説明

圧電素子、圧電素子を用いたポンプ、および圧電素子の製造方法

【課題】圧電部の組成がより安定した圧電素子およびその製造方法ならびに前記圧電素子を用いたポンプを提供する。
【解決手段】本発明の圧電素子は、圧電材料を備える圧電部6と、圧電部6の主面上に形成された下部電極5と、下部電極5上に形成されたバリア層4と、バリア層4上に形成された酸化層3とを備え、バリア層4は、鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つがドープされた酸化チタンからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、圧電素子を用いたポンプ、および圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、電圧の印加によって圧電効果により歪みを生じる素子であり、広い分野で利用されている。圧電素子は、例えば、基板と、第1電極と、圧電部と、第2電極とが順次に積層されて構成される。圧電部を構成する圧電材料は、例えば、優れた圧電特性を示す鉛系ペロブスカイト型化合物である。鉛系ペロブスカイト型化合物は、ジルコン酸チタン酸鉛が代表として挙げられる。またジルコン酸チタン酸鉛の鉛の位置(Aサイト)をランタン、ネオジウムなどの3価の元素で一部置換したものや、ジルコン酸チタン酸鉛のジルコニウムやチタンの位置(Bサイト)をニオブやタンタルやタングステンなど5価や6価の元素で置換したもの、PbZrO−PbTiOの固溶体(PZT)系の材料や、いわゆるリラクサ材料として知られているPb(B’ B’ ’)O(ただし、B’は、マグネシウムや亜鉛等の陽イオンであり、B’ ’は、ニオブやタングステン等の5,6価の陽イオンである)で表される物質である。
【0003】
従来、このような圧電素子において、圧電部を構成する圧電材料から基板へと元素が拡散し、圧電部を構成する圧電材料の組成が変化することで、圧電部の圧電特性にばらつきがみられるという問題が、知られている。そこで、この問題を解決するために、例えば、特許文献1および特許文献2の技術が提案されている。
【0004】
特許文献1には、基板と圧電体薄膜(圧電材料が成膜されたもの)との間にZrO膜からなるバリア層を備える技術が開示されている。このバリア層によって、圧電体薄膜と基板との間のおける原子の相互拡散を抑制することができると記載されている。
【0005】
特許文献2には、圧電体薄膜の製造過程において拡散しやすい元素がある場合に、その拡散しやすい元素(例えば、Mg)の組成比を製造後の圧電体薄膜における組成比より高く設定した原料を使用して圧電体薄膜を製造する技術が開示されている。このように、元素の拡散を見越して、原料において、拡散しやすい元素の組成比を、製造後の圧電体薄膜における組成比より高く設定することにより、熱処理などで原料から元素が拡散しても、ほぼ化学量論比通りの圧電体薄膜を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−110158号公報
【特許文献2】特開平11−298062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、その[0005]段落に開示されているように、鉛原子が圧電体薄膜から下部電極、バリア層、ないしは基板へ拡散するおそれがある。
【0008】
特許文献2に記載の技術では、圧電体薄膜中の元素が拡散する量が一定ではないので、化学量論比通りの圧電体薄膜が得られないおそれがある。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、圧電部の組成がより安定した圧電素子を提供することである。また、本発明の目的は、この圧電素子を用いたポンプおよびこの圧電素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様に係る圧電素子は、圧電材料を備える圧電部と、前記圧電部の主面上に形成された電極と、前記電極上に形成されたバリア層と、前記バリア層上に形成された酸化層とを備え、前記バリア層は、鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つがドープされた酸化チタンからなることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、バリア層にドープされた元素によって、圧電部から第1電極方向への元素の拡散が防止されるので、圧電部の組成がより安定する。したがって、圧電素子間の圧電特性のバラツキが低減され、所定の圧電特性を有する圧電素子をより安定的に得ることができる。
【0012】
また、他の一態様では、上述の圧電素子において、前記バリア層は、好ましくは、チタン酸鉛である。
【0013】
このような構成によれば、バリア層にドープされた鉛によって、圧電部から第1電極方向への元素の拡散が防止されるので、圧電部の組成がより安定する。したがって、圧電素子間の圧電特性のバラツキが低減され、所定の圧電特性を有する圧電素子をより安定的に得ることができる。
【0014】
また、他の一態様では、これら上述の圧電素子において、前記チタン酸鉛は、前記酸化膜上にチタン層を形成し、前記チタン層上に鉛または酸化鉛を形成した後、熱処理することによって形成されることを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、チタン酸鉛を直接生成するのではなく、チタン層と鉛または酸化鉛の層とを個別に形成した後に熱処理を行うことでチタン酸鉛のバリア層を形成するので、鉛のドープ量をコントロールしつつ比較的容易にチタン酸鉛の層を形成することが可能となる。そして、このように形成されたチタン酸鉛のバリア層を備えるので、バリア層にドープされた鉛によって、圧電部から第1電極方向への元素の拡散が防止されるので、圧電部の組成がより安定する。したがって、圧電素子間の圧電特性のバラツキが低減され、所定の圧電特性を有する圧電素子をより安定的に得ることができる。
【0016】
また、他の一態様では、これら上述の圧電素子において、前記チタン酸鉛は、前記酸化膜上にチタン層を形成し、前記チタン層上に鉛または酸化鉛を形成し、前記鉛または前記酸化鉛の上に電極を形成した後、熱処理することによって形成されることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、バリア層にドープされた鉛によって、圧電部から第1電極方向への元素の拡散が防止されるので、圧電部の組成がより安定する。したがって、圧電素子間の圧電特性のバラツキが低減され、所定の圧電特性を有する圧電素子をより安定的に得ることができる。
【0018】
そして、本発明の他の一態様にかかるポンプは、これら上述の圧電素子のいずれかを備えることを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、圧電素子間のバラツキが低減された所定の圧電特性を有する圧電素子を備えたポンプを得ることができる。したがって、ポンプ間のバラツキが低減され、ポンプの機能がより安定する。
【0020】
そして、本発明の他の一態様にかかる圧電素子の製造方法は、圧電材料を備える圧電部の主面上に電極を形成する工程と、前記電極上にバリア層を形成する工程と、前記バリア層上に酸化層を形成する工程とを備え、前記バリア層は、鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つがドープされた酸化チタンからなることを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、バリア層にドープされた元素によって、圧電部から第1電極方向への元素の拡散が防止されるので、圧電部の組成がより安定する。したがって、圧電素子間の圧電特性のバラツキが低減され、所定の圧電特性を有する圧電素子をより安定的に得ることができる。
【0022】
また、他の一態様では、上述の圧電素子の製造方法において、前記バリア層を形成する工程は、前記酸化膜上にチタン層を形成し、前記チタン層上に鉛または酸化鉛を形成した後、熱処理することで、チタン酸鉛からなる前記バリア層を形成することを特徴とする。
【0023】
このような構成によれば、バリア層にドープされた鉛によって、圧電部から第1電極方向への元素の拡散が防止されるので、圧電部の組成がより安定する。したがって、圧電素子間の圧電特性のバラツキが低減され、所定の圧電特性を有する圧電素子をより安定的に得ることができる。
【0024】
また、他の一態様では、上述の圧電素子の製造方法において、前記バリア層を形成する工程は、前記酸化膜上にチタン層を形成し、前記チタン層上に鉛または酸化鉛を形成し、前記鉛または前記酸化鉛の上に電極を形成した後、熱処理することで、チタン酸鉛からなる前記バリア層を形成することを特徴とする。
【0025】
このような構成によれば、バリア層にドープされた鉛によって、圧電部から第1電極方向への元素の拡散が防止されるので、圧電部の組成がより安定する。したがって、圧電素子間の圧電特性のバラツキが低減され、所定の圧電特性を有する圧電素子をより安定的に得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の圧電素子およびその製造方法は、圧電部の組成がより安定した素子を得ることができる。そして、このような圧電素子を用いた本発明のポンプは、素子間のバラツキの少ないこのような圧電素子を用いるので、ポンプ間のバラツキが低減され、ポンプの機能がより安定する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態に係るポンプの構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態に係る圧電素子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0029】
図1は、実施の形態に係るポンプの構成を示す断面図である。図2は、実施の形態に係る圧電素子の構成を示す断面図である。
【0030】
本実施の形態における圧電素子を用いたポンプ30は、図1に示すように、電圧の印加によって圧電効果により変形する圧電素子1を含み、圧電素子1の変形に応じて流体を吐出可能なポンプヘッド20を備えて構成される。本実施の形態では、ポンプ30は、例えばインクジェット記録ヘッドである。
【0031】
圧電素子1は、電圧の印加によって圧電効果により変形する素子であり、図2に示すように、平板状であって、圧電材料を備える圧電部6と、圧電部6の一方の主面上に形成された下部電極5と、下部電極5上に形成されたバリア層4と、バリア層4上に形成された酸化層3と、圧電部6の主面と反対の他方の主面上に形成された上部電極7とを備え、基板2上に形成されている。
【0032】
基板2は、結晶シリコン基板などからなる平板板の部材である。
【0033】
酸化層3は、本実施の形態においては石英(SiO)である。酸化層3の厚さは、例えば、1.0μm程度である。この他、酸化層3は、自然酸化膜などのアモルファスの酸化シリコン膜であってもよい。なお、酸化層3は、例えば、500nm〜3μm程度に形成される。
【0034】
バリア層4は、鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つがドープされた酸化チタンからなる。より具体的に、鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素は、鉛、ランタン、マグネシウム、ニオブおよびタングステンである。バリア層4の厚さは、例えば、20〜25nm程度に形成されている。
【0035】
さらに、バリア層4は、圧電体材料であることから、圧電部6の圧電特性を高める作用を有する。より具体的に、製造工程において圧電部6の配向性がより容易に制御可能となる。さらにより具体的には、バリア層4の膜厚としては、例えば10nm〜1.0μm程度であるが、バリア層4は、バリア層4としての作用・効果を奏することができる厚さであれば特に限定されない。
【0036】
このように、バリア層4が鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つがドープされた酸化チタンであり、後述する圧電部6が鉛系ペロブスカイト型化合物からなるので、圧電部6から下部電極5への元素の拡散を低減することができる。さらに、このような圧電材料からなるバリア層4を備えることで、下部電極5と圧電部6との密着力がSiOを直接付ける場合よりも高く、下部電極5の結晶の配向性も向上する。下部電極5の配向性が良いと圧電部6の結晶配向性も向上することから、圧電定数のより高い圧電素子を得ることができる。
【0037】
下部電極5は、圧電部6に電圧を印加するための一方の電極である。下部電極5は、例えば、白金(Pt)や、イリジウム(Ir)や、酸化イリジウム(IrO)や、チタン(Ti)などである。下部電極5の厚さは、例えば100nm〜200nm程度に形成されている。
【0038】
圧電部6は、鉛系ペロブスカイト型化合物である。ここで、鉛系ペロブスカイト型化合物とは、ジルコン酸チタン酸鉛、ジルコン酸チタン酸鉛の鉛の位置(Aサイト)をランタン、ネオジウムなど3価の元素で一部置換したものや、ジルコン酸チタン酸鉛のジルコニウムやチタンの位置(Bサイト)をニオブやタンタルやタングステンなど5価や6価の元素で置換したもの、PbZrO−PbTiOの固溶体(PZT)系の材料や、いわゆるリラクサ材料として知られているPb(B’ B’ ’)O(ただし、B’はマグネシウムや亜鉛等の陽イオン、B’ ’はニオブやタングステン等の5,6価の陽イオンである。)で表される物質である。圧電部6の厚さは、500nm〜10μm程度に形成される。
【0039】
上部電極7は、圧電部6に電圧を印加するための他方の電極となるものである。上部電極7は、例えば、白金(Pt)や、イリジウム(Ir)や、酸化イリジウム(IrO)や、チタン(Ti)等である。上部電極7の厚さは、100nm程度に形成される。
【0040】
上述のように圧電素子1を構成することで、バリア層にドープされた元素によって、圧電部6から下部電極5方向への元素の拡散が防止されるので、圧電部6の組成がより安定する。したがって、圧電素子1間の圧電特性のバラツキが低減され、所定の圧電特性を有する圧電素子1をより安定的に得ることができる。
【0041】
ポンプ30は、例えば、中空の略直方体形状のポンプヘッド20を備えて構成されている。前記中空部分は、流体を貯留するためのキャビティ222である。前記ポンプヘッド20の一方面を成している上面部材は、前記圧電素子1で構成されている。前記ポンプヘッド20の前記一方面に対向する他方面を成している底面部材は、平板状のノズル板21で構成されており、ノズル板21には、該ノズル板21を貫通する貫通孔であるノズル口211が形成されている。前記ポンプヘッド20における前記一方面と前記他方面とに挟まれている側面(周面)を成している側面部材には、ポンプヘッド20のキャビティ222(前記中空部分)に流体を供給するための図略の流体供給孔が形成されている。
【0042】
このような構成のポンプヘッド20では、図2に示す基板2上に積層された圧電素子1において、前記基板2に例えばエッチングなどで酸化層3まで達する凹部2Aが形成される。また、例えばシリコンなどから成るノズル板21が積層されたインク室基板22が用意され、前記インク室基板22に例えばエッチングなどでノズル板21まで達する凹部22Aが形成される。そして、これら凹部2Aと凹部22Aとが合わさってキャビティ222を形成するように、基板2とインク室基板22とが接合される。これによって、図1に示す構成のポンプが作成される。なお、凹部2Aを形成している基板2および凹部22Aを形成しているインク室基板22が前記側面部材となっている。キャビティ222は、吐出する流体を貯蔵する空間であり、圧電素子1の変形によって容積が可変に構成される。例えば、圧電素子1は、電圧の印可によって、キャビティ222内へ凸形状または凹形状に変形し、これによってキャビティ222の容積が可変される。
【0043】
なお、上記実施の形態において、ポンプ30は、インクジェット記録ヘッドであるとしたが、液体燃料を希釈用液で希釈して希釈液体燃料を燃料電池へ供給するようなポンプなどにも好適に使用することができる。
【0044】
次に、図2に示すような圧電素子1の製造方法について説明する。本実施の形態における圧電素子1の製造方法は、基板2上に酸化層3を形成する工程と、酸化層3上にスパッタによってバリア層4の材料からなる前駆バリア層4Aを形成する工程と、バリア層4を形成する工程と、下部電極5を形成する工程と、圧電部6を形成する工程と、上部電極7を形成する工程とを備える。なお、以下の製造工程において、基板2は、厚さ200μmのシリコン基板である。
【0045】
酸化層3形成工程:
基板2上に熱酸化やCVD法などの成膜法を用いて、酸化層3を形成する。酸化層3は、厚さ0.1μmのSiOである。
【0046】
バリア層4形成工程:
次に、酸化層3が形成された基板2を常温(20℃)まで冷却した後、酸化層3上に、バリア層4の材料を成膜し前駆バリア層4Aを形成し、焼成など熱処理を行って、バリア層4を形成する。
【0047】
バリア層4の材料は、酸化層3上に、スパッタ法を用いて、チタン膜を形成し、さらに、スパッタ法を用いて、鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つの元素からなる膜を形成することで、成膜される。鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つは、鉛、酸化鉛、ランタン、マグネシウム、ニオブ、タングステンのいずれかである。チタン膜は、厚さ20nmであり、鉛膜、酸化鉛膜、ランタン膜、マグネシウム膜、ニオブ膜、タングステン膜は厚さ1〜5nmである。
【0048】
前駆バリア層4Aの形成後、焼成などの熱処理を行って、鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つがドープされた酸化チタンからなるバリア層4を形成する。熱処理は、焼成温度700℃で24時間以上焼成する。焼成には、拡散炉を用いる。
【0049】
下部電極5形成工程:
次に、バリア層4上に下部電極5を形成する。下部電極5の形成には、スパッタ法が用いられる。下部電極5は、厚さ100nmの白金である。例えば、チタン層、酸化チタン層、チタン層、白金層、チタン層を0.01μm、0.01μm、0.005μm,0.5μm、0.005μmの厚みで積層する。
【0050】
圧電部6形成工程:
次に、下部電極5の上に圧電部6を形成する。具体的に、下部電極5の上に、高温下(600℃程度)で、スパッタ法を用いて圧電部6を形成する。圧電部6の厚さは、5μmである。スパッタ法のターゲットは、ジルコニウムとチタンとが成膜後のモル比において53対47になるように調整されたPZTである。
【0051】
この他、スパッタ法のターゲットとして、ジルコニウムとチタンとが成膜後のモル比において53対47で、かつ、鉛とランタンとが成膜後のモル比において100対1であるように調整された(Pb0.99La0.01)(Zr0.53Ti0.47)Oを用いても良い。
【0052】
さらに、上記に代えて、スパッタ法のターゲットとして、ジルコニウムとチタンとが成膜後のモル比において53対47で、かつ、チタンとマグネシウムとが成膜後のモル比において46対1になるよう調整されたPb(Zr0.53Ti0.46Mg0.01)Oを用いてもよい。
【0053】
さらに、上記に代えて、スパッタ法のターゲットとして、成膜後にマグネシウムとニオブとが成膜後のモル比においてが1対2になるよう調整されたPb(Mg1/3Nb2/3)Oを用いてもよい。
【0054】
さらに、上記に代えて、スパッタ法のターゲットとして、Pb[(Zr0.2Ti0.3(Mg1/3Nb2/30.3(Zr1/3Nb2/30.1(Mg1/32/30.1]Oを用いてもよい。
【0055】
上部電極7形成工程:
次に、圧電部6の上に、上部電極7を形成する。上部電極7は、チタン、金をそれぞれ10nm、200nmの厚みで積層する。この積層には、スパッタ法もしくは蒸着法が用いられる。
【0056】
このようにして得られた圧電素子1における、バリア層4を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)で測定したところ、バリア層4の酸化層3側から下部電極5に向かって、鉛の含有量が増加していることが確認された。
【0057】
この他の実施の形態として、下部電極5の形成工程後に、バリア層4を形成してもよい。すなわち、バリア層4の材料の成膜後、成膜したバリア層4の上に下部電極5を形成し、熱処理を行って、バリア層4を形成してもよい。
【実施例】
【0058】
発明者は、バリア層4の形成工程の条件を変えて、上記実施の形態により製造した圧電素子1の特性を、バリア層が酸化チタンである圧電素子(比較例)の特性と比較した。以下の実施例1〜3の試験結果について説明する。
【0059】
なお、いずれの実施例1〜3および比較例においても、圧電部6の形成工程で用いられるスパッタ法のターゲットとして、ジルコニウムとチタンとが成膜後のモル比において53対47になるように調整されたPZTを用いた。
【0060】
圧電定数d31は、セラミックス第42巻第3号2007年184頁記載の方法に従って測定した。
【0061】
<実施例1>
バリア層4の形成工程において、酸化層3上に、厚さ20nmのチタンを形成後、厚さ1nmの鉛を形成し、熱処理後、バリア層4を形成する。その後、下部電極5の形成工程に進む。
【0062】
<実施例2>
バリア層4の形成工程において、酸化層3上に、厚さ20nmのチタンを形成後、厚さ3nmの酸化鉛を形成し、熱処理後、バリア層4を形成する。その後、下部電極5の形成工程に進む。
【0063】
<実施例3>
バリア層4の形成工程において、酸化層3上に、厚さ20nmのチタンを形成後、厚さ1nmの鉛を形成する。続いて、下部電極5の形成工程に進み、下部電極5の形成後、熱処理を行い、バリア層4を形成する。
【0064】
<比較例>
バリア層4の形成工程において、酸化層3上に、厚さ20nmのチタンを形成し、熱処理後、酸化チタンからなるバリア層を形成する。その後、下部電極5の形成工程に進む。
【0065】
【表1】

表1に示されるように、実施例1〜3ではいずれもd31は、絶対値で142pm/V前後であり、本実施の形態におけるバリア層4の存在によって、圧電素子間の圧電特性のバラツキが低減されることを示している。
【0066】
さらに、実施例1〜3ではいずれもd31は、絶対値で140pm/V以上という高い圧電特性を示した。さらに、比較例と比べて、実施例1〜3ではいずれも比誘電率は、1026以上という高い圧電特性を示した。
【0067】
発明者は、バリア層4の形成工程と圧電部6の形成工程との条件を変えて、上記実施の形態により製造した圧電素子1の特性を試験した。各実施例4〜7と対応する比較例は、バリア層が酸化チタンである圧電素子であり、各比較例の圧電部6の形成工程での条件は、対応する各実施例と同様である。以下の実施例4〜7の試験結果について説明する。
【0068】
<実施例4>
バリア層4の形成工程において、酸化層3上に、厚さ20nmのチタンを形成後、鉛、ランタンをそれぞれ厚さ1nm形成し、熱処理を行って、バリア層4を形成する。圧電部6の形成工程において、スパッタ法のターゲットとして、ジルコニウムとチタンとが成膜後のモル比において53対47で、かつ、鉛とランタンとが成膜後のモル比において100対1であるように調整された(Pb0.99La0.01)(Zr0.53Ti0.47)Oを用いる。
【0069】
<実施例5>
バリア層4の形成工程において、酸化層3上に、厚さ20nmのチタンを形成後、厚さ3nmの酸化鉛を形成し、熱処理を行って、バリア層4を形成する。圧電部6の形成工程において、スパッタ法のターゲットとして、ジルコニウムとチタンとが成膜後のモル比において53対47で、かつ、チタンとマグネシウムとが成膜後のモル比において46対1になるよう調整されたPb(Zr0.53Ti0.46Mg0.01)Oを用いる。
【0070】
<実施例6>
バリア層4の形成工程において、酸化層3上に、厚さ20nmのチタンを形成後、厚さ3nmの酸化鉛を形成し、熱処理を行って、バリア層4を形成する。圧電部6の形成工程において、スパッタ法のターゲットとして、成膜後にマグネシウムとニオブとが成膜後のモル比においてが1対2になるよう調整されたPb(Mg1/3Nb2/3)Oを用いる。
【0071】
<実施例7>
バリア層4の形成工程において、酸化層3上に、厚さ20nmのチタンを形成後、厚さ1nmの鉛を形成し、熱処理を行って、バリア層4を形成する。圧電部6の形成工程において、スパッタ法のターゲットとして、Pb[(Zr0.2Ti0.3(Mg1/3Nb2/30.3(Zr1/3Nb2/30.1(Mg1/32/30.1]Oを用いる。
【0072】
【表2】

表2に示されるように、バリア層4を有する各実施例4〜7では、それぞれ対応する比較例に比べて、いずれもd31が1.3〜1.5倍に高くなり、圧電定数の向上を示している。
【0073】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0074】
1 圧電素子
2 基板
3 酸化層
4 バリア層
5 下部電極
6 圧電部
7 上部電極
20 ポンプヘッド
21 ノズル板
22 インク室基板
211 ノズル口
222 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料を備える圧電部と、
前記圧電部の主面上に形成された電極と、
前記電極上に形成されたバリア層と、
前記バリア層上に形成された酸化層とを備え、
前記バリア層は、鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つがドープされた酸化チタンからなること
を特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記バリア層は、チタン酸鉛であること
を特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記チタン酸鉛は、前記酸化膜上にチタン層を形成し、前記チタン層上に鉛または酸化鉛を形成した後、熱処理することによって形成されること
を特徴とする請求項2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記チタン酸鉛は、前記酸化膜上にチタン層を形成し、前記チタン層上に鉛または酸化鉛を形成し、前記鉛または前記酸化鉛の上に電極を形成した後、熱処理することによって形成されること
を特徴とする請求項2に記載の圧電素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の圧電素子を備えたポンプ。
【請求項6】
圧電材料を備える圧電部の面上に電極を形成する工程と、
前記電極上にバリア層を形成する工程と、
前記バリア層上に酸化層を形成する工程とを備え、
前記バリア層は、鉛系ペロブスカイト型化合物に含まれる元素のうち、チタンと酸素を除く元素の少なくとも1つがドープされた酸化チタンからなること
を特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項7】
前記バリア層を形成する工程は、前記酸化膜上にチタン層を形成し、前記チタン層上に鉛または酸化鉛を形成した後、熱処理することで、チタン酸鉛からなる前記バリア層を形成すること
を特徴とする請求項6に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項8】
前記バリア層を形成する工程は、前記酸化膜上にチタン層を形成し、前記チタン層上に鉛または酸化鉛を形成し、前記鉛または前記酸化鉛の上に電極を形成した後、熱処理することで、チタン酸鉛からなる前記バリア層を形成すること
を特徴とする請求項6に記載の圧電素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−119608(P2011−119608A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277836(P2009−277836)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】