説明

地磁気センサの異常判定装置、移動方位特定装置、コンピュータプログラム及び地磁気センサの異常判定方法

【課題】地磁気センサの異常を判定することができる地磁気センサの異常判定装置、地磁気センサが異常である場合でも安価に移動方位を特定することができる移動方位特定装置、コンピュータプログラム及び地磁気センサの異常判定方法を提供する。
【解決手段】地磁気センサ判定部14は、加速度センサ22で検出したデータにより装置の移動方向の変化に伴う加速度を算出し、算出した加速度及び距離センサ21で検出した移動距離に基づいて、装置の移動方位変化Δθaを算出する。また、地磁気センサ判定部14は、地磁気センサ23で検出したデータにより装置の移動方位変化Δθmを算出する。地磁気センサ判定部14は、算出した移動方位変化Δθm及び移動方位変化Δθaの差に応じて、地磁気センサ23の正常又は異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置特定の技術に関し、地磁気センサの異常を判定することができる地磁気センサの異常判定装置、該地磁気センサの異常判定装置を備え地磁気センサが異常である場合でも安価に移動方位を特定することができる移動方位特定装置、前記地磁気センサ判定装置を実現するためのコンピュータプログラム及び地磁気センサの異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の移動体の位置を検出するためにナビゲーションで広く利用されている位置検出方法には、例えば、自立航法、衛星航法、地図マッチング法、ハイブリッド航法などがある。自立航法は、距離センサ、方位センサ又は角速度センサなど用い、例えば、経緯度座標系を基にした直交座標系に対する車両の走行の方位角と単位時間当たりの走行距離に基づいて、逐次車両位置を算出するものであるが、道路との整合性は考慮されておらず、走行距離の増加に応じて車両位置の誤差が累積するという問題がある。
【0003】
また、衛星航法は、GPS(Global Positioning System)を用いるものであり、検出される位置には、10〜20m程度の誤差を含む。GPSを用いるため、距離センサ、方位センサ又は角速度センサ等の車載のセンサは不要である。しかし、高架下の道路、建物に挟まれた道路、山道、街路樹等で覆われた道路では、所定数のGPS衛星から電波を受信することができず、検出精度が大きく劣化するという問題がある。また、道路間隔の狭い細街路では、走行道路を間違うという問題もある。
【0004】
また、地図マッチング法は、自立航法による走行軌跡と道路地図との整合性(マッチング)を考慮して車両の位置を検出するものである(特許文献1参照)。すなわち、自立航法による軌跡と、道路地図データとを比較して相関をとりながら、走行していると考えられる複数の道路候補の中から、最も確からしい道路を選定してゆく。そして、候補となる道路が1本に限定された時点で、自立航法により得られた車両の走行軌跡を道路に合致させる。しかし、限定した道路が間違っている場合、それ以降の位置検出が不能になるという問題がある。
【0005】
また、ハイブリッド航法は、衛星航法と地図マッチング法とを組み合わせたものであり、自立航法と衛星航法の誤差を勘案しながら、合理的に車両の位置を推定し、走行している道路を特定するものである(特許文献2参照)。ハイブリッド航法では、例えば、通常時には、地図マッチング法を用いて車両の位置を検出する。地図マッチング法で車両の位置が検出不能に陥った場合、衛星航法により車両の位置、方位を検出して車両の位置を推定し、道路地図データとの整合性を考慮して車両の位置を検出するものである。ハイブリッド航法を用いれば、特殊な場合を除けば、車両が走行している道路を間違う可能性は殆どなく、道路方向の位置精度も、平均的には10m程度の誤差範囲内であり、道路案内目的のナビゲーションでは、実用上殆ど問題ない精度レベルである。
【0006】
一方、歩行者が携帯する携帯電話又は簡易型ナビゲーション装置等の携帯機器では、GPS衛星又は基地局との通信を用いて、歩行者の現在位置を検出する方法が実用化されている。GPS衛星から電波を受信して位置を検出する場合、GPS衛星の受信状態が良いときには、位置誤差が10〜20m程度であるが、都心のビル等の建造物の谷間又は高架下の道路などでは、位置を検出することが不能となる場合、あるいはマルチパス等の影響により位置誤差が数百m程度になり正確な位置が求められない場合がある。特に、歩行者の場合、車両等の移動体と異なり、建造物の近くを建造物に沿って歩く傾向があり、また、屋内に入る頻度が高いため、GPS衛星からの電波の受信レベルが低下する場合、あるいはGPS衛星からの電波をほとんど受信することができない事態になる場合がある。
【0007】
従来は、携帯機器を用いた位置検出では、だいたいの位置が分かれば、歩行者が最終的な位置を判断することも可能なので、ある程度の誤差があっても使用に耐えるものであった。しかし、近年、携帯機器保有者の防犯の必要性、あるいは車両との交通事故の防止の必要性が増し、安全又は安心の観点から、より高精度の位置検出が必要になってきており、少なくとも、道路間隔の狭い細街路での道路特定、建造物の特定、高架下等での位置精度向上が要求されてきている。
【0008】
このような状況にあって、携帯機器を用いた位置検出においても、GPS衛星による位置検出だけでなく、自立航法を利用するもの、あるいは地図マッチング法を利用するものが提案されている。
【0009】
例えば、歩行者の歩幅から距離を算出する装置(特許文献3、4参照)、地磁気方位センサ又は角速度センサ及び加速度センサによる自立航法を用いて、GPSデータを補正し、あるいはGPSデータを取得できない場合に自立航法を用いる方法(特許文献5参照)、測定地点の地磁気の垂直成分を記憶しておき、3軸地磁気センサで検出したデータから、水平面に対する傾斜角度を算出し、これをもとに方位を補正する方法(特許文献6参照)が開示されている。
【特許文献1】特開昭63−148115号公報
【特許文献2】特開平2−275310号公報
【特許文献3】特開平8−68643号公報
【特許文献4】特開平9−89584号公報
【特許文献5】特開2004−233058号公報
【特許文献6】特開昭63−27711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
歩行者が屋内に入った場合、あるいは建造物に沿って歩行するような場合のようにGPS衛星による位置検出ができない場所では、自立航法のみで位置を検出することを余儀なくされる場合がある。地図マッチング法も利用可能であるが、あくまで自立航法を用いて位置検出する必要がある。位置検出の過程で、歩行者の歩行方位を誤って検出した場合には、歩行者の歩行に伴って位置検出の誤差が増加する。従って、自立航法を利用する際には、歩行者の歩行方位の検出精度をできるだけ向上させておく必要がある。
【0011】
自立航法で用いる方位センサとしては、例えば、地磁気センサ、角加速度センサ(振動ジャイロ、光ファイバジャイロ、機械式ジャイロ等)などがある。車載ナビでは、角速度センサ、GPS及び地図情報を組み合わせ利用して移動方位を検出し、あるいは移動方位を補正する技術が実用化されている。
【0012】
しかし、角加速度センサ(ジャイロ)は一般的に高価で部品の大きさにも限界があり、歩行者が携帯する小型化・軽量化を必要とする携帯機器に搭載することは実用的ではなかった。一方、地磁気センサは、比較的安価であり、部品の大きさの制約も少ないことから、すでに携帯機器に搭載されている。しかし、地磁気センサを建物内で使用した場合、建物内の鉄骨等の影響により、地磁気センサで検出するデータに、一時的に大きな検出誤差が生じる場合があった。このため、地磁気センサで検出されたデータが正しいのか間違っているのかを容易に判断することができるとともに、屋内等でも安価に歩行者の歩行方位を検出することが望まれていた。
【0013】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、地磁気センサの異常を判定することができる地磁気センサの異常判定装置、該地磁気センサの異常判定装置を備え地磁気センサが異常である場合でも安価に移動対象の移動方位を特定することができる移動方位特定装置、前記地磁気センサの異常判定装置を実現するためのコンピュータプログラム及び地磁気センサの異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明に係る地磁気センサの異常判定装置は、地磁気センサの異常を判定する地磁気センサの異常判定装置であって、地磁気センサで検出したデータにより移動対象の第1移動方位変化を算出する第1方位算出手段と、加速度センサで検出したデータにより前記移動対象の移動方向の変化に伴う加速度を算出する加速度算出手段と、前記移動対象の移動距離を取得する移動距離取得手段と、前記加速度算出手段で算出した加速度及び前記移動距離取得手段で取得した移動距離に基づいて、前記移動対象の第2移動方位変化を算出する第2方位算出手段と、前記第1移動方位変化及び前記第2移動方位変化の差に基づいて、前記地磁気センサの異常を判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
第2発明に係る移動方位特定装置は、第1発明に係る地磁気センサの異常判定装置と、前記判定手段の判定結果に応じて移動対象の移動方位を特定する移動方位特定手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
第3発明に係る移動方位特定装置は、第2発明において、前記移動方位特定手段は、前記判定手段で地磁気センサが異常でないと判定した場合、該地磁気センサで検出したデータを用いて算出した移動方位を移動対象の移動方位として特定するように構成してあることを特徴とする。
【0017】
第4発明に係る移動方位特定装置は、第2発明において、前記移動方位特定手段は、前記判定手段で地磁気センサが異常であると判定した場合、直近に特定した移動方位及び前記第2方位算出手段で算出した第2移動方位変化により移動対象の移動方位を特定するように構成してあることを特徴とする。
【0018】
第5発明に係る移動方位特定装置は、第2発明において、前記地磁気センサで検出したデータを用いて算出した移動方位及び前記第2移動方位変化により算出した移動方位を適宜の比率で重み付けする重み付け手段を備え、前記移動方位特定手段は、前記判定手段で地磁気センサが異常でないと判定した場合、前記重み付け手段で重み付けた移動方位に基づいて移動対象の移動方位を特定するように構成してあることを特徴とする。
【0019】
第6発明に係る移動方位特定装置は、第2発明乃至第5発明のいずれか1つにおいて、前記判定手段で地磁気センサが異常であると判定した場合に、再度前記判定手段で地磁気センサが異常でないと判定したとき、前記地磁気センサが異常であるという判定を無効にする無効手段を備えることを特徴とする。
【0020】
第7発明に係る移動方位特定装置は、第2発明乃至第5発明のいずれか1つにおいて、前記判定手段で地磁気センサが異常であると判定した場合に、前記第1方位算出手段で算出した第1移動方位変化及び前記第2方位算出手段で算出した第2移動方位変化の差が所定の閾値より小さくなったとき、前記地磁気センサが異常であるという判定を無効にする無効手段を備えることを特徴とする。
【0021】
第8発明に係る移動方位特定装置は、第2発明乃至第5発明のいずれか1つにおいて、所定の移動距離又は所定の時間に亘って、前記判定手段で地磁気センサが異常であると判定した場合、前記地磁気センサの異常判定を無効にする無効手段を備えることを特徴とする。
【0022】
第9発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータを、地磁気センサの異常を判定する手段として機能させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータを、地磁気センサで検出したデータにより移動対象の第1移動方位変化を算出する第1方位算出手段と、加速度センサで検出したデータにより前記移動対象の移動方向の変化に伴う加速度を算出する加速度算出手段と、該加速度算出手段で算出した加速度及び前記移動対象の移動距離に基づいて、該移動対象の第2移動方位変化を算出する第2方位算出手段と、前記第1移動方位変化及び第2移動方位変化の差に基づいて、前記地磁気センサの異常を判定する判定手段として機能させることを特徴とする。
【0023】
第10発明に係る地磁気センサの異常判定方法は、地磁気センサの異常を判定する異常判定装置の地磁気センサの異常判定方法であって、前記異常判定装置は、地磁気センサで検出したデータにより移動対象の第1移動方位変化を算出し、加速度センサで検出したデータにより前記移動対象の移動方向の変化に伴う加速度を算出し、前記移動対象の移動距離を取得し、算出した加速度及び取得した移動距離に基づいて、前記移動対象の第2移動方位変化を算出し、算出した第1移動方位変化及び第2移動方位変化の差に基づいて、前記地磁気センサの異常を判定することを特徴とする。
【0024】
第1発明、第9発明及び第10発明にあっては、移動対象(例えば、歩行者が携帯できる携帯機器などの装置)に地磁気センサ及び加速度センサを設けてある。歩行者の座標系を基準直交3次元座標(x、y、z)とする。基準直交3次元座標(x、y、z)は、例えば、3つの座標軸のうちの2軸(x軸、y軸)で特定される基準面を有する。基準面は、例えば、歩行者が歩行する道路又は通路の面に平行な面とすることができる。また、y軸方向を歩行者の歩行方向とし、x軸を歩行者の歩行方向に対して右真横方向、z軸を鉛直方向とすることができる。装置の座標系を装置直交3次元座標(X、Y、Z)とし、基準直交3次元座標(x、y、z)に対する装置直交3次元座標(X、Y、Z)の回転角を、それぞれα(ピッチ角)、β(ロール角)、γ(ヨー角)とし、すべて右ねじの進む方向を正とする。この場合、装置直交3次元座標(X、Y、Z)と基準直交3次元座標(x、y、z)との間では、ピッチ角α、ロール角β、ヨー角γをパラメータとする所定の変換式が成立する。
【0025】
地磁気センサの異常判定装置は、地磁気センサで検出したデータにより装置(移動対象)の第1移動方位変化Δθmを算出する。すなわち、地磁気センサで検出した装置直交3次元座標(X、Y、Z)でのデータ(地磁気成分)と前記変換式とにより、基準直交3次元座標(x、y、z)でのx軸、y軸、z軸それぞれの地磁気成分(例えば、mx、my、mz)を算出する。歩行者の歩行方位(y軸の向き)と真東との方位角をθm(反時計回りを正)とすると、tanθm=my/mxにより方位角θmを求めることができる。第1移動方位変化Δθmは、適宜の時間(例えば、時刻t0から時刻t1までの時間)の方位角の変化(例えば、時刻t1の方位角θm1及び時刻t0の方位角θm0の差)により求めることができる。
【0026】
地磁気センサの異常判定装置は、加速度センサで検出したデータにより装置の移動方向の変化に伴う加速度を算出し、算出した加速度及び取得した移動距離に基づいて、装置の第2移動方位変化Δθaを算出する。例えば、前記時刻t0から時刻t1にかけて歩行者が半径rで歩行方位を変えたとし、この間に歩行した歩行距離(移動距離)をdとする。また、この間に加速度センサで検出したデータから算出された歩行者の真横方向の加速度(移動方向の変化に伴う加速度)をaxとする。第2移動方位変化Δθaは、Δθa=ax・(t1−t0)2 /dで求めることができる。なお、加速度センサは、上述の変換式により歩行者の真横方向の加速度axを算出することができるものであれば、3軸加速度センサ、2軸加速度センサ、1軸加速度センサの組み合わせなどであってもよい。
【0027】
地磁気センサの異常判定装置は、第1移動方位変化Δθm及び第2移動方位変化Δθaの差に基づいて、地磁気センサの異常を判定する。例えば、第1移動方位変化Δθm及び第2移動方位変化Δθaの差の絶対値が所定の閾値より大きい場合、地磁気センサ(地磁気センサで検出されたデータ)は異常であると判定することができ、第1移動方位変化Δθm及び第2移動方位変化Δθaの差の絶対値が所定の閾値より小さい場合、地磁気センサ(地磁気センサで検出されたデータ)は異常でない(正常である)と判定することができる。これにより、地磁気センサを建物内で使用した場合に、建物内の鉄骨等の影響により、地磁気センサで検出されたデータが正しいのか間違っているのかを容易に判断することができる。
【0028】
第2発明にあっては、移動方位特定装置は、地磁気センサの異常判定装置の判定結果に応じて移動対象(装置)の移動方位を特定する。例えば、地磁気センサで検出されたデータが異常でないと判定した場合、地磁気センサのデータを用いて移動方位を特定する。一方、地磁気センサで検出されたデータが異常であると判定した場合、加速度センサのデータを用いて移動方位を特定する。これにより、自立航法を用いる場合に地磁気センサが一時的に利用することができない屋内等でもジャイロのような高価な方位センサを用いることなく安価に歩行者の歩行方位を検出することができる。
【0029】
第3発明にあっては、移動方位特定装置は、地磁気センサが異常(地磁気センサで検出されたデータが異常)でないと判定した場合、地磁気センサで検出したデータを用いて算出した移動方位を移動対象(装置)の移動方位として特定する。例えば、地磁気センサで検出したデータを用いて基準直交3次元座標(x、y、z)でのx軸及びy軸それぞれの地磁気成分(例えば、mx、my)を算出し、tanθm=my/mxにより移動方位θmを求めることができる。これにより、地磁気センサで検出されたデータが正常値である場合に限定して歩行者の歩行方位を検出することができ、誤った方位検出を未然に防止することができる。
【0030】
第4発明にあっては、移動方位特定装置は、地磁気センサが異常(地磁気センサで検出されたデータが異常)であると判定した場合、直近に特定した移動方位及び算出した第2移動方位変化により移動対象(装置)の移動方位を特定する。例えば、直近として時刻t0に特定した移動方位(方位角)をθ0(時刻t0にて加速度センサで検出したデータを用いて特定した移動方位、あるいは、時刻t0にて地磁気センサで検出したデータが正常であれば地磁気センサで検出したデータを用いて特定した移動方位)とし、算出した第2移動方位変化をΔθaとすると、時刻t1での移動対象の移動方位を(θ0+Δθa)により求めることができる。これにより、地磁気センサで検出されたデータが異常値である場合に、異常値を排除して歩行者の歩行方位を検出することができ、誤った方位検出を未然に防止することができる。
【0031】
第5発明にあっては、移動方位特定装置は、地磁気センサで検出したデータを用いて算出した移動方位及び第2移動方位変化により算出した移動方位を適宜の比率で重み付けし、地磁気センサが異常でないと判定した場合、重み付けた移動方位に基づいて移動対象(装置)の移動方位を特定する。例えば、地磁気センサで検出したデータを用いて算出した移動方位をθmとし、第2移動方位変化Δθaにより算出した移動方位を(θ0+Δθa)とする。移動方位特定装置は、地磁気センサが正常であると判定した場合、移動対象の移動方位を{w1・θm+w2・(θ0+Δθa)}により求める。ここで、w1、w2は重み付け係数であり、w1+w2=1を充足する適宜の値とすることができる。例えば、θm及び(θ0+Δθa)の差の絶対値が小さいほど、w1を1に近づけ、w2を0に近づけることができる。また、θm及び(θ0+Δθa)の差の絶対値が大きいほど、w1を0に近づけ、w2を1に近づけることができる。これにより、地磁気センサで検出したデータの確からしさの度合いに応じて移動対象の移動方位を連続的又は段階的に変えることができ、精度良く移動対象の移動方位を求めることができる。
【0032】
第6発明にあっては、移動方位特定装置は、地磁気センサが異常であると判定した場合に、再度地磁気センサが異常でないと判定したとき、地磁気センサが異常であるという判定を無効にする。これにより、例えば、歩行者が屋内に入った後に屋外に出た場合、あるいは、歩行者が一時的に建物に沿って歩行した場合に、一時的に地磁気センサで検出するデータが異常値であっても、その後正常値に戻ったときには地磁気センサを用いて歩行者の歩行方位を検出することができる。
【0033】
第7発明にあっては、移動方位特定装置は、地磁気センサが異常であると判定した場合に、算出した第1移動方位変化及び第2移動方位変化の差が所定の閾値より小さくなったとき、地磁気センサが異常であるという判定を無効にする。これにより、例えば、歩行者が屋内に入った後に屋外に出た場合、あるいは、歩行者が一時的に建物に沿って歩行した場合に、一時的に地磁気センサで検出するデータが異常値であっても、その後正常値に戻ったときには地磁気センサを用いて歩行者の歩行方位を検出することができる。
【0034】
第8発明にあっては、移動方位特定装置は、所定の移動距離(例えば、50m)又は所定の時間(例えば、1分)に亘って、地磁気センサが異常であると判定した場合、地磁気センサの異常判定を無効にする。これにより、地磁気センサを使用しない状態が長時間継続することを防止する。
【発明の効果】
【0035】
本発明にあっては、地磁気センサの異常を判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る位置特定装置としての位置検出装置100の構成の一例を示すブロック図である。位置検出装置100は、移動対象としての歩行者(自転車で走行する歩行者も含む)が携帯可能であって、後述するように地磁気センサの異常を判定する機能、歩行者の移動方位(歩行方位)を検出する機能、歩行者の位置を検出する機能、歩行者に携帯されて移動する移動対象としての装置の姿勢を特定する機能などを有する。
【0037】
位置検出装置100は、装置全体を制御する制御部10、通信部11、測位部20、GPS12、地図データベース13、地磁気センサの異常判定装置としての地磁気センサ判定部14、方位特定部15、姿勢特定部30、記憶部16、操作部17、出力部18、位置検出処理部40などを備えている。また、地磁気センサ判定部14及び方位特定部15などにより移動方位特定装置を構成することができる。なお、GPS12を備えない構成とすることもできる。この場合であっても、自立航法又は地図マッチング法により歩行者の位置を検出することができる。
【0038】
測位部20は、距離センサ21、加速度センサ22、地磁気センサ23、方位補正部24、センサ較正部25などを備えている。また、姿勢特定部30は、座標変換部31、角度算出部32、判定部33などを備えている。また、位置検出処理部40は、位置推定部41、誤差算出部42、属性判定部43、歩行挙動判定部44、位置更新部45、信頼度算出部46、評価部47などを備える。
【0039】
通信部11は、光ビーコン、電波ビーコン、RFID若しくはDSRC等の路上装置との間で通信を行う狭域通信機能、UHF帯若しくはVHF帯などの無線LAN等の中域通信機能、又は、携帯電話、PHS、多重FM放送若しくはインターネット通信などの広域通信機能を備える。通信部11は、例えば、交差点の周辺を範囲とした無線LAN等の中域通信を利用し、路上装置間の路路間通信、路上装置と車両との路車間通信、又は車々間通信で通信された地図情報又は交差点の信号情報などを取得する。ここで、路上装置としては、例えば、超音波感知器、光ビーコン若しくは画像感知器等の交通情報収集装置、交通情報を文字又は図形で提供する情報板装置、信号制御装置等がある。また、通信部11は、携帯電話等の広域通信を利用することにより、情報処理センタ又は交通管制センタ等のセンタ装置から歩行者の周辺の交差点の信号情報又は地図情報を取得することもできる。
【0040】
通信部11は、基地局との間で通信を行う通信機能を備え、複数の基地局からの電波を受信し、受信結果を測位部20へ出力する。また、通信部11は、路上装置との狭域通信により得られた通信地点の位置情報を測位部20へ出力する。
【0041】
測位部20は、歩行者の位置を時々刻々(例えば、0.5秒、1秒等の経過の都度、1m、2m等の移動の都度など)測位し(測位位置を求め)、歩行者の移動距離及び移動方位(測位方位)を時刻とともに測位軌跡として記憶部15に記憶する。
【0042】
距離センサ21は、非常に短い時間での速度、移動距離を検出することができる加速度センサ、比較的長い移動距離を検出することができる歩数センサなどを備えている。ここで歩数センサとして、例えば加速度センサを用いれば、歩行のピッチに合わせて生ずる急峻なデータが得られ、この数を計数することにより歩数や歩行速度を求めることができる。また、この場合、自転車に乗ってペダルをこいでいる場合、あるいは、歩道橋又は地下横断通路の階段を上下する場合には、急峻なデータの特性、例えば、ピーク値(歩行の強さ)が異なるため、これにより、ある程度歩行場所を特定することも可能である。これにより、自立航法において歩行者の位置を短時間かつ短距離の歩行毎に検出することができる。なお、都市圏以外で周囲にビル等がなくGPS衛星の測位精度が非常に良好な場合には、歩数センサを使用せず、GPSの位置測位の差により、歩行した距離を算出するようにしてもよい。なお本願では、歩行速度は、歩行ピッチ(単位時間当たりの歩数)を含む概念で用いる。
【0043】
加速度センサ22は、例えば、ピエゾ抵抗型、静電容量型、熱検知型などの検知機能を有し、3軸加速度センサ、2軸加速度センサ、1軸加速度センサを組み合わせたものなどであり、相互に直交する3軸(例えば、X軸、Y軸、Z軸)方向のすべて又は一部の加速度を検出し、検出した加速度を地磁気センサ判定部14及び姿勢特定部30へ出力する。
【0044】
地磁気センサ23は、例えば、3軸地磁気センサ又は2軸地磁気センサなどであり、相互に直交する3軸(例えば、X軸、Y軸、Z軸)方向のすべて又は一部の地磁気を検出し、検出した地磁気を地磁気センサ判定部14及び姿勢特定部30へ出力する。
【0045】
方位補正部24は、地図マッチング法により、歩行者が歩行する道路が特定され、歩行者の推定位置が確定し、かつ測位方位(移動方位)が所定の移動距離(例えば、20m)以上変化がない場合に、測位方位を地図上の道路の方位に補正する。なお、方位補正の詳細は後述する。
【0046】
センサ較正部25は、加速度センサ又は歩数センサの較正を行い、例えば、地図マッチング法により2地点間の通過が確実であると判定した場合、その間の道路地図の距離とその間に計測された歩数とから歩数センサを較正する。なお、2地点間の測位軌跡により歩行距離を補正しても良い。
【0047】
GPS12は、複数のGPS衛星から電波を受信し、歩行者の位置を測位する。なお、GPS12に加えて、DGPS(ディファレンシャルGPS)を搭載することもできる。DGPSは、予め位置が分かっている基準局から発信されるFM放送又は中波を受信し、GPS12で求めた測位位置のずれを補正することができ、歩行者の位置の精度を向上させることができる。なお、携帯電話の複数の基地局からの電波により位置を概略的に測位する方式とGPSとを複合した形で測位することも可能である。これにより、屋内でGPS衛星からの電波を受信しにくい場合でも、位置精度が悪いものの一応位置を得ることができる確率が高くなる。なお、通常時には、測位部20とGPS12とを用いて、衛星航法又はハイブリッド航法により歩行者の位置を検出することができるが、GPS12で測位することができない場合、測位部20を用いて、自立航法又は地図マッチング法により歩行者の位置を検出することができる。
【0048】
地磁気センサ判定部14は、地磁気センサ23で検出したデータ及び加速度センサ22で検出したデータを用いて、地磁気センサ23が正常であるか又は異常であるか(地磁気センサ23で検出するデータが正常か異常か)を判定する。以下、地磁気センサ23の異常の判定方法について説明する。
【0049】
図2は歩行者の座標系と装置の座標系との関係を示す説明図である。図2に示すように、歩行者の座標系を基準直交3次元座標(x、y、z)とする。基準直交3次元座標(x、y、z)は、例えば、3つの座標軸のうちの2軸(x軸、y軸)で特定される基準面を有する。基準面は、例えば、歩行者が歩行する道路又は通路の面に平行な面とすることができる。また、y軸方向を歩行者の歩行方向とし、x軸を歩行者の歩行方向に対して右真横方向、z軸を鉛直方向とすることができる。
【0050】
一方、装置の座標系を装置直交3次元座標(X、Y、Z)とする。装置直交3次元座標(X、Y、Z)は、位置検出装置100の座標系を示し、例えば、加速度センサ22が3軸加速度センサである場合、各軸をX軸、Y軸、Z軸に対応させることができる。また、地磁気センサ23が3軸地磁気センサである場合、各軸をX軸、Y軸、Z軸とすることができる。なお、以下では、加速度センサ22は3軸加速度センサであり、地磁気センサ23は3軸地磁気センサであるとし、説明を簡略化するために、加速度センサ22の3軸(X軸、Y軸、Z軸)と地磁気センサ23の3軸(X軸、Y軸、Z軸)とが同一であるとするが、予め対応する軸同士の角度が分かっていれば、加速度センサ22の3軸と地磁気センサ23の3軸とが同一でなくてもよい。
【0051】
基準直交3次元座標(x、y、z)に対する装置直交3次元座標(X、Y、Z)の回転角を、それぞれα(ピッチ角)、β(ロール角)、γ(ヨー角)とし、すべて右ねじの進む方向を正とする。この場合、装置直交3次元座標(X、Y、Z)と基準直交3次元座標(x、y、z)との間では、ピッチ角α、ロール角β、ヨー角γをパラメータとして、式(1)及び式(2)で表すことができる変換式が成立する。
【0052】
【数1】

【0053】
地磁気センサ判定部14は、加速度センサ22で検出したデータにより装置の移動方向の変化に伴う加速度を算出し、算出した加速度及び距離センサ21で検出したデータ(例えば、歩数データ)により求められた移動距離(歩行距離)に基づいて、装置の移動方位変化Δθaを算出する。
【0054】
図3は加速度データにより歩行方位の変化を算出する一例を示す説明図である。図3は歩行者の歩行方位の変化を模式的に示すものであり、例えば、時刻t0から時刻t1にかけて歩行者が半径rで歩行方位を変えたとする。車両と異なり、歩行者の場合には、比較的短い時間に歩行方位を変えて歩行するという特性に注目することができる。なお、半径rは時刻t0から時刻t1にかけての歩行軌跡を近似的に表わしている。また、時刻t0から時刻t1までの間に歩行者の歩行距離(移動距離)をdとする。歩行距離dは半径rの円周の一部となる。
【0055】
時刻t0から時刻t1までの間に加速度センサ22で検出したデータから算出された歩行者の真横方向(x方向)の加速度(移動方向の変化に伴う加速度)をaxとする。なお、加速度axは、加速度センサ22で検出したX軸、Y軸及びZ軸成分の加速度をACX 、ACY 、ACZ とすると、式(3)を用いて算出することができる。
【0056】
【数2】

【0057】
なお、加速度axは、時刻t0から時刻t1までの平均値を用いることができる。これにより、歩行者の歩行に伴う左右の揺れにより真横方向の加速度の変動を平均化して、歩行者の歩行特性の時間的変化を相殺するとともに、算出する加速度axの誤差を小さくすることができる。また、時刻t0から時刻t1までの時間は、例えば、歩数の整数倍、あるいは歩数の偶数倍とすることが好ましい。これにより左右の揺れによる真横方向の加速度axの誤差を防止することができる。
【0058】
また、この場合には、加速度センサ22の各軸のデータに関して、歩行周期の複数倍を基準としたような平均的な値(例えば、平均値、中央値、最大値と最小値の中間値等であり、以下、これらを「標準値」という。)ACX、ACY、ACZを式(3)に代入することにより、平均的な加速度axを得ることができる。
【0059】
図3において、ax=r・(Δθa)2 /(t1−t0)2 、及びd=r・Δθaが成立することから、時刻t0から時刻t1までの間の移動方位変化Δθaは、式(4)で算出することができる。なお、加速度センサ22は、式(3)により歩行者の真横方向の加速度axを算出することができるものであれば、3軸加速度センサ、2軸加速度センサ、1軸加速度センサの組み合わせなどであってもよい。
【0060】
【数3】

【0061】
地磁気センサ判定部14は、地磁気センサ23で検出したデータにより装置の移動方位変化Δθmを算出する。
【0062】
図4は地磁気データにより歩行方位の変化を算出する一例を示す説明図である。図4は歩行者の歩行方位の変化を模式的に示すものであり、図3の場合と同様に、時刻t0から時刻t1にかけて歩行者が歩行方位を変えたとする。図3に示すように、地磁気データにより算出した時刻t0での移動方位をθm0、時刻t1での移動方位をθm1とする。
【0063】
基準直交3次元座標(x、y、z)でのx軸、y軸、z軸それぞれの地磁気成分(例えば、mx、my、mz)は、地磁気センサ23で検出したX軸、Y軸及びZ軸成分の地磁気をMGX 、MGY 、MGZ とすると、式(5)を用いて算出することができる。なお、x軸、y軸及びz軸成分の地磁気mx、my、mzには、式(6)の関係が成立する。mは地磁気の絶対値である。鉛直方向の成分mzは、歩行者の概略の位置、すなわち経度及び緯度が決れば既知である。
【0064】
【数4】

【0065】
歩行者の歩行方位(y軸の向き)と真東との方位角をθm(反時計回りを正)とすると、式(7)により移動方位(方位角)θmを求めることができる。
【0066】
時刻t0でのx軸及びy軸成分の地磁気mx0、my0とすると、時刻t0での移動方位θm0は、式(8)で求めることができ、時刻t1でのx軸及びy軸成分の地磁気mx1、my1とすると、時刻t1での移動方位θm1は、式(9)で求めることができる。そして、時刻t0から時刻t1までの間の移動方位変化Δθmは、式(10)で求めることができる。
【0067】
【数5】

【0068】
地磁気センサ判定部14は、地磁気センサ23で検出したデータを用いて算出した移動方位変化Δθm及び加速度センサ22で検出したデータを用いて算出した移動方位変化Δθaの差に応じて、地磁気センサ23の正常又は異常を判定する。判定方法は、例えば、式(11)が成立する場合に、地磁気センサ23で検出されるデータは異常(異常値)であると判定し、式(11)が成立しない場合には、正常であると判定することができる。異常であると判定するのは、例えば、Δθaがほとんど0であるのに、Δθmが大きい場合である。なお、Tk1、Tk2は所定の定数である。
【0069】
【数6】

【0070】
また、式(12)が成立する場合に、地磁気センサ23で検出されるデータは異常(異常値)であると判定し、式(12)が成立しない場合には、正常であると判定することもできる。異常であると判定するのは、例えば、ΔθaとΔθmとが大きく乖離している場合である。なお、Tk3は所定の定数である。これにより、地磁気センサ23を建物内で使用した場合に、建物内の鉄骨等の影響により、地磁気センサ23で検出されたデータが正しいのか間違っているのかを容易に判断することができる。
【0071】
方位特定部15は、地磁気センサ判定部14の判定結果に応じて装置の移動方位を特定する。例えば、地磁気センサ23で検出されたデータが正常であると判定した場合、地磁気センサ23のデータを用いて移動方位を特定する。一方、地磁気センサ23で検出されたデータが異常であると判定した場合、加速度センサ22のデータを用いて移動方位を特定する。これにより、自立航法を用いる場合に地磁気センサ23が一時的に利用することができない屋内等でもジャイロのような高価な方位センサを用いることなく安価に歩行者の歩行方位を検出することができる。
【0072】
より具体的には、方位特定部15は、地磁気センサ23が正常(地磁気センサ23で検出されたデータが正常)であると判定された場合、例えば、地磁気センサ23で検出したデータを用いて基準直交3次元座標(x、y、z)でのx軸及びy軸の地磁気成分(例えば、mx及びmy)を算出し、tanθm=my/mxにより移動方位θmを求める。これにより、地磁気センサ23で検出されたデータが正常値である場合に限定して歩行者の歩行方位を検出することができ、誤った方位検出を未然に防止することができる。
【0073】
また、方位特定部15は、地磁気センサ23が異常(地磁気センサ23で検出されたデータが異常)であると判定した場合、例えば、直近として時刻t0に特定した移動方位(方位角)をθ0(時刻t0にて加速度センサで検出したデータを用いて特定した移動方位、あるいは、時刻t0にて地磁気センサで検出したデータが正常であれば地磁気センサで検出したデータを用いて特定した移動方位)とし、時刻t0から時刻t1までの移動方位変化をΔθaとすると、時刻t1での移動対象の移動方位を(θ0+Δθa)により求める。これにより、地磁気センサ23で検出されたデータが異常値である場合に、異常値を排除して歩行者の歩行方位を検出することができ、誤った方位検出を未然に防止することができる。
【0074】
また、方位特定部15は、地磁気センサ23が正常であると判定した場合、地磁気センサ23で検出したデータを用いて算出した移動方位θm及び加速度センサ22で検出したデータを用いて算出した移動方位(θ0+Δθa)に重み付け係数を積算して、装置の移動方位を{w1・θm+w2・(θ0+Δθa)}により求める。ここで、w1、w2はw1+w2=1を充足する適宜の値とすることができる。例えば、θm及び(θ0+Δθa)の差の絶対値が小さいほど、w1を1に近づけ、w2を0に近づけることができる。また、θm及び(θ0+Δθa)の差の絶対値が大きいほど、w1を0に近づけ、w2を1に近づけることができる。これにより、地磁気センサ23で検出したデータの確からしさの度合いに応じて移動対象の移動方位を連続的又は段階的に変えることができ、精度良く移動対象の移動方位を求めることができる。
【0075】
また、方位特定部15は、地磁気センサ23が異常であると判定した場合、異常判定未解除フラグをセットし、地磁気センサ23のデータを無効として使用しないようにする。また、方位特定部15は、地磁気センサ23が異常と判定した後に正常と判定した場合、異常判定解除フラグをセットし、地磁気センサ23のデータを有効として使用可能にする。異常判定の解除条件は、以下のようにすることができる。
【0076】
地磁気センサ23が異常であると判定した場合に、再度地磁気センサ23が正常であると判定したとき、異常判定の解除を行う(異常であるという判定を無効にする)。これにより、例えば、歩行者が屋内に入った後に屋外に出た場合、あるいは、歩行者が一時的に建物に沿って歩行した場合に、一時的に地磁気センサ23で検出するデータが異常値であっても、その後正常値に戻ったときには地磁気センサ23を用いて歩行者の歩行方位を検出することができる。
【0077】
また、地磁気センサ23が異常であると判定した場合に、地磁気センサ23で検出したデータを用いて算出した移動方位変化Δθm及び加速度センサ22で検出したデータを用いて算出した移動方位変化Δθaが、式(13)の関係を満たす場合、地磁気センサ23が異常であるという判定を解除(無効に)する。Tk4は所定の定数である。
【0078】
【数7】

【0079】
これにより、例えば、歩行者が屋内に入った後に屋外に出た場合、あるいは、歩行者が一時的に建物に沿って歩行した場合に、一時的に地磁気センサ23で検出するデータが異常値であっても、その後正常値に戻ったときには地磁気センサを用いて歩行者の歩行方位を検出することができる。
【0080】
また、所定の移動距離(例えば、50m)又は所定の時間(例えば、1分)に亘って、地磁気センサ23が異常であると判定した場合、地磁気センサ23の異常判定を解除(無効に)する。これにより、地磁気センサ23を使用しない状態が長時間継続することを防止することができる。
【0081】
なお、加速度センサ22で検出したデータを用いて算出した移動方位変位Δθaのばらつき誤差を防止するため、移動方位変位Δθaの絶対値が所定の閾値より小さく、0とみなしても差し支えない場合には、Δθa=0としてもよい。
【0082】
上述のとおり、歩行者が歩行する場合には、必ずしも真っ直ぐ歩行するとは限らず、移動方向を変化させて歩行する場合が多い。このような歩行者の歩行特性に着目し、歩行方向の変化に伴う真横方向の加速度を加速度センサ22で検出する都度、地磁気センサ判定部14で地磁気センサ23の正常又は異常を判定することもできる。
【0083】
また、上述の例では、3軸加速度センサを用いる構成の場合について説明したが、携帯機器(位置検出装置100)により位置検出を行って、歩行者に対するナビゲーションを音声で提供する場合には、歩行者が携帯機器を手に持って操作する必要性が非常に少なくなり、携帯機器を衣服のポケット又はかばん等に入れたままにしておくことができ、携帯機器の姿勢の変化も少なくなることから、2軸加速度センサ又は1軸加速度センサを組み合わせた構成を用いることも可能である。
【0084】
仮に位置検出装置100の姿勢が変化するような事態が生じる場合が少なくないとき、姿勢特定部30は、加速度センサ22及び地磁気センサ23で検出したデータ(加速度、地磁気)を用いて、装置の姿勢を特定する。より具体的には、姿勢特定部30は、後述するように、基準となる基準直交3次元座標(x、y、z)に対する回転角α(ピッチ角)、β(ロール角)、γ(ヨー角)を求めることにより、装置の姿勢を特定する。以下、姿勢の特定方法について説明する。なお、姿勢特定を行う場合、加速度センサ22は3軸加速度センサであるとし、地磁気センサ23は3軸地磁気センサであるとする。
【0085】
座標変換部31は、装置直交3次元座標(X、Y、Z)と基準直交3次元座標(x、y、z)との間の座標変換を行う。すなわち、装置直交3次元座標(X、Y、Z)と基準直交3次元座標(x、y、z)との間の座標変換は、回転角α、β、γをパラメータとした変換式として、式(1)及び式(2)で表わすことができる。
【0086】
角度算出部32は、座標変換部31の変換式に、加速度センサ22及び地磁気センサ23で検出したデータ(加速度、地磁気)を適用することにより、回転角α、β、γを算出する。以下、角度の算出方法について説明する。
【0087】
加速度センサ22で検出したX軸、Y軸及びZ軸成分の加速度をACX 、ACY 、ACZ とする。また、基準直交3次元座標(x、y、z)での重力加速度gのx軸、y軸、z軸成分は、それぞれ0、0、gとなる。これを式(1)に代入すると、式(14)を得ることができる。また、X軸、Y軸及びZ軸成分の加速度をACX 、ACY 、ACZ には、式(15)の関係が成立する。
【0088】
【数8】

【0089】
重力加速度gは既知であるから、式(14)及び式(15)によりピッチ角α、ロール角βを算出することができる。仮にヨー角γが既知又は0であれば、ピッチ角α、ロール角βを算出することにより、装置の姿勢を特定することができる。ヨー角γが既知でない場合、以下のようにしてヨー角γを求めることができる。
【0090】
すなわち、地磁気センサ23で検出したデータ(地磁気)を用いてヨー角γを算出する。なお、説明を簡略化するために、地磁気センサ23は、Y軸を水平に真北に向けた場合にX軸の値が0でY軸の値が最大値になるように設定されているものとする。
【0091】
基準直交3次元座標(x、y、z)での地磁気情報としての地磁気mのx軸、y軸、z軸成分をそれぞれmx、my、mzとする。鉛直方向の成分mzは、適宜の地点としての歩行者の概略の位置、すなわち経度及び緯度が決れば既知であり、緯度及び経度に対応付けて地磁気の鉛直方向の成分mzを記憶しておくことができる。また、地磁気センサ23で検出したX軸、Y軸及びZ軸成分の地磁気をMGX 、MGY 、MGZ とすると、式(5)を得ることができる。また、x軸、y軸及びz軸成分の地磁気mx、my、mzには、式(6)の関係が成立する。
【0092】
ピッチ角α、ロール角βは式(14)及び式(15)により算出することができるので、これを式(5)に代入すれば、γ、mx、myのみが未知数となる。式(5)でmx、myを消去すれば、回転角γのみの関係式である式(16)を得ることができる。式(16)により回転角γを算出することができる。なお、回転角γは数値解等として求めることができる。
【0093】
【数9】

【0094】
上述の例では、地磁気の鉛直方向の成分mzを用いたが、これに代えて、地磁気の絶対値mが一定であるとして、式(5)に式(6)を代入してmzを消去し、mzの代わりにmを用いることもできる。
【0095】
位置検出装置100を歩行者が携帯して歩行する場合、位置検出装置100は歩行に合わせて振動し、動的な加速度変動を受ける。図5は歩行時の加速度センサ22で検出する加速度データの一例を示す説明図である。図5の例では、装置直交3次元座標(X、Y、Z)と基準直交3次元座標(x、y、z)とが一致し、歩行者がほぼ真っ直ぐに歩行している状態を示す。
【0096】
図5に示すように、歩行者が歩行している場合、水平面(基準面)上のX軸、Y軸の加速度は、それぞれ動的加速度が影響するものの微小である。一方、Z軸の加速度は、重力に逆らって足を振り上げ、重力の方向に足を下ろす歩行動作の影響、すなわち、鉛直方向の動的加速度の影響を受けて、加速度が大きくなる。
【0097】
したがって、この場合には、加速度センサ22の各軸のデータに関して、歩行周期の複数倍を基準としたような平均的な値(例えば、平均値、中央値、最大値と最小値の中間値等であり、以下、これらを「標準値」という。)ACX、ACY、ACZを算出することにより、平均的な加速度を得ることができる。
【0098】
次に、装置直交3次元座標(X、Y、Z)と基準直交3次元座標(x、y、z)とが一致しない場合について説明する。例えば、X軸及びY軸が水平面(基準面、xy平面)上にない場合である。これは、位置検出装置100が歩行者の衣服のポケット又はカバンなどに収納される都度、装置直交3次元座標(X、Y、Z)と基準直交3次元座標(x、y、z)とが一致するとは限らず、位置検出装置100の姿勢が不確定であるからである。
【0099】
この場合についても、位置検出装置100は歩行者の歩行に合わせて振動し、動的な加速度変動を受けるものの、歩行に伴う振動以外には大きな振動を受けないと考えることができる。従って、加速度データの標準値ACX、ACY、ACZを、地磁気データMGX 、MGY 、MGZ の標準値MGX、MGY、MGZをそのまま式(5)、式(14)、式(15)に適用することができる。
【0100】
なお、重力加速度gは定数でもよいが、歩行者の位置に応じて変化し得る場合もあり、また、図5の例で示した1gの値が加速度ACZ の最大値と最小値との中間にあるとは限らず、振動を平均化して加速度の標準値を求めたときに偏差を生じ得ることから、重力加速度gに代えて、式(15)を用いるほうが好ましい。
【0101】
判定部33は、姿勢特定部30で移動対象(位置検出装置100)の姿勢を特定するか否かを判定する。より具体的には、判定部33は、携帯時の装置の姿勢変化又は歩行者の歩行特性の変化(例えば、歩行停止の有無、歩行方向の変化など)に応じて、装置の姿勢を特定するか否かを判定する。
【0102】
歩行者の歩行特性の変化がなく一定のリズムで歩行し、位置検出装置100の姿勢も変化しない場合には、加速度センサ22及び地磁気センサ23で検出するデータも歩行に伴う周期性があり、データの最大値又は最小値等にも大きな変動がない。しかし、装置の姿勢変化又は歩行者の歩行特性の変化がある場合には、加速度センサ22及び地磁気センサ23で検出するデータにも予期しない変動が含まれるため、このような場合には装置の姿勢を特定しないようにする。これにより、誤った姿勢を特定することを防止して精度を高めることができる。
【0103】
まず、位置検出装置100の姿勢変化について説明する。加速度センサ22で検出した加速度の絶対値と所定の加速度閾値とを比較し、検出した加速度の絶対値が加速度閾値より大きい場合(異常値である場合)、位置検出装置100の姿勢が大きく変化したとして、位置検出装置100の姿勢を特定しないと判定する。例えば、ポケット又はカバンに保持していた位置検出装置100を取り出す場合、ポケット又はカバン等に位置検出装置100を収める場合、位置検出装置100を持つ手を持ち替えた場合、あるいは位置検出装置100を入れたカバンの姿勢が変化する場合には、位置検出装置100の姿勢も変化し、少なくとも一時的に加速度センサ22で検出した加速度の絶対値が大きく変化する。このような状態でも加速度データを用いて装置の姿勢を特定した場合には、正しい姿勢を求めることができないので、検出した加速度の絶対値が加速度閾値より大きい場合、装置の姿勢を特定しないと判定する。これにより、誤った姿勢を特定することを防止して精度を高めることができる。
【0104】
また、地磁気センサ23で検出した地磁気の絶対値と所定の地磁気閾値とを比較し、検出した地磁気の絶対値が地磁気閾値より大きい場合(異常値である場合)、位置検出装置100の姿勢が大きく変化したとして、位置検出装置100の姿勢を特定しないと判定することもできる。例えば、ポケット又はカバンに保持していた位置検出装置100を取り出す場合、ポケット又はカバン等に位置検出装置100を収める場合、位置検出装置100を持つ手を持ち替えた場合、あるいは位置検出装置100を入れたカバンの姿勢が変化する場合には、位置検出装置100の姿勢も変化し、少なくとも一時的に地磁気センサ23で検出した地磁気の絶対値が大きく変化する。また、歩行者が歩行方向を変えた場合にも、地磁気センサ23で検出した地磁気の絶対値が大きく変化する。このような状態でも地磁気データを用いて装置の姿勢を特定した場合には、正しい姿勢を求めることができないので、検出した地磁気の絶対値が地磁気閾値より大きい場合、装置の姿勢を特定しないと判定する。これにより、誤った姿勢を特定することを防止して精度を高めることができる。
【0105】
上述の位置検出装置100の姿勢変化に伴う異常値の判定は、例えば、以下のようにすることができる。X軸、Y軸及びZ軸成分の加速度をACX 、ACY 、ACZ とすると、異常時の場合、ACX −ACxmax>T1x、ACY −ACymax>T1y、ACZ−ACzmax>T1z、ACX −ACxmin<−T2x、ACY −ACymin<−T2y、又はACZ−ACzmin<−T2zのいずれかが成立する。ここで、T1x、T1y、T1z、T2x、T2y、T2zは、正の定数である。また、ACxmax、ACymax、ACzmaxは、定数又は過去の姿勢安定時の加速度データの各軸の最大値をもとにしたデータであり、その平均値又は指数平滑値等である。また、ACxmin、ACymin、ACzminは、定数又は過去の姿勢安定時の加速度データの各軸の最小値をもとにしたデータであり、その平均値又は指数平滑値等である。
【0106】
同様に、X軸、Y軸及びZ軸成分の地磁気をMGX 、MGY 、MGZ とすると、異常時の場合、MGX −MGxmax>T3x、MGY −MGymax>T3y、MGZ−MGzmax>T3z、MGX −MGxmin<−T4x、MGY −MGymin<−T4y、又はMGZ−MGzmin<−T4zのいずれかが成立する。ここで、T3x、T3y、T3z、T4x、T4y、T4zは、正の定数である。また、MGxmax、MGymax、MGzmaxは、定数又は過去の姿勢安定時の地磁気データの各軸の最大値をもとにしたデータであり、その平均値又は指数平滑値等である。また、MGxmin、MGymin、MGzminは、定数又は過去の姿勢安定時の地磁気データの各軸の最小値をもとにしたデータであり、その平均値又は指数平滑値等である。
【0107】
また、位置検出装置100の姿勢が変化しない場合には、加速度センサ22及び地磁気センサ23で検出するデータも歩行に伴う周期性があり、歩行周期、歩数又は歩行速度などは大きな変動がなく略一定である。しかし、位置検出装置100の姿勢が変化した場合には、歩行周期、歩数又は歩行速度等も変化する。加速度センサ22で検出した加速度の変動又は地磁気センサ23で検出した地磁気の変動により、歩行周期、歩数又は歩行速度の変化を検知した場合、位置検出装置100の姿勢を特定しないと判定する。これにより、位置検出装置100の姿勢が変化した場合には、位置検出装置100の姿勢を特定しないようにして、誤った姿勢を特定することを防止して精度を高めることができる。
【0108】
例えば、歩数をHWとすると、(HW−HWave)の絶対値が閾値Hkより大きい場合に、データの周期性に異常があると判定することができる。ここで、HWaveは、例えば、定数又は過去の姿勢安定時の歩数データの平均値又は指数平滑値等である。
【0109】
次に歩行特性の変化について説明する。歩行特性の変化の一例として、例えば、歩行停止を検知した場合、位置検出装置100の姿勢を特定しないと判定する。歩行者が歩行停止した場合には、例えば、位置検出装置100をポケット又はカバン等から取り出すことが考えられ、位置検出装置100の姿勢が変化する可能性が高いため、このような場合には、位置検出装置100の姿勢を特定しないようにすることで、誤った姿勢を特定することを防止して精度を高めることができる。具体的には、歩行周期、歩数などが検出できなくなった場合に歩行停止と判定することができる。
【0110】
また、歩行特定の変化の他の例として、例えば、歩行方向の変化を検知した場合、位置検出装置100の姿勢を特定しないと判定する。歩行者が歩行方向を変えた場合には、地磁気センサ23で検出した地磁気データの変化が生じると考えることができる。したがって、X軸、Y軸及びZ軸成分の地磁気をMGX 、MGY 、MGZ とすると、(MGX −MGxave)の絶対値がT5xより大きい、(MGY −MGyave)の絶対値がT5yより大きい、又は(MGZ−MGzave)の絶対値がT5zより大きい場合に、歩行特性の変化があったと判定することができる。ここで、MGxave、MGyave、MGzaveは、定数又は過去の姿勢安定時の各軸の地磁気データの平均値又は指数平滑値等である。また、T5x、T5y、T5zは正の定数である。
【0111】
判定部33での判定は、上述の判定を一定期間継続して実施した結果を用いて最終判定を行ってもよく、あるいは、上述の判定の一部のみを実施してもよい。
【0112】
姿勢特定部30は、角度算出部32で算出した角度の信頼性を、装置直交3次元座標(X、Y、Z)と基準直交3次元座標(x、y、z)との間の変換式(変換手段)を用いて評価し、信頼性が低いと評価した場合、算出した角度を無効にする。例えば、加速度センサ22で検出した加速度データが上述の式(14)及び式(15)を十分に満たさない場合、算出結果の信頼性が低いと判定することができる。なお、無効にするとは、例えば、算出した角度を積極的に棄却してもよく、あるいは、算出した角度を棄却することなく使用しないようにすることなどを含む。これにより、仮に姿勢を特定するための角度が求めることができた場合でも、算出結果の信頼性が低いときには、算出結果を無効にし、誤った姿勢を特定することを防止して精度を高めることができる。
【0113】
また、姿勢特定部30は、複数の時点に亘って算出した角度を記憶部16に記憶しておく。これにより、過去に算出したデータを収集する。姿勢特定部30は、新たに算出した角度と記憶した角度との角度差を算出し、算出した角度差が所定の閾値より大きい場合、算出した角度を無効にする。例えば、算出したデータが過去に算出したデータに比べて、その差異が大きい場合には、加速度センサ22で検出した加速度データ及び地磁気センサ23で検出した地磁気データに何らかの異常が含まれると判断して、算出結果には信頼性がないとし算出結果を無効にする。これにより、誤った姿勢を特定することを防止して精度を高めることができる。
【0114】
姿勢特定部30での姿勢の特定(回転角α、β、γの算出)は適宜行うことができる。姿勢の特定が必要であるか否かの判定は、例えば、位置検出装置100の姿勢変化がなければ、歩行による振動以外には姿勢が変化しないと考えられるため、姿勢の特定は必要ないとして、姿勢の特定頻度を少なくすることができる。また、判定部33で位置検出装置100の姿勢が変化中であると判定した後、姿勢が安定した場合には、姿勢の特定が必要であると判定することができる。姿勢の特定が必要であると判定したタイミングで加速度センサ22及び地磁気センサ23で検出したデータを用いて姿勢を特定する。その後は再度、位置検出装置100の姿勢が変化したと判定するまでは、姿勢はそのままであると判断して姿勢を特定しなくてもよく、あるいは姿勢の精度を高めるために適宜姿勢を特定しその平均を求めるようにしてもよい。なお、適宜姿勢を特定して平均する場合には、単なる平均値を求める以外に、例えば、中央値、最大値と最小値を除去した平均等、種々の方法の採用が可能である。また、これらの値を過去の収集データとして利用することができる。
【0115】
測位部20は、距離センサ21で検出したデータ、方位特定部15で特定した歩行者の移動方位(歩行方位)、GPS12で得られた測位結果などの測位データ、通信部11を経由して得られた基地局からの電波の受信結果、又は路上装置との狭域通信により得られた通信地点の位置情報などに基づいて、測位位置及び測位位置の誤差を算出する。以下、測位位置及びその誤差の算出方法について説明する。
【0116】
図6は測位位置の誤差範囲の例を示す説明図である。歩行者が歩行する道路又は通路の面と平行な平面上の直交座標系(x方向及びy方向)において、GPS、基地局又は路上装置との狭域通信により検出された位置の誤差範囲を、一例として、矩形領域(x方向の長さが4a、y方向の長さが4b)として設定する。すなわち、測位位置は、矩形領域の中心位置であり、誤差範囲は、中心位置からx方向に±2aの範囲だけ広がり、y方向に±2bの範囲だけ広がる。例えば、2aを2シグマと設定した場合、x方向の分散はa2 となり、標準偏差はaと設定することができる。また、2bを2シグマと設定した場合、y方向の分散はb2 となり、標準偏差はbと設定することができる。
【0117】
路上装置との狭域通信による誤差は、GPS又は基地局通信の場合に比べて小さい(例えば、誤差範囲が数m)ため、誤差範囲は、路上装置との狭域通信を利用するか、GPS又は基地局通信を利用するかに応じて異なる。また、例えば、GPSを利用する場合、誤差範囲は、環境条件、より具体的には、GPSの受信レベル、捕捉衛星数、2次元又は3次元測位の別、CEP(Circular Error Probability)により時間的に変化する。また基地局通信の場合には、誤差範囲は、基地局との通信レベル、基地局の通信範囲等で時間的に変化する。誤差範囲を予め大きめに設定した所定の定数、場所又は時間に応じて予め決定した定数等を用いてもよい。また、誤差範囲の形状は、矩形形状に限らず、円形、楕円形等任意の形状でもよい。例えば、GPSのみで測位する場合、環境条件が良好なときには、誤差範囲として10〜20m程度を設定することができる。
【0118】
以下、歩行者の測位位置の算出方法について説明する。なお、測位位置は、直交座標系における2次元ベクトルで表現するが、3次元では、高度情報を加えるだけであり、容易に拡張可能である。また、以下の説明では、時刻で定式化しているが、実際の処理においては、単位時間の経過の都度の処理の代わりに単位走行距離の都度処理を行ってもよい。また、以下、大文字のアルファベットはベクトル又は行列とする。
【0119】
時刻tにおける歩行者の位置P(t)を式(17)とすると、時刻t+1(時刻t、t+1の間隔は、所定時間であり、例えば、1秒、0.5秒などである)における歩行者の位置P(t+1)は、式(18)で表すことができる。あるいは、時刻tから歩行者が所定の走行距離(例えば、1m、2mなど)を走行した時刻を時刻t+1とすることもできる。なお、ベクトルに付した「T」は転置を意味する。また、式(18)は、歩行者の動特性を示すものである。なお、時刻tにおける歩行者の位置P(t)は、歩行者の真の位置(実際の位置)であり、未知の誤差の存在のため観測不可能な位置である。すなわち、歩行者の測位位置は、真の位置P(t)に対する最適な推定位置を求めるものである。
【0120】
【数10】

【0121】
ここで、D(t)は、式(19)で表され、d(t)は、時刻tから時刻t+1までに歩行者が移動(歩行)した距離、θ(t)は、直交座標系に対する歩行者の移動(歩行)の方位角である。また、E(t)は、式(20)で表され、e(t)は、移動距離d(t)の誤差である。また、誤差E(t)の分散Q(t)は、式(21)で表され、qは、単位距離移動での誤差分散であり、一定値とすることができる。
【0122】
また、時刻tにおいて、GPS、基地局通信又は路上装置との通信により検出された位置S(t)は、式(22)で表すことができる。ここで、G(t)は、位置S(t)の誤差であり、誤差G(t)の共分散行列R(t)は、式(23)で表すことができる。式(23)において、a、bそれぞれは、図6で示した誤差範囲である矩形領域のx方向及びy方向の長さの4分の1である。すなわち、共分散行列R(t)は、2a、2bを2シグマとした場合のx方向及びy方向の分散で構成されている。なお、E(t)、G(t)の平均値は0としても一般性は失わない。
【0123】
時刻tにおける歩行者の位置P(t)の最適な推定位置H(t)は、カルマンフィルタにより式(24)のような漸化式で表される。
【0124】
【数11】

【0125】
ここで、Γ(t)は、推定位置H(t)の推定誤差の分散であり、式(25)のような漸化式で表すことができる。また、行列に付した「-1」は、その行列の逆行列を意味する。また、初期時刻0における推定位置H(0)、その推定誤差の分散Γ(0)は、それぞれ式(26)、式(27)で表すことができる。ここで、Mは、歩行者の最初の位置の先験情報であり、Σは、その誤差分散である。仮に先験情報がない場合、M=0、Σ-1=0となり、初期時刻0における推定位置H(0)、その推定誤差の分散Γ(0)は、それぞれ式(28)、式(29)で表される。
【0126】
なお、式(22)は、GPS、基地局通信又は路上装置との通信により位置が検出された場合に得られるので、GPS、基地局通信又は路上装置との通信が行われない間は、式(13)における誤差a、bが十分大きな値と考えることにより、式(24)において、R-1(t)=0とすれば、式(24)をそのまま用いて推定位置を繰り返し算出することができる。すなわち、この場合は、自立航法のみで位置を測位することと等価になる。
【0127】
移動距離d(t)の誤差e(t)は、距離センサの種類により異なる。例えば、複数の種類の距離センサを同時に利用する場合には、各センサの誤差を結合した結合誤差を設定すれば良い。例えば、2種類のセンサで得られた距離をそれぞれd1、d2、誤差の分散をそれぞれq1、q2とすると、その結合距離を、式(30)で設定し、その結合誤差として分散は、式(31)で設定することができる。
【0128】
【数12】

【0129】
上述の定式化では、記述を簡単にするために、方位(方位角)θの誤差がないと仮定したが、方位(方位角)θの誤差f(t)を考慮して、線形近似することにより上述の定式化を容易に拡張することができる。この場合、誤差e(t)、G(t)と同様に、誤差f(t)の誤差分散を定義する。あるいは、方位誤差を考慮して、位置の誤差分散を大きくすることもできる。
【0130】
例えば、時刻tの方位θの計測値に誤差F(t)が累加した場合、高次の誤差を無視すれば、式(18)は式(32)及び式(33)のように拡張することができる。
【0131】
【数13】

【0132】
この場合、式(21)は、式(34)に置き換えればよい。ここで、uは方位θの誤差の分散である。なお、式(32)〜式(34)に代えて、式(21)のQ(t)を大きめに設定するだけとしてもよい。なお、以上の数式では、2次元の位置検出として定式化したが、高さの次元を加えて3次元で定式化してもよい。
【0133】
地図データベース13は、広範囲の地図情報を記憶してある。なお、歩行者の位置に応じて、その付近の地図情報をセンタ装置又は路上装置などの外部から通信で取得して記憶しておくこともできる。
【0134】
図7は地図情報の一例を示す模式図であり、図8は地図上の領域の属性の一例を示す説明図である。歩行者の位置を検出する場合には、車両の位置を検出する場合に比較して複雑かつ困難になる。すなわち、車両の場合には、推定した位置と地図上の車道との地図マッチングにより、車両の位置を検出することができるのに対し、歩行者の場合には、歩行者用の歩道以外に歩行者が歩行可能な領域は種々存在する。また、屋外のみならず屋内であっても歩行者の位置検出を行う必要性が高い。
【0135】
また、歩行者の位置を検出する場合、歩道と車道との分離等、きめ細かな地図マッチングが必要となるため、地図情報としても詳細のデータが必要になる。ただし、広範囲な地図情報を位置検出装置100の記憶部16に記憶しておく必要はなく、歩行者の位置に合わせて適宜、情報センタ装置又は路上装置等の外部から通信で取得しても良い。
【0136】
図7に示すように、地図上には、歩行者専用道路(歩道)、車道、横断歩道、ビル、小売店、公園、池など、種々の領域が存在する。そこで、図8に示すように、地図上の領域の属性を定義して、地図上の領域を分類する。属性は、まず、歩行可能領域と禁止領域とに区分する。禁止領域は、例えば、立入禁止区域、川、池、海、湖、沼、池、崖、鉄道敷地、皇居など、一般には歩行者の進入が禁止されている領域、あるいは進入が不可能な領域である。
【0137】
歩行可能領域は、屋内領域、道路領域及びその他領域に区分される。屋内領域は、例えば、ビル、地下道、駅舎、店舗、小売店、家屋、工場、地下街、建造物内部などである。道路領域は、例えば、歩行者専用道路、歩道・車道分離の幹線道路の場合の歩道、横断歩道、歩行者用陸橋(歩道橋)、地下横断通路、踏切、その他私有地の道路等(今後、何れも道路と呼ぶ)である。また、その他領域は、例えば、車道、公園、運動場、その他自由に歩行可能な全ての屋外の領域である。なお、屋内領域又はその他領域において、歩行者の歩行が限定されている場合には、その中に歩行通路(道路)を設定して道路領域とすることもできる。
【0138】
図7に示すように、道路領域は、歩行者専用道路、幹線道路の歩道、横断歩道、歩行者用陸橋、地下横断通路であり、屋内領域は、ビル、小売店、家屋であり、小売店には道路が設定されている。また、禁止領域は池であり、その他領域は幹線道路の車道、公園である。図7及び図8の情報に基づいて、地図上の道路(道路領域、地図マッチングのための線分)を設定することができる。なお、図8では、属性を歩行可能領域と禁止領域とに区分した上で、歩行可能領域を屋内領域、道路領域及びその他領域に区分し、各属性の例示として歩行者専用道路、横断歩道、歩行者用陸橋等を挙げたが、属性は上述のように階層構造に限定されるものではなく、歩行者専用道路、横断歩道、歩行者用陸橋等をそれぞれ1つの属性として定義することもできる。また、図8の例は一例であって、これに限定されるものではない。
【0139】
図9は地図上の道路の設定例を示す説明図である。図9に示すように、道路領域、屋内領域、その他領域の道路に対して、地図マッチングのための1又は複数の線分(標準歩行線、地図上の道路)を定義し、各線分の接続関係の情報を設定する。地図上の道路(道路領域)は、リンク及びノードにより構成することもでき、あるいは、線分に対する道路幅に相当する幅を設定することもできる。ノードは、地図上の道路の一部であり、ノードはリンクの接続点、すなわち、地図上の道路の接続性を定義する。なお、設定される道路は、道路領域と同義である。
【0140】
例えば、図7の例に対して、地図上の道路は、図9のように設定される。地図上の道路には、道路幅の情報、接続関係の情報を含めることもできる。また、屋内領域、禁止領域には、それぞれの領域の範囲の情報を含めることもできる。その他領域に、領域の範囲の情報を含めてもよく、あるいは、道路領域、屋内領域、禁止領域の何れでもなければその他領域であると判断する場合、その他領域に領域の範囲の情報を含めなくてもよい。なお図7、図9には記していないが、領域と領域とを接続する地点又は道路(通路)を地図上に設定してもよい。例えば、道路上に屋内領域の地下街又は地下鉄駅舎に通じるための連絡口(階段、エレベータ、エスカレータ等)がある場合等であり、これにより、道路から屋内領域に移る場合に、歩行者の位置を修正することができる。
【0141】
記憶部16は、通信部11を介して受信した各種情報、測位部20で測位した測位データ、地磁気センサ判定部14、方位特定部15、姿勢特定部30、位置検出処理部40等で処理した処理結果などを記憶する。なお、制御部10、地磁気センサ判定部14、方位特定部15、姿勢特定部30、位置検出処理部40などのいずれか又はいくつかをCPU、RAMなどで構成する場合、各部の処理手順を定めたコンピュータプログラムを記憶することもできる。
【0142】
操作部17は、各種操作ボタンを備え、歩行者と位置検出装置100とのユーザインタフェースとして機能する。例えば、操作部17は、歩行者の操作により位置検出装置100の動作の開始又は停止の操作を受け付ける。
【0143】
位置検出処理部40は、歩行者の位置を検出するための処理を行う。
【0144】
位置推定部41は、前回(例えば、直近でもよく、2回又は3回などの複数回前でもよい)に算出された推定位置又は推定位置を更新して歩行者の位置として検出された検出位置と、測位部20で算出した測位位置の軌跡(測位軌跡)とに基づいて、地図上の推定位置(推定位置の軌跡)を算出する。より具体的には、前回に算出された推定位置又は検出位置から測位位置までの測位軌跡に沿った軌跡を求めることにより、推定位置の軌跡及び推定位置を算出する。
【0145】
誤差算出部42は、位置推定部41で推定した推定位置の誤差範囲を算出する。より具体的には、誤差算出部42は、後述するように推定位置を初期登録する場合、あるいは、推定位置を更新する場合、推定位置の誤差範囲を所定値に設定する。例えば、推定位置を初期登録した場合、推定位置の誤差範囲を測位位置の誤差範囲(例えば、20〜200m)とすることができる。また、道路上のカーブ、交差点等の特徴地点で推定位置を更新した場合、最小の誤差(例えば、道路幅程度の範囲)とすることができる。
【0146】
誤差算出部42は、初期登録した推定位置又は更新した推定位置の誤差範囲を所定値に設定した後は、設定した所定値に、初期登録又は更新した推定位置からの歩行者の移動距離又は移動方向に応じた値(例えば、測位誤差の増加分)を加算して誤差範囲を算出する。これにより、一旦歩行者の位置が決定(確定)され、その位置での誤差範囲を所定値に設定した後は、測位軌跡の増加(移動距離又は移動方位)に伴って測位誤差が増加した場合でも、測位軌跡に応じて、推定位置の適切な誤差範囲を求めることができる。なお、誤差範囲を常に適当な所定の一定値(例えば、100m)とすることもできる。
【0147】
属性判定部43は、誤差算出部42で算出した推定位置の誤差範囲内に存在する地図上の領域の属性を判定する。なお、推定位置の誤差範囲内に複数の属性が存在する場合には、推定位置に最も近い(距離が短い)領域の属性であると判定することができる。あるいは、各属性に優先順位を設定しておき、最も優先順位の高い属性であると判定することもできる。この場合、属性の優先順位は、例えば、順位の高いほうから道路領域、屋内領域、その他領域とすることもでき、あるいは、順位の高いほうから道路領域、その他領域、屋内領域とすることもできる。
【0148】
歩行挙動判定部44は、測位部20で得られた測位データに基づいて、歩行者の歩行挙動を判定する。歩行挙動は、歩行者の歩行特性を示すものであり、自転車に乗った場合の走行特性も含む。歩行挙動は、例えば、歩行の開始、歩行速度、歩行速度の変動、歩行の強さ(例えば、歩数センサで加速が大きさで示されるレベル強度)、歩行の強さの変動、単位時間当たりの歩数(自転車の場合には、ペダルをこぐ回数)、歩数の変動、歩行方位、歩行停止などである。
【0149】
歩行挙動判定部44は、歩行挙動に基づいて歩行の乱れの有無を判定する。歩行の乱れは、例えば、所定の歩行速度又は単位時間当たりの歩数を基準として歩行速度が遅い又は歩数が少ない場合、歩行速度が略一定でなく歩行速度の変動が頻繁にある場合、歩行方位の蛇行又は周回性がある場合、あるいは、歩行の強さが不安定である場合などである。
【0150】
位置更新部45は、測位位置に基づいて推定位置の初期登録を行う。また、位置更新部45は、地図マッチング法を利用して、属性判定部43で判定した誤差範囲内の属性と位置推定部41で算出した推定位置とに基づいて、誤差範囲内で歩行していると考えられる位置に推定位置を更新し、更新した位置を歩行者の位置として検出する。この場合、評価部47で算出される評価係数に基づいて、最も確からしい推定位置を歩行者の位置として検出する。評価係数の詳細は後述する。なお、評価係数の逆数を相関度と定義し、相関度を用いることもできる。
【0151】
信頼度算出部46は、測位部20で測位した測位データの信頼度を算出する。より具体的には、信頼度算出部46は、距離センサ21、加速度センサ22、地磁気センサ23などのセンサ単体でのデータの自己矛盾、あるいは、センサ相互のデータの矛盾又は地図情報との不整合などの異常の有無の判定、GPS12の測位結果及び基地局通信の信頼性を示す使用環境指標の算出などを行う。また、センサ等に異常があると判定した場合には、使用可能なセンサを選択するとともに、使用不可のセンサに対しては、そのセンサの誤差分散を無限大にする(又は大きくする)処理を行う。これにより、常にセンサの使用可否を監視する。以下、信頼度算出部46での処理の詳細について説明する。
【0152】
GPS12の異常の有無の判定は、例えば、GPS12で得られた測位結果に基づいて測位した測位位置、歩行者の歩行速度、移動方位などの時間的変化に自己矛盾があるか否かで判定することができる。異常がある場合には、GPS12のデータの誤差分散を無限大にして利用しないようにする。また、このような異常な状況が、所定の時間及び/又は所定の距離の間継続した場合、GPS12の信頼度は低いとする。また、このような異常な状況がなくなった場合、GPS12のデータを利用するとともに、さらに正常な状況が所定の時間又は所定の距離の間継続すれば、GPSの信頼度を正常な値に復帰させる。
【0153】
GPS12の使用環境指標としては、例えば、GPS12の受信レベル、捕捉衛星数、2次元又は3次元測位の別、CEP(Circular Error Probability)が所定の標準値以下であれば、異常であるとしてGPS12のデータの誤差分散を無限大にして利用しないようにする。また、このような異常な状況が、所定の時間及び/又は所定の距離の間継続した場合、GPS12の信頼度は低いとする。また、このような異常な状況がなくなった場合、GPS12のデータを利用するとともに、さらに正常な状況が所定の時間又は所定の距離の間継続すれば、GPS12の信頼度を正常な値に復帰させる。
【0154】
基地局通信の使用環境指標としては、例えば、基地局との通信レベル、基地局の通信範囲等が所定の標準値より低下した場合、異常であるとして基地局通信によるデータの誤差分散を無限大にして利用しないようにする。また、このような異常な状況が、所定の時間及び/又は所定の距離の間継続した場合、基地局通信の信頼度は低いとする。また、このような異常な状況がなくなった場合、基地局通信のデータを利用するとともに、さらに正常な状況が所定の時間及び/又は所定の距離の間継続すれば、基地局通信の信頼度を正常な値に復帰させる。なお上記では、GPSと基地局通信とを区別したが、GPSと基地局通信とを結合した測位方式を利用してもよい。
【0155】
評価部47は、位置推定部41で算出した推定位置、及び位置更新部45で更新した推定位置を評価するための評価係数を算出する。評価係数は、推定位置の確からしさを評価するための係数であり、例えば、評価係数が小さいほど推定位置の確からしさ(確率)が大きいとすることができる。評価係数は、例えば、推定位置と測位位置との位置ずれ、カーブ、交差点等の特徴地点における推定位置と測位位置との位置ずれの差の平均、カーブ、交差点等の特徴地点における推定位置と道路との位置ずれ(距離ずれ)の平均等である。なお、評価係数の詳細は後述する。
【0156】
出力部18は、液晶表示パネル、スピーカなどを備え、歩行者に自身の位置を地図上に表示するとともに、歩行者の位置を表示する際に、歩行者に所要の情報を通知するため、又は注意を促すため音声又は音響を出力する。また、出力部18は、歩行者が携帯するイヤホンとの間で有線又は無線による通信機能を備え、例えば、歩行者を目的地まで誘導(ナビゲーション)するための音声ガイドを出力する。
【0157】
次に位置検出装置100の地図マッチング法による位置検出処理について説明する。なお、以下の説明では、屋内領域及びその他領域には通路(道路)が設定されていないものとする。通路が設定されている場合には、その通路を道路として取り扱うことができる。
【0158】
図10は推定位置の新規登録の一例を示す説明図である。推定位置の新規登録(初期登録)は、地図マッチング処理を開始した場合、あるいは、推定位置の候補が1つもなくなってしまった場合に行う処理である。
【0159】
推定位置の新規登録を行うか否かは、例えば、次の条件(1)、条件(2)により判定する。すなわち、条件(1)及び条件(2)の両方を充足する場合、推定位置の新規登録を実施せず、条件(1)又は条件(2)のいずれかが充足しない場合、推定位置の新規登録を行う。条件(1)は、センサ等の信頼度が所定の閾値以下(信頼性が悪い)場合であり、例えば、GPS12の信頼性が悪い場合などである。また、条件(2)は、所定の範囲(時間及び/又は距離)以上、歩行の乱れがある場合である。すなわち、条件(1)及び条件(2)を充足する場合、歩行者の位置は屋内領域にある可能性が高いため、歩行者が屋内領域から屋外領域に出るまで地図マッチング処理を実施しない。
【0160】
図10に示すように、測位位置Aの誤差範囲内に道路領域、すなわち、地図上の道路があるか否かを判定し、道路(道路領域)がある場合には、測位位置Aに最も近い当該道路上の地点を測位位置Aに対応する新規の推定位置として登録する。図10では、誤差範囲内に2つの道路が存在するため、それぞれの道路において測位位置Aから最も近い地点M、Nを推定位置として登録する。この場合、測位位置Aまでの測位軌跡の方位又は測位位置Aでの測位方位とほぼ方位が一致する道路を予め登録しておくこともできる。仮に、測位軌跡の方位又は測位方位と道路の方位とが略一致するような道路がない場合には、誤差範囲内に登録できる道路が存在するまで推定位置の新規登録を行わずに待機する。
【0161】
推定位置を新規に登録した場合、その推定位置に対応する測位位置の誤差範囲を、新規登録した推定位置の誤差範囲として設定(登録)する。図10の例では、推定位置M、Nの誤差範囲は、推定位置Aの誤差範囲を引き継ぐ。また、新規登録した推定位置M、Nとそれに対応する測位位置Aとの位置ずれに基づいて、推定位置M、Nの評価係数を算出する。
【0162】
図11は新規登録した推定位置の評価係数の算出の一例を示す説明図である。図11の例は、測位位置Aに対応させて推定位置Mを新規登録した場合を示す。測位位置Aの座標を(xa、ya)、新規登録した推定位置Mの座標を(x、y)とすると、推定位置Mの評価係数Cは、C=C1+C2とすることができる。ここで、C1=|x−xa|、C2=|y−ya|で表わすことができる。すなわち、推定位置Mの評価係数Cは、推定位置Mと測位位置Aのx座標の差、推定位置Mと測位位置Aのy座標の差とすることができる。この場合、評価係数が小さいほど、推定位置の確からしさ(確率)が高いということができる。評価係数Cは、x座標毎、y座標毎に算出するだけでなく、x座標とy座標の絶対値の和、あるいは、自乗和の平方根等により1つの指標とすることもできる。これにより、推定位置Mが測位位置Aに対して、どの程度確かな位置であるかを把握することができる。
【0163】
次に、新規登録後の推定位置の軌跡の算出例について説明する。図12は推定位置の軌跡の算出例を示す説明図である。図12の例では、測位位置Aに対応させて推定位置Mを新規登録した場合を示す。図12(a)に示す推定位置の軌跡の算出例は、推定位置Mを起点として、測位位置Aからの測位軌跡をそのまま平行移動(ずらす)させることにより、推定位置の軌跡を求めるものである。
【0164】
図12(b)の場合は、図12(a)の場合において、地図上の道路の方位と推定位置の軌跡の方位又は推定位置での方位との方位差が所定の閾値より小さい場合には、所定時間の経過及び/又は所定距離の移動の都度、推定位置を道路上に更新(修正)する。なお、推定位置を道路上の位置に更新する際に、位置ずれに応じた値を評価係数に加算してもよい。
【0165】
図12(c)の場合は、図12(a)の場合において、地図上の道路の方位と推定位置の軌跡の方位又は推定位置での方位との方位差が所定の閾値より小さい場合には、常時、推定位置を道路上に更新(修正)する。なお、推定位置を道路上の位置に更新する際に、位置ずれに応じた値を評価係数に加算してもよい。
【0166】
図12(d)の例は、図12(c)の場合において、地図上の道路の方位と推定位置の軌跡の方位又は推定位置での方位との方位差が所定の閾値を超えたときに、道路上の位置に更新(修正)することは行わないことを示す。なお、図12(a)、図12(b)の場合には、液晶表示パネルに表示させるときだけ、地図上に修正することもできる。
【0167】
図12(e)の例は、図12(c)が道路を線分で表現した場合の推定位置の修正例であるのに対して、道路を2次元図形そのままで表現した場合に推定位置を修正する例である。
【0168】
推定位置の誤差範囲は、推定位置の新規登録(初期登録)では、測位誤差(例えば、20〜200mの範囲)とすることができる。また、推定位置の誤差範囲は、カーブ、交差点等の特徴地点で推定位置を道路上の位置に更新(修正)した場合には、最小の誤差範囲(例えば、道路幅程度)とすることができる。その後、歩行者が歩行するにつれて、測位誤差が累加されるため、推定位置の誤差範囲を増加させることができる。これにより、一旦歩行者の位置が決定(確定)され、その位置での誤差範囲を所定値に設定した後は、測位軌跡の増加(移動距離又は移動方位)に伴って測位誤差が増加した場合でも、測位軌跡に応じて、推定位置の適切な誤差範囲を求めることができる。なお、推定位置の誤差範囲を常に適当な所定の一定値(例えば、100m)とすることもできる。これにより、位置検出の処理労力を低減することができる。
【0169】
次に、推定位置の更新方法について説明する。推定位置の更新は、例えば、推定位置の誤差範囲内の地図上の領域の属性、道路の接続特性、道路領域と他の領域との接続特性、歩行者の歩行挙動、測位データの信頼度(信頼性)、推定位置の評価係数等に基づいて行う。また、推定位置が妥当でない場合には、推定位置の棄却を行う。
【0170】
図13は推定位置の更新の一例を示す説明図である。図13の例では、歩行者は屋外を歩行しているものとする。測位位置Aまでの測位軌跡に対応して、前回(例えば、直近でもよく、2回又は3回などの複数回前でもよい)に更新した推定位置からの推定位置の軌跡により、測位位置Aに対応して2つの推定位置M、Nが存在するとする。推定位置Mの誤差範囲内には、道路(道路領域)が存在するので、推定位置Mを道路上の位置に更新する。また、推定位置Mと更新した推定位置との位置ずれに対応する値を推定位置Mの評価係数に加算して、更新した推定位置の評価係数として引き継ぐようにしてもよい。また、カーブ、交差点等の特徴のある地点において、推定位置Mの位置ずれを補正して推定位置を更新し、評価係数、誤差範囲を更新することもできる。この場合、更新する誤差範囲としては、例えば、最小値(道路幅程度の範囲)を設定することができる。なお、推定位置の方位と道路の方位との方位差が所定の閾値より小さいか否かを判定し、方位差が閾値より大きい場合、推定位置を道路上に更新しないようにすることもできる。
【0171】
推定位置Nの誤差範囲内では、前回に更新した推定位置が存在していた道路(道路領域)が誤差範囲外となるため、誤差範囲内に別の道路があるか否かを判定する。仮に別の道路が存在する場合、推定位置をその道路の位置に更新するとともに、推定位置Nの誤差範囲、評価係数を更新した推定位置の誤差範囲、評価係数として引き継ぐ。仮に更新すべき道路がないと判定した場合、推定位置の属性を判定し、判定した属性がその他領域であれば、推定位置Nから、歩行者の歩行に伴う歩行軌跡の変化分を累計した位置を推定位置の軌跡とし、評価係数、誤差範囲を引き継ぐ。また、判定した属性が禁止領域であれば、推定位置Nを棄却する(図13参照)。
【0172】
図14は推定位置の更新の他の例を示す説明図である。図14の例は、前回(例えば、直近でもよく、2回又は3回などの複数回前でもよい)に更新した推定位置が存在する道路が2つの道路に分岐するような場合である。測位位置Aまでの測位軌跡に対応して、前回に更新した推定位置からの推定位置の軌跡により、測位位置Aに対応して1つの推定位置Mが存在するとする。推定位置Mの誤差範囲内には、分岐した一方の道路(道路領域)が存在するので、推定位置Mを道路上の位置に更新する。また、推定位置Mと更新した推定位置との位置ずれに対応する値を推定位置Mの評価係数に加算して、更新した推定位置の評価係数として引き継ぐようにしてもよい。推定位置Mの誤差範囲外となった他方の道路上の推定位置は棄却する。なお、この場合においても、カーブ、交差点等の特徴のある地点において、推定位置Mの位置ずれを補正して推定位置を更新し、評価係数、誤差範囲を更新することもできる。
【0173】
図15は推定位置の更新の他の例を示す説明図である。図15の例も、前回(例えば、直近でもよく、2回又は3回などの複数回前でもよい)に更新した推定位置が存在する道路が2つの道路に分岐するような場合である。測位位置Aまでの測位軌跡に対応して、前回に更新した推定位置からの推定位置の軌跡により、測位位置Aに対応して1つの推定位置Mが存在するとする。推定位置Mの誤差範囲内には、分岐した両方の道路(道路領域)が存在するので、推定位置Mを各道路上の位置に更新する。更新した推定位置を第1候補の推定位置及び第2候補の推定位置とする。また、推定位置Mと第1候補の推定位置及び第2候補の推定位置との位置ずれに対応する値を推定位置Mの評価係数に加算して、第1候補の推定位置及び第2候補の推定位置の評価係数として引き継ぐようにしてもよい。なお、この場合においても、カーブ、交差点等の特徴のある地点において、推定位置Mの位置ずれを補正して推定位置を更新し、評価係数、誤差範囲を更新することもできる。
【0174】
次に、カーブ、交差点等の特徴地点での推定位置の評価係数の算出方法について説明する。図16は特徴地点での推定位置の評価係数の算出の一例を示す説明図である。図16の例では、カーブ等の特徴地点B1、B2、B3において、測位位置A1、A2、A3に対応して道路上の位置に更新した推定位置M1、M2、M3があるとする。測位位置A1と推定位置M1との位置ずれを(x1、y1)とし、測位位置A2と推定位置M2との位置ずれを(x2、y2)とし、測位位置A3と推定位置M3との位置ずれを(x3、y3)とする。また、前回(例えば、直近でもよく、2回又は3回などの複数回前でもよい)に更新した推定位置と対応する測位位置との位置ずれを(x0、y0)とする。推定位置(例えば、推定位置M3)の評価係数を、推定位置と測位位置との位置ずれの差の平均値として求めることができる。
【0175】
すなわち、x方向の位置ずれの差の平均値は、{|x1−x0|+|x2−x1|+|x3−x2|}/3となり、y方向の位置ずれの差の平均値は、{|y1−y0|+|y2−y1|+|y3−y2|}/3となる。各特徴地点B1、B2、B3での位置ずれが等しいほど評価係数は小さくなり、推定位置の確からしさ(確率)が大きいといえる。これにより、推定位置が測位位置に対して、どの程度確かな位置であるかを把握することができる。
【0176】
なお、評価係数として、各特徴地点での位置ずれの差の2乗を合計して平均し、平均した値の平方根を求めることもできる。また、平均値に代えて、中央値、最大値と最小値の和の2分の1の数値など他の統計値を用いることもできる。
【0177】
次に測位方位の補正について説明する。地図マッチング法により、道路の特定とその推定位置が確定し、かつ測位方位が所定の歩行距離(例えば、20m)以上変化がない場合に、測位方位を地図上の道路の方位に補正することができる。測位方位の補正のタイミングは、例えば、特定された推定位置が唯一である状況が所定の時間(例えば、1分)又は所定の距離(例えば、50m)以上継続した場合、あるいは、特定された全ての推定位置に対応する地図上の道路方位が、所定閾値(例えば、2度)の範囲内である状況が所定の時間(例えば、1分)及び/又は所定の距離(例えば、50m)以上継続し、かつ測位方位に所定の歩行距離(例えば、20m)以上変化がない場合である。
【0178】
また、以下のような補正タイミングの条件を付加することもできる。条件(1)として、所定の時間(例えば、1分)又は所定の距離(例えば、50m)の間で推定位置と測位位置との差が所定の閾値(例えば、50m)以内である場合、条件(2)として、所定の時間(例えば、1分)又は所定の距離(例えば、50m)の間で地磁気センサが正常である確率が低い場合、例えば、所定の歩行距離(例えば、20m)以上連続して地磁気センサが正常でない場合、条件(3)として、所定の時間(例えば、1分)及び/又は所定の距離(例えば、50m)の間でGPS12が正常である確率が低い場合、例えば、所定の歩行距離(例えば、50m)以上連続してGPS12が正常でない場合である。なお、この測位方位の補正は、地図上の道路方位が直進である場合に限定してもよい。
【0179】
次に、歩行者の位置を地図上で表示する表示例について説明する。歩行者の位置を出力部18で表示する場合、推定位置がないときは、測位位置又は暫定位置を表示し、推定位置があるときは、その推定位置(更新した推定位置を含む)を表示する。
【0180】
例えば、推定位置が1つの場合、その推定位置(又は更新した推定位置を含む)を地図上に表示した上で、表示した推定位置の誤差範囲も同時に表示する。なお、推定位置が複数ある場合には、評価係数の最も小さい推定位置を1つ表示することもできる。
【0181】
また、推定位置が複数存在する場合、複数の推定位置を包含する領域を推定位置として表示する。この場合、各推定位置の誤差範囲を含むような範囲を表示してもよい。また、推定位置の評価係数の大小に応じて、その推定位置の誤差範囲の大きさを拡大又は縮小して上で、推定位置とその誤差範囲とを同時に表示することもでき、また、推定位置が複数ある場合には、各推定位置の誤差範囲を含む範囲を表示してもよい。また、複数の推定位置の重心位置を表示してもよい。
【0182】
推定位置を更新することにより特定(検出)した位置を歩行者の位置として表示する場合に、特定した位置が複数あるときには、算出又は補正した評価係数の大小に応じて、最も確からしい特定位置を表示することもでき、あるいは、複数の特定位置をすべて表示してもよく、あるいは、特定した位置の中からいくつかを選択して表示してもよい。また、歩行者の位置を検出している過程のある時点において、一時的に精度よく位置を検出することができず、仮に評価係数が大きくなり、検出した位置を表示した場合には、歩行者に誤った位置を表示する恐れがあるようなときでも、その後の測位の結果、特定位置の確からしさが十分確保できたような場合には、位置の確からしさを確保できた時点以降、その特定位置を表示させることもできる。
【0183】
次に地磁気センサの正常又は異常判定処理を含む位置検出処理の手順について説明する。図17、図18及び図19は位置検出処理の手順を示すフローチャートである。制御部10は、位置検出装置100内の各部と協働して装置の姿勢特定処理、位置検出処理などを行う。制御部10は、初期位置の探索が必要であるか否かを判定する(S11)。
【0184】
歩行者の場合と異なり、車両の場合には、位置検出が不能になることは殆どなく、電源が切られた場合でも、検出した位置が保存されるため、初期位置を探索する必要性が殆ど皆無である。しかし歩行者の場合には、地下から出てくる場合等、位置検出が不能になる場合があり、初期位置を探索する必要がある。初期位置の探索は、GPS12による測位には時間がかかるため、通常基地局との通信により行う。
【0185】
初期位置の探索が必要である場合(S11でYES)、制御部10は、初期位置の探索を行い(S12)、探索位置を暫定的な測位位置とする(S13)。初期位置の探索が必要でない場合(S11でNO)、すなわち、1又は複数の推定位置をすでに保持している場合、制御部10は、ステップS12、ステップS13の処理を行わずに後述のステップS14の処理を行う。
【0186】
制御部10は、路上装置との通信の有無を判定し(S14)、路上装置との通信がある場合(S14でYES)、測位位置を通信位置に補正し(S15)、保持していた推定位置をすべて棄却する(S16)。路上装置との狭域通信(局所通信)による誤差は、GPS等に比べてかなり小さく、精度が高いため、局所通信により通信位置が得られた場合には、この通信位置を最も信頼性の高い推定位置とすることができる。
【0187】
制御部10は、補正した測位位置を推定位置として登録し(S17)、推定位置の地図領域の属性、誤差範囲、評価係数を登録する(S18)。これにより、推定位置の新規登録(初期登録)が完了するとともに、推定位置の誤差範囲、評価係数が設定される。路上装置との通信がない場合(S14でNO)、制御部10は、ステップS17の処理を行い、暫定的な測位位置を推定位置として登録する。
【0188】
制御部10は、測位データを取得し(S19)、地磁気センサ23の異常を判定する(S20)。なお、地磁気センサ23の異常判定処理の詳細は後述する。制御部10は、装置の姿勢の特定が必要である否かを判定し(S21)、姿勢の特定が必要である場合(S21でYES)、姿勢の特定を行う(S22)。姿勢の特定が必要でない場合(S21でNO)、制御部10は、ステップS22の処理を行わずに後述のステップS23の処理を行う。
【0189】
制御部10は、測位データの異常の有無を確認し(S23)、確認結果に応じて、測位データの信頼度を算出する(S24)。制御部10は、測位データに基づいて測位位置を算出し(S25)、測位位置の測位誤差を算出する(S26)。測位位置の算出は、上述したように、距離センサ21、方位特定部15などによる自立航法又は地図マッチング法と、GPS12等による衛星航法との組み合わせにより行うことができる。ただし、周囲にビル等の高い障害物があり、GPS衛星の測位性能が良くない場合には、自立航法又は地図マッチング法だけで測位することも可能である。
【0190】
制御部10は、歩行者の歩行挙動を取得し(S27)、外部装置からの地図情報、信号情報の更新の有無を判定する(S28)。地図情報、信号情報の更新があった場合(S28でYES)、制御部10は、地図情報、信号情報を取得する(S29)。地図情報、信号情報の更新がない場合(S28でNO)、制御部10は、ステップS29の処理を行わずに後述のステップS30の処理を行う。
【0191】
制御部10は、地図マッチング機能の停止中であるか否かを判定する(S30)。地図マッチング機能が停止するか否かの条件は、例えば、歩行者の歩行速度が所定の閾値より大きい場合、又は屋内領域内の所定距離以上に亘って歩行者の位置が検出された場合である。所定の閾値は、例えば、60km/hとすることができ、歩行速度が所定の閾値より大きくなった場合、歩行者は、電車、自動車等の車両、あるいは他の交通機関を利用したとして、地図マッチングによる歩行者の位置検出を停止する。また、所定距離は、例えば、5kmとすることができ、屋内領域内の所定距離以上に亘って歩行者の位置が検出された場合には、歩行者は、電車、地下鉄等の他の交通機関を利用したとして、地図マッチングによる歩行者の位置検出を停止する。これにより、誤った位置検出を防止することができる。
【0192】
地図マッチング機能が停止中でない場合(S30でNO)、制御部10は、推定位置の更新処理を行う(S31)。制御部10は、推定位置の更新を行った後、地図マッチング機能の停止の必要性を判定し(S32)、停止の必要性がある場合(S32でYES)、地図マッチング機能を停止し、推定位置をすべて棄却する(S33)。
【0193】
制御部10は、推定位置の初期登録(新規登録)の条件を充足するか否かを判定し(S34)、条件を充足する場合(S34でYES)、測位位置に基づいて推定位置の初期登録(新規登録)を行う(S35)。地図マッチング機能が停止中である場合(S30でYES)、制御部10は、ステップS34の処理を行う。地図マッチング機能の停止の必要性がない場合(S32でNO)、制御部10は、後述のステップS36の処理を行い、推定位置の初期登録(新規登録)の条件を充足しない場合(S34でNO)、同様に後述のステップS36の処理を行う。
【0194】
制御部10は、推定位置(更新した推定位置を含む)の有無を判定し(S36)、推定位置がある場合(S36でYES)、推定位置を出力部18に表示し(S37)、推定位置がない場合(S36でNO)、測位位置又は暫定位置を出力部18に表示する(S38)。
【0195】
制御部10は、測位方位の補正条件を充足するか否かを判定し(S39)、条件を充足する場合(S39でYES)、測位方位を地図上の道路方位に補正する(S40)。測位方位の補正条件を充足しない場合(S39でNO)、制御部10は、ステップS40の処理を行わずに、後述のステップS41の処理を行う。
【0196】
制御部10は、センサの較正の要否を判定し(S41)、較正が必要である場合(S41でYES)、センサを較正する(S42)。センサの較正が必要でない場合(S41でNO)、制御部10は、ステップS42の処理を行わずに、後述のステップS43の処理を行う。制御部10は、処理終了の指示の有無を判定し(S43)、指示がない場合(S43でNO)、ステップS11以降の処理を続け、指示がある場合(S43でYES)、処理を終了する。
【0197】
次に、地磁気センサ23の異常判定処理について説明する。図20及び図21は地磁気センサ23の異常判定処理の手順を示すフローチャートである。制御部10は、加速度データを参照し(S201)、地磁気データを参照し(S202)、歩数データを参照する(S203)。
【0198】
制御部10は、歩行者が所定距離(例えば、50m)移動したか否かを判定し(S204)、所定距離移動した場合(S204でYES)、地磁気センサ23の異常判定が未解除であるか否かを判定する(S205)。
【0199】
地磁気センサ23の異常判定が未解除でない場合(S205でNO)、すなわち、地磁気センサ23が正常である場合、制御部10は、加速度データを用いて移動方位変化Δθaを算出し(S206)、地磁気データを用いて移動方位変化Δθmを算出する(S207)。
【0200】
制御部10は、算出した移動方位変化Δθa及びΔθmを用いて、地磁気センサ23が正常であるか否かを判定する(S208)。地磁気センサ23が正常である場合(S208でYES)、制御部10は、地磁気データを用いて歩行者の移動方位を特定し(S209)、処理を終了する。なお、この場合、地磁気データを用いて算出した移動方位と加速度データを用いて算出した移動方位とを重み付けして得られた移動方位を歩行者の移動方位として特定することもできる。
【0201】
地磁気センサ23が正常でない場合(S208でNO)、制御部10は、加速度データを用いて歩行者の移動方位を特定し(S210)、処理を終了する。歩行者が所定距離移動していない場合(S204でNO)、制御部10は、ステップS209の処理を行う。
【0202】
地磁気センサ23の異常判定が未解除である場合(S205でYES)、すなわち、地磁気センサ23が異常のままである場合、制御部10は、加速度データを用いて移動方位変化Δθaを算出し(S211)、地磁気データを用いて移動方位変化Δθmを算出する(S212)。
【0203】
制御部10は、算出した移動方位変化Δθa及びΔθmを用いて、地磁気センサ23の異常判定を解除できるか否かを判定する(S213)。異常判定を解除できる場合(S213でYES)、制御部10は、ステップS209の処理を行い、異常判定を解除できない場合(S213でNO)、ステップS210の処理を行う。
【0204】
以上説明したように、本発明によれば、地磁気センサを建物内で使用した場合に、建物内の鉄骨等の影響により、地磁気センサで検出されたデータが正しいのか間違っているのかを容易に判断することができる。また、自立航法を用いる場合に地磁気センサが一時的に利用することができない屋内等でもジャイロのような高価な方位センサを用いることなく安価に歩行者の歩行方位を検出することができる。
【0205】
上述の実施の形態では、物理的な位置又は方位と共に、歩行挙動、測位データの信頼度を、地図情報と関連づけて、歩行者の位置を特定する方法としていくつかの例を示したが、この他に、例えば、エレベータ、エスカレータに乗った場合のエレベータ、エスカレータ位置への特定(歩行停止、高度又は気圧の変化、測位データの信頼度を考慮)、地下街又は地下鉄への連絡口に降りた場合の連絡口への特定(歩行速度の変化や歩行の強さの変化、高度又は気圧の変化、測位データの信頼度を考慮)、地下鉄駅舎の券売機で立ち止まった場合の券売機位置への特定(歩行停止、測位データの信頼度を考慮)、バスや市電に停留所で乗車した場合の停留所への特定(歩行停止、位置の変化)等が、地図情報に公共物等の特定位置を登録しておけば可能となる。
【0206】
上記の例では、表現を簡単にするため、地図領域の属性、位置検出、位置検出の誤差範囲等を全て2次元で表現しているが、高度の情報を入れて3次元で表現してもよい。これにより、高度が関係する歩行者用陸橋又は地下横断通路等の判定精度を向上させることができるとともに、屋内領域のビルの何階のフロアーにいるか、屋上にいるかどうか等まで推定することも可能となる。また、上記までの表現では、歩行者が、通常歩行時又は自転車走行時に携帯機器を身に付けている場合について説明しているが、これに限定されるものではなく、歩行者が直接携帯機器を身につけず、かばん、携帯機器を車輪付き旅行ケース、荷車、乳母車、車椅子等に収納、仮設置又は仮置きし、歩行者が持ち歩いたり、車を押したり引いたり、あるいは、手で車輪を回転したりして、歩行者の通行できる領域を通行している場合であってもよい。
【0207】
また、上記では、歩行者が電車又は自動車に乗った場合、位置検出を中止することにしているが、別途、電車に乗った場合、自動車に乗った場合の地図マッチング型の位置検出システムを用意して、連続的に位置検出が実施できるようにしても良い。これにより、位置検出を最初からやり直す必要がなくなり、より効果的なシステムを構築することができる。さらに、上記の例では、位置検出に必要なデータを全て携帯機器に集約して位置検出する形態を示したが、これに限定されず、路上又はセンタに設置したサーバに携帯機器から必要データを送信し、位置検出処理をサーバで実行させ、その結果を携帯機器に送信する、という形態等にしてもよい。あるいは、処理の実行を分担してもよい。これにより、携帯機器の負担を減らすことが可能となる。
【0208】
上述の位置検出装置は、例えば、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)、PHS、ノート型パーソナルコンピュータ、音楽プレーヤ、携帯型ゲーム装置等の情報端末装置又は携帯端末装置などに適用することができる。
【0209】
上述の実施の形態で示した歩行者の位置を推定するための数式は、一例であって、これらに限定されるものではなく、適宜変形した数式を用いることもできる。
【0210】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】本発明に係る位置特定装置としての位置検出装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】歩行者の座標系と装置の座標系との関係を示す説明図である。
【図3】加速度データにより歩行方位の変化を算出する一例を示す説明図である。
【図4】地磁気データにより歩行方位の変化を算出する一例を示す説明図である。
【図5】歩行時の加速度センサで検出する加速度データの一例を示す説明図である。
【図6】測位位置の誤差範囲の例を示す説明図である。
【図7】地図情報の一例を示す模式図である。
【図8】地図上の領域の属性の一例を示す説明図である。
【図9】地図上の道路の設定例を示す説明図である。
【図10】推定位置の新規登録の一例を示す説明図である。
【図11】新規登録した推定位置の評価係数の算出の一例を示す説明図である。
【図12】推定位置の軌跡の算出例を示す説明図である。
【図13】推定位置の更新の一例を示す説明図である。
【図14】推定位置の更新の他の例を示す説明図である。
【図15】推定位置の更新の他の例を示す説明図である。
【図16】特徴地点での推定位置の評価係数の算出の一例を示す説明図である。
【図17】位置検出処理の手順を示すフローチャートである。
【図18】位置検出処理の手順を示すフローチャートである。
【図19】位置検出処理の手順を示すフローチャートである。
【図20】地磁気センサの異常判定処理の手順を示すフローチャートである。
【図21】地磁気センサの異常判定処理の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0212】
100 位置検出装置
10 制御部
11 通信部
12 GPS
13 地図データベース
14 地磁気センサ判定部
15 方位特定部
16 記憶部
17 操作部
18 出力部
20 測位部
21 距離センサ
22 加速度センサ
23 地磁気センサ
24 方位補正部
25 センサ較正部
30 姿勢特定部
31 座標変換部
32 角度算出部
33 判定部
40 位置検出処理部
41 位置推定部
42 誤差算出部
43 属性判定部
44 歩行挙動判定部
45 位置更新部
46 信頼度算出部
47 評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地磁気センサの異常を判定する地磁気センサの異常判定装置であって、
地磁気センサで検出したデータにより移動対象の第1移動方位変化を算出する第1方位算出手段と、
加速度センサで検出したデータにより前記移動対象の移動方向の変化に伴う加速度を算出する加速度算出手段と、
前記移動対象の移動距離を取得する移動距離取得手段と、
前記加速度算出手段で算出した加速度及び前記移動距離取得手段で取得した移動距離に基づいて、前記移動対象の第2移動方位変化を算出する第2方位算出手段と、
前記第1移動方位変化及び前記第2移動方位変化の差に基づいて、前記地磁気センサの異常を判定する判定手段と
を備えることを特徴とする地磁気センサの異常判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地磁気センサの異常判定装置と、
前記判定手段の判定結果に応じて移動対象の移動方位を特定する移動方位特定手段と
を備えることを特徴とする移動方位特定装置。
【請求項3】
前記移動方位特定手段は、
前記判定手段で地磁気センサが異常でないと判定した場合、該地磁気センサで検出したデータを用いて算出した移動方位を移動対象の移動方位として特定するように構成してあることを特徴とする請求項2に記載の移動方位特定装置。
【請求項4】
前記移動方位特定手段は、
前記判定手段で地磁気センサが異常であると判定した場合、直近に特定した移動方位及び前記第2方位算出手段で算出した第2移動方位変化により移動対象の移動方位を特定するように構成してあることを特徴とする請求項2に記載の移動方位特定装置。
【請求項5】
前記地磁気センサで検出したデータを用いて算出した移動方位及び前記第2移動方位変化により算出した移動方位を適宜の比率で重み付けする重み付け手段を備え、
前記移動方位特定手段は、
前記判定手段で地磁気センサが異常でないと判定した場合、前記重み付け手段で重み付けた移動方位に基づいて移動対象の移動方位を特定するように構成してあることを特徴とする請求項2に記載の移動方位特定装置。
【請求項6】
前記判定手段で地磁気センサが異常であると判定した場合に、再度前記判定手段で地磁気センサが異常でないと判定したとき、前記地磁気センサが異常であるという判定を無効にする無効手段を備えることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1つに記載の移動方位特定装置。
【請求項7】
前記判定手段で地磁気センサが異常であると判定した場合に、前記第1方位算出手段で算出した第1移動方位変化及び前記第2方位算出手段で算出した第2移動方位変化の差が所定の閾値より小さくなったとき、前記地磁気センサが異常であるという判定を無効にする無効手段を備えることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1つに記載の移動方位特定装置。
【請求項8】
所定の移動距離又は所定の時間に亘って、前記判定手段で地磁気センサが異常であると判定した場合、前記地磁気センサの異常判定を無効にする無効手段を備えることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1つに記載の移動方位特定装置。
【請求項9】
コンピュータを、地磁気センサの異常を判定する手段として機能させるためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
地磁気センサで検出したデータにより移動対象の第1移動方位変化を算出する第1方位算出手段と、
加速度センサで検出したデータにより前記移動対象の移動方向の変化に伴う加速度を算出する加速度算出手段と、
該加速度算出手段で算出した加速度及び前記移動対象の移動距離に基づいて、該移動対象の第2移動方位変化を算出する第2方位算出手段と、
前記第1移動方位変化及び第2移動方位変化の差に基づいて、前記地磁気センサの異常を判定する判定手段と
して機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項10】
地磁気センサの異常を判定する異常判定装置の地磁気センサの異常判定方法であって、
前記異常判定装置は、
地磁気センサで検出したデータにより移動対象の第1移動方位変化を算出し、
加速度センサで検出したデータにより前記移動対象の移動方向の変化に伴う加速度を算出し、
前記移動対象の移動距離を取得し、
算出した加速度及び取得した移動距離に基づいて、前記移動対象の第2移動方位変化を算出し、
算出した第1移動方位変化及び第2移動方位変化の差に基づいて、前記地磁気センサの異常を判定することを特徴とする地磁気センサの異常判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−288022(P2009−288022A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139950(P2008−139950)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】