説明

圧電振動子の製造方法及び圧電振動子

【課題】 生産性を向上させる。
【解決手段】 圧電振動素子と素子搭載部材と蓋部材とを備えた圧電振動子の製造方法であって、素子搭載部材ウェハの一方の主面に接合パターンと搭載パッドを設け他方の主面に外部端子を設けるパターン形成工程と、蓋部材ウェハの一方の主面に凹部を形成する凹部形成工程と、蓋部材ウェハの他方の主面に溝部を形成する溝部形成工程と、圧電振動素子を搭載パッドに搭載する圧電振動素子搭載工程と、素子搭載部材ウェハと蓋部材ウェハとを重ね合わせる積層工程と、接合パターンと蓋部材ウェハとが接触する部分に溝部側から1064nmの波長のレーザ光を照射して素子搭載部材ウェハと蓋部材ウェハとを接合するウェハ接合工程と、532nmの波長のレーザ光を照射して素子搭載部材ウェハと蓋部材ウェハとを切断するウェハ切断工程とで構成されることを特徴とする圧電振動子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に用いられる圧電振動子の製造方法及び圧電振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電振動子の代表的なものとして、水晶を用いた種々の水晶振動子が開発されている。この水晶振動子は、例えば携帯電話機に搭載され、各回路が動作する際の基準となるクロック信号を生成する。なお、このような水晶振動子は、表面実装型の構造で用いられる場合がある。
【0003】
ところで、表面実装型の水晶振動子は、圧電振動素子である水晶片を収納し保護する素子搭載部材の形状の違いによって、大きく分けて2種類のものが開発されている。例えば、素子搭載部材に形成された凹部内に水晶片を搭載する水晶振動子と、平板状のベースと呼ばれる素子搭載部材に水晶片を搭載する水晶振動子とがある。
【0004】
具体的には、前者の水晶振動子は、水晶片を保護する容器として、凹部が形成された素子搭載部材を使用する。この素子搭載部材は、例えば、1層目として、セラミックスからなる基板部を用意し、当該基板部の一方の主面に、2層目として、セラミックからなる枠部を積層することにより凹部を形成する。
【0005】
この素子搭載部材に形成された凹部内に露出する基板部の表面上には、搭載パッドが配置されている。これにより、当該搭載パッドと、水晶片の両面に形成された励振電極とは、導電性接着剤(図示せず)を介して接続されている。
【0006】
なお、素子搭載部材の凹部が設けられる側の主面には、メタライズ層(金属層)が形成されている。また、平板状の蓋部材の一方の主面には、素子搭載部材の上面に形成されたメタライズ層(金属層)に対応するように、封止材が設けられている。これにより、水晶振動子は、これらメタライズ層及び封止材を接合することにより形成されている。
【0007】
後者の水晶振動子は、平板状のベースと呼ばれる素子搭載部材上に配置された搭載パッドと、水晶片の両面に形成された励振電極とを、導電性接着剤(図示せず)を介して接続することにより、素子搭載部材上に水晶片が搭載された構成を有する。
【0008】
水晶片を保護するカバーとしての役割を果たす蓋部材には、凹部が形成されている。素子搭載部材及び蓋部材は、水晶片を収納するようにして、接合材を介して接合されている。なお、素子搭載部材及び蓋部材は、いずれも例えばセラミックスからなる(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
このような圧電振動子の生産性を向上させるために、種々の製造方法が提案されている。
特許文献2で開示されている発明は、凹部を有する素子搭載部材と凹部内に収容され素子搭載部材に搭載される圧電振動素子とニッケルメッキされた平板状の金属からなる蓋部材とから構成される圧電振動子について、素子搭載部材と蓋部材とをシーム溶接やレーザ溶接で封止することが提案されている。
ここで、素子搭載部材の凹部が設けられる主面に設けられるメタライズ層は、素子搭載部材の主面側から厚みが10μm〜50μmのタングステンからなる下地層、下地層の上に厚みが10μm〜20μmの銀ろうからなるろう材印刷層、ろう材印刷層の上に厚みが3μm〜6μmのNi層、Ni層の上に0.3μm〜3μmのAu層から構成されている。
【0010】
このような圧電振動子をシーム溶接する場合は、個片の素子搭載部材に個片の蓋部材を重ね2つ一対のローラー電極を蓋部材に押し付けながら通電することで素子搭載部材と蓋部材とを接合している。
【0011】
また、このような圧電振動子をレーザ溶接する場合は、蓋部材を素子搭載部材に重ねた状態で位置ずれを防止するために仮付けを行ない、その後、レーザ装置から照射されたレーザ光で素子搭載部材と蓋部材とを接合する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−324852号公報
【特許文献2】特許第3886437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来のレーザ溶接を用いた素子搭載部材ウェハと蓋部材ウェハとの接合は、接合後に歪が生じる恐れがあり、この歪により素子搭載部材にヒビが入る恐れがある。
したがって、従来の圧電振動子の製造方法では、素子搭載部材にヒビが入ると圧電振動素子を囲う空間内の気密性が保てなくなる恐れがある。
また、蓋部材を個々に設けて素子搭載部材に接合する場合は、蓋部材を素子搭載部材に重ねた状態で位置ずれを防止するために行われる仮付けに手間がかかり、生産性が向上しにくくなっている。
【0014】
本発明は、素子搭載部材のヒビ割れを防止しつつ生産性を向上させる圧電振動子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明は、圧電片の両主面に励振電極が設けられた圧電振動素子とこの圧電振動素子が搭載されるセラミックスからなる素子搭載部材と金属からなる蓋部材とを備えた圧電振動子の製造方法であって、前記素子搭載部材となる部分が複数設けられた素子搭載部材ウェハの一方の主面の各素子搭載部材となる部分に前記蓋部材と接合するための環状の接合パターンと前記接合パターンに囲まれ前記圧電振動素子との電気的接続に用いる2つ一対の搭載パッドとこれら搭載パッドと電気的に接続し素子搭載部材ウェハの他方の主面に外部端子を設けるパターン形成工程と、前記蓋部材となる部分が複数設けられた蓋部材ウェハの一方の主面の各蓋部材となる部分に凹部を形成する凹部形成工程と、前記蓋部材となる部分が複数設けられた蓋部材ウェハの他方の主面の各蓋部材となる部分の間に溝部を形成する溝部形成工程と、前記圧電振動素子を前記各搭載パッドに導電性接着剤を介して電気的に接続されることで搭載する圧電振動素子搭載工程と、前記蓋部材となる部分に設けた凹部内に前記圧電振動素子が入るように前記素子搭載部材ウェハと蓋部材ウェハとを重ね合わせる積層工程と、前記素子搭載部材ウェハの前記素子搭載部材となる部分に設けられた接合パターンと前記蓋部材ウェハの前記溝部が設けられた主面とは反対側の主面とが接触する部分であって前記溝部にレーザ装置より1064nmの波長のレーザ光を照射して前記素子搭載部材ウェハと前記蓋部材ウェハとを接合するウェハ接合工程と、前記溝部側からレーザ装置より532nmの波長のレーザ光を照射して前記素子搭載部材ウェハと前記蓋部材ウェハとの接合状態を維持したまま隣り合う蓋部材となる部分の間及び隣り合う素子搭載部材の間を切断するウェハ切断工程とを含み、前記ウェハ切断工程における前記レーザ光を、前記ウェハ接合工程における前記レーザ光よりも前記溝部の底面でピークを最大にしつつ前記ウェハ接合工程における前記レーザ光の熱量よりも小さくして照射することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記接合パターンが、厚みが0.01μm〜0.04μmの下地層となるCr層、Cr層の上に厚みが20μm〜50μmのCu層、Cu層の上に厚みが2μm〜5μmのNi層、Ni層の上に厚みが0.01μm〜0.05μmのAu層を設けて構成され、前記溝部の深さが、蓋部材ウェハの厚みの60%〜80%で構成され、前記蓋部材ウェハが、コバール又は42アロイからなることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、圧電振動子であって、圧電片の両主面に励振電極が設けられそれぞれの励振電極と接続し端部側に伸びる引回しパターンが形成されて構成されている圧電振動素子と、一方の主面に凹部が設けられる蓋部材と、一方の主面に搭載パッドPと接合パターンSが設けられ、他方の主面に外部端子Gが設けられている素子搭載部材とを備え、前記接合パターンが、素子搭載部材の一方の主面の縁部分に沿って環状に設けられつつ、厚みが0.01μm〜0.04μmの下地層となるCr層、Cr層の上に厚みが20μm〜50μmのCu層、Cu層の上に厚みが2μm〜5μmのNi層、Ni層の上に厚みが0.01μm〜0.05μmのAu層を設けて構成され、前記蓋部材の前記素子搭載部材と接合する部分にフランジ部を設けて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の圧電振動子の製造方法によれば、蓋部材ウェハにおいて圧電振動素子が収容される凹部が設けられる主面とは反対側の主面に溝部が形成されており、この蓋部材ウェハと素子搭載部材ウェハとを重ねたときに、凹部を設けた側の主面が素子搭載部材の接合パターンと接触することとなる。このとき、蓋部材ウェハの素子搭載部材ウェハと接触する主面と対向する位置に溝部が設けられていることとなる。この状態において、ウェハ接合工程でレーザ装置より1064nmの波長のレーザ光を溝部に照射することで、素子搭載部材ウェハと蓋部材ウェハとを容易に接合することができる。さらに、ウェハ切断工程において、素子搭載部材ウェハと蓋部材ウェハとが接合した状態で前記溝部側からレーザ装置より532nmの波長のレーザ光を照射することで、素子搭載部材となる部分と蓋部材となる部分との接合状態を維持したまま隣り合う蓋部材となる部分の間、及び隣り合う素子搭載部材となる部分の間を切断することができる。
したがって、レーザ光の照射で接合と切断とを行うことができるので、圧電振動子の製造が容易となり生産性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の圧電振動子の製造方法によれば、ウェハ接合工程におけるレーザ光の波長を熱がこもりやすい1064nmとし、ウェハ切断工程におけるレーザ光の波長を熱がこもりにくく切れやすい532nmとしたので、切断の際に熱による歪の発生が軽減し、素子搭載部材にヒビが入るのを防ぐことができる。しかがって、気密性が保たれた圧電振動子の生産性を向上させることができる。
【0020】
また、本発明の圧電振動子の製造方法によれば、接合パターンが、厚みが0.01μm〜0.04μmの下地層となるCr層、Cr層の上に厚みが20μm〜50μmのCu層、Cu層の上に厚みが2μm〜5μmのNi層、Ni層の上に厚みが0.01μm〜0.05μmのAu層を設けて構成され、溝部の深さが、蓋部材ウェハの厚みの60%〜80%で構成され、蓋部材ウェハが、コバール又は42アロイからなるので、ウェハ接合工程におけるレーザ光の照射において接合の際に熱による歪の発生を軽減することができる。また、ウェハ切断工程においても熱による歪が軽減されるので素子搭載部材にヒビが入るのを防ぐことができる。しかがって、気密性が保たれた圧電振動子の生産性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の圧電振動子によれば、接合パターンのうちCu層が他の層よりも厚く設けられているため、接合の際又は切断の際の熱により変形しても、従来の材料より柔らかいので歪みの発生が軽減され、素子搭載部材にヒビが入るのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる圧電振動子の一例を示す模式図である。
【図2】(a)は素子搭載部材ウェハの一例を示す模式図であり、(b)は、素子搭載部材ウェハに圧電振動素子を搭載した一例を示す模式図である。
【図3】(a)は素子搭載部材ウェハに蓋部材ウェハを重ねる前の状態の一例を示す模式図であり、(b)は、素子搭載部材ウェハに蓋部材ウェハを重ねた状態の一例を示す模式図である。
【図4】(a)は蓋部材ウェハの溝部にレーザ光を照射した状態の一例を示す概念図であり、(b)は蓋部材ウェハの溝部にレーザ光を照射した状態の他の例を示す概念図である。
【図5】圧電振動子の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)について図面を参照して説明する。なお、説明を解りやすくするために、図面を誇張して記載している。
【0024】
図1及び図5に示すように、本発明の実施形態に係る圧電振動子100は、素子搭載部材10と圧電振動素子20と蓋部材30とから主に構成され、表面実装型の構造となっている。
素子搭載部材10は、例えば、材料としてガラスセラミックス、アルミナセラミックスが用いられ(以下、「セラミックス」という。)、平板状でかつ四角形状に形成されている。
【0025】
また、この素子搭載部材10は、一方の主面に搭載パッドPと接合パターンSが設けられ、他方の主面に外部端子Gが設けられている。
素子搭載部材10は、一方の主面の縁部分に後述する蓋部材30と接合するための接合パターンSが設けられている。
【0026】
この接合パターンSは、素子搭載部材10の一方の主面の縁部分に沿って環状に設けられている。また、搭載パッドPは、接合パターンに囲まれた状態で素子搭載部材10の一方の主面に設けられており、2つ一対で構成されている。
【0027】
外部端子Gは、素子搭載部材10の他方の主面の四隅に例えば4つ設けられており、そのうちの1つが一方の搭載パッドPと電気的に接続し、他の1つが他方の搭載パッドPと電気的に接続している。
なお、この素子搭載部材10は、2つの貫通孔Hが設けられており、この貫通孔Hを介して搭載パッドPと外部端子Gとが電気的に接続される。
【0028】
図1及び図5に示すように、圧電振動素子20は、例えば、圧電片である平面視矩形形状に形成されたATカットの水晶片21の両主面に励振電極22が設けられており、それぞれの主面に設けられた励振電極22からこの水晶片21の端部側に伸びる引回しパターン23が形成されて構成されている(図1参照)。
この圧電振動素子20は、励振電極22と接続している引回しパターン23と素子搭載部材10に設けられた搭載パッドPに導電性接着材Dにより接合される。
これにより、圧電振動素子20は素子搭載部材10に搭載される。
【0029】
蓋部材30は、コバール又は42アロイからなり、一方の主面に凹部31が設けられている。なお、この蓋部材30の表面には、無電解めっきによりNi層(図示せず)が設けられている。
この蓋部材30は、素子搭載部材10に設けられる接続パターンSに対応するようにフランジ部Fが環状に設けられている。このフランジ部Fは、接合パターンSにより素子搭載部材10と接合される。
【0030】
このように構成される本発明の圧電振動子100は、素子搭載部材10に圧電振動素子20を搭載した状態で、蓋部材30に設けられた凹部31を圧電振動素子20側に向けて、素子搭載部材10と蓋部材20とが接合されている。
なお、凹部31内は、例えば、真空状態となっている。
【0031】
次に、図1〜図4を用いて、本発明の実施形態に係る圧電振動子の製造方法について説明する。
本発明の実施形態に係る圧電振動子の製造方法は、例えば、パターン形成工程、凹部形成工程、溝部形成工程、圧電振動素子搭載工程、積層工程、ウェハ接合工程、ウェハ切断工程を含んで構成されている。
【0032】
まず、準備的な工程として、図1及び図2(a)に示すような複数の素子搭載部材10となる部分を有する素子搭載部材ウェハ10Wをセラミックスで形成する工程を行う。この工程の後に、素子搭載部材10となるそれぞれの部分において、2箇所の貫通孔Hを形成する貫通孔形成工程を行う。この貫通孔Hは、搭載パッドPと外部端子Gとの電気的な接続に用いられる。
貫通孔Hは、例えば、従来周知のレーザ装置を用いて、貫通孔Hを形成する位置にレーザ光を照射することで形成することができる。
【0033】
(パターン形成工程)
図2(a)に示すように、パターン形成工程は、素子搭載部材10となる部分が複数設けられた素子搭載部材ウェハ10Wの一方の主面の各素子搭載部材10となる部分に蓋部材ウェハ30Wと接合するための環状の接合パターンSと接合パターンSに囲まれ圧電振動素子20との電気的接続に用いる2つ一対の搭載パッドPとこれら搭載パッドPと電気的に接続し素子搭載部材ウェハの他方の主面に外部端子Gを設ける工程である。
なお、単にパターンという場合は、少なくとも接合パターンの形状と搭載パッドの形状と外部端子の形状と接続のための引き回し状態(図示せず)を指す。
【0034】
接合パターンSは、厚みが0.01μm〜0.04μmの下地層となるCr層(図示せず)、Cr層の上に厚みが20μm〜50μmのCu層、Cu層の上に厚みが2μm〜5μmのNi層
(図示せず)、Ni層の上に厚みが0.01μm〜0.05μmのAu層(図示せず)を設けて構成されている。なお、搭載パッドPは、接合パターンSと同時に形成してもよい。
【0035】
この接合パターンSの特徴部分は、下地層となるCr層の厚みとNi層の厚みとAu層の厚みがCu層の厚みと比べて、桁が異なる厚みで設けられている点にある。
このような構成の接合パターンSは、Cu層がCr層とNi層とAu層の他の層よりも桁違いに厚く構成されているので、これらCr層とNi層とAu層の熱膨張による歪みを考慮する必要がなくなる。したがって、接合パターンSの熱膨張を考慮する際は、Cu層の変形を考慮するだけでよいこととなる。
【0036】
まず、素子搭載部材ウェハの一方の主面に、下地層となるCr層を蒸着技術により0.01μm〜0.04μmの厚みで設ける。
次に、蒸着技術を用いてCr層の上にCuの薄膜を設けた後に電解めっき技術を用いてCu層を20μm〜50μmの厚みで設ける。
またCu層の上に、Ni層を無電解めっきにて設け、さらに、Ni層の上にAu層の順番でそれぞれ無電解めっきにて設ける。
【0037】
ここで、Cr層は、素子搭載部材10との密着度を高めるために用いられる。
また、Ni層及びAu層は、搭載パッドP、接続パターンS、外部端子Gの酸化を防止する役割を果たす。
Cu層は、素子搭載部材10の歪みを軽減させる役割を果たす。
【0038】
例えば、Cuは、ヤング率が130Gpaとなっており、従来から用いられてきたW(タングステン)のヤング率(400Gpa)より小さい。したがって、Cuは、W(タングステン)よりも柔らかいといえる。
【0039】
つまり、後述するウェハ接合工程においてレーザ光でCu層が加熱されることで熱膨張して変形する場合や、後述するウェハ切断工程においてレーザ光でCu層が変形する場合は、Cu層が例えば蓋部材30の変形に追従して変形したとしても、Cuが従来のW(タングステン)よりも柔らかいため、素子搭載部材10を変形させるほどの力がW(タングステン)よりも小さくなり、素子搭載部材10に生じる歪みを軽減することができる。
【0040】
また、Cu層を20μm〜50μmとするのは、Cu層が20μmより小さい場合、蓋部材30との接合が不十分となりやくなる恐れがあり、Cu層が50μmより大きい場合、蓋部材30との接合に時間がかかる。そのため、Cu層を20μm〜50μmの厚みで形成することで良好な接合状態を得ることができる。
【0041】
なお、接合パターンSと搭載パッドPとを設ける場合は、例えば、接合パターンSと搭載パッドPとの形状を残した状態で素子搭載部材ウェハ10Wにマスク(図示せず)を設けた状態でスパッタや蒸着、電解めっきを行うのがよい。
【0042】
(凹部形成工程)
凹部形成工程は、蓋部材30となる部分が複数設けられた蓋部材ウェハ30Wの一方の主面の各蓋部材30となる部分に凹部31(図1及び図3(a)参照)を形成する工程である。
蓋部材ウェハ30Wは、コバール又は42アロイが用いられ、板状に形成されている。
この蓋部材ウェハ30Wは、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、一方の主面に凹部31が設けられる。エッチングには、例えば、ウェットエッチングを用いることができ、所定の深さで凹部31を形成することができる。なお、所定の深さとは、圧電振動素子20を素子搭載部材ウェハ10Wの素子搭載部材10となる部分に搭載したときに、圧電振動素子20が蓋部材30に設けた凹部31の奥面31aに接触しない程度の深さをいう。
なお、凹部31は、後述するウェハ切断工程にてこの凹部にレーザ光を照射されて切断された後、フランジ部Fとなる。
【0043】
(溝部形成工程)
溝部形成工程は、前記蓋部材30となる部分が複数設けられた蓋部材ウェハ30Wの他方の主面の各蓋部材30となる部分の間に溝部32(図1及び図3(a)参照)を形成する工程である。
また、この蓋部材ウェハ30Wは、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、凹部31が設けられた一方の主面とは反対側の主面であって隣り合う蓋部材30となる部分の間に溝部32が設けられている。なお、蓋部材ウェハ30Wに設けられる複数の蓋部材30となる部分のうち、最外側に位置する蓋部材30となる部分においては、蓋部材30となる部分の境界部分に溝部32が設けられている。エッチングには、例えば、ウェットエッチングを用いることができ、所定の深さで溝部32を形成することができる。
【0044】
溝部32の深さは、蓋部材ウェハ30Wの厚みの60%〜80%で構成される。
溝部32の深さを蓋部材ウェハ30Wの厚みの60%〜80%とするのは、溝部32の深さが80%を超えると、溝部形成工程において溝部32の深さにバラツキが生じることがあり、また、後述するウェハ接合工程において隣り合う蓋部材30の間で切断されてしまい良好な接合状態を得られなくなるからである。また、溝部32の深さを蓋部材ウェハ30Wの厚みの60%を下回る場合は、接合の際にレーザ光による熱が伝わりにくくなり、良好な接合状態になりにくくなる恐れがある。したがって、溝部32の深さを蓋部材ウェハ30Wの厚みの60%とすることで、良好な接合状態を得ることができる。
【0045】
(圧電振動素子搭載工程)
圧電振動素子搭載工程は、図2(b)に示すように、圧電振動素子20を各搭載パッドPに導電性接着剤Dを介して電気的に接続されることで搭載する工程である。
圧電振動素子20に設けられた引回しパターンと素子搭載部材10となる部分に設けられた搭載パッドPとをそれぞれ導電性接着剤Dにて接合する。これにより、圧電振動素子20は、素子搭載部材ウェハ10Wの素子搭載部材10となる部分に搭載されることとなる。
【0046】
(積層工程)
積層工程は、図3(a)及び(b)に示すように、蓋部材30となる部分に設けた凹部31内に圧電振動素子20が入るように素子搭載部材ウェハ10Wと蓋部材ウェハ30Wとを重ね合わせる工程である。
この素子搭載部材ウェハ10Wと蓋部材ウェハ30Wとの重ね合わせは、例えば、真空雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で行われる。
【0047】
(ウェハ接合工程)
ウェハ接合工程は、図4(a)に示すように、素子搭載部材ウェハ10Wの素子搭載部材10となる部分に設けられた接合パターンPと蓋部材ウェハ30Wの溝部32が設けられた主面とは反対側の主面とが接触する部分であって溝部32にレーザ装置より1064nmの波長のレーザ光Lを照射して素子搭載部材ウェハ10Wと蓋部材ウェハ30Wとを接合する工程である。
レーザ装置は、Yagレーザ、Yvo4レーザ、ファイバーレーザを用いることができる。
1064nmの波長のレーザ光Lは、レーザ光の照射対象物へ照射すると、例えば金属の照射対象物に熱がこもりやすいという特徴がある。したがって、1064nmの波長のレーザ光Lを蓋部材30と接合パターンとが重なる部分に照射することで接合パターンSを容易に溶かすことができ、素子搭載部材10Wと蓋部材ウェハ30Wとの接合状態を良好にすることができる。
【0048】
このとき、
レーザ光Lは、蓋部材ウェハ30Wに設けた溝部32の幅と同じ程度に集光されている。これにより、ウェハ接合工程では、素子搭載部材ウェハ10Wと蓋部材ウェハ30Wとが接触する部分を加熱して接合させることができる。このウェハ接合工程により、蓋部材ウェハ30Wが素子搭載部材ウェハ10Wの接合パターンSに歪みが少ない状態で接合される。
【0049】
(ウェハ切断工程)
ウェハ切断工程は、図4(b)に示すように、溝部32側からYagレーザ、Yvo4レーザ、ファイバーレーザのいずれかを用いて532nmの波長のレーザ光を照射して素子搭載部材ウェハ10Wと蓋部材ウェハ30Wとの接合状態を維持したまま隣り合う蓋部材30となる部分の間及び隣り合う素子搭載部材10の間を切断する工程である。
【0050】
ここで、532nmの波長のレーザ光は、1064nmの波長のレーザ光より、例えば金属の照射対象物に熱がこもりにくく切れやすいという特徴がある。したがって、532nmの波長のレーザ光Lを蓋部材30と接合パターンSとが重なる部分に照射することで素子搭載部材10となる部分と蓋部材ウェハ30となる部分とが接合された状態を維持しつつ、隣り合う素子搭載部材となる部分の間、及び隣り合う蓋部材となる部分の間を切断することができる。ここで、レーザ光Lのスポット径をウェハ接合工程でのレーザ光のスポット径よりも小さくすることで、素子搭載部材10と蓋部材30との接合状態を維持したまま、切断することができる。
【0051】
このように、本発明の実施形態に係る圧電振動子の製造方法は、ウェハ接合工程でYagレーザ、Yvo4レーザ、ファイバーレーザのいずれかを用いて1064nmの波長のレーザ光を溝部32に照射することで、素子搭載部材ウェハ10Wと蓋部材ウェハ30Wとを容易に接合することができる。さらに、ウェハ切断工程において、素子搭載部材ウェハ10Wと蓋部材ウェハ30Wとが接合した状態で溝部32側からYagレーザ、Yvo4レーザ、ファイバーレーザのいずれかを用いて532nmの波長のレーザ光を照射することで、素子搭載部材10となる部分と蓋部材30となる部分との接合状態を維持したまま隣り合う蓋部材30となる部分の間、及び隣り合う素子搭載部材10となる部分の間を切断することができる。
【0052】
したがって、レーザ光の照射で接合と切断と同一工程内で行うことができるので、圧電振動子100の製造が容易となり生産性を向上させることができる。
また、本発明の圧電振動子の製造方法によれば、ウェハ接合工程におけるレーザ光の波長を熱がこもりやすい1064nmとし、ウェハ切断工程におけるレーザ光の波長を熱がこもりにくく切れやすい532nmとしたので、切断の際に熱による歪の発生が軽減し、素子搭載部材にヒビが入るのを防ぐことができる。しかがって、気密性が保たれた圧電振動子の生産性を向上させることができる。
【0053】
なお、本発明に係る圧電発振器は、実施形態に限定されず、例えば、素子搭載部材の両主面に凹部を形成し、一方の凹部内に圧電振動素子20が搭載できるよう搭載パッドを設け、他方の凹部内に集積回路素子50が搭載できるよう集積回路素子用搭載パッドを設けた構造としても良い。
【0054】
また、圧電振動素子には、水晶や、圧電セラミックなどの圧電材料が適宜用いられることは言うまでもなく、その形状についても、平板型、凸部が形成された構造、凹部が形成された構造、音叉型等の形状のものを用いることができ、また、弾性表面波素子を用いても良い。
【0055】
また、本発明の実施形態に係る圧電振動子の製造方法は、素子搭載部材10Wの製造に係るパターン形成工程と、蓋部材ウェハ30Wの製造に係る凹部形成工程と溝部形成工程を同時又は別々に行っても良い。
【符号の説明】
【0056】
100 圧電振動子
10W 素子搭載部材ウェハ
10 素子搭載部材
20 圧電振動素子
21 水晶片
22 励振電極
23引回しパターン
30W 蓋部材ウェハ
30 蓋部材
31 凹部
32 溝部
D 導電性接着材
P 搭載パッド
S 接合パターン
G 外部端子
H 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電片の両主面に励振電極が設けられた圧電振動素子とこの圧電振動素子が搭載されるセラミックスからなる素子搭載部材と金属からなる蓋部材とを備えた圧電振動子の製造方法であって、
前記素子搭載部材となる部分が複数設けられた素子搭載部材ウェハの一方の主面の各素子搭載部材となる部分に前記蓋部材と接合するための環状の接合パターンと前記接合パターンに囲まれ前記圧電振動素子との電気的接続に用いる2つ一対の搭載パッドとこれら搭載パッドと電気的に接続し素子搭載部材ウェハの他方の主面に外部端子を設けるパターン形成工程と、
前記蓋部材となる部分が複数設けられた蓋部材ウェハの一方の主面の各蓋部材となる部分に凹部を形成する凹部形成工程と、
前記蓋部材となる部分が複数設けられた蓋部材ウェハの他方の主面の各蓋部材となる部分の間に溝部を形成する溝部形成工程と、
前記圧電振動素子を前記各搭載パッドに導電性接着剤を介して電気的に接続されることで搭載する圧電振動素子搭載工程と、
前記蓋部材となる部分に設けた凹部内に前記圧電振動素子が入るように前記素子搭載部材ウェハと蓋部材ウェハとを重ね合わせる積層工程と、
前記素子搭載部材ウェハの前記素子搭載部材となる部分に設けられた接合パターンと前記蓋部材ウェハの前記溝部が設けられた主面とは反対側の主面とが接触する部分であって前記溝部にレーザ装置より1064nmの波長のレーザ光を照射して前記素子搭載部材ウェハと前記蓋部材ウェハとを接合するウェハ接合工程と、
前記溝部側からレーザ装置より532nmの波長のレーザ光を照射して前記素子搭載部材ウェハと前記蓋部材ウェハとの接合状態を維持したまま隣り合う蓋部材となる部分の間及び隣り合う素子搭載部材の間を切断するウェハ切断工程とを含み、
前記ウェハ切断工程における前記レーザ光を、前記ウェハ接合工程における前記レーザ光よりも前記溝部の底面でピークを最大にしつつ前記ウェハ接合工程における前記レーザ光の熱量よりも小さくして照射することを特徴とする圧電振動子の製造方法。
【請求項2】
前記接合パターンが、厚みが0.01μm〜0.04μmの下地層となるCr層、Cr層の上に厚みが20μm〜50μmのCu層、Cu層の上に厚みが2μm〜5μmのNi層、Ni層の上に厚みが0.01μm〜0.05μmのAu層を設けて構成され、
前記溝部の深さが、蓋部材ウェハの厚みの60%〜80%で構成され、
前記蓋部材ウェハが、コバール又は42アロイからなることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動子の製造方法。
【請求項3】
圧電片の両主面に励振電極が設けられそれぞれの励振電極と接続し端部側に伸びる引回しパターンが形成されて構成されている圧電振動素子と、
一方の主面に凹部が設けられる蓋部材と、
一方の主面に搭載パッドPと接合パターンSが設けられ、他方の主面に外部端子Gが設けられている素子搭載部材とを備え、
前記接合パターンが、素子搭載部材の一方の主面の縁部分に沿って環状に設けられつつ、厚みが0.01μm〜0.04μmの下地層となるCr層、Cr層の上に厚みが20μm〜50μmのCu層、Cu層の上に厚みが2μm〜5μmのNi層、Ni層の上に厚みが0.01μm〜0.05μmのAu層を設けて構成され、
前記蓋部材の前記素子搭載部材と接合する部分にフランジ部を設けて構成されることを特徴とする圧電振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−15779(P2012−15779A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150112(P2010−150112)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】