説明

垂直磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】従来よりいっそうの超高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、基板上に少なくとも、非晶質のセラミックスからなるシード層、結晶性の配向制御層及びFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順に備える垂直磁気記録媒体である。この垂直磁気記録媒体は、基板上に少なくとも、上記シード層、上記配向制御層及びFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順にスパッタ成膜し、前記磁性層を500℃以下の所定温度で成膜することによって好適に製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は垂直磁気記録方式のハードディスクドライブ(以下、適宜「HDD」と略称する。)等の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスク等の垂直磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDD等の面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚当り500Gバイトを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような所要に応えるためには1平方インチ当り720Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。HDD等に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来より商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。
【0003】
この阻害要因を解決するために、近年、垂直磁気記録方式用の磁気ディスクが提案されている。垂直磁気記録方式の場合では、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。例えば、特開2002−92865号公報(特許文献1)では、基板上に軟磁性層、下地層、Co系垂直磁気記録層、保護層等をこの順で形成してなる垂直磁気記録媒体に関する技術が開示されている。また、米国特許第6468670号明細書(特許文献2)には、粒子性の記録層に交換結合した人口格子膜連続層(交換結合層)を付着させた構造からなる垂直磁気記録媒体が開示されている。
【0004】
しかしながら、情報記録容量の増加の要求は益々高まる一方であり、現在では、垂直磁気記録媒体での更なる高記録密度化が求められている。
例えば、次世代(あるいは次々世代)の垂直磁気記録媒体として、データトラックやビット間を磁気的に分離することで、隣接トラック、ビット間のサイドフリンジなどの影響を低減したディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)が有望視されている。
【0005】
また、垂直磁気記録方式による情報記録密度を上回る超高記録密度を達成できるような記録方式の出現が望まれており、その1つの手段として、熱アシスト磁気記録(Thermally Assisted MagneticRecording)が注目されている。この熱アシスト磁気記録は、従来の磁気記録方式では記録できないような熱揺らぎ耐性に優れた高保磁力媒体に対して記録再生が可能となるため、従来の垂直磁気記録方式による情報記録密度を上回る超高記録密度を達成できることが期待されている。
【0006】
ところで、現状の垂直磁気記録媒体の情報記録密度を上回る例えば1平方インチ当り1テラビットを超えるような情報記録密度を達成するためには、上述の記録方式の改善だけでなく、磁気記録媒体を構成する強磁性体の改善も必要となってくる。例えば1平方インチ当り1テラビットを超えるような超高記録密度磁気記録媒体では、記録単位であるビットサイズをよりいっそう小さくしなければならないため、磁性粒子の熱揺らぎの問題が浮上する。この問題に対して、熱安定性(熱揺らぎ耐性)を確保するためには、磁性粒子の微細化に伴う磁性粒の体積減少分を補う異方性エネルギーの増加が必要となる。例えばL1構造を持つFePtなど5×10erg/cc以上の高い結晶磁気異方性定数(Ku)を有する磁性材料を磁気記録層に用いることが提案されている(例えば特許文献3など)。なお、従来のCoCrPt系磁性材料では10の7乗台の高いKuを得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−92865号公報
【特許文献2】米国特許第6468670号明細書
【特許文献3】特開2004−311925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、FePt系磁性材料は、例えばスパッタ法により成膜した状態では、面心立方(fcc)構造の不規則相よりなり、結晶磁気異方性が非常に小さい。結晶磁気異方性を高めるためには、規則相(L1構造)に変態させる必要がある。L1規則相を得るためには、あらかじめ加熱した基板上に成膜を行う、あるいは成膜後の不規則合金薄膜をアニール処理するなど、通常500℃を超える高温の熱処理が必要となる。またFePt−SiOなどのグラニュラー膜を成膜後にL1規則化するために熱処理すると粒子が粗大化し、粒子サイズの不均一なグラニュラー膜しか得られないという問題もあった。このため、1テラビット毎平方インチ以上の磁気記録で必要とされている5ナノメートル径のL1構造を持つFePt粒子を、サイズ分散を15%以下に抑えて成膜に成功した例は報告されていない。
【0009】
また、L1構造のFePt合金は、その磁化容易軸(C軸)方向に大きな結晶磁気異方性を有することが知られており、媒体の結晶磁気異方性を高め、かつ良好な磁気特性を得るためには、L1構造のC軸の配向性制御が重要である。従来技術として、例えばCrRu/MgOなどの下地層の上にFePt系グラニュラー磁性層を形成する方法が知られているが(J. S. Chen, B. C. Lim, J.F. Hu, Y.K. Lim, B. Liu and G.M. Chow, Appl. Phys. Lett., 90, 042508 (2007))、本発明者の検討によると、例えば1平方インチ当り1テラビットを超えるような超高記録密度磁気記録媒体向けに所望の特性を得るためには、上記のMgOなどの下地層の結晶配向性では不十分であることが判明した。本発明者の考察によれば、下地層の結晶配向性が不十分であると、それが直上の磁性層の結晶配向性にも影響し、結果的に媒体の磁気特性や記録再生特性の劣化を招いてしまうものと考えられる。
【0010】
また、FePt系磁性材料は、Kuが大きいため、磁性粒子を微細化しても熱安定性が保たれるとされているが、本発明者の検討によれば、L1構造のFePt合金の場合、高記録密度化のために粒子サイズをよりいっそう微細化していくと、Kuが10の7乗台よりも低下してしまい、1平方インチ当り1テラビットを超える超高記録密度磁気記録媒体向けには熱安定性が不十分となる。
【0011】
また、上述のように、FePt系磁性材料は、L1規則構造を得るためには、通常500℃を超える高温の熱処理が必要となるが、このような高温アニール処理を行った場合、従来の垂直磁気記録媒体の軟磁性材料であるCoTaZr、FeCoTaZr等のアモルファス材料は結晶化してしまい、その結果、軟磁気特性の劣化や表面粗さの増加を招くため、従来の軟磁性材料とFePt系磁性材料とを組み合わせて使用することは困難である。なお、非グラニュラー構造のFePt系磁性材料にAgを添加することによってアニール温度を下げることも従来知られているが、単にアニール温度を下げると、今度はL1規則構造が良好に得られないという問題が生じる。
【0012】
要するに、現状の垂直磁気記録媒体の情報記録密度を超える超高記録密度磁気記録媒体を実現する上で、FePt系磁性材料を用いることは非常に好適であるが、アニール処理温度を低下させても、高いKuを維持したまま磁性粒サイズを微細化すること、なお且つ良好な磁気特性(特に保磁力(Hc)、磁化反転核生成磁界(Hn)の最適化)を得ることが従来では困難であった。
【0013】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑み、よりいっそうの超高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記従来の課題を解決するべく鋭意検討した結果、基板上に少なくとも、非晶質の例えばSiOなどのセラミックスからなるシード層、結晶性の例えばMgOなどの配向制御層、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順に備える垂直磁気記録媒体とすれば、配向制御層のさらに下に、非晶質のセラミックスからなるシード層を設けることで、配向制御層の結晶配向性と微細構造をよりいっそう向上させることができ、その結果、FePt合金を主成分とする材料からなる磁性層の結晶配向性の乱れを抑制し、平均粒径が8nm以下のL1構造のFePt強磁性粒子を均一に分散したグラニュラー構造とすることができ、高Kuを維持したまま、磁気特性や記録再生特性をさらに改善できることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有するものである。
【0015】
(構成1)
垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、基板上に少なくとも、非晶質のセラミックスからなるシード層、結晶性の配向制御層、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順に備えることを特徴とする垂直磁気記録媒体である。
【0016】
(構成2)
前記シード層は、金属酸化物からなることを特徴とする構成1に記載の垂直磁気記録媒体である。
(構成3)
前記配向制御層は、L1構造のFePt(001)との格子定数ミスマッチが10%以内であることを特徴とする構成1又は2に記載の垂直磁気記録媒体である。
【0017】
(構成4)
前記磁性層は、L1構造を持つFePt合金を主体とする結晶粒子と、非磁性物質を主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層であることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体である。
(構成5)
前記基板と前記シード層との間に、少なくとも、Feと、Ta,Hf,Zrから選択される少なくとも1種類の元素と、C、Nから選択される少なくとも1種類の元素とを含む軟磁性層を備えることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体である。
【0018】
(構成6)
基板上に少なくとも、非晶質のセラミックスからなるシード層、結晶性の配向制御層、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順にスパッタ成膜する工程を含み、前記磁性層を500℃以下の所定温度で成膜することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法である。
(構成7)
前記磁性層を400℃以下の所定温度で成膜するとともに、前記磁性層の成膜後に、基板を500℃以下でアニール処理することを特徴とする構成6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法である。
【0019】
前記シード層は、たとえばシリコンの酸化物からなり、さらに前記配向制御層は、たとえばマグネシウムの酸化物からなる。
また、前記磁性層は、FePt合金を主成分とするが、さらに室温においてFeと1原子%未満の固溶限を有する元素を含むことができる。このような元素として、たとえばAg、Cu、B,Ir,Sn,Pb,Sb,Bi,Zrから選ばれる少なくとも1つの元素を含むことができる。また、前記磁性層は、たとえばC、P、Bから選ばれる少なくとも1つの元素を含むことができる。
また、前記基板と前記シード層との間の軟磁性層は、さらにC又はNを含むことができる。
また、本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法においては、前記磁性層の成膜時の基板加熱温度は500℃以下、必要に応じて行う成膜後のアニール処理は500℃以下とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の垂直磁気記録媒体は、基板上に少なくとも、非晶質のセラミックスからなるシード層、結晶性の配向制御層、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順に備えることにより、磁性層の下部層にあたる配向制御層のさらに下に、非晶質のセラミックスからなるシード層を設けることで、配向制御層の結晶配向性と微細構造をよりいっそう向上させることができ、その結果、FePt合金を主成分とする材料からなる磁性層の結晶配向性の乱れを抑制し、平均粒径が8nm以下のL1構造のFePt強磁性粒子を均一に分散したグラニュラー構造とすることができ、高Kuを維持したまま、良好な磁気特性(特に保磁力(Hc)、磁化反転核生成磁界(Hn)の最適化)や記録再生特性を得ることができ、よりいっそうの超高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体を得ることができる。また、本発明の垂直磁気記録媒体によれば、高いKuを維持したまま磁性粒子サイズを微細化することが可能となり、良好な磁気特性(特にHnが高い)を得ることができる。
また、本発明による垂直磁気記録媒体の製造方法によれば、L1構造のFePt強磁性粒子を均一に分散した良好なグラニュラー構造を形成することができ、本発明による超高記録密度化に対応が可能な良好な磁気特性を有する垂直磁気記録媒体を製造するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1におけるFePtグラニュラー磁性薄膜の面内のTEM像と粒子分散を示す図である。
【図2】実施例1におけるFePtグラニュラー磁性薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例1におけるFePtグラニュラー磁性薄膜の磁化曲線図である。
【図4】比較例1におけるFePtグラニュラー磁性薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例2におけるFePtグラニュラー磁性薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図6】実施例3におけるアニール処理前と処理後の磁化曲線図である。
【図7】比較例2におけるアニール処理前と処理後の磁化曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
本発明は、構成1にあるように、垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、基板上に少なくとも、非晶質のセラミックスからなるシード層、結晶性の配向制御層、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順に備えることを特徴とするものである。
また、本発明において、上記基板とシード層との間に、軟磁性層を備えることが好適である。
【0023】
本発明に係る上記垂直磁気記録媒体の層構成の一実施の形態(垂直磁気記録ディスク)としては、具体的には、たとえば基板の上に基板に近い側から、密着層、軟磁性層、シード層、配向制御層、磁性層(垂直磁気記録層)などを順に積層した構成のものが挙げられる。
【0024】
上記基板としては、ガラス基板が好ましく用いられる。基板用ガラスとしては、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダタイムガラス等が挙げられるが、中でもアルミノシリケートガラスが好適である。また、アモルファスガラス、結晶化ガラスを用いることができる。なお、化学強化したガラスを用いると、剛性が高く好ましい。本発明において、基板主表面の表面粗さはRmaxで10nm以下、Raで0.3nm以下であることが好ましい。
【0025】
上記基板上には、垂直磁気記録層の磁気回路を好適に調整するための軟磁性層を設けることが好適である。かかる軟磁性層は、第一軟磁性層と第二軟磁性層の間に非磁性のスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することが好適である。これにより第一軟磁性層と第二軟磁性層の磁化方向を高い精度で反並行に整列固定させることができ、軟磁性層から生じるノイズを低減することができる。例えば、第一軟磁性層、第二軟磁性層の組成は、FeTaC、FeTaNなどのFeTa系材料や、CoTaZr、CoFeTaZr、CoFeTaZrAlCrなどのCo及びCoFe系材料を使用することが出来る。本発明においては、軟磁性層の材料として、熱処理時に結晶化(ナノ結晶化)し軟磁気特性を維持することのできる材料を用いることが好ましく、少なくとも、Feと、Ta,Hf,Zrから選択される少なくとも1種類の元素と、C、Nから選択される少なくとも1種類の元素とを含む軟磁性層とすることが好適である。
なお、FeTa系材料は熱処理によって軟磁気特性が向上するため好ましい。また、FeTa系材料はさらにC又はNを含むことによって軟磁気特性が向上するためより好ましい。
また、上記スペーサ層の組成は例えばRu(ルテニウム)、Ru合金とすることができるが、交換結合定数を制御するための添加元素を混合させてもよい。
【0026】
軟磁性層の膜厚は、その構造及び磁気ヘッドの構造や特性によっても異なるが、全体で15nm〜200nmであることが望ましい。なお、上下各層の膜厚については、記録再生の最適化のために多少差をつけることもあるが、概ね同じ膜厚とするのが望ましい。
【0027】
また、基板と軟磁性層との間には、密着層を形成することも好ましい。密着層を形成することにより、基板と軟磁性層との間の付着性を向上させることができるので、軟磁性層の剥離を防止することができる。密着層の材料としては、例えばTi含有材料を用いることができる。
【0028】
また、上記シード層は、上層の配向制御層の結晶粒の配向ならびに結晶性、さらには微細構造を制御(改善)する作用を備える。
本発明において、上記シード層は、非晶質のセラミックス材料からなる。このようなシード層の材質としては、例えばSi、Alなどから選択することができる。更にこれらの元素に酸素を含む酸化物(酸素含有セラミックス)としてもよい。例えば非晶質のSiO、Alなどを好適に選択することができる。シード層の膜厚は、上層の配向制御層の結晶成長の制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましい。
【0029】
また、上記配向制御層は、上記シード層による作用効果と相俟って、FePt合金を主成分とする材料からなる磁性層(垂直磁気記録層)におけるL1結晶構造の磁化容易軸の垂直配向性(結晶配向を基板面に対して垂直方向に配向させる)、結晶粒径の均一な微細化、及びグラニュラー構造を形成する場合の粒界偏析、等を好適に制御するために用いられる。このような配向制御層は、例えばMgの金属単体やMgAl合金などが挙げられるが、これらに限定はされない。本発明においては、配向制御層の材料として、具体的には、MgO、MgAl,CrRu、AlRu、Pt、Crなどが好ましく用いられるが、これらに限定はされない。また、本発明においては、上記配向制御層は、上層の磁性層中のL1構造のFePt(001)との格子定数ミスマッチが10%以内であることが特に好適である。磁性層中のFePtとの格子不整合が上記範囲内であることにより、配向制御層によるFePt磁性層の結晶配向性の乱れを抑制し、微細構造を改善する効果が良好に発揮される。
なお、本発明において、上記配向制御層は単層でも或いは複数層からなっていてもよい。複数層の場合、同じ材料の組合わせはもちろん、異種材料を組み合わせることもできる。
【0030】
また、配向制御層の膜厚は、特に制約される必要はないが、垂直磁気記録層の構造制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましく、例えば全体で5〜30nm程度の範囲とすることが適当である。
【0031】
また、上記磁性層(垂直磁気記録層)は、FePt合金を主成分とする材料からなる。FePt合金は、結晶磁気異方性定数(Ku)が高く、磁性粒子を微細化しても熱安定性を確保できるので、磁気記録媒体の高記録密度化にとって好適である。
上記磁性層は、さらに室温においてFeと1原子%未満の固溶限を有する元素を含むことが好適である。このような元素としては、例えばAg、Cu、B,Ir,Sn,Pb,Sb,Bi,Zrから選ばれる少なくとも1つの元素を含むことが好適である。このようなAg、Cu等の元素を含むことにより、FePtのL1構造の規則化の促進に寄与するため、磁性層の成膜後のアニール処理温度を従来よりも下げることが可能となる。
【0032】
また、上記磁性層は、例えばC、P、Bから選ばれる少なくとも1つの元素を含むことが好適である。このようなC、P、B等の元素を含むことにより、FePt磁性粒の微細化を促進することができる。
したがって、本発明においては、上記磁性層は、Ag、Cuから選ばれる少なくとも1つの元素を含み、さらに、C、P、Bから選ばれる少なくとも1つの元素を含むことが特に好ましい。
【0033】
本発明において、媒体の超高記録密度化のためには、上記磁性層は、FePt合金を主体とする結晶粒子と、例えばC、P、Bまたは金属酸化物などの非磁性物質を主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層(以下、適宜「グラニュラー磁性層」と呼ぶ。)を含むことが好適である。具体的な上記グラニュラー磁性層を構成するFePt系磁性材料としては、例えばC(カーボン)などの非磁性物質を少なくとも一種以上含有するFePt(鉄−白金)や、FePtAg(鉄−白金−銀)、FePtCu(鉄−白金−銅)の強磁性材料が好ましく挙げられる。また、このグラニュラー磁性層の膜厚は、例えば20nm以下であることが好ましい。
【0034】
また、グラニュラー磁性層の上部又は下部に補助記録層を設けてもよい。補助記録層を設けることによって、磁気記録層の高密度記録性と低ノイズ性、保磁力制御、に加えて高熱耐性を付け加えることができる。補助記録層の組成は、例えばA1構造のFePtを含む強磁性合金とすることができる。また強磁性層を成膜するかわりに、イオン照射やプラズマダメージによりL1構造を持つFePt磁性体の一部をA1構造に不規則化させ、保磁力を制御することもできる。
【0035】
また、さらに、上記グラニュラー磁性層と補助記録層との間に、交換結合制御層を設けてもよい。交換結合制御層を設けることにより、グラニュラー磁性層と補助記録層との間の交換結合の強さを好適に制御して記録再生特性を最適化することができる。交換結合制御層としては、例えば、(RuやRu合金)などが好適に用いられる。
【0036】
上記グラニュラー磁性層を含む垂直磁気記録層の形成方法としては、スパッタリング法で成膜することが好ましい。特にDCマグネトロンスパッタリング法で形成すると均一な成膜が可能となるので好ましい。また、上記シード層や配向制御層についてはRFスパッタリング法を用いることもできる。
【0037】
また、上記磁性層(垂直磁気記録層)の上には、保護層を設けることが好適である。保護層を設けることにより、磁気記録媒体上を浮上飛行する磁気ヘッドから磁気記録媒体表面を保護することができる。保護層の材料としては、たとえば炭素系保護層が好適である。また、保護層の膜厚は3〜7nm程度が好適である。保護層は、例えばプラズマCVD法やスパッタリング法で形成することができる。
【0038】
また、上記保護層の上には、更に潤滑層を設けることが好ましい。潤滑層を設けることにより、磁気ヘッドと磁気記録媒体間の磨耗を抑止でき、磁気記録媒体の耐久性を向上させることができる。潤滑層の材料としては、たとえばパーフロロポリエーテル(PFPE)系化合物が好ましく用いられる。潤滑層は、例えばディップコート法で形成することができる。
【0039】
本発明は、上述の本発明による垂直磁気記録媒体の製造に好適な製造方法についても提供するものである。
すなわち、本発明は、基板上に少なくとも、非晶質のセラミックスからなるシード層、結晶性の配向制御層、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順にスパッタ成膜する工程を含み、前記磁性層を500℃以下の所定温度で成膜することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0040】
たとえば前述の垂直磁気記録媒体の一実施の形態の場合、前記基板上に、スパッタリング法を用いて、基板に近い側から、密着層、軟磁性層、上記シード層、上記配向制御層等を順に成膜し、配向制御層の成膜後であって磁性層の成膜前に、基板を500℃以下の所定温度で加熱処理した後、配向制御層の上に磁性層を成膜することによって、FePt合金を主成分とする材料からなる上記磁性層(垂直磁気記録層)におけるL1結晶構造の磁化容易軸の垂直配向性、結晶粒径の微細構造(均一な微細化)等が好適に制御され、良好な磁気特性(特に保磁力(Hc)、磁化反転核生成磁界(Hn)の最適化)を備えた、より超高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体を得ることができる。また、本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法によれば、高いKuを維持したまま磁性粒子サイズを微細化することが可能となり、かつ磁性層の結晶配向性を向上できるので、良好な磁気特性を得ることができる。
【0041】
なお、本発明においては、上記磁性層の成膜が500℃以下の所定温度で行われることが重要であるので、たとえば磁性層の成膜レートが高く、磁性層の成膜前に基板を500℃以下の所定温度に加熱処理すれば、磁性層の成膜完了までの間の基板温度の低下が小さい場合には、磁性層の成膜中の基板加熱は必須ではない。一方、磁性層の成膜レートが低く、磁性層の成膜前に基板を500℃以下の所定温度に加熱処理しても、磁性層の成膜完了までの間の基板温度の低下を無視できないような場合には、磁性層の成膜中においても基板加熱を行うことが望ましい。
【0042】
また、上記磁性層の成膜後に、必要に応じて基板を加熱処理(本発明においては、この磁性層成膜後の加熱処理を特に「アニール処理」と呼ぶ。)してもよい。本発明においては、この場合のアニール処理は従来より低い500℃以下のアニール処理温度とすることができる。また、このようにアニール処理温度を従来よりも低下させることが可能であるため、従来の垂直磁気記録媒体の軟磁性材料として好適に用いられているCoTaZr、FeCoTaZr等のアモルファス材料を本発明においても用いることができるという利点もあるが、従来の軟磁性材料が熱処理により劣化する場合を考慮し、Fe−TM−C(ここでTM=Ta,Hf,Zrから選択される少なくとも1種類の元素)等の600℃までの加熱によっても軟磁気特性が劣化しない、ナノ結晶型アモルファス材料を用いることができる。
【0043】
なお、本発明者の検討によれば、本発明においては、上記磁性層成膜時の加熱温度は、基板表面温度で500℃以下、好ましくは350℃〜500℃の範囲で行うことが好適である。
また、上述の本発明による垂直磁気記録媒体の製造方法においては、前記磁性層を500℃以下の所定温度で成膜することによって、上述のシード層及び配向制御層によるFePt磁性層の結晶配向性と微細構造の好適な制御効果に加えて、上記配向制御層の上に成膜されるFePt磁性層の垂直配向性と微細構造の更なる改善に寄与し、また磁性層成膜後のアニール処理温度を下げることにも寄与する。
【0044】
本発明者の検討によれば、磁性層成膜時の基板温度が400℃以下の場合、得られるHnが十分でないことがあるので、そのような場合には磁性層の成膜後にアニール処理を行うことが望ましく、アニール処理温度は、基板表面温度で500℃以下で行うことが好適である。
【0045】
本発明による垂直磁気記録媒体は、特にHDD等の磁気ディスク装置に搭載される垂直磁気記録ディスクとして好適である。また、現状の垂直磁気記録媒体の情報記録密度をさらに上回る超高記録密度を実現するための媒体として有望視されているディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)として、あるいは垂直磁気記録方式による情報記録密度をさらに上回る超高記録密度を達成できる熱アシスト磁気記録向けの媒体として特に好適に用いられる。
【実施例】
【0046】
以下実施例、比較例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するとともに本発明による作用効果を例証する。
(実施例1)
直径65mmの非磁性で耐熱性のディスク状のガラス基板を準備し、該ガラス基板上に、シード層として、2nmのSiO2層を室温でスパッタ成膜した。なお、形成されたSiO2層はアモルファス(非晶質)であった。
ここで、チャンバー内で、上記シード層までを成膜した基板に対して、100℃(基板表面温度)となるように加熱処理を行い、上記シード層の上に、配向制御層として、10nmのMgO層をスパッタ成膜した。
ここで、チャンバー内で、上記配向制御層までを成膜した基板に対して、450℃(基板表面温度)となるように加熱処理を行い、上記配向制御層の上に、グラニュラー磁性層(垂直磁気記録層)として、50(90(50Fe-50Pt)-10Ag)-50Cをスパッタ成膜した。なお、上記グラニュラー磁性層の膜厚は3nm〜10nmの範囲で変化させた。
以上の製造工程により、実施例1の垂直磁気記録媒体が得られた。
【0047】
図1は上記FePtAg−Cグラニュラー磁性薄膜の面内のTEM像と粒子分散を示し、図2はX線回折パターンを示し、図3は上記グラニュラー磁性層の膜厚が10nmのときの磁化曲線を示す。なお、図3中、●で示すプロットを結ぶ曲線は垂直方向における磁化曲線、■で示すプロットを結ぶ曲線は面内方向における磁化曲線である。
図1のTEM像と粒子分散を見ると、本実施例のFePtAg−Cグラニュラー磁性薄膜は、平均粒子径が約6.5nm、粒子分散が約1.5nmの良好な微細組織が得られている。また、図2のX線回折パターンを見ると、X線データの43°近傍のMgO(200)ピークに示されたとおり、MgOは(001)成長する結果、X線データの24°近傍のFePt(001)ピークに示されたとおり、FePtが高い規則度を有しており、良好な垂直磁気異方性が得られることがわかる。また、図3の磁化曲線は強い垂直磁気異方性を示し、約24kOeの非常に大きな保磁力を示している。
【0048】
(比較例1)
実施例1のガラス基板上に、軟磁性層として、200nmの80Fe-8Ta-12Cを室温でスパッタ成膜した。
次に、上記軟磁性層を成膜した基板に対して、100℃(基板表面温度)となるように加熱処理を行い、上記軟磁性層の上に、配向制御層として、10nmのMgO層をスパッタ成膜した。
次いで、実施例1と同様にして、上記配向制御層の上に、グラニュラー磁性層(垂直磁気記録層)として、50(90(50Fe-50Pt)-10Ag)-50Cをスパッタ成膜した。
以上の製造工程により、比較例1の垂直磁気記録媒体を得た。
【0049】
図4は比較例1におけるFePtAg−Cグラニュラー磁性薄膜のX線回折パターンを示す。FeTaC軟磁性膜上に直接MgO膜を成膜し、その上にFePtAg−Cグラニュラー膜を成膜すると、MgOが(001)成長せずに(111)配向してしまい、その結果FePtが(111)配向してしまい、垂直磁気異方性が得られないことがわかる。
【0050】
(実施例2)
実施例1のガラス基板上に、軟磁性層として、200nmの80Fe-8Ta-12Cを室温でスパッタ成膜した。
次に、上記軟磁性層の上に、実施例1と同様にして、シード層としてSiO2層、配向制御層として10nmのMgO層、グラニュラー磁性層(垂直磁気記録層)として、10nmの50(90(50Fe-50Pt)-10Ag)-50Cを順にスパッタ成膜した。なお、上記シード層については、膜厚を1nm、2nm、4nmの3種類に変化させた。
以上の製造工程により、実施例2の垂直磁気記録媒体を得た。
【0051】
図5は実施例2におけるFePtAg−Cグラニュラー磁性薄膜のX線回折パターンを示す。FeTaC軟磁性膜上に、SiOシード層を挿入することにより、MgOが(001)配向し、その結果FePtが(001)配向していることがわかる。なお、図中のFe(110)はFeTaC軟磁性膜によるものである。
また、本実施例2におけるFePtAg−Cグラニュラー磁性薄膜の面内のTEM像を観察したところ、前述の実施例1と同様、良好なグラニュラー微細組織が得られていることが確認できた。
【0052】
(実施例3)
実施例2において、前記グラニュラー磁性層の成膜時の基板温度を380℃とし、さらに上記グラニュラー磁性層までを成膜した基板に対して、450℃(基板表面温度)、1時間のアニール処理を行ったこと以外は、実施例2と同様の製造工程により、実施例3の垂直磁気記録媒体を得た。
【0053】
(比較例2)
実施例3におけるSiO2からなるシード層の成膜工程を省いたこと以外は実施例3と同様にして、比較例2の垂直磁気記録媒体を得た。
【0054】
上記実施例3、比較例2の各垂直磁気記録媒体に対し、静磁気特性の評価を行った。静磁気特性の評価は、Kerr効果測定装置を用いて、保磁力(Hc)および磁化反転核生成磁界(Hn)を測定した。その結果、実施例3の垂直磁気記録媒体のHcは8000Oe、Hnは4400Oeであった。一方、比較例2の垂直磁気記録媒体のHcは4900Oe、Hnは1000Oeであった。
また、実施例3の垂直磁気記録媒体における前記アニール処理前と処理後の磁化曲線を図6に示した。図6中の実線はアニール処理前のヒステリシスループ、一点鎖線はアニール処理後のヒステリシスループである。また、図7は、比較例2の垂直磁気記録媒体におけるアニール処理前と処理後の磁化曲線を示しており、図7中の実線はアニール処理前のヒステリシスループ、一点鎖線はアニール処理後のヒステリシスループである。
【0055】
以上の結果から、本発明に係る実施例3の垂直磁気記録媒体は、高KuのFePtグラニュラー磁性層の下層の結晶性セラミックスからなる配向制御層(実施例3ではMgOからなる)のさらに下に非晶質のセラミックスからなるシード層(実施例3ではSiO2からなる)を設けることにより、かかるシード層を設けていない比較例2の垂直磁気記録媒体に比べて、良好な磁気特性(特にHnが高い)を得ることができるので、よりいっそうの超高記録密度化に対応可能な特性が得られることが確認できた。また、本発明に係る実施例3の垂直磁気記録媒体は、FePtグラニュラー磁性層の成膜後のアニール処理を従来よりも低い500℃以下で行っても、高いKuを維持したまま、良好な磁気特性を得ることができることも確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、基板上に少なくとも、非晶質のセラミックスからなるシード層、結晶性の配向制御層、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順に備えることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記シード層は、金属酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記配向制御層は、L1構造のFePt(001)との格子定数ミスマッチが10%以内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性層は、L1構造を持つFePt合金を主体とする結晶粒子と、非磁性物質を主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記基板と前記シード層との間に、少なくとも、Feと、Ta,Hf,Zrから選択される少なくとも1種類の元素と、C、Nから選択される少なくとも1種類の元素とを含む軟磁性層を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
基板上に少なくとも、非晶質のセラミックスからなるシード層、結晶性の配向制御層、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層をこの順にスパッタ成膜する工程を含み、前記磁性層を500℃以下の所定温度で成膜することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記磁性層を400℃以下の所定温度で成膜するとともに、前記磁性層の成膜後に、基板を500℃以下でアニール処理することを特徴とする請求項6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−146089(P2011−146089A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5598(P2010−5598)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】