説明

圧電アクチュエータの製造方法、液滴噴射装置の製造方法、圧電アクチュエータ、及び、液滴噴射装置

【課題】AD法による成膜工程によって形成される薄膜層に急激に膜厚が変化する部分が存在しても、その部分に生じる応力集中を小さくして、破損を極力防止すること。
【解決手段】成膜ノズル52の振動板30に対する相対移動により圧電材料層31が成膜される領域の縁が、振動板30に直交する方向から見て、振動板30の変形許容部30aよりも外側に位置して拘束部30bと重なるように、成膜ノズル52を移動させる。これにより、成膜領域の境界部分における圧電材料層31に生じる応力集中が小さくなるため、圧電材料層31の破損が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータの製造方法、液滴噴射装置の製造方法、圧電アクチュエータ、及び、液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属材料等からなる基板と、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の強誘電性の圧電セラミックス材料からなる薄膜状の圧電材料層と、この圧電材料層に電界を生じさせるための電極を備えた、圧電アクチュエータが知られている。この圧電アクチュエータは、電界が作用したときの圧電材料層の伸縮を利用して基板を変形させることにより対象を駆動する。
【0003】
その一方で、平坦な基板表面に薄膜を形成する方法の1つとして、微粒子状の薄膜材料とキャリアガスを含むエアロゾルを成膜ノズルから基板に向けて噴射し、その際の衝突エネルギーにより粒子を基板表面に堆積させて成膜する、エアロゾルデポジション法(以下、AD法という)が知られている。そして、特許文献1(特開2004−122341号公報)には、このAD法を用いて、圧電材料層を基板表面に薄膜状に形成する成膜方法が開示されている。この成膜方法によれば、スリットを有する成膜ノズルを基板に対して相対移動させながら、圧電材料の粒子とキャリアガスとを含むエアロゾルをスリットから基板に吹き付けて、圧電材料の粒子を基板上に堆積させることにより、基板に圧電材料層を成膜する。
【特許文献1】特開2004-122341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
AD法により基板に薄膜層を成膜する場合、成膜ノズルを基板に対して所定の一方向(走査方向)に相対移動させながらエアロゾルを噴射させるのが最も一般的であるが、この場合、基板に形成された帯状の薄膜層には、走査方向と直交する方向である幅方向に関して、膜厚の分布が生じやすい(特許文献1の図10参照)。その要因として、まず、スリットから噴射されるエアロゾルの流速分布が均一でないために、粒子が堆積する速度に差が生じてしまうことが挙げられる。また、スリットから所定の角度で噴射されたエアロゾルが、先に基板に形成された膜の一部を削り取ってしまい、結果として、その領域における粒子の堆積が遅れてしまうということも1つの要因となっている。
【0005】
従って、AD法により圧電材料層を成膜すると、成膜された圧電材料層には、成膜ノズルの移動方向と直交する方向に膜厚分布が生じやすく、この膜厚分布により圧電アクチュエータに不具合が生じることがある。
【0006】
本発明の目的は、AD法による成膜工程によって形成される薄膜層に急激に膜厚が変化する部分が存在しても、その部分に生じる応力集中を小さくして、破損を極力防止することが可能な圧電アクチュエータ、及び、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、複数の変形可能部と該変形可能部を区画する拘束部を有する基板と、この基板に配置され、圧電材料層、及び、前記変形可能部と重なるように配置された駆動電極を含む複数の薄膜層とを備えた圧電アクチュエータの製造方法であって、 前記基板を提供するステップと、前記基板上に前記複数の薄膜層を形成するステップとを含み、前記薄膜層を形成するステップが、前記複数の薄膜層のうち少なくとも1つの薄膜層を、前記基板上で互いに隣接して区分された複数の領域上に且つ隣接する前記複数の領域の境界部が前記変形可能部よりも外側に位置するように、前記少なくとも一つの薄膜層を形成する粒子とキャリアガスを含むエアロゾルを成膜ノズルから各領域に、成膜ノズルを相対移動させながら、噴射して形成することを含む圧電アクチュエータの製造方法が提供される。
【0008】
成膜ノズルを基板に対してある方向に相対移動させながらエアロゾルを噴射させて、基板に薄膜層を成膜すると、成膜された薄膜層には、成膜ノズルの移動方向と直交する方向に膜厚の分布が生じやすい。そのため、基板上の互いに隣接する複数の領域に対してそれぞれ成膜ノズルを相対移動させて、これらの領域にそれぞれ薄膜層を成膜する場合、それぞれの成膜領域に膜厚分布が生じていると、成膜領域が隣接する部分(境界部)において、薄膜層に急激な膜厚の変化が生じやすくなる。したがって、例えば薄膜層が圧電材料層である場合、製造段階における分極処理の際や、圧電アクチュエータが対象を駆動する際に、圧電材料層に電界が印加されて変形すると、膜厚が急激に変化する境界部には、特に大きな応力集中が発生しやすくなる。この応力集中は、境界部に亀裂を生じさせ、圧電材料層を破損させる原因となり得ることを発明者は見出した。
【0009】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法によれば、圧電アクチュエータの少なくとも1つの薄膜層の、複数の領域の境界部が、駆動電極と基板の変形可能部とが重なる領域、即ち、駆動電極により圧電材料層に対して電界が直接印加されて基板が大きく変形する領域(活性部)よりも、外側に位置し、この領域と重ならなくなる。そのため、成膜領域の境界部分において薄膜層に急激な膜厚の変化が生じた場合でも、その部分に生じる応力集中は小さくなり、薄膜層の破損が防止されるため、圧電アクチュエータの信頼性が高まる。
【0010】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記成膜ノズルにエアロゾルが噴射されるスリットが形成されてもよく、該スリットが基板に噴射されるエアロゾルの領域が少なくとも一つの圧力室を覆うような大きさを有してもよい。このような大きさのスリットを使うことにより、成膜領域の境界部が、前記活性部の外側となるように成膜することができる。
【0011】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、いずれの変形可能部も区分された複数の領域内に形成され得る。
【0012】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法においては、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記境界部が、前記基板に直交する方向から見て、前記拘束部と重なるように、前記複数の領域のそれぞれに対して、前記成膜ノズルを移動させ得る。この製造方法によれば、成膜ノズルの基板に対する相対移動により前記薄膜層が成膜される領域の境界部が、基板の拘束部と重なっており、変形可能部とは重ならないことから、成膜領域の境界部分において薄膜層に急激な膜厚の変化が生じた場合でも、その部分に生じる応力集中が小さくなる。
【0013】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記基板は、前記変形可能部が所定の方向に複数配列された変形可能部の列を有してもよく、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルを、前記基板に対して前記所定の方向に相対移動させることにより、前記基板に直交する方向から見て前記変形可能部の列と重なる領域全体に一度に成膜してもよい。この製造方法によれば、薄膜層の成膜領域の境界部分が変形可能部と重なる領域には存在せず、その部分における応力集中が小さくなる。尚、この製造方法には、1列の変形可能部と重なる領域に対する薄膜層の成膜を、成膜ノズルを1回だけ移動させて行う方法と、1つの成膜領域に対して成膜ノズルを複数回移動させて、その成膜領域に重ねて粒子を堆積させて行う方法の両方が含まれる。
【0014】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法においては、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルから、圧電材料の粒子とキャリアガスとを含むエアロゾルを前記基板に対して噴射して、前記圧電材料層を成膜し得る。この製造方法によれば、成膜領域の境界部分の圧電材料層に生じる応力集中を小さくして、圧電材料層の破損を防止することができる。
【0015】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法においては、前記複数の薄膜層が絶縁層を有してもよく、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルから、絶縁材料の粒子とキャリアガスとを含むエアロゾルを前記基板に対して噴射して、導電性を有する前記基板と前記駆動電極との間を絶縁する、絶縁層を成膜し得る。この製造方法によれば、成膜領域の境界部分の絶縁層に生じる応力集中を小さくして、絶縁層の破損を防止することができる。
【0016】
本発明の第2の態様に従えば、平面に沿って配列された複数の圧力室、及び、これら複数の圧力室にそれぞれ連通する複数の噴射ノズルを有する流路ユニットと、前記複数の圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に配置され、前記圧力室に対向して変形可能な変形可能部と前記流路ユニットに接合された拘束部を有する基板と、この基板に配置され、圧電材料層、及び、この圧電材料層の一方の面において、少なくとも一部が前記変形可能部と重なるように配置された駆動電極を含む複数の薄膜層とを備えた圧電アクチュエータとを備えた液滴噴射装置の製造方法であって、前記基板上に、前記複数の薄膜層を形成するステップと、前記基板に前記流路ユニットを取り付けるステップとを含み、前記薄膜層を形成するステップが、前記複数の薄膜層のうち少なくとも1つの薄膜層を、前記基板上で互いに隣接して区分された複数の領域上に且つ隣接する前記複数の領域の境界部が前記変形可能部よりも外側に位置するように、前記少なくとも一つの薄膜層を形成する粒子とキャリアガスを含むエアロゾルを成膜ノズルから各領域に、成膜ノズルを相対移動させながら、噴射して形成することを含む液滴噴射装置の製造方法が提供される。
【0017】
この液滴噴射装置の製造方法によれば、圧電アクチュエータの少なくとも1つの薄膜層の、複数の領域の境界部が、駆動電極と基板の変形可能部とが重なる領域、即ち、駆動電極により圧電材料層に対して電界が直接印加されて基板が大きく変形する領域よりも外側に位置することになる。そのため、成膜領域の境界部分において薄膜層に急激な膜厚の変化が生じた場合でも、その部分に生じる応力集中は小さくなり、薄膜層の破損が防止される。
【0018】
本発明の液滴噴射装置の製造方法において、前記成膜ノズルにエアロゾルが噴射されるスリットが形成されてもよく、該スリットが基板に噴射されるエアロゾルの領域が少なくとも一つの圧力室を覆うような大きさを有してもよい。このような大きさのスリットを使うことにより、成膜領域の境界部が、前記活性部の外側となるように成膜することができる。
【0019】
本発明の液滴噴射装置の製造方法において、いずれの変形可能部も区分された複数の領域内に形成され得る。
【0020】
本発明の液滴噴射装置の製造方法においては、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記境界部が、前記基板に直交する方向から見て、前記拘束部と重なるように、前記複数の領域のそれぞれに対して、前記成膜ノズルを移動させ得る。この製造方法によれば、成膜ノズルの基板に対する相対移動により前記薄膜層が成膜される領域の境界部が、基板の拘束部と重なっており、変形可能部とは重ならないことから、成膜領域の境界部分において薄膜層に急激な膜厚の変化が生じた場合でも、その部分に生じる応力集中が小さくなる。
【0021】
本発明の液滴噴射装置の製造方法において、前記基板は、前記変形可能部が所定の方向に複数配列された変形可能部の列を有してもよく、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルを、前記基板に対して前記所定の方向に相対移動させることにより、前記基板に直交する方向から見て前記変形可能部の列と重なる領域全体に一度に成膜してもよい。この製造方法によれば、薄膜層の成膜領域の境界部分が変形可能部と重なる領域には存在せず、その部分における応力集中が小さくなる。尚、この製造方法には、1列の変形可能部と重なる領域に対する薄膜層の成膜を、成膜ノズルを1回だけ移動させて行う方法と、1つの成膜領域に対して成膜ノズルを複数回移動させて、その成膜領域に重ねて粒子を堆積させて行う方法の両方が含まれる。
【0022】
本発明の液滴噴射装置の製造方法においては、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルから、圧電材料の粒子とキャリアガスとを含むエアロゾルを前記基板に対して噴射して、前記圧電材料層を成膜し得る。この製造方法によれば、成膜領域の境界部分の圧電材料層に生じる応力集中を小さくして、圧電材料層の破損を防止することができる。
【0023】
本発明の液滴噴射装置の製造方法においては、前記複数の薄膜層が絶縁層を有してもよく、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルから、絶縁材料の粒子とキャリアガスとを含むエアロゾルを前記基板に対して噴射して、導電性を有する前記基板と前記駆動電極との間を絶縁する、絶縁層を成膜し得る。この製造方法によれば、成膜領域の境界部分の絶縁層に生じる応力集中を小さくして、絶縁層の破損を防止することができる。
【0024】
本発明の第3の態様に従えば、圧電アクチュエータであって、複数の変形可能部と該変形可能部を区画する拘束部を有する基板と、この基板に配置され、圧電材料層、及び、この圧電材料層の一方の面において、少なくとも一部が前記変形可能部と重なるように配置された駆動電極を含む複数の薄膜層とを備え、前記複数の薄膜層のうちの少なくとも1つの薄膜層は、互いに隣接する複数の領域を含み、それらの領域の境界部が、前記変形可能部よりも外側に位置する圧電アクチュエータが提供される。
【0025】
この圧電アクチュエータによれば、少なくとも1つの薄膜層の、成膜ノズルの基板に対する相対移動により成膜される複数の領域の境界部が、駆動電極と基板の変形可能部とが重なる領域、即ち、駆動電極により圧電材料層に対して電界が直接印加されて基板が大きく変形する領域よりも外側に位置することになる。そのため、成膜領域の境界部分において薄膜層に急激な膜厚の変化が生じた場合でも、その部分に生じる応力集中は小さくなり、薄膜層の破損が防止される。
【0026】
本発明の圧電アクチュエータにおいて、少なくとも1つの薄膜層は前記圧電材料層であり得る。
【0027】
本発明の圧電アクチュエータにおいて、前記薄膜層は、前記基板上で互いに隣接して区分された複数の領域上に且つ隣接する前記複数の領域の境界部が前記変形可能部よりも外側に位置するように、前記少なくとも一つの薄膜層を形成する粒子とキャリアガスを含むエアロゾルを成膜ノズルから各領域に、成膜ノズルを相対移動させながら、噴射して形成され得る。
【0028】
本発明の第4の態様に従えば、液滴噴射装置であって、平面に沿って配列された複数の圧力室、及び、これら複数の圧力室にそれぞれ連通する複数の噴射ノズルを有する流路ユニットと、前記複数の圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に配置され、前記圧力室に対向して変形可能な変形可能部と前記流路ユニットに接合された拘束部を有する基板と、この基板に配置され、圧電材料層、及び、この圧電材料層の一方の面において前記変形可能部と重なるように配置された駆動電極を含む複数の薄膜層とを有する圧電アクチュエータを備え、前記圧電アクチュエータの前記複数の薄膜層のうちの少なくとも1つの薄膜層は、互いに隣接する複数の領域を含み、それらの領域の境界部が、前記変形可能部よりも外側に位置する液滴噴射装置が提供される。
【0029】
この液滴噴射装置によれば、圧電アクチュエータの少なくとも1つの薄膜層の、成膜ノズルの基板に対する相対移動により成膜される複数の領域の境界部が、駆動電極と基板の変形可能部とが重なる領域、即ち、駆動電極により圧電材料層に対して電界が直接印加されて基板が大きく変形する領域よりも外側に位置することになる。そのため、成膜領域の境界部分において薄膜層に急激な膜厚の変化が生じた場合でも、その部分に生じる応力集中は小さくなり、薄膜層の破損が防止される。
【0030】
本発明の液滴噴射装置において、少なくとも1つの薄膜層は前記圧電材料層であり得る。
【0031】
本発明の液滴噴射装置において、前記薄膜層は、前記基板上で互いに隣接して区分された複数の領域上に且つ隣接する前記複数の領域の境界部が前記変形可能部よりも外側に位置するように、前記少なくとも一つの薄膜層を形成する粒子とキャリアガスを含むエアロゾルを成膜ノズルから各領域に、成膜ノズルを相対移動させながら、噴射して形成され得る。
【0032】
本発明の液滴噴射装置において、液滴噴射装置は、インクジェットプリンタであり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、一方向に移動しながら記録用紙にインクを噴射して画像等を記録するシリアル型インクジェットヘッドに本発明を適用した一例である。
【0034】
まず、シリアル型インクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタの構成について簡単に説明する。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、図1の左右方向に移動可能なキャリッジ4と、このキャリッジ4に設けられて記録用紙7に対してインクの液滴を噴射するシリアル型のインクジェットヘッド1(液滴噴射装置)と、記録用紙7を図1の前方へ送る搬送ローラ5等を備えている。そして、インクジェットプリンタ100は、キャリッジ4によりインクジェットヘッド1を一体的に左右方向(走査方向)へ移動させながら、その下面に形成された噴射ノズル20(図2〜図5参照)から記録用紙7に対してインクを噴射させることにより、記録用紙7に所望の文字や画像等を記録する。
【0035】
次に、インクジェットヘッド1について図2〜図5を参照して説明する。インクジェットヘッド1は、噴射ノズル20及び圧力室14を含むインク流路が形成された流路ユニット2と、この流路ユニット2の上面に配置されて、圧力室14内のインクに噴射圧力を付与する圧電アクチュエータ3とを備えている。
【0036】
まず、流路ユニット2について説明する。図4、図5に示すように、流路ユニット2はキャビティプレート10、ベースプレート11、マニホールドプレート12、及びノズルプレート13を備えており、これら4枚のプレート10〜13が積層状態で接合されている。このうち、キャビティプレート10、ベースプレート11及びマニホールドプレート12はステンレス鋼製の板であり、これら3枚のプレート10〜12に、後述するマニホールド17や圧力室14等のインク流路をエッチングにより容易に形成することができるようになっている。また、ノズルプレート13は、例えば、ポリイミド等の高分子合成樹脂材料により形成され、マニホールドプレート12の下面に接着される。あるいは、このノズルプレート13も、3枚のプレート10〜12と同様にステンレス鋼等の金属材料で形成されていてもよい。
【0037】
図2〜図5に示すように、4枚のプレート10〜13のうち、最も上方に位置するキャビティプレート10には、平面に沿って配列された複数の圧力室14がプレート10を貫通する孔により形成され、これら複数の圧力室14は上下両側から後述の振動板30及びベースプレート11によりそれぞれ覆われている。また、複数の圧力室14は、紙送り方向(図2の上下方向)に4列に配列されている。さらに、各圧力室14は、平面視で走査方向(図2の左右方向)に長い、略楕円形状に形成されている。なお、本発明において「平面視」とは、振動板(基板)30に直交する方向から見ることを意味する。
【0038】
図3に示すように、ベースプレート11の、平面視で圧力室14の両端部と重なる位置には、それぞれ連通孔15,16が形成されている。この例では、連通孔15,16の半径はそれぞれ約0.05mmである。また、マニホールドプレート12には、平面視で、紙送り方向に配列された圧力室14の連通孔15側の部分と重なるように、紙送り方向(図2の上下方向)に延びる4つのマニホールド17が形成されている。これら4つのマニホールド17は、後述の振動板30に形成されたインク供給口18(図2参照)に連通しており、図示しないインクタンクからインク供給口18を介してマニホールド17へインクが供給される。さらに、マニホールドプレート12の、平面視で複数の圧力室14のマニホールド17と反対側の端部と重なる位置には、それぞれ、複数の連通孔16に連なる複数の連通孔19も形成されている。
【0039】
さらに、ノズルプレート13の、平面視で複数の連通孔19にそれぞれ重なる位置には、複数の噴射ノズル20が形成されている。図2に示すように、複数の噴射ノズル20は、4列に配列された複数の圧力室14の、マニホールド17と反対側の端部とそれぞれ重なっており、4つのマニホールド17と重ならない領域において紙送り方向(図2の上下方向)に均等間隔で配列されて、走査方向に並ぶ4列のノズル列21a,21b,21c,21dを構成している。これら4列のノズル列21a〜21dはそれぞれ同数の噴射ノズル20からなり、それらの配列方向に関する噴射ノズル20の間隔(ピッチP)は全て等しい。また、4列のノズル列21a〜21dは、P/4ずつ紙送り方向下流側(図2の下方)へ順にずれている。従って、4列のノズル列21a〜21dにより、記録用紙7に、紙送り方向にP/4の間隔で並ぶ複数のドットを形成することが可能となっている。
【0040】
尚、図2に示すように、複数の噴射ノズル20、及び、これら複数の噴射ノズル20に対応する複数の圧力室14は、結果的に、紙送り方向(第1配列方向)に配列されるとともに、この紙送り方向に対して角度θをなして交差する方向(第2配列方向)にも配列されて、これら2つの方向に沿ってマトリックス状に配列されている。但し、第1配列方向の噴射ノズル20及び圧力室14の配列数(10個)は、第2配列方向の配列数(4個)よりも多く、また、配置間隔が小さくなっている(配置密度が高くなっている)。つまり、第1配列方向が、記録用紙7に精細なドットの列が形成される方向に対応している。
【0041】
図4に示すように、マニホールド17は連通孔15を介して圧力室14に連通し、さらに、圧力室14は、連通孔16,19を介して噴射ノズル20に連通している。このように、流路ユニット2内には、マニホールド17から圧力室14を経て噴射ノズル20に至る個別インク流路25が複数形成されている。
【0042】
次に、圧電アクチュエータ3について説明する。図2〜図5に示すように、圧電アクチュエータ3は、流路ユニット2の上面に配置された金属製の振動板30(基板)と、この振動板30の上面に複数の圧力室14に跨って連続的に形成された圧電材料層31と、この圧電材料層31の上面に複数の圧力室14にそれぞれ対応して形成された複数の個別電極32(駆動電極)とを有する。尚、圧電材料層31と個別電極32は、共に、数μm〜十数μm程度の厚さの薄膜状の層(薄膜層)である。図3に示すように、各個別電極32の幅(図3の紙送り方向の長さ)は0.16mm程度であればよい。
【0043】
振動板30は、平面視で略矩形状の金属材料からなる導電性を有する板であり、例えば、ステンレス鋼等の鉄系合金、銅系合金、ニッケル系合金、あるいは、チタン系合金などからなる。この振動板30は、キャビティプレート10の上面に複数の圧力室14を覆うように配設されて、このキャビティプレート10に接合されている。そして、振動板30の圧力室14に対向する部分は上下方向に撓み変形可能な変形可能部30aとなっており、一方、振動板30のキャビティプレート10に接合されている部分は変形が拘束された拘束部30bとなっている。また、この振動板30は常にグランド電位に保持されており、複数の個別電極32に対向して個別電極32と振動板30との間の圧電材料層31に厚み方向の電界を作用させる共通電極を兼ねている。
【0044】
振動板30の上面には、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料層31が形成されている。この圧電材料層31は、複数の圧力室14に跨って連続的に形成されている。この圧電材料層31は、非常に細かな粒子とキャリアガスとからなるエアロゾルを基板に対して吹き付けて粒子を堆積させる、エアロゾルデポジション法(AD法)により形成されている。このAD法による圧電材料層31の成膜工程については、後ほど詳しく説明する。
【0045】
圧電材料層31の上面には、圧力室14よりも一回り小さい略楕円形の平面形状を有する複数の個別電極32が形成されている。これら個別電極32は、平面視で対応する圧力室14の中央部に重なる位置にそれぞれ形成されている。また、個別電極32は金、銅、銀、パラジウム、白金、あるいは、チタンなどの導電性材料からなる。さらに、複数の個別電極32の図2の左端部からは、それぞれ複数の接点部35が引き出されている。そして、これら複数の接点部35には、フレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit:FPC)等の可撓性を有する配線部材(図示省略)の接点が接合され、複数の接点部35は、この配線部材を介して複数の個別電極32に対して選択的に駆動電圧を供給するドライバIC(図示省略)と電気的に接続されている。個別電極32と重なる圧電材料層31の領域31bが、後述するように駆動電圧により変形する領域となり、この領域31bを「活性部」という。なお、図3には、この例で使用したインクジェットヘッドの圧力室14の寸法(長さ0.6mm、幅0.25mm)、活性部31b及び個別電極32の寸法(長さ0.5mm、幅0.16mm)の一例を示した。
【0046】
次に、インク噴射時における圧電アクチュエータ3の作用について説明する。複数の個別電極32に対してドライバICから選択的に駆動電圧が印加されると、駆動電圧が印加された圧電材料層31上側の個別電極32とグランド電位に保持されている圧電材料層31下側の共通電極としての振動板30の電位が異なる状態となり、個別電極32と振動板30の間に挟まれた圧電材料層31に厚み方向の電界が生じる。ここで、圧電材料層31の分極方向と電界の方向とが同じ場合には、圧電材料層31はその分極方向である厚み方向に伸びて水平方向に収縮する。そして、この圧電材料層31の収縮変形に伴って振動板30が圧力室14側に凸となるように撓むため、圧力室14内の容積が減少して圧力室14内のインクに圧力が付与され、圧力室14に連通する噴射ノズル20からインクの液滴が噴射される。
【0047】
次に、インクジェットヘッド1の製造方法について説明する。図6にインクジェットヘッド1の製造工程を概略的に示す。まず、図6(a)に示すように、流路ユニット2を構成する4枚のプレート10〜13と圧電アクチュエータ3の振動板30とを、接着や金属拡散接合等により接合する(基板を提供するステップ)。
【0048】
次に、圧電アクチュエータ3を以下の工程により作製する。図6(b)に示すように、振動板30の上面(流路ユニット2との接合面と反対側の面)に、AD法により圧電材料層31を形成する。即ち、圧電材料の超微粒子とキャリアガスとを含むエアロゾルを、振動板30に向けて噴射して高速で衝突させ、振動板30の上面に粒子を緻密に堆積させて薄膜状の圧電材料層31を形成する。その後、図6(c)に示すように、圧電材料層31の上面に、スクリーン印刷、スパッタ法、あるいは、蒸着法等により、複数の個別電極32及び複数の接点部35を形成する。
【0049】
さらに、AD法による圧電材料層31の成膜工程についてさらに詳しく説明する。図7は圧電材料層31の成膜装置50の概略構成図である。この成膜装置50は、成膜チャンバー51と、エアロゾル供給管64を介してエアロゾル発生器60に接続されるとともに成膜チャンバー51内に配置された成膜ノズル52と、成膜チャンバー51内において振動板30を所定方向に移動させるステージ53を備えている。
【0050】
エアロゾル発生器60は、超微粒子状(例えば、粒径1μm以下)の圧電材料Mとキャリアガスとの混合物であるエアロゾルZを発生させる。エアロゾル発生器60は、内部に材料粒子Mを収容可能なエアロゾル室61と、このエアロゾル室61に取り付けられてエアロゾル室61を振動する加振装置62とを備えている。エアロゾル室61には、キャリアガスを導入するためのガスボンベGが導入管63を介して接続されている。尚、キャリアガスとしては、乾燥空気、窒素ガス、アルゴンガス、酸素ガス、ヘリウムガス等が用いられる。成膜チャンバー51内には、成膜ノズル52とステージ53が設置されており、さらに、成膜チャンバー51は排気管54を介して真空ポンプPに接続されている。成膜ノズル52の先端部には、ステージ53上の振動板30に向けて開口する、一方向に長い矩形状のスリット55(図8参照)が設けられている。また、ステージ53は、振動板30をスリット55の幅方向(図7の水平方向)に移動させる。
【0051】
そして、成膜装置50は、真空ポンプにより成膜チャンバー51内の圧力を低下させて、エアロゾル発生器で発生したエアロゾルを成膜ノズル52のスリット55から振動板30の上面に向けて噴射させながら、同時に、ステージ53上の振動板30を成膜ノズル52に対して移動させて、振動板30の所定の領域に圧電材料層31を形成する(薄膜層を形成するステップ)。
【0052】
さらに、圧電材料層31の成膜時における振動板30と成膜ノズル52の相対移動について詳しく説明する。図8(a),8(b)は、成膜時における振動板30と成膜ノズル52の位置関係を示している。尚、前述したように、実際には振動板30がステージ53とともに成膜ノズル52に対して移動するのであるが、以下の説明においては、便宜上、成膜ノズル52が振動板30に対して移動するものとする。
【0053】
図8(a)に示すように、成膜ノズル52は、振動板30の上面のある領域に対して、スリット55の幅方向(スリット55の長手方向と直交する方向:図8の前後方向)に移動しながら、振動板30にエアロゾルを噴射して、この領域に圧電材料層31を形成する。また、この領域以外の別の領域にも圧電材料層31を形成する必要がある場合には、図8(b)に示すように、成膜ノズル52は、その別の領域に対して、同じくスリット55の幅方向に移動しながらエアロゾルを噴射して、この領域に圧電材料層31を形成する。なお、その別の領域の上方に成膜ノズル52が達するまでは噴射を停止し、別の領域の噴射開始位置に達したときに噴射を再開してもよい。図8(c)には、停止している状態の成膜ノズル52から噴射されるエアロゾルによって覆われる基板上の領域(以下、「噴射領域」という)31aが示されている。この例では、噴射領域31aは、矩形であり、約0.4mmの幅を有し、圧電材料層31の走査方向に並ぶ2つの活性部31bを完全に収容する長さを有する。なお、噴射領域31aは、1つの活性部31bまたは、3個以上の活性部31bを覆うような長さになるような成膜ノズル52を用いてもよい。このように、振動板30の上面の複数の領域のそれぞれに対して、成膜ノズル52を相対移動させながらエアロゾルを噴射させることで、振動板30の上面の広い領域にわたって圧電材料層31を形成することが可能になる。
【0054】
尚、振動板30上面の複数の領域にそれぞれ圧電材料層31を形成する場合には、図8(a)、8(b)のように、複数の領域に対する成膜ノズルの移動方向が同じ(図8において、前方から後方)であってもよい。あるいは、複数の領域に対して連続的にエアロゾルを噴射できるように、ある領域に対して前方から後方へ成膜ノズルを移動させ、隣接する次の領域に対しては後方から前方へ成膜ノズルを移動させるというように、成膜ノズルの移動方向を交互に切り替えてもよい。
【0055】
尚、図8に示すように、エアロゾルを噴射する成膜ノズル52を、振動板30に対して一方向に移動させて帯状の圧電材料層31を形成すると、この帯状の圧電材料層31の膜厚は、その長手方向、即ち、成膜ノズル52の移動方向(図8の前後方向)に関してはほぼ均一となり、膜厚分布はほとんど存在しない。一方、帯状の圧電材料層31の幅方向(成膜ノズル52の移動方向と直交する方向:図8の左右方向)に関しては、スリット55から噴射されるエアロゾルの流速分布が均一でない等の理由から、圧電材料層31には膜厚分布が生じやすい。
【0056】
そして、本実施形態の圧電材料層31の成膜工程においては、図9(a)の破線矢印で示すように、成膜ノズル52を、振動板30に対して、圧力室14の配列方向(複数の圧力室14にそれぞれ対応する振動板30の変形可能部30aの配列方向)に移動させて、振動板30の上面に圧電材料層31を形成する。より具体的には、振動板30の、走査方向一方側(図9(a)左側)の2列の圧力室列と重なる領域A1と、走査方向他方側(図9(a)右側)の2列の圧力室列と重なる領域A2の、走査方向に関して互いに隣接する2つの領域A1,A2のそれぞれに対して、成膜ノズル52を圧力室14の配列方向に移動させる。つまり、成膜ノズル52を領域A1に対して圧力室14の配列方向に移動させて、左側2列の圧力室列(変形可能部30aの列)と重なる領域A1の全域に一度に圧電材料層31を形成する。続いて、成膜ノズル52を領域A2に対して圧力室14の配列方向に移動させて、右側2列の圧力室列と重なる領域A2の全域に一度に圧電材料層31を形成する。尚、領域A1,A2に対する圧電材料層31の成膜は、それぞれの成膜領域に対して成膜ノズル52を1回だけ移動させることによって行ってもよいし、1つの成膜領域に対して複数回移動させて重ねて粒子を堆積させることによって行ってもよい。
【0057】
このように、成膜ノズル52が圧力室14の配列方向に移動することによって成膜された圧電材料層31は、図9(b)に示すように、成膜ノズル52の移動方向に平行な方向である紙送り方向に関しては、膜厚がほぼ均一となる。一方、図9(c)に示すように、成膜ノズル52の移動方向と直交する方向であるインクジェットヘッド1の走査方向に関しては、圧電材料層31にはある膜厚分布が生じる。尚、振動板30の2つの領域A1,A2にそれぞれ圧電材料層31を成膜する場合の、成膜ノズル52の移動速度(即ち、ステージ53の移動速度)やスリット55からのエアロゾルの噴射量等の成膜条件が同じであれば、これら2つの領域A1,A2における膜厚分布はほぼ等しくなる。
【0058】
従って、図9(c)に示すように、2つの領域A1,A2の膜厚分布によっては、これらの領域A1,A2の境界部分B(継ぎ目部分)において、圧電材料層31の膜厚が急激に変化することがある。このように、圧電材料層31にその膜厚が急激に変化する部分が存在すると、成膜後の分極処理時や、圧力室14内のインクに対する噴射圧力付与時に、個別電極32に所定の電圧が印加されて圧電材料層31に電界が作用することによって圧電材料層31が変形したときに、その部分に応力集中が生じて、圧電材料層31が破損してしまう虞がある。
【0059】
しかし、図9(a)に示すように、本実施形態においては、圧電材料層31が成膜される領域A1,A2の境界部分B(境界部)が、平面視で圧力室14(変形可能部30a)及び個別電極32よりも外側の、流路ユニット2に接合される振動板30の拘束部30bと重なるように、成膜ノズル52を振動板30に対して紙送り方向に移動させる。つまり、2つの領域A1,A2の境界部分Bは、中央2列の圧力室列の間に位置しており、この境界部分Bは圧力室14(変形可能部30a)と重ならない。
【0060】
そのため、圧電材料層31の膜厚が領域A1,A2の境界部分Bにおいて急激に変化した場合でも、この境界部分Bは、個別電極32により圧電材料層31に対して電界が印加されたときに変形する変形可能部30aと重なっていないことから、境界部分Bの圧電材料層31に生じる応力集中は小さくなる。従って、圧電材料層31の破損が防止され、圧電アクチュエータ3の信頼性が高まる。
【0061】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0062】
<変更形態1>
個別電極32に電圧が印加されて圧電材料層31に厚み方向の電界が作用したときには、圧電材料層31の圧力室14と重なる部分の中でも、個別電極32と重なる部分の変形が最も大きくなる。従って、図10に示すように、成膜ノズル52の相対移動により圧電材料層31がそれぞれ成膜される領域A1,A2の境界部分Bが、平面視で、少なくとも個別電極32よりも外側であればよく、圧力室14(変形可能部30a)とは多少重なっていてもよい。この変更形態1においても、領域A1,A2の境界部分Bに生じる応力集中を低減するという効果が得られる。
【0063】
<変更形態2>
図11、図12に示すように、圧電アクチュエータ3Bの個別電極32Bが、平面視で、圧力室14と重なる領域において、圧力室14の周縁に沿う環状に形成されたものであってもよい。この圧電アクチュエータ3Bは、個別電極32Bに駆動電圧が印加されたときの、圧力室14の周縁部と重なる部分における圧電材料層31の伸縮変形により、振動板30に撓み変形を生じさせて、圧力室14内のインクに圧力を付与する。そして、このような圧電アクチュエータ3Bを製造する場合には、成膜ノズル52の振動板30に対する相対移動により成膜される複数の領域の境界が、圧力室14の外側に位置するように、成膜ノズル52を移動させる。
【0064】
また、個別電極32Bの縁と圧力室14の縁は一致していてもよいが、圧力室14の縁のすぐ内側の領域における圧電材料層31をより大きく変形させて、駆動効率を高めるために、図11、図12に示すように、個別電極32Bが圧力室14の縁からさらに外側の領域まで延びるように形成されていてもよい。そして、この場合には、成膜ノズル52の振動板30に対する相対移動により圧電材料層31が成膜される複数の領域の境界は、少なくとも、個別電極32Bの、圧力室14(変形可能部30a)と重なる領域(即ち、圧力室14の縁)よりも外側に位置していればよく、個別電極32Bの、圧力室14の外側に位置する部分と重なっていてもよい。
【0065】
<変更形態3>
図13(a)に示すように、複数の圧力室14は、紙送り方向(第1配列方向)と、この紙送り方向に対して角度θ傾いた方向(第2配列方向)の、2つの方向に沿ってマトリクス状に配列されている。そこで、成膜ノズル52を、振動板30に対して第2配列方向に相対移動させて、振動板30の、第2配列方向に配列された1列又は複数列の圧力室14(変形可能部30a)と重なる領域に、一度に圧電材料層31を成膜してもよい。尚、この場合には、圧電材料層31には図13(b)に示すような膜厚分布が生じ、成膜領域A3,A4の境界部分において膜厚が急激に変化する場合もあるが、成膜領域A3,A4の境界が圧力室列の間に位置するように成膜ノズル52を移動させることで、その境界部分に生じる応力集中を小さくすることができる。
【0066】
<変更形態4>
前記実施形態では、圧電アクチュエータ3を構成する薄膜層の1つである圧電材料層31をAD法により成膜しているが、圧電材料層31以外の薄膜層をAD法により成膜してもよい。例えば、図14に示すように、個別電極32が振動板30の上面(圧電材料層31の下面)に配置され、圧電材料層31の上面に共通電極34が複数の個別電極に対して共通に対向配置されている構成では、個別電極32に駆動電圧を供給するための配線を振動板30の上面において引き回しやすくなるなどの利点がある。しかし、この構成において、振動板30が導電性を有する金属板である場合には、振動板30と個別電極32の間に、両者を絶縁する絶縁層36を設ける必要がある。この絶縁層36は、圧電材料層31の変形を圧力室14内のインクに確実に伝えるために、振動板30と同様に、ある程度の剛性を有することが必要であり、例えば、アルミナやジルコニア等の絶縁性セラミックス材料で形成される。
【0067】
ここで、アルミナ等のセラミックス材料からなる絶縁層36は、前述した圧電材料層31の成膜工程と同じように、AD法により成膜することが可能である。即ち、スリット55を有する成膜ノズル52を振動板30に対して所定方向に移動させつつ、絶縁層36を形成するセラミックス材料の微粒子とキャリアガスとを含むエアロゾルを、成膜ノズル52のスリット55から振動板30に対して吹き付けて(図8参照)、絶縁層36を成膜する。その際に、前記実施形態と同様に、成膜ノズル52の振動板30に対する相対移動により成膜される複数の領域の境界が、個別電極32の圧力室14(変形可能部30a)と重なる領域よりも外側に位置するように、成膜ノズル52を移動させればよい。
【0068】
尚、この変更形態4において、絶縁層36と圧電材料層31の両方をAD法を用いた前述の成膜工程により成膜してもよいし、圧電材料層31はAD法以外の方法により成膜してもよい。
【0069】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、インクジェットヘッド用の圧電アクチュエータに本発明を適用した一例であるが、本発明の適用可能な形態はこれらに限られるものではない。即ち、基板の変形可能部を変形させることにより対象を駆動するように構成されているものであれば、インクジェットヘッドの分野以外で用いられる圧電アクチュエータに対しても適用可能である。液滴噴射装置は、インクジェットプリンタに限らず、医療、分析など種々の分野で用いられる、液体の液滴を噴射する装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】インクジェットヘッドの平面図である。
【図3】図2の一部拡大図である。
【図4】図3のIV-IV線断面図である。
【図5】図3のV-V線断面図である。
【図6】インクジェットヘッドの製造工程の説明図である。
【図7】成膜装置の概略構成図である。
【図8】(a)は圧電材料層の成膜時の、振動板のある領域における振動板と成膜ノズルの位置関係を示す図であり、(b)は圧電材料層の成膜時の、振動板の別の領域における振動板と成膜ノズルの位置関係を示す図であり、(c)は噴射領域と活性部との関係を示す平面図である。
【図9】(a)はインクジェットヘッドの平面図であり、(b)は走査方向から見たときの圧電アクチュエータの側面図であり、(c)は紙送り方向から見たときの圧電アクチュエータの側面図である。
【図10】変更形態1に係るインクジェットヘッドの平面図である。
【図11】変更形態2に係るインクジェットヘッドの一部拡大図である。
【図12】図11のXII-XII線断面図である。
【図13】(a)は変更形態3に係るインクジェットヘッドの平面図であり、(b)は変更形態3に係る圧電アクチュエータの走査方向から見た側面図である。
【図14】変更形態4のインクジェットヘッドの図4相当の断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 インクジェットヘッド
2 流路ユニット
3,3B 圧電アクチュエータ
14 圧力室
20 噴射ノズル
30a 変形許容部
30b 拘束部
30 振動板
31 圧電材料層
32,32B 個別電極
36 絶縁層
52 成膜ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の変形可能部と該変形可能部を区画する拘束部を有する基板と、
この基板に配置され、圧電材料層、及び、前記変形可能部と重なるように配置された駆動電極を含む複数の薄膜層とを備えた圧電アクチュエータの製造方法であって、
前記基板を提供するステップと、
前記基板上に前記複数の薄膜層を形成するステップとを含み、
前記薄膜層を形成するステップが、前記複数の薄膜層のうち少なくとも1つの薄膜層を、前記基板上で互いに隣接して区分された複数の領域上に且つ隣接する前記複数の領域の境界部が前記変形可能部よりも外側に位置するように、前記少なくとも一つの薄膜層を形成する粒子とキャリアガスを含むエアロゾルを成膜ノズルから各領域に、成膜ノズルを相対移動させながら、噴射して形成することを含む圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
前記成膜ノズルにエアロゾルが噴射されるスリットが形成され、該スリットが基板に噴射されるエアロゾルの領域が少なくとも一つの圧力室を覆うような大きさを有する請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
いずれの変形可能部も区分された複数の領域内に形成される請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記境界部が、前記基板に直交する方向から見て、前記拘束部と重なるように、前記複数の領域のそれぞれに対して、前記成膜ノズルを移動させる請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
前記基板は、前記変形可能部が所定の方向に複数配列された変形可能部の列を有し、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルを、前記基板に対して前記所定の方向に相対移動させることにより、前記基板に直交する方向から見て前記変形可能部の列と重なる領域全体に一度に成膜する請求項4に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルから、圧電材料の粒子とキャリアガスとを含むエアロゾルを前記基板に対して噴射して、前記圧電材料層を成膜する請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
前記複数の薄膜層が絶縁層を有し、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルから、絶縁材料の粒子とキャリアガスとを含むエアロゾルを前記基板に対して噴射して、導電性を有する前記基板と前記駆動電極との間を絶縁する、絶縁層を成膜する請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項8】
平面に沿って配列された複数の圧力室、及び、これら複数の圧力室にそれぞれ連通する複数の噴射ノズルを有する流路ユニットと、前記複数の圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に配置され、前記圧力室に対向して変形可能な変形可能部と前記流路ユニットに接合された拘束部を有する基板と、この基板に配置され、圧電材料層、及び、この圧電材料層の一方の面において、少なくとも一部が前記変形可能部と重なるように配置された駆動電極を含む複数の薄膜層とを備えた圧電アクチュエータとを備えた液滴噴射装置の製造方法であって、
前記基板上に、前記複数の薄膜層を形成するステップと、
前記基板に前記流路ユニットを取り付けるステップとを含み、
前記薄膜層を形成するステップが、前記複数の薄膜層のうち少なくとも1つの薄膜層を、前記基板上で互いに隣接して区分された複数の領域上に且つ隣接する前記複数の領域の境界部が前記変形可能部よりも外側に位置するように、前記少なくとも一つの薄膜層を形成する粒子とキャリアガスを含むエアロゾルを成膜ノズルから各領域に、成膜ノズルを相対移動させながら、噴射して形成することを含む液滴噴射装置の製造方法。
【請求項9】
前記成膜ノズルにエアロゾルが噴射されるスリットが形成され、該スリットが基板に噴射されるエアロゾルの領域が少なくとも一つの圧力室を覆うような大きさを有する請求項8に記載の液滴噴射装置の製造方法。
【請求項10】
いずれの変形可能部も区分された複数の領域内に形成される請求項8に記載の液滴噴射装置の製造方法。
【請求項11】
前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記境界部が、前記基板に直交する方向から見て、前記拘束部と重なるように、前記複数の領域のそれぞれに対して、前記成膜ノズルを移動させる請求項8に記載の液滴噴射装置の製造方法。
【請求項12】
前記基板は、前記変形可能部が所定の方向に複数配列された変形可能部の列を有し、前記薄膜層を形成するステップにおいて、前記成膜ノズルを、前記基板に対して前記所定の方向に相対移動させることにより、前記基板に直交する方向から見て前記変形可能部の列と重なる領域全体に一度に成膜する請求項11に記載の液滴噴射装置の製造方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つの薄膜層が前記圧電材料層である請求項8に記載の液滴噴射装置の製造方法。
【請求項14】
前記少なくとも一つの薄膜層が絶縁層である請求項8に記載の液滴噴射装置の製造方法。
【請求項15】
圧電アクチュエータであって、
複数の変形可能部と該変形可能部を区画する拘束部を有する基板と、
この基板に配置され、圧電材料層、及び、この圧電材料層の一方の面において、少なくとも一部が前記変形可能部と重なるように配置された駆動電極を含む複数の薄膜層とを備え、
前記複数の薄膜層のうちの少なくとも1つの薄膜層は、互いに隣接する複数の領域を含み、それらの領域の境界部が、前記変形可能部よりも外側に位置する圧電アクチュエータ。
【請求項16】
少なくとも1つの薄膜層は前記圧電材料層である請求項15に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項17】
前記薄膜層は、前記基板上で互いに隣接して区分された複数の領域上に且つ隣接する前記複数の領域の境界部が前記変形可能部よりも外側に位置するように、前記少なくとも一つの薄膜層を形成する粒子とキャリアガスを含むエアロゾルを成膜ノズルから各領域に、成膜ノズルを相対移動させながら、噴射して形成されている請求項15に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項18】
液滴噴射装置であって、
平面に沿って配列された複数の圧力室、及び、これら複数の圧力室にそれぞれ連通する複数の噴射ノズルを有する流路ユニットと、
前記複数の圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に配置され、前記圧力室に対向して変形可能な変形可能部と前記流路ユニットに接合された拘束部を有する基板と、この基板に配置され、圧電材料層、及び、この圧電材料層の一方の面において前記変形可能部と重なるように配置された駆動電極を含む複数の薄膜層とを有する圧電アクチュエータを備え、
前記圧電アクチュエータの前記複数の薄膜層のうちの少なくとも1つの薄膜層は、互いに隣接する複数の領域を含み、それらの領域の境界部が、前記変形可能部よりも外側に位置する液滴噴射装置。
【請求項19】
少なくとも1つの薄膜層は前記圧電材料層である請求項18に記載の液滴噴射装置。
【請求項20】
前記薄膜層は、前記基板上で互いに隣接して区分された複数の領域上に且つ隣接する前記複数の領域の境界部が前記変形可能部よりも外側に位置するように、前記少なくとも一つの薄膜層を形成する粒子とキャリアガスを含むエアロゾルを成膜ノズルから各領域に、成膜ノズルを相対移動させながら、噴射して形成されている請求項18に記載の液滴噴射装置。
【請求項21】
インクジェットプリンタである請求項18に記載の液滴噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−288153(P2007−288153A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46633(P2007−46633)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】