圧粉成形体、圧粉成形体の製造方法、リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置
【課題】低損失な圧粉成形体、及びその圧粉成形体を製造することができる圧粉成形体の製造方法、圧粉成形体を具えるリアクトル、コンバータ、電力変換装置を提供する。
【解決手段】軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具えてなる被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する方法で、素材準備工程と、照射工程とを具える。素材準備工程では、被覆軟磁性粉末を加圧成形した素材成形体を用意する。照射工程では、素材成形体の表面の一部にレーザを照射する。素材成形体の表面の一部にレーザを照射することにより、素材成形体の表面で複数の軟磁性粒子の構成材料同士が導通した導通部の分断箇所を増加することができ、圧粉成形体の損失を低減できる。
【解決手段】軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具えてなる被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する方法で、素材準備工程と、照射工程とを具える。素材準備工程では、被覆軟磁性粉末を加圧成形した素材成形体を用意する。照射工程では、素材成形体の表面の一部にレーザを照射する。素材成形体の表面の一部にレーザを照射することにより、素材成形体の表面で複数の軟磁性粒子の構成材料同士が導通した導通部の分断箇所を増加することができ、圧粉成形体の損失を低減できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆軟磁性粉末を加圧成形してなる圧粉成形体、その製造方法、その圧粉成形体を具えるリアクトル、そのリアクトルを具えるコンバータ、及びそのコンバータを具える電力変換装置に関するものである。特に、低損失な圧粉成形体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車などは、モータへの電力供給系統に昇圧回路を備えている。この昇圧回路の一部品として、リアクトルが利用されている。リアクトルは、コアにコイルを巻回した構成である。コアを交流磁場で使用した場合、コアに鉄損と呼ばれる損失が生じる。鉄損は、概ね、ヒステリシス損と渦電流損との和で表され、特に、高周波での使用において顕著に増加する。
【0003】
リアクトルのコアにおける鉄損を低減するために、圧粉成形体でできたコアを用いることがある。圧粉成形体は、軟磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成した被覆軟磁性粒子からなる被覆軟磁性粉末を加圧して成形され、軟磁性粒子同士が絶縁被膜により絶縁されているので、特に、渦電流損を低減する効果が高い。
【0004】
しかし、圧粉成形体は、相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状のダイとでつくられるキャビティに被覆軟磁性粉末を充填し、第一パンチと柱状の第二パンチとによりキャビティ内の被覆軟磁性粉末を加圧成形して作製されるため、この加圧成形時の圧力や、成形体の脱型時における金型との摺接により被覆軟磁性粒子の絶縁被膜が損傷する虞がある。絶縁被膜が損傷すると、軟磁性粒子が露出し展延することがあり、その結果、圧粉成形体における軟磁性粒子同士が導通して、略膜状の導通部を形成してしまい、渦電流損が増大する虞がある。
【0005】
そこで、上記渦電流損を低減するために、例えば、特許文献1には、被覆軟磁性粉末(軟磁性粉末)を加圧して成形した素材成形体の表面を、濃塩酸で表面処理することが記載されている。具体的には、素材成形体を濃塩酸に浸漬して、素材成形体の表面全面における上記導通部を除去して圧粉成形体としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−229203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように素材成形体の表面全体を表面処理することで、一定の低損失化を図ることができる。このように、素材成形体の表面全体を表面処理してしまうと、上記導通部を除去することができるが、一方で、絶縁被膜が損傷していない被覆軟磁性粒子の絶縁被膜をも損傷させる可能性もある。その結果、損失低減効果が小さくなる虞がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、低損失な圧粉成形体を提供することにある。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、低損失な圧粉成形体を効率的に製造することができる圧粉成形体の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、上記本発明の製造方法により製造された圧粉成形体を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、上記圧粉成形体を具えるリアクトルを提供することにある。
【0012】
本発明の更に異なる目的は、上記リアクトルを具えるコンバータ、このコンバータを具える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために、圧粉成形体の製造方法について鋭意検討した。具体的には、表面処理を施す領域を種々選択した圧粉成形体を製造して損失低減効果が小さくなる原因を調べた。その結果、次の知見を得た。
【0014】
素材成形体の表面全面に表面処理すると、素材成形体の脱型時における上記ダイと摺接する箇所(摺接面)に生じた上記導通部は除去される。一方で、素材成形体の上記各パンチと接触する箇所(圧接面)にはそもそも上記導通部が形成され難く、そこに表面処理を行うと、絶縁被膜が破壊されることがある。そのため、圧接面では軟磁性粒子が露出した状態になり、鉄損の低減効果が小さくなることがある。従って、表面処理は、素材成形体の一部、さらには上記摺接面の一部、特に摺接面において磁束方向全長に亘る領域に施すとよいことが判明した。
【0015】
上記知見から、低損失な圧粉成形体を効率的に製造するには、素材成形体の特定の領域に表面処理を施す以下の方法が挙げられる。
【0016】
その圧粉成形体の製造方法とは、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具えてなる被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する方法で、素材準備工程と、表面処理工程とを具える。素材準備工程では、被覆軟磁性粉末を加圧成形した素材成形体を用意する。表面処理工程では、素材成形体の表面で複数の軟磁性粒子の構成材料同士が導通した導通部の分断箇所を増加させる。この導通部の分断箇所の増加は、電気的に遮断された箇所が増加することであり、導通部の途中が変形されて不連続箇所を形成する場合の他、導通部の少なくとも一部が除去される場合を含む。上記表面処理工程は、上記成形体の表面の一部に施される。ここでの表面処理工程には、化学的、機械的、電気的、光学的、熱的、あるいは、これらの複合的な処理により、上記導通部の分断箇所の増加が可能なあらゆる表面処理が含まれる。具体的には、機械的な処理方法として切削や研削が、熱・光学的な方法としてレーザ処理がそれぞれ挙げられる。いずれの処理方法も導通部の除去が可能と考えられる。特に、切削や研削では、導通部を機械的に分離して除去がなされると考えられる。一方、レーザ処理では、導通部の溶融・流動により、不連続箇所が増加されると考えられる。
【0017】
より具体的な方法として、以下の本発明の圧粉成形体の製造方法が挙げられる。
【0018】
この製造方法は、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具えてなる被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する方法で、素材準備工程と、照射工程とを具える。素材準備工程では、被覆軟磁性粉末を加圧成形した素材成形体を用意する。照射工程では、上記素材成形体の表面の少なくとも一部にレーザを照射する。
【0019】
本発明の製造方法によれば、素材成形体の表面の少なくとも一部にレーザを照射することで、薄膜状体の導通部に対して高いエネルギーの付与、または急激な加熱と冷却を生じさせるので、上記導通部の分断箇所が増加すると考えられる。この導通部の分断箇所の増加により、導通部の電気抵抗を増大させる、或いは導通部における導通を遮断できる。その結果、渦電流を流れ難く、或いは渦電流を遮断できるため、圧粉成形体の損失を低減できる。
【0020】
加えて、素材成形体の表面の少なくとも一部にレーザを照射することで、絶縁被膜が損傷していない被覆軟磁性粒子の絶縁被膜を損傷させる可能性が低くなり、損失低減効果が小さくなることがない。その結果、素材成形体の表面全面を表面処理した場合と同程度の低損失な圧粉成形体を製造することができる。さらに、損失低減効果が小さくなった場合の圧粉成形体よりも、低損失な圧粉成形体とすることができ、効率的に低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0021】
さらに、種々の製造方法により製造した圧粉成形体を調べたところ、上記本発明の製造方法により得られた圧粉成形体の表面の少なくとも一部に酸化膜が存在し、この酸化膜を具える箇所の表面部分における酸素含有量が特定の範囲である圧粉成形体は、低損失であるとの知見を得た。そこで本発明は、酸素の含有量が特定の範囲である上記表面部分を具える圧粉成形体を規定する。
【0022】
具体的には、本発明の圧粉成形体及び本発明圧粉成形体の製造方法により製造された圧粉成形体は、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える被覆軟磁性粉末を加圧成形してなる。圧粉成形体の表面の少なくとも一部に鉄を含有する酸化膜を具える。上記酸化膜を具える箇所の表面部分における鉄と酸素の合計含有量を100質量%とするとき、酸素の含有量が9質量%以上20質量%以下である。
【0023】
本発明の圧粉成形体は、酸素の含有量が所定範囲にある上記表面部分を具えることで、渦電流損の少ない低損失な圧粉成形体とすることができる。例えば、リアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、低損失なリアクトルとすることができる。従って、本発明圧粉成形体は、リアクトルの構成部材に好適に利用でき、コイルが高周波の交流で励磁される場合でも鉄損特性を改善できる。
【0024】
本発明の製造方法の一形態として、上記照射工程は、上記素材成形体における金型との摺接面の少なくとも一部に施されることが挙げられる。
【0025】
上記の構成によれば、金型との摺接面に導通部が形成され易いので、摺接面の少なくとも一部にレーザを照射することで、効果的に渦電流を遮断できる。
【0026】
本発明の製造方法の一形態として、上記照射工程は、上記圧粉成形体を磁心として励磁した際、磁束方向との平行面の少なくとも一部となる素材成形体の表面に施されることが挙げられる。
【0027】
上記の構成によれば、レーザを照射する箇所が、磁束方向との平行面のうち少なくとも一部であることで、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を、上記レーザが照射された箇所で遮断することができると考えられる。そのため、渦電流損を低減することができ、低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0028】
本発明の製造方法の一形態として、上記照射工程は、上記圧粉成形体を磁心として励磁した際、磁束方向との平行面の少なくとも一部で、上記平行面において、上記圧粉成形体の磁束方向全長に亘る領域となる素材成形体の表面に施されることが挙げられる。
【0029】
上記の構成によれば、レーザを照射する領域を、素材成形体の表面のうち、上記平行面の少なくとも一部で、その平行面において、圧粉成形体の磁束方向全長に亘る領域となる面とすることで、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を上記全長に亘って遮断することができると考えられる。従って、渦電流損をより低減することができ、より低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0030】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザが、YAGレーザ、YVO4レーザ、及びファイバーレーザの中から選択される1種のレーザであることが挙げられる。
【0031】
上記の構成によれば、上記レーザが上記の中から選択されるレーザであることで、上記導通部の分断箇所を増加し易くなる。
【0032】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザの波長が、上記軟磁性粒子の波長吸収領域であることが挙げられる。
【0033】
上記の構成によれば、上記導通部の分断箇所を増加し易いうえに、導通部以外の箇所の被覆軟磁性粒子の絶縁被膜が損傷し難い。
【0034】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザの平均出力をP(W)、当該レーザの照射面積をS(mm2)とするとき、当該レーザのエネルギー密度U(W/mm2)=P/Sが、37.0≦U≦450.0を満たすことが挙げられる。
【0035】
上記の構成によれば、レーザのエネルギー密度Uを37.0W/mm2以上とすることで、上記導通部の分断箇所を確実に増加させることができる。レーザのエネルギー密度Uを450.0W/mm2以下とすることで、過剰溶融による軟磁性粒子同士の接触を抑制でき、損失低減効果が小さくなることを抑制できる。
【0036】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザのビーム径に対する照射間隔の比率が、0.35以下であることが挙げられる。
【0037】
上記の構成によれば、上記比率を0.35以下とすることで、レーザが照射されない未処理領域を低減できるため、導通部を分断し易くなる。
【0038】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザの重ね回数が、5回以上であることが挙げられる。
【0039】
上記の構成によれば、レーザを複数回同じ領域に照射することで、上記導通部を確実に分断できる。
【0040】
本発明圧粉成形体の一形態として、さらに、圧粉成形体の表面に、上記酸素の含有量が6質量%未満の箇所を具えることが挙げられる。
【0041】
上記の構成によれば、圧粉成形体の表面に、酸素の含有量が6質量%未満の低酸素領域と、9質量%以上20質量%以下の高酸素領域とが混在した圧粉成形体とすることができる。このように、部分的に低酸素領域を具えていても、高酸素領域において渦電流を遮断できるので、低損失な圧粉成形体とすることができる。
【0042】
本発明圧粉成形体の一形態として、上記酸化膜は、厚さが0.1μm以上の箇所を具えることが挙げられる。
【0043】
上記の構成によれば、酸化膜が、厚さが0.1μm以上である厚さの厚い箇所を具えることで、例えば、リアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、その箇所で渦電流を流れ難くすることができる。
【0044】
本発明圧粉成形体の一形態として、分断領域と、集結部とを具えることが挙げられる。分断領域は、圧粉成形体の表面の少なくとも一部において、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する箇所である。集結部は、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面において、隣接する粒子間に跨らず、中央側がその外周縁側よりも厚みの大きい酸化膜で構成される。
【0045】
上記の構成によれば、例えば、圧粉成形体をリアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、上記分断領域及び集結部により渦電流を分断できる。この分断領域によって隣接する軟磁性粒子同士が電気的に分断され、その分断領域に隣接する粒子に上記集結部を具えることで、上記粒子間の絶縁に加えて、圧粉成形体の表面をより確実に絶縁できる。
【0046】
本発明圧粉成形体の一形態として、分断領域と、凝集部とを具えることが挙げられる。分断領域は、圧粉成形体の表面の少なくとも一部において、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する。凝集部は、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面において、当該軟磁性粒子の外周縁側に突出し、局所的に厚みが大きい。そして、その凝集部の表面の少なくとも一部に酸化膜を有する。
【0047】
上記の構成によれば、例えば、圧粉成形体をリアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、上記分断領域及び凝集部で渦電流を分断できる。この分断領域により隣接する軟磁性粒子同士が電気的に分断され、さらに分断箇所の各端部が絶縁性の酸化膜で覆われていることで、上記粒子間をより確実に絶縁できる。
【0048】
本発明圧粉成形体の一形態として、上記凝集部を具える場合、凝集部における酸化膜は、厚さが0.5μm以上の箇所を具えることが挙げられる。
【0049】
上記の構成によれば、凝集部において、厚さが0.5μm以上である厚さの厚い箇所を具えることで、例えば、圧粉成形体をリアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、その箇所で渦電流を流れ難くできる。
【0050】
本発明圧粉成形体の一形態として、上記酸化膜が、FeO、α‐Fe2O3、γ‐Fe2O3、及びFe3O4の少なくとも一種を含むことが挙げられる。
【0051】
上記の化合物を含む圧粉成形体を利用することで、後述する試験例に示すように、低損失なリアクトルが得られる。
【0052】
本発明圧粉成形体の一形態として、圧粉成形体の密度dが、7.0g/cm3以上であることが挙げられる。
【0053】
上記の構成によれば、磁束密度の高い圧粉成形体とすることができる。
【0054】
本発明圧粉成形体の一形態として、上記軟磁性粒子は、純度が99質量%以上の鉄からなることが挙げられる。
【0055】
上記の構成によれば、透磁率及び磁束密度の高い圧粉成形体とすることができる。
【0056】
本発明のリアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、このコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを具える。磁性コアのうち少なくとも一部が圧粉成形体からなり、この圧粉成形体が上記本発明圧粉成形体である。
【0057】
本発明のリアクトルによれば、損失低減効果に優れる圧粉成形体を具えることで、低損失なリアクトルとすることができる。
【0058】
本発明リアクトルは、コンバータの構成部品に好適に利用することができる。本発明のコンバータは、スイッチング素子と、上記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、上記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するものであり、上記リアクトルが本発明リアクトルである。この本発明コンバータは、電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。本発明の電力変換装置は、入力電圧を変換するコンバータと、上記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、上記コンバータが本発明コンバータである。
【0059】
上記の構成によれば、磁性コアが低損失な圧粉成形体からなる本発明リアクトルを具えることで、低損失であり、車載部品などに好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の圧粉成形体の製造方法は、渦電流損を低減することができ、効率的に低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0061】
本発明の圧粉成形体は、渦電流損の少ない低損失な圧粉成形体とすることができる。
【0062】
本発明のリアクトルは、低損失である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施形態1に係る圧粉成形体を示す図であって、その圧粉成形体を具えるリアクトル用コアを示す分解斜視図である。
【図2】実施形態2に係るリアクトルを示す概略斜視図である。
【図3】ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す概略構成図である。
【図4】本発明コンバータを具える本発明電力変換装置の一例を示す概略回路図である。
【図5】試験例3において、各試料におけるレーザのエネルギー密度と圧粉成形体の損失との関係を示すグラフである。
【図6】試料No.1−1におけるX線回折の結果を示すグラフである。
【図7】試料No.3−6におけるX線回折の結果を示すグラフである。
【図8】試料No.1−3におけるX線回折の結果を示すグラフである。
【図9】試料No.1−1の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射前の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図10】試料No.1−1の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図11】試料No.3−5の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図12】試料No.3−6の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図13】試料No.3−8の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図14】試料No.3−9の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、表面近傍における断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明の実施形態を説明する。まず、圧粉成形体、及びその製造方法を説明し、その後、その圧粉成形体を具えるリアクトル、そのリアクトルを具えるコンバータ及び電力変換装置の順に説明する。
【0065】
<実施形態1>
《圧粉成形体》
本発明の圧粉成形体は、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える被覆軟磁性粉末を加圧成形してなり、その表面の少なくとも一部に鉄を含有する酸化膜を具える。圧粉成形体の特徴とするところは、上記酸化膜を具える箇所の表面部分に酸素が特定量含まれている点にある。以下、詳細に説明するにあたり、上記特徴を中心に説明し、軟磁性粉末の構成自体は後述する製造方法で説明する。圧粉成形体の構成要素が原料の特性・性状を実質的に維持している。
【0066】
圧粉成形体の表面は、その少なくとも一部に鉄を含有する酸化膜を具える。圧粉成形体のうち、上記酸化膜を具える箇所の表面部分における鉄と酸素の合計含有量を100質量%とするとき、酸素の含有量が9質量%以上であることが挙げられる。そうすれば、例えば、圧粉成形体をリアクトル用コアとして用いた場合、この酸化膜の形成箇所で、渦電流を分断若しくは流れ難くできるため、渦電流損を低減でき、低損失なリアクトルを構築できる。上記表面部分とは、圧粉成形体表面から内部へ深さ1μm程度までの領域を言う。酸素の含有量は、その領域における測定値を言う。酸素の含有量の測定は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X−ray spectroscopy)で行うことができる。酸素の含有量の上限は、20質量%以下とする。そうすれば、十分に低損失化を図ることができる。
【0067】
圧粉成形体の表面は、さらに、酸素の含有量が6質量%未満の箇所を具える場合がある。即ち、圧粉成形体の表面は、酸素の含有量が6質量%未満の低酸素領域と、9質量%以上20質量%以下の高酸素領域とが存在している。レーザを照射する領域を圧粉成形体の表面の一部とすることで、両領域を形成できる。圧粉成形体の表面のうちレーザを照射していない領域が、上記低酸素領域となる。
【0068】
酸化膜の形成メカニズムは、次のように考えられる。圧粉成形体の表面には、後述する成形工程において金型との擦れによって被覆軟磁性粒子間に跨る導通部が形成されている。導通部は、ある軟磁性粒子αの金属部分が金型との摺接により、ダイからの成形体の抜き出し方向と反対側に流れて薄膜状に延伸され、軟磁性粒子αに隣接する軟磁性粒子β上に被さるように形成される。この圧粉成形体の表面にレーザを照射することでその導通部が溶融する。溶けた導通部は、両粒子間に分断領域を形成するように各粒子側へ流動し、その結果、隣接する軟磁性粒子α、β同士の導通部による連結が分断された箇所が分断領域になる。
【0069】
レーザのエネルギー密度Uが低い場合、局所的に厚みの厚い凝集部を形成する。この凝集部は、溶融金属が、薄膜状の導通部と一体に繋がる軟磁性粒子αの表面に集結される前に、隣接する軟磁性粒子β側に偏って凝固したもので、軟磁性粒子αの表面において同粒子αの外周縁側に突出しており、隣接する軟磁性粒子の表面上部に被さる場合がある。凝集部は、帯状に形成されていることが多い。上記導通部の溶融により、導電性の導通部が電気的に分断され、さらに凝集部の少なくとも一部に絶縁性の酸化膜が形成される。そのため、粒子間をより確実に絶縁できる。このとき凝集部を具える軟磁性粒子の凝集部を除く表面にも酸化膜が形成される。凝集部の方が、この凝集部を具える軟磁性粒子の凝集部を除く表面よりも厚い酸化膜を具えることがある。
【0070】
レーザのエネルギー密度Uが高い場合、溶融した導通部がさらに流動し、溶融金属が表面張力により表面積が小さくなろうとしてさらに各粒子の中央側へ移動する。それにより、各粒子の表面に、隣接する粒子間に跨らず、中央側がその外周縁側よりも厚みの大きい酸化膜で構成される集結部が形成される。この集結部は、溶融金属が、軟磁性粒子αの表面に集結されてから凝固したものである。集結部は、平板状で、円盤に近い形状であることが多い。即ち、導通部であった箇所は酸化膜に変化する。一方、レーザの照射により、導通部が溶融・流動しない場合、そのまま膜状の導通部の表面に酸化膜が生成される。さらに酸化が進めば、導通部全体が酸化膜となる。
【0071】
酸化膜は、単一の粒子表面にのみ形成される場合と、隣接する粒子間を跨ぐ場合とを含む。圧粉成形体の表面には、前者と後者の両方が形成されている場合もあり、前者か後者のいずれかしか形成されていない場合もある。前者の場合、圧粉成形体の表面において、酸化膜が点在している。レーザのエネルギー密度Uが高いほど、前者の状態になり易い。
【0072】
酸化膜は、厚さが0.1μm以上の箇所を具えることが好ましい。そうすれば、その厚さの厚い箇所で、上記渦電流を分断若しくは流れ難くできる。酸化膜は、厚さが0.5μm以上、1μm以上、3μm以上、更に5μm以上、7μm以上、特に10μm以上の厚い箇所を具えることが好ましい。酸化膜の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による圧粉成形体の断面観察で測定することができる。
【0073】
酸化膜の組成は、FeO、α‐Fe2O3、γ‐Fe2O3、及びFe3O4の少なくとも一種を含むことが好ましい。中でも、FeO、及びFe3O4を多く含むことが好ましい。上記の酸化膜を含む圧粉成形体をリアクトルの構成部品に利用することで、低損失なリアクトルとすることができる。酸化膜の組成は、例えば、X線回折(XRD:X−ray Diffraction)により検出できる。
【0074】
圧粉成形体の表面の少なくとも一部に、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する分断領域を具える。そうすれば、圧粉成形体をリアクトル用コアとして励磁した際に、圧粉成形体の表面の周方向に亘って流れる渦電流を分断領域で分断できる。分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面の少なくとも一方に、上記集結部を具える。即ち、上記集結部は、単一の粒子表面に形成される。また、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面において、上記凝集部を具える場合もある。凝集部は、複数の軟磁性粒子から延伸された導通部が溶融されて一体に凝集する際に生成される場合もある。そのため、凝集部を具える粒子は複数存在することがある。凝集部は、例えば、上記酸化膜の厚さが0.5μm以上の箇所を具えることが挙げられる。圧粉成形体の表面には、上記集結部及び凝集部が点在する場合がある。
【0075】
[密度]
圧粉成形体の密度d(g/cm3)は、高い方が好ましい。そうすれば、磁束密度の高い圧粉成形体とすることができる。具体的には、密度dが7.0g/cm3以上であることが挙げられる。この密度dの上限は、7.55g/cm3が挙げられる。密度dが高すぎると、軟磁性粒子同士の絶縁性が低下する虞があるためである。
【0076】
《圧粉成形体の製造方法》
上述した本発明圧粉成形体は、例えば、以下の本発明の製造方法で製造することができる。本発明の圧粉成形体の製造は、被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する方法で、素材準備工程と、照射工程とを具える。まず、圧粉成形体の構成材料である被覆軟磁性粉末を準備する工程から説明し、順に上記各工程について説明する。
【0077】
〔素材準備工程〕
素材準備工程では、圧粉成形体を構成する被覆軟磁性粉末を用意して、その粉末を加圧成形して素材成形体を作製するか、予め同様に成形された素材成形体を購入するなどして用意する。前者の場合、原料準備工程と、その原料から素材成形体を成形する素材成形工程とを具える。原料準備工程として、圧粉成形体を構成する被覆軟磁性粉末を用意する。被覆軟磁性粉末は、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える。
【0078】
[原料準備工程]
原料準備工程では、被覆軟磁性粉末を用意する。この工程では、後述する組成からなる軟磁性粒子を製造又は購入するなどして用意し、その軟磁性粒子の外周に後述する組成からなる絶縁被膜を被覆して被覆軟磁性粉末を製造してもよいし、予め製造された被覆軟磁性粉末を購入するなどしてもよい。前者のうち軟磁性粒子を製造する場合、以下に述べる軟磁性粒子の製法、及び絶縁被膜の被覆方法を経て被覆軟磁性粉末を製造することができる。
【0079】
(軟磁性粒子)
〈組成〉
軟磁性粒子は、鉄を50質量%以上含有するものが好ましく、例えば、純鉄(Fe)が挙げられる。その他、鉄合金、例えば、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−N系合金、Fe−Ni系合金、Fe−C系合金、Fe−B系合金、Fe−Co系合金、Fe−P系合金、Fe−Ni−Co系合金、及びFe−Al−Si系合金から選択される少なくとも1種からなるものが利用できる。特に、透磁率及び磁束密度の点から、99質量%以上、更には99.5質量%以上がFeである純鉄が好ましい。
【0080】
〈粒径〉
軟磁性粒子の平均粒径は、圧粉成形体として低損失に寄与するサイズであればよい。つまり、特に限定することなく適宜選択することができるが、例えば、1μm以上150μm以下であれば好ましい。軟磁性粒子の平均粒径を1μm以上とすることによって、軟磁性粉末の流動性を落とすことがなく、軟磁性粉末を用いて製作された圧粉成形体の保磁力及びヒステリシス損の増加を抑制できる。逆に、軟磁性粒子の平均粒径を150μm以下とすることによって、1kHz以上の高周波域において発生する渦電流損を効果的に低減できる。より好ましい軟磁性粒子の平均粒径は、40μm以上100μm以下である。この平均粒径の下限が40μm以上であれば、渦電流損の低減効果が得られると共に、被覆軟磁性粉末の取り扱いが容易になり、より高い密度の成形体とすることができる。なお、この平均粒径とは、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径をいう。
【0081】
〈形状〉
軟磁性粒子の形状は、アスペクト比が1.2〜1.8となるようにすると好ましい。このアスペクト比とは、粒子の最大径と最小径との比とする。上記範囲のアスペクト比を有する軟磁性粒子は、アスペクト比が小さな(1.0に近い)ものに比べて、圧粉成形体にしたときに反磁界係数を大きくでき、磁気特性に優れた圧粉成形体とすることができる。その上、圧粉成形体の強度を向上させることができる。
【0082】
〈製法〉
軟磁性粒子は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法などのアトマイズ法で製造されたものが好ましい。水アトマイズ法で製造された軟磁性粒子は、粒子表面に凹凸が多いため、その凹凸の噛合により高強度の成形体を得やすい。一方、ガスアトマイズ法で製造された軟磁性粒子は、その粒子形状がほぼ球形のため、絶縁被膜を突き破るような凹凸が少なくて好ましい。
【0083】
(絶縁被膜)
絶縁被膜は、隣接する軟磁性粒子同士を絶縁するために、軟磁性粒子の外周に被覆される。軟磁性粒子を絶縁被膜で覆うことによって、軟磁性粒子同士の接触を抑制し、成形体の比透磁率を低く抑えることができる。その上、絶縁被膜の存在により、軟磁性粒子間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉成形体の渦電流損を低減させることができる。
【0084】
〈組成〉
絶縁被膜は、軟磁性粒子同士の絶縁を確保できる程度の絶縁性に優れるものであれば特に限定されない。例えば、絶縁被膜の材料は、リン酸塩、チタン酸塩、シリコーン樹脂、リン酸塩とシリコーン樹脂の2層からなるものなどが挙げられる。
【0085】
特に、リン酸塩からなる絶縁被膜は変形性に優れるので、軟磁性材料を加圧して圧粉成形体を作製する際に軟磁性粒子が変形しても、この変形に追従して変形することができる。リン酸塩被膜は鉄系の軟磁性粒子に対する密着性が高く、軟磁性粒子表面から脱落し難い。リン酸塩としては、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどのリン酸金属塩化合物を利用することができる。
【0086】
シリコーン樹脂からなる絶縁被膜の場合は、耐熱性に優れるので、後述する熱処理工程で分解し難く、圧粉成形体の完成までの間、軟磁性粒子同士の絶縁を良好に維持することができる。
【0087】
絶縁被膜が上記リン酸塩とシリコーン樹脂の2層構造からなる場合、リン酸塩を上記軟磁性粒子側に、シリコーン樹脂をリン酸塩の直上に被覆することが好ましい。リン酸塩の直上にシリコーン樹脂を被膜しているので、上述したリン酸塩及びシリコーン樹脂の両方の特性を具えることができる。
【0088】
〈膜厚〉
絶縁被膜の平均厚さは、隣接する軟磁性粒子同士を絶縁することができる程度の厚みであればよい。例えば、10nm以上1μm以下であることが好ましい。絶縁被膜の厚みを10nm以上とすることによって、軟磁性粒子同士の接触の抑制や渦電流によるエネルギー損失を効果的に抑制することができる。一方、絶縁被膜の厚みを1μm以下とすることによって、被覆軟磁性粒子に占める絶縁被膜の割合が大きくなりすぎず、被覆軟磁性粒子の磁束密度が著しく低下することを防止できる。
【0089】
上記絶縁被膜の厚さは、以下のようにして調べることができる。まず、組成分析(TEM−EDX:transmission electron microscope energy dispersive X−ray spectroscopy)によって得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS:inductively coupled plasma−mass spectrometry)によって得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出する。そして、TEM写真により直接、被膜を観察し、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定される平均的な厚さとする。
【0090】
〈被覆方法〉
軟磁性粒子に絶縁被膜を被覆する方法は、適宜選択するとよい。例えば、加水分解・縮重合反応などにより被膜することが挙げられる。軟磁性粒子と絶縁被膜を構成する原料とを配合して、その配合体を、加熱した状態で混合する。そうすることで、軟磁性粒子を被膜原料に十分に分散でき、個々の軟磁性粒子の外側に絶縁被膜を被覆することができる。
【0091】
上記加熱温度及び混合時間は適宜選択するとよい。加熱温度及び混合時間を選択することで、軟磁性粒子をより十分に分散させることができ、個々の粒子に絶縁被膜を被覆することが容易となる。
【0092】
[素材成形工程]
素材成形工程では、上記原料準備工程により用意された複数の被覆軟磁性粒子からなる被覆軟磁性粉末を加圧成形して素材成形体を作製する。
【0093】
素材成形工程では、代表的には、所定の形状のパンチとダイからなる成形金型内に被覆軟磁性粉末を注入し、加圧して押し固める。パンチとダイを使用する際、加圧により金型に成形体が焼き付くことや、被覆軟磁性粉末の絶縁被膜が破壊されることがないように被覆軟磁性粉末を加圧成形する。その手段として、パンチとダイの少なくとも一方の被覆軟磁性粉末と接触する箇所(内壁)に潤滑剤を塗布して被覆軟磁性粉末を加圧する外部潤滑成形方法でもよいし、被覆軟磁性粉末に予め潤滑剤を混合させて混合物を作製しておき、その混合物を金型で加圧する内部潤滑成形方法でもよい。前者の場合、潤滑剤を上記内壁に塗布するので、被覆軟磁性粉末との摩擦を低減すると共に、高密度な圧粉成形体を成形することができる。後者の場合、被覆軟磁性粉末の表面に付着した潤滑剤が被覆軟磁性粉末における粒子同士の摩擦を低減するため、被覆軟磁性粒子の絶縁被膜が破れることを抑制することができる。
【0094】
潤滑剤は、ステアリン酸、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどの固体潤滑剤、固体潤滑剤を水などの液媒に分散させた分散液、液状潤滑剤、六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤などが挙げられる。
【0095】
加圧する際には、上記成形金型を加熱してから加圧成形してもよい。その場合、例えば、成形金型温度を50〜200℃にすることが挙げられる。金型を加熱することで高密度な成形体を得ることができる。
【0096】
加圧する圧力は、適宜選択することができる。例えば、リアクトル用コアとなる圧粉成形体を製造するのであれば、その密度dが7.0g/cm3以上となる程度とすることが好ましく、具体的には、約490〜1470MPa、特に、約590〜1079MPa程度とすることが好ましい。
【0097】
この加圧により、例えば、図1(右下)に示す直方体状の素材成形体10を形成できる。この素材成形体10の形状は、加圧成形する際の金型の形状により適宜変更することができるため、直方体状の他に、台形状面を有する柱状体、またはU字状面を有するU字状体など種々の形状が挙げられる。このように素材成形体10が直方体状の場合、素材成形体10の両端面がパンチでの加圧面31pで、それ以外の4つの側面がダイとの摺接面31sである。
【0098】
〔照射工程〕
照射工程では、素材成形体の表面の一部にレーザを照射する。レーザの照射により、素材成形体の表面で複数の軟磁性粒子の構成材料同士が導通した導通部の分断箇所を増加させる。つまり、この照射工程では、主として導通部の溶融・流動により、導通部の分断がなされる。
【0099】
レーザを照射する素材成形体の面は、導通部が形成され易いダイとの摺接面の少なくとも一部とすることが挙げられる。製造された素材成形体10を磁心、例えば、図1(上側)に示すようなリアクトル用コア3として励磁する際、磁束方向に平行となる面(平行面)の少なくとも一部とすることが好ましい。図1は、リアクトル(図2)に具わるリアクトル用コア3の一例であり、コイル(図2)に覆われる内側コア部31と、コイルから露出される露出コア部32とを分解した状態で示している。内側コア部31は、コア片31mとギャップ材31gとを積層して構成される。コア片31mは、素材成形体10にレーザ照射した圧粉成形体1、またはレーザ照射と後述する熱処理とを施した圧粉成形体1で構成することが挙げられる。このように、圧粉成形体1とコイルとを組み合わせて、そのコイルを励磁すれば、コイルの軸方向に沿った磁束が成形体内に形成される。そこで、例えば、図1(右下)に示すように、矢印(I)の方向を磁束方向、即ち、パンチでの加圧面31pが、磁束方向と直交する面(直交面)で、それ以外の4つの摺接面31sが、磁束方向の平行面となるように、圧粉成形体1をコイルと組み合わせる場合、レーザを照射する領域は、その平行面(摺接面31s)となる素材成形体10の表面の少なくとも一部でよい。このように、磁束方向との平行面となる素材成形体10の表面の一部にレーザを照射することで、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を、上記レーザが照射された箇所で遮断することができると考えられる。そのため、渦電流損を低減でき、低損失な圧粉成形体を製造できる。つまり、レーザが照射される領域が、ダイとの摺接面31sでかつ上記平行面となる面の少なくとも一部であれば、効果的に低損失な圧粉成形体を製造できる。
【0100】
一方、矢印(II)の方向を磁束方向、即ち、パンチでの加圧面31pが、磁束方向との平行面である場合、レーザを照射する領域は、磁束方向と直交する摺接面31soの少なくとも一部でよい。そうすれば、摺接面31soの表面に流れる渦電流を遮断できるので、渦電流損をより低減できると考えられる。加えて、磁束方向と平行となる摺接面31spの少なくとも一部にレーザを照射することが好ましい。そうすれば、摺接面31spのレーザを照射した箇所で、磁束方向を軸とする円周方向の渦電流を遮断できる。
【0101】
素材成形体が円柱である場合、磁束方向と直交する面がパンチでの加圧面であれば、磁束方向との平行面は円柱の円筒面となるので、レーザを照射する領域は、円筒面となる素材成形体の表面の少なくとも一部でよい。
【0102】
レーザが照射される領域は、上記摺接面31sにおいて、パンチの加圧方向全長に亘る領域であることが好ましい。特に、上記平行面において、磁束方向全長に亘る領域となる素材成形体の表面であることがより好ましい。例えば、矢印(I)の方向を磁束方向となるように、圧粉成形体1をコイルと組み合わせる場合、レーザを照射する領域は、平行面において、一方の端面側から他方の端面側に亘る領域となる素材成形体10の表面とすることが好ましい。即ち、パンチでの加圧面31pが、磁束方向と直交する面(直交面)で、それ以外の4つの摺接面31sが、磁束方向の平行面となる場合、レーザを照射する領域は、平行面において、加圧方向全長(磁束方向全長)に亘る素材成形体10の表面とすることが好ましい。そうすれば、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を上記全長に亘って遮断できると考えられる。つまり、表面処理される領域が、ダイとの摺接面31sでかつ上記平行面となる面で、磁束方向全長に亘る領域であれば、より一層効果的に低損失な圧粉成形体を製造できる。
【0103】
一方、矢印(II)の方向を磁束方向、即ち、パンチでの加圧面31pが、磁束方向との平行面である場合、レーザを照射する領域は、磁束方向と直交する摺接面31soの一方の端面側から他方の端面側に亘る領域、即ち、摺接面31soの長辺間や短辺間でよい。そうすれば、摺接面31soの表面に流れる渦電流を遮断できると考えられる。加えて、磁束方向と平行となる摺接面31spの磁束方向全長に亘る領域にレーザを照射することが好ましい。そうすれば、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を上記全長に亘って遮断できる。
【0104】
素材成形体が円柱である場合、磁束方向と直交する面がパンチでの加圧面であれば、磁束方向との平行面は円柱の円筒面となるので、レーザを照射する領域は、円筒面となる素材成形体の表面の加圧方向全長(磁束方向全長)に亘る領域であることが好ましい。
【0105】
上記平行面において一方の端面側から他方の端面側に亘る領域にレーザを照射する場合、上記平行面において磁束方向と平行な方向の長さを縦t、磁束方向を軸とした圧粉成形体の周方向の全長をlとするとき、平行面の全面積はt×lで、当該平行面において実際に表面処理が施された領域の幅(磁束方向と直交する方向)を処理幅wとするとき、この領域はt×wと表される。この処理幅wは、被覆軟磁性粉末の平均粒径をdとするとき、d<w≦lを満たすことが好ましい。上記処理幅wを上記範囲とすることで、渦電流損の低減効果を効果的に得ることができる。より好ましくは、上記全長lに対する上記処理幅wの比率w/lは、30%以下、さらには20%以下、10%以下、特に5%以下とすることが挙げられる。
【0106】
レーザの種類は、素材成形体表面の導通部を分断できるレーザであればよい。具体的には、レーザの媒体が固体である固体レーザが挙げられ、例えばYAGレーザ、YVO4レーザ、及びファイバーレーザの中から選択される1種のレーザであることが好ましい。そうすることで、上記導通部を分断することができる。これらレーザの各々には、各レーザの媒体に種々の材料がドープされた公知のレーザも含む。つまり、上記YAGレーザは、その媒体にNd、Erなどをドープしてもよいし、上記YVO4レーザは、その媒体にNdなどをドープしてもよいし、上記ファイバーレーザは、その媒体であるファイバーのコアに希土類元素などがドープされており、例えば、Ybなどをドープすることが挙げられる。
【0107】
レーザの波長は、上記軟磁性粒子(導通部)の波長吸収領域内であることがより好ましい。そうすることで、上記導通部を分断し易くなる上に、当該導通部以外を除去することを抑制することができる。この波長としては、具体的には、532nm〜1064nm程度であることが好ましい。
【0108】
レーザのエネルギー密度U(W/mm2)は、レーザの平均出力をP(W)、レーザの照射面積をS(mm2)とするとき、U=P/Sで表され、このエネルギー密度Uは、37.0W/mm2≦U≦450.0W/mm2を満たすことが好ましい。エネルギー密度Uを37.0W/mm2以上とすることで、導通部の分断箇所を確実に増加できる。一方、エネルギー密度Uを450.0W/mm2以下とすることで、過剰溶融による軟磁性粒子同士の接触を十分に抑制できる。このエネルギー密度Uは、50.0W/mm2以上300.0W/mm2以下とすることがより好ましい。
【0109】
この範囲内において、エネルギー密度Uを高くするほど、(1)形成される酸化膜としてFeO、或いはFe3O4を多く含む酸化膜とすることができ、上記表面部分における酸素の含有量を多くできる、(2)酸化膜の厚い箇所を形成できる。具体的には、上記(1)では、FeOやFe3O4が増加し、さらにエネルギー密度Uが高くなるとFeOよりもFe3O4を多くできる。上記酸化膜を具える箇所の表面部分に含まれる鉄と酸素の合計含有量を100質量%とするとき、エネルギー密度Uを高くすれば、酸素の含有量を9質量%以上とすることができる。上記のエネルギー密度Uの範囲では、酸素の含有量を20質量%程度とすることができる。上記(2)では、酸化膜の厚さが0.1μm以上の箇所を具えることができ、エネルギー密度Uが高くなるにつれて、0.5μm以上、1.0μm以上、3μm以上、更に5μm以上、7μm以上、特に10μm以上と厚さの厚い箇所を形成することができる。上記のエネルギー密度Uの範囲では、酸化膜の厚さが15μm程度の箇所を具えることができる。
【0110】
上述のメカニズムに示すように、レーザの照射により、レーザが照射された圧粉成形体の表面の少なくとも一部に、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する分断領域を形成できる。分断領域が形成されると共に、上記分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面のうち圧粉成形体の表面に位置する表面領域は、上記酸化膜が形成される。エネルギー密度Uが小さいレーザを照射すれば、分断領域が形成されると共に、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面において、上記凝集部が形成される。凝集部における上記酸化膜の厚さは、レーザのエネルギー密度Uが高くなるほど厚くなる。一方、高いエネルギー密度Uでレーザを照射すれば、分断領域が形成されると共に、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面に、上記集結部が形成される。集結部は、レーザのエネルギー密度Uが高くなるほど、上記酸化膜全体の厚さが厚く、かつその中央側の厚さをその外周縁側よりも厚くできる。レーザのエネルギー密度Uの大きさにより、溶融量或いは溶融金属の流動性に差ができ、軟磁性粒子の構成材料が表面張力で表面積が小さくなろうと凝集具合に差が生じるためである。
【0111】
レーザのビーム径に対する照射間隔の比率は、小さい方が好ましい。ビーム径は、圧粉成形体の表面上でのレーザの径を言う。照射間隔は、1パルスのレーザの照射時間にレーザビームが走査方向に移動する距離を言う。レーザのビーム径に対する照射間隔の比率が小さければ、圧粉成形体の表面上にレーザを走査させた際、レーザが照射されない未処理領域を減少することができ、上記導通部を分断し易くなる。具体的には、上記比率は、0.35以下であることが好ましく、特に、0.30以下であることが好ましい。
【0112】
レーザのビーム径に対する走査間隔の比率も、小さい方が好ましい。走査間隔は、レーザが走査するラインを隣接するラインに移動させる際の距離を言う。即ち、レーザのビーム径に対する走査間隔の比率が小さければ、上述と同様、レーザが照射されない領域を低減でき、上記導通部を分断し易くなる。
【0113】
レーザの重ね回数は、複数回であることが好ましい。重ね回数は、同一領域をレーザで処理(走査)する回数を言う。レーザの重ね回数は、多いほど好ましい。そうすれば、上記導通部の分断を確実に行うことができる。具体的には、重ね回数を5回以上とすることが挙げられ、特に10回以上とすることが好ましい。
【0114】
素材成形体の表面にレーザを照射する方法は、その表面の所望の箇所にレーザを照射できる方法であれば、特に問わない。
【0115】
[その他の工程]
(熱処理工程)
上記素材成形体には、素材成形工程で軟磁性粒子に導入された歪や転位などを除去するために加熱する熱処理を施してもよい。
【0116】
熱処理の温度が高いほど、歪の除去を十分に行うことができることから、熱処理温度は、300℃以上、特に400℃以上が好ましく、上限は約800℃程度が好ましい。このような熱処理温度であれば、歪の除去と共に、加圧時に軟磁性粒子に導入される転位などの格子欠陥も除去できる。それにより、圧粉成形体のヒステリシス損を効果的に低減することができる。
【0117】
熱処理を施す時間は、素材成形工程で軟磁性粒子に導入された歪や転位などを十分に除去するように、上記熱処理温度及び素材成形体の体積に合わせて適宜選択すればよい。例えば、上記の温度範囲の場合、10分〜1時間であることが好ましい。
【0118】
この熱処理を施す際の雰囲気は、大気中でも良いが、不活性ガス雰囲気内で施すと特に好ましい。それにより、潤滑剤の燃焼による煤などの素材成形体への付着を抑制することができる。
【0119】
この熱処理工程は、照射工程前における素材成形体に施してもよいし、照射工程後における素材成形体に施してもよい。
【0120】
《作用効果》
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0121】
(1)表面の少なくとも一部に酸化膜を具え、その箇所の表面部分における酸素の含有量が9質量%以上である圧粉成形体を利用することで、低損失なリアクトルが得られる。上記分断領域を具える圧粉成形体をリアクトル用コアとして励磁した際、圧粉成形体の表面の周方向に亘って流れる渦電流を分断若しくは流れ難くできる。そのため渦電流損を低減でき、低損失なリアクトルとすることができる。従って、本発明の圧粉成形体は、リアクトルの構成部材に好適に利用できる。
【0122】
(2)上述した製造方法によれば、導通部にレーザを照射することで、薄膜状体の導通部に対して高いエネルギーの付与、または急激な加熱と冷却(温度変化)を生じさせることができる。このとき、薄膜状体が溶融され、その溶融金属が流動したり、表面張力で凝集したりして、後述する試験例に示すように塊(凝集部)や集結部を形成する。それにより、導通部の途中が分離され、同様の分断が多数の導通部の各所で生じることにより、導通部の分断される箇所が増加すると考えられる。この導通部の分断箇所の増加により、導通部の電気抵抗を増大させる、或いは導通部における導通を遮断できる。その結果、渦電流が流れ難くなる、或いは渦電流を遮断できる。従って、渦電流損の少ない低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0123】
(3)上述の圧粉成形体、または上述の製造方法により製造された圧粉成形体はリアクトル用コアに好適に利用することができる。詳しくは後述するが、その場合、例えば、一対のコイル素子を有して各コイル素子の軸が平行するように横並びされたコイルと、各コイル素子がそれぞれ配置される一対の柱状の内側コア部(ミドルコア部)、及びコイル素子が配置されず、内側コア部に連結されて閉磁路を構成する外側コア部(サイドコア部)を有する磁性コアとを具えるリアクトルにおいて、当該内側コア部に好適に利用することができる。内側コア部を複数の分割コア片を組み合わせた構成とする場合、分割コア片の少なくとも一つ、好ましくは全てを本発明の圧粉成形体により構成することができる。このとき、内側コア部、或いは分割コア片において、上記レーザを照射する領域は、上記コイルを励磁した際、磁束方向と平行となる面の少なくとも一部である。ここでは、平行となる面はダイとの摺接面である。この分割コア片でリアクトルを組み立てた際、上記分割コア片のレーザが照射された面はコイルの内周面に対向される。それにより、コイルを励磁したとき、上記レーザが照射された領域で、内側コア部の周方向に生じる渦電流を遮断して、渦電流損を低減できる。このレーザを、例えば、上記平行面において、内側コア部、或いは各分割コア片の一方の端面側から他方の端面側に亘る領域に照射すれば、リアクトルを組み立てた際、その領域が内側コア部の磁束方向全長に及ぶ。そのため、内側コアの磁束方向全長に亘って上記渦電流を遮断できるため、渦電流損をより一層低減できる。外側コア部は、端面がU字状、あるいは台形状が代表的である。この外側コア部においても本発明の圧粉成形体、または本発明の製造方法により得られた圧粉成形体を用いてもよい。
【0124】
(4)レーザを照射して表面処理する箇所は、素材成形体の表面の一部なので、処理工程及び処理時間を短縮することができ、圧粉成形体の製造工程を簡略化することができる。そのため、圧粉成形体の製造コストを低減することもできる。
【0125】
<実施形態2>
《リアクトル》
上述の圧粉成形体、及び上述の圧粉成形体の製造方法により製造された圧粉成形体は、リアクトルの構成部材として好適に利用できる。例えば、リアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、そのコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを具え、磁性コアの少なくとも一部が圧粉成形体で構成される。その圧粉成形体に本発明圧粉成形体を利用できる。つまり、本発明のリアクトルの特徴とするところは、リアクトルに具わる磁性コアの少なくとも一部に、上述の圧粉成形体を具える点にある。以下、そのリアクトルの一例を、図1、2を参照して説明する。ここでは、リアクトル100に具わる磁性コア3のうち、コイル2の内側に配置される内側コア部31が本発明の圧粉成形体で構成されている場合を例に説明する。内側コア部31を構成するコア片31m以外の構成は、公知のリアクトルの構成を利用することができる。もちろん、磁性コア3のうち、露出コア32を本発明圧粉成形体で構成してもよい。
【0126】
(コイル)
コイル2は、図2に示すように、接合部の無い1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子2a,2bと、両コイル素子2a,2bを連結する連結部2rとを具える。各コイル素子2a,2bは、互いに同一の巻数の中空の筒状体であり、各軸方向が平行するように並列(横並び)され、コイル2の他端側(図2では右側)において巻線2wの一部がU字状に屈曲されて連結部2rが形成されている。この構成により、両コイル素子2a,2bの巻回方向は同一となっている。
【0127】
巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁材料からなる絶縁層(代表的には、ポリアミドイミドなどからなるエナメル層)を具える被覆線を好適に利用できる。巻線2wの導体は、断面円形状の丸線の他、断面矩形状の平角線を好適に利用できる。コイル素子2a,2bは、絶縁層を有する被覆平角線をエッジワイズ巻きして形成されたエッジワイズコイルである。
【0128】
(磁性コア)
磁性コアの説明は、図1を参照して行う。磁性コア3は、各コイル素子2a、2b(図2)に覆われる一対の柱状の内側コア部31と、コイル2(図2)が配置されず、コイル2から露出される一対の露出コア部32とを有する。各内側コア部31はそれぞれ、各コイル素子2a,2bの内周形状に沿った外形を有する柱状体(ここでは、実質的に直方体)であり、各露出コア部32はそれぞれ、一対の台形状面を有する柱状体である。リアクトル用コア3は、平行に配置される内側コア部31を挟むように露出コア部32が配置され、各内側コア部31の端面と露出コア部32の内端面とを接触させて環状に形成される。
【0129】
内側コア部31は、磁性材料からなるコア片31mと、インダクタンスの調整のため、コア片よりも透磁率が低い材料(例えばアルミナなどの非磁性材料)から構成されるギャップ材31gとを交互に積層して構成された積層体である。露出コア部32も磁性材料からなるコア片である。上記コア片同士の一体化やコア片31mとギャップ材31gとの一体化には、例えば、接着剤や粘着テープなどを利用できる。
【0130】
内側コア部31の各コア片31mはいずれも、上述した本発明圧粉成形体により構成されている。コア片31m(内側コア部31)において上記レーザが照射された領域を、コイル2を励磁した際、磁束方向と平行となるように配置することが好ましい。即ち、このコア片31mでリアクトル100を組み立てた際、上記コア片31mのレーザが照射された面はコイル2の内周面に対向される。それにより、コイル2を励磁したとき、上記レーザが照射された領域で、磁束方向を軸として内側コア部31の周方向に生じる渦電流を遮断して、渦電流損を低減できる。本例のように、内側コア部31を構成する全てのコア片31mをレーザが照射されたコア片31m(本発明の圧粉成形体)で構成する場合、内側コア部31の一方の端面側から他方の端面側に亘る領域に、レーザが照射された領域が並ぶように各コア片31mを配置することが好ましい。そうすれば、リアクトルを組み立てた際、レーザが照射された領域が内側コア部31の磁束方向全長に及ぶ。そのため、内側コア部31の磁束方向全長に亘って上記渦電流を遮断できるため、渦電流損をより一層低減できる。
【0131】
(その他の構成部材)
その他、コイル2とリアクトル用コア3との間の絶縁性を高めるために、絶縁性樹脂から構成されるインシュレータ(図示略)を具えたり、コイル2とリアクトル用コア3との組合体の外周を絶縁性樹脂で覆った一体化物としたり、組合体を金属材料などからなるケースに収納したり、ケースに収納した組合体を封止樹脂により覆ったりすることができる。
【0132】
上記の構成によれば、内側コア部31を上述の圧粉成形体で構成し、コイル2を励磁した際、磁束方向と平行となるように配置すると、磁束方向を軸として内側コア部31の周方向に生じる渦電流を遮断して、渦電流損を低減できる。そのため、低損失なリアクトル100とすることができる。
【0133】
<実施形態3>
《コンバータと電力変換装置》
上述のリアクトルは、例えば、車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを具える電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【0134】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両1200は、図3に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを具える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを具える。なお、図3では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを具える形態とすることもできる。
【0135】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0136】
コンバータ1110は、図4に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを具え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、FET,IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上述のリアクトルを具える。低損失なリアクトル100を具えることで、電力変換装置1100やコンバータ1110も全体として低損失化を図ることができる。
【0137】
なお、車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を具える。コンバータ1110は、代表的には、DC−DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC−DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150の中には、DC−DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上述のリアクトルなどと同様の構成を具え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上述のリアクトルなどを利用することもできる。
【0138】
《試験例1》
試験例1として、以下の試料1−1〜1−3の圧粉成形体を作製し、その各試料の磁気特性について後述する試験を行った。
【0139】
[試料1−1]
試料1−1の圧粉成形体は、以下に示す工程a→工程b→工程c→工程dの順に各工程を経て作製される。
工程a:被覆軟磁性粉末を用意する原料準備工程。
工程b:被覆軟磁性粉末を加圧成形して素材成形体を作製する素材成形工程。
工程c:素材成形体を加熱して熱処理成形体を作製する熱処理工程。
工程d:熱処理成形体の表面にレーザを照射する照射工程。
【0140】
(工程a)
圧粉成形体の構成材料として、鉄粉からなる軟磁性粒子の表面にリン酸鉄からなる絶縁被膜を被覆した被覆軟磁性粉末に、ステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤を0.6質量%含有した混合材料を用意した。上記鉄粉は、水アトマイズ法により作製され、純度が99.8%以上であった。この軟磁性粒子の平均粒径が50μmで、そのアスペクト比は1.2であった。この平均粒径は、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径により求めた。絶縁被膜は、軟磁性粒子の表面全体を実質的に覆い、その平均厚さは、20nmであった。
【0141】
(工程b)
工程aで準備した混合材料を所定の形状の金型内に注入し、金型を加熱せず730MPaの圧力をかけて加圧成形して素材成形体を作製した。ここでは、直方体状の素材成形体を複数作製した。
【0142】
(工程c)
工程bで作製した素材成形体を窒素雰囲気下で400℃×30分、熱処理し、複数の熱処理成形体を得た。
【0143】
(工程d)
工程dでは、工程cで得られた複数の直方体状の熱処理成形体を環状に組み合わせて、鉄損の評価用の試験片を作製するにあたり、熱処理成形体の少なくとも一体にレーザを照射する。ここでは、熱処理成形体の表面のうち、後述する磁気特性の測定試験でコイルが配置される熱処理成形体の表面の一部に対してレーザを照射した。その際、試料に生じる磁束の方向と平行となる面(平行面)の磁束方向全長に亘る領域に以下に示す条件で照射した。その結果、磁束方向を軸とした熱処理成形体の周方向の全長lに対するレーザが照射された処理幅wの比率w/lが7%であった。コイルが配置されない熱処理成形体にも、レーザを照射してもよい。このレーザを照射した熱処理成形体が圧粉成形体であり、この圧粉成形体を試料1−1とする。
【0144】
〈レーザの照射条件〉
種類:ファイバーレーザ
波長:1064nm
ビーム径に対する照射間隔の比率:0.15
パルス幅:200ns
ビーム径に対する走査間隔の比率:0.08
重ね回数:10回
エネルギー密度U:61.1W/mm2
【0145】
[試料1−2]
試料1−2の圧粉成形体は、試料1−1とは各工程を施す順番が異なり、上記工程a→工程b→工程d→工程cの順に各工程を経て作製される。工程dにおいてレーザが照射される領域は試料1−1と同様とした。
【0146】
[試料1−3]
試料1−3の圧粉成形体は、試料1−1とは、成形体の表面にレーザを照射しない点が相違する。つまり、試料1−3の圧粉成形体は、上記工程a→工程b→工程cの順に各工程を経て作製される。
【0147】
〔評価1〕
各試料1−1〜1−3の複数の圧粉成形体をそれぞれ環状に組み合わせて試験用磁心を作製した。各試験用磁心にそれぞれ巻線で構成したコイルを配して磁気特性を測定するための測定部材を作製し、以下の磁気特性を評価した。
【0148】
[磁気特性試験]
各測定部材について、AC−BHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数:5kHzにおける試料のヒステリシス損Wh(W)及び渦電流損We(W)を求め、各試料全体の損失W(W)を算出した。
【0149】
以上の試験から得られた特性値は、表1に記載する。
【0150】
【表1】
【0151】
《結果》
試料1−1のように、熱処理後、熱処理成形体の表面の一部にレーザを照射することで、レーザ照射を施していない試料1−3に比べて渦電流損を大きく低減することができた。また、レーザ照射後に熱処理を施した試料1−2も同様に渦電流損を低減できた。
【0152】
以上の試験結果より、レーザの照射は熱処理成形体の表面の一部、特に、リアクトル用コアとして励磁した際、磁束方向との平行面の一部に施すと渦電流損、並びに損失の低減に効果的であることが判明した。
【0153】
レーザ照射前または後のいずれにも熱処理を施さない試料を用意して、その試料に対して上記と同様の試験を施したところ、レーザ照射前または後のいずれかに熱処理を施した上記試料1−1、1−2と同様に渦電流損の低減に効果的であった。
【0154】
《試験例2》
試験例2として、試験例1で作製した試料1−1、1−2のそれぞれと同じ工程順で試料を作製するにあたり、工程dで照射するレーザの照射条件を異ならせて試料2−1、2−2を作製した。これら試料に対して、上記評価1と同様にして磁気特性を評価した。レーザの照射条件を以下に示し、得られた特性値を表2に示す。ここでは試験例1で作製した試料1−3も合わせて示している。
【0155】
〈レーザの照射条件〉
種類:ファイバーレーザ
波長:1064nm
ビーム径に対する照射間隔の比率:0.07
パルス幅:120ns
ビーム径に対する走査間隔の比率:0.05
重ね回数:40回
エネルギー密度U:123.6W/mm2
【0156】
【表2】
【0157】
《結果》
試験例1と同様に、レーザを表面の一部に照射した試料2−1、2−2は、レーザを照射していない試料1−3に比べて渦電流損を低減することができた。
【0158】
《試験例3》
試験例3として、試験例2で作製した試料2−1と同様の試料を作製するにあたり、上記工程dで照射するレーザの照射条件のうちエネルギー密度Uを種々変更し、エネルギー密度U以外の条件は試料2−1と同様にして試料3−1〜3−10を作製した。各試料に対して上記評価1と同様にして磁気特性を評価した。各試料に照射したエネルギー密度U、及び得られた特性値を表3と図5に示す。
【0159】
【表3】
【0160】
《結果》
試料3−1〜3−10は、上記試料1−3(試験例1)に比べて、いずれも渦電流損を低減できた。また、試料3−3〜3−9は、試料3−1、3−2、及び3−10よりも渦電流損を低減でき、中でも、試料3−4〜3−8は、渦電流損を特に低減できた。
【0161】
以上の試験結果より、照射するレーザのエネルギー密度Uを37.0W/mm2以上450.0W/mm2以下とすれば、渦電流損の低減に一層効果的であることが判明した。
【0162】
《試験例4》
試験例4として、試験例2で作製した試料2−1と同様の試料を作製するにあたり、上記工程dで照射するレーザの照射条件のうち、ビーム径に対する照射間隔の比率を種々変更し、それ以外の条件は試料2−1と同様にして試料4−1〜4−10を作製した。各試料に対して、上記評価1と同様にして磁気特性を評価した。各試料に照射したレーザのビーム径に対する照射間隔の比率、及び得られた特性値を表4に示す。
【0163】
【表4】
【0164】
《結果》
試料4−1〜4−10は、上記試料1−3(試験例1)に比べていずれも渦電流損を低減できた。また、試料4−1〜4−7は試料4−8〜4−10よりも渦電流損を低減でき、中でも試料4−1〜4−6は、渦電流損を特に低減できた。
【0165】
以上の結果より、照射するレーザのビーム径に対する照射間隔の比率を小さくすると、渦電流損を低減でき、特に、その比率を0.35以下、更には0.30以下とすることで、渦電流損の低減に一層効果的であることが判明した。
【0166】
《試験例5》
試験例5として、試験例2で作製した試料2−1と同様の試料を作製するにあたり、上記工程dで照射するレーザの照射条件のうち、重ね回数を種々変更し、重ね回数以外の条件は試料2−1と同様にして試料5−1〜5−9を作製した。各試料に対して上記評価1と同様にして磁気特性を評価した。各試料に照射したレーザの重ね回数、及び得られた特性値を表5に示す。
【0167】
【表5】
【0168】
《結果》
試料5−1〜5−8は、試料5−9に比べて渦電流損を低減でき、中でも試料5−1〜5−6は試料5−7、5−8よりも渦電流損を低減できた。特に、試料5−1〜5−5はより一層渦電流損を低減できた。
【0169】
以上の結果より、レーザの重ね回数を多くすると、渦電流損を低減でき、特に5回以上、さらには10回以上とすることで、渦電流損の低減に一層効果的であることが判明した。
【0170】
《試験例6》
試験例6として、試料1−1、3−6に対して、多層膜ミラーを使用する平行光学系のX線回折装置で表面の成分を測定した。この成分測定は、試料1−1と試料3−6のレーザの照射領域における成分を測定した。試料1−3の摺接面における成分もあわせて測定した。測定条件を以下に示し、試料1−1、3−6、1−3の各結果を図6〜8に示す。図中の○はFe3O4、△はFeO、×はα‐Feを示す。
【0171】
〈測定条件〉
使用装置:X線回折装置(PANalytical社製 X´pert)
使用X線:Cu−Kα
励起条件:45kV 40mA
測定法:θ−2θ測定
【0172】
《結果》
試料1−1(図6)と試料3−6(図7)は、試料1−3(図8)に比べて、α‐Feが少なく、FeO、及びFe3O4が多い。試料1−1と試料3−6とを比較すると、照射したレーザのエネルギー密度Uが高い試料3−6の方が、試料1−1よりも、α‐Feが少ない。試料1−1は、Fe3O4よりもFeOが多く検出されたのに対して、試料3−6はFeOよりもFe3O4の方が多く検出された。
【0173】
以上の結果より、レーザを照射することで、α‐Feが減少すると共に、FeO、及びFe3O4が増加する。レーザのエネルギー密度Uを高くすることで、FeOよりもFe3O4が増加することが判明した。加えて、試験例1と3とに示すように、試料1−1及び3−6は試料1−3よりも損失が少ないことから、圧粉成形体の表面にFeO及びFe3O4の少なくとも一方を含む酸化膜を具えることで、損失を低減でき、特に、FeOよりもFe3O4を多く含む方が損失を一層低減できることが判明した。
【0174】
《試験例7》
試験例7として、試験例2で作製した試料2−1と同様の試料を作製するにあたり、上記工程dで照射するレーザの照射条件のうちエネルギー密度Uを種々変更し、エネルギー密度U以外の条件は試料2−1と同様にして試料7−1〜7−4を作製した。また、試験例1で作製した試料1−3と同様の試料7−5を作製した。そして、以下の装置を用いてエネルギー分散型X線分光法(EDX)により各試料の表面における酸素の含有量を測定した。具体的には、試料7−1〜7−4ではレーザを照射した箇所を、試料7−5ではダイとの摺接面の一部及びパンチと接触する圧接面の一部を、それぞれ測定した。酸素の含有量は、各試料の表面から試料内部へ深さ1μm程度までの領域における鉄と酸素の合計含有量を100質量%としたときの割合を示す。施した表面処理、測定箇所、及びその結果をまとめて表6に示す。
【0175】
〈測定条件〉
使用装置:走査型電子顕微鏡(SEM) (ZEISS社製 SUPRA35VP)
エネルギー分散型X線分析装置(EDX装置) (EDAX社製 GENESIS4000)
加速電圧:15kV
測定領域:1.80×0.835mm2
【0176】
【表6】
【0177】
《結果》
試料7−1〜7−4は、試料7−5に比べて損失が小さく、中でも酸素の含有量が9質量%以上の試料7−1〜7−3は損失が特に小さかった。一方、試料7−5の摺接面及び圧接面はいずれも酸素の含有量が6質量%未満であった。
【0178】
試料7−1〜7−4は、レーザの照射により圧粉成形体の表面が酸化されて酸化膜が形成されたため、試料7−5よりも酸素の含有量が多くなった。特に、レーザのエネルギー密度Uが高い方がより酸化されたため、試料7−1〜7−3は、酸素の含有量が多くなったと考えられる。導通部の分断に加えて、酸化膜を形成できた結果、十分に渦電流を遮断でき、損失が小さくなったと考えられる。以上から、表面の酸素の含有量が9質量%以上とすることで、損失をより低減できることが判明した。
【0179】
以下、参考例として、以下の試料7−11〜7−13の圧粉成形体を作製し、試験例7と同様に各試料の表面における酸素の含有量を測定した。
【0180】
[試料7−11]
試料7−11の圧粉成形体は、工程a→工程b→工程cの順に各工程を経た後、工程dにおいてレーザを照射する代わりに、熱処理成形体の表面に以下に示す電解処理を施して作製した。
【0181】
(電解処理)
電解処理は、濃度が20質量%の硝酸ナトリウムが入った液槽に熱処理成形体を浸漬させて、電解処理させる箇所に陽極のPt電極を接触させ、陰極のPt電極を電解液中に浸漬させて、熱処理成形体のその他の箇所に接触させる。その状態で、65Vの電圧を印加して40Aの電流を35sec間流した。電解処理における上記比率w/lは、7%であった。電解処理後に圧粉成形体を水で洗浄した。
【0182】
[試料7−12]
試料7−12の圧粉成形体は、試料7−11と同様、工程a→工程b→工程cの順に各工程を経た後、工程dにおいてレーザを照射する代わりに、熱処理成形体の表面に以下に示す酸処理を施して作製した。
【0183】
(酸処理)
酸処理は、pH1で温度が26℃の濃塩酸が入った液槽に、濃塩酸を攪拌しながら熱処理成形体の表面の一部を20分間浸けた。酸処理における上記比率w/lは、7%であった。酸処理後に圧粉成形体を水で洗浄した。
【0184】
[試料7−13]
試料7−13の圧粉成形体は、工程a→工程b→工程cの順に各工程を経て作製する。ここでは、試験例1の工程aとは用意する被覆軟磁性粉末の種類が異なり、かつ、工程bとは金型に潤滑剤を塗布する外部潤滑成形方法を採用した点が異なる。つまり、上述の外部潤滑成形方法により、十分に潤滑の効果が得られるようにして、金型との摺接面に上記導通部が生成され難いようにした。
【0185】
具体的には、工程aの軟磁性粒子の表面に被覆した絶縁被膜を多層構造とした。まず、軟磁性粒子に化成処理を施し、水和水を含有するリン酸金属塩化合物からなる内側膜(厚さ:20nm以下程度)を形成し、この内側膜を具える粒子と市販の樹脂材料(モメンティブ製シリコーンXC96−B0446(加水分解・縮重合反応によりシリコーン樹脂となるもの))を加熱雰囲気で混合し(80℃〜150℃)、リン酸金属塩化合物からなる内側膜と、シリコーン樹脂からなる外側層との多層構造の絶縁層(合計平均厚さ:500nm)を形成した。この被覆軟磁性粉末を金型内に注入する際、被覆軟磁性粉末と接触する金型の内壁にエチレンビスステアリン酸アミドからなる潤滑剤を塗布し、950MPaの圧力をかけて加圧成形して圧粉成形体を作製した。作製された圧粉成形体における金型との摺接面を表面観察したところ、上記導通部の生成は見られなかった。
【0186】
作製した試料7−11、7−12では各処理を施した箇所に対して、試料7−13では圧接面に対して、それぞれ上述と同様にして酸素量を測定した。施した表面処理、測定箇所、及び酸素量をまとめて表7に示す。
【0187】
【表7】
【0188】
《結果》
上記レーザの代わりに電解処理、酸処理を施した試料7−11、7−12とも表面の酸素量は4質量%程度であった。即ち、電解処理及び酸処理を施しても、圧粉成形体の表面に所定の酸素量を含有する表面部分が形成されないことが判明した。一方、圧粉成形体の原料の軟磁性粒子に被覆する絶縁被膜が分厚く、試料7−1〜7−3に比べて、原料の段階で酸素量の多い粉末から構成される試料7−13における表面の酸素量は8質量%程度であり、9質量%以上にならなかった。つまり、原料の段階で酸素量が多い被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を作製しても、表面の酸素量が9質量%以上とならないことが判明した。
【0189】
《試験例8》
試験例8として、試料1−1のレーザ照射前後、及び試料3−5、3−6、3−8、3−9の表面を顕微鏡により観察した。この表面観察は、各試料の表面を拡大した写真をSEMで撮影して行った。その拡大写真を図9〜14に示す。図9〜13の(A)は試料1−1のレーザ照射前後、試料3−5、3−6、3−8の断面を示し、(B)は同試料の表面を示す。図14は、試料3−9の断面を示す。
【0190】
《結果》
[試料No.1−1]
試料1−1は、図9(A)において、同図の右側に向かって成形体を抜き出したものであり、各破線円における右側の粒子を軟磁性粒子α、その左隣の粒子が軟磁性粒子βとする。図10(A)でも同様とする。レーザ照射前の表面は、各破線円に示すように、各粒子αに形成された薄膜状体が隣接する左側の粒子βにまで到達して導通した状態になっている。特に右側の破線円で囲まれた箇所において、右端の粒子αが薄膜状に延伸されてその左隣の粒子βの表面に被さるように薄膜状体(導通部)が形成されていることが明確に示されている。この隣接する粒子同士の部分的重複により、この薄膜状体には、分断箇所がほとんど見られない(同図(B))。レーザ照射後の表面は、図10(A)において、各破線円に示すように、各粒子に形成された薄膜状体が溶融・流動されて、分断領域を形成している。例えば、右側の破線円における左側の粒子βの表面が分断領域である。分断領域が形成されると共に、粒子αから隣接する粒子βの表面上部に部分的に被さるように突出した塊(凝集部)が形成されている。この凝集部に厚さの厚い酸化膜(濃いグレー部分)が形成されており、この凝集部を具える粒子αの凝集部を除く表面には凝集部よりも薄い酸化膜が形成されている。左側の破線円に示す凝集部の芯は、酸化されずに軟磁性粒子を構成する金属の状態で残っている。そして、同図(B)に示すように、レーザ照射前(図9(B))に比べて薄膜状体の領域が少なく、分断箇所が増加しており、各粒子間が確認できる。
【0191】
[試料No.3−5]
試料3−5は、図11(A)に示すように、試料の表面において、隣接する粒子間に亘って形成されていた薄膜状体(例えば、図9(A)破線円)が、レーザが照射されることで溶融・流動されて各粒子の表面を覆う酸化膜となった。そして、隣接する粒子間の表面側は、互いに非接触状態となっており、隣接する粒子の表面側の間に、クレバス状に分断領域が形成されている。また、図11(B)に示すように、試料1−1よりも薄膜状体の領域が少なく、分断箇所が増加しており、各粒子間が確認できる。
【0192】
[試料No.3−6]
試料3−6は、図12(A)に示すように、試料表面において隣接する粒子の表面側の間に、クレバス状に分断領域が形成されており、各粒子の表面を覆う酸化膜が形成されている。図12(A)において、粒子の表面の濃いグレーが酸化膜である。以下、図13、14も同様である。隣接する粒子間に亘って形成されていた薄膜状体(例えば、図9(A)破線円)が、レーザが照射されることで、図の中央の粒子に示すように、溶融・流動されて中央側が両側に比べて厚い酸化膜で構成される集結部を形成している。特に図の左側の粒子表面に形成された酸化膜の厚さは0.75μm程度と厚くなっている。また、図12(B)に示すように、試料3−5よりも薄膜状体の領域が少なく、分断箇所が増加している。
【0193】
[試料No.3−8]
試料3−8は、隣接する粒子間に亘って形成されていた薄膜状体(例えば、図9(A)破線円)が、レーザが照射されることで溶融・流動されて、図13(A)に示すように、試料表面において、隣接する粒子の表面側の間にクレバス状に分断領域が形成されており、粒子の中央側にその両側よりも厚さの厚い酸化膜で構成される集結部を形成している。特に図の中央右側の粒子表面に形成された酸化膜の厚さは3.0μm程度と厚くなっている。また、図13(B)に示すように、試料3−6よりも薄膜状体の領域が少なく、分断箇所が増加している。
【0194】
[試料No.3−9]
試料3−9は、図14の中央に、山形状の酸化膜(集結部)が形成されており、その厚さが10μm程度である。
【0195】
試料1−1のレーザ照射前は、成形工程の金型との擦れによって、成形体表面の絶縁被膜が損傷すると共に、軟磁性粒子が展延したことにより表面に軟磁性粒子同士が導通した導通部が形成されていると考えられ、試料1−1は、レーザを照射することによって生じる熱が、導通部では拡散し難く高温の状態が維持され易い。その結果、上記導通部が溶融して分断されたと考えられる。試料1−1は、その他の試料に比べて照射したレーザのエネルギー密度Uが小さいため、上記塊同士の間に上記薄膜状体が残存し、その上、塊の外周を覆う酸化膜が形成されたと考えられる。一方、試料3−5は、照射したレーザのエネルギー密度Uを88.1W/mm2と試料1−1よりも高くしたことで、試料3−6は、照射したレーザのエネルギー密度Uを123.6W/mm2と試料3−5よりも高くしたことで、そして、試料3−8は、照射したレーザのエネルギー密度Uを290.8W/mm2と試料3−6よりも高くしたことで、試料1−1で形成された上記塊や、試料1−1で塊同士の間に残存している上記薄膜状体も酸化された。その結果、表面を覆う酸化膜が形成されたと考えられる。特に、高いエネルギー密度が付与されるほど、上記薄膜状体の高温状態が維持され易くなり、上記薄膜状体がさらに溶融される。溶融した薄膜状体の構成材料が表面張力により凝集し、表面積が小さくなろうとする。その結果、中央部の酸化膜の厚さが厚くなったと考えられる。
【0196】
[まとめ]
レーザのエネルギー密度Uが高いほど、導通部が分断され易い。その上、各粒子の表面を覆う酸化膜の領域が大きくなり、かつ酸化膜の厚さが厚い箇所を具えることができることが判明した。
【0197】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明圧粉成形体の製造方法は、各種磁心の作製に好適に利用することができる。また、本発明圧粉成形体は、ハイブリッド自動車などの昇圧回路や、発電・変電設備に用いられるリアクトルの他、トランスやチョークコイルのコアの材料に好適に利用することができる。本発明リアクトルは、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車といった車両に搭載されるDC-DCコンバータや空調機のコンバータといった電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0199】
100 リアクトル
1 圧粉成形体 10 素材成形体
2 コイル 2a、2b コイル素子 2r 連結部 2w 巻線
3 磁性コア(リアクトル用コア)
31 内側コア部 31m コア片 31g ギャップ材 32 露出コア部
31p 加圧面 31s、31so、31sp 摺接面
1100 電力変換装置
1110 コンバータ 1111 スイッチング素子
1112 駆動回路 L リアクトル 1120 インバータ
1150 給電装置用コンバータ 1160 補機電源用コンバータ
1200 車両
1210 メインバッテリ 1220 モータ 1230 サブバッテリ
1240 補機類 1250 車輪
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆軟磁性粉末を加圧成形してなる圧粉成形体、その製造方法、その圧粉成形体を具えるリアクトル、そのリアクトルを具えるコンバータ、及びそのコンバータを具える電力変換装置に関するものである。特に、低損失な圧粉成形体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車などは、モータへの電力供給系統に昇圧回路を備えている。この昇圧回路の一部品として、リアクトルが利用されている。リアクトルは、コアにコイルを巻回した構成である。コアを交流磁場で使用した場合、コアに鉄損と呼ばれる損失が生じる。鉄損は、概ね、ヒステリシス損と渦電流損との和で表され、特に、高周波での使用において顕著に増加する。
【0003】
リアクトルのコアにおける鉄損を低減するために、圧粉成形体でできたコアを用いることがある。圧粉成形体は、軟磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成した被覆軟磁性粒子からなる被覆軟磁性粉末を加圧して成形され、軟磁性粒子同士が絶縁被膜により絶縁されているので、特に、渦電流損を低減する効果が高い。
【0004】
しかし、圧粉成形体は、相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状のダイとでつくられるキャビティに被覆軟磁性粉末を充填し、第一パンチと柱状の第二パンチとによりキャビティ内の被覆軟磁性粉末を加圧成形して作製されるため、この加圧成形時の圧力や、成形体の脱型時における金型との摺接により被覆軟磁性粒子の絶縁被膜が損傷する虞がある。絶縁被膜が損傷すると、軟磁性粒子が露出し展延することがあり、その結果、圧粉成形体における軟磁性粒子同士が導通して、略膜状の導通部を形成してしまい、渦電流損が増大する虞がある。
【0005】
そこで、上記渦電流損を低減するために、例えば、特許文献1には、被覆軟磁性粉末(軟磁性粉末)を加圧して成形した素材成形体の表面を、濃塩酸で表面処理することが記載されている。具体的には、素材成形体を濃塩酸に浸漬して、素材成形体の表面全面における上記導通部を除去して圧粉成形体としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−229203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように素材成形体の表面全体を表面処理することで、一定の低損失化を図ることができる。このように、素材成形体の表面全体を表面処理してしまうと、上記導通部を除去することができるが、一方で、絶縁被膜が損傷していない被覆軟磁性粒子の絶縁被膜をも損傷させる可能性もある。その結果、損失低減効果が小さくなる虞がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、低損失な圧粉成形体を提供することにある。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、低損失な圧粉成形体を効率的に製造することができる圧粉成形体の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、上記本発明の製造方法により製造された圧粉成形体を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、上記圧粉成形体を具えるリアクトルを提供することにある。
【0012】
本発明の更に異なる目的は、上記リアクトルを具えるコンバータ、このコンバータを具える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために、圧粉成形体の製造方法について鋭意検討した。具体的には、表面処理を施す領域を種々選択した圧粉成形体を製造して損失低減効果が小さくなる原因を調べた。その結果、次の知見を得た。
【0014】
素材成形体の表面全面に表面処理すると、素材成形体の脱型時における上記ダイと摺接する箇所(摺接面)に生じた上記導通部は除去される。一方で、素材成形体の上記各パンチと接触する箇所(圧接面)にはそもそも上記導通部が形成され難く、そこに表面処理を行うと、絶縁被膜が破壊されることがある。そのため、圧接面では軟磁性粒子が露出した状態になり、鉄損の低減効果が小さくなることがある。従って、表面処理は、素材成形体の一部、さらには上記摺接面の一部、特に摺接面において磁束方向全長に亘る領域に施すとよいことが判明した。
【0015】
上記知見から、低損失な圧粉成形体を効率的に製造するには、素材成形体の特定の領域に表面処理を施す以下の方法が挙げられる。
【0016】
その圧粉成形体の製造方法とは、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具えてなる被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する方法で、素材準備工程と、表面処理工程とを具える。素材準備工程では、被覆軟磁性粉末を加圧成形した素材成形体を用意する。表面処理工程では、素材成形体の表面で複数の軟磁性粒子の構成材料同士が導通した導通部の分断箇所を増加させる。この導通部の分断箇所の増加は、電気的に遮断された箇所が増加することであり、導通部の途中が変形されて不連続箇所を形成する場合の他、導通部の少なくとも一部が除去される場合を含む。上記表面処理工程は、上記成形体の表面の一部に施される。ここでの表面処理工程には、化学的、機械的、電気的、光学的、熱的、あるいは、これらの複合的な処理により、上記導通部の分断箇所の増加が可能なあらゆる表面処理が含まれる。具体的には、機械的な処理方法として切削や研削が、熱・光学的な方法としてレーザ処理がそれぞれ挙げられる。いずれの処理方法も導通部の除去が可能と考えられる。特に、切削や研削では、導通部を機械的に分離して除去がなされると考えられる。一方、レーザ処理では、導通部の溶融・流動により、不連続箇所が増加されると考えられる。
【0017】
より具体的な方法として、以下の本発明の圧粉成形体の製造方法が挙げられる。
【0018】
この製造方法は、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具えてなる被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する方法で、素材準備工程と、照射工程とを具える。素材準備工程では、被覆軟磁性粉末を加圧成形した素材成形体を用意する。照射工程では、上記素材成形体の表面の少なくとも一部にレーザを照射する。
【0019】
本発明の製造方法によれば、素材成形体の表面の少なくとも一部にレーザを照射することで、薄膜状体の導通部に対して高いエネルギーの付与、または急激な加熱と冷却を生じさせるので、上記導通部の分断箇所が増加すると考えられる。この導通部の分断箇所の増加により、導通部の電気抵抗を増大させる、或いは導通部における導通を遮断できる。その結果、渦電流を流れ難く、或いは渦電流を遮断できるため、圧粉成形体の損失を低減できる。
【0020】
加えて、素材成形体の表面の少なくとも一部にレーザを照射することで、絶縁被膜が損傷していない被覆軟磁性粒子の絶縁被膜を損傷させる可能性が低くなり、損失低減効果が小さくなることがない。その結果、素材成形体の表面全面を表面処理した場合と同程度の低損失な圧粉成形体を製造することができる。さらに、損失低減効果が小さくなった場合の圧粉成形体よりも、低損失な圧粉成形体とすることができ、効率的に低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0021】
さらに、種々の製造方法により製造した圧粉成形体を調べたところ、上記本発明の製造方法により得られた圧粉成形体の表面の少なくとも一部に酸化膜が存在し、この酸化膜を具える箇所の表面部分における酸素含有量が特定の範囲である圧粉成形体は、低損失であるとの知見を得た。そこで本発明は、酸素の含有量が特定の範囲である上記表面部分を具える圧粉成形体を規定する。
【0022】
具体的には、本発明の圧粉成形体及び本発明圧粉成形体の製造方法により製造された圧粉成形体は、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える被覆軟磁性粉末を加圧成形してなる。圧粉成形体の表面の少なくとも一部に鉄を含有する酸化膜を具える。上記酸化膜を具える箇所の表面部分における鉄と酸素の合計含有量を100質量%とするとき、酸素の含有量が9質量%以上20質量%以下である。
【0023】
本発明の圧粉成形体は、酸素の含有量が所定範囲にある上記表面部分を具えることで、渦電流損の少ない低損失な圧粉成形体とすることができる。例えば、リアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、低損失なリアクトルとすることができる。従って、本発明圧粉成形体は、リアクトルの構成部材に好適に利用でき、コイルが高周波の交流で励磁される場合でも鉄損特性を改善できる。
【0024】
本発明の製造方法の一形態として、上記照射工程は、上記素材成形体における金型との摺接面の少なくとも一部に施されることが挙げられる。
【0025】
上記の構成によれば、金型との摺接面に導通部が形成され易いので、摺接面の少なくとも一部にレーザを照射することで、効果的に渦電流を遮断できる。
【0026】
本発明の製造方法の一形態として、上記照射工程は、上記圧粉成形体を磁心として励磁した際、磁束方向との平行面の少なくとも一部となる素材成形体の表面に施されることが挙げられる。
【0027】
上記の構成によれば、レーザを照射する箇所が、磁束方向との平行面のうち少なくとも一部であることで、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を、上記レーザが照射された箇所で遮断することができると考えられる。そのため、渦電流損を低減することができ、低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0028】
本発明の製造方法の一形態として、上記照射工程は、上記圧粉成形体を磁心として励磁した際、磁束方向との平行面の少なくとも一部で、上記平行面において、上記圧粉成形体の磁束方向全長に亘る領域となる素材成形体の表面に施されることが挙げられる。
【0029】
上記の構成によれば、レーザを照射する領域を、素材成形体の表面のうち、上記平行面の少なくとも一部で、その平行面において、圧粉成形体の磁束方向全長に亘る領域となる面とすることで、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を上記全長に亘って遮断することができると考えられる。従って、渦電流損をより低減することができ、より低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0030】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザが、YAGレーザ、YVO4レーザ、及びファイバーレーザの中から選択される1種のレーザであることが挙げられる。
【0031】
上記の構成によれば、上記レーザが上記の中から選択されるレーザであることで、上記導通部の分断箇所を増加し易くなる。
【0032】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザの波長が、上記軟磁性粒子の波長吸収領域であることが挙げられる。
【0033】
上記の構成によれば、上記導通部の分断箇所を増加し易いうえに、導通部以外の箇所の被覆軟磁性粒子の絶縁被膜が損傷し難い。
【0034】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザの平均出力をP(W)、当該レーザの照射面積をS(mm2)とするとき、当該レーザのエネルギー密度U(W/mm2)=P/Sが、37.0≦U≦450.0を満たすことが挙げられる。
【0035】
上記の構成によれば、レーザのエネルギー密度Uを37.0W/mm2以上とすることで、上記導通部の分断箇所を確実に増加させることができる。レーザのエネルギー密度Uを450.0W/mm2以下とすることで、過剰溶融による軟磁性粒子同士の接触を抑制でき、損失低減効果が小さくなることを抑制できる。
【0036】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザのビーム径に対する照射間隔の比率が、0.35以下であることが挙げられる。
【0037】
上記の構成によれば、上記比率を0.35以下とすることで、レーザが照射されない未処理領域を低減できるため、導通部を分断し易くなる。
【0038】
本発明の製造方法の一形態として、上記レーザの重ね回数が、5回以上であることが挙げられる。
【0039】
上記の構成によれば、レーザを複数回同じ領域に照射することで、上記導通部を確実に分断できる。
【0040】
本発明圧粉成形体の一形態として、さらに、圧粉成形体の表面に、上記酸素の含有量が6質量%未満の箇所を具えることが挙げられる。
【0041】
上記の構成によれば、圧粉成形体の表面に、酸素の含有量が6質量%未満の低酸素領域と、9質量%以上20質量%以下の高酸素領域とが混在した圧粉成形体とすることができる。このように、部分的に低酸素領域を具えていても、高酸素領域において渦電流を遮断できるので、低損失な圧粉成形体とすることができる。
【0042】
本発明圧粉成形体の一形態として、上記酸化膜は、厚さが0.1μm以上の箇所を具えることが挙げられる。
【0043】
上記の構成によれば、酸化膜が、厚さが0.1μm以上である厚さの厚い箇所を具えることで、例えば、リアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、その箇所で渦電流を流れ難くすることができる。
【0044】
本発明圧粉成形体の一形態として、分断領域と、集結部とを具えることが挙げられる。分断領域は、圧粉成形体の表面の少なくとも一部において、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する箇所である。集結部は、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面において、隣接する粒子間に跨らず、中央側がその外周縁側よりも厚みの大きい酸化膜で構成される。
【0045】
上記の構成によれば、例えば、圧粉成形体をリアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、上記分断領域及び集結部により渦電流を分断できる。この分断領域によって隣接する軟磁性粒子同士が電気的に分断され、その分断領域に隣接する粒子に上記集結部を具えることで、上記粒子間の絶縁に加えて、圧粉成形体の表面をより確実に絶縁できる。
【0046】
本発明圧粉成形体の一形態として、分断領域と、凝集部とを具えることが挙げられる。分断領域は、圧粉成形体の表面の少なくとも一部において、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する。凝集部は、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面において、当該軟磁性粒子の外周縁側に突出し、局所的に厚みが大きい。そして、その凝集部の表面の少なくとも一部に酸化膜を有する。
【0047】
上記の構成によれば、例えば、圧粉成形体をリアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、上記分断領域及び凝集部で渦電流を分断できる。この分断領域により隣接する軟磁性粒子同士が電気的に分断され、さらに分断箇所の各端部が絶縁性の酸化膜で覆われていることで、上記粒子間をより確実に絶縁できる。
【0048】
本発明圧粉成形体の一形態として、上記凝集部を具える場合、凝集部における酸化膜は、厚さが0.5μm以上の箇所を具えることが挙げられる。
【0049】
上記の構成によれば、凝集部において、厚さが0.5μm以上である厚さの厚い箇所を具えることで、例えば、圧粉成形体をリアクトルに具わる磁性コアの一部として利用した場合、その箇所で渦電流を流れ難くできる。
【0050】
本発明圧粉成形体の一形態として、上記酸化膜が、FeO、α‐Fe2O3、γ‐Fe2O3、及びFe3O4の少なくとも一種を含むことが挙げられる。
【0051】
上記の化合物を含む圧粉成形体を利用することで、後述する試験例に示すように、低損失なリアクトルが得られる。
【0052】
本発明圧粉成形体の一形態として、圧粉成形体の密度dが、7.0g/cm3以上であることが挙げられる。
【0053】
上記の構成によれば、磁束密度の高い圧粉成形体とすることができる。
【0054】
本発明圧粉成形体の一形態として、上記軟磁性粒子は、純度が99質量%以上の鉄からなることが挙げられる。
【0055】
上記の構成によれば、透磁率及び磁束密度の高い圧粉成形体とすることができる。
【0056】
本発明のリアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、このコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを具える。磁性コアのうち少なくとも一部が圧粉成形体からなり、この圧粉成形体が上記本発明圧粉成形体である。
【0057】
本発明のリアクトルによれば、損失低減効果に優れる圧粉成形体を具えることで、低損失なリアクトルとすることができる。
【0058】
本発明リアクトルは、コンバータの構成部品に好適に利用することができる。本発明のコンバータは、スイッチング素子と、上記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、上記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するものであり、上記リアクトルが本発明リアクトルである。この本発明コンバータは、電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。本発明の電力変換装置は、入力電圧を変換するコンバータと、上記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、上記コンバータが本発明コンバータである。
【0059】
上記の構成によれば、磁性コアが低損失な圧粉成形体からなる本発明リアクトルを具えることで、低損失であり、車載部品などに好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の圧粉成形体の製造方法は、渦電流損を低減することができ、効率的に低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0061】
本発明の圧粉成形体は、渦電流損の少ない低損失な圧粉成形体とすることができる。
【0062】
本発明のリアクトルは、低損失である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施形態1に係る圧粉成形体を示す図であって、その圧粉成形体を具えるリアクトル用コアを示す分解斜視図である。
【図2】実施形態2に係るリアクトルを示す概略斜視図である。
【図3】ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す概略構成図である。
【図4】本発明コンバータを具える本発明電力変換装置の一例を示す概略回路図である。
【図5】試験例3において、各試料におけるレーザのエネルギー密度と圧粉成形体の損失との関係を示すグラフである。
【図6】試料No.1−1におけるX線回折の結果を示すグラフである。
【図7】試料No.3−6におけるX線回折の結果を示すグラフである。
【図8】試料No.1−3におけるX線回折の結果を示すグラフである。
【図9】試料No.1−1の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射前の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図10】試料No.1−1の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図11】試料No.3−5の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図12】試料No.3−6の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図13】試料No.3−8の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、(A)は表面近傍における断面を示し、(B)は表面を示す。
【図14】試料No.3−9の圧粉成形体の製造過程において、レーザ照射後の試料の表面状態を示すSEM写真であって、表面近傍における断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明の実施形態を説明する。まず、圧粉成形体、及びその製造方法を説明し、その後、その圧粉成形体を具えるリアクトル、そのリアクトルを具えるコンバータ及び電力変換装置の順に説明する。
【0065】
<実施形態1>
《圧粉成形体》
本発明の圧粉成形体は、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える被覆軟磁性粉末を加圧成形してなり、その表面の少なくとも一部に鉄を含有する酸化膜を具える。圧粉成形体の特徴とするところは、上記酸化膜を具える箇所の表面部分に酸素が特定量含まれている点にある。以下、詳細に説明するにあたり、上記特徴を中心に説明し、軟磁性粉末の構成自体は後述する製造方法で説明する。圧粉成形体の構成要素が原料の特性・性状を実質的に維持している。
【0066】
圧粉成形体の表面は、その少なくとも一部に鉄を含有する酸化膜を具える。圧粉成形体のうち、上記酸化膜を具える箇所の表面部分における鉄と酸素の合計含有量を100質量%とするとき、酸素の含有量が9質量%以上であることが挙げられる。そうすれば、例えば、圧粉成形体をリアクトル用コアとして用いた場合、この酸化膜の形成箇所で、渦電流を分断若しくは流れ難くできるため、渦電流損を低減でき、低損失なリアクトルを構築できる。上記表面部分とは、圧粉成形体表面から内部へ深さ1μm程度までの領域を言う。酸素の含有量は、その領域における測定値を言う。酸素の含有量の測定は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X−ray spectroscopy)で行うことができる。酸素の含有量の上限は、20質量%以下とする。そうすれば、十分に低損失化を図ることができる。
【0067】
圧粉成形体の表面は、さらに、酸素の含有量が6質量%未満の箇所を具える場合がある。即ち、圧粉成形体の表面は、酸素の含有量が6質量%未満の低酸素領域と、9質量%以上20質量%以下の高酸素領域とが存在している。レーザを照射する領域を圧粉成形体の表面の一部とすることで、両領域を形成できる。圧粉成形体の表面のうちレーザを照射していない領域が、上記低酸素領域となる。
【0068】
酸化膜の形成メカニズムは、次のように考えられる。圧粉成形体の表面には、後述する成形工程において金型との擦れによって被覆軟磁性粒子間に跨る導通部が形成されている。導通部は、ある軟磁性粒子αの金属部分が金型との摺接により、ダイからの成形体の抜き出し方向と反対側に流れて薄膜状に延伸され、軟磁性粒子αに隣接する軟磁性粒子β上に被さるように形成される。この圧粉成形体の表面にレーザを照射することでその導通部が溶融する。溶けた導通部は、両粒子間に分断領域を形成するように各粒子側へ流動し、その結果、隣接する軟磁性粒子α、β同士の導通部による連結が分断された箇所が分断領域になる。
【0069】
レーザのエネルギー密度Uが低い場合、局所的に厚みの厚い凝集部を形成する。この凝集部は、溶融金属が、薄膜状の導通部と一体に繋がる軟磁性粒子αの表面に集結される前に、隣接する軟磁性粒子β側に偏って凝固したもので、軟磁性粒子αの表面において同粒子αの外周縁側に突出しており、隣接する軟磁性粒子の表面上部に被さる場合がある。凝集部は、帯状に形成されていることが多い。上記導通部の溶融により、導電性の導通部が電気的に分断され、さらに凝集部の少なくとも一部に絶縁性の酸化膜が形成される。そのため、粒子間をより確実に絶縁できる。このとき凝集部を具える軟磁性粒子の凝集部を除く表面にも酸化膜が形成される。凝集部の方が、この凝集部を具える軟磁性粒子の凝集部を除く表面よりも厚い酸化膜を具えることがある。
【0070】
レーザのエネルギー密度Uが高い場合、溶融した導通部がさらに流動し、溶融金属が表面張力により表面積が小さくなろうとしてさらに各粒子の中央側へ移動する。それにより、各粒子の表面に、隣接する粒子間に跨らず、中央側がその外周縁側よりも厚みの大きい酸化膜で構成される集結部が形成される。この集結部は、溶融金属が、軟磁性粒子αの表面に集結されてから凝固したものである。集結部は、平板状で、円盤に近い形状であることが多い。即ち、導通部であった箇所は酸化膜に変化する。一方、レーザの照射により、導通部が溶融・流動しない場合、そのまま膜状の導通部の表面に酸化膜が生成される。さらに酸化が進めば、導通部全体が酸化膜となる。
【0071】
酸化膜は、単一の粒子表面にのみ形成される場合と、隣接する粒子間を跨ぐ場合とを含む。圧粉成形体の表面には、前者と後者の両方が形成されている場合もあり、前者か後者のいずれかしか形成されていない場合もある。前者の場合、圧粉成形体の表面において、酸化膜が点在している。レーザのエネルギー密度Uが高いほど、前者の状態になり易い。
【0072】
酸化膜は、厚さが0.1μm以上の箇所を具えることが好ましい。そうすれば、その厚さの厚い箇所で、上記渦電流を分断若しくは流れ難くできる。酸化膜は、厚さが0.5μm以上、1μm以上、3μm以上、更に5μm以上、7μm以上、特に10μm以上の厚い箇所を具えることが好ましい。酸化膜の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による圧粉成形体の断面観察で測定することができる。
【0073】
酸化膜の組成は、FeO、α‐Fe2O3、γ‐Fe2O3、及びFe3O4の少なくとも一種を含むことが好ましい。中でも、FeO、及びFe3O4を多く含むことが好ましい。上記の酸化膜を含む圧粉成形体をリアクトルの構成部品に利用することで、低損失なリアクトルとすることができる。酸化膜の組成は、例えば、X線回折(XRD:X−ray Diffraction)により検出できる。
【0074】
圧粉成形体の表面の少なくとも一部に、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する分断領域を具える。そうすれば、圧粉成形体をリアクトル用コアとして励磁した際に、圧粉成形体の表面の周方向に亘って流れる渦電流を分断領域で分断できる。分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面の少なくとも一方に、上記集結部を具える。即ち、上記集結部は、単一の粒子表面に形成される。また、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面において、上記凝集部を具える場合もある。凝集部は、複数の軟磁性粒子から延伸された導通部が溶融されて一体に凝集する際に生成される場合もある。そのため、凝集部を具える粒子は複数存在することがある。凝集部は、例えば、上記酸化膜の厚さが0.5μm以上の箇所を具えることが挙げられる。圧粉成形体の表面には、上記集結部及び凝集部が点在する場合がある。
【0075】
[密度]
圧粉成形体の密度d(g/cm3)は、高い方が好ましい。そうすれば、磁束密度の高い圧粉成形体とすることができる。具体的には、密度dが7.0g/cm3以上であることが挙げられる。この密度dの上限は、7.55g/cm3が挙げられる。密度dが高すぎると、軟磁性粒子同士の絶縁性が低下する虞があるためである。
【0076】
《圧粉成形体の製造方法》
上述した本発明圧粉成形体は、例えば、以下の本発明の製造方法で製造することができる。本発明の圧粉成形体の製造は、被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する方法で、素材準備工程と、照射工程とを具える。まず、圧粉成形体の構成材料である被覆軟磁性粉末を準備する工程から説明し、順に上記各工程について説明する。
【0077】
〔素材準備工程〕
素材準備工程では、圧粉成形体を構成する被覆軟磁性粉末を用意して、その粉末を加圧成形して素材成形体を作製するか、予め同様に成形された素材成形体を購入するなどして用意する。前者の場合、原料準備工程と、その原料から素材成形体を成形する素材成形工程とを具える。原料準備工程として、圧粉成形体を構成する被覆軟磁性粉末を用意する。被覆軟磁性粉末は、軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える。
【0078】
[原料準備工程]
原料準備工程では、被覆軟磁性粉末を用意する。この工程では、後述する組成からなる軟磁性粒子を製造又は購入するなどして用意し、その軟磁性粒子の外周に後述する組成からなる絶縁被膜を被覆して被覆軟磁性粉末を製造してもよいし、予め製造された被覆軟磁性粉末を購入するなどしてもよい。前者のうち軟磁性粒子を製造する場合、以下に述べる軟磁性粒子の製法、及び絶縁被膜の被覆方法を経て被覆軟磁性粉末を製造することができる。
【0079】
(軟磁性粒子)
〈組成〉
軟磁性粒子は、鉄を50質量%以上含有するものが好ましく、例えば、純鉄(Fe)が挙げられる。その他、鉄合金、例えば、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−N系合金、Fe−Ni系合金、Fe−C系合金、Fe−B系合金、Fe−Co系合金、Fe−P系合金、Fe−Ni−Co系合金、及びFe−Al−Si系合金から選択される少なくとも1種からなるものが利用できる。特に、透磁率及び磁束密度の点から、99質量%以上、更には99.5質量%以上がFeである純鉄が好ましい。
【0080】
〈粒径〉
軟磁性粒子の平均粒径は、圧粉成形体として低損失に寄与するサイズであればよい。つまり、特に限定することなく適宜選択することができるが、例えば、1μm以上150μm以下であれば好ましい。軟磁性粒子の平均粒径を1μm以上とすることによって、軟磁性粉末の流動性を落とすことがなく、軟磁性粉末を用いて製作された圧粉成形体の保磁力及びヒステリシス損の増加を抑制できる。逆に、軟磁性粒子の平均粒径を150μm以下とすることによって、1kHz以上の高周波域において発生する渦電流損を効果的に低減できる。より好ましい軟磁性粒子の平均粒径は、40μm以上100μm以下である。この平均粒径の下限が40μm以上であれば、渦電流損の低減効果が得られると共に、被覆軟磁性粉末の取り扱いが容易になり、より高い密度の成形体とすることができる。なお、この平均粒径とは、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径をいう。
【0081】
〈形状〉
軟磁性粒子の形状は、アスペクト比が1.2〜1.8となるようにすると好ましい。このアスペクト比とは、粒子の最大径と最小径との比とする。上記範囲のアスペクト比を有する軟磁性粒子は、アスペクト比が小さな(1.0に近い)ものに比べて、圧粉成形体にしたときに反磁界係数を大きくでき、磁気特性に優れた圧粉成形体とすることができる。その上、圧粉成形体の強度を向上させることができる。
【0082】
〈製法〉
軟磁性粒子は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法などのアトマイズ法で製造されたものが好ましい。水アトマイズ法で製造された軟磁性粒子は、粒子表面に凹凸が多いため、その凹凸の噛合により高強度の成形体を得やすい。一方、ガスアトマイズ法で製造された軟磁性粒子は、その粒子形状がほぼ球形のため、絶縁被膜を突き破るような凹凸が少なくて好ましい。
【0083】
(絶縁被膜)
絶縁被膜は、隣接する軟磁性粒子同士を絶縁するために、軟磁性粒子の外周に被覆される。軟磁性粒子を絶縁被膜で覆うことによって、軟磁性粒子同士の接触を抑制し、成形体の比透磁率を低く抑えることができる。その上、絶縁被膜の存在により、軟磁性粒子間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉成形体の渦電流損を低減させることができる。
【0084】
〈組成〉
絶縁被膜は、軟磁性粒子同士の絶縁を確保できる程度の絶縁性に優れるものであれば特に限定されない。例えば、絶縁被膜の材料は、リン酸塩、チタン酸塩、シリコーン樹脂、リン酸塩とシリコーン樹脂の2層からなるものなどが挙げられる。
【0085】
特に、リン酸塩からなる絶縁被膜は変形性に優れるので、軟磁性材料を加圧して圧粉成形体を作製する際に軟磁性粒子が変形しても、この変形に追従して変形することができる。リン酸塩被膜は鉄系の軟磁性粒子に対する密着性が高く、軟磁性粒子表面から脱落し難い。リン酸塩としては、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどのリン酸金属塩化合物を利用することができる。
【0086】
シリコーン樹脂からなる絶縁被膜の場合は、耐熱性に優れるので、後述する熱処理工程で分解し難く、圧粉成形体の完成までの間、軟磁性粒子同士の絶縁を良好に維持することができる。
【0087】
絶縁被膜が上記リン酸塩とシリコーン樹脂の2層構造からなる場合、リン酸塩を上記軟磁性粒子側に、シリコーン樹脂をリン酸塩の直上に被覆することが好ましい。リン酸塩の直上にシリコーン樹脂を被膜しているので、上述したリン酸塩及びシリコーン樹脂の両方の特性を具えることができる。
【0088】
〈膜厚〉
絶縁被膜の平均厚さは、隣接する軟磁性粒子同士を絶縁することができる程度の厚みであればよい。例えば、10nm以上1μm以下であることが好ましい。絶縁被膜の厚みを10nm以上とすることによって、軟磁性粒子同士の接触の抑制や渦電流によるエネルギー損失を効果的に抑制することができる。一方、絶縁被膜の厚みを1μm以下とすることによって、被覆軟磁性粒子に占める絶縁被膜の割合が大きくなりすぎず、被覆軟磁性粒子の磁束密度が著しく低下することを防止できる。
【0089】
上記絶縁被膜の厚さは、以下のようにして調べることができる。まず、組成分析(TEM−EDX:transmission electron microscope energy dispersive X−ray spectroscopy)によって得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS:inductively coupled plasma−mass spectrometry)によって得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出する。そして、TEM写真により直接、被膜を観察し、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定される平均的な厚さとする。
【0090】
〈被覆方法〉
軟磁性粒子に絶縁被膜を被覆する方法は、適宜選択するとよい。例えば、加水分解・縮重合反応などにより被膜することが挙げられる。軟磁性粒子と絶縁被膜を構成する原料とを配合して、その配合体を、加熱した状態で混合する。そうすることで、軟磁性粒子を被膜原料に十分に分散でき、個々の軟磁性粒子の外側に絶縁被膜を被覆することができる。
【0091】
上記加熱温度及び混合時間は適宜選択するとよい。加熱温度及び混合時間を選択することで、軟磁性粒子をより十分に分散させることができ、個々の粒子に絶縁被膜を被覆することが容易となる。
【0092】
[素材成形工程]
素材成形工程では、上記原料準備工程により用意された複数の被覆軟磁性粒子からなる被覆軟磁性粉末を加圧成形して素材成形体を作製する。
【0093】
素材成形工程では、代表的には、所定の形状のパンチとダイからなる成形金型内に被覆軟磁性粉末を注入し、加圧して押し固める。パンチとダイを使用する際、加圧により金型に成形体が焼き付くことや、被覆軟磁性粉末の絶縁被膜が破壊されることがないように被覆軟磁性粉末を加圧成形する。その手段として、パンチとダイの少なくとも一方の被覆軟磁性粉末と接触する箇所(内壁)に潤滑剤を塗布して被覆軟磁性粉末を加圧する外部潤滑成形方法でもよいし、被覆軟磁性粉末に予め潤滑剤を混合させて混合物を作製しておき、その混合物を金型で加圧する内部潤滑成形方法でもよい。前者の場合、潤滑剤を上記内壁に塗布するので、被覆軟磁性粉末との摩擦を低減すると共に、高密度な圧粉成形体を成形することができる。後者の場合、被覆軟磁性粉末の表面に付着した潤滑剤が被覆軟磁性粉末における粒子同士の摩擦を低減するため、被覆軟磁性粒子の絶縁被膜が破れることを抑制することができる。
【0094】
潤滑剤は、ステアリン酸、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどの固体潤滑剤、固体潤滑剤を水などの液媒に分散させた分散液、液状潤滑剤、六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤などが挙げられる。
【0095】
加圧する際には、上記成形金型を加熱してから加圧成形してもよい。その場合、例えば、成形金型温度を50〜200℃にすることが挙げられる。金型を加熱することで高密度な成形体を得ることができる。
【0096】
加圧する圧力は、適宜選択することができる。例えば、リアクトル用コアとなる圧粉成形体を製造するのであれば、その密度dが7.0g/cm3以上となる程度とすることが好ましく、具体的には、約490〜1470MPa、特に、約590〜1079MPa程度とすることが好ましい。
【0097】
この加圧により、例えば、図1(右下)に示す直方体状の素材成形体10を形成できる。この素材成形体10の形状は、加圧成形する際の金型の形状により適宜変更することができるため、直方体状の他に、台形状面を有する柱状体、またはU字状面を有するU字状体など種々の形状が挙げられる。このように素材成形体10が直方体状の場合、素材成形体10の両端面がパンチでの加圧面31pで、それ以外の4つの側面がダイとの摺接面31sである。
【0098】
〔照射工程〕
照射工程では、素材成形体の表面の一部にレーザを照射する。レーザの照射により、素材成形体の表面で複数の軟磁性粒子の構成材料同士が導通した導通部の分断箇所を増加させる。つまり、この照射工程では、主として導通部の溶融・流動により、導通部の分断がなされる。
【0099】
レーザを照射する素材成形体の面は、導通部が形成され易いダイとの摺接面の少なくとも一部とすることが挙げられる。製造された素材成形体10を磁心、例えば、図1(上側)に示すようなリアクトル用コア3として励磁する際、磁束方向に平行となる面(平行面)の少なくとも一部とすることが好ましい。図1は、リアクトル(図2)に具わるリアクトル用コア3の一例であり、コイル(図2)に覆われる内側コア部31と、コイルから露出される露出コア部32とを分解した状態で示している。内側コア部31は、コア片31mとギャップ材31gとを積層して構成される。コア片31mは、素材成形体10にレーザ照射した圧粉成形体1、またはレーザ照射と後述する熱処理とを施した圧粉成形体1で構成することが挙げられる。このように、圧粉成形体1とコイルとを組み合わせて、そのコイルを励磁すれば、コイルの軸方向に沿った磁束が成形体内に形成される。そこで、例えば、図1(右下)に示すように、矢印(I)の方向を磁束方向、即ち、パンチでの加圧面31pが、磁束方向と直交する面(直交面)で、それ以外の4つの摺接面31sが、磁束方向の平行面となるように、圧粉成形体1をコイルと組み合わせる場合、レーザを照射する領域は、その平行面(摺接面31s)となる素材成形体10の表面の少なくとも一部でよい。このように、磁束方向との平行面となる素材成形体10の表面の一部にレーザを照射することで、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を、上記レーザが照射された箇所で遮断することができると考えられる。そのため、渦電流損を低減でき、低損失な圧粉成形体を製造できる。つまり、レーザが照射される領域が、ダイとの摺接面31sでかつ上記平行面となる面の少なくとも一部であれば、効果的に低損失な圧粉成形体を製造できる。
【0100】
一方、矢印(II)の方向を磁束方向、即ち、パンチでの加圧面31pが、磁束方向との平行面である場合、レーザを照射する領域は、磁束方向と直交する摺接面31soの少なくとも一部でよい。そうすれば、摺接面31soの表面に流れる渦電流を遮断できるので、渦電流損をより低減できると考えられる。加えて、磁束方向と平行となる摺接面31spの少なくとも一部にレーザを照射することが好ましい。そうすれば、摺接面31spのレーザを照射した箇所で、磁束方向を軸とする円周方向の渦電流を遮断できる。
【0101】
素材成形体が円柱である場合、磁束方向と直交する面がパンチでの加圧面であれば、磁束方向との平行面は円柱の円筒面となるので、レーザを照射する領域は、円筒面となる素材成形体の表面の少なくとも一部でよい。
【0102】
レーザが照射される領域は、上記摺接面31sにおいて、パンチの加圧方向全長に亘る領域であることが好ましい。特に、上記平行面において、磁束方向全長に亘る領域となる素材成形体の表面であることがより好ましい。例えば、矢印(I)の方向を磁束方向となるように、圧粉成形体1をコイルと組み合わせる場合、レーザを照射する領域は、平行面において、一方の端面側から他方の端面側に亘る領域となる素材成形体10の表面とすることが好ましい。即ち、パンチでの加圧面31pが、磁束方向と直交する面(直交面)で、それ以外の4つの摺接面31sが、磁束方向の平行面となる場合、レーザを照射する領域は、平行面において、加圧方向全長(磁束方向全長)に亘る素材成形体10の表面とすることが好ましい。そうすれば、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を上記全長に亘って遮断できると考えられる。つまり、表面処理される領域が、ダイとの摺接面31sでかつ上記平行面となる面で、磁束方向全長に亘る領域であれば、より一層効果的に低損失な圧粉成形体を製造できる。
【0103】
一方、矢印(II)の方向を磁束方向、即ち、パンチでの加圧面31pが、磁束方向との平行面である場合、レーザを照射する領域は、磁束方向と直交する摺接面31soの一方の端面側から他方の端面側に亘る領域、即ち、摺接面31soの長辺間や短辺間でよい。そうすれば、摺接面31soの表面に流れる渦電流を遮断できると考えられる。加えて、磁束方向と平行となる摺接面31spの磁束方向全長に亘る領域にレーザを照射することが好ましい。そうすれば、磁束方向を軸とする円周方向に流れる渦電流を上記全長に亘って遮断できる。
【0104】
素材成形体が円柱である場合、磁束方向と直交する面がパンチでの加圧面であれば、磁束方向との平行面は円柱の円筒面となるので、レーザを照射する領域は、円筒面となる素材成形体の表面の加圧方向全長(磁束方向全長)に亘る領域であることが好ましい。
【0105】
上記平行面において一方の端面側から他方の端面側に亘る領域にレーザを照射する場合、上記平行面において磁束方向と平行な方向の長さを縦t、磁束方向を軸とした圧粉成形体の周方向の全長をlとするとき、平行面の全面積はt×lで、当該平行面において実際に表面処理が施された領域の幅(磁束方向と直交する方向)を処理幅wとするとき、この領域はt×wと表される。この処理幅wは、被覆軟磁性粉末の平均粒径をdとするとき、d<w≦lを満たすことが好ましい。上記処理幅wを上記範囲とすることで、渦電流損の低減効果を効果的に得ることができる。より好ましくは、上記全長lに対する上記処理幅wの比率w/lは、30%以下、さらには20%以下、10%以下、特に5%以下とすることが挙げられる。
【0106】
レーザの種類は、素材成形体表面の導通部を分断できるレーザであればよい。具体的には、レーザの媒体が固体である固体レーザが挙げられ、例えばYAGレーザ、YVO4レーザ、及びファイバーレーザの中から選択される1種のレーザであることが好ましい。そうすることで、上記導通部を分断することができる。これらレーザの各々には、各レーザの媒体に種々の材料がドープされた公知のレーザも含む。つまり、上記YAGレーザは、その媒体にNd、Erなどをドープしてもよいし、上記YVO4レーザは、その媒体にNdなどをドープしてもよいし、上記ファイバーレーザは、その媒体であるファイバーのコアに希土類元素などがドープされており、例えば、Ybなどをドープすることが挙げられる。
【0107】
レーザの波長は、上記軟磁性粒子(導通部)の波長吸収領域内であることがより好ましい。そうすることで、上記導通部を分断し易くなる上に、当該導通部以外を除去することを抑制することができる。この波長としては、具体的には、532nm〜1064nm程度であることが好ましい。
【0108】
レーザのエネルギー密度U(W/mm2)は、レーザの平均出力をP(W)、レーザの照射面積をS(mm2)とするとき、U=P/Sで表され、このエネルギー密度Uは、37.0W/mm2≦U≦450.0W/mm2を満たすことが好ましい。エネルギー密度Uを37.0W/mm2以上とすることで、導通部の分断箇所を確実に増加できる。一方、エネルギー密度Uを450.0W/mm2以下とすることで、過剰溶融による軟磁性粒子同士の接触を十分に抑制できる。このエネルギー密度Uは、50.0W/mm2以上300.0W/mm2以下とすることがより好ましい。
【0109】
この範囲内において、エネルギー密度Uを高くするほど、(1)形成される酸化膜としてFeO、或いはFe3O4を多く含む酸化膜とすることができ、上記表面部分における酸素の含有量を多くできる、(2)酸化膜の厚い箇所を形成できる。具体的には、上記(1)では、FeOやFe3O4が増加し、さらにエネルギー密度Uが高くなるとFeOよりもFe3O4を多くできる。上記酸化膜を具える箇所の表面部分に含まれる鉄と酸素の合計含有量を100質量%とするとき、エネルギー密度Uを高くすれば、酸素の含有量を9質量%以上とすることができる。上記のエネルギー密度Uの範囲では、酸素の含有量を20質量%程度とすることができる。上記(2)では、酸化膜の厚さが0.1μm以上の箇所を具えることができ、エネルギー密度Uが高くなるにつれて、0.5μm以上、1.0μm以上、3μm以上、更に5μm以上、7μm以上、特に10μm以上と厚さの厚い箇所を形成することができる。上記のエネルギー密度Uの範囲では、酸化膜の厚さが15μm程度の箇所を具えることができる。
【0110】
上述のメカニズムに示すように、レーザの照射により、レーザが照射された圧粉成形体の表面の少なくとも一部に、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する分断領域を形成できる。分断領域が形成されると共に、上記分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面のうち圧粉成形体の表面に位置する表面領域は、上記酸化膜が形成される。エネルギー密度Uが小さいレーザを照射すれば、分断領域が形成されると共に、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面において、上記凝集部が形成される。凝集部における上記酸化膜の厚さは、レーザのエネルギー密度Uが高くなるほど厚くなる。一方、高いエネルギー密度Uでレーザを照射すれば、分断領域が形成されると共に、分断領域に隣接する軟磁性粒子の表面に、上記集結部が形成される。集結部は、レーザのエネルギー密度Uが高くなるほど、上記酸化膜全体の厚さが厚く、かつその中央側の厚さをその外周縁側よりも厚くできる。レーザのエネルギー密度Uの大きさにより、溶融量或いは溶融金属の流動性に差ができ、軟磁性粒子の構成材料が表面張力で表面積が小さくなろうと凝集具合に差が生じるためである。
【0111】
レーザのビーム径に対する照射間隔の比率は、小さい方が好ましい。ビーム径は、圧粉成形体の表面上でのレーザの径を言う。照射間隔は、1パルスのレーザの照射時間にレーザビームが走査方向に移動する距離を言う。レーザのビーム径に対する照射間隔の比率が小さければ、圧粉成形体の表面上にレーザを走査させた際、レーザが照射されない未処理領域を減少することができ、上記導通部を分断し易くなる。具体的には、上記比率は、0.35以下であることが好ましく、特に、0.30以下であることが好ましい。
【0112】
レーザのビーム径に対する走査間隔の比率も、小さい方が好ましい。走査間隔は、レーザが走査するラインを隣接するラインに移動させる際の距離を言う。即ち、レーザのビーム径に対する走査間隔の比率が小さければ、上述と同様、レーザが照射されない領域を低減でき、上記導通部を分断し易くなる。
【0113】
レーザの重ね回数は、複数回であることが好ましい。重ね回数は、同一領域をレーザで処理(走査)する回数を言う。レーザの重ね回数は、多いほど好ましい。そうすれば、上記導通部の分断を確実に行うことができる。具体的には、重ね回数を5回以上とすることが挙げられ、特に10回以上とすることが好ましい。
【0114】
素材成形体の表面にレーザを照射する方法は、その表面の所望の箇所にレーザを照射できる方法であれば、特に問わない。
【0115】
[その他の工程]
(熱処理工程)
上記素材成形体には、素材成形工程で軟磁性粒子に導入された歪や転位などを除去するために加熱する熱処理を施してもよい。
【0116】
熱処理の温度が高いほど、歪の除去を十分に行うことができることから、熱処理温度は、300℃以上、特に400℃以上が好ましく、上限は約800℃程度が好ましい。このような熱処理温度であれば、歪の除去と共に、加圧時に軟磁性粒子に導入される転位などの格子欠陥も除去できる。それにより、圧粉成形体のヒステリシス損を効果的に低減することができる。
【0117】
熱処理を施す時間は、素材成形工程で軟磁性粒子に導入された歪や転位などを十分に除去するように、上記熱処理温度及び素材成形体の体積に合わせて適宜選択すればよい。例えば、上記の温度範囲の場合、10分〜1時間であることが好ましい。
【0118】
この熱処理を施す際の雰囲気は、大気中でも良いが、不活性ガス雰囲気内で施すと特に好ましい。それにより、潤滑剤の燃焼による煤などの素材成形体への付着を抑制することができる。
【0119】
この熱処理工程は、照射工程前における素材成形体に施してもよいし、照射工程後における素材成形体に施してもよい。
【0120】
《作用効果》
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0121】
(1)表面の少なくとも一部に酸化膜を具え、その箇所の表面部分における酸素の含有量が9質量%以上である圧粉成形体を利用することで、低損失なリアクトルが得られる。上記分断領域を具える圧粉成形体をリアクトル用コアとして励磁した際、圧粉成形体の表面の周方向に亘って流れる渦電流を分断若しくは流れ難くできる。そのため渦電流損を低減でき、低損失なリアクトルとすることができる。従って、本発明の圧粉成形体は、リアクトルの構成部材に好適に利用できる。
【0122】
(2)上述した製造方法によれば、導通部にレーザを照射することで、薄膜状体の導通部に対して高いエネルギーの付与、または急激な加熱と冷却(温度変化)を生じさせることができる。このとき、薄膜状体が溶融され、その溶融金属が流動したり、表面張力で凝集したりして、後述する試験例に示すように塊(凝集部)や集結部を形成する。それにより、導通部の途中が分離され、同様の分断が多数の導通部の各所で生じることにより、導通部の分断される箇所が増加すると考えられる。この導通部の分断箇所の増加により、導通部の電気抵抗を増大させる、或いは導通部における導通を遮断できる。その結果、渦電流が流れ難くなる、或いは渦電流を遮断できる。従って、渦電流損の少ない低損失な圧粉成形体を製造することができる。
【0123】
(3)上述の圧粉成形体、または上述の製造方法により製造された圧粉成形体はリアクトル用コアに好適に利用することができる。詳しくは後述するが、その場合、例えば、一対のコイル素子を有して各コイル素子の軸が平行するように横並びされたコイルと、各コイル素子がそれぞれ配置される一対の柱状の内側コア部(ミドルコア部)、及びコイル素子が配置されず、内側コア部に連結されて閉磁路を構成する外側コア部(サイドコア部)を有する磁性コアとを具えるリアクトルにおいて、当該内側コア部に好適に利用することができる。内側コア部を複数の分割コア片を組み合わせた構成とする場合、分割コア片の少なくとも一つ、好ましくは全てを本発明の圧粉成形体により構成することができる。このとき、内側コア部、或いは分割コア片において、上記レーザを照射する領域は、上記コイルを励磁した際、磁束方向と平行となる面の少なくとも一部である。ここでは、平行となる面はダイとの摺接面である。この分割コア片でリアクトルを組み立てた際、上記分割コア片のレーザが照射された面はコイルの内周面に対向される。それにより、コイルを励磁したとき、上記レーザが照射された領域で、内側コア部の周方向に生じる渦電流を遮断して、渦電流損を低減できる。このレーザを、例えば、上記平行面において、内側コア部、或いは各分割コア片の一方の端面側から他方の端面側に亘る領域に照射すれば、リアクトルを組み立てた際、その領域が内側コア部の磁束方向全長に及ぶ。そのため、内側コアの磁束方向全長に亘って上記渦電流を遮断できるため、渦電流損をより一層低減できる。外側コア部は、端面がU字状、あるいは台形状が代表的である。この外側コア部においても本発明の圧粉成形体、または本発明の製造方法により得られた圧粉成形体を用いてもよい。
【0124】
(4)レーザを照射して表面処理する箇所は、素材成形体の表面の一部なので、処理工程及び処理時間を短縮することができ、圧粉成形体の製造工程を簡略化することができる。そのため、圧粉成形体の製造コストを低減することもできる。
【0125】
<実施形態2>
《リアクトル》
上述の圧粉成形体、及び上述の圧粉成形体の製造方法により製造された圧粉成形体は、リアクトルの構成部材として好適に利用できる。例えば、リアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、そのコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを具え、磁性コアの少なくとも一部が圧粉成形体で構成される。その圧粉成形体に本発明圧粉成形体を利用できる。つまり、本発明のリアクトルの特徴とするところは、リアクトルに具わる磁性コアの少なくとも一部に、上述の圧粉成形体を具える点にある。以下、そのリアクトルの一例を、図1、2を参照して説明する。ここでは、リアクトル100に具わる磁性コア3のうち、コイル2の内側に配置される内側コア部31が本発明の圧粉成形体で構成されている場合を例に説明する。内側コア部31を構成するコア片31m以外の構成は、公知のリアクトルの構成を利用することができる。もちろん、磁性コア3のうち、露出コア32を本発明圧粉成形体で構成してもよい。
【0126】
(コイル)
コイル2は、図2に示すように、接合部の無い1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子2a,2bと、両コイル素子2a,2bを連結する連結部2rとを具える。各コイル素子2a,2bは、互いに同一の巻数の中空の筒状体であり、各軸方向が平行するように並列(横並び)され、コイル2の他端側(図2では右側)において巻線2wの一部がU字状に屈曲されて連結部2rが形成されている。この構成により、両コイル素子2a,2bの巻回方向は同一となっている。
【0127】
巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁材料からなる絶縁層(代表的には、ポリアミドイミドなどからなるエナメル層)を具える被覆線を好適に利用できる。巻線2wの導体は、断面円形状の丸線の他、断面矩形状の平角線を好適に利用できる。コイル素子2a,2bは、絶縁層を有する被覆平角線をエッジワイズ巻きして形成されたエッジワイズコイルである。
【0128】
(磁性コア)
磁性コアの説明は、図1を参照して行う。磁性コア3は、各コイル素子2a、2b(図2)に覆われる一対の柱状の内側コア部31と、コイル2(図2)が配置されず、コイル2から露出される一対の露出コア部32とを有する。各内側コア部31はそれぞれ、各コイル素子2a,2bの内周形状に沿った外形を有する柱状体(ここでは、実質的に直方体)であり、各露出コア部32はそれぞれ、一対の台形状面を有する柱状体である。リアクトル用コア3は、平行に配置される内側コア部31を挟むように露出コア部32が配置され、各内側コア部31の端面と露出コア部32の内端面とを接触させて環状に形成される。
【0129】
内側コア部31は、磁性材料からなるコア片31mと、インダクタンスの調整のため、コア片よりも透磁率が低い材料(例えばアルミナなどの非磁性材料)から構成されるギャップ材31gとを交互に積層して構成された積層体である。露出コア部32も磁性材料からなるコア片である。上記コア片同士の一体化やコア片31mとギャップ材31gとの一体化には、例えば、接着剤や粘着テープなどを利用できる。
【0130】
内側コア部31の各コア片31mはいずれも、上述した本発明圧粉成形体により構成されている。コア片31m(内側コア部31)において上記レーザが照射された領域を、コイル2を励磁した際、磁束方向と平行となるように配置することが好ましい。即ち、このコア片31mでリアクトル100を組み立てた際、上記コア片31mのレーザが照射された面はコイル2の内周面に対向される。それにより、コイル2を励磁したとき、上記レーザが照射された領域で、磁束方向を軸として内側コア部31の周方向に生じる渦電流を遮断して、渦電流損を低減できる。本例のように、内側コア部31を構成する全てのコア片31mをレーザが照射されたコア片31m(本発明の圧粉成形体)で構成する場合、内側コア部31の一方の端面側から他方の端面側に亘る領域に、レーザが照射された領域が並ぶように各コア片31mを配置することが好ましい。そうすれば、リアクトルを組み立てた際、レーザが照射された領域が内側コア部31の磁束方向全長に及ぶ。そのため、内側コア部31の磁束方向全長に亘って上記渦電流を遮断できるため、渦電流損をより一層低減できる。
【0131】
(その他の構成部材)
その他、コイル2とリアクトル用コア3との間の絶縁性を高めるために、絶縁性樹脂から構成されるインシュレータ(図示略)を具えたり、コイル2とリアクトル用コア3との組合体の外周を絶縁性樹脂で覆った一体化物としたり、組合体を金属材料などからなるケースに収納したり、ケースに収納した組合体を封止樹脂により覆ったりすることができる。
【0132】
上記の構成によれば、内側コア部31を上述の圧粉成形体で構成し、コイル2を励磁した際、磁束方向と平行となるように配置すると、磁束方向を軸として内側コア部31の周方向に生じる渦電流を遮断して、渦電流損を低減できる。そのため、低損失なリアクトル100とすることができる。
【0133】
<実施形態3>
《コンバータと電力変換装置》
上述のリアクトルは、例えば、車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを具える電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【0134】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両1200は、図3に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを具える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを具える。なお、図3では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを具える形態とすることもできる。
【0135】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0136】
コンバータ1110は、図4に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを具え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、FET,IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上述のリアクトルを具える。低損失なリアクトル100を具えることで、電力変換装置1100やコンバータ1110も全体として低損失化を図ることができる。
【0137】
なお、車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を具える。コンバータ1110は、代表的には、DC−DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC−DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150の中には、DC−DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上述のリアクトルなどと同様の構成を具え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上述のリアクトルなどを利用することもできる。
【0138】
《試験例1》
試験例1として、以下の試料1−1〜1−3の圧粉成形体を作製し、その各試料の磁気特性について後述する試験を行った。
【0139】
[試料1−1]
試料1−1の圧粉成形体は、以下に示す工程a→工程b→工程c→工程dの順に各工程を経て作製される。
工程a:被覆軟磁性粉末を用意する原料準備工程。
工程b:被覆軟磁性粉末を加圧成形して素材成形体を作製する素材成形工程。
工程c:素材成形体を加熱して熱処理成形体を作製する熱処理工程。
工程d:熱処理成形体の表面にレーザを照射する照射工程。
【0140】
(工程a)
圧粉成形体の構成材料として、鉄粉からなる軟磁性粒子の表面にリン酸鉄からなる絶縁被膜を被覆した被覆軟磁性粉末に、ステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤を0.6質量%含有した混合材料を用意した。上記鉄粉は、水アトマイズ法により作製され、純度が99.8%以上であった。この軟磁性粒子の平均粒径が50μmで、そのアスペクト比は1.2であった。この平均粒径は、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径により求めた。絶縁被膜は、軟磁性粒子の表面全体を実質的に覆い、その平均厚さは、20nmであった。
【0141】
(工程b)
工程aで準備した混合材料を所定の形状の金型内に注入し、金型を加熱せず730MPaの圧力をかけて加圧成形して素材成形体を作製した。ここでは、直方体状の素材成形体を複数作製した。
【0142】
(工程c)
工程bで作製した素材成形体を窒素雰囲気下で400℃×30分、熱処理し、複数の熱処理成形体を得た。
【0143】
(工程d)
工程dでは、工程cで得られた複数の直方体状の熱処理成形体を環状に組み合わせて、鉄損の評価用の試験片を作製するにあたり、熱処理成形体の少なくとも一体にレーザを照射する。ここでは、熱処理成形体の表面のうち、後述する磁気特性の測定試験でコイルが配置される熱処理成形体の表面の一部に対してレーザを照射した。その際、試料に生じる磁束の方向と平行となる面(平行面)の磁束方向全長に亘る領域に以下に示す条件で照射した。その結果、磁束方向を軸とした熱処理成形体の周方向の全長lに対するレーザが照射された処理幅wの比率w/lが7%であった。コイルが配置されない熱処理成形体にも、レーザを照射してもよい。このレーザを照射した熱処理成形体が圧粉成形体であり、この圧粉成形体を試料1−1とする。
【0144】
〈レーザの照射条件〉
種類:ファイバーレーザ
波長:1064nm
ビーム径に対する照射間隔の比率:0.15
パルス幅:200ns
ビーム径に対する走査間隔の比率:0.08
重ね回数:10回
エネルギー密度U:61.1W/mm2
【0145】
[試料1−2]
試料1−2の圧粉成形体は、試料1−1とは各工程を施す順番が異なり、上記工程a→工程b→工程d→工程cの順に各工程を経て作製される。工程dにおいてレーザが照射される領域は試料1−1と同様とした。
【0146】
[試料1−3]
試料1−3の圧粉成形体は、試料1−1とは、成形体の表面にレーザを照射しない点が相違する。つまり、試料1−3の圧粉成形体は、上記工程a→工程b→工程cの順に各工程を経て作製される。
【0147】
〔評価1〕
各試料1−1〜1−3の複数の圧粉成形体をそれぞれ環状に組み合わせて試験用磁心を作製した。各試験用磁心にそれぞれ巻線で構成したコイルを配して磁気特性を測定するための測定部材を作製し、以下の磁気特性を評価した。
【0148】
[磁気特性試験]
各測定部材について、AC−BHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数:5kHzにおける試料のヒステリシス損Wh(W)及び渦電流損We(W)を求め、各試料全体の損失W(W)を算出した。
【0149】
以上の試験から得られた特性値は、表1に記載する。
【0150】
【表1】
【0151】
《結果》
試料1−1のように、熱処理後、熱処理成形体の表面の一部にレーザを照射することで、レーザ照射を施していない試料1−3に比べて渦電流損を大きく低減することができた。また、レーザ照射後に熱処理を施した試料1−2も同様に渦電流損を低減できた。
【0152】
以上の試験結果より、レーザの照射は熱処理成形体の表面の一部、特に、リアクトル用コアとして励磁した際、磁束方向との平行面の一部に施すと渦電流損、並びに損失の低減に効果的であることが判明した。
【0153】
レーザ照射前または後のいずれにも熱処理を施さない試料を用意して、その試料に対して上記と同様の試験を施したところ、レーザ照射前または後のいずれかに熱処理を施した上記試料1−1、1−2と同様に渦電流損の低減に効果的であった。
【0154】
《試験例2》
試験例2として、試験例1で作製した試料1−1、1−2のそれぞれと同じ工程順で試料を作製するにあたり、工程dで照射するレーザの照射条件を異ならせて試料2−1、2−2を作製した。これら試料に対して、上記評価1と同様にして磁気特性を評価した。レーザの照射条件を以下に示し、得られた特性値を表2に示す。ここでは試験例1で作製した試料1−3も合わせて示している。
【0155】
〈レーザの照射条件〉
種類:ファイバーレーザ
波長:1064nm
ビーム径に対する照射間隔の比率:0.07
パルス幅:120ns
ビーム径に対する走査間隔の比率:0.05
重ね回数:40回
エネルギー密度U:123.6W/mm2
【0156】
【表2】
【0157】
《結果》
試験例1と同様に、レーザを表面の一部に照射した試料2−1、2−2は、レーザを照射していない試料1−3に比べて渦電流損を低減することができた。
【0158】
《試験例3》
試験例3として、試験例2で作製した試料2−1と同様の試料を作製するにあたり、上記工程dで照射するレーザの照射条件のうちエネルギー密度Uを種々変更し、エネルギー密度U以外の条件は試料2−1と同様にして試料3−1〜3−10を作製した。各試料に対して上記評価1と同様にして磁気特性を評価した。各試料に照射したエネルギー密度U、及び得られた特性値を表3と図5に示す。
【0159】
【表3】
【0160】
《結果》
試料3−1〜3−10は、上記試料1−3(試験例1)に比べて、いずれも渦電流損を低減できた。また、試料3−3〜3−9は、試料3−1、3−2、及び3−10よりも渦電流損を低減でき、中でも、試料3−4〜3−8は、渦電流損を特に低減できた。
【0161】
以上の試験結果より、照射するレーザのエネルギー密度Uを37.0W/mm2以上450.0W/mm2以下とすれば、渦電流損の低減に一層効果的であることが判明した。
【0162】
《試験例4》
試験例4として、試験例2で作製した試料2−1と同様の試料を作製するにあたり、上記工程dで照射するレーザの照射条件のうち、ビーム径に対する照射間隔の比率を種々変更し、それ以外の条件は試料2−1と同様にして試料4−1〜4−10を作製した。各試料に対して、上記評価1と同様にして磁気特性を評価した。各試料に照射したレーザのビーム径に対する照射間隔の比率、及び得られた特性値を表4に示す。
【0163】
【表4】
【0164】
《結果》
試料4−1〜4−10は、上記試料1−3(試験例1)に比べていずれも渦電流損を低減できた。また、試料4−1〜4−7は試料4−8〜4−10よりも渦電流損を低減でき、中でも試料4−1〜4−6は、渦電流損を特に低減できた。
【0165】
以上の結果より、照射するレーザのビーム径に対する照射間隔の比率を小さくすると、渦電流損を低減でき、特に、その比率を0.35以下、更には0.30以下とすることで、渦電流損の低減に一層効果的であることが判明した。
【0166】
《試験例5》
試験例5として、試験例2で作製した試料2−1と同様の試料を作製するにあたり、上記工程dで照射するレーザの照射条件のうち、重ね回数を種々変更し、重ね回数以外の条件は試料2−1と同様にして試料5−1〜5−9を作製した。各試料に対して上記評価1と同様にして磁気特性を評価した。各試料に照射したレーザの重ね回数、及び得られた特性値を表5に示す。
【0167】
【表5】
【0168】
《結果》
試料5−1〜5−8は、試料5−9に比べて渦電流損を低減でき、中でも試料5−1〜5−6は試料5−7、5−8よりも渦電流損を低減できた。特に、試料5−1〜5−5はより一層渦電流損を低減できた。
【0169】
以上の結果より、レーザの重ね回数を多くすると、渦電流損を低減でき、特に5回以上、さらには10回以上とすることで、渦電流損の低減に一層効果的であることが判明した。
【0170】
《試験例6》
試験例6として、試料1−1、3−6に対して、多層膜ミラーを使用する平行光学系のX線回折装置で表面の成分を測定した。この成分測定は、試料1−1と試料3−6のレーザの照射領域における成分を測定した。試料1−3の摺接面における成分もあわせて測定した。測定条件を以下に示し、試料1−1、3−6、1−3の各結果を図6〜8に示す。図中の○はFe3O4、△はFeO、×はα‐Feを示す。
【0171】
〈測定条件〉
使用装置:X線回折装置(PANalytical社製 X´pert)
使用X線:Cu−Kα
励起条件:45kV 40mA
測定法:θ−2θ測定
【0172】
《結果》
試料1−1(図6)と試料3−6(図7)は、試料1−3(図8)に比べて、α‐Feが少なく、FeO、及びFe3O4が多い。試料1−1と試料3−6とを比較すると、照射したレーザのエネルギー密度Uが高い試料3−6の方が、試料1−1よりも、α‐Feが少ない。試料1−1は、Fe3O4よりもFeOが多く検出されたのに対して、試料3−6はFeOよりもFe3O4の方が多く検出された。
【0173】
以上の結果より、レーザを照射することで、α‐Feが減少すると共に、FeO、及びFe3O4が増加する。レーザのエネルギー密度Uを高くすることで、FeOよりもFe3O4が増加することが判明した。加えて、試験例1と3とに示すように、試料1−1及び3−6は試料1−3よりも損失が少ないことから、圧粉成形体の表面にFeO及びFe3O4の少なくとも一方を含む酸化膜を具えることで、損失を低減でき、特に、FeOよりもFe3O4を多く含む方が損失を一層低減できることが判明した。
【0174】
《試験例7》
試験例7として、試験例2で作製した試料2−1と同様の試料を作製するにあたり、上記工程dで照射するレーザの照射条件のうちエネルギー密度Uを種々変更し、エネルギー密度U以外の条件は試料2−1と同様にして試料7−1〜7−4を作製した。また、試験例1で作製した試料1−3と同様の試料7−5を作製した。そして、以下の装置を用いてエネルギー分散型X線分光法(EDX)により各試料の表面における酸素の含有量を測定した。具体的には、試料7−1〜7−4ではレーザを照射した箇所を、試料7−5ではダイとの摺接面の一部及びパンチと接触する圧接面の一部を、それぞれ測定した。酸素の含有量は、各試料の表面から試料内部へ深さ1μm程度までの領域における鉄と酸素の合計含有量を100質量%としたときの割合を示す。施した表面処理、測定箇所、及びその結果をまとめて表6に示す。
【0175】
〈測定条件〉
使用装置:走査型電子顕微鏡(SEM) (ZEISS社製 SUPRA35VP)
エネルギー分散型X線分析装置(EDX装置) (EDAX社製 GENESIS4000)
加速電圧:15kV
測定領域:1.80×0.835mm2
【0176】
【表6】
【0177】
《結果》
試料7−1〜7−4は、試料7−5に比べて損失が小さく、中でも酸素の含有量が9質量%以上の試料7−1〜7−3は損失が特に小さかった。一方、試料7−5の摺接面及び圧接面はいずれも酸素の含有量が6質量%未満であった。
【0178】
試料7−1〜7−4は、レーザの照射により圧粉成形体の表面が酸化されて酸化膜が形成されたため、試料7−5よりも酸素の含有量が多くなった。特に、レーザのエネルギー密度Uが高い方がより酸化されたため、試料7−1〜7−3は、酸素の含有量が多くなったと考えられる。導通部の分断に加えて、酸化膜を形成できた結果、十分に渦電流を遮断でき、損失が小さくなったと考えられる。以上から、表面の酸素の含有量が9質量%以上とすることで、損失をより低減できることが判明した。
【0179】
以下、参考例として、以下の試料7−11〜7−13の圧粉成形体を作製し、試験例7と同様に各試料の表面における酸素の含有量を測定した。
【0180】
[試料7−11]
試料7−11の圧粉成形体は、工程a→工程b→工程cの順に各工程を経た後、工程dにおいてレーザを照射する代わりに、熱処理成形体の表面に以下に示す電解処理を施して作製した。
【0181】
(電解処理)
電解処理は、濃度が20質量%の硝酸ナトリウムが入った液槽に熱処理成形体を浸漬させて、電解処理させる箇所に陽極のPt電極を接触させ、陰極のPt電極を電解液中に浸漬させて、熱処理成形体のその他の箇所に接触させる。その状態で、65Vの電圧を印加して40Aの電流を35sec間流した。電解処理における上記比率w/lは、7%であった。電解処理後に圧粉成形体を水で洗浄した。
【0182】
[試料7−12]
試料7−12の圧粉成形体は、試料7−11と同様、工程a→工程b→工程cの順に各工程を経た後、工程dにおいてレーザを照射する代わりに、熱処理成形体の表面に以下に示す酸処理を施して作製した。
【0183】
(酸処理)
酸処理は、pH1で温度が26℃の濃塩酸が入った液槽に、濃塩酸を攪拌しながら熱処理成形体の表面の一部を20分間浸けた。酸処理における上記比率w/lは、7%であった。酸処理後に圧粉成形体を水で洗浄した。
【0184】
[試料7−13]
試料7−13の圧粉成形体は、工程a→工程b→工程cの順に各工程を経て作製する。ここでは、試験例1の工程aとは用意する被覆軟磁性粉末の種類が異なり、かつ、工程bとは金型に潤滑剤を塗布する外部潤滑成形方法を採用した点が異なる。つまり、上述の外部潤滑成形方法により、十分に潤滑の効果が得られるようにして、金型との摺接面に上記導通部が生成され難いようにした。
【0185】
具体的には、工程aの軟磁性粒子の表面に被覆した絶縁被膜を多層構造とした。まず、軟磁性粒子に化成処理を施し、水和水を含有するリン酸金属塩化合物からなる内側膜(厚さ:20nm以下程度)を形成し、この内側膜を具える粒子と市販の樹脂材料(モメンティブ製シリコーンXC96−B0446(加水分解・縮重合反応によりシリコーン樹脂となるもの))を加熱雰囲気で混合し(80℃〜150℃)、リン酸金属塩化合物からなる内側膜と、シリコーン樹脂からなる外側層との多層構造の絶縁層(合計平均厚さ:500nm)を形成した。この被覆軟磁性粉末を金型内に注入する際、被覆軟磁性粉末と接触する金型の内壁にエチレンビスステアリン酸アミドからなる潤滑剤を塗布し、950MPaの圧力をかけて加圧成形して圧粉成形体を作製した。作製された圧粉成形体における金型との摺接面を表面観察したところ、上記導通部の生成は見られなかった。
【0186】
作製した試料7−11、7−12では各処理を施した箇所に対して、試料7−13では圧接面に対して、それぞれ上述と同様にして酸素量を測定した。施した表面処理、測定箇所、及び酸素量をまとめて表7に示す。
【0187】
【表7】
【0188】
《結果》
上記レーザの代わりに電解処理、酸処理を施した試料7−11、7−12とも表面の酸素量は4質量%程度であった。即ち、電解処理及び酸処理を施しても、圧粉成形体の表面に所定の酸素量を含有する表面部分が形成されないことが判明した。一方、圧粉成形体の原料の軟磁性粒子に被覆する絶縁被膜が分厚く、試料7−1〜7−3に比べて、原料の段階で酸素量の多い粉末から構成される試料7−13における表面の酸素量は8質量%程度であり、9質量%以上にならなかった。つまり、原料の段階で酸素量が多い被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を作製しても、表面の酸素量が9質量%以上とならないことが判明した。
【0189】
《試験例8》
試験例8として、試料1−1のレーザ照射前後、及び試料3−5、3−6、3−8、3−9の表面を顕微鏡により観察した。この表面観察は、各試料の表面を拡大した写真をSEMで撮影して行った。その拡大写真を図9〜14に示す。図9〜13の(A)は試料1−1のレーザ照射前後、試料3−5、3−6、3−8の断面を示し、(B)は同試料の表面を示す。図14は、試料3−9の断面を示す。
【0190】
《結果》
[試料No.1−1]
試料1−1は、図9(A)において、同図の右側に向かって成形体を抜き出したものであり、各破線円における右側の粒子を軟磁性粒子α、その左隣の粒子が軟磁性粒子βとする。図10(A)でも同様とする。レーザ照射前の表面は、各破線円に示すように、各粒子αに形成された薄膜状体が隣接する左側の粒子βにまで到達して導通した状態になっている。特に右側の破線円で囲まれた箇所において、右端の粒子αが薄膜状に延伸されてその左隣の粒子βの表面に被さるように薄膜状体(導通部)が形成されていることが明確に示されている。この隣接する粒子同士の部分的重複により、この薄膜状体には、分断箇所がほとんど見られない(同図(B))。レーザ照射後の表面は、図10(A)において、各破線円に示すように、各粒子に形成された薄膜状体が溶融・流動されて、分断領域を形成している。例えば、右側の破線円における左側の粒子βの表面が分断領域である。分断領域が形成されると共に、粒子αから隣接する粒子βの表面上部に部分的に被さるように突出した塊(凝集部)が形成されている。この凝集部に厚さの厚い酸化膜(濃いグレー部分)が形成されており、この凝集部を具える粒子αの凝集部を除く表面には凝集部よりも薄い酸化膜が形成されている。左側の破線円に示す凝集部の芯は、酸化されずに軟磁性粒子を構成する金属の状態で残っている。そして、同図(B)に示すように、レーザ照射前(図9(B))に比べて薄膜状体の領域が少なく、分断箇所が増加しており、各粒子間が確認できる。
【0191】
[試料No.3−5]
試料3−5は、図11(A)に示すように、試料の表面において、隣接する粒子間に亘って形成されていた薄膜状体(例えば、図9(A)破線円)が、レーザが照射されることで溶融・流動されて各粒子の表面を覆う酸化膜となった。そして、隣接する粒子間の表面側は、互いに非接触状態となっており、隣接する粒子の表面側の間に、クレバス状に分断領域が形成されている。また、図11(B)に示すように、試料1−1よりも薄膜状体の領域が少なく、分断箇所が増加しており、各粒子間が確認できる。
【0192】
[試料No.3−6]
試料3−6は、図12(A)に示すように、試料表面において隣接する粒子の表面側の間に、クレバス状に分断領域が形成されており、各粒子の表面を覆う酸化膜が形成されている。図12(A)において、粒子の表面の濃いグレーが酸化膜である。以下、図13、14も同様である。隣接する粒子間に亘って形成されていた薄膜状体(例えば、図9(A)破線円)が、レーザが照射されることで、図の中央の粒子に示すように、溶融・流動されて中央側が両側に比べて厚い酸化膜で構成される集結部を形成している。特に図の左側の粒子表面に形成された酸化膜の厚さは0.75μm程度と厚くなっている。また、図12(B)に示すように、試料3−5よりも薄膜状体の領域が少なく、分断箇所が増加している。
【0193】
[試料No.3−8]
試料3−8は、隣接する粒子間に亘って形成されていた薄膜状体(例えば、図9(A)破線円)が、レーザが照射されることで溶融・流動されて、図13(A)に示すように、試料表面において、隣接する粒子の表面側の間にクレバス状に分断領域が形成されており、粒子の中央側にその両側よりも厚さの厚い酸化膜で構成される集結部を形成している。特に図の中央右側の粒子表面に形成された酸化膜の厚さは3.0μm程度と厚くなっている。また、図13(B)に示すように、試料3−6よりも薄膜状体の領域が少なく、分断箇所が増加している。
【0194】
[試料No.3−9]
試料3−9は、図14の中央に、山形状の酸化膜(集結部)が形成されており、その厚さが10μm程度である。
【0195】
試料1−1のレーザ照射前は、成形工程の金型との擦れによって、成形体表面の絶縁被膜が損傷すると共に、軟磁性粒子が展延したことにより表面に軟磁性粒子同士が導通した導通部が形成されていると考えられ、試料1−1は、レーザを照射することによって生じる熱が、導通部では拡散し難く高温の状態が維持され易い。その結果、上記導通部が溶融して分断されたと考えられる。試料1−1は、その他の試料に比べて照射したレーザのエネルギー密度Uが小さいため、上記塊同士の間に上記薄膜状体が残存し、その上、塊の外周を覆う酸化膜が形成されたと考えられる。一方、試料3−5は、照射したレーザのエネルギー密度Uを88.1W/mm2と試料1−1よりも高くしたことで、試料3−6は、照射したレーザのエネルギー密度Uを123.6W/mm2と試料3−5よりも高くしたことで、そして、試料3−8は、照射したレーザのエネルギー密度Uを290.8W/mm2と試料3−6よりも高くしたことで、試料1−1で形成された上記塊や、試料1−1で塊同士の間に残存している上記薄膜状体も酸化された。その結果、表面を覆う酸化膜が形成されたと考えられる。特に、高いエネルギー密度が付与されるほど、上記薄膜状体の高温状態が維持され易くなり、上記薄膜状体がさらに溶融される。溶融した薄膜状体の構成材料が表面張力により凝集し、表面積が小さくなろうとする。その結果、中央部の酸化膜の厚さが厚くなったと考えられる。
【0196】
[まとめ]
レーザのエネルギー密度Uが高いほど、導通部が分断され易い。その上、各粒子の表面を覆う酸化膜の領域が大きくなり、かつ酸化膜の厚さが厚い箇所を具えることができることが判明した。
【0197】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明圧粉成形体の製造方法は、各種磁心の作製に好適に利用することができる。また、本発明圧粉成形体は、ハイブリッド自動車などの昇圧回路や、発電・変電設備に用いられるリアクトルの他、トランスやチョークコイルのコアの材料に好適に利用することができる。本発明リアクトルは、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車といった車両に搭載されるDC-DCコンバータや空調機のコンバータといった電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0199】
100 リアクトル
1 圧粉成形体 10 素材成形体
2 コイル 2a、2b コイル素子 2r 連結部 2w 巻線
3 磁性コア(リアクトル用コア)
31 内側コア部 31m コア片 31g ギャップ材 32 露出コア部
31p 加圧面 31s、31so、31sp 摺接面
1100 電力変換装置
1110 コンバータ 1111 スイッチング素子
1112 駆動回路 L リアクトル 1120 インバータ
1150 給電装置用コンバータ 1160 補機電源用コンバータ
1200 車両
1210 メインバッテリ 1220 モータ 1230 サブバッテリ
1240 補機類 1250 車輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える被覆軟磁性粉末を加圧成形してなる圧粉成形体であって、
前記圧粉成形体の表面の少なくとも一部に鉄を含有する酸化膜を具え、
前記酸化膜を具える箇所の表面部分における鉄と酸素の合計含有量を100質量%とするとき、前記酸素の含有量が9質量%以上20質量%以下であることを特徴とする圧粉成形体。
【請求項2】
さらに、前記圧粉成形体の表面に、酸素の含有量が6質量%未満の箇所を具えることを特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体。
【請求項3】
前記酸化膜は、厚さが0.1μm以上の箇所を具えることを特徴とする請求項1または2に記載の圧粉成形体。
【請求項4】
前記圧粉成形体の表面の少なくとも一部に、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する分断領域と、
前記分断領域に隣接する前記軟磁性粒子の表面において、隣接する粒子間に跨らず、中央側がその外周縁側よりも厚みの大きい酸化膜で構成される集結部とを具えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項5】
前記圧粉成形体の表面の少なくとも一部に、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する分断領域と、
前記分断領域に隣接する前記軟磁性粒子の表面において、当該軟磁性粒子の外周縁側に突出し、局所的に厚みの大きい凝集部とを具え、
前記凝集部の少なくとも一部に前記酸化膜を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項6】
前記凝集部における前記酸化膜は、厚さが0.5μm以上の箇所を具えることを特徴とする請求項5に記載の圧粉成形体。
【請求項7】
前記酸化膜が、FeO、α‐Fe2O3、γ‐Fe2O3、及びFe3O4の少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項8】
前記圧粉成形体の密度dが、7.0g/cm3以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項9】
前記軟磁性粒子は、純度が99質量%以上の鉄からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項10】
軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する圧粉成形体の製造方法であって、
前記被覆軟磁性粉末を加圧成形した素材成形体を用意する素材準備工程と、
前記素材成形体の表面の少なくとも一部にレーザを照射する照射工程とを具えることを特徴とする圧粉成形体の製造方法。
【請求項11】
前記照射工程は、前記素材成形体における金型との摺接面の少なくとも一部にレーザを照射することを特徴とする請求項10に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項12】
前記照射工程は、前記圧粉成形体を磁心として励磁した際、磁束方向との平行面の少なくとも一部となる素材成形体の表面にレーザを照射することを特徴とする請求項10または11に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項13】
前記照射工程は、前記平行面において、前記圧粉成形体の磁束方向全長に亘る領域となる素材成形体の表面にレーザを照射することを特徴とする請求項12に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項14】
前記レーザが、YAGレーザ、YVO4レーザ、及びファイバーレーザの中から選択される1種のレーザであることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項15】
前記レーザの波長が、前記軟磁性粒子の波長吸収領域であることを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項16】
前記レーザの平均出力をP(W)、当該レーザの照射面積をS(mm2)とするとき、当該レーザのエネルギー密度U(W/mm2)=P/Sが、37.0≦U≦450.0を満たすことを特徴とする請求項10〜15のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項17】
前記レーザのビーム径に対する照射間隔の比率が、0.35以下であることを特徴とする請求項10〜16のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項18】
前記レーザの重ね回数が、5回以上であることを特徴とする請求項10〜17のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項19】
請求項10〜18のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法により製造されたことを特徴とする圧粉成形体。
【請求項20】
巻線を巻回してなるコイルと、このコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを具えるリアクトルであって、
前記磁性コアのうち少なくとも一部が圧粉成形体からなり、
前記圧粉成形体は、請求項1〜9及び請求項19のいずれか1項に記載の圧粉成形体であることを特徴とするリアクトル。
【請求項21】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、前記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するコンバータであって、
前記リアクトルは、請求項20に記載のリアクトルであることを特徴とするコンバータ。
【請求項22】
入力電圧を変換するコンバータと、前記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、
前記コンバータは、請求項21に記載のコンバータであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項1】
軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える被覆軟磁性粉末を加圧成形してなる圧粉成形体であって、
前記圧粉成形体の表面の少なくとも一部に鉄を含有する酸化膜を具え、
前記酸化膜を具える箇所の表面部分における鉄と酸素の合計含有量を100質量%とするとき、前記酸素の含有量が9質量%以上20質量%以下であることを特徴とする圧粉成形体。
【請求項2】
さらに、前記圧粉成形体の表面に、酸素の含有量が6質量%未満の箇所を具えることを特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体。
【請求項3】
前記酸化膜は、厚さが0.1μm以上の箇所を具えることを特徴とする請求項1または2に記載の圧粉成形体。
【請求項4】
前記圧粉成形体の表面の少なくとも一部に、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する分断領域と、
前記分断領域に隣接する前記軟磁性粒子の表面において、隣接する粒子間に跨らず、中央側がその外周縁側よりも厚みの大きい酸化膜で構成される集結部とを具えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項5】
前記圧粉成形体の表面の少なくとも一部に、隣接する軟磁性粒子同士を電気的に分断する分断領域と、
前記分断領域に隣接する前記軟磁性粒子の表面において、当該軟磁性粒子の外周縁側に突出し、局所的に厚みの大きい凝集部とを具え、
前記凝集部の少なくとも一部に前記酸化膜を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項6】
前記凝集部における前記酸化膜は、厚さが0.5μm以上の箇所を具えることを特徴とする請求項5に記載の圧粉成形体。
【請求項7】
前記酸化膜が、FeO、α‐Fe2O3、γ‐Fe2O3、及びFe3O4の少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項8】
前記圧粉成形体の密度dが、7.0g/cm3以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項9】
前記軟磁性粒子は、純度が99質量%以上の鉄からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
【請求項10】
軟磁性粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性粒子を複数具える被覆軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を製造する圧粉成形体の製造方法であって、
前記被覆軟磁性粉末を加圧成形した素材成形体を用意する素材準備工程と、
前記素材成形体の表面の少なくとも一部にレーザを照射する照射工程とを具えることを特徴とする圧粉成形体の製造方法。
【請求項11】
前記照射工程は、前記素材成形体における金型との摺接面の少なくとも一部にレーザを照射することを特徴とする請求項10に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項12】
前記照射工程は、前記圧粉成形体を磁心として励磁した際、磁束方向との平行面の少なくとも一部となる素材成形体の表面にレーザを照射することを特徴とする請求項10または11に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項13】
前記照射工程は、前記平行面において、前記圧粉成形体の磁束方向全長に亘る領域となる素材成形体の表面にレーザを照射することを特徴とする請求項12に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項14】
前記レーザが、YAGレーザ、YVO4レーザ、及びファイバーレーザの中から選択される1種のレーザであることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項15】
前記レーザの波長が、前記軟磁性粒子の波長吸収領域であることを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項16】
前記レーザの平均出力をP(W)、当該レーザの照射面積をS(mm2)とするとき、当該レーザのエネルギー密度U(W/mm2)=P/Sが、37.0≦U≦450.0を満たすことを特徴とする請求項10〜15のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項17】
前記レーザのビーム径に対する照射間隔の比率が、0.35以下であることを特徴とする請求項10〜16のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項18】
前記レーザの重ね回数が、5回以上であることを特徴とする請求項10〜17のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項19】
請求項10〜18のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法により製造されたことを特徴とする圧粉成形体。
【請求項20】
巻線を巻回してなるコイルと、このコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを具えるリアクトルであって、
前記磁性コアのうち少なくとも一部が圧粉成形体からなり、
前記圧粉成形体は、請求項1〜9及び請求項19のいずれか1項に記載の圧粉成形体であることを特徴とするリアクトル。
【請求項21】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、前記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するコンバータであって、
前記リアクトルは、請求項20に記載のリアクトルであることを特徴とするコンバータ。
【請求項22】
入力電圧を変換するコンバータと、前記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、
前記コンバータは、請求項21に記載のコンバータであることを特徴とする電力変換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−199568(P2012−199568A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−118454(P2012−118454)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【分割の表示】特願2011−281180(P2011−281180)の分割
【原出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【分割の表示】特願2011−281180(P2011−281180)の分割
【原出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】
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