説明

基板処理方法及び記憶媒体

【課題】ハロゲンガスを用いずに少なくとも白金を含む層をエッチングすることができる基板処理方法を提供する。
【解決手段】ウエハWに形成された白金マンガン層37を所定のパターン形状を有するタンタル層38を用いてエッチングする際、一酸化炭素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを含む処理ガスを用い、該処理ガスにおける一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至75%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも白金を含む層をエッチングする基板処理方法及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
電流磁界による磁化反転を利用して情報を記憶する磁気記憶装置は、各種層が積層され且つ各種層が所望の形状にエッチングされた半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)から製造される。このような磁気記憶装置を構成する各種層の1つに磁性材料である白金(Pt)を含む白金マンガン(Pt−Mn)層があるが、白金は難エッチング材の1つとして知られている。
【0003】
白金マンガン層のエッチング方法として、イオンミリングにより、例えば、高エネルギーのアルゴン(Ar)の陽イオンによるスパッタリングを用いて白金マンガン層を物理的にエッチングする方法が知られているが、イオンミリングを用いた場合、陽イオンが高エネルギーでマスク膜と白金マンガン層とに入射されるため、マスク膜と白金マンガン層との選択比を確保しにくく、また、マスク膜のパターン形状が早期に崩れるためエッチングによって得られるホールやトレンチの形状はテーパ形状となる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
そこで、還元力の大きいハロゲンガスを含むエッチングガスを用いて白金マンガン層を化学的にエッチングする方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】斧高一、高橋和生、江利口浩二,「高誘電率 (High-k) 材料のドライエッチング」,プラズマ・核融合学会誌,Vol. 85, No. 4 (2009) ,pp. 185-192,2009年1月発行
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−60172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハロゲンガスは強酸を発生させるため、基板処理装置の構成部品の腐食が促進されるという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、ハロゲンガスを用いずに少なくとも白金を含む層をエッチングすることができる基板処理方法及び記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の基板処理方法は、基板に形成された少なくとも白金を含む層をマスク膜を用いてエッチングする基板処理方法であって、少なくとも一酸化炭素ガス、水素ガス及び希ガスを含む処理ガスを用いて前記少なくとも白金を含む層をエッチングし、前記一酸化炭素ガス及び前記水素ガスの流量合計に対する前記水素ガスの流量比が50%乃至75%であることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の基板処理方法は、請求項1記載の基板処理方法において、前記一酸化炭素ガス及び前記水素ガスの流量合計に対する前記水素ガスの流量比が50%乃至60%であることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の基板処理方法は、請求項1又は2記載の基板処理方法において、前記希ガス及び前記一酸化炭素ガスの流量合計に対する前記希ガスの流量比が40%乃至50%であることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の基板処理方法は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板処理方法において、前記希ガスはアルゴンガスであることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の基板処理方法は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の基板処理方法において、前記白金を含む層のエッチングは圧力が13.3Pa乃至133Paの下で行われることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の基板処理方法は、請求項5記載の基板処理方法において、前記白金を含む層のエッチングは圧力が40.0Pa乃至133Paの下で行われることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するために、請求項7記載の記憶媒体は、基板に形成された少なくとも白金を含む層をマスク膜を用いてエッチングする基板処理方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータで読み取り可能な記憶媒体であって、前記基板処理方法は、少なくとも一酸化炭素ガス、水素ガス及び希ガスを含む処理ガスを用いて前記少なくとも白金を含む層をエッチングし、前記一酸化炭素ガス及び前記水素ガスの流量合計に対する前記水素ガスの流量比が50%乃至75%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、少なくとも一酸化炭素ガス、水素ガス及び希ガスを含む処理ガスを用いて少なくとも白金を含む層をエッチングし、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至75%である。一酸化炭素ガスを用いてエッチングする場合、暴露されている各種層の表面に炭素層が堆積するが、水素ガスから生じた水素プラズマは該炭素層をアッシングする。このとき、希ガスから生じた陽イオンが炭素層に入射し、該炭素層へエネルギーを付与する。また、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至75%であり、水素が多量に存在するため、炭素層がアッシングされている際に余剰の水素が存在する。エネルギーを付与された炭素層は一酸化炭素から生じた酸素と結合してカルボニル基を発生させ、さらに、炭素層へ付与されたエネルギーによって余剰の水素がカルボニル基と結合してカルボキシル基を発生させ、該カルボキシル基が配位子として白金と配位結合して有機錯体を生じさせる。有機錯体は容易に気化するので、結果として少なくとも白金を含む層から白金を除去することができ、これにより、ハロゲンガスを用いずに少なくとも白金を含む層をエッチングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る基板処理方法が実行される基板処理装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の基板処理装置によってプラズマエッチング処理が施されるウエハの構成を概略的に示す部分断面図である。
【図3】本実施の形態に係る基板処理方法としてのエッチング方法を示す工程図である。
【図4】図1の基板処理装置の変形例の構成を概略的に示す断面図であり、図4(A)は第1の変形例であり、図4(B)は第2の変形例である。
【図5】図3のエッチング方法が適用されるウエハの変形例の構成を概略的に示す部分断面図であり、図5(A)は第1の変形例であり、図5(B)は第2の変形例であり、図5(C)は第3の変形例であり、図5(D)は第4の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る基板処理方法が実行される基板処理装置の構成を概略的に示す断面図である。本基板処理装置は、磁気記憶装置が製造される半導体デバイス用のウエハ(基板)にプラズマエッチング処理を施す。
【0020】
図1において、基板処理装置10は、例えば、直径が300mmのウエハWを収容するチャンバ11を有し、該チャンバ11内にはウエハWを上面に載置する円柱状のサセプタ12が配置されている。基板処理装置10では、チャンバ11の内側壁とサセプタ12の側面とによって側方排気路13が形成される。この側方排気路13の途中には排気プレート14が配置される。
【0021】
排気プレート14は多数の貫通孔を有する板状部材であり、チャンバ11内部を上部と下部に仕切る仕切り板として機能する。排気プレート14によって仕切られたチャンバ11内部の上部(以下、「処理室」という。)15の内部空間には後述するようにプラズマが発生する。また、チャンバ11内部の下部(以下、「排気室(マニホールド)」という。)16にはチャンバ11内のガスを排出する排気管17が接続される。排気プレート14は処理室15に発生するプラズマを捕捉又は反射してマニホールド16への漏洩を防止する。
【0022】
排気管17にはTMP(Turbo Molecular Pump)及びDP(Dry Pump)(ともに図示しない)が接続され、これらのポンプはチャンバ11内を真空引きして減圧する。具体的には、DPはチャンバ11内を大気圧から中真空状態まで減圧し、TMPはDPと協働してチャンバ11内を中真空状態より低い圧力である高真空状態まで減圧する。なお、チャンバ11内の圧力はAPCバルブ(図示しない)によって制御される。
【0023】
チャンバ11内のサセプタ12には第1の高周波電源18が第1の整合器19を介して接続され、且つ第2の高周波電源20が第2の整合器21を介して接続されており、第1の高周波電源18は比較的低い周波数、例えば、13MHzのイオン引き込み用の高周波電力をサセプタ12に印加し、第2の高周波電源20は比較的高い周波数、例えば、40MHzのプラズマ生成用の高周波電力をサセプタ12に印加する。これにより、サセプタ12は電極として機能する。また、第1の整合器19及び第2の整合器21は、サセプタ12からの高周波電力の反射を低減して高周波電力のサセプタ12への印加効率を最大にする。
【0024】
サセプタ12の上部周縁部には、該サセプタ12の中央部分が図中上方へ向けて突出するように段差が形成される。該サセプタ12の中央部分の先端には静電電極板22を内部に有するセラミックスからなる静電チャック23が配置されている。静電電極板22には直流電源24が接続されており、静電電極板22に正の直流電圧が印加されると、ウエハWにおける静電チャック23側の面(以下、「裏面」という。)には負電位が発生して静電電極板22及びウエハWの裏面の間に電位差が生じ、該電位差に起因するクーロン力又はジョンソン・ラーベック力によってウエハWは静電チャック23に吸着保持される。
【0025】
また、サセプタ12は内部に冷媒流路からなる冷却機構(図示しない)を有し、該冷却機構はプラズマと接触して温度が上昇するウエハWの熱をサセプタ12を介して吸収することによってウエハWの温度が所望の温度以上になるのを防止する。
【0026】
サセプタ12は伝熱効率や電極機能を考慮して導電体、例えば、アルミニウムから構成されるが、導電体をプラズマが発生する処理室15へ晒すのを防止するために、該サセプタ12は側面を誘電体、例えば、石英(SiO)からなる側面保護部材25によって覆われる。
【0027】
さらに、サセプタ12の上部には、静電チャック23に吸着保持されたウエハWを囲むようにフォーカスリング26がサセプタ12の段差や側面保護部材25へ載置され、さらに、フォーカスリング26を囲むようにシールドリング27が側面保護部材25へ載置されている。フォーカスリング26は珪素(Si)又は炭化珪素(SiC)からなり、プラズマの分布域をウエハW上だけでなく該フォーカスリング26上まで拡大する。
【0028】
チャンバ11の天井部には、サセプタ12と対向するようにシャワーヘッド28が配置される。シャワーヘッド28は、上部電極板29と、該上部電極板29を着脱可能に釣支するクーリングプレート30と、該クーリングプレート30を覆う蓋体31とを有する。上部電極板29は厚み方向に貫通する多数のガス孔32を有する円板状部材からなる。クーリングプレート30の内部にはバッファ室33が設けられ、このバッファ室33には処理ガス導入管34が接続されている。基板処理装置10では、上部電極板29とサセプタ12の上面とが平行となるようにシャワーヘッド28及びサセプタ12が配置される。
【0029】
基板処理装置10はさらに制御部35を備え、該制御部35は内蔵するメモリ等に記憶されたプログラムに従って各構成要素の動作を制御し、プラズマエッチング処理を実行する。具体的に、制御部35は、各構成要素の動作を制御して処理ガス導入管34からバッファ室33へ供給された処理ガスを処理室15の内部空間へ導入し、該導入した処理ガスを、第2の高周波電源20からサセプタ12を介して処理室15の内部空間へ印加されたプラズマ生成用の高周波電力によって励起してプラズマを生成し、プラズマ中の陽イオンを第1の高周波電源18がサセプタ12に印加するイオン引き込み用の高周波電力によってウエハWに向けて引き込み、該ウエハWにプラズマエッチング処理を施す。
【0030】
図2は、図1の基板処理装置によってプラズマエッチング処理が施されるウエハの構成を概略的に示す部分断面図である。
【0031】
図2において、ウエハWは、シリコンからなる基部36の上に積層された白金マンガン層37と、該白金マンガン層37の上に形成された所定の開口パターンを有するマスク膜としてのタンタル(Ta)層38とを有する。
【0032】
本発明者は、難エッチング材である白金を含む白金マンガン層37をイオンミリングやハロゲンガスを用いたエッチング以外の方法でエッチングすべく、基板処理装置10において処理ガスとして一酸化炭素(CO)ガスを用い、一酸化炭素の強い還元力によって白金マンガン層37から白金を還元して除去し、若しくは一酸化炭素を配位子として白金と配位結合させて金属カルボニルを発生させることによって白金を除去することを考え、一酸化炭素ガスを用いて白金マンガン層37をエッチングしたところ、白金マンガン層37やタンタル層38の上に一酸化炭素から生じた炭素が炭素デポ層を形成し、エッチングを停止させることを確認した。
【0033】
そこで、本発明者は、鋭意研究を行い、炭素デポ層をアッシングするために処理ガスへ多量の水素(H)ガスを加え、さらに、処理室15の内部空間においてプラズマ状態を維持するために処理ガスへ乖離しやすい希ガス、例えば、アルゴン(Ar)ガスを加え、当該処理ガスを用いて基板処理装置10においてウエハWへプラズマエッチング処理を施したところ、白金マンガン層37やタンタル層38の上に炭素デポ層が形成されるのを防止できるだけでなく、白金マンガン層37をエッチングすることができることを見出した。具体的には、一酸化炭素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを含む処理ガスを用いて白金マンガン層37をエッチングする際、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至75%であれば、白金マンガン層37の上に炭素デポ層を形成することなく、白金マンガン層37をエッチングすることができることを見出した。本発明は本知見に基づくものである。
【0034】
白金マンガン層37のエッチングのメカニズムについては、明瞭に説明するのが困難であるが、一酸化炭素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを含む処理ガスの乖離度を高めてプラズマを多量に生成して陽イオンを多量に発生させても、白金マンガン層37のエッチングレートがさほど上昇しなかったこと、並びに、白金マンガン層37のエッチングによって該白金マンガン層37に形成されるホールやトレンチの形状がテーパ形状とならず、異方性エッチングではなく等方性エッチングが主として行われていたと考えられることから、白金マンガン層37のエッチングは主として化学的反応によるものと推定し、本発明者は、以下に説明する、本実施の形態に係る基板処理方法としてのエッチング方法を類推するに至った。
【0035】
図3は、本実施の形態に係る基板処理方法としてのエッチング方法を示す工程図である。
【0036】
まず、基板処理装置10のサセプタ12にウエハWを吸着保持させ、その後、処理室15の内部空間を減圧し、該内部空間へ一酸化炭素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを含む処理ガスを導入する。該処理ガスでは、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至75%に設定される。
【0037】
次いで、処理室15の内部空間へプラズマ生成用の高周波電力を印加し、且つサセプタ12へイオン引き込み用の高周波電力を印加する。このとき、白金マンガン層37の表面には一酸化炭素から生じた炭素デポ層39(炭素層)が堆積し、また、タンタル層38の表面にも同様に一酸化炭素から生じた炭素デポ層(図示しない)が堆積するが(図3(A))、プラズマ生成用の高周波電力によって処理ガスにおけるアルゴンガスが励起してアルゴンプラズマを発生し、該アルゴンプラズマは水素ガス中の水素分子と衝突して水素ガスを励起させ、水素プラズマを発生させる。発生した水素プラズマの陽イオンやラジカルは炭素デポ層39と接触して該炭素デポ層39をアッシングする。
【0038】
さらに、アルゴンプラズマの陽イオンがイオン引き込み用の高周波電力によって炭素デポ層39へ入射して該炭素デポ層39へエネルギーを付与し、該エネルギーを付与された炭素デポ層39は一酸化炭素から生じた酸素と結合してカルボニル基を発生させる。また、処理ガスでは、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至75%に設定されて水素が多量に存在するため、炭素デポ層39が水素プラズマの陽イオンやラジカルによってアッシングされている際に余剰の水素が存在し、該余剰の水素が炭素デポ層39に付与されたエネルギーによってカルボニル基と結合してカルボキシル基(−COOH)が発生する。該カルボキシル基は配位子として白金マンガン層37中の白金と配位結合して有機錯体40、例えば、Pt(COOH)を生じさせる。上述したように、有機錯体40の生成には白金マンガン層37中の白金が用いられるため、白金マンガン層37の一部も有機錯体40へ変質する(図3(B))。
【0039】
一般に金属の有機錯体の飽和蒸気圧は低いため、有機錯体40も容易に気化し、その結果、白金マンガン層37の一部がエッチングされる(図3(C))。
【0040】
その後、一酸化炭素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを含む処理ガスの導入、プラズマ生成用の高周波電力の印加、及びイオン引き込み用の高周波電力の印加を継続すれば、図3(A)乃至図3(C)の工程が繰り返されることになるので、結果として白金マンガン層37を除去することができる(図3(D))。
【0041】
図3のエッチング方法によれば、一酸化炭素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを含む処理ガスを用いて白金マンガン層37をエッチングし、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至75%に設定されるので、炭素デポ層39がアッシングされている際にカルボニル基を発生させ、さらに、該カルボニル基を余剰の水素と結合させてカルボキシル基を発生させ、該カルボキシル基を白金マンガン層37中の白金と配位結合させて有機錯体40を生じさせ、該有機錯体40を蒸発させることができる。その結果、ハロゲンガスを用いずに白金マンガン層37をエッチングすることができる。
【0042】
図3のエッチング方法では、処理ガスにおいて、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至75%に設定されたが、ホールやトレンチにおけるテーパ形状の発生防止の観点からは、水素ガスの流量比が小さい方が好ましく、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至60%であるのが好ましい。この場合、一酸化炭素ガスの流量に対する水素ガスの流量の比率が減少し、水素プラズマによるタンタル層38のエッチングよりも一酸化炭素に起因する炭素デポ層のタンタル層38への堆積が多少優位となる。その結果、エッチングによるタンタル層38のパターン形状の崩れが抑制されて白金マンガン層37に形成されるホールやトレンチの形状がテーパ形状となるのを防止することができる。
【0043】
また、図3のエッチング方法では、カルボニル基やカルボキシル基の発生を促進する観点からは、エネルギーを付与するアルゴンプラズマを所定量以上確保するのが好ましく、処理ガスにおいて、アルゴンガス及び一酸化炭素ガスの流量合計に対するアルゴンガスの流量比が40%乃至50%であるのが好ましい。この場合、所定量以上確保されたアルゴンプラズマの陽イオンによって炭素デポ層39へエネルギーを十分に付与することができる。その結果、カルボニル基の発生が促進され、ひいては白金を含む有機錯体の生成を促進することができる。
【0044】
さらに、図3のエッチング方法では、カルボニル基の発生、カルボキシル基の発生及び有機錯体の発生を優先させる観点からは、処理室15の内部空間の圧力を13.3Pa(100mTorr)以上に設定して白金マンガン層37のエッチングを行うのが好ましい。通常、処理室内の圧力が或る程度高くなると陽イオンによるスパッタリングが抑制されるので、処理室15の内部空間の圧力を13.3Pa以上に設定すると、水素ガスやアルゴンガスから生じるプラズマの陽イオンによるスパッタリングを抑制することができ、もって、化学反応、具体的には、カルボニル基の発生、カルボキシル基の発生及び有機錯体の発生を優先させることができる。また、タンタル層38のパターン形状の崩れの抑制の観点からは、処理室15の内部空間の圧力を40.0Pa(300mTorr)以上に設定して陽イオンによるスパッタリングをさらに抑制し、これにより、タンタル層38のエッチングをより抑制するのが好ましい。一方、有機錯体40の気化を促進する観点からは処理室15の内部空間の圧力を或る程度低くするのが好ましく、具体的には、処理室15の内部空間の圧力を133Pa(1Torr)以下に設定するのが好ましい。
【0045】
以上、本発明について、上記実施の形態を用いて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0046】
上述した図3のエッチング方法は基板処理装置10で実行されるが、図3のエッチング方法は、アルゴンガスから発生したアルゴンプラズマの陽イオンが炭素デポ層39へエネルギーを与え、且つ当該アルゴンプラズマが水素ガス中の水素分子と衝突して水素ガスを励起させて水素プラズマを発生させれば、実行することができる。すなわち、一酸化炭素ガス、水素ガス及びアルゴンガスのうち、アルゴンガスのみが基板処理装置10によって励起されてプラズマとなればよい。したがって、図3のエッチング方法は、基板処理装置10のような容量結合型のプラズマ処理装置だけでなく、ウエハWの表面へ一酸化炭素ガス及び水素ガスを供給可能であり、且つウエハWの表面へアルゴンガスから生じたプラズマの陽イオンを入射させることができるプラズマ処理装置で実行することができる。
【0047】
例えば、図4(A)に示すような、処理室41と、該処理室41の内部空間に配置された載置台42と、該載置台42と対向するように配置され且つ該処理室41の内部空間へガスを導入するシャワーヘッド43と、該シャワーヘッド43へプラズマ生成用の高周波電力を印加する高周波電源43aと、載置台42の側方で開口する2つのガス導入管44a,44bと、載置台42へイオン引き込み用の高周波電力を印加する高周波電源(図示しない)とを備える基板処理装置45や、図4(B)に示すような、処理室46と、該処理室46の内部空間に配置された載置台47と、該載置台47と対向するように配置され且つ該処理室46の内部空間へプラズマを導入するプラズマ導入管48と、載置台47の側方で開口する2つのガス導入管49a,49bと、載置台47へイオン引き込み用の高周波電力を印加する高周波電源(図示しない)とを備える基板処理装置50においても、図3のエッチング方法を実行することができる。
【0048】
基板処理装置45では、ウエハWが載置台42に載置された後、処理室41の内部空間が減圧され、シャワーヘッド43からアルゴンガスが処理室41の内部空間へ導入され、さらに、導入されたアルゴンガスはシャワーヘッド43を介して処理室41の内部空間へ印加されたプラズマ生成用の高周波電力によって励起されてアルゴンプラズマを発生し、該アルゴンプラズマの陽イオンはイオン引き込み用の高周波電力によって載置台42に載置されたウエハWへ入射する。一方、ウエハWの表面近傍には2つのガス導入管44a,44bからそれぞれ一酸化炭素ガス及び水素ガスが供給されている。
【0049】
また、基板処理装置50では、ウエハWが載置台47に載置された後、処理室46の内部空間が減圧され、プラズマ導入管48からアルゴンガスのプラズマが処理室46の内部空間へ導入され、該導入されたアルゴンプラズマの陽イオンはイオン引き込み用の高周波電力によって載置台47に載置されたウエハWへ入射する。一方、ウエハWの表面近傍には2つのガス導入管49a,49bからそれぞれ一酸化炭素ガス及び水素ガスが供給されている。
【0050】
基板処理装置45及び基板処理装置50のいずれにおいても、ウエハWの表面へ到達したアルゴンプラズマの陽イオンは、一酸化炭素ガスに起因してウエハWの白金マンガン層37の表面に生じた炭素デポ層39へエネルギーを付与し、且つ水素ガス中の水素分子と衝突して水素ガスを励起させ、水素プラズマを発生させる。その結果、カルボニル基の発生、カルボキシル基の発生及び有機錯体40の発生を通じて白金マンガン層37をエッチングすることができる。なお、基板処理装置45及び基板処理装置50のいずれにおいても、供給される一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%乃至75%に設定されることは言うまでもない。
【0051】
また、図3のエッチング方法が適用されるウエハWの積層構造も図2に示す構造に限られず、例えば、シリコンからなる基部51a上へ下方から順番に、タンタル層51b、白金マンガン層51c、コバルト鉄(CoFe)層51d、ルテニウム(Ru)層51e、コバルト鉄層51f、酸化マグネシウム(MgO)やアルミナ(Al)等からなる絶縁層51g、ニッケル鉄(NiFe)層51h、ルテニウム層51i、ニッケル鉄層51j、ルテニウム層51k、タンタル層51l、反射防止層(BARC層)51m、及び所定のパターン形状を有するフォトレジスト層51nが形成される積層構造(図5(A))、銅からなる下地配線52a上へ下方から順番に、ニッケル鉄層52b、白金マンガン層52c、コバルト鉄層52d、ルテニウム層52e、コバルト鉄層52f、アルミナ(Al)からなる障壁層52g、ニッケル鉄層52h、タンタル層52i、及び所定のパターン形状を有するフォトレジスト層52jが形成される積層構造(図5(B))、絶縁膜53a上へ下方から順番に、タンタル膜53b、白金マンガン層53c、コバルト鉄層53d、アルミナ層53e、コバルト鉄層53f、窒化チタン層53g、二酸化珪素膜53h、及び所定のパターン形状を有するフォトレジスト層53iが形成される積層構造(図5(C))、並びに、シリコンからなる基部54a上へ下方から順番に、タンタル層54b、アルミニウム層54c、タンタル層54d、ニッケル鉄/白金マンガン層54e、アルミナ層54f、コバルト鉄層54g、ニッケル鉄層54h、タンタル層54i、及び所定のパターン形状を有するフォトレジスト層54jが形成される積層構造(図5(D))のいずれにも図3のエッチング方法を適用することができる。
【0052】
さらに、図3のエッチング方法によってエッチングされる層は白金マンガン層に限られず、白金のみからなる白金層や、白金及び他の金属を含む層であってもよい。また、図3のエッチング方法において、処理ガスは一酸化炭素ガス、水素ガス及びアルゴンガスを含んだがアルゴンガスは他の希ガスに置き換えてもよい。
【0053】
また、本発明の目的は、上述した実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを記録した記憶媒体を、コンピュータ等に供給し、コンピュータのCPUが記憶媒体に格納されたプログラムを読み出して実行することによっても達成される。
【0054】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラム自体が上述した実施の形態の機能を実現することになり、プログラム及びそのプログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0055】
また、プログラムを供給するための記憶媒体としては、例えば、RAM、NV−RAM、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD(DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW)等の光ディスク、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、他のROM等の上記プログラムを記憶できるものであればよい。或いは、上記プログラムは、インターネット、商用ネットワーク、若しくはローカルエリアネットワーク等に接続される不図示の他のコンピュータやデータベース等からダウンロードすることによりコンピュータに供給されてもよい。
【0056】
また、コンピュータのCPUが読み出したプログラムを実行することにより、上記実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、CPU上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0057】
更に、記憶媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0058】
上記プログラムの形態は、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給されるスクリプトデータ等の形態から成ってもよい。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0060】
まず、実施例1として、基板処理装置10において図2に示すウエハWをサセプタ12へ吸着保持させた後、処理室15の内部空間の圧力を13.3Paに設定し、該内部空間へ処理ガスを導入した。処理ガスの流量比は水素ガス:アルゴンガス:一酸化炭素ガスが150sccm:100sccm:150sccmであった。すなわち、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が50%であり、アルゴンガス及び一酸化炭素ガスの流量合計に対するアルゴンガスの流量比が40%であった。
【0061】
次いで、処理室15の内部空間へプラズマ生成用の高周波電力を300Wで印加し、且つサセプタ12へイオン引き込み用の高周波電力を600Wで印加して白金マンガン層37のエッチングを600秒に亘って継続して実行した後、白金マンガン層37に形成されたトレンチの状態を確認したが、トレンチの各面において炭素デポ層39は殆ど存在せず、且つテーパ形状は殆ど発生していなかった。
【0062】
また、実施例2として、処理ガスの流量比以外は実施例1における条件と同じ条件で白金マンガン層37のエッチングを行った。実施例2における処理ガスの流量比は水素ガス:アルゴンガス:一酸化炭素ガスが300sccm:100sccm:100sccmであった。すなわち、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が75%であり、アルゴンガス及び一酸化炭素ガスの流量合計に対するアルゴンガスの流量比が50%であった。
【0063】
白金マンガン層37のエッチング後に、該白金マンガン層37に形成されたトレンチの状態を確認したところ、トレンチの各面において炭素デポ層39は全く存在せず、且ウエハWの表面に対する鉛直線に関してトレンチの両側面が構成するテーパ角(鉛直線を挟む狭角)は約10°であり、許容範囲内であることを確認した。
【0064】
さらに、比較例として、処理ガスの流量比以外は実施例1における条件と同じ条件で白金マンガン層37のエッチングを行った。比較例における処理ガスの流量比は水素ガス:アルゴンガス:一酸化炭素ガスが100sccm:100sccm:300sccmであった。すなわち、一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比が25%であり、アルゴンガス及び一酸化炭素ガスの流量合計に対するアルゴンガスの流量比が25%であった。
【0065】
白金マンガン層37のエッチング後に、該白金マンガン層37に形成されたトレンチの状態を確認したところ、トレンチの各面において炭素デポ層39が厚く堆積してトレンチの各面が全く露出せず、トレンチの深さも実施例1や実施例2のトレンチの深さよりも小さいことを確認した。これは、比較例の処理ガスにおけるアルゴンガスの流量比が実施例1や実施例2よりも小さく、アルゴンガスから生じたプラズマの陽イオンによって炭素デポ層39へ十分なエネルギーを付与することができず、その結果、炭素デポ層39をカルボニル基へ変質させることができなかったためと考えられた。また、比較例の処理ガスにおける水素ガスの流量比が実施例1や実施例2よりも小さく、余剰の水素が生じずにカルボキシル基があまり発生せず、カルボキシル基を配位子として白金マンガン層37の白金へ配位結合させて有機錯体40をあまり生成することができなかったためと考えられた。
【0066】
以上の確認結果より、白金マンガン層37において各面に炭素デポ層39を堆積させず、且つ白金マンガン層37を十分にエッチングするには、処理ガスにおいてアルゴンガス及び一酸化炭素ガスの流量合計に対するアルゴンガスの流量比を40%以上とし、且つ一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比を50%以上とする必要があることが分かった。
【0067】
一方、実施例2から一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比を75%より大きくとすると、水素プラズマによるタンタル層38のエッチングが強くなり、タンタル層38のパターン形状が崩れてトレンチの両側面が構成するテーパ角がより大きくなることが予想されるため、処理ガスにおいて一酸化炭素ガス及び水素ガスの流量合計に対する水素ガスの流量比を75%以下とするのが好ましいことが推測された。
【0068】
また、実施例2からアルゴンガス及び一酸化炭素ガスの流量合計に対するアルゴンガスの流量比を50%より大きくとすると、アルゴンプラズマの陽イオンによるスパッタリングが強くなり、タンタル層38のパターン形状が崩れてトレンチの両側面が構成するテーパ角がより大きくなることが予想されるため、処理ガスにおいてアルゴンガス及び一酸化炭素ガスの流量合計に対するアルゴンガスの流量比を50%以下とするのが好ましいことが推測された。
【符号の説明】
【0069】
W ウエハ
10 基板処理装置
11 チャンバ
12 サセプタ
37 白金マンガン層
38 タンタル層
39 炭素デポ層
40 有機錯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された少なくとも白金を含む層をマスク膜を用いてエッチングする基板処理方法であって、
少なくとも一酸化炭素ガス、水素ガス及び希ガスを含む処理ガスを用いて前記少なくとも白金を含む層をエッチングし、
前記一酸化炭素ガス及び前記水素ガスの流量合計に対する前記水素ガスの流量比が50%乃至75%であることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記一酸化炭素ガス及び前記水素ガスの流量合計に対する前記水素ガスの流量比が50%乃至60%であることを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記希ガス及び前記一酸化炭素ガスの流量合計に対する前記希ガスの流量比が40%乃至50%であることを特徴とする請求項1又は2記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記希ガスはアルゴンガスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記白金を含む層のエッチングは圧力が13.3Pa(100mTorr)乃至133Pa(1Torr)の下で行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記白金を含む層のエッチングは圧力が40.0Pa(300mTorr)乃至133Pa(1Torr)の下で行われることを特徴とする請求項5記載の基板処理方法。
【請求項7】
基板に形成された少なくとも白金を含む層をマスク膜を用いてエッチングする基板処理方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータで読み取り可能な記憶媒体であって、前記基板処理方法は、
少なくとも一酸化炭素ガス、水素ガス及び希ガスを含む処理ガスを用いて前記少なくとも白金を含む層をエッチングし、
前記一酸化炭素ガス及び前記水素ガスの流量合計に対する前記水素ガスの流量比が50%乃至75%であることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−199377(P2012−199377A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62301(P2011−62301)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】