説明

圧力測定装置及び厚み測定装置

【課題】 平板状の被測定物に生じる体積変化の分布を測定可能な装置を提供する。
【解決手段】 圧力測定装置10は、平板状の被測定物を表裏面から挟持する一対の固定部材2,12と、固定部材12の内側面に設けられているとともに、被測定物と固定部材12の間に生じる圧力分布を検出する圧力センサ8を備えている。圧力測定装置10は、被測定物と固定部材12の間に生じる圧力分布を検出することにより、被測定物に生じた体積変化の分布を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧力測定装置に関する。特に、平板状の被測定物の体積変化を測定するために用いられる圧力測定装置に関する。本発明はまた、その圧力測定装置を利用した厚み測定装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
平板状の被測定物の特性を測定する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1には、リチウムイオン二次電池の単セル(正極板とセパレータと負極板の積層体)の電気化学特性を測定する装置が開示されている。その装置は、平板状の単セルを表裏面から挟持する一対の固定部材を備えている。一対の固定部材の一方には溝が形成されている。その溝内に単セルと電解液を収容した後、一対の固定部材によって単セルと電解液を密封する。単セルの電気化学特性を知るために充放電に伴う体積変化を測定する場合、固定部材を貫通する孔を形成し、ピストンや変位センサを用いて単セルの体積変化を測定する。すなわち、単セルが膨張すると溝内の圧力が上昇し、単セルが収縮すると溝内の圧力が低下するという現象を利用して単セルの体積変化を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−147513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばリチウムイオン二次電池は、充放電に伴って単セル内の体積が変化する。このとき、単セル内に充放電特性のばらつきが存在すれば、単セルに生じる体積変化にもばらつきが生じる。従って、単セル内の充放電特性が均一なリチウムイオン二次電池を得るためには、単セル内に生じる体積変化の分布を測定することが必要となる。
特許文献1の装置は、被測定物(単セル)全体の体積変化を測定することができる。換言すると、被測定物の平均的な体積変化を測定することができる。しかしながら、平板状の被測定物に生じた体積変化の分布を測定することができない。そのことから、特許文献1の装置を用いても、単セル内の充放電特性が均一か否かを確認することは不可能といえる。
本発明は、上記の課題を解決するものであり、平板状の被測定物に生じる体積変化の分布を測定可能な装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する圧力測定装置は、平板状の被測定物を表裏面から挟持する一対の固定部材と、一対の固定部材の内側面の少なくとも一方に設けられているとともに、被測定物と固定部材の間に生じる圧力分布を検出する平板状の圧力センサを備えている。なお、「一対の固定部材が平板状の被測定物を表裏面から挟持する」とは、被測定物と固定部材の間に生じる圧力に係わらず一対の固定部材間の相対的な位置が変化しない形態、及び、被測定物と固定部材の間に生じる圧力に応じて一対の固定部材間の相対的な位置が変化する形態の双方を含む。また、一対の固定部材間の相対的な位置が変化する形態の場合、固定部材の自重だけで被測定部材を挟持してもよいし、固定部材を被測定物に対して付勢する部品を使用してもよい。
【0006】
平板状の被測定物の一部が体積変化すると、対応する位置の被測定物と固定部材の間の圧力が変化する。上記圧力測定装置では、固定部材の内側面に圧力分布を検出する圧力センサが設けられているので、被測定物に生じた体積変化の程度を位置毎に測定することができる。すなわち、平板上の被測定物に生じた体積変化の分布を測定することができる。なお、以下の説明で「圧力分布」という場合、圧力センサによって測定された「被測定物と固定部材の間に生じる圧力分布」のことをいう。
【0007】
本明細書で開示する圧力測定装置では、被測定物が蓄電素子の単セルであってもよい。その場合、その単セルを充放電する充放電装置をさらに備えていることが好ましい。
蓄電素子の単セルを充放電すると、単セルを構成している電極板に体積変化が生じる。単セルを構成している電極板に局所的な異常(配合の不均一や、異物の混入等)が存在すると、単セルに生じる体積変化も局所的に相違する。この圧力測定装置によると、充放電に伴って電極板に生じた体積変化の分布を測定することができ、電極板に存在する局所的な異常を検出することが可能となる。なお、「蓄電素子の単セル」とは、電解質を介して対向する一対の電極板のことをいう。
【0008】
蓄電素子が二次電池の場合、圧力センサが、少なくとも単セルの負極側に位置する固定部材に設けられていることが好ましい。
二次電池の場合、充放電に伴って、正極板の体積変化よりも負極板の体積変化の方が顕著に現れることが多い。圧力センサが単セルの負極側に位置する固定部材に設けられていれば、単セルに生じた体積変化の分布を感度よく測定することができる。
【0009】
被測定物が蓄電素子の単セルの場合、圧力測定装置は、一対の固定部材を収容するとともに、蓄電素子の電解質を貯留可能な電解質槽をさらに備えていることが好ましい。
蓄電素子では、イオンが電解質を介して一対の電極間を移動する。そのため、一対の電極間に電解質を保持させる必要がある。例えば、単セルをフィルム材等で覆い、そのフィルム材内に電解質を封入しなくてはいけない。単セルと圧力センサの間にフィルム材等が存在すると、そのフィルム材等によって、単セルと固定部材の間に生じた圧力変化の検出感度が低下することがある。それに対して、上記した電解質槽を備えていれば、単セルをフィルム材等で覆う必要がなくなり、蓄電素子の単セルと固定部材の間に生じた圧力をより正確に検出することができる。
【0010】
被測定物が蓄電素子の単セルの場合、圧力測定装置は、充放電装置による充電前に圧力センサによって測定された圧力分布と、充放電装置による充電後に圧力センサによって測定された圧力分布との差分の分布を計算する圧力分布計算装置をさらに備えていることが好ましい。
単セルに凹凸が存在すると、単セルを充電していないにも係わらず、単セルと固定部材の間に圧力分布が存在する。充電後の単セルと固定部材の間の圧力分布のみでは、その圧力分布が充電による単セルの体積変化によって生じたものか、単セルに固有の凹凸によるものかの判断ができない。上記圧力分布計算装置を備えていれば、充電に伴う単セルの体積変化の分布を正確に測定することができる。
【0011】
本明細書は、被測定物の厚み分布を測定する厚み測定装置も開示する。その厚み測定装置は、上記した圧力測定装置と、一対の固定部材間の相対的な位置を検出する変位センサを備えている。
上記の厚み測定装置では、固定部材と被測定物の間の圧力分布に加えて、その被測定物を挟持している一対の固定部材間の距離を、同時に測定することができる。固定部材と被測定物の間の圧力分布は、被測定物の各位置における厚みを相対的に示す。一対の固定部材間の距離は、被測定物の平均的な厚みを絶対的に示す。従って、これらの測定値が得られれば、被測定物の厚み分布を定量的に求めることができる。これにより、例えば被測定物に生じた局所的な体積変化を、定量的に把握することができる。
【0012】
厚み測定装置は、上記変位センサを少なくとも3つ以上備えており、任意の2つの変位センサの測定位置を結ぶ直線からオフセットされた位置に、少なくとも1つの変位センサが配置されていることが好ましい。すなわち、全ての変位センサが、同一直線上に配置されていないことが好ましい。
上記の厚み測定装置では、一対の固定部材間の相対的な傾きを測定することができる。これにより、一対の固定部材間の距離が全面に亘って一定であると仮定する場合よりも、被測定物の厚み分布をより正確に算出することが可能となる。
【0013】
厚み測定装置は、変位センサによって測定された被測定物の全体的な厚みのデータと、圧力センサによって測定された圧力分布のデータに基づいて、被測定物の厚み分布を計算する厚み分布計算装置をさらに備えていることが好ましい。
上記したように、固定部材と被測定物の間の圧力分布と、その被測定物を挟持している一対の固定部材間の距離が判明すれば、被測定物の厚み分布を求めることができる。すなわち、一対の固定部材間の距離に、測定された圧力分布を重ね合わせれば、被測定物の厚み分布を得ることができる。上記厚み分布計算装置を備えていれば、例えば被測定物に生じた局所的な体積変化を、容易に検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、平板状の被測定物に生じた体積変化の分布を測定可能な装置を得ることができる。また、本発明によると、平板状の被測定物の体積変化の分布を定量的に測定可能な装置を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】圧力測定装置の基本構造を示す。
【図2】単セルの体積変化の分布を測定する例(実施例1)を説明する図を示す。
【図3】単セルの体積変化の分布を測定する方法のフローチャートを示す。
【図4】単セルの初回充電前の圧力分布を示す。
【図5】単セルの初回充電後の圧力分布を示す。
【図6】単セルの初回充電前後の体積変化の分布を示す。
【図7】単セルの体積変化の分布を測定する例(実施例2)を説明する図を示す。
【図8】実施例3の厚み測定装置の外観を示す。
【図9】実施例4の厚み測定装置の外観を示す。
【図10】単セルの厚み分布を説明する図を示す。
【図11】単セルの体積変化の実体値の分布を測定する方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、圧力測定装置10の基本構造を示す。図1は、圧力測定装置10の基本構造を説明するための図であり、圧力測定装置10の構造の全てを図示するものではない。
図1に示すように、圧力測定装置10は、一対の固定部材2,12を備えている。一対の固定部材2,12の間には、被測定物が挟持される。固定部材12の内側面に、被測定物と固定部材12の間に生じる圧力分布を検出することができる圧力センサ8が設けられている。圧力センサ8として、例えば、感圧導電性変換方式の圧力センサ、静電容量方式の圧力センサ、圧電式の圧力センサ、ひずみ式の圧力センサ等を使用することができる。
上記構造を備えていれば、平板状の被測定物に生じる体積変化の分布を測定することができる。以下に説明する圧力測定装置10の特徴は、必須の構成ではないが、被測定物に生じる体積変化の分布を測定するために好適である。
【0017】
固定部材2,12の内側面は平坦である。固定部材12はガイド6に沿って移動することができるので、様々な厚みの被測定物を挟持しやすい。なお、固定部材2,12は、被測定物に圧力をかけた状態で、被測定物を挟持することができる。固定部材2,12が被測定物に圧力をかけた状態で、ガイド6と固定部材12を固定してもよい。あるいは、固定部材2,12が被測定物に圧力をかけた状態で、固定部材2と固定部材12が相対移動可能であってもよい。固定部材2,12が相対移動可能であれば、被測定物に体積変化が生じても、固定部材2,12と被測定物の間の圧力が変化しない。なお、ばね等の部品を採用して、固定部材2,12から被測定物に加えられる圧力を調整してもよい。固定部材12の重量を調節して、固定部材2,12から被測定物に加えられる圧力を調整してもよい。また、ガイド6は省略することもできる。
【0018】
固定部材2,12が金属の場合、圧力センサ8は、絶縁性を有していることが好ましい。また、図1に示すように、固定部材2の表面側に絶縁膜4を設けることが好ましい。被測定物が導電性を有していても、被測定物と固定部材2,12を絶縁することができる。なお、「絶縁性を有する圧力センサ」とは、圧力センサそのものが絶縁性の材料で製造されている形態の他、導電性を有する圧力センサを絶縁性の材料で被覆する形態も含む。
【0019】
圧力測定装置10を利用して、様々な被測定物の体積変化の分布を測定することができる。図2に示すように、被測定物が蓄電素子の単セル40の場合、圧力測定装置10は充放電装置20を備えていることが好ましい。単セル40の充放電特性を、単セル40の体積変化の分布として捉えることができる。なお、蓄電素子の具体例として、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、固体ポリマー二次電池等の二次電池、一次電池、及びキャパシタ等が挙げられる。
【0020】
図2には、被測定物の例として、リチウムイオン二次電池の単セル40を示している。単セル40は、正極28とセパレータ30と負極36が順に積層されている。そして、圧力センサ8が負極36側の固定部材12に設けられている。リチウムイオン二次電池の単セル40の場合、充放電に伴い、負極36が顕著に体積変化することが多い。そのため、圧力センサ8を負極36側だけに設ければ、単セル40の体積変化の分布を十分に測定することができる。しかしながら、圧力センサ8を正極28側の固定部材2に設けてもよいし、圧力センサ8を固定部材2,12の双方に設けてもよい。いずれの場合も、単セル40の体積変化の分布を十分に測定することができる。
【0021】
図2に示すように、圧力測定装置10は電解質槽14を備えている。後述するように、電解質槽14は必須の構成ではないが、電解質槽14槽を備えていると、固定部材2,12に単セル40を挟持させた後に、単セル40を電解液16内に浸漬することができる。
【0022】
圧力測定装置10は、圧力分布計算装置22を備えている。圧力分布計算装置22も必須の構成ではないが、圧力分布計算装置22を備えていると、充電前に圧力センサ8によって測定された圧力分布と充電後に圧力センサ8によって測定された圧力分布の差分を計算することができる。充電に伴う単セル40の体積変化の分布を正確に測定することができる。
より正確にいうと、圧力分布計算装置22は、以下の計算をすることができる
(1)単セル40を初回充電する前(単セル40を固定部材2,12に設置したとき)に測定された圧力分布と、単セル40を初回充電した後に測定された圧力分布の差を計算する。
(2)単セル40を初回充電する前に測定された圧力分布と、単セル40を既定の回数充放電したときの充電後の圧力分布の差を計算する。
(3)単セル40を既定の回数充放電したときの充電前後の圧力分布の差を計算する。
【0023】
単セル40を充放電しているときに、圧力分布を連続的に測定してもよい。その場合、圧力分布計算装置22に代えて、充電前に圧力センサ8によって測定された圧力分布と、充放電中に圧力センサ8によって連続的に測定される圧力分布の差を、リアルタイムに計算する圧力分布計算装置を採用することが好ましい。
【実施例1】
【0024】
図2を参照し、単セル40の体積変化の分布を測定する例を詳細に説明する。なお、図2では、図1に示しているガイド6の図示を省略している。
図2に示すように、圧力測定装置10は、単セル40を充放電する充放電装置20と、圧力センサ8によって測定された圧力分布を記憶・処理する圧力分布計算装置22と、固定部材2,12を収容するとともに、電解質を貯留することができる電解質槽14を備えている。電解質槽14内に、電解液16が貯留されている。固定部材2,12は、単セル40を挟持した状態で電解液16内に配置されている。
【0025】
ここで、単セル40について説明する。
単セル40は、正極28とセパレータ30と負極36が積層された積層体である。正極28は、正極集電板26と、正極集電板26の両面に形成されている正極活物質24を備えている。負極36は、負極集電板34と、負極集電板34の両面に形成されている負極活物質32を備えている。セパレータ30は、多孔質であり、内部に電解液16が含浸されている。そのため、正極28と負極36は、電解液16を介して対向しているといえる。正極28と負極36の間を、イオンが移動することができる。なお、正極活物質24は、正極集電板26の片面にだけ形成されていてもよい。同様に、負極活物質32は、負極集電板34の片面にだけ形成されていてもよい。正極活物質24と負極活物質32が、セパレータ30を介して対向していればよい。
負極36の負極活物質32は、圧力センサ8を介して固定部材12に対向している。上記したように、圧力センサ8が絶縁性を有しているので、負極36と固定部材12が絶縁される。また、正極28の正極活物質24は、絶縁膜4に接触し、固定部材2に直接接していない。正極28と固定部材2が絶縁される。その結果、単セル40と固定部材2,12が絶縁される。
【0026】
図2に示すように、電解質槽14内にリチウム(Li)を材料とする参照極18が配置されている。参照極18が配置されているので、負極36の特性と正極28の特性を別々に測定することもできる。参照極18は、単セル40に接していないので、負極36あるいは正極28と短絡することはない。なお、参照極18は、電解液16に接してさえいれば、任意の位置に配置することができる。また、参照極18の数も任意である。
参照極18は、配線20aを介して充放電装置20に接続されている。正極集電板26は、配線20bを介して充放電装置20に接続されている。負極集電板34は、配線20cを介して充放電装置20に接続されている。また、圧力センサ8は、配線22aを介して圧力分布計算装置22に接続されている。圧力センサ8で検出された圧力分布は、圧力分布計算装置22に入力される。
【0027】
図2では、固定部材2,12の全体が電解液16内に配置されている。少なくとも単セル40が電解液16中に位置していればよく、必ずしも固定部材2,12の全体を電解液16内に配置する必要はない。また、必ずしも単セル40が電解液16中に位置していなくてもよい。正極28と負極36の間をイオンが移動可能であればよく、例えば予めセパレータ30に電解液を含浸させた後に、大気中で充放電を行ってもよい。
【0028】
図3を参照し、単セル40の体積変化の分布を測定する方法について説明する。図3は、体積変化の分布を測定するフローチャートを示している。
まず、圧力測定装置10に単セル40を設置する(S1)。このときに、負極集電板34と正極集電板26を、充放電装置20に接続する。また、圧力センサ8を、圧力分布計算装置22に接続する。次に、単セル40を充電する前に、単セル40と固定部材12の間に生じる圧力分布を測定する(S2)。この測定では、単セル40を初回充電する前の圧力分布を測定する。この測定によって、単セル40に固有の凹凸による圧力分布を測定することができる。圧力分布の測定結果は、圧力分布計算装置22に入力される。
【0029】
次に、単セル40を充電する(S3)。充電の完了後、今回の充電によって、充放電回数が既定の測定対象回数に達しているか否かを判定する(S4)。充放電回数が測定対象回数に達していれば(S4:YES)、単セル40と固定部材12の間に生じる圧力分布を測定する(S5)。この測定対象回数には、例えば1回、100回、500回、1000回、2000回、・・・といった回数が設定されている。それにより、1回目(初回)の充電後の圧力分布、100回目の充電後の圧力分布、500回目の充電後の圧力分布、1000回の充電後の圧力分布、・・・が測定されるようになっている。圧力分布の測定結果は、圧力分布計算装置22に入力される。
次に、圧力分布計算装置22が、S2工程で測定された充電前の圧力分布とS5工程で測定された充電後の圧力分布の差分の分布を計算する(S6)。例えば、先のS5工程で初回充電後の圧力分布が測定されていれば、ここでは初回充電の前後で測定された圧力分布の差が計算される。それにより、初回充電の前後で単セル40に生じた体積変化の分布を測定することができる。その後、単セル40を放電する(S7)。単セル40の放電完了後、前記した測定対象回数の全てについて測定が完了していれば(S8:YES)、測定を終了する。測定対象回数の全てについて測定が完了していなければ(S8:NO)、S3工程に戻って単セル40を再度充電する。
【0030】
単セル40を充電した後、単セル40の充放電回数が測定対象回数に達していなければ(S4:NO)、単セル40の放電が直ちに行われる(S7)。この場合、充電後の圧力分布の測定は行われない。単セル40の放電が行われた後、S3工程に戻り(S8:NO)、単セル40を再度充電する(S3)。それにより、充放電回数が測定対象回数に達するまで、単セル40の充放電を繰り返す。すなわち、充放電回数が測定対象回数に達するまで(S3),(S4:NO),(S7),(S8:NO)の工程を繰り返す。
【0031】
S7工程とS8工程の間に、単セル40と固定部材12の間に生じる圧力分布を測定する工程を追加してもよい。単セル40を既定の測定対象回数だけ充放電したときの放電前後の圧力分布の差分の分布を計算することができる。
【0032】
図4〜6を参照し、単セル40の体積変化の分布を測定した測定例について説明する。ここでは、単セル40の初回充電前の圧力分布(S2工程)と、単セル40の初回充電後の圧力分布(S5工程)から、単セル40の体積変化の分布を測定した例について説明する。図4は単セル40を固定部材2,12に設置したとき(初回充電前)における圧力分布を示し、図5は単セル40の初回充電後における圧力分布を示している。図6は単セル40の初回充電前後における体積変化の分布を示している。なお、符号8aは圧力分布の測定範囲を示しており、符号50は単セル40と固定部材12の間に生じた圧力分布を示す等圧線である。
図4に示すように、単セル40を充放電しなくても、単セル40と固定部材12の間には圧力分布が生じる。すなわち、図4は、単セル40に固有の凹凸を示している。
図5に示すように、単セル40の初回充電後の圧力分布は、図4の圧力分布よりも複雑になっている。図5の圧力分布は、単セル40に固有の凹凸と、単セル40の充電による体積変化の分布が重畳した分布である。そのため、図5は、単セル40の充電による体積変化の分布を正確に示すものではない。
そこで、圧力分布計算装置22を利用して、図4の圧力分布と図5の圧力分布の差分の分布を計算する。図6は、図4の圧力分布と図5の圧力分布の差分の分布を示している。図6の圧力分布は、単セル40に固有の凹凸に起因する圧力分布が除去されている。そのため、図6は、単セル40の初回充電後の体積変化の分布を示しているといえる。
【0033】
上記の説明では、単セル40の初回充電前後の体積変化の分布を測定する方法について説明した。単セル40を初回充電する前の圧力分布と、単セル40の充放電を測定対象回数だけ繰り返したときの充電後の圧力分布を利用して、単セル40を測定対象回数だけ充放電したときの初回充電前に対する体積変化の分布を測定することもできる。また、単セル40の充放電を測定対象回数だけ繰り返したときの充電前後の圧力分布を利用して、単セル40の充放電を測定対象回数だけ繰り返したときの充電前後の体積変化の分布を測定することもできる。あるいは、単セル40を初回充電する前の圧力分布と、単セル40の充放電中の圧力分布の連続的な変化を利用して、単セル40の充放電中の体積変化の分布をリアルタイムに測定することもできる。
【実施例2】
【0034】
図7を参照し、単セル40の体積変化の分布を測定する別の例を説明する。
図7に示すように、単セル40はフィルム60内に密封されている。そして、フィルム60には、単セル40とともに電解液62が密封されている。なお、単セル40のうち、負極集電板34の一部と正極集電板26の一部は、フィルム60から突出している。そして、負極集電板34と充放電装置20が、フィルム60の外で接続されている。また、正極集電板26と充放電装置20も、フィルム60の外で接続されている。
本実施例では、単セル40と電解液62が予めフィルム60内に密封されている。そのため、図2のように電解質槽14を必要としない。
【0035】
また、単セル40がフィルム60で覆われているので、固定部材2に設けている絶縁膜4を省略することもできる。同様に、圧力センサ8が絶縁性を有していなくてもよい。すなわち、圧力測定装置10から、単セル40と固定部材2,12を絶縁するための部材を省略することができる。
なお、フィルム60の内部に参照極を配置してもよい。第1実施例と同様に、負極36の特性と正極28の特性を別々に測定することができる。
【実施例3】
【0036】
図8は、圧力測定装置10を使用した厚み測定装置100の外観を示す。なお、圧力測定装置10の詳細については、説明を省略する。
厚み測定装置100では、圧力測定装置10にガイド6(図1を参照)が設けられていない。単セル40は、固定部材12の自重によって、固定部材2,12間に挟持されている。換言すると、単セル40には、固定部材12の自重分だけの圧力が加えられている。厚み測定装置100は、圧力測定装置10に加え、変位センサ74(74a〜74c)と、変位量計算装置70と、厚み量計算装置80を有している。夫々の変位センサ74は、配線72を介して変位量計算装置70に接続されている。変位量計算装置70は、配線82によって厚み量計算装置80に接続されている。また、圧力分布計算装置22も、配線78によって厚み量計算装置80に接続されている。なお、図示は省略するが、厚み測定装置100では、圧力センサ8(図1を参照)が固定部材2に取付けられている。
【0037】
複数の変位センサ74を有することによって、固定部材2,12間の隙間を複数個所において測定することができる。図8に示すように、変位センサ74bは、変位センサ74aの測定位置と変位センサ74cの測定位置を結ぶ直線76からオフセットされた位置に設けられている。そのため、固定部材12の固定部材2に対する傾きを、平面的に捉えることができる。なお、変位センサとして、レーザ三角測量式の変位センサ、レーザトップラ式の変位センサ、レーザ共焦点式の変位センサ、渦電流式の変位センサ、超音波式の変位センサ、差動トランス式の変位センサ、静電容量式の変位センサ等を使用することができる。
【0038】
ここで、固定部材12と固定部材2の間の傾きについて説明する。図9は、図8のIX-IX線に沿った断面において、単セル40の一部が膨張している状態を示す。2点鎖線で示す単セル40と固定部材12は、単セル40が膨張していない状態を示している。実線で示す単セル40aと固定部材12aは、単セル40が膨張している状態を示している。
図9に示すように、単セル40が膨張すると、固定部材12と固定部材2の間の相対的な位置が変化する。両者の相対的な位置の変化は、変位センサ74によって、固定部材12の変位量として検出される。そのときに、固定部材12と固定部材2の間の相対的な傾きが変化すると、変位センサ74a,74cの変位量が異なる。変位センサ74a,74cの変位量を変位量計算装置70で計算することにより、固定部材12と固定部材2の間の相対的な傾きを検出することができる。なお、固定部材12から単セル40に加えられる全体的な圧力は、単セル40が膨張する前と変わらない。そのため、充放電を繰り返している間、常に、固定部材2,12と単セル40の間の全体的な圧力を一定に保つことができる。
【0039】
厚み測定装置100の他の利点を説明する。
上記したように、厚み測定装置100では、固定部材2と固定部材12が拘束されていない。そのため、例えば環境温度が変化して固定部材2、12の体積が変化しても、固定部材2、12と単セル40の間の圧力に影響を及ぼさない。すなわち、固定部材2、12の体積変化が単セル40の体積変化として検出されることを抑制することができる。単セル40の体積変化の分布をより正確に検出することができる。
厚み測定装置100は、固定部材2、12間の厚み変化を測定することにより、単セル40の厚み変化を実測することができる。すなわち、単セル40の実際の厚み変化を位置毎に測定することができる。
【0040】
上記したように、単セル40が体積変化すると、固定部材12と固定部材2の間の相対的な位置が変化する。そのため、単セル40の体積変化が大きい部位の圧力と、小さい部位の圧力を、圧力センサ8で区別しにくい。そのため、固定部材12と固定部材2の傾きによって、圧力センサ8の検出値を補正する。すなわち、体積変化が大きい部位の圧力センサ8の値を大きく補正し、体積変化が小さい部位の圧力センサ8の値を小さく補正する。その結果、単セル40の体積変化を位置毎により精度よく検出することができる。
【0041】
図10を参照し、単セル40の体積変化(厚み変化)の分布を測定する方について説明する。図10は、体積変化の分布を測定するフローチャートを示している。
まず、厚み測定装置100に単セル40を設置する(S11)。次に、単セル40と固定部材12の間に生じる圧力分布を測定する(S12)。S11とS12の工程は、実施例1で説明したS1とS2の工程と実質的に等しい。厚み測定装置100では、工程S11の後に、各変位センサ74a〜74cの値を、変位量計算装置70に入力する(S13)。工程S13によって、固定部材12と固定部材2の初期状態の傾きを測定することができる。なお、各変位センサ74a〜74cの値を変位量計算装置70入力した後に、変位センサ74a〜74c値を「ゼロ」に初期化してもよい。
【0042】
工程S12、S13に続いて、単セル40を所定回数充放電する(S14)。次に、単セル40の充電前の圧力分布と充電後の圧力分布の差分の分布を計算する(S15)。S14とS15の工程は、実施例1で説明した工程S3〜S8に実質的に等しい。厚み測定装置100では、充電前後の圧力分布に加え、充電前後の各変位センサ74の値の差分の値を計算する(S16)。次に、変位量計算装置70は、各変位センサ74の値を利用して、充電後の固定部材12の傾きの変化を計算する(S17)。単セル40の体積変化に部分的な差異が存在すると、充電後の固定部材12の傾きが変化する。次に、工程S17で得られた傾きを利用して、位置係数を決定する(S18)。位置係数は、傾きの変化に応じて、単セル40の位置毎に決定される。すなわち、単セル40の体積変化が大きい部分には、大きな位置係数を与え、単セル40の体積変化が小さい部分には、小さな位置係数が与えられる。
【0043】
次に、工程S15で得られた単セル40の圧力分布結果を、位置係数で修正する。その結果、単セル40の位置毎の厚み変化率が計算される(S19)。すなわち、単セル40の位置毎の相対的な体積変化が計算される。厚み測定装置100では、工程S16の結果を利用して、各変位センサ74の値の平均値を算出する。すなわち、単セル40の全体の厚み変化量を計算する(S20)。次に、工程S19で得られた単セル40の位置毎の厚み変化率と、工程S20で得られた単セル40の全体の厚み変化量を利用して、単セル40の位置毎の厚み変化量を計算する(S21)。以上の工程によって、単セル40の位置毎の厚み変化量を定量的に測定することができる。
【実施例4】
【0044】
図11は、厚み測定装置100aの外観を示す。厚み測定装置100aでは、変位センサ74の本体が固定部材2に固定されている。変位センサ74のセンサ部は、固定部材2には接触しないで、固定部材12にだけ接触している。変位センサ74を位置決めするための拘束アーム等を省略することができる。
【0045】
上記実施例3、4では、電解液を貯留するための構造の図示を省略している。実施例1で説明したように、固定部材2,12を収容する電解質槽14(図1を参照)を使用してもよいし、実施例2で説明したように、単セル40を密封するフィルム60(図7を参照)を使用してもよい。
【0046】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0047】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
2:固定部材
8:圧力センサ
10:圧力測定装置
12:固定部材
14:電解質槽
20:充放電装置
22:圧力分布計算装置
40:単セル(被測定物)
70:変位量計算装置
74:変位センサ
80:厚み量計算装置
100:厚み測定装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の被測定物を表裏面から挟持する一対の固定部材と、
一対の固定部材の内側面の少なくとも一方に設けられているとともに、前記被測定物と固定部材の間に生じる圧力分布を検出する圧力センサと、
を備えていることを特徴とする圧力測定装置。
【請求項2】
前記被測定物が蓄電素子の単セルであり、
その単セルを充放電する充放電装置をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の圧力測定装置。
【請求項3】
前記蓄電素子が二次電池であり、
前記圧力センサが、少なくとも単セルの負極側に位置する固定部材に設けられていることを特徴とする請求項2の圧力測定装置。
【請求項4】
前記一対の固定部材を収容するとともに、電解質を貯留可能な電解質槽を備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の圧力測定装置。
【請求項5】
前記充放電装置による充電前に前記圧力センサによって測定された圧力分布と、前記充放電装置による充電後に前記圧力センサによって測定された圧力分布との差分の分布を計算する圧力分布計算装置をさらに備えていることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の圧力測定装置。
【請求項6】
被測定物の厚み分布を測定する厚み測定装置であって、
請求項1から5のいずれか1項に記載の圧力測定装置と、
前記一対の固定部材間の相対的な位置を検出する変位センサと、
備えていることを特徴とする厚み測定装置。
【請求項7】
前記変位センサを少なくとも3つ以上備えており、
任意の2つの変位センサの測定位置を結ぶ直線からオフセットされた位置に、少なくとも1つの変位センサが配置されていることを特徴とする請求項6に記載の厚み測定装置。
【請求項8】
前記変位センサによって測定された被測定物の全体的な厚みのデータと、前記圧力センサによって測定された圧力分布のデータに基づいて、被測定物の厚み分布を計算する厚み分布計算装置をさらに備えていることを特徴とする請求項6又は7の厚み測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−32492(P2010−32492A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47878(P2009−47878)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】