説明

圧電アクチュエータの製造方法

【課題】活性部に作用する力の方向を揃え、圧電特性のばらつきを低減する圧電アクチュエータの製造方法を提供する。
【解決手段】共通電極43を挟んでほぼ同じ厚みの2枚のグリーンシート48を積層する(積層工程)。そして、2枚のグリーンシート48及び共通電極43を一体に所定の焼成温度で焼成する(焼成工程)。その後、2枚の圧電シート50の反り方向を確認し、2枚の圧電シート50の積層体の凹となった側の一方の圧電シート50に活性部R1を形成することを決定する(活性部位置決定工程)。そして、圧電層41の活性部R1を形成することとなる部分の表面に複数の個別電極42を形成し、個別電極42と共通電極43の間に電圧を印加して、これらの電極間の圧電層41の部分を厚み方向と平行な方向に分極させて、活性部R1を形成する(活性部形成工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、2枚の圧電層が積層され、この2枚の圧電層間と一方の圧電層の表面に電極がそれぞれ配置され、2つの電極に挟まれる圧電層に2つの電極に印加された電圧によって電界が付与される活性部を有する圧電アクチュエータが知られている。例えば、特許文献1に記載のインクジェットヘッド用の圧電アクチュエータにおいては、圧電セラミックスからなる2枚の圧電層が積層されており、一方の圧電層は分極処理された活性部を有する圧電層であり、他方の圧電層は振動板として機能する非活性の圧電層である。これら2枚の圧電層は同じ厚みのものを使用している。そして、2枚の圧電層の間には内部電極が配置され、活性部を有する圧電層の表面には表面電極が配置されている。この圧電アクチュエータは、同じ厚みの2枚のグリーンシートを内部電極を挟んで積層させて一体に焼成した後、一方の圧電層の表面に表面電極を形成することで製造されている。そして、このように製造された圧電アクチュエータは、インクジェットヘッドの流路部材に接合されている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−97280号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に記載の圧電アクチュエータにおいて2枚の圧電層は、設計上は同じ厚みとされているが、実際には例えば焼成前のグリーンシートに厚みばらつきがあり、それによって圧電層にも若干の厚みばらつきがある。すると、表面電極を形成する前の状態で、厚みにばらつきのある2枚の圧電層に挟まれた電極は、2枚の圧電層の厚み方向に関する中立面からずれることになる。このように、内部電極が中立面からずれた状態の2枚の圧電層を、内部電極とともに一体に焼成すると、電極と圧電層は材料の違いから線膨張係数が異なることに起因して、2枚の圧電層は、高温で焼成した後に室温まで自然冷却するときの温度変化によって反ってしまう。そして、反った2枚の圧電層を流路部材などの基板に接合すると、2枚の圧電層の反りが矯正されることによって、2枚の圧電層の積層体において凹となった側の圧電層には引っ張り力が作用し、凸となった側の圧電層には圧縮力が作用する。
【0005】
このように、内部に電極を挟んだ2枚の圧電層の厚みにばらつきがあると、圧電アクチュエータごとに反り方向が異なってしまい、活性部を形成する圧電層に生じている反り方向が異なってしまう。そして、この活性部を形成する圧電層に生じている反り方向が異なったまま、2枚の圧電層を基板に押圧して接合すると、活性部に作用する力の方向が異なってしまい、複数の圧電アクチュエータを作成した際に、複数の圧電アクチュエータの間で圧電特性がばらついてしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、活性部に作用する力の方向を揃え、圧電特性のばらつきを低減する圧電アクチュエータの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法は、厚み方向に積層された2枚の圧電層と、前記2枚の圧電層間に配置された第1電極と、前記2枚の圧電層のうち一方の前記圧電層の前記第1電極と反対側の面に配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極に印加された電圧によって電界が付与される活性部と、を有し、基板に接合される圧電アクチュエータの製造方法であって、ほぼ同じ厚みの前記2枚の圧電層を、その間に前記第1電極を挟んで積層する積層工程と、積層された前記2枚の圧電層と前記第1電極を一体に焼成する焼成工程と、一体に焼成された前記2枚の圧電層の反り方向を確認し、その反り方向に応じて、前記2枚の圧電層のうちいずれの前記圧電層に前記活性部を形成するかを決定する活性部位置決定工程と、前記活性部位置決定工程において決定した前記圧電層に前記活性部を形成する活性部形成工程と、を備えている。
【0008】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法によると、活性部位置決定工程において、2枚の圧電層の反り方向に応じて活性部を形成する圧電層を決定し、この圧電層に活性部を形成している。これにより、基板との接合時に2枚の圧電層の反りが矯正されることによって活性部に作用する力の方向が常に同じ方向となる。したがって、活性部に作用する力の方向を揃え、圧電特性のばらつきを低減することができる。
【0009】
また、前記活性部位置決定工程において、前記2枚の圧電層のうち厚み方向に関して凹となった側の前記圧電層に前記活性部を形成することを決定することが好ましい。これによると、2枚の圧電層のうち厚み方向に関して凹となった圧電層に活性部を形成することで、2枚の圧電層を基板と接合したときに、活性部には引っ張り力が作用することとなり、焼成後の冷却時に圧電層に作用する圧縮力を緩和することで、圧電特性が低下するのを抑制することができる。
【0010】
さらに、前記活性部形成工程において、前記活性部を形成すると決定した前記圧電層の前記第1電極と反対側の面に前記第2電極を形成し、前記第1電極と前記第2電極に分極電圧を印加して、両電極間の前記圧電層の部分を分極させて、前記活性部を形成することが好ましい。これによると、第2電極を形成する位置を決めることで、活性部の位置を決める場合において、活性部位置決定工程において確認した2枚の圧電層の反り方向に応じて、活性部を形成する圧電層を決定することができる。
【0011】
また、前記焼成工程の前に、前記2枚の圧電層の前記第1電極と反対側の面に導電層をそれぞれ形成する導電層形成工程をさらに備えており、前記活性部形成工程において、2つの前記導電層のうち前記活性部を形成すると決定した前記圧電層の前記第1電極と反対側の前記導電層を前記第2電極とし、前記第1電極と前記第2電極に分極電圧を印加して、両電極間の前記圧電層の部分を分極させて、前記活性部を形成してもよい。これによると、焼成工程前に導電層を両面に形成しておいて、どちらの導電層を第2電極として分極電圧を印加するかを決めることで、活性部の位置を決める場合において、活性部位置決定工程において確認した2枚の圧電層の反り方向に応じて、活性部を形成する圧電層を決定することができる。
【発明の効果】
【0012】
2枚の圧電層の反り方向に応じたいずれかの圧電層に活性部を形成していることにより、基板との接合時に活性部に作用する力の方向が常に同じ方向となる。したがって、活性部に作用する力の方向を揃え、複数の圧電アクチュエータを作成した際に、複数の圧電アクチュエータの間の圧電特性のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係るインクジェットプリンタの概略平面図である。
【図2】図1のインクジェットヘッドの平面図である。
【図3】図2の部分拡大図である。
【図4】図3のIV―IV線断面図である。
【図5】図1のインクジェットヘッドの製造工程を概略的に説明する図である。
【図6】第2実施形態に係る図4相当の図である。
【図7】第2実施形態に係る図5相当の図である。
【図8】変形例における圧電アクチュエータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態は、記録用紙に対してインクを噴射するインクジェットヘッドを有するインクジェットプリンタに本発明を適用した一例である。
【0015】
まず、本実施形態のインクジェットプリンタ1の概略構成について説明する。図1は、第1実施形態に係るインクジェットプリンタの概略平面図である。図1に示すように、プリンタ1は、所定の走査方向(図1の左右方向)に沿って往復移動可能に構成されたキャリッジ2と、このキャリッジ2に搭載されたインクジェットヘッド3と、記録用紙Pを走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構4などを備えている。
【0016】
キャリッジ2は、走査方向(図1の左右方向)に平行に延びる2本のガイド軸17に沿って往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ2には、無端ベルト18が連結されており、キャリッジ駆動モータ19によって無端ベルト18が走行駆動されたときに、キャリッジ2は、無端ベルト18の走行に伴って走査方向に移動するようになっている。なお、プリンタ1には、走査方向に間隔を空けて配列された多数の透光部(スリット)を有するリニアエンコーダ10が設けられている。一方、キャリッジ2には、発光素子と受光素子とを有する透過型のフォトセンサ11が設けられている。そして、プリンタ1は、キャリッジ2の移動中にフォトセンサ11が検出したリニアエンコーダ10の透光部の計数値(検出回数)から、キャリッジ2の走査方向に関する現在位置を認識できるようになっている。
【0017】
このキャリッジ2には、インクジェットヘッド3が搭載されている。インクジェットヘッド3は、その下面(図1の紙面向こう側の面)に複数のノズル30(図2参照)を備えている。このインクジェットヘッド3は、搬送機構4により図1の下方(搬送方向)に搬送される記録用紙Pに対して、図示しないインクカートリッジから供給されたインクを複数のノズル30から噴射するように構成されている。
【0018】
搬送機構4は、インクジェットヘッド3よりも搬送方向上流側に配置された給紙ローラ12と、インクジェットヘッド3よりも搬送方向下流側に配置された排紙ローラ13と、を有している。給紙ローラ12と排紙ローラ13は、それぞれ、給紙モータ14と排紙モータ15により回転駆動される。そして、この搬送機構4は、給紙ローラ12により、記録用紙Pを図1の上方からインクジェットヘッド3へ搬送するとともに、排紙ローラ13により、インクジェットヘッド3によって画像や文字などが記録された記録用紙Pを図1の下方へ排出する。
【0019】
次に、インクジェットヘッド3について説明する。図2は、インクジェットヘッドの平面図である。図3は、図2の部分拡大図である。図4は、図3のIV−IV線断面図である。図2〜図4に示すように、インクジェットヘッド3は、ノズル30や圧力室24を含むインク流路が形成された流路ユニット6と、圧力室24内のインクに圧力を付与する圧電アクチュエータ7と、を有している。
【0020】
まず、流路ユニット6について説明する。図4に示すように、流路ユニット6はキャビティプレート20、ベースプレート21、マニホールドプレート22、及びノズルプレート23を有しており、これら4枚のプレート20〜23が積層状態で接合されている。このうち、キャビティプレート20、ベースプレート21及びマニホールドプレート22は、それぞれ、ステンレス鋼などの金属材料からなる平面視で略矩形状の板である。そのため、これら3枚のプレート20〜22に、後述するマニホールド27や圧力室24などのインク流路をエッチングにより容易に形成することができるようになっている。また、ノズルプレート23は、例えば、ポリイミドなどの高分子合成樹脂材料により形成され、マニホールドプレート22の下面に接着剤で接合される。
【0021】
図2〜図4に示すように、4枚のプレート20〜23のうち、最も上方に位置するキャビティプレート20には、平面に沿って配列された複数の圧力室24がプレート20を貫通する孔により形成されている。また、複数の圧力室24は、搬送方向(図2の上下方向)に千鳥状に2列に配列されている。また、図4に示すように、複数の圧力室24は上下両側から後述の振動板40及びベースプレート21によりそれぞれ覆われている。さらに、各圧力室24は、平面視で走査方向(図2の左右方向)に長い、略楕円形状に形成されている。
【0022】
図3及び図4に示すように、ベースプレート21の、平面視で圧力室24の長手方向両端部と重なる位置には、それぞれ連通孔25、26が形成されている。また、マニホールドプレート22には、平面視で、2列に配列された圧力室24の連通孔25側の部分と重なるように、搬送方向に延びる2つのマニホールド27が形成されている。これら2つのマニホールド27は、後述する振動板40に形成されたインク供給口28(図2参照)に連通しており、図示しないインクタンクからインク供給口28を介してマニホールド27へインクが供給される。さらに、マニホールドプレート22の、平面視で複数の圧力室24のマニホールド27と反対側の端部と重なる位置には、それぞれ、複数の連通孔26に連なる複数の連通孔29も形成されている。
【0023】
さらに、ノズルプレート23の、平面視で複数の連通孔29にそれぞれ重なる位置には、複数のノズル30が形成されている。図2に示すように、複数のノズル30は、搬送方向に沿って2列に配列された複数の圧力室24の、マニホールド27と反対側の端部とそれぞれ重なるように配置されている。
【0024】
そして、図4に示すように、マニホールド27は連通孔25を介して圧力室24に連通し、さらに、圧力室24は、連通孔26,29を介してノズル30に連通している。このように、流路ユニット6内には、マニホールド27から圧力室24を経てノズル30に至る個別インク流路31が複数形成されている。
【0025】
次に、圧電アクチュエータ7について説明する。図2〜図4に示すように、圧電アクチュエータ7は、複数の圧力室24を覆うように流路ユニット6(キャビティプレート20)の上面に配置された振動板40と、この振動板40の上面に、複数の圧力室24と対向するように配置された圧電層41と、振動板40と圧電層41の間に配置された共通電極43と、圧電層41の上面に配置された複数の個別電極42と、を有している。
【0026】
振動板40及び圧電層41は、ともに、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料からなり、矩形状の平面形状を有するほぼ同じ厚みのシート状をしている。そして、振動板40及び圧電層41は、互いに積層された状態で、キャビティプレート20の上面に複数の圧力室24を覆うように複数の圧力室24に跨って連続的に配設された状態で、キャビティプレート20に接合されている。この圧電層41は、少なくとも圧力室24と対向する領域において厚み方向に分極されている。
【0027】
共通電極43は、振動板40と圧電層41の間において、これらのほぼ全域に複数の圧力室24に跨って連続的に配置されている。共通電極43は、圧電アクチュエータ7を駆動するヘッドドライバ(図示省略)のグランド配線に接続されて、常にグランド電位に保持される。
【0028】
複数の個別電極42は、圧電層41の上面において、複数の圧力室24と対向する領域にそれぞれ配置されている。各々の個別電極42は圧力室24よりも一回り小さい略楕円形の平面形状を有し、圧力室24の中央部と対向している。また、複数の個別電極42の端部からは、複数の接点部45が個別電極42の長手方向に沿ってそれぞれ引き出されている。これら複数の接点部45は、図示しないフレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit:FPC)を介してヘッドドライバ(図示省略)と電気的に接続されている。これにより、ヘッドドライバから複数の個別電極42に対して、所定の駆動電位とグランド電位の2種類の電位のうち、何れか一方の電位を選択的に付与することが可能となっている。
【0029】
これら2つの電極のうち、共通電極43には、後述する圧電アクチュエータ7の製造工程の焼成工程における高温によって融解しにくい銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)を用いる。また、個別電極42には、圧電アクチュエータ7の表面に露出し外気と接するため、防錆性の高い金属材料であり、加えて、マイグレーションしにくい金属材料である金(Au)を用いる。
【0030】
そして、個別電極42と共通電極43に挟まれた圧電層41の、少なくとも圧力室24と対向する部分は、厚み方向に分極されて活性部R1となっている。
【0031】
次に、インク噴射時における圧電アクチュエータ7の作用について説明する。ある個別電極42に対して、ヘッドドライバから所定の駆動電位が付与されたときには、この駆動電位が付与された個別電極42とグランド電位に保持されている共通電極43の間の活性部R1に電位差が生じ、この活性部R1に厚み方向の電界が作用する。この電界の方向は活性部R1の分極方向と平行であるから、活性部R1は厚み方向と直交する面方向に収縮する。ここで、圧電層41の下側の振動板40はキャビティプレート20に固定されているため、この振動板40の上面に位置する圧電層41の活性部R1が面方向に収縮するのに伴って、振動板40の圧力室24を覆う部分が圧力室24側に凸となるように変形する(ユニモルフ変形)。このとき、圧力室24内の容積が減少するために圧力室24内のインク圧力が上昇し、この圧力室24に連通するノズル30からインクが噴射される。
【0032】
次に、上述したインクジェットヘッド3の製造工程について説明する。図5は、インクジェットヘッド3の製造工程を概略的に説明する図であり、(a)は積層工程であり、(b)は焼成工程であり、(c)は活性部位置決定工程であり、(d)は活性部形成工程であり、(e)は接合工程であり、(f)はインクジェットヘッド完成時である。本実施形態では、まず、流路ユニット6と圧電アクチュエータ7をそれぞれ別工程で単体にて製造した後、流路ユニット6の上面に圧電アクチュエータ7を接合してインクジェットヘッド3を製造している。そこで、本実施形態においては、流路ユニット6の製造工程について簡単に説明し、圧電アクチュエータ7の製造工程及び流路ユニット6と圧電アクチュエータ7の接合工程について詳細に説明する。
【0033】
(流路ユニット製造工程)
まず、流路ユニット6を構成する4枚のプレート20〜23のうち、金属製のキャビティプレート20、ベースプレート21、及び、マニホールドプレート22の3枚のプレートに、圧力室24やマニホールド27などのインク流路を構成する孔を、エッチングにより形成する。また、合成樹脂製のノズルプレート23に、レーザ加工により複数のノズル30を形成する。そして、4枚のプレート20〜23を互いに積層した状態で接着剤で接合し、流路ユニット6を完成させる。
【0034】
あるいは、3枚の金属製のプレート20〜22を積層した状態で、高温(例えば、900℃程度)に加熱しながらプレート積層方向に押圧することで、3枚のプレート20〜23を金属拡散接合により接合してもよい。この場合には、金属拡散接合によって得られた3枚のプレート20〜22の積層体に、合成樹脂製のノズルプレート23を接着剤で接合する。
【0035】
(圧電アクチュエータ製造工程)
まず、図5(a)に示すように、PZTを主成分とする圧電材料からなる1枚のグリーンシート48の表面に銀とパラジウムの合金からなる共通電極43を印刷により形成し、その上に共通電極43を挟んでほぼ同じ厚みのグリーンシート48を積層する(積層工程)。このとき、2枚のグリーンシート48には製造ばらつきにより厚みに若干のばらつきがある。したがって、2枚のグリーンシート48に挟まれた共通電極43は、厚み方向に関する中立面から薄いグリーンシート48側にずれている。
【0036】
そして、図5(b)に示すように、この2枚のグリーンシート48及び共通電極43を一体に所定の焼成温度で焼成する(焼成工程)。すると、2枚のグリーンシート48は焼成されて2枚の圧電シート50となる。このとき、共通電極43である銀とパラジウムの合金は、圧電シート50であるPZTを主成分とする圧電材料よりも線膨張係数が大きい。したがって、共通電極43が中立面からずれることで、焼成された2枚の圧電シート50は、高温で焼成した後に室温まで自然冷却するときの温度変化によって、2枚の圧電シート50の積層体において共通電極43が位置する側が凹となるように反ってしまう。この反り方向は、2枚の圧電シート50の厚みの大小関係に依存する。2枚の圧電シート50は設計上は同じ厚みであるが、例えば焼成前のグリーンシート48に厚みばらつきがあるなどして、無作為に厚みに差が生じている。
【0037】
そこで、図5(c)に示すように、2枚の圧電シート50の反り方向を目視またはレーザ変位計などで確認し、2枚の圧電シート50が積層された積層体の凹となった側の圧電シート50を圧電層41とし、他方の圧電シート50を振動板40とし、振動板40と圧電層41が積層された積層体の凹となった側に位置する圧電層41に活性部R1を形成することを決定する(活性部位置決定工程)。そして、図5(d)に示すように、圧電層41の活性部R1を形成することとなる部分の表面に金(Au)からなる複数の個別電極42をスクリーン印刷により形成する。その後、個別電極42と共通電極43の間に電圧を印加して、これらの電極間の圧電層41の部分を厚み方向と平行な方向に分極させて、活性部R1を形成(活性部形成工程)し、圧電アクチュエータ7を完成させる。このように、焼成工程の後に個別電極42を形成しているため、焼成工程における焼成温度により融解してしまうおそれもなく、防錆性やマイグレーション防止に適している融点の低い金(Au)を用いることができる。
【0038】
そして、図5(e)に示すように、流路ユニット6のキャビティプレート20と圧電アクチュエータ7の振動板40とを接着剤を介在させて対向させ、圧電層41側から押圧して接合(接合工程)し、図5(f)に示すように、インクジェットヘッド3を完成させる。このとき、活性部R1は、振動板40と圧電層41が積層された積層体の凹となった圧電層41側に形成されているため、反りが矯正されて接合されると引っ張り力が作用する。焼成後の冷却時に圧電材料よりも線膨張係数が大きい共通電極43の影響により、圧電層41には圧縮力が作用する。圧電層41に圧縮力が作用していると、電界を付与したときの変形が拘束されることとなり、みかけ上の圧電特性が低下する。しかし、反りを矯正する際に、引っ張り力を作用させることで、活性部R1に作用している圧縮力を低減することができ、これにより、圧電アクチュエータ7の圧電特性が低下するのを抑制することができる。
【0039】
第1実施形態における圧電アクチュエータ7の製造方法によると、活性部位置決定工程において、2枚の圧電シート50の反り方向に応じて活性部R1を形成する圧電層41を決定している。これにより、流路ユニット6との接合時に振動板40及び圧電層41の反りが矯正されることによって活性部R1に作用する力の方向が常に同じ方向となる。したがって、活性部R1に作用する力の方向を揃え、圧電特性のばらつきを低減することができる。また、複数の圧電アクチュエータ7間での圧電特性のばらつきを低減することができる。
【0040】
<第2実施形態>
次に、本発明の好適な第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態における圧電アクチュエータ7の構成が異なるだけで、それ以外の構成は第1実施形態と同様である。なお、第1実施形態と同様なものについては、同符号で示し説明を省略する。
【0041】
図6に示すように、圧電アクチュエータ107は、複数の圧力室24を覆うように流路ユニット6(キャビティプレート20)の上面に配置された振動板140と、この振動板140の上面のほぼ全域にわたって形成され、複数の圧力室24と対向するように配置された2枚の圧電層141、144と、振動板140と圧電層144の間に配置された複数の導電層146と、2枚の圧電層141、144の間に配置された共通電極143と、圧電層141の上面に配置された複数の個別電極142と、を有している。
【0042】
振動板140は、流路ユニット6を構成する4枚のプレート20〜23と同様の外形であり、3枚のプレート20〜22と同様にステンレス鋼などの金属材料からなる平面視で略矩形状の板である。圧電層141、144は、ともに、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料からなり、矩形状の平面形状を有するほぼ同じ厚みのシート状をしている。圧電層41、143は、複数の圧力室24に跨って連続的に配設されている。圧電層141は、少なくとも圧力室24と対向する領域において厚み方向に分極されている。
【0043】
共通電極143及び複数の個別電極142は、第1実施形態における共通電極43及び複数の個別電極42とそれぞれ同じ形状及び配置となっている。複数の導電層146は、複数の個別電極142と同じ厚み及び形状をしており、複数の個別電極142とそれぞれ対向するように、振動板140と圧電層144の間に配置されている。これら3つの電極は、後述する圧電アクチュエータ107の製造工程の焼成工程における高熱による形状変化の影響を受けにくい銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)を用いる。そして、個別電極142と共通電極143に挟まれた圧電層141の、少なくとも圧力室24と対向する部分は、厚み方向に分極されて活性部R101となっている。
【0044】
次に、上述した圧電アクチュエータ107を有するインクジェットヘッドの製造工程について説明する。図7は、インクジェットヘッド3の製造工程を概略的に説明する図であり、(a)は積層工程及び導電層形成工程であり、(b)は焼成工程であり、(c)は活性部位置決定工程であり、(d)は接合工程であり、(e)はインクジェットヘッド完成時である。本実施形態では、まず、流路ユニット6を単体にて製造した後、流路ユニット6の上面に圧電アクチュエータ7を接合してインクジェットヘッド3を製造している。流路ユニット6の製造工程については、第1実施形態と同様であるため、省略し、圧電アクチュエータ7の製造工程及び流路ユニット6と圧電アクチュエータ7の接合工程について詳細に説明する。第1実施形態では、個別電極42を形成する位置を決めることで、活性部R1の位置を決めていたが、本実施形態では、焼成工程前に導電層146を両面に形成しておいて、どちらの導電層146を個別電極142として分極電圧を印加するかを決めることで、活性部R101の位置を決めている。
【0045】
(圧電アクチュエータ製造工程)
まず、図7(a)に示すように、PZTを主成分とする圧電材料からなる1枚のグリーンシート148の両面に銀とパラジウムの合金からなる共通電極143及び複数の導電層146を印刷により形成し、もう1枚のほぼ同じ厚みのグリーンシート148の表面に複数の導電層146を印刷により形成する。そして、共通電極143を間に挟み、複数の導電層146が外側を向くように、2枚のグリーンシート148を積層する(積層工程及び導電層形成工程)。このとき、第1実施形態と同様に、2枚のグリーンシート148には製造ばらつきにより厚みに若干のばらつきがある。したがって、2枚のグリーンシート148に挟まれた共通電極143は、厚み方向に関する中立面から薄いグリーンシート148側にずれている。
【0046】
そして、図7(b)に示すように、この2枚のグリーンシート148、共通電極143及び複数の導電層146の積層体を一体に所定の焼成温度で焼成する(焼成工程)。すると、2枚のグリーンシート148は焼成されて2枚の圧電シート150となる。このとき、焼成された2枚の圧電シート150は、高温で焼成した後に室温まで自然冷却するときの温度変化によって、中立面を基準とした両側のうち共通電極143が位置する側が凹となるように反ってしまう。
【0047】
そこで、図7(c)に示すように、2枚の圧電シート150の反り方向を目視またはレーザ変位計などで確認し、2枚の圧電シート150が積層された積層体の凹となった側の一方の圧電シート150を圧電層141、他方の圧電シート150を圧電層144とし、圧電層141に活性部R1を形成することを決定する(活性部位置決定工程)。そして、圧電層141に形成された導電層146を個別電極142とし、個別電極142と共通電極143の間に電圧を印加して、これらの電極間の圧電層141の部分を厚み方向と平行な方向に分極させて、活性部R101を形成する(活性部形成工程)。
【0048】
そして、図7(d)に示すように、圧電層144と振動板140との間に接着剤を介在させて対向させ、圧電層141側から押圧して接着接合(接合工程)し、圧電アクチュエータ107を完成させる。このとき、活性部R101は、圧電層141、144が積層された積層体の凹となった圧電層141側に形成されているため、反りが矯正されて接合されると引っ張り力が作用する。これにより、焼成後の冷却によって圧電層に作用している圧縮力を緩和し、圧電アクチュエータ107の圧電特性が低下するのを抑制することができる。
【0049】
また、圧電層144を振動板140に向かって押圧させて接着接合する際に、圧電層144が振動板140に接触する前に活性部R101と厚み方向に関して重なる位置にある導電層146が振動板140に接触する。そのため、圧電層144と振動板140が接着される領域に比べて、導電層146と振動板140が接着される領域は、押圧力が大きく、余剰な接着剤を厚み方向に関して活性部R101と重なる領域から押し出し、活性部R101と重なる領域の接着剤が厚くなるのを抑制することができる。
【0050】
その後、流路ユニット6のキャビティプレート20と圧電アクチュエータ7の振動板140とを対向させて接合し、インクジェットヘッド3を完成させる。
【0051】
第2実施形態における圧電アクチュエータ107の製造方法によると、活性部位置決定工程において、2枚の圧電シート150の反り方向に応じて活性部R101を形成する圧電層141を決定している。これにより、振動板140との接合時に圧電層141の反りが矯正されることによって活性部R101に作用する力の方向が同じ方向となる。したがって、活性部R101に作用する力の方向を揃え、複数の圧電アクチュエータ107間での圧電特性のばらつきを低減することができる。
【0052】
また、2枚の圧電シート150の反り方向に応じて、両面の複数の導電層146のうち、条件を満たす圧電シート150に形成された導電層146を個別電極142にすることができる。
【0053】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0054】
上述した実施形態においては、焼成工程において電極を挟んで積層された2枚のグリーンシートを焼成して2枚の圧電層を形成していたが、当該2枚の圧電層を含み、その両側に同じ枚数のほぼ同じ厚みのグリーンシートをそれぞれ積層させて焼成して4枚以上の偶数枚の圧電層を形成してもよい。例えば、図8(a)に示すように、同じ厚みの4枚の圧電層201〜204が積層されており、2枚の圧電層201、202間、及び、2枚の圧電層203、204間に同じ形状の電極211、213が配置され、2枚の圧電層202、203間に共通電極212が配置され、電極211、212に挟まれた圧電層202の部分が活性部R201となった圧電アクチュエータ200であってもよい。また、図8(b)に示すように、同じ厚みの4枚の圧電層301〜304が積層されており、2枚の圧電層301、302間、及び、2枚の圧電層303、304間に共通電極312、314がそれぞれ配置され、2枚の圧電層302、303間に個別電極313、圧電層301の表面に個別電極313と同じ形状の個別電極311が配置され、電極311〜314に挟まれた圧電層301〜303の部分が活性部R301となった圧電アクチュエータ300であってもよい。
【0055】
また、上述した実施形態においては、2枚の圧電層の積層体の凹となった側に活性部を形成していたが、凸となった側に形成してもよく、反り方向に応じて活性部を形成する圧電層を決定すればよい。
【0056】
さらに、上述した実施形態においては、圧電層の共通電極と厚み方向に関して重なる位置に個別電極が配置されており、個別電極と共通電極に挟まれた圧電層の部分に活性部が形成されていたが、個別電極は厚み方向に関して共通電極と重ならない位置に配置されてもよい。このとき、活性部は個別電極と共通電極を結ぶ部分に形成されることになる。
【0057】
以上、説明した実施形態及びその変更形態では、本発明を、記録用紙にインクを噴射して画像などを記録するインクジェットヘッド用の圧電アクチュエータの製造方法に適用したが、本発明の適用対象は、このようなインクジェットヘッド用の圧電アクチュエータに限られず、様々な用途に使用される圧電アクチュエータの製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 インクジェットプリンタ
3 インクジェットヘッド
6 流路ユニット
7 圧電アクチュエータ
40、140 振動板
41、141、144 圧電層
42、142 個別電極
43、143 共通電極
R1、R101 活性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に積層された2枚の圧電層と、前記2枚の圧電層間に配置された第1電極と、前記2枚の圧電層のうち一方の前記圧電層の前記第1電極と反対側の面に配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極に印加された電圧によって電界が付与される活性部と、を有し、基板に接合される圧電アクチュエータの製造方法であって、
ほぼ同じ厚みの前記2枚の圧電層を、その間に前記第1電極を挟んで積層する積層工程と、
積層された前記2枚の圧電層と前記第1電極を一体に焼成する焼成工程と、
一体に焼成された前記2枚の圧電層の反り方向を確認し、その反り方向に応じて、前記2枚の圧電層のうちいずれの前記圧電層に前記活性部を形成するかを決定する活性部位置決定工程と、
前記活性部位置決定工程において決定した前記圧電層に前記活性部を形成する活性部形成工程と、を備えていることを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
前記活性部位置決定工程において、前記2枚の圧電層のうち厚み方向に関して凹となった側の前記圧電層に前記活性部を形成することを決定することを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
前記活性部形成工程において、前記活性部を形成すると決定した前記圧電層の前記第1電極と反対側の面に前記第2電極を形成し、前記第1電極と前記第2電極に分極電圧を印加して、両電極間の前記圧電層の部分を分極させて、前記活性部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程の前に、前記2枚の圧電層の前記第1電極と反対側の面に導電層をそれぞれ形成する導電層形成工程をさらに備えており、
前記活性部形成工程において、2つの前記導電層のうち前記活性部を形成すると決定した前記圧電層の前記第1電極と反対側の前記導電層を前記第2電極とし、前記第1電極と前記第2電極に分極電圧を印加して、両電極間の前記圧電層の部分を分極させて、前記活性部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の圧電アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−134933(P2011−134933A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293981(P2009−293981)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】