説明

圧電体薄膜の製造方法及び圧電体薄膜の製造装置

【課題】圧電特性のばらつきが少ないチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を効率よく製造する圧電体薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】チタン酸ジルコン酸鉛のターゲット3を使用し、スパッタ法により基板5の上にチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を製造する圧電体薄膜の製造方法において、基板を加熱する基板加熱工程と、基板加熱工程で加熱した基板の温度を維持し、スパッタ法により基板の上に成膜する成膜工程と、を有し、基板加熱工程では、基板が所定の温度分布となるように加熱され、成膜工程では、基板と前記ターゲットとで挟まれる空間の、ターゲット面に平行な面の面内で、所定の酸素濃度分布となるように酸素が導入され、基板及び平行な面それぞれへターゲットの面を垂直投影した場合、基板と平行な面との相互に対応する位置における所定の温度分布の増減方向と所定の酸素濃度分布の増減方向とは同じ方向である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体薄膜の製造方法及び圧電体薄膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電素子の応用開発、例えばメモリ、MEMS(Micro EIectro Mechanical Systems)のアクチュエータやトランスデューサー等への展開が進み、その形成技術が注目されている。特に薄膜圧電素子の形成方法は、スパッタ法、エアロゾルデポジション法、化学溶液法及び化学気層成長法などがある。この中で、スパッタ法は、シリコンプロセスへの親和性が高いだけでなく、薄膜化による高集積化、ターゲット組成による薄膜組成制御の容易さ、ターゲットの大口径化による大口径基板への成膜による大量の製造の容易さ等の点で優位であると考えられている。
【0003】
圧電素子の代表的な材料としてチタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZT)があるが、PZTをスパッタ法により成膜する場合、Pb、Zr、Ti、Oを有する焼結体のターゲットを用い、ArとOのガスを導入して成膜する。スパッタ法によりPZTを成膜する場合、高い圧電特性を発現するためにはペロブスカイト構造を形成する必要があり、ペロブスカイト構造の結晶化温度はおよそ550℃〜600℃程度の範囲にある。
【0004】
PZTの構成元素であるPbの蒸気圧は、他の元素であるTiやZrと比較して高い(1Pa時の昇華温度はPb(鉛)が705℃、Tiが1709℃、Zrが2366℃)。PZT薄膜製造時の基板温度と鉛組成比との関係を図5に示す(非特許文献1)。図5において、横軸は基板温度(℃)、縦軸はPZT成膜の基板温度が550℃における鉛組成比を1として規格化した値である。図5が示すように、基板温度が変化すると鉛組成比が変化し、例えば温度が高くなると鉛組成比が減少し、結晶性の低下を招き、圧電特性が低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中村僖良監修、「圧電材料の高性能化と先端応用技術」、サイエンス&テクノロジー株式会社、2007年11月29日、p.146 図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
効率よくPZT素子を製造するには、例えばターゲットに対向する全面に大口径基板、又は小口径ながら複数枚の基板を配置することが望まれる。しかしながら、大口径基板の全面での温度分布を均一にすることは困難であり、基板全面に亘って、圧電特性のばらつきの少ない強誘電体薄膜は得られない。
【0007】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、大面積の基板であっても、圧電特性のばらつきが少ない圧電薄膜を効率よく製造する圧電体薄膜の製造方法及び圧電体薄膜の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、以下の構成により解決される。
【0009】
1.チタン酸ジルコン酸鉛からなるターゲットを使用し、スパッタリング法により基板の上にチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を製造する圧電体薄膜の製造方法において、
前記基板を加熱する基板加熱工程と、
前記基板加熱工程で加熱した前記基板の温度を維持し、前記スパッタリング法により前記基板の上に成膜する成膜工程と、を有し、
前記基板加熱工程では、前記基板が、所定の温度分布となるように加熱され、
前記成膜工程では、前記基板と前記ターゲットとで挟まれる空間の、前記ターゲットの面に平行な面の面内で、所定の酸素濃度分布となるように酸素が導入され、
前記基板及び前記平行な面それぞれへ前記ターゲットの面を垂直投影した場合、前記基板と前記平行な面との相互に対応する位置における前記所定の温度分布の増減方向と前記所定の酸素濃度分布の増減方向とは同じ方向であることを特徴とする圧電体薄膜の製造方法。
【0010】
2.前記所定の温度分布において、前記基板に、前記ターゲットの中心が該ターゲットの面に対して垂直投影される中心位置の温度が最も高く、前記中心位置から周辺に向かって低くなることを特徴とする前記1に記載の圧電体薄膜の製造方法。
【0011】
3.前記所定の温度分布において、前記基板に、前記ターゲットの中心が該ターゲットの面に対して垂直投影される中心位置の温度が最も低く、前記中心位置から周辺に向かって高くなることを特徴とする前記1に記載の圧電体薄膜の製造方法。
【0012】
4.チタン酸ジルコン酸鉛からなるターゲットを使用し、スパッタリング法により基板の上にチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を製造する圧電体薄膜の製造方法において、
前記基板を加熱する基板加熱工程と、
前記基板加熱工程で加熱した前記基板の温度を維持し、前記スパッタリング法により前記基板の上に成膜する成膜工程と、を有し、
前記基板加熱工程では、前記基板が、所定の温度勾配を持つように加熱され、
前記成膜工程では、前記基板と前記ターゲットとで挟まれる空間の、前記ターゲットの面に平行な面の面内で、前記温度勾配に沿って、酸素が濃度勾配を持つように酸素が導入されることを特徴とする圧電体薄膜の製造方法。
【0013】
5.前記所定の温度勾配を持つ前記基板の上で温度が最も高い部分に対応する前記平行な面の面内での前記酸素の濃度が、最も高くなる濃度勾配を持つように酸素が導入されることを特徴とする前記4に記載の圧電体薄膜の製造方法。
【0014】
6.チタン酸ジルコン酸鉛からなるターゲットを使用し、スパッタリング法により基板の上にチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を製造する圧電体薄膜の製造装置において、
前記基板を所定の温度分布となるように加熱し、維持する基板加熱手段と、
前記基板と前記ターゲットとで挟まれる空間の、前記ターゲットの面に平行な面の面内で、所定の酸素濃度分布となるように酸素を導入する酸素導入手段と、を備え、
前記基板及び前記平行な面それぞれへ前記ターゲットの面を垂直投影した場合、前記基板と前記平行な面との相互に対応する位置における前記所定の温度分布の増減方向と前記所定の酸素濃度分布の増減方向とは同じ方向であることを特徴とする圧電体薄膜の製造装置。
【0015】
7.チタン酸ジルコン酸鉛からなるターゲットを使用し、スパッタリング法により基板の上にチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を製造する圧電体薄膜の製造装置において、
前記基板を所定の温度勾配を持つように加熱し、維持する基板加熱手段と、
前記基板と前記ターゲットとで挟まれる空間の、前記ターゲットの面に平行な面の面内で、前記温度勾配に沿って、酸素が濃度勾配を持つように酸素を導入する酸素導入手段と、を備えることを特徴とする圧電体薄膜の製造装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、大面積の基板に圧電特性のばらつきが少ない圧電薄膜を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】圧電薄膜を形成する本発明に係る製造装置を示す図である。
【図2】圧電薄膜を形成する本発明に係る製造装置の別例を示す図である。
【図3】圧電薄膜を形成する本発明に係る製造装置の別例を示す図である。
【図4】圧電素子を製造する工程を示す図である。
【図5】PZT薄膜製造時の基板温度と鉛組成比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限らない。
【0019】
本発明に到る過程において、発明者らは、高周波マグネトロンスパッタリング法によるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)薄膜を製造する上で、基板全体における鉛の組成比を均一にすることに関して検討した。基板全体の温度を均一にすれば、鉛の組成比も均一にできると考えられるが、以下の理由より困難である。
【0020】
スパッタ法は真空中で行われるため、基板への伝熱は輻射と熱伝導のみであるので熱伝達は生じない。よって、基板の温度分布は、基板が基板ホルダと接触する状態に依存して大きく変わるため、基板が大きくなると温度分布を均一にすることは一層困難となる。
【0021】
基板の加熱方法がランプ加熱の場合、基板と基板ホルダとの接触をできるだけ避けて熱伝導を抑え、基板とランプとの間に均熱板を設けることにより温度分布の改善を図る方法がある。
【0022】
しかし、ランプの温度分布が均熱板で吸収しきれない場合が多く、均熱板だけでは基板の温度分布が均一になるようにするには不十分である。例えば、中央部に1個のランプを設け、さらに均熱板を設けてPZT薄膜を形成した場合、基板の大きさにもよるが、4インチのSi基板を例にすると基板の中央部と周辺部とでは、圧電定数d31の平均値に対するばらつき幅が±15%程度と大きくなってしまう。ランプを複数個配置し、個々のランプ出力を調整するようにして、基板の温度分布の均一化を図ることが考えられるが、装置が複雑になり高価になってしまう問題がある。
【0023】
また、静電チャック等により基板を吸着し、SiCヒータ等によって基板を加熱する方法もあるが、温度分布を均一にしようとすると、ランプの場合と同様に装置が高価になってしまう。更に、基板に反りがある場合や吸着面に異物がある場合は、基板と吸着面との熱伝導が不均一となってしまい、良好な温度分布を得ることは困難である。
【0024】
発明者らは、スパッタリング法により基板上にPZTを成膜する検討を行う過程において、理由は定かではないが、成膜時の酸素濃度を増加させると薄膜中の鉛の含有率が増加するがことが分かった。成膜時の酸素濃度を、基板温度分布に適合するような分布をもたせることにより大面積の基板に均一なPZT薄膜を形成することができる。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、スパッタリング法で成膜する圧電体薄膜であるPZT薄膜の製造装置100(以下、製造装置100)を模式的に示す。
【0026】
製造装置100において、1はチャンバー、2はマグネトロン・カソード、3はPZTからなるターゲット、4は基板ホルダ(アノード電極)、5は成膜される基板、6は基板5を加熱するための加熱部、8は酸素(O)ガス噴射部、9はマグネトロン・カソード2に印加する高周波(RF)電力を供給するための高周波(RF)電源を示している。
【0027】
Aはスパッタリングガスとして、例えば、アルゴン(Ar)ガスの導入口、Bはチャンバー1の中を真空排気するための真空ポンプ(図示しない)に接続される排気口、Cは酸素ガスの供給路をそれぞれ示している。円形状の基板5を円形状のターゲット3上に投影すると、両者の中心位置はほぼ同じ位置となる。
【0028】
基板ホルダ4は、円板状の基板5を取り付け可能とする断面を示している。また、基板ホルダ4は、基板面により均一な膜厚を得る上で、回転導入機構(図示しない)を設けて成膜時に成膜面内で回転できる様にするのが好ましい。尚、基板5を1枚として示しているが、複数枚を並べてもよい。
【0029】
加熱部6は、スポット型ランプ6aと一方向にスポット型ランプの光を指向させるための反射鏡6bを備えている。反射鏡6bは、回転楕円形状とし、その焦点位置にスポット型ランプ6aのフィラメント等の発光部を配置することでランプから発せられる光束を概ね平行光束とすることができる。
【0030】
基板ホルダ4により保持される基板5と加熱部6との間には、均熱板7を設けることが好ましい。加熱部6により加熱される基板5の温度分布は、基板5中央部が最も高く、周辺に向かって次第に低くなる勾配を持っている。均熱板7を設けることにより、基板5の温度分布は、中央部が最も高く、周辺に向かって次第に低くなることに変わりはないが、加熱部6から放射される光束が拡散され、温度分布の中央部の先鋭度合いが適度に緩和された、勾配がよりなだらかな分布状態となる。
【0031】
図1(b)は、基板5側からターゲット3の方向を見たときの酸素ガス噴射部8及びターゲット3の様子を示す俯瞰図である。酸素ガス噴出口8aから噴出される酸素ガスの噴出方向8bを模式的に示す。
【0032】
図1(b)に示すように、酸素ガス噴射部8は、円形状のガス配管であって、その内側に、ガス配管内に導入された酸素ガスを内向きで、且つ、ターゲット3がある下向きに噴出する複数の酸素ガス噴出口8aを備えている。
【0033】
酸素ガス噴射部8をターゲット3から基板5側に適度に離して配置し、酸素ガス噴射部8に酸素ガスを導入し、酸素ガスがターゲット3のおおよそ中央部に集まるようガス噴出口8aを設け、酸素ガスの供給圧を調整する。これにより、温度勾配に沿うような、酸素濃度が中央部で最も高く、中央部から周辺に向かって低くなる濃度勾配を持たせることができる。
【0034】
図1では、ガス噴出口8aをターゲット3がある下向きとしているが、酸素ガス濃度が、ターゲット3と基板5との間の空間で、ターゲット3と基板5とが対向する方向に略垂直な方向で基板中央部付近(符号F)が最も高く同心状に外側の周辺部に向かって(矢印G方向)低くなる分布であればよく、ガス噴出口8aの向きは水平方向としても良い。
【0035】
酸素ガス濃度分布は、その濃度及び勾配がガス噴出口8aの向き、ガス噴出口8aの数、ガス噴出口の大きさ、ガス供給圧の高低により調整することができる。これは、以降の第3の実施の形態においても同様である。
【0036】
このように基板5の温度分布においては、基板中央部の温度が最も高く、周辺に向かって次第に低くなる勾配を持つのに対し、チャンバー1の雰囲気中で、酸素濃度分布においては、その中央部が最も高く外側周辺に向かって(矢印G方向)次第に低くなる勾配を持つ。このため、基板5に成膜されるPZT薄膜は、基板5の温度分布よっては、中央部の温度が周辺より高いため、鉛組成比は、中央部が小さく周辺部が大きくなろうとし、その一方で、酸素濃度によっては、中央部の酸素濃度が周辺より高いため、鉛組成比は中央が大きく周辺部が小さくなろうとする。
【0037】
従って、基板5の温度分布と酸素濃度分布との調整により、基板5に形成される圧電体薄膜のPb組成比は、基板5の全面に亘ってばらつきが少ないものとすることができる。
【0038】
図1(b)では、リング状ガス配管の内側に多数のガス噴出口8aを設け、そのガス噴出口8aを等間隔としているが、これに限定されることはなく、チヤンバ1の排気口の位置や、Arガス等のスパッタガス導入口の位置を考慮し、酸素濃度が偏らず良好な分布となるように、噴出口の個数、配置を適宜決めればよい。酸素濃度がターゲット中心に効率良く集まるようガス噴出口8aにガス噴出方向の指向性を高めるためのノズルを設けても良い。
【0039】
尚、均熱板7は、均一な温度分布と高い熱応答性が得られる熱伝導が高い材料が良く、更にチヤンバ1内を汚染しないように高温耐性のある材料が好ましい。具体的な材料としては、SiC、AlN、SiNなどが挙げられる。また、スパッタ法は真空プロセスであることから、均熱板の保持方法にもよるが、スポット型ランプ6aから均熱板7への伝熱や均熱板から基板5への伝熱は輻射が支配的となる。そのため、スポット型ランプ6aから基板5へ効率よく熱を伝えるために、均熱板7の輻射率は高い方が望ましい。
【0040】
(第2の実施の形態)
図2(a)は、チャンパー1等を省略し、本発明の別の実施例を示す加熱部6とガス噴射部18を有する製造装置200の主要部断面図であり、図2(b)は、基板5側からターゲット3の方向を見たときの酸素ガス噴射部18及びターゲット3の様子を示す俯瞰図である。
【0041】
加熱部6は、第1の実施の形態と同じであり、スポット型ランプ6a及び反射鏡6bのため、基板5の温度分布は、中央部が最も高く、周辺に向かって次第に低くなる勾配を持っている。
【0042】
ガス噴射部18は、図2(b)にも示すように、ガス噴出口18aの先端をターゲット3の中心上部に設置して、酸素ガスをガス噴出口18aからターゲット中央部に向けて下向きに噴出するようにしてある。ターゲット3の中央部に噴出された酸素ガスは、ターゲット3の上面で中央部から周辺に向かって拡がり、酸素濃度分布は、温度勾配に沿うような、ターゲット3の中央部が最も高く、周辺に向かって低くなる勾配を持つ。
【0043】
第1の実施の形態と同様に、基板5の温度分布においては、基板中央部の温度が最も高く、周辺に向かって次第に低くなる勾配を持つのに対し、酸素濃度分布においては、ターゲット3の表面の中央部の酸素濃度が最も高く外側周辺に向かって次第に低くなる勾配を持つ。
【0044】
このため、基板5に成膜されるPZT薄膜は、基板5の温度分布にあっては、中央部の温度が周辺より高いため、鉛組成比は、中央部が小さく周辺部が大きくなろうとし、その一方で、酸素濃度にあっては、中央部の酸素濃度が周辺より高いため、鉛組成比は中央部が大きく周辺部が小さくなろうとする。
【0045】
従って、基板5の温度分布と酸素濃度分布との調整により、基板5に形成される圧電体薄膜の鉛組成比は、基板5の全面に亘ってばらつきが少ないものとすることができる。
【0046】
本実施の形態では、ガス噴射部18が、ターゲット3上に近接して、半径を示すように設置してあるため、基板5への成膜においてターゲット3からの粒子の影なって膜質分布が生じる懸念があるが、基板5をターゲット3に対し回転させることにより膜質分布を防ぐことができる。
【0047】
(第3の実施の形態)
図3(a)は、チャンパー1等を省略し、本発明の別の実施の形態を示す加熱部26とガス噴射部28を有する製造装置300の主要部断面図であり、図3(b)は、基板5側からターゲット3の方向を見たときの酸素ガス噴射部28及びターゲット3の様子を示す俯瞰図である。
【0048】
加熱部26がサークル状ランプ26aであるため基板5の温度分布は、外周側が最も高く外周側から中央部に向かって次第に温度が低くなる勾配を持つ。
【0049】
また、図3(b)に示すように、酸素ガス噴射部28は、円形状のガス配管で、その内側に、ガス配管内に導入された酸素ガスを内向きで、且つ、ターゲット3の上面に沿うような略水平方向に噴出する複数のガス噴出口28aを備えている。このようにターゲット外周に沿って酸素ガス噴出口28aを設け、中央部に向かって酸素ガスの供給圧を調整して噴出させることにより、酸素濃度分布は、温度勾配に沿うような、ターゲット3の周辺部で最も高く、ターゲット3の周辺部から中央部に向かって低くなる勾配を持たせることができる。
【0050】
従って、本実施の形態においては、第1及び第2の実施の形態とは逆に、基板5の温度分布においては、基板周辺部の温度が最も高く、中央部に向かって次第に低くなる勾配を持つのに対し、酸素濃度分布おいては、ターゲット3の表面付近で、その外側周辺の酸素濃度が最も高く中央部に向かって次第に低くなる勾配を持つ。
【0051】
このため、基板5に成膜されるPZT薄膜は、基板5の温度分布にあっては、周辺部の温度が中央部より高いため、鉛組成比は、周辺部が小さく中央部が大きくなろうとし、その一方で、酸素濃度にあっては、中央部の酸素濃度が周辺部より低いため、相対的に鉛組成比は周辺部が大きく中央部が小さくなろうとする。
【0052】
従って、基板5の温度分布とターゲット3付近の酸素濃度分布との調整により、基板5に形成される圧電体薄膜のPb組成比は、基板5の全面に亘ってばらつきが少ないものとすることができる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
圧電薄膜の製造装置100を用いて圧電薄膜を製造し、その圧電特性を測定した。図4に示す圧電薄膜の製造工程を用いて説明する。
【0054】
まず、4インチの熱酸化膜付きSi基板5aに密着層としてTi(チタニウム)を厚さ20nm、更にPt(白金)を厚さ100nmとなるようにスパッタ法により成膜した(図4(a))。この際の成膜条件は、
Ti層:Ar流量10sccm、圧力0.5Pa、高周波電力200W、
Pt層:Ar流量20sccm、圧力0.2Pa、高周波電力150W、
とした。
【0055】
尚、Pt層は400℃で基板を加熱した状態で成膜している。Pt層の成膜後、XRD法(X線回折法)により結晶性を測定すると(111)面に配向していることを確認した。Ti層及びPt層5bを積層した熱酸化膜付きSi基板を、圧電薄膜を形成する基板5とする。尚、Pt層5bは下部電極として機能する。
【0056】
次に、図1に示す製造装置100を用い、本発明に係る圧電薄膜の製造方法により基板5に厚み約3μmのPZT薄膜20を成膜した(図4(b))。加熱部6において、スポット型ランプ6aを点灯し、均熱板7を介して基板5を加熱し、温度が安定した状態で成膜した。成膜時の基板5の周辺部の温度は約550℃、中央部の温度は約600℃であった。
【0057】
ターゲット3と基板5との距離は約50mm、ターゲットから酸素ガス噴射部8までの距離は約10mm、酸素ガス噴射部8のリング形状の内径は約170mm、酸素ガス噴射部8の管の直径は10mm、酸素ガス噴出口8aは、径4mmの穴が円周の内側を30等分割する位置にそれぞれ設けてある。
【0058】
ターゲット3は、組成がPb1.5(Zr0.52Ti0.48)Oからなる直径6インチで、成膜条件は、Ar流量10sccm、酸素流量0.8sccm、圧力0.3Pa、高周波電力400Wとした。
【0059】
次に、スパッタ法により上部電極21としてPt層をPZT薄膜上に形成した。この際の成膜条件は、Ar流量20sccm、圧力0.2Pa、高周波電力150W、であり、PZT薄膜の一部を露出させるようステンレス製のステンシルマスクを使って成膜した(図4(c))。
【0060】
次に、感光性レジスト22を厚み約3μmで塗布し、上部電極上のみが感光性レジストで覆われるようフォトリソグラフィー処理を行った(図4(d))。フォトリソグラフィー処理の際、後工程のエッチングに対して感光性レジストの耐性を上げるために現像後に約90℃のベークを行った。
【0061】
次に、フッ硝酸を含むエッチング液を用いて、下部電極層が露出するまでエッチングしPZTの一部を除去した(図4(e))。
【0062】
次に、感光性レジストをアルカリ系の剥離液を用いて除去した後、圧電素子の大きさが長さ15mm、幅2mmになるようにダイシングにより個々の圧電素子に分離した(図4(f))。尚、圧電素子の分離はダイシングによるだけでなく、Siドライエッチング法によっても可能である。
【0063】
次に、熱硬化性導電性ペースト23を上部電極21及び下部電極5bに設け(図4(g))、配線部材24を熱硬化性導電性ペースト23に接触させた状態で、硬化温度まで加熱させて配線部材24を上部電極21及び下部電極5bに接着した(図4(h))。
【0064】
基板5の中央部から圧電素子を2個切り出し、可動長さが10mmのカンチレバーとなるように圧電素子の端部をクランプ30で挟んで固定した(図4(i))。さらに、上部電極をGNDとし、下部電極に最小−20Vとなる振幅10V、周波数500Hzの電圧を印加し、圧電素子の端部Aを変位観察箇所としてレーザードップラー計により変位量を測定したところ変位量は2μmであった。
【0065】
この圧電変位より、下記の式(1)(参照文献:I.Kanno et al. Sensors and Actuators A 107(2003)68−74)により圧電定数d31を算出した。
【0066】
【数1】

【0067】
ここで、hは基板厚さ、sは薄膜PZTの弾性コンプライアンス、sは基板の弾性コンプライアンス、Lはカンチレバーの長さ、Vは印加電圧、δはカンチレバーの変位量である。よって、h=400μm、s=90GPa、s=180GPa、L=10mmより、圧電定数d31=−160pm/Vとなる。
【0068】
同様にして、基板5の外周部から切り出した圧電素子4個について、上記と同様にして圧電定数d31を算出した。この結果、6個全ての圧電素子の圧電定数d31は、全てによる平均値の±6%以内にあり、実用的範囲と考えられる±10%以内に十分に収まっており、4インチの基板5の何れの箇所においても、特性バラツキの少ない圧電素子を形成できることが確認できた。
【0069】
また別途、基板5にPZT薄膜を形成する(図4(b))まで上記と同じとし、その後上部電極がない圧電素子の状態でダイシングにより基板5の中央部から1個、外周部から4個切り出した。これらの圧電素子の組成を蛍光X線組成分析装置により測定した結果、基板中央部の圧電素子と周辺部の圧電素子との組成はほぼ同一であることが確認できた。
【符号の説明】
【0070】
1 チャンバー
2 マグネトロン・カソード
3 ターゲット
4 基板ホルダ
5 基板
6 加熱部
6a スポット型ランプ
6b 反射鏡
7 均熱板
8 酸素ガス噴射部
8a ガス噴出口
8b 噴出方向
9 高周波電源
A アルゴンガスの導入口
B 排気口
C 酸素ガスの供給路
100 製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸ジルコン酸鉛からなるターゲットを使用し、スパッタリング法により基板の上にチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を製造する圧電体薄膜の製造方法において、
前記基板を加熱する基板加熱工程と、
前記基板加熱工程で加熱した前記基板の温度を維持し、前記スパッタリング法により前記基板の上に成膜する成膜工程と、を有し、
前記基板加熱工程では、前記基板が、所定の温度分布となるように加熱され、
前記成膜工程では、前記基板と前記ターゲットとで挟まれる空間の、前記ターゲットの面に平行な面の面内で、所定の酸素濃度分布となるように酸素が導入され、
前記基板及び前記平行な面それぞれへ前記ターゲットの面を垂直投影した場合、前記基板と前記平行な面との相互に対応する位置における前記所定の温度分布の増減方向と前記所定の酸素濃度分布の増減方向とは同じ方向であることを特徴とする圧電体薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記所定の温度分布において、前記基板に、前記ターゲットの中心が該ターゲットの面に対して垂直投影される中心位置の温度が最も高く、前記中心位置から周辺に向かって低くなることを特徴とする請求項1に記載の圧電体薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記所定の温度分布において、前記基板に、前記ターゲットの中心が該ターゲットの面に対して垂直投影される中心位置の温度が最も低く、前記中心位置から周辺に向かって高くなることを特徴とする請求項1に記載の圧電体薄膜の製造方法。
【請求項4】
チタン酸ジルコン酸鉛からなるターゲットを使用し、スパッタリング法により基板の上にチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を製造する圧電体薄膜の製造方法において、
前記基板を加熱する基板加熱工程と、
前記基板加熱工程で加熱した前記基板の温度を維持し、前記スパッタリング法により前記基板の上に成膜する成膜工程と、を有し、
前記基板加熱工程では、前記基板が、所定の温度勾配を持つように加熱され、
前記成膜工程では、前記基板と前記ターゲットとで挟まれる空間の、前記ターゲットの面に平行な面の面内で、前記温度勾配に沿って、酸素が濃度勾配を持つように酸素が導入されることを特徴とする圧電体薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記所定の温度勾配を持つ前記基板の上で温度が最も高い部分に対応する前記平行な面の面内での前記酸素の濃度が、最も高くなる濃度勾配を持つように酸素が導入されることを特徴とする請求項4に記載の圧電体薄膜の製造方法。
【請求項6】
チタン酸ジルコン酸鉛からなるターゲットを使用し、スパッタリング法により基板の上にチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を製造する圧電体薄膜の製造装置において、
前記基板を所定の温度分布となるように加熱し、維持する基板加熱手段と、
前記基板と前記ターゲットとで挟まれる空間の、前記ターゲットの面に平行な面の面内で、所定の酸素濃度分布となるように酸素を導入する酸素導入手段と、を備え、
前記基板及び前記平行な面それぞれへ前記ターゲットの面を垂直投影した場合、前記基板と前記平行な面との相互に対応する位置における前記所定の温度分布の増減方向と前記所定の酸素濃度分布の増減方向とは同じ方向であることを特徴とする圧電体薄膜の製造装置。
【請求項7】
チタン酸ジルコン酸鉛からなるターゲットを使用し、スパッタリング法により基板の上にチタン酸ジルコン酸鉛薄膜を製造する圧電体薄膜の製造装置において、
前記基板を所定の温度勾配を持つように加熱し、維持する基板加熱手段と、
前記基板と前記ターゲットとで挟まれる空間の、前記ターゲットの面に平行な面の面内で、前記温度勾配に沿って、酸素が濃度勾配を持つように酸素を導入する酸素導入手段と、を備えることを特徴とする圧電体薄膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−127139(P2011−127139A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283866(P2009−283866)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】