは別に粘性検出部1Aを形成し、この粘性検出部1Aにおける流体抵抗が大きくなるように構成した。
【0027】
粘性検出部1Aは、複数の櫛歯121が形成された可動櫛歯部120と、複数の櫛歯101が形成された静止櫛歯部100とで構成されている。これらの櫛歯101,121は、振動方向に互いに挿入されている。そのため、粘性検出部1Aにおける流体抵抗は、気体の剪断力によって主に発生する。可動櫛歯部120は可動部12と一体に形成され、可動部12とともに振動駆動される。一方、静止櫛歯部100は、固定部11と同様に図2の基部13上に配置されている。
【0028】
一方、図11に示す第2の変形例の粘性検出部1Bにおいては、可動櫛歯部120の櫛歯121と静止櫛歯部100の櫛歯101とが、振動方向と直角な方向に挿入されている。そのため、可動部12が振動すると、櫛歯101,121間に挟まれた気体が圧縮されるスクイーズ効果による流体抵抗が発生する。いずれの変形例においても、櫛歯駆動機構と独立して粘性検出部1A,1Bが形成されているため、駆動機構と粘性検出機構とを個別に最適設計することができ、より感度の良いセンサ部1を形成することができる。
【0029】
上述した本実施の形態は、次のような作用効果を奏する。
(1)静電力により所定周波数で振動し、圧力に応じたイミタンスを発生する振動機構、例えば、櫛歯状凹凸部12aを有する可動部12のような振動する櫛歯電極を備えたことにより、そのイミタンスを検出することで圧力を計測することができる。振動機構で圧力を計測するようにしているので、ダイアフラムを用いた従来のセンサのように差圧のより破損するおそれがない。
(2)さらに、粘性検出部1A,1Bのような流体抵抗発生部を、櫛歯電極とは別に設けたので、圧力検出精度を向上させることができる。
【0030】
(3)振動機構をフォトリソグラフィー法によりSOIウエハから一体で形成したことにより、センサ自体の大きさを非常に小さくすることができ、圧力検出の適用範囲が広がる。例えば、車両用タイヤの空気圧を検出するためのセンサとして、タイヤのホイールに搭載することができる。そのような場合、車両側に電磁波送信部を設けて、そこからセンサ部1に向けて電磁波を送出して振動駆動させるようにしても良い。センサ部1は圧力測定時のみ駆動させれば良い。
【0031】
この場合、車両側には電磁波送信部と受信部とが設けられ、タイヤ側にはセンサ部1と電磁反射器して作用するアンテナとが設けられる。電磁波送信部からセンサ部1に向けて電磁波を送出すると、電磁反射器から反射される電磁波は、電磁反射器に接続されたセンサ部1のイミタンスにより変調され、その周波数がわずかに変化する。車両側の受信部によりこの電磁波を受信して、その周波数変化からイミタンスの変化が検出される。
【0032】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、櫛歯状凹凸部11a,12aは櫛歯電極を、粘性検出部1A,1Bは流体抵抗発生部を、検出部3は変換手段をそれぞれ構成する。なお、上述した実施の形態では、櫛歯状凹凸部が設けられた一方の部材(可動部12)だけを振動駆動させたが、両方を駆動してもかまわない。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る圧力計測装置の概略構成を示す図である。
【図2】センサ部1を詳細に示す斜視図である。
【図3】センサ部1の駆動構造を説明する模式図である。
【図4】櫛歯駆動機構における電気・機械結合系の等価回路を示す図である。
【図5】アドミッタンス曲線を示す図である。
【図6】関数f(ω)の概略的な形状を示す図である。
【図7】圧力とアドミッタンス値との関係を示す図である。
【図8】機械抵抗と圧力との関係を示す図である。
【図9】センサ部1の製造工程を説明する図であり、(a1),(b1)は第1の工程を、(a2),(b2)は第2の工程を、(a3),(b3)は第3の工程を、(a4),(b4)は第4の工程をそれぞれ示す。
【図10】センサ部1の第1の変形例を示す図である。
【図11】センサ部1の第2の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1:センサ部 1A,1B:粘性検出部 2:駆動部 3:検出部
11:固定部 12:可動部 11a,12a:櫛歯状凹凸部
13:基部 21:直流電源 22:交流電源 51:上部Si層
52:SiO2層 53:下部Si層 100:静止櫛歯部
101,121:櫛歯 120:可動櫛歯部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数で振動し、圧力測定流体中の圧力に応じたイミタンスを発生する振動機構を備えたことを特徴とする圧力センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力センサにおいて、
前記振動機構は、静電力により振動する櫛歯電極を備えたことを特徴とする圧力センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の圧力センサにおいて、
前記櫛歯電極に、振動により流体抵抗を発生させる流体抵抗発生部を設けたことを特徴とする圧力センサ。
【請求項4】
請求項2または3に記載の圧力センサにおいて、
前記振動機構は、フォトリソグラフィー法によりSOIウエハから一体で形成されることを特徴とする圧力センサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の圧力センサと、
前記イミタンスを圧力情報に変換する変換手段とを備えたことを特徴とする圧力検出装置。
【請求項6】
振動する振動機構のイミタンスを検出し、検出されたイミタンスに基づいて前記振動機構が設けられた空間領域の圧力を求めることを特徴とする圧力検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−240449(P2007−240449A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66311(P2006−66311)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】