説明

圧縮着火内燃機関の制御方法

【課題】エタノール及び芳香族炭化水素を含む燃料の改質により、着火性の高い燃料が得られ広範囲の要求負荷に対し容易に対処できる圧縮着火内燃機関の制御方法を提供する。
【解決手段】圧縮着火内燃機関1に、エタノール及び芳香族炭化水素を含む第1の燃料2と、第1の燃料2に含まれるエタノールの少なくとも一部をベータ型ゼオライトを触媒としてジエチルエーテルに転換して第1の燃料よりも着火性の高い第2の燃料に改質する改質手段5とを備え、圧縮着火内燃機関1の要求負荷の変化に応じて、第1の燃料2の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させる。要求負荷が高くなるほど、圧縮着火内燃機関1に供給される全燃料中に占める第1の燃料の割合が高くなるようにし、要求負荷が低くなるほど、圧縮着火内燃機関1に供給される全燃料中に占める第2の燃料の割合が高くなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮着火内燃機関の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の所定負荷、所定時間当たりの燃料消費量を低減し、かつ排出物の量の低減を図るために、予混合圧縮着火内燃機関に代表される圧縮着火内燃機関が検討されている。前記圧縮着火内燃機関は、酸素含有気体と圧縮自着火可能な燃料とをシリンダ内に導入して圧縮することにより、該燃料に自着火させるものである。
【0003】
ところが、前記圧縮着火内燃機関は、火花点火方式の内燃機関と異なり着火のタイミングを制御することが難しい。また、前記圧縮着火内燃機関は、着火性の高い燃料を用いたときには該機関の要求負荷が高くなったときにノッキングを起こしやすく、着火性の低い燃料を用いたときには前記要求負荷が低くなったときに失火しやすい。従って、前記圧縮着火内燃機関は、安定に運転することができる運転領域が狭いとの問題がある。
【0004】
前記問題を解決するために、従来、着火性の高い燃料と、着火性の低い燃料との2種類の燃料を備え、両燃料を混合して前記圧縮着火内燃機関に供給する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。前記技術によれば、前記圧縮着火内燃機関の要求負荷に対応して、該圧縮着火内燃機関に対する両燃料の供給量の比を調整することにより、広い範囲の要求負荷に対して安定して運転することができる。
【0005】
ところが、前記技術では、着火性の高い燃料と、着火性の低い燃料との2種類の燃料をそれぞれ別に充填することが必要になるという問題がある。
【0006】
前記問題を解決するために、本発明者らは、圧縮着火内燃機関に、エタノールを含む第1の燃料と、第1の燃料に含まれるエタノールの少なくとも一部をジエチルエーテルに転換して第1の燃料よりも着火性の高い第2の燃料に改質し、該圧縮着火内燃機関の要求負荷の変化に応じて、第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させるという制御方法を提案している(特許文献2参照)。
【0007】
前記圧縮着火内燃機関の燃料として、エタノールは着火性が低く、ジエチルエーテルは着火性が高い。一方、エタノールは、酸を触媒とする脱水縮合反応により、容易にジエチルエーテルに転換される。そこで前記制御方法では、単一の燃料としてエタノールを含む第1の燃料のみを備えていればよく、必要に応じて前記改質手段により第1の燃料に含まれるエタノールの少なくとも一部をジエチルエーテルに転換することにより、第1の燃料よりも着火性が高められた第2の燃料を得ることができる。
【0008】
そして、前記制御方法によれば、前記圧縮着火内燃機関の要求負荷の変化に応じて、該圧縮着火内燃機関に対する第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させることにより、広い範囲の要求負荷に対して安定して運転することができる。
【0009】
前記第1の燃料としては、n−ヘプタン(C716)等の室温で液体である炭化水素、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、脂肪酸エステル等にエタノールを添加したものを用いることができるが、エタノールのみからなるものであってもよい。また、前記改質手段としては、活性アルミナ、ヘテロポリ酸、ゼオライト、シリカアルミナ、硫酸化ジルコニア、イオン交換樹脂等の固体の酸を触媒として、エタノールをジエチルエーテルに転換する手段を用いることができる。
【0010】
しかしながら、前記制御方法では、第1の燃料の組成と前記触媒の種類とによっては、副反応の選択率が著しく高くなるため前記第2の燃料の着火性を十分に高くすることができず、広い範囲の要求負荷に対して十分に対処できない場合がある。
【特許文献1】特開2004−76736号公報
【特許文献2】特開2006−226172号公報
【非特許文献1】W.M.Meier, D.H.Olson, Ch.Baerlocher ed., Atlas of Zeolite Structure Types, 4th Ed., Elsevier(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる不都合を解消して、エタノールを含む単一の燃料を備え、該燃料に含まれるエタノールの少なくとも一部をジエチルエーテルに転換するときに、燃料の組成に関わらず前記転換により十分に着火性の高い燃料を得ることができ、広い範囲の要求負荷に対して容易に対処することができる圧縮着火内燃機関の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
エタノールは、固体の酸等を触媒とする脱水縮合反応により、容易にジエチルエーテルに転換される。前記脱水縮合反応を次式(1)に示す。
【0013】
2COH → COC +HO ・・・(1)
ところが、前記脱水縮合反応では、条件によっては次式(2)に示す副反応が起き、エタノールからエチレンが生成する。
【0014】
OH → C +HO ・・・(2)
本発明者らの検討によれば、エタノールを含む燃料がさらにトルエン等の芳香族炭化水素を含む場合に、触媒によっては式(2)に示す副反応の選択率が著しく高くなることが判明した。エチレンは、ジエチルエーテルに比較して着火性が低いため、エタノールをジエチルエーテルに転換してもエチレンの生成量が大になると、十分に着火性の高い燃料が得られなくなるものと考えられる。
【0015】
本発明者らは、前記知見に基づいて、さらに検討を重ねた結果、前記エタノールをジエチルエーテルに転換する触媒として、特定の固体の酸を用いることにより、エタノールを含む燃料がさらにトルエン等の芳香族炭化水素を含む場合にも、前記副反応によるエチレンの生成を抑制することができることを見出し、本発明に到達した。
【0016】
そこで本発明は、前記目的を達成するために、酸素含有気体と圧縮自着火可能な燃料とをシリンダー内に導入し、圧縮して自着火させる圧縮着火内燃機関の制御方法であって、該圧縮着火内燃機関に、エタノール及び芳香族炭化水素を含む第1の燃料と、第1の燃料に含まれるエタノールの少なくとも一部をベータ型ゼオライトを触媒としてジエチルエーテルに転換して第1の燃料よりも着火性の高い第2の燃料に改質する改質手段とを備え、該圧縮着火内燃機関の要求負荷の変化に応じて、該圧縮着火内燃機関に対する第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させることを特徴とする。
【0017】
本発明では、前記改質手段が第1の燃料に含まれるエタノールをジエチルエーテルに転換する触媒として、ベータ型ゼオライトを備えている。このため、前記第1の燃料が芳香族炭化水素を含んでいる場合にも、前記式(2)で示すエーテルからエチレンが生成する副反応を抑制して、選択的に前記式(1)で示す脱水縮合反応を起こすことができる。
【0018】
従って、本発明では、単一の燃料としてエタノール及び芳香族炭化水素を含む第1の燃料のみを備えていればよく、必要に応じて前記改質手段により第1の燃料に含まれるエタノールの少なくとも一部をジエチルエーテルに転換して、第1の燃料に比較して十分に着火性が高められた第2の燃料を得ることができる。
【0019】
そして、前記圧縮着火内燃機関の要求負荷の変化に応じて、該圧縮着火内燃機関に対する第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させることにより、広い範囲の要求負荷に対して安定して運転することができる。
【0020】
前記圧縮着火内燃機関では、要求負荷が高くなるほどノッキングが起きやすくなる。そこで、本発明では、要求負荷の領域においてノッキングが起きやすい領域ほど、前記圧縮着火内燃機関に供給される全燃料中に占める第1の燃料の割合が高くなるように、該圧縮着火内燃機関に対する第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させることが好ましい。第1の燃料は着火性の低いエタノールを含むので、前記圧縮着火内燃機関に供給される全燃料中に占める第1の燃料の割合を高くすることにより、自着火の時期を遅らせることができ、要求負荷が高くなってもノッキングを防止することができる。
【0021】
また、前記圧縮着火内燃機関では、要求負荷が低くなるほど失火が起きやすくなる。そこで、本発明では、要求負荷の領域において失火が起きやすい領域ほど、前記圧縮着火内燃機関に供給される全燃料中に占める第2の燃料の割合が高くなるように、該圧縮着火内燃機関に対する第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させることが好ましい。第2の燃料は、第1の燃料に含まれるエタノールの少なくとも一部がジエチルエーテルに転換されているので第1の燃料よりも着火性が高くなっている。従って、前記圧縮着火内燃機関に供給される全燃料中に占める第2の燃料の割合を高くすることにより、自着火の時期を早くすることができ、要求負荷が低くなっても失火を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の制御方法を示すブロック図であり、図2は燃料の組成による着火性の相違を示すグラフであり、図3はエタノールのみからなる燃料における触媒の種類によるエタノールの反応率の相違を示すグラフであり、図4はエタノールのみからなる燃料における触媒の種類による反応器出口ガス中のエチレン濃度の相違を示すグラフである。
【0023】
また、図5はトルエンを含むエタノールからなる燃料における触媒の種類によるエタノールの反応率の相違を、各触媒について図3の場合を1.0とする相対値で示すグラフであり、図6はトルエンを含むエタノールからなる燃料における触媒の種類による反応器出口ガス中のエチレン濃度の相違を、各触媒について図4の場合を1.0とする相対値で示すグラフである。
【0024】
本実施形態の制御方法は、図1に示す圧縮着火内燃機関1により実施することができる。圧縮着火内燃機関1は、エタノール及び芳香族炭化水素を含む第1の燃料を収容した燃料タンク2を備え、燃料タンク2は供給導管3、4を介して圧縮着火内燃機関1に接続されている。供給導管3は圧縮着火内燃機関1に接続されており、供給導管4は途中に、エタノールをジエチルエーテルに転換する触媒を収容する触媒装置5が介装されている。触媒装置5は、第1の燃料に含まれるエタノールをジエチルエーテルに転換して第1の燃料よりも着火性の高い第2の燃料に改質する改質手段である。また、供給導管3の燃料タンク2側には流量調整弁6が設けられ、供給導管4の燃料タンク2と触媒装置5との間には流量調整弁7が設けられている。
【0025】
本実施形態の制御方法では、流量調整弁6を開いて、燃料タンク1に収容されている第1の燃料を供給導管3から直接圧縮着火内燃機関1に供給すると共に、圧縮着火内燃機関1の要求負荷に応じて、流量調整弁7を所定の割合で開き、燃料タンク1に収容されている第1の燃料を触媒装置5を介して圧縮着火内燃機関1に供給する。このようにすると、触媒装置5に供給された第1の燃料は、触媒装置5内で触媒に触れることによりエタノールがジエチルエーテルに転換されて、第1の燃料より着火性の高い第2の燃料に改質される。
【0026】
この結果、供給導管3からはエタノールを含み着火性の低い第1の燃料が圧縮着火内燃機関1に供給され、供給導管4からはエタノールがジエチルエーテルに転換されて第1の燃料より着火性が高くなるように改質された第2の燃料が供給される。そこで、流量調整弁6,7の開度を調整して、圧縮着火内燃機関1に対する第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ調整することにより、供給される燃料の着火性を、圧縮着火内燃機関1の要求負荷に応じて調整することができる。
【0027】
具体的には、圧縮着火内燃機関1の要求負荷が高く、ノッキングが起きやすい領域では、要求負荷が高くなるほど、圧縮着火内燃機関1に供給される全燃料中に占める第1の燃料の割合が高くなるように、流量調整弁6,7の開度を調整する。第1の燃料は着火性の低いエタノールを含むので、流量調整弁6,7の開度を前記のように調整することにより、圧縮着火内燃機関1に供給された燃料全体の自着火の時期を遅らせることができ、要求負荷が高くなってもノッキングを防止して圧縮着火内燃機関1を安定して運転することができる。
【0028】
また、圧縮着火内燃機関1の要求負荷が低く、失火が起きやすい領域では、要求負荷が低くなるほど、圧縮着火内燃機関1に供給される全燃料中に占める第2の燃料の割合が高くなるように、流量調整弁6,7の開度を調整する。第2の燃料は、第1の燃料に含まれるエタノールの少なくとも一部がジエチルエーテルに転換されて第1の燃料よりも着火性が高くなっている。従って、流量調整弁6,7の開度を前記のように調整することにより、圧縮着火内燃機関1に供給された燃料全体の自着火の時期を早めることができ、要求負荷が低くなっても失火を防止して圧縮着火内燃機関1を安定して運転することができる。
【0029】
尚、圧縮着火内燃機関1では、要求負荷が十分に高いときには、流量調整弁7を閉じ、流量調整弁6のみを開いて、第1の燃料のみを圧縮着火内燃機関1に供給するようにしてもよい。また、これと反対に、要求負荷が十分に低いときには、流量調整弁6を閉じ、流量調整弁7のみを開いて、触媒装置5で改質された第2の燃料のみを圧縮着火内燃機関1に供給するようにしてもよい。
【0030】
燃料タンク2に収容される第1の燃料は、ベース燃料にエタノール及び芳香族炭化水素を添加したものを用いることができるが、エタノール及び芳香族炭化水素のみからなるものであってもよい。前記ベース燃料としては、n−ヘプタン(C716)等の室温で液体である炭化水素、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、脂肪酸エステル等を挙げることができる。また、前記芳香族炭化水素としては、例えばトルエンを挙げることができる。
【0031】
触媒装置5に収容されているエタノールをジエチルエーテルに転換する触媒は、ベータ型ゼオライトであることが必要である。前記ベータ型ゼオライトは、c軸方向に12員環のジグザグな細孔、a軸及びb軸方向に12員環で直線状の細孔を備え、前記各細孔が互いに交差して三次元細孔を形成している正方晶系のゼオライトである(非特許文献1参照)。
【0032】
前記ベータ型ゼオライトによれば、前記第1の燃料がトルエン等の芳香族炭化水素を含有していても、次式(1)で示される脱水縮合反応により選択的にジエチルエーテルを高収率で生成することができ、次式(2)で示される副反応によるエチレンの生成を抑制することができる。
【0033】
2COH → COC +HO ・・・(1)
OH → C +HO ・・・(2)
ゼオライトには、前記ベータ型ゼオライト以外にも多数の種類があり、例えば、ZSM−5型ゼオライト、モルデナイト等を挙げることができる。しかし、前記ベータ型ゼオライト以外のゼオライトでは、前式(2)で示される副反応によるエチレンの生成を十分に抑制することができない。
【0034】
尚、前記ZSM−5型ゼオライトは、b軸方向に10員環の直線状細孔、a軸方向に10員環でジグザグな細孔を備え、前記各細孔が互いに交差して三次元細孔を形成している斜方晶系のゼオライトである。また、前記モルデナイトは、c軸方向に12員環の直線状細孔、b軸方向に8員環の細孔を備え、前記各細孔が互いに交差して二次元細孔を形成している斜方晶系のゼオライトである(非特許文献1参照)。
【0035】
次に、n−ヘプタンのみからなる燃料と、n−ヘプタンと全量の20重量%のエタノールとからなる燃料と、n−ヘプタンと全量の16重量%のジエチルエーテルとからなる燃料の3種類の燃料について、着火性を比較した。前記各燃料のうち、n−ヘプタンと全量の20重量%のエタノールとからなる燃料は、前記第1の燃料において芳香族炭化水素を含まない場合に相当するものである。また、n−ヘプタンと全量の16重量%のジエチルエーテルとからなる燃料は、前記第2の燃料において芳香族炭化水素を含まない場合に相当するものである。
【0036】
尚、n−ヘプタンと全量の16重量%のジエチルエーテルとからなる燃料は、n−ヘプタンと全量の20重量%のエタノールとからなる燃料中のエタノールが、全て前記(1)式で示される脱水縮合反応によりジエチルエーテルに転換されたものに相当する。
【0037】
着火性の試験は、容積650mlの容器中の空気を500℃に加熱し、2.0MPaに加圧して、該空気中に前記各燃料を噴射し、燃料噴射後に容器内の圧力が0.02MPa上昇するまでの時間を着火遅れ時間として測定した。そして、前記着火遅れ時間を着火性の指標として比較した。結果を図2に示す。
【0038】
図2から、n−ヘプタンのみからなる燃料を基準として、n−ヘプタンと全量の20重量%のエタノールとからなる燃料(第1の燃料に相当)は該基準より着火遅れ時間が長く、着火性が低いことが明らかである。また、n−ヘプタンと全量の16重量%のジエチルエーテルとからなる燃料(第2の燃料に相当)は前記基準よりも着火遅れ時間が短く、着火性が高いことが明らかである。
【0039】
従って、圧縮着火内燃機関1の要求負荷の変化に応じて、圧縮着火内燃機関1に対する前記第1の燃料の供給量と、前記第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させることにより、広い範囲の要求負荷に対して安定して運転することができることが明らかである。
【0040】
次に、エタノールのみからなる燃料について、ジエチルエーテルへの改質試験を行い、触媒の種類によるエタノールの反応率と、反応器出口ガス中のエチレン濃度の違いとを比較した。前記改質試験は、固定床流通式の反応器に2.0gの触媒を充填し、反応圧力0.20MPa、反応器入口温度170℃、エタノールの流量を1時間当たり30g(WHSV=15)の反応条件で行った。前記触媒は、ベータ型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト、モルデナイトの3種のゼオライトとし、いずれもプロトン型として使用した。前記改質試験において、反応器出口では、未反応のエタノールと、反応生成物であるジエチルエーテル、エチレン、水とからなる混合物が得られ、前記以外の生成物は認められなかった。結果は、エタノールの反応率を図3に、反応器出口ガス中のエチレン濃度を図4にそれぞれ示す。
【0041】
図3から、エタノールのみからなる燃料では、エタノールの反応率は、前記3種のゼオライトのいずれにおいても略同等であることが明らかである。尚、前記反応条件におけるエタノールのジエチルエーテルへの平衡転化率は、理論値として91%であり、前記3種のゼオライトによれば、いずれも略平衡転化率まで反応が進行していることが明らかである。
【0042】
また図4から、エチレンの生成量は、多い順に、モルデナイト>ZSM−5型ゼオライト>ベータ型ゼオライトであり、この順に前式(2)で示される副反応の選択性が高いことが明らかである。
【0043】
次に、エタノールと全量の5重量%のトルエンとからなる燃料について、ジエチルエーテルへの改質試験を行い、触媒の種類によるエタノールの反応率と、反応器出口ガス中のエチレン濃度とを比較した。前記燃料は、反応系を単純にするためにベース燃料を除外したものであり、第1の燃料に相当する。前記改質試験は、エタノールのみからなる燃料の場合と全く同一の反応器及び反応条件で行った。前記改質試験において、反応器出口では、未反応のエタノール、トルエンと、反応生成物であるジエチルエーテル、エチレン、水とからなる混合物が得られ、前記以外の生成物は認められなかった。結果は、エタノールの反応率を、各触媒について図3の場合を1.0とする相対値として図5に示す。また、反応器出口ガス中のエチレン濃度を、各触媒について図4の場合を1.0とする相対値として図6に示す。
【0044】
図5から、エタノールの反応率は、エタノールがトルエンを含有する場合でも、前記3種のゼオライトのいずれも、エタノールのみからなる燃料と略同等である。
【0045】
また図6から、エタノールがトルエンを含有する場合には、ZSM−5型ゼオライトで反応器出口ガス中のエチレン濃度がエタノールのみからなる燃料の場合の4.4倍、モルデナイトで1.1倍と、いずれも増大しているのに比較して、ベータ型ゼオライトでは0.6倍と減少していることが明らかである。
【0046】
以上の結果から、エタノール及び芳香族炭化水素を含む第1の燃料では、エタノールをジエチルエーテルに転換する転換触媒としてベータ型ゼオライトを用いることにより、着火性の低いエチレンの生成量を抑制することができ、該第1の燃料の改質により該第1の燃料より着火性が高められた第2の燃料を効率よく得ることができることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の制御方法の一実施形態を示すブロック図。
【図2】燃料の組成による着火性の相違を示すグラフ。
【図3】エタノールのみからなる燃料における触媒の種類によるエタノールの反応率の相違を示すグラフ。
【図4】エタノールのみからなる燃料における触媒の種類による反応器出口ガス中のエチレン濃度の相違を示すグラフ。
【図5】トルエンを含むエタノールからなる燃料における触媒の種類によるエタノールの反応率の相違を、各触媒について図3の場合を1.0とする相対値で示すグラフ。
【図6】トルエンを含むエタノールからなる燃料における触媒の種類による反応器出口ガス中のエチレン濃度の相違を、各触媒について図4の場合を1.0とする相対値で示すグラフ。
【符号の説明】
【0048】
1…圧縮着火内燃機関、 2…第1の燃料、 5…改質手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有気体と圧縮自着火可能な燃料とをシリンダー内に導入し、圧縮して自着火させる圧縮着火内燃機関の制御方法であって、
該圧縮着火内燃機関に、エタノール及び芳香族炭化水素を含む第1の燃料と、第1の燃料に含まれるエタノールの少なくとも一部をベータ型ゼオライトを触媒としてジエチルエーテルに転換して第1の燃料よりも着火性の高い第2の燃料に改質する改質手段とを備え、
該圧縮着火内燃機関の要求負荷の変化に応じて、該圧縮着火内燃機関に対する第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させることを特徴とする圧縮着火内燃機関の制御方法。
【請求項2】
前記圧縮着火内燃機関の要求負荷が高くなるほど、該圧縮着火内燃機関に供給される全燃料中に占める第1の燃料の割合が高くなるように、該圧縮着火内燃機関に対する第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させ、
該圧縮着火内燃機関の要求負荷が低くなるほど、該圧縮着火内燃機関に供給される全燃料中に占める第2の燃料の割合が高くなるように、該圧縮着火内燃機関に対する第1の燃料の供給量と、第2の燃料の供給量とをそれぞれ変化させることを特徴とする請求項1記載の圧縮着火内燃機関の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−185004(P2008−185004A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21032(P2007−21032)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】